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審決分類 審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  C04B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C04B
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  C04B
審判 全部申し立て 2項進歩性  C04B
審判 全部申し立て ただし書き2号誤記又は誤訳の訂正  C04B
管理番号 1366052
異議申立番号 異議2019-700242  
総通号数 250 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-10-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-03-27 
確定日 2020-07-27 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6432755号発明「コンクリート構造物の表面仕上げ方法及びコンクリート構造物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6432755号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?6〕、7について訂正することを認める。 特許第6432755号の請求項1?7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第6432755号は、平成26年1月20日(優先権主張 平成25年7月9日)に出願された特願2014-8049号の特許請求の範囲に記載された請求項1?7に係る発明について、平成30年11月16日に特許権の設定登録がされ、同年12月5日に特許掲載公報の発行がされたものであり、その後、その全請求項に係る特許に対して、平成31年3月27日付けで特許異議申立人内山信一(以下、「申立人」という。)により、甲第1?8号証を証拠方法とする特許異議の申立てがされ、令和元年8月19日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年10月21日付けで意見書の提出がされ、令和2年1月23日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、同年3月12日に特許権者との面接が行われ、令和2年3月27日付けで特許権者より意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」といい、この訂正請求に係る訂正を「本件訂正」という。)がされ、同年4月30日付けで申立人より参考資料1、2を添付した意見書の提出がされたものである。

(証拠方法)
甲第1号証:特開平11-302056号公報
甲第2号証:「論文 一軸拘束ひび割れ試験を用いた乾燥収縮量が異なるコンクリートのひび割れ量に関する検討」井上和政他,「コンクリートの収縮特性評価およびひび割れへの影響」に関するシンポジウム,社団法人日本コンクリート工学協会,2010年12月21日,47-52頁
甲第3号証:「コンクリート専門委員会報告 F-46 石灰石骨材コンクリートに関する研究」,社団法人セメント協会,1992年10月,2-15頁,41-44頁
甲第4号証:「石灰石骨材とコンクリート 増補・改訂版」,石灰石鉱業協会,2005年3月1日発行,16-20頁,35-37頁
甲第5号証:「論文 骨材の種類がコンクリートの乾燥収縮に及ぼす影響」田中博一他,コンクリート工学年次論文集,Vol.31,No.1,2009,553-558頁
甲第6号証:「コンクリート表面仕上げ剤の初期養生効果と付着性能について」篠田佳男他,第38回土木学会関東支部 技術研究発表会 講演概要集,V-30、社団法人土木学会 関東支部、2011年3月
甲第7号証:「鉄筋コンクリート造建築物の収縮ひび割れ -メカニズムと対策技術の現状-」,社団法人日本建築学会,2003年5月20日,155頁及び165頁
甲第8号証:「ひび割れと材料」仕入豊和,施工,1975年8月号(通巻109号),43-52頁
参考資料1:「乾燥収縮200μクラスの超低収縮コンクリートのひび割れ抑制効果に関する研究」稲垣順司他,日本建築学会大会学術講演梗概集(北陸),2010年9月,917-918頁
参考資料2:「膨張剤・収縮低減剤を使用したコンクリートに関する技術の現状」一般社団法人日本建築学会編,2013年7月10日,186-193頁


第2 訂正請求について

1.訂正の内容
本件訂正請求による本件訂正の内容は、訂正事項1?3よりなるものであって、以下のとおりである(下線は当審で付した)。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に記載された、
「前記粗骨材及び前記細骨材の原料としていずれも石灰石のみを用いるとともに、粘度が10?200mPa・s(20℃)の混和材料を配合して、結合材水比を1.54?3.33とし、材齢6ヶ月における乾燥収縮率が1.5×10^(-4)以下となるように調製された超低収縮コンクリートを打設する工程と、
打設された前記超低収縮コンクリートの表面にアニオン性界面活性剤を塗布する工程とを備えていること」を
「前記粗骨材及び前記細骨材の原料としていずれも石灰石のみを用いるとともに、配合前の粘度が10?200mPa・s(20℃)の混和材料を配合して、結合材水比を1.54?3.33とし、材齢6ヶ月における乾燥収縮率が1.5×10^(-4)以下となるように調製された超低収縮コンクリートを打設する工程と、
打設された前記超低収縮コンクリートの表面にアニオン性界面活性剤を塗布する工程とを備え、
前記混和材料は、収縮低減剤及び/又は増粘剤からなる
こと」に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4に記載された、
「混和材料の単位量は、固形分で10?30kg/m3である」を
「混和材料の単位量は、固形分で10?30kg/m^(3)である」に訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項7に記載された、
「前記粗骨材及び前記細骨材の原料としていずれも石灰石のみを用いるとともに、粘度が10?200mPa・s(20℃)の混和材料を配合して、結合材水比を1.54?3.33とし、材齢6ヶ月における乾燥収縮率が1.5×10^(-4)以下とされた超低収縮コンクリートで形成された基材と、
該基材の表面に、アニオン性界面活性剤が設けられた養生層とを備えていること」を
「前記粗骨材及び前記細骨材の原料としていずれも石灰石のみを用いるとともに、配合前の粘度が10?200mPa・s(20℃)の混和材料を配合して、結合材水比を1.54?3.33
とし、材齢6ヶ月における乾燥収縮率が1.5×10^(-4)以下とされた超低収縮コンクリートで形成された基材と、該基材の表面に、アニオン性界面活性剤が設けられた養生層とを備え、
前記混和材料は、収縮低減剤及び/又は増粘剤からなる
こと」に訂正する。

(4)一群の請求項について
訂正前の請求項2?6が、何れも訂正前の請求項1を引用するものであるから、訂正事項1、2の特許請求の範囲の訂正は、一群の請求項1?5について請求されたものである。また、訂正前の請求項7は独立項であり、訂正事項3の特許請求の範囲の訂正は、単独の請求項7について請求されたものである。

2.訂正要件の判断
(1)訂正事項1、3について
訂正事項1は、「混和材料」の「粘度」について、訂正前は、「混和材料」の概念が明確でなく、「粘度」がどの段階の何を対象としたものであるのかが明確でなかったのを、本件明細書【0035】の「粘度が10?200mPa・s(20℃)の混和材料を配合して」等の記載に基づき配合前の「混和材料」の「粘度」であることを特定し、同じく【0026】の「混和材料としては、各種の収縮低減剤、なかでも特殊ポリオキシアルキレングリコールを主成分とする保水系収縮低減剤を用いる。また、混和材料は、特殊ポリオキシアルキレングリコールを主成分とする保水系収縮減水剤に限らず、粘度が10?200mPa・s(20℃)のものであれば各種の収縮減衰剤や増粘剤も含めて任意の混和材料を採用可能である。」等の記載に基づき「混和材料」の概念を収縮低減剤及び/又は増粘剤からなるものに限定して明確化したものであるから、それぞれ特許法第120条の5第2項ただし書第3号及び第1号に掲げる事項である明瞭でない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、また、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
訂正事項3についても同様である。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、低収縮コンクリートの技術分野における物性及びその数値に関する技術常識から、訂正前の記載は明らかに誤記であるから、明らかに特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる事項である誤記の訂正を目的とするものであって、また、願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(3)独立特許要件について
本件訂正請求においては、全ての請求項に対して特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。

3.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号?第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?6〕、7について訂正することを認める。


第3 本件発明について
上記第2のとおり本件訂正請求は認容されるから、本件特許に係る発明は、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1?7の記載により特定される以下のとおりのものである(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明7」、これらをまとめて「本件発明」という。)。

「 【請求項1】
セメント、粗骨材、細骨材及び水を主材とし、前記粗骨材及び前記細骨材の原料としていずれも石灰石のみを用いるとともに、配合前の粘度が10?200mPa・s(20℃)の混和材料を配合して、結合材水比を1.54?3.33とし、材齢6ヶ月における乾燥収縮率が1.5×10^(-4)以下となるように調製された超低収縮コンクリートを打設する工程と、
打設された前記超低収縮コンクリートの表面にアニオン性界面活性剤を塗布する工程とを備え、
前記混和材料は、収縮低減剤及び/又は増粘剤からなる
ことを特徴とするコンクリート構造物の表面仕上げ方法。
【請求項2】
前記超低収縮コンクリートの表面に塗布された前記アニオン性界面活性剤の表面を研磨機で研磨する研磨工程を、さらに備えていることを特徴とする請求項1に記載のコンクリート構造物の表面仕上げ方法。
【請求項3】
前記石灰石は、CaO成分が50%以上の高純度石灰石であることを特徴とする請求項1または2に記載のコンクリート構造物の表面仕上げ方法。
【請求項4】
前記混和材料の単位量は、固形分で10?30kg/m^(3)であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のコンクリート構造物の表面仕上げ方法。
【請求項5】
前記セメントは、ポルトランドセメントであり、
該ポルトランドセメントは、普通セメント、中庸熱セメント又は低熱セメントであることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のコンクリート構造物の表面仕上げ方法。
【請求項6】
前記超低収縮コンクリートには、さらに膨張材が配合されていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のコンクリート構造物の表面仕上げ方法。
【請求項7】
セメント、粗骨材、細骨材及び水を主材として有し、前記粗骨材及び前記細骨材の原料としていずれも石灰石のみを用いるとともに、配合前の粘度が10?200mPa・s(20℃)の混和材料を配合して、結合材水比を1.54?3.33とし、材齢6ヶ月における乾燥収縮率が1.5×10^(-4)以下とされた超低収縮コンクリートで形成された基材と、
該基材の表面に、アニオン性界面活性剤が設けられた養生層とを備え、
前記混和材料は、収縮低減剤及び/又は増粘剤からなる
ことを特徴とするコンクリート構造物。」


第4 取消理由について

1.令和2年1月23日付けの取消理由通知書(決定の予告)で通知した取消理由について
(1)取消理由の概要
取消理由1:本件特許は、訂正前の特許請求の範囲の記載が下記ア.及びイ.の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
ア.「乾燥収縮率」の点
訂正前の請求項1では、「材齢6ヶ月における乾燥収縮率が1.5×10^(-4)以下となる超低収縮コンクリート」と特定されているが、「乾燥収縮率」がどのように測定されたものを意味するのか、特に、基準となる状態を材齢との関係でどのように定義したものであるのかが明確でない。
訂正前の請求項1を引用した請求項2?6、同様に特定されている訂正前の請求項7の記載についても、同様に明確でない。
イ.「混和材料」の点
訂正前の請求項1?7に係る発明において「混和材料」という概念をどのように解釈すべきであるかが明確でなく、その特定されている「粘度」が何に対してのものであるのかが明確でない。

(2)取消理由についての判断
ア.「乾燥収縮率」の点
乾燥収縮率の測定方法については本件明細書に明示の記載はない。
しかし、JIS A 1129には、「モルタル及びコンクリートの長さ変化測定方法」について規格が存在し、その「第1部:コンパレータ方法」の「附属書A(参考)」には、「モルタル及びコンクリートの乾燥による自由収縮ひずみ試験方法」が記載されており、申立人の提出した参考資料1の表-4における試験項目「乾燥収縮」の試験方法が「JIS A 1129に準拠」と記載されていることからみても、この技術分野における乾燥収縮率の測定は、この規格に準拠することが技術常識であることが窺える。
よって、本件発明で特定されている「乾燥収縮率」の測定方法については、本件明細書に明示の記載はなくとも、JIS A 1129に準拠して測定されたものであると解釈するのが妥当であり、特許請求の範囲の記載は不明確とはいえない。

イ.「混和材料」の点
本件訂正により、「混和材料」の概念は収縮低減剤及び/又は増粘剤からなるものに限定されて明確となり、「粘度」は配合前の「混和材料」の「粘度」であることが特定されて明確となったから、特許請求の範囲は不明確とはいえない。

(3)申立人の主張について

(ア)上記ア.の点について
申立人は、令和2年4月30日付け意見書において、本件特許の【図1】(c)は、そこで本発明と対比している非特許文献1(参考資料1に同じ)のプロットについて、乾燥収縮率を測定する基準日となるべき材齢7日における値を考慮したときに、横軸(材齢(日))の数字と対応しておらず、乾燥収縮率の基準日についての特許権者の主張は信用できないものであって、乾燥収縮率は材齢0日を基準日としているものと解釈することが妥当である旨主張している。
この申立人の主張について検討するに、たしかに、基準日を材齢7日とした場合には、材齢7日における乾燥収縮率の値が0になっているべきであるから、参考資料1の記載と本件の【図1】(c)の記載とを照らし合わせたときに、本件の【図1】(c)には何らかの誤記のあることが窺える。しかし、本件の【図1】(c)は、本件明細書【0040】等の記載によれば、本件発明のコンクリートの乾燥収縮が従来技術である参考資料1のものに比してより低収縮であることを確認するためのものであって、例えば、乾燥収縮率の変化の傾向を材齢180日程度までみていくことについては、乾燥収縮率の測定の基準日を厳密に特定せずとも【図1】(c)から把握できるといえるから、【図1】(c)に何らかの誤記のあることをもって、直ちに特許権者の乾燥収縮率についての主張が信用できないということにはならない。そして、上記ア.のとおり、乾燥収縮率の測定は、JIS A 1129に準拠して、基準日を材齢7日とすることが技術常識であると認められるものである。
よって、申立人の主張は採用できない。

(イ)上記イ.の点について
申立人は、令和2年4月30日付け意見書において、混和材料は、収縮低減剤及び/又は増粘剤からなるものであって、混和材料が増粘剤のみである場合を含み、収縮低減剤を使用しない形態を含むことは発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである旨主張している。
この申立人の主張について検討するに、上記第2の2.(1)で訂正事項1について判断したとおり、訂正後の請求項1の「前記混和材料は、収縮低減剤及び/又は増粘剤からなる」の点については、訂正前の請求項1では「混和材料」の概念が明確でなかったのを、本件明細書の【0026】の記載に基づき、混和材料に含まれる概念を明確にしたに過ぎない特定事項であるから、発明の詳細な説明に記載した範囲を何ら超えるものではない。そして、混和材料に係る本件発明の課題を解決するために必要とされる事項は、訂正後の請求項1の「配合前の粘度が10?200mPa・s(20℃)の混和材料を配合」することにあるといえ、このような混和材料については、本件明細書【0046】、【0047】等に記載されているように、低級アルコールのアルキレンオキシド付加物等の収縮低減剤に増粘剤を混入したものや、増粘剤を混入せずに特殊ポリオキシアルキレングリコールを主成分とする収縮低減剤のみとすることが好ましいことを当業者は認識できるものである。
よって、申立人の主張は採用できない。

(4)小括
以上のとおりであるから、取消理由1は理由がない。

2.令和元年8月19日付け取消理由通知書で通知した取消理由について
(1)取消理由の概要
取消理由2:本件特許は、訂正前の請求項1に記載された「混和材料」という概念がどこまでの材料を含むものであるのかが明瞭でなく、「粘度が10?200mPa・s(20℃)の混和材料」の示す範囲が明確でない点(請求項1を引用した請求項2?6の記載、同じく「混和材料」を特定した請求項7の記載についても同様)で、訂正前の特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

取消理由3:本件特許は、訂正前の特許請求の範囲の記載が下記(ア)及び(イ)の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものである。
(ア)訂正前の請求項1に「粘度が10?200mPa・s(20℃)の混和材料」と特定されていることに関し、材齢6ヶ月における乾燥収縮率を1.5×10^(-4)以下とする本件発明の課題の解決と、使用する混和材料の粘度の数値範囲との関係について、発明の詳細な説明には十分な記載がされていないから、当業者は、粘度が10?200mPa・s(20℃)である混和材料を使用することで本件発明の課題を解決できるとは認識できない。訂正前の請求項1を引用した請求項2?6の記載、同じく「混和材料」を特定した訂正前の請求項7の記載についても同様である。
(イ)訂正前の請求項1に係る発明において、材齢6ヶ月における乾燥収縮率を1.5×10^(-4)以下とするべく、混和材料を配合した後のフレッシュコンクリートにおける粘度を調整するために、その混和材料の配合の仕方について少なくとも工夫が必要になることは自明であるから、特定範囲内の粘度の混和材料の配合量等について特定されていない訂正前の請求項1に記載は、その事項により特定される発明が課題を解決できるとは当業者は認識できない。請求項2、3、5?7の記載についても同様である。

取消理由4:本件特許の訂正前の請求項1?7に係る発明は、甲第1?3、6号証に記載された発明に基づいて、本件特許に係る優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項に違反して特許されたものである。

(2)取消理由についての判断
ア.取消理由2について
上記1.で検討した取消理由1のイ.と同旨であり、訂正後の本件特許請求の範囲の記載は明確であって不備はなく、理由はない。

イ.取消理由3について
本件発明の解決すべき課題は、本件明細書の【0005】?【0007】等の記載からみて、材齢6ヶ月における乾燥収縮率を1.5×10^(-4)以下程度の乾燥収縮性能に優れたコンクリートが得られていないことに加え、同じく【0035】、【0036】等の記載からみて、収縮し難い材料の
石灰石を用いた場合のブリージングの抑制と分離性の維持にもあると認められる。
上記(1)(ア)の点については、本件明細書の【0022】?【0028】、【0038】?【0040】と図1(c)とを参酌すれば、混和材料として特殊ポリアルキレングリコールを主成分とする混和材料が用いられ、この材料が粘度10?200mPa・s(20℃)の範囲内のものであって、結果として材齢6ヶ月において乾燥収縮率1.5×10^(-4)以下を達成していることが理解できる。ここで、実施形態で用いられた特殊ポリアルキレングリコールを主成分とする混和材料の粘度の具体的な数値は記載されていないが、本件明細書の【0017】に「混和材料が超低収縮コンクリートの粘性を高めながら、超低収縮コンクリートを構成する材料の分離性を適度に維持することができる」と記載されていることからみて、粘度が10mPa・s(20℃)を下回ったときには分離性の維持が十分にできないことが推認されるし、超低収縮コンクリートの粘度が高くなりすぎるとコンクリートの施工に際し不具合が生じてくることは技術常識であることからすれば、混和材料の粘度に適した数値範囲のあることは自明であって、当業者であれば、粘度10?200mPa・s(20℃)の範囲内において課題が解決できることを認識できるといえる。
そうすると、上記(1)(イ)の点についても、混和材料の配合量は、粘性を適度に調整できれば課題解決につながることからみて、当業者が通常行う程度の試行錯誤により把握できるものであるといえるから、具体的な配合量の特定がなくとも、当業者であれば課題を解決できることは十分に認識できるものである。
よって、取消理由3は理由がない。

この点について、申立人は、令和2年4月30日付け意見書において、フレッシュコンクリートの粘性については、細骨材及び粗骨材の種類のみならず、粒度分布、粗粒率などによって大きく異なることは当業者にとって自明なことであり、石灰砕砂は産地や製造条件によって粗粒率が異なるものであるから、本件明細書に細骨材及び粗骨材(石灰砕砂)の粗粒率などが記載されていないなかで目指す粘度や乾燥収縮率を達成することには過度の試行錯誤を伴う旨主張している。
しかし、粘性の調整については、上記したとおり混和材料の粘度や配合量によって当業者が適宜なし得ることであるといえるし、乾燥収縮率が収縮し難い材料の石灰石のみを細骨材及び粗骨材の原料として用いることで低下することも、本件明細書【0008】?【0015】の記載や技術常識から当業者が認識できるので、申立人のこの主張は採用できない。
また、申立人は、同意見書に添付した参考資料2を引用して、収縮低減剤は、化学組成又はコンクリートに対する作用機構によって分類・理解されるものであって、その粘度によって分類・理解されるものではないことから、混和材料の粘度を10?200mPa・s(20℃)の範囲とすれば、コンクリートの分離性を良好に維持しつつ、良好に型枠に打ち込むことができることについては保証がなく、本件の明細書には図1(c)の一つの実施例が記載されているに過ぎないことも主張する。
しかし、この主張は、収縮低減剤に関する技術常識に基づき、本件発明の課題が解決できないことを具体的に示すものではないから、採用できない。

ウ.取消理由4について
(ア)甲第1号証の記載事項及び甲第1号証に記載された発明
甲第1号証(特開平11-302056号公報)には以下(1a)?(1c)の記載がある。

(1a)「【請求項1】 水と、セメントと、骨材と、高性能AE減水剤とを含み、
前記セメントが、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、及び高ビーライト系セメントの群の中から選ばれるセメントであり、
水セメント比が20?40%であるコンクリート組成物であって、
前記骨材に石灰石からなる骨材を用いたことを特徴とする低収縮・高強度・高流動コンクリート組成物。
【請求項2】 コンクリート組成物は、水と、セメントと、骨材と、高性能AE減水剤と、膨張材と、収縮低減剤とを含むことを特徴とする請求項1の低収縮・高強度・高流動コンクリート組成物。
【請求項3】 石灰石砕砂及び/又は石灰石砕石からなる骨材を用いたことを特徴とする請求項1又は請求項2の低収縮・高強度・高流動コンクリート組成物。」

(1b)「【0017】例えば、従来、高強度・高流動コンクリートと呼ばれているものにあっては、コンクリート打設後24時間での自己収縮が100?200×10^(-6)程度であるのが普通であったが、本発明ではこれを半分以下の値、特に50×10^(-6)以下の値、場合によっては実質上零にすることも可能なものである。尚、従来、乾燥収縮の低減に、石灰石骨材を使用することが知られていた。例えば、セメント協会コンクリート専門委員会F-16「石灰石骨材コンクリートに関する研究(1992.10)」によれば、硬質砂岩を用いたコンクリートに比較して細骨材と粗骨材とに石灰石骨材を使用することで乾燥収縮が20%程度低減できたと言われている。
【0018】しかし、「石灰石骨材コンクリートに関する研究(1992.10)」では、水セメント比が50%,60%,70%のものであり、従って乾燥収縮が低減できていても、依然として自己収縮が顕在化しない範囲のものであり、石灰石骨材の使用により乾燥収縮のみならず自己収縮まで防げると言う知見を得ることは不可能であった。
【0019】なぜならば、自己収縮は、水セメント比が40%以下と言ったように使用水量が少なくなった時点で顕在化し始めるからである。・・・
・・・
【0023】
【発明の実施の形態】本発明の低収縮・高強度・高流動コンクリート組成物は、水と、セメントと、骨材と、高性能AE減水剤とを含み、前記セメントが、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、及び高ビーライト系セメントの群の中から選ばれるセメントであり、水セメント比が20?40%(特に、25%以上。35%以下。)であるコンクリート組成物であって、前記骨材に石灰石からなる骨材を用いたものである。・・・特に、水と、セメントと、骨材と、高性能AE減水剤と、膨張材と、収縮低減剤とを含み、前記セメントが、中庸熱ポルトランドセメント・・・から選ばれるセメントであり、水セメント比が20?40%(特に、25%以上。35%以下。)であるコンクリート組成物であって、前記骨材に石灰石からなる骨材を用いたものである。・・・ここで、石灰石製の骨材は石灰石砕砂(細骨材)或いは石灰石砕石(粗骨材)のいずれか一方であっても良いが、特に、石灰石砕砂と石灰石砕石とを共に用いる。
【0024】・・・例えば、中庸熱ポルトランドセメント・・・の中から選ばれるセメントは400?750kg/m^(3) 、特に400?600kg/m^(3) である。骨材は1500?1850kg/m^(3) 、特に1650?1750kg/m^(3 )である。特に、石灰石砕砂が0?950kg/m^(3) 、石灰石砕石が0?900kg/m^(3)(但し、石灰石砕砂と石灰石砕石が共に0の場合は除く。)である。・・・収縮低減剤は2?10kg/m^(3) 、特に3?8kg/m^(3) である。
【0025】上記高性能AE減水剤としては、・・・が用いられる。特に、カルボン酸系の化合物からなる高性能AE減水剤である。膨張材としては、・・・が用いられる。収縮低減材としては、藤沢薬品工業社製のヒビガード等のグリコールエーテル系の収縮低減材、日本セメント社製のテトラガードAS20等の低級アルコールアルキレンオキシド系の収縮低減材、竹本油脂社製のヒビダン等のポリエーテル系の収縮低減材が用いられる。
【0026】本発明になる硬化体は、上記コンクリート組成物を硬化させたものである。・・・。」

(1c)「【0027】
【実施例1?5及び比較例1,2】下記の表-1a及び表-1bに示す配合組成のコンクリート組成物を用意した。
表-1a
実施例1 実施例2 実施例3 実施例4 実施例5
W/C+Ex(%) 30 30 30 30 30
s/a(%) 51.8 51.8 51.8 51.8 51.8
単位量(kg/m^(3) )
W 165 165 165 165 165
C1 540 530 530 550 550
S1 428 428 428 428 640
S2 447 447 447 447 216
G1 0 0 0 0 421
G2 843 843 843 843 422
高性能AE減水剤 6.6 6.6 6.6 6.6 6.6
Ex 10 20 20 0 0
収縮低減剤 3.75 7.5 0 0 0
消泡剤 8T 10T 6T 6T 6T

表-1b
比較例1 比較例2 比較例3
W/C+Ex(%) 30 30 30
s/a(%) 51.8 51.8 51.8
単位量(kg/m^(3) )
W 165 165 165
C1 550 0 0
C2 0 550 550
S1 864 856 428
S2 0 0 447
G1 843 843 843
高性能AE減水剤 6.6 10.7 10.7
Ex 0 0 0
収縮低減剤 0 0 0
消泡剤 6T 8T 6T
*W;水
C;セメント
s/a;細骨材率
C1;低熱ポルトランドセメント(比重3.21)
C2;普通ポルトランドセメント(比重3.15)
S1;静岡県小笠産山砂(表乾比重2.59、吸水率0.33%)
S2;埼玉県横瀬町産石灰石砕砂(表乾比重2.70、吸水率0.33%)
G1;埼玉県両神村産砕石(表乾比重2.72、吸水率0.45%)
G2;高知県鳥形産石灰石砕石(表乾比重2.70、吸水率0.35%)
高性能AE減水剤;秩父小野田社製のコアフローNP-5R
Ex;秩父小野田社製のエクスパンK
収縮低減剤;日本セメント社製のテトラガードAS20
消泡剤;秩父小野田社製のAF-20
単位水量は、Wの値から高性能AE減水剤と収縮低減剤の量を差し引く。
【0028】・・・硬化体の圧縮強度(JIS A 1108に準拠)、自己収縮(日本コンクリート工学協会「高流動コンクリートの自己収縮試験方法に準拠)を調べたので、これらの結果を表-2,表-3a,表-3b,表-4a,表-4bに示す。
・・・
表-4a
長さ変化率(×10^(-6))^( )
実施例1 実施例2 実施例3 実施例4 実施例5
自己収縮
1日 +46 +121 +98 +12 -28
3日 +85 +180 +171 -7 -45
7日 +89 +189 +153 -24 -63
14日 +91 +192 +137 -37 -79
28日 +94 +197 +133 -37 -83
56日 +95 +205 +128 -38 -88
91日 +95 +205 +121 -43 -95
182日 +95 +205 +116 -48 -110
乾燥収縮
1日 +48 +119 +97 +19 -28
3日 +73 +154 +121 -54 -126
7日 +49 +137 +78 -121 -203
14日 +23 +113 +22 -164 -251
28日 -6 +76 -34 -210 -303
56日 -48 +42 -93 -275 -372
91日 -78 +6 -141 -312 -414
182日 -135 -56 -214 -399 -487

表-4b
長さ変化率(×10^(-6))^( )
比較例1 比較例2 比較例3
自己収縮
1日 -72 -188 -175
3日 -86 -283 -262
7日 -104 -342 -319
14日 -125 -384 -357
28日 -123 -417 -388
56日 -133 -448 -418
91日 -145 -466 -435
182日 -169 -493 -463
乾燥収縮
1日 -87 -197 -171
3日 -194 -377 -349
7日 -278 -505 -472
14日 -335 -615 -573
28日 -394 -711 -670
56日 -466 -811 -759
91日 -510 -875 -827
182日 -578 -990 -920
*自己収縮は材齢1日で脱型後封緘養生(アルミ粘着テープ、20℃)、
乾燥収縮は材齢1日で脱型後20℃,60%RH養生、
いずれも脱型まで乾燥しないようにした。
【0030】+;膨張
-;収縮
これによれば、実施例と比較例との対比から判る通り、高性能AE減水剤を含み、水セメント比が小さな高流動コンクリート組成物において、本願発明の如く、骨材として石灰石を用いたとしても、セメントとして普通ポルトランドセメントを用いた場合には収縮が大きく、又、本願発明の如く、セメントとして低熱ポルトランドセメントを用いたとしても、骨材として石灰石を用いなかった場合には収縮が大きく、到底に本願発明のような特長を奏することが出来ていない。」

上記で、(1a)及び(1b)で石灰石と収縮低減材について具体的に用いられている態様に注目すると、甲第1号証には、低収縮・高強度・高流動コンクリート組成物について、
「水と、セメントと、骨材と、高性能AE減水剤と、膨張材と、収縮低減材とを含み、
前記セメントが、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、及び高ビーライト系セメントの群の中から選ばれるセメントであり、
水セメント比が20?40%であるコンクリート組成物であって、
前記骨材に石灰石からなる骨材を用い、ここで、石灰石製の骨材は石灰石砕砂(細骨材)及び/又は石灰石砕石(粗骨材)であり、
前記収縮低減材としては、藤沢薬品工業社製のヒビガード等のグリコールエーテル系の収縮低減材、日本セメント社製のテトラガードAS20等の低級アルコールアルキレンオキシド系の収縮低減材、竹本油脂社製のヒビダン等のポリエーテル系の収縮低減材が用いられる、低収縮・高強度・高流動コンクリート組成物」
が記載されており、さらに(1b)の【0017】にはコンクリートを打設した後に自己収縮を低減できる旨の記載があることから、甲第1号証には、低収縮・高強度・高流動コンクリート組成物を打設してコンクリート構造物に仕上げる方法について、
「水と、セメントと、骨材と、高性能AE減水剤と、膨張材と、収縮低減剤とを含み、
前記セメントが、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、及び高ビーライト系セメントの群の中から選ばれるセメントであり、
水セメント比が20?40%であり、
前記骨材に石灰石からなる骨材を用い、ここで、石灰石製の骨材は石灰石砕砂(細骨材)及び/又は石灰石砕石(粗骨材)であり、
前記収縮低減材としては、藤沢薬品工業社製のヒビガード等のグリコールエーテル系の収縮低減材、日本セメント社製のテトラガードAS20等の低級アルコールアルキレンオキシド系の収縮低減材、竹本油脂社製のヒビダン等のポリエーテル系の収縮低減材を用い、
得られる低収縮・高強度・高流動コンクリート組成物を打設してコンクリート構造物に仕上げる方法」
の発明(以下、「甲1-1発明」という。)が記載されていると認められ、
また、低収縮・高強度・高流動コンクリート組成物からなるコンクリート構造物について、
「水と、セメントと、骨材と、高性能AE減水剤と、膨張材と、収縮低減剤とを含み、
前記セメントが、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、及び高ビーライト系セメントの群の中から選ばれるセメントであり、
水セメント比が20?40%であり、
前記骨材に石灰石からなる骨材を用い、ここで、石灰石製の骨材は石灰石砕砂(細骨材)及び/又は石灰石砕石(粗骨材)であり、
前記収縮低減材としては、藤沢薬品工業社製のヒビガード等のグリコールエーテル系の収縮低減材、日本セメント社製のテトラガードAS20等の低級アルコールアルキレンオキシド系の収縮低減材、竹本油脂社製のヒビダン等のポリエーテル系の収縮低減材を用い、
得られる低収縮・高強度・高流動コンクリート組成物からなるコンクリート構造物」
の発明(以下、「甲1-2発明」という。)が記載されていると認められる。

(イ)本件発明1と甲1-1発明との対比
本件発明1と甲1-1発明とを対比すると、甲1-1発明における、「骨材に石灰石からなる骨材を用い、ここで、石灰石製の骨材は石灰石砕砂(細骨材)及び/又は石灰石砕石(粗骨材)」であること、「収縮低減材」「を含」むことは、それぞれ、本件発明1における、「粗骨材および」「細骨材の原料としていずれも石灰石」「を用いる」こと、「混和材料を配合し、」「前記混和材料は、収縮低減剤及び/又は増粘剤からなる」ことに相当するから、両者は、コンクリート構造物に仕上げる方法において「セメント、粗骨材、細骨材及び水を含み、前記粗骨材及び前記細骨材の原料としていずれも石灰石を用いるとともに、混和材料を配合して調製された低収縮コンクリートを打設する工程を備える」点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1:本件発明1の超低収縮コンクリートが、「材齢6ヶ月における乾燥収縮率が1.5×10^(-4)以下となる」ものであるのに対し、甲1-1発明の低収縮コンクリートの乾燥収縮は、乾燥収縮は、上記(1c)に摘示した実施例において自己収縮と乾燥収縮の材齢1日?脱型後182日の長さ変化率(×10^(-6))が記載されているが、乾燥収縮率(JIS A 1129に準拠)は不明である点。

相違点2:本件発明1では、「粗骨材及び」「細骨材の原料としていずれも石灰石のみを用いる」のに対し、甲1-1発明では、「石灰石からなる骨材」であるが石灰石のみであることは明示されておらず、上記(1c)に摘示した実施例のものはいずれも山砂(S1)を骨材に含んでいる点。

相違点3:本件発明1では、「混和材料」の「配合前の粘度が10?200mPa・s(20℃)」であるのに対し、甲1-1発明では、混和材料に相当する収縮低減材として「藤沢薬品工業社製のヒビガード等のグリコールエーテル系の収縮低減材、日本セメント社製のテトラガードAS20等の低級アルコールアルキレンオキシド系の収縮低減材、竹本油脂社製のヒビダン等のポリエーテル系の収縮低減材」が列挙されているがその粘度については着目されていない点。

相違点4:本件発明1では、「結合材水比を1.54?3.33」としているのに対し、甲1-1発明では、「水セメント比が20?40%である」点。

相違点5:本件発明1では、「打設された超低収縮コンクリートの表面にアニオン性界面活性剤を塗布する工程を備えているコンクリート構造物の表面仕上げ方法」であるのに対し、甲1-1発明では、コンクリート構造物の表面仕上げ方法については備えていない点。

事案に鑑み、相違点2、3について、まず検討する。
甲1-1発明において、上記(1c)に摘示した実施例のものはいずれも山砂(S1)を骨材に含んでいるものの、甲第1号証【0024】の記載によれば、「骨材は1500?1850kg/m^(3) 、特に1650?1750kg/m^(3) である。特に、石灰石砕砂が0?950kg/m^(3 )、石灰石砕石が0?900kg/m^(3)(但し、石灰石砕砂と石灰石砕石が共に0の場合は除く。)である」ことから、甲1-1発明において、骨材を構成する全量を石灰石砕砂又は石灰石砕石、即ち全量を石灰石のみからなるものとすることは形式上許容されている。しかし、甲第1号証には、骨材の全量を積極的に石灰石のみからなるものとすることは記載されていないし、本件明細書の【0017】に「混和材料が超低収縮コンクリートの粘性を高めながら、超低収縮コンクリートを構成する材料の分離性を適度に維持することができる」と記載されていることからみて、相違点3に係る混和材料の配合前の粘度が10mPa・s(20℃)を下回ったときには分離性の適度の維持が十分にできないことが推認されるから、甲第1号証に実施例で骨材に用いられている山砂の量を0とすることによる不具合について特に記載されていないとしても、甲1-1発明において、骨材の全量を石灰石とすることには阻害要因があったものと一応解釈できる。
そして、甲第1?3、6号証には、コンクリート配合前に特定範囲の粘度を有した収縮低減剤により、粗骨材及び細骨材の原料として石灰石のみを用いた場合でもコンクリートの分離性を適度に維持して乾燥収縮性能を向上できることについては、記載も示唆もない。してみれば、相違点2は実質的なものであり、甲1-1発明において相違点2及び相違点3を同時に解消することは、当業者であっても容易なことではない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1?3、6号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(ウ)本件発明2?6について
本件発明2?6は、何れも本件発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに限定を付したものであるから、本件発明1と同様、甲第1?3、6号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(エ)本件発明7と甲1-2発明との対比
本件発明7と甲1-2発明とを対比すると、上記(ア)で検討したと同様であり、両者は、「セメント、粗骨材、細骨材及び水を含み、前記粗骨材及び前記細骨材の原料としていずれも石灰石を用いるとともに、混和材料を配合して得られる低収縮コンクリート組成物からなるコンクリート構造物」の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1’:本件発明7の超低収縮コンクリートが、「材齢6ヶ月における乾燥収縮率が1.5×10^(-4)以下となる」ものであるのに対し、甲1-2発明の低収縮コンクリートの乾燥収縮は、乾燥収縮は、上記(1c)に摘示した実施例において自己収縮と乾燥収縮の材齢1日?脱型後182日の長さ変化率(×10^(-6))が記載されているが、乾燥収縮率(JIS A 1129に準拠)は不明である点。

相違点2’:本件発明7では、「粗骨材及び」「細骨材の原料としていずれも石灰石のみを用いる」のに対し、甲1-2発明では、「石灰石からなる骨材」であるが石灰石のみであることは明示されておらず、上記(1c)に摘示した実施例のものはいずれも山砂(S1)を骨材に含んでいる点。

相違点3’:本件発明7では、「混和材料」の「配合前の粘度が10?200mPa・s(20℃)」であるのに対し、甲1-2発明では、混和材料に相当する収縮低減材として「藤沢薬品工業社製のヒビガード等のグリコールエーテル系の収縮低減材、日本セメント社製のテトラガードAS20等の低級アルコールアルキレンオキシド系の収縮低減材、竹本油脂社製のヒビダン等のポリエーテル系の収縮低減材」が列挙されているがその粘度については着目されていない点。

相違点4’:本件発明7では、「結合材水比を1.54?3.33」としているのに対し、甲1-2発明では、「水セメント比が20?40%である」点。

相違点6:本件発明7では、「超低収縮コンクリートで形成された基材の表面に、アニオン性界面活性剤が設けられた養生層を備えている」のに対し、甲1-2発明では、コンクリート構造物の表面に養生層は備えていない点。

事案に鑑み、相違点2’、3’について、まず検討するに、上記(イ)で検討した相違点2、3と同様であり、甲1-2発明において相違点2’及び相違点3’を同時に解消することは、当業者であっても容易なことではない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明7は、甲第1?3、6号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(オ)小括
以上のとおりであるから、取消理由4は理由がない。


第5 取消理由で採用しなかった特許異議申立理由及びその他の理由について

1.申立人が主張する申立理由等について
申立人は、以下の申立理由等を主張しているものと認められる。
(1)申立理由1(進歩性欠如)
ア.本件の訂正前の請求項1?7に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に、甲第1、3?8号証に記載された発明と技術事項を適用して当業者が容易に発明をすることができたものである。
イ.本件の訂正前の請求項1?7に係る発明は、甲第2号証に記載された発明に、甲第1、3?8号証に記載された発明と技術事項を適用して当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)申立理由2(サポート要件違反)
ア.本件の訂正前の請求項1?7に係る発明は、「材齢6ヶ月における乾燥収縮率が1.5×10^(-4)以下となる超低収縮コンクリート」に係るものであるが、発明の詳細な説明には、乾燥収縮率が1.0×10^(-4)未満のものは記載されていない。よって、本件の訂正前の請求項1?7に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。
イ.発明の詳細な説明には、CaO成分が50%以上の高純度石灰岩を用いた実施例しか記載されておらず、本件の訂正前の請求項1、2,4?7に係る発明は、CaO成分が50%に満たない石灰岩によっても同等の効果が奏されるかが明らかでないから、発明の詳細な説明に記載された発明ではない。
ウ.本件明細書に記載された混和材料は、特定の収縮低減剤及び特定の収縮低減剤と増粘剤との混合物のみであり、訂正前の請求項1の「粘度が10?200mPa・s(20℃)の混和材料」にまで拡張ないし一般化できる理由が不明であるから、本件の訂正前の請求項1?7に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。
エ.本件明細書に記載された混和材料は、【図1】(c)の実施例で使用した収縮低減剤の具体的な粘度が不明であり、訂正前の請求項1の「粘度が10?200mPa・s(20℃)の混和材料」の全範囲において効果が奏されるか明らかではないから、本件の訂正前の請求項1?7に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。
オ.訂正前の請求項1?3、5?7の「粘度が10?200mPa・s(20℃)の混和材料」は、配合量が特定されていないから、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである。

(3)申立理由3(明確性違反)
本件の訂正前の請求項1、7に記載の「混和材料」は、コンクリートの混和材料には、セメント、骨材、水及び補強材以外のあらゆる添加材料が含まれるから、その範囲が不明である。

(4)その他(令和2年4月30日付け意見書における主張)
訂正後の請求項7は、「配合前の粘度が10?200mPa・s(20℃)の混和材料」という製造過程に係る事項により、「コンクリート構造物」という物の発明を構成する「超低収縮コンクリート」を特定して、プロダクトバイプロセスクレームとなっているが、本件明細書には【0041】?【0051】及び【図5】?【図13】に、収縮低減剤又は増粘剤の配合量とフレッシュコンクリートの塑性粘度との関係、乾燥収縮率との関係等が実験及びその結果を伴って記載されており、「材齢6ヶ月における乾燥収縮率が1.5×10^(-4)以下とされた超低収縮コンクリート」をその物の特性により直接特定することができていたといえるから、いわゆる不可能・非実際的事情には当たらず、発明が明確であることという特許法第36条第6項第2号に規定する要件に適合するとはいえない。

2.当審の判断
(1)申立理由1について
甲第1、2号証の何れに記載された発明を主たる引用発明とした理由についても、上記第4で取消理由4について検討したと同様であり、甲第4?8号証に、コンクリート配合前に特定範囲の粘度を有した収縮低減剤により、粗骨材及び細骨材の原料として石灰石のみを用いた場合のコンクリートの分離性の低下を抑制して乾燥収縮性能を向上させることについて記載も示唆もないから、理由がない。

(2)申立理由2について
ア.について
本件発明が解決しようとする課題の一つは、本件明細書の【0005】?【0008】等の記載からみて、材齢6ヶ月における乾燥収縮率を1.5×10^(-4)以下程度の乾燥収縮性能に優れたコンクリートが得られていないことにあると認められる。そして、本件明細書の【0022】?【0040】と【図1】とを参酌すれば、粗骨材及び細骨材の原料として石灰石のみを用いるとともに、混和材料として特殊ポリアルキレングリコールを主成分とするものが用いられ、この材料が粘度10?200mPa・s(20℃)の範囲内のものであって、結果として材齢6ヶ月において乾燥収縮率1.5×10^(-4)以下を達成して課題を解決していることが理解できるし、本件発明はその下限を特定しようとする技術思想ではないと認められるから、特許請求の範囲の記載に不備はない。なお、超低収縮コンクリートの乾燥収縮率をゼロとすることが困難であることは技術常識であって、粗骨材および前記細骨材の原料としていずれも石灰石を用いる等の手段によっても実現可能な乾燥収縮率に限界のあることは窺えるが、そのことをもって実施例に記載の数値を下限として特定すべきことにはならない。
イ.について
本件明細書【0025】には、「粗骨材および細骨材としての石灰石の純度が低い場合には、乾燥収縮率の改善効果がやや損なわれる場合もあるため、CaO(炭酸カルシウム)成分が少なくとも50%以上、可能であれば55%以上である高純度石灰石を用いることが好ましい」と記載されており、実施例に記載のCaO成分が50%以上の高純度石灰石を用いた場合が望ましいことが理解できるし、このような高純度のものでない場合に実施できないともいえないから、申立人の主張に理由はない。
ウ.?オ.について
上記第4で検討した取消理由3と同旨であり、理由はない。

(3)申立理由3について
上記第4で検討した取消理由1のイ.と同旨であり、理由はない。

(4)その他(プロダクト・バイ・プロセス・クレームについて)
本件発明7は、超低収縮コンクリートに配合する混和材料について、配合前の粘度により特定されていること等により、プロダクト・バイ・プロセス・クレームとなっているものと認められる。
そこで、この特定の明確性について検討する。まず、本件発明の解決すべき課題の一つは、本件明細書の【0035】、【0036】等の記載からみて、収縮し難い材料の石灰石を用いた場合のブリージングの抑制と分離性の維持にあると認められる。そして、本件発明7においては、本件明細書の【0008】、【0009】、【図1】等の記載からみて、結合水比1.54?3.33の範囲において、混和材料の粘度を10?200mPa・sとすることでコンクリートのブリージングを抑制し、分離性を維持して、超低収縮コンクリートを実現できることを見出した発明と理解されるものである。
そうすると、少なくともブリージングについては、超低収縮コンクリートの製造過程においてみられる現象であり、ここで、本件発明1の超低収縮コンクリートは、セメント、粗骨材及び細骨材(原料としていずれも石灰岩のみ)、水等を含有するものの、これらの含有量は限定されていないことからすれば、ブリージングがなく分離性を維持して最終的に得られた超低収縮コンクリートとしては種々のものが考えられることになる。そして、これを乾燥収縮率以外に、共通する特性で定めるのは、膨大な検証をする必要が生じ、著しく過大な経済的支出や時間を要することとなるから、本件発明7は、物の発明に係る請求項において製造方法が記載されていることに「不可能・非実際的事情」が存在するといえる。
よって、本件発明7の明確性に不備はない。

申立人は、本件明細書【0041】?【0051】及び【図5】?【図13】に、収縮低減剤又は増粘剤の配合量とフレッシュコンクリートの塑性粘度との関係、乾燥収縮率との関係等が実験及びその結果を伴って記載されており、「材齢6ヶ月における乾燥収縮率が1.5×10^(-4)以下となる超低収縮コンクリート」をその物の特性により直接特定することができていたといえるから、いわゆる「不可能・非実際的事情」は存在しないことを主張する。
しかし、本件明細書【0051】に「フレッシュコンクリートの塑性粘度が10?200(Pa・s)の範囲外の場合には、分離を起こすため、コンクリートとして成立せず、材齢6か月における乾燥収縮率は、1.5×10
^(-4)を超えることが分かった」との記載から、超低収縮コンクリートをフレッシュコンクリートの塑性粘度により特定することで、分離を起こさない超低収縮コンクリートの態様の一部について直接特定することができるとはいえるものの、フレッシュコンクリートの塑性粘度と配合前の混和材料の粘度との関係は、上記のとおり種々のものが考えられる膨大な数の対象の超低収縮コンクリートにおいて検証されているとまではいえないから、申立人の主張内容を参酌しても、「不可能・非実際的事情」が解消されている状況にあるとまでは認められない。


第6 むすび
以上のとおり、請求項1?7に係る特許については、取消理由通知書に記載した取消理由又は特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1?7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。


 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント、粗骨材、細骨材及び水を主材とし、前記粗骨材及び前記細骨材の原料としていずれも石灰石のみを用いるとともに、配合前の粘度が10?200mPa・s(20℃)の混和材料を配合して、結合材水比を1.54?3.33とし、材齢6ヶ月における乾燥収縮率が1.5×10^(-4)以下となるように調製された超低収縮コンクリートを打設する工程と、
打設された前記超低収縮コンクリートの表面にアニオン性界面活性剤を塗布する工程とを備え、
前記混和材料は、収縮低減剤及び/又は増粘剤からなる
ことを特徴とするコンクリート構造物の表面仕上げ方法。
【請求項2】
前記超低収縮コンクリートの表面に塗布された前記アニオン性界面活性剤の表面を研磨機で研磨する研磨工程を、さらに備えていることを特徴とする請求項1に記載のコンクリート構造物の表面仕上げ方法。
【請求項3】
前記石灰石は、CaO成分が50%以上の高純度石灰石であることを特徴とする請求項1または2に記載のコンクリート構造物の表面仕上げ方法。
【請求項4】
前記混和材料の単位量は、固形分で10?30kg/m^(3)であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のコンクリート構造物の表面仕上げ方法。
【請求項5】
前記セメントは、ポルトランドセメントであり、
該ポルトランドセメントは、普通セメント、中庸熱セメント又は低熱セメントであることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のコンクリート構造物の表面仕上げ方法。
【請求項6】
前記超低収縮コンクリートには、さらに膨張材が配合されていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のコンクリート構造物の表面仕上げ方法。
【請求項7】
セメント、粗骨材、細骨材及び水を主材として有し、前記粗骨材及び前記細骨材の原料としていずれも石灰石のみを用いるとともに、配合前の粘度が10?200mPa・s(20℃)の混和材料を配合して、結合材水比を1.54?3.33とし、材齢6ヶ月における乾燥収縮率が1.5×10^(-4)以下とされた超低収縮コンクリートで形成された基材と、
該基材の表面に、アニオン性界面活性剤が設けられた養生層とを備え、
前記混和材料は、収縮低減剤及び/又は増粘剤からなる
ことを特徴とするコンクリート構造物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-07-13 
出願番号 特願2014-8049(P2014-8049)
審決分類 P 1 651・ 853- YAA (C04B)
P 1 651・ 121- YAA (C04B)
P 1 651・ 851- YAA (C04B)
P 1 651・ 537- YAA (C04B)
P 1 651・ 852- YAA (C04B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 手島 理  
特許庁審判長 服部 智
特許庁審判官 菊地 則義
金 公彦
登録日 2018-11-16 
登録番号 特許第6432755号(P6432755)
権利者 清水建設株式会社
発明の名称 コンクリート構造物の表面仕上げ方法及びコンクリート構造物  
代理人 西澤 和純  
代理人 西澤 和純  
代理人 志賀 正武  
代理人 川渕 健一  
代理人 高橋 詔男  
代理人 高橋 詔男  
代理人 松沼 泰史  
代理人 佐伯 義文  
代理人 志賀 正武  
代理人 川渕 健一  
代理人 松沼 泰史  
代理人 佐伯 義文  
代理人 川渕 健一  

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