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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1365687
審判番号 不服2019-13086  
総通号数 250 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-10-01 
確定日 2020-08-27 
事件の表示 特願2017-515519「光伝送モジュール」拒絶査定不服審判事件〔平成28年11月 3日国際公開、WO2016/175126〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2016年(平成28年)4月21日(国内優先権主張 2015年4月27日)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯の概要は、以下のとおりである。

平成30年 8月 8日付け:拒絶理由通知書
平成30年10月17日 :意見書、手続補正書の提出
平成31年 1月30日付け:拒絶理由通知書
平成31年 4月 5日 :意見書、手続補正書の提出
令和 元年 6月26日付け:拒絶査定(原査定)
令和 元年10月 1日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 令和元年10月1日にされた手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
令和元年10月1日にされた手続補正を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
令和元年10月1日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1に記載された発明は、次のとおり補正された(下線は、補正箇所を示すために請求人が付したものである。)。

(本件補正前)
「【請求項1】
光の伝送方向に直交する平面である第1端面を有する第1光伝送路と、
前記第1光伝送路の前記第1端面に対向し光の伝送方向に直交する平面である第2端面を有する第2光伝送路と、
前記第1光伝送路の端部が内部に配されるとともに、前記第1端面と前記第2端面との間に位置した透光性の介在部を有するフェルールと、を備え、
前記介在部は、前記第1端面に対向するとともに、前記第1端面に沿った第1対向面を有し、前記第1端面の全面が、前記第1対向面に接しており、
前記介在部は、前記第2端面に対向するとともに、前記第2端面に沿った第2対向面を有し、前記第2端面の全面が、前記第2対向面に接しており、
前記介在部を介して前記第1光伝送路と前記第2光伝送路とが光学的に接続されている光伝送モジュール。」

(本件補正後)
「【請求項1】
光を伝送する第1コア部および光の伝送方向に直交する平面である第1端面を有する第1光伝送路と、
光を伝送する第2コア部および前記第1光伝送路の前記第1端面に対向し光の伝送方向に直交する平面である第2端面を有する第2光伝送路と、
前記第1コア部および前記第2コア部よりも屈折率が大きく、前記第1端面と前記第2端面との間に位置した透光性の介在部を有し、前記第1光伝送路の端部が内部に配されるフェルールと、を備え、
前記介在部は、前記第1端面に対向するとともに、前記第1端面に沿った第1対向面を有し、前記第1端面の全面が、前記第1対向面に接しており、
前記介在部は、前記第2端面に対向するとともに、前記第2端面に沿った第2対向面を有し、前記第2端面の全面が、前記第2対向面に接しており、
前記介在部を介して前記第1光伝送路と前記第2光伝送路とが光学的に接続されている光伝送モジュール。」

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「第1光伝送路」及び「第2光伝送路」の構成要素について、それぞれ「第1コア部」及び「第2コア部」を付加し、「介在部」について「前記第1コア部および前記第2コア部よりも屈折率が大きく」、「フェルール」について「前記第1光伝送路の端部が内部に配される」との限定を付加するものであって、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明が、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本件補正発明」という。)は、上記1の「(本件補正後)」に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載及び引用発明
ア 原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である特開2014-164270号公報(平成26年9月8日公開)には、図面とともに、次の記載がある。(下線は当審が付した。)

(ア)「【0001】
本発明は、フェルール、光電気混載基板および電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光信号を使用してデータを移送する光通信がますます重要になっている。このような光通信では、光を一地点から他地点へ導くための手段として、基板と光導波路とを備えた光導波路基板が知られている(例えば、特許文献1参照)。」

(イ)「【0022】
図1に示す光電気混載基板1は、基板5と光導波路(第2の導光路)3とを有する光導波路基板(導光路部品)2と、光導波路基板2に接続される光ファイバー組立体(フェルール組立体)8とで構成されている。光ファイバー組立体8は、光ファイバー(第1の導光路)81a、81b、81cと、光ファイバー81a?81cの先端部に装着されるフェルール83とで構成されている。また、本実施形態では、第1の導光路は光ファイバー81a?81cとし、第2の導光路は光導波路3として説明するが、第1の導光路は光導波路でもよく、第2の導光部は光ファイバーであっても良いのは言うまでもない。」

(ウ)「【0034】
図1および図2に示すように、光導波路3は、クラッド層(第1のクラッド層(クラッド部))33aと、コア層32と、クラッド層(第2のクラッド層(クラッド部))33bとで構成され、これらの層をこの順に下側から積層してなるものである。
【0035】
図1に示すように、コア層32は、長尺状をなす複数本(本実施形態では、3本)のコア部(導波路チャンネル)34a、34b、34cと、複数本(本実施形態では、4本)の側面クラッド部(クラッド部)35a、35b、35c、35dとを有し、これらが光導波路3の幅方向に交互に配置されている。このように光導波路3は、複数本のコア部を有するマルチチャンネルタイプとなっている。」

(エ)「【0053】
光ファイバー81aは光が通過するコア部84aと、コア部84aを囲むクラッド部85aを有している。光ファイバー81bは光が通過するコア部84bと、コア部84bを囲むクラッド部85bを有している。光ファイバー81cは光が通過するコア部84cと、コア部84cを囲むクラッド部85cを有している。
【0054】
図1および図2に示すように、このフェルール83は、光ファイバー81a?81cの先端部が挿入される内腔部831を有するフェルール本体830と、レンズ86a、86b、86cと、ガイドピン87と、突出部88とを有している。
【0055】
フェルール本体830は、全体形状がブロック状をなし、先端側に開口する内腔部831を有している。
【0056】
また、内腔部831は、フェルール本体830の基端側に開口した空間である。内腔部831には、光ファイバー81a?81cの先端部が挿入され、この挿入状態で光ファイバー81a?81cの先端部と、フェルール83の内周面とは、接着剤(図示せず)を介して固定されている。」

(オ)「【0058】
また、フェルール本体830の先端面832は、接続状態で基板5の端面または光導波路3の接続面31と近接しているとともに離間している。これにより、不本意な外力による接続面31の損傷を防止することができる。したがって、信頼性の高い光電気混載基板1を得ることができる。接続状態での先端面832と接続面31との離間距離は0.0001?5mmが好ましく、0.01?2mmがより好ましい。これにより、光導波路3と光ファイバー81a?81cとを光学的に接続した際、光の結合損失を抑制することができる。これにより、レンズ86a?86cの焦点を合わせやすくすることができ、光の結合損失を低下させることができる。
【0059】
なお、フェルール本体830の先端面832は、接続状態で基板5の端面または光導波路3の接続面31と接触していてもよい。
【0060】
光ファイバー組立体8は、例えば、射出成型法等の方法により、光ファイバー81a、81b、81cおよびフェルール本体830を一体的に形成することができる。この場合、フェルール本体830に内腔部831を形成するのを省略することができる。
【0061】
図1に示すように、フェルール本体830の先端面には、レンズ86a?86cが設けられている。具体的には、挿入状態で、レンズ86aはコア部84aに臨む部分に設けられ、レンズ86bはコア部84bに臨む部分に設けられ、レンズ86cはコア部84cに臨む部分に設けられている。なお、レンズ86a?86cは、それぞれ、同様の構成であるため、レンズ86bを代表的に説明する。
【0062】
図1および図2に示すように、レンズ86bは、フェルール本体830の先端面よりも先端側に突出する凸面860を有する凸レンズで構成される。レンズ86bの凸面860は、凸状をなす湾曲面で構成され、レンズ86bの底面861は、平面で構成されている。また、レンズ86bは、先端側からみたとき、円形をなしている。レンズ86bの焦点は、接続状態において、光導波路3のコア部34bの基端面の位置と一致する。」

(カ)「【0065】
接続状態では、光導波路3のコア部34aを通過する光は、フェルール本体830を介して、光ファイバー81aのコア部84aに入射する。光導波路3のコア部34bを通過する光は、フェルール本体830を介して、光ファイバー81bのコア部84bに入射する。光導波路3のコア部34cを通過する光は、フェルール本体830を介して、光ファイバー81cのコア部84cに入射する。よって、光導波路3のコア部34aと光ファイバー81aのコア部84aとはフェルール本体830を介して光学的に接続される。光導波路3のコア部34bと光ファイバー81bのコア部84bとはフェルール本体830を介して光学的に接続される。光導波路3のコア部34cと光ファイバー81cのコア部84cとはフェルール本体830を介して光学的に接続される。従って、光導波路基板2と光ファイバー組立体8との間で光を使用したデータ通信を行うことができる。」

(キ)「【0069】
本実施形態におけるフェルール83は、フェルール本体830と、レンズ86a?86cと、ガイドピン87と、突出部88とが、光透過性材料で構成され、かつ、これらは一体的に形成されている。これにより、フェルール83は、フェルール本体830と、レンズ86a?86cと、ガイドピン87と、突出部88とが、それぞれ別体として構成され、かつ、それぞれ異なった材料で構成される場合に比べて、製造がより容易で、製造コストもより安価である。したがって、本実施形態のフェルール83は、量産に適している。
【0070】
光透過性材料としては、例えば、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、ポリカーボネート、ポリスチレン、ナイロン、エポキシ系樹脂やオキセタン系樹脂のような環状エーテル系樹脂、ポリフェニレンサルフィド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリベンゾオキサゾール、ポリシラン、ポリシラザン、ベンゾシクロブテン系樹脂やノルボルネン系樹脂等の環状オレフィン系樹脂のような各種樹脂材料の他、石英ガラス、ホウケイ酸ガラスのような各種ガラス材料、サファイア、水晶のような各種結晶材料等を用いることができ、特に、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂を用いるのが好ましい。
【0071】
光透過性材料の屈折率は、1.420?1.780が好ましく、1.500?1.650がより好ましい。」

(ク)「【0083】
以上のような構成の光ファイバー組立体8と光導波路基板2とを有する光電気混載基板1は、例えば、ルータ装置、WDM装置、携帯電話、自動車、ゲーム機、パソコン、テレビ、ホーム・サーバー、その他各種電子機器に搭載することができる。」

(ケ)「【0110】
以上、本発明の光電気混載基板を図示の実施形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、光電気混載基板を構成する各部は、同様の機能を発揮し得る任意の構成のものと置換することができる。また、任意の構成物が付加されていてもよい。
【0111】
また、本発明の光電気混載基板は、前記各実施形態のうちの、任意の2以上の構成(特徴)を組み合わせたものであってもよい。
【0112】
なお、各実施形態では、接続状態で、光導波路基板とフェルール組立体の接続状態を確実に保持するロック機構が設けられていてもよい。このロック機構としては、例えば、一方が基板に固定され、他方がフェルールを把持する部材等を用いることができる。これにより、より安定的に接続状態を保持することができる。
【0113】
また、本実施形態では、フェルール83のレンズ86a?86cは省略されていてもよい。」

(コ) 図1は次のものである。


(サ) 図2は次のものである。


(シ) 上記図1及び図2から、「内腔部831」に挿入される「光ファイバー81a?81cの先端部」は、光の伝送方向に直交する平面である端面を有し、該端面の全面は、「レンズ86a?86c」の背面側に位置する「フェルール83」の「内腔部831」の末端の面と接している点、及び、「光導波路3の接続面31」は「光ファイバー81a?81cの先端部」の上記端面に対向し、光の伝送方向に直交する平面である点、が見て取れる。

イ 上記記載及び図面から、引用文献には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。(括弧書きは、参考までに、記載の根拠を示したものである。)

「光電気混載基板1は、基板5と光導波路3とを有する光導波路基板2と、光導波路基板2に接続される光ファイバー組立体8とで構成され、(【0022】)
光ファイバー組立体8は、光ファイバー81a、81b、81cと、光ファイバー81a?81cの先端部に装着されるフェルール83とで構成され、(【0022】)
光ファイバー81aは光が通過するコア部84aと、コア部84aを囲むクラッド部85aを有し、(【0053】)
光ファイバー81bは光が通過するコア部84bと、コア部84bを囲むクラッド部85bを有し、(【0053】)
光ファイバー81cは光が通過するコア部84cと、コア部84cを囲むクラッド部85cを有し、(【0053】)
フェルール83は、光ファイバー81a?81cの先端部が挿入される内腔部831を有するフェルール本体830と、レンズ86a、86b、86cと、ガイドピン87と、突出部88とを有し、(【0054】)
内腔部831に挿入される光ファイバー81a?81cの先端部は光の伝送方向に直交する平面である端面を有し、該端面の全面はフェルール83の内腔部831の末端の面と接し、(上記ア(シ))
光導波路3の接続面31は光ファイバー81a?81cの先端部の上記端面に対向し、光の伝送方向に直交する平面を有し、(上記ア(シ))
フェルール83は、フェルール本体830と、レンズ86a?86cと、ガイドピン87と、突出部88とが、光透過性材料で構成され、かつ、これらは一体的に形成され、(【0069】)
光透過性材料の屈折率は、1.420?1.780が好ましく、(【0071】)
内腔部831には、光ファイバー81a?81cの先端部が挿入され、この挿入状態で光ファイバー81a?81cの先端部と、フェルール83の内周面とは、接着剤を介して固定され、(【0056】)
レンズ86aはコア部84aに臨む部分に設けられ、レンズ86bはコア部84bに臨む部分に設けられ、レンズ86cはコア部84cに臨む部分に設けられ、(【0061】)
光導波路3は、クラッド層33aと、コア層32と、クラッド層33bとで構成され、(【0034】)
コア層32は、長尺状をなす複数本のコア部34a、34b、34cと、複数本の側面クラッド部35a、35b、35c、35dとを有し、(【0035】)
レンズ86bの焦点は、接続状態において、光導波路3のコア部34bの基端面の位置と一致し、(【0062】)
レンズ86a?86cは、それぞれ、同様の構成であり、(【0061】)
フェルール本体830の先端面832は、接続状態で基板5の端面または光導波路3の接続面31と近接しているとともに離間しているが、(【0058】)
フェルール本体830の先端面832は、接続状態で基板5の端面または光導波路3の接続面31と接触していてもよく、(【0059】)
フェルール83のレンズ86a?86cは省略されていてもよいものであって、(【0113】)
接続状態では、光導波路3のコア部34aを通過する光は、フェルール本体830を介して、光ファイバー81aのコア部84aに入射し、(【0065】)
光導波路3のコア部34bを通過する光は、フェルール本体830を介して、光ファイバー81bのコア部84bに入射し、(【0065】)
光導波路3のコア部34cを通過する光は、フェルール本体830を介して、光ファイバー81cのコア部84cに入射し、(【0065】)
よって、光導波路3のコア部34aと光ファイバー81aのコア部84aとはフェルール本体830を介して光学的に接続され、(【0065】)
光導波路3のコア部34bと光ファイバー81bのコア部84bとはフェルール本体830を介して光学的に接続され、(【0065】)
光導波路3のコア部34cと光ファイバー81cのコア部84cとはフェルール本体830を介して光学的に接続され、(【0065】)
従って、光導波路基板2と光ファイバー組立体8との間で光を使用したデータ通信を行うことができる、(【0065】)
光ファイバー組立体8と光導波路基板2とを有する光電気混載基板1。(【0083】)」

(3)対比
本件補正発明と引用発明を対比する。

ア 引用発明の「光ファイバー81a?81cの先端部」が「有」する「端面」及び「光ファイバー81a?81c」は、それぞれ、本件補正発明の「第1端面」及び「第1光伝送路」に相当する。
また、引用発明の「コア部84a」、「コア部84b」及び「コア部84c」は、本件補正発明の「第1コア部」に相当する。

イ 引用発明の「光導波路3の接続面31」及び「光導波路3」は、ぞれぞれ、本件補正発明の「第2端面」及び「第2光伝送路」に相当する。
また、引用発明の「コア部34a」、「コア部34b」及び「コア部34c」は、本件補正発明の「第2コア部」に相当する。

ウ 引用発明の「フェルール83」は、本件補正発明の「フェルール」に相当する。
また、引用発明は、「光導波路3のコア部34aと光ファイバー81aのコア部84aとはフェルール本体830を介して光学的に接続され」ているから、本件補正発明とは、「第1端面と第2端面との間に位置した透光性の介在」手段を「有し」ている点で一致していると言える。

エ 上記ア?ウにより、引用発明の「光電気混載基板1」は、本件補正発明でいう「第1光伝送路」、「第2光伝送路」及び「フェルール」を備えるから、本件補正発明の「光伝送モジュール」に相当する。

オ 以上ア?エにより、本件補正発明と引用発明は、下記の点で一致している。

[一致点]
「光を伝送する第1コア部および光の伝送方向に直交する平面である第1端面を有する第1光伝送路と、
光を伝送する第2コア部および前記第1光伝送路の前記第1端面に対向し光の伝送方向に直交する平面である第2端面を有する第2光伝送路と、
前記第1端面と前記第2端面との間に位置した透光性の介在手段を有し、前記第1光伝送路の端部が内部に配されるフェルールと、を備え、
前記介在手段を介して前記第1光伝送路と前記第2光伝送路とが光学的に接続されている光伝送モジュール。」

他方、本件補正発明と引用発明は、下記の点で相違又は一応相違する。

[相違点1]
本件補正発明においては、「フェルール」が「前記第1コア部および前記第2コア部よりも屈折率が大き」いのに対し、引用発明においては、「フェルール83」を構成する「光透過性材料の屈折率は、1.420?1.780が好まし」いものの、「フェルール83」が「光ファイバー81a?81c」の「コア部84a」、「コア部84b」及び「コア部84c」、並びに、「光導波路3」の「コア部34a」、「コア部34b」及び「コア部34c」の屈折率とどのような関係にあるのか不明である点

[相違点2]
本件補正発明においては、介在手段が、「介在部」であって、「前記介在部は、前記第1端面に対向するとともに、前記第1端面に沿った第1対向面を有し、前記第1端面の全面が、前記第1対向面に接しており、前記介在部は、前記第2端面に対向するとともに、前記第2端面に沿った第2対向面を有し、前記第2端面の全面が、前記第2対向面に接」するものであるのに対し、引用発明においては、介在手段が、「フェルール本体830」のほか、「レンズ86a?86c」からなるものであって、「フェルール本体830の先端面832は、接続状態で基板5の端面または光導波路3の接続面31と接触していてもよく、」「フェルール83のレンズ86a?86cは省略されていてもよいものであ」る点

(4)判断
上記相違点について検討する。

ア 相違点1について
引用発明の光電気混載基板1は「光通信」の技術分野で用いられるものであるところ(【0002】、【0083】)、一般的に光通信の用途に用いる光ファイバーのコア部及び光導波路のコア層の屈折率が1.5の程度であることを踏まえると(特開2006-98763号公報の【0003】、特開2004-37897号公報の【0002】、特開昭64-31103号公報の〔従来の技術〕など)、引用発明において上記の「好まし」い実施形態である「フェルール83」(屈折率の上限が「1.780」)には、「光ファイバー81a?81c」の「コア部84a」、「コア部84b」及び「コア部84c」、並びに、「光導波路3」の「コア部34a」、「コア部34b」及び「コア部34c」より高い屈折率を有するものが包含されていると言える。そして、引用発明において、このようなフェルールを採用することに困難はない。

イ 相違点2について
(ア)引用発明の介在手段は、「フェルール本体830」と「レンズ86a?86c」からなるものであって、「フェルール本体830の先端面832は、接続状態で基板5の端面または光導波路3の接続面31と接触していてもよく、」「フェルール83のレンズ86a?86cは省略されていてもよいものであ」るところ、ここでいう「フェルール本体830の先端面832は、接続状態で」「光導波路3の接続面31と接触していて」「フェルール83のレンズ86a?86cは省略されていてもよい」態様についてみると、次のとおり、相違点2は、実質的でないといえる。
まず、当該態様がどのような構成を意味しているかについて検討する。
上記「フェルール本体830の先端面832」に関し、【0062】の記載によれば、「レンズ86a?86c」の「凸面860」は「先端面よりも先端側に突出する」(上記「先端面」は「先端面832」を指すと解される。)のであるから、「先端面832」は、「凸面860」と区別されるものであって、「フェルール本体830」の先端側に突出する「凸面860」を指すものではないことが理解できる。そうすると上記態様は、「接続状態」において、「フェルール83のレンズ86a?86cは省略され」、「フェルール本体830の先端面832」と「光導波路3の接触面31」が接触した構成、すなわち「光導波路3の接触面31」の全面が「フェルール本体830の先端面832」に接触した構成を意味すると解される。
よって、この構成において、「フェルール本体830の先端面832」は本件補正発明における「第2対向面」に相当し、「フェルール83の内腔部831の末端の面」は「第1対向面」に相当し、上記介在手段は、本件補正発明で規定される「介在部」に相当する。つまり、上記態様は相違点2に係る構成を備えていると言えることから、相違点2は引用発明において実質的な相違点ではない。

(イ)なお、引用発明の介在手段が、「フェルール本体830」と「レンズ86a?86c」からなるものであるとしても、次のとおり、相違点2は、格別のものではない。
すなわち、例えば特開平11-258457号公報(【0009】、【0016】、図1、図5)、特開2001-249245号公報(【0002】?【0010】、図7?図9)、特開2003-255179号公報(【0048】?【0049】、図3)に例示されるように、透光性材料を介してコアを有する2つの光伝送路を対向して配置し、該コアの全面を該透光性材料に接触させる構成は周知技術であることから、これを、引用発明における「光ファイバー81a?81cの先端部」が「有」する「端面」と「光導波路3の接続面31」に適用し、上記「端面」の全面を「フェルール83の内腔部831の末端の面」に接触させるとともに、「光導波路3の接続面31」を「先端面832」に対向して配置し、「接続面31」の全面を「先端面832」に接触させる構成とすることは、当業者が適宜なし得る設計事項に過ぎない。

ウ 本件補正発明の効果について
本件補正発明の「第1光伝送路2の端面を露出して研磨する手間を省略することができ、光伝送モジュール1の生産効率を向上させることができる。加えて、第1光伝送路2の端面が露出していないため、端面が他の物体と接触して傷つくなどの事故の発生を低減することができる。」(【0029】)という効果は、引用発明も奏するものであるから、格別とはいえない。
すなわち、引用発明は、「内腔部831には、光ファイバー81a?81cの先端部が挿入され、この挿入状態で光ファイバー81a?81cの先端部と、フェルール83の内周面とは、接着剤を介して固定されている」ものであることから、「光ファイバー81a?81cの先端部」を研磨する必要がなく、「光ファイバー81a?81cの先端部」の「有」する「端面」が露出しないことから、上記「端面」は他の物体と接触しないものである。

エ 請求人の主張について
請求人は令和元年10月1日に提出された審判請求書において、以下のように主張する。

「本願発明1は「介在部の屈折率が第1コア部および第2コア部の屈折率よりも大きい」構成を有している。その結果、屈折率が相対的に低い部材から高い部材に光が伝送されることになるため、光は介在部の第1対向面または第2対向面から離れるように屈折する。そのため、第1端面または第2端面から出射した光が介在部で広がる、すなわち、第1対向面または第2対向面に近づくように屈折することで、第2端面または第1端面に入射しない迷光の発生を低減することができ、これによって、光の損失を低減することができる。 これに対し、引用文献1には、フェルール83を構成する光透過性材料の屈折率の具体的な数値は記載があるものの(段落[0069]-[0071])、コア部34とフェルール83との屈折率の関係については、何らの記載も示唆もない。また、引用文献2?4には、接続板28の屈折率についての記載はなく、示唆もない。」(審判請求書3頁18行?29行)

以下、上記主張について検討する。
上記アにおいて述べたように、引用発明において「光ファイバー81a?81c」の「コア部84a」、「コア部84b」及び「コア部84c」、並びに、「光導波路3」の「コア部34a」、「コア部34b」及び「コア部34c」より高い屈折率を有する「フェルール83」を採用することに困難はない。そして一般的に、屈折率が相対的に低い部材から高い部材に光が伝送される際、屈折角が入射角よりも小さくなることは物理法則(スネルの法則など)から明らかである。そうすると、引用発明において上記した「フェルール83」を採用したならば、「光ファイバー81a?81c」の上記端面から「フェルール83の内腔部831の末端の面」に入射する光又は「光導波路3の接続面31」から「先端面832」に入射する光が、その入射角より小さい屈折角で屈折することで、それぞれ「光導波路3の接続面31」又は「光ファイバー81a?81cの先端部」が「有」する「端面」に入射しないような迷光の発生を低減できることは明らかである。
よって、本件補正発明が「介在部の屈折率が第1コア部および第2コア部の屈折率よりも大きい」構成を備えたことによる作用効果は、当業者であるなら予見可能であり、格別なものと言うことはできない。
以上の理由により、請求人の上記主張は採用できない。

(5)小括
したがって、本件補正発明は、引用発明に基づいて、又は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
令和元年10月1日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成31年4月5日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2[理由]1の「(本件補正前)」に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、
(1)本願発明は、本願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である上記引用文献に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない
(2)本願発明は、本願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である上記引用文献に記載された発明に基づいて、本願の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない
というものである。

3 進歩性について
(1)引用文献の記載及び引用発明
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献の記載及び引用発明は、上記第2[理由]2(2)に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、前記第2[理由]2で検討した本件補正発明から、「第1光伝送路」及び「第2光伝送路」の構成要素について、それぞれ「第1コア部」及び「第2コア部」を削除し、「介在部」について「前記第1コア部および前記第2コア部よりも屈折率が大きく」、「フェルール」について「前記第1光伝送路の端部が内部に配される」との限定事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2(3)、(4)に記載したとおり、引用発明に基づいて、又は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明に基づいて、又は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2020-06-16 
結審通知日 2020-06-23 
審決日 2020-07-08 
出願番号 特願2017-515519(P2017-515519)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
P 1 8・ 575- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 野口 晃一  
特許庁審判長 瀬川 勝久
特許庁審判官 山村 浩
佐藤 洋允
発明の名称 光伝送モジュール  
代理人 西教 圭一郎  

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