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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01V
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01V
管理番号 1365717
審判番号 不服2020-1621  
総通号数 250 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-02-05 
確定日 2020-09-03 
事件の表示 特願2016- 49276「感震センサ及び地震検知方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 9月21日出願公開、特開2017-166832〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年 3月14日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成31年 4月24日付け:拒絶理由通知書
令和 元年 7月16日 :意見書、手続補正書の提出
令和 元年10月30日付け:拒絶査定
令和 2年 2月 5日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 令和2年2月5日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和2年2月5日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、下記(2)で記載する本件補正前の請求項4に対応する特許請求の範囲の請求項2の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)
「加速度を測定するステップと、
前記加速度を用いて速度応答値を算出する速度算出ステップと、
前記速度応答値及び前記加速度が予め定められるそれぞれの閾値以上であるか判断する地震判定ステップと、
前記速度応答値及び前記加速度が前記それぞれの閾値以上であると判断された場合、所定の信号を出力する出力ステップと、
をセンサモジュールが実行し、
前記速度算出ステップにおいて、前記加速度に含まれる周波数成分について周波数分解した速度応答値を算出し、
前記地震判定ステップにおいて、特定の周波数について算出された前記速度応答値が、当該特定の周波数に対して設定された所定の閾値以上であるか判断し、
前記特定の周波数に対して設定された所定の閾値は、周期が0.3秒且つ最大加速度が250galの正弦波を検知可能な値である
地震検知方法。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、令和元年7月16日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項4の記載は次のとおりである。
「加速度を測定するステップと、
前記加速度を用いて速度応答値を算出する速度算出ステップと、
前記速度応答値及び前記加速度が予め定められるそれぞれの閾値以上であるか判断する地震判定ステップと、
前記速度応答値及び前記加速度が前記それぞれの閾値以上であると判断された場合、所定の信号を出力する出力ステップと、
をセンサモジュールが実行する地震検知方法。」

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項4に記載された発明を特定するために必要な事項である「速度算出ステップ」及び「地震判定ステップ」の内容について、上記のとおり限定を付加するものであって、補正前の請求項4に記載された発明と補正後の請求項2に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項2に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
(ア)引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開2006-208163号公報(平成18年8月10日出願公開。以下「引用文献1」という。)には、次の記載がある(下線は当審にて付した。)。
「【0011】以下に、本発明について、図面を用いて具体的な態様を説明する。図1は構造物としての石油タンクに係るスロッシング警報出力システムとして機能する振動計測システム1の内部構成を示すブロック図である。振動計測システム1は、別個の地点に複数設置された、地震動を検出する振動検出器11と、この振動検出器11と通信回線N1を介して接続されたデータ処理装置20と、このデータ処理装置20と通信回線N2を介して接続され、警報出力手段として機能する警報装置30と、等を備えている。
【0012】振動検出器11は、例えば、検出した加速度(地震動)に比例した電気信号(アナログ信号)をデータ処理装置20に出力する加速度計であり、東西(X)方向、南北(Y)方向、上下(Z)方向の、各3方向の振動の大きさを示す電気信号(アナログ信号)を検出し、検出した電気信号を、検出信号としてデータ処理装置20に出力する。
【0013】データ処理装置20は、振動検出器11の動作制御を行うと共に、振動検出器11によって出力された検出信号に基づいて、アナログ信号である電気(加速度)信号をデジタル信号としての地震動(加速度)データに変換してデータ処理を行い、警報装置30に、スロッシング発生に係るスロッシング警報情報を出力させるための指示を送信する装置である。以下、振動検出器11によって検出されたアナログ信号を「加速度信号」と称し、当該加速度が、データ処理装置20によってデジタル信号に変換された後を「加速度データ」として説明に用いる。データ処理装置20は、アンプフィルタモジュール21、・・・と、A/D変換器22、・・・、と、CPU(Central Processing Unit)23と、RAM(RandomAccess Memory)24と、記憶部25、演算部26、ROM(Read Only Memory)27、表示部28、I/F部29等を備えている。
・・・
【0029】次に、図2のフローチャートを用いて、振動計測システム1によるスロッシング警報出力処理について説明する。尚、当該警報出力処理が実行される際には、予め、図示しない入力部より、石油タンクの固有周期データ251がデータ処理装置20に入力され、記憶部25に記憶されている。
【0030】警報出力処理は、まず、振動検出器11が地震動を検出することにより開始される(ステップS1)。振動検出器11が地震動の加速度を検出すると(ステップS1)、振動検出器11は、検出した加速度を加速度信号としてデータ処理装置20に出力する(ステップS2)。
【0031】データ処理装置20は、入力された加速度信号を、アンプフィルタモジュール21、A/D変換器22を介してデジタルの加速度データに変換し(ステップS3)、CPU23に出力する。次いで、CPU23は、入力された加速度データを演算部26の積分回路261に入力することにより、当該加速度データに積分処理を施して速度応答値データに変換する。また、同様に、記憶部25に記憶されている固有周期データ251を積分回路261に入力することにより積分処理を施し、速度応答閾値データに変換し(ステップS4)、変換した速度応答値データ及び速度応答閾値データをRAM24に一旦格納する。
【0032】ステップS5においては、CPU23が、ROM27に格納された判断プログラム271を読み出し、RAM24の所定のワークスペースに展開して実行することにより、RAM24に格納される速度応答値データを読み出して速度応答値を取得し、速度応答閾値データを読み出して速度応答閾値を取得し、速度応答値が速度応答閾値を超えているか否かを判断する(ステップS5)。CPU23が、速度応答値が速度応答閾値を超えていると判断すると(ステップS5;Yes)、警報装置30に所定の指示を送信するために次ステップに移行する。
【0033】ステップS6においては、CPU23は、ROM27に格納された出力制御プログラム272を読み出し、RAM24の所定のワークスペースに展開して実行することにより、警報装置30に、スロッシング警報情報を出力させるための指示を送信する(ステップS6)。警報装置30の制御部31は、スロッシングの警報に係る指示を受信すると、当該指示に基づいて、音声出力部32から、スロッシング警報情報としての所定の音声を出力し、表示部33に、スロッシング警報情報としての所定の表示を表示して(ステップS7)、本処理を終了する。一方、ステップS5において、CPU23が、速度応答値が速度応答閾値を超えていないと判断した場合には(ステップS5;No)警報を出力することなく本処理を終了する。
【0034】以上に説明した振動計測システム1においては、振動検出器11によって検出された地震動に基づいて速度応答値が算出され、この速度応答値が、石油タンクの固有周期データ251より求められる速度応答閾値を超えた場合に、警報装置30より警報が出力されることとなる。これにより、石油タンクの固有周期である0.1Hzの周波数付近の地震動が検出された場合に、スロッシングの発生に係る警報を出力することができ、スロッシングによる被害を抑えることができる。また、当該振動計測システム1においては、振動検出器11によって検出される加速度信号を用いて警報出力処理を行っており、これにより、当該加速度信号に所定の演算を施すことにより取得される最大加速度レベルや、計測震度、SI値などを用いて、0.5?10Hzの範囲の周波数を備える地震動、即ち、有感地震動を検知し、これに伴う警報を出力することもできる。
【0035】固有周期データ251は、予め図示しない入力部を介してデータ処理装置20に入力されることとしたが、例えば、固有周期の算出に必要な項目の数値を、入力部(図示省略)を介してデータ処理装置20に入力することにより、CPU23が所定のプログラムを実行して所定の演算を施し、これにより算出された固有周期からなる固有周期データを記憶部25に記憶する構成としても良い。また、予め固有周期に基づいた速度応答閾値を算出し、これをデータ処理装置20に入力することにより、記憶部25に速度応答閾値データとして記憶することとしても構わない。この場合、速度応答閾値データには積分処理を施すことなく、速度応答値データとの比較に用いることができる。」

(イ) 引用発明
上記(ア)から、上記引用文献1(特に下線部参照)には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「振動計測システム1による警報出力処理であって、
振動計測システム1は、振動検出器11と、データ処理装置20と、警報装置30とを備え、
データ処理装置20は、アンプフィルタモジュール21、A/D変換器22、CPU23、RAM24、記憶部25、演算部26、ROM27、表示部28、I/F部29を備え、
振動検出器11が、地震動の加速度を検出するステップと、
振動検出器11が、検出した加速度を加速度信号として出力するステップと、
データ処理装置20が、入力された加速度信号を加速度データに変換するステップと、
データ処理装置20のCPU23が、加速度データに積分処理を施して速度応答値データに変換するステップと、
データ処理装置20のCPU23が、速度応答値が予め算出された速度応答閾値を超えているかを判断するステップと、
データ処理装置20のCPU23が、速度応答値が速度応答閾値を超えていると判断すると、警報装置30に所定の指示を送信するステップと、
警報装置30が、警報を出力するステップと、
を行い、
また、前記警報は、SI値を用いて0.5?10Hzの範囲の周波数を備える地震動を検知することで出力されるものでもある、
警報出力処理。」

イ 引用文献2
同じく原査定に引用され、本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2013-200284号公報(平成25年10月3日出願公開。以下「引用文献2」という。)には、次の記載がある(下線は当審にて付した。)。
「【0002】従来、地震の揺れを検知するセンサとして地震計が用いられている。また、一般に、地震計は、地震動の加速度を計測し、この加速度の計測値から地震の揺れの大きさを算出して記録するものである。ここで、加速度の計測値から計算できる指標としては、地震動の最大加速度、最大速度、計測震度、SI値(Spectral Intensity)、リアルタイム震度(RI)などがあり、これらの指標を活用することで、地震による構造物の被害、機器の安全停止など、災害時における緊急な判断、設備機器の制御等を行なうことができる。」

ウ 引用文献3
同じく原査定に引用され、本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2009-156743号公報(平成21年7月16日出願公開。以下「引用文献3」という。)には、次の記載がある(下線は当審にて付した。)。
「【0041】制御部18は、記憶部23に対して、SI値演算部19、加速度演算部20及び速度演算部21において演算されるSI値、加速度及び速度を記憶させると共に、SI値、加速度及び速度のそれぞれについての設定閾値を記憶させる。これらの設定閾値は、SI値、加速度及び速度のそれぞれについて一つだけとは限らず、大きさの異なる複数の段階の閾値であってもよい。そして、制御部18は、SI値演算部19、加速度演算部20及び速度演算部21において演算されるSI値、加速度及び速度と、上記設定閾値とを比較して、上記設定閾値を上回っている場合には警報を発する。また、制御部18は、その警報を発すると共に、遮断弁3を遮断作動させるための第1遮断信号を生成して第2感震器30へ出力する。」

エ 引用文献2,3の記載事項
上記引用文献2,3の記載から、「地震動の加速度を計測して地震の発生を検知する装置において、速度データと加速度データを含む複数種類のデータを判定に用いること」ことは、本願出願前に周知の事項であったと認められる。

(3)参考文献の記載事項
以下の参考文献は、本件補正発明を的確に理解する上で、当審が参照した文献である。
ア 参考文献1
(ア)本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2001-042049号公報(平成13年2月16日出願公開。以下「参考文献1」という。)には、次の記載がある(下線は当審にて付した。)。
「【0003】地震動が発生すると、その加速度y(t)の時間的な変化は例えば図9(a)のように観測される。このときの、ある構造物の速度応答v(t)および最大速度応答Sv(t)の時間的変化は図9(b)のようになる。なお、最大速度応答Sv(t)とは、その時刻までに発生した速度応答v(t)の最大値のことである。また、このような振動のある時刻において固有周期Tに対する最大速度応答Sv(t)のスペクトル分布は図10のようになっており、この分布の平均値を求める(すなわち図中の斜線部面積を積分区間で割る)ことにより、その時刻のSI値を得ることができる。なお、この固有周期Tは構造物の大きさなどよって決まるものであり、主要な構造物は上記積分区間(0.1から2.5)の範囲内の固有周期Tとなることが判っている。さらに詳細な点については、特開昭62-12884号公報、特開昭62-12885号公報、特開昭62-12886号公報、特開平6-214040号公報等の公知文献を参考にされたい。
【0004】さて、特開平10-123258号公報に開示されている地震動の測定方法を従来技術として説明する。図11に示す波形は、加速度検出部によって検出された振動の加速度y(t)の時系列データをプロットして得られる波形である。図中Rは測定開始時刻を、Sは地震発生時刻を、Eは地震収束時刻を表す。この時系列データは極めて短い周期(例えば10m秒)でサンプリングされ、メモリ(RAM)に記憶される。この時系列データからほぼリアルタイムでSI値を得るために、時刻Rから所定時間Tpが経過した時点で、それまでに得られた加速度y(t)の時系列データをメモリから読み出し、まず一旦各固有周期T毎の速度応答値v(t)(下記式1)に変換し、次いで各固有周期T毎の最大速度応答値Sv(t)(下記式2)を求め、これらからSI値(下記式3)を算出する。その後、所定の時間Δtpが経過した時点で、時刻(R+Δtp)から時刻(R+Tp+Δtp)までの時系列データをメモリから読み出して同様の演算を行う。以下、時間Δtpが経過する毎にSI値を算出してゆく。
【0005】なお、これらの式において、t[s]は現在時刻、τは積分期間(時間)、Tは構造物の固有周期、hは構造物の減衰定数、ωは固有角振動数(ω=2π/T[rad/s])、ωdは減衰固有角振動数(ωd=ω×(1-h^(2))^(1/2)[rad/s])である。
【0006】
【数1】

(当審注:式1の左辺は「(t)」と記載されているが、段落【0004】の「速度応答値v(t)(下記式1)」という記載に鑑みて、左辺からは「v」が欠落しており、本来は「v(t)」を意図していると認められる。)
【数2】

【数3】



(イ)上記式1によると、応答速度値v(t)は2π/T(Tは構造物の固有周期)で与えられる固有角振動数ωの関数である。

(ウ)上記記載から、「速度応答値とは加速度に対する、固有周期T、または、固有角振動数ω(ω=2π/T)を有する構造物の速度応答である」という事項が理解される。
イ 参考文献2
請求人が審判請求書にて提示した文献であり、本願の出願日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の文献(以下「参考文献2」という。)には、図面とともに次の記載がある。
参考文献2:“気象庁|震度と加速度”,[online],平成28年3月6日,[令和2年6月17日検索],インターネット,<URL:https://www.data.jma.go.jp/svd/eqev/data/kyoshin/kaisetsu/comp.htm>
なお、参考文献2の図3について、インターネットアーカイブ「Wayback Machine」にて確認したものと、上記のURLによるwebサイトの内容が一致するので、参考文献2の図3に記載された内容は、平成28年3月6日に電気通信回線を通じて公衆に利用可能になったものと認める。「Wayback Machine」にて、参考文献2のwebサイトを確認したものについては、以下のURLを参照されたい。
https://web.archive.org/web/20160306094807/https://www.data.jma.go.jp/svd/eqev/data/kyoshin/kaisetsu/comp.htm

「図3:周期および加速度と震度(理論値)の関係
均一な周期の振動が数秒間継続した場合」

ウ 参考文献3
上記参考文献2と同様の事項を開示する文献であり、本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の文献(以下「参考文献3」という。)には、図面とともに次の記載がある。
参考文献3:坂井晃,“広範囲な周期領域を対象とした震度の表現法”,土木学会論文集A1(構造・地震工学),平成25年,第69巻第2号,pp.232-244

「図-3 計測震度別の周期と加速度の関係」


エ 参考文献2,3の記載事項
上記参考文献2,3の図面から、「周期が0.3秒且つ最大加速度が250galの正弦波」による地震動は、震度5強にあたる地震であることが把握できる。

(4)対比
ア 本件補正発明の「センサモジュール」について
(ア)本願の発明の詳細な説明には、以下の記載がある(下線は当審にて付した。)。
「【0017】<装置構成>図1は、本実施形態に係る感震センサの一例を示す装置構成図である。感震センサ1は、加速度センサ11と、マイクロコントローラ12と、記憶部13と、出力部14とを有するセンサモジュールである。
・・・
【0019】マイクロコントローラ12は、例えば汎用的な集積回路であり、所定の周期で加速度センサ11が測定する加速度を取得し、加速度を積分して算出した速度応答値に基づいて地震の発生を検知する。
・・・
【0021】また、出力部14は、例えばマイクロコントローラ12が有する出力端子である。マイクロコントローラ12は、例えば地震が発生したと判断した場合、出力部14を介して他の装置に地震の発生を示す情報等を出力する。」

(イ)これらの記載によれば、本件補正発明の「センサモジュール」は加速度の測定を行う「加速度センサ11」、速度応答値に基づいて地震の発生を検知する「マイクロコントローラ12」、「記憶部13」、及び地震の発生を示す情報等を出力する「出力部14」を備えるものであると認められる。

(ウ)一方、引用発明の「振動計測システム1」は、「地震動の加速度を検出する」「振動検出器11」、「速度応答値データが予め算出された速度応答閾値を超えているかを判断する」「データ処理装置20」、及び、「警報を出力する」「警報装置30」を備えるものである。
そうすると、引用発明の「振動計測システム1」は本件補正発明の「センサモジュール」に相当する。

イ 引用発明の各ステップの動作主体について、「振動検出器11」、「データ処理装置20」及び「警報装置30」は「振動計測システム1」が備えるものであるから、各ステップの動作主体は「振動計測システム1」であるといえる。

ウ 引用発明の「地震動の加速度を検出するステップ」は、本件補正発明の「加速度を測定するステップ」に相当する。

エ 引用発明の「加速度データに積分処理を施して速度応答値データに変換するステップ」は、本件補正発明の「加速度を用いて速度応答値を算出する速度算出ステップ」に相当する。

オ 引用発明の「速度応答値データが予め算出された速度応答閾値を超えているかを判断するステップ」は、本件補正発明の「速度応答値」が「予め定められる」「閾値以上であるか判断する」「ステップ」に相当する。また、引用発明は地震動を検知して警報を出力するものであるから、上記ステップは「地震判定ステップ」といえる。

カ 引用発明の「速度応答値が速度応答閾値を超えていると判断すると、警報装置30に所定の指示を送信するステップ」は、本件補正発明の「速度応答値」が「閾値以上であると判断された場合、所定の信号を出力する出力ステップ」に相当する。

キ 本件補正発明の「速度算出ステップにおいて、前記加速度に含まれる周波数成分について周波数分解した速度応答値を算出」する点について
(ア)「速度応答値」とはどのように算出される値であるかについて、本願の発明の詳細な説明には具体的な記載はないが、上記(3)ア(ウ)に記載したように、「速度応答値とは加速度に対する、固有周期T、または、固有角振動数ω(ω=2π/T)を有する構造物の速度応答である」。そうすると、引用発明の「速度応答値」は、「加速度に対する、固有周期T、または、固有角振動数ω(ω=2π/T)を有する構造物の速度応答である」と認められる。

(イ)本願の発明の詳細な説明には、以下の記載がある(下線は当審にて付した。)。
「【0029】また、感震センサ1の速度応答値算出部102は、取得された加速度を周波数分解する(S2)。そして、速度応答値算出部102は、分解された周波数ごとの加速度を用いて、速度応答値を算出する(S3)。本ステップでは、振動の開始を検知した時点を起点として、所定期間の加速度を積分し、速度応答値を算出する。例えば、図5に示すような速度応答値が算出される。図5は、横軸が時間t[s]、縦軸が速度応答値v(t)[kine]を示すグラフである。なお、S2とS3の処理を逆にして、速度応答値を算出してから周波数分解するようにしてもよい。また、S2以降の処理は、処理時点前の所定期間に測定された加速度を用いて繰り返し実行するようにしてもよいし、取得された加速度が所定の閾値以上の場合に休止状態から復帰して所定期間に測定された加速度を用いて実行するようにしてもよい。」

(ウ)上記段落【0029】の記載から、本件補正発明の「加速度に含まれる周波数成分について周波数分解した速度応答値」には、「加速度」から「速度応答値」を算出してから「周波数分解」したものも含まれるといえる。

(エ)上記(ア)にて述べたように、引用発明の「速度応答値」は加速度に対する、固有周期T、または、固有角振動数ω(ω=2π/T)を有する構造物の速度応答であり、固有角振動数ωの関数である。そして、一般に角振動数は周波数の2π倍の値であるから、固有角振動数ωは構造物の固有周波数に比例する。そうすると、引用発明の「応答速度値」は固有周波数の関数であり、構造物の固有周波数毎に算出される値であるから、引用発明の「応答速度値」は加速度から上記式1により算出され、「周波数分解」されたものであるといえる。

(オ)よって、引用発明の「応答速度値」は、本件補正発明と同様に、「加速度に含まれる周波数成分について周波数分解した速度応答値」として算出されているといえる。

ク 本件補正発明の「地震判定ステップにおいて、特定の周波数について算出された前記速度応答値が、当該特定の周波数に対して設定された所定の閾値以上であるか判断」する点について
引用文献1には、単に「速度応答値が速度応答閾値を超えているか否かを判断する」と記載されているのみであるが、上記(4)キ(エ)で述べたように、引用発明の「速度応答値」は固有周波数の関数であり、構造物の固有周波数毎に算出される値である。そうすると、「速度応答値」と「速度応答閾値」の比較は特定の周波数において行う必要があるから、「速度応答閾値」も当該特定の周波数に対して設定されているといえる。
よって、引用発明の「速度応答値が予め算出された速度応答閾値を超えているかを判断するステップ」においても、本件補正発明と同様に、「特定の周波数について算出された前記速度応答値が、当該特定の周波数に対して設定された所定の閾値以上であるか判断」しているといえる。

ケ 以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は次のとおりである。
【一致点】
「加速度を測定するステップと、
前記加速度を用いて速度応答値を算出する速度算出ステップと、
前記速度応答値が予め定められる閾値以上であるか判断する地震判定ステップと、
前記速度応答値が前記閾値以上であると判断された場合、所定の信号を出力する出力ステップと、
をセンサモジュールが実行し、
前記速度算出ステップにおいて、前記加速度に含まれる周波数成分について周波数分解した速度応答値を算出し、
前記地震判定ステップにおいて、特定の周波数について算出された前記速度応答値が、当該特定の周波数に対して設定された所定の閾値以上であるか判断する、
地震検知方法。」

【相違点1】
「地震判定ステップ」及び「出力ステップ」において、本件補正発明は速度応答値及び「加速度」が予め定められるそれぞれの閾値以上であるか判断し、速度応答値及び「加速度」が前記それぞれの閾値以上であると判断された場合、所定の信号を出力するのに対し、引用発明は「速度応答値」が速度応答閾値を超えているかを判断し、「速度応答値」が速度応答閾値を超えていると判断すると、所定の指示を送信するものであるものの、「加速度」については閾値と比較していない点。

【相違点2】
「特定の周波数に対して設定された所定の閾値」について、本件補正発明では、「周期が0.3秒且つ最大加速度が250galの正弦波を検知可能な値である」のに対し、引用発明における「速度応答閾値」、すなわち「特定の周波数に対して設定された所定の閾値」がどのような値であるかは不明である点。

(5)判断
以下、相違点について検討する。

ア 相違点1について
地震動の加速度を計測して地震の発生を検知する装置において、速度データと加速度データを含む複数種類のデータを判定に用いることは、上記(2)エにて述べたように、本願の出願日前に周知の事項である。
また、引用文献1には、「また、当該振動計測システム1においては、振動検出器11によって検出される加速度信号を用いて警報出力処理を行っており、これにより、当該加速度信号に所定の演算を施すことにより取得される最大加速度レベルや、計測震度、SI値などを用いて、0.5?10Hzの範囲の周波数を備える地震動、即ち、有感地震動を検知し、これに伴う警報を出力することもできる。」(段落【0034】:下線は当審にて付した。)と、加速度を地震の検知に用いる点が示唆されている。
そうすると、引用発明に上記周知技術を適用して、「速度応答値」のみならず「加速度」も閾値と比較するように構成することは、地震検知の精度を向上させるためにより多くの種類のデータを地震の判定に用いるという観点から、当業者が容易に想到しうることである。この際、「速度応答値」及び「加速度」のそれぞれについて予め閾値が定められることとなり、また、「速度応答値」及び「加速度」のそれぞれが閾値を超えている場合に「所定の指示」が送信されることとなる。

イ 相違点2について
(ア)引用発明は「SI値を用いて0.5?10Hzの範囲の周波数を備える地震動」を検知することで警報が出力されることもできるものである。ここで、SI値とは「剛性の高い構造物の固有周期である0.1秒?2.5秒の間の速度応答スペクトル積分値の平均によって地震動の破壊力を表す指標としたもの」(本願の発明の詳細な説明の段落【0038】)であるから、引用発明は速度応答値を用いて0.5?10Hzの範囲の周波数を備える地震動を検知することができるものであるといえる。
そうすると、周期0.3秒の地震動は周波数にして約3.3Hzの地震動であるから、引用発明において速度応答値が予め算出された速度応答閾値を超えているかを判断し、超えていると判断すると警報を出力するにあたり、「周期が0.3秒」の「正弦波」を検知可能とすることは当業者が容易に想到しうることである。さらに、「周期が0.3秒且つ最大加速度が250galの正弦波」による地震動を検知可能とすることは、どの程度の強さの地震動を検知することを目的とするかに応じて、当業者が適宜決定しうる事項にすぎない。
この点について、上記(3)エにて述べたように、「周期が0.3秒且つ最大加速度が250galの正弦波」による地震動は、震度5強にあたる地震であり、震度5強の地震という強い地震を検知可能とすることは地震を検知するシステムにおいて一般的に要求される性能であるということからも、「周期が0.3秒且つ最大加速度が250galの正弦波」による地震動を検知可能とすることは、当業者が適宜決定しうる事項にすぎないといえる。

(イ)相違点2に関する請求人の主張について
請求人は審判請求書の「(4)本願発明と引用発明との対比」において、相違点2に係る発明特定事項について「このような閾値によれば、震度5?震度5強に相当する地震動を検知できるという効果がある。一般的に、震度6強は大被害を与え、震度4は機器の稼働、エネルギー供給における危険度は比較的低いとされている。そこで、発明者らは、震度5弱?5強に着目した。すなわち、震度5?震度5強は、ガス等の供給やガス機器等の稼働を停止させることが望ましい規模の震度であり、このような震度を検知できることは、感震センサにおいて特に有用な効果といえる。」及び「しかしながら、このような理論値(当審注:引用発明5の図3に示される「周期および加速度と震度(理論値)の関係」を指す。)からどのようなパラメータを選択すべきかは、当業者といえども一概には分からない。本願発明の発明者らは、建物等において機器の稼働やエネルギー供給を停止しなくてもよいレベルと、停止すべきレベルとの境界を、具体的に「周期0.3秒かつ加速度250gal」とするのがふさわしいことを見出した。」(下線は当審にて付した。)と主張している。これらの主張は、本件補正発明が、震度が比較的低く建物等において機器の稼働やエネルギー供給を停止しなくてもよいレベルの地震動は検知せず、震度が強く機器の稼働やエネルギー供給を停止させることが望ましい地震動を検知するように閾値を設定しているという主張であると理解できる。
しかし、本件補正発明の相違点2に係る発明特定事項は「特定の周波数に対して設定された所定の閾値は、周期が0.3秒且つ最大加速度が250galの正弦波を検知可能な値である」(下線は当審にて付した。)というものである。そのため、「周期が0.3秒且つ最大加速度が250galの正弦波」による地震動を検知可能であれば、より小さな最大加速度の地震動(例えば、震度3や震度4にあたる地震動)や、周期が0.3秒ではない地震動をも検知していても相違点2に係る発明特定事項を備えると認められる。
そうすると、請求人の上記主張は、請求項の記載に基づくものではないため採用できない。

ウ そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明及び本願の出願日前に周知の事項の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

エ したがって、本件補正発明は、引用発明及び本願の出願日前に周知の事項に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
令和2年2月5日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、令和元年7月16日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項4に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項4に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項4に係る発明は、本願の出願の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明、及び、引用文献2及び引用文献3に記載された周知の事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。

引用文献1:特開2012-147924号公報
引用文献2:特開2013-200284号公報
引用文献3:特開2009-202656号公報

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1ないし3及びその記載事項は、前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から「前記速度算出ステップにおいて、前記加速度に含まれる周波数成分について周波数分解した速度応答値を算出し、前記地震判定ステップにおいて、特定の周波数について算出された前記速度応答値が、当該特定の周波数に対して設定された所定の閾値以上であるか判断し、前記特定の周波数に対して設定された所定の閾値は、周期が0.3秒且つ最大加速度が250galの正弦波を検知可能な値である」という限定事項を削除したものである。
してみると、本願発明と引用発明との対比において、相違点は、上記相違点1のみである。そして、上記相違点1についての判断は、上記「第2」「2」「(5)」「ア」に記載したとおり、引用発明及び引用文献2,3に記載された周知の事項に基づいて、当業者が容易に想到することができたものであるから、本願発明は、引用発明及び引用文献2,3に記載された周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2020-07-06 
結審通知日 2020-07-07 
審決日 2020-07-20 
出願番号 特願2016-49276(P2016-49276)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G01V)
P 1 8・ 121- Z (G01V)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 多田 達也  
特許庁審判長 三崎 仁
特許庁審判官 森 竜介
磯野 光司
発明の名称 感震センサ及び地震検知方法  
代理人 中村 剛  
代理人 関根 武彦  
代理人 関根 武彦  
代理人 中村 剛  
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