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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B41M
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B41M
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B41M
審判 全部申し立て 2項進歩性  B41M
管理番号 1366067
異議申立番号 異議2018-701032  
総通号数 250 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-10-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-12-19 
確定日 2020-07-21 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6348672号発明「グラビア印刷方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6348672号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。 特許第6348672号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6348672号の請求項1ないし5に係る特許(以下,「本件特許」という。)についての出願は,2016年(平成29年)8月3日(優先権主張 平成27年9月18日)を国際出願日とする特許出願であって,平成30年6月8日にその特許権の設定登録がされ,同年6月27日に特許掲載公報が発行された。
以降の手続は以下のとおり。
平成30年12月19日:特許異議申立人角田朗による特許異議の申立て
平成31年 2月21日:取消理由通知
平成31年 4月25日:特許権者による意見書の提出
令和 1年 5月31日:取消理由通知(決定の予告)
令和 1年 8月 2日:特許権者による意見書,及び訂正の請求の提出
令和 1年 8月27日:合議体と特許権者との面接
令和 1年 9月 6日:特許権者による上申書の提出
令和 1年10月25日:特許異議申立人による意見書の提出
令和 2年 1月20日:審尋
令和 2年 3月19日:特許権者による回答書の提出

第2 訂正の適否
1 請求の趣旨及び訂正の内容
令和1年8月2日にされた訂正の請求(以下「本件訂正」という。)は,訂正請求書によれば,その請求の趣旨を「特許第6348672号(以下「本件特許」という。)の特許請求の範囲を,本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項1?5について訂正することを求める。」というものであり,その訂正の内容は,以下のとおりである。
(1)訂正事項1
請求項1において
「【請求項1】
20℃におけるザーンカップ#3の粘度が11.0秒以上20.0秒以下であり,乾燥試験(インキ1gを温度40℃,エアーフロー1400L/分で30分乾燥)における蒸発率が30質量%以下である水性インキを用いて,1ml/m^(2)以上7ml/m^(2)以下のインキを印刷媒体に転写するグラビア印刷方法。」を
「【請求項1】
20℃におけるザーンカップ#3の粘度が11.0秒以上20.0秒以下であり,乾燥試験(インキ1gを温度40℃に調整した乾燥機に投入し,エアーフロー1400L/分で30分乾燥)における,下記式(1)で求められるインキ蒸発率が30質量%以下である水性インキを用いて,1ml/m^(2)以上7ml/m^(2)以下のインキを印刷媒体に転写するグラビア印刷方法であり,
該インキの転写量は,100%網点印刷部で測定した時の印刷媒体に転写するインキの転写量であり,
該インキの転写量の測定方法は,100%網点印刷部の100mm x 100mm角の印刷物を10枚用意し,まず,初期の重量を測り,その後,10枚ともすべてインキ被膜を,インキ希釈溶剤で,溶解・除去し,その後,印刷基材を45℃,24時間,温風乾燥し,重量を測定し,初期の重量とインク除去・乾燥後の重量の差をインキ転写量としたものであり,
該インキの転写量は,印刷物10枚の平均値である,グラビア印刷方法。
インキ蒸発率(%)=〔1-(乾燥後のインキ質量/乾燥前のインキ質量)〕×100 ・・・(1)」と,訂正する。(下線は,当審で引いたものである。下線については以下も同じく当審で引いたものである。)
請求項1を引用する請求項2ないし5についても同じ訂正をするものである。
2 当審の判断
(1) 訂正事項1について
訂正事項1には,いくつかの訂正事項が含まれているため,それぞれに分けて検討する。
ア 訂正事項1-1 「インキ1gを温度40℃に調整した乾燥機に投入」する点について
訂正前の「インキ1gを温度40℃,エアーフロー1400L/分で30分乾燥」との記載では,何の温度が40℃であったかが明確でなかったところ,訂正事項1-1により「(インキ1gを)温度40℃に調整した乾燥機に投入」と,インキが投入される乾燥機の温度であることが明確に特定されることとなるから,訂正事項1-1は,特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また,訂正事項1-1により,乾燥試験が,「乾燥機」を用いて行われることが特定されることとなるから,訂正事項1-1は,特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして,本件特許の願書に添付した明細書(以下,「本件特許明細書」という。)の段落【0087】に「<インキ蒸発率の評価方法>インキ1gを40℃に調整した乾燥機に投入し,エアー流量1400L/分で30分乾燥した後,下記式(1)でインキ蒸発率を求めた。」と,インキ蒸発率に係る試験方法が記載されているから,訂正事項1-1は,本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
よって,訂正事項1-1は,特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

イ 訂正事項1-2 「該インキの転写量は,100%網点印刷部で測定した時の印刷媒体に転写する転写量であり」,「インキの転写量の測定方法は,100%網点印刷部の100mm x 100mm角の印刷物を10枚用意し,まず,初期の重量を測り,その後,10枚ともすべてインキ被膜を,インキ希釈溶剤で,溶解・除去し,その後,印刷基材を45℃,24時間,温風乾燥し,重量を測定し,初期の重量とインク除去・乾燥後の重量の差をインキ転写量としたものであり,該インキの転写量は,印刷物10枚の平均値である」とする点について
訂正前の請求項1には,「1ml/m^(2)以上7ml/m^(2)以下のインキを印刷媒体に転写する」と記載されていたところ,印刷内容(文字数,図柄数,印刷品質等)によって,転写するインキの量は異なることは技術常識であることに鑑みると,当該特定が,どのような状態におけるインキの転写量を特定するものであるのかが明らかでなく,また,当該転写量をどのような測定方法により測定するものかが明らかではない点で,不明瞭な記載であった。
本件訂正事項1-2により,インキの転写量が測定される印刷内容,及びインキの転写量の測定方法が特定されることにより,インキの転写量の定義が明確とされることとなるから,訂正事項1-2は,特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして,訂正事項1-2の訂正の内容に関しては,本件特許明細書の段落【0091】に「<インキ転写量の評価方法>
インキの転写量の測定方法は,100%網点印刷部の100mm x 100mm角の印刷物を10枚用意し,まず,初期の重量を測り,その後,10枚ともすべてインキ被膜を,インキ希釈溶剤(DIC製ダイレジューサ)で,溶解・除去する。その後,基材を45℃,24時間,温風乾燥し,重量を測定する。初期の重量とインク除去・乾燥後の重量の差をインキ転写量とした。インキ転写量は,印刷物10枚の平均値である。」と,インキの転写量の測定方法が記載されているから,訂正事項1-2は,本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
よって,訂正事項1-2は,特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

ウ 訂正事項1-3 「下記式(1)で求められるインキ蒸発率」,及び「インキ蒸発率(%)=〔1-(乾燥後のインキ質量/乾燥前のインキ質量)〕×100 ・・・(1)」とする点について
訂正前の請求項1には,「蒸発率が30質量%以下」と記載されていたところ,当該記載では,当該蒸発率の定義が明らかでない点で不明瞭な記載であった。
本件訂正事項1-3により,蒸発率が,式(1)で計算されるものであることが特定されることにより,蒸発率の定義が明確となるから,訂正事項1-3は,特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして,訂正事項1-3の訂正の内容に関しては,本件特許明細書の段落【0087】に「<インキ蒸発率の評価方法>
インキ1gを40℃に調整した乾燥機に投入し,エアー流量1400L/分で30分乾燥した後,下記式(1)でインキ蒸発率を求めた。」,「インキ蒸発率(%)=〔1-(乾燥後のインキ質量/乾燥前のインキ質量)〕×100 ・・・(1)」と,インキ蒸発率に係る試験方法が記載されているから,訂正事項1-3は,本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
よって,訂正事項1-3は,特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(2) 一群の請求項について
訂正前の請求項1ないし5について,請求項2ないし5は,それぞれ請求項1を引用しているものであって,訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって,訂正前の請求項1ないし5に対応する訂正後の請求項1ないし5は,特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項であるから,本件訂正請求は,一群の請求項1ないし5に対して請求されたものである。

(3) 小括
以上のとおりであるから,本件訂正請求による訂正は,特許法第120条の5第2項ただし書第第1号又は3号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条第4項,及び,同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので,訂正後の請求項1ないし5について訂正を認める。
なお,特許法第120条の5第9項により読み替えて適用される同法126条第7項に規定する要件(所謂独立特許要件)については,訂正事項1に係る本件特許の請求項1ないし5に係る特許が特許異議の申立ての対象とされているものであるから,本件訂正請求による訂正後の請求項1ないし5に係る発明については課されない。

第3 特許異議の申立てについて
1 本件特許発明
本件訂正請求により訂正された請求項1ないし5に係る発明(以下,「本件特許発明」,という。また,請求項ごとに「本件特許発明1」などという。)は,その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
20℃におけるザーンカップ#3の粘度が11.0秒以上20.0秒以下であり,乾燥試験(インキ1gを温度40℃に調整した乾燥機に投入し,エアーフロー1400L/分で30分乾燥)における,下記式(1)で求められるインキ蒸発率が30質量%以下である水性インキを用いて,1ml/m^(2)以上7ml/m^(2)以下のインキを印刷媒体に転写するグラビア印刷方法であり,
該インキの転写量は,100%網点印刷部で測定した時の印刷媒体に転写する転写量であり,
該インキの転写量の測定方法は,100%網点印刷部の100mmx100mm角の印刷物を10枚用意し,まず,初期の重量を測り,その後,10枚ともすべてインキ被膜を,インキ希釈溶剤で,溶解・除去し,その後,印刷基材を45℃,24時間,温風乾燥し,重量を測定し,初期の重量とインク除去・乾燥後の重量の差をインキ転写量としたものであり,該インキの転写量は,印刷物10枚の平均値であるグラビア印刷方法。
インキ蒸発率(%)=〔1-(乾燥後のインキ質量/乾燥前のインキ質量)〕×100 ・・・(1)
【請求項2】
グラビアセルからの印刷媒体へのインキの転写率が50%以上である請求項1記載のグラビア印刷方法。
【請求項3】
グラビアセルの体積が2ml/m^(2)以上8ml/m^(2)以下である請求項1又は2記載のグラビア印刷方法。
【請求項4】
グラビアセルの深度が3μm以上15μm以下である請求項1?3いずれか1項記載のグラビア印刷方法。
【請求項5】
グラビア版数が150線/インチ以上350線/インチ以下である請求項1?4いずれか1項記載のグラビア印刷方法。」

2 令和1年5月31日付けで通知した取消理由(決定の予告)の概要
(1)理由1
本件特許発明1が明確でなく,本件特許発明1を引用する本件特許発明2ないし5は,同様の理由により,明確ではない。
したがって,請求項1ないし5に係る特許は,その特許請求の範囲の記載が,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり,取り消されるべきものである。(具体的には,以下のア,イのとおり)
ア 請求項1に「乾燥試験(インキ1gを温度40℃,エアーフロー1400L/分で30分乾燥)における蒸発率が30質量%以下である水性インキ」とあるが,当該発明特定事項によって,どのようなインキの特性を技術的に特定しようとしているのか,明確に理解できない。
そして,本件特許明細書の記載を参酌したとしても,本件特許明細書におけるインキの蒸発率について,インキの蒸発面積に関する定義を含む試験方法や測定方法について,明確に記載されない結果,ある具体的なグラビア印刷方法が本件特許発明1の範囲に入るか否かを当業者が理解できないことから,本件特許発明1は明確ではない。(以下,「理由1-1」という。)
イ 請求項1に「1ml/m^(2)以上7ml/m^(2)以下のインキを印刷媒体に転写する」とあるが,当該発明特定事項によって,どのようなインキの転写量を技術的に特定しようとしているのか,明確に理解できない。
そして,本件特許明細書の記載を参酌したとしても,本件特許明細書における印刷媒体に転写するインキ量について,インキ量に関する定義を含む測定方法について,明確に記載されない結果,ある具体的なグラビア印刷方法が本件特許発明1の範囲に入るか否かを当業者が理解できないことから,本件特許発明1は明確ではない。(以下,「理由1-2」という。)

(2)理由2
本件特許明細書の発明の詳細な説明は,当業者が本件特許発明1を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていると認められず,本件特許発明2ないし5は,本件特許発明1を引用しているから,同様の理由により,本件特許明細書の発明の詳細な説明は,当業者が本件特許発明2ないし5を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていると認められない。
したがって,請求項1ないし5に係る特許は,その発明の詳細な説明が,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり,取り消されるべきものである。(具体的には,以下のアのとおり)
ア 当審が令和1年5月31日付けの取消理由通知(決定の予告)において特許権者に通知した取消理由の要旨は,次のとおりである。
本件特許発明1の「乾燥試験(インキ1gを温度40℃,エアーフロー1400L/分で30分乾燥)における蒸発率が30質量%以下である水性インキ」,「1ml/m^(2)以上7ml/m^(2)以下のインキを印刷媒体に転写する」という発明特定事項は,いずれも,当該発明特定事項に係る定義や試験方法や測定方法について,本件特許明細書には明確に記載されていない。
したがって,当業者は,本件特許明細書を参照しても,上記発明特定事項に係る水性インキを実施できないか,少なくとも過度の試行錯誤を要するから,本件特許明細書の発明の詳細な説明は,当業者が本件特許発明1を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていると認められない。(以下,乾燥試験に係る部分を「理由2-1」,インキの転写量に係る部分を「理由2-2」という。)

3 判断
(1)理由1についての判断
ア 理由1-1について
本件訂正により,乾燥試験に係る発明特定事項について,「インキ1gを温度40℃に調整した乾燥機に投入し,エアーフロー1400L/分で30分乾燥」と,訂正され,これにより定義されたインキの乾燥試験の条件下において,インキ蒸発率が30質量%以下である水性インキを用いることと,インキ蒸発率(%)が,「〔1-(乾燥後のインキ質量/乾燥前のインキ質量)〕×100」で,定義されることが特定された。
また,特許権者が令和2年3月19日付けで提出した乙第26号証における検証実験から,以下の点が理解できる。
本件特許公報における【表2】の実施例1,比較例1及び2のグラビア印刷用の水性インキを用い,「各インキ1gをアルミバットで,温度40℃,エアーフロー1400L/分で30分乾燥」させると,いずれのインキも経時的に質量が減少するが,30分後にインキ蒸発率が30質量%以下であったのは,実施例1のみである。
本件特許公報における実施例1のインキを「各インキ1gをアルミバットで,温度40℃,エアーフロー1400L/分で30分乾燥」させるにあたり,5回アルミバットに滴下したところ,インキの濡れ拡がり面積の差は最大0.6cm^(2)であり,蒸発率の差が1%であるから,蒸発面積が蒸発率に与える影響は最大でも1%である。
つまり,上記検証実験によれば,本件特許発明に係る水性インキである,本件特許公報における実施例1のインキは,蒸発率に影響を与えるようなインキの濡れ拡がり面積の差を生じさせるものではなく,訂正により本件特許発明において特定された乾燥試験方法において,その蒸発率についての影響は少ないことが理解できる。
さらに,特許権者が平成31年4月25日付けで提出した乙第11号証における検証実験からも,以下の点が理解できる。
本件特許公報における【表2】の実施例1,比較例1及び2のグラビア印刷用の水性インキを用い、「各インキ1gを開口部の異なる三種の秤量ビン(開口部φ35mm、45mm、55mm)に軽量」したところ、いずれのインキも、いずれの秤量ビンにおいて、その底面、つまり開口部全面に濡れ広がることが理解できる。
つまり、本件特許発明が対象とするグラビア印刷用の水性インキは,訂正により本件特許発明において特定された乾燥試験方法において、同じ開口面積の秤量ビンを使用すれば、その蒸発面積はインキに依らず同じとなることが理解できる。
以上の理解によれば,訂正により,乾燥試験の試験方法が明らかとなった本件特許発明1は,理由1-1に関して,明確である。
なお,異議申立人は「インキの蒸発面積がインキの蒸発速度に顕著に影響することは一般に知られており,インキの蒸発面積によってインキの蒸発速度が異なるから,あるグラビア印刷方法が本件特許発明の範囲に入るか否かを当業者が理解できないし,実施できない」旨の主張を行っている。
しかしながら,インキの蒸発面積がインキの蒸発速度に顕著に影響することが一般に知られているとしても,上記検証実験によれば,本件特許発明において特定されるインキは,インキを滴下した際に蒸発率に影響を与えるようなインキの濡れ拡がり面積の差を生じさせるものとは認められないこと,また,異議申立人が想定するようなインキの蒸発面積に影響を与えるような容器(例えば,極端に狭い(細い)開口を有する容器)を用いて蒸発試験を行うことは,およそ一般的ではないことに鑑みると,本件特許発明において特定されるインキの乾燥試験方法において,その蒸発面積が特定されていないとしても,あるグラビア印刷方法が本件特許発明の範囲に入るか否かを当業者が理解できないし,実施できないほど明確でないとはいえないから,本件特許発明が規定する範囲が第三者に不測の不利益を与えるほど明確でないということはできない。
したがって,異議申立人の上記主張を容れることはできない。

イ 理由1-2について
本件訂正により,インキの転写量の測定方法に係る発明特定事項について,「インクの転写量は,100%網点印刷部で測定した時の印刷媒体に転写する転写量であり」,「100%網点印刷部の100mmx100mm角の印刷物を10枚用意し,まず,初期の重量を測り,その後,10枚ともすべてインキ被膜を,インキ希釈溶剤で,溶解・除去し,その後,基材を45℃,24時間,温風乾燥し,重量を測定し,初期の重量とインク除去・乾燥後の重量の差をインキ転写量としたものであり,該インキの転写量は,印刷物10枚の平均値である」と,訂正されたことにより,インキの転写量は「100%網点印刷部の100mmx100mm角の印刷物」における「印刷物10枚の平均値」であること,「(印刷物10枚の)初期の重量を測り,その後,10枚ともすべてインキ被膜を,インキ希釈溶剤で,溶解・除去し,その後,基材を45℃,24時間,温風乾燥し,重量を測定し,初期の重量とインク除去・乾燥後の重量の差をインキ転写量」とすることが特定された。
つまり,印刷媒体に転写するインキ量について,インキ量に関する定義を含む測定方法が特定されるものとなったから,インキの転写量については技術的に明らかなものとなり,その結果、ある具体的なグラビア印刷方法が本件特許発明1の範囲に入るか否かについても当業者が理解できるものとなった。
したがって,理由1-2に関して,本件特許発明1は明確である。

ウ 小括
上述のとおりであるから,本件特許発明1は明確である。
そして,本件特許発明2ないし5に対して明確でないとする理由はないから,本件特許発明1を引用する本件特許発明2ないし5も明確であり,請求項1ないし5に係る特許は,その特許請求の範囲の記載が,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものということはできない。

(2)理由2についての判断
ア 理由2-1について
上記「(3)理由1についての判断 ア 理由1-1について」で述べたように,特許権者が令和2年3月19日付けで提出した乙第26号証における検証実験により,本件特許発明に係る水性インキである,本件特許公報における実施例1のインキは,蒸発率に影響を与えるようなインキの濡れ拡がり面積の差を生じさせるものではないこと,つまり,本件特許発明に係る水性インキの濡れ拡がり面積がほぼ一定なものとなること,並びに,乾燥試験の試験方法が明らかになったことにより,本件特許発明1は明確なものとなった。
したがって,本件特許発明において特定されるインキの乾燥試験方法において,その蒸発面積が特定されていないとしても,あるグラビア印刷方法が本件特許発明の範囲に入るか否かを当業者が理解できないし,実施できないほど明確でないとはいえないことは,上述のとおりであるから,発明の詳細な説明において,蒸発面積が特定されていないとしても,当業者が本件特許発明1を実施するにあたり,乾燥試験の試験方法を実施することができ,その乾燥試験によりインキを特定して,グラビア印刷方法を実施できることは明らかであるから,本件特許明細書の発明の詳細な説明は,当業者が本件特許発明1を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていると認められる。

イ 理由2-2について
上記「(3)理由1についての判断 ア 理由1-2について」で述べたように,インキの転写量の測定方法が訂正されたことにより,理由1-2に関して,本件特許発明1は明確となった。
そして,訂正後の請求項1に記載される発明を実施するにあたり,当業者は,本件特許明細書を参照して,請求項1に記載される発明特定事項に係る水性インキを特定することができ,その水性インキを用いてグラビア印刷方法を実施できることは明らかであるから,本件特許明細書の発明の詳細な説明は,当業者が本件特許発明1を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているものと認められる。

ウ 小括
上述のとおり,本件特許明細書の発明の詳細な説明は,当業者が本件特許発明1を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているものである。
そして,本件特許発明2ないし5に対して,本件特許明細書の発明の詳細な説明が当業者が本件特許発明2ないし5を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないとする理由はないから,本件特許明細書の発明の詳細な説明は,本件特許発明2ないし5を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていると認められ,請求項1ないし5に係る特許は,その発明の詳細な説明が,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものということはできない。

第4 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 特許異議申立人の主張
特許異議申立人角田朗は,特許異議申立書において,訂正前の特許請求の範囲に関し,請求項1ないし5に係る発明は,甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない(以下,「採用しなかった理由1」という。)ものであり,請求項1ないし5に係る発明は,甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明と,甲第3号証ないし甲第15号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない(以下,「採用しなかった理由2」という。)ものであり,請求項1ないし5に係る特許は,特許法第29条の規定に違反してされたものであるから,取り消されるべきものである旨を主張する。
なお,甲第1号証ないし第15号証については以下のとおりである。
甲第 1号証:特開2011-46874号公報
甲第 2号証:特開2008-31276号公報
甲第 3号証:特開2013-142150号公報
甲第 4号証:特開2009-242561号公報
甲第 5号証:特開2005-145498号公報
甲第 6号証:特開2001-279151号公報
甲第 7号証:粘度換算表,株式会社メイセイ,http://meiservic.co.jp./meisei/zc-cup.htm
甲第 8号証:カタログ「PROPYLENE GRYCOL 旭硝子のプロピレングリコール類」,旭硝子株式会社AGC化学品カンパニー,http://www.agc-chemicals.com/file.jsp?id=jp/ja/products/pdf/PROPYLENE GRYCOL 01.pdf
甲第 9号証:特開2004-339396号公報
甲第10号証:特開2001-246867号公報
甲第11号証:特開2001-206347号公報
甲第12号証:特開2004-1444号公報
甲第13号証:特開2015-120290号公報
甲第14号証:特開2015-93470号公報
甲第15号証:特開2003-211814号公報
甲第16号証:タナカ・トレーディング株式会社ウェブ・サイトhttp://www.3915.jp/hp01/08180.html

また,異議申立人は,令和1年10月25日に提出した意見書とともに,甲第17ないし第20号証を提出した。
甲第17ないし第20号証については以下のとおりである。
甲第17号証:中道敏彦,「塗膜の形成?溶液型塗料の乾燥機構,色材,61〔11〕,631-638 1988年」
甲第18号証:新村出,広辞苑,第六版,株式会社岩波書店,2008年1月11日
甲第19号証:株式会社コスモスビードウェブサービス,http://vidtec.net./3080.html
甲第20号証:AGCテクノグラス株式会社ウェブサイト,http://www.atgc.co.jp/div/print3294/ga3487//a4/p3.hyml

2 当審の判断
(1)甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明
ア 甲第1号証の記載事項と甲第1号証に記載された発明について
(ア)「【請求項1】
ポリアルキレングリコールを1?15質量%含む水性グラビアインキ。」

(イ)「【0005】
本発明は,このような状況下で,VOCに該当する物質を含まず環境に配慮しつつ,印刷物に泳ぎの発生が少なく高品質の印刷物が得られる水性グラビアインキ,及びこれを用いた印刷物を提供することを課題とするものである。
【0006】
本発明者は,前記課題を達成するために鋭意研究を重ねた結果,ポリアルキレングリコールを必須の成分とすることで,上記課題を解決し得ることを見出した。本発明は,かかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち,本発明の要旨は下記のとおりである。
【0007】
1.ポリアルキレングリコールを1?15質量%含む水性グラビアインキ。
2.ポリアルキレングリコールの重量平均分子量が,100?2000である上記1に記載の水性グラビアインキ。
3.ポリアルキレングリコールが,ポリエチレングリコール及び/又はポリプロピレングリコールである上記1又は2に記載の水性グラビアインキ。
4.上記1?3のいずれかに記載の水性グラビアインキを用いた印刷物。
【0008】
本発明によれば,VOCに該当する物質を含まず環境に配慮しつつ,印刷物に泳ぎの発生が少なく高品質の印刷物が得られる水性グラビアインキ,及びこれを用いた印刷物を提供することができる。」

(ウ)「【0011】
本発明の水性グラビアインキにおけるポリアルキレングリコールの含有量は,1?15質量%の範囲であることを要し,1?10質量%の範囲であることが好ましい。含有量が上記範囲内であれば,優れた印刷物の品質及び乾燥性が得られる。」

(エ)「【0020】
[印刷物]
本発明の印刷物は,本発明の水性グラビアインキを用いて得られるものである。本発明の水性グラビアインキは,通常のフレキソ印刷,グラビア印刷,凸版印刷などの一般的な印刷方式の他,塗布方式としては,グラビアコート方式,リバースコート方式,キスコート方式,ダイコート方式,リップコート方式,コンマコート方式,ブレードコート方式,ロールコート方式,ナイフコート方式,カーテンコート方式,スロットオリフィス方式,スプレーコート方式などの各方式に使用することができる。また,印刷にあたっては,1回又は数回に分けても,また異なる方式を複数組み合わせて印刷又は塗布してもよい。」

(オ)「【0023】
実施例及び比較例で得られたグラビアインキについて,下記の評価を行った。
(1)泳ぎの評価
実施例及び比較例で得られたグラビアインキを用いて,常法に従い,コート紙にグラビア印刷でベタ印刷を行った。得られた印刷物について,下記の基準で評価した。
○ :インキの泳ぎ(色の濃淡)が全くない
× :インキの泳ぎ(色の濃淡)が著しい
(2)乾燥性の評価
実施例及び比較例で得られたグラビアインキを用いて,常法に従い,コート紙にグラビア印刷でベタ印刷を行った。得られた印刷物について,下記の基準で評価した。
○ :30秒未満で完全に乾燥した
△ :30秒以上60秒未満で完全に乾燥した
× :完全に乾燥するのに60秒以上かかった
(3)環境対応性
実施例及び比較例で得られたグラビアインキについて,下記の基準で評価した。
○ :VOC(揮発性有機化合物)は全く含まれていない
× :VOC(揮発性有機化合物)が含まれている
【0024】
実施例1?3
第1表に示されるインキ成分を,試験用サンドミルで1時間練肉分散させた後,ポリプロピレングリコール及び水の混合溶媒に分散させて,水性グラビアインキを調製した。得られた水性グラビアインキについて,泳ぎの評価,乾燥性の評価を行った。各評価結果を第1表に示す。
【0025】
比較例1?3
第1表に示されるインキ成分を,試験用サンドミルで1時間練肉分散させた後,第1表に示される溶媒に分散させて,グラビアインキを調製した。得られたグラビアインキについて,泳ぎの評価,乾燥性の評価を行った。各評価結果を第1表に示す。」

(カ)「【0026】

*1,アクリル樹脂(「ジョンクリル741(商品名)」;BASFジャパン株式会社製)
*2,フタロシアニンブルー(「シアニンブルーA734(商品名)」;大日精化工業株式会社製)
*3,炭酸カルシウムとシリカとの混合物(炭酸カルシウム:「白艶華T-DD(商品名)」;白石工業株式会社製,シリカ:「AEROSIL300(商品名)」,日本アエロジル株式会社製,混合比は炭酸カルシウム:シリカ=14:1)
*4,疎水性シリカ(「SNデフォーマー777(商品名)」;サンノプコ株式会社製)及びシリコーン系消泡剤(「SNデフォーマー1060(商品名)」;サンノプコ株式会社製)を,1:1(質量比)の割合で混合して使用した。
*5,ウレタン変性ポリエーテル(「SNシックナー621N(商品名)」;サンノプコ株式会社製)
*6,アセチレングリコール(「サーフィノール420(商品名)」;エアープロダクツジャパン株式会社製)
*7,「サンニックスPP-1000(商品名)」;三洋化成工業株式会社製,重量平均分子量:1000」

(キ)「【0027】
本発明の水性グラビアインキは,建装材をはじめとし,各種多様な印刷物,例えば,雑誌などの各種書籍,広告,パッケージ(包装材),ラベル,その他の各種印刷物に好適に用いられる。」

上記(ア)ないし(キ)から,甲第1号証には以下の発明(以下,「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「ポリアルキレングリコールを1?15質量%含む水性グラビアインキを用いて,常法に従い,コート紙にグラビア印刷でベタ印刷を行い,得られた印刷物の乾燥性の評価において,
水54.3質量%,ポリプロピレングリコールを11.0含有するものは,30秒未満で完全に乾燥し,
水45.3質量%,ポリプロピレングリコールを20.0質量%含有するものは,完全に乾燥するのに60秒以上かかった水性グラビアインキ」

イ 甲第2号証の記載事項と甲第2号証に記載された発明について
(ア)「【請求項1】
(アクリロニトリル及び/又はメタクリロニトリル)5?40重量%,アクリル酸エチル95?40重量%及びこれらと共重合可能な単量体0?20重量%からなる単量体混合物を,ノニオン界面活性剤及びアニオン界面活性剤からなる混合界面活性剤の存在下で又は単量体混合物100重量部に対して10重量部を超え,30重量部以下のアルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物の存在下で,重合して得られる共重合体からなるフィルム印刷水性インク用樹脂。」

(イ)「【0009】
本発明のフィルム印刷水性インク用樹脂を用いて分散安定性に優れたフィルム印刷水性インク用樹脂組成物を得ることができる。このフィルム印刷水性インク用樹脂組成物を用いることによって,耐擦傷性や耐水性,保存安定性,基材フィルムに対する付着性等の各特性において優れたフィルム印刷用水性インクを得ることができる。」

(ウ)「【0047】
本発明のフィルム印刷水性インク用樹脂組成物は,合成樹脂フィルムや金属板に対して優れた接着性を示すので,これらへの印刷に好適に使用することができる。
合成樹脂フィルムとしては,塩化ビニル樹脂フィルム,ポリエステルフィルム,ABS樹脂フィルム等を例示することができる。
金属板としては,アルミニウム板等を例示することができる。
本発明のフィルム印刷水性インク用樹脂組成物は,水性インク,例えば,水性グラビアインク,水性フレキソインク,インクジェット記録用水性インクとして好適に使用できる。また,水性塗料として使用することも可能である。」

(エ)「【0057】
(実施例1)
アクリル酸エチル80部,アクリロニトリル15部,メタクリル酸5部,平均重合度500,鹸化度約87?89モル%のポリビニルアルコール(クラレ社製,商品名「PVA205」)18部及びイオン交換水180部を,単量体混合物調製容器中で,攪拌混合して,単量体混合物の分散物を調製した。
別の攪拌機付き反応器(重合器)にイオン交換水220部を仕込み,80℃に昇温し,0.5部の過硫酸アンモニウムを40部の水に溶解して得た水溶液を添加後,前記単量体混合物の分散物を2時間かけて連続添加して重合させた。連続添加終了後,80℃で90分間,後反応を継続して,固形分濃度21%のフィルム印刷水性インク用樹脂ラテックスAを得た。重合転化率は,99%以上であった。ラテックスの粒子径は150nmであった。また,フィルム印刷水性インク用樹脂(以下,単に「水性インク用樹脂」という。)Aのガラス転移温度は,23℃であり,重量平均分子量は72,600,数平均分子量は29,800であった。
ラテックスA150部に,攪拌下に,水35部,N-メチルピロリドン(NMP)63部及び28%アンモニア水溶液4.0部を,この順で,添加して,溶液状態のフィルム印刷水性インク用樹脂組成物(以下,単に「水性インク用樹脂組成物」という。)Aを得た。水性インク用樹脂組成物Aの固形分濃度は12.5%であり,pHは8.0であった。
この水性インク用樹脂組成物の各特性を評価した.その結果を表1に示す。
【0058】
(実施例2?3,比較例1?4)
単量体の組成,ポリビニルアルコールの種類及び使用量並びにイオン交換水の量等を表1に示すように変えるほかは,実施例1と同様にして,水性インク用樹脂B?G及び水性インク用樹脂組成物B?Gを得た。
これらについて,各特性を評価した。その結果を,表1に示す。
【0059】
表1から,以下のことがわかる。
フィルム印刷水性インク用樹脂を構成する共重合体におけるアクリロニトリル及びメタクリロニトリルの量が本発明で規定する範囲を下回るときは,保存安定性,溶解性及び樹脂フィルム等に対する付着性,耐傷性及び耐水性に劣るほか,光沢性も著しく低下する(比較例1)。逆に,アクリロニトリル及びメタクリロニトリルの量が,本発明で規定する範囲を上回るときは,保存安定性及び溶解性に劣り,塩化ビニル樹脂フィルム以外の樹脂フィルム等に対する付着性,耐傷性及び耐水性に劣る(比較例2)。
フィルム印刷水性インク用樹脂を構成する共重合体におけるアクリル酸エチルの量が本発明で規定する範囲を上回るときは,溶解性及び樹脂フィルム等に対する付着性は優れるものの,その他の特性に劣る(比較例3)。
【0060】

【0061】
表1及び表2の脚注
*1:クラレ社製,商品名「PVA205」
*2:クラレ社製,商品名「PVA105」。平均重合度100。鹸化度約98?99モル%
*3:ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム(花王社製,商品名「ラテムルE-118B」)
*4:ポリオキシエチレンセチルエーテル(花王社製,商品名「エマルゲン120」)
【0062】
フィルム印刷水性インク用樹脂を構成する共重合体の重合に用いるアルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物の量が本発明で規定する範囲を下回るときは,得られるフィルム印刷水性インク用樹脂組成物の保存安定性,溶解性,アルミ板以外の樹脂フィルムに対する付着性,耐傷性及び耐水性に劣る(比較例4)。
これに対して,本発明の規定を満足するフィルム印刷水性インク用樹脂から得られるフィルム印刷水性インク用樹脂組成物は,保存安定性,溶解性,樹脂フィルム等に対する付着性,耐傷性,耐水性及び光沢性の全てにおいて優れている(実施例1?3)。」

(オ)「【0063】
(実施例4)
アクリル酸エチル75部,アクリロニトリル25部,平均重合度500,アニオン界面活性剤であるポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム(花王社製,商品名「ラテムルE-118B」)0.5部及びイオン交換水63部を攪拌混合して,単量体混合物のエマルションを調製した。
別の攪拌機付き反応器(重合器)にイオン交換水82.5部,ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム(花王社製,商品名「ラテムルE-118B」)0.3部及びノニオン界面活性剤であるポリオキシエチレンセチルエーテル(花王社製,商品名「エマルゲン120」)2.0部を仕込み,80℃に昇温し,0.5部の過硫酸アンモニウムを10.6部の水に溶解して得た水溶液を添加後,前記単量体混合物の分散物を2時間かけて連続添加して重合させた。連続添加終了後,80℃で90分間,後反応を継続して,固形分濃度40%のフィルム印刷水性インク用樹脂ラテックスHを得た。重合転化率は,99%以上であった。ラテックスの粒子径は188nmであった。また,フィルム印刷水性インク用樹脂(以下,単に「水性インク用樹脂」という。)Hのガラス転移温度は,18℃であり,重量平均分子量は29,800,数平均分子量は17,400であった。
ラテックスH125部に,攪拌下に,水100部,N-メチルピロリドン(NMP)75部及び28%アンモニア水溶液0.65部を,この順で,添加して,溶液状態のフィルム印刷水性インク用樹脂組成物(以下,単に「水性インク用樹脂組成物」という。)Hを得た。水性インク用樹脂組成物Hの固形分濃度は16.6%であり,pHは8.0であった。
この水性インク用樹脂組成物Hの各特性を評価した.その結果を表2に示す。
【0064】
(実施例5?6,比較例5?8)
単量体の組成,界面活性剤の種類及び使用量並びにイオン交換水の量等を表2に示すように変えるほかは,実施例4と同様にして,水性インク用樹脂I?N及び水性インク用樹脂組成物I?Nを得た。
これらについて,各特性を評価した。その結果を,表2に示す。
【0065】
表2から,次のようなことがわかる。
フィルム印刷水性インク用樹脂を構成する共重合体におけるアクリロニトリル及びメタクリロニトリルの量が本発明で規定する範囲を外れるときは,保存安定性,溶解性及び樹脂フィルム等に対する付着性,耐傷性及び耐水性に劣るほか,光沢性も著しく低下する(比較例5及び比較例6)。
また,フィルム印刷水性インク用樹脂を構成する共重合体がアクリロニトリル,メタクリロニトリル及びアクリル酸エチルのいずれをも含有しないときは,樹脂が溶解せず,水性インク用樹脂組成物の諸特性に劣る(比較例7)。
また,フィルム印刷水性インク用樹脂をノニオン界面活性剤のみを用いて合成したときは,保存安定性,溶解性及び耐水性は良好であるものの,光沢性が著しく劣る(比較例8)。
【0066】


上記(ア)ないし(オ)から,甲第2号証には以下の発明(以下,「甲2発明」という。)が記載されているものと認められる。
「(アクリロニトリル及び/又はメタクリロニトリル)5?40重量%,アクリル酸エチル95?40重量%及びこれらと共重合可能な単量体0?20重量%からなる単量体混合物を,ノニオン界面活性剤及びアニオン界面活性剤からなる混合界面活性剤の存在下で又は単量体混合物100重量部に対して10重量部を超え,30重量部以下のアルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物の存在下で,重合して得られる共重合体からなるフィルム印刷水性インク用樹脂であって,
水性インク用樹脂ラテックス150部,イオン交換水35部,NMP63部,28%アンモニア水溶液4部,
水性インク用樹脂ラテックス150部,イオン交換水35部,NMP62部,28%アンモニア水溶液6.2部,
水性インク用樹脂ラテックス125部,イオン交換水100部,NMP75部,28%アンモニア水溶液0.65部,
水性インク用樹脂ラテックス125部,イオン交換水100部,NMP75部,28%アンモニア水溶液2.2部,である水性グラビアインクとして好適に使用できるフィルム印刷水性インク用樹脂」

(1)採用しなかった理由1について
ア 甲1発明について
本件特許発明1と甲1発明とを比較すると、両者は以下の点で相違する。
〈相違点1〉
本件特許発明1のグラビア印刷方法に係る水性インキは「20℃におけるザーンカップ#3の粘度が11.0秒以上20.0秒以下であり,乾燥試験(インキ1gを温度40℃に調整した乾燥機に投入し,エアーフロー1400L/分で30分乾燥)における,下記式(1)で求められるインキ蒸発率が30質量%以下
インキ蒸発率(%)=〔1-(乾燥後のインキ質量/乾燥前のインキ質量)〕×100 ・・・(1)」という性質を有しているのに対して、甲1発明のインキは「水性グラビアインキ」であるが、上記の本件特許発明1の発明特定事項における性質を有するものではない点。
〈相違点2〉
本件特許発明1のグラビア印刷方法に係る水性インキは「1ml/m2以上7ml/m2以下のインキを印刷媒体に転写するグラビア印刷方法であり,
該インキの転写量は,100%網点印刷部で測定した時の印刷媒体に転写する転写量であり,
該インキの転写量の測定方法は,100%網点印刷部の100mmx100mm角の印刷物を10枚用意し,まず,初期の重量を測り,その後,10枚ともすべてインキ被膜を,インキ希釈溶剤で,溶解・除去し,その後,印刷基材を45℃,24時間,温風乾燥し,重量を測定し,初期の重量とインク除去・乾燥後の重量の差をインキ転写量としたものであり,該インキの転写量は,印刷物10枚の平均値」という性質を有しているのに対して、甲1発明のインキは「水性グラビアインキ」であるが、上記の本件特許発明1の発明特定事項における性質を有するものではない点。

イ 甲2発明について
本件特許発明1と甲2発明とを比較すると、両者は以下の点で相違する。
〈相違点1〉
本件特許発明1のグラビア印刷方法に係る水性インキは「20℃におけるザーンカップ#3の粘度が11.0秒以上20.0秒以下であり,乾燥試験(インキ1gを温度40℃に調整した乾燥機に投入し,エアーフロー1400L/分で30分乾燥)における,下記式(1)で求められるインキ蒸発率が30質量%以下
インキ蒸発率(%)=〔1-(乾燥後のインキ質量/乾燥前のインキ質量)〕×100 ・・・(1)」という性質を有しているのに対して、甲1発明のインキは「水性グラビアインキ」であるが、上記の本件特許発明1の発明特定事項における性質を有するものではない点。
〈相違点2〉
本件特許発明1のグラビア印刷方法に係る水性インキは「1ml/m2以上7ml/m2以下のインキを印刷媒体に転写するグラビア印刷方法であり,
該インキの転写量は,100%網点印刷部で測定した時の印刷媒体に転写する転写量であり,
該インキの転写量の測定方法は,100%網点印刷部の100mmx100mm角の印刷物を10枚用意し,まず,初期の重量を測り,その後,10枚ともすべてインキ被膜を,インキ希釈溶剤で,溶解・除去し,その後,印刷基材を45℃,24時間,温風乾燥し,重量を測定し,初期の重量とインク除去・乾燥後の重量の差をインキ転写量としたものであり,該インキの転写量は,印刷物10枚の平均値」という性質を有しているのに対して、甲1発明のインキは「水性グラビアインキ」であるが、上記の本件特許発明1の発明特定事項における性質を有するものではない点。

ウ 判断
本件特許発明1と甲1発明及び甲2発明との相違点は共通しており、本件特許発明1と甲1発明及び甲2発明とは,上記相違点1及び2で相違するものである。
本件特許発明1と甲1発明及び甲2発明の間に相違点がある以上,甲1発明又は甲2発明を根拠として,本件特許発明1は,特許法第29条第1項第3号に該当するものとはいえないから,特許異議申立人が提出した甲第1号証及び甲第2号証によっては,本件請求項1に係る特許が,特許法第29条第1項第3号に違反してされたものということはできない。
また,本件特許発明1と甲1発明及び甲2発明との間に相違点がある以上,請求項1を引用する請求項2ないし5に係る発明である本件特許発明2ないし5についても,甲1発明又は甲2発明を根拠として,本件特許発明2ないし5が,特許法第29条第1項第3号に該当するものとはいえないから,本件請求項2ないし5に係る特許も,特許法第29条第1項第3号に違反してされたものということはできない。

(2)採用しなかった理由2について
異議申立人は、本件特許発明1ないし5は、甲1発明又は甲2発明を主引用例として、当業者が容易に想到し得た旨、主張している。
そして、本件特許発明1と甲1発明及びは甲2発明との間に、相違点1及び2が存在することは、「(1)採用しなかった理由1について」、「ア 甲1発明について」及び「イ 甲2発明について」で述べたとおりである。
また、甲第3号証ないし甲第15号証,さらに,甲第16号証,甲第17号証ないし甲第20号証には,上記相違点1及び2に係る本件特許発明1の発明特定事項について記載も示唆もなく,これらの証拠から,上記相違点1及び2に係る本件特許発明1の発明特定事項が周知技術や設計的事項程度のものであるとする根拠も見いだせない。
したがって,本件特許発明1は,甲1発明又は甲2発明及び甲第3号証ないし甲第15号証、さらに,甲第16号証,甲第17号証ないし甲第20号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものということはできないから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないものであるとすることはできない。
また,本件特許発明1が特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないものということはできないから,請求項1を引用する請求項2ないし5に係る発明である本件特許発明2ないし5についても,当然に特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないものとすることはできない。
以上のとおりであるから,甲第1号証ないし甲15号証,及び甲第16号証,甲第17号証ないし甲第20号証を根拠に,本件請求項1ないし5に係る特許を,特許法第29条第2項に違反してされたものということはできない。
(3)小括
上記のとおりであるから,特許異議申立人が提出した甲第1号証ないし甲15号証,及び甲第16号証,甲第17号証ないし甲第20号証によっては,本件請求項1ないし5に係る特許が,特許法第29条に違反してされたものということはできないから,特許異議申立人の係る主張は,採用することができない。

6 むすび
以上のとおりであるから,取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては,本件請求項1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に本件請求項1ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
20℃におけるザーンカップ#3の粘度が11.0秒以上20.0秒以下であり、乾燥試験(インキ1gを温度40℃に調整した乾燥機に投入し、エアーフロー1400L/分で30分乾燥)における、下記式(1)で求められるインキ蒸発率が30質量%以下である水性インキを用いて、1ml/m^(2)以上7ml/m^(2)以下のインキを印刷媒体に転写するグラビア印刷方法であり、
該インキの転写量は、100%網点印刷部で測定した時の印刷媒体に転写するインキの転写量であり、
該インキの転写量の測定方法は、100%網点印刷部の100mmx100mm角の印刷物を10枚用意し、まず、初期の重量を測り、その後、10枚ともすべてインキ被膜を、インキ希釈溶剤で溶解・除去し、その後、印刷基材を45℃、24時間、温風乾燥し、重量を測定し、初期の重量とインキ除去・乾燥後の重量の差をインキの転写量としたものであり、
該インキの転写量は、印刷物10枚の平均値である、グラビア印刷方法。
インキ蒸発率(%)=〔1-(乾燥後のインキ質量/乾燥前のインキ質量)〕×100 ・・・(1)
【請求項2】
グラビアセルからの印刷媒体へのインキの転写率が50%以上である請求項1記載のグラビア印刷方法。
【請求項3】
グラビアセルの体積が2ml/m^(2)以上8ml/m^(2)以下である請求項1又は2記載のグラビア印刷方法。
【請求項4】
グラビアセルの深度が3μm以上15μm以下である請求項1?3いずれか1項記載のグラビア印刷方法。
【請求項5】
グラビア版数が150線/インチ以上350線/インチ以下である請求項1?4いずれか1項記載のグラビア印刷方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-07-07 
出願番号 特願2017-539763(P2017-539763)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (B41M)
P 1 651・ 113- YAA (B41M)
P 1 651・ 121- YAA (B41M)
P 1 651・ 536- YAA (B41M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 亀田 宏之  
特許庁審判長 藤本 義仁
特許庁審判官 吉村 尚
尾崎 淳史
登録日 2018-06-08 
登録番号 特許第6348672号(P6348672)
権利者 株式会社シンク・ラボラトリー 花王株式会社
発明の名称 グラビア印刷方法  
代理人 石原 進介  
代理人 石原 詔二  
代理人 石原 詔二  
代理人 石原 詔二  
代理人 石原 進介  
代理人 石原 進介  
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