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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 F02D |
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管理番号 | 1366057 |
異議申立番号 | 異議2019-700312 |
総通号数 | 250 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-10-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-04-19 |
確定日 | 2020-07-14 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6416410号発明「エンジンシステムとその制御方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6416410号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1ないし5]及び6について訂正することを認める。 特許第6416410号の請求項1、4ないし6に係る特許を維持する。 特許第6416410号の請求項2、3に係る特許についての特許の異議の申し立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6416410号の請求項1ないし6に係る特許についての出願は、2016年(平成28年)3月14日を国際出願日として出願され、平成30年10月12日にその特許権の設定登録がされ、平成30年10月31日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、平成31年4月19日に特許異議申立人中村光代(以下「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、令和元年6月28日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である令和元年8月29日に意見書の提出及び訂正の請求がされ、その訂正の請求について異議申立人から令和元年10月16日に意見書が提出され、令和元年11月11日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内である令和2年1月10日に訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)がされ、令和2年2月4日付けで異議申立人に対し本件訂正請求があった旨を通知したが、異議申立人からは意見書の提出はなかったものである。 なお、令和元年8月29日の訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。 第2 訂正の請求について 本件訂正請求は、特許第6416410号の特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし6について訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は次のとおりである。 1.請求項1ないし5に係る訂正について (1)訂正の内容 ア 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に、 「ガスを燃料とする4ストロークのエンジンを備えたエンジンシステムであって、 前記エンジンの出力軸のトルクを測定するトルクセンサと、 前記エンジンの出力軸の回転数を測定する回転数センサと、 前記トルクセンサによるトルク測定値と前記回転数センサによる回転数測定値から前記出力軸の負荷を求め、前記エンジンの出力軸の負荷が増大した場合に前記エンジンの吸気弁が閉じるタイミングの変更を設定する制御部と、 前記制御部で設定された吸気弁の閉じるタイミングに応じて前記吸気弁が閉じるタイミングを変更させる可変吸気弁タイミング機構と、を備え、 前記エンジンの出力軸の負荷の増大に伴い、前記可変吸気弁タイミング機構によって前記エンジン内のガスと空気の混合気の圧縮比をより下げる制御を行うことを特徴とするエンジンシステム。」とあるのを、 「ガスを燃料とする4ストロークのエンジンを備えた船舶推進用のプロペラを駆動するエンジンシステムであって、 前記エンジンの出力軸のトルクを測定するトルクセンサと 前記エンジンの出力軸の回転数を測定する回転数センサと 前記トルクセンサによるトルク測定値と前記回転数センサによる回転数測定値から前記出力軸の負荷を求め、前記エンジンの出力軸の負荷が増大した場合に前記エンジンの吸気弁が閉じるタイミングの変更を設定する制御部と、 前記制御部で設定された吸気弁の閉じるタイミングに応じて前記吸気弁が閉じるタイミングを変更させる可変吸気弁タイミング機構と、を備え、 前記エンジンは、前記船舶推進用のプロペラを駆動してアイドル回転状態の負荷上げ開始から定格回転で定格負荷に到達するまで、前記船舶推進用のプロペラの形状及び回転数によって変化する負荷上げパターンで負荷上げを行う舶用エンジンであり、 前記制御部において決定する進角は、前記舶用エンジンの負荷上げパターンで負荷上げを行う場合にノッキングを抑制できる閉弁タイミングの進角に設定し、 前記負荷上げにおける前記エンジンの出力軸の回転数の増大及び負荷の増大に伴い、前記可変吸気弁タイミング機構は、前記吸気弁の閉じるタイミングの下死点からの進角を連続的または多段階的に調整することで、 前記エンジンの出力軸の回転数の増大及び負荷の増大に伴い、前記可変吸気弁タイミング機構によって前記エンジン内のガスと空気の混合気の圧縮比をより下げる制御を行うことを特徴とするエンジンシステム。」に訂正する。 (請求項1の記載を引用する請求項4及び5についても同様に訂正する。) なお、下線は請求人が付したものである。 イ 訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2を削除する。 ウ 訂正事項3 特許請求の範囲の請求項3を削除する。 エ 訂正事項4 特許請求の範囲の請求項4に、「請求項3に記載の」とあるのを「請求項1に記載の」に訂正する。 オ 訂正事項5 特許請求の範囲の請求項5に、「請求項1?4のいずれか1項に記載の」とあるのを「請求項1または4に記載の」に訂正する。 (2)訂正の単位(一群の請求項)について 訂正前の請求項1ないし5について、請求項2ないし5は直接または間接的に請求項1を引用するものであるから、訂正前の請求項1ないし5は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項であって、上記訂正事項1ないし5による訂正は、当該一群の請求項について請求されたものである。 (3)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 ア 訂正事項1について 訂正事項1は、訂正前の請求項1における「ガスを燃料とする4ストロークのエンジンを備えたエンジンシステム」が、「ガスを燃料とする4ストロークのエンジンを備えた船舶推進用のプロペラを駆動するエンジンシステム」であることを限定して特定するとともに、前記「エンジン」が、「前記船舶推進用のプロペラを駆動してアイドル回転状態の負荷上げ開始から定格回転で定格負荷に到達するまで、前記船舶推進用のプロペラの形状及び回転数によって変化する負荷上げパターンで負荷上げを行う舶用エンジンであ」ることを限定して特定し、さらに、「前記エンジンの出力軸の負荷の増大に伴い、前記可変吸気弁タイミング機構によって前記エンジン内のガスと空気の混合気の圧縮比をより下げる制御を行うこと」ことについて、「前記エンジンの出力軸の負荷の増大」が「前記エンジンの出力軸の回転数の増大及び負荷の増大」であること及び「前記制御部において決定する進角は、前記舶用エンジンの負荷上げパターンで負荷上げを行う場合にノッキングを抑制できる閉弁タイミングの進角に設定し」、「前記負荷上げにおける前記エンジンの出力軸の回転数の増大及び負荷の増大に伴い、前記可変吸気弁タイミング機構は、前記吸気弁の閉じるタイミングの下死点からの進角を連続的または多段階的に調整することで」、行われることを限定して特定するものであるから、訂正事項1による訂正は、特許請求の範囲の限縮を目的とするものである。 そして、訂正事項1は、本件特許明細書の段落【0015】、段落【0027】、段落【0029】、段落【0047】、段落【0048】、段落【0059】、段落【0062】の記載事項に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、新規事項の追加には該当せず、またカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。 イ 訂正事項2及び3について 訂正事項2は、訂正前の請求項2を削除するものであり、訂正事項3は訂正前の請求項3を削除するものであるから、訂正事項2及び3による訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。 ウ 訂正事項4について 訂正事項4は、訂正前の請求項1,2及び3を引用する請求項4について、訂正事項2及び訂正事項3により削除された請求項2、請求項3を引用せず、請求項1を引用する記載に訂正するものであるから、訂正事項4による訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張、または変更するものではない。 エ 訂正事項5について 訂正事項5は、訂正前の請求項1ないし4のいずれか1項を引用する請求項5について、訂正事項2及び訂正事項3により削除された請求項2,請求項3を引用せず、請求項1または請求項4を引用する記載に訂正するものであるから、訂正事項5による訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張、または変更するものではない。 2.請求項6に係る訂正について (1)訂正の内容 訂正事項6は、特許請求の範囲の請求項6に、 「ガスを燃料とするエンジンを備えたエンジンシステムの制御方法であって、 トルクセンサで測定する出力軸のトルク測定値と回転数センサで測定する前記出力軸の回転数測定値から前記出力軸の負荷を求め、前記エンジンの出力軸の負荷が増大した場合に前記エンジンの吸気弁が閉じるタイミングの変更を設定する工程と、 前記設定された吸気弁の閉じるタイミングに応じて前記吸気弁が閉じるタイミングを機械的に変更させる工程とを備え、 前記エンジンの出力軸の負荷の増大に伴い、前記吸気弁が閉じるタイミングを機械的に変更させることで前記エンジン内のガスと空気の混合気の圧縮比をより下げるようにしたことを特徴とするエンジンシステムの制御方法。」とあるのを、 「ガスを燃料とする4ストロークのエンジンを備えた船舶推進用のプロペラを駆動するエンジンシステムの制御方法であって、 トルクセンサで測定する出力軸のトルク測定値と回転数センサで測定する前記出力軸の回転数測定値から前記出力軸の負荷を求め、前記エンジンの出力軸の負荷が増大した場合に前記エンジンの吸気弁が閉じるタイミングの変更を設定する工程と、 前記設定された吸気弁の閉じるタイミングに応じて前記吸気弁が閉じるタイミングを機械的に変更させる工程とを備え、 前記エンジンは、前記船舶推進用のプロペラを駆動してアイドル回転状態の負荷上げ開始から定格回転で定格負荷に到達するまで、前記船舶推進用のプロペラの形状及び回転数によって変化する負荷上げパターンで負荷上げを行う舶用エンジンであり、 前記舶用エンジンの負荷上げパターンで負荷上げを行う場合にノッキングを抑制できる閉弁タイミングの進角に設定し、 前記負荷上げにおける前記エンジンの出力軸の回転数の増大及び負荷の増大に伴い、前記吸気弁の閉弁タイミングの下死点からの進角を連続的または多段階的に調整することで、 前記エンジンの出力軸の回転数の増大及び負荷の増大に伴い、前記吸気弁が閉じるタイミングを機械的に変更させることで前記エンジン内のガスと空気の混合気の圧縮比をより下げるようにしたことを特徴とするエンジンシステムの制御方法。」に訂正するものである。 (2)訂正の単位について 訂正事項6による訂正は、請求項6についての訂正を請求するものであり、特許法第120条の5第3項に規定する請求項毎になされたものである。 (3)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項6は、訂正前の請求項6における「ガスを燃料とするエンジンシステムの制御方法」が、「ガスを燃料とするエンジンを備えた船舶推進用のプロペラを駆動するエンジンシステムの制御方法」であることを限定して特定するとともに、前記「エンジン」が、「前記船舶推進用のプロペラを駆動してアイドル回転状態の負荷上げ開始から定格回転で定格負荷に到達するまで、前記船舶推進用のプロペラの形状及び回転数によって変化する負荷上げパターンで負荷上げを行う舶用エンジンであ」ることを限定して特定し、さらに、「前記エンジンの出力軸の負荷の増大に伴い、前記吸気弁が閉じるタイミングを機械的に変更させることで前記エンジン内のガスと空気の混合気の圧縮比をより下げるようにしたこと」ことについて、「前記エンジンの出力軸の負荷の増大」が「前記エンジンの出力軸の回転数の増大及び負荷の増大」であること及び「前記舶用エンジンの負荷上げパターンで負荷上げを行う場合にノッキングを抑制できる閉弁タイミングの進角に設定し」、「前記負荷上げにおける前記エンジンの出力軸の回転数の増大及び負荷の増大に伴い、前記吸気弁の閉弁タイミングの下死点からの進角を連続的または多段階的に調整することで」、行われることを限定して特定するものであるから、訂正事項6による訂正は、特許請求の範囲の限縮を目的とするものである。 そして、訂正事項6は、本件特許明細書の段落【0015】、段落【0027】、段落【0029】、段落【0047】、段落【0048】、段落【0059】、段落【0062】の記載事項に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、新規事項の追加には該当せず、またカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。 3 まとめ 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 したがって、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正後の請求項[1ないし5]及び6について訂正することを認める。 第3 特許異議の申立てについて 1.本件発明 本件訂正請求が認められることにより本件特許の請求項1ないし6に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明6」といい、全体を「本件発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 ガスを燃料とする4ストロークのエンジンを備えた船舶推進用のプロペラを駆動するエンジンシステムであって、 前記エンジンの出力軸のトルクを測定するトルクセンサと 前記エンジンの出力軸の回転数を測定する回転数センサと 前記トルクセンサによるトルク測定値と前記回転数センサによる回転数測定値から前記出力軸の負荷を求め、前記エンジンの出力軸の負荷が増大した場合に前記エンジンの吸気弁が閉じるタイミングの変更を設定する制御部と、 前記制御部で設定された吸気弁の閉じるタイミングに応じて前記吸気弁が閉じるタイミングを変更させる可変吸気弁タイミング機構と、を備え、 前記エンジンは、前記船舶推進用のプロペラを駆動してアイドル回転状態の負荷上げ開始から定格回転で定格負荷に到達するまで、前記船舶推進用のプロペラの形状及び回転数によって変化する負荷上げパターンで負荷上げを行う舶用エンジンであり、 前記制御部において決定する進角は、前記舶用エンジンの負荷上げパターンで負荷上げを行う場合にノッキングを抑制できる閉弁タイミングの進角に設定し、 前記負荷上げにおける前記エンジンの出力軸の回転数の増大及び負荷の増大に伴い、前記可変吸気弁タイミング機構は、前記吸気弁の閉じるタイミングの下死点からの進角を連続的または多段階的に調整することで、 前記エンジンの出力軸の回転数の増大及び負荷の増大に伴い、前記可変吸気弁タイミング機構によって前記エンジン内のガスと空気の混合気の圧縮比をより下げる制御を行うことを特徴とするエンジンシステム。 【請求項2】(削除) 【請求項3】(削除) 【請求項4】 請求項1に記載のエンジンシステムであって、 前記制御部において決定する進角は、予め測定した複数の前記出力軸の負荷と回転数の データをパラメータとして設定した進角の値から設定されるようにしたエンジンシステム 【請求項5】 請求項1または4に記載のエンジンシステムであって、 前記エンジンの吸気管には、過給を行う過給機と、前記過給機からの空気を前記吸気管 に供給する前に冷却するエアクーラとを備えているエンジンシステム。 【請求項6】 ガスを燃料とする4ストロークのエンジンを備えた船舶推進用のプロペラを駆動するエンジンシステムの制御方法であって、 トルクセンサで測定する出力軸のトルク測定値と回転数センサで測定する前記出力軸の回転数測定値から前記出力軸の負荷を求め、前記エンジンの出力軸の負荷が増大した場合に前記エンジンの吸気弁が閉じるタイミングの変更を設定する工程と、 前記設定された吸気弁の閉じるタイミングに応じて前記吸気弁が閉じるタイミングを機械的に変更させる工程とを備え、 前記エンジンは、前記船舶推進用のプロペラを駆動してアイドル回転状態の負荷上げ開始から定格回転で定格負荷に到達するまで、前記船舶推進用のプロペラの形状及び回転数によって変化する負荷上げパターンで負荷上げを行う舶用エンジンであり、 前記舶用エンジンの負荷上げパターンで負荷上げを行う場合にノッキングを抑制できる閉弁タイミングの進角に設定し、 前記負荷上げにおける前記エンジンの出力軸の回転数の増大及び負荷の増大に伴い、前記吸気弁の閉弁タイミングの下死点からの進角を連続的または多段階的に調整することで、 前記エンジンの出力軸の回転数の増大及び負荷の増大に伴い、前記吸気弁が閉じるタイミングを機械的に変更させることで前記エンジン内のガスと空気の混合気の圧縮比をより下げるようにしたことを特徴とするエンジンシステムの制御方法。」 2.取消理由の概要 令和元年11月11日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の概要は、次のとおりである。 本件発明1、4ないし6は、下記の引用例1に記載された発明、引用例2に記載された事項、引用例3及び引用例4に例示される周知技術1、引用例3及び引用例5に例示される周知技術2ならびに引用例6及び引用例7に例示される周知技術3に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1、4ないし6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 記 引用例1:特開2002-21608号公報 引用例2:特開2009-264176号公報 引用例3:特開2015-230000号公報 引用例4:特開2013-83228号公報 引用例5:特開2014-177918号公報 引用例6:特開2010-203269号公報 引用例7:特開2012-193672号公報 なお、引用例1及び引用例2は、特許異議申立書に添付された甲第1号証及び甲第2号証である。 3.当審の判断 (1)各引用例の記載事項、引用発明、周知技術について ア.引用例1の記載事項、引用発明 取消理由(決定の予告)において引用した引用例1の段落【0003】には「予混合圧縮自着火エンジンを起動するに、エンジンを何らかの手法によって暖機し予混合気を圧縮自着火させながら起動することは困難であるので、従来の予混合圧縮自着火エンジンは、エンジンを火花点火エンジンとして起動して充分に暖機した後、若しくは何らかの暖機手段によってエンジンを充分に暖機した後に、予混合気を圧縮自着火させる運転を行う必要があり、エンジンが複雑化する上に、スムーズな起動運転を実現できなかった。」と記載され、段落【0009】には「エンジンの設定出力、言換えれば要求されるエンジンの出力は、手動で、若しくはエンジンのクランク軸にかかる負荷を検出して設定されるのであるが、本構成のごとく、動作状態検出手段を、前記設定出力を検出する手段として構成し、制御手段によって、その検出された設定出力に基づいて、当量比と実圧縮比を制御して、エンジンの出力を変更しながら、前記エンジンの熱効率を好ましいものに維持することができる。」と記載され、段落【0014】には「図1に示すように、予混合圧縮自着火エンジン100は、過給機17によって加圧され吸気路11に流通する空気に、燃料ノズル8によって燃料としての天然ガス系都市ガスを供給して予混合気を形成し、形成された予混合気を、吸気弁1を介してシリンダ3内に形成された燃焼室7に供給し、燃焼室7において予混合気を圧縮して自着火燃焼させて、ピストン4の往復運動を、連結棒5を介してクランク軸6の回転として出力するものである。また、燃焼後の排ガスは、燃焼室7から排気弁2を介して排気路12へ排出される。」と記載され、段落【0015】には「本発明の予混合圧縮自着火エンジン100は、燃料ノズル8から供給される燃料の供給量を調整する制御弁9と、クランク軸6の回転数を検出するクランク角センサ10とを備えており、夫々が制御装置20に接続されている。」と記載され、段落【0016】には「吸気弁1及び排気弁2は開閉タイミング設定機構19に接続され、任意のタイミングで開閉動作可能となっている。そこで、本発明に係る予混合圧縮自着火エンジン100の吸気弁1の開閉状態は、図2に示すように、下死点よりも遅れて閉になるタイミングを有し、吸気弁1が下死点時期から閉になる時間Tを設定可能となっている。」及び「これによって、燃焼室7に吸気する予混合気は、吸気弁1が閉状態となるタイミングの燃焼室7の容積分に相当し、この時間Tを調整することで燃焼室7に吸気される予混合気の量を調整することができ、よって、実圧縮比を調整することができる。このように、吸気弁1の下死点よりも遅い閉時期を調整することによって実圧縮比を調整する手段を実圧縮比設定手段Bと呼ぶ。」と記載され、段落【0018】には「制御装置20は、内部に記憶手段200を備えており、実際の圧縮自着火のタイミングの好ましい圧縮自着火のタイミングに対する早遅情報(動作状態の一例)に対して、好ましい圧縮自着火タイミングに維持するための当量比及び実圧縮比の関係を記憶手段200に記憶しており、実際の圧縮自着火のタイミングを検出しながら記憶しているその関係に基づいて、前記当量比設定手段A及び前記実圧縮比設定手段Bを働かせて、予混合気の当量比及び実圧縮比を制御し、熱効率が高い状態に維持しながら、エンジン100を運転することができ」と記載され、段落【0021】には「予混合圧縮自着火エンジン100は、動作状態検出手段Cとして、制御装置20に入力される出力設定指令の設定出力を検出して、予混合圧縮自着火エンジン100の出力を設定する。即ち、記憶手段200に記憶されている上記の当量比及び実圧縮比の好ましい値に基づいて、当量比設定手段A及び実圧縮比設定手段Bを働かせて当量比及び実圧縮比を連続的若しくは段階的に調整し」と記載され、段落【0026】には「上記の実施の形態例においては、所謂、4サイクルエンジンに関連して説明した」と記載されている。 また、段落【0021】の上記記載に関し、【特許請求の範囲】の【請求項3】には「動作状態検出手段が、前記動作状態としての前記エンジンの設定出力を検出する手段であり、前記制御手段が、予め記憶している前記当量比と前記実圧縮比との前記設定出力に関する関係に基づいて、前記当量比及び前記実圧縮比を制御するに、前記設定出力の増加に伴って、前記当量比を増加させると共に、前記実圧縮比を減少させ」と記載されている。 上記記載事項及び特に図1及び図2の図示内容を総合して整理すると、引用例1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。 《引用発明》 「天然ガス系都市ガスを燃料とする4サイクルエンジンを備えた予混合圧縮自着火エンジン100であって、 クランク軸6の回転数を検出するクランク角センサ10と、 エンジンの設定出力を検出し、エンジンの設定出力の増加に伴って前記エンジンの吸気弁1が下死点時期から閉になる時間Tを設定する制御装置20と、 前記制御装置20で設定された吸気弁1が下死点時期から閉になる時間Tに応じて前記吸気弁1の閉時期を調整する開閉タイミング設定機構19と、を備え、 前記エンジンは、設定出力に到達するまで出力の増加を行うエンジンであり、 制御装置20において決定する吸気弁1が下死点時期から閉になる時間Tは、出力を増加する場合にノッキングを抑制できる吸気弁1が下死点時期から閉になる時間Tに設定し、 前記エンジンの設定出力の増大に伴い、前記開閉タイミング設定機構19は、吸気弁1が下死点時期から閉になる時間Tを連続的または多段的に調整することで、 前記エンジンの設定出力の増加に伴って、前記開閉タイミング設定機構19によって燃焼室7に吸気される予混合気の実圧縮比を減少させる制御を行う予混合圧縮自着火エンジン100」 イ.引用例2の記載事項について 取消理由(決定の予告)において引用した引用例2の段落【0021】には「ガスエンジン制御装置101は、後述する各センサーであるエンジン回転数センサー71、エンジントルクセンサー72、混合気温度センサー73、混合気圧力センサー74、スロットル開度センサー75、燃料ガス供給量調整弁45、並びにElectronicControl Unit(以下ECUと称する)90等を含んで構成されている。」と記載され、段落【0022】には「エンジン回転数検出手段としてのエンジン回転数センサー71は、クランク軸17近傍に設けられ、エンジン回転数Neを計測可能なセンサーである。エンジン負荷検出手段としてのエンジントルクセンサー72は、クランク軸17近傍に設けられ、エンジン負荷としてのエンジントルクTqを計測可能なセンサーである。」と記載され、段落【0028】には、「S104において、コントローラ50は、エンジン回転数Ne、エンジントルクTqから(式1-2)を用いて、エンジン出力Pを算出する。」と記載されている。 ウ.引用例3及び引用例4の記載事項ならびに周知技術1について 取消理由(決定の予告)において例示した引用例3の段落【0038】には「ガスモードでエンジン装置21を運転する場合は、エンジン制御装置73は、ガスインジェクタ98における弁開度を調節して、各気筒36内に供給する燃料ガス流量を設定する。そして、エンジン制御装置73は、パイロット燃料噴射弁82を開閉制御して、各気筒36における燃焼を所定タイミングで発生させる。すなわち、ガスインジェクタ98が、弁開度に応じた流量の燃料ガスを吸気ポート37に供給して、吸気マニホールド67からの空気に混合して、予混合燃料を気筒36に供給させる。そして、各気筒36の噴射タイミングに合わせて、パイロット燃料噴射弁82の制御弁を開くことで、パイロット燃料の噴射による点火源を発生させ、予混合ガスを供給した気筒36内で発火させる。また、ガスモードにおいて、エンジン制御装置73は、燃料油の供給を停止させている。」と記載され、同じく例示した引用例4の段落【0048】には「また、例えば、上記実施形態では、本発明を2サイクルディーゼルエンジンに適用した形態について説明したが、本発明はこの形態に限定されず、例えば、図7に示すような2サイクルガスエンジンにも適用することができる。図7に示す2サイクルガスエンジンは、シリンダ2の中腹部において注油ポート12よりも下側にガス燃料噴射ポート13を有する。ガス燃料噴射ポート13は、排気ポート6と掃気ポート9との間においてシリンダ2の内部(燃焼室)に、例えばLNGをガス化したガス燃料を噴射する構成となっている。燃料噴射ポート5は、空気とガス燃料の混合気を着火させるため少量の燃料油を噴射するもので謂わば着火器として機能する。なお、燃料噴射ポート5は必須ではなく、例えば着火器としては、周知のスーパープラグによる火花点火、レーザー着火等で代用可能である。このような2サイクルガスエンジンであっても、上記実施形態と同様の作用効果が得られる。」と記載されている。 これらの記載を踏まえると、「ガスを燃料としたエンジンにおいて、燃焼室内のガスと空気の混合気に点火する点火源を有するようにエンジンを構成すること」は、本願の出願時において周知技術(以下「周知技術1」という。)であったといえる。 エ.引用例3及び引用例5の記載事項ならびに周知技術2について 取消理由(決定の予告)において例示した引用例3の段落【0017】には「図2及び図3に示すように、各推進兼発電機構12は、プロペラ5の駆動源である中速エンジン装置21(実施形態ではデュアルフューエルエンジン)と、エンジン装置21の動力を推進軸9に伝達する減速機22と、エンジン装置21の動力にて発電する軸駆動発電機23とを組み合わせたものである。ここで、「中速」のエンジンとは、毎分500?1000回転程度の回転速度で駆動するものを意味している。ちなみに、「低速」のエンジンは毎分500回転以下の回転速度で駆動し、「高速」のエンジンは毎分1000回転以上の回転速度で駆動する。実施形態のエンジン装置21は中速の範囲内(毎分700?750回転程度)で定速駆動するように構成されている。」と記載され、同じく例示した引用例5の段落【0026】には「図1は、実施形態に係るガス燃料エンジン1の模式図である。図1に示すように、本実施形態のガス燃料エンジン1は、過給機2を備えたレシプロエンジンであり、船舶に搭載されて推進のために用いられる。このガス燃料エンジン1のエンジン本体3は複数の燃焼室4を有しており、各燃焼室4には図示しないピストンが設けられ、各ピストンの往復運動によって駆動軸5が回転するようになっている。ここで、図1において駆動軸5に設けられた負荷6とは、この実施形態では船舶のプロペラ等を意味している。」と記載されている。 これらの記載を踏まえると、「ガスを燃料としたエンジンにより、船舶推進用のプロペラを駆動すること」は、本願の出願時において周知技術(以下「周知技術2」という。)であったといえる。 オ.引用例6及び引用例7の記載事項ならびに周知技術3について これらの記載を踏まえると、「エンジンの制御において、エンジンの出力軸の回転数の増大及び負荷の増大に伴い、エンジン内のガスと空気の混合気の圧縮比をより下げる制御を行うこと」は、本願の出願時において周知技術(以下「周知技術3」という。)であったといえる。 (2)本件発明1について ア.対比 本件発明1と引用発明とを対比する。 引用発明の「天然ガス系都市ガス」は本件発明1の「ガス」に対応し、同様に「4サイクルエンジン」は「4ストロークのエンジン」に、「予混合圧縮自着火エンジン100」は「エンジンシステム」に対応する。 以上を踏まえると、引用発明の「天然ガス系都市ガスを燃料とする4サイクルエンジンを備えた予混合圧縮自着火エンジン100であって」と、本件発明1の「ガスを燃料とする4ストロークのエンジンを備えた船舶推進用のプロペラを駆動するエンジンシステムであって」とは、「ガスを燃料とする4ストロークのエンジンを備えたエンジンシステムであって」という限りにおいて一致する。 引用発明の「クランク軸6の回転数を検出するクランク角センサ10」は本件発明1の「エンジンの出力軸の回転数を測定する回転数センサ」に相当する。 引用発明の「エンジンの設定出力の増加に伴って」は本件発明1の「エンジンの出力軸の負荷が増大した場合に」に対応し、同様に「エンジンの吸気弁1が下死点時期から閉になる時間T」は「エンジンの吸気弁が閉じるタイミング」に、「制御装置20」は「制御部」に、「吸気弁1の閉時期を調整する」は「吸気弁が閉じるタイミングを変更させる」に、「開閉タイミング設定機構19」は「可変吸気弁タイミング機構」に対応する。 以上を踏まえると、引用発明の「エンジンの設定出力を検出し、エンジンの設定出力の増加に伴って前記エンジンの吸気弁1が下死点時期から閉になる時間Tを設定する制御装置20と、前記制御装置20で設定された吸気弁1が下死点時期から閉になる時間Tに応じて前記吸気弁1の閉時期を調整する開閉タイミング設定機構19」と、本件発明1の「前記トルクセンサによるトルク測定値と前記回転数センサによる回転数測定値から前記出力軸の負荷を求め、前記エンジンの出力軸の負荷が増大した場合に前記エンジンの吸気弁が閉じるタイミングの変更を設定する制御部と、前記制御部で設定された吸気弁の閉じるタイミングに応じて前記吸気弁が閉じるタイミングを変更させる可変吸気弁タイミング機構」とは、「エンジンの負荷を求め、前記エンジンの負荷が増大した場合に前記エンジンの吸気弁が閉じるタイミングの変更を設定する制御部と、前記制御部で設定された吸気弁の閉じるタイミングに応じて前記吸気弁が閉じるタイミングを変更させる可変吸気弁タイミング機構」という限りにおいて一致する。 引用発明の「設定出力」は本件発明1の「定格回転で定格負荷」に対応し、同様に「出力の増加を行う」は「負荷上げを行う」に対応する。 以上を踏まえると、引用発明の「前記エンジンは、設定出力に到達するまで出力の増加を行うエンジンであり」と、本件発明1の「前記エンジンは、前記船舶推進用のプロペラを駆動してアイドル回転状態の負荷上げ開始から定格回転で定格負荷に到達するまで、前記船舶推進用のプロペラの形状及び回転数によって変化する負荷上げパターンで負荷上げを行う舶用エンジンであり」とは、「前記エンジンは、定格回転で定格負荷に到達するまで、負荷上げを行うエンジンであり」という限りにおいて一致する。 本件発明1における「進角」は、「閉弁タイミングの進角」を意味することが明らかであるところ、引用発明の「制御装置20」は本件発明1の「制御部」に対応し、同様に「吸気弁1が下死点時期から閉になる時間T」は「進角」及び「閉弁タイミングの進角」に、「出力を増加する場合に」は「負荷上げを行う場合に」に対応する。 以上を踏まえると、引用発明の「制御装置20において決定する吸気弁1が下死点時期から閉になる時間Tは、出力を増加する場合にノッキングを抑制できる吸気弁1が下死点時期から閉になる時間Tに設定し」と、本件発明1の「前記制御部において決定する進角は、前記舶用エンジンの負荷上げパターンで負荷上げを行う場合にノッキングを抑制できる閉弁タイミングの進角に設定し」とは、「前記制御部において決定する進角は、負荷上げを行う場合にノッキングを抑制できる閉弁タイミングの進角に設定し」という限りにおいて一致する。 引用発明の「エンジンの設定出力の増大」は本件発明の「負荷上げにおける前記エンジンの出力軸の回転数の増大及び負荷の増大」に対応し、同様に「開閉タイミング設定機構19」は「可変吸気弁タイミング機構」に、「吸気弁1が下死点時期から閉になる時間T」は「吸気弁の閉じるタイミングの下死点からの進角」に対応する。 以上を踏まえると、引用発明の「前記エンジンの設定出力の増大に伴い、前記開閉タイミング設定機構19は、吸気弁1が下死点時期から閉になる時間Tを連続的または多段的に調整することで」と、本件発明1の「前記負荷上げにおける前記エンジンの出力軸の回転数の増大及び負荷の増大に伴い、前記可変吸気弁タイミング機構は、前記吸気弁の閉じるタイミングの下死点からの進角を連続的または多段階的に調整することで」とは、「前記負荷上げにおける前記エンジンの出力の増大に伴い、前記可変吸気弁タイミング機構は、前記吸気弁の閉じるタイミングの下死点からの進角を連続的または多段階的に調整することで」という限りにおいて一致する。 引用発明の「エンジンの設定出力の増大」は本件発明の「エンジンの出力軸の回転数の増大及び負荷の増大」に対応し、同様に「開閉タイミング設定機構19」は「可変吸気弁タイミング機構」に、「燃焼室7に吸気される予混合気の実圧縮比を減少させる」は「エンジン内のガスと空気の混合気の圧縮比をより下げる」に対応する。 以上を踏まえると、引用発明の「前記エンジンの設定出力の増加に伴って、前記開閉タイミング設定機構19によって燃焼室7に吸気される予混合気の実圧縮比を減少させる制御を行う」と、本件発明1の「前記エンジンの出力軸の回転数の増大及び負荷の増大に伴い、前記可変吸気弁タイミング機構によって前記エンジン内のガスと空気の混合気の圧縮比をより下げる制御を行う」とは、「前記エンジンの出力の増大に伴い、前記可変吸気弁タイミング機構によって前記エンジン内のガスと空気の混合気の圧縮比をより下げる制御を行う」という限りにおいて一致する。 そうすると、本件発明1と引用発明との一致点、相違点は、以下のとおりである。 《一致点》 「ガスを燃料とする4ストロークのエンジンを備えたエンジンシステムであって、 エンジンの出力軸の回転数を測定する回転数センサと、 エンジンの負荷を求め、前記エンジンの負荷が増大した場合に前記エンジンの吸気弁が閉じるタイミングの変更を設定する制御部と、 前記制御部で設定された吸気弁の閉じるタイミングに応じて前記吸気弁が閉じるタイミングを変更させる可変吸気弁タイミング機構と、を備え、 前記エンジンは、定格回転で定格負荷に到達するまで、負荷上げを行うエンジンであり、 前記制御部において決定する進角は、負荷上げを行う場合にノッキングを抑制できる閉弁タイミングの進角に設定し、 前記負荷上げにおける前記エンジンの出力の増大に伴い、前記可変吸気弁タイミング機構は、前記吸気弁の閉じるタイミングの下死点からの進角を連続的または多段階的に調整することで、 前記エンジンの出力の増大に伴い、前記可変吸気弁タイミング機構によって前記エンジン内のガスと空気の混合気の圧縮比をより下げる制御を行う、エンジンシステム。」 《相違点1》 「ガスを燃料とする4ストロークのエンジンを備えたエンジンシステム」が、本件発明1では「船舶推進用のプロペラを駆動する」ものであるのに対し、引用発明ではそのような特定がない点。 《相違点2》 「エンジンの負荷を求め、前記エンジンの負荷が増大した場合に前記エンジンの吸気弁が閉じるタイミングの変更を設定する制御部と、前記制御部で設定された吸気弁の閉じるタイミングに応じて前記吸気弁が閉じるタイミングを変更させる可変吸気弁タイミング機構」に関し、本件発明1では「エンジンの出力軸のトルクを測定するトルクセンサ」が備えられ、「エンジンの負荷」が「前記トルクセンサによるトルク測定値と前記回転数センサによる回転数測定値から」「求め」られる「前記出力軸の負荷」であり、「制御部」が「前記エンジンの吸気弁が閉じるタイミングの変更を設定する」のは、「前記エンジンの出力軸の負荷が増大した場合」であるのに対し、引用発明では、トルクセンサが備えられておらず、「エンジンの負荷」が「エンジンの設定出力」であり、「制御部」が「前記エンジンの吸気弁が閉じるタイミングの変更を設定する」のは、「エンジンの設定出力の増加に伴って」行われる点。 《相違点3》 「前記エンジンは、定格回転で定格負荷に到達するまで、負荷上げを行うエンジンであ」ることが、本件発明1では「前記船舶推進用のプロペラを駆動してアイドル回転状態の負荷上げ開始から定格回転で定格負荷に到達するまで、前記船舶推進用のプロペラの形状及び回転数によって変化する負荷上げパターンで負荷上げを行う舶用エンジンであ」るのに対し、引用発明ではそのような特定がない点。 《相違点4》 「前記制御部において決定する進角は、負荷上げを行う場合にノッキングを抑制できる閉弁タイミングの進角に設定」する際の「負荷上げを行う場合」が、本件発明1では「前記舶用エンジンの負荷上げパターンで負荷上げを行う場合」であるのに対し、引用発明ではそのような特定がない点。 《相違点5》 「前記負荷上げにおける前記エンジンの出力の増大に伴い、前記可変吸気弁タイミング機構は、前記吸気弁の閉じるタイミングの下死点からの進角を連続的または多段階的に調整すること」及び「前記エンジンの出力の増大に伴い、前記可変吸気弁タイミング機構によって前記エンジン内のガスと空気の混合気の圧縮比をより下げる制御を行う」ことにおける「エンジンの出力の増大」が、本件発明1では「エンジンの出力軸の回転数の増大及び負荷の増大」であるのに対し、引用発明では「エンジンの設定出力の増大」である点。 イ.相違点の検討 事案に鑑み、上記相違点1、3及び4から検討する。 本件発明1は、既に示したとおり、船舶推進用のプロペラを駆動するものであり、負荷上げをする際には「定格回転で、船舶推進用のプロペラの形状及び回転数によって変化する負荷上げパターンで負荷上げ」を行なうものであるが、引用発明において、予混合圧縮自着火エンジン100を、「船舶推進用のプロペラを駆動するもの」とした上で、「船舶推進用のプロペラの形状及び回転数によって変化する負荷上げパターン」での負荷上げをするように変更することは、引用例1ないし引用例7には記載されておらず、そのような変更を示唆する記載もないし、上記周知技術1ないし3についても、上記のような変更を示唆するものではない。 そして、引用発明の予混合圧縮自着火エンジン100を船舶推進用のプロペラの駆動に用いることを、当業者が想起し得たとしても、「船舶推進用のプロペラの形状及び回転数によって変化する負荷上げパターン」を用いることの動機付けとなる技術常識が、本件特許の出願時に存在していたことを認めるに至る証拠もない。 よって、引用発明において、予混合圧縮自着火エンジン100を、「船舶推進用のプロペラを駆動するもの」とした上で、「船舶推進用のプロペラの形状及び回転数によって変化する負荷上げパターン」での負荷上げをするように変更し、上記相違点1、3及び4に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。 したがって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明は、引用発明及び引用例2ないし7に記載された事項及び上記周知技術1ないし3に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)本件発明4及び本件発明5について 本件発明4及び5は、本件発明1の発明特定事項の全てを発明特定事項とし、さらに技術的な限定を加える事項を発明特定事項とする発明であるから、上記(1)で検討した理由と同様の理由により、引用発明及び引用例2ないし7に記載された事項及び上記周知技術1ないし3に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (4)本件発明6に係る発明について 本件発明6の発明特定事項は、本件発明1の発明特定事項と実質的に同じであり、両者は単に発明のカテゴリーが異なるというだけであることから、上記(1)で検討した理由と同様の理由により、引用発明及び引用例2ないし7に記載された事項及び上記周知技術1ないし3に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (5)取消理由(決定の予告)において採用しなかった異議申立理由について 異議申立人は、特許異議申立書において、本件発明1ないし6は、引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された事項に加え、異議申立書に添付された、甲第3号証(特表2006-514200号公報)、甲第4号証(MAN Diesel-SEによる32口径エンジン用プログラム、国際燃焼機関評議会、2010年、論文第167号)、甲第5号証(IMO Tier 3:クリーンで効率的なエンジンとしてのガス燃料エンジンおよび2元燃料エンジン、国際燃焼機関評議会、2013年、論文第187号)、甲第6号証(特開2003-328795号公報)のおのおのに記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨を主張する。 しかしながら、上記甲第3号証ないし甲第6号証は、引用発明において、上記のような変更をすることが記載されているわけではなく、そのような変更を示唆する記載もない。 したがって、上記主張を採用することはできない。 5.むすび 以上のとおりであるから、本件発明1、4ないし6に係る特許は、取消理由(決定の予告)で通知した理由及び特許異議申立の理由によっては、取り消されるべきものとすることはできない。 そして、本件特許の請求項2及び3は、本件訂正請求が認められることにより、削除されたため、本件特許の請求項2及び3についての特許異議の申立ては、その対象が存在しないものとなった。 よって、本件特許の請求項2及び3についての特許異議の申立ては、不適法であって、その補正をすることができないものであるから、特許法第120条の8で準用する同法第135条の規定により、却下すべきものである。 したがって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 ガスを燃料とする4ストロークのエンジンを備えた船舶推進用のプロペラを駆動するエンジンシステムであって、 前記エンジンの出力軸のトルクを測定するトルクセンサと、 前記エンジンの出力軸の回転数を測定する回転数センサと、 前記トルクセンサによるトルク測定値と前記回転数センサによる回転数測定値から前記出力軸の負荷を求め、前記エンジンの出力軸の負荷が増大した場合に前記エンジンの吸気弁が閉じるタイミングの変更を設定する制御部と、 前記制御部で設定された吸気弁の閉じるタイミングに応じて前記吸気弁が閉じるタイミングを変更させる可変吸気弁タイミング機構と、を備え、 前記エンジンは、前記船舶推進用のプロペラを駆動してアイドル回転状態の負荷上げ開始から定格回転で定格負荷に到達するまで、前記船舶推進用のプロペラの形状及び回転数によって変化する負荷上げパターンで負荷上げを行う舶用エンジンであり、 前記制御部において決定する進角は、前記舶用エンジンの負荷上げパターンで負荷上げを行う場合にノッキングを抑制できる閉弁タイミングの進角に設定し、 前記負荷上げにおける前記エンジンの出力軸の回転数の増大及び負荷の増大に伴い、前記可変吸気弁タイミング機構は、前記吸気弁の閉じるタイミングの下死点からの進角を連続的または多段階的に調整することで、 前記エンジンの出力軸の回転数の増大及び負荷の増大に伴い、前記可変吸気弁タイミング機構によって前記エンジン内のガスと空気の混合気の圧縮比をより下げる制御を行うことを特徴とするエンジンシステム。 【請求項2】 (削除) 【請求項3】 (削除) 【請求項4】 請求項1に記載のエンジンシステムであって、 前記制御部において決定する進角は、予め測定した複数の前記出力軸の負荷と回転数のデータをパラメータとして設定した進角の値から設定されるようにしたエンジンシステム。 【請求項5】 請求項1または4に記載のエンジンシステムであって、 前記エンジンの吸気管には、過給を行う過給機と、前記過給機からの空気を前記吸気管に供給する前に冷却するエアクーラとを備えているエンジンシステム。 【請求項6】 ガスを燃料とするエンジンを備えた船舶推進用のプロペラを駆動するエンジンシステムの制御方法であって、 トルクセンサで測定する出力軸のトルク測定値と回転数センサで測定する前記出力軸の回転数測定値から前記出力軸の負荷を求め、前記エンジンの出力軸の負荷が増大した場合に前記エンジンの吸気弁が閉じるタイミングの変更を設定する工程と、 前記設定された吸気弁の閉じるタイミングに応じて前記吸気弁が閉じるタイミングを機械的に変更させる工程とを備え、 前記エンジンは、前記船舶推進用のプロペラを駆動してアイドル回転状態の負荷上げ開始から定格回転で定格負荷に到達するまで、前記船舶推進用のプロペラの形状及び回転数によって変化する負荷上げパターンで負荷上げを行う舶用エンジンであり、 前記舶用エンジンの負荷上げパターンで負荷上げを行う場合にノッキングを抑制できる前記吸気弁の閉弁タイミングの進角を設定し、 前記負荷上げにおける前記エンジンの出力軸の回転数の増大及び負荷の増大に伴い、前記吸気弁の閉弁タイミングの下死点からの進角を連続的または多段階的に調整することで、 前記エンジンの出力軸の回転数の増大及び負荷の増大に伴い、前記吸気弁が閉じるタイミングを機械的に変更させることで前記エンジン内のガスと空気の混合気の圧縮比をより下げるようにしたことを特徴とするエンジンシステムの制御方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2020-06-30 |
出願番号 | 特願2017-548233(P2017-548233) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(F02D)
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最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 比嘉 貴大 |
特許庁審判長 |
渡邊 豊英 |
特許庁審判官 |
鈴木 充 谷治 和文 |
登録日 | 2018-10-12 |
登録番号 | 特許第6416410号(P6416410) |
権利者 | 株式会社IHI原動機 |
発明の名称 | エンジンシステムとその制御方法 |
代理人 | 川渕 健一 |
代理人 | 寺本 光生 |
代理人 | 鈴木 三義 |
代理人 | 高橋 久典 |
代理人 | 高橋 久典 |
代理人 | 寺本 光生 |
代理人 | 志賀 正武 |
代理人 | 川渕 健一 |
代理人 | 鈴木 三義 |
代理人 | 志賀 正武 |