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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C22C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C22C
管理番号 1366093
異議申立番号 異議2020-700425  
総通号数 250 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-10-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-06-18 
確定日 2020-09-04 
異議申立件数
事件の表示 特許第6620522号発明「無方向性電磁鋼板用の熱延鋼帯及び無方向性電磁鋼板の製造方法」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第6620522号の請求項1?7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6620522号(請求項の数7。以下,「本件特許」という。)は,平成27年11月5日を出願日とする特許出願(特願2017-217687号)に係るものであって,令和1年11月29日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は,令和1年12月18日である。)。
その後,令和2年6月18日に,本件特許の請求項1?7に係る特許に対して,特許異議申立人であるJFEスチール株式会社(以下,「申立人」という。)により,特許異議の申立てがされた。

第2 本件発明
本件特許の請求項1?7に係る発明は,本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下,それぞれ「本件発明1」等という。また,本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)。

【請求項1】
質量%で,
C:0.003%以下,
Si:0.1%?4.5%,
Mn:0.1%?1.5%,
N:0.003%以下,
S:0.004%以下を含有し,残部がFe及び不純物よりなる成分を有する熱延鋼帯であり,
前記熱延鋼帯の圧延方向と熱延鋼帯の板面垂直方向を含む断面における結晶粒の円相当粒径(μm)を測定し,これを常用対数で表示した結晶粒度分布において,最大粒度と最小粒度の中間値mと,結晶粒数の個数率が最大となる粒度nの間に,以下の関係式(1)が成り立つとともに,前記中間値mは1.287以上であることを特徴とする無方向性電磁鋼板用の熱延鋼帯。
n<m …(1)
【請求項2】
更に,質量%で,Al:0.1?2.5%を含有することを特徴とする請求項1記載の無方向性電磁鋼板用の熱延鋼帯。
【請求項3】
更に,質量%で,Sn:0.05?0.2%を含有することを特徴とする請求項1また
は請求項2記載の無方向性電磁鋼板用の熱延鋼帯。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の化学成分を有する鋼を,850?950℃の熱延仕上げ温度で熱間仕上圧延し,400?950℃の巻取温度で巻取って請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の熱延鋼帯からなる熱延コイルとし,
この際,熱延鋼帯全長にわたる熱延仕上温度の平均値FT(℃)と熱延鋼帯全長における熱延仕上温度の変動ΔFT(℃)が(2)式を満足させるとともに,
熱延鋼帯全長にわたる巻取温度の平均値CT(℃)と熱延鋼帯全長における巻取温度の変動ΔCT(℃)が(3)式を満足させることを特徴とする無方向性電磁鋼板の製造方法。
ΔFT≦-0.589×FT+707 …(2)
ΔCT≦-0.259×(FT-CT)+91 …(3)
【請求項5】
前記巻取り温度が700?950℃である請求項4に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記熱延コイルに対して,加熱速度30℃/s以下,焼鈍温度800℃以上900℃以下,加熱時間を含めた焼鈍時間1分以上10分未満の条件で熱延板焼鈍を行い,その後,冷却速度20℃/s以下で400℃以下まで冷却することを特徴とする請求項4または請求項5に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記熱延コイルにその保有熱により,焼鈍温度800℃以上900℃以下,焼鈍時間5分以上15分未満の条件で自己焼鈍を行い,その後,冷却速度5℃/s以上で400℃以下まで冷却することを特徴とする請求項4または請求項5に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。

第3 特許異議の申立ての理由の概要
本件特許の請求項1?7に係る特許は,下記1及び2のとおり,特許法113条2号及び4号に該当する。証拠方法は,下記3の甲第1号証?甲第4号証(以下,単に「甲1」等という。)である。

1 申立理由1(進歩性)
本件発明1?5は,甲1に記載された発明及び甲2?4に記載された事項に基いて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本件特許の請求項1?5に係る特許は,同法113条2号に該当する。

2 申立理由2(サポート要件)
本件発明4?7については,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に適合するものではないから,本件特許の請求項4?7に係る特許は,同法113条4号に該当する。

3 証拠方法
・甲1 特開2001-172718号公報
・甲2 特開平11-189850号公報
・甲3 特開平11-61256号公報
・甲4 特開2000-273549号公報

第4 当審の判断
以下に述べるように,特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件特許の請求項1?7に係る特許を取り消すことはできない。

1 申立理由1(進歩性)
(1)甲1に記載された発明
甲1の記載(請求項1?4,【0001】,【0006】,【0007】,【0009】?【0023】,【0034】?【0038】,実施例3,表6,7)によれば,甲1には,磁気特性の均一な無方向性電磁鋼板の製造方法について記載されているところ,特に,請求項1,4のほか,実施例3における熱延板(【0034】,表6)に着目すると,甲1には,以下の発明が記載されていると認められる。

「質量%で,C:0.0017%,Si:0.31%,Mn:0.13%,P:0.070%,S:0.0016%,sol-Al:0.001%,N:0.0016%を含み,残部がFeおよび不可避不純物からなる鋼を転炉により溶製し,連続鋳造設備により厚さ200mmのスラブとし,このスラブを通常の方法にて1250℃に加熱し,粗熱間圧延により30mmのシートバーとし,粗熱間圧延したシートバーを先行するシートバーに接続し,5本のシートバーの仕上熱間圧延を7スタンドのタンデム仕上熱延機により連続して行い,2.7mmに仕上げることにより得られた,磁気特性の均一な無方向性電磁鋼板用のストリップである熱延板。」(以下,「甲1発明」という。)

(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明における「磁気特性の均一な無方向性電磁鋼板用のストリップである熱延板」は,ストリップである以上,帯状であることは明らかであるから,本件発明1における「無方向性電磁鋼板用の熱延鋼帯」に相当する。
本件発明1に係る熱延鋼帯と,甲1発明に係る熱延板とは,いずれも,C,Si,Mn,N,Sを含有する熱延鋼帯である点で共通し,これら各成分の含有量も重複一致する。
以上によれば,本件発明1と甲1発明とは,
「質量%で,
C:0.003%以下,
Si:0.1%?4.5%,
Mn:0.1%?1.5%,
N:0.003%以下,
S:0.004%以下を含有する熱延鋼帯である,
無方向性電磁鋼板用の熱延鋼帯。」
の点で一致し,以下の点で相違する。
・相違点1
本件発明1では,熱延鋼帯が,C,Si,Mn,N,S以外は,「残部がFe及び不純物よりなる成分を有する」のに対して,甲1発明では,熱延板が,C,Si,Mn,N,S以外に,さらに「P:0.070%」,「sol-Al:0.001%」を含み,「残部がFeおよび不可避不純物からなる」点。
・相違点2
本件発明1では,「前記熱延鋼帯の圧延方向と熱延鋼帯の板面垂直方向を含む断面における結晶粒の円相当粒径(μm)を測定し,これを常用対数で表示した結晶粒度分布において,最大粒度と最小粒度の中間値mと,結晶粒数の個数率が最大となる粒度nの間に,以下の関係式(1)」「n<m …(1)」「が成り立つとともに,前記中間値mは1.287以上である」のに対して,甲1発明では,上記のような所定の「結晶粒度分布」を備えているかどうか不明である点。

イ 相違点2の検討
事案に鑑み,まず相違点2から検討する。
(ア)甲1には,「前記熱延鋼帯の圧延方向と熱延鋼帯の板面垂直方向を含む断面における結晶粒の円相当粒径(μm)を測定し,これを常用対数で表示した結晶粒度分布」については,何ら記載されておらず,また,その「結晶粒度分布」において,「最大粒度と最小粒度の中間値mと,結晶粒数の個数率が最大となる粒度nの間に,以下の関係式(1)」「n<m …(1)」「が成り立つとともに,前記中間値mは1.287以上である」との条件を満たすようにすることについても,記載されていない。また,甲1発明のように製造して得られた熱延板であれば,必ず,上記のような所定の「結晶粒度分布」を備えたものとなることが技術常識であるともいえない。
また,甲1発明に係る熱延板において,上記のような所定の「結晶粒度分布」を備えたものとすることが動機付けられるともいえない。
(イ)甲2には,磁気特性に優れた無方向性電磁鋼板及びその製造方法について記載され(請求項1?4,【0001】),甲3には,リジングの発生がない優れた表面性状を有し且つ鉄損の低い無方向性電磁鋼板の製造方法について記載され(請求項1,【0001】),甲4には,磁気特性の優れた無方向性電磁鋼板の製造方法について記載されている(請求項1,2,【0001】)。
しかしながら,甲2?4には,上記のような所定の「結晶粒度分布」については何ら記載されていない。甲2?4は,いずれも,甲1発明に係る熱延板において,上記のような所定の「結晶粒度分布」を備えたものとすることを動機付けるものではない。
(ウ)以上によれば,甲1発明に係る熱延板において,「前記熱延鋼帯の圧延方向と熱延鋼帯の板面垂直方向を含む断面における結晶粒の円相当粒径(μm)を測定し,これを常用対数で表示した結晶粒度分布において,最大粒度と最小粒度の中間値mと,結晶粒数の個数率が最大となる粒度nの間に,以下の関係式(1)」「n<m …(1)」「が成り立つとともに,前記中間値mは1.287以上である」とすることが,当業者が容易に想到することができたということはできない。

ウ 申立人の主張について
(ア)申立人は,甲1発明において,無方向性電磁鋼板の製造方法に関する本件発明4の「化学成分」,「熱延仕上げ温度」,「巻取温度」,「(2)式」,「(3)式」を満足することにより,自ずと本件発明1の熱延鋼帯が得られると主張する。
そして,申立人は,甲1発明において,「(3)式」(ΔCT≦-0.259×(FT-CT)+91)を満足することについて,以下のa,bのとおり主張する。
a 甲1の表7の「本発明」の熱延仕上温度については,平均値FTは,「859℃」(=(860+862+855)/3),変動ΔFTは,「7℃」(=862-855)と算出されるが,熱間仕上圧延に続く巻き取りの巻き取り温度についても,通常であれば,同様の傾向(挙動)が現れるはずであるから,巻取温度の変動ΔCTも,「7℃」になると考えられる。
b 熱間仕上圧延後に700℃程度の巻取温度で巻き取りすることは,従来,行われていることから(甲2?4を参照),甲1発明の巻取温度の平均値CTを「700℃」とした場合,「(3)式」の右辺は,49.819(=-0.259×(859-700)+91)と算出されるから,「(3)式」を満足する。
(イ)申立人の主張について,以下,検討する。
a 本件発明4における「熱延鋼帯全長にわたる熱延仕上温度の平均値FT(℃)」は,「熱間仕上圧延直後の鋼帯の長手方向の温度分布の平均値」(本件明細書【0034】)を意味するものであり,同「熱延鋼帯全長における熱延仕上温度の変動ΔFT(℃)」は,「熱間仕上圧延直後の鋼帯の長手方向の温度分布の最大値と最小値の差」(本件明細書【0034】)を意味するものである。
また,同「熱延鋼帯全長にわたる巻取温度の平均値CT(℃)」は,「巻取り直前の鋼帯の長手方向の温度分布の平均値」(本件明細書【0035】)を意味するものであり,同「熱延鋼帯全長における巻取温度の変動ΔCT(℃)」は,「巻取り直前の鋼帯の長手方向の温度分布の最大値と最小値の差」(本件明細書【0035】)を意味するものである。
b 甲1には,仕上熱間圧延の終了した中間のシートバーから得られたストリップの,仕上圧延に供する際のシートバーの最先端(TOP),中間(MIDDLE),最後端(BOTTOM)に相当する位置の「熱延仕上温度(℃)」が記載されている(実施例3,【0035】,表7)。すなわち,甲1には,「熱間仕上圧延直後の鋼帯の長手方向の温度分布」が記載されていると解する余地があるから,熱延仕上温度に関するFTとΔFTについては,申立人が主張するような算出は一応可能と考えられる。
しかしながら,甲1には,巻取温度に関するCTやΔCTについては記載されていない。また,甲1には,「巻取り直前の鋼帯の長手方向の温度分布」についても記載されていないから,巻取温度に関するCTやΔCTを算出することもできない。
そうすると,甲1発明において,「(3)式」を満足するかどうかは,不明というほかない。
c(a)この点,申立人は,熱間仕上圧延後に700℃程度の巻取温度で巻き取りすることは,従来,行われていることから,甲1発明の巻取温度の平均値CTを「700℃」とすると主張する。
しかしながら,本件発明4におけるCTは,上記aのとおり,「巻取り直前の鋼帯の長手方向の温度分布の平均値」を意味するものであるから,単なる巻取温度と同視することは,妥当とはいえない。
(b)また,申立人は,甲1の表7から,熱延仕上温度の変動ΔFTは「7℃」と算出されるが,熱間仕上圧延に続く巻き取りの巻取温度についても,通常であれば,同様の傾向(挙動)が現れるはずであるから,巻取温度の変動ΔCTも「7℃」になると主張する。
しかしながら,甲1には,熱間仕上圧延後から巻き取りまでの間に,熱延板の温度がどのように制御されるかについては,何ら記載されておらず,また,巻取温度に関するΔCTを小さくすること(巻取り直前の鋼帯の長手方向の温度分布のばらつきを小さくすること)についても記載されていないから,甲1において,熱延仕上温度に関するΔFTが「7℃」と算出されるとしても,そうであるからといって,巻取温度に関するΔCTも「7℃」になるかどうかは不明である。
(ウ)以上のとおり,甲1発明において,「(3)式」を満足するかどうかは不明であるから,上記(ア)の申立人の主張は,採用することができない。

エ 小括
以上のとおりであるから,相違点1について検討するまでもなく,本件発明1は,甲1に記載された発明及び甲2?4に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件発明2?5について
本件発明2?5は,本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるが,上記(2)で述べたとおり,本件発明1が,甲1に記載された発明及び甲2?4に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本件発明2?5についても同様に,甲1に記載された発明及び甲2?4に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)まとめ
したがって,申立理由1(進歩性)によっては,本件特許の請求項1?5に係る特許を取り消すことはできない。

2 申立理由2(サポート要件)
特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり,明細書のサポート要件の存在は,特許権者が証明責任を負うと解するのが相当である(知的財産高等裁判所,平成17年(行ケ)第10042号,同年11月11日特別部判決)。以下,検討する。

(1)本件発明4及び5について
ア 本件発明4及び5は,所定の化学成分を有する鋼を,所定の熱延仕上げ温度で熱間仕上圧延し,所定の巻取温度で巻取って,所定の結晶粒度分布を備えた熱延鋼帯からなる熱延コイルとする,無方向性電磁鋼板の製造方法に関するものである。
本件明細書の記載(【0002】?【0009】,【0039】)によれば,本件発明4及び5の課題は,良好な磁束密度と鉄損を両立する,磁気特性の優れた無方向性電磁鋼板の製造方法を提供することであると認められる。

イ 本件明細書の記載によれば,本件発明4及び5の課題は,無方向性電磁鋼板の製造方法において,以下の(ア)?(エ)の各要件を備えることによって,解決できるとされている。
(ア)所定の化学成分を有する鋼を,850?950℃の熱延仕上げ温度で熱間仕上圧延し,400?950℃の巻取温度で巻取って熱延鋼帯からなる熱延コイルとする(ただし,本件発明5については,巻取温度を「700?950℃」と読み替える。)(本件明細書【0010】,【0011】,【0013】,【0016】,【0028】?【0031】)。
(イ)この際,熱延鋼帯全長にわたる熱延仕上温度の平均値FT(℃)と熱延鋼帯全長における熱延仕上温度の変動ΔFT(℃)が「ΔFT≦-0.589×FT+707」なる(2)式を満足させるとともに,熱延鋼帯全長にわたる巻取温度の平均値CT(℃)と熱延鋼帯全長における巻取温度の変動ΔCT(℃)が「ΔCT≦-0.259×(FT-CT)+91」なる(3)式を満足させる(本件明細書【0010】,【0011】,【0013】,【0016】,【0032】?【0039】)。
(ウ)上記(ア)の鋼は,質量%で、C:0.003%以下、Si:0.1%?4.5%、Mn:0.1%?1.5%、N:0.003%以下、S:0.004%以下を含有し、残部がFe及び不純物よりなる成分を有する鋼か,さらに,Al:0.1?2.5%及び/又はSn:0.05?0.2%を含有する鋼である(本件明細書【0010】,【0011】,【0017】?【0025】)。
(エ)上記(ア)の熱延鋼帯は,上記(ウ)の成分を有する熱延鋼帯であって,熱延鋼帯の圧延方向と熱延鋼帯の板面垂直方向を含む断面における結晶粒の円相当粒径(μm)を測定し,これを常用対数で表示した結晶粒度分布において,最大粒度と最小粒度の中間値mと,結晶粒数の個数率が最大となる粒度nの間に,「n<m」なる関係式(1)が成り立つとともに,上記中間値mは1.287以上である(本件明細書【0010】,【0011】,【0026】,【0027】,【0056】?【0062】,【0069】,【0070】,【0073】)。

ウ そして,本件明細書には,各種の無方向性電磁鋼板を製造した具体例が記載されているところ(実施例1?4,【0075】?【0104】,表1?8,図2?5),これらのうち,実施例1における熱延板2?5(表1?4)は,上記イ(ア)?(エ)の各要件を備えるものであり,また,実施例4における鋼A,C,E?H,L?S(表8)は,上記イ(エ)の結晶粒度分布については不明であるものの,それ以外の上記イ(ア)?(ウ)の各要件を備えるものである。
表4及び8によれば,これらの具体例では,良好な磁束密度と鉄損を両立する,磁気特性の優れた無方向性電磁鋼板が製造されていることが理解できる。
そうすると,当業者であれば,これらの具体例以外の場合であっても,上記イ(ア)?(エ)の各要件を備える無方向性電磁鋼板の製造方法であれば,上記具体例の場合と同様に,良好な磁束密度と鉄損を両立する,磁気特性の優れた無方向性電磁鋼板が製造できることが理解できるといえる。

エ 以上のとおり,本件明細書の記載を総合すれば,上記イ(ア)?(エ)の各要件を備える本件発明4及び5は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであって,当業者が出願時の技術常識に照らして発明の詳細な説明の記載により本件発明4及び5の課題を解決できると認識できる範囲のものということができる。
以上のとおりであるから,本件発明4及び5については,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するものである。

(2)本件発明6及び7について
本件発明6及び7は,本件発明4又は5を引用するものであるが,上記(1)で本件発明4及び5について述べたのと同様の理由により,本件発明6及び7についても,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するものである。

(3)申立人の主張について
申立人は,本件発明4は,「400?950℃の巻取温度」を規定し,本件発明5は,「巻取温度が700?950℃である」ことを規定しているところ,熱延鋼帯の「結晶粒度分布」において,「n<m」を満足する具体例として本件明細書に開示されているのは,実施例1の巻取温度が838℃以上の場合のみであり,巻取温度が例えば400℃や700℃の場合については,本件明細書の実施例において実証されていないから,本件発明4及び5の範囲まで,本件明細書に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないと主張する。また,本件発明6及び7についても,同様に主張する。
しかしながら,本件発明4において,「請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の熱延鋼帯からなる熱延コイルとし,」と特定されている以上,本件発明4及びこれを直接又は間接的に引用する本件発明5?7では,巻取温度のほかに,本件発明1で特定される「結晶粒度分布」において,「n<m」であることについても特定されていることは,明らかである。
仮に,巻取温度が400℃や700℃の場合に,その他の条件によっては,上記の「結晶粒度分布」において,「n<m」を満足しない場合があるとしても,そのような場合については,本件発明4?7の範囲外と理解されるだけである。そのような場合があることをもって,本件発明4?7について,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するものではないということはできない。
よって,申立人の主張は,採用することができない。

(4)まとめ
したがって,申立理由2(サポート要件)によっては,本件特許の請求項4?7に係る特許を取り消すことはできない。

第5 むすび
以上のとおり,特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件特許の請求項1?7に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に本件特許の請求項1?7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2020-08-24 
出願番号 特願2015-217687(P2015-217687)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (C22C)
P 1 651・ 121- Y (C22C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 鈴木 葉子  
特許庁審判長 亀ヶ谷 明久
特許庁審判官 井上 猛
土屋 知久
登録日 2019-11-29 
登録番号 特許第6620522号(P6620522)
権利者 日本製鉄株式会社
発明の名称 無方向性電磁鋼板用の熱延鋼帯及び無方向性電磁鋼板の製造方法  
代理人 志賀 正武  
代理人 勝俣 智夫  
代理人 山口 洋  
代理人 伊東 秀明  
代理人 棚井 澄雄  
代理人 蜂谷 浩久  
代理人 寺本 光生  

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