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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A23L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
管理番号 1366094
異議申立番号 異議2020-700338  
総通号数 250 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-10-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-05-13 
確定日 2020-09-14 
異議申立件数
事件の表示 特許第6605033号発明「ビールテイスト飲料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6605033号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6605033号の請求項1?3に係る特許についての出願は、平成27年9月7日に出願され、令和1年10月25日にその特許権の設定登録がされ、同年11月13日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許の全請求項に対し、令和2年5月13日付けで特許異議申立人 中川 賢治より特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件特許発明
特許第6605033号の請求項1?3に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
なお、以下、これらを「本件特許発明1」などといい、まとめて「本件特許発明」という場合もある。

「【請求項1】
プリン体含有量が0.5?5mg/100mL、糖質含有量が0.5g/100mL以下、pHが3.0?4.0であることを特徴とするビールテイスト飲料(但し、大豆ペプチドを含有するものを除く)であって、前記プリン体が、酵母エキス由来のプリン体を含む、ビールテイスト飲料。
【請求項2】
麦由来成分を含まない、請求項1に記載のビールテイスト飲料。
【請求項3】
アルコール含有量が1v/v%未満である、請求項1または2に記載のビールテイスト飲料。」

第3 申立ての理由の概要
特許異議申立人 中川 賢治(以下、「申立人」という。)は、証拠方法として以下の甲第1号証?甲第8号証(以下、「甲1」などという。)を提出し、申立ての理由として、以下の理由を主張している。

1 理由
(1)理由1A(進歩性)
本件特許発明1?3は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された以下の甲1に記載された発明並びに甲2?8の記載及び本件特許の出願時の技術常識を組み合わせることによって、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1?3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当するから取り消すべきものである。

(2)理由1B(進歩性)
本件特許発明1?3は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された以下の甲8に記載された発明並びに甲3、5?7の記載及び本件特許の出願時の技術常識を組み合わせることによって、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1?3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当するから取り消すべきものである。

(3)理由2(実施可能要件)
本件特許発明1?3に係る特許は、その発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当するから取り消すべきものである。

(4)理由3(サポート要件)
本件特許発明1?3に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当するから取り消すべきものである。

2 証拠方法
(1)甲1:特許第5694615号公報(平成27年4月1日発行)
(2)甲2:鈴木睦明,“新価値を創造する酵母エキス「ハイパーミースト
」シリーズについて”,月刊フードケミカル 11月号,株式
会社食品化学新聞社,2010年11月,第26巻,第11号
,p.29-33
(3)甲3:一般財団法人日本食品分析センターJFRLニュース編集委員
会,“飲料中のプリン体の微量分析について”,JFRLニュ
ース,第4巻,第23号,[online],2013年8月
,日本食品分析センター,インターネット<URL:http
s://www.jfrl.or.jp/storage/f
ile/news_vol4_no23.pdf>
(4)甲4:特開2011-206047号公報
(5)甲5:特開2011-152058号公報
(6)甲6:特開2014-166167号公報
(7)甲7:特開2014-207914号公報
(8)甲8:特開2013-188221号公報

第4 甲号証に記載された事項
1 甲1には、以下の事項が記載されている。
(甲1a)「【請求項1】
難消化性デキストリンを10?25g/l含有し、グルコース、マルトース、果糖ブドウ糖及びアセスルファムKから成る群から選択される少なくとも一種の甘味物質をショ糖換算で3?9g/l含有し、pH3.0?4.0である非発酵ビール風味飲料。」

(甲1b)「【0003】
・・・他方、ビール風味アルコール飲料には、飲用水に、麦汁、麦芽エキス、糖類、香料及びエタノールなどを加えることによりビールらしい風味及び味質に仕上げたものもある。発酵工程を経ないで製造されるビール風味アルコール飲料は、以下、「非発酵ビール風味アルコール飲料」という。」

(甲1c)「【0016】
特許文献3?5には、発酵ビール風味アルコール飲料の醸造原料に難消化性デキストリンを含有させることが記載されている。しかし、難消化性デキストリンの使用目的は、特許文献3ではビールの低カロリー化であり、特許文献4及び5では香味、コク味の付与であり、「バランスの良さ」、「のどにグッとくる飲み応え」及び「飲んだ後のキレの良さ」の付与ではない。また、血中中性脂肪の上昇抑制効果についての記載は一切ない。
・・・
【0019】
近年では、消費者の健康指向が高まり、カロリーをできるだけ低下させた飲料が要求されている。可能な限りカロリーを低減した飲料の一例として、カロリーゼロ飲料がある。「カロリーゼロ」との表示は、日本の健康増進法に基づく栄養表示基準の規定によれば、飲料に含まれるエネルギー量が、飲料100mlあたり5kcal未満のものに対して表示することができる。
【0020】
しかしながら、低カロリー化のために非発酵ビール風味飲料から単に糖質の含有量を低下させた場合は、「のどにグッとくる飲み応え」及び「飲んだ後のキレの良さ」のバランスが崩れ、味わいが不足し、苦味が目立ちやすくなる問題がある。」

(甲1d)「【0022】
本発明は上記従来の問題を解決するものであり、その目的とするところは、血中中性脂肪の上昇抑制効果を有し、低カロリーでありながら、ビールらしい風味、即ち、「のどにグッとくる飲み応え」及び「飲んだ後のキレの良さ」が適度にバランスされた非発酵ビール風味飲料を提供することにある。」

(甲1e)「【0035】
本発明の非発酵ビール風味飲料は難消化性デキストリンを含有する。難消化性デキストリンを含有することで、得られる飲料は、飲んだときにのどに引っかかる感覚を与える。すなわち、本発明によって、発酵ビール風味飲料の特徴である「バランスの良さ」、「のどにグッとくる飲み応え」及び「飲んだ後のキレの良さ」という特徴を有する非発酵ビール風味飲料が提供される。
【0036】
また、難消化性デキストリンは食後の血中中性脂肪の上昇を抑制する作用を有し、本発明の非発酵ビール風味飲料は、肥満、心疾患及び脳梗塞等の予防に有効である。ビール風味飲料には脂質エネルギー比率の高い食事(高脂肪食品)とともに摂取される傾向があり、ビール風味飲料に食後の血中中性脂肪の上昇抑制機能が付与される意義は高い。」

(甲1f)「【0047】
本発明の非発酵ビール風味飲料は、好ましくは、エネルギー量が5kcal/100ml未満である。5kcal/100ml未満のエネルギー量は、上記の高甘味度甘味料を使用する事で達成しやすく、香味における「バランスの良さ」も維持される。特にそれ自体がカロリーゼロの甘味料であるアセスルファムカリウムやスクラロース等を用いるとより達成しやすい。更に好ましくは、糖質の含有量は0.5g/100ml未満である。糖質とは、食物繊維ではない炭水化物をいう。糖質を低減することで、肥満、糖尿病等の糖質の摂取に起因した健康に対する悪影響が生じ難くなる。また、糖質を低減することで、非発酵ビール風味飲料のスッキリ感や後切れの良さなどが実現できる。
【0048】
本発明の非発酵ビール風味飲料は穀物由来タンパク質分解物を含有することが好ましい。穀物由来タンパク質分解物を含有することで、非発酵ビール風味飲料の飲んだときにのどに引っかかる感覚、すなわち、「のどにグッとくる飲み応え」がより増強される。また、穀物由来タンパク質分解物は泡保持効果も有する。
【0049】
穀物由来タンパク分解物とは、大豆、エンドウ、トウモロコシ、小麦、大麦、米、落花生、菜種、ヒマワリ等から得られた、分離たん白等のタンパク質を多く含む画分を植物タンパク原料とし、この穀物タンパク原料を酸、アルカリまたは酵素によって加水分解したものである。穀物由来タンパク原料としては、大豆およびエンドウ等の豆科植物に由来する蛋白質が好ましく、加水分解方法は酵素法が好ましい。」

(甲1g)「【0062】
他にも、本発明の非発酵ビール風味飲料には、本発明の目的を損わない範囲において、糖類、糖アルコール、サポニン等の各種配糖体、香料、食物繊維や多糖類、酸類、酵母エキス等の原料を併用することができる。糖類としては、グルコース、フルクトース、マルトース等の還元糖や蔗糖等の少糖類、各種デキストリンやオリゴ糖類が挙げられ、香料としては、モルトフレーバー(麦や麦芽由来の天然抽出物を含んでも良い)、ホップフレーバー(ホップ由来の天然抽出物を含んでも良い)、ビールフレーバー、アルコールフレーバー、カラメルフレーバー等を挙げることができる。」

(甲1h)「【0096】
実施例6
難消化性デキストリンの配合量による効果
1Lあたりの配合量が、表14に掲げる配合(単位はg)になるように香料以外を水に溶解し、1時間煮沸を行った後、蒸発分の水を追加し、冷却後表14記載の香料(対照・試験ともに全て同じ香料)を添加し、清澄化のため珪藻土濾過およびフィルター濾過を実施し、液中に炭酸ガスを吹き込む事で炭酸ガスを2.9ガスボリュームとなるように溶解させ、容器詰めした後に、内温が65℃10分以上になるように熱殺菌したものを作成した。
【0097】
[表14]

【0098】
ホップはBarth-Haas Group社製の「CO2 Hop Extract」(商品名)を用いて、イソα酸含量が0.02g/Lになるように調整した。」

2 甲2には、以下の事項が記載されている。
(甲2a)「(1)タンパク加水分解物の代替
十数年前にEUから端を発した,タンバク加水分解物中に含まれる「MCPd」の問題により,タンバク加水分解物から酵母エキスヘの代替が進められた。」(29頁左欄8?12行)

3 甲3には、以下の事項が記載されている。
(甲3a)「はじめに
近年,プリン体を減らしたりゼロにした発泡酒やビール風飲料が発売されていますが,なぜ酒類飲料中のプリン体に注目が置かれているかご存知でしょうか?
今回はプリン体とはどういうものか,体内でどのような物質に変わるか,またプリン体がなぜ問題とされているのかについて簡単に解説をし,最後に飲料中のプリン体の微量分析法についてご紹介します。」(1/4頁2?7行)

(甲3b)「プリン体とは?
プリン体とはプリン骨格(図-1)を含む化合物の総称です。
プリン体には核酸(DNA・RNA),プリンヌクレオチド(ATP・アデニル酸・イノシン酸・グアニル酸・キサンチル酸など),プリンヌクレオシド(アデノシン・イノシン・キサントシン・グアノシン),プリン塩基(アデニン・ヒポキサンチン・キサンチン・グアニン)が含まれます(図-2)。」(1/4頁8?14行)

(甲3c)「なぜプリン体が問題なのか?
食事から摂取されるプリン体は体内で最終的に尿酸に代謝され,尿酸プールを増大させます。健康な人の体内には,常に約1200mgの尿酸が存在しており,これを「尿酸プール」といいます。尿酸は1日に約700mg生成されます。尿酸プールの尿酸の量を一定に保っために,体内で増加した分が主に尿と共に排泄されます。尿酸には,がんや老化の引き金となる活性酸素の活動を抑える働きがあると考えられていることから体内には一定量の尿酸が存在するのではないかといわれています。ただし,尿酸は難溶解性の物質で,生体内に過剰になると関節などで尿酸ナトリウムの結晶となり析出し関節炎を引き起こします。これが痛風です。
アルコール飲料では,含まれるプリン体量があまり多くなくても尿酸値は一時的に上がるといわれています。それは,アルコールが肝臓で解毒されるときに尿酸のもととなるATPを多く分解することにつながり,尿酸の生成が促進されるからです。また,アルコールが肝臓で分解されると乳酸がつくられ,尿酸の尿からの排泄を悪くすることも理由の一つにあげられます。」(2/4頁下から12?1行)

(甲3d)「食品中及びアルコール飲料中に含まれるプリン体について
食品中に含まれるプリン体含量とアルコール飲料中のプリン体含量について表-1,2に示しました。肉類や魚介類は部位によっても異なりますが,全体的にプリン体含量が多めです。また,魚やしいたけなどは乾燥することにより,うま味成分が増えることが知られています。実際にプリン塩基別にプリン体含量を比較すると干物の方がグアニンとヒポキサンチンが多かったという報告もされています。これはうま味成分であるグアニル酸とイノシン酸が増加したことによるものと考えられています。」(3/4頁1?7行)

4 甲4には、以下の事項が記載されている。
(甲4a)「【0036】
本発明においては、必要に応じて、着色料、泡形成剤、香料、発酵促進剤などを用いてもよい。着色料は、飲料にビール様の色を与えるために使用するものであり、カラメル色素などを用いることができる。泡形成剤は、飲料にビール様の泡を形成させるため、あるいは飲料の泡を保持させるために使用するものであり、大豆サポニン、キラヤサポニン等の植物抽出サポニン系物質、コーン、大豆などの植物タンパク、およびペプチド含有物、ウシ血清アルブミン等のタンパク質系物質、酵母エキスなどを適宜使用することができる。香料は、ビール様の風味付けのために用いるものであり、ビール風味を有する香料を適量使用することができる。発酵促進剤は、酵母による発酵を促進させるために使用するものであり、例えば、酵母エキス、米や麦などの糠成分、ビタミン、ミネラル剤などを単独または組み合わせて使用することができる。」

5 甲5には、以下の事項が記載されている。
(甲5a)「【0002】
酵母エキスとは、酵母の培養物から調製され、アミノ酸等を豊富に含むものであり、従来から、旨味やコクを付与するための調味料等のような食品添加剤や、酒類等の発酵原料として、食品や飲料に広く用いられている。特に昨今の天然志向の高まりから、調味料としての酵母エキスの需要は増加傾向にある。」

(甲5b)「【0004】
一方で、酵母エキスには、プリン体やチアミン等の不要成分も含まれており、これらの不要成分が問題となるケースもある。例えばプリン体は、体内に蓄積し、通風の原因となることが知られているが、酵母エキスを摂取することにより、プリン体をも摂取してしまうことになる。」

6 甲6には、以下の事項が記載されている。
(甲6a)「【0016】
また、麦由来のエキス分を0.72g/100cm^(3)以下とすれば、ビールテイスト飲料中における麦由来のプリン体の含有量を、例えば、2mg/100mL以下や、1.1mg/100mL以下に低減させることができる。プリン体の含有量を低減させることにより、プリン体の摂取に抵抗のある消費者も飲み易いビールテイスト飲料を提供することができる。」

(甲6b)「【0022】
(水溶性食物繊維)
・・・水溶性食物繊維には整腸作用や血糖値上昇抑制作用といった有用な作用が認められている。本実施形態においては、水溶性食物繊維を含有させることにより、ビールテイスト飲料にコクを付与している。
【0023】
水溶性食物繊維としては、例えば、難消化性デキストリン、ポリデキストロース及びグアーガム分解物の中から選択される少なくとも一種を用いることができるが、これらに限定されるものではない。」

7 甲7には、以下の事項が記載されている。
(甲7a)「【0025】
本発明では、本発明の効果を妨げない範囲で、必要に応じて、様々な原料を追加的に用いてもよい。例えば、甘味料、酸味料、香料、酵母エキス、コーンや大豆などの植物タンパク質およびペプチド含有物、ウシ血清アルブミン等のタンパク質系物質、食物繊維やアミノ酸などの調味料、アスコルビン酸等の酸化防止剤、各種酸味料を、本発明の効果を妨げない範囲で必要に応じて用いることができる。」

8 甲8には、以下の事項が記載されている。
(甲8a)「【請求項1】
エキス分の総量が2.0重量%以下であるビールテイスト飲料であって、pHが2.7以上4.5以下である、前記飲料。」

(甲8b)「【0001】
本発明は、飲み応えのある低エキス分のビールテイスト飲料、その製造方法、及び低エキス分のビールテイスト飲料に飲み応えを付与する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
消費者の健康志向が高まる中、ビール、発泡酒、ビールテイスト飲料などの嗜好性飲料においても低カロリーや低糖質といった商品の需要が高まっている。具体例としては、ライトビールや、カロリーカットタイプあるいは糖質カットタイプのビールテイスト飲料などの様々なタイプのビールテイスト飲料の需要が高まってきている。また、道路交通法改正による飲酒運転の罰則強化により低アルコールもしくはアルコール度が0.00%のノンアルコールのビールテイスト飲料の需要が増加している。これらの健康志向のビールテイスト飲料を設計する場合、低エキス分の飲料とする方法を用いることができるが、エキス分の総量が低い飲料、即ち低エキス分のビールテイスト飲料においては、飲み応えが必ずしも十分ではない場合があった。特に、アルコール分の少ない、又はアルコール分を含まないビールテイスト飲料において、飲み応えを付与することは重要な課題である。
・・・
【0005】
しかし、ビールテイスト飲料、特に、麦芽などの成分濃度が低い、低エキス分のビールテイスト飲料に飲み応えを付与する手段は十分に検討されていない。本発明は、エキス分の総量が低いビールテイスト飲料であって飲み応え感が付与された飲料を提供することを目的とする。」

(甲8c)「【0016】
(エキス分)
本発明のビールテイスト飲料は、エキス分の総量が低い飲料である。飲料中のエキス分の総量が低いほど健康志向に沿った飲料(低カロリーや低糖質の飲料)と認知されやすくなる。本発明は、そのような、エキス分の総量が低いビールテイスト飲料に対して有効な技術である。」

(甲8d)「【0019】
例えば、実施例においては、エキス分の総量が2.0重量%より高いビールテイスト飲料においては、本発明による飲み応えの付与効果は発揮されず、エキス分の総量が2重量%以下の飲料において、飲み応えの付与効果が認められた。従って、本明細書でいうエキス分の総量が低いとは、例えば、ビールテイスト飲料のエキス分の総量が、2.0重量%以下、好ましくは1.0重量%以下、より好ましくは0.5重量%以下、より好ましくは0.4重量%以下、さらに好ましくは0.3重量%以下、特に好ましくは0.1重量%以下であることをいう。」

(甲8e)「【0033】
(その他の添加物)
本発明では、本発明の効果を妨げない範囲で、必要に応じて、様々な成分を添加してもよい。例えば、甘味料、香料、酵母エキス、カラメル色素等の着色料、コーンや大豆などの植物タンパク質及びペプチド含有物等のタンパク質系物質、食物繊維やアミノ酸などの調味料、アスコルビン酸等の酸化防止剤、各種酸味料を、本発明の効果を妨げない範囲で必要に応じて添加することができる。」

(甲8f)「【0056】
[実施例1]
<ノンアルコールのビールテイスト飲料の製造>
ノンアルコールのビールテイスト飲料を、以下の方法により製造した。麦芽20kgを適当な粒度に粉砕して仕込槽に入れ、これに120Lの温水を加え、約50℃のマッシュを作った。50℃で30分保持後、徐々に昇温して65℃?72℃で60分間、糖化を行った。糖化が完了したマッシュを77℃まで昇温後、麦汁濾過槽に移し濾過を行い、濾液を得た。
【0057】
得られた濾液の一部をとり、温水を加え、その際、濾液と温水の混合割合は、煮沸完了時のエキス分の総量が約4.0重量%になるよう調整した。製造スケールを100Lとし、ホップを約100g、市販のカラメル色素(クラスI)約40gを添加し、100℃で80分間煮沸した。煮沸後の液からオリを分離し、約2℃に冷却した。
【0058】
当該冷却液の一部をとり、最終製品のエキス分の総量が、0.01重量%となるように冷水を適量添加して希釈した。pH調整剤として乳酸を用い、当該希釈液に対して、pH調整剤(1回目)、酸化防止剤、香料、甘味料を各々適量加え、約24時間貯蔵した。その後、pH調整剤(2回目)を添加し、炭酸ガスを適量添加し、濾過・瓶詰め・殺菌(65℃以上で10分間加熱)の工程を経て、非発酵のノンアルコールビールテイスト飲料を調製した。pH調整剤(1回目と2回目)の量を調整することにより、pHが5.5の対照品1、及び、それよりもpH調整剤を多く用いたpHが3.0の発明品1を調製した。同様にして、pHが5.5に調整された対照品2?5(エキス分の総量が0.1?2.0重量%)、及びpHが3.0に調整された発明品2?5(エキス分の総量が0.1?2.0重量%)を調製した。
・・・
【0063】
[実施例2]
<pHの至適範囲の検討>
エキス分の総量が0.1重量%に調整されたノンアルコールのビールテイスト飲料を実施例1の方法に準じて製造した。その際、pH調整剤(1回目と2回目)を添加することにより、飲料のpHを2.5に調整して対照品6、pHを2.7?4.5に調整して本発明品6?10、そしてpHを5.0?6.0に調整して対照品7及び8を製造した。
【0064】
得られた各ビールテイスト飲料の飲み応えと酸味を評価した。専門パネリスト4名が評点法による官能試験を行い、4点満点で飲み応えと酸味を評価した。
【0065】
飲み応えの評価については実施例1の方法に準じた。
【0066】
酸味については、「感じない」=4点、「わずかに感じる」=3点、「やや感じる」=2点、「感じる」=1点と評価した。
【0067】
評価点の平均点を算出し、平均点に応じて3段階の評価を設けた:
平均点1.0以上?2.0未満 ×;
平均点2.0以上?3.0未満 △;
平均点3.0以上?4.0以下 ○。
【0068】
結果を表2に示す。飲み応えの評価結果より、pHが5.0及び6.0に調整された対照品7及び8は、飲み応えの評価が悪かった。一方、pHが4.5以下に調整された発明品6?10及び対照品6については、飲み応えの評価が良いことが示された。
【0069】
酸味の評価結果より、pHが2.5に調整された対照品6については、酸味の評価が低かった。一方、pHが2.7以上に調整された発明品6?10及び対照品7及び8については、酸味の評価は良好であった。
【0070】
【表2】

【0071】
以上のことより、飲み応えと酸味のいずれにおいても良好な評価が得られたのは、pHが2.7?4.5に調整された発明品6?10のみであることが示された。pHを2.7?4.5の範囲にすることによって、エキス分の総量が低いビールテイスト飲料に不快な酸味を発生させることなく、飲み応えを与えることができることが示された。」

第5 当審の判断
1 理由1A(進歩性)について
(1)甲1に記載された発明
甲1は、難消化性デキストリンを10?25g/l含有し、グルコース、マルトース、果糖ブドウ糖及びアセスルファムKから成る群から選択される少なくとも一種の甘味物質をショ糖換算で3?9g/l含有し、pH3.0?4.0である非発酵ビール風味飲料の発明に関するものであるところ(上記(甲1a))、その具体例を示した実施例6の[表14]の試験区19からみて(上記(甲1h))、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。

甲1発明:
「1Lあたりの配合量が、難消化性デキストリン 9.0g、アセスルファムK 0.03g、大豆タンパク質分解物 2.0g、カラメル 0.3g、ホップ 0.02g、及びリン酸(pH調整剤) pH3.5となる量になるように水に溶解し、1時間煮沸を行った後、蒸発分の水を追加し、冷却後香料 2.0gを添加し、清澄化のため珪藻土濾過及びフィルター濾過を実施し、液中に炭酸ガスを吹き込む事で炭酸ガスを2.9ガスボリュームとなるように溶解させ、容器詰めした後に、内温が65℃10分以上になるように熱殺菌して作成された、非発酵ビール風味飲料。」

(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「非発酵ビール風味飲料」は、発酵工程を経ないで製造されるビール風味アルコール飲料であるところ(上記(甲1b))、本件特許明細書に、「【0019】本発明に係るビールテイスト飲料は、一般的なビールテイスト飲料と同様にして製造できる。製造態様の1つとして以下に、一般的な非発酵のノンアルコールビールテイスト飲料の製造工程を示す。」と記載されていることからみて、本件特許発明1の「ビールテイスト飲料」に相当する。
甲1発明の非発酵ビール風味飲料は、pHが3.5であるから、本件特許発明1の「pHが3.0?4.0」であることと、pHが3.5である点で一致する。
そして、本件特許明細書には、「【0023】本明細書における『ビールテイスト飲料』とは、ビール様の風味をもつ炭酸飲料をいう。」、「【0028】(ホップ)本発明のビールテイスト飲料においては、原料の一部にホップを用いることができる。」、「【0029】(その他の原料)本発明では、本発明の効果を妨げない範囲で、必要に応じて、その他の原料を用いてもよい。例えば、甘味料(高甘味度甘味料を含む)、香料、カラメル色素などの着色料、・・・食物繊維やアミノ酸などの調味料、アスコルビン酸等の酸化防止剤・・・を、本発明の効果を妨げない範囲で必要に応じて用いることができる。」と記載され、実施例においても、「【0037】食物繊維溶液・・・、カラメル色素、イソα酸を100℃の温水で溶解させた。香料および乳酸を加え、炭酸水で液量を調整し、炭酸ガスを適量添加してアルコール含有量0.00v/v%のビールテイスト飲料を得た。」ことが記載されている。
したがって、甲1発明が、難消化性デキストリン、アセスルファムK、カラメル及びホップを含み、炭酸ガスを溶解させた非発酵ビール風味飲料であることは、本件特許発明1に包含され、相違点とはならない。
よって、両発明は次の一致点及び相違点A1?A3を有する。

一致点:
「pHが3.5であるビールテイスト飲料。」である点。

相違点A1:
本件特許発明1は、「プリン体含有量が0.5?5mg/100mL」であって「前記プリン体が、酵母エキス由来のプリン体」を含むのに対し、甲1発明は、酵母エキス由来のプリン体を含んでいない点。

相違点A2:
本件特許発明1は、「糖質含有量が0.5g/100mL以下」であると特定されているのに対し、甲1発明はそのように特定されていない点。

相違点A3:
本件特許発明1は、「大豆ペプチドを含有する」ビールテイスト飲料を除くと特定されているのに対し、甲1発明は、「大豆タンパク質分解物」を含む非発酵ビール風味飲料である点。

イ 判断
上記相違点について検討する。

(ア)相違点A1について
a 甲1は、血中中性脂肪の上昇抑制効果を有し、低カロリーでありながら、ビールらしい風味、即ち、「のどにグッとくる飲み応え」及び「飲んだ後のキレの良さ」が適度にバランスされた非発酵ビール風味飲料を提供することを目的とするものである(上記(甲1d))。
そして、難消化性デキストリンを含有することで、「バランスの良さ」、「のどにグッとくる飲み応え」及び「飲んだ後のキレの良さ」という特徴を有する非発酵ビール風味飲料が提供されることに加え、難消化性デキストリンは食後の血中中性脂肪の上昇を抑制する作用を有し、肥満、心疾患及び脳梗塞等の予防に有効であることも記載されている(上記(甲1e))。
また、甲1の背景技術には、難消化性デキストリンはビールの低カロリー化の目的で用いられていること、近年では消費者の健康志向が高まり、カロリーをできるだけ低下させた飲料が要求されていることも記載されている(上記(甲1c))。
そうすると、甲1発明の非発酵ビール風味飲料は、難消化性デキストリンを含有することで、飲んだときの好ましさを提供すると同時に、低カロリーであり、血中中性脂肪の上昇を抑制するという健康志向への要望にも沿うことを目的としているものといえる。

b 甲1には、非発酵ビール風味飲料に酵母エキスなどの原料を併用できることが記載されている(上記(甲1g))。
そして、甲5には、酵母エキスにプリン体が含まれていることが記載されている(上記(甲5b))。
しかしながら、甲5には、プリン体は体内に蓄積し痛風の原因となること、酵母エキスを摂取することによりプリン体も摂取してしまうことも記載されている(上記(甲5b))。
甲3にも、プリン体を減らしたりゼロにした発泡酒やビール風味飲料が発売されていることや、プリン体が痛風の原因であることが記載されている(上記(甲3a)、(甲3c))。
そうすると、健康志向への要望にも沿うことを目的としている甲1発明において、プリン体が含まれているという理由で酵母エキスを含有させる動機付けはなく、また、酵母エキスを含有させるとしても、本件特許発明1で特定されているプリン体含有量となる量で酵母エキスを配合することを動機付けるところもなく、相違点A1は、当業者が容易になし得たことではない。
また、その他の甲2?8の記載及び本件特許の出願時の技術常識を組み合わせたとしても、甲1発明において、本件特許発明1で特定されているプリン体含有量となる量で酵母エキスを配合することを動機付けるところはない。

(イ)相違点A2について
甲1には、甲1発明の非発酵ビール風味飲料の糖質含有量について記載されていないが、甲1は、低カロリーである非発酵ビール風味飲料の提供も目的とし(上記(甲1d))、それ自体がカロリーゼロの甘味料であるアセスルファムカリウムなどを用いることで、5kcal/100ml未満のエネルギー量を達成しやすく、糖質の含有量が0.5g/100mlであることも記載されている(上記(甲1f))。
そうすると、甲1発明の非発酵ビール風味飲料は、その成分及び甲1の上記記載からみて、糖質含有量が0.5g/100ml以下である蓋然性が高く、そうでないとしても、糖質含有量が0.5g/100ml以下とすることは、当業者が適宜なし得たことといえる。
よって、相違点A2は、実質的な相違点ではないか、実質的な相違点であるとしても、当業者が容易になし得たことである。

(ウ)相違点A3について
甲1発明の非発酵ビール風味飲料に含まれている「大豆タンパク質分解物」について、甲1には、含有することが好ましい成分として説明されており(上記(甲1f))、必須の成分ではないといえるから、これを含有しなものとすることは、当業者が適宜になし得たことである。

(エ)本件特許発明1の効果について
本件特許発明1は、ビールテイスト飲料において、プリン体含有量が0.5?5mg/100mL、糖質含有量が0.5g/100mL以下、pHが3.0?4.0とすることで、本件特許明細書【0009】記載の「糖質を抑え、かつ味わいを付与しながらも、後味のスッキリさを損なわず、良好な香味を有するビールテイスト飲料を提供する」という、甲1からは予測もし得ない効果を奏するものである。

ウ まとめ
以上のとおり、相違点A2及びA3は実質的な相違点ではないか当業者が容易になし得たことといえるものの、相違点A1は当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
したがって、本件特許発明1は、甲1発明並びに甲2?8の記載及び本件特許の出願時の技術常識を組み合わせることによって、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件特許発明2?3について
本件特許発明2は、本件特許発明1を引用して、「麦由来成分を含まない」ことを更に特定するものである。
本件特許発明3は、本件特許発明1又は2を引用して、「アルコール含有量が1v/v%未満である」ことを更に特定するものである。
甲1発明は、麦由来成分を含まず、アルコールを含有しないから、これらの点に関しては、甲1発明と本件特許発明2又は3との間に新たに相違するところはない。
しかしながら、これらの点を考慮しても、上記(2)で検討した本件特許発明1についての判断に影響はない。
よって、本件特許発明1のすべての発明特定事項を含む本件特許発明2?3についても、上記(2)で検討したのと同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)申立人の主張について
ア 申立人は、上記(1)で認定した甲1発明と同様な発明を認定し、上記(2)イで認定した相違点A1?A3について、相違点A2については相違点でないとし、相違点A1については、プリン体含有量に関する点を相違点1-1、酵母エキスの配合の有無に関する点を相違点1-2とし、相違点A3については相違点1-3として、相違点1-1?1-3は概略次のとおりの理由でいずれも容易であると主張している。
・ 甲1には、大豆タンパク質分解物は「のどにグッとくる飲み応え」の改善と泡保持効果を有する点から、非発酵ビール風味飲料に含有させることが好ましいと記載されている(上記(甲1f))。
・ 甲1には「のどにグッとくる飲み応え」の定義はないが「飲み応え」の一態様であるから、「コク」を増強し得る成分であれば「のどにグッとくる飲み応え」を改善できるであろうことを、当業者は理解できる。また、甲1において「のどにグッとくる飲み応え」を改善する成分とされている難消化性デキストリンは、ビールテイスト飲料にコクを付与するために使用されている成分である(上記(甲6b))。
・ 酵母エキスは、大豆タンパク質分解物と同様にビールテイスト飲料に配合されている成分であって(上記(甲7a)、(甲8e))、コクの付与や、泡品質の改善効果が知られている(上記(甲4a)、(甲5a))。
・ 甲1にも、酵母エキスを配合できることが記載されている(上記(甲1g))。
・ 酵母エキスは、大豆タンパク質分解物の代替品としても広く用いられている(上記(甲2a))。
・ プリン体は、通風の原因物質であり、健康志向のビールテイスト飲料中のプリン体含有量は多くない方が好ましいことは、本件特許の出願時の技術常識である(上記(甲3a)、(甲5b))。
・ 一方で、プリン体にはうま味成分であるグアニル酸とイノシン酸が含まれており(上記(甲3b)、(甲3d))、呈味改善の点から、ある程度の量のプリン体が含まれていることは好ましい。
以上のことから、酵母エキスは、大豆タンパク質分解物と同様に、コクの付与や泡品質改善のためにビールテイスト飲料に汎用されている成分であり、酵母エキスは、大豆タンパク質分解物の代替品として使用されるものであるから、甲1発明において、大豆タンパク質分解物に代えて、酵母エキスを用いることは、本件特許の出願時の周知技術を適用したに過ぎず、プリン体含有量についても、呈味や酵母エキス添加効果と健康の点からある範囲内に調製することは、当業者が通常行う設計事項に過ぎない。

イ 上記申立人の主張について検討する。
申立人の主張は、甲1の「のどにグッとくる飲み応え」は「コク」を増強できる成分であればよいことを前提に、甲1発明の「大豆タンパク質分解物」を「酵母エキス」にかえることは容易というものと解されるところ、甲1には、「難消化性デキストリンを含有することで、得られる飲料は、飲んだときにのどに引っかかる感覚を与える」こと(上記(甲1e))、「穀物由来タンパク質分解物を含有することで、非発酵ビール風味飲料の飲んだときにのどに引っかかる感覚、すなわち、『のどにグッとくる飲み応え』がより増強される」こと(上記(甲1f))が記載されていることから、甲1発明においては、「難消化性デキストリン」及び「大豆タンパク質分解物」はいずれも「飲んだときにのどに引っかかる感覚」を与えるために配合されているものといえる。
しかしながら、「酵母エキス」は「飲んだときにのどに引っかかる感覚」を与えるものであることは技術常識とはいえないから、甲1の記載に基づけば、むしろ「大豆タンパク質分解物」を「酵母エキス」にかえる動機付けはないといえる。
また、「酵母エキス」を呈味付与や泡品質改善の観点から「大豆タンパク質分解物」にかえるとしても、その配合量を、プリン体含有量に着目して調整することを動機付けるに足る理由もない。
したがって、申立人の主張は採用できない。

(5)理由1A(進歩性)についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件特許発明1?3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第2号により取り消すべきものではない。

2 理由1B(進歩性)について
(1)甲8に記載された発明
甲8は、エキス分の総量が2.0重量%以下であり、pHが2.7以上4.5以下であるビールテイスト飲料の発明に関するものであるところ(上記(甲8a))、その具体例を示した実施例2の表2の発明品8からみて(上記(甲8f))、甲8には次の発明(以下、「甲8発明」という。)が記載されていると認める。

甲8発明:
「麦芽を原料としホップ及びカラメル色素(クラス1)を含むエキス分を含有する希釈液に、pH調整剤として乳酸を用い、pH調整剤(1回目)、酸化防止剤、香料、甘味料を各々適量加え、約24時間貯蔵し、その後、pH調整剤(2回目)を添加し、炭酸ガスを適量添加し、濾過・瓶詰め・殺菌(65℃以上で10分間加熱)の工程を経て、最終製品のエキス分の総量が、0.1重量%となるように調整され、pHが3.5であり、カロリーが0.4kcal/100ml、糖質量が0.1g/100mlである、非発酵のノンアルコールのビールテイスト飲料。」

(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲8発明とを対比する。
甲8発明の「非発酵のノンアルコールのビールテイスト飲料」は、上記1(2)アと同様の理由から、本件特許発明1の「ビールテイスト飲料」に相当し、大豆ペプチドを含有しない点でも一致する。
甲8発明の非発酵のノンアルコールのビールテイスト飲料は、pHが3.5であるから、本件特許発明1の「pHが3.0?4.0」であることと、pHが3.5である点で一致する。
甲8発明の非発酵のノンアルコールのビールテイスト飲料は、糖質量が0.1g/100mlであるから、本件特許発明1の「糖質含有量が0.5g/100mL以下」であることに相当する。
そして、甲8発明が、ホップ、カラメル色素(クラス1)、酸化防止剤、香料及び甘味料を含み、炭酸ガスを添加した非発酵のノンアルコールのビールテイスト飲料であることは、上記1(2)アと同様の理由から、本件特許発明1に包含され、相違点とはならない。
よって、両発明は次の一致点及び相違点B1を有する。

一致点:
「糖質含有量が0.5g/100mL以下、pHが3.5であるビールテイスト飲料(但し、大豆ペプチドを含有するものを除く)。」である点。

相違点B1:
本件特許発明1は、「プリン体含有量が0.5?5mg/100mL」であって「前記プリン体が、酵母エキス由来のプリン体」を含むのに対し、甲8発明は、酵母エキス由来のプリン体を含んでいない点。

イ 判断
上記相違点B1について検討する。

(ア)相違点B1について
甲8は、消費者の健康志向に沿った、低カロリーや低糖質である、エキス分の総量が低いビールテイスト飲料であって、飲み応え感が付与された飲料を提供することを目的とするものである(上記(甲8b)、(甲8c))。
甲8には、非発酵のノンアルコールのビールテイスト飲料に酵母エキスなどの成分を添加できることは記載されているが(上記(甲8e))、上記1(2)イ(ア)で検討したのと同様に、健康志向に沿った飲料の提供を目的としている甲8発明において、プリン体が含まれているという理由で酵母エキスを含有させる動機付けはなく、また、酵母エキスを含有させるとしても、本件特許発明1で特定されているプリン体含有量となる量で酵母エキスを配合することを動機付けるところもなく、相違点B1は、当業者が容易になし得たことではない。
また、その他の甲3、5?7の記載及び本件特許の出願時の技術常識を組み合わせたとしても、甲8発明において、本件特許発明1で特定されているプリン体含有量となる量で酵母エキスを配合することを動機付けるところはない。

(イ)本件特許発明1の効果について
本件特許発明1は、ビールテイスト飲料において、プリン体含有量が0.5?5mg/100mL、糖質含有量が0.5g/100mL以下、pHが3.0?4.0とすることで、本件特許明細書【0009】記載の「糖質を抑え、かつ味わいを付与しながらも、後味のスッキリさを損なわず、良好な香味を有するビールテイスト飲料を提供する」という、甲8からは予測もし得ない効果を奏するものである。

ウ まとめ
したがって、本件特許発明1は、甲8発明並びに甲3、5?7の記載及び本件特許の出願時の技術常識を組み合わせることによって、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件特許発明2?3について
本件特許発明2は、本件特許発明1を引用して、「麦由来成分を含まない」ことを更に特定するものである。
本件特許発明3は、本件特許発明1又は2を引用して、「アルコール含有量が1v/v%未満である」ことを更に特定するものである。
甲8発明は、アルコールを含有しないから、この点に関しては、甲8発明と本件特許発明3との間に新たに相違するところはない。
しかしながら、この点を考慮しても、上記(2)で検討した本件特許発明1についての判断に影響はない。
よって、本件特許発明1のすべての発明特定事項を含む本件特許発明2?3についても、上記(2)で検討したのと同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)申立人の主張について
ア 申立人は、上記(1)で認定した甲8発明と同様な発明を認定し、上記(2)イで認定した相違点B1について、プリン体含有量に関する点を相違点2-1、酵母エキスの配合の有無に関する点を相違点2-2として、相違点2-1?2-2は概略次のとおりの理由でいずれも容易であると主張している。
相違点2-1については、甲6に、麦由来のエキス分が0.72重量%程度に増量した場合に、飲料のプリン体含有量は2mg/100mL程度になることが記載されており(上記(甲6a))、甲8に、エキス分の総量を1.0重量%程度とすることも好ましいことが記載されているから(上記(甲8d))、甲8発明において、原料の麦芽使用量を増大させてエキス分の総量を適宜調整することにより、プリン体含有量を0.5?5mg/100mLの範囲内にすることは、当業者が容易になし得ることである。
相違点2-2については、甲8に、低エキス分のアルコール分を含まないビールテイスト飲料において、飲み応えを付与することは重要な課題であることが記載されているところ(上記(甲8b))、酵母エキスは、ビールテイスト飲料にコクを付与するために汎用されている成分であり(上記(甲5a)、(甲7a))、甲8にも酵母エキスを添加できることが記載されている(上記(甲8e))から、甲8発明において、さらに飲み応えを改善するために、酵母エキスをさらに添加することは、当業者にとって容易になし得ることである。

イ 上記申立人の主張について検討する。
申立人の主張は、相違点B1をプリン体含有量と酵母エキスの配合の有無に分けて、前者は甲8発明のエキス分の原料である麦芽使用量を調整することで容易に調整し得るとし、後者は飲み応えを付与するために酵母エキスを添加することは容易であるというものと解されるが、酵母エキスにもプリン体は含まれているのであるから、申立人の主張を考慮しても、麦芽由来のプリン体と酵母エキス由来のプリン体の両方に着目して、得られる非発酵のノンアルコールのビールテイスト飲料中のプリン体含有量を、本件特許発明で特定するプリン体含有量となるように、麦芽使用量と酵母エキスの添加量を調整する動機付けがあるとはいえない。
したがって、申立人の主張は採用できない。

(5)理由1B(進歩性)についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件特許発明1?3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第2号により取り消すべきものではない。

3 理由2(実施可能要件)及び理由3(サポート要件)について
(1)本件特許発明の解決しようとする課題
本件特許明細書の記載、特に【0006】からみて、本件特許発明1?3の解決しようとする課題は、「糖質を抑え、かつ味わいを付与しながらも、後味のスッキリさを損なわず、良好な香味を有するビールテイスト飲料を提供すること」にあると認める。

(2)本件特許明細書の記載
ア 課題を解決するための手段の記載
「【0007】
本発明者らが鋭意研究を進めたところ、ビールテイスト飲料のプリン体、糖質、pHを特定範囲内とすることで、糖質を抑え、かつ味わいを付与しながらも後味のスッキリさを損なわず、飲料のバランスを良くする知見を見出した。」

イ プリン体、糖質、pHに関する記載
「【0012】
本発明に係るビールテイスト飲料中のプリン体の含有量は、飲料100mLあたり0.5?5mgである。プリン体の含有量は、飲料に十分な味わいを付与する観点から0.5mg/100mL以上であり、1.0mg/100mL以上が好ましく、1.5mg/100mL以上がより好ましく、後味のスッキリさに優れる観点から、5mg/100mL以下であり、4.5mg/100mL以下が好ましく、4.0mg/100mL以下がより好ましい。」
「【0013】
本発明に係るビールテイスト飲料における糖質の含有量は、飲料100mLあたり0.5g/100mL以下である。本発明に係るビールテイスト飲料は、近年の低糖質嗜好に合わせて、低糖質であることが望ましい。従って、このような観点より、糖質の含有量は、好ましくは0.4g/100mL以下、より好ましくは0.3g/100mL以下である。また、下限は特に設定されないが、通常、0.1g/100mL程度であり、例えば、0.15g/100mL以上であっても、0.2g/100mL以上であってもよい。」
「【0018】
本発明のビールテイスト飲料の20℃におけるpHは3.0?4.0である。味の総合的な調和の観点から、pH3.0以上であり、pH3.4以上が好ましく、pH4.0以下であり、pH3.8以下が好ましい。」

ウ 実施例の記載
「【0033】
<プリン体の評価>
プリン体は、過塩素酸による加水分解後にLC-MS/MSを用いて検出する方法(「酒類のプリン体の微量分析のご案内」、財団法人日本食品分析センター、インターネット<URL:http://www.jfrl.or.jp/item/nutrition/post-31.html>、平成27年8月検索)により測定した。
【0034】
<糖質の評価>
糖質の測定は、栄養表示基準(平成15年厚生労働省告示第176号)による計算式を用いた。
【0035】
<香味の評価>
本明細書において、ビールテイスト飲料の香味を、評点法による官能試験によって評価した。専門パネリスト4名が、ビール様の香味について、味の厚み、後味のスッキリさ、更に、それらを含めた総合評価をそれぞれ、5点満点で評価した。「非常に良い」=5点、「良い」=4点、「普通」=3点、「悪い」=2点、「非常に悪い」=1点として、評価点の平均点を算出した。平均点が3.0以上であれば飲料として問題はないが、4.0点以上であることが好ましい。なお、総合評価とは、味の厚み、後味のスッキリさの他にネガティブな香味がないかどうかを総合的に評価したものである。」
「【0036】
実施例1?6及び比較例1?4
<ビールテイスト飲料の製造>
表1及び2に示すビールテイスト飲料を下記のように調製した。
【0037】
食物繊維溶液(松谷化学社ファイバーソルII)、酵母エキス(Kerry社HY-YEST504)溶液、カラメル色素、イソα酸を100℃の温水で溶解させた。香料および乳酸を加え、炭酸水で液量を調整し、炭酸ガスを適量添加してアルコール含有量0.00v/v%のビールテイスト飲料を得た。配合量はカラメル色素0.02質量%、イソα酸0.007質量%、香料0.06質量%である。糖質およびプリン体濃度、pHは表1、2に示す通りであった。
【0038】
得られたビールテイスト飲料について、上記評価方法により香味を評価した。結果を表1及び2に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【0041】
比較例1、3および実施例1、4より、ビールテイスト飲料のpHが4.0以下であると、後味のスッキリさ、総合評価において好ましいことがわかる。また、比較例2、4および実施例3、6より、pHが3.0以上であると、総合評価において好ましいことがわかる。pHが2.8では、味の厚みや後味のスッキリさは好評価であっても、酸味が強すぎて香味全体のバランスが悪いものとなる。」

(3)判断
上記(2)の本件特許明細書の一般記載及び実施例の記載から、本件特許発明1?3の課題は、ビールテイスト飲料のプリン体、糖質、pHを特定範囲内とすることで解決できることが理解できる。
また、本件特許明細書には、本件特許発明1?3のビールテイスト飲料及びその製造方法について、上記(2)ウに実施例を伴い記載されており、その効果も確認されている。
したがって、本件特許発明1?3は、本件特許明細書の発明の詳細な説明において、本件特許発明1?3の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲内のものであるから、本件特許発明1?3が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満足しないとはいえない。
また、本件特許明細書の発明の詳細は説明の記載は、本件特許発明1?3を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるから、本件特許発明1?3が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満足しないとはいえない。

(4)申立人の主張について
申立人は、発明の詳細な説明の記載不備及び特許請求の範囲の記載不備の理由として、いずれも概略次のように主張する。
本件特許発明のビールテイスト飲料には、その他の成分の組成が多種多様であるビールテイスト飲料が含まれており、酵母エキスも、多数のアミノ酸やタンパク質分解物などの呈味やコクに影響を与える成分を含有している(上記(甲5a))。
したがって、本件特許明細書の記載からは、プリン体と糖質以外の他の成分の組成が本件特許明細書の実施例1?6のビールテイスト飲料とは大きく異なるビールテイスト飲料においても、実施例1?6のビールテイスト飲料と同様の効果が奏されるとは、当業者には理解できない。
しかしながら、本件特許発明は、糖質をカットすると味わいが減ってしまうため、旨味成分であるプリン体を添加した場合、その含有量が高いと後味のスッキリさを損ねてしまうという従来技術の問題点から、糖質を抑え、かつ味わいを付与しながらも、後味のスッキリさを損なわず、良好な香味を有するビールテイスト飲料とするために、プリン体含有量、糖質含有量及びpHを特定範囲としたものであり、その他の成分についても、本件特許明細書【0029】に、本発明の効果を妨げない範囲で、必要に応じて用いることができることが説明されている。
そして、申立人は、他の成分によって、本件特許発明の課題が解決できないことや、本件特許発明が実施できないことについて、具体的な理由を示していない。
よって、申立人の主張は採用できない。

(5)理由2(実施可能要件)及び理由3(サポート要件)についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件特許発明1?3に係る特許は、特許法第36条第4項第1号及び特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第4号により取り消すべきものではない。

第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2020-08-31 
出願番号 特願2017-538494(P2017-538494)
審決分類 P 1 651・ 536- Y (A23L)
P 1 651・ 537- Y (A23L)
P 1 651・ 121- Y (A23L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 福澤 洋光  
特許庁審判長 村上 騎見高
特許庁審判官 関 美祝
齊藤 真由美
登録日 2019-10-25 
登録番号 特許第6605033号(P6605033)
権利者 サントリーホールディングス株式会社
発明の名称 ビールテイスト飲料  
代理人 細田 芳徳  

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