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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1365685
審判番号 不服2019-7378  
総通号数 250 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-06-04 
確定日 2020-08-27 
事件の表示 特願2014-242270「接続体、及び接続体の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 3月 3日出願公開、特開2016- 29698〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成26年11月28日(優先権主張 平成26年7月22日)の出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年11月 1日付け:拒絶理由通知書(起案日)
平成30年12月26日 :意見書,手続補正書の提出
平成31年 2月 6日付け:拒絶査定(起案日)(以下「原査定」という。)
令和 元年 6月 4日 :審判請求書,手続補正書の提出

第2 令和元年6月4日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和元年6月4日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により,特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおり補正された。(下線部は,補正箇所である。)
「複数の端子が配列された端子列が上記端子の配列方向と直交する幅方向に複数並列された回路基板と,
上記複数の端子列に応じて,複数のバンプが配列されたバンプ列が上記バンプの配列方向と直交する幅方向に複数並列された電子部品とを備え,
導電性粒子が配列された異方性導電接着剤を介して上記回路基板上に上記電子部品が接続された接続体において,
上記回路基板に対する上記電子部品の搭載方向において,上記回路基板及び上記電子部品の各外側に配列された相対向する端子とバンプの距離が,上記回路基板及び上記電子部品の各内側に配列された相対向する端子とバンプの距離よりも大きく,上記回路基板及び上記電子部品の各内側に配列された相対向する端子とバンプの距離の130%以内である接続体。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の,平成30年12月26日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「複数の端子が配列された端子列が上記端子の配列方向と直交する幅方向に複数並列された回路基板と,
上記複数の端子列に応じて,複数のバンプが配列されたバンプ列が上記バンプの配列方向と直交する幅方向に複数並列された電子部品とを備え,
導電性粒子が配列された異方性導電接着剤を介して上記回路基板上に上記電子部品が接続された接続体において,
上記回路基板及び上記電子部品の各外側に配列された相対向する端子とバンプの距離が,上記回路基板及び上記電子部品の各内側に配列された相対向する端子とバンプの距離よりも大きく,上記回路基板及び上記電子部品の各内側に配列された相対向する端子とバンプの距離の130%以内である接続体。」

2 補正の適否
本件補正は,本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である端子とバンプの距離について,回路基板に対する電子部品の搭載方向における距離であるという限定を付加するものであって,補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから,特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について,以下,検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は,上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である,特開2003-303852号公報(平成15年10月24日出願公開。以下「引用文献1」という。)には,図面とともに,次の記載がある。(下線は当審で付加した。以下同じ。)
「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は,半導体チップの実装構造,配線基板,電気光学装置及び電子機器に関する。
【0002】
【従来の技術】電気光学装置の一例である液晶装置では,例えば,一方の透明基板に形成した複数のストライプ状のコモン電極と他方の透明基板に形成した複数のストライプ状のセグメント電極とを互いに交差させることによってドットマトリクス状の複数の画素が形成されている。両基板間には液晶が封入されており,コモン電極及びセグメント電極それぞれに対して駆動用ICからアドレス信号(線順次走査信号),表示信号といった駆動信号が出力され,各画素に印加する電圧を選択的に変化させることによって,各画素の液晶を透過する光を変調し,これにより文字などの像を表示する。
【0003】一方,電気光学装置には,電気光学装置の駆動用ICや配線基板といった外部回路との間の接続部分を確保するため,一方の基板の端部には,コモン電極及びセグメント電極に対して配線を介して電気的に接続する接続端子が形成されている。接続端子と外部回路とはACF(異方性導電膜)に散在された導電粒子を介して電気的に接続される。この接続方法としては熱圧着法が用いられている。
【0004】近年,液晶装置において表示部の高精細化が要望されている。液晶装置において表示画面を高精細化する有効な手段としては,駆動用IC1個当たりの出力数を増やすこと,すなわち,各ICに形成されるバンプの数を増やせばよいことが考えられ,そのためにはバンプ間のピッチを細かくすることが求められる。
【発明が解決しようとする課題】しかし,このようなバンプ間のピッチの狭小化に伴い,ピッチ間に不純物が混入した場合,接合部がずれを生じた場合,異方性導電膜中の導電粒子の混合量を増やした場合,さらに熱圧着する際に異方性導電膜が熱によって軟化して流出し隣接するバンプ間または隣接する端子間を通って流れ導電粒子が隣接するバンプ間または隣接する端子間に滞留した場合等により,隣接するバンプ間または隣接する端子間に電気的短絡を生じるという問題がある。」

「【0008】本発明の半導体チップの実装構造は,一辺に沿って直線状に配列された入力バンプ電極と,前記一辺と対向する他辺とほぼ直交する方向に少なくとも2以上の出力バンプ電極を有し前記他辺に沿って千鳥状に配列された出力バンプ電極群とを表面上に有する半導体チップと,前記半導体チップと対向して設けられ,前記入力バンプ電極及び前記出力バンプ電極に対応して設けられた端子電極を表面上に有する基板と,前記基板と前記半導体チップとの間に設けられ,内部に散在する導電性を有する粒子によって前記出力バンプ電極及び前記入力バンプ電極と前記端子電極とを電気的に接続する異方性導電膜とを具備することを特徴とする。
【0009】このような構成によれば,千鳥状に配列されているので,各出力バンプ電極間の距離が確保され,さらに少なくとも2以上の出力バンプ電極からなる出力バンプ群によって形成されているので,この出力バンプ電極群と端子電極とが一つの場合と比較してより多数の点で確実に接続されることとなる。これにより,距離が確保されることによって,不純物及び異方性導電膜中の導電粒子が挟まることがないので,出力バンプ電極間の電気的短絡を防止することができる。また,複数の出力バンプ電極と接続することにより,接続の信頼性も確保されることとなる。」

「【0056】入力電極71は,駆動用IC(半導体チップ)7の辺7bに沿ってほぼ直線状に一列に配置されている。各入力電極71の間隔は均等に,又,十分に確保されており,導電粒子40が滞留することはない。この入力電極71と電気的に接続する接続端子9との位置関係を示すため,接続端子9が重なる領域を破線で示した。各接続端子9の能動面7a上に重なる部分の長さは互いにほぼ均一になっている。
【0057】一方,出力電極73は,駆動用IC(半導体チップ)7の辺7cに沿って千鳥状に配列されている。この出力電極73と電気的に接続する接続端子94との位置関係を示すため,接続端子94が重なる領域を破線で示した。各出力電極73と接続される接続端子94は,駆動用IC(半導体チップ)7の能動面7a上に重なる部分の長さが異なる2種の端子94a,94bが交互に配列され,それぞれの出力電極73を確実にカバーするようになっている。図5に示すように導電粒子40の径がほぼ4μmであるのに対して,各出力電極73間の距離は少なくとも14μm以上は確保されている。この導電粒子40の含有密度を低くすることや,導電粒子40の径自体を小さくすることも考えられるが,各電極71,73と接続端子9,94との接続が不十分となるため,接続の信頼性が確保されない。このため,各出力電極73間の距離を14μm以上と調整することで導電粒子40が滞留しないようにしたものである。」

「【0060】まず,図6(a)に示すように,第1の透明基板20のIC実装領域70に相当する領域を覆うように所定の大きさのACFを残した後,圧着ヘッドTを用いて駆動用IC(半導体チップ)7を第1の透明基板20に向けて熱圧着する。次に,図6(b)に示すようにACFの樹脂分が溶融する。さらに,図6(c)に示すように,駆動用IC(半導体チップ)7の出力電極73は異方性導電膜に含まれている導電粒子40を介して第1の透明基板20の接続端子94に電気的に接続することになる。」

「【0063】本実施形態の液晶装置1は,出力電極73を千鳥状に配列させることによって,各出力電極73間の距離が確保される。この各出力電極73間の距離によって,異方性導電膜中の導電粒子40が直線的に出力電極間を通過できるスペースを確保することができる。つまり,異方性導電膜を熱圧着すると,異方性導電膜が熱により軟化し能動面7aの外側に流出するのと同時に,導電粒子40は,例えば図4の矢印の方向に,直線的に出力電極73間を容易に通過することができる。つまり,異方性導電膜の導電粒子40は,出力電極73間のスペースを円滑に流出することができる。これにより,出力電極73間に異方性導電膜中の導電粒子40が滞留しないので電気的短絡を防止することができる。」

「【図4】



(イ)上記記載から,引用文献1には,次の技術的事項が記載されているものと認められる。
a 引用文献1に記載された技術は,基板の接続端子と駆動用ICとが異方性導電膜に散在された導電粒子を介して接続された実装構造に関するものであり,隣接するバンプ間または隣接する端子間の電気的短絡の防止を課題としたものである(【0002】?【0004】)。

b 駆動用IC7には,辺7bに沿って入力電極71が直線上に一列配置され,辺7cに沿って出力電極73が千鳥状に配列され,入力電極71と出力電極73の間には電極が形成されていない領域を有する(【0056】,【0057】,図4)。

c 第1の透明基板20には,駆動用IC7の入力電極71と接続する接続端子9が形成され,駆動用ICの出力電極73と接続する接続端子94が形成されており,接続端子94は,駆動用IC7の能動面7a上に重なる部分の長さが異なる2種の端子94a,94bが交互に配列されたものである(【0056】,【0057】,【0060】,【図4】)。

d 第1の透明基板20のIC実装領域に異方性導電膜を配置し,圧着ヘッドTを用いて駆動用IC7を熱圧着する(【0060】)。

e 出力電極73を千鳥状に配列させることによって各出力電極73間の距離が確保されるので,異方性導電膜が熱により軟化し能動面7aの外側に流出するのと同時に,導電粒子40は,直線的に出力電極73間を容易に通過することができる。これにより,出力電極73間に異方性導電膜中の導電粒子40が滞留しないので電気的短絡を防止することができる(【0063】)。

(ウ)上記(ア),(イ)から,引用文献1には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「駆動用IC7の能動面7a上に重なる部分の長さが異なる2種の端子94a,94bが交互に配列されたものである複数の接続端子94が形成された第1の透明基板20と,
複数の出力電極73が千鳥状に配列された駆動用IC7とを備え,
導電性粒子40が散在された異方性導電膜を介して第1の透明基板20上に駆動用IC7が接続された実装構造。」

イ 引用文献2
(ア)同じく原査定に引用され,本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2005-216611号公報(以下「引用文献2」という。)には,次の記載がある。
「【0001】本発明は,微細な回路同士の電気的接続,例えば,液晶ディスプレイ(LCD)とフレキシブル回路基板の接続や,半導体ICとIC搭載用基板のマイクロ接合等に用いることのできる異方導電フィルムの製造方法に関するものである。」

「【0006】近年の回路接続ピッチは微細化が進み,従来の異方導電フィルムでは横導通の問題が生じてきた。図1に示したように,絶縁性接着剤3中に導電粒子2を分散させている場合,異方導電フィルムが圧着されると,絶縁性接着剤の中ほどに位置する導電粒子は端子外に流出しやすく,その結果,隣接端子間に高密度に導電粒子が存在することになり,端子間の絶縁性が不充分になったり,リークやショートを発生する等,絶縁性の保持に問題が生じる。
横導通を防止するためには異方導電フィルム中の導電粒子の混入率を低下させることが考えられるが,導電粒子の混入率を低下させると,導電粒子と端子との接続面積が落ちるので,接続抵抗が高くなるという問題があった。
【0007】また,製品品質上の問題のほか,一般的に導電粒子は1グラム当たり数千円と非常に高価であり,その多くが本来目的とする端子間の接続に使用されないことは,生産コストの増加に繋がっていた。
【0008】そのため,導電粒子を規則的に配列させる方式が検討されており,例えば,NEDOのベンチャー企業支援型地域コンソーシアム研究開発(中小企業創造基盤型)ファインピッチ対応異方性導電材の研究開発として,圧着温度で溶融しない樹脂フィルムに孔を開けて,そこに導電粒子を埋め込んだ後,上下を溶融する樹脂で挟み込む方式が提案されている。この方式では,導電粒子を規則的に配列するための格子孔はフォトリソグラフィーとレーザの2つの技術が利用されている。しかし,このような方式では,規則的な孔を開けるための特別なメタルマスクの作製やレーザ照射装置が必要であり,微細なものが得られる反面,製造装置が高価であるという問題があった。」

「【0012】本発明の製造方法によれば,導電粒子が規則的に配列している異方導電フィルムを得ることができるので,微細な回路同士の接続,微小部分と微細な回路の接続等であっても,接続信頼性と絶縁性とに優れた端子接続が可能となり,高価な導電性粒子を規則的に配列するために,導電粒子同士の接続による横導通を防止でき,少ない導電粒子で効率よく端子間を導通できるため,安価なコストで製造することができる。
【0013】本発明の製造方法の一例を,図2?図3に基づき説明する。基材19上に導電粒子17を規則的に配置するために,その胴体部に所望の配置パターンとなるような孔12を有する円筒11の内部に導電粒子17を含むペースト14を,ポンプ15を介してノズル13より供給し,円筒11をモーター16により回転させながら孔12を通過させて導電粒子17を基材上に連続的に転写させるものである。本方式は簡便でかつ生産性の高い方式であるとともに,高価な導電性粒子を規則的に配列できるため,導電粒子同士の接続による横導通を防止でき,少ない導電粒子で効率よく端子間を導通でき,材料面からも安価なコストで製造することができる。」

(イ)上記記載から,引用文献2には,次の技術が記載されていると認められる。
a 引用文献2に記載された技術は,半導体ICとIC搭載用基板のマイクロ接合等に用いることのできる異方導電フィルムの製造方法に関するものであり,絶縁性接着剤3中に導電粒子2を分散させている場合,リークやショートを発生する等,絶縁性の保持に問題が生じること,及び,高価な導電粒子の多くが本来目的とする端子間の接続に使用されないことによる生産コストの増加を課題としたものである(【0001】,【0006】,【0007】)。

b そのため,導電粒子を規則的に配列させる方式が検討されており,特に引用文献2に記載された製造方法では,安価なコストで導電粒子が規則的に配列している異方導電フィルムを得ることができる(【0008】,【0012】)。

ウ 引用文献3
(ア)同じく原査定に引用され,本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2008-210908号公報(以下「引用文献3」という。)には,次の記載がある。
「【0002】近年,ICチップやTABなどの電子部品を配線基板上に実装する方法として,異方性導電膜を用いる方法が知られている。」

「【0009】すなわち,異方導電性能の安定性を高める観点から,導電性粒子は,圧着前後でほとんど流動しないことが好ましい。これを実現するためには,2層構造の異方性導電膜では,導電性粒子を含む接着層材料に,高い溶融粘度を有する材料を用いることになる。
【0010】ところが,このような設計とした場合,導電性粒子を有する接着層側を配線基板側として従来の実装方法を行うと,仮圧着時に,異方性導電膜を配線基板に十分に密着させることが困難になってしまう。この原因の一つとしては,圧着ヘッドにより加えた熱が,基台に吸収されてしまうことなどが考えられる。
【0011】また,これを防止しようとして,圧着ヘッドによる加熱温度を過度に高くすると,今度は導電性粒子を有さない側の接着層が流れてしまい,本圧着時にICチップのバンプ間などを埋めるのに必要な量の接着層を確保し難くなる。そのため,これによってICチップとの密着性の低下が生じ得る。」

「【0014】上記課題を解決するため,本発明に係る電子部品の実装方法は,多数の導電性粒子を有する第1の接着層と,上記第1の接着層の片面に積層された第2の接着層とを有する異方性導電膜を用いた方法であって,少なくとも上記異方性導電膜の仮圧着時に,上記第1の接着層側から加熱を行うことを要旨とする。」

「【0027】また,多数の導電性粒子が,互いに離間され,規則的に配列された状態で,第1の接着層に保持されている場合には,上記実装方法による効果と相まって,接続信頼性を向上させることができる。
【0028】一方,多数の導電性粒子が,第1の接着層中に分散されている場合には,上記ほどではないが,接続信頼性を向上させることができる。」

(イ)上記記載から,引用文献3には,次の技術が記載されていると認められる。
a 引用文献3に記載された技術は,ICチップやTABなどの電子部品を,異方性導電膜を用いて配線基板上に実装する方法に関するものであり,圧着前後での導電性粒子の流動を抑制するために導電性粒子を含む接着層材料に高い溶融粘度を有する材料を用いた2層構造の異方性導電膜を用いると異方性導電膜を配線基板に十分に密着させることが困難になってしまうことを課題としたものである(【0002】,【0009】,【0010】)。

b 多数の導電性粒子が,互いに離間され,規則的に配列された状態で,第1の接着層に保持されている場合には,多数の導電性粒子が分散されている場合に比べ,接続信頼性をより向上させることができる(【0027】,【0028】)。

(3)引用発明との対比
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「2種の端子94a,94b」の先端部は,「駆動用IC7」の「出力電極73」に接続される部位であるので,本件補正発明の「端子」に相当する。
そして,引用発明の「交互に配列された」「長さの異なる2種の端子94a,94b」のうち,「端子94a」の先端部は一列に配列され,「端子94b」の先端部も「端子94a」の列から長さ方向にシフトして「端子94a」の列と平行に一列に配列されているから,引用発明の「第1の透明基板20」には,端子列が複数並列されているといえる。
したがって,引用発明の「第1の透明基板20」は、本件補正発明の「複数の端子が配列された端子列が上記端子の配列方向と直交する幅方向に複数並列された回路基板」に相当する。

(イ)引用発明の「出力電極73」は本件補正発明の「バンプ」に相当する。
そして,引用発明の「駆動用IC7」は,「出力電極73」が辺7cに沿って千鳥状に配列されることによって出力電極73が配列方向に直交する幅方向に2列形成される。
したがって,引用発明の「駆動用IC7」は,本件補正発明の「上記複数の端子列に応じて,複数のバンプが配列されたバンプ列が上記バンプの配列方向と直交する幅方向に複数並列された電子部品」に相当する。

(ウ)引用発明の「異方性導電膜」は,駆動用IC7を第1の透明基板20に向けて熱圧着する際に用いられるものであり,駆動用IC7を第1の透明基板20に対し接着するものであるから,本件補正発明の「異方性導電接着剤」に相当する。
よって,引用発明の「導電性粒子40が散在された異方性導電膜を介して第1の透明基板20上に駆動用IC7が接続された実装構造」と,本件補正発明の「導電性粒子が配列された異方性導電接着剤を介して上記回路基板上に上記電子部品が接続された接続体」とは,「導電性粒子を有する異方性導電接着剤を介して上記回路基板上に上記電子部品が接続された接続体」である点で一致し,「異方性導電接着剤」が,本件補正発明では導電性粒子が「配列」されたものであるのに対して引用発明では導電性粒子が「散在」されたものである点で相違する。

イ 以上のことから,本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。
【一致点】
「複数の端子が配列された端子列が上記端子の配列方向と直交する幅方向に複数並列された回路基板と,
上記複数の端子列に応じて,複数のバンプが配列されたバンプ列が上記バンプの配列方向と直交する幅方向に複数並列された電子部品とを備え,
導電性粒子を有する異方性導電接着剤を介して上記回路基板上に上記電子部品が接続された接続体。」

【相違点1】
「異方性導電接着剤」が,本件補正発明では導電性粒子が「配列」されたものであるのに対して引用発明では導電性粒子が「散在」されたものである点。

【相違点2】
本件補正発明は,「上記回路基板に対する上記電子部品の搭載方向において,上記回路基板及び上記電子部品の各外側に配列された相対向する端子とバンプの距離が,上記回路基板及び上記電子部品の各内側に配列された相対向する端子とバンプの距離よりも大きく,上記回路基板及び上記電子部品の各内側に配列された相対向する端子とバンプの距離の130%以内である」のに対し,引用発明では当該構成について特定されていない点。

(4)判断
以下,相違点について検討する。
ア 相違点1について
引用文献2には,上記(2)イのとおり,導電粒子が規則的に配列している異方導電フィルムが記載され,絶縁性接着剤中に導電粒子を分散させた異方導電フィルムと比べて,接続信頼性と絶縁性とに優れた端子接続が可能となること,安価なコストで製造することができることが記載されている。
また,引用文献3には,上記(2)ウのとおり,導電性粒子が規則的に配列された異方性導電膜が記載され,多数の導電性粒子が接着層中に分散されている異方性導電膜と比べて,接続信頼性を向上させることができることが記載されている。
したがって,導電性粒子を接着剤中に規則的に配列させることにより,接続信頼性と絶縁性の高くコストの低い異方性導電接着剤が得られることは,本願出願時において当業者にとって周知であったといえる。
そうすると,引用文献2,3のこれらの記載に接した当業者が,引用発明において,異方性導電性膜により駆動用IC7を第1の透明基板20に接続する際に,接続信頼性と絶縁性を高め,コストを低減させるために,引用文献2,3に記載された前記周知の技術を適用すること,すなわち,引用発明において,相違点1の構成を採用することは,当業者が容易に想到し得たことである。

請求人は審判請求書において,
「(エ)拒絶査定の理由について
拒絶査定では,引用文献1に記載の発明に引用文献2,3に記載の発明を適用することによって,本願発明の進歩性を否定されています。しかし,引用文献1に引用文献2,3を組み合わせることには,阻害要因があります。すなわち,引用文献1は熱圧着により電極間スペースに積極的に導電粒子を流動させて滞留を防止し,もって隣接電極間の電気的短絡を防止するものであるのに対し,引用文献2,3は,導電粒子の流動を抑制することで横導通の防止及び粒子捕捉性を向上させる発明であり,これらは互いに発明の課題に対する解決アプローチが異なり,引用文献2,3に係る発明を引用文献1に記載の発明に組み合わせることは,その動機付けを欠くもので,当業者が容易に想到することができるものとは言えないと思料します。
また,導電粒子の流動を抑制する引用文献2,3に記載の発明を,引用文献1に記載の発明に適用されると,熱圧着により電極間スペースに積極的に導電粒子を流動させて滞留を防止し,電極間の電気的短絡を防止するという引用文献1の目的に反することから,引用文献1に引用文献2,3を組み合わせることには,阻害要因があります。」
と主張している。
上記主張について検討する。
引用文献1には,「熱圧着する際に異方性導電膜が熱によって軟化して流出し隣接するバンプ間または隣接する端子間を通って流れ導電粒子が隣接するバンプ間または隣接する端子間に滞留した場合等により,隣接するバンプ間または隣接する端子間に電気的短絡を生じるという問題」があり,当該課題を解決するために電極を「千鳥状に配列」することにより,「距離が確保されることによって,不純物及び異方性導電膜中の導電粒子が挟まることがない」ことが記載されており,導電性粒子が電極間に滞留することによる電気的短絡を課題とするものである。引用文献1においては導電性粒子が流れた場合にも隣接する端子間距離が確保されているため電気的短絡が生じにくいものであるが,そもそも導電性粒子が流れないのであれば端子間の電気的短絡が生じにくいのは明らかで,引用文献1に記載された発明が,「積極的に」導電性粒子を流動させて滞留を防止する発明であると解することはできない。そして,引用文献2,3に記載された技術を併用することで,隣接電極間の電気的短絡を防止するという課題の解決をより確かなものとすることは,当業者が容易に想到することである。すなわち,引用発明に引用文献2,3に記載された技術を適用することに,阻害要因があるとはいえない。
したがって,請求人の上記主張は採用できない。

イ 相違点2について
引用文献1には,熱圧着時に駆動用IC7に反りが生じることについて,明示的に記載されていない。しかし,引用文献1の駆動用IC7は辺7bに沿って直線上に一列に入力電極71が配置され,辺7bに対向する辺7cに沿って出力電極73が千鳥状に配列され,入力電極71が形成された領域と出力電極73が形成された領域との間には電極が形成されていない領域があること(図4も参照のこと),熱圧着時にACFの樹脂分が溶融し(【0060】)異方性導電膜が能動面7aの外側に流出するものであること(【0063】),熱圧着時に入力電極71と出力電極73はそれぞれ接続端子9および端子94との間で導電粒子を捕捉し挟持することで支持されるが,間の電極が形成されていない領域では導電粒子を挟持しないので導電粒子により支持されないことから,熱圧着後の駆動用IC7には反りが存在していると解するのが妥当である。なお,仮に,引用文献1において,チップが十分に分厚く,剛性が高く,全くたわまないものであったとしても,近年におけるチップの薄型化は近年の技術潮流からして技術常識であるから,引用文献1のチップについて薄型のものとすることは当業者が容易になし得るものであり,薄型のチップであれば,撓むことは上記の通り必然である。
しかしながら,チップが撓むこと,すなわち,チップの物理的な変形が望ましくないことは自明であり,その変形の程度を可能な限り小さなものとすることは当業者が当然に配慮すべきことである。
すなわち,回路基板及び電子部品の各外側に配列された相対向する端子とバンプの距離と,回路基板及び電子部品の各内側に配列された相対向する端子とバンプの距離とをできるだけ等しいものとすること,すなわち,回路基板及び電子部品の各外側に配列された相対向する端子とバンプの距離が,回路基板及び電子部品の各内側に配列された相対向する端子とバンプの距離の100%に近い値となるようにすることは当業者が容易に想到し得たことである。他方、回路基板及び電子部品の各外側に配列された相対向する端子とバンプの距離が,回路基板及び電子部品の各内側に配列された相対向する端子とバンプの距離の130%以内であるという「130%」という値には,本願の発明の詳細な説明の記載及び図面からは,臨界的な意義を見出すことはできない。
したがって,引用発明において,相違点2について,本件補正発明の構成を採用することは,当業者が容易になし得たことである。

ウ そして,これらの相違点を総合的に勘案しても,本件補正発明の奏する作用効果は,引用発明,引用文献2,および,引用文献3に記載された技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず,格別顕著なものということはできない。

エ したがって,本件補正発明は,引用発明及び引用文献2,3に記載された技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
よって,本件補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので,同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって,上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
令和元年6月4日にされた手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項に係る発明は,平成30年12月26日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載された事項により特定されるものであるところ,その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,その請求項1に記載された事項により特定される,前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,この出願の請求項1に係る発明は,本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2及び引用文献3に記載された事項に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

引用文献1:特開2003-303852号公報
引用文献2:特開2005-216611号公報
引用文献3:特開2008-210908号公報


3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1ないし3及びその記載事項は,前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は,前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から,「端子とバンプの距離」に係る限定事項を削除したものである。
そうすると,本願発明の発明特定事項を全て含み,さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が,前記第2の[理由]2(3),(4)に記載したとおり,引用発明及び引用文献2,3に記載された技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,引用発明及び引用文献2,3に記載された技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり審決する。


 
審理終結日 2020-06-17 
結審通知日 2020-06-23 
審決日 2020-07-08 
出願番号 特願2014-242270(P2014-242270)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 土谷 慎吾  
特許庁審判長 加藤 浩一
特許庁審判官 井上 和俊
小川 将之
発明の名称 接続体、及び接続体の製造方法  
代理人 野口 信博  

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