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審決分類 |
審判 全部申し立て 発明同一 C08F 審判 全部申し立て 2項進歩性 C08F 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C08F 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C08F |
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管理番号 | 1366076 |
異議申立番号 | 異議2019-700513 |
総通号数 | 250 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-10-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-06-26 |
確定日 | 2020-08-04 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6443506号発明「硬化性組成物、その製造方法、及びそれを用いた物品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6443506号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7、11〕、〔8-10〕及び12について訂正することを認める。 特許第6443506号の請求項1ないし9、11及び12に係る特許を維持する。 特許第6443506号の請求項10に係る特許に対する本件特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯・本件異議申立の趣旨・審理範囲 1.本件特許の設定登録までの経緯 本件特許第6443506号に係る出願(特願2017-133511号、以下「本願」ということがある。)は、平成29年7月7日(優先権主張:平成28年7月8日、同年8月4日及び同年10月6日、特願2016-136284号、153899号及び198525号)に出願人ダイキン工業株式会社(以下「特許権者」ということがある。)によりされた特許出願であり、平成30年12月7日に特許権の設定登録(請求項の数12)がされ、平成30年12月26日に特許掲載公報が発行されたものである。 2.本件特許異議の申立ての趣旨 本件特許につき、令和元年6月26日に特許異議申立人宮本邦彦(以下「申立人」ということがある。)により、「特許第6443506号の特許請求の範囲の全請求項に記載された発明についての特許を取り消すべきである。」という趣旨の本件特許異議の申立てがされた。(以下、当該申立てを「申立て」ということがある。) 3.審理すべき範囲 上記2.の申立ての趣旨からみて、特許第6443506号の特許請求の範囲の請求項1ないし12に係る発明についての特許を審理の対象とすべきものである。 4.以降の手続の経緯 以降の手続の経緯は以下のとおりである。 令和 元年10月17日付け 取消理由通知 令和 元年12月19日 訂正請求書・意見書 令和 2年 1月10日付け 通知書(申立人あて) 令和 2年 2月17日 意見書(申立人) 第2 申立人が主張する取消理由 申立人は、同人が提出した本件特許異議申立書(以下、「申立書」という。)において、下記甲第1号証ないし甲第4号証を提示し、具体的な取消理由として、概略、以下の(1)ないし(3)が存するとしている。 (1)本件特許の請求項1、5、7及び11に係る発明は、甲第1号証に係る出願の願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した発明と同一であり、同出願の出願時における特許出願人又は発明者と本願に係る特許出願人又は発明者といずれも同一ではないから、特許法第29条の2の規定により、いずれも特許を受けることができないものであって、本件特許の請求項1、5、7及び11に係る発明についての特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。(以下、「取消理由A」という。) (2)本件特許の請求項1ないし6及び8ないし12に係る発明は、いずれも甲第2号証ないし甲第4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は特許法第29条の規定に違反してされたものであって、同法第113条第2号の規定に該当し、取り消すべきものである。(以下「取消理由B」という。) (3)本件特許に係る請求項2の記載では、同項に記載した事項で特定される特許を受けようとする発明が、本件特許に係る明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の発明の詳細な説明に記載したものでないから、本件特許に係る請求項2の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、同法同条同項(柱書)の規定する要件を満たしていないものであって、本件の請求項2に係る発明についての特許は、特許法第36条第6項の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであって、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。(以下「取消理由C」という。) ・申立人提示の甲号証 甲第1号証:特願2016-82010号(特開2017-190429号公報) 甲第2号証:特開2012-224709号公報 甲第3号証:特開2006-2129号公報 甲第4号証:特開2010-159386号公報 (以下、上記甲第1号証に係る出願を「先願」といい、上記「甲第2号証」ないし「甲第4号証」を、それぞれ、「甲2」ないし「甲4」と略す。) 第3 当審が通知した取消理由の概要 当審は、本件特許第6443506号に対する上記特許異議の申立てにつき審理し、上記令和元年10月17日付けで、概略、以下の取消理由を通知した。 ●本件特許の請求項1ないし12は、特許法第36条第6項第2号に適合するものではなく、同法同条同項(柱書)に規定する要件を満たしていないものであるから、本件特許の請求項1ないし12に係る発明についての特許は、特許法第36条第6項の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであって、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。(以下「取消理由1」という。) ●本件の請求項1、5、7及び11に係る発明は、甲第1号証に係る出願(以下、「先願」という。)の願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲(以下「先願明細書等」という。)に記載した発明と同一であり、先願の出願時における特許出願人又は発明者と本件特許に係る出願に係る特許出願人又は発明者といずれも同一ではないから、特許法第29条の2の規定により、いずれも特許を受けることができないものであって、本件特許の請求項1、5、7及び11に係る発明についての特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。(以下「取消理由2」という。) ●本件特許の請求項1及び11に係る発明は、いずれも、甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するか、甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、いずれにしても特許を受けることができるものではないから、本件特許の請求項1及び11に係る発明についての特許は、特許法第29条に違反してされたものであって、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。(以下「取消理由3」という。) 第4 令和元年12月19日付け訂正請求の適否 1.訂正請求の内容 上記令和元年12月19日にされた訂正請求は、本件特許に係る特許請求の範囲を、上記訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし12について訂正することを求めるものであり、以下の訂正事項からなるものである。(なお、下記の訂正事項に係る下線は、当審が付したもので訂正箇所を表す。) (1)請求項1?7及び11からなる一群の請求項に係る訂正 ア.訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1において、「アリル基、ケイヒ酸基、ソルビン酸基」との択一的な記載から、「ケイヒ酸基、ソルビン酸基」を削除し、『アリル基』と訂正する。 イ.訂正事項2 特許請求の範囲の請求項1において、「置換(メタ)アクリロイル基」とあるのを、『CH_(2)=CX_(1)-C(O)-(式中、X_(1)は、水素原子、塩素原子、フッ素原子またはフッ素により置換されていてもよい炭素数1?10のアルキル基を表す)で表される(メタ)アクリロイル基』と訂正する。 ウ.訂正事項3 特許請求の範囲の請求項1において、「(メタ)アクリロイル基からなる群より選ばれる少なくとも1であり、」の後ろに『前記パーフルオロポリエーテル基及び硬化性部位を有する化合物は、トリウレタン構造またはイソシアヌレート型ポリウレタン構造をさらに有し、』という記載を追加する。 エ.訂正事項4 特許請求の範囲の請求項3において、「トリイソシアネート構造をさらに有する」とあるのを、「トリウレタン構造を有する」に訂正する。 オ.訂正事項5 特許請求の範囲の請求項4において、「イソシアヌレート型ポリイソシアネート構造をさらに有する」とあるのを、「イソシアヌレート型ポリウレタン構造を有する」に訂正する。 (2)請求項8?10からなる一群の請求項に係る訂正 ア.訂正事項6 特許請求の範囲の請求項8において、「硬化性組成物の製造方法であり、」の後ろに『(a1)イソシアネート基を有する化合物と(b1)活性水素を有する化合物とを反応させることにより成分(A)を得ることを含み、前記イソシアネート基を有する化合物は、ポリイソシアネートであり、』という記載を追加する。 イ.訂正事項7 特許請求の範囲の請求項8において、「アリル基、ケイヒ酸基、ソルビン酸基」との択一的な記載から、「ケイヒ酸基、ソルビン酸基」を削除し、『アリル基』と訂正する。 ウ.訂正事項8 特許請求の範囲の請求項8において、「置換(メタ)アクリロイル基」とあるのを、『CH_(2)=CX_(1)-C(O)-(式中、X_(1)は、水素原子、塩素原子、フッ素原子またはフッ素により置換されていてもよい炭素数1?10のアルキル基を表す)で表される(メタ)アクリロイル基』と訂正する。 エ.訂正事項9 特許請求の範囲の請求項9において、「硬化性組成物の製造方法であり、」の後ろに『(a1)イソシアネート基を有する化合物と(b1)活性水素を有する化合物とを反応させることにより成分(A)を得ることを含み、前記イソシアネート基を有する化合物は、ポリイソシアネートであり、』という記載を追加する。 オ.訂正事項10 特許請求の範囲の請求項8において、「アリル基、ケイヒ酸基、ソルビン酸基」との択一的な記載から、「ケイヒ酸基、ソルビン酸基」を削除し、『アリル基』と訂正する。 カ.訂正事項11 特許請求の範囲の請求項9において、「置換(メタ)アクリロイル基」とあるのを、『CH_(2)=CX_(1)-C(O)-(式中、X_(1)は、水素原子、塩素原子、フッ素原子またはフッ素により置換されていてもよい炭素数1?10のアルキル基を表す)で表される(メタ)アクリロイル基』と訂正する。 キ.訂正事項12 特許請求の範囲の請求項10を削除する。 (3)請求項12に係る訂正 ア.訂正事項13 特許請求の範囲の請求項12において、「アリル基、ケイヒ酸基、ソルビン酸基」との択一的な記載から、「ケイヒ酸基、ソルビン酸基」を削除し、『アリル基』と訂正する。 イ.訂正事項14 特許請求の範囲の請求項12において、「置換(メタ)アクリロイル基」とあるのを、『CH_(2)=CX_(1)-C(O)-(式中、X_(1)は、水素原子、塩素原子、フッ素原子またはフッ素により置換されていてもよい炭素数1?10のアルキル基を表す)で表される(メタ)アクリロイル基』と訂正する。 ウ.訂正事項15 特許請求の範囲の請求項12において、「(メタ)アクリロイル基からなる群より選ばれる少なくとも1であり、」の後ろに『前記パーフルオロポリエーテル基及び硬化性部位を有する化合物は、トリウレタン構造またはイソシアヌレート型ポリウレタン構造をさらに有し、』という記載を追加する。 2.検討 なお、本件訂正前の請求項2ないし7及び11は、いずれも請求項1を引用するものであり、また、訂正前の請求項10は、請求項8又は9のいずれかを択一的に引用するものであるから、訂正前の請求項1ないし7及び11並びに請求項8ないし10の各組合せにつき、それぞれ特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 また、以下の検討において、この訂正請求による訂正を「本件訂正」といい、本件訂正前の特許請求の範囲における請求項1ないし12を「旧請求項1」ないし「旧請求項12」、本件訂正後の特許請求の範囲における請求項1ないし12をそれぞれ「新請求項1」ないし「新請求項12」という。 (1)訂正の目的要件について ア.請求項1?7及び11からなる一群の請求項に係る訂正 上記1ないし5の各訂正事項による訂正の目的につき検討すると、訂正事項1及び3に係る訂正では、旧請求項1において、「硬化性部位」に係る並列的選択肢の一部を削除する(訂正事項1)とともに、旧請求項3又は4に記載された事項を明瞭化した上で「パーフルオロポリエーテル基及び硬化性部位を有する化合物は、トリウレタン構造またはイソシアヌレート型ポリウレタン構造をさらに有」することを直列的に付加し(訂正事項3)、実質的に減縮された新請求項1とされているから、いずれも特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。 また、訂正事項2、4及び5に係る訂正では、旧請求項1、3及び4に係る「置換(メタ)アクリロイル基」、「トリイソシアネート構造」及び「イソシアヌレート型ポリイソシアネート構造」なるいずれも不明瞭であった記載事項を単に明瞭化したものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 したがって、上記訂正事項1ないし5による各訂正は、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に規定の目的要件に適合するものである。 イ.請求項8?10からなる一群の請求項に係る訂正 上記6ないし12の各訂正事項による訂正の目的につき検討すると、訂正事項6及び9に係る訂正では、旧請求項8及び9において、「(a1)イソシアネート基を有する化合物と(b1)活性水素を有する化合物とを反応させることにより成分(A)を得ることを含み、前記イソシアネート基を有する化合物は、ポリイソシアネートであ」ることをそれぞれ直列的に付加し、訂正事項7及び10に係る訂正では、旧請求項8及び9において、「硬化性部位」に係る並列的選択肢の一部をそれぞれ削除することにより、実質的に減縮された新請求項8及び9とされているから、いずれも特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。 また、訂正事項8及び11に係る訂正では、旧請求項8及び9に係る「置換(メタ)アクリロイル基」なる不明瞭であった各記載事項をそれぞれ単に明瞭化したものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 さらに、訂正事項12に係る訂正では、旧請求項10に係る事項を全て削除して新請求項10としたものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 したがって、上記訂正事項6ないし12による各訂正は、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に規定の目的要件に適合するものである。 ウ.請求項12に係る訂正 上記13ないし15の各訂正事項による訂正の目的につき検討すると、訂正事項13及び15に係る訂正では、旧請求項12において、「硬化性部位」に係る並列的選択肢の一部を削除する(訂正事項13)とともに、旧請求項3又は4に記載された事項を明瞭化した「パーフルオロポリエーテル基及び硬化性部位を有する化合物は、トリウレタン構造またはイソシアヌレート型ポリウレタン構造をさらに有」することを直列的に付加し(訂正事項15)、実質的に減縮された新請求項12とされているから、いずれも特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。 また、訂正事項14に係る訂正では、旧請求項12に係る「置換(メタ)アクリロイル基」なる不明瞭であった記載事項を単に明瞭化したものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 したがって、上記訂正事項13ないし15による各訂正は、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に規定の目的要件に適合するものである。 エ.小括 以上のとおり、上記1ないし15の各訂正事項による訂正は、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に規定の目的要件に適合するものである。 (2)新規事項の追加及び特許請求の範囲の実質的拡張・変更について ア.請求項1?7及び11からなる一群の請求項に係る訂正 上記(1)ア.で示したとおり、訂正事項1及び3に係る訂正では、旧請求項1において、「硬化性部位」に係る並列的選択肢の一部を削除する(訂正事項1)とともに、旧請求項3又は4に記載された事項を明瞭化した「パーフルオロポリエーテル基及び硬化性部位を有する化合物は、トリウレタン構造またはイソシアヌレート型ポリウレタン構造をさらに有」することを直列的に付加し、実質的に減縮された新請求項1とされているから、いずれも旧請求項1並びに同項を引用する旧請求項2ないし7及び11に係る各特許請求の範囲をそれぞれ実質的に減縮しているものと認められる。 また、訂正事項2、4及び5に係る訂正では、旧請求項1、3及び4に係る「置換(メタ)アクリロイル基」、「トリイソシアネート構造」及び「イソシアヌレート型ポリイソシアネート構造」なるいずれも不明瞭であった記載事項を、本件特許明細書の記載(【0017】、【0027】?【0037】等)に基づいて、単に明瞭化したものである。 したがって、上記訂正事項1ないし5に係る各訂正は、いずれも、新たな技術的事項を導入しないものであり、また、特許請求の範囲を実質的に拡張又は変更するものではないことが明らかである。 イ.請求項8?10からなる一群の請求項に係る訂正 上記(1)イ.で示したとおり、上記訂正事項6及び9に係る訂正並びに訂正事項7及び10に係る訂正では、旧請求項8及び9について、実質的に減縮された新請求項8及び9とされているものと認められる。 また、訂正事項8及び11に係る訂正では、旧請求項8及び9に係る「置換(メタ)アクリロイル基」なる不明瞭であった各記載事項をそれぞれ本件特許明細書の記載(【0017】等)に基づき、単に明瞭化したものである。 さらに、訂正事項12に係る訂正では、旧請求項10に係る事項を全て削除して新請求項10としたものといえる。 したがって、上記訂正事項6ないし12による各訂正は、いずれも、新たな技術的事項を導入しないものであり、また、特許請求の範囲を実質的に拡張又は変更するものではないことが明らかである。 ウ.請求項12に係る訂正 上記(1)ウ.で示したとおり、訂正事項13及び15に係る訂正では、旧請求項12について、実質的に減縮された新請求項12とされている。 また、訂正事項14に係る訂正では、旧請求項12に係る「置換(メタ)アクリロイル基」なる不明瞭であった記載事項を本件特許明細書の記載(【0017】等)に基づき、単に明瞭化したものである。 したがって、上記訂正事項13ないし15による各訂正は、いずれも、新たな技術的事項を導入しないものであり、また、特許請求の範囲を実質的に拡張又は変更するものではないことが明らかである。 エ.小括 以上のとおり、上記1ないし15の各訂正事項による訂正は、いずれも新たな技術的事項を導入しないものであり、また、特許請求の範囲を実質的に拡張又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定を満たすものである。 (3)独立特許要件 本件特許異議の申立てにおいては、旧請求項1ないし12、すなわち全請求項につき申立ての対象であるから、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に規定の独立特許要件につき検討することを要しない。 (4)訂正に係る検討のまとめ 以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項1ないし12について訂正を認める。 第5 本件特許に係る請求項に記載された事項 上記訂正後の本件特許に係る請求項1ないし12には、以下の事項が記載されている。 「【請求項1】 パーフルオロポリエーテル基及び硬化性部位を有する化合物と、 硬化性モノマーと を含んで成る硬化性組成物であって、 前記硬化性部位は、アリル基、およびCH_(2)=CX_(1)-C(O)-(式中、X_(1)は、水素原子、塩素原子、フッ素原子またはフッ素により置換されていてもよい炭素数1?10のアルキル基を表す)で表される(メタ)アクリロイル基からなる群より選ばれる少なくとも1であり、 前記パーフルオロポリエーテル基及び硬化性部位を有する化合物は、トリウレタン構造またはイソシアヌレート型ポリウレタン構造をさらに有し、 前記硬化性モノマーは、少なくとも1つのフッ素原子で置換されたアルキル基が(メタ)アクリレート基に結合したモノマーであり、 ラジカル反応性基を有しない有機溶剤の含有率は0?1質量%である、 硬化性組成物。 【請求項2】 25℃における粘度は、5?100000mPa・sである、請求項1に記載の硬化性組成物。 【請求項3】 前記パーフルオロポリエーテル基及び硬化性部位を有する化合物は、トリウレタン構造をさらに有する、請求項1又は2に記載の硬化性組成物。 【請求項4】 前記パーフルオロポリエーテル基及び硬化性部位を有する化合物は、イソシアヌレート型ポリウレタン構造をさらに有する、請求項1又は2に記載の硬化性組成物。 【請求項5】 前記パーフルオロポリエーテル基及び硬化性部位を有する化合物は、硬化性組成物全体に対して5?80質量%含まれる、請求項1?4のいずれかに記載の硬化性組成物。 【請求項6】 硬化性組成物100質量%に対するスズ原子、チタン原子又はジルコニウム原子の含有率は、10質量ppm以下である、請求項1?5のいずれかに記載の硬化性組成物。 【請求項7】 前記硬化性モノマーは、α位の炭素原子に結合した水素原子がハロゲン原子に置換されたモノマーである、請求項1?6のいずれかに記載の硬化性組成物。 【請求項8】 (A)パーフルオロポリエーテル基及び硬化性部位を有する化合物並びに(C)ラジカル反応性基を有しない有機溶剤を含む反応組成物と、(B)硬化性モノマーとを含む混合物から、前記有機溶剤を除去することを含む、硬化性組成物の製造方法であり、 (a1)イソシアネート基を有する化合物と、(b1)活性水素を有する化合物とを反応させることにより成分(A)を得ることを含み、 前記イソシアネート基を有する化合物は、ポリイソシアネートであり、 前記硬化性部位は、アリル基、およびCH_(2)=CX_(1)-C(O)-(式中、X_(1)は、水素原子、塩素原子、フッ素原子またはフッ素により置換されていてもよい炭素数1?10のアルキル基を表す)で表される(メタ)アクリロイル基からなる群より選ばれる少なくとも1であり、 前記硬化性モノマーは、少なくとも1つのフッ素原子で置換されたアルキル基が(メタ)アクリレート基に結合したモノマーである、硬化性組成物の製造方法。 【請求項9】 (A)パーフルオロポリエーテル基及び硬化性部位を有する化合物並びに(C)ラジカル反応性基を有しない有機溶剤を含む反応組成物と、溶媒とを混合し、前記成分(A)を含む沈殿物を形成し、前記沈殿物を分離し、分離した沈殿物を(B)硬化性モノマーと混合することを含む、硬化性組成物の製造方法であり、 (a1)イソシアネート基を有する化合物と、(b1)活性水素を有する化合物とを反応させることにより成分(A)を得ることを含み、 前記イソシアネート基を有する化合物は、ポリイソシアネートであり、 前記硬化性部位は、アリル基、およびCH_(2)=CX_(1)-C(O)-(式中、X_(1)は、水素原子、塩素原子、フッ素原子またはフッ素により置換されていてもよい炭素数1?10のアルキル基を表す)で表される(メタ)アクリロイル基からなる群より選ばれる少なくとも1であり、 前記硬化性モノマーは、少なくとも1つのフッ素原子で置換されたアルキル基が(メタ)アクリレート基に結合したモノマーである、硬化性組成物の製造方法。 【請求項10】(削除) 【請求項11】 基材と、前記基材の表面に形成された請求項1?7のいずれかに記載の硬化性組成物由来の表面処理層とを有する物品。 【請求項12】 表面に凹凸構造を有するフィルムであり、 該表面における鉛筆硬度が、2H以上、および 該表面における水接触角が140度以上、かつ、n-ヘキサデカン接触角が70度以上であり、 パーフルオロポリエーテル基及び硬化性部位を有する化合物と、 硬化性モノマーと を含んで成る硬化性組成物より形成され、 前記硬化性部位は、アリル基、およびCH_(2)=CX_(1)-C(O)-(式中、X_(1)は、水素原子、塩素原子、フッ素原子またはフッ素により置換されていてもよい炭素数1?10のアルキル基を表す)で表される(メタ)アクリロイル基からなる群より選ばれる少なくとも1であり、 前記パーフルオロポリエーテル基及び硬化性部位を有する化合物は、トリウレタン構造またはイソシアヌレート型ポリウレタン構造をさらに有し、 前記硬化性モノマーは、少なくとも1つのフッ素原子で置換されたアルキル基が(メタ)アクリレート基に結合したモノマーである、フィルム。」 (以下、上記請求項1ないし12に係る各発明につき、項番に従い「本件発明1」ないし「本件発明12」といい、併せて「本件発明」と総称することがある。) 第6 当審の判断 当審は、 ・本件の請求項10に係る特許に対する本件特許異議の申立ては、上記適法な訂正されたことにより同請求項10の記載が全て削除されたから、却下すべきものであり、 ・上記訂正後の本件の請求項1ないし9、11及び12に係る発明についての特許については、上記当審が通知した理由及び申立人が主張する各理由は、いずれも理由がないものであり、いずれも維持すべきものである、と判断する。 以下、各取消理由につき検討・詳述する。 I.請求項10に対する特許異議の申立てについて 請求項10に係る発明についての特許に対する申立人からの特許異議の申立ては、上記第4で示したとおり、上記適法な訂正により請求項10の記載が全て削除されたことにより、申立ての対象を欠く不適法なものとなって、その治癒ができないから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により、却下すべきものである。 II.当審が通知した取消理由について 1.取消理由1について 取消理由1は、上記第3に示したとおり、概略、 「本件特許の請求項1ないし12は、特許法第36条第6項第2号に適合するものではなく、同法同条同項(柱書)に規定する要件を満たしていないものであるから、本件特許の請求項1ないし12に係る発明についての特許は、特許法第36条第6項の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであって、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。」 というものであり、具体的に要約すると、 (a)「ケイヒ酸基」、「ソルビン酸基」及び「置換(メタ)アクリロイル基」なる表現が、技術的に意味が不明瞭であること (b)「イソシアネート構造」なる表現が、技術的に意味が不明瞭であること の2点により、本件の各請求項の記載では、各項に記載された事項で特定される発明が明確でないというものである。 (1)上記(a)の点について 上記(a)の点については、「ケイヒ酸基」及び「ソルビン酸基」は、上記本件訂正により「硬化性部位」に係る並列的選択肢から削除されるとともに、「置換(メタ)アクリロイル基」についても、本件特許明細書の記載に基づく本件訂正により「CH_(2)=CX_(1)-C(O)-(式中、X_(1)は、水素原子、塩素原子、フッ素原子またはフッ素により置換されていてもよい炭素数1?10のアルキル基を表す)で表される(メタ)アクリロイル基」と明確になった。 (2)上記(b)の点について 上記(b)の点につき検討すると、技術常識に照らし、本件発明の(A)成分に存在する可能性に乏しい「イソシアネート構造」につき、本件特許明細書の記載に基づく本件訂正により「ウレタン構造」となり、「トリウレタン構造」又は「イソシアヌレート型ポリウレタン構造」となった。 ここで、上記「ウレタン構造」について、本件特許明細書の記載(【0027】?【0037】、【0061】?【0064】及び【0228】?【0236】)に照らすと、本件の各請求項に記載された「トリウレタン構造」及び「イソシアヌレート型ポリウレタン構造」は、いずれも、明細書【0032】に例示された(イソシアヌレート型)トリイソシアネート化合物又は明細書【0034】に例示されたイソシアヌレート型ポリイソシアネート化合物に由来し、そのイソシアネート基と活性水素基含有化合物であるOH基含有化合物と反応することにより生成するウレタン結合の部分を「ウレタン構造」としているものと解されるから、上記「トリウレタン構造」又は「イソシアヌレート型ポリウレタン構造」は、いずれも上記トリイソシアネート化合物又はイソシアヌレート型ポリイソシアネート化合物に由来する構造である。 したがって、上記「トリウレタン構造」又は「イソシアヌレート型ポリウレタン構造」なる各表現は、技術的に意味が明確となった。 (3)小括 以上のとおり、上記(a)及び(b)の点につき、いずれも、上記本件訂正により記載不備が解消され、本件の各請求項の記載では、各項に記載された事項により特定された発明が明確でないとすることができないから、上記取消理由1は理由がない。 2.取消理由2について (1)先願明細書等に記載された事項及び記載された発明 ア.先願明細書等に記載された事項 先願明細書等には、以下の事項が記載されている。(下線は、元々付されているものを除き、当審が付した。) (a-1) 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 (A)下記一般式(1)で表される含フッ素アクリル化合物、 X-Rf^(1)-Z^(1)-Q^(1)-[Z^(2)OR^(1)]_(a) (1) (式中、Rf^(1)は炭素数1?6のパーフルオロアルキレン基と酸素原子によって構成される分子量800?20,000の2価のパーフルオロポリエーテル基であり、Q^(1)は独立に少なくとも(a+1)個のケイ素原子を含む(a+1)価の連結基であり、環状構造をなしていてもよく、酸素原子、窒素原子及びフッ素原子から選ばれる少なくとも1種を含んでいてもよい。Z^(1)は独立に炭素数1?20の、酸素原子、窒素原子及びケイ素原子から選ばれる少なくとも1種を含んでいてもよい2価の連結基であり、途中環状構造を含んでいてもよく、分岐していてもよく、一部の水素原子がフッ素原子に置換されていてもよい。Z^(2)は独立に炭素数1?200の、酸素原子、窒素原子及びケイ素原子から選ばれる少なくとも1種を含んでいてもよい2価の炭化水素基であり、途中環状構造を含んでいてもよい。R^(1)は独立に水素原子、又は酸素原子及び窒素原子から選ばれる少なくとも1種を含んでいてもよいアクリル基もしくはα置換アクリル基を含有する1価の有機基であり、但し、R^(1)は1分子中に平均して少なくとも1個の前記アクリル基もしくはα置換アクリル基を含有する1価の有機基を有する。Xはフッ素原子又は-Z^(1)-Q^(1)-[Z^(2)OR^(1)]_(a)で表される1価の基である。aは1?10の整数である。) (B)25℃における粘度が100mPa・s以下で、1分子中に(メタ)アクリル基を1個又は2個含むアクリル化合物 を必須成分として含有し、(A)成分と(B)成分の質量比が0.03<(A)/(B)<10の範囲内であって、なおかつ、アクリル基と反応する基を持たない揮発性有機化合物が配合されていないものであることを特徴とする含フッ素アクリル組成物。 【請求項2】 (B)成分の一部又は全部として、下記一般式(2) CH_(2)=CR^(6)COOR^(5) (2) (式中、R^(5)は炭素数1?20のアルキル基、アリール基又はアラルキル基であり、分岐していても環状をなしていてもよく、脂肪族不飽和結合、ウレタン結合、エーテル結合、イソシアネート基、水酸基を含んでいてもよい。R^(6)は水素原子又はメチル基、フッ素原子、炭素数1?6のフルオロアルキル基である。) で表されるアクリル化合物を含むものである請求項1に記載の含フッ素アクリル組成物。 【請求項3】 (B)成分として、水素原子の一部がF、Cl、及びBrから選ばれるハロゲン原子で置換されたアクリル化合物を含むものである請求項1又は2に記載の含フッ素アクリル組成物。 【請求項4】 (B)成分の一部又は全部として、下記一般式(3) CH_(2)=CR^(2)COOZ^(3)Rf^(2) (3) (但し、式中、R^(2)は独立に水素原子、F、Cl、Br又は炭素数1?8の1価の炭化水素基であり、炭化水素基中の水素原子はF、Cl、Brで置換されていてもよい。Z^(3)は独立に炭素数1?8の2価の炭化水素基であり、分岐していてもよく、途中に酸素原子、水酸基を含んでいてもよい。Rf^(2)はフッ素原子数2?20のフルオロアルキル基であり、水素原子、酸素原子を含んでいてもよく、分岐していてもよい。) で表される含フッ素アクリル化合物を含むものである請求項3に記載の含フッ素アクリル組成物。 【請求項5】 (A)成分の一般式(1)で表される含フッ素アクリル化合物において、Rf^(1)が以下3種類の構造式 -CF_(2)O-(CF_(2)O)_(p)(CF_(2)CF_(2)O)_(q)-CF_(2)- 【化1】 (但し、( )で括られた繰り返し単位の配列はランダムであり、pは1?200の整数、qは1?170の整数、p+qは6?201である。sは0?6の整数、t、uはそれぞれ1?100の整数、t+uは2?120の整数である。vは1?120の整数である。) で表される2価パーフルオロポリエーテル基のいずれかである請求項1?4のいずれか1項に記載の含フッ素アクリル組成物。 ・・(中略)・・ 【請求項7】 (A)成分において、一般式(1)中のQ^(1)が下記式 【化3】 (式中、aは独立に1?10の整数である。) で表される構造である請求項1?6のいずれか1項に記載の含フッ素アクリル組成物。 【請求項8】 (A)成分が、下記式で表される含フッ素アクリル化合物から選ばれるものである請求項1?7のいずれか1項に記載の含フッ素アクリル組成物。 【化4】 【化5】 ・・(中略)・・ (式中、Rf’は-CF_(2)O(CF_(2)O)_(p)(CF_(2)CF_(2)O)_(q)CF_(2)-であり、pは1?200の整数、qは1?170の整数、p+qは6?201である。e1は1?30の整数である。R’は水素原子、 【化8】 又は 【化9】 であり、これらは一つの分子中に混在していてもよい。但し、R’は1分子中に平均して少なくとも1個の上記(メタ)アクリル基を含有する1価の有機基である。v1は2?120の整数である。) 【請求項9】 (B)25℃における粘度が100mPa・s以下で、1分子中に(メタ)アクリル基を1個又は2個含むアクリル化合物の存在下において、 (C)下記一般式(4)で表される含フッ素多官能アルコール化合物と、 X^(1)-Rf^(1)-Z^(1)-Q^(1)-[Z^(2)OH]_(a) (4) (式中、X^(1)はフッ素原子又は-Z^(1)-Q^(1)-[Z^(2)OH]_(a)で表される基であり、Rf^(1)は炭素数1?6のパーフルオロアルキレン基と酸素原子によって構成される分子量800?20,000の2価のパーフルオロポリエーテル基であり、Z^(1)は独立に炭素数1?20の、酸素原子、窒素原子及びケイ素原子から選ばれる少なくとも1種を含んでいてもよい2価の連結基であり、Q^(1)は独立に少なくとも(a+1)個のケイ素原子を含む(a+1)価の連結基であり、環状構造をなしていてもよく、酸素原子、窒素原子及びフッ素原子から選ばれる少なくとも1種を含んでいてもよい。Z^(2)は独立に炭素数1?200の、酸素原子、窒素原子及びケイ素原子から選ばれる少なくとも1種を含んでいてもよい2価の炭化水素基であり、途中環状構造を含んでいてもよい。aは1?10の整数である。) (D)1分子中に一つのイソシアネート基と少なくとも一つの(メタ)アクリル基を有する化合物とを反応させて、 (A)下記一般式(1)で表される含フッ素アクリル化合物 X-Rf^(1)-Z^(1)-Q^(1)-[Z^(2)OR^(1)]_(a) (1) (式中、Rf^(1)、Z^(1)、Q^(1)、Z^(2)、aは上記と同じである。R^(1)は独立に水素原子、又は酸素原子及び窒素原子から選ばれる少なくとも1種を含んでいてもよいアクリル基もしくはα置換アクリル基を含有する1価の有機基であり、但し、R^(1)は1分子中に平均して少なくとも1個の前記アクリル基もしくはα置換アクリル基を含有する1価の有機基を有する。Xはフッ素原子又は-Z^(1)-Q^(1)-[Z^(2)OR^(1)]_(a)で表される1価の基である。) を生成させる工程を有し、上記(A)成分と(B)成分の質量比が0.03<(A)/(B)<10の範囲内であって、なおかつ、アクリル基と反応する基を持たない揮発性有機化合物が配合されていない含フッ素アクリル組成物を得ることを特徴とする含フッ素アクリル組成物の製造方法。 【請求項10】 (B)成分の一部又は全部として、下記一般式(2) CH_(2)=CR^(6)COOR^(5) (2) (式中、R^(5)は炭素数1?20のアルキル基、アリール基又はアラルキル基であり、分岐していても環状をなしていてもよく、脂肪族不飽和結合、ウレタン結合、エーテル結合、イソシアネート基、水酸基を含んでいてもよい。R^(6)は水素原子又はメチル基、フッ素原子、炭素数1?6のフルオロアルキル基である。) で表されるアクリル化合物及び/又は下記一般式(3) CH_(2)=CR^(2)COOZ^(3)Rf^(2) (3) (但し、式中、R^(2)は独立に水素原子、F、Cl、Br又は炭素数1?8の1価の炭化水素基であり、炭化水素基中の水素原子はF、Cl、Brで置換されていてもよい。Z^(3)は独立に炭素数1?8の2価の炭化水素基であり、分岐していてもよく、途中に酸素原子、水酸基を含んでいてもよい。Rf^(2)はフッ素原子数2?20のフルオロアルキル基であり、水素原子、酸素原子を含んでいてもよく、分岐していてもよい。) で表される含フッ素アクリル化合物を含み、 (C)成分の一般式(4)及び(A)成分の一般式(1)において、Rf^(1)が以下3種類の構造式 -CF_(2)O-(CF_(2)O)_(p)(CF_(2)CF_(2)O)_(q)-CF_(2)- 【化10】 (但し、( )で括られた繰り返し単位の配列はランダムであり、pは1?200の整数、qは1?170の整数、p+qは6?201である。sは0?6の整数、t、uはそれぞれ1?100の整数、t+uは2?120の整数である。vは1?120の整数である。) で表される2価パーフルオロポリエーテル基のいずれかであり、Z^(1)が下記式 -CH_(2)CH_(2)CH_(2)CH_(2)- -CH_(2)OCH_(2)CH_(2)CH_(2)- 【化11】 で表されるいずれかの構造であり、Q^(1)が下記式 【化12】 (式中、aは独立に1?10の整数である。) で表される構造である請求項9に記載の含フッ素アクリル組成物の製造方法。 【請求項11】 活性エネルギー線硬化性組成物(E)100質量部に対し、請求項1?8のいずれか1項に記載の含フッ素アクリル組成物を0.005?40質量部含むことを特徴とする含フッ素活性エネルギー線硬化性組成物。 【請求項12】 活性エネルギー線硬化性組成物(E)が、 (Ea)アクリル化合物:100質量部、 (Eb)光重合開始剤:0.1?15質量部 を含有してなるものである請求項11に記載の含フッ素活性エネルギー線硬化性組成物。 【請求項13】 請求項11又は12に記載の含フッ素活性エネルギー線硬化性組成物の硬化物層を表面に有する物品。」 (a-2) 「【技術分野】 【0001】 本発明は、紫外線や電子線等の活性エネルギー線硬化性組成物に添加することで撥液性、防汚性を付与することができる含フッ素アクリル組成物、及び該含フッ素アクリル組成物の製造方法、該組成物を有する含フッ素活性エネルギー線硬化性組成物、並びにこの組成物の硬化物層を基材表面に有する物品に関する。 【背景技術】 【0002】 従来、樹脂成形体等の表面を保護する手段として、ハードコート処理が広く一般に用いられている。これは成形体の表面に硬質の硬化樹脂層(ハードコート層)を形成し、傷つき難くするものである。ハードコート層を構成する材料としては、熱硬化性樹脂や紫外線もしくは電子線硬化型樹脂など活性エネルギー線による硬化性組成物が多く使用されている。 【0003】 一方、樹脂成形品の利用分野の拡大や高付加価値化の流れに伴い、硬化樹脂層(ハードコート層)に対する高機能化の要望が高まっており、その一つとして、ハードコート層への防汚性の付与が求められている。これはハードコート層の表面に撥水性、撥油性などの性質を付与することにより、汚れ難く、あるいは汚れても容易に取り除くことができるようにするものである。 【0004】 ハードコート層に防汚性を付与する方法としては、一旦形成されたハードコート層表面に含フッ素防汚剤を塗工及び/又は定着させる方法が広く用いられているが、含フッ素硬化性成分を硬化前の硬化樹脂組成物に添加し、これを塗布硬化させることでハードコート層の形成と防汚性の付与を同時に行う方法についても検討されてきた。例えば、特開平6-211945号公報(特許文献1)には、アクリル系の硬化性樹脂組成物にフルオロアルキルアクリレートを添加、硬化させることで防汚性を付与したハードコート層の製造が示されている。 【0005】 一方、ハードコート処理は、その塗工性や被膜性能向上のため有機溶剤によって希釈された塗工液での取扱いが広く執り行われている。しかし近年、環境や人体への影響の懸念から揮発性有機溶剤等の揮発性有機化合物(VOC)の使用を抑制する動きが高まっており、ハードコートの塗工液についてもハイソリッド化や無溶剤化が強く求められている。これに伴い、前述したようなハードコートの塗工液に撥液性、防汚性を付与するために添加する添加剤組成物についても揮発性有機溶剤等の反応性基のない揮発性有機化合物を含まない組成のものが求められてきている。」 (a-3) 「【発明が解決しようとする課題】 【0007】 本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、反応性基のない揮発性有機化合物の含有量を抑制することで、硬化性組成物に添加した際に硬化性組成物全体としてのアクリル基と反応する基を持たない(非反応性の)揮発性有機化合物(特には、分子中に(メタ)アクリル基を含有しない非反応性の揮発性有機化合物)を増加させることなく撥液性、防汚性を付与することができる含フッ素アクリル組成物、及び該含フッ素アクリル組成物の製造方法、該組成物を有する含フッ素活性エネルギー線硬化性組成物、並びにこの組成物の硬化物層を基材表面に有する物品を提供することを目的とする。」 (a-4) 「【発明の効果】 【0012】 本発明の含フッ素アクリル組成物によれば、アクリル基と反応する基を持たない揮発性有機化合物(特には、分子中に(メタ)アクリル基を含有しない非反応性の揮発性有機化合物)の含有量を増やすことなく活性エネルギー線硬化性組成物に添加して、撥液性、防汚性を付与することができる含フッ素活性エネルギー線硬化性組成物を提供することができる。」 (a-5) 「【0040】 本発明の含フッ素アクリル組成物における第二の必須成分は、(B)1分子中に(メタ)アクリル基を1個又は2個含むアクリル化合物である。(B)成分は、(A)成分との溶解性及び後述する(C)成分との混合性から、25℃における粘度が100mPa・s以下であり、好ましくは0.4?20mPa・sである。(B)成分のアクリル化合物は、水素原子が部分的に塩素原子(Cl)、フッ素原子(F)、あるいは臭素原子(Br)に置換されていてもよく、アクリル構造以外の酸素原子、窒素原子を含んでいてもよく、エーテル結合、ウレタン結合、イソシアネート基、水酸基を含んでいてもよい。 【0041】 このような(B)成分のうち分子中に1個の(メタ)アクリル基を有する化合物の好ましい例として、具体的には、下記一般式(2)で表されるものが示される。 CH_(2)=CR^(6)COOR^(5) (2) (式中、R^(5)は炭素数1?20、好ましくは1?10のアルキル基、アリール基又はアラルキル基であり、分岐していても環状をなしていてもよく、脂肪族不飽和(二重)結合、ウレタン結合、エーテル結合、イソシアネート基、水酸基を含んでいてもよい。R^(5)として、具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、フェニル基、ジシクロペンタニル基、ジシクロペンテニル基、フルフリル基、テトラヒドロフルリル基、テトラヒドロピラニル基、-CH_(2)CH_(2)-OH、-CH_(2)CH(CH_(3))-OH、-CH_(2)CH_(2)-NCO等を挙げることができる。R^(6)は水素原子又はメチル基、フッ素原子、炭素数1?6のフルオロアルキル基であり、特に水素原子、メチル基、フッ素原子、トリフルオロメチル基が好ましい。) ・・(中略)・・ 【0045】 さらに、(B)成分の一部又は全体として、水素原子の一部がF、Cl、Brで置換されているものが好適であり、特に下記一般式(3)で示されるアクリル化合物が望ましい。 CH_(2)=CR^(2)COOZ^(3)Rf^(2) (3) 【0046】 上記式(3)中、R^(2)は独立に水素原子、F、Cl、Br又は炭素数1?8の1価の炭化水素基であり、炭化水素基中の水素原子はF、Cl、Brで置換されていてもよい。 炭素数1?8、特に炭素数1?6の1価の炭化水素基としては、メチル基、エチル基等のアルキル基、トリフルオロメチル基等のフルオロアルキル基等が挙げられる。R^(2)としては、水素原子、メチル基が好ましい。 【0047】 上記式(3)中、Z^(3)は独立に炭素数1?8、特に炭素数1?4の2価の炭化水素基であり、分岐していてもよく、途中に酸素原子、水酸基を含んでいてもよい。 特に好ましいZ^(3)としては、以下のものを挙げることができる。 -CH_(2)- -CH_(2)CH_(2)- -CH_(2)-CH(OH)-CH_(2)- -CH_(2)-CH_(2)-O-CH_(2)CH_(2)- 【0048】 上記式(3)中、Rf^(2)はフッ素原子数2?20、特に1?10のフルオロアルキル基であり、水素原子、酸素原子を含んでいてもよく、分岐していてもよい。 Rf^(2)として、具体的には、以下のものが示される。 -CF_(3) -C_(2)F_(5) -C_(3)F_(7) -C_(4)F_(9) -C_(6)F_(13) -CF_(2)H -C_(2)F_(4)H -CF_(2)CF_(2)H -CF_(2)CF_(2)CF_(2)CF_(2)H -CF_(2)CF_(2)CF_(2)CF_(2)CF_(2)CF_(2)H -CF_(2)CF_(2)CF(CF_(3))_(2) -CF(CF_(3))_(2) -CH(CF_(3))_(2) -CF_(2)CHFCF_(3) -CF_(2)CF_(2)OCF_(3) 【0049】 以上の条件を満たす(B)成分のアクリル化合物として、特に以下のものを例示することができる。 CH_(2)=CHCOOCH_(2)CH_(2)C_(4)F_(9) CH_(2)=CHCOOCH_(2)CH_(2)C_(6)F_(13) CH_(2)=C(CH_(3))COOCH_(2)CH_(2)C_(4)F_(9) CH_(2)=C(CH_(3))COOCH_(2)CH_(2)C_(6)F_(13) 【0050】 (B)成分は単一でもあるいは上記定義に当てはまる複数の化合物の混合物でもよく、混合物の場合は(B)に該当する化合物の含有量の合計を(B)成分の含有量として計算すればよい。(B)成分に該当する化合物は、必要に応じて公知の方法で合成可能であるが、試薬メーカー等から各種のものが市販されており、これをそのまま使用することもできる。 【0051】 本発明の第一の実施形態である含フッ素アクリル組成物は、上記(A)、(B)成分を必須成分とし、(A)成分と(B)成分の質量比が0.03<(A)/(B)<10、好ましくは0.05≦(A)/(B)≦8、より好ましくは0.1≦(A)/(B)≦5の範囲内であって、なおかつ、アクリル基と反応する基を持たない揮発性有機化合物(特には、分子中に(メタ)アクリル基を含有しない非反応性の揮発性有機化合物)が配合されていないものである。 本発明の別な実施形態として、該含フッ素アクリル組成物を後述する活性エネルギー線硬化性組成物(E)と混合して含フッ素活性エネルギー線硬化性組成物とし、これを塗布、硬化した場合に、基材上に撥液性、防汚性の硬化物層を与えることができるが、この撥液性、防汚性は、活性エネルギー線硬化性組成物(E)の成分中に分散した(A)成分が硬化物層表面に存在することで発現する。このため上記質量比(A)/(B)が0.03以下の場合には含フッ素アクリル組成物中の(A)成分の含有量が小さくなりすぎて最終的な撥液性、防汚性の発現が困難となる。一方、上記質量比(A)/(B)が10以上となった場合には、(A)成分の粘度の高さにより作業性が低下し、(E)成分との相溶性や混合性が低下する。 【0052】 本発明における第一の実施形態である含フッ素アクリル組成物において、その製造方法は特に制限されず、各種手法において製造された(A)成分及び(B)成分を混合してもよい。しかし、(A)成分のアクリル化合物は、その撥液性、防汚性の付与特性が向上するほど粘度が高くなり揮発分が除去しにくい高粘度の化合物となる傾向があり、揮発分の除去に有効な減圧、加熱等の条件は(A)成分の構造中のアクリル基の重合を引き起こし、増粘やゲル化の危険が大きい。そのため、より好ましくはアクリル基導入前の合成工程において、揮発成分(アクリル基と反応する基を持たない揮発性有機化合物)除去済みの原料を調製し、これを用いて(B)成分の存在下に(A)成分を合成し、目的とする含フッ素アクリル組成物を得ることが望ましい。」 イ.先願明細書等に記載された発明 上記先願明細書には、 「(A)下記一般式(1)で表される含フッ素アクリル化合物、 X-Rf^(1)-Z^(1)-Q^(1)-[Z^(2)OR^(1)]_(a) (1) (式中、Rf^(1)は炭素数1?6のパーフルオロアルキレン基と酸素原子によって構成される分子量800?20,000の2価のパーフルオロポリエーテル基であり、Q^(1)は独立に少なくとも(a+1)個のケイ素原子を含む(a+1)価の連結基であり、環状構造をなしていてもよく、酸素原子、窒素原子及びフッ素原子から選ばれる少なくとも1種を含んでいてもよい。Z^(1)は独立に炭素数1?20の、酸素原子、窒素原子及びケイ素原子から選ばれる少なくとも1種を含んでいてもよい2価の連結基であり、途中環状構造を含んでいてもよく、分岐していてもよく、一部の水素原子がフッ素原子に置換されていてもよい。Z^(2)は独立に炭素数1?200の、酸素原子、窒素原子及びケイ素原子から選ばれる少なくとも1種を含んでいてもよい2価の炭化水素基であり、途中環状構造を含んでいてもよい。R^(1)は独立に水素原子、又は酸素原子及び窒素原子から選ばれる少なくとも1種を含んでいてもよいアクリル基もしくはα置換アクリル基を含有する1価の有機基であり、但し、R^(1)は1分子中に平均して少なくとも1個の前記アクリル基もしくはα置換アクリル基を含有する1価の有機基を有する。Xはフッ素原子又は-Z^(1)-Q^(1)-[Z^(2)OR^(1)]_(a)で表される1価の基である。aは1?10の整数である。) (B)25℃における粘度が100mPa・s以下で、1分子中に(メタ)アクリル基を1個又は2個含むアクリル化合物 を必須成分として含有し、(A)成分と(B)成分の質量比が0.03<(A)/(B)<10の範囲内であって、なおかつ、アクリル基と反応する基を持たない揮発性有機化合物が配合されていないものであることを特徴とする含フッ素アクリル組成物。」(【請求項1】)が記載され、 「(B)成分の一部又は全部として、下記一般式(3) CH_(2)=CR^(2)COOZ^(3)Rf^(2) (3) (但し、式中、R^(2)は独立に水素原子、F、Cl、Br又は炭素数1?8の1価の炭化水素基であり、炭化水素基中の水素原子はF、Cl、Brで置換されていてもよい。Z^(3)は独立に炭素数1?8の2価の炭化水素基であり、分岐していてもよく、途中に酸素原子、水酸基を含んでいてもよい。Rf^(2)はフッ素原子数2?20のフルオロアルキル基であり、水素原子、酸素原子を含んでいてもよく、分岐していてもよい。) で表される含フッ素アクリル化合物を含むものである」こと(【請求項4】)、 「活性エネルギー線硬化性組成物(E)100質量部に対し、請求項1?8のいずれか1項に記載の含フッ素アクリル組成物を0.005?40質量部含むことを特徴とする含フッ素活性エネルギー線硬化性組成物。」(【請求項11】)及び 「請求項11又は12に記載の含フッ素活性エネルギー線硬化性組成物の硬化物層を表面に有する物品。」(【請求項13】)もそれぞれ記載されている。 してみると、先願明細書等には、上記各記載事項からみて、 「(A)下記一般式(1)で表される含フッ素アクリル化合物、 X-Rf^(1)-Z^(1)-Q^(1)-[Z^(2)OR^(1)]_(a) (1) (式中、Rf^(1)は炭素数1?6のパーフルオロアルキレン基と酸素原子によって構成される分子量800?20,000の2価のパーフルオロポリエーテル基であり、Q^(1)は独立に少なくとも(a+1)個のケイ素原子を含む(a+1)価の連結基であり、環状構造をなしていてもよく、酸素原子、窒素原子及びフッ素原子から選ばれる少なくとも1種を含んでいてもよい。Z^(1)は独立に炭素数1?20の、酸素原子、窒素原子及びケイ素原子から選ばれる少なくとも1種を含んでいてもよい2価の連結基であり、途中環状構造を含んでいてもよく、分岐していてもよく、一部の水素原子がフッ素原子に置換されていてもよい。Z^(2)は独立に炭素数1?200の、酸素原子、窒素原子及びケイ素原子から選ばれる少なくとも1種を含んでいてもよい2価の炭化水素基であり、途中環状構造を含んでいてもよい。R^(1)は独立に水素原子、又は酸素原子及び窒素原子から選ばれる少なくとも1種を含んでいてもよいアクリル基もしくはα置換アクリル基を含有する1価の有機基であり、但し、R^(1)は1分子中に平均して少なくとも1個の前記アクリル基もしくはα置換アクリル基を含有する1価の有機基を有する。Xはフッ素原子又は-Z^(1)-Q^(1)-[Z^(2)OR^(1)]_(a)で表される1価の基である。aは1?10の整数である。) (B)成分の一部又は全部として、下記一般式(3) CH_(2)=CR^(2)COOZ^(3)Rf^(2) (3) (但し、式中、R^(2)は独立に水素原子、F、Cl、Br又は炭素数1?8の1価の炭化水素基であり、炭化水素基中の水素原子はF、Cl、Brで置換されていてもよい。Z^(3)は独立に炭素数1?8の2価の炭化水素基であり、分岐していてもよく、途中に酸素原子、水酸基を含んでいてもよい。Rf^(2)はフッ素原子数2?20のフルオロアルキル基であり、水素原子、酸素原子を含んでいてもよく、分岐していてもよい。) で表される含フッ素アクリル化合物を含む25℃における粘度が100mPa・s以下で、1分子中に(メタ)アクリル基を1個又は2個含むアクリル化合物 を必須成分として含有し、(A)成分と(B)成分の質量比が0.03<(A)/(B)<10の範囲内であって、なおかつ、アクリル基と反応する基を持たない揮発性有機化合物が配合されていないものであることを特徴とする含フッ素アクリル組成物。」 に係る発明(以下、「先願発明1」という。)、 「活性エネルギー線硬化性組成物(E)100質量部に対し、先願発明1の含フッ素アクリル組成物を0.005?40質量部含むことを特徴とする含フッ素活性エネルギー線硬化性組成物。」 に係る発明(以下、「先願発明2」という。)及び 「先願発明2の含フッ素活性エネルギー線硬化性組成物の硬化物層を表面に有する物品。」 に係る発明(以下「先願発明3」という。)がそれぞれ記載されている。 (2)本件の各発明についての検討 ア.本件発明1について (ア)対比 本件発明1と上記先願発明1とを対比すると、先願発明1の「(A)成分」における「Rf^(1)は炭素数1?6のパーフルオロアルキレン基と酸素原子によって構成される分子量800?20,000の2価のパーフルオロポリエーテル基であり、」は、本件発明1における「パーフルオロポリエーテル基・・を有する」に相当し、先願発明1の「(A)成分」における「R^(1)は独立に水素原子、又は酸素原子及び窒素原子から選ばれる少なくとも1種を含んでいてもよいアクリル基もしくはα置換アクリル基を含有する1価の有機基であり、但し、R^(1)は1分子中に平均して少なくとも1個の前記アクリル基もしくはα置換アクリル基を含有する1価の有機基を有する」は、本件発明1における「硬化性部位を有する化合物」であり、「硬化性部位は、・・CH_(2)=CX_(1)-C(O)-(式中、X_(1)は、水素原子、塩素原子、フッ素原子またはフッ素により置換されていてもよい炭素数1?10のアルキル基を表す)で表される(メタ)アクリロイル基・・であり」に相当する。 また、先願発明1の「(B)成分」における「下記一般式(3) CH_(2)=CR^(2)COOZ^(3)Rf^(2) (3) (但し、式中、R^(2)は独立に水素原子、F、Cl、Br又は炭素数1?8の1価の炭化水素基であり、炭化水素基中の水素原子はF、Cl、Brで置換されていてもよい。Z^(3)は独立に炭素数1?8の2価の炭化水素基であり、分岐していてもよく、途中に酸素原子、水酸基を含んでいてもよい。Rf^(2)はフッ素原子数2?20のフルオロアルキル基であり、水素原子、酸素原子を含んでいてもよく、分岐していてもよい。)で表される含フッ素アクリル化合物」は、本件発明1における「硬化性モノマー」における「少なくとも1つのフッ素原子で置換されたアルキル基が(メタ)アクリレート基に結合したモノマー」に相当するとともに、先願発明1における「アクリル基と反応する基を持たない揮発性有機化合物が配合されていないものである」は、先願明細書等の記載(【0005】)からみて、揮発性有機化合物の範ちゅうに揮発性有機溶剤が含まれることが明らかであり、「揮発性有機化合物が配合されていない」ということは、実質的に「含有率0質量%」であることを意味するから、本件発明1における「ラジカル反応性基を有しない有機溶剤の含有率は0・・質量%である」に相当する。 さらに、先願発明1の「含フッ素アクリル組成物」は、活性エネルギー線照射などにより硬化させることが明らかであるから、本件発明1における「硬化性組成物」に相当する。 してみると、本件発明1と先願発明1とは、 「パーフルオロポリエーテル基及び硬化性部位を有する化合物と、 硬化性モノマーと を含んで成る硬化性組成物であって、 前記硬化性部位は、CH_(2)=CX_(1)-C(O)-(式中、X_(1)は、水素原子、塩素原子、フッ素原子またはフッ素により置換されていてもよい炭素数1?10のアルキル基を表す)で表される(メタ)アクリロイル基であり、 前記硬化性モノマーは、少なくとも1つのフッ素原子で置換されたアルキル基が(メタ)アクリレート基に結合したモノマーであり、 ラジカル反応性基を有しない有機溶剤の含有率は0質量%である、 硬化性組成物。」 で一致し、以下の点で相違する。 相違点X:本件発明1では「パーフルオロポリエーテル基及び硬化性部位を有する化合物は、トリウレタン構造またはイソシアヌレート型ポリウレタン構造をさらに有」するのに対して、先願発明1では「(A)成分」がトリウレタン構造またはイソシアヌレート型ポリウレタン構造を有するか不明である点 (イ)検討 上記相違点Xについて検討するにあたり前提として、上記1.(2)で説示したとおり、本件発明1における「トリウレタン構造」又は「イソシアヌレート型ポリウレタン構造」はいずれもトリイソシアネート化合物又はイソシアヌレート型ポリイソシアネート化合物に由来する構造であり、他のウレタン構造については、本件発明1における「トリウレタン構造」又は「イソシアヌレート型ポリウレタン構造」に該当しないものと認められる。 そこで、先願発明1につき、先願明細書等の記載を検討すると、「(A)下記一般式(1)で表される含フッ素アクリル化合物」を構成する際の原料化合物として、1個のイソシアネートを含有する(メタ)アクリレート化合物を使用することについては開示されている(摘示(a-1)【請求項9】等参照)ものの、(イソシアヌレート型)トリイソシアネート化合物又はイソシアヌレート型ポリイソシアネート化合物を使用することにつき記載又は示唆されていないから、先願発明1における「(A)成分」につき、(イソシアヌレート型)トリイソシアネート化合物又はイソシアヌレート型ポリイソシアネート化合物に由来する「トリウレタン構造」又は「イソシアヌレート型ポリウレタン構造」を有するものと認めることはできない。 したがって、上記相違点Xについては、実質的な相違点であるものといえる。 (ウ)小括 したがって、本件発明1と先願発明1とは、実質的に同一であるということはできない。 イ.本件発明5及び7について (ア)先願発明1に基づく検討 本件発明1を引用する本件発明5又は7につきそれぞれ先願発明1と対比すると、その余の点はさておき、少なくとも上記ア.で示した相違点Xにおいて相違するものと認められる。 そして、上記相違点Xについては、上記ア.(イ)で説示した理由により、実質的な相違点であるから、本件発明5又は7と先願発明1とについても、同一の理由により、実質的に同一であるとはいえない。 (イ)先願発明2に基づく検討 本件発明1を引用する本件発明5につき先願発明2と対比すると、その余の点はさておき、少なくとも上記ア.で示した相違点Xにおいて相違するものと認められる。 そして、上記相違点Xについては、上記ア.(イ)で説示した理由により、実質的な相違点であるから、本件発明5と先願発明2とについても、同一の理由により、実質的に同一であるとはいえない。 (ウ)小括 以上のとおり、本件発明5又は7と先願発明1又は2とは、いずれも実質的に同一であるということはできない。 ウ.本件発明11について 本件発明1を引用する本件発明5を更に引用する本件発明11につき先願発明3と対比すると、その余の点はさておき、少なくとも上記ア.で示した相違点Xにおいて相違するものと認められる。 そして、上記相違点Xについては、上記ア.(イ)で説示した理由により、実質的な相違点であるから、本件発明11と先願発明3とについても、同一の理由により、実質的に同一であるとはいえない。 エ.取消理由2についてのまとめ 以上のとおり、本件の請求項1、5、7及び11に係る発明は、先願明細書等に記載した発明と同一ではないから、本件特許の請求項1、5、7及び11に係る発明についての特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであるということはできず、上記取消理由2はいずれも理由がない。 3.取消理由3について (1)甲2に記載された事項及び記載された発明 ア.甲2に記載された事項 甲2には、以下の事項が記載されている。(下線は、当審が付した。) (b-1) 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 分子内に3個以上のラジカル重合性の官能基を有し、かつ該官能基1個あたりの分子量が110?200である多官能モノマー(A)を50?90質量部と、前記多官能モノマー(A)と相溶する、下記式(1)で示されるフッ素含有モノマー(B)を5?49.5質量部と、分子内に1個のラジカル重合性の官能基を有する単官能フッ素含有モノマー(C)を0.5?10質量部含む重合反応性モノマー成分と、 前記重合反応性モノマー成分100質量部に対して、0.01?10質量部の活性エネルギー線重合開始剤とを含有し、 前記フッ素含有モノマー(B)と単官能フッ素含有モノマー(C)の質量比(単官能フッ素含有モノマー(C)/フッ素含有モノマー(B))が0.12以下である活性エネルギー線硬化性樹脂組成物。 【化1】 式(1)中、R^(f)は下記式(2)?(6)のいずれかであり、X^(1)およびX^(2)は同一または異なって、CH_(2)=C(R^(1))-C(O)-O-であり、R^(1)はHまたはCH_(3)である。 【化2】 式(2)中、mは0?8であり、nは1?6である。 ・・(中略)・・ 【請求項3】 請求項1または2に記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を重合および硬化してなるナノ凹凸構造を表面に有する、ナノ凹凸構造体。 【請求項4】 請求項1または2に記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を重合および硬化してなるナノ凹凸構造を表面に有する、撥水性物品。」 (b-2) 「【0001】 本発明は、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物、及びそれを用いたナノ凹凸構造体と撥 水性物品に関する。 ・・(中略)・・ 【発明が解決しようとする課題】 【0009】 しかしながら、特許文献1のような、乳化重合等で重合した共重合体を塗工後、乾燥して撥水性物品を得る方法では、表層の剥離や滑落が生じたり製造コストが増加したりするなどの課題があった。 また、特許文献2には、溶剤を適宜用いて多官能モノマーと相溶させている。この場合、乾燥工程を経ない重合・硬化プロセスでは課題が残りやすかった。 【0010】 このように、撥水性、及び防汚性を発現させるためのフッ素含有硬化性組成物は数多く提案されているが、ナノ凹凸構造を形成するための樹脂組成物として、耐久性(特に屋外使用時の耐久性)を十分に満足するものではなかった。また、鋳型中での重合・硬化で表面に撥水・撥油性を付与することは困難である。 【0011】 本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、良好な撥水性と、耐候性促進試験条件下でも高い耐久性を有するナノ凹凸構造体を形成できる活性エネルギー線硬化性樹脂組成物、及びそれを用いたナノ凹凸構造体と撥水性物品の提供を課題とする。」 (b-3) 「【発明の効果】 【0019】 本発明によれば、良好な撥水性と、耐候性促進試験条件下でも高い耐久性を有するナノ凹凸構造体を形成できる活性エネルギー線硬化性樹脂組成物、及びそれを用いたナノ凹凸構造体と撥水性物品を提供できる。」 (b-4) 「【0032】 (フッ素含有モノマー(B)) フッ素含有モノマー(B)は、樹脂組成物の硬化物に撥水性を付与する役割を果たす。 フッ素含有モノマー(B)は、多官能モノマー(A)と相溶する。フッ素含有モノマー(B)が多官能モノマー(A)と相溶しないと、樹脂組成物が白濁したり、樹脂組成物は透明でも硬化物に濁りや靄が発生したりする。一般に、分子内のフッ素原子の含有量が少なくなるほど、多官能モノマー(A)と相溶し易くなる傾向にある。しかし、撥水性の観点からはフッ素原子の含有量は多い方が好ましい。 【0033】 フッ素含有モノマー(B)は、下記式(1)で示される。 【0034】 【化3】 【0035】 式(1)中、R^(f)は下記式(2)?(6)のいずれかであり、X^(1)およびX^(2)は同一または異なって、CH_(2)=C(R^(1))-C(O)-O-であり、R^(1)はHまたはCH_(3)である。 【0036】 【化4】 【0037】 式(2)中、mは0?8であり、nは1?6である。mが8以下であれば、多官能モノマー(A)、および後述する単官能フッ素含有モノマー(C)との相溶性を維持したまま、得られる樹脂組成物の硬化物の撥水性が良好となる。また、nが1以上であれば、硬化物の撥水性が良好となり、6以下であれば、多官能モノマー(A)との相溶性を損なわず、樹脂組成物の分離や白濁を抑制できる。 【0038】 このようなフッ素含有モノマー(B)としては、分子内に2個以上のラジカル重合性の官能基とフッ素原子を有する化合物が挙げられる。分子内に2個以上のラジカル重合性の官能基が存在すれば、硬化物中で他のモノマー成分と結合し、硬化物からの溶出が抑制される。このラジカル重合性官能基とは、代表的には(メタ)アクリロイル基である。また、2個以上のラジカル重合性の官能基を有することで硬化物の弾性率の点で意義がある。 【0039】 フッ素含有モノマー(B)としては、具体的に、パーフルオロシクロヘキシルジメタノールの末端の水酸基とアクリル酸クロライドを反応させて得られる化合物(例えば下記化合物(B-1)など)、パーフルオロアルキルジメタノールの末端の水酸基とアクリル酸クロライドを反応させて得られる化合物(例えば下記化合物(B-2)など)等が挙げられる。 フッ素含有モノマー(B)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。 【0040】 【化5】 【0041】 フッ素含有モノマー(B)の含有量は、重合反応性モノマー成分中の全モノマーの含有量の合計を100質量部としたときに、5?49.5質量部であり、好ましくは10?49.5質量部であり、より好ましくは15?30質量部である。フッ素含有モノマー(B)の含有量が上記下限値以上であれば、得られる樹脂組成物の硬化物の相溶性が十分に確保でき、分離や白濁の発生を抑制できる。一方、フッ素含有モノマー(B)の含有量が上記上限値以下であれば、硬化収縮を抑制できる。」 (b-5) 「【0042】 (単官能フッ素含有モノマー(C)) 単官能フッ素含有モノマー(C)は、樹脂組成物の硬化物に、より効果的に撥水性を付与する役割を果たす。 なお、本発明の樹脂組成物が重合反応性モノマー成分としてフッ素含有モノマー(B)を含まず、多官能モノマー(A)と単官能フッ素含有モノマー(C)を含むと、これらは相溶しにくいため、樹脂組成物が白濁または分離することとなる。すなわち、フッ素含有モノマー(B)の存在下で単官能フッ素含有モノマー(C)を用いることで、はじめて清澄な樹脂組成物を得ることができる。 【0043】 単官能フッ素含有モノマー(C)は、分子内に1個のラジカル重合性の官能基とフッ素原子を有する化合物である。分子内に1個のラジカル重合性の官能基が存在すれば、硬化物中で他のモノマー成分と結合し、硬化物からの溶出が抑制される。このラジカル重合性の官能基とは、代表的には(メタ)アクリロイル基である。 【0044】 単官能フッ素含有モノマー(C)としては、例えば、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,9-パーフルオロノニル(メタ)アクリレートが挙げられる。 また、単官能フッ素含有モノマー(C)として、以下に示す化合物を用いてもよい。 (i)フッ素含有部位とアクリロイル基の間に多官能モノマー(A)と相溶させる為のセグメントが導入されていない化合物。このような化合物としては、パーフルオロポリエーテルの末端水酸基に直接アクリル酸クロライド等を反応させた化合物(例えば下記化合物(C-1)など)等が挙げられる。 (ii)フッ素含有部位とアクリロイル基の間にウレタン結合を有するフッ素系(メタ)アクリレート。このような化合物としては、2-イソシアナトエチルアクリレートを、パーフルオロノルマルブトキシトリエチレングリコールやパーフルオロエチルヘキシルトリエチレングリコール等のフッ素化アルコールと反応させることで得られる化合物(例えば下記化合物(C-2)など)等が挙げられる。 (iii)パーフルオロイソプトキシジエチレングリコールと、2-イソシアネートエチルを反応させた化合物(例えば下記化合物(C-3)など)。 これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。 なお、上記化合物の合成に使用する原料アルコールは、市販品として入手できる。例えば、エクスフロアー・リサーチ社製の「C10GOL」等を使用できる。 【0045】 【化6】 【0046】 単官能フッ素含有モノマー(C)の含有量は、重合反応性モノマー成分中の全モノマーの含有量の合計を100質量部としたときに、0.5?10質量部であり、好ましくは1?5質量部である。単官能フッ素含有モノマー(C)の含有量が上記下限値以上であれば、得られる樹脂組成物の硬化物の撥水性が良好となる。一方、単官能フッ素含有モノマー(C)の含有量が上記上限値以下であれば、樹脂組成物の分離や白濁を抑制できる。 【0047】 また、単官能フッ素含有モノマー(C)の含有量は、透明で清澄な樹脂組成物を得る点から、フッ素含有モノマー(B)の含有量とのバランスを考慮して決定する。例えば、フッ素含有モノマー(B)の含有量が多い場合は、単官能フッ素含有モノマー(C)の含有量も比較的多くできる。ただし、フッ素含有モノマー(B)と単官能フッ素含有モノマー(C)の質量比(単官能フッ素含有モノマー(C)/フッ素含有モノマー(B))が0.12以下である。質量比が0.12以下であれば、相溶性が十分に確保でき、樹脂組成物の分離や白濁の発生を抑制できる。 さらに、単官能フッ素含有モノマー(C)のフッ素含有率cが高い場合は、単官能フッ素含有モノマー(C)の含有量は、その分、フッ素含有モノマー(B)の含有量よりも少なくすることが好ましい。」 (b-6) 「【0058】 <その他の添加剤> 本発明の樹脂組成物は、必要に応じて、離型剤、滑剤、可塑剤、帯電防止剤、光安定剤、難燃剤、難燃助剤、重合禁止剤、充填剤、シランカップリング剤、着色剤、強化剤、無機フィラー、耐衝撃性改質剤等の公知の添加剤を含有してもよい。 【0059】 なお、本発明の樹脂組成物は溶剤を含んでいてもよいが、含まない方が好ましい。溶剤を含まない場合は、例えば、樹脂組成物を鋳型に流し込んだ状態で活性エネルギー線照射により重合および硬化させ、その後離型するプロセスにおいて、溶剤が硬化物中に残る心配がない。また、製造工程を考慮した場合、溶剤を含まなければ溶剤除去のための設備投資が不要となるため、コストの削減にもつながる。」 (b-7) 「【0062】 樹脂組成物は、ナノ凹凸構造を形成させるスタンパへ流し込むことを考慮すると、25℃における回転式B型粘度計で測定される粘度が、10000mPa・s以下であることが好ましく、より好ましくは5000mPa・s以下であり、さらに好ましくは2000mPa・s以下である。粘度が10000mPa・s以下であれば、スタンパを押し当てる工程で樹脂組成物がスタンパの幅を超えて脇へ漏れるのを防止できると共に、硬化物の厚みを任意に調整し易くなる。但し、樹脂組成物の粘度が10000mPa・s以上であっても、スタンパへ流し込む際にあらかじめ加温して粘度を下げることが可能であれば、作業性を損なうことなく樹脂組成物を使用できる。 また、樹脂組成物は、70℃における回転式B型粘度計で測定される粘度が、5000mPa・s以下であることが好ましく、より好ましくは2000mPa・s以下である。 さらに、樹脂組成物は、ナノ凹凸構造を形成させるベルト状やロール状のスタンパを用いた連続生産を考慮すると、25℃における回転式B型粘度計で測定される粘度が、100mPa・s以上であることが好ましく、より好ましくは150mPa・s以上であり、さらに好ましくは200mPa・s以上である。 ・・(中略)・・ 【0065】 本発明の樹脂組成物は、重合および硬化させて成形品として使用でき、そのような成形品は特にナノ凹凸構造を表面に有するナノ凹凸構造体として極めて有用である。 また、本発明の樹脂組成物は、例えば、ナノ凹凸構造の反転構造が形成されたスタンパを用いた転写法によりナノ凹凸構造を転写する際に用いるインプリント用原料として好適である。具体的には、後述するようなスタンパへ樹脂組成物を流し込み、紫外線硬化させるUVインプリントや、スタンパへ流し込んだ後に熱によって硬化させる熱インプリントなどで用いるインプリント用原料として好適である。また、加熱などによって半硬化させた状態の樹脂組成物にスタンパを押し当て、形状転写した後にスタンパから剥がし、熱やUVによって完全に硬化させる方法に用いることもできる。 さらに、本発明の樹脂組成物は、種々の基材上に硬化被膜を形成するためのコーディング材としても有用である。」 (b-8) 「【実施例】 【0080】 ・・(中略)・・ 【0084】 (4)撥水性の評価(水接触角の測定) ナノ凹凸構造体に1μLのイオン交換水を滴下し、自動接触角測定器(KRUSS社製)を用いて、θ/2法にて水接触角を算出した。 【0085】 (5)耐久性の評価 白色スライドガラスにナノ凹凸構造体を貼り付けたサンプルを、JIS B 7753に基づき、耐候性試験機(スガ試験機社製)を用いて、ブラックパネル温度63℃、相対湿度50%、照射時間102分、照射/降雨時間18分を1サイクルとする条件に300時間放置し、ナノ凹凸構造体の耐候性促進試験を行った。試験後、ナノ凹凸構造体の外観について目視にて観察し、以下の評価基準により耐久性を評価した。なお、白化の占める面積が小さいほど、ナノ凹凸構造体の凸部同士の結合が抑制され、耐久性に優れることを意味する。 ○:白化がフィルム面積の10%未満。 ×:白化がフィルム面積の10%以上。 ・・(中略)・・ 【0088】 [重合反応性モノマー成分] 実施例および比較例で用いた各モノマーは以下の通りである。 ・多官能モノマー(A)として、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート(新中村化学工業社製、「NKエステルATM-4E」)を用いた。 ・フッ素含有モノマー(B)として、上記化合物(B-1)、(B-2)を用いた。 ・単官能フッ素含有モノマー(C)として、上記化合物(C-1)、(C-2)(C-3)を用いた。 ・他のモノマー(D)として、ポリエチレングリコールジアクリレート(東亜合成社製、「アロニックスM260」)、およびメチルアクリレートを用いた。 【0089】 [実施例1] (樹脂組成物の調製) 多官能モノマー(A)としてエトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート(新中村化学工業社製、「NKエステルATM-4E」)を90部、フッ素含有モノマー(B)として上記化合物(B-1)9部、単官能フッ素含有モノマー(C)として上記化合物(C-1)1部、および活性エネルギー線重合開始剤(E)として、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン(日本チバガイギー社製、「DAROCURE1173」)0.4部と2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド(日本チバガイギー社製、「DAROCURE TPO」)0.5部を混合し、樹脂組成物を調製した。 【0090】 得られた樹脂組成物を500μmのスペーサーをはさんだ2枚のガラス板間に塗布し、1000mJ/cm^(2)の積算光量でUVを照射し硬化させ、評価サンプルを作製した。作製したサンプルを用いて貯蔵弾性率E’を測定した。結果を表1に示す。 【0091】 (ナノ凹凸構造体の製造) スタンパの細孔が形成された表面上に得られた樹脂組成物を流し込み、その上に厚さ100μmのアクリルフィルム(三菱レイヨン社製、「アクリプレン」)を押し広げながら被覆した。その後、フィルム側からフュージョンランプを用いてベルトスピード6.0m/分で、積算光量1000mJ/cm^(2)となるよう紫外線を照射して、樹脂組成物をフィルム状に硬化させた。次いで、硬化物とスタンパを剥離して、フィルム状のナノ凹凸構造体を得た。 得られたナノ凹凸構造体の表面には、スタンパのナノ凹凸構造が転写されており、図1に示すような、隣り合う凸部13の間隔(距離w1)が100nm、凸部13の高さd1が180nmである略円錐形状のナノ凹凸構造が形成されていた。 このナノ凹凸構造体について、撥水性および耐久性の評価を実施した。結果を表1に示す。 【0092】 [実施例2?7、比較例1?3] 表1に示す配合組成に従って各成分を混合した以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物を調製し、この樹脂組成物を用いてナノ凹凸構造体を製造し、評価した。結果を表1に示す。 ・・(中略)・・ 【0093】 【表1】 【0094】 表1中の略号等は下記の通りである。 ・モノマー(A):多官能モノマー(A) ・モノマー(B):フッ素含有モノマー(B) ・モノマー(C):単官能フッ素含有モノマー(C) ・モノマー(D):他のモノマー(D) ・ATM4E:エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート(官能基1個あたりの分子量:134) ・B-1:上記化合物(B-1) ・B-2:上記化合物(B-2) ・C-1:上記化合物(C-1) ・C-2:上記化合物(C-2) ・C-3:上記化合物(C-3) ・M260:ポリエチレングリコールジアクリレート ・MA:メチルアクリレート ・DAR1173:2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン ・DAR TPO:2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド 【0095】 表1の結果から明らかなように、実施例1?7の樹脂組成物を硬化して得られたナノ凹凸構造体は、良好な撥水性を有していた。また、耐候性促進試験条件下でもナノ凹凸構造体の凸部同士の結合を抑制することができ、高い耐久性を有していた。 【0096】 一方、比較例1の樹脂組成物を硬化して得られたナノ凹凸構造体は、フッ素含有モノマー(B)の含有量が65質量部と多かったため、硬化収縮が大きく、スタンパからの離型直後にフィルム表面にクラックが発生した。そのため、撥水性および耐久性の評価は行わなかった。 比較例2の樹脂組成物を硬化して得られたナノ凹凸構造体は、多官能モノマー(A)の含有量が40質量部と少なかったため、樹脂組成物の貯蔵弾性率E’が低く、スタンパからの離型直後から多数の凸部同士の結合が見られた。そのため、撥水性および耐久性の評価は行わなかった。 比較例3の樹脂組成物を硬化して得られたナノ凹凸構造体は、フッ素含有モノマー(B)を用いなかったので、樹脂組成物の架橋密度が低下し、すなわち硬化物の弾性率が低下したため、耐候性促進試験条件下においてナノ凹凸構造体の凸部同士が結合しやすく、耐久性に劣るものであった。 【産業上の利用可能性】 【0097】 本発明の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を硬化して得られるナノ凹凸構造体は、ナノ凹凸構造体としての優れた光学性能を維持しながら、良好な撥水性と耐候性促進試験条件下でのナノ凹凸構造の耐久性を両立することから、例えば、壁や屋根等の建材用途、家屋や自動車、電車、船舶等の窓材や鏡等に利用可能であり、工業的に極めて有用である。また、反射防止性能が求められるディスプレイ等の用途にも利用可能である。」 イ.甲2に記載された発明 (ア)上記甲2の記載(特に(b-1)から(b-7)の下線部の記載)からみて、甲2には、 「分子内に3個以上のラジカル重合性の官能基を有し、かつ該官能基1個あたりの分子量が110?200である多官能モノマー(A)を50?90質量部と、前記多官能モノマー(A)と相溶する、パーフルオロシクロヘキシルジメタノールの末端の水酸基とアクリル酸クロライドを反応させて得られる化合物、パーフルオロアルキルジメタノールの末端の水酸基とアクリル酸クロライドを反応させて得られる化合物等の下記式(1)で示されるフッ素含有モノマー(B)を5?49.5質量部と、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,9-パーフルオロノニル(メタ)アクリレート、パーフルオロポリエーテルの末端水酸基に直接アクリル酸クロライド等を反応させた化合物であるフッ素含有部位とアクリロイル基の間に多官能モノマー(A)と相溶させる為のセグメントが導入されていない化合物又は2-イソシアナトエチルアクリレートをパーフルオロノルマルブトキシトリエチレングリコールやパーフルオロエチルヘキシルトリエチレングリコール等のフッ素化アルコールと反応させることで得られる化合物であるフッ素含有部位とアクリロイル基の間にウレタン結合を有するフッ素系(メタ)アクリレートから選ばれる分子内に1個のラジカル重合性の官能基を有する単官能フッ素含有モノマー(C)を0.5?10質量部含む重合反応性モノマー成分と、 前記重合反応性モノマー成分100質量部に対して、0.01?10質量部の活性エネルギー線重合開始剤とを含有し、 前記フッ素含有モノマー(B)と単官能フッ素含有モノマー(C)の質量比(単官能フッ素含有モノマー(C)/フッ素含有モノマー(B))が0.12以下である活性エネルギー線硬化性樹脂組成物。 【化1】 式(1)中、R^(f)は下記式(2)?(6)のいずれかであり、X^(1)およびX^(2)は同一または異なって、CH_(2)=C(R^(1))-C(O)-O-であり、R^(1)はHまたはCH_(3)である。 【化2】 式(2)中、mは0?8であり、nは1?6である。」 に係る発明(以下「甲2発明1」という。)及び 「甲2発明1の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を重合および硬化してなるナノ凹凸構造を表面に有する、撥水性物品。」 に係る発明(以下「甲2発明2」という。)がそれぞれ記載されている。 (イ)また、甲2には、上記(b-8)の記載(特に下線部のうち「実施例6」及び「実施例7」に係る記載)からみて、 「多官能モノマー(A)としてエトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレートを77部又は57部、フッ素含有モノマー(B)として上記パーフルオロアルキルジメタノールの末端の水酸基とアクリル酸クロライドを反応させて得られる化合物を19部又は38部、単官能フッ素含有モノマー(C)として上記パーフルオロノルマルブトキシトリエチレングリコールモノアクリレート1部又は2部、および活性エネルギー線重合開始剤(E)として、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン0.4部と2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド0.5部を含有してなる樹脂組成物。」 に係る発明(以下「甲2発明3」という。)及び 「スタンパの細孔が形成された表面上に甲2発明3の樹脂組成物を流し込み、アクリルフィルムで被覆した後、フィルム側から紫外線を照射して、樹脂組成物をフィルム状に硬化させて、硬化物とスタンパを剥離して、アクリルフィルムの表面上にフィルム状のナノ凹凸構造を形成した撥水性を有するナノ凹凸構造体。」 に係る発明(以下「甲2発明4」という。)が記載されている。 (2)検討 ア.本件発明1について (ア)甲2発明1に基づく検討 (ア-1)対比 本件発明1と甲2発明1とを対比すると、甲2発明1における「前記多官能モノマー(A)と相溶する、パーフルオロシクロヘキシルジメタノールの末端の水酸基とアクリル酸クロライドを反応させて得られる化合物、パーフルオロアルキルジメタノールの末端の水酸基とアクリル酸クロライドを反応させて得られる化合物等の下記式(1)で示されるフッ素含有モノマー(B)」は、パーフルオロ(ポリ)エーテル基とアクリル基なる重合可能な基とを有する点で、本件発明1における「パーフルオロポリエーテル基及び硬化性部位を有する化合物」及び「前記硬化性部位は、・・CH_(2)=CX_(1)-C(O)-(式中、X_(1)は、水素原子、塩素原子、フッ素原子またはフッ素により置換されていてもよい炭素数1?10のアルキル基を表す)で表される(メタ)アクリロイル基・・であり、」に相当する。 また、甲2発明1における「2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,9-パーフルオロノニル(メタ)アクリレート、パーフルオロポリエーテルの末端水酸基に直接アクリル酸クロライド等を反応させた化合物であるフッ素含有部位とアクリロイル基の間に多官能モノマー(A)と相溶させる為のセグメントが導入されていない化合物又は2-イソシアナトエチルアクリレートをパーフルオロノルマルブトキシトリエチレングリコールやパーフルオロエチルヘキシルトリエチレングリコール等のフッ素化アルコールと反応させることで得られる化合物であるフッ素含有部位とアクリロイル基の間にウレタン結合を有するフッ素系(メタ)アクリレートから選ばれる分子内に1個のラジカル重合性の官能基を有する単官能フッ素含有モノマー(C)」は、いずれも置換又は非置換のフッ素化(モノ)アルコールとアクリル基とがエステル結合により結合してなる化合物である点で、本件発明1における「硬化性モノマー」及び「前記硬化性モノマーは、少なくとも1つのフッ素原子で置換されたアルキル基が(メタ)アクリレート基に結合したモノマーであり、」に相当する。 そして、甲2発明1の「活性エネルギー線硬化性樹脂組成物」は、本件発明1における「硬化性組成物」に相当することが明らかである。 してみると、本件発明1と甲2発明1とは、 「パーフルオロポリエーテル基及び硬化性部位を有する化合物と、 硬化性モノマーと を含んで成る硬化性組成物であって、 前記硬化性部位は、CH_(2)=CX_(1)-C(O)-(式中、X_(1)は、水素原子、塩素原子、フッ素原子またはフッ素により置換されていてもよい炭素数1?10のアルキル基を表す)で表される(メタ)アクリロイル基であり、 前記硬化性モノマーは、少なくとも1つのフッ素原子で置換されたアルキル基が(メタ)アクリレート基に結合したモノマーである、 硬化性組成物。」 で一致し、少なくとも下記の2点で相違する。 相違点1:本件発明1では「ラジカル反応性基を有しない有機溶剤の含有率は0?1質量%である」のに対して、甲2発明1では、「ラジカル反応性基を有しない有機溶剤の含有率」につき特定されていない点 相違点2:本件発明1では「前記パーフルオロポリエーテル基及び硬化性部位を有する化合物は、トリウレタン構造またはイソシアヌレート型ポリウレタン構造をさらに有」するのに対して、甲2発明1における「フッ素含有モノマー(B)」は、上記「トリウレタン構造」又は「イソシアヌレート型ポリウレタン構造」を有するものではない点 (ア-2)検討 (a)相違点1について 上記相違点1につき検討すると、甲2には、甲2発明1の硬化性組成物につき、溶剤を含まないことが好適である旨開示されており(摘示(b-6)【0059】)、溶剤を含まない、すなわち、本件発明1でいう「ラジカル反応性基を有しない有機溶剤の含有率は0質量%である」ことが好適であることを意味するのが明らかであるから、上記相違点1は、実質的な相違点ではないか、甲2発明1において、当業者が適宜なし得ることということができる。 (b)相違点2について 上記相違点2につき検討すると、甲2発明1における「フッ素含有モノマー(B)」は、「前記多官能モノマー(A)と相溶する、パーフルオロシクロヘキシルジメタノールの末端の水酸基とアクリル酸クロライドを反応させて得られる化合物、パーフルオロアルキルジメタノールの末端の水酸基とアクリル酸クロライドを反応させて得られる化合物等の下記式(1)で示されるフッ素含有モノマー(B)」であり、上記「トリウレタン構造」又は「イソシアヌレート型ポリウレタン構造」を有するものでないことが明らかであるから、上記相違点2は実質的な相違点であると共に、甲2発明1において、甲2の記載に基づき、「フッ素含有モノマー(B)」として上記「トリウレタン構造」又は「イソシアヌレート型ポリウレタン構造」を有するものを使用することは、当業者であっても適宜なし得ることということはできない。 なお、甲2発明1に基づき、甲3又は甲4に記載された事項と組み合わせて、相違点2につき容易に想到できるか否かにつき検討すると、甲3には、パーフルオロポリエーテル基、「トリウレタン構造」又は「イソシアヌレート型ポリウレタン構造」及び硬化性部位を有する化合物を使用することが開示されておらず、また、甲4には、パーフルオロポリエーテル基、「トリウレタン構造」又は「イソシアヌレート型ポリウレタン構造」及び硬化性部位を有する化合物を使用することは開示されているものの、甲4に記載された発明は、積極的に有機溶剤を使用した溶剤溶液型の硬化性組成物であり、技術的指向が異なる甲2発明1(及び本件発明1)に係る好適には有機溶剤を使用しない硬化性組成物(上記(a)参照)における「フッ素含有モノマー(B)」として、甲4に記載されたパーフルオロポリエーテル基、「トリウレタン構造」又は「イソシアヌレート型ポリウレタン構造」及び硬化性部位を有する化合物を使用すべきことを動機付ける事項が存するものとは認められないから、甲2発明1に基づき、甲3又は甲4に記載された事項と組み合わせて、相違点2につき容易に想到できるものということはできない。 してみると、上記相違点2は、甲2発明1において、たとえ甲3及び甲4を組み合わせたとしても、当業者が適宜なし得ることであるということはできない。 (ア-3)小括 したがって、本件発明1は、甲2発明1と同一ではなく、また、甲2発明1に基づき当業者が容易に発明をすることができたものということもできない。 (イ)甲2発明3に基づく検討 (イ-1)対比 本件発明1と甲2発明3とを対比すると、甲2発明3における「フッ素含有モノマー(B)として」の「化合物(B-2)」は、パーフルオロ(ポリ)エーテル基とアクリル基なる重合可能な基とを有する点で、本件発明1における「パーフルオロポリエーテル基及び硬化性部位を有する化合物」及び「前記硬化性部位は、・・CH_(2)=CX_(1)-C(O)-(式中、X_(1)は、水素原子、塩素原子、フッ素原子またはフッ素により置換されていてもよい炭素数1?10のアルキル基を表す)で表される(メタ)アクリロイル基・・であり、」に相当する。 また、甲2発明3における「単官能フッ素含有モノマー(C)として上記化合物(C-1)」は、置換されたフッ素化アルコールとアクリル基とがエステル結合により結合してなる化合物である点で、本件発明1における「硬化性モノマー」及び「前記硬化性モノマーは、少なくとも1つのフッ素原子で置換されたアルキル基が(メタ)アクリレート基に結合したモノマーであり、」に相当する。 そして、甲2発明3の「樹脂組成物」は、本件発明1における「硬化性組成物」に相当することが明らかである。 してみると、本件発明1と甲2発明3とは、 「パーフルオロポリエーテル基及び硬化性部位を有する化合物と、 硬化性モノマーと を含んで成る硬化性組成物であって、 前記硬化性部位は、CH_(2)=CX_(1)-C(O)-(式中、X_(1)は、水素原子、塩素原子、フッ素原子またはフッ素により置換されていてもよい炭素数1?10のアルキル基を表す)で表される(メタ)アクリロイル基であり、 前記硬化性モノマーは、少なくとも1つのフッ素原子で置換されたアルキル基が(メタ)アクリレート基に結合したモノマーである、 硬化性組成物。」 で一致し、少なくとも下記の2点で相違する。 相違点1’:本件発明1では「ラジカル反応性基を有しない有機溶剤の含有率は0?1質量%である」のに対して、甲2発明3では、「ラジカル反応性基を有しない有機溶剤の含有率」につき特定されていない点 相違点2’:本件発明1では「前記パーフルオロポリエーテル基及び硬化性部位を有する化合物は、トリウレタン構造またはイソシアヌレート型ポリウレタン構造をさらに有」するのに対して、甲2発明3では「フッ素含有モノマー(B)として・・化合物(B-2)」である点 (イ-2)検討 (a)相違点1’について 上記相違点1’につき検討すると、相違点1’については上記(ア)(ア-1)で示した相違点1と同一の事項であるから、上記(ア)(ア-2)(a)で説示した理由と同一の理由により、上記相違点1’は、実質的な相違点ではないか、甲2発明3において、当業者が適宜なし得ることである。 (b)相違点2’について 上記相違点2’につき検討すると、相違点2’については上記(ア)(ア-1)で示した相違点2と実質的に同一の事項であるから、上記(ア)(ア-2)(b)で説示した理由と同一の理由により、相違点2’についても実質的な相違点であり、また、甲2発明3において、たとえ甲3及び甲4を組み合わせたとしても、当業者が適宜なし得ることであるということはできない。 (イ-3)小括 したがって、本件発明1は、甲2発明3と同一ではなく、また、甲2発明3に基づき当業者が容易に発明をすることができたものということもできない。 (ウ)本件発明1に係る検討のまとめ よって、本件発明1は、甲2発明1又は甲2発明3、すなわち、甲2に記載された発明であるということはできず、甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということもできない。 イ.本件発明11について 本件発明1を引用する本件発明11につき検討すると、上記ア.で説示したとおりの理由により、本件発明1について、甲2に記載された発明であるということはできず、甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということもできないのであるから、本件発明11についても、甲2発明2又は甲2発明4、すなわち、甲2に記載された発明であるということはできず、甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということもできない。 ウ.取消理由3に係るまとめ 以上のとおり、本件の請求項1又は11に係る発明についての特許は、いずれも特許法第29条の規定に違反してされたものではないから、取り消すべきものではなく、上記取消理由3は、いずれも理由がない。 4.当審が通知した取消理由に係る検討のまとめ 以上のとおり、当審が通知した取消理由1ないし3は、いずれも理由がなく、当該理由により、本件の請求項1ないし9、11及び12に係る発明についての特許を取り消すことはできない。 III.各申立人が主張する取消理由について 各申立人が主張する取消理由は、再掲すると、以下のとおりであるものと認められる。 (1)本件特許の請求項1、5、7及び11に係る発明は、甲第1号証に係る出願の願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した発明と同一であり、同出願の出願時における特許出願人又は発明者と本願に係る特許出願人又は発明者といずれも同一ではないから、特許法第29条の2の規定により、いずれも特許を受けることができないものであって、本件特許の請求項1、5、7及び11に係る発明についての特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。(取消理由A) (2)本件特許の請求項1ないし6及び8ないし12に係る発明は、いずれも甲第2号証ないし甲第4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は特許法第29条の規定に違反してされたものであって、同法第113条第2号の規定に該当し、取り消すべきものである。(取消理由B) (3)本件特許に係る請求項2の記載では、同項に記載した事項で特定される特許を受けようとする発明が、本件特許に係る明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の発明の詳細な説明に記載したものでないから、本件特許に係る請求項2の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、同法同条同項(柱書)の規定する要件を満たしていないものであって、本件の請求項2に係る発明についての特許は、特許法第36条第6項の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであって、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。(取消理由C) 以下、順次、詳述する。 1.取消理由Aについて 申立人が主張する取消理由Aは、申立書の記載(第61頁第2行?第62頁第12行)からみて、当審が通知した取消理由2と同旨をいうものと認められる。 したがって、上記取消理由Aは、上記II.2.で取消理由2につき説示した理由と同一の理由により、いずれも理由がない。 2.取消理由Bについて 申立人が主張する取消理由Bにつき、申立書の記載(第62頁第13行?第74頁第18行)に基づき、更に具体化すると、以下のとおりであると認められる。 ・本件発明1、2、5及び8ないし12は、いずれも甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができものである。(取消理由B-1) ・本件発明1、2、5、8、9及び11は、いずれも甲3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。(取消理由B-2) ・本件発明1ないし6及び11は、いずれも甲4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。(取消理由B-3) 以下、順次検討する。 (1)各甲号証に記載された発明 ア.甲2に記載された発明 (ア)上記II.の3.(1)で摘示・認定したとおり、甲2の記載からみて、甲2には、 「分子内に3個以上のラジカル重合性の官能基を有し、かつ該官能基1個あたりの分子量が110?200である多官能モノマー(A)を50?90質量部と、前記多官能モノマー(A)と相溶する、パーフルオロシクロヘキシルジメタノールの末端の水酸基とアクリル酸クロライドを反応させて得られる化合物、パーフルオロアルキルジメタノールの末端の水酸基とアクリル酸クロライドを反応させて得られる化合物等の下記式(1)で示されるフッ素含有モノマー(B)を5?49.5質量部と、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,9-パーフルオロノニル(メタ)アクリレート、パーフルオロポリエーテルの末端水酸基に直接アクリル酸クロライド等を反応させた化合物であるフッ素含有部位とアクリロイル基の間に多官能モノマー(A)と相溶させる為のセグメントが導入されていない化合物又は2-イソシアナトエチルアクリレートをパーフルオロノルマルブトキシトリエチレングリコールやパーフルオロエチルヘキシルトリエチレングリコール等のフッ素化アルコールと反応させることで得られる化合物であるフッ素含有部位とアクリロイル基の間にウレタン結合を有するフッ素系(メタ)アクリレートから選ばれる分子内に1個のラジカル重合性の官能基を有する単官能フッ素含有モノマー(C)を0.5?10質量部含む重合反応性モノマー成分と、 前記重合反応性モノマー成分100質量部に対して、0.01?10質量部の活性エネルギー線重合開始剤とを含有し、 前記フッ素含有モノマー(B)と単官能フッ素含有モノマー(C)の質量比(単官能フッ素含有モノマー(C)/フッ素含有モノマー(B))が0.12以下である活性エネルギー線硬化性樹脂組成物。 【化1】 式(1)中、R^(f)は下記式(2)?(6)のいずれかであり、X^(1)およびX^(2)は同一または異なって、CH_(2)=C(R^(1))-C(O)-O-であり、R^(1)はHまたはCH_(3)である。 【化2】 式(2)中、mは0?8であり、nは1?6である。」 に係る発明(以下「甲2発明1」という。)及び 「甲2発明1の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を重合および硬化してなるナノ凹凸構造を表面に有する、撥水性物品。」 に係る発明(以下「甲2発明2」という。)並びに 「多官能モノマー(A)としてエトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレートを77部又は57部、フッ素含有モノマー(B)として上記パーフルオロアルキルジメタノールの末端の水酸基とアクリル酸クロライドを反応させて得られる化合物を19部又は38部、単官能フッ素含有モノマー(C)として上記パーフルオロノルマルブトキシトリエチレングリコールモノアクリレート1部又は2部、および活性エネルギー線重合開始剤(E)として、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン0.4部と2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド0.5部を含有してなる樹脂組成物。」 に係る発明(以下「甲2発明3」という。)及び 「スタンパの細孔が形成された表面上に甲2発明3の樹脂組成物を流し込み、アクリルフィルムで被覆した後、フィルム側から紫外線を照射して、樹脂組成物をフィルム状に硬化させて、硬化物とスタンパを剥離して、アクリルフィルムの表面上にフィルム状のナノ凹凸構造を形成した撥水性を有するナノ凹凸構造体。」 に係る発明(以下「甲2発明4」という。)がそれぞれ記載されている。 イ.甲3に記載された発明 上記甲3の記載(【請求項6】、【請求項7】、【0032】?【0087】、【0202】?【0373】、【0463】及び【0481】?【0555】)からみて、甲3には、 「つぎの(A-1)、(C)および(D)からなる均一な液状組成物であって、(A-1)を5?98質量%、(C)を1?94質量%および(D)を1?94質量%含む硬化性含フッ素樹脂組成物。 (A-1)式(1a): 【化5】 (式中、X^(1)はH、CH_(3)、F、ClおよびCF_(3)よりなる群から選ばれる少なくとも1種;R^(1)は式(1-1): 【化6】 (式中、ZはFまたはCF_(3);m1、m2、m3、m4は0または1?10の整数である。ただしm1+m2+m3+m4は1?10の整数)で表わされる部位を含む含フッ素アルキル基)で表わされる含フッ素単量体、 (C)式(2): 【化7】 (式中、X^(2)およびX^(3)は同じかまたは異なり、H、CH_(3)、F、ClおよびCF_(3)よりなる群から選ばれる少なくとも1種;nは1?6の整数;R^(4)は炭素数1?50の水素原子の一部または全てがフッ素原子に置換されていても良い(n+1)価の有機基であって、当該R^(4)中にヘテロ原子を有していても良い芳香族炭化水素構造の部位またはヘテロ原子を有していても良い脂肪族環状炭化水素構造の部位から選ばれる少なくとも1種の部位を含む有機基)で表される多官能性含フッ素単量体、 (D)フッ素含有率25質量%以上の非晶性の含フッ素ポリマー。」 に係る発明(以下「甲3発明1」という。)及び 「甲3発明1の硬化性含フッ素樹脂組成物の硬化物からなる光学材料の膜。」 に係る発明(以下「甲3発明2」という。)がそれぞれ記載されている。 ウ.甲4に記載された発明 上記甲4の記載(【請求項1】、【請求項4】、【請求項6】、【0006】、【0014】?【0032】、【0081】及び【0082】?【0123】)からみて、甲4には、 「下記成分(A)及び(B): (A)下記の一般式(1)で示される化合物 (B)上記(A)以外の、分子中に2個以上の重合性不飽和基を有する化合物 を含有する硬化性組成物。 【化23】 [式(1)中、R^(1)はそれぞれ独立に炭素数1?3のアルキル基であり、R^(2)は置換基を有していてもよい2価の脂肪族基、脂環族基又は芳香族基であり、R^(3)はそれぞれ独立に単結合、メチレン基又はエチレン基であり、R^(4)及びR^(5)はそれぞれ独立にフッ化メチレン又は炭素数2?4のパーフルオロアルキレン基であり、R^(7)は(メタ)アクリロイル基を1個以上有する基であり、R^(8)は下記一般式で示される有機基であり、mは10?100の整数であり、nは5?50の整数であり、pは2である。] 」 に係る発明(以下「甲4発明1」という。)及び 「甲4発明1の硬化性組成物を硬化させて得られる硬化膜。」 に係る発明(以下「甲4発明2」という。)がそれぞれ記載されている。 (2)検討 ア.本件発明1について 本件発明1と上記甲2発明1、甲2発明3、甲3発明1及び甲4発明1とをそれぞれ対比・検討する。 (ア)甲2発明1又は甲2発明3に基づく検討 本件発明1と甲2発明1又は甲2発明3との対比・検討については、上記II.3.(2)ア.の(ア)又は(イ)でそれぞれ説示したとおりの理由により、本件発明1は、甲2発明1又は甲2発明3、すなわち、甲2に記載された発明であるということはできず、甲2に記載された各発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということもできない。 (イ)甲3発明1に基づく検討 (イ-1)対比 本件発明1と甲3発明1とを対比すると、甲3発明1における「(A-1)式(1a): 【化5】 (式中、X^(1)はH、CH_(3)、F、ClおよびCF_(3)よりなる群から選ばれる少なくとも1種;R^(1)は式(1-1): 【化6】 (式中、ZはFまたはCF_(3);m1、m2、m3、m4は0または1?10の整数である。ただしm1+m2+m3+m4は1?10の整数)で表わされる部位を含む含フッ素アルキル基)で表わされる含フッ素単量体」は、「式(1-1)」で表される基がパーフルオロ(ポリ)エーテル基であり、「式(1a)」で表される基が(置換)アクリロイルオキシ基なる重合可能な基である点で、本件発明1における「パーフルオロポリエーテル基及び硬化性部位を有する化合物」及び「前記硬化性部位は、・・(メタ)アクリロイル基・・であり、」に相当する。 また、甲3発明1における「式(2)・・で表される多官能性含フッ素単量体」は、いずれも置換又は非置換の(置換)アクリロイルオキシ基なる硬化性基を含む化合物である点で、本件発明1における「硬化性モノマー」に相当する。 そして、甲3発明1の「硬化性組成物」は、本件発明1における「硬化性組成物」に相当することが明らかである。 してみると、本件発明1と甲3発明1とは、 「パーフルオロポリエーテル基及び硬化性部位を有する化合物と、 硬化性モノマーと を含んで成る硬化性組成物であって、 前記硬化性部位は、CH_(2)=CX_(1)-C(O)-(式中、X_(1)は、水素原子、塩素原子、フッ素原子またはフッ素により置換されていてもよい炭素数1?10のアルキル基を表す)で表される(メタ)アクリロイル基である、 硬化性組成物。」 で一致し、少なくとも下記の3点で相違する。 相違点1’’:本件発明1では「ラジカル反応性基を有しない有機溶剤の含有率は0?1質量%である」のに対して、甲3発明1では、「ラジカル反応性基を有しない有機溶剤の含有率」につき特定されていない点 相違点2’’:本件発明1では「前記パーフルオロポリエーテル基及び硬化性部位を有する化合物は、トリウレタン構造またはイソシアヌレート型ポリウレタン構造をさらに有」するのに対して、甲3発明1における「式(1a)で表わされる含フッ素単量体」は、上記「トリウレタン構造」又は「イソシアヌレート型ポリウレタン構造」を有するものではない点 相違点3:本件発明1では「硬化性モノマーは、少なくとも1つのフッ素原子で置換されたアルキル基が(メタ)アクリレート基に結合したモノマーであ」るのに対して、甲3発明1では「式(2)(式は省略)で表される多官能性含フッ素単量体」である点 (イ-2)検討 (a)相違点3について 事案に鑑み、まず、上記相違点3につき検討すると、甲3には、「成分(C)」として「少なくとも1つのフッ素原子で置換されたアルキル基が(メタ)アクリレート基に結合したモノマー」を使用することは、記載・開示されているものとは認められない。 なお、甲3には、多種多岐にわたる少なくとも1つのフッ素原子で置換されたアルキル基が(メタ)アクリレート基に結合したモノマーを使用することにつき記載・開示されている(【0013】?【0178】)ものの、それらは、甲3の請求項1における「第1の硬化性組成物」の「成分(A)」として「含フッ素アクリル系ポリマー」の「成分(B)」と組み合わせるものとして例示されているものであり、甲3発明1の硬化性組成物において、「成分(C)」として使用できるものとして記載・開示されているものとは認められない。 また、甲3発明1において、他の甲号証に記載された発明に係る事項を組み合わせて、相違点3に想到し得るか否かにつき検討すると、甲3には、甲3発明1において、他の含フッ素モノマーである「少なくとも1つのフッ素原子で置換されたアルキル基が(メタ)アクリレート基に結合したモノマー」を、甲3発明1における(A)成分と組み合わせる(C)成分として使用すること又は追加的に更に使用することを動機付ける事項が存するものとは認められず、他の甲号証の記載を検討しても同様であるから、甲3発明1において、他の甲号証に記載された発明に係る事項を組み合わせて、相違点3に想到し得るものとは認められない。 したがって、上記相違点3は、甲3発明1において、当業者が適宜なし得ることとはいえない。 (b)相違点2’’について 次に、上記相違点2’’につき検討すると、甲3には、甲3発明1における「式(1a)で表わされる含フッ素単量体」の製造において、「トリウレタン構造」又は「イソシアヌレート型ポリウレタン構造」を構成すべきトリイソシアネート化合物又はイソシアヌレート型ポリイソシアネート化合物を使用することが記載・開示されていないから、上記相違点2’’につき、甲3発明1において当業者が適宜なし得ることではない。 なお、甲3発明1に基づき、甲4に記載された事項を組み合わせて、相違点2’’につき想到し得るかにつき検討すると、甲4には、パーフルオロポリエーテル基、「トリウレタン構造」又は「イソシアヌレート型ポリウレタン構造」及び硬化性部位を有する化合物を使用することは開示されているものの、甲4に記載された発明は、積極的に有機溶剤を使用した溶剤溶液型の硬化性組成物であり、技術的指向が異なる甲3発明1(及び本件発明1)に係る好適には有機溶剤を使用しない硬化性組成物(甲3【0001】参照)における「成分(A)」の化合物として、甲4に記載されたパーフルオロポリエーテル基、「トリウレタン構造」又は「イソシアヌレート型ポリウレタン構造」及び硬化性部位を有する化合物を使用すべきことを動機付ける事項が存するものとは認められないから、甲3発明1に基づき、甲4に記載された事項と組み合わせて、相違点2’’につき容易に想到できるものということはできない。 したがって、上記相違点2’’は、甲3発明1において、たとえ甲4を組み合わせたとしても、当業者が適宜なし得ることであるということはできない。 (イ-3)小括 以上のとおりであるから、相違点1’’につき検討するまでもなく、本件発明1は、甲3発明1、すなわち、甲3に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。 (ウ)甲4発明1に基づく検討 (ウ-1)対比 本件発明1と甲4発明1とを対比すると、甲4発明1における「(A)下記の一般式(1)で示される化合物」は、パーフルオロ(ポリ)エーテル基、(置換)アクリロイル基なる重合可能な基及びイソシアヌレート型トリウレタン基を有する点で、本件発明1における「パーフルオロポリエーテル基及び硬化性部位を有する化合物」、「前記硬化性部位は、・・(メタ)アクリロイル基・・であり、」及び「前記パーフルオロポリエーテル基及び硬化性部位を有する化合物は、トリウレタン構造またはイソシアヌレート型ポリウレタン構造をさらに有」するに相当する。 また、甲4発明1における「上記(A)以外の、分子中に2個以上の重合性不飽和基を有する化合物」は、「重合性不飽和基」なる硬化性基を2個以上含む化合物である点で、本件発明1における「硬化性モノマー」に相当する。 そして、甲4発明1の「硬化性組成物」は、本件発明1における「硬化性組成物」に相当することが明らかである。 してみると、本件発明1と甲4発明1とは、 「パーフルオロポリエーテル基及び硬化性部位を有する化合物と、 硬化性モノマーと を含んで成る硬化性組成物であって、 前記硬化性部位は、CH_(2)=CX_(1)-C(O)-(式中、X_(1)は、水素原子、塩素原子、フッ素原子またはフッ素により置換されていてもよい炭素数1?10のアルキル基を表す)で表される(メタ)アクリロイル基である、 前記パーフルオロポリエーテル基及び硬化性部位を有する化合物は、トリウレタン構造またはイソシアヌレート型ポリウレタン構造をさらに有する 硬化性組成物。」 で一致し、少なくとも下記の2点で相違する。 相違点1’’’:本件発明1では「ラジカル反応性基を有しない有機溶剤の含有率は0?1質量%である」のに対して、甲4発明1では、「ラジカル反応性基を有しない有機溶剤の含有率」につき特定されていない点 相違点3’:「硬化性モノマー」につき、本件発明1では「硬化性モノマーは、少なくとも1つのフッ素原子で置換されたアルキル基が(メタ)アクリレート基に結合したモノマーであ」るのに対して、甲4発明1では「上記(A)以外の、分子中に2個以上の重合性不飽和基を有する化合物」であり、「少なくとも1つのフッ素原子で置換されたアルキル基が(メタ)アクリレート基に結合したモノマー」と特定されていない点 (ウ-2)検討 (a)相違点1’’’ 上記相違点1’’’につき検討すると、甲4には、甲4発明1の硬化性組成物につき、好適には有機溶剤を含むものである旨開示されており(【請求項12】、【0073】、【0109】等参照)、積極的に有機溶剤を含有させる態様を指向するものと認められる。 してみると、本件発明1における「ラジカル反応性基を有しない有機溶剤の含有率は0?1質量%である」ことは、すなわち、有機溶剤を実質的に含有しないことを指向することを意味するのが明らかであるから、上記相違点1’’’は、実質的な相違点であって、甲4発明1において、たとえ他の甲号証に記載された事項に照らしたとしても、当業者が適宜なし得ることということもできない。 (b)相違点3’について 上記相違点3’につき検討すると、本件発明1における「少なくとも1つのフッ素原子で置換されたアルキル基が(メタ)アクリレート基に結合したモノマー」である「硬化性モノマー」は、「(少なくとも1つのフッ素原子で置換された)アルキル基」なる1価の基が(メタ)アクリレート基に結合したいわゆるモノ(メタ)アクリレート化合物であるところ、甲4の記載を検討しても、当該少なくとも1つのフッ素原子で置換されたアルキルモノ(メタ)アクリレート化合物を使用することにつき記載・開示されておらず、甲4発明1において、当該アルキルモノ(メタ)アクリレート化合物を使用すべき動機となる事項も存するものではない。 また、甲4発明1において、他の甲号証に記載された発明に係る事項を組み合わせて、相違点3’に想到し得るか否かにつき検討すると、甲4には、甲4発明1において、当該アルキルモノ(メタ)アクリレート化合物を使用すべき動機となる事項も存するものではないし、他の甲号証の記載を検討しても同様であるから、甲4発明1において、他の甲号証に記載された発明に係る事項を組み合わせて、相違点3’に想到し得るものとは認められない。 したがって、上記相違点3’は、甲4発明1において、当業者が適宜なし得ることとはいえない。 (ウ-3)小括 以上のとおりであるから、本件発明1は、甲4発明1、すなわち、甲4に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。 (エ)本件発明1に係る検討のまとめ 以上のとおり、本件発明1は、甲2、甲3及び甲4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ.本件発明2ないし7及び11について 本件発明1を引用する本件発明2ないし7及び11につき検討すると、本件発明1につき、上記ア.でそれぞれ説示した理由により、本件発明1は、甲2、甲3及び甲4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないのであるから、本件発明1を引用する本件発明2ないし7及び11についても、同様の理由により、甲2、甲3及び甲4に記載された発明(甲2発明2又は4、甲3発明2及び甲4発明2を含む。)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。 ウ.本件発明8及び9について 「硬化性組成物の製造方法」に係る本件発明8及び9につきそれぞれ検討すると、甲2及び甲3には、本件発明8又は9における「パーフルオロポリエーテル基及び硬化性部位を有する化合物」の製造において、ポリイソシアネート(化合物)(特に本件発明1のもののような「トリウレタン構造」又は「イソシアヌレート型ポリウレタン構造」を構成すべきトリイソシアネート化合物又はイソシアヌレート型ポリイソシアネート化合物)を使用することが記載も示唆もされていない一方、甲4には、本件発明8における「有機溶剤を除去すること」及び本件発明9における「成分(A)を含む沈殿物を形成し、前記沈殿物を分離し、分離した沈殿物を(B)硬化性モノマーと混合すること」につき、いずれも記載も示唆もされていない。 そして、甲2又は甲3に記載された「硬化性組成物」と甲4に記載された「硬化性組成物」とは、上記「相違点2」に係る検討において説示したとおり、「有機溶剤の(積極的)使用」の有無に係る点において、製造する「硬化性組成物」の技術的指向を明らかに異にするものであるから、甲2又は甲3に記載された「硬化性組成物」の製造方法と甲4に記載された「硬化性組成物」の製造方法とを組み合わせるべき動機となる事項が存するものとは認められない。 してみると、甲2ないし甲4に記載された「硬化性組成物」の製造方法に係る技術(発明)に基づいて、たとえそれらをどのように組み合わせたとしても、「硬化性組成物の製造方法」に係る本件発明8及び9につき、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。 エ.本件発明12について 「硬化性組成物より形成され」る「フィルム」に係る本件発明12につき検討すると、甲2発明2又は4並びに甲3発明2において使用される甲2発明1又は3並びに甲3発明1の各硬化性組成物は、いずれも「パーフルオロポリエーテル基及び硬化性部位を有する化合物」が「トリウレタン構造またはイソシアヌレート型ポリウレタン構造をさらに有」するものでない一方、甲4発明2において使用される甲4発明1の硬化性組成物は、「少なくとも1つのフッ素原子で置換されたアルキル基が(メタ)アクリレート基に結合したモノマー」である「硬化性モノマー」を含有するものではないから、本件発明12の「フィルム」に係る形成材料である「硬化性組成物」は、甲2発明2又は4、甲3発明2及び甲4発明2において使用される各「硬化性組成物」と相違していることが明らかであって、当該各「硬化性組成物」から形成される「フィルム」についても相違すると理解するのが自然である。 そして、甲2又は甲3に記載された「硬化性組成物」と甲4に記載された「硬化性組成物」とは、上記「相違点2」に係る検討において説示したとおり、「有機溶剤の(積極的)使用」の有無に係る点において、製造する「硬化性組成物」の技術的指向を明らかに異にするものであるから、甲2又は甲3に記載された「硬化性組成物」に係る事項と甲4に記載された「硬化性組成物」に係る事項とを組み合わせるべき動機となる事項が存するものとは認められない。 したがって、本件発明12は、甲2、甲3及び甲4に記載された発明(甲2発明2又は4、甲3発明2及び甲4発明2を含む。)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。 (3)取消理由Bについてのまとめ 以上のとおり、本件発明1ないし9、11及び12は、いずれも甲2、甲3及び甲4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできないから、上記取消理由B-1、B-2及びB-3はいずれも理由がない。 3.取消理由Cについて 本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載(【0004】?【0012】)からみて、本件発明の解決しようとする課題は、少なくとも「白濁が生じにくい表面処理層を形成できる硬化性組成物の提供」にあるものと認められる。 そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載をさらに検討すると、本件発明の「硬化性組成物」は、ラジカル反応性基を有しない有機溶剤を1質量%以下、すなわち実質的に含有しないことにより、硬化した後に形成される表面処理層の白濁が生じにくくなるという作用機序が記載されている(【0138】?【0142】)とともに、本件発明の硬化性組成物は、25℃における粘度が好ましくは5?100000mPa・sであることにより、取り扱い性が良好となることが記載されている(【0143】)のみであって、上記粘度の大小により硬化物の白濁発生の難易を左右するような技術事項が記載ないし示唆されているものとは認められない。 また、ほかに、本願の出願時の当業者において、硬化性組成物の粘度の大小により、硬化物の白濁発生の難易が左右されるとの技術常識が存するものとも認められない。 してみると、本件請求項1の「ラジカル反応性基を有しない有機溶剤の含有率は0?1質量%である」との事項を引用により具備する本件請求項2に記載された事項で特定される発明であれば、たとえその技術常識に照らしたとしても、上記解決課題を解決できるであろうと当業者は認識することができるものと認められる。 したがって、本件請求項2に記載した事項で特定される発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものということができるから、特許法第36条第6項第1号に適合するものであり、同法同条同項(柱書)に規定する要件を満たしているものである。 よって、上記取消理由Cは理由がない。 4.申立人が主張する取消理由に係る検討のまとめ 以上のとおり、申立人が主張する取消理由は、いずれも理由がない。 IV.当審の判断のまとめ よって、本件の請求項1ないし9、11及び12に係る発明についての特許について、当審が通知した理由並びに申立人が主張する理由及び提示した証拠ではいずれも取り消すことができるものではなく、その他の取消理由についても発見できないから、いずれも維持すべきものである。 第7 むすび 以上のとおり、上記訂正請求における訂正については、適法であるから、訂正後の請求項〔1-7、11〕、〔8-10〕及び12について、これを認容すべきものである。 そして、訂正後の請求項1ないし9、11及び12に係る発明についての特許は、取り消すことはできず、維持すべきものである。 また、本件の請求項10に係る特許に対する本件特許異議の申立ては、却下すべきものである。 よって、上記結論のとおり、決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 パーフルオロポリエーテル基及び硬化性部位を有する化合物と、 硬化性モノマーと を含んで成る硬化性組成物であって、 前記硬化性部位は、アリル基、およびCH_(2)=CX_(1)-C(O)-(式中、X_(1)は、水素原子、塩素原子、フッ素原子またはフッ素により置換されていてもよい炭素数1?10のアルキル基を表す)で表される(メタ)アクリロイル基からなる群より選ばれる少なくとも1であり、 前記パーフルオロポリエーテル基及び硬化性部位を有する化合物は、トリウレタン構造またはイソシアヌレート型ポリウレタン構造をさらに有し、 前記硬化性モノマーは、少なくとも1つのフッ素原子で置換されたアルキル基が(メタ)アクリレート基に結合したモノマーであり、 ラジカル反応性基を有しない有機溶剤の含有率は0?1質量%である、 硬化性組成物。 【請求項2】 25℃における粘度は、5?100000mPa・sである、請求項1に記載の硬化性組成物。 【請求項3】 前記パーフルオロポリエーテル基及び硬化性部位を有する化合物は、トリウレタン構造を有する、請求項1又は2に記載の硬化性組成物。 【請求項4】 前記パーフルオロポリエーテル基及び硬化性部位を有する化合物は、イソシアヌレート型ポリウレタン構造を有する、請求項1又は2に記載の硬化性組成物。 【請求項5】 前記パーフルオロポリエーテル基及び硬化性部位を有する化合物は、硬化性組成物全体に対して5?80質量%含まれる、請求項1?4のいずれかに記載の硬化性組成物。 【請求項6】 硬化性組成物100質量%に対するスズ原子、チタン原子又はジルコニウム原子の含有率は、10質量ppm以下である、請求項1?5のいずれかに記載の硬化性組成物。 【請求項7】 前記硬化性モノマーは、α位の炭素原子に結合した水素原子がハロゲン原子に置換されたモノマーである、請求項1?6のいずれかに記載の硬化性組成物。 【請求項8】 (A)パーフルオロポリエーテル基及び硬化性部位を有する化合物並びに(C)ラジカル反応性基を有しない有機溶剤を含む反応組成物と、(B)硬化性モノマーとを含む混合物から、前記有機溶剤を除去することを含む、硬化性組成物の製造方法であり、 (a1)イソシアネート基を有する化合物と、(b1)活性水素を有する化合物とを反応させることにより成分(A)を得ることを含み、 前記イソシアネート基を有する化合物は、ポリイソシアネートであり、 前記硬化性部位は、アリル基、およびCH_(2)=CX_(1)-C(O)-(式中、X_(1)は、水素原子、塩素原子、フッ素原子またはフッ素により置換されていてもよい炭素数1?10のアルキル基を表す)で表される(メタ)アクリロイル基からなる群より選ばれる少なくとも1であり、 前記硬化性モノマーは、少なくとも1つのフッ素原子で置換されたアルキル基が(メタ)アクリレート基に結合したモノマーである、硬化性組成物の製造方法。 【請求項9】 (A)パーフルオロポリエーテル基及び硬化性部位を有する化合物並びに(C)ラジカル反応性基を有しない有機溶剤を含む反応組成物と、溶媒とを混合し、前記成分(A)を含む沈殿物を形成し、前記沈殿物を分離し、分離した沈殿物を(B)硬化性モノマーと混合することを含む、硬化性組成物の製造方法であり、 (a1)イソシアネート基を有する化合物と、(b1)活性水素を有する化合物とを反応させることにより成分(A)を得ることを含み、 前記イソシアネート基を有する化合物は、ポリイソシアネートであり、 前記硬化性部位は、アリル基、およびCH_(2)=CX_(1)-C(O)-(式中、X_(1)は、水素原子、塩素原子、フッ素原子またはフッ素により置換されていてもよい炭素数1?10のアルキル基を表す)で表される(メタ)アクリロイル基からなる群より選ばれる少なくとも1であり、 前記硬化性モノマーは、少なくとも1つのフッ素原子で置換されたアルキル基が(メタ)アクリレート基に結合したモノマーである、硬化性組成物の製造方法。 【請求項10】(削除) 【請求項11】 基材と、前記基材の表面に形成された請求項1?7のいずれかに記載の硬化性組成物由来の表面処理層とを有する物品。 【請求項12】 表面に凹凸構造を有するフィルムであり、 該表面における鉛筆硬度が、2H以上、および 該表面における水接触角が140度以上、かつ、n-ヘキサデカン接触角が70度以上であり、 パーフルオロポリエーテル基及び硬化性部位を有する化合物と、 硬化性モノマーと を含んで成る硬化性組成物より形成され、 前記硬化性部位は、アリル基、およびCH_(2)=CX_(1)-C(O)-(式中、X_(1)は、水素原子、塩素原子、フッ素原子またはフッ素により置換されていてもよい炭素数1?10のアルキル基を表す)で表される(メタ)アクリロイル基からなる群より選ばれる少なくとも1であり、 前記パーフルオロポリエーテル基及び硬化性部位を有する化合物は、トリウレタン構造またはイソシアヌレート型ポリウレタン構造をさらに有し、 前記硬化性モノマーは、少なくとも1つのフッ素原子で置換されたアルキル基が(メタ)アクリレート基に結合したモノマーである、フィルム。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2020-07-20 |
出願番号 | 特願2017-133511(P2017-133511) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
YAA
(C08F)
P 1 651・ 113- YAA (C08F) P 1 651・ 161- YAA (C08F) P 1 651・ 121- YAA (C08F) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 中村 英司 |
特許庁審判長 |
佐藤 健史 |
特許庁審判官 |
近野 光知 橋本 栄和 |
登録日 | 2018-12-07 |
登録番号 | 特許第6443506号(P6443506) |
権利者 | ダイキン工業株式会社 |
発明の名称 | 硬化性組成物、その製造方法、及びそれを用いた物品 |
代理人 | 山田 卓二 |
代理人 | 吉田 環 |
代理人 | 澤内 千絵 |
代理人 | 山田 卓二 |
代理人 | 吉田 環 |
代理人 | 澤内 千絵 |