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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01R |
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管理番号 | 1365901 |
審判番号 | 不服2019-6013 |
総通号数 | 250 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-10-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-05-09 |
確定日 | 2020-09-09 |
事件の表示 | 特願2018-186639「端子およびそれを伴う電気コネクタ」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 2月14日出願公開、特開2019- 24013〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2012年(平成24年)7月18日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理2011年7月19日、米国(US))を国際出願日とする出願である特願2014-519104号の一部を、平成28年5月19日に新たな特許出願である特願2016-100457号とし、その特願2016-100457号の一部を平成30年10月1日に新たな特許出願としたものであって、平成30年12月7日付けの拒絶理由の通知に対し、平成31年1月24日に意見書が提出されたが、平成31年4月3日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がなされ、これに対して、令和1年5月9日に審判請求がなされたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1?5に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるとおりのものであり、このうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。 「雌型端子であって、 嵌合端部と、回路接続端部と、前記嵌合端部と回路接続端部との間の中間部分とを伴う端子本体と、 前記嵌合端部に画定される通路であって、該通路に沿って長手方向に延在し、互いに対向する2つの側壁と、前記通路に沿って長手方向に延在し、互いに対向する上壁及び下壁とを含む、通路と、 前記側壁の各々に沿って配置される主接点であって、前記側壁の各々から前方に延在する片持ち梁の形状で、前記通路の内方に延在する、主接点と、 前記中間部分に配置される1対のロックアームであって、前記側壁の各々と平行な各側面から外側へ突出するように後方に延在する片持ち梁の形状のロックアームと、 を備える、雌型端子。」 第3 原査定の概要 原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に頒布された下記の引用文献1及び2に記載された発明に基いて、また、この出願の請求項2?5に係る発明は、その出願前に頒布された下記の引用文献1?3に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 <引用文献等一覧> 1.特表2007-524194号公報 2.特開2001-230012号公報 3.特開2009-104863号公報 第4 引用文献の記載事項 1 引用文献1 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審が付した。)。 (1)「【請求項1】 長手方向に延在する少なくとも1つの平面を有するタイプの雄型端子を収容しこれと嵌合する雌型端子であって、 嵌合端と回路接続端を備えた端子本体と、 長手方向に延在する2つの離間した側壁を含む嵌合端内に画定された端子収容通路であって、雄型端子が該雄型端子に挿入されると前記側壁が弾性的に撓んで互いに離れるように構成された端子収容通路と、 雄型端子が端子収容通路に挿入されたときに雄型端子の前記少なくとも1つの平面と係合するために、前記側壁の1つに沿って配置された少なくとも1つの内方に突出する主接点と、 前記端子収容通路内において前記主接点の前方に位置するように前記側壁の1つに沿って配置された少なくとも1つの内方に突出するアーク放電接点とを含み、 前記雄型端子が端子収容通路に挿入されると前記雄型端子が主接点と接触する前に前記アーク放電接点と接触し、それにより、雄型端子と雌型端子との間のアーク放電がアーク放電接点で生じる雌型端子。」(第2頁第2?16行) (2)「【0003】 あるタイプの雌型端子は、ほぼ長方形のピン又は雄型端子を収容するためにその嵌合端にほぼ長方形のソケット又は差込口を有する。嵌合端は、上壁と下壁及び離間した対向する側壁を画定し、それにより、雄型端子を収容する通路を画定する細長い本体によって構成されている。……」 (3)「【0005】 従来技術におけるアーク放電を防ぐいくつかの試みには、個別の順次係合端子を設けることや、端子を順次的に係合させるために端子に前方又は横方向の拡張部分を設けることがある。そのような端子は、アーク発生のマイナス効果を減少させるのに有効であるが、そのような前方又は横方向の拡張部分によって必要とされる余分な空間のために必要以上に大きかった。また、場合によっては、そのような改良された端子は、製造がより複雑であった。 【0006】 本発明は、前述の問題を解決し、アーク放電に対処する改良された細長い雌型電気端子の必要性を満たすものである。」 (4)「【0019】 図面をより詳しく参照して説明する。最初に、図1を参照すると、本発明は、全体を20で示したほぼ細長い雌型電気端子において実施される。該雌型端子は、全体を22で示した嵌合部又は嵌合端と、全体を24で示した終端接続部又は終端接続端と、全体を26で示した中間固定部又は中間固定部分とを含む。」 (5)「【0021】 雌型端子20の中間部26は、端子の両側から外方に突出する1対の打抜き形成されたロックアーム又はタブ40を含む。これらのロックアームは後方に向って片持ち支持されており、図4において、全体を28で示したコネクタハウジングの内側のロック肩部41の後方に弾性的にパチンと嵌(はま)り、端子が挿入された後で端子がハウジング28から抜けるのを防ぐ。……」 (6)「【0022】 図1を参照すると、雌型端子20の嵌合端又は嵌合部22は、後で図6?9を参照してより詳細に示すように、雄型端子又は雄型ピン50を収容するように適応された端子収容通路44を有する。……」 (7)「【0023】 本実施形態では、雌型端子の嵌合端22は1対のチャネル45及び46から成り、該チャネル45及び46は、ほぼU字形断面であり、また、U字形チャネルの脚部の端は互いに隣接しているが離間されるように、開いた継目又はスリット47及び48によって分離されている。それにより、チャネル45?46は、雄型端子50を収容するために、ほぼ長方形又は正方形の通路44を間に画定する。図6?9で最もよく分かるように、U字形チャネル45?46の底はほぼ平坦であり、通路44内の対向する側壁53及び54を画定する。」 (8)「【0028】 嵌合ピン50と雌型端子20との間で係合し主電気接点を提供するために、通路44内に拡大主接点57及び58が提供される。これらの拡大接点57?58は、例えば、当該技術分野で既知の金属打抜き形成技術によって、各側壁53?54に形成することができる。図1に示されるように、拡大主接点57?58は、雄型ピンと雌型端子の主接点57?58によって提供される拡大接触領域との間の接触領域を大きくして電気接触特性を高めるために、雌型端子の長手方向と通路44の長手方向に延長されることが好ましい。」 (9)「【0041】 図11?13は、本発明の第3の実施形態を示し、本実施形態においては、全体を90で示した雌型端子は、全体を92で示した嵌合端の一部分が、図2?4における雌型端子70の中間部26と幾分似た構成を有する。拡大主接点87?88の近くの雌型端子90の嵌合端92は、湾曲部85によって一体的に接続された1対のほぼ平行に離間した側壁83及び84を有する。側壁83?84の縁は、2対の脚部を構成するようにほぼ直角に曲げられている。図2?4の端子のように、第1対の脚部は、スリット93を画定するように互いに接する手前で終端し、スリット93は端子の本体に沿って長手方向に延在している。しかしながら、図2?4に示される端子と異なり、第2対の脚部は、第1対の脚部よりも長く、互いに重なっている。もう1つの違いは、この第3の実施形態のアーク放電接点は側壁に設けられていないことである。この第3の実施形態では、側壁から曲げられた第1対の脚部の各脚部は、通路44内に延在するアーク放電接点94を有する。また、通路44側の重なり合った脚部は、アーク放電接点94とほぼ対向して通路44内に延在する、片持ちビームの形の1つのアーク放電接点95を有する。」 したがって、これらの記載を総合すれば、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「嵌合端22と終端接続端24と、嵌合端22と終端接続端24との間の中間部26とを伴う端子本体と、 長手方向に延在する上壁と下壁及び2つの離間した側壁53、54を含む嵌合端22内に画定された端子収容通路44と、 側壁53、54に沿って配置される主接点57、58であって、端子収容通路44の内方に延在する主接点57、58と、 中間部26に配置された、側壁53、54から外方に突出する1対のロックアーム40と、 を含む雌型端子20。」 2 引用文献2 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。 (1)「【0020】活線挿抜用端子10は、後端部にU字状の結線部11および12を有している。結線部11は、電源または電気機器との電気接続ケーブルの接続端末処理した被覆部に圧着接続するためのものであり、結線部12は、その電気接続ケーブルの接続端末処理した心線に圧着接続するためのものである。また、活線挿抜用端子10は、中間部にチャンネル状部13を有しており、このチャンネル状部の底部の中心部から前方且つ上方に延びるようにして弾性舌片14が切り起こし形成されている。さらにまた、活線挿抜用端子10は、前端部に箱状部15を有しており、この箱状部15の前端上下中心部に突出させてアーク用接点部16が設けられている。箱状部15の上辺の後端中心部から後方且つ上方へと延びるようにして係止舌片17が形成されている。この係止舌片17は、この活線挿抜用端子10を、電気コネクタの絶縁ハウジング内の対応個所に係止固定するためのものである。更に、箱状部の上辺の内側には、内側に向け突部18が設けられており、弾性舌片14が相手端子に接触する際に支えとなる。図1には明確に示されていないが、弾性舌片14の自由端には、通常接点部が設けられており、この通常接点部の詳細構成について後述する。」 (2)「【0024】先ず、弾性舌片14の詳細構造について説明するに、図3および図4に最もよく示されているように、この実施例では、弾性舌片14は、端子基材底部の中心部から切り起こし形成されており、中心部にそって溝14Bが形成されていて、2つのバネ性部分14Cおよび14Dに分離されている。弾性舌片14の自由端は、若干下方へと曲げられて、その湾曲部の頂部に通常接点部14Aを与えている。図4の底面図によく示されるように、弾性舌片14の中心部にそって形成された溝14Bは、前記弾性舌片14の先端近傍で終わっており、したがって、通常接点部14Aは、両側辺部の接点部分14A_(1)および14A_(2)は互いに分離独立されたものとされており、通常接点部14Aの更に先端側は、2つのバネ性部分14Cおよび14Dが互いに連結部19により連結されている。また、図5の断面図によく示されるように、弾性舌片14の溝14Bによって分離されたバネ性部分14Cおよび14D並びに通常接点部14Aの両側辺部の接点部分14A_(1)および14A_(2)の上表面には、外側より内側の方が低くなるような傾斜部がバネ性部分14Cおよび14Dにもわたるようにして設けられている。この傾斜部が設けられていることにより、バネ性部分14Cおよび14Dの幅を狭くすることなく、両側辺部の接点部分14A_(1)および14A_(2)を付与することができる。」 (3)図3には、弾性舌片14が、活線挿抜用端子10の前方に延在する片持ち梁の形状であることが示されている。 第5 対比 本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「嵌合端22」は、本願発明の「嵌合端部」に、以下同様に、「終端接続端24」は「回路接続端部」に、「中間部26」は「中間部分」に、「側壁53、54」は「側壁」に、「端子収容通路44」は「通路」に、「主接点57、58」は「主接点」に、「ロックアーム40」は「ロックアーム」に、「雌型端子20」は「雌型端子」にそれぞれ相当する。 したがって、両者の一致点及び相違点は、次のとおりである。 <一致点> 「雌型端子であって、 嵌合端部と、回路接続端部と、前記嵌合端部と回路接続端部との間の中間部分とを伴う端子本体と、 前記嵌合端部に画定される通路であって、該通路に沿って長手方向に延在し、互いに対向する2つの側壁と、前記通路に沿って長手方向に延在し、互いに対向する上壁及び下壁とを含む、通路と、 前記側壁の各々に沿って配置される主接点であって、前記通路の内方に延在する、主接点と、 前記中間部分に配置される1対のロックアームであって、前記側壁の各々と平行な各側面から外側へ突出するように後方に延在する片持ち梁の形状のロックアームと、 を備える、雌型端子。」 <相違点> 主接点に関して、本願発明は、「側壁の各々から前方に延在する片持ち梁の形状」であるのに対し、引用発明は、そのような形状であることが特定されていない点。 第6 判断 1 相違点について 引用文献1には、上記第4の1(9)のとおり、アーク放電接点95を「片持ちビームの形」とすることが記載されており、電気接点を片持ち梁の形状とすることが示唆されているといえる。 そして、引用発明と引用文献2に記載された発明は、いずれも雌型端子の技術分野に属する技術であり、引用発明の「主接点57、58」と引用文献2に記載の「弾性舌片14」は、雄型端子と電気接触するという機能の点で共通するものである。 したがって、引用発明の「主接点57、58」に、引用文献2に記載の「弾性舌片14」のような片持ち梁の構造を採用し、相違点に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 また、本願明細書を参酌しても、主接点を「側壁の各々から前方に延在する片持ち梁の形状」とした技術的意義について特段説明されていないこともあり、この点により、引用文献1及び2に記載された各発明が有している効果から当業者が予測することが困難であった格別の効果を奏するとは認めることができない。 2 請求人の主張について 請求人は審判請求書の(a-5)?(a-7)において、引用発明の「主接点57、58」を片持ち梁の形状とすることには、以下のとおり、阻害要因がある旨を主張している。 すなわち、引用文献1の第1の実施形態では、主接点57、58は、雄型ピン50が雌型端子20に挿入されていないときには、段落【0035】及び図6に記載のように、その平坦な接触面が側壁53、54に対して角度61で傾斜しており、雄型ピン50が雌型端子20に挿入されると、段落【0036】及び図9に記載のように、チャネル45、46が互いに離れるように回転し、平坦な接触面が雄型ピン50の平坦な側面と実質的に共面となって接触する構成であり、段落【0037】?【0040】及び図2?4に記載の第2の実施形態においても、段落【0041】?【0042】及び図11?13に記載の第3の実施形態においても、同様に構成されており、さらに、請求項1を直接引用する請求項12、請求項12を直接引用する請求項13には、この点が規定されているから、当該構成は、引用文献1に記載された発明の重要な特徴の1つであることが明らかであり、仮に、引用発明の主接点57、58を、引用文献2に記載された自由端が通常接点部14Aである弾性舌片14のような片持ち梁の形状のものとすると、あらかじめ側壁53、54に対して傾斜している平坦な接触面が存在しなくなるので、雄型ピン50が雌型端子20に挿入されてチャネル45、46が互いに離れるように回転したときに、雄型ピン50の平坦な側面と実質的に共面となって接触することが不可能となり、引用文献1に記載された発明の重要な特徴の1つが失われ、引用文献1に記載された発明の目的に反するものとなるか、又は、その機能を発揮し得ないものとなるから、引用発明において、主接点57、58を片持ち梁の形状のものとすることには阻害要因があり、引用発明に引用文献2に記載された事項を適用することは、当業者が容易になし得ないとしている。 これを検討するに、引用文献1の請求項1には、上記第4の1(1)のとおり、主接点に関しては、「側壁の1つに沿って配置された少なくとも1つの内方に突出する主接点」としか特定されておらず、また、段落【0005】及び【0006】の記載から認識される、発明が解決しようとする課題を考慮しても、引用文献1に記載の発明において、主接点が、「雄型端子の通路への挿入方向に延長された平坦接触面を有すること」や、「当該平坦接触面が、側壁に対して斜めに配置され、雄型端子が通路に挿入されたときに雄型端子上の平面と実質的に共面になること」は、必須の構成要件とはいえない。 付言するに、請求人が主張する、請求項1を直接または間接に引用する請求項12及び13における規定の内容は、むしろ、請求項1に係る発明が、かかる規定の内容に限定されないことを示唆しているということができる。 また、引用発明の「主接点57、58」において、前方端を自由端に変更して片持ち梁の形状としても、主接点57、58の平坦接触面をなくさずとも、当該平坦接触面の側壁53、54に対する角度を調整することなどにより、雄型ピン50が挿入されたときに、当該平坦接触面と雄型ピン50上の平面とがなす角度(両者が実質的に共面となる角度を含む。)は調整可能であると認められるから、引用発明の「主接点57、58」を片持ち梁の形状としたからといって、雄型ピン50が挿入されたときに雄型ピン50上の平面と実質的に共面となって接触することが不可能となる理由が見当たらない。 したがって、引用発明の「主接点57、58」を片持ち梁の形状とすることに阻害要因があるとは認められず、上記主張は採用することができない。 第7 むすび 以上によれば、本願発明は、引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
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審理終結日 | 2020-03-31 |
結審通知日 | 2020-04-07 |
審決日 | 2020-04-22 |
出願番号 | 特願2018-186639(P2018-186639) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H01R)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 鈴木 重幸 |
特許庁審判長 |
田村 嘉章 |
特許庁審判官 |
井上 信 尾崎 和寛 |
発明の名称 | 端子およびそれを伴う電気コネクタ |
代理人 | 川合 誠 |
代理人 | 青木 俊明 |