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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
管理番号 1366090
異議申立番号 異議2020-700161  
総通号数 250 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-10-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-03-06 
確定日 2020-09-07 
異議申立件数
事件の表示 特許第6575979号発明「芳香族ポリカーボネート樹脂組成物及びその成形品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6575979号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

1.本件特許の設定登録までの経緯
本件特許第6575979号に係る出願(特願2014-141541号、以下「本願」ということがある。)は、平成26年7月9日に出願人出光興産株式会社(以下、「特許権者」ということがある。)によりされた特許出願であり、令和元年8月30日に特許権の設定登録(請求項の数8)がされ、特許掲載公報が令和元年9月18日に発行されたものである。

2.本件異議申立の趣旨
本件特許につき令和2年3月6日に特許異議申立人三木孝文(以下「申立人」という。)により、「特許第6575979号の特許請求の範囲の全請求項に記載された発明についての特許を取消すべきである。」という趣旨の本件特許異議の申立てがされた。
(よって、本件特許異議の申立ては、特許請求の範囲の全請求項に記載された発明についての特許であるから、審理の対象外となる請求項はない。)

第2 本件特許の特許請求の範囲に記載された事項
本件特許の特許請求の範囲には、以下のとおりの請求項1ないし8が記載されている。
「【請求項1】
(A)芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、
(B)ステアリン酸モノグリセリド0.01?0.05質量部及び
(C)リン系酸化防止剤0.001?1質量部を含む
芳香族ポリカーボネート樹脂組成物をシリンダー温度と金型温度との差が120?280℃の条件で射出成形してなる、厚みが5mm以上を有する車両用導光部品。
【請求項2】
(A)芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、
(B)ステアリン酸モノグリセリド0.01?0.06質量部及び
(C)リン系酸化防止剤0.001?1質量部を配合してなる、
芳香族ポリカーボネート樹脂組成物をシリンダー温度と金型温度との差が120?280℃の条件で射出成形してなる、厚みが5mm以上を有する車両用導光部品。
【請求項3】
前記(A)成分の芳香族ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量が10000?40000である、請求項1又は2に記載の車両用導光部品。
【請求項4】
前記(C)成分のリン系酸化防止剤が、下記一般式(I)で表わされる亜リン酸エステルである、請求項1?3のいずれかに記載の車両用導光部品。
【化1】

[式(I)中、R^(1)及びR^(2)は、それぞれ独立にアリール基又はアルキル基を示す。]
【請求項5】
アイスカラー剤の含有量が5ppm以下である、請求項1?4のいずれかに記載の車両用導光部品。
【請求項6】
前記シリンダー温度が260?340℃である、請求項1?5のいずれかに記載の車両用導光部品。
【請求項7】
前記金型温度が80?130℃である、請求項1?6のいずれかに記載の車両用導光部品。
【請求項8】
請求項1?7のいずれかに記載の車両用導光部品が、デイタイムランニングライト用に使用される車両用導光部品。」
(以下、上記請求項1ないし8に記載された事項で特定される発明を項番に従い、「本件発明1」ないし「本件発明8」といい、併せて「本件発明」ということがある。)

第3 申立人が主張する取消理由
申立人は、同人が提出した本件異議申立書(以下、「申立書」という。)において、下記甲第1号証ないし甲第5号証を提示し、申立書における申立人の取消理由に係る主張を当審で整理すると、概略、以下の取消理由が存するとしているものと認められる。

取消理由1:本件の請求項1ないし8に記載された事項で特定される各発明は、いずれも甲第1号証又は甲第3号証ないし甲第5号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、本件の請求項1ないし8に係る発明についての特許は、特許法第29条に違反してされたものであって、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
取消理由2:本件の請求項1ないし8に記載された事項で特定される各発明は、いずれも甲第1号証ないし甲第5号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができるものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件の請求項1ないし8に係る発明についての特許は、特許法第29条に違反してされたものであって、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
取消理由3:本件の請求項1ないし8の記載は、記載不備であり、特許法第36条第6項第1号又は同第2号に適合するものでなく、同法同条同項(柱書)に規定する要件を満たしていないものであるから、本件の請求項1ないし8に係る発明についての特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

・申立人提示の甲号証
甲第1号証:国際公開第2013/183521号
甲第2号証:特開2014-7049号公報
甲第3号証:特開2011-168636号公報
甲第4号証:国際公開第2012/147996号
甲第5号証:特開2013-234233号公報
(以下、「甲1」ないし「甲5」と略していう。)

第4 当審の判断
当審は、
申立人が主張する上記取消理由についてはいずれも理由がなく、ほかに各特許を取り消すべき理由も発見できないから、本件の請求項1ないし8に係る発明についての特許は、いずれも取り消すべきものではなく、維持すべきもの、
と判断する。
以下、まず、取消理由1及び2につき併せて検討し、次に、取消理由3につき検討・詳述する。

I.取消理由1及び2について

1.各甲号証に記載された事項及び記載された発明
取消理由1及び2は、いずれも特許法第29条に係るものであるから、上記各甲号証に係る記載事項の概略及び甲1、甲3、甲4及び甲5に記載された発明を摘示・認定する。

(1)甲1

ア.甲1に記載された事項
上記甲1には、以下の事項が記載されている。
(a1)
「[請求項1] (A)ポリカーボネート樹脂(A成分)および(B)ポリカーボネート-ポリジオルガノシロキサン共重合樹脂(B成分)を含有する樹脂組成物であって、該樹脂組成物は、粘度平均分子量が1.2×10^(4)?1.3×10^(4)の範囲であり、B成分がポリカーボネートポリマーのマトリックス中に平均サイズが0.5?40nmのポリジオルガノシロキサンドメインが存在するポリカーボネート-ポリジオルガノシロキサン共重合樹脂である導光性能を有する樹脂組成物。」
(a2)
「[請求項7] ポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部に対し、(C)下記式〔1〕で表されるリン系安定剤(C成分)0.01?1.0重量部を含有する請求項1?6のいずれかに記載の導光性能を有する樹脂組成物。
[化5]


(式〔1〕中、A^(1)、A^(2)は、それぞれ独立にアリール基またはアルキル基であり、同一であっても異なっていてもよい。)」
(a3)
「[請求項8] 請求項1?7のいずれかに記載の樹脂組成物を成形してなる導光板。」
(a4)
「[0001] 本発明は、導光性能を有する樹脂組成物、並びにそれからなる導光板および面光源体に関する。さらに詳しくは、透明性、導光性にすぐれ、かつ熱安定性、色相にもすぐれた光学レンズ、導光板(導光体)などの光学素子、あるいは、表示パネルや照明用のカバー、ガラス代替用途などに好適に用いることができる導光性能を有する樹脂組成物、並びにそれからなる導光板および面光源体に関する。」
(a5)
「[0007] 本発明の目的は、高度な導光性能と高流動性を併せ持つ樹脂組成物、並びにそれからなる導光板および面光源体を提供することにある。」
(a6)
「発明の効果
[0028] 本発明において得られる特定の粘度平均分子量であるポリカーボネート樹脂組成物は、その成形体においてポリジオルガノシロキサンドメインが特定の凝集構造を形成し、透明性、高流動性、賦形性に優れるとともに、優れた導光性を発揮するため、かかる特性を活かし従来使用できなかった部品に用途展開が可能である。具体例としては、光学部品、電気・電子機器分野、自動車分野において幅広く使用することができる。さらに具体的には、照明用のカバー、ディスプレイ用拡散板や導光板、ガラス代替用途、光ディスクなどの各種光学ディスクおよび関連部材、電池ハウジングなどの各種ハウジング成形品、鏡筒、メモリーカード、スピーカーコーン、ディスクカートリッジ、面発光体、マイクロマシン用機構部品、ヒンジ付き成形品またはヒンジ用成形品、透光・導光型ボタン類、タッチパネル部品などが例示される。」
(a7)
「[0089](その他の添加剤)
本発明の樹脂組成物の難燃性、光拡散性、酸化防止性、光安定性(紫外線安定性)、蛍光増白性、離型性および金型腐食の改良のために、これらの改良に使用されている添加剤が有利に使用される。以下これら添加剤について具体的に説明する。」
(a8)
「[0132](VIII)その他
上記以外にも本発明の樹脂組成物には、成形品に種々の機能の付与や特性改善のために、それ自体知られた添加物を少割合配合することができる。これら添加物は本発明の目的を損なわない限り、通常の配合量である。かかる添加剤としては、強化充填剤、摺動剤(例えばPTFE粒子)、着色剤、蛍光染料、無機系蛍光体(例えばアルミン酸塩を母結晶とする蛍光体)、帯電防止剤、結晶核剤、無機および有機の抗菌剤、光触媒系防汚剤(例えば微粒子酸化チタン、微粒子酸化亜鉛)、離型剤、流動改質剤、ラジカル発生剤、赤外線吸収剤(熱線吸収剤)、並びにフォトクロミック剤などが挙げられる。」
(a9)
「[0135](導光板の製造)
本発明の樹脂組成物からなる導光板を製造するには、任意の方法が採用される。例えば該樹脂組成物を押出機、バンバリーミキサーおよびロール等で混練した後、射出成形、押出成形または圧縮成形等従来公知の方法で成形し、導光板を得ることができる。・・(中略)・・本発明の導光板および面光源体は、携帯電話、携帯端末、カメラ、時計、ノートパソコン、ディスプレイ、照明、信号、自動車のランプ、家電・光学機器の表示部品などに使用される。特には電機製品としてのLEDを光源とする場合のように、周辺機器に難燃性が求められる場合などには、本発明の導光板および面光源体が好適に使用される。
[0136] 本発明においては、前記の高度な導光性能と高流動性を併せ持つ芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を使用し、射出成形法により、薄肉の導光板、特に携帯電話、携帯端末等の導光板を成形することができる。具体的には、導光板の長手方向の長さが50?130mm、導光板の少なくとも80%を占める領域の厚さが0.2?0.4mmである導光板を成形することができる。また、導光板の片面にプリズムの形状、反対の面には円弧状凸または凹型形状が付与することもできる。本発明の導光板は、成形性、製品外観、強度、輝度などに優れる。」
(a10)
「実施例
[0137] 以下に実施例を挙げてさらに説明するが、本発明はそれに限定されるものではない。なお、評価としては以下の項目について実施した。
・・(中略)・・
[0142] 2.樹脂組成物の評価
(1)色相
実施例の各組成から得られたペレットを120℃で5時間、熱風循環式乾燥機にて乾燥し、射出成形機[住友重機械工業(株)SG150U・S-M IV]を用いて、成形温度320℃、金型温度80℃にて幅100mm、長さ100mm、厚みが5.0mmである平滑平面板を成形した。この平滑平面板の色相(YI値)を、Gretag Macbeth社製Color-Eye7000Aを用いて測定した。
[0143] (2)平均輝度
実施例の各組成から得られたペレットを120℃で5時間、熱風乾燥機にて乾燥し、射出成形機[東芝機械(株)IS150EN-5Y]によりシリンダー温度300℃、金型温度80℃で輝度評価用の導光板(100mm×70mm×4mm)(裏面に0.1mm間隔でシボあり)を成形した。上記導光板を裏面が下側になるように設置し、70mm×4mmのエッジから光を入射させ100mm×70mmの面から発光する光の輝度をトプコン社製BM-7を用いて測定した。平均輝度を幅3水準、長さ3水準の合計9箇所の測定値を平均して求めた。なお入射光としては、LEDとしてNS2W150(日亜化学工業(株)製)を18ミリピッチで実装したものを光源として用いた(消費電力 約30W)。
・・(中略)・・
(4)成形性
金型可動側面に、プリズムが付与された短辺65mm/長辺115mm鋼材からなる入れ子を使用し、入れ子対面の金型固定側一面には円弧状凹型を付与させ、厚さ0.25mmの平板状の導光板を成形した。
[0146] プリズムの形状は、プリズム幅(またはピッチ)70μm、高さ(または深さ)10μmの金型によって付与した。円弧状凸型(ドット)形状は半径25μm、深さ10μm、導光板成形品短辺の光源側端面より(長辺方向に)3/8までのドット間隔は180μm、同3/8?5/8までのドット間隔は120μm、同5/8?7/8までのドット間隔は80μm、同7/8?8/8までのドット間隔は60μmとして付与した。
[0147] 射出成形は射出成形機[東芝機械(株)IS150EN-5Y]によりシリンダー温度360℃、金型温度115℃の条件で成形した。
[0148] 上記の所定の成形条件で成形を行った際の金型付着物、賦形性、製品強度については下記表1に示す基準にて評価した。
[0149][表1]


[0150](※1)1,000ショット後の金型表面の目視観察
(※2)100ショット連続性成形時における製品のクラック発生度
[実施例1?17、および比較例1?8]
A?C成分および各種添加剤を表1および表2記載の各配合量で、ブレンダーにて混合した後、ベント式二軸押出機を用いて溶融混練してペレットを得た。使用する各種添加剤は、それぞれ配合量の10?100倍の濃度を目安に予めポリカーボネート樹脂との予備混合物を作成した後、ブレンダーによる全体の混合を行った。ベント式二軸押出機は(株)日本製鋼所製:TEX30α(完全かみ合い、同方向回転、2条ネジスクリュー)を使用した。押出条件は吐出量25kg/h、スクリュー回転数200rpm、ベントの真空度4kPaであり、また押出温度は第一供給口から第二供給口まで265℃、第二供給口からダイス部分まで285℃とした。評価結果を表2および表3に示す。
[0151][表2]

[0152][表3]

[0153] なお、使用した各成分の詳細は以下の通りである。
[0154] (A成分)
A-1:下記製法により得られた分子量12,500のポリカーボネート樹脂パウダー
・・(中略)・・
[0155] A-2:下記製法により得られた粘度平均分子量12,200のポリカーボネート樹脂パウダー
・・(中略)・・
[0156] A-3:下記製法により得られた粘度平均分子量12,800のポリカーボネート樹脂パウダー
・・(中略)・・
[0157] A-4:下記製法により得られた粘度平均分子量13,200のポリカーボネート樹脂パウダー
・・(中略)・・
[0158] A-5:下記製法により得られた粘度平均分子量15,200のポリカーボネート樹脂パウダー
・・(中略)・・
[0159] A-6:下記製法により得られた粘度平均分子量11,700のポリカーボネート樹脂パウダー
・・(中略)・・
(B成分)
・・(中略)・・
(C成分)
C-1:ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト((株)ADEKA製:アデカスタブPEP-36)
C-2:ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト((株)ADEKA製:アデカスタブPEP-24G)
(その他の成分)
D-1:レゾルノールビス[ジ(2,6-ジメチルフェニル)ホスフェート]を主成分とするリン酸エステル(大八化学工業(株)製:PX-200(商品名))
D-2:パーフルオロブタンスルホン酸カリウム塩(大日本インキ化学(株)製:メガファックF-114P(商品名))
E-1:グリセリンモノステアレート(理研ビタミン(株)製:リケマールS-100A(商品名))
F-1:ヒンダードフェノール系酸化防止剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製:Irganox1076(商品名))
G-1:UV吸収剤(ケミプロ化成(株)製:ケミソーブ79(商品名))
H-1:蛍光増白剤(ハッコールケミカル(株)製:ハッコールPSR(商品名))」

イ.甲1に記載された発明

(ア)甲1には、上記甲1の記載(特に[請求項1]、[請求項7]及び[請求項8])からみて、
「(A)ポリカーボネート樹脂(A成分)および(B)ポリカーボネート-ポリジオルガノシロキサン共重合樹脂(B成分)を含有する樹脂組成物であって、ポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部に対し、(C)下記式〔1〕で表されるリン系安定剤(C成分)0.01?1.0重量部を含有する導光性能を有する樹脂組成物を成形してなる導光板。
[化5]

(式〔1〕中、A^(1)、A^(2)は、それぞれ独立にアリール基またはアルキル基であり、同一であっても異なっていてもよい。)」
に係る発明(以下「甲1発明1」という。)が記載されている。

(イ)また、甲1には、上記甲1の記載(特に「比較例1」)からみて、
「分子量12,500のポリカーボネート樹脂パウダー(A-1)100重量部、ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト(C-1)0.1重量部及びグリセリンモノステアレート(E-1)0.04重量部を配合・含有してなるポリカーボネート樹脂組成物を射出成形機を用いて成形温度320℃、金型温度80℃で成形してなる厚みが5.0mmの平滑平面版。」
に係る発明(以下「甲1発明2」という。)が記載されている。

(2)甲2
・甲2に記載された事項
甲2には、「ハウジングと、
前記ハウジングに装着されて灯室を区画形成する透光カバーと、
前記灯室内に配置された第1半導体発光素子と、
前記第1半導体発光素子の前方に配置され、入射した光を前記透光カバーを通じて前方に照射する構成とされた投射レンズと、
前記灯室内に配置され、前記第1半導体発光素子から出射された光の一部を反射し、前記投射レンズの後方に収束させる第1リフレクタと、
前記灯室内に配置された第2半導体発光素子と、
前記灯室内において前記投射レンズの前方を横切るように配置され、前記第2半導体素子から入射された光を所定の方向へ出射する導光部材と、
前記灯室内に配置され、前記第1リフレクタにより反射された光の一部を前記投射レンズに向けて反射する第2リフレクタとを備え、
前記第2リフレクタにより反射されて前記投射レンズに入射した光は、前記導光部材を避けて当該投射レンズより出射される構成とされている、車両用灯具。」(【請求項5】)が記載され、当該投射レンズ及び導光部材につき通常のヘッドライト又はデイタイムランニングライトの間で併用されることが記載されている(【0002】、【0028】)。

(3)甲3

ア.甲3に記載された事項
上記甲3には,以下の事項が記載されている。
(b1)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部に対し、(B)無機系赤外線遮蔽材料(B成分)0.001?0.1重量部、および(C)下記式(1)で表されるベンゾオキサジン骨格を有する紫外線吸収剤(C成分)0.01?1重量部を含むことを特徴とする樹脂組成物。
【化1】


・・(中略)・・
【請求項6】
(D)熱安定剤(D成分)をポリカーボネート樹脂100重量部に対し、0.0001?1重量部含有することを特徴とする請求項1?5のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項7】
熱安定剤(D成分)が、リン系安定剤(D-1成分)、ヒンダードフェノール系安定剤(D-2成分)およびイオウ系安定剤(D-3成分)からなる群より選ばれる少なくとも一種の熱安定剤である請求項6に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1?7のいずれかに記載の樹脂組成物よりなる成形品。
【請求項9】
可視光透過率が40%?90%の範囲であり、かつTts(Solar total transmittance)の値が70%以下である請求項8に記載の成形品。
・・(中略)・・
【請求項11】
成形品が車両用窓部材、車両用灯具もしくは建築材用窓部材である請求項8?10のいずれかに記載の成形品。」
(b2)
「【技術分野】
【0001】
本発明は赤外線遮蔽性能をもつ無機材料を含むポリカーボネート樹脂組成物ならびに該ポリカーボネート樹脂組成物から成る自動車用等の車両用窓部材、車両灯具、建築用窓部材、赤外線遮蔽フィルター等の成形品に関する。」
(b3)
「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明の目的は、可視項領域における高い光透過性能をもち、赤外線遮蔽性、成形耐熱性に優れ、環境負荷低減に貢献可能なだけでなく、調色処理により様々な色味を呈することが可能な高い意匠性をもつポリカーボネート樹脂組成物とその成形品を提供することにある。」
(b4)
「【0021】
ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、好ましくは14,000?100,000であり、20,000?30,000がより好ましく、22,000?28,000が更に好ましく、23,000?26,000が最も好ましい。上記範囲を超えて分子量が低すぎる場合には、衝撃値等機械物性が不十分となり、割れが生じやすくなる。また、上記範囲を超えて分子量が高い場合には、射出成形が困難になり、残留応力等から割れ不良が生じやすくなる。更により好ましい範囲においては耐衝撃性と成形加工性との両立に優れる。尚、上記ポリカーボネート樹脂は、その粘度平均分子量が上記範囲外のものを混合して得られたものであってもよい。
・・(中略)・・
【0023】
本発明におけるポリカーボネート樹脂の態様として以下のものを挙げることができる。すなわち、粘度平均分子量70,000?300,000の芳香族ポリカーボネート(PC-i)、および粘度平均分子量10,000?30,000の芳香族ポリカーボネート(PC-ii)からなり、その粘度平均分子量が15,000?40,000、好適には20,000?30,000である芳香族ポリカーボネート(以下、“高分子量成分含有芳香族ポリカーボネート”と称することがある)も使用できる。」
(b5)
「【0042】
(D成分:熱安定剤)
本発明でD成分として使用される熱安定剤としてはリン系安定剤(D-1成分)、ヒンダードフェノール系安定剤(D-2成分)、イオウ系安定剤(D-3成分)が挙げられる。
【0043】
(D-1成分:リン系安定剤)
リン系安定剤は、芳香族ポリカーボネートの熱安定剤として既に広く知られている。リン系安定剤は、樹脂組成物が極めて過酷な熱負荷に耐え得る程度まで、その熱安定性を高める。リン系安定剤としては主にホスファイト化合物とホスホナイトが上げられる。
【0044】
ここで、ホスファイト化合物としては例えば、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、トリス(ジエチルフェニル)ホスファイト、トリス(ジ-iso-プロピルフェニル)ホスファイト、トリス(ジ-n-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-エチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、フェニルビスフェノールAペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジシクロヘキシルペンタエリスリトールジホスファイトなどが例示される。」
(b6)
「【0055】
(成形品)
上記の如く得られた本発明のポリカーボネート樹脂組成物は通常上記の如く製造されたペレットを射出成形して各種製品を製造することができる。かかる射出成形においては、通常の成形方法だけでなく、適宜目的に応じて、射出圧縮成形、射出プレス成形、ガスアシスト射出成形、発泡成形(超臨界流体の注入によるものを含む)、インサート成形、インモールドコーティング成形、断熱金型成形、急速加熱冷却金型成形、二色成形、サンドイッチ成形、および超高速射出成形などの射出成形法を用いて成形品を得ることができる。これら各種成形法の利点は既に広く知られるところである。また成形はコールドランナー方式およびホットランナー方式のいずれも選択することができる。」
(b7)
「【実施例】
【0061】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。尚、本発明はこれら実施例などにより何ら制限されるものではない。また、以下“部”は特に断りのない限り“重量部”を、%は“重量%”を示す。
【0062】
(実施例1?7および比較例1?6)
以下に実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明する。
(1)樹脂組成物の作成
(1-1)使用原料
(A成分)
PC:下記製法により得られた分子量24,200のポリカーボネート樹脂パウダー
・・(中略)・・
【0064】
(C成分)
C-1:ベンゾオキサジン系紫外線吸収剤(錦海化学株式会社性:UV-BO)
C-2:ベンゾオキサジン系紫外線吸収剤(EUTEC CHEMICAL株式会社製:UV-3638)
C-3:ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(チバ・スペシャリティケミカルズ社製:Tinuvin234)
C-4: トリアジン系紫外線吸収剤CGX?006(チバ・スペシャリティケミカルズ社製:Tinuvin1577)
【0065】
(D成分)
D-1:リン系安定剤(クラリアントジャパン(株)製P-EPQ)
D-2:ヒンダードフェノール系安定剤(チバ・スペシャリティケミカルズ社製:Irganox1076)
D-3:イオウ系安定剤(旭電化工業(株)製AO412S)
【0066】
(その他)
VP:脂肪酸フルエステル(コグニスジャパン(株)製:VPG861)
SA:脂肪酸部分エステル(理研ビタミン(株)製:リケマールS-100A)
【0067】
(2)試験試料作成
・・(中略)・・
【0068】
(2-2)成形品作成方法
得られたペレットを110?120℃で6時間熱風循環式乾燥機にて乾燥した後、射出成形機[住友重機械工業(株)製SG260M-HP]により、シリンダー温度300℃、金型温度80℃の条件で評価用の試験片である厚さ5mmの板を成形した。
【0069】
(3)評価項目
(3-1)可視光透過率(Tv)
成形板から50mm角の試験片を切り出した。その分光光線を(株)日立ハイテクノロジーズ製分光光線測定器U-4100を用いJIS R 3106に準拠して算出した。結果を表1および表2に示す。
【0070】
(3-2)Solar total transmittance(Tts)
成形板から50mm角の試験片を切り出した。その分光光線を(株)日立ハイテクノロジーズ製分光光線測定器U-4100を用いISO13837に準拠して算出した。結果を表1および表2に示す。
【0071】
(3-3)初期色相(YI値)
成形板から50mm角の試験片を切り出した。かかる試験片のYI値(Yellow Index)を(有)東京電色製TC?1800MKIIを用いJIS K 7105記載の方法で測定した。
【0072】(3-4)耐候試験前後の色相変化
成形板から50mm角の試験片を切り出した。かかる試験片のYI値(Yellow Index)を(有)東京電色製TC?1800MKIIを用いJIS K 7105記載の方法で測定した。次に、かかる試験片をキセノンテスト(UV照射強度90W/m^(2)、ブラックパネル温度63℃)にて1,000時間の紫外線曝露処理を行い、その後YI値を同様の方法で測定し、処理前後で変化した量(ΔYI)を求めた。結果を表1および表2に示す。
【0073】
(3-5)成形安定性
2-1で得られたペレットを110?120℃で6時間熱風循環式乾燥機にて乾燥した後、射出成形機[住友重機械工業(株)製SG260M-HP]でシリンダー温度300℃、金型温度80℃の条件で150mm×150mm×厚さ5mmの成形品を成形した。20個の成形品を取り出した後、成型機のノズルを金型から離し30分間滞留させ熱履歴をかけた。その後上記と同条件で成形品を成形し、取り出した後外観を確認した。目視により明らかなシルバー外観不良の発生がないものを○、明らかなシルバー外観不良が発生するものを×と表記し結果を表1および表2に示す。
【0074】
【表1】

【0075】
【表2】

【0076】
上記から明らかなように、本発明によればベンゾオキサジン骨格を有する紫外線吸収剤を使用することにより、初期色相の黄色度が小さく、様々な色に調色可能な成形品を得られることが分かる。またポリカーボネートに複合タングステン酸化物微粒子と特定の紫外線吸収剤を添加することによって、可視光の透過率と赤外線遮蔽性能を合わせもち、曇り度の低い環境特性に優れた樹脂組成物およびそれからなる成形品が得られることが分かる。」
(b8)
「【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、車両用窓部材、特にバックドアウインドウ、サンルーフ、およびルーフパネルに好適なポリカーボネート樹脂成形体を提供するが、本発明の成形体は、その特有の特徴から車両用窓部材以外にも、建築材用窓部材、車両用灯具、ビル、家屋、および温室などの窓ガラス、ガレージおよびアーケードなどの屋根、照灯用レンズ、信号機レンズ、光学機器のレンズ、ミラー、眼鏡、ゴーグル、消音壁、バイクの風防、銘板、太陽電池カバーまたは太陽電池基材、ディスプレー装置用カバー、タッチパネル、並びに遊技機(パチンコ機など)用部品(回路カバー、シャーシ、パチンコ玉搬送ガイドなど)などの幅広い用途に使用可能である。したがって本発明のポリカーボネート樹脂成形体は、各種電子・電気機器、OA機器、車両部品、機械部品、その他農業資材、漁業資材、搬送容器、包装容器、遊戯具および雑貨などの各種用途に有用であり、その奏する産業上の効果は格別である。」

イ.甲3に記載された発明

(ア)上記甲3には、甲3の記載(特に【請求項1】、【請求項6】ないし【請求項11】)からみて、
「(A)ポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部に対し、(B)無機系赤外線遮蔽材料(B成分)0.001?0.1重量部、(C)式(1)で表されるベンゾオキサジン骨格を有する紫外線吸収剤(C成分)0.01?1重量部及び(D)リン系安定剤(D-1成分)、ヒンダードフェノール系安定剤(D-2成分)およびイオウ系安定剤(D-3成分)からなる群より選ばれる少なくとも一種の熱安定剤(D成分)をポリカーボネート樹脂100重量部に対し、0.0001?1重量部含有することを特徴とする樹脂組成物よりなる車両用窓部材もしくは車両用灯具である成形品。」
に係る発明(以下「甲3発明1」という。)が記載されている。

(イ)また、上記甲3には、甲3の記載(特に【0062】?【0076】の「比較例1」)からみて、
「(A)ポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部に対し、(B)無機系赤外線遮蔽材料(B成分)0.07重量部、リン系安定剤(D-1成分)0.03重量部、ヒンダードフェノール系安定剤(D-2成分)0.05重量部、脂肪酸フルエステル0.1重量部及び「リケマールS-100A」なる脂肪酸部分エステル0.02重量部を含有する樹脂組成物をシリンダー温度300℃、金型温度80℃で射出成形してなる厚さ5mmの板状成形品。」
に係る発明(以下「甲3発明2」という。)が記載されている。

(4)甲4

ア.甲4に記載された事項
上記甲4には、以下の事項が記載されている。
(c1)
「請求の範囲
1. 100重量部のポリカーボネート樹脂(A成分)および0.001?0.1重量部の金属塩系化合物(B成分)を含有し、光拡散剤を含有しない樹脂組成物より形成された導光体。
2. 樹脂組成物は、A成分100重量部に対し、0.001?0.1重量部のトリアルキルホスフェート(C成分)および0.001?1.0重量部のトリアルキルホスフェート以外の熱安定剤(D成分)を含有する請求項1に記載の導光体。
・・(中略)・・
4. D成分が、下記式(4)で表される化合物である請求項2に記載の導光体。

[式中、R^(1)、R^(2)は水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルキル基置換シクロアルキル基、アリール基、アルキル基置換アリール基またはアリール基置換アリール基であって、同一でも異なっていてもよい]
・・(後略)」(第53頁?第58頁)
(c2)
「技術分野
本発明は、導光体用ポリカーボネート樹脂組成物、それからなる導光体および面光源体に関する。さらに詳しくは、導光性に優れかつ難燃性にも優れ、光学レンズ、導光体に好適に用いることができる導光体用ポリカーボネート樹脂組成物、それからなる導光体および面光源体に関する。」(第1頁第8行?第12行)
(c3)
「<導光体>
本発明の導光体とは、板状の形態のいわゆる導光板や棒状の形態のものを含む。いずれも成形体中に光を導く光学製品のことをいう。本発明の導光体は、レンズ、レンズカバーのように成形体の面に垂直に光を通過させるものにも用いることはできるが、むしろ成形体の面方向に沿って光を導く液晶表示装置に用いられる導光板のような表示光学製品に用いることが好ましい。
<光拡散剤>
本発明の樹脂組成物は、光拡散剤を含有しないことを特徴とする。ここで、光拡散剤とは、ポリカーボネート樹脂(A成分)との屈折率の差が0.001以上、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.05以上、更により好ましくは0.08以上である微粒子のことを言う。」(第6頁第6行?第16行)
(c4)
「ポリカーボネート樹脂(A成分)の粘度平均分子量は、13,000?50,000の範囲が好ましく、16,000?30,000がより好ましく、18,000?28,000の範囲がさらにより好ましく、19,000?26,000の範囲が最も好ましい。分子量が50,000を越えると溶融粘度が高くなりすぎて成形性に劣る場合があり、分子量が13,000未満であると機械的強度に問題が生じるだけでなく、難燃性が発揮しにくくなる場合がある。」(第16頁第3行?第8行)
(c5)
「本発明の導光体用樹脂組成物には、必要に応じて離型剤を配合することができる。かかる離型剤としてはそれ自体公知のものが使用できる。例えば、飽和脂肪酸エステル、不飽和脂肪酸エステル、ポリオレフィン系ワックス(ポリエチレンワックスまたは1?アルケン重合体が挙げられる。これらは酸変性等の官能基含有化合物で変性されているものも使用できる)、シリコーン化合物、フッ素化合物、パラフィンワックス、蜜蝋等を挙げることができる。これらの中でも飽和脂肪酸エステル類、直鎖状または環状のポリジメチルシロキサンオイルやポリメチルフェニルシリコーンオイル等、およびフッ素オイルを挙げることができる。好ましい離型剤としては飽和脂肪酸エステルが挙げられ、例えばステアリン酸モノグリセライド等のモノグリセライド類、デカグリセリンデカステアレートおよびデカグリセリンテトラステアレート等のポリグリセリン脂肪酸エステル類、ステアリン酸ステアレート等の低級脂肪酸エステル類、セバシン酸ベヘネート等の高級脂肪酸エステル類、ペンタエリスリトールテトラステアレート等のエリスリトールエステル類が使用される。かかる離型剤の含有量はA成分100重量部に対して0.01?0.3重量部が好ましい。」(第37頁第22行?第38頁第8行)
(c6)
「<導光体>
・・(中略)・・
本発明の導光体は、前記導光体用樹脂組成物から形成される。本発明の導光体を製造するには、任意の方法が採用される。例えば前記導光体用該樹脂組成物を押出機、バンバリーミキサーおよびロール等で混練した後、射出成形、押出成形または圧縮成形等従来公知の方法で成形し、導光体を得ることができる。導光体の形状は板状、円柱状、球状など使用する用途によっていかようの形状であっても良い。また表面をプリズム状に加工しても良い。
<面光源体>
本発明の面光源体は、本発明の導光体(導光板)、反射板および光源を含む。反射板は、該導光体の片面に設置する。反射板は、導光体を成形する際に、片面を、プリズム状に加工しても良い。また導光体を成形した後、反射板を積層しても良い。
光源は、導光体の少なくとも一方の側面に設ける。光源としては、蛍光ランプの他、冷陰極管、LED、レーザーダイオード、有機EL等の自己発光体を使用できる。
本発明の導光体および面光源体は、携帯電話、携帯端末、カメラ、時計、ノートパソコン、ディスプレイ、照明、信号、自動車のランプ、家電・光学機器の表示部品等に使用される。特には電機製品としてのLEDを光源とする場合のように、周辺機器に難燃性が求められる場合等には、本発明の導光体および面光源体が好適に使用される。」(第42頁第8行?第43頁第4行)
(c7)
「実施例
以下に実施例を挙げてさらに説明するが、本発明はそれに限定されるものではない。
尚、評価としては以下の項目について実施した。
(i)輝度
実施例の各組成から得られたペレットを120℃で6時間、熱風乾燥機にて乾燥し、射出成形機[住友重機械工業(株)SG150U・S?M IV]により、シリンダー温度320℃、金型温度80℃で縦150mm×横150mm、厚さ5.0mm、Raが0.03μmのプレートを成形し、導光板とした。この導光板の一辺(照射辺)の端面側に光源(冷陰極管)を配置し、照射辺と対面にある端面の輝度をトプコン社製BM?7にて測定した。この際、導光板の両面を黒色の光吸収板で挟み、また照射辺からの漏れ光がないようにした。光源の輝度は4850cd/m^(2)であった。
(ii)Haze
得られた導光板のHazeをJIS K7105に準じて測定した。ヘーズが2%以下のものを○、2%より大きく20%未満のものを△、20%以上のものを×とした。
(iii)難燃性
実施例の各組成から得られたペレットを120℃で6時間、熱風循環式乾燥機にて乾燥し、射出成形機[東芝機械(株)IS150EN?5Y]によりシリンダー温度320℃、金型温度80℃で難燃性評価用の試験片を成形した。UL規格94の垂直燃焼試験を、厚み2.0mmで行いその等級を評価した。なお、判定がV?0、V?1、V?2のいずれの基準も満たすことが出来なかった場合「notV」と示すこととする。
実施例1?20、比較例1?3
[樹脂組成物の調製]
表1記載の配合割合からなる樹脂組成物を以下の要領で作成した。尚、説明は以下の表中の記号にしたがって説明する。表1の割合の各成分を計量して、タンブラーを用いて均一に混合し、かかる混合物を押出機に投入して樹脂組成物の作成を行った。押出機としては径30mmφのベント式二軸押出機((株)神戸製鋼所KTX?30)を使用した。スクリュー構成はベント位置以前に第1段のニーディングゾーン(送りのニーディングディスク×2、送りのローター×1、戻しのローター×1および戻しニーディングディスク×1から構成される)を、ベント位置以後に第2段のニーディングゾーン(送りのローター×1、および戻しのローター×1から構成される)を設けてあった。シリンダー温度およびダイス温度が290℃、およびベント吸引度が3000Paの条件でストランドを押出し、水浴において冷却した後ペレタイザーでストランドカットを行い、ペレット化した。
なお、表1及び表2に記載の使用した原料等は以下の通りである。
(A成分)
A-1:分岐構造を有する芳香族ポリカーボネート樹脂(分岐率0.97mol%、分子量25,100、構造粘性指数(N)2.03)
・・(中略)・・
A-2:分岐構造を有する芳香族ポリカーボネート樹脂(分岐率0.95mol%、分子量20,300、構造粘性指数(N)1.72)
・・(中略)・・
A-3:分岐構造を有する芳香族ポリカーボネート樹脂(分岐率0.98mol%、分子量16,200、構造粘性指数(N)1.50)
・・(中略)・・
A-4:直鎖状ポリカーボネート樹脂(ホスゲン法で作成されたビスフェノールAおよび末端停止剤としてp?tert?ブチルフェノールからなるポリカーボネート樹脂。かかるポリカーボネート樹脂はアミン系触媒を使用せず製造され、芳香族ポリカーボネート樹脂末端中、末端水酸基の割合は10mol%であり、粘度平均分子量は25,500、構造粘性指数(N)1.48であった。)
A-5:直鎖状ポリカーボネート樹脂(ホスゲン法で作成されたビスフェノールAおよび末端停止剤としてp?tert?ブチルフェノールからなるポリカーボネート樹脂。かかるポリカーボネート樹脂はアミン系触媒を使用せず製造され、芳香族ポリカーボネート樹脂末端中、末端水酸基の割合は10mol%であり、粘度平均分子量は19,700、構造粘性指数(N)1.27であった。)
(B成分)
B-1:パーフルオロブタンスルホン酸カリウム塩(大日本インキ(株)製メガファックF-114P)
B?2:パーフルオロブタンスルホン酸ナトリウム塩(大日本インキ(株)製メガファックF-114S)
B?3:ジフェニルスルホンスルホン酸カリウム塩(ユーシービージャパン製KSS)
(C成分)
C-1:トリメチルホスフェート(大八化学工業(株)製TMP)
(D成分)
D-1:リン系熱安定剤(クラリアントジャパン(株)製ホスタノックスP?EPQ、主成分テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト)
D-2:リン系熱安定剤(チバ・スペシャルティー・ケミカルズ社製Irgafos168、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト))
D-3:リン系熱安定剤(旭電化工業(株)製アデカスタブPEP-36、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト)
D-4:リン系熱安定剤(旭電化工業(株)製アデカスタブPEP-8、ジオクタデシルペンタエリスリトールジホスファイト)
(その他成分)
SIH:Si-H基および芳香族基を含有するシリコーン化合物
・・(中略)・・
IRG:ヒンダードフェノール系酸化防止剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製Irganox1076)
G250:エポキシ基を有する化合物(日油(株)製:マープルーフG-0250S)
SL:グリセリントリステアレートを主成分とする脂肪酸エステル(理研ビタミン(株)製SL-900)
LD:ビーズ状架橋シリコーン(モメンティブパフォーマンスマテリアルズジャパン合同会社(株)製:TSR9002)

実施例21
実施例1に記載の樹脂組成物を120℃で6時間、熱風乾燥機にて乾燥し、射出成形機[住友重機械工業(株)SG150U・S?M IV]により、シリンダー温度320℃、金型温度80℃で縦150mm×横150mm、厚さ2.0mm(片面に凹凸パターンが印刷されている)のプレートを成形し、導光板とした。
該導光板、芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部および酸化チタン10重量部よりなる樹脂組成物製の白色板である反射板(厚さ1.0mm)、および冷陰極管である光源(輝度3,300cd/m^(2))を使用し、図1の面光源体を作成した。該面光源体は、光源から20mmの位置における輝度(L1)と130mmの位置における輝度(L2)の比(L2/L1)が0.93であり、輝度が低下することがなく均一な面発光性を示した。

実施例22
実施例1に記載の樹脂組成物を120℃で6時間、熱風乾燥機にて乾燥し、射出成形機[住友重機械工業(株)SG150U・S?M IV]により、シリンダー温度320℃、金型温度80℃で直径10mm、長さ200mmの円柱形状の成形品を成形し、導光体とした。
該導光体、芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部および酸化チタン10重量部よりなる樹脂組成物製の白色板である反射層(最厚み部分が1.5mm)、およびLED光源(輝度4,850cd/m^(2))を使用し、図2の面光源体を作成した。該面光源体は、光源から20mmの位置における輝度(L1)と180mmの位置における輝度(L2)の比(L2/L1)が0.9であり、輝度が低下することがなく均一な面発光性を示した。」(第43頁第21行?第52頁第13行)

イ.甲4に記載された発明

(ア)甲4には、上記甲4の記載(特に摘示(c1)の下線部)からみて、
「100重量部のポリカーボネート樹脂(A成分)、0.001?0.1重量部の金属塩系化合物(B成分)0.001?0.1重量部のトリアルキルホスフェート(C成分)および0.001?1.0重量部のトリアルキルホスフェート以外の下記式(4)で表される化合物である熱安定剤(D成分)を含有し、光拡散剤を含有しない樹脂組成物より形成された導光体。

[式中、R^(1)、R^(2)は水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルキル基置換シクロアルキル基、アリール基、アルキル基置換アリール基またはアリール基置換アリール基であって、同一でも異なっていてもよい]」
に係る発明(以下「甲4発明1」という。)が記載されている。

(イ)また、甲4には、上記甲4の記載(特に摘示(c7)の下線部及び「実施例13」ないし「実施例15」に係る記載)からみて、
「分岐構造を有する芳香族ポリカーボネート樹脂(分岐率0.95mol%、分子量20,300、構造粘性指数(N)1.72)(A-2)100重量部、
パーフルオロブタンスルホン酸カリウム塩(B-1)0.05重量部、
トリメチルホスフェート(C-1)0.005重量部、0.02重量部又は0.08重量部、
リン系熱安定剤(主成分テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト)(D-1)0.08重量部又は0.8重量部、並びに
グリセリントリステアレートを主成分とする脂肪酸エステル(SL)0.0075重量部
を含有する樹脂組成物を、シリンダー温度320℃、金型温度80℃で射出成形してなる、縦150mm×横150mm、厚さ5.0mmの導光板。」
に係る発明(以下「甲4発明2」という。)が記載されている。

(5)甲5

ア.甲5に記載された事項
上記甲5には、以下の事項が記載されている。
(d1)
「【請求項1】
粘度平均分子量10,000?22,000の芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、
リン系安定剤(B)が0.05?0.3質量部の割合で配合され、
脂肪酸エステル(C)が0.03?0.3質量部の割合で配合され、
前記リン系安定剤(B)が、2種類のホスファイト系安定剤を含み、前記2種類のホスファイト系安定剤のうちの一方のみが、スピロ環骨格を有するホスファイト系安定剤であり、
前記2種類のホスファイト系安定剤のうち、前記スピロ環骨格を有する一方のホスファイト系安定剤の配合割合が、他方のホスファイト系安定剤の配合割合よりも少ない、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項2】
前記芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量が12,000?18,000である、請求項1に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
前記2種類のホスファイト系安定剤の合計に占める、前記スピロ環骨格を有するホスファイト系安定剤の配合率が5?25質量%である、請求項1又は2に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】
前記脂肪酸エステル(C)が脂肪酸モノグリセリドである、請求項1?3のいずれか一項に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項5】
少なくとも1つの光源と、
前記光源から入射される光を導光すると共に外側に出射させる導光部材と、
を備える照明装置であって、
前記導光部材が請求項1?4のいずれか一項に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる照明装置。」
(d2)
「【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物および照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、欧州及び北米等においては、自動車のヘッドランプおよびリアランプに常時点灯するデイライトを設置することにより、昼間の歩行者や対向車からの視認性を高める、自動車のデイライト化が進んでいる。上記のデイライトは一般に、導光部材と、導光部材に光を入射させる光源とを備えている。ここで、自動車は、デイライトの近傍に夜間用の通常の光源としてハロゲンランプ等の白熱灯を備えるため、上記導光部材は、デイライトの光源から発生する熱に加え、白熱灯から発生する熱によっても加熱される。したがって、導光部材には優れた耐熱性が求められる。このような導光部材の構成材料として、例えば下記特許文献1に、芳香族ポリカーボネート樹脂にリン系安定剤および脂肪酸エステルを配合させた芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が開示されている。
・・(中略)・・
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献1に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、自動車用照明装置に用いられる導光部材において、成形の過程における熱劣化により僅かながら黄色味を帯びることがある。また導光部材が黄色味を帯びなくても、導光部材は、ヘッドランプ等からの熱に長時間さらされると、劣化して黄変するおそれがある。従って、上記特許文献1に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、導光部材の色相及び黄変抑制の点で改善の余地を有していた。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、優れた色相を有し且つ黄変を十分に抑制できる導光部材を形成することが可能な芳香族ポリカーボネート樹脂組成物および照明装置を提供することを目的とする。」
(d3)
「【0030】
導光部材31は、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を成形してなり、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、粘度平均分子量10,000?22,000の芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、リン系安定剤(B)が0.05?0.3質量部の割合で含まれ、脂肪酸エステル(C)が0.03?0.3質量部の割合で含まれている。ここで、リン系安定剤(B)は、2種類のホスファイト系安定剤を含んでおり、2種類のホスファイト系安定剤のうち一方のみが、スピロ環骨格を有する第1ホスファイト系安定剤(以下、「第1ホスファイト系安定剤」と呼ぶ)であり、第1ホスファイト系安定剤の配合量は、2種類のホスファイト系安定剤のうち他方のホスファイト系安定剤(以下、「第2ホスファイト系安定剤」と呼ぶ)の配合量よりも少ない。」
(d4)
「【0058】
(B)リン系安定剤
リン系安定剤(B)は、2種類のホスファイト系安定剤を含み、そのうちの一方のみが、スピロ環骨格を有する第1ホスファイト系安定剤となっている。
【0059】
第1ホスファイト系安定剤は、下記一般式(1)で表される。
【化1】

上記一般式(1)中、R^(1)及びR^(2)はそれぞれ独立に、炭素原子数1?30のアルキル基または炭素原子数6?30のアリール基を表し、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0060】
上記一般式(1)中、炭素原子数1?30のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、n-プロピル基、n-ブチル基、tert-ブチル基、ヘキシル基、オクチル基などが挙げられる。炭素原子数6?30のアリール基としては、フェニル基およびナフチル基などが挙げられる。
【0061】
上記スピロ環骨格を有する第1ホスファイト系安定剤の具体例としては、例えばジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、フェニルビスフェノールAペンタエリスリトールジホスファイト、ジシクロヘキシルペンタエリスリトールジホスファイト等が挙げられる。この中ではジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトが特に好ましく用いられる。
【0062】
第2ホスファイト系安定剤は、スピロ環骨格を有さないホスファイト系安定剤であればよい。
【0063】
上記スピロ環骨格を有さない第2ホスファイト系安定剤の具体例としては、例えばトリス(ジエチルフェニル)ホスファイト、トリス(ジ-iso-プロピルフェニル)ホスファイト、トリス(ジ-n-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト等のトリアリールフォスファイト、2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)(2-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ホスファイト、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェニル)(2-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ホスファイト、2,2’-エチリデンビス (4-メチル-6-tert-ブチルフェニル)(2-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ホスファイト等の二価フェノール類を含み環状構造を有するトリアリールフォスファイト等が挙げられる。
【0064】
上記スピロ環骨格を有さない第2ホスファイト系安定剤の中でも、下記一般式(2)で表されるホスファイト系安定剤が好ましい。
【化2】

【0065】
上記一般式(2)中、R^(3)?R^(7)は、水素原子、炭素原子数6?20のアリール基または炭素原子数1?20のアルキル基を表し、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0066】
上記の一般式(2)中、R^(3)?R^(7)で表されるアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、n-プロピル基、n-ブチル基、tert-ブチル基、ヘキシル基およびオクチル基などが挙げられる。R3?R7で表されるアルキル基としては、例えばフェニル基およびナフチル基が挙げられる。
【0067】
上記リン系安定剤(B)の配合割合は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、0.05?0.3質量部である。リン系安定剤(B)の配合割合が0.05質量部未満である場合、導光部材31は、優れた色相を有さず、黄変を十分に抑制することもできない。一方、リン系安定剤(B)の配合割合が0.3質量部を超える場合、導光部材31は、黄変を十分に抑制することができない。またリン系安定剤(B)の配合割合が0.3質量部を超える場合、成形時のガスが多くなったり、モールドデポジットによる転写不良が起こったりするため、導光部材31の透過率が低下する。上記リン系安定剤(B)の配合割合は好ましくは0.07?0.2質量部であり、さらに好ましくは0.1?0.12質量部である。
【0068】
リン系安定剤(B)100質量%における第1ホスファイト系安定剤及び第2ホスファイト系安定剤の合計の含有率は、50?100質量%であることが好ましく、80?100質量%であることがより好ましく、100質量%であることが特に好ましい。」
(d5)
「【0074】
(C)脂肪酸エステル
脂肪酸エステル(C)は脂肪族カルボン酸とアルコールとの縮合化合物である。脂肪族カルボン酸としては、飽和または不飽和の、脂肪族モノカルボン酸、ジカルボン酸およびトリカルボン酸が挙げられる。ここで、脂肪族カルボン酸は、脂環式カルボン酸も包含する。脂肪族カルボン酸としては、炭素数6?36のモノカルボン酸又はジカルボン酸が好ましく、炭素数6?36の脂肪族飽和モノカルボン酸がさらに好ましい。このような脂肪族カルボン酸の具体例としては、パルミチン酸、ステアリン酸、吉草酸、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、テトラトリアコンタン酸、モンタン酸、グルタル酸、アジピン酸およびアゼライン酸などが挙げられる。
【0075】
一方、上記アルコールとしては、飽和または不飽和の、一価アルコール及び多価アルコールが挙げられる。これらのアルコールは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、アリール基などの置換基を有していてもよい。これらのアルコールの中でも、炭素数30以下の一価または多価の飽和アルコールが好ましく、炭素数30以下の脂肪族飽和一価アルコール又は多価アルコールがさらに好ましい。ここで、脂肪族アルコールは、脂環式アルコールも包含する。
【0076】
上記アルコールとしては、例えばオクタノール、デカノール、ドデカノール、テトラデカノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、2,2-ジヒドロキシペルフルオロプロパノール、ネオペンチレングリコール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0077】
上記脂肪酸エステル(C)としては、例えば蜜ロウ(ミリスチルパルミテートを主成分とする混合物)、硬化油、ブチルステアレート、ベヘン酸ベヘニル、ベヘン酸オクチルドデシル、ステアリルステアレート、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンモノオレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート等が挙げられる。
【0078】
中でも、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート等の脂肪酸モノグリセリドを用いることが好ましい。この場合、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を製造する際、押出機内のバレル及びスクリュー表面と樹脂との摩擦を低下させ、加工時のポリカーボネート樹脂の温度上昇を防ぐことができるため、導光部材31は色相に特に優れるとともに黄変をより十分に抑制することができる。
【0079】
上記脂肪族カルボン酸エステルは、1種類を単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。
【0080】
上記脂肪酸エステル(C)の配合割合は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、0.03?0.3質量部である。脂肪酸エステル(C)の配合割合が0.03質量部未満である場合、導光部材31は、優れた色相を有さないか、黄変を十分に抑制することができない。また脂肪酸エステル(C)の配合割合が0.03質量部未満である場合、導光部材31は、優れた色相を有さず、且つ黄変を十分に抑制することができない場合もある。一方、脂肪酸エステル(C)の配合割合が0.3質量部を超える場合は、導光部材31は、優れた色相を有さない。上記脂肪酸エステル(C)の配合割合は好ましくは0.06?0.3質量部であり、さらに好ましくは0.1?0.3質量部である。」
(d6)
「【0082】
導光部材31は、上記の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を成形して得られる。成形方法としては、例えば、射出成形法、圧縮成形法および射出圧縮成形法などが挙げられるが、好ましくは射出成形法である。」
(d7)
「【実施例】
【0088】
以下、本発明の内容を、実施例を挙げてさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0089】
実施例および比較例において用いた材料は次のとおりである。
【0090】
(A)芳香族ポリカーボネート樹脂
(A-1)界面重合法で製造されたビスフェノールA型芳香族ポリカーボネート樹脂
三菱エンジニアリングプラスチックス社製 ユーピロン(登録商標)E-2000
粘度平均分子量25,000
(A-2)界面重合法で製造されたビスフェノールA型芳香族ポリカーボネート樹脂
三菱エンジニアリングプラスチックス社製 ユーピロン(登録商標)S-3000
粘度平均分子量22,000
(A-3)界面重合法で製造されたビスフェノールA型芳香族ポリカーボネート樹脂
三菱エンジニアリングプラスチックス社製 ユーピロン(登録商標)H-4000
粘度平均分子量16,000
(A-4)界面重合法で製造されたビスフェノールA型芳香族ポリカーボネート樹脂
三菱エンジニアリングプラスチックス社製 ユーピロン(登録商標)H-7000
粘度平均分子量14,000
(A-5)界面重合法で製造されたビスフェノールA型芳香族ポリカーボネート樹脂
三菱エンジニアリングプラスチックス社製
粘度平均分子量10,000
【0091】
(B)リン系安定剤
(B-1)ADEKA社製、商品名「アデカスタブAS2112」(トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、第2ホスファイト系安定剤)
(B-2)ADEKA社製、商品名「アデカスタブPEP-36」(ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、第1ホスファイト系安定剤)
(B-3)ADEKA社製、商品名「アデカスタブPEP-24G」(ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、第1ホスファイト系安定剤)
【0092】
(C)脂肪酸エステル
(C-1)理研ビタミン(株)製、商品名「リケマールS-100A」(ステアリン酸モノグリセライド)
(C-2)日油(株)製、商品名「ユニスターH476DP」(ペンタエリスリトールジステアレート)
(C-3)コグニス・オレオケミカルズジャパン(株)製、商品名「ロキシオールVPG 861」(ペンタエリスリトールテトラステアレート)
(C-4)日油(株)製、商品名「ユニスターM9676」(ステアリルステアレート)
【0093】
(D)離型剤
(D-1)東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)、商品名「SH-556」(メチルフェニルポリシロキサン)
【0094】
(実施例1?14及び比較例1?14)
<芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造>
表1?4に示す割合となるように上記(A)?(D)成分を配合し、タンブラーミキサーで均一に混合し、混合物を得た。その後、この混合物を、フルフライトスクリューとベントとを備えた単軸押出機(製品名:VS-40、いすず化工機社製)に供給し、スクリュー回転数70rpm、吐出量10kg/時間、バレル温度250℃の条件で混練し、押出ノズル先端から、ストランド状に押出した。そして、押出物を水槽にて急冷し、ペレタイザーを用いてカットしてペレット化し、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を得た。なお、表1?4において、各成分の配合割合の単位は質量部である。
【0095】
<特性評価>
上記のようにして得られた芳香族ポリカーボネート樹脂組成物について、以下のようにして色相および黄変抑制効果を調べた。
(1)色相
色相は、YI値を指標とし、YI値は次のようにして測定した。すなわち、まず、得られた芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を120℃で5?7時間、熱風循環式乾燥機により乾燥した後、射出成形機(東芝機械社製「EC100」)により、280℃の温度で成形した300mm長光路成形品(6mm×4mm×300mm、l/d=50)を得た。この成形品について、長光路分光透過色計(日本電色工業社製「ASA1」)を使用して300mm長のYI値を測定した。結果を表1?4に示す。色相についての合格基準は以下の通りとした。

合格:処理前YI値が24以下

(2)黄変抑制効果
黄変抑制効果は、熱エージングによるYI値の変化量であるΔYI値を指標とした。ΔYI値は、次のようにして測定した。まず得られた成形品を120℃に設定した熱風循環乾燥機に入れ、1000時間の熱エージング処理をした後、上記と同様にして熱エージング処理後のYI値を測定した。そして熱エージング処理後のYI値から処理前のYI値を引いた値をΔYIとした。結果を表1?4に示す。黄変抑制効果の合格基準は以下の通りとした。

合格:ΔYIが40以下

【表1】

【表2】

【表3】

【表4】

【0096】
以上の結果より、実施例1?14の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、色相および黄変抑制効果について合格基準を満たした。一方、比較例1?14の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、色相及び黄変抑制効果の少なくとも一方について合格基準を満たさなかった。
【0097】
よって、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物によれば、優れた色相を有し且つ黄変を十分に抑制できる導光部材を形成することが可能であることが確認された。」

イ.甲5に記載された発明

(ア)甲5には、上記甲5の記載(特に【請求項1】ないし【請求項5】の下線部)からみて、
「粘度平均分子量10,000?22,000の芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、
リン系安定剤(B)が0.05?0.3質量部の割合で配合され、
脂肪酸モノグリセリドである脂肪酸エステル(C)が0.03?0.3質量部の割合で配合され、
前記リン系安定剤(B)が、2種類のホスファイト系安定剤を含み、前記2種類のホスファイト系安定剤のうちの一方のみが、スピロ環骨格を有するホスファイト系安定剤であり、
前記2種類のホスファイト系安定剤のうち、前記スピロ環骨格を有する一方のホスファイト系安定剤の配合割合が、他方のホスファイト系安定剤の配合割合よりも少ない、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる光源から入射される光を導光すると共に外側に出射させる導光部材を備える照明装置。」
に係る発明(以下「甲5発明1」という。)が記載されている。

(イ)また、甲5には、上記甲5の記載(特に摘示(d7)の下線部及び「実施例2」、「実施例11」及び「実施例12」)からみて、
「粘度平均分子量16,000の芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、
リン系安定剤(B)として、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト(B-1)0.05、0.10又は0.20質量部及びビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト(B-2)0.01又は0.02質量部の割合で配合され、
ステアリン酸モノグリセライド(C-1)が0.03質量部の割合で配合された芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を、280℃の温度で射出成形した300mm長光路成形品(6mm×4mm×300mm、l/d=50)。」
に係る発明(以下「甲5発明2」という。)が記載されている。

2.本件の各発明に係る検討

(1)本件発明1について

ア.甲1発明1に基づく検討

(ア)対比
本件発明1と甲1発明1とを対比すると、少なくとも以下の2点で相違する。

相違点a1:「芳香族ポリカーボネート樹脂組成物」につき、本件発明1では「(B)ステアリン酸モノグリセリド0.01?0.05質量部・・を含む」のに対して、甲1発明1では「(B)ステアリン酸モノグリセリド」を含むことにつき特定されていない点
相違点a2:本件発明1では「芳香族ポリカーボネート樹脂組成物をシリンダー温度と金型温度との差が120?280℃の条件で射出成形してなる、厚みが5mm以上を有する車両用導光部品」であるのに対して、甲1発明1では「導光性能を有する樹脂組成物を成形してなる導光板」である点

(イ)検討
事案に鑑み、相違点a2につき検討すると、甲1には、色相を測定するために「射出成形機・・を用いて、成形温度320℃、金型温度80℃にて幅100mm、長さ100mm、厚みが5.0mmである平滑平面板を成形」することは記載されている(摘示(a10))ものの、「厚みが5mm以上を有する車両用導光部品」を同一の条件で射出成形を行い構成することまで、開示されているものとは認められない。
してみると、上記相違点a2は実質的な相違点であり、相違点a2が、甲1発明1において、甲1の記載に基づき、適宜なし得ることということもできない。
また、甲1発明1において、他の甲号証に記載された事項又は発明を組み合わせることにより、当業者が適宜なし得ることであるかにつき検討すると、他の甲号証の各記載を検討しても、甲1発明1において、「シリンダー温度と金型温度との差が120?280℃の条件で射出成形」することにより「厚みが5mm以上を有する車両用導光部品」を構成すべきことを動機付ける技術事項が存するものとは認められないから、甲1発明1において、他の甲号証に記載された事項又は発明を組み合わせたとしても、上記相違点a2につき、当業者が適宜なし得たことということはできない。
してみると、上記相違点a2については、甲1発明1において、たとえ他の甲号証に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が適宜なし得たということはできない。

(ウ)小括
したがって、上記相違点a1につき検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明1ではなく、甲1発明1に基づいて、当業者が容易に発明することができたともいうことはできない。

イ.甲1発明2に基づく検討

(ア)対比
本件発明1と甲1発明2とを対比すると、少なくとも以下の点で相違する。

相違点a3:本件発明1では「芳香族ポリカーボネート樹脂組成物をシリンダー温度と金型温度との差が120?280℃の条件で射出成形してなる、厚みが5mm以上を有する車両用導光部品」であるのに対して、甲1発明2では「ポリカーボネート樹脂組成物を射出成形機を用いて成形温度320℃、金型温度80℃で成形してなる厚みが5.0mmの平滑平面版」である点

(イ)検討
上記相違点a3につき検討すると、甲1発明2に係る「厚みが5.0mmの平滑平面版」は、あくまで色相を測定するための試料であって、「厚みが5mm以上を有する車両用導光部品」ではなく、甲1には、当該「車両用導光部品」を同一の条件で射出成形を行い構成することまで、開示されているものとは認められない。
してみると、上記相違点a3は実質的な相違点であり、相違点a3が、甲1発明2において、甲1の記載に基づき、適宜なし得ることということもできない。
また、甲1発明2において、他の甲号証に記載された事項又は発明を組み合わせることにより、当業者が適宜なし得ることであるかにつき検討すると、他の甲号証の各記載を検討しても、甲1発明2において、同様の射出成形条件により「厚みが5mm以上を有する車両用導光部品」を構成すべきことを動機付ける技術事項が存するものとは認められないから、甲1発明2において、他の甲号証に記載された事項又は発明を組み合わせたとしても、上記相違点a3につき、当業者が適宜なし得たことということはできない。
してみると、上記相違点a3については、甲1発明2において、たとえ他の甲号証に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が適宜なし得たということはできない。

(ウ)小括
したがって、本件発明1は、甲1発明2ではなく、甲1発明2に基づいて、当業者が容易に発明することができたともいうことはできない。

ウ.甲3発明1に基づく検討

(ア)対比
本件発明1と甲3発明1とを対比すると、少なくとも以下の2点で相違する。

相違点b1:「芳香族ポリカーボネート樹脂組成物」につき、本件発明1では「(B)ステアリン酸モノグリセリド0.01?0.05質量部・・を含む」のに対して、甲3発明1では「(B)ステアリン酸モノグリセリド」を含むことにつき特定されていない点
相違点b2:本件発明1では「芳香族ポリカーボネート樹脂組成物をシリンダー温度と金型温度との差が120?280℃の条件で射出成形してなる、厚みが5mm以上を有する車両用導光部品」であるのに対して、甲3発明1では「樹脂組成物よりなる車両用窓部材もしくは車両用灯具である成形品」である点

(イ)検討
事案に鑑み、上記相違点b2につき検討すると、甲3には、種々の成形品特性を測定するために「射出成形機・・により、シリンダー温度300℃、金型温度80℃の条件で評価用の試験片である厚さ5mmである板を成形」することは記載されている(摘示(b7))ものの、「厚みが5mm以上を有する車両用導光部品」を「シリンダー温度と金型温度との差が120?280℃」なる同一の条件で射出成形を行い構成することまで、開示されているものとは認められない。
してみると、上記相違点b2は実質的な相違点であり、相違点b2が、甲3発明1において、甲3の記載に基づき、適宜なし得ることということもできない。
また、甲3発明1において、他の甲号証に記載された事項又は発明を組み合わせることにより、当業者が適宜なし得ることであるかにつき検討すると、他の甲号証の各記載を検討しても、甲3発明1において、「シリンダー温度と金型温度との差が120?280℃の条件で射出成形」することにより「厚みが5mm以上を有する車両用導光部品」を構成すべきことを動機付ける技術事項が存するものとは認められないから、甲3発明1において、他の甲号証に記載された事項又は発明を組み合わせたとしても、上記相違点b2につき、当業者が適宜なし得たことということはできない。
してみると、上記相違点b2については、甲3発明1において、たとえ他の甲号証に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が適宜なし得たということはできない。

(ウ)小括
したがって、上記相違点b1につき検討するまでもなく、本件発明1は、甲3発明1ではなく、甲3発明1に基づいて、当業者が容易に発明することができたともいうことはできない。

エ.甲3発明2に基づく検討

(ア)対比
本件発明1と甲3発明2とを対比すると、少なくとも以下の点で相違する。

相違点b3:本件発明1では「芳香族ポリカーボネート樹脂組成物をシリンダー温度と金型温度との差が120?280℃の条件で射出成形してなる、厚みが5mm以上を有する車両用導光部品」であるのに対して、甲3発明2では「樹脂組成物をシリンダー温度300℃、金型温度80℃で射出成形してなる厚さ5mmの板状成形品」である点

(イ)検討
上記相違点b3につき検討すると、甲3発明2に係る「厚さ5mmの板状成形品」は、あくまで成形体物性を測定するための試料であって、「厚みが5mm以上を有する車両用導光部品」ではなく、甲3には、当該「車両用導光部品」を同一の条件で射出成形を行い構成することまで、開示されているものとは認められない。
してみると、上記相違点b3は実質的な相違点であり、相違点b3が、甲3発明2において、甲3の記載に基づき、適宜なし得ることということもできない。
また、甲3発明2において、他の甲号証に記載された事項又は発明を組み合わせることにより、当業者が適宜なし得ることであるかにつき検討すると、他の甲号証の各記載を検討しても、甲3発明2において、同様の射出成形条件により「厚みが5mm以上を有する車両用導光部品」を構成すべきことを動機付ける技術事項が存するものとは認められないから、甲3発明2において、他の甲号証に記載された事項又は発明を組み合わせたとしても、上記相違点b3につき、当業者が適宜なし得たことということはできない。
してみると、上記相違点b3については、甲3発明2において、たとえ他の甲号証に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が適宜なし得たということはできない。

(ウ)小括
したがって、本件発明1は、甲3発明2ではなく、甲3発明2に基づいて、当業者が容易に発明することができたともいうことはできない。

オ.甲4発明1に基づく検討

(ア)対比
本件発明1と甲4発明1とを対比すると、少なくとも以下の2点で相違する。

相違点c1:「芳香族ポリカーボネート樹脂組成物」につき、本件発明1では「(B)ステアリン酸モノグリセリド0.01?0.05質量部・・を含む」のに対して、甲4発明1では「(B)ステアリン酸モノグリセリド」を含むことにつき特定されていない点
相違点c2:本件発明1では「芳香族ポリカーボネート樹脂組成物をシリンダー温度と金型温度との差が120?280℃の条件で射出成形してなる、厚みが5mm以上を有する車両用導光部品」であるのに対して、甲4発明1では「樹脂組成物より形成された導光体」である点

(イ)検討
事案に鑑み、相違点c2につき検討すると、甲4には、導光性能を測定するために「射出成形機・・により、シリンダー温度320℃、金型温度80℃で縦150mm×横150mm、厚さ2.0mm・・のプレートを成形し、導光板」とすることは記載されている(摘示(c7))ものの、「厚みが5mm以上を有する車両用導光部品」を同一の条件で射出成形を行い構成することまで、開示されているものとは認められない。
してみると、上記相違点c2は実質的な相違点であり、相違点c2が、甲4発明1において、甲4の記載に基づき、適宜なし得ることということもできない。
また、甲4発明1において、他の甲号証に記載された事項又は発明を組み合わせることにより、当業者が適宜なし得ることであるかにつき検討すると、他の甲号証の各記載を検討しても、甲4発明1において、「シリンダー温度と金型温度との差が120?280℃の条件で射出成形」することにより「厚みが5mm以上を有する車両用導光部品」を構成すべきことを動機付ける技術事項が存するものとは認められないから、甲4発明1において、他の甲号証に記載された事項又は発明を組み合わせたとしても、上記相違点c2につき、当業者が適宜なし得たことということはできない。
してみると、上記相違点c2については、甲4発明1において、たとえ他の甲号証に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が適宜なし得たということはできない。

(ウ)小括
したがって、上記相違点c1につき検討するまでもなく、本件発明1は、甲4発明1ではなく、甲4発明1に基づいて、当業者が容易に発明することができたともいうことはできない。

カ.甲4発明2に基づく検討

(ア)対比
本件発明1と甲4発明2とを対比すると、少なくとも以下の2点で相違する。

相違点c3:「芳香族ポリカーボネート樹脂組成物」につき、本件発明1では「(B)ステアリン酸モノグリセリド0.01?0.05質量部・・を含む」のに対して、甲4発明2では「グリセリントリステアレートを主成分とする脂肪酸エステル(SL)0.0075重量部を含有する」点
相違点c4:本件発明1では「芳香族ポリカーボネート樹脂組成物をシリンダー温度と金型温度との差が120?280℃の条件で射出成形してなる、厚みが5mm以上を有する車両用導光部品」であるのに対して、甲4発明2では「樹脂組成物を、シリンダー温度320℃、金型温度80℃で射出成形してなる、縦150mm×横150mm、厚さ5.0mmの導光板」である点

(イ)検討
事案に鑑み、上記相違点c4につき検討すると、甲4発明2に係る「厚さ5.0mmの導光板」は、あくまで導光性能を測定するための試料であって、「厚みが5mm以上を有する車両用導光部品」ではなく、甲4には、当該「車両用導光部品」を同一の条件で射出成形を行い構成することまで、開示されているものとは認められない。
してみると、上記相違点c4は実質的な相違点であり、相違点c4が、甲4発明2において、甲4の記載に基づき、適宜なし得ることということもできない。
また、甲4発明2において、他の甲号証に記載された事項又は発明を組み合わせることにより、当業者が適宜なし得ることであるかにつき検討すると、他の甲号証の各記載を検討しても、甲4発明2において、同様の射出成形条件により「厚みが5mm以上を有する車両用導光部品」を構成すべきことを動機付ける技術事項が存するものとは認められないから、甲4発明2において、他の甲号証に記載された事項又は発明を組み合わせたとしても、上記相違点c4につき、当業者が適宜なし得たことということはできない。
してみると、上記相違点c4については、甲4発明2において、たとえ他の甲号証に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が適宜なし得たということはできない。

(ウ)小括
したがって、本件発明1は、上記相違点c3につき検討するまでもなく、甲4発明2ではなく、甲4発明2に基づいて、当業者が容易に発明することができたともいうことはできない。

キ.甲5発明1に基づく検討

(ア)対比
本件発明1と甲5発明1とを対比すると、少なくとも以下の点で相違する。

相違点d1:本件発明1では「芳香族ポリカーボネート樹脂組成物をシリンダー温度と金型温度との差が120?280℃の条件で射出成形してなる、厚みが5mm以上を有する車両用導光部品」であるのに対して、甲5発明1では「芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる光源から入射される光を導光すると共に外側に出射させる導光部材を備える照明装置」である点

(イ)検討
上記相違点d1につき検討すると、甲5には、種々の成形品特性を測定するために「芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を、280℃の温度で射出成形した300mm長光路成形品(6mm×4mm×300mm、l/d=50)」は記載されている(摘示(d7))ものの、「厚みが5mm以上を有する車両用導光部品」を「シリンダー温度と金型温度との差が120?280℃」なる同一の条件で射出成形を行い構成することまで、開示されているものとは認められない。
してみると、上記相違点d1は実質的な相違点であり、相違点d1が、甲5発明1において、甲5の記載に基づき、適宜なし得ることということもできない。
また、甲5発明1において、他の甲号証に記載された事項又は発明を組み合わせることにより、当業者が適宜なし得ることであるかにつき検討すると、他の甲号証の各記載を検討しても、甲5発明1において、「シリンダー温度と金型温度との差が120?280℃の条件で射出成形」することにより「厚みが5mm以上を有する車両用導光部品」を構成すべきことを動機付ける技術事項が存するものとは認められないから、甲5発明1において、他の甲号証に記載された事項又は発明を組み合わせたとしても、上記相違点d1につき、当業者が適宜なし得たことということはできない。
してみると、上記相違点d1については、甲5発明1において、たとえ他の甲号証に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が適宜なし得たということはできない。

(ウ)小括
したがって、本件発明1は、甲5発明1ではなく、甲5発明1に基づいて、当業者が容易に発明することができたともいうことはできない。

ク.甲5発明2に基づく検討

(ア)対比
本件発明1と甲5発明2とを対比すると、少なくとも以下の点で相違する。

相違点d2:本件発明1では「芳香族ポリカーボネート樹脂組成物をシリンダー温度と金型温度との差が120?280℃の条件で射出成形してなる、厚みが5mm以上を有する車両用導光部品」であるのに対して、甲5発明2では「芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を、280℃の温度で射出成形した300mm長光路成形品(6mm×4mm×300mm、l/d=50)」である点

(イ)検討
上記相違点d2につき検討すると、甲5発明2に係る「厚さ5mmの板状成形品」は、あくまで長光路方向の導光物性を測定するための試料であって、「厚みが5mm以上を有する車両用導光部品」ではなく、甲5には、当該「車両用導光部品」を同一の条件で射出成形を行い構成することまで、開示されているものとは認められない。
してみると、上記相違点d2は実質的な相違点であり、相違点d2が、甲5発明2において、甲5の記載に基づき、適宜なし得ることということもできない。
また、甲5発明2において、他の甲号証に記載された事項又は発明を組み合わせることにより、当業者が適宜なし得ることであるかにつき検討すると、他の甲号証の各記載を検討しても、甲5発明2において、同様の射出成形条件により「厚みが5mm以上を有する車両用導光部品」を構成すべきことを動機付ける技術事項が存するものとは認められないから、甲5発明2において、他の甲号証に記載された事項又は発明を組み合わせたとしても、上記相違点d2につき、当業者が適宜なし得たことということはできない。
してみると、上記相違点d2については、甲5発明2において、たとえ他の甲号証に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が適宜なし得たということはできない。

(ウ)小括
したがって、本件発明1は、甲5発明2ではなく、甲5発明2に基づいて、当業者が容易に発明することができたともいうことはできない。

ケ.本件発明1に係る検討のまとめ
以上のとおり、本件発明1は、甲1に記載された発明(甲1発明1又は甲1発明2)、甲3に記載された発明(甲3発明1又は甲3発明2)、甲4に記載された発明(甲4発明1又は甲4発明2)あるいは甲5に記載された発明(甲5発明1又は甲5発明2)であるということはできず、また、甲1ないし甲5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

(2)本件発明2について
本件発明2につき検討するにあたり、その内容を本件発明1と対比することにより確認すると、本件発明2では、「(B)ステアリン酸モノグリセリド0.01?0.06質量部」とされ、さらに「(A)成分」、「(B)成分」及び「(C)成分」「を配合してなる芳香族ポリカーボネート樹脂組成物」であるのに対して、本件発明1では、「(B)ステアリン酸モノグリセリド0.01?0.05質量部」とされ、さらに「(A)成分」、「(B)成分」及び「(C)成分」「を含む芳香族ポリカーボネート樹脂組成物」であるのみで一応相違するかに見えるが、表現上又は構成上の微差であって、実質的に相違するものでないことが明らかである。
したがって、上記(1)で本件発明1につき検討したとおりの理由が、本件発明2についても妥当するものであるから、本件発明2についても、上記(1)で説示したとおりの理由により、甲1、甲3、甲4又は甲5に記載されたいずれかの発明であるということはできず、また、甲1ないし甲5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

(3)本件発明3ないし8について
本件発明1又は2を引用する本件発明3ないし8につき併せて検討すると、上記(1)及び(2)でそれぞれ説示したとおりの理由により、本件発明1又は2について、甲1、甲3、甲4又は甲5に記載されたいずれかの発明であるということはできず、また、甲1ないし甲5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできないのであるから、それらを引用する本件発明3ないし8についても、甲1、甲3、甲4又は甲5に記載されたいずれかの発明であるということはできず、また、甲1ないし甲5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

(4)検討のまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1ないし8は、いずれも特許法第29条第1項第3号に該当するものではなく、また、同法同条第2項の規定により、特許を受けられないものではない。

3.取消理由1及び2に係るまとめ
よって、本件の請求項1ないし8に係る発明についての特許は、いずれも特許法第29条に違反してされたものではなく、上記取消理由1及び2は、いずれも理由がない。

II.取消理由3について

1.特許法第36条第6項第1号(いわゆるサポート要件)について

(1)申立人が主張する理由について
申立書の記載(第49頁「(4-7)サポート要件違反」の欄)からみて、申立人が主張するサポート要件違反に係る理由は、「本件の請求項1では、「芳香族ポリカーボネート樹脂組成物をシリンダー温度と金型温度との差が120?280℃の条件で射出成形してなる」ことが規定されているのに対して、本件特許に係る明細書(以下「本件特許明細書」という。)の発明の詳細な説明には、具体的実施例として、シリンダー温度と金型温度との差が160℃又は220℃のものしかなく、当該実施例の結果から上記請求項1の温度差範囲まで拡張又は一般化できず、請求項1に記載された事項で特定される発明が、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されているものではない」というものと認められる。

(2)検討

ア.本件発明の解決課題
本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載(特に【0005】)からみて、請求項1に係る発明が「厚みが5mm以上を有する車両用導光部品」に係るものであることに鑑みると、「離型性を低下させることなく、クラックの発生が少ない」「離型剤としてステアリン酸モノグリセリドを使用」した「芳香族ポリカーボネート樹脂組成物」による「厚みの大きい成形品」の提供にあるものと認められる。

イ.本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、
「【0031】
[成形品]
本発明では、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を成形し、厚みが5mm以上を有する成形品も提供する。厚みが5mm以上を有する成形品を得るためには、通常、射出成形機、射出圧縮成形機、縮成形機等の成形機が使用されるが、成形品を効率よく得るために、射出成形機及び射出圧縮成形機を用いることが好ましい。射出成形機及び射出圧縮成形機を用いる場合、成形機のシリンダー温度と金型温度との差が120?280℃、好ましくは140?230℃となる条件で成形することが望ましい。また、その際のシリンダー温度は、260?340℃とすることが望ましい。このようなシリンダー温度とすることにより、良好な成形性と色調を保つことができる。そして、その際の金型温度は、80?130℃、好ましくは100?120℃とすることが望ましい。このような金型温度とすることにより、成形品の生産効率を低下させることなく、かつ成形品中に残留する歪が大きくなることを抑制し、クラックの発生を防止することができる。」
と記載されているところ、当該記載からみて、射出成形機を用いる場合、成形機のシリンダー温度と金型温度との差が120?280℃が好適であり、その際のシリンダー温度は、260?340℃とすることにより、良好な成形性と色調を保つことができるし、その際の金型温度は、80?130℃とすることにより、成形品の生産効率を低下させることなく、かつ成形品中に残留する歪が大きくなることを抑制し、クラックの発生を防止することができるという作用機序も記載されている。
そして、当該作用機序につき、技術常識に照らして検討しても、良好な成形性と色調を保持しつつ、離型性を低下させることなく、クラックの発生を防止することの発現を抑止するような技術事項が存するものとも認められず、シリンダー温度と金型温度との差の120?280℃なる範囲において、離型性を低下させることなく、クラックの発生を防止することを妨げるような技術事項又は態様が存するものとも認められない。
してみると、本件特許明細書の発明の詳細な説明における上記記載に接した当業者は、シリンダー温度と金型温度との差の120?280℃なる範囲に係る事項で特定された本件の請求項1に係る発明であれば、上記ア.に示した本件発明の解決課題を解決できるであろうと認識することができるものと認められる。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が上記ア.に示した本件発明に係る解決課題を解決できると当業者が認識できるように記載されているものということができる。
よって、本件の各請求項に記載された事項で特定される本件発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものというべきである。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件の各請求項の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものであって、同法同条同項(柱書)に規定する要件を満たすものである。

2.特許法第36条第6項第2号(明確性要件)について

(1)申立人が主張する理由について
申立書の記載(第49頁?第50頁「(4-8)明確性要件違反」の欄)からみて、申立人が主張する明確性要件違反に係る理由は、「本件の請求項1ないし8に係る発明は、「車両用導光部品」(物の発明)であるところ、各請求項には、「芳香族ポリカーボネート樹脂組成物をシリンダー温度と金型温度との差が120?280℃の条件で射出成形してなる」というその物の製造方法が記載されており、いわゆる「プロダクトバイプロセス」クレームであるにも関わらず、いわゆる「不可能・非実際的事情」が存在するものではないから、少なくとも本件請求項1又は請求項2の記載では、各項に記載された事項で特定される特許を受けようとする発明が明確でない」というものと認められる。

(2)検討
そこで上記の点につき検討すると、上記1.で示した本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載(【0031】)を参酌すると、上記製造方法に係る事項は、良好な色調を保持しつつ、離型性を低下させることなく、クラックの発生を防止されているという「厚みが5mm以上を有する車両用導光部品」の特性を明確にしているから、当該製造方法に係る事項が「厚みが5mm以上を有する車両用導光部品」なる発明を、明確でないものとするような事項ではなく、本件の請求項1の記載では、同項記載の「厚みが5mm以上を有する車両用導光部品」なる発明が明確でないということはできない。
なお、請求項2についても同様である。
してみると、本件の請求項1又は請求項2の記載では、各項に記載された事項で特定される特許を受けようとする発明が明確であるというべきである。

(3)小括
したがって、本件の各請求項の記載は、特許法第36条第6項第2号に適合するものであって、同法同条同項(柱書)に規定する要件を満たすものである。

3.取消理由3についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件の各請求項の記載は、いずれも特許法第36条第6項(柱書)に規定する要件を満たすものであって、取消理由3はいずれも理由がない。

III.当審の判断のまとめ
よって、本件の請求項1ないし8に係る発明についての特許は、上記取消理由1ないし3はいずれも理由がなく、本件の請求項1ないし8に係る発明についての特許は、取り消すことができない。

第5 むすび
以上のとおり、本件特許に係る異議申立において特許異議申立人が主張する取消理由はいずれも理由がなく、本件の請求項1ないし8に係る発明についての特許は、取り消すことができない。
ほかに、本件の請求項1ないし8に係る発明についての特許を取り消すべき理由も発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2020-08-24 
出願番号 特願2014-141541(P2014-141541)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C08L)
P 1 651・ 113- Y (C08L)
P 1 651・ 537- Y (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 長岡 真  
特許庁審判長 大熊 幸治
特許庁審判官 安田 周史
橋本 栄和
登録日 2019-08-30 
登録番号 特許第6575979号(P6575979)
権利者 出光興産株式会社
発明の名称 芳香族ポリカーボネート樹脂組成物及びその成形品  
代理人 大谷 保  

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