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審決分類 |
審判 全部無効 2項進歩性 B60C |
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管理番号 | 1365610 |
審判番号 | 無効2019-800040 |
総通号数 | 250 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-10-30 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2019-05-17 |
確定日 | 2020-08-31 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第5022518号発明「自転車用タイヤ」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 1 本件審判の請求は、成り立たない。 2 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 主な手続の経緯 本件無効審判の請求に係る特許第5022518号(以下、「本件特許」という。)は、国際出願日である2010年(平成22年)3月5日(優先権主張外国庁受理 平成21年7月22日 韓国)にされたとみなされる特許出願(特願2011-523753号)に係るものであって、平成24年6月22日に特許権の設定登録(設定登録時の請求項の数は1。)がされたものである。そして、本件無効審判に係る手続の概要は以下のとおりである。 令和1年 5月17日 本件特許無効審判の請求 令和1年 9月17日 審判事件答弁書の提出 令和1年12月 6日付け 審理事項通知 令和2年 1月20日 請求人口頭審理陳述要領書(以下「請求人 要領書」という。)の提出 同日 被請求人口頭審理陳述要領書の提出 令和2年 2月 3日 第1回口頭審理 第2 本件発明 本件特許の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、設定登録時の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 射出発泡工法により製造される自転車用タイヤ(1)において、 前記タイヤ(1)のリム係合部(2)に所定の間隔をあけて多数の係合孔(3)を穿設し、 前記係合孔(3)に合成樹脂製のストッパ(4)が固定され、 前記ストッパ(4)は前記係合孔(3)への嵌着時に両端面(4c)が突出するように、円弧面(4a)と水平面(4b)を有し、前記両端面(4c)は傾設され、 前記ストッパ(4)は自転車リム(5)にタイヤ(1)を取り付けるときに係止環爪(6)に係止されるようにしたことを特徴とする自転車用タイヤ。」 第3 当事者の主張 1 請求の趣旨 特許第5022518号の特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。 2 請求人の主張 本件特許は、下記(1)及び(2)のとおりの無効理由があるから、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである(第1回口頭審理調書及び主張の全趣旨)。 また、証拠方法として書証を申出、下記(3)のとおりの文書(甲1?5)を提出する。 (1) 無効理由1(甲1を主引例とした進歩性欠如について) 本件特許の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明を主たる引用発明(甲1発明)としたとき、甲1発明に甲第2号証に記載された公知技術、甲第3号証に記載された公知技術並びに甲第4号証に記載された公知技術をそれぞれ適用することで当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない発明である。 (2) 無効理由2(甲5を主引例とした進歩性欠如について) 本件特許の請求項1に係る発明は、甲第5号証に記載された発明を主たる引用発明(甲5発明)としたとき、甲5発明に甲第2号証に記載された公知技術、甲第3号証に記載された公知技術並びに甲第4号証に記載された公知技術をそれぞれ適用することで当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない発明である。 (3) 証拠方法 ・ 甲1 仏国特許発明第482615号明細書 ・ 甲2 特開平7-314572号公報 ・ 甲3 特開2007-331708号公報 ・ 甲4 特開2006-21614号公報 ・ 甲5 米国特許第1395206号明細書 3 被請求人の主張 (1)本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。請求人主張の無効理由1?2は、いずれも理由がない。 (2)証拠方法として書証を申出、以下の文書(乙1)を提出する。 ・ 乙1 米国特許第1395206号明細書 第4 当審の判断 当審は、本件特許について、以下述べるように、無効理由1?2にはいずれも理由はないと判断する。 1 本件発明について (1)本件発明の要旨 上記第2で認定のとおり。 2 証拠について (1)甲1の記載事項 甲1には、次の事項が記載されている。 なお、原文の記載は省略し、以下、その翻訳文のみを記載する(括弧内は、証拠における通し行数である。)。また、下線は当審で付したものである。以下同様。 ア 「自動車の車輪リムに固定されたソリッドタイヤは、サイドビードの部分が車輪にかかる衝撃に対抗するためには脆弱すぎるために、容易に剥がれることが知られている。」(第1ページ第1?5行) イ 「図1に基づき、通常のソリッドタイヤ1には、その周辺部全体に、一定の間隔で並べられたスティールロッド2が挿入されている。ロッドの長さは、リムの内側の幅の最大部分をやや越えている。これらのスティールロッドの固定は、たとえば機械を使用する等、どのような方法でも可能である。」(第1ページ第35?42行) ウ 「このような形で製作されたソリッドタイヤを、ロッド2の端がリムの湾曲部分の下を通過するように、リム3に強い力で取り付ける。この湾曲部分にビードが納まるのである。 固定ロッド2は、図3に示される通り、軽く湾曲しており、その長さがリム内部の幅を越えていることから、ロッドはやや斜めに配置される。これにより、タイヤは堅く保持され、最後まで、剥がれる心配なく、使用することができる。」(第1ページ第43?54行) エ 「 」(図1) オ 「 」(図2) (2) 甲1に記載された発明 上記(1)イ及びエの記載内容からみて、甲1には、次のとおりの発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認める。 「リムに取り付けることができるように構成される自動車用のソリッドタイヤであって、その周辺部全体に一定の間隔で並べられたスティールロッドが挿入され、 該スティールロッドの長さは、上記リムの内側の幅の最大部分をやや越えており、スティールロッドの形状は、円柱状で両端面が長さ方向と垂直な面で終端する形状であって、 リムにソリッドタイヤを取り付けるに際し、上記スティールロッドの端がリムの湾曲部分の下を通過するようにしてなる自動車用のソリッドタイヤ。」 (3) 甲4の記載事項 甲4には、次の事項が記載されている。 ア 「【0001】 本発明は、EA材(衝撃エネルギー吸収材)の取付構造に係り、特に自動車のトリムに適用するのに好適なEA材の取付構造に関する。 【背景技術】 【0002】 自動車のドアトリムには、側面衝突(側突)時の衝撃エネルギー吸収(Energy Absorption:EA)のために、硬質ウレタンよりなるEA材を取り付けている。このドアトリムに対し、硬質ウレタン製EA材を取り付ける方法として、特開2001-322507号には、第6,7図に示す構造が記載されている。第6図は同号公報の図7に記載されたEA材の取付構造を示す断面図、第7図(a)はこの構造に用いられているキャップ20の斜視図、第7図(b)はこのキャップ20の断面斜視図である。 【0003】 このキャップ20は筒部21及び張出部22を一体に備えている。この筒部21の先端からは内向きに爪部23が設けられている。トリム31から突設されたロッド26の外周面に凹部27が周設されており、爪部23が該凹部27に係合している。 【0004】 なお、筒部21には先端から筒部21の軸心線と平行方向にスリット24が延設されており、筒部21はその拡径方向に弾性的に変形可能となっている。 【0005】 EA材33をトリム31に取り付けるには、EA材33の取付孔34にロッド26が挿入されるようにEA材33をトリム31の面に沿わせ、次いでキャップ20をロッド26に嵌合させて押し込み、爪部23を凹部27に係合させる。これにより、張出部22はEA材33の取付孔34の周縁部を押さえつける。」 イ 「【図6】 【図7】 」 (4) 甲5(乙1)の記載事項 甲5には、次の事項が記載されている。 なお、甲5は、被請求人が提出した乙1と同一の証拠であり、原文の記載は省略し、以下、翻訳文のみを記載する(括弧内は、証拠における通し行数である。)。 ア 「所望の距離を隔てて配置することができる離間した横方向開口部6を複数備えた弾性タイヤ5・・・(略)・・・金属ロッド7からなる固定部材は、弾性タイヤ5の基部に形成された横方向開口部6内に搭載される。」(第1ページ右欄第62?73行) イ 「ロッドの一方の端部は、締結装置が図示の位置にあるときに、リムの張出し部3の下に延在し、反対側の端部はリムの張出し部4の下に延在する。各締結装置のロッド7から外側に延在するのは角状のラグ10であり、この角状のラグ10は、好適な器具をそれを構成する部材のうちの1つが角状のラグ10に当接した状態でリム上に配置することができるような位置までチャネルリムの張出し部3上に延在するように適合されることで、圧力を締結部材に対して容易にかけることができ、それによって、ロッドが横穴6の内部で摺動するようになることで、張出し部3下方の端部が、タイヤを容易に取り外すことができるような位置に移動することになる。ロッドがリムの内部に位置するときに常にタイヤの弾性による圧力がかかった状態で図2に示すような位置にロッドを保持する手段が、補助的な拡張部8によって形成され、異なる幅を有する張出し部3および4を形成することによって、締結部材がタイヤの穴6の内部で摺動することを可能にするための間隙を設けることで、反対側の端部を張出し部3の下方から出すことができる。」(第1ページ右欄第85行?第2ページ左欄第2行) ウ 「上記記載から、弾性を有するタイヤの基部に形成された穴の内部に摺動可能に取り付けたクロスバーまたはロッドからなる車両用タイヤの締結具であって、穴の中で自由に摺動するように構成されることで、タイヤをリムの内部に挿入することができ、またはリムから取り外すことができ、かつ、タイヤをリムの内部に配置した後にタイヤの弾性によってタイヤがロックの位置に収まるような位置に移動することができる締結具、を私が提供したことが明らかである。」(第2ページ左欄第20?30行) エ 「 」(図1) オ 「 」(図2) カ 「 」(図4) (5) 甲5に記載された発明 上記(4)ア、イ、オ及びカの記載内容からみて、甲5には、次のとおりの発明(以下「甲5発明」という。)が記載されていると認める。 「リムの内部に挿入することができるように構成される車両用の弾性タイヤであって、所望の距離を隔てて配置することができる離間した横方向開口部6を複数備え、金属ロッド7からなる固定部材は、弾性タイヤ5の基部に形成された横方向開口部6内に搭載され、 前記金属ロッド7は、円柱状のロッドの一方の端部の外側に角状のラグ10と補助的な拡張部8が形成され、反対側の端部は長さ方向に垂直な面で終端しており、 リムの内部に弾性タイヤを挿入したときに、金属ロッドからなる固定部材の一方の端部は、リムの張出し部3の下に延在し、反対側の端部はリムの張出し部4の下に延在するようにしてなる弾性タイヤ。」 3 無効理由についての判断 (1) 無効理由1について ア 対比 本件発明と、上記2(2)で認定した甲1発明を対比する。 甲1発明の「周辺部」は、タイヤ取り付け時には、リムの内側に位置することから、本件発明の「リム係合部」に相当し、甲1発明の周辺部に一定の間隔でスティールロッドが挿入されることから、挿入される部位には、孔が設けられる、すなわち「穿設」されていることは当然のことといえ、当該孔は、本件発明の「係合孔」に相当する。 甲1発明の「スティールロッド」は、タイヤをリムに固定するものである限りにおいて、本件発明の「ストッパ」に、また、甲1発明の「自動車用のソリッドタイヤ」は、車両用の中実タイヤである限りにおいて、本件発明の「タイヤ」に相当する。 甲1発明において、「スティールロッドの長さは、上記リムの内側の幅の最大部分をやや越えて」いることから、甲1発明のスティールロッドは、ソリッドタイヤに挿入された状態で、その両端がソリッドタイヤの両側面から突出しているものといえる。 そして、甲1の「リムの湾曲部分」は、本件発明の自転車リムにおける「係止環爪」に相当し、甲1発明のスティールロッドは、リムにソリッドタイヤを取り付けるときに、リムの湾曲部分に係止されるものと認められる。 イ 一致点及び相違点 そうすると、本件発明と甲1発明との一致点、相違点はそれぞれ次のとおりである。 ・ 一致点 「タイヤにおいて、 前記タイヤのリム係合部に所定の間隔をあけて多数の係合孔を穿設し、 前記係合孔にストッパが固定され、 前記ストッパは前記係合孔への嵌着時に両端面が突出し、 前記ストッパはリムにタイヤを取り付けるときに係止環爪に係止されるようにしたタイヤ」である点。 ・ 相違点1 本件発明のタイヤは、「射出発泡工法により製造される自転車用」のものであるのに対し、甲1発明のタイヤは、「自動車用のソリッドタイヤ」である点。 ・ 相違点2 本件発明のストッパは、「合成樹脂製」であるのに対し、甲1発明のスティールロッドは、スティール、すなわち鋼製である点。 ・ 相違点3 本件発明のストッパは、円弧面(4a)と水平面(4b)を有し、両端面(4c)が傾設される形状を有するのに対し、甲1発明のスティールロッドは、円柱状で両端面が長さ方向と垂直な面で終端する形状である点。 ウ 相違点についての検討 (ア)相違点3についての検討 事案に鑑み、相違点3から検討する。 a 本件発明のストッパに相当する形状について 甲1におけるスティールロッドは、円柱状で両端面が長さ方向と垂直な面で終端する形状であり、一方、甲4における固定部材であるロッドは、その両端面が傾設された形状を有しておらず、また、ロッドの長さ方向との直交方向断面は円形であって、本件発明に相当する円弧面や水平面が存在しない。しかも、その他の証拠にも、相違点3に係る本件発明の構成に相当する形状は開示されていない。 また、そもそも甲4は、自動車のトリムの取り付けに係る技術を開示するものであり、甲1発明のような車両用のタイヤをリムに取り付ける技術とはその分野が相違する。 そうすると、甲1発明に甲4に開示された技術を適用すべき動機付けは存在しないといわざるを得ないし、仮に適用できたとしても、甲1発明のスティールロッドの形状は、相違点3に係る本件発明の構成とはならない。 よって、甲1発明のスティールロッドの形状を本件発明のようにすることは、当業者であっても容易に想到し得ることではない。 b 効果についての検討 本件発明のストッパの形状とタイヤのリムへの固定に関し、本件発明は、本件特許明細書に、以下の記載がされている。 「リム係合部2の係合孔3に嵌合されているストッパ4は両端部に形成された斜めの両端面4cがリム5の係止環爪6に沿って反りながら係止環爪6の内部に入り込むと、元の状態に戻りながら水平面4bが係止環爪6に係止されて任意に抜け落ちないように固定される」(段落【0014】) 「半月状のストッパ4は、係合孔3に嵌合するに際して、係合孔3の両側から僅かに突出されるようにして、円弧面4aから水平面4bまでの両端面4cは傾設してストッパ4がリム5に円滑に係合されるものの、走行中には任意に抜け落ちないようにしたものである。」(段落【0013】) この記載によれば、本件発明は、ストッパが相違点3に係る構成(形状)を有することで、係止環爪に沿ってストッパが反りながらリム係止環爪の内部に入り込む際に、ストッパの「斜めの両端面4c」によってリムへの係合が円滑になるとともに、ストッパの「水平面4b」によって任意に抜け落ちないように固定されるといった効果を少なくとも奏すると認められるところ、甲1発明を含め、いずれの証拠に記載のものは、上記効果を奏するものとはいえない。 c 請求人の主張 請求人は、審判請求書及び請求人要領書において、以下の図を示しつつ、当該図中の「雄部材の傾斜面」及び「雄部材の水平面」は、それぞれ、本件発明の傾設された「両端面(4c)」及び「水平面(4b)」に相当する旨主張している。 また、請求人要領書において、「雄部材を雌部材に嵌着させる技術分野において、雄部材を雌部材へ挿入することが容易であり、且つ、雄部材が雌部材から容易に抜け落ちない構造の雄部材及び雌部材とするのが技術常識」であるから、甲1においてスティールロッドをリムに嵌め込むことが容易でないという課題を解決させる当然の動機に基づき、例えば甲4の図6のように、「挿入の際に雌部材(リム)と接触する雄部材の部分(スティールロッドの両端)を傾斜させ、抜け落ち防止のために挿入後に雌部材と接触する雄部材の部分を水平面とすることは当業者であれば当然に行う設計である」と主張している(請求人要領書第5?6ページ)。 しかしながら、請求人の主張する甲4の「雄部材の傾斜面」は、円錐台形状における連続した斜面であって、ロッドの両端面に傾設する2つの平面ではなく、また、雄部材の傾斜面及び水平面は、ロッドの長さ方向への圧入に対する係合に合わせて設けられるものであり、結果として、甲1発明のスティールロッドと全体形状が大きく相違するものである。 そうすると、甲4のロッドに接した当業者が甲1発明のスティールロッドの両端部に傾斜面を形成し、長さ方向に延在する水平面を形成する形状にすることを容易に想到し得るとはいえない。 よって、請求人の上記主張は採用できない。 d 相違点3についてのまとめ そうすると、相違点3に係る特定事項は、甲1発明に基づいて容易に想到し得るものとはいえない。 (エ) 相違点についての小括 以上のとおり、相違点3については想到容易とはいえないから、相違点1及び2については検討するまでもなく、本件発明は、甲1に記載された発明を主たる発明とした際、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であるということはできない。 エ 無効理由1についてのむすび したがって、請求人が主張する無効理由1は理由がない。 (2) 無効理由2について ア 対比 本件発明と、上記2(5)で認定した甲5発明を対比する。 甲5発明の「車両用の弾性タイヤ」は、図1や図2の記載(上記2(4)エ及びオ)からも、車両用の中実タイヤである限りにおいて、本件発明の「タイヤ」に相当し、また、甲5の「金属ロッドからなる固定部材」、「弾性タイヤの基部」及び「横方向開口部6」は、本件発明の「ストッパ(4)」、「リム係合部(2)」及び「係合孔(3)」に相当する。 そして、甲5発明の金属ロッドからなる固定部材の両端部は、リムに弾性タイヤを取り付けた状態の時に、リムの張出し部3及び4の下に延在することから、このことは、本件発明の「ストッパ(4)は自転車リム(5)にタイヤ(1)を取り付けるときに係止環爪(6)に係止される」ことに相当する。 イ 一致点及び相違点 そうすると、本件発明と甲5発明との一致点、相違点はそれぞれ次のとおりである。 ・ 一致点 「タイヤにおいて、 前記タイヤのリム係合部に所定の間隔をあけて多数の係合孔を穿設し、 前記係合孔にストッパが固定され、 前記ストッパはリムにタイヤを取り付けるときに係止環爪に係止されるタイヤ」である点。 ・ 相違点4 本件発明のタイヤは、「射出発泡工法により製造される自転車用」のものであるが、甲5発明の弾性タイヤは、そのような特定を有しない点。 ・ 相違点5 本件発明のストッパは、「合成樹脂製」であるが、甲5発明の金属ロッドからなる固定部材は、金属製である点。 ・ 相違点6 本件発明のストッパは、円弧面(4a)と水平面(4b)を有し、両端面(4c)が傾設される形状を有するのに対し、甲5発明の金属ロッドからなる固定部材は、円柱状のロッドの一方の端部の外側に角状のラグ10と補助的な拡張部8が形成され、反対側の端部は長さ方向に垂直な面が形成されている点。 ・ 相違点7 本件発明のストッパ(4)は「係合孔(3)への嵌着時に両端面(4c)が突出する」のに対し、甲5発明の金属ロッドからなる固定部材は、弾性タイヤの基部の横方向開口部への嵌着時において、そのような特定を有しない点。 ウ 相違点についての検討 事案に鑑み、相違点6から検討する。 a 本件発明のストッパに相当する形状について 甲5発明における、金属ロッドからなる固定部材は、角状のラグ10と補助的な拡張部8を有し、図4(上記2(4)カ)に示される形状を採ることによって、「角状のラグ10」が、圧力を締結部材に対して容易にかけることができ、また、「補助的な拡張部8」によって、ロッドがリムの内部に位置するときに常にタイヤの弾性による圧力がかかった状態で図2に示すような位置にロッドを保持できるものである。 そうすると、甲5発明において、金属ロッドからなる固定部材の両端部を傾設することは、金属ロッドからなる固定部材の長さ方向に圧力をかけることを困難にするものであるし、あえて拡張している「補助的な拡張部8」を設ける趣旨を滅却するものであり、阻害要因を有するものといえる。しかも、甲5発明において、そのような構成を採用する動機付けも認められない。 b 請求人の主張 請求人は、審判請求書において、相違点6(審判請求書における「相違点(3)及び(4)」)について、「上述の甲第4号証の説明の通り、本件特許の出願時に、発泡樹脂製品の固定において、雌部材(即ち、rim)への嵌着を容易且つ確実なものするために雄部材(即ちmetal rod)に水平面や傾斜面を備えることは公知技術であったことから、甲第5号証に開示する発明におけるmetal rodに「水平面」を設け、その両端を傾斜させることは、単なる設計事項である。また、甲第4号証に開示された内容を甲第5号証に適用することの阻害要因は存在していない。」と主張している(審判請求書第21ページ)。 しかしながら、上記aで述べたように、甲5発明における「金属ロッドからなる固定部材」の両端部を傾設することには、動機付けもなく、阻害要因を有するものであるから、甲4記載の技術的事項を採用することは当業者にとって容易に想到し得ることとはいえない。 よって、請求人の上記主張は採用できない。 c 相違点6についてのまとめ そうすると、相違点6に係る特定事項は、甲5発明に基づいて容易に想到し得るものとはいえない。 (エ) 相違点についての小括 以上のとおり、相違点6については想到容易とはいえないから、相違点4、5及び7について検討するまでもなく、本件発明は、甲5に記載された発明を主たる発明とした際、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であるということはできない。 エ 無効理由2についてのむすび したがって、請求人が主張する無効理由2は理由がない。 第5 むすび 以上のとおり、請求人の主張する無効理由1?2にはいずれも理由がないから、本件特許を無効とすることはできない。 審判に関する費用については、特許法169条2項で準用する民事訴訟法61条の規定により、請求人が負担すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
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審理終結日 | 2020-03-31 |
結審通知日 | 2020-04-03 |
審決日 | 2020-04-17 |
出願番号 | 特願2011-523753(P2011-523753) |
審決分類 |
P
1
113・
121-
Y
(B60C)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 村山 禎恒 |
特許庁審判長 |
須藤 康洋 |
特許庁審判官 |
大畑 通隆 大島 祥吾 |
登録日 | 2012-06-22 |
登録番号 | 特許第5022518号(P5022518) |
発明の名称 | 自転車用タイヤ |
代理人 | 阿部 豊隆 |
代理人 | 村井 賢郎 |
代理人 | ▼高▲梨 義幸 |
代理人 | 伊藤 寛之 |
代理人 | SK特許業務法人 |
代理人 | 岡田 誠 |
代理人 | 奥野 彰彦 |
代理人 | 津城 尚子 |