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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01N
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G01N
管理番号 1365985
審判番号 不服2019-14579  
総通号数 250 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-10-31 
確定日 2020-09-29 
事件の表示 特願2017-563449「圧力制御バルブ及び超臨界流体クロマトグラフ」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 8月 3日国際公開、WO2017/130316、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2016年(平成28年)1月27日を国際出願日とする出願であって、平成31年3月8日付けで拒絶理由が通知され、令和元年5月15日に意見書及び手続補正書が提出され、同年8月7日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がされ、これに対し、同年10月31日に拒絶査定不服審判の請求がされ、それと同時に手続補正がされ、令和2年6月10日付けで拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年7月14日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願請求項1?3に係る発明(以下「本願発明1」?「本願発明3」という。)は、令和2年7月14日に提出された手続補正書の手続補正(以下「本件補正」という。)で補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1は以下のとおりの発明である。
「【請求項1】
1つの外面に設けられた開口部、前記開口部の底部に平面として設けられた圧力制御面、及び前記圧力制御面にそれぞれの端部の開口をもつ2本の内部流路を有する圧力制御ブロックと、
弾性を有し前記圧力制御面を覆うように配置されたシート状の弁体であって、移動相の圧力によって前記圧力制御面と前記弁体との間に隙間が生じ前記隙間を移動相が流れる弁体と、
前記弁体を挟んで前記圧力制御面とは反対側で前記圧力制御面に対して垂直な方向に駆動されるように設けられ、前記弁体を前記圧力制御面に対して垂直に駆動することによって前記弁体と前記圧力制御面との間の隙間量を調節する弁体駆動部と、を備え、
前記圧力制御面は耐衝撃性及び耐摩耗性を有する硬質材料よりも高い硬度を有することで二酸化炭素のキャビテーションに対する耐性を有する材質により構成され、
前記圧力制御面はDLC膜により覆われていることによりHV2000以上の硬度を有する、又は、前記圧力制御面に低温窒化処理が施されることにより前記圧力制御面がHV1000以上の硬度を有する、超臨界流体用圧力制御バルブ。」

そして、本願発明2及び3は、いずれも本願発明1を直接的又は間接的に引用した発明であり、本願発明1をさらに限定した発明である。

第3 原査定の概要
(進歩性)この出願の本件補正前の請求項1?7に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
<引用文献等一覧>
1.国際公開第2015/029252号
2.特表2014-520250号公報

第4 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
(1)上記原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審において付与した。
(1ア)「課題を解決するための手段
[0011] 本発明にかかる圧力制御バルブは、1つの外面から垂直に掘り込まれた掘込穴及び掘込穴の底面にそれぞれの端部の開口をもつ2本の内部流路を有する圧力制御ブロックと、弾性を有し掘込穴の底面を覆う弁体と、弁体のうち、前記底面で前記開口が設けられている部分の周縁部と当接する部分を掘込穴の底面に押し付ける封止部材と、弁体のうち前記開口が設けられている部分と当接する部分を掘込穴の底面に対して垂直な方向に駆動するアクチュエータと、を備えたものである。
この圧力制御バルブでは、掘込穴の底面と弁体との間に生じる隙間が圧力を制御するための圧力制御空間を構成する。
[0012] 本発明の圧力制御バルブにおいて、弁体は高圧下で移動相と直接的に接するため、耐薬品性と耐圧性を有することが必要である。これに加え、超臨界流体クロマトグラフでは、移動相である二酸化炭素が圧力の急激な降下によって気化し、気化熱の影響で瞬時に冷却されてドライアイスが発生することがある。そのため、弁体は耐薬品性、耐衝撃性及び耐圧力性を備えた耐性材料で構成されていることが好ましい。そうすれば、ドライアイスによる弁体の損傷が抑制され、圧力制御バルブの耐久性の向上を図ることができる。かかる耐性材料としては、ポリブチレンテレフタレート(PBT)やポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、超高分子ポリエチレンなどの樹脂が挙げられる。」

(1イ)「[0018] 本発明の超臨界流体クロマトグラフでは、本発明の圧力制御バルブを用いて分析流路内の圧力を制御するように構成されているので、分離カラムの分離能が損ねられず、正確な分離分析を行なうことができる。」

(1ウ)「[0022] 圧力制御バルブ24の一実施例について図2A及び図2Bを用いて説明する。
この圧力制御バルブ24は圧力制御ブロック30を備えている。圧力制御ブロック30の材質は耐薬品性及び耐圧力性に優れた材料、例えばステンレス(SUS316)である。圧力制御ブロック30の一つの外面に垂直に円柱状に掘り込まれた掘込穴32が設けられている。
・・・
[0025] 掘込穴32の底面34上に円板状の弁体44が配置されている。弁体44は耐薬品性、耐衝撃性及び耐圧力性を備えた耐性材料で構成されている。耐性材料としては、PBTやPEEK、超高分子ポリエチレンなどの樹脂が挙げられる。弁体44は掘込穴32の底面34の全体を覆っており、その周縁部が封止部材46によって掘込穴32の底面34側へ押し付けられている。
・・・
[0028] この圧力制御バルブ24では、配管40aから流入する移動相の圧力によって掘込穴32の底面34の中央部と弁体44との間に僅かな隙間が生じ、その隙間を移動相が流れる。掘込穴32の底面34の中央部と弁体44との間の隙間量をアクチュエータ56によって制御することで、この圧力制御バルブ24よりも上流側の流路内の圧力が制御される。」

(1エ)[図2A]、[図2B]には、以下の図面が記載されている。
[図2A]

[図2B]


(2)引用発明について
[図2A]より、アクチュエータ56は、弁体44を挟んで底面34とは反対側で前記底面34に対して垂直な方向に駆動されるように設けられていることが見て取れる。
そして、(1ウ)の実施例は、(1ア)の課題を解決するための手段に記載されている圧力制御バルブに対するものであるから、引用文献1(特に下線部参照)には、以下の発明が記載されていると認められる。なお、図面番号は略して記載した。

「1つの外面から垂直に掘り込まれた掘込穴及び掘込穴の底面にそれぞれの端部の開口をもつ2本の内部流路を有する圧力制御ブロックと、
弾性を有し掘込穴の底面を覆う円板状の弁体と、
弁体のうち、前記底面で前記開口が設けられている部分の周縁部と当接する部分を掘込穴の底面に押し付ける封止部材と、
弁体を挟んで底面とは反対側で前記底面に対して垂直な方向に駆動されるように設けられているアクチュエータであって、弁体のうち前記開口が設けられている部分と当接する部分を掘込穴の底面に対して垂直な方向に駆動するアクチュエータと、を備え、
移動相の圧力によって掘込穴の底面の中央部と弁体との間に僅かな隙間が生じ、その隙間を移動相が流れ、掘込穴の底面の中央部と弁体との間の隙間量をアクチュエータによって制御することで、この圧力制御バルブよりも上流側の流路内の圧力が制御され、
上記圧力制御ブロックの材質は、耐薬品性及び耐圧力性に優れた材料、例えばステンレス(SUS316)である、
超臨界流体クロマトグラフの分析流路内の圧力を制御する圧力制御バルブ。」(以下「引用発明」という。)

2 引用文献2について
上記原査定の拒絶の理由で引用された引用文献2には、以下の事項が記載されている。
(2ア)「【発明を実施するための形態】
【0035】
バルブ部材間に生じる摩耗を低減し、それによってバルブの動作寿命を延ばすために、フィルタ処理陰極真空アーク(FCVA)蒸着によって施すことができる保護被膜を、バルブに設けることができる。
【0036】
図1を参照すると、6ポートの回転せん断バルブ100は、ステータ110およびロータ140を含む。ステータ110は、ステータインタフェース112および複数のポート115?120を有する。ポート115?120の各々は、ステータインタフェース112上のポートをステータ110の後部に接続する流路(ポート116の場合、121に示される)を含む。次いで、ポート115?120への流体連結を、流路(例えば流路121の場合、パイプ122)を介して行うことができる。連結は、従来のパイプユニオンの場合のように、パイプに適合したフェルールを受けるための、ステータ110内に形成されたソケットと、適切な固定ナットとを含むことができる。
【0037】
ポート115?120は、直径約0.006インチとすることができ、直径0.1インチの円形アレイ状に配置することができる。ステータ110の外径は、約0.15インチとすることができる。ステータ110は、ステンレス鋼(例えば316ステンレス鋼)、または他の耐食合金から製造することができる。ステータインタフェース112は、保護被膜130を設けることができ、保護被膜130は摩耗を低減し、その結果、バルブ100の動作寿命を延ばす助けとなり得る。保護被膜130は、ダイアモンド状炭素層132、および、ステータインタフェース112とDLC層132との間に密着して配置された接着中間層134を含む。DLC層132および接着中間層134は、フィルタ処理陰極真空アーク(FCVA)蒸着と呼ばれる技術によって施すことができる。」

第5 対比・判断
1 対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。
(1)圧力制御ブロックについて
引用発明の「掘込穴」及び「掘込穴の底面」は、本願発明1の「開口部」及び「前記開口部の底部に平面として設けられた面」に相当し、「掘込穴の底面」は「圧力制御」を行う「ブロック」の「面」であることから、圧力制御面ともいえる。
そうすると、引用発明の「1つの外面から垂直に掘り込まれた掘込穴及び掘込穴の底面にそれぞれの端部の開口をもつ2本の内部流路を有する圧力制御ブロック」は、本願発明1の「1つの外面に設けられた開口部、前記開口部の底部に平面として設けられた圧力制御面、及び前記圧力制御面にそれぞれの端部の開口をもつ2本の内部流路を有する圧力制御ブロック」に相当する。

(2)弁体について
本願発明1の弁体について、本願明細書には「掘込穴32内部の圧力制御面34上に円板状の弁体44が配置されている」(【0031】)と記載されているように、本願発明1における「シート状」とは薄板のような板状のものを含むものであるから、引用発明の「弾性を有し掘込穴の底面を覆う円板状の弁体」は、本願発明1の「弾性を有し前記圧力制御面を覆うように配置されたシート状の弁体」に相当する。
そして、引用発明の「移動相の圧力によって掘込穴の底面の中央部と弁体との間に僅かな隙間が生じ」る「弁体」は、本願発明1の「移動相の圧力によって前記圧力制御面と前記弁体との間に隙間が生じ前記隙間を移動相が流れる弁体」に相当する。

(3)弁体駆動部について
引用発明の「弁体を挟んで底面とは反対側で前記底面に対して垂直な方向に駆動されるように設けられている」、「弁体のうち前記開口が設けられている部分と当接する部分を掘込穴の底面に対して垂直な方向に駆動するアクチュエータ」であって、「掘込穴の底面の中央部と弁体との間の隙間量を」「制御する」「アクチュエータ」は、本願発明1の「前記弁体を挟んで前記圧力制御面とは反対側で前記圧力制御面に対して垂直な方向に駆動されるように設けられ、前記弁体を前記圧力制御面に対して垂直に駆動することによって前記弁体と前記圧力制御面との間の隙間量を調節する弁体駆動部」に相当する。

(4)「超臨界流体クロマトグラフの分析流路内の圧力を制御する圧力制御バルブ」は、超臨界流体に対しての圧力制御バルブであるから、本願発明1の「超臨界流体用圧力制御バルブ」に相当する。

(5)上記(1)?(4)を踏まえると、本願発明1と引用発明とは、次の一致点、相違点があるといえる。
(一致点)
「1つの外面に設けられた開口部、前記開口部の底部に平面として設けられた圧力制御面、及び前記圧力制御面にそれぞれの端部の開口をもつ2本の内部流路を有する圧力制御ブロックと、
弾性を有し前記圧力制御面を覆うように配置されたシート状の弁体であって、移動相の圧力によって前記圧力制御面と前記弁体との間に隙間が生じ前記隙間を移動相が流れる弁体と、
前記弁体を挟んで前記圧力制御面とは反対側で前記圧力制御面に対して垂直な方向に駆動されるように設けられ、前記弁体を前記圧力制御面に対して垂直に駆動することによって前記弁体と前記圧力制御面との間の隙間量を調節する弁体駆動部と、を備えた、
超臨界流体用圧力制御バルブ。」

(相違点)
圧力制御面が、
本願発明1では、「耐衝撃性及び耐摩耗性を有する硬質材料よりも高い硬度を有することで二酸化炭素のキャビテーションに対する耐性を有する材質により構成され、DLC膜により覆われていることによりHV2000以上の硬度を有する、又は、前記圧力制御面に低温窒化処理が施されることにより前記圧力制御面がHV1000以上の硬度を有する」ものであるのに対し、
引用発明では、「掘込穴の底面」は「圧力制御ブロックの材質」と同じ「耐薬品性及び耐圧力性に優れた材料、例えばステンレス(SUS316)」である点。

2 判断
(1)相違点についての判断
引用文献2には、ステータ及びロータがある回転せん断バルブにおいて、その摩耗を低減させるために、ステンレス鋼からなるステータにダイアモンド状炭素層の保護膜を設けることが記載されており、互いに摺動する部材の摩耗を低減させるために、部材の表面にダイアモンド状炭素層の保護膜(DLC膜)を設けることが開示されているといえる。
しかし、引用発明の「掘込穴の底面」は、「耐薬品性及び耐圧力性に優れた」方が好ましいものであるが、そもそも他の部材と摺動する面ではないから、引用文献2を見ても、当業者が「掘込穴の底面」にDLC膜を設けることにはならない。

加えて、引用文献1の(1ア)には、「弁体は耐薬品性、耐衝撃性及び耐圧力性を備えた耐性材料で構成されていることが好ましい。」との記載があり、「弁体」について「耐衝撃性」を備えた方が好ましい旨の記載はあるが、引用文献2からはDLC膜が耐衝撃性を有する材料か不明であり、仮にDLC膜が耐衝撃性を有する材料としても、耐衝撃性を有する保護膜を「掘込穴の底面」に設ける動機はない。

(2)効果について
本願発明1は、「このキャビテーションの衝撃が流体中のモディファイアを通じて圧力制御面に伝達されることで圧力制御面が損傷する、いわゆるエロージョンが発生し、時間経過とともにそのエロージョンによって圧力制御面に設けられている開口(内部流路の端部)の間を連通させる溝が形成されてしまう。」(【0040】)との現象(課題)を見いだし、上記相違点の構成としたことにより「キャビテーションに対する耐性が向上し、キャビテーションに伴うエロージョンが抑制され、圧力制御ブロックの交換頻度を低減することができる。」という顕著な効果を奏するものである。

(3)小括
よって、本願発明1は、引用発明及び引用文献2に記載された事項から当業者が容易になし得た発明とはいえないことから、原査定を維持することはできない。

(4)なお、前置報告書で記載されている特開2001-295948号公報(以下「引用文献3」という。)についても検討しておく。
引用文献3には、
「【0013】ところで、前述した閉弁時のガス漏れについて検討すると、従来のガス制御バルブでは、図7に示すように漏れを発生させるキズPが生じてしまっていたが、これは当接するダイヤフラムと弁座との摩擦や凝着摩耗によるものと考えられる。開閉動作が繰り返し行われると、ダイヤフラムと弁座とのシール部分には擦れが生じる。そして、ダイヤフラムや弁座の表面には水分が付着しており、通常温度ではこれが摩擦抵抗を減らす潤滑剤としての役割を果たすが、高温ガスを扱う場合には、水分がとんでしまって表面が乾燥状態になると考えられる。」
「【0015】本実施形態のガス制御バルブ1は、ダイヤフラム24にはニッケルコバルト合金(Ni-Co合金)を、そしてバルブボディ21にはステンレス鋼(例えば、SUS316)を使用し、そのバルブボディ21の弁座26の表面に、アモルファスカーボン膜をコーティングすることとした。アモルファスカーボン膜には、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)やグラファイトライクカーボン(GLC)といった炭素材料を使用することが考えられる。アモルファスカーボン膜は、結晶粒界がない緻密なアモルファス構造のため、非常になめらかな表面を作り出している。そのため、アモルファスカーボン膜によってコーティングされた弁座26は、表面の摩擦係数が極めて低い値を示すようになり、それに伴って耐凝着性、耐摩耗性などに優れたものとなる。」と記載され、
ダイヤフラムと弁座のように摩擦や凝着摩耗を生じるものに対し、表面にDLC膜を設けて、表面の摩擦係数を低い値にする技術が開示されているが、引用発明の「掘込穴の底面」と「弁体」の間には「隙間」があり、ダイヤフラムと弁座のように互いに当接するものでないから、表面の摩擦係数を低い値にする動機はなく、引用文献3をみても、当業者が「掘込穴の底面」にDLC膜を設けることにはならない。

3 本願発明2及び3について
本願発明2及び3は、上記第2で述べたように、いずれも本願発明1を直接的又は間接的に引用した発明であり、本願発明1をさらに限定した発明であるから、本願発明1と同様に、引用発明及び引用文献2に記載された事項から当業者が容易になし得た発明ではないことから、原査定を維持することはできない。

第6 当審拒絶理由について
1 当審拒絶理由の概要
(明確性)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
・本件補正前の請求項1、6、7
請求項1の「耐衝撃性及び耐摩耗性を有する硬質材料よりも高い硬度を有する」「材質」とは、硬度の値が特定されていないことから、いかなる硬度を有する材質を特定しているのか不明確である。請求項1を引用する請求項6及び7についても同様である。

(サポート要件)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
・本件補正前の請求項1?3、5?7
一般に、金属材料等の無機材料において、硬度を上げれば耐摩耗性も向上する傾向にあるが(例えば、竹内栄一「硬い表面と耐摩耗性について」実務表面技術-80-4、p.171-182、等参照)、耐衝撃性(靱性)と硬度は二律背反の関係にあり、硬度を上げれば耐衝撃性も向上するものではない(例えば、池邉政昭「耐摩耐衝撃用超硬合金の現状と方向性」vol.52(2011)No.10 SOKEIZAI p.7-11、等参照)ことが、当業者における技術常識である。
本願明細書を参照すると、圧力制御面のキャビテーションによるエロージョンを抑えるという上記課題を解決する手段として、圧力制御面に施す処理で具体的にサポートされているのは、DLC膜で被膜することと、低温窒化処理を施すことである。
それに対し、具体的な数値として記載されている請求項2及び3において特定されているのは硬度(HV)であり、上記技術常識に鑑みれば、硬度の値が高ければ耐摩耗性があると一応いえるが、硬度の値が高くても、耐衝撃性があるとはいえないことから、「前記圧力制御面がHV1000以上の硬度を有する」、さらに「前記圧力制御面はHV2000以上の硬度を有する」と特定している請求項2及び3においてすら、それらの硬度を満たす材料すべてが耐衝撃性があり、キャビテーションによるエロージョンを抑えるものとはいえない。
してみれば、請求項4の「前記圧力制御面はDLC膜により覆われている請求項3に記載の超臨界流体用圧力制御バルブ」(請求項3は「前記圧力制御面はHV2000以上の硬度を有する請求項2に記載の超臨界流体用圧力制御バルブ。」)については、サポートされているといえるが、それを引用しないその余の請求項に係る発明はサポートされているとはいえない。
なお、特許請求の範囲には記載されていないが、圧力制御面に低温窒化処理を施してHV1000以上の硬度を有するものとしたものもサポートされているといえる。

2 判断
本件補正により、本願発明1が「前記圧力制御面はDLC膜により覆われていることによりHV2000以上の硬度を有する、又は、前記圧力制御面に低温窒化処理が施されることにより前記圧力制御面がHV1000以上の硬度を有する」と特定されたことにより、上記明確性及びサポート要件についての拒絶の理由は解消した。

第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由及び当審拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2020-09-14 
出願番号 特願2017-563449(P2017-563449)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G01N)
P 1 8・ 537- WY (G01N)
最終処分 成立  
前審関与審査官 北村 一  
特許庁審判長 森 竜介
特許庁審判官 三崎 仁
信田 昌男
発明の名称 圧力制御バルブ及び超臨界流体クロマトグラフ  
代理人 喜多 俊文  
代理人 妹尾 明展  
代理人 阿久津 好二  
代理人 江口 裕之  

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