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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C04B
審判 全部申し立て 2項進歩性  C04B
管理番号 1366081
異議申立番号 異議2019-700204  
総通号数 250 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-10-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-03-14 
確定日 2020-08-12 
異議申立件数
事件の表示 特許第6392569号発明「中空微小球を含有するセメント混和材およびそれを用いたセメント組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6392569号の請求項1ないし5に係る特許を取り消す。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6392569号の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成26年 7月11日に出願され、平成30年 8月31日にその特許権の設定登録がされ、平成30年 9月19日に特許掲載公報が発行された。その特許についての本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。

平成31年 3月14日 :特許異議申立人 落合 憲一郎(以下、「特許
異議申立人」という。)による請求項1?5 に係る特許に対する特許異議の申立て
令和 1年 5月24日付け:取消理由通知書
令和 1年 7月26日 :特許権者による意見書の提出
令和 1年 8月29日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和 1年10月31日 :特許権者による意見書の提出及び訂正請求
令和 1年12月20日 :特許異議申立人による意見書の提出
令和 2年 3月12日付け:訂正拒絶理由通知書
令和 2年 4月16日 :特許権者による意見書の提出


第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和 1年10月31日付けの訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである(下線部は、訂正箇所を示す)。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項4に「請求項1?3記載のいずれか1項に記載のセメント混和材を含有するセメント組成物。」
とあるのを、
「前記セメント100容量部に対して2?10容量部のセメント混和材を含有し、水中不分離性混和剤を含まないセメント組成物であって、 ・・・ セメント組成物。」
に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4のセメント混和材の説明として、「前記セメント混和材が、水と中空微小球と界面活性剤を含有し、水と中空微小球の合計100部中、水70?90部、中空微小球10?30部を含み、水と中空微小球の合計100部に対して界面活性剤の量が1?5部であり、前記中空微小球がアクリロニトリル共重合体である、」
という限定を加えるように訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1?3を削除する。

(4)訂正項4
明細書の段落【0023】の表1に含まれる実験No.1-4?1-7の備考に「実施例」とあるのを、「参考例」に訂正する。

2 訂正の適否
(1)一群の請求項について
本件訂正前の請求項1?5において、請求項2?5は、請求項1を直接的又は間接的に引用しているから、本件訂正前の請求項1?5は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項であり、上記訂正事項1?3は、一群の請求項1?5について請求されたものである。また、訂正事項4は、この一群の請求項の全てについて明細書を訂正するものであると認められる。

(2)訂正事項1について
ア 訂正の目的の適否及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は、訂正前の請求項4及び当該請求項で引用する訂正前の請求項1?3では特定されていなかった「前記セメント100容量部に対して2?10容量部のセメント混和材を含有し、水中不分離性混和剤を含まない」という特定事項により、セメントに対するセメント混和材の容量比を限定し、水中不分離性混和剤を含まないことを特定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項1は、訂正前の請求項4が、請求項1?3を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消して独立形式請求項に改める訂正であるといえるから、特許法第120条の5第2号ただし書第4号に規定する他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
そして、訂正事項1は、上記のとおり特許請求の範囲の減縮及び独立形式請求項に改めることを目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

イ 新規事項の有無
令和 1年10月31日付けの訂正請求書において「訂正事項1に係る訂正後の構成は、本件特許明細書の段落0016及び0020の記載に基づいて導き出されるものである。よって訂正事項1は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正である。」と説明されている。
そこで検討すると、段落【0016】には、「本発明のセメント混和材の使用量は、コンクリート100容量部中、0.1?10容量部が好ましく、0.5?5容量部がより好ましい。」と記載され、段落【0020】には、「「実験例1」平均粒子径20μmのアクリロニトリル共重合体の中空微小球と水を用い、表1に示す割合で十分にホモデスパ-ミキサを用い混合しセメント混和材を調製した。単位水量187kg/m^(3)、単位セメント量358kg/m^(3)、s/a48.9%、をコンクリートの基本配合とし、目標スランプは18cm、目標空気量を5%とし、スランプおよび空気量はAE減水剤とAE剤の添加量で調整した。セメント混和材がコンクリート100容量部中、2容量部となるように配合した水を用い、界面活性剤は基本配合の単位水量から差し引いて使用した。」と記載されている。
上記段落【0016】及び【0020】には、セメント混和材の使用量は、「コンクリート100容量部」に対する容量比が規定されているものであって、「セメント100容量部」に対するものではない。
そうすると、上記訂正事項1に係る「セメント100容量部に対して2?10容量部のセメント混和材を含有し」の特定事項は、新たな技術事項を導入するものである。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものではない。

(3)特許権者の意見について
令和2年 4月16日付けで提出した意見書において、特許権者は、以下のように主張している。
「訂正拒絶理由通知書によれば、訂正事項1に係る「前記セメント100容量部に対して2?10容量部のセメント混和材を含有し、水中不分離性混和剤を含まないセメント組成物であって、・・・セメント組成物。」なる特定事項は、本件当初明細書等に記載された事項ではないとされています。
しかし本件当初明細書段落0007には、『本発明のコンクリートとは、セメントペースト、セメントモルタル、およびセメントコンクリートを総称するものである。』と定義されています。
訂正後の請求項4に係るセメント組成物はセメントと水すなわちセメントペーストを含むものです。また本件当初明細書等における請求項4では、セメントとセメント混和材だけが限定されており、骨材が限定されていない条件下でコンクリートの容量部に対するセメント混和材の容量部を規定する必然性が無いと考えられます。したがって、本件当初明細書段落0016及び0020に記載されている「コンクリート100容量部」とは「セメント100容量部」のことであると解釈されるべきです。
したがって訂正事項1は、本件当初明細書等の範囲内でされたものであり、適法であると考えます。」
そこで、検討すると、段落【0007】によると、特許権者の主張するように、「本発明のコンクリート」とは、「セメントペースト」、すなわち「セメント」と「水」の混合物を含むと認められるが、段落【0007】の記載から直ちに「コンクリート」が、「セメント」のみを意味するとはいえない。
そして、訂正事項1は、上記「2(2)イ」で引用した段落【0020】の上記「セメント混和材がコンクリート100容量部中、2容量部となるように配合した水を用い」の記載における「セメント混和材」の容量比を根拠として下限としたものである。
しかしながら、当該記載からは、「コンクリート」100容量部中、中空微小球に水を配合した「セメント混和材」を2容量部としているものであることが理解され、上記記載に接した当業者は、当該「コンクリート」とは、同じく「2(2)イ」で引用した段落【0021】の「使用材料」の記載から、水、セメント、中空微小球、骨材等を練混ぜたものを意味していると理解するのが自然である。
さらに、訂正前の請求項4は、セメント組成物がセメントと水すなわちセメントペーストを含むことを意味するとしても、このことから直ちに段落【0016】、【0020】に記載の「コンクリート」が、「セメント」を意味するとはいえない。
これらのことから、訂正事項1の「コンクリート」の記載が「セメント」を意味するとはいえず、上記特許権者の主張は採用できない。

3 小括
以上のように、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する同法第126条第5項の規定に適合しないから、他の訂正事項について検討するまでもなく、一群の請求項1?5を訂正の単位として請求された本件訂正は認めることができない。


第3 本件特許発明
上記第2のとおり、訂正事項1?4による本件訂正は認めることはできないから、本件請求項1?5に係る発明(以下、「本件発明1」?「本件発明5」という。)は、本件特許の設定登録時の特許請求の範囲の請求項1?5に記載された次の事項により特定されるものである。

【請求項1】
水と中空微小球を含有するセメント混和材であって、
水と中空微小球の合計100部中、水70?90部、中空微小球10?30部を含み、
前記中空微小球が、アクリロニトリル、フェノール、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、塩化ビニリデン、およびポリフェノール、ならびにそれらの共重合物および架橋体から選択される一種以上を含むことを特徴とする、セメント混和材。
【請求項2】
さらに、界面活性剤を含有してなる請求項1に記載のセメント混和材。
【請求項3】
中空微小球がアクリロニトリル共重合体である請求項1または2に記載のセメント混和材。
【請求項4】
セメントと、請求項1?3記載のいずれか1項に記載のセメント混和材を含有するセメント組成物。
【請求項5】
請求項4記載のセメント組成物を用いて作製してなるコンクリートの製造方法。


第4 取消理由通知(決定の予告)で通知した取消理由の概要
令和 1年 8月29日付けの取消理由通知(決定の予告)において特許権者に通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。

理由1.本件発明1、2、4、5は、本件特許出願前に日本国内または外国において、頒布された甲1-1又は甲2に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、特許法第29条第1項の規定により特許を受けることができないものであり、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

理由2.本件発明1?5は、本件特許出願前に日本国内または外国において、頒布された甲1-1?甲4に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

第5 当審の判断
1 証拠方法
甲1-1:鮎田 耕一 他、「中空微小球添加水中不分離性AEコンクリートの
耐凍害性」、セメント・コンクリート論文集、1996年12月
25日、p.440?445、No.50、1996
甲2:七海 隆之 他、「中空微小球と高炉スラグ微粉末の使用による水中不
分離性コンクリートの耐凍害性及び強度性状改善」、セメント・コン
クリート論文集、1998年12月25日、p.362?367、N
o.52、1998
甲3-1:松本油脂製薬株式会社、「製品ガイド 一般工業編」、
p.21、22、2003年11月
甲4:国際公開第2013-156590号
(対応日本語公報:特表2015-519279号公報)

2 甲1-1?甲4の記載事項
(1)甲1-1について
甲1-1には、以下の事項が記載されている(なお、下線は、特に着目した記載に付記している。他の文献についても同様)。

1a「1.はじめに
セルロース系の水中不分離性混和剤には、練混ぜ時に取り込まれる粗大な気泡を消失させるために消泡剤が併用されている。消泡剤はコンクリートの耐凍害性にとって必要な微細な気泡にも影響を及ぼし、耐凍害性を損なわせる場合がある^(1))。そこで、AE剤の代わりにプラスティック系の中空微小球(Hollow Micro-Spheres 以後、HMS)を用いて水中不分離性コンクリートの耐凍害性を向上させることを検討し、高い耐凍害性が得られることを明らかにした^(2),3))。
しかしながら、HMSの入手がかならずしも容易でないこと、また、HMSの添加に伴う圧縮強度の低下など解決すべき点も明らかになった。
そこで、本研究では、HMSと同等の性質を持ち、かつ入手しやすい中空微小球(Expanded Plastic Microspheres 以後、EPM)を用いるとともに、AE剤を併用したコンクリートの耐凍害性と強度性状について検討した。」(441ページ1行目?11行目)

1b「2.実験方法
2.1 使用材料および配合
Table1に本実験に用いた使用材料を、Photo.1にEPMの電子顕微鏡写真を示す。
EPMは、空気を内包したプラスティック球(主成分:ポリ塩化ビニリデン)で、その径のほとんどが50μm以下であり、電子顕微鏡写真の状態から通気性があると考えられる。なお、肉眼では白いペースト状のように見える。
また、105℃で一定質量になるまで乾燥して求めたEPMの含水率は81.4%であった。
セメントには普通ポルトランドセメント、細骨材・粗骨材にはそれぞれ川砂・川砂利を用い、水中不分離性混和剤にはセルロース系、流動化剤には高縮合トリアジン系化合物を使用した。
Table2に配合を示す。水中不分離性混和剤、流動化剤、AE減水剤の使用量は、スランプフローが50±3cmになるように定めた。
・・・・・
2.2 練混ぜおよび養生
コンクリートの練混ぜには容量50lの強制練りミキサを用い、1バッチ50lとした。練混ぜ方法は、セメント+細骨材+粗骨材+水中不分離性混和剤→60秒空練り→練混ぜ水+AE減水剤+AE剤+EPM→60秒練混ぜ→流動化剤120秒練混ぜ、の手順で行った。
供試体は気中および水中で作製し、各材齢まで標準養生(20℃水中)を行った。」(441ページ12行目?28行目)

1c「


(441ページ)

記載事項1a、1bによると、中空微小球(EPM)は、主成分がポリ塩化ビニリデンを主成分とするプラスチック球であり、白いペースト状に見えるものであり、含水率が81.4%である。
また、記載事項1aによると、中空微小球は、AE剤と併用され、共にコンクリートに練混ぜられるものであり、これらは、記載事項1cのTable 1 に、「Admixutre」として分類されているから、コンクリート混和材であるといえる。
以上のことから、甲1-1には、コンクリートの練混ぜ時に添加する混和材として、次の発明(以下、「甲1-1発明」という。)が記載されていると認められる。

「中空微小球を含みAE剤と併用される混和材であって、中空微小球の含水率が81.4%であり、ポリ塩化ビニリデンを主成分とする、コンクリート混和材。」

(2)甲2について
甲2には、以下の事項が記載されている。

2a「筆者らは、水中不分離性コンクリートの耐凍害性を確保するために、AE剤の代わりに空気を内包したプラスティック系の特殊な中空微小球(Expanded Plastic Micro-Spheres 以後、EPM)の添加を検討し、既往の研究^(2))では、EPMを添加することで耐凍害性が向上することを明らかにしている。」(362ページ左欄12行目?17行目)

2b「EPMは、空気を内包したプラスティック球(主成分:ポリ塩化ビニリデン、密度:36kg/m^(3)、真比重:0.02)であり写真で明らかなようにその径のほとんどが50μm程度以下である。なお、肉眼では白いペースト状に見える。また、水分はEPM内部には含まれていないが表面には付着しており、105℃で一定質量になるまで乾燥して求めたEPMの付着水率は81.4%であった。
Table 2に配合を示す。EPMは単位結合材量に対して0.5、1.0%添加している。高炉スラグ微粉末の分量は単位結合材量に対して30、60%とした。水中不分離性混和剤の使用量は2.3kg/m^(3)、流動化剤、AE減水剤の使用量は、スランプフローが50±3cmになるように定めた。なお、EPMの付着水量は単位水量に含めた。
2.2 練混ぜ
コンクリートの練混ぜには、容量50リットルの強制練りミキサを用いた。
練混ぜ方法は、セメント、高炉スラグ微粉末、細骨材、粗骨材、水中不分離性混和剤を空練りし、練混ぜ水、AE減水剤、EPMを加えて練り混ぜ、その後、流動化剤を加えてさらに練り混ぜた。」(362ページ右欄7行目?363ページ左欄15行目)

2c「


(363ページ)

記載事項2a、2bによると、中空微小球(EPM)は、主成分がポリ塩化ビニリデンを主成分とするプラスチック球であって、その表面に水が付着して白いペースト状に見えるものであり、付着水率が81.4%である。
また、甲1と同様に、記載事項2b、2cから、中空微小球は、AE剤と併用される、コンクリート混和材であるといえる。
以上のことから、甲2には、コンクリートの練混ぜ時に添加する混和材として、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。

「中空微小球を含みAE減水剤と併用される混和材であって、中空微小球の付着水率が81.4%であり、ポリ塩化ビニリデンを主成分とする、コンクリート混和材。」

(3)甲3-1について
甲3-1には、以下の事項が記載されている。

3a「 マツモトマイクロスフェアーFシリーズは、低沸点炭化水素をインサイト重合法により、塩化ビニリデン、アクリロニトリルなどの共重合物の殻壁でマイクロカプセル化した、粒径が10?30ミクロンの熱膨張性微小球です。」(21ページ左欄3行目?6行目)

3b「


(21ページ)

3c「


(22ページ)

(4)甲4について
甲4には、以下の事項が記載されている(なお、訳は、甲4に対応する上記日本語公報を参照して作成した)。

4a「A freeze-thaw damage resistance and/or scaling damage resistance admixture for a cementitious composition is provided, comprising an aqueous slurry comprising a water insoluble superabsorbent polymer and expandable polymeric microspheres. A method for preparing a freeze-thaw damage resistant and/or scaling damage resistant cementitious composition is also provided, comprising forming a mixture of a hydraulic cement and an admixture comprising an aqueous slurry of a water insoluble superabsorbent polymer and expanded polymeric microspheres.

The expanded polymeric microspheres provide void spaces in cementitious compositions prior to final setting, and such void spaces act to increase the freeze-thaw durability of the cementitious material. Expanded polymeric microspheres introduce voids into cementitious compositions to produce a fully formed void structure in cementitious compositions which resists concrete degradation produced by water-saturated cyclic freezing and does not rely on air bubble stabilization during mixing of cementitious compositions. The freeze-thaw durability enhancement produced with the expanded polymeric microspheres is based on a physical mechanism for relieving stresses produced when water freezes in a cementitious material.
・・・・・
The expandable polymeric microspheres may be comprised of a polymer that is at least one of polyethylene, polypropylene, polymethyl methacrylate, poly-o-chlorostyrene, polyvinyl chloride, polyvinylidene chloride, polyacrylonitrile, polymethacrylonitrile, polystyrene, and copolymers thereof, such as copolymers of vinylidene chloride-acrylonitrile, polyacrylonitrile-copolymethacrylonitrile, polyvinylidene chloride-polyacrylonitrile, or vinyl chloride-vinylidene chloride, and the like.
・・・・・

・・・・・ The polymeric microspheres may have a hollow core and compressible wall. The interior portion of the polymeric microspheres comprises a void cavity or cavities that may contain gas (gas filled) or liquid (liquid filled).
In certain embodiments, the expanded, expandable polymeric microspheres may have an average diameter of about 200 to about 900 μm, in certain embodiments, about 40 to about 216 μm, in certain embodiments about 36 to about 135 μm, in certain embodiments about 24 to about 81 μm, and in certain embodiments about 12 to about 54 μm.」(4ページ7行目?6ページ5行目)
(「水不溶性超吸収性ポリマー及び膨張性ポリマー微小球を含む水性スラリーを含む、セメント組成物用の耐凍結融解性及び/又は耐スケール性の混和材が提供される。耐凍結融解性及び/又は耐スケール性のセメント組成物の製造方法であって、水硬セメントと水不溶性超吸収性ポリマーの水性スラリー及び膨張したポリマー微小球を含む混和材との混合物を形成することを含む、前記方法も提供される。
膨張したポリマー微小球は、最終的な沈降の前にセメント組成物中に空隙を提供し、そのような空隙は、セメント系材料の耐凍結融解性を高めるように作用する。膨張したポリマー微小球は、水飽和の繰り返し凍結によって生じるコンクリートの劣化に耐性があり且つセメント組成物の混合中の気泡の安定性に依存しないセメント組成物中に完全に形成された空隙構造を作るために、セメント組成物中に空隙を導入する。膨張したポリマー微小球によってもたらされる耐凍結融解性の強化は、水がセメント系材料で凍結する時に生じる応力を緩和するための物理的機構に基づいている。
・・・・・
膨張性ポリマー微小球は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルメタクリレート、ポリ-o-クロロスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリロニトリル、ポリスチレンのうちいずれか1つのポリマー、並びにそれらのコポリマー、例えば、塩化ビニリデン-アクリロニトリル、アクリロニトリル-コポリメタクリロニトリル、ポリ塩化ビニリデン-ポリアクリロニトリル、又は塩化ビニル-塩化ビニリデンのコポリマー、及び類似物から構成され得る。
・・・・・
・・・・・ ポリマー微小球は、中空のコアと圧縮性の壁を有してよい。ポリマー微小球の内部は、ガス(ガス充填)又は液体(液体充填)を含有し得る空隙又は空洞を含む。
特定の実施態様では、膨張した、膨張性ポリマー微小球は、約200?約900μm、特定の実施態様では、約40?約216μm、特定の実施態様では、約36?約135μm、特定の実施態様では、約24?約81μm、及び特定の実施態様では、約12?約54μmの平均直径を有してよい。」)

4b「The fluid material comprising the expanded, expandable polymeric microspheres may be added to or mixed with process water or other liquid admixtures, and then incorporated into the cementitious composition. Thus, the treated fluid material may contain both the expanded, expandable polymeric microspheres and the water insoluble superabsorbent polymer, or may contain the expanded, expandable polymeric microspheres and be mixed with a liquid admixture, such as a dispersion containing the water insoluble superabsorbent polymer. Alternatively, the fluid material comprising the expanded, expandable polymeric microspheres and the water insoluble superabsorbent polymer may be incorporated directly into a cementitious composition (before or during mixing of the cementitious composition) without first adding the treated fluid material to process water or other liquid admixtures. 」(16ページ12行目?22行目)
(「膨張した、膨張性ポリマー微小球を含む流体材料は、プロセス水又は他の液体混和材に添加されるか又はそれと混合され、その後、セメント組成物中に組み込まれてよい。従って、処理された流体材料は、膨張した、膨張性ポリマー微小球と水不溶性超吸収性ポリマーの両方を含有し得るか、又は膨張した、膨張性ポリマー微小球を含有し且つ水不溶性超吸収性ポリマーを含有する分散液などの液体混和材と混合され得る。あるいは、膨張した、膨張性ポリマー微小球及び水不溶性超吸収性ポリマーを含む流体材料は、処理した流体材料をプロセス水又は他の液体混和材に最初に添加することなく(セメント組成物の成分の混合前又は混合中に)セメント組成物に直接導入され得る。」)

3 対比・判断
(1)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1-1発明との対比、判断
本件発明1と甲1-1発明とを対比する。
甲1-1発明の「コンクリート混和材」は、セメントと共に練混ぜられるものであるから、本件発明1の「セメント混和材」に相当する。
甲1-1発明の「中空微小球の含水率が81.4%」であることは、当該「中空微小球」が水を含むものであって、「中空微小球」100部中、水70?90部、乾燥した「中空微小球」10?30部の範囲内であるといえる。
そうすると、甲1-1発明の「中空微小球を含みAE剤と併用される混和材」は、本件発明1の「水と中空微小球を含有するセメント混和材」に相当し、また、甲1-1発明の「中空微小球の含水率が81.4%」であることは、本件発明1の「水と中空微小球の合計100部中、水70?90部、中空微小球10?30部を含」むことに相当する。
さらに、甲1-1発明における中空微小球が、ポリ塩化ビニリデンを主成分とすることは、本件発明1の「中空微小球が、アクリロニトリル、フェノール、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、塩化ビニリデン、およびポリフェノール、ならびにそれらの共重合物および架橋体から選択される一種以上を含む」ことに相当する。
したがって、本件発明1と甲1-1発明には、実質的な相違点はない。
よって、本件発明1は、甲1-1に記載された発明であるか、仮にそうでないとしても、甲1-1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

イ 本件発明1と甲2発明との対比、判断
甲2発明の「付着水率」は、甲1-1発明の「含水率」と同様に、中空微
小球に含まれる水分の比率を意味する。
また、甲2発明の「混和材」は、甲1-1発明と同様にセメントに練混ぜられるものである。
そこで、本件発明1と甲2発明とを対比すると、甲1-1発明と同様に、実質的な相違点はないといえる。
よって、本件発明1は、甲2に記載された発明であるか、仮にそうでないとしても、甲2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)本件発明2について
ア 本件発明2と甲1-1発明との対比、判断
甲1-1発明は、中空微小球と共にAE剤を併用するものであって、当該AE剤として、界面活性剤が含まれることは技術常識である。
よって、本件発明2は、甲1-1に記載された発明であるか、仮にそうでないとしても、甲1-1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

イ 本件発明2と甲2発明との対比、判断
甲2発明は、中空微小球と共にAE減水剤を併用するものであって、当該AE減水剤として、界面活性剤が含まれることは技術常識である。
よって、本件発明2は、甲2に記載された発明であるか、仮にそうでないとしても、甲2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)本件発明3について
ア 本件発明3と甲1-1発明との対比、判断
甲3-1の記載事項によると、甲3-1には、セメント用の混和材として用いる、塩化ビニリデン、アクリロニトリルなどの共重合物の隔壁を有する中空微小球が記載され、甲4の記載事項によると、甲4には、甲1発明と同じく耐凍害性向上のためのポリマー微小球からなる混和材であって、ポリマー微小球がポリ塩化ビニリデン、ポリアクリロニトリルなどのコポリマー(共重合体)から構成されることが記載されている。
そうすると、甲1-1発明のポリ塩化ビニリデンに替えて、アクリロニトリルなどの他の高分子の共重合体を用いることは、当業者であれば容易なことである。
よって、本件発明3は、甲1-1、甲3-1及び甲4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

イ 本件発明3と甲2発明との対比、判断
上記アと同様の理由により、本件発明3は、甲2、甲3-1及び甲4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)本件発明4について
ア 本件発明4と甲1-1発明との対比、判断
記載事項1b、1cによると、甲1-1には、セメント、及び甲1-1発明に係る混和材などを練混ぜて得られた混合物が記載されているといえ、これは、本件発明4のセメント組成物に相当する。
よって、本件発明4は、甲1-1に記載された発明であるか、仮にそうでないとしても、甲1-1に記載された発明に基いて、または、甲1-1、甲3-1及び甲4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

イ 本件発明4と甲2発明との対比、判断
記載事項2b、2cによると、上記アと同様の理由により、本件発明4は、甲2に記載された発明であるか、仮にそうでないとしても、甲2に記載された発明に基いて、または、甲2、甲3-1及び甲4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(5)本件発明5について
ア 本件発明5と甲1-1発明との対比、判断
記載事項1bによると、甲1-1には、セメント、甲1-1発明に係る混和材などに加え、さらに流動化剤などを練り混ぜて得られたフレッシュコンクリートが記載されているといえ、これは、本件発明5の「コンクリート」に相当する。
よって、本件発明5は、甲1-1に記載された発明であるか、仮にそうでないとしても、甲1-1に記載された発明に基いて、または、甲1-1、甲3-1及び甲4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

イ 本件発明5と甲2発明との対比、判断
記載事項2bによると、上記アと同様の理由により、本件発明5は、甲2に記載された発明であるか、仮にそうでないとしても、甲2に記載された発明に基いて、または、甲2、甲3-1及び甲4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 特許権者の主張について
1 特許権者の主張
特許権者は、令和 1年 7月26日付けの意見書において、概ね以下の主張をしている。

(1) 甲1-1及び甲2には、練り混ぜ水及びEPMなどを一度に練り混ぜたことが記載されており、EPMと水の合計を100部とおけば、EPMと水との比(EPM:水)は、それぞれ1.8:98.2?5.2:94.8及び0.9:99.1?1.8:98.2となり、本件発明の「水と中空微小球の合計100部中、水70?90部、中空微小球10?30部」という条件を満たさない。

(2)乙1号証及び乙2号証を提出し、これによれば、本件特許発明では、水と中空微小球の配合比を適切に制御することで、発塵を抑制できる上、セメントと混和しても水と分離することはなく、均等な練り混ぜが可能となり、コンクリートの性能を向上できるが、甲1-1及び甲2に記載のような高含水率/高付着水率の「ペースト状」EPMでは、このような効果を奏しない。

2 特許権者の主張に対する判断
(1)について
甲1-1及び甲2に記載されたEPMは、セメント混和材の一種であることは明らかであって、取消理由の引用発明の認定において、EPM及びこれと併用するAE剤又はAE減水剤について甲1-1発明及び甲2発明を認定したものであるから、取消理由1は妥当なものである。
一方、「練り混ぜ水」は、コンクリートないしモルタルを練り混ぜるためのものであって、セメント混和材を構成するものではない。
(2)について
各乙号証に示された実験は、中空微小球9.0gに水5.0g(中空微小球:水=64:36)を混合したものであって、本件発明の「水と中空微小球の合計100部中、水70?90部、中空微小球10?30部」(中空微小球:水=10?30:70?90)の範囲外のものに該当する(本件発明の比較例相当であると認められる。)から、各乙号証によって上記本件発明の効果を確認することはできるものではない。
また、上記(1)の判断のとおりであって、甲1-1発明及び甲2発明と本件発明とは差異がないから、甲1-1発明及び甲2発明も本件発明と同様の作用効果を奏すると認められる。

したがって、特許権者の主張を採用することはできない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、本件発明1?5に係る特許は、特許法第29条第1項又は第2項に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2020-06-30 
出願番号 特願2014-142869(P2014-142869)
審決分類 P 1 651・ 113- ZB (C04B)
P 1 651・ 121- ZB (C04B)
最終処分 取消  
前審関与審査官 増山 淳子浅野 昭  
特許庁審判長 服部 智
特許庁審判官 後藤 政博
金 公彦
登録日 2018-08-31 
登録番号 特許第6392569号(P6392569)
権利者 デンカ株式会社
発明の名称 中空微小球を含有するセメント混和材およびそれを用いたセメント組成物  
代理人 アクシス国際特許業務法人  

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