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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04M
管理番号 1365662
審判番号 不服2018-15637  
総通号数 250 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-11-07 
確定日 2020-08-28 
事件の表示 特願2016-103732「発信者位置表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年11月 9日出願公開、特開2017-201770〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年5月6日の出願であって、平成30年8月28日付けで拒絶査定がなされたところ、同年11月7日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。その後当審において令和1年8月13日付けで拒絶理由が通知され、同年9月30日に意見書が提出され、令和2年1月31日付けで拒絶理由が通知され、同年2月23日に意見書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明は、平成30年11月7日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
限定された数の住居の地図盤の、各々の住居の位置に受信部と表示灯を設けた、受信表示部を配置し、一組の発信器を移動可能に附設し、発信者を示す住居の受信部のみ受信、点灯表示するように構成され、前記限定された数の住居に配置された一連の、発信者位置表示装置。」

第3 当審拒絶理由の概要
当審が令和2年1月31日付けで通知した拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)の概要は、以下のとおりである。

(進歩性)本件出願の請求項1に係る発明は、その出願前日本国内または外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明及び引用文献2?5に記載された周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特開2002-358587号公報
引用文献2:“HUMAP受信機「地図式受信機」”、HUMAP地図式火災受信機カタログ HUSEC-036-1504、日本、日本ドライケミカル株式会社、2015年4月、p1-p8、[令和2年1月14日検索]<URL:http://www.wako-grp.com/files/20130327102912>
引用文献3:特開2006-53650号公報
引用文献4:特開昭56-27192号公報
引用文献5:実願昭63-139617号(実開平2-63199号)の マイクロフィルム

第4 引用文献の記載事項、引用発明及び周知技術
1 引用文献1の記載事項及び引用発明
当審拒絶理由で引用した引用文献1(特開2002-358587号公報。平成14年12月13日出願公開。)には、図面とともに、次の記載がある(なお、下線は当審において付与した。)。

(1)「【0008】図1は本発明のネット自主防衛システムの表示操作部の実施の形態を説明するための説明図であり、図2は本発明のネット自主防衛システムの実施の形態の概要を説明するための説明図である。
【0009】本発明は相互に信用のおける複数の加入利用者がネットを構築して、多発する凶悪事件や迷惑行為、暴力行為等から自主防衛をするためのネット自主防衛システムに関するものであり、複数の加入利用者A.B.C.D.Eが夫々備えて緊急時に相互に連絡を取り合うネット自主防衛システムにおいて、前記加入利用者A.B.C.D.Eの名前が表示される加入利用者名表示部1と、緊急時に緊急情報2aを発信するための緊急用発信部2と、該緊急用発信部2を操作して発信した加入利用者A.B.C.D.Eが表示される発信者表示部3と、該発信者表示部3の表示に対して応答する加入利用者A.B.C.D.Eが発信するための応答用発信部4と、該応答用発信部4を操作して発信した加入利用者A.B.C.D.Eが表示される応答者表示部5と、緊急時の加入利用者A.B.C.D.Eが緊急用発信部2を操作して緊急情報2aを加入利用者A.B.C.D.Eの全員に発信させ前記夫々の発信者表示部3を表示させる緊急用発信手段6と、応答する加入利用者A.B.C.D.Eが応答用発信部4を操作して応答情報4aを加入利用者A.B.C.D.Eの全員に発信させ前記夫々の応答者表示部5を表示させる応答用発信手段7とを備えたものである。
【0010】即ち、本発明のネット自主防衛システムは、複数の信用のおける加入利用者A.B.C.D.Eが夫々の家庭に備えて、夫々が凶悪事件や迷惑行為、暴力行為等、或いは、急病、事故等の緊急時に、SOSを発信して複数の加入利用者A.B.C.D.Eと相互に連絡を取り合うネットを構築するものである。
【0011】そして、図1及び図2に図示する如く、加入利用者名表示部1には加入利用者A.B.C.D.Eの名前が表示されるもので、実施の形態では加入利用者A.B.C.D.Eと英語で表示した5人としているが、その数は限定するものでなく、何人でも構わないもので、図示する実施の形態では、夫々の場所に夫々の加入利用者A.B.C.D.Eの全員が夫々表示されているが、記憶部と制御部を備えて必要な加入利用者A.B.C.D.Eのみをデジタル表示させるものでも良く、通常、加入利用者名表示部1にはフルネーム、住所、電話番号、或いは、緊急時の家族、親族等の勤務する会社等の他の場所への電話番号等も同時に表示することが好ましいものである。
【0012】そして、緊急用発信部2とは夫々の加入利用者A.B.C.D.Eが凶悪事件や迷惑行為、暴力行為等、或いは、急病、事故等の助けを必要とする緊急時に緊急情報2aを発信するために操作するものであり、押釦スイッチ、タッチスイッチ、リモートコントロールスイッチ等から成るものである。
【0013】次に、発信者表示部3とは緊急時である加入利用者A.B.C.D.Eの何れかが緊急用発信部2を操作して緊急情報2aを発信したことが表示されるもので、LED等の点滅、或いは、音声を併用しても構わなく、後述する緊急用発信手段6を介して加入利用者A.B.C.D.Eの全員に表示されるものである。
【0014】次いで、応答用発信部4とは発信者表示部3に表示された緊急時にある加入利用者A.B.C.D.Eに他の加入利用者A.B.C.D.Eが応答時に応答情報4aを発信するために操作するものであり、押釦スイッチ、タッチスイッチ、リモートコントロールスイッチ等から成るものである。
【0015】そして、応答者表示部5とは応答者が応答用発信部4を操作して応答情報4aを発信したことが表示されるもので、後述する応答用発信手段7を介して加入利用者A.B.C.D.Eの全員に表示されるものである。
【0016】更に、緊急用発信手段6とは緊急時にある加入利用者A.B.C.D.Eの何れかが緊急用発信部2を操作して緊急情報2aを加入利用者A.B.C.D.Eの全員に発信させるもので、携帯電話、一般の電話、パーソナルコンピュータのインターネット等を介して発信されるもので、発信されると加入利用者A.B.C.D.Eの全員の発信者表示部3に表示されるものである。」

(2)「【0018】例えば、図1及び図2に図示する実施の形態では、今、加入利用者Cさんが何かのトラブルに巻き込まれ緊急時と成り、緊急用発信部2を操作して緊急情報2aを加入利用者A.B.D.Eの全員に発信させると、他の加入利用者A.B.D.Eさんの発信者表示部3に加入利用者Cさんが緊急時にあることが表示されるものである。
【0019】次いで、これを見た加入利用者Eさんが応答用発信部4を操作して応答情報4aを応答用発信手段7を介して発信するものであり、すると、加入利用者A.B.C.D.Eの全員の応答者表示部5に応答していることが表示されるものである。
【0020】そして、応答者である加入利用者Eさんは緊急時にある加入利用者Cさんに破線で図示する如く、他の電話回線を用いての確認情報8を得ると共に、警察、消防署等の公共機関9a、又は、家族、親族9b、ご近所9c、タクシー会社9d等に連絡を取って最善の方法をとるものである。」

(3)図1は、次のとおりである。


そして、【0010】、【0013】及び【0016】の記載並びに「ネット自主防衛システムの表示操作部の実施の形態を説明するための説明図」である図1によれば、「複数の信用のおける加入利用者A.B.C.D.E」の「夫々の家庭」に備えられた「表示操作部」は、「盤」状であり、当該「盤」状の表示操作部上に「加入利用者A.B.C.D.E」に対応して、「加入利用者名表示部1」と「発信者表示部3」とがそれぞれ配置されていることが把握できる。
また、「緊急時にある加入利用者A.B.C.D.Eの何れかが緊急用発信部2を操作」すると、「加入利用者A.B.C.D.Eの全員」に「緊急情報2a」が発信され、加入利用者A.B.C.D.Eの全家庭に備えられた「表示操作部」上の、「緊急情報2aを発信した加入利用者」に対応する「加入利用者名表示部1」のすぐ上の「発信者表示部3」が点滅表示することが把握できる。

以上を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

「複数の信用のおける加入利用者A.B.C.D.Eが夫々の家庭に備えられる、夫々が凶悪事件や迷惑行為、暴力行為等、或いは、急病、事故等の緊急時に、SOSを発信して複数の加入利用者A.B.C.D.Eと相互に連絡を取り合うネットを構築するネット自主防衛システムの盤状の表示操作部であって、(【0008】、【0010】,図1)
加入利用者A.B.C.D.Eの名前が表示され、住所も同時に表示する、加入利用者名表示部1と、(【0011】)
各加入利用者名表示部1のすぐ上に設けられ、緊急用発信部2を操作して緊急情報2aを発信したことがLEDの点滅により表示される発信者表示部3と、(【0013】、図1)
夫々の加入利用者A.B.C.D.Eが緊急時に緊急情報2aを発信するために操作するリモートコントロールスイッチから成る緊急用発信部2と、(【0012】)
緊急時にある加入利用者A.B.C.D.Eの何れかが緊急用発信部2を操作して緊急情報2aを加入利用者A.B.C.D.Eの全員に発信させる緊急用発信手段6と、を含み、(【0016】)
盤状の表示操作部上に加入利用者A.B.C.D.Eに対応して、加入利用者名表示部1と発信者表示部3とがそれぞれ配置され、(【0010】、【0016】、図1)
緊急時にある加入利用者A.B.C.D.Eの何れかが緊急用発信部2を操作すると、加入利用者A.B.C.D.Eの全家庭に備えられた表示操作部上の、緊急情報2aを発信した加入利用者に対応する加入利用者名表示部1のすぐ上の発信者表示部3が点滅表示する、(【0010】、【0013】、【0016】、図1)
盤状の表示操作部。」

2 引用文献2?5の記載事項及び周知技術
(1)引用文献2の記載事項
当審拒絶理由で引用した引用文献2(“HUMAP受信機「地図式受信機」”、HUMAP地図式火災受信機カタログ HUSEC-036-1504、日本、日本ドライケミカル株式会社、2015年4月、p1-p8、[令和2年1月14日検索]<URL:http://www.wako-grp.com/files/20130327102912>)には、次の記載がある。

(第3頁より)


(第7頁より)


上記第3頁には、「HUMAPの特長」として、「地区窓式から地図式へ。しかも同等価格。」「火災地区等を点滅や点灯(LED発光)により地図上に表示できるため、見やすく分かりやすくなりました。」と記載され、「地区窓式受信機(警戒区域一覧図別途)」と「地図式受信機(警戒区域一覧図組込)」の表示例を示す写真とともに、「読むより見る!」と記載され、「用途に合わせ地図表現が選択可能。」、「地図の表現は建物や管理体制に合わせて設備図と同じ「2次元タイプ」と建物の全体イメージがつかめる「3次元タイプ」が選択できます。」と記載されている。
また、第7頁には、「受信機のほかにも「HUMAP」の特長を生かし、副受信機や警報盤などでも分かりやすい地図で表示が行えます」として、「地図式副受信機(A3サイズ)」や「地図式警報盤(A3サイズ)」の表示例を示す写真が記載されている。

(2)引用文献3の記載事項
当審拒絶理由で引用した引用文献3(特開2006-53650号公報。平成18年2月23日出願公開。)には、図面とともに、次の記載がある(なお、下線は当審において付与した。)。

ア 「【背景技術】
(途中省略)
【0004】
図6は、上述した火災受信機の地区窓式表示の一例を示したもので、地区窓式火災受信機20は地区窓式表示部21、アドレス表示部22、操作部23によって構成されている。そして、火災の場合には、地区窓式表示部21は警戒区域番号に該当する順番に配置された地区窓の表示灯を点灯させ、警戒区域名称を記載した銘板を近傍に表示する。また、アドレス表示部22には火災発報したアドレス感知器の警戒区域番号、アドレス番号がデジタル表示される。」

イ 「【0016】
上述した課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、警戒の対象となる警戒領域を図形化した地図を警戒区域に区画して表示する地図表示部を備え、この地図表示部は移し替え可能な光源の投射光によって点灯表示される地図式警戒表示機器であって、前記警戒区域の各部屋毎にアドレス感知器を設置し、前記アドレス感知器が動作状態になると、前記アドレス感知器が属する警戒区域番号と、前記アドレス感知器が設置された部屋位置とを前記地図上に表示することを特徴とする。」

ウ 「【発明の効果】
【0020】
請求項1の発明によれば、警戒区域番号とアドレス感知器が設置された部屋位置とを同時に地図上に表示するので、火災などの異常が発生した警戒区域と、アドレス感知器が設置された部屋位置とを地図上で容易に特定することができ、これによって火災の早期発見、初期消火、避難誘導に効果を上げることができる。」

エ 「【図面の簡単な説明】
【0066】
(途中省略)
【図3】実施例1に係る地図式警戒表示機器の地図表示部の詳細を示す図である。」

オ 図6は次のとおりである。


カ 図3は次のとおりである。


(3)引用文献4の記載事項
当審拒絶理由で引用した引用文献4(特開昭56-27192号公報。昭和56年3月16日出願公開。)には、図面とともに、次の記載がある(なお、下線は当審において付与した。)。

ア 「プリント基板のほぼ全面に発光ダイオードを実装し得るダイオードマトリクス回路を形成し、上記プリント基板の発光ダイオード実装面側にプリント基板と若干の間隔をおいて配設される半透明板に所定の監視用地図を表示し、上記プリント基板上の各監視地区に対応する個所に発光ダイオードを実装したことを特徴とする監視表示用地図盤。」(特許請求の範囲)

イ 第2図は次のとおりである。


(4)引用文献5の記載事項
当審拒絶理由で引用した引用文献5(実願昭63-139617号(実開平2-63199号)のマイクロフィルム。平成2年5月11日出願公開。)には、図面とともに、次の記載がある(なお、下線は当審において付与した。)。

ア 「警備領域内における侵入、火災、ガス漏れ等の異常を検出する検知器からの信号を受け、異常を音やランプの表示等で知らせる警報装置の表示盤」(明細書第1ページ第15行?第18行)

イ 「第3図は、パネル表面に警備領域の図を記入した状態を示しており、図中の小さな丸の部分から、パネル背面で点滅する発光素子の光が見える。警備領内のひとつの検知器が異常を検出したとき、表示盤ではそれに対応する発光素子が点滅し、どこの場所のどういう異常であるのかが、この表示盤を見るだけで判別できる」(同第6ページ第9行?第15行)

ウ 第3図は、次のとおりである。


(5)周知技術
上記引用文献2?5の記載によれば、表示灯を点灯させて報知対象を表示する際の表示態様として、次の(i)、(ii)の表示態様は、いずれも周知であるといえる。
(i)複数の対象に対応する表示灯を配置するとともに当該対象の名称を近傍に表示し、報知対象に対応する表示灯を点灯させる表示態様(引用文献2?3参照。)。
(ii)表示盤の地図上の複数の対象に対応する位置に表示灯を配置し、報知対象に対応する位置にある表示灯を点灯させる地図式の表示態様(引用文献2?5参照。)。

そして、上記(1)のとおり、引用文献2には、(i)に対応する「地区窓式受信機(警戒区域一覧図別途)」と(ii)に対応する「地図式受信機(警戒区域一覧図組込)」の表示例が写真とともに記載され、「地区窓式」から「地図式」になった結果として、「火災地区等を点滅や点灯(LED発光)により地図上に表示できるため、見やすく分かりやすくなりました。」と記載されていること、
上記(2)のとおり、引用文献3には、(i)に対応する「地区窓式表示」の例に代えて、(ii)に対応する「警戒の対象となる警戒領域を図形化した地図を警戒区域に区画して表示する地図表示部」を備えた「地図式警戒表示機器」とすることにより、「火災などの異常が発生した警戒区域と、アドレス感知器が設置された部屋位置とを地図上で容易に特定することができ」ることが記載されていることから、
上記(i)及び(ii)の表示態様は置換可能であり、上記(i)の表示態様に代えて、上記(ii)の地図式の表示態様を採用することで、地図上で報知対象の位置を容易に特定できることも、当業者に周知の作用効果であったといえる。

第5 対比・判断
1 対比
本願発明と引用発明とを対比する。

(1)引用発明の「複数の信用のおける加入利用者A.B.C.D.E」の「夫々の家庭に備えられる」「盤状の表示操作部」は、本願発明の「限定された数の住居」に「配置された一連の、発信者位置表示装置」に対応する。

(2)引用発明では、「名前が表示され、住所も同時に表示する、加入利用者名表示部1」と「各加入利用者名表示部1のすぐ上」の「発信者表示部3」とが、「盤状の表示操作部上に加入利用者A.B.C.D.Eに対応して」「それぞれ配置され」、「緊急時にある加入利用者A.B.C.D.Eの何れかが緊急用発信部2を操作すると、加入利用者A.B.C.D.Eの全家庭に備えられた表示操作部上の、緊急情報2aを発信した加入利用者に対応する加入利用者名表示部1のすぐ上の発信者表示部3が点滅表示する」。よって、引用発明は、「緊急時にある加入利用者」が操作した「緊急用発信部2」からの信号が、当該緊急時にある加入利用者に対応する加入利用者名表示部1のすぐ上の発信者表示部3に伝わり、当該受信者表示部3が点滅表示することにより、「緊急時にある加入利用者」の「名前」と「住所」を表示するものといえる。ここで、「点滅」は、点灯の一態様であるから、「点灯」に含まれる。
そうすると、引用発明の「加入利用者A.B.C.D.Eに対応して」「それぞれ配置され」る『「加入利用者名表示部1」及び「発信者表示部3」』は、「限定された数の住居」の各々に対応して「受信部と表示灯を設けた、受信表示部」であるといえる。また、引用発明の「緊急時にある加入利用者に対応する加入利用者名表示部1のすぐ上の発信者表示部3」だけが、「緊急用発信部2」からの信号を受けて点滅表示するから、「発信者」に対応する「受信部のみ受信、点灯表示する」「受信部と表示灯」といえる。
よって、本願発明の「限定された数の住居の地図盤の、各々の住居の位置に受信部と表示灯を設けた、受信表示部」と、引用発明の「盤状の表示操作部上」に「それぞれ配置され」る「加入利用者名表示部1と発信者表示部3」とは、「盤状の発信者位置表示装置上に、限定された数の住居の各々に対応して受信部と表示灯を設けた、受信表示部」である点で共通する。また、本願発明と引用発明とは、いずれも「発信者に対応する受信部のみ受信、点灯表示するように構成され」る点で共通する。

(3)引用発明において、「緊急時にある加入利用者」が操作する「緊急用発信部2」は、「リモートコントロールスイッチ」から成るから「移動可能」といえ、「加入利用者」の「夫々の家庭に備えられる」「盤状の表示操作部」に対してそれぞれ設けられる。
ここで、請求人の令和1年9月30日付け意見書における、「受信器は、発信器と一対であり、発信部と受信部の距離や周波数などに対応して適したものが、一般的に利用されており、周知の事であり、省略致しました。」、「「一組の移動可能な発信器2」(段落〔0009〕)が何と「一組」であるのか、とのご指摘の件につきまして、地図盤と発信器は、別のものであるけれど、一組であると、ご説明申し上げるべき所、言葉の上で不明瞭でありました。」との主張も参照すれば、本願発明の「一組の発信器」には、「(地図盤と)一組の発信器」であって、当該「発信器」を「移動可能に附設」したものを含むと解することができる。
そうすると、引用発明の「リモートコントロールスイッチ」から成る「緊急用発信部2」は、「盤状の表示操作部」に対してそれぞれ設けられる点で「(盤状の表示操作部と)一組」といえ、本願発明の「移動可能に附設」した「一組の発信器」に対応する。

上記(1)?(3)より、本願発明と引用発明とは、次の点で一致し、相違する。

[一致点]
「盤状の発信者位置表示装置上に、限定された数の住居の各々に対応して受信部と表示灯を設けた、受信表示部を配置し、一組の発信器を移動可能に附設し、発信者に対応する受信部のみ受信、点灯表示するように構成され、前記限定された数の住居に配置された一連の、発信者位置表示装置。」

[相違点]
「受信表示部」が、本願発明では、「限定された数の住居の地図盤の、各々の住居の位置」に受信部と表示灯を設けたものであり、これに伴い、「一組の発信器」は「地図盤」と一組であり、「地図盤の、」「発信者を示す住居の受信部」のみ受信、点灯表示するのに対し、
引用発明では、「名前が表示され、住所も同時に表示する、加入利用者名表示部1」と「各加入利用者名表示部1のすぐ上」の「発信者表示部3」とが、「盤状の表示操作部上に加入利用者A.B.C.D.Eに対応して」「それぞれ配置され」たものであり、
これに伴い、「一組の発信器」は「盤状の表示操作部」と一組であり、「盤状の表示操作部」の、「緊急情報2aを発信した加入利用者に対応する加入利用者名表示部1のすぐ上の発信者表示部3」のみが受信、点灯表示する点。
(要するに、発信者がどこの誰であるかを表示するための「受信表示部」の構成が、本願発明では、「地図盤」上の、発信者の住居の位置に設けた表示灯を点灯するものであるのに対し、引用発明では、「盤状の表示操作部」上の、発信者に対応する「加入利用者表示部」に「名前」と「住所」が表示され、そのすぐ上の「発信者表示部3」を点灯するものである点で相違する。)

2 判断
上記相違点について検討する。

上記「第4」の2(5)のとおり、表示灯を点灯させて報知対象を表示する際の表示態様として、
(i)複数の対象に対応する表示灯を配置するとともに当該対象の名称を近傍に表示し、報知対象に対応する表示灯を点灯させる表示態様、及び、
(ii)表示盤の地図上の複数の対象に対応する位置に表示灯を配置し、報知対象に対応する位置にある表示灯を点灯させる地図式の表示態様は、いずれも周知である。
また、上記(i)及び(ii)の表示態様は置換可能であり、上記(i)の表示態様に代えて、上記(ii)の地図式の表示態様を採用することで、地図上で報知対象の位置を容易に特定できることも、当業者に周知の作用効果であった。

そして、引用発明の表示態様は、「盤状の表示操作部上に、加入利用者A.B.C.D.Eに対応して、加入利用者名表示部1と発信者表示部3」を「それぞれ配置」し、各「加入利用者名表示部1」には「名前」と「住所」を同時に表示し、「盤状の表示操作部」の、「緊急情報2aを発信した加入利用者に対応する加入利用者名表示部1のすぐ上の発信者表示部3が点滅表示する」ものであるから、上記(i)の表示態様に相当するものである。

そうすると、引用発明の表示態様に代えて、上記(ii)の周知の地図式の表示態様を採用すること、すなわち、引用発明において、「加入利用者A.B.C.D.Eが夫々の家庭に備え」る「盤状の表示操作部」を「地図盤」とし、当該「地図盤」の、「加入利用者A.B.C.D.E」の各住居の位置に「発信者表示部3」を配置して、「緊急情報2aを発信した加入利用者」に対応する「発信者表示部3が点滅表示する」ように構成すること(本願発明の「限定された数の住居の地図盤の、各々の住居の位置に受信部と表示灯を設けた、受信表示部を配置」し、「発信者を示す住居の受信部のみ受信、点灯表示するように構成」することに相当。)は、周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得ることである。この場合、本願発明の「発信器」に相当する引用発明の「緊急用発信部2」が、「地図盤」と一組であることも明らかである。

3 請求人の主張について
(1)令和1年9月30日提出の意見書における主張について
請求人は、令和1年9月30日提出の意見書において、「引用文献1において、「加入利用者表示部」に住所が表示される、とありますが、その件について申し上げます。 本願発明の「発信者位置表示装置」では、地図盤の地図上に、発信者が誰であるかを、受信者が即座に認識することが出来る、その後、地図盤の地図上の表示から緊急の信号を受信した、近隣の住民は自分の位置から、発信者の位置との距離を即座に確認することが出来る、また各受信者は発信者の日頃の生活や体調を知っている人達であり万全の対応をなすことが出来る。」と主張している。

しかし、上記のとおり、周知の地図式の表示態様を採用することにより、地図上で報知対象の位置を容易に特定できることが知られていたのであるから、請求人が主張する作用効果は、当業者が予測し得る範囲のものであり、格別顕著なものとはいえない。

(2)令和2年2月23日提出の意見書における主張について
請求人は、令和2年2月23日提出の意見書において、「本願発明においては受信側が複数であることから、不在着信等の事態もおこることもなく、確実な送受信が行われるものであります。」と主張している。

しかし、引用発明の「盤状の表示操作部」は、「複数の信用のおける加入利用者A.B.C.D.Eが夫々の家庭に備えられ」、「夫々が凶悪事件や迷惑行為、暴力行為等、或いは、急病、事故等の緊急時に、SOSを発信して複数の加入利用者A.B.C.D.Eと相互に連絡を取り合うネットを構築する」ものである。
そして、「緊急時にある加入利用者A.B.C.D.Eの何れかが緊急用発信部2を操作すると、加入利用者A.B.C.D.Eの全家庭に備えられた表示操作部上の」、「発信者表示部3が点滅表示する」のである。

具体的には、引用文献1の図1には、加入利用者Aさん?Eさんの各家庭に備えられた5つの「盤状の表示操作部」が図示されており、【0018】?【0020】の記載によれば、以下のア?ウが例示されている。

ア 「加入利用者Cさんが何かのトラブルに巻き込まれ緊急時と成り、緊急用発信部2を操作して緊急情報2aを加入利用者A.B.D.Eの全員に発信させると、他の加入利用者A.B.D.Eさんの発信者表示部3に加入利用者Cさんが緊急時にあることが表示される」(【0018】)として、図1の「加入利用者Cさん」の「表示操作部」の「緊急用発信部2」が網掛けで表示され、全員の「表示操作部」上で、発信者であるCさんを示す「C」のすぐ上の「発信者表示部3」が黒塗りで表示されている。

イ また、「次いで、これを見た加入利用者Eさんが応答用発信部4を操作して応答情報4aを応答用発信手段7を介して発信するものであり、すると、加入利用者A.B.C.D.Eの全員の応答者表示部5に応答していることが表示される」(【0019】)として、図1の「加入利用者Eさん」の「表示操作部」の「応答用発信部4」が網掛けで表示され、全員の「表示操作部」上で、応答者であるEさんを示す「E」のすぐ下の「発信者表示部3」が黒塗りで表示されている。

ウ そして、【0020】によれば、応答者である加入利用者Eさんは、緊急時にある加入利用者Cさんから、他の電話回線を用いて確認情報8を得たり、警察、消防署等の公共機関9a、又は、家族、親族9b、ご近所9c、タクシー会社9d等に連絡を取って最善の方法をとるものである。

よって、引用発明においても、複数の加入利用者(A.B.C.D.E)が受信側であることは明らかであり、請求人が主張する作用効果は、当業者が予測し得る範囲のものであって、格別顕著なものとはいえない。

4 小括
上記1?3のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第6 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-06-11 
結審通知日 2020-06-16 
審決日 2020-06-30 
出願番号 特願2016-103732(P2016-103732)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H04M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松平 英  
特許庁審判長 佐藤 智康
特許庁審判官 富澤 哲生
北岡 浩
発明の名称 発信者位置表示装置  

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