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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A01C
審判 全部申し立て 2項進歩性  A01C
管理番号 1366043
異議申立番号 異議2019-700498  
総通号数 250 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-10-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-06-21 
確定日 2020-07-13 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6486467号発明「シードプライミングの改良された方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6486467号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔17-19〕について訂正することを認める。 特許第6486467号の請求項1-16、18、19に係る特許を維持する。 特許第6486467号の請求項17に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6486467号の請求項1ないし19に係る特許についての出願は、平成26年10月28日を国際出願日として特許出願され、平成31年3月1日にその特許権の設定登録がされ、平成31年3月20日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、令和1年6月21日に特許異議申立人山本英生により特許異議の申立てがされ、当審は、令和1年12月24日に取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である令和2年3月27日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)を行ったものである。
なお、申立人は特許異議申立書の意見書提出希望の有無の欄において、「希望する。」としているものの、上記令和2年3月27日に行った本件訂正請求における訂正は、実質的に一部の請求項の削除のみであり、特許法第120条の5第5項ただし書に規定される「特別の事情があるとき」にあたることから、申立人に意見書を提出する機会を与える必要はないものである。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下のとおりである。(下線は訂正箇所を示す。)
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項17を削除する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項18に「請求項1?17のいずれか1項に記載の」と記載されているのを、
「請求項1?16のいずれか1項に記載の」に訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項19に「請求項1?18のいずれか1項に記載の」と記載されているのを、
「請求項1?16、18のいずれか1項に記載の」に訂正する。

2 訂正の適否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、請求項17を削除するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「明細書等」という。)に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2及び3について
訂正事項2及び3は、上記訂正事項1によって訂正前の請求項17が削除されたことに伴い、訂正前の請求項17を引用していた訂正前の請求項18及び19を請求項17を引用しないものとし、引用する請求項の数を減らすものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3 一群の請求項について
訂正前の請求項17?19について、請求項18及び19は、請求項17を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項17に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項17?19に対応する訂正後の請求項17?19は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

4 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による上記訂正事項1?3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項、第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項[17?19]について訂正を認める。

第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1?19に係る発明(以下、「本件発明1」?「本件発明19」といい、まとめて「本件発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?19に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
種子のプライミング方法であって、該方法は、
前記種子が吸水の第二段階に入るのに必要な水の量の75重量%以上を吸収するように、プライムされる種子を水溶液で濡らす、種子を濡らす工程であって、濡らす時間は、吸水の第三段階に入るのに必要な時間よりも短い種子を濡らす工程と、
前記種子の水分含有量(重量%、乾燥種子ベース)を一個1パーセント以上低減し、前記種子の残りの水分含有量が25重量%以上となるように低減する種子の水分を低減する工程と、
インキュベーションの間の前記種子の重量が、前記インキュベーションの前の前記種子の前記重量の80%以上に維持され、前記インキュベーションの間の前記種子の水分含有量(乾燥重量ベース)が、インキュベーション時間の25%以上の間、25重量%以上に維持されるように、前記種子をインキュベートするインキュベーション工程、とを含む、種子のプライミング方法。
【請求項2】
プライムされる前記種子は、前記種子が吸水の第二段階に入るのに必要な水の95重量%以上を、前記種子が吸水するように濡らされる、請求項1に記載の種子のプライミング方法。
【請求項3】
プライムされる前記種子は、前記種子が前記吸水の第二段階に入るのに少なくとも十分
な水を、前記種子が吸収するように濡らされる、請求項2に記載の種子のプライミング方法。
【請求項4】
濡らす継続時間は、前記吸水の第二段階に入るのに必要な時間よりも、1?20%長い、請求項3に記載の種子のプライミング方法。
【請求項5】
前記種子は、
内胚乳種、
裸子植物種、
外胚乳種、及び/又は
果皮(子嚢)を有する種子である、請求項1?4のいずれか1項に記載の種子のプライミング方法。
【請求項6】
前記種子を濡らす工程は、前記種子を水溶液に浸漬することを含む、請求項1?5のいずれか1項に記載の種子のプライミング方法。
【請求項7】
前記水溶液は、通気され、そして前記種子を濡らす工程の間、継続的に又は断続的に、選択的に撹拌される、請求項6に記載の種子のプライミング方法。
【請求項8】
前記種子の水分含有量は、前記種子の残りの水分含有量が、前記種子が発芽を完了させるのに十分でないように、低減される、請求項1?7のいずれか1項に記載の種子のプライミング方法。
【請求項9】
前記種子の前記水分含有量は、前記種子を濡らす間に増加した重量の1?60%が、濡らされた前記種子の水分を低減する工程で失われ、及び/又は
前記種子の重量は、濡らされた前記種子の水分を低減する工程で、1?10%低減される、請求項1?8のいずれか1項に記載の種子のプライミング方法。
【請求項10】
前記水分は、前記種子に対して空気を吹き付けることで低減され、前記空気は40%未満の相対湿度及び摂氏25?30度の間の気温を有する、請求項1?9のいずれか1項に記載の種子のプライミング方法。
【請求項11】
前記種子の水分を低減する工程の継続時間は、発芽を完了させるのに十分な水分を有している場合、同じ種類の種子が発芽するのに必要な時間の1/10以下であり、及び/又は
前記種子の水分を低減する工程の継続時間は、前記インキュベーション工程の継続時間の1/10以下である、請求項1?10のいずれか1項に記載の種子のプライミング方法。
【請求項12】
前記種子をインキュベートすることは、相対湿度95%以上100%未満の空気の雰囲気下で前記種子をインキュベートすることを含む、請求項1?11のいずれか1項に記載の種子のプライミング方法。
【請求項13】
前記インキュベーション工程中の前記雰囲気の前記相対湿度は、80?100%の間である、請求項1?11のいずれか1項に記載の種子のプライミング方法。
【請求項14】
前記種子は、水に自由に接触できる種子にとって、吸水の第二段階及び第三段階それぞれに入るのに必要な時間の差以上の時間、インキュベートされる、請求項1?13のいずれか1項に記載の種子のプライミング方法。
【請求項15】
前記インキュベーションの継続時間は、水に自由に接触できる種子にとって、前記吸水の第二段階及び第三段階それぞれに入るのに必要な前記時間の前記差に少なくとも対応し、しかし前記差の3倍より長くない、請求項14に記載の種子のプライミング方法。
【請求項16】
前記種子は、前記インキュベーション工程の間回転され、及び
前記雰囲気は、前記インキュベーション工程の間、継続的に又は断続的に、入れ替えられる、請求項1?15のいずれか1項に記載の種子のプライミング方法。
【請求項17】
(削除)
【請求項18】
前記種子のインキュベーション工程の後に、前記種子の水分を低減する工程を含み、
前記水分含有量は、前記種子のプライミング前と少なくとも同じレベルまで低減される、請求項1?16のいずれか1項に記載の種子のプライミング方法。
【請求項19】
前記種子は、前記インキュベーションの間の前記種子の前記重量が、前記インキュベーションの前の前記種子の前記重量の少なくとも90%に維持されるようにインキューベートされる、請求項1?16、18のいずれか1項に記載の種子のプライミング方法。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
訂正前の請求項17?19に係る特許に対して、当審が令和1年12月24日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
請求項17?19に係る特許は、特許請求の範囲が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。

2 当審の判断
本件訂正により、請求項17は削除されるとともに請求項18及び19は請求項17を引用しないものとされたので、上記1の取消理由は解消された。


第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 申立人が主張する特許異議申立理由
申立人は、特許異議申立書において、訂正前の請求項1?16、18、19に係る発明について、甲第1号証に記載の発明及び甲第2号証に記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨、主張している。

2 各甲号証の記載
(1)甲第1号証
ア 甲第1号証の記載
甲第1号証には、以下の事項が記載されている。(下線は、当決定で付した。以下同様。)
(ア)「【請求項1】
生重量基準(fwb)で2?15%の水分含量(MC)を有する、まだ発芽していないが始働した(primed)種子の貯蔵寿命を、その発芽速度を保持したまま延長する方法であって、当該始働種子を上記水分含量にドライバックする前に
(a)1時間あたりの水分減少が種子の乾燥重量の約0.1ないし1.0%の範囲内に維持されるインキュベーションに付す、あるいは
(b)24時間より少ない時間内に生重量基準で水分含量が3%ないし20%単位減少させられ、その後、1時間あたりの水分減少が種子の乾燥重量の0.1ないし1.04%の範囲内に維持されるインキュベーションに付す、あるいは
(c)-0.5ないし-4.0Mpaの範囲の水ポテンシャルに付す、あるいは
(d)1ないし5時間、25ないし45℃の熱処理に付す、あるいは
(e)工程d)と、工程a)、b)およびc)の1つまたはそれ以上の工程との組み合わせに付す
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
種子が、トマト(tomatoes)、トウガラシ(peppers)、メロン(melons)、スイカ(water melons)、キュウリ(cucumbers)、アブラナ属(Brassicas)、白ネギ(leeks)、ニンジン(carrots)、タマネギ(onions)、カボチャ(squashes)、小キュウリ(gherkins)、エンダイブ(endives)、ツリフネソウ属(Impatiens)、クマツヅラ属(Verbenas)、サクラソウ属(Primulas)、テンジクアオイ属(Pelargoniums)、スミレ属(Viola)、チゴリウム(Chigoriums)およびシクラメン属(Cyclamen)の種子からなる群より選択されるものである、請求項1記載の方法。」

(イ)「【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、常套の始働(primed)種子と比較して長い貯蔵寿命を有する処理始働種子、そのような種子を得る方法およびそれ由来の植物に関する。
【0002】
【従来の技術】
始働種子およびそれらを得る方法は当分野で既知である。始働種子は、未始働種子と比較して、一般に速い発芽および発芽時の良好な同調性を示す。既知の種子始働法は、欧州特許第309511B1号および欧州特許第254569B1号に記載されている。
【0003】
【発明の構成】
本発明は始働種子を水ストレス、熱処理またはそれらの組み合わせ処理に付し、その後必要に応じて所望の水分含量(MC)までドライ・バック(dry back)させることを特徴とする、所望により常套法によりドライ・バックさせた実質的に同じMCを有する同種の始働種子と比較して貯蔵寿命の延長をもたらす、始働種子の処理方法を提供する。
【0004】
上記のような種子のドライ・バックは、種子MCの減少を含むものであって、ドライ・バックは任意の所望のMCまでなし得るが、好ましい態様において未処理種子、即ち始働していない乾燥種子のMCまでである。
以後、「MC」および「水分含量」の語を同義に使用するが、MCは特記しない限り生種子重量に基づいて%で表す。
【0005】
水ストレスは、より低いMCを有する種子をもたらすであろう当分野で既知の任意の方法でなし得る。
一般に水ストレスは、常套法で始働させた種子のMCを5%単位またはそれ以上、即ち既知の始働種子が当初MC25%を有する場合、20%またはそれ以下に減少させ、既知の始働種子が当初MC55%を有する場合、50%またはそれ以下に減少させて得られる。更に具体的には、水ストレスは一般にMCを5?20%単位減少させて得られ、それにより一般にMCの値が15%より少なくならないことが有利である。
【0006】
水ストレスは、とりわけ温度に依存して長時間、一般に1?7日維持されるべきであり、最適条件は種子の種に依存し、標準試験により決定できる。これは常套法で始働させた種子のMCをその所望の減少レベル(便宜的には既知の始働種子のMCより5から20%単位低いレベル)に一定に維持するか、または既知の始働種子を水ストレス下で十分に長期間生き残るようにゆっくり乾燥させることにより達成されることは認められるであろう。
【0007】
従って、延長した貯蔵寿命は、水ストレスを誘導する水ポテンシャルで始働種子をインキュベーションすることにより達成され得る。当該水ストレスの誘導は、始働種子のMCをゆっくりと減少させることにより、または始動種子がなお水ストレスに付されているMCまで初めに迅速なMC減少を行い、次いでここに得られた部分的に乾燥された始働種子をインキュベーションするかまたはゆっくりとしたMC減少を行うことにより、または熱ショックを行うことにより達成することが出来る。遅い、すなわちゆっくりとしたMC減少は、自体常套の方法により、例えば緩和な条件下で乾燥するか、または始働種子をそれに対して毒性を示さない、0MPa以下の水ポテンシャルを有する浸透物質と接触させることにより、達成することができる。以下の工程(a)、(b)および(c)の記載は、始働種子を水ストレスに付する典型的な条件を説明するものである。」

(ウ)「【0014】
始働種子の語は(特記しない限り)、種子が後記のような常套の始働技術に付され、20から55%(種に依存)のMCを有し、常套の始働種子に典型的な乾燥耐性を有すること意味する。全未始働種子が乾燥耐性、即ち乾燥して生存することができ、乾燥耐性の程度は種依存性であることは認められるであろう。常套の方法による始働において、種子は低乾燥耐性となり(この乾燥耐性の喪失は始働の期間の増加とともに増加する)、種子は種子がもはや乾燥耐性であると言えなくなるまで低乾燥耐性となり、この乾燥耐性の完全な損失は種子の発芽の時点でおこる。後記のような本発明の方法は、常套の始働法で始働した未発芽種子に適用される。未発芽種子は、本明細書では幼根および/または胚軸が種子殻または果皮から突出または出現していない種子と定義する。幼根および/または胚軸は、種子殻の中裂またはひび割れの原因となり得るが、それは中裂またはひび割れから突出しない。胚の回りの内乳は、中裂またはひび割れを通して見ることができる。本発明の方法を適用した未発芽既知の始働種子は、以後処理種子と呼ぶ。本発明の方法を適用していない未発芽既知の始働種子は以後常套法で始働させた種子と呼ぶ。始働していない商業的に許容される種子は、未処理種子と呼ぶ。」

(エ)「【0020】
環境保存条件は、環境温度および相対湿度(RH)で保存することを意味する。
・・・・
【0022】
本発明の方法(a)は始働種子の遅い速度での水分損失を含む(以後、遅い乾燥と呼ぶ)。従って、始働種子を、水分損失の速度が約0.1種子乾燥重量%から1.0種子乾燥重量%時間^(-1)、好ましくは約0.2種子乾燥重量%から約0.4種子乾燥重量%h^(-1)の範囲に維持されるインキュベーション相に付する。遅い乾燥は、ドラム缶中で行い(ドラム缶始働)得、酸素化ガスまたは酸素を積極的に供給するか、空気を系中に、単に混合により挿入し得る(受動条件)。水分損失の速度は、インキュベーションの異なった時点で種子を秤量し、期間中の種子重量をプロットすることにより決定する。長い貯蔵寿命の導入に必要である水分損失の速度が、種により、上記定義の範囲内で変化することは認められるであろう。このような条件下に置かれた種子は、始働種子より低い、約5%から約20%、一般に約5%から約15%の間の最終MCを有するであろう。
【0023】
遅い乾燥において、種子は3℃から約40℃までの任意の温度でインキュベーションできる。好ましくは、種子を約20℃から約35℃の温度範囲でインキュベーションする。インキュベーション期間は、インキュベーション温度に依存して約24時間から約1週間またはそれ以上まで続く。従って、例えば、種子の型に依存して、温度が20℃でインキュベーション期間は24時間から約3日またはそれ以上であり、8℃のような低い温度では種に依存してまたは1週間またはそれ以上まであり得る。低温が、例えば病原菌への感染の危険性を少なくするために用いることができる。
【0024】
以後加湿度保存と呼ぶ方法(b)により、始働種子を始働種子の種子MCより少ない種子MCでインキュベーションする。従って始働種子のMCは、(常套の乾燥条件、例えば“速い乾燥条件”により)3から20%単位の間、好ましくは5%から15%単位の間、24時間より少ない時間、例えば8時間またはそれ以下で減少する。種子を乾燥する最少MC値は約15%である。その後、そのように乾燥した種子を、最少空気および水分交換の容器内で、温度およびインキュベーション期間は上記の遅い乾燥に従ってインキュベーションすることにより水ストレスに付する。」

(オ)「【0036】
上記のような任意の方法(a)から(c)、熱ショックまたはこのような方法の組み合わせおよび続いて-望ましい場合-種子を所望のMCまで乾燥して戻すことによる始働種子の処理は、実質的に同じMCを有する同種の常套法で始働させた種子と比較して長い貯蔵寿命を有する種子をもたらす。
【0037】
従って、本発明は上記のような方法(a)、(b)、(c)、熱ショックまたはこのような方法の組み合わせおよび続いて-望ましい場合-種子を所望のMCまでドライ・バックすることにより得られる種子を提供する。
【0038】
本発明はまた環境保存条件下で保存した場合、実質的に同じMCを有し、そのMCを所望により既知の乾燥条件下で減少させた同種の常套法で始働させた種子より実質的に長い貯蔵寿命を有する、湿ったまたは乾燥形の処理始働種子を提供する。
【0039】
本発明の種子は、乾燥、即ち未処理種子に一般的なMCから発芽的代謝工程以外の代謝工程が続くMCまでの範囲のMCを有する。」

(カ)「【0052】
本発明の種子は、常套の始働工程を適用できる任意の所望の種であり得る。好適な種子型の例は、トマト(tomatoes)、トウガラシ(peppers)、メロン(melons)、スイカ(waetr melons)、キュウリ(cucumbers)、アブラナ属(Brassicas)、白ネギ(leeks)、ニンジン(carrots)、タマネギ(onions)、カボチャ(squashes)、小キュウリ(gherkins)、エンダイブ(endives)、ツリフネソウ属(Impatiens)、クマツヅラ属(Verbenas)、サクラソウ属(Primulas)、テンジクアオイ属(Pelargoniums)、スミレ属(Viola)、チゴリウム(Chigoriums)およびシクラメン属(Cyclamen)を含む。アブラナ属の具体的な例は、キャベツ、ブロッコリー、カリフラワーおよび芽キャベツである。
【0053】
本明細書に記載の種子から成育した植物もまた本発明の範囲内に含まれる。
【0054】
当分野で既知である多くの種子始働法がある。以下は短い復習である:
種に依存して、未始働、即ち未処理種子を数時間、例えば水カラム内の水性溶液に、予備始働処理として浸し得る。このような予備処理は当分野で既知であり、始働の間種子が違いにくっつくのを防ぎ、および/または種子の始働を容易にする。
【0055】
未始働種子または上記予備始働処理を受けた種子を、種子が水を予備発芽代謝工程が開始し、続くが、(上記定義のような)発芽は不可能である条件、例えば時間、温度、種子が摂取する水の下に置く。
【0056】
吸水は任意の吸水法で行い得る。従って、例えば吸水すべき(未発芽)種子を、ドラム缶または水カラム中に、通気しながらまたはせずに、0MPa(もし種子を水中に置くなら)、またはもし種子を浸透溶液中に置くなら約0MPaから約-1.5MPaの間の水ポテンシャルへ置き得る。選択した始働法に依存して、吸水の量は、始働溶液(水カラムのような水性液体始働技術中)および系に添加すべき水の量(例えばドラム缶始働技術)により決める。
【0057】
種子は、そのMCが、一般的に約25%から約55%、好ましくは約30%から約50%まで、種子の型に依存して上昇するまで、添加した水を吸水する。
種子のMCは、以下の式:
【数1】


(式中、Wi=最初の重量、Wa=種子を103℃で16時間、若しくは130℃で2時間にわたって乾燥させた後の重量)
を使用して計算する。」

(キ)「【0068】
実施例1(遅い乾燥)
スミレ属の乾燥予備処理種子60gを、3rpmでその側が回転している6lのドラム缶に、3日間、室温が20℃に制御され、部屋のRHが70%に制御されている部屋の中で置くことにより始働する。ドラム缶は直径7.5cmの口を蓋に有し、その上に綿のメッシュを置き(メッシュサイズ約0.1mm)、種子の通気を可能にする。始働の間の種子のMCは種子の湿重量の35%に維持する。乾燥種子の最初のMCは、種子の重量を、130℃で2時間乾燥前および後で秤量することにより決定する。種子乾燥重量は、当分野で既知の方法を使用して行う。種子のMCを所望の濃度、この場合、湿重量の35%まで上げるために、好適な量の水をドラム缶に加える。蒸発(生重量を基本にして計算して1日当たり1-2%)を、ドラム缶および含量を秤量して追跡し、一日を基本にして、水をつぎたし、秤量の間に観察された重量変化を埋め合わせる。
【0069】
対照始働種子10g(湿重量)を3日後ドラム缶から取り出し、空気流(2m/s)中で、20℃の温度および40%のRHで、16時間乾燥する。乾燥速度は、乾燥種子重量を基本に計算して5-10%水分損失/時間である。乾燥後の種子MCは6%である。
【0070】
試験サンプルのこのように始働した種子(MC35%)70gを、以下の遅い乾燥条件下の温度、相対湿度および水分損失速度の部屋の中で、同じドラム缶内で更に3日間インキュベーションすることにより、更なるインキュベーションに付する:温度20℃、RH90%および水分損失の速度0.1-0.3%MC/時間、上記のように秤量により測定。ドラム缶口は、ポアサイズ約0.6mmのナイロンメッシュで覆い、蒸発を促進する。種子を、次いで、ドラム缶から取り出し、上記の対象種子と同じ条件下で、MC6%まで乾燥させる。」

(ク)「【0103】
実施例9(加湿保存)
パンジー種子を実施例1記載のように予備処理し始働する。
対照種子10gを3日後にドラム缶から除去し、実施例1の対照のように6%まで乾燥する。
試験サンプル種子(MC34%)10gを、対照種子のようにであるが、MC25%まで乾燥する。
【0104】
次いで、種子を防水であるが気密ではないプラスチック容器に移し、20℃で3日間インキュベーションする。このインキュベーションの後、種子を更に対照種子と同じまで乾燥する。
対照(既知の始働)、本発明の種子(加湿保存)および未処理種子(即ち未始働)種子の貯蔵寿命を、実施例1に記載のように測定する。
【0105】
表9は、未処理種子と比較した相対値で示した、既知の始働種子および本発明の種子のCD試験24時間後の生存を示す。表は、減少したが一定の種子MC(始働後のMCと比較して)が始働種子の貯蔵寿命を回復させることを示す。
・・・
【0107】
実施例10(加湿種子)
トウガラシ属(トウガラシ)シーブイ・アブデラ(cv.Abdera)を実施例3のようにドラム缶始働する。
始働後の種子MCは35.3%であった。165分において、種子をMC4.8%まで、温度25℃、RH40%および空気流2ms^(-1)で乾燥した。2個の複製の種子サンプルを、MC35.3(最初のMC)、30.6%、25.5%、20.0%、14.8%および9.6%で取り出した。これらのサンプルを密閉容器(0.15dl)内で、一つのサンプルは8℃、他方は20℃で、7日間インキュベーションした。
【0108】
インキュベーションの後、全てのサンプルを最初の乾燥工程と同様の条件で最終MC4.8%まで乾燥した。
対照(既知の始働)、本発明の種子(加湿保存)および未処理種子(即ち未始働)の貯蔵寿命を実施例1に記載のように測定する。
【0109】
表10は、始働直後にMC4.8%までドライ・バックした始働種子は、CD試験後低い生存率を示すが、一方始働後のMCと比較して5から15%減少したMCでインキュベーションした種子は、未処理種子と殆ど同様の貯蔵寿命を有する。
本導入工程の間の温度は方法には重要ではない。」

(ケ)上記(キ)及び(ク)からいえること
a 実施例9は、実施例1のように始動させるものであるから、実施例9は、パンジー種子を、3rpmでその側が回転している6lのドラム缶に、3日間、室温が20℃に制御され、部屋のRHが70%に制御されている部屋の中で置くことにより始働させ、ドラム缶は直径7.5cmの口を蓋に有し、その上に綿のメッシュを置き(メッシュサイズ約0.1mm)、種子の通気を可能にするものといえる。
b 実施例9の、乾燥される前のサンプル種子10gのMCが34%であることから、実施例9では、吸水によって、パンジー種子のMCを34%にさせたものといえる。
c 実施例9の対照種子10gは、実施例1の対照種子のように乾燥させるものであり、その実施例1では、対照種子を3日後ドラム缶から取り出し、空気流(2m/s)中で、20℃の温度および40%のRHで、乾燥速度は、乾燥種子重量を基本に計算して5-10%水分損失/時間であるとされている。
実施例9の試験サンプル種子(MC34%)10gは、「対照種子のようにであるが、MC25%まで乾燥する」ものであるから、上記と同様の条件、すなわち、3日後ドラム缶から取り出し、空気流(2m/s)中で、20℃の温度および40%のRHで、乾燥速度は、乾燥種子重量を基本に計算して5-10%水分損失/時間であって、MC25%まで乾燥されるものといえる。なお、実施例9においては、上記乾燥条件による乾燥時間についての言及はない。

イ 甲第1号証に記載された発明
上記ア(ア)?(ケ)より、甲第1号証には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
(甲1発明)
「a 常套の始働(primed)種子と比較して長い貯蔵寿命を有する処理始働種子を得る方法であって、
b 予備始働処理を受けた種子を、種子が水を予備発芽代謝工程が開始し、続くが、発芽は不可能である条件、例えば時間、温度、種子が摂取する水の下に置いて吸水させるものであって、
パンジー種子を、3rpmでその側が回転している6lのドラム缶に、3日間、室温が20℃に制御され、部屋の相対湿度(RH)が70%に制御されている部屋の中で置くことにより始働させ、ドラム缶は直径7.5cmの口を蓋に有し、その上に綿のメッシュを置き(メッシュサイズ約0.1mm)、種子の通気を可能にし、水分含量(MC)を34%にさせ、
c 24時間より少ない時間内に生重量基準で水分含量(MC)が3%ないし20%単位減少させられるものであって、
3日後ドラム缶から、パンジー種子(MC34%)10gを取り出し、空気流(2m/s)中で、20℃の温度および40%の相対湿度(RH)で、乾燥速度は、乾燥種子重量を基本に計算して5-10%水分損失/時間であって、水分含量(MC)25%まで乾燥し、
d その後、1時間あたりの水分減少が種子の乾燥重量の0.1ないし1.04%の範囲内に維持されるものであって、
種子を防水であるが気密ではないプラスチック容器に移し、20℃で3日間インキュベーションに付し、
e このインキュベーションの後、種子を更にMC6%まで乾燥する、
方法。」
(上記「a」ないし「e」は、便宜的に当決定で付与した。)

(2)甲第2号証
ア 甲第2号証の記載
甲第2号証には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】種子の含水率が30%乾重量以上になるように種子に水を含浸し、得られた種子を相対湿度50%以上の気相環境下で発芽直前まで保持することを特徴とする種子の発芽開始時期の均一化方法。」

(イ)「【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記の状況を鑑み、よりすぐれた種子の発芽性能を改良する技術を見い出すべく、鋭意検討を重ねた結果、(1) 種子の含水率がある一定の値以上になるように種子を調製すること、(2) 調製された種子をある一定の値以上の相対湿度である気相環境下で発芽直前まで保持すること、により調製された種子の発芽開始時期が均一化されることを見い出し、そしてコート処理前に種子を該方法により調製し、調製された種子をコートすることによりコート種子の発芽開始時期の均一化にも成功し、本発明を完成した。すなわち、本発明は、種子の含水率が30%乾重量以上になるように種子に水を含浸し、得られた種子を相対湿度50%以上の気相環境下で発芽直前まで保持することを特徴とするコート種子の発芽開始時期の均一化方法および該方法により調製された種子、さらにコート処理前に種子を該方法により調製し、調製された種子をコートすることによって得られるコート種子およびその製造方法を提供するものである。
【0005】本発明において用いられる種子としては、例えば、レタス等のキク科作物、ネギ、タマネギ等のユリ科作物、カンラン等のブラシカ科作物、ホウレンソウ等のアカザ科作物、ミツバ、セロリ、パセリ等のセリ科作物、ゴボウ等のキク科作物、ナス、トマト等のナス科作物、ダイコン、ハクサイ等のアブラナ科作物等の野菜種子、パンジー、ユーストマ、ベゴニア等の花種子、ギニアグラス、ローズグラス等の牧草種子、デントコーン、イネ、オオムギ等のイネ科作物等の穀物種子、ユーカリ等の樹木種子、ソラマメ、ダイズ、エンドウ等のマメ科作物、ヒマワリ等のキク科作物、ソバ等のタデ科作物、食用ヒエ等のイネ科作物の食用及び工芸作物等をあげることができる。」

(ウ)「【0011】実施例1
ホウレンソウ (Spinacia oleracea L.)種子に、あらかじめ室温で30分間蒸留水を含浸させ、種子の含水率が70%乾重量になるように調製された種子を得た。つぎに得られた種子を、温度15℃で相対湿度95%に設定された植物育成装置(ナガノ科学機械製)内に3日間静置した。このときの他の条件としては、気相のガス成分が酸素濃度21%の空気成分で、暗条件であった。気相法による上記の処理後、調製された種子をドラム式通風乾燥機(田中化学機械製)を用いて温度60℃で絶対湿度0.05kg/kg の乾燥空気を30分間供給することにより乾燥させた。このようにして乾燥された種子、すなわち発芽性能が改良された種子(含水率;8%乾重量)を、殺菌剤であるベンレートT(水和剤20、デュポン・ジャパンリミテッド製)を0.5重量%の割合で含有する被覆資材(カルボキシメチルセルロースの1%(w/v) 水溶液)でフィルムコート加工することにより、コート種子を製造した。
【0012】実施例2
ニンジン(Daucus carotaL.)種子に、あらかじめ室温で1時間蒸留水を含浸させ、種子の含水率が80%乾重量になるように調製された種子を得た。つぎに得られた種子を、温度25℃で相対湿度95%に設定された植物育成装置(ナガノ科学機械製)内に2日間静置した。このときの他の条件としては、気相のガス成分が酸素濃度21%の空気成分で、暗条件であった。気相法による上記の処理後、調製された種子をドラム式通風乾燥機(田中化学機械製)を用いて温度60℃で絶対湿度0.05kg/kg の乾燥空気を30分間供給することにより乾燥させた。このようにして乾燥された種子、すなわち発芽性能が改良された種子(含水率;4%乾重量)を、殺菌剤であるベンレートT(水和剤20、デュポン・ジャパンリミテッド製)を0.5重量%の割合で含有する被覆資材(カルボキシメチルセルロースの1%(w/v) 水溶液)でフィルムコート加工することにより、コート種子を製造した。」

3 当審の判断
(1)本件発明の発明特定事項である「吸水の第二段階」、「吸水の第三段階」及び「インキュベーション工程」の意味内容について
発明特定事項である「吸水の第二段階」及び「吸水の第三段階」がどのような段階であるのか、また「インキュベーション工程」がどのような工程であるのかは、特許請求の範囲の記載からは明らかでない。そこで、明細書の記載及び出願時の技術常識を考慮すると、これらの事項は、以下のとおり解釈することができる。
ア 本件明細書の記載
(ア)「【0018】成熟して乾燥した種子による発芽プロセスの間の水の吸収は、三段階である。最初の段階の間(第一段階、吸収)、水の高速な吸収が、プラトー段階(第二段階、遅滞期)に達するまで起きる。遅滞期の間は、実質的に水は吸収されない。ある種の種子、例えば、麦の種子、セイヨウニラネギの種子にとって、遅滞期の間にも水は部分的に吸水される。しかし、最初の時期の間よりも非常に遅い。遅滞期が終わった後、第三段階(発芽、根の発毛)が始まり、水は再度種子によって早く吸水される。種子が水に接触すると、種子に発芽を準備させる一連の代謝プロセスが始まる。それは、吸水及び遅滞期(第二段階)の間の両方で起こる。発芽プロセス全体の間に最も活動的な器官は胚であり、よって、胚が十分に水を吸収することは、非常に重要である。」
(イ)「【0037】
所定の種子にとって、吸水の第二段階に入るための時間の長さは、実験に基づいて決定されてよい。例えば関心のある種類の乾燥した種子を浸漬し、続いてISTA規則等に沿って種子の水分含有量を決定する。一度種子が水に接触し、すなわち濡らすことが開始されると、これらの種子は、吸水の第二段階に入るまでに水を吸水する(このことは、種子の飽和を意味するだろう)。遅滞期(第二段階)の間にも水を吸水する種子にとって、初期段階の間の急速な吸水と遅滞期の間の遅い吸水の間の交わるところが、濡らす工程の下限を決定するために使用される。第三段階に入ることは、根の発毛に対応する。第三段階に入るのに必要な濡らす時間は、このようにして連続的に種子を濡らし、根の発毛を観察することで決定される。」
(ウ)「【0001】
本発明は、種子を水溶液に浸漬し、続いてインキュベート(定温で放置すること)を含むシードプライミングの方法に関する。さらに、本発明は、そのような方法で得られる種子及びそのような種子から育成される植物に関する。」
(エ)「【0019】
種子が水に浸漬され、続いて高い相対湿度を有する大気下にインキュベート(定温放置)されるような、従来技術(特許第728901号及び米国特許第6,421,956参照)における発芽プロセスを避けるため、浸漬時間、水溶液の浸透圧及びインキュベーション時間を制御することは、最も重要な事項である。これらのいずれかのパラメーターが誤って制御されると、種子がプライミングプロセスの間に発芽するリスクがある。」

イ 用語の解釈
(ア)「吸水の第二段階」について
上記ア(ア)及び(イ)の記載および技術常識を考慮すると、「吸水の第二段階」とは、乾燥した種子による発芽プロセスにおいて、高速な水の吸収が起きる最初の段階(第一段階)に続く、実質的に水の吸収がなされないプラトー段階(遅滞期)と解することができる。
(イ)「吸水の第三段階」について
上記ア(ア)及び(イ)の記載および技術常識を考慮すると、「吸水の第三段階」とは、実質的に水の吸収がなされていないプラトー段階(遅滞期)、すなわち、上記「吸水の第二段階」に続く、発芽や根の発毛が始まり、再度水が早く吸収される段階と解することができる。
(ウ)「インキュベーション工程」について
上記ア(ウ)及び(エ)の記載及び技術常識を考慮すると、「インキュベーション工程」とは、定温で放置することと解することができる。

(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、
(ア)甲1発明は、「始働(primed)」された「種子を得る方法」であるから、甲1発明の「処理始働種子を得る方法」及び「方法」は、本件発明1の「種子のプライミング方法」に相当する。

(イ)甲1発明の「種子」が置かれる「水」は、本件発明1の「プライムされる種子」が濡らされる「水溶液」に相当する。
また、甲1発明は、「発芽は不可能である条件、例えば時間」、「種子が摂取する水の下に置いて吸水させる」ことから、発芽が始まる時間よりも短い時間で吸水させることは明らかである。したがって、甲1発明の「種子」の「発芽」が「不可能である条件、例えば時間」で、「吸水させる」ことは、本件発明1の「吸水の第三段階に入るのに必要な時間よりも短い種子を濡らす」ことに相当する。
そうすると、甲1発明は、本件発明1の「プライムされる種子を水溶液で濡らす、種子を濡らす工程であって、濡らす時間は、吸水の第三段階に入るのに必要な時間よりも短い種子を濡らす工程」の構成を備えているといえる。

(ウ)種子の水分含有量(重量%)を、乾燥種子ベースで計算する場合、水分の重量を、水分を含む生種子の重量ではなく、水分を含まない乾燥種子の重量で割るのであるから、乾燥種子ベースで計算した場合の数値の方が、生種子重量(MC)で計算した場合の数値よりも大きくなることは、技術常識である。
そうすると、甲1発明の、生種子重量(MC)として計算された「25%」を乾燥種子ベースで表すと、「25%」より大きくなることは明らかである。
したがって、甲1発明の「MC25%まで乾燥」させることは、本件発明1の「前記種子の残りの水分含有量が25重量%以上となるように低減」させることに相当する。
また、甲1発明は、ドラム缶から取り出された「パンジー種子」の水分含有量が「MC34%」から、乾燥後に「MC25%」に至っていること、すなわち、MCとして9%減じていること、及び上記の技術常識をふまえると、乾燥の前後において、種子の水分含有量(重量%、乾燥種子ベース)を一個1パーセント以上低減させていることは、明らかである。
以上のことをふまえると、甲1発明は、本件発明1の「前記種子の水分含有量(重量%、乾燥種子ベース)を一個1パーセント以上低減し、前記種子の残りの水分含有量が25重量%以上となるように低減する種子の水分を低減する工程」の構成を備えているといえる。

(エ)甲1発明の「種子」を「インキュベーションに付」すことは、本件発明1の「種子をインキュベートするインキュベーション工程」に相当する。

したがって、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
「種子のプライミング方法であって、該方法は、
プライムされる種子を水溶液で濡らす、種子を濡らす工程であって、濡らす時間は、吸水の第三段階に入るのに必要な時間よりも短い種子を濡らす工程と、
前記種子の水分含有量(重量%、乾燥種子ベース)を一個1パーセント以上低減し、前記種子の残りの水分含有量が25重量%以上となるように低減する種子の水分を低減する工程と、
前記種子をインキュベートするインキュベーション工程、とを含む、種子のプライミング方法。」

<相違点1>
種子を濡らす工程について、本件発明1では、「前記種子が吸水の第二段階に入るのに必要な水の量の75重量%以上を吸収するように」濡らしているのに対して、甲1発明では、そのように特定されていない点。

<相違点2>
インキュベーション工程について、本件発明1では、「インキュベーションの間の前記種子の重量が、前記インキュベーションの前の前記種子の前記重量の80%以上に維持され、前記インキュベーションの間の前記種子の水分含有量(乾燥重量ベース)が、インキュベーション時間の25%以上の間、25重量%以上に維持されるように、前記種子をインキュベートする」のに対して、甲1発明では、そのように特定されていない点。

イ 判断
上記相違点について検討する。
(ア)相違点1について
申立人が提出した甲第2号証には、種子の発芽性能を改良する技術において、種子の含水率が30%乾重量以上になるように種子に水を含浸させる点が記載されており、前記含浸させる点は、本件発明1の種子を濡らす工程に相当する。
しかしながら、甲第2号証には、種子を濡らす工程について「前記種子が吸水の第二段階に入るのに必要な水の量の75重量%以上を吸収するように濡らしている」点は記載されておらず、また示唆もされていない。
よって、甲第2号証に記載されている事項を甲1発明に適用したとしても、相違点1に係る本件発明1の構成に想到することはできない。

(イ)相違点2について
申立人が提出した甲第2号証には、ホウレンソウ種子について、含水率が70%乾重量になるように調製された種子を、温度15℃で相対湿度95%に設定された植物育成装置内に3日間静置するという技術事項や、ニンジン種子について、含水率が80%乾重量になるように調製された種子を、温度25℃で相対湿度95%に設定された植物育成装置内に2日間静置するという技術事項が記載されている。これらの技術事項は、種子を定温で放置するものであるから、本件発明1の「インキュベーション工程」に相当するものといえる。
しかしながら、甲第2号証には、「インキュベーションの間の種子の重量が、前記インキュベーションの前の前記種子の前記重量の80%以上に維持され」ることや、「前記インキュベーションの間の前記種子の水分含有量(乾燥重量ベース)が、インキュベーション時間の25%以上の間、25重量%以上に維持される」ことは記載されておらず、また示唆もされていない。
よって、甲第2号証に記載されている事項を甲1発明に適用したとしても、相違点2に係る本件発明1の構成に想到することはできない。

(ウ)申立人の主張について
a 申立人は、甲1発明の、吸水段階で種子に吸水させる水分量は、開始された「発芽以外の代謝工程」がその後インキュベーションの期間を通じて続くだけの量を持たせることを考慮すると、種子が始動処理の途中で発芽してしまうことが防止できる範囲で、吸水段階では種子に十分な量の水を吸水させておく動機付けがあること、また、甲第1号証の段落(0056)に記載されるように、種子をその中に置く水あるいは浸透溶液の水ポテンシャルに応じて、吸水の量が定まることも示唆されていることから、甲1発明において、種子を「水中または浸透溶液中に置く」際に、種子が水の吸収の遅滞期となる吸水の第二段階には要るのに必要な漁の75重量%以上を吸収するような時間とすることは、甲第1号証中の示唆に基づいて当業者であれば適宜になし得た設計事項程度である旨、主張している。(特許異議申立書の第26頁22行-第27頁14行)

しかしながら、甲1発明は、予備発芽代謝工程が開始し、続くが、発芽は不可能である条件で種子に吸水させ、パンジー種子のMCを34%までさせたものであるが、そもそも、甲第1号証には、「吸水の第二段階」について何ら記載がなされていないから、甲1発明は、種子を濡らす工程において吸水させる水分含量を、「種子が吸水の第二段階に入るのに必要な水の量」をふまえて、前記「必要な水の量」を算出するという技術思想を有する発明ではない(上記2(1)イの構成b参照)。よって、甲1発明は、「種子が吸水の第二段階に入るのに必要な水の量の75重量%以上を吸収」させているとはいえない。
また、パンジー種子のMCが34%であることを以って、種子が吸水の第二段階に入るのに必要な水の量の75重量%以上を吸収させた結果であるということが自明であるともいえない。
さらに、プライミング方法において、「パンジー種子において、吸水の第二段階に入るのに必要な水の量の75重量%以上を吸収」させることが、周知であるともいえない。
以上のことから、本件発明1のように「種子が吸水の第二段階に入るのに必要な水の量の75重量%以上」の水分含量に至るまで吸水させることが、甲第1号証中の示唆に基づいて当業者であれば適宜なし得た設計事項程度ということはできない。

b また、申立人は甲第1号証ではインキュベーションに関して、段落(0027)には「方法(b)および(c)のための好適なインキュベーション条件(長さ、温度)は、とりわけ方法(a)で述べた条件を含む。」との記載があり、及び段落(0023)には、方法(a)におけるインキュベーション期間は「インキュベーション温度に依存して約24時間から約1週間またはそれ以上まで続く。」と記載されており、また、甲第1号証ではインキュベーションは「1時間あたりの水分減少が種子の乾燥重量の0.1ないし1.04%の範囲内に維持される」と記載されている。このことから、インキュベート工程における種子の水分減少量は、具体的に算出すると、種子の乾燥重量の2.4%以上175%以下となる。ここで、インキュベート工程は種子に発芽のための代謝準備を進めさせる工程であり、発芽のための代謝準備には水と酸素の供給が重要であることは周知である。
そうすると、種子に発芽のための代謝準備を進めさせるために、インキュベート工程における種子の水分減少量を前記の具体的な算出範囲の中でも少なく抑えること、すなわちインキュベーションの間、種子の重量をインキュベーション前の種子の重量に対して所定パーセント以上(例えば80%以上)に維持することは、甲第1号証中の示唆に基づいて当業者であれば適宜になし得た設計事項程度である旨、を主張し、(特許異議申立書の第29頁4-22行)
また、甲1発明において、「前期インキュベーションの間の前記種子の水分含有量(乾燥重量ベース)が、インキュベーション時間の25%以上の間、25重量%以上に維持される」ようにすることが、甲第1号証中の示唆に基づいて当業者であれば適宜になし得た設計事項程度である旨、を主張している。(特許異議申立書の第30頁3-10行)

しかしながら、甲1発明は、インキュベーション中の種子の重量の変遷が明らかでなく、またインキュベーション工程が終了した時点や、その後の乾燥工程に入る直前の時点のMC(生種子重量)もしくは、水分含有量(乾燥種子ベース)が明らかでない(上記2(1)イの構成d,e参照)。このようなことから、インキュベーションに付されている間の種子の重量が、インキュベーションの前の種子の重量の80%以上に維持されているとはいえないし、また、インキュベーション時間の25%以上の間、乾燥重量ベースで25重量%以上に維持されるとはいえない。
また、インキュベーションに付されるパンジー種子(MC25%)が、上記のような条件でインキュベーションに付された場合に、インキュベーションの間の種子の重量が、インキュベーションの前の種子の重量の80%以上に維持されること、及び、インキュベーション時間の25%以上の間、乾燥重量ベースで25重量%以上に維持されることが自明であるとも認められない。
さらに、プライミング方法において、「インキュベーションの間の前記種子の重量が、前記インキュベーションの前の前記種子の前記重量の80%以上に維持され、前記インキュベーションの間の前記種子の水分含有量(乾燥重量ベース)が、インキュベーション時間の25%以上の間、25重量%以上に維持されるように、前記種子をインキュベートとする」ことが周知であるという証拠もない。
以上のことから、本件発明1のように「インキュベーションの間の前記種子の重量が、前記インキュベーションの前の前記種子の前記重量の80%以上に維持され、前記インキュベーションの間の前記種子の水分含有量(乾燥重量ベース)が、インキュベーション時間の25%以上の間、25重量%以上に維持されるように、前記種子をインキュベートとする」ことが、甲第1号証中の示唆に基づいて、当業者であれば適宜になし得た設計事項程度ということはできない。

(エ)まとめ
したがって、本件発明1は、甲1発明及び甲第2号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件発明2?16、18、19について
本件発明2?16、18、19は、本件発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに構成を限定したものであるから、上記(2)に示した理由と同様の理由により、甲1発明及び甲第2号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)小括
以上のとおりであるから、取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由によって、本件請求項1?16、18、19に係る特許を取り消すことはできない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由、及び各証拠によっては、本件請求項1?16、18、19に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件請求項1?16、18、19に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

また、請求項17に対する本件特許異議の申立ては、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定によって却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
種子のプライミング方法であって、該方法は、
前記種子が吸水の第二段階に入るのに必要な水の量の75重量%以上を吸収するように、プライムされる種子を水溶液で濡らす、種子を濡らす工程であって、濡らす時間は、吸水の第三段階に入るのに必要な時間よりも短い種子を濡らす工程と、
前記種子の水分含有量(重量%、乾燥種子ベース)を一個1パーセント以上低減し、前記種子の残りの水分含有量が25重量%以上となるように低減する種子の水分を低減する工程と、
インキュベーションの間の前記種子の重量が、前記インキュベーションの前の前記種子の前記重量の80%以上に維持され、前記インキュベーションの間の前記種子の水分含有量(乾燥重量ベース)が、インキュベーション時間の25%以上の間、25重量%以上に維持されるように、前記種子をインキュベートするインキュベーション工程、とを含む、種子のプライミング方法。
【請求項2】
プライムされる前記種子は、前記種子が吸水の第二段階に入るのに必要な水の95重量%以上を、前記種子が吸水するように濡らされる、請求項1に記載の種子のプライミング方法。
【請求項3】
プライムされる前記種子は、前記種子が前記吸水の第二段階に入るのに少なくとも十分な水を、前記種子が吸収するように濡らされる、請求項2に記載の種子のプライミング方法。
【請求項4】
濡らす継続時間は、前記吸水の第二段階に入るのに必要な時間よりも、1?20%長い、請求項3に記載の種子のプライミング方法。
【請求項5】
前記種子は、
内胚乳種、
裸子植物種、
外胚乳種、及び/又は
果皮(子嚢)を有する種子である、請求項1?4のいずれか1項に記載の種子のプライミング方法。
【請求項6】
前記種子を濡らす工程は、前記種子を水溶液に浸漬することを含む、請求項1?5のいずれか1項に記載の種子のプライミング方法。
【請求項7】
前記水溶液は、通気され、そして前記種子を濡らす工程の間、継続的に又は断続的に、選択的に撹拌される、請求項6に記載の種子のプライミング方法。
【請求項8】
前記種子の水分含有量は、前記種子の残りの水分含有量が、前記種子が発芽を完了させるのに十分でないように、低減される、請求項1?7のいずれか1項に記載の種子のプライミング方法。
【請求項9】
前記種子の前記水分含有量は、前記種子を濡らす間に増加した重量の1?60%が、濡らされた前記種子の水分を低減する工程で失われ、及び/又は
前記種子の重量は、濡らされた前記種子の水分を低減する工程で、1?10%低減される、請求項1?8のいずれか1項に記載の種子のプライミング方法。
【請求項10】
前記水分は、前記種子に対して空気を吹き付けることで低減され、前記空気は40%未満の相対湿度及び摂氏25?30度の間の気温を有する、請求項1?9のいずれか1項に記載の種子のプライミング方法。
【請求項11】
前記種子の水分を低減する工程の継続時間は、発芽を完了させるのに十分な水分を有している場合、同じ種類の種子が発芽するのに必要な時間の1/10以下であり、及び/又は
前記種子の水分を低減する工程の継続時間は、前記インキュベーション工程の継続時間の1/10以下である、請求項1?10のいずれか1項に記載の種子のプライミング方法。
【請求項12】
前記種子をインキュベートすることは、相対湿度95%以上100%未満の空気の雰囲気下で前記種子をインキュベートすることを含む、請求項1?11のいずれか1項に記載の種子のプライミング方法。
【請求項13】
前記インキュベーション工程中の前記雰囲気の前記相対湿度は、80?100%の間である、請求項1?11のいずれか1項に記載の種子のプライミング方法。
【請求項14】
前記種子は、水に自由に接触できる種子にとって、吸水の第二段階及び第三段階それぞれに入るのに必要な時間の差以上の時間、インキュベートされる、請求項1?13のいずれか1項に記載の種子のプライミング方法。
【請求項15】
前記インキュベーションの継続時間は、水に自由に接触できる種子にとって、前記吸水の第二段階及び第三段階それぞれに入るのに必要な前記時間の前記差に少なくとも対応し、しかし前記差の3倍より長くない、請求項14に記載の種子のプライミング方法。
【請求項16】
前記種子は、前記インキュベーション工程の間回転され、及び
前記雰囲気は、前記インキュベーション工程の間、継続的に又は断続的に、入れ替えられる、請求項1?15のいずれか1項に記載の種子のプライミング方法。
【請求項17】
削除
【請求項18】
前記種子のインキュベーション工程の後に、前記種子の水分を低減する工程を含み、
前記水分含有量は、前記種子のプライミング前と少なくとも同じレベルまで低減される、請求項1?16のいずれか1項に記載の種子のプライミング方法。
【請求項19】
前記種子は、前記インキュベーションの間の前記種子の前記重量が、前記インキュベーションの前の前記種子の前記重量の少なくとも90%に維持されるようにインキューベートされる、請求項1?16、18のいずれか1項に記載の種子のプライミング方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-06-29 
出願番号 特願2017-522050(P2017-522050)
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (A01C)
P 1 651・ 121- YAA (A01C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 坂田 誠  
特許庁審判長 森次 顕
特許庁審判官 西田 秀彦
袴田 知弘
登録日 2019-03-01 
登録番号 特許第6486467号(P6486467)
権利者 ロブスト シード テクノロジー エーアンドエフ アクチエボラーグ
発明の名称 シードプライミングの改良された方法  
代理人 林 一好  
代理人 正林 真之  
代理人 林 一好  
代理人 正林 真之  
代理人 芝 哲央  
代理人 芝 哲央  
代理人 岩池 満  
代理人 岩池 満  
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