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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A63F
管理番号 1365680
審判番号 不服2019-4985  
総通号数 250 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-04-15 
確定日 2020-08-27 
事件の表示 特願2014-89634号「遊技機」拒絶査定不服審判事件〔平成27年11月24日出願公開、特開2015-208358号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯の概要
本願は、平成26年4月23日の出願であって、平成29年12月5日付けで拒絶の理由が通知され、平成30年1月26日に意見書及び手続補正書が提出され、同年6月5日付けで最後の拒絶の理由が通知され、同年8月2日に意見書及び手続補正書が提出されたところ、平成31年1月25日付け(送達日:同年2月5日)で、平成30年8月2日付け手続補正が却下されるとともに拒絶査定がなされ、それに対して、平成31年4月15日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正がなされ、これに対し、当審において、令和1年9月25日付けで拒絶の理由が通知され、同年11月12日に意見書及び手続補正書が提出され、これに対し、当審において、同年12月27日付けで最後の拒絶の理由が通知され、令和2年2月14日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 令和2年2月14日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和2年2月14日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 補正の内容
本件補正により、令和1年11月12日提出の特許請求の範囲の請求項1における
「【請求項1】
遊技を実行可能な遊技機であって、
各々が動作可能な第1の可動体および第2の可動体と、
演出条件の成立に基づいて、前記第1の可動体および前記第2の可動体を動作させる可動演出を実行可能な演出制御手段と、
検出条件の成立に基づいて、前記第1の可動体および前記第2の可動体を動作させて前記第1の可動体および前記第2の可動体の原点位置を検出する原点検出処理を実行可能な原点検出制御手段と、を備え、
前記演出制御手段は、前記第1の可動体を原点位置から移動位置まで移動させるとともに前記第2の可動体を動作させるパターンと、前記第1の可動体を移動させることなく前記第2の可動体のみを動作させるパターンと、があり、遊技者にとって有利な有利状態に制御されるか否かに応じて異なる割合でいずれかのパターンの前記可動演出を実行可能であり、
前記第2の可動体が動作しなくとも、前記第1の可動体が原点位置から移動位置に移動することにより遊技者から見た前記第2の可動体の位置が変化し、前記第1の可動体を移動位置から原点位置へ移動させたときに原点位置に位置する前記第2の可動体が原点位置からずれる場合があり、前記第2の可動体が動作すると、該第2の可動体が原点位置に位置する場合に視認困難である該第2の可動体の装飾部が視認可能となり、
前記原点検出制御手段は、前記原点検出処理の実行時に、前記第1の可動体を動作させて原点位置を検出してから前記第1の可動体の動作を停止させた状態で前記第2の可動体を動作させて原点位置を検出する、
ことを特徴とする遊技機。」は、
令和2年2月14日提出の特許請求の範囲の請求項1における
「【請求項1】
遊技を実行可能な遊技機であって、
各々が動作可能な第1の可動体および第2の可動体と、
演出条件の成立に基づいて、前記第1の可動体および前記第2の可動体を動作させる可動演出を実行可能な演出制御手段と、
検出条件の成立に基づいて、前記第1の可動体および前記第2の可動体を動作させて前記第1の可動体および前記第2の可動体の原点位置を検出する原点検出処理を実行可能な原点検出制御手段と、を備え、
前記演出制御手段は、前記第1の可動体を原点位置から移動位置まで移動させるとともに前記第2の可動体を動作させるパターンと、前記第1の可動体を移動させることなく前記第2の可動体のみを動作させるパターンと、があり、遊技者にとって有利な有利状態に制御されるか否かに応じて異なる割合でいずれかのパターンの前記可動演出を実行可能であり、
前記第2の可動体が動作しなくとも、前記第1の可動体が原点位置から移動位置に移動することにより遊技者から見た前記第2の可動体の位置が変化し、前記第1の可動体を移動位置から原点位置へ移動させたときに原点位置に位置する前記第2の可動体が原点位置からずれる場合があり、いずれのパターンの前記可動演出により前記第2の可動体が動作した場合であっても、該第2の可動体が原点位置に位置する場合に視認困難である該第2の可動体の装飾部が視認可能となり、前記第1の可動体を原点位置から移動位置まで移動させるとともに前記第2の可動体を動作させるパターンは、前記第1の可動体が移動位置まで移動したときに、前記第2の可動体が原点位置に位置する場合に視認困難である該第2の可動体の装飾部が視認可能で、原点位置に戻るときにも前記装飾部が視認可能であり、
前記原点検出制御手段は、前記原点検出処理の実行時に、前記第1の可動体を動作させて原点位置を検出してから前記第1の可動体の動作を停止させた状態で前記第2の可動体を動作させて原点位置を検出する、
ことを特徴とする遊技機。」に補正された(下線は、補正箇所を明示するために当審判合議体にて付した。)。

2 補正の適否
2-1 補正の目的及び新規事項について
本件補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「第2の可動体の装飾部」に関して、「前記第2の可動体が動作すると、該第2の可動体が原点位置に位置する場合に視認困難である該第2の可動体の装飾部が視認可能となり、」とあったものを「いずれのパターンの前記可動演出により前記第2の可動体が動作した場合であっても、該第2の可動体が原点位置に位置する場合に視認困難である該第2の可動体の装飾部が視認可能となり、」と限定し、さらに、
「前記第1の可動体を原点位置から移動位置まで移動させるとともに前記第2の可動体を動作させるパターンは、前記第1の可動体が移動位置まで移動したときに、前記第2の可動体が原点位置に位置する場合に視認困難である該第2の可動体の装飾部が視認可能で、原点位置に戻るときにも前記装飾部が視認可能であり、」ことを限定することを含むものである。
そして、補正後の請求項1に係る発明は、補正前の請求項1に係る発明と、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正のうち特許請求の範囲の請求項1についてする補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする補正に該当する。
また、本件補正は、願書に最初に添付した明細書の段落【0336】、【0378】等の記載からみて、新規事項を追加するものではないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たす。

2-2 独立特許要件について
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか否か、すなわち、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否かについて、以下に検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、次のとおりのものであると認める(記号A?Hは、分説するため当審判合議体にて付した。)。
「A 遊技を実行可能な遊技機であって、
B 各々が動作可能な第1の可動体および第2の可動体と、
C 演出条件の成立に基づいて、前記第1の可動体および前記第2の可動体を動作させる可動演出を実行可能な演出制御手段と、
D 検出条件の成立に基づいて、前記第1の可動体および前記第2の可動体を動作させて前記第1の可動体および前記第2の可動体の原点位置を検出する原点検出処理を実行可能な原点検出制御手段と、を備え、
E 前記演出制御手段は、前記第1の可動体を原点位置から移動位置まで移動させるとともに前記第2の可動体を動作させるパターンと、前記第1の可動体を移動させることなく前記第2の可動体のみを動作させるパターンと、があり、遊技者にとって有利な有利状態に制御されるか否かに応じて異なる割合でいずれかのパターンの前記可動演出を実行可能であり、
F 前記第2の可動体が動作しなくとも、前記第1の可動体が原点位置から移動位置に移動することにより遊技者から見た前記第2の可動体の位置が変化し、前記第1の可動体を移動位置から原点位置へ移動させたときに原点位置に位置する前記第2の可動体が原点位置からずれる場合があり、いずれのパターンの前記可動演出により前記第2の可動体が動作した場合であっても、該第2の可動体が原点位置に位置する場合に視認困難である該第2の可動体の装飾部が視認可能となり、前記第1の可動体を原点位置から移動位置まで移動させるとともに前記第2の可動体を動作させるパターンは、前記第1の可動体が移動位置まで移動したときに、前記第2の可動体が原点位置に位置する場合に視認困難である該第2の可動体の装飾部が視認可能で、原点位置に戻るときにも前記装飾部が視認可能であり、
G 前記原点検出制御手段は、前記原点検出処理の実行時に、前記第1の可動体を動作させて原点位置を検出してから前記第1の可動体の動作を停止させた状態で前記第2の可動体を動作させて原点位置を検出する、
H ことを特徴とする遊技機。」

(2)引用文献1
当審合議体による令和1年12月27日付け拒絶理由に引用された、本願の出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2012-24493号公報(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている(下線は当審判合議体にて付した。以下同じ。)。
ア 記載事項
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、遊技用価値を用いて遊技を行うことが可能な遊技機に関する。」

(イ)「【0062】
また、「非確変」に対応する大当り図柄が特図ゲームにおける確定特別図柄として停止表示されたことに基づき第1大当り状態が終了した後には、特別遊技状態の1つとして、通常状態に比べて特図ゲームにおける特別図柄の可変表示時間(特図変動時間)が短縮される時間短縮制御(時短制御)が行われる時短状態に制御される。ここで、通常状態とは、大当り遊技状態等の特定遊技状態や確変状態及び時短状態とは異なる遊技状態としての通常遊技状態であり、パチンコ遊技機1の初期設定状態(例えばシステムリセットが行われた場合のように、電源投入後に初期化処理を実行した状態)と同一の制御が行われる。時短状態は、所定回数(例えば100回)の特図ゲームが実行されることと、可変表示結果が「大当り」となることのうち、いずれかの条件が先に成立したときに、終了すればよい。このように「非確変」に対応する大当り図柄特別図柄のように、特図ゲームにおける確定特別図柄として停止表示されたことに基づく第1大当り状態が終了した後に時短状態
に制御される大当り図柄は、非確変大当り図柄(「通常大当り図柄」ともいう)と称される。また、大当り図柄のうち非確変大当り図柄が停止表示されて可変表示結果が「大当り」となることは、「非確変大当り」(「通常大当り」ともいう)と称される。」

(ウ)「【0071】
・・・遊技制御基板(主基板)31・・・
・・・
【0089】
また、ゲートスイッチ32a、第1始動口スイッチ14a、第1入賞確認スイッチ14b、第2始動口スイッチ15a、第2入賞確認スイッチ15b、カウントスイッチ23、第3入賞確認スイッチ23aおよび各入賞口スイッチ30a,30bや、第1演出装置500に設けられる第1回動センサ90、昇降センサ91や第2演出装置600に設けられる第2回動センサ92からの検出信号を基本回路に与える入力ドライバ回路58も主基板31に搭載され、可変入賞球装置15を開閉するソレノイド16、特別可変入賞球装置20を開閉するソレノイド21、第1演出装置500を回転駆動する第1回動モータ95および昇降駆動する昇降モータ96、第2演出装置600を回転駆動する第2回動モータ97を基本回路からの指令に従って駆動する出力回路59も主基板31に搭載され、電源投入時に遊技制御用マイクロコンピュータ1560をリセットするためのシステムリセット回路(図示せず)や、大当り遊技状態の発生を示す大当り情報等の情報出力信号を、ターミナル基板160を介して、ホールコンピュータ等の外部装置に対して出力する情報出力回路64も主基板31に搭載されている。」

(エ)「【0107】
図6?図9に示すように、第1演出装置500は、前述した装飾体301の所定箇所(本実施例では、演出表示装置9の右側方位置)に固定されるベース体501と、該ベース体501に対して上下方向に昇降可能に支持された昇降体502と、から主に構成されている。昇降体502は、ハート枠形状に形成された枠状部503aおよび該枠状部503aの下部から下方に延設される棒状部503bにより鍵型に形成された枠体503と、枠状部503a内に上下方向を向く軸心周りに回動可能に支持された正面視ハート形状をなす中空立体形状の回転体504と、から構成されている。ベース体501には、昇降体502を昇降させるステッピングモータからなる昇降モータ96や、回転体504を回転させる第1回動モータ95(図9参照)等が設けられている。」

(オ)「【0116】
また、回転盤536の外周に形成されたフランジ部536aにおける前記ガイドピン537に対応する位置には、取付板535の上部に取り付けられる昇降センサ91により検出される検出用切欠部538が形成されている。本実施例においては、ガイドピン537が上方位置に位置しているときに昇降センサ91により検出用切欠部538が検出され、該検出用切欠部538が検出される検出位置が初期位置(基準位置)とされている。
・・・
【0121】
次に、回転体504の下部から下方に向けて延設される回動軸512は、図15に示すように、金属材からなる軸部550と、軸部550の上端を回転体504の下端に接続するための合成樹脂材からなる接続部551と、から構成されている。接続部551は、円柱状に形成され、外周面上部に第1回動センサ90により検出される検出用切欠部552が形成された環状のフランジ部553が形成されている。また、上端面には、回転体504に対し相対回転不能に嵌合される嵌合凸部554が突設され、下端面には、軸部550の上端が相対回転不能に嵌合される嵌合穴555が前側に向けて延設されている。」

(カ)「【0130】
次に、昇降体502の昇降動作状況について説明する。
・・・
【0132】
図13に示すように、昇降体502が上昇位置に位置している状態では、昇降モータ96の駆動軸96aに固着された回転盤536のガイドピン537は、回転盤536の上部に位置するとともに、昇降溝539における左右方向の中央に位置するため、昇降溝539を有する昇降板540に止着された上下一対のうち上方のガイド凸部541aが第2ガイド溝531の上端に位置する。
【0133】
また、この上昇位置において、検出用切欠部538が昇降センサ91により検出される検出位置に位置しているため、上昇位置が昇降動作の初期位置(基準位置)とされているが、下降位置を昇降動作の初期位置としてもよい。
・・・
【0138】
また、本実施例では、昇降モータ96としてステッピングモータを使用しているとともに、演出制御用マイクロコンピュータは、上昇位置(初期位置)を基準とし、該上昇位置からのステップ数にて回転盤536の回転角度を特定する。よって、例えば上昇位置から回転盤536を180度回転させたときに回転を停止する制御を行うことで、昇降体502を下降位置に停止させるようになっている。」

(キ)「【0140】
次に、昇降体502における回転体504の回動動作状況について説明する。
【0143】
そして、非装飾面504aが前面側、装飾面504bが背面側、側周面504cが枠状部503aの内面との対向位置に配置される通常位置、および非装飾面504aが背面側、装飾面504bが前面側、側周面504cが枠状部503aの内面との対向位置に配置される回転位置において停止可能、かつ、通常位置から回動し、回転位置を通過して360度回転可能とされている。
・・・
【0144】
図17(a)に示すように、回転体504が通常位置に位置している状態では、フランジ部553に形成された検出用切欠部552が、背面側の第1回動センサ90により検出される検出位置に位置するようになっているため、通常位置が回動動作の初期位置(基準位置)とされているが、回転位置を回動動作の初期位置としてもよい。
・・・
【0149】
本実施例では、第1回動モータ95としてステッピングモータを使用しているとともに、演出制御用マイクロコンピュータは、通常位置(初期位置)を基準とし、該通常位置からのステップ数にて回動軸512の回転角度を特定する。よって、例えば通常位置から回動軸512を180度回転させたときに回転を停止する制御を行うことで、回転体504を回転位置に停止させるようになっている。なお、この回転位置において第1回動モータ95の励磁を解除してもよい。

(ク)「【0155】
また、本実施例では、吸引手段の一例として永久磁石を適用しているため、低コストで回転体504の位置決めを行うことができるようになっているが、電磁石を適用してもよい。この場合、例えば被吸着部材561のように、機械的にマグネット560に対して接触、非接触させなくても、電磁石へ供給する電力を調節することにより同じような効果を得ることができる。具体的には、例えば、回転体504が回転位置に位置しているときだけ電磁石に電力を供給すれば(電源on)、被吸着部材を吸引することができるため、回転体504を回転位置に位置決めできる。また、回転体504を回転させたり、通常位置に位置させる場合、電磁石に電力を供給しない(電源off)または供給する電力を小さくすれば、被吸着部材に対する吸引作用が働かないため、回転体504に磁力による影響を与えずにスムーズに回転させることができる。」

(ケ)「【0172】
以上説明したように、第1演出装置500にあっては、昇降モータ96により昇降体502を上昇位置と下降位置との間で上下移動させることが可能であるとともに、第1回動モータ95により回転体504を上下方向を向く回動軸512および上部回動軸513の軸心周りに回転させることができるようになっている。よって、例えば演出表示装置9においてリーチが成立したときに、回転体504を360度回転させる演出動作を行わせたり、スーパーリーチに発展するときに、昇降体502を下降位置に下降させて発光部505を鍵穴に挿入させるとともに、回転体504を180度反転させて装飾面504bを前面側に配置させて、第1演出LED61a?61cにより回転体504および発光部505を発光させるといった演出動作を行わせて、大当りに対する遊技者の期待感を高めること等が可能となる。
【0173】
また、昇降モータ96による昇降体502の昇降動作と、第1回動モータ95による回転体504の回転動作と、はそれぞれ別個に行われるようにすることが好ましい。例えば、昇降モータ96により昇降体502を駆動する場合、第1回動モータ95による回転体504の駆動を停止すれば、回動による抵抗が昇降モータ96にかかることがないので、昇降モータ96の負荷が軽減さfcれる。一方、第1回動モータ95により回転体504を駆動する場合、昇降モータ96による昇降体502の駆動を停止すれば、昇降による抵抗が第1回動モータ95にかかることがないので、第1回動モータ95の負荷が軽減される。」

(コ)「【0198】
また、モータとしてステッピングモータが採用されていることで、回転位置においてモータへの電力の供給が停止されると回動軸512の回動がフリーとなるが、磁力による吸引作用にて回転体504の不用意な回転や、ステップ数制御によるステップ角(回転角度)の誤差による位置ずれが防止される。特に、通常位置や回転位置において第1回動モータ95への電力の供給が停止されると、パチンコ遊技機1で遊技を行うことにより発生する遊技球と障害釘との衝突、各種装置の駆動、遊技者により加えられる衝撃等により回転体504が回転することが防止される。」

イ 認定事項
(ア)引用文献1には、【0155】に「・・・吸引手段の一例として・・・電磁石を適用してもよい。この場合、・・・回転体504が回転位置に位置しているときだけ電磁石に電力を供給すれば(電源on)、被吸着部材を吸引することができるため、回転体504を回転位置に位置決めできる。また、回転体504を回転させたり、通常位置に位置させる場合、電磁石に電力を供給しない(電源off)・・・すれば、被吸着部材に対する吸引作用が働かないため、回転体504に磁力による影響を与えずにスムーズに回転させることができる。」こと、すなわち、吸引手段として電磁石を用い、回転体504が回転位置に位置しているときだけ電磁石に電力を供給した場合、回転体504が通常位置に位置しているときには、吸引手段としての電磁石に電力が供給されないことが記載されている。

また、引用文献1には、【0198】に「・・・磁力による吸引作用にて回転体504の不用意な回転や、ステップ数制御によるステップ角(回転角度)の誤差による位置ずれが防止される。特に、通常位置や回転位置において第1回動モータ95への電力の供給が停止されると、パチンコ遊技機1で遊技を行うことにより発生する遊技球と障害釘との衝突、各種装置の駆動、遊技者により加えられる衝撃等により回転体504が回転することが防止される。」ことが記載されている。
そして、この記載は、回転体504が通常位置、回転位置のいずれに位置している場合においても、吸引手段としての電磁石に電力を供給し、吸引作用を働かせることをその前提とするものである。
そうすると、裏を返せば、【0198】には、回転体504が通常位置に位置している場合、吸引手段としての電磁石に電力を供給しなければ、「パチンコ遊技機1で遊技を行うことにより発生する遊技球と障害釘との衝突、各種装置の駆動、遊技者により加えられる衝撃等により回転体504が回転することが許容される」ことが記載されているといえる。

したがって、引用文献1には、「回転体504が通常位置に位置している場合、吸引手段としての電磁石に電力を供給せず、遊技を行うことにより発生する遊技球と障害釘との衝突、各種装置の駆動、遊技者により加えられる衝撃等により回転体504が回転することが許容されること」が示されているものと認められる。

上記アの記載事項、イの認定事項、および、図面の図示内容を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる(a?hは、本件補正発明のA?Hに対応させて当審合議体にて付した。)。
「a 遊技を行うことが可能な遊技機であって(【0001】)、
b ベース体501と、該ベース体501に対して上下方向に昇降可能に支持された昇降体502と、昇降体502のハート枠形状に形成された枠状部503a内に、上下方向を向く軸心周りに回動可能に支持された正面視ハート形状をなす中空立体形状の回転体504とから構成される第1演出装置500(【0107】)と、
c 昇降体502を昇降動作させる昇降モータ96の制御を行うとともに、昇降体502における回転体504を回転動作させる第1回動モータ95の制御を行う演出制御用マイクロコンピュータ(【0130】、【0138】、【0140】、【0149】)と、
主基板31(【0071】)と、
を備え、
昇降モータ96、および、第1回動モータ95の負荷の軽減のために、昇降モータ96による昇降体502の昇降動作と、第1回動モータ95による回転体504の回転動作と、はそれぞれ別個に行われるようにし(【0173】)、
d 電源投入後に初期化処理を実行し(【0062】)、
主基板31は、回転体504が通常位置(初期位置)に位置している状態で、検出位置に位置する検出用切欠部552を検出する第1回動センサ90と、昇降体502が上昇位置(初期位置)に位置している状態で、検出位置に位置する検出用切欠部538を検出する昇降センサ91からの検出信号が入力され、当該信号を基本回路に与える入力ドライバ回路58が搭載され(【0089】、【0116】、【0121】、【0132】?【0133】、【0144】)を備え、
e 演出制御用マイクロコンピュータは、演出表示装置9においてリーチが成立したときに、回転体504を360度回転させる演出動作を行わせたり、スーパーリーチに発展するときに、昇降体502を、上昇位置(初期位置)を基準とし、下降位置に下降させて停止するとともに、回転体504を180度反転させて装飾面504bを前面側に配置させて停止し、電磁石に電力を供給し、回転体504を回転位置に位置決めし、第1演出LED61a?61cにより回転体504および発光部505を発光させる演出動作を行わせて、大当りに対する遊技者の期待感を高めることを可能とし(【0138】、【0149】、【0155】、【0172】)、
f 回転体504が通常位置に位置している場合、吸引手段としての電磁石に電力を供給せず、遊技を行うことにより発生する遊技球と障害釘との衝突、各種装置の駆動、遊技者により加えられる衝撃等により回転体504が回転することが許容され(認定事項(ア))、
演出表示装置9においてリーチが成立したときに、回転体504を通常位置から、回転位置(初期位置)を通過して360度回転させる演出動作を行い、また、スーパーリーチに発展するときに、昇降体502を、上昇位置(初期位置)を基準とし、下降位置に下降させて停止するとともに、回転体504を、通常位置(初期位置)から180度反転させて装飾面504bを前面側に配置させて停止する演出動作を行う(【0138】、【0143】、【0149】、【0172】)
h 遊技機。」

(3)対比
本件補正発明と引用発明とを、分説に従い対比する。
(a、h)
引用発明における「遊技を行うことが可能な」こと、「遊技機」は、それぞれ、本件補正発明における「遊技を実行可能な」こと、「遊技機」に相当する。
したがって、引用発明における構成a、hは、本件補正発明における構成A、Hに相当する。

(b)
引用発明における「昇降体502」、「回転体504」は、それぞれ、本件補正発明における「第1の可動体」、「第2の可動体」に相当する。
そして、引用発明における「昇降体502」は、「ベース体501に対して上下方向に昇降可能に支持され」ることで動作が可能であり、また、「回転体504」は、「昇降体502の枠形状に形成された枠状部503a内に、上下方向を向く軸心周りに回動可能に支持され」ることで動作が可能であることは、本件補正発明における「各々が動作可能な」ことに相当する。
したがって、引用発明における構成bは、本件補正発明における構成Bに相当する。

(c)
引用発明において、「昇降体502」、「回転体504」は、構成eによると、「リーチが成立したとき」や、「スーパーリーチに発展するとき」に「演出動作を行」うものである。
ここで、引用発明における「リーチが成立したとき」や、「スーパーリーチに発展するとき」は、変動パターンとして、リーチを伴う変動パターン、スーパーリーチに発展する変動パターンが決定されたことに基づいて発生することから、本件補正発明における「演出条件の成立に基づ」くことに相当する。
そして、引用発明における「昇降体502を昇降動作させる」こと、および、「回転体504を回転動作させる」ことは、本件補正発明における「第1の可動体および第2の可動体を動作させる可動演出」に相当する。
また、引用発明における「演出制御用マイクロコンピュータ」は、本件補正発明における「演出制御手段」としての機能を有する。
したがって、引用発明における構成cは、本件補正発明における構成Cに相当する。

(d)
引用発明における「通常位置(初期位置)」および「上昇位置(初期位置)」は、本件補正発明における「可動体の原点位置」に相当する。
したがって、引用発明における「回転体504が通常位置(初期位置)に位置している状態で、検出位置に位置する検出用切欠部552を検出する第1回動センサ90と、昇降体502が上昇位置(初期位置)に位置している状態で、検出位置に位置する検出用切欠部538を検出する昇降センサ91からの検出信号が入力され、当該信号を基本回路に与える入力ドライバ回路58が搭載され」た「主基板31」と、本件補正発明における「第1の可動体および第2の可動体を動作させて第1の可動体および第2の可動体の原点位置を検出する原点検出処理を実行可能な原点検出制御手段」とは、「第1の可動体および第2の可動体の原点位置を検出する原点検出処理を実行可能な原点検出手段」である点で共通する。

(e)
引用発明における「上昇位置(初期位置)」、「下降位置」は、それぞれ、本件補正発明における「原点位置」、「移動位置」に相当することからみて、引用発明における「昇降体502を、上昇位置(初期位置)を基準とし、下降位置に下降させて停止するとともに、回転体504を、通常位置(初期位置)から180度反転させて装飾面504bを前面側に配置させて停止」する「演出動作」は、本件補正発明における「第1の可動体を原点位置から移動位置まで移動させるとともに第2の可動体を動作させるパターン」に相当する。
そして、引用発明における「回転体504を360度回転させる演出動作」は、昇降体502を昇降動作させずに、回転体504のみを回転動作させるものであるから、本件補正発明における「第1の可動体を移動させることなく第2の可動体のみを動作させるパターン」に相当する。

ここで、遊技機の技術分野において、「リーチ」を伴う演出動作よりも「スーパーリーチ」を伴う演出動作の方が、「大当りに対する遊技者の期待感」の高い演出であることは、当業者における技術常識である。
そうすると、引用発明において、「リーチが成立したとき」に行われる演出動作よりも、リーチ成立後に「スーパーリーチに発展するとき」に行われる演出動作の方が、「大当りに対する遊技者の期待感」の高い演出であると認められる。
そして、引用発明において、「スーパーリーチに発展する」のは、「リーチが成立」したときのうちの一部の場合であるから、「スーパーリーチに発展する」割合は、「リーチが成立」する割合よりも低いものとなる。
また、引用発明の可動体を用いた演出には、「リーチが成立したとき」に行われる「演出動作」と「スーパーリーチに発展するとき」に行われる演出動作との二つの動作を有するものである。
そうすると、引用発明において、大当り期待感の高い「スーパーリーチ」演出動作は、大当り期待感の低い「リーチ」演出動作よりも低い割合で実行されるものである。
したがって、引用発明における「演出表示装置9においてリーチが成立したときに、回転体504を360度回転させる演出動作を行わせ」ことと、「スーパーリーチに発展するときに、昇降体502を、上昇位置(初期位置)を基準とし、下降位置に下降させて停止するとともに、回転体504を、通常位置(初期位置)から180度反転させて装飾面504bを前面側に配置させて停止し、第1演出LED61a?61cにより回転体504および発光部505を発光させる演出動作を行わせ」ることとは、本件補正発明における「遊技者にとって有利な有利状態に制御されるか否かに応じて異なる割合でいずれかのパターンの可動演出を実行可能であ」るとの要件を満たすものである。

(f)
(f1)本件補正発明の「第2の可動体が動作しなくとも、第1の可動体が原点位置から移動位置に移動することにより遊技者から見た第2の可動体の位置が変化」すること(以下「本件補正発明の構成F1」という。)について
引用発明における「回転体504」が、「昇降体502に回動可能に支持され」ることは、「回転体504」が「回動」動作するか否かに関わらず、「昇降体502」の「昇降動作」(構成c)に連動して、「回転体504」が、昇降することであるから、本件補正発明における構成F1に相当する。

(f2)本件補正発明の「第1の可動体を移動位置から原点位置へ移動させたときに原点位置に位置する第2の可動体が原点位置からずれる場合があ」ること(以下「本件補正発明の構成F2」という。)について
まず、本件補正発明の構成F2とは、平成31年4月15日に提出された審判請求書において、請求人は、当該補正の根拠が、本願明細書の【0383】の「上記実施の形態では、第2役物としての回転体430が、第1役物である上部機構部470とともに左右方向に移動可能、すなわち、第1役物と一体的に動作する例を示しているが、これは一例である。第1役物と第2役物は、モータからの動力を受けて伸縮動作するパンタグラフタイプの役物と遊技の際に装飾体を進退させたり発光させたりするロゴタイプの役物、といったように、それぞれ独立して動作するものであってもよい。この場合、特定演出においてはそれぞれの役物が同時に動作し、役物初期位置検出動作処理においては、パンタグラフタイプの役物を先に動作させ、その後ロゴタイプの役物を動作させればよい。なお、役物初期位置検出動作処理においては、重量が大きく、動作した場合の運動エネルギーが大きく(または動作が大きいなど)なる方を、先に動作させる方が望ましい。後に動作させる方の動作が大きいと、先に動作させ初期位置を検出したにも関わらず(待機位置に位置しているにも関わらず)、振動等による影響により位置がずれてしまうおそれがあるためである。」(下線は、当審判合議体が付した。)との記載に基づくものであると主張する。
そうすると、本件補正発明の構成F2は、「第2の可動体」が「原点位置に位置する」間に、「第1の可動体を移動位置から原点位置へ移動させたとき」に生じる振動等による影響により、「原点位置に位置する第2の可動体が原点位置からずれる場合があ」ることを意味すると解することができる。

そして、引用発明における「回転体504が通常位置に位置している場合」、「各種装置の駆動」「により加えられる衝撃等により回転体504が回転することが許容され」ることは、本件補正発明の「第1の可動体を移動位置から原点位置へ移動させたときに原点位置に位置する第2の可動体が原点位置からずれる場合があ」ることとは、「原点位置に位置する第2の可動体が原点位置からずれる場合があ」ることで共通する。

したがって、引用発明における「回転体504が通常位置に位置している場合、吸引手段としての電磁石に電力を供給せず、遊技を行うことにより発生する遊技球と障害釘との衝突、各種装置の駆動、遊技者により加えられる衝撃等により回転体504が回転することが許容され」ることと、本件補正発明における構成F2「第1の可動体を移動位置から原点位置へ移動させたときに原点位置に位置する第2の可動体が原点位置からずれる場合があ」ることとは、「原点位置に位置する第2の可動体が原点位置からずれる場合があ」ることで共通する。

(f3)本件補正発明の「いずれのパターンの可動演出により第2の可動体が動作した場合であっても、該第2の可動体が原点位置に位置する場合に視認困難である該第2の可動体の装飾部が視認可能とな」ること(以下「本件補正発明の構成F3」という。)について
引用発明における「回転体504を」「360度回転させる演出動作」は、回転の途中で「回転位置を通過」させることから、「回転位置を通過」する際に、「回転体504」の「装飾面504b」が「前面側に配置」されることとなり、遊技者が、「回転体504」の「装飾面504b」を目視可能となるものである。
また、引用発明における「昇降体502を下降位置に下降させて停止するとともに、回転体504を、通常位置(初期位置)から180度反転させて装飾面504bを前面側に配置させて停止する演出動作」は、「回転体504」の「装飾面504b」が「前面側に配置させて停止」されることから、遊技者が、「回転体504」の「装飾面504b」を目視可能となるものである。
したがって、引用発明において、「回転体504を」「360度回転させる演出動作」と、「昇降体502を下降位置に下降させて停止するとともに、回転体504を、通常位置(初期位置)から180度反転させて装飾面504bを前面側に配置させて停止する演出動作」とのいずれの場合であっても、遊技者が「回転体504」の「装飾面504b」を目視可能となるものである。
よって、引用発明における「演出表示装置9においてリーチが成立したときに、回転体504を通常位置(初期位置)から、回転位置を通過して360度回転させる演出動作」と、「スーパーリーチに発展するときに、昇降体502を、上昇位置(初期位置)を基準とし、下降位置に下降させて停止するとともに、回転体504を、通常位置(初期位置)から180度反転させて装飾面504bを前面側に配置させて停止する演出動作」とは、本件補正発明における構成F3の要件を満たすものである。

(f4)本件補正発明の「第1の可動体を原点位置から移動位置まで移動させるとともに第2の可動体を動作させるパターンは、第1の可動体が移動位置まで移動したときに、第2の可動体が原点位置に位置する場合に視認困難である該第2の可動体の装飾部が視認可能で、原点位置に戻るときにも装飾部が視認可能であ」ること(以下「本件補正発明の構成F4」という。)について
上記(e)より、引用発明における「昇降体502を、上昇位置(初期位置)を基準とし、下降位置に下降させて停止するとともに、回転体504を、通常位置(初期位置)から180度反転させて装飾面504bを前面側に配置させて停止する演出動作」は、本件補正発明における「第1の可動体を原点位置から移動位置まで移動させるとともに第2の可動体を動作させるパターン」に相当する。

そして、引用発明において、「回転体504」は、「昇降体502」が「下降位置に下降させて停止する」ときに、「通常位置(初期位置)から180度反転させて装飾面504bを前面側に配置させて停止する」ものであるから、反転する前の状態である「昇降体502」が「上昇位置(初期位置)」に位置する場合には、「装飾面504b」は、「回転体504」の裏側に位置することとなり、遊技者から視認困難である。
そうすると、引用発明における「スーパーリーチに発展するときに、昇降体502を、上昇位置(初期位置)を基準とし、下降位置に下降させて停止するとともに、回転体504を、通常位置(初期位置)から180度反転させて装飾面504bを前面側に配置させて停止する演出動作」と、本件補正発明における「第1の可動体が移動位置まで移動したときに、第2の可動体が原点位置に位置する場合に視認困難である該第2の可動体の装飾部が視認可能で、原点位置に戻るときにも装飾部が視認可能であ」ることとは、「第1の可動体が移動位置まで移動したときに、第2の可動体が原点位置に位置する場合に視認困難である該第2の可動体の装飾部が視認可能で」あることで共通する。

したがって、引用発明における「スーパーリーチに発展するときに、昇降体502を、上昇位置(初期位置)を基準とし、下降位置に下降させて停止するとともに、回転体504を、通常位置(初期位置)から180度反転させて装飾面504bを前面側に配置させて停止する演出動作を行う」ことと、本件補正発明における構成F4とは、「第1の可動体を原点位置から移動位置まで移動させるとともに第2の可動体を動作させるパターンは、第1の可動体が移動位置まで移動したときに、第2の可動体が原点位置に位置する場合に視認困難である該第2の可動体の装飾部が視認可能で」あることで共通する。

(f5)
上記(f1)?(f4)より、引用発明の構成fと本件補正発明の構成Fとは、「第2の可動体が動作しなくとも、第1の可動体が原点位置から移動位置に移動することにより遊技者から見た第2の可動体の位置が変化し、原点位置に位置する第2の可動体が原点位置からずれる場合があり、いずれのパターンの可動演出により第2の可動体が動作した場合であっても、該第2の可動体が原点位置に位置する場合に視認困難である該第2の可動体の装飾部が視認可能となり、第1の可動体を原点位置から移動位置まで移動させるとともに第2の可動体を動作させるパターンは、第1の可動体が移動位置まで移動したときに、第2の可動体が原点位置に位置する場合に視認困難である該第2の可動体の装飾部が視認可能で」あることで共通する。

上記(a)?(f)によれば、本件補正発明と引用発明は、
「A 遊技を実行可能な遊技機であって、
B 各々が動作可能な第1の可動体および第2の可動体と、
C 演出条件の成立に基づいて、前記第1の可動体および前記第2の可動体を動作させる可動演出を実行可能な演出制御手段と、
D’前記第1の可動体および前記第2の可動体の原点位置を検出する原点検出処理を実行可能な原点検出手段と、を備え、
E 前記演出制御手段は、前記第1の可動体を原点位置から移動位置まで移動させるとともに前記第2の可動体を動作させるパターンと、前記第1の可動体を移動させることなく前記第2の可動体のみを動作させるパターンと、があり、遊技者にとって有利な有利状態に制御されるか否かに応じて異なる割合でいずれかのパターンの前記可動演出を実行可能であり、
F’前記第2の可動体が動作しなくとも、前記第1の可動体が原点位置から移動位置に移動することにより遊技者から見た前記第2の可動体の位置が変化し、原点位置に位置する前記第2の可動体が原点位置からずれる場合があり、いずれのパターンの前記可動演出により前記第2の可動体が動作した場合であっても、該第2の可動体が原点位置に位置する場合に視認困難である該第2の可動体の装飾部が視認可能となり、前記第1の可動体を原点位置から移動位置まで移動させるとともに前記第2の可動体を動作させるパターンは、前記第1の可動体が移動位置まで移動したときに、前記第2の可動体が原点位置に位置する場合に視認困難である該第2の可動体の装飾部が視認可能である、
H 遊技機。」の点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1](構成D)
第1の可動体および前記第2の可動体の原点位置を検出する原点検出処理を実行可能な原点検出手段に関し、
本件補正発明は、検出条件の成立に基づいて、前記第1の可動体および前記第2の可動体を動作させて前記第1の可動体および前記第2の可動体の原点位置を検出する原点検出処理を実行可能な原点検出制御手段であるのに対して、
引用発明は、電源投入後に初期化処理を実行し、第1演出装置500に設けられる、初期位置(基準位置)に位置する検出用切欠部552を検出する第1回動センサ90と、初期位置(基準位置)に位置する検出用切欠部538を昇降体502検出する昇降センサ91からの検出信号が与えられる主基板31を備えるが、本件補正発明のように、検出条件の成立に基づいて原点検出処理を実行可能な原点検出制御手段を備えるか否か明らかでない点。

[相違点2](構成F)
第1の可動体を原点位置から移動位置まで移動させるとともに、第2の可動体の位置を変化させ、かつ、動作させ、第2の可動体が原点位置に位置する場合に視認困難である該第2の可動体の装飾部が視認可能とするパターンに関して、
本件補正発明は、第1の可動体を移動位置から原点位置へ移動させたときに原点位置に位置する第2の可動体が原点位置からずれる場合があり、第2の可動体が原点位置に戻るときにも装飾部が視認可能であるのに対して、
引用発明は、昇降体502を下降位置から上昇位置に戻すときに、回転体504を回転位置に位置決めするための電磁石に電力を供給しているか否か不明であるとともに、装飾面504bが前面側に配置されているか否か不明である点。

[相違点3](構成G)
本件補正発明は、原点検出制御手段が、原点検出処理の実行時に、第1の可動体を動作させて原点位置を検出してから第1の可動体の動作を停止させた状態で第2の可動体を動作させて原点位置を検出するのに対して、引用発明は、そのような構成を備えない点。

(4)当審判合議体の判断
ア 相違点1、3について
相違点1、3は、原点検出制御手段についての互いに関連する特定事項であるのでまとめて検討する。

遊技機の技術分野において、可動演出を実行する複数の可動体について、可動体の破損等の防止のために、電源投入時等の検出条件の成立時に、各可動体の原点位置を確認する原点位置確認処理を実行する場合、各々の可動体について、所定の順番で、一方の可動体を動作させ、原点位置を検出してから当該可動体を停止させた状態で、他方の可動体を動作させて原点位置を検出する、原点検出処理を実行可能な原点検出制御手段を備えることは、本願出願前に周知の技術事項である(例えば、
令和1年12月27日付けの当審合議体で通知した拒絶理由において提示された特開2012-34975号公報の【0074】、【図12】?【図13】、【図17】?【図18】には、「3種類の役物がいずれも初期位置にない場合(S600:yes)は、剣役物初期位置移動処理(S605)を行い、続いてタイトル役物初期位置移動処理(S610)を行い、最後に盾役物初期位置移動処理(S615)を行」うことが記載され、
同じく、令和1年12月27日付けの当審合議体で通知した拒絶理由において提示された特開2013-236681号公報の【0096】、【0150】、?【0154】、【0163】、【0168】、【図11】には、電源投入時に行われる初期設定処理において、原点位置にない可動体について、可動体B、可動体Aの順に可動体動作確認処理を行い、可動体B、Aを原点位置に復帰させることが記載されている。以下「周知の技術事項1」という。)。
そして、引用発明は、構成dによれば、「電源投入後」という条件の成立に基づいて、「初期化処理」を行うものであるから、引用発明と上記周知の技術事項1とは、「検出条件の成立に基づいて」所定処理を行う点で共通する。
また、引用発明は、構成fによれば、「回転体504を、通常位置(初期位置)」を基準として動作させ、「昇降体502を、上昇位置(初期位置)を基準とし」て動作させることから、「回転体504」と「昇降体502」が基準位置に位置しないことに伴う不都合を防止するという自明の課題を内在するものである。
ここで、引用発明は、構成cによれば、「昇降モータ96、および、第1回動モータ95の負荷の軽減のために、昇降モータ96による昇降体502の昇降動作と、第1回動モータ95による回転体504の回転動作とを、それぞれ別個に行われるように」するものである。
よって、引用発明において、「電源投入後に初期化処理を実行する」際に、上記周知の技術事項1の原点検出制御手段を適用するとともに、上記構成cに倣って、「第1回動モータ95による回転体504の回転動作とを、それぞれ別個に行」うべく、「昇降センサ91」と「第1回動センサ90」とを用いて、「昇降体502」と「回転体504」とが、それぞれ、「上昇位置(初期位置)」、「通常位置(初期位置)」に「位置している状態」である否かを検出し、初期位置に位置しない場合、まず、一方の可動体を動作させて初期位置を検出し、その後、当該可動体を停止させた状態で他方の可動体を動作させて初期位置を検出することで、上記相違点1、3に係る本願発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たものである。

イ 相違点2について
引用発明は、構成e、fによると、「昇降体502を」「下降位置に下降させて停止するとともに、回転体504を、通常位置(初期位置)から180度反転させて装飾面504bを前面側に配置させて停止」し、その際に、「電磁石に電力を供給し、回転体504を回転位置に位置決めし、第1演出LED61a?61cにより回転体504および発光部505を発光させる演出動作を行」うことで、演出効果を高めるものである。
ここで、引用発明において、「電磁石に電力を供給し、回転体504を回転位置に位置決め」するのは、「昇降体502を」「下降位置に下降させて停止」させた状態で、「回転体504」の「装飾面504bを前面側に配置させて停止」させるとともに、「回転体504および発光部505を発光させる演出動作を行」うためである。
そうすると、引用発明において、「回転体504および発光部505を発光させる演出動作を行」う必要のない、「回転体504を回転位置に位置決め」する必要性の低い、「昇降体502を」、「下降位置に下降させて停止」させた状態でない場合に、電磁石に電力を供給しないことは、当業者が適宜なし得たものである。

また、引用発明は、構成fによると、「回転体504が通常位置に位置している場合」に、「吸引手段としての電磁石に電力を供給せず、遊技を行うことにより発生する遊技球と障害釘との衝突、各種装置の駆動、遊技者により加えられる衝撃等により回転体504が回転することが許容され」されるものである。

そして、遊技機の技術分野において、大当り信頼度を示すために、可動体を用いた演出を行う際に、演出位置における可動体の前面に位置する装飾面を、そのまま前面に配置した状態で、可動体を原点位置まで移動させることは、本願出願前に周知の技術事項である(例えば、
特開2013-236802号公報の【0032】、【0067】、【0083】、【図5】?【図6】、【図10】?【図11】には、役物本体510が、画像表示装置28の表示2の前側で、表示面の略中央まで下降し、例えば、期待度が「80%」である場合、装飾体511Dを前面に停止表示し、その状態のまま、役物本体510を可動範囲の上端位置まで上昇させることが示され、
特開2013-180087号公報の【0422】?【0424】、【図49】には、演出可動部材は、大当りの信頼度(期待度)の異なる「激熱」、「好機」、「勝負」といった演出用の飾り文字が付された、いずれの面を合体保留表示部102の前方向を向くように位置させ、そのままの状態で、変動表示装置35の表示部35aの前方の所定方向に移動させ、その後、戻すことが示されている。以下「周知の技術事項2」という。)。
ここで、引用発明と上記周知の技術事項2とは、大当り期待度を示唆する演出であるという共通の機能を有するものである。

これらのことからみて、引用発明において、昇降体502を下降位置から上昇位置に戻すときに、回転体504を回転位置に位置決めするための電磁石に電力を供給しない状態とし、「遊技を行うことにより発生する遊技球と障害釘との衝突、各種装置の駆動、遊技者により加えられる衝撃等により回転体504が回転することが許容され」された状態とすることは当業者が容易になし得たものであり、その際に、上記周知の技術事項2を適用して、昇降体502の下降位置において「装飾面504b」を前面側に配置された状態で、昇降体502を上昇位置(初期位置)に戻す動作を採用し、上記相違点2に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たものである。

ウ 小括
本件補正発明により奏される効果は、引用発明および上記周知の技術事項1?2に基づいて当業者が予測できる効果の範囲内のものである。
よって、本件補正発明は、引用発明、および、上記周知の技術事項1?2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際に独立して特許を受けることができないものである。

(5)請求人の主張について
令和2年2月14日付け意見書において、請求人は次の主張をする。
「引用文献1には、本願発明における「いずれのパターンの前記可動演出により前記第2の可動体が動作した場合であっても、該第2の可動体が原点位置に位置する場合に視認困難である該第2の可動体の装飾部が視認可能とな」ることの開示はなく、また、「原点位置に戻るときにも装飾部が視認可能」であることの開示もありません。」(3.3-1.(2)本願発明と引用発明との対比)

そこで、請求人の上記主張について検討する。
請求人の主張のうち、前半の主張は、本件補正発明の構成Fのうちの構成F3に対応する構成が、引用文献1に開示がないというものである。
しかしながら、上記(3)(f)(f3)において検討したように、本件補正発明の構成F3は、引用発明における構成fが備える構成である。
また、請求人の主張のうち、後半の主張は、本件補正発明の構成Fのうちの構成F4に対応する構成が、引用文献1に開示がないというものである。
しかしながら、この点については、引用発明と本件補正発明の相違点2として抽出し、上記(4)イ 相違点2についてにおいて検討したように、引用発明に上記周知の技術事項2を適用することにより当業者が容易になし得たものである。
よって、請求人の上記主張を採用することはできない。

(6)まとめ
上記(1)?(5)より、本件補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際に独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、同法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たさないものであり、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されることとなったので、令和1年11月12日付け手続補正書の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものと認める。
「A 遊技を実行可能な遊技機であって、
B 各々が動作可能な第1の可動体および第2の可動体と、
C 演出条件の成立に基づいて、前記第1の可動体および前記第2の可動体を動作させる可動演出を実行可能な演出制御手段と、
D 検出条件の成立に基づいて、前記第1の可動体および前記第2の可動体を動作させて前記第1の可動体および前記第2の可動体の原点位置を検出する原点検出処理を実行可能な原点検出制御手段と、を備え、
E 前記演出制御手段は、前記第1の可動体を原点位置から移動位置まで移動させるとともに前記第2の可動体を動作させるパターンと、前記第1の可動体を移動させることなく前記第2の可動体のみを動作させるパターンと、があり、遊技者にとって有利な有利状態に制御されるか否かに応じて異なる割合でいずれかのパターンの前記可動演出を実行可能であり、
F 前記第2の可動体が動作しなくとも、前記第1の可動体が原点位置から移動位置に移動することにより遊技者から見た前記第2の可動体の位置が変化し、前記第1の可動体を移動位置から原点位置へ移動させたときに原点位置に位置する前記第2の可動体が原点位置からずれる場合があり、前記第2の可動体が動作すると、該第2の可動体が原点位置に位置する場合に視認困難である該第2の可動体の装飾部が視認可能となり、
G 前記原点検出制御手段は、前記原点検出処理の実行時に、前記第1の可動体を動作させて原点位置を検出してから前記第1の可動体の動作を停止させた状態で前記第2の可動体を動作させて原点位置を検出する、
H ことを特徴とする遊技機。」

2 拒絶の理由の概要
当審による令和1年12月27日付け拒絶理由は、概略、次のとおりのものである。

1(進歩性)
本願発明は、その出願前に日本国内において、頒布された引用文献1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


1 特開2012-24493号公報(引用発明)

3 引用文献1に記載された事項
当審による令和1年12月27日付け拒絶の理由に引用された引用文献1(前記「第2[理由]2 2-2(2)」の「引用文献1」に対応する。)の記載事項および引用発明の認定については、前記「第2[理由]2 2-2(2)」に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、前記第2の「2-2 独立特許要件」で検討した本件補正発明の「第2の可動体の装飾部」に関して、「いずれのパターンの前記可動演出により前記第2の可動体が動作した場合であっても、該第2の可動体が原点位置に位置する場合に視認困難である該第2の可動体の装飾部が視認可能となり、」とあったものを、「前記第2の可動体が動作すると、該第2の可動体が原点位置に位置する場合に視認困難である該第2の可動体の装飾部が視認可能となり、」と、その限定事項を省くとともに、
「前記第1の可動体を原点位置から移動位置まで移動させるとともに前記第2の可動体を動作させるパターンは、前記第1の可動体が移動位置まで移動したときに、前記第2の可動体が原点位置に位置する場合に視認困難である該第2の可動体の装飾部が視認可能で、原点位置に戻るときにも前記装飾部が視認可能であり、」との限定を省くものである。
したがって、本願発明と引用発明とは、本件補正発明と引用発明とについて、前記「第2[理由]2 2-2(3)対比」において検討したのと同様に、構成D、Gに関して、相違点1、3で相違し、その余の点において一致する。
したがって、前記「第2[理由]2 2-2(4)ア 相違点1、3について」において検討したと同様にして、本願発明は、引用発明に上記周知の技術事項1を適用することにより、当業者が容易になし得たものである。
よって、本願発明は、引用発明、および、上記周知の技術事項1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 むすび
上記1?4より、本願発明は、特許法第29条第2項の規定に基づいて特許を受けることができないものである。
したがって、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-06-16 
結審通知日 2020-06-23 
審決日 2020-07-08 
出願番号 特願2014-89634(P2014-89634)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A63F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 遠藤 孝徳  
特許庁審判長 伊藤 昌哉
特許庁審判官 瀬津 太朗
長崎 洋一
発明の名称 遊技機  
代理人 木村 満  

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