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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08G
管理番号 1366109
異議申立番号 異議2020-700322  
総通号数 250 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-10-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-05-07 
確定日 2020-09-28 
異議申立件数
事件の表示 特許第6603004号発明「エポキシ樹脂組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6603004号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6603004号(請求項の数7。以下、「本件特許」という。)は、令和1年8月21日を出願日とする出願であって、令和1年10月18日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は、令和1年11月6日である。)。
その後、令和2年5月7日に、本件特許の請求項1?7に係る特許に対して、特許異議申立人である三谷富子(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。

第2 特許請求の範囲の記載
特許第6603004号の特許請求の範囲の記載は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1?7に記載される以下のとおりのものである。(以下、請求項1?7に記載された事項により特定される発明を「本件発明1」?「本件発明7」といい、まとめて「本件発明」ともいう。また、本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)

「【請求項1】
エポキシ樹脂組成物であって、下記成分(A)?(D):
(A)少なくとも1種の、チオール基を3つ以上有する多官能チオール化合物を含むチオール系硬化剤;
(B)少なくとも1種の多官能エポキシ樹脂;
(C)少なくとも1種の芳香族単官能エポキシ樹脂を含む架橋密度調節剤;及び
(D)硬化触媒
を含み、
前記成分(B)についてのエポキシ官能基当量の、前記成分(A)についてのチオール官能基当量に対する比(〔エポキシ官能基当量〕/〔チオール官能基当量〕)が、0.40以上、0.70以下であり、
前記成分(C)についてのエポキシ官能基当量の、前記成分(A)についてのチオール官能基当量に対する比(〔エポキシ官能基当量〕/〔チオール官能基当量〕)が、0.15以上、0.50以下であり、
25℃での粘度が4Pa・s以下である、エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
成分(C)がp-tert-ブチルフェニルグリシジルエーテルを含む、請求項1記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
25℃での粘度が3Pa・s以下である、請求項1又は2記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
成分(A)が分子中にエステル結合を有するチオール化合物と、分子中にエステル結合を有しないチオール化合物とを含む、請求項1?3のいずれか1項記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1?4のいずれか1項記載のエポキシ樹脂組成物を含む封止材。
【請求項6】
請求項1?4のいずれか1項記載のエポキシ樹脂組成物、又は請求項5に記載の封止材を硬化させることにより得られる硬化物。
【請求項7】
請求項6記載の硬化物を含む電子部品。」

第3 申立理由の概要及び証拠方法
申立人がした申立ての理由の概要は、以下に示すとおりである。
1 申立理由の概要
(1)申立理由1
本件発明1?7は、本件出願前に頒布された以下の刊行物である甲第1号証に記載された発明及び甲第2?13号証に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件発明1?7の特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。

2 証拠方法
甲第1号証:国際公開第2018/229583号
甲第2号証:エポキシ樹脂用硬化剤(潜在性硬化剤)フジキュアー 固形タイプ、株式会社T&K TOKAのウエブページ、令和2年4月30日(印刷日)(https://www.tk-toka.co.jp/product/jushi/epoxy/detail/files/fujicure_solid.pdf)
甲第3号証:Cardura^(TM) E10P Glycidyl Esterのカタログ、HEXION社のウエブページに掲載、令和2年4月30日(印刷日)(https://www.hexion.com/docs/default-source/versatic-acids/epcd-hxn-526.pdf?sfvrsn=8e4a9fa_9)
甲第4号証:Advanced Materials High Performance Componentsのカタログ、HUNTSMAN社のウエブページに掲載、令和2年4月30日(印刷日)(https://www.huntsman.com/advanced_materials/Media%20Library/global/files/2015%20US%20High%20Performance%20Components%20Brochure.pdf)
甲第5号証:THIOCURE^(R)(原文は○の中にR)のカタログ、BRUNO BOCK THIOCHEMICALS社のウエブページに掲載、令和2年4月30日(印刷日)(https://chemie.worlee.de/uploads/chemistry/attachments/THI0CURE%20Brochure%2004-2016_2_5b698b603bbcf.pdf)
甲第6号証:特開2004-79214号公報
甲第7号証:小椋一郎著、エポキシ樹脂の化学構造と特性の関係 DIC Technical Review No.7/2001、DIC株式会社のウエブページに掲載(https://www.dic-global.com/pdf/r_and_d/review/dic_r_and_d_2001.pdf)
甲第8号証:中国特許出願公開第103571418号明細書
甲第9号証:特開2017-95571号公報
甲第10号証:特開2015-113426号公報
甲第11号証:特開2014-152236号公報
甲第12号証:特開2013-221091号公報
甲第13号証:特開2015-131772号公報
以下、「甲第1号証」等を「甲1」等という。

第4 特許異議申立の理由についての当審の判断
1 申立理由1について
(1)各甲号証の記載
ア 甲1
甲1には以下の事項が記載されている。なお、甲1の記載は、申立人が提出したその日本語訳である甲1の訳文に基づいて当審が作成した。
(1a)「請求項1
1分子あたり少なくとも2つのエポキシド基を有するエポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂成分と、少なくとも2つの1級チオール基を有するポリチオール化合物を含むチオール成分と、下記一般式(II)を有するシラン官能化接着促進剤と:
(X)_(m)-Y-(Si(R^(2))_(3))_(m)
式中、
Xはエポキシまたはチオール基であり、
Yは脂肪族基であり、
mおよびnは独立して1?3であり、
各R^(2)は独立してアルコキシ基である、
エポキシ樹脂を硬化させるための窒素含有触媒と、
を含み、前記エポキシ樹脂成分および/または前記チオール成分は、円筒形マンドレル曲げ試験によってクラックを生じない、および/または引張弾性率および伸長試験によって少なくとも100%の引張伸長を有する硬化ポリマー材料を提供するように選択される、硬化性エポキシ/チオール樹脂組成物。」(特許請求の範囲の請求項1)

(1b)「概要
本開示は、硬化性エポキシ/チオール樹脂組成物を提供する。硬化性エポキシ/チオール系は、硬化するとシリコーン表面への良好な接着性、および特定の実施形態では良好な可撓性を有する硬化したポリマー材料(例えば、接着性ポリマー材料)を提供する。」(第1頁下から第10?6行)

(1c)「したがって、本開示の硬化性エポキシ/チオール樹脂組成物は、温度に敏感な接着用途、特に電子産業、例えば、携帯電話の組み立ておよびプラスチックと金属部品の接着における使用に適している。また、自動車や航空宇宙産業など、部品の接着に使用することもできる。」(第9頁第11?15行)

(1d)「したがって、硬化性エポキシ/チオール樹脂組成物から調製された硬化ポリマー材料は、シリコーン上のコーティングなどの可撓性コーティングとして機能することができる。例えば、硬化したポリマー材料は、感圧性シリコーン接着剤のバリアコートとして機能することができる。特に、硬化したポリマー材料は、シリコーンテープ(例えば、シリコーンマスキングテープ)中のシリコーンバッキング層と感圧性シリコーン接着剤との間の結合層として有効であり得る。硬化した高分子材料は、シリコーン基板への優れた接着性と、感圧性シリコーン接着剤からの可塑剤の移動に対する優れたバリア特性を示す。」(第9頁下から第4行?第10頁第4行)

(1e)「特定の実施形態では、好ましいエポキシ樹脂成分は柔軟である。これにより、エポキシ樹脂成分は、チオール成分(柔軟であるかどうかにかかわらず)と組み合わされて硬化すると、円筒形マンドレル曲げ試験によってクラックが発生しないか、および/または引張弾性率および伸長試験によって少なくとも1 0 0 %の引張伸長を有する硬化ポリマー材料を提供する。このような柔軟性は、柔軟性のあるエポキシ化合物および/または反応性の単官能希釈剤によって提供することができる。柔軟なエポキシ化合物には、線状または環状の脂肪族骨格構造に基づくものが含まれる。また、エポキシ化合物の柔軟性は、反応部位間の側鎖長および/または分子量を増加させることによって増加させることができる。
線状または環状脂肪族構造に基づくエポキシ化合物は柔軟性を提供し、HEMOXY 71、EPON 872、およびEPONEX 1510(すべて Momentive SpecialityChemicals, Inc.(オハイオ州コロンバス))の商品名で入手可能なものを含む。これらには、ポリエーテルのジグリシジルエーテルが含まれる。その例としては、Olin Epoxy Co.(ミズーリ州セントルイス)から商品名 DER 732およびDER 736で入手可能なもの、Momentive SpecialityChemicals, Inc. から入手可能なHELOXY84、EMS- Griltech(Domat/Ems、スイス)から入手可能なGRILONIT F 713 が含まれる。カシューナッツオイルやその他の天然油をベースにしたエポキシも柔軟性を提供する。その例としては、Cardolite(Monmouth Junction、ニュージャージー)からNC513およびNC514の商品名で入手可能なものや、Momentive Speciality Chemicals, Inc.から入手可能なHELOXY 505がある。ペンダント脂肪族基を有するビスフェノールAのジグリシジルエーテルに基づくエポキシも柔軟性を提供できる。その一例は、ハンツマン(テキサス州ザ ウッドランズ)から商品名 ARALDITE PY 4122 で入手可能なビスフェノールAのアルキル官能化ジグリシジルエーテルである。」(第16頁第17行?第17頁第6行)

(1f)「エポキシ樹脂成分は、多くの場合、材料の混合物である。例えば、エポキシ樹脂は、硬化前に所望の粘度または流動特性を提供する混合物であるように選択することができる。例えば、エポキシ樹脂のなかには、単官能性または特定の多官能性エポキシ樹脂を含む反応性希釈剤があり得る。反応性希釈剤は、少なくとも2つのエポキシ基を有するエポキシ樹脂の粘度よりも低い粘度を有するはずである。通常、反応性希釈剤の粘度は250mPa・s未満である必要がある。反応性希釈剤は、エポキシ/チオール樹脂組成物の粘度を低下させる傾向があり、飽和した分岐骨格または飽和または不飽和の環状骨格のいずれかをしばしば有する。好ましい反応性希釈剤は、様々なモノグリシジルエーテルのように、ただ1つの官能基(すなわち、オキシラン基)を有する。
いくつかの例示的な単官能性エポキシ樹脂としては、(C6-C28)アルキルグリシジルエーテル、(C6-C28)脂肪酸グリシジルエステル、(C6-C28)アルキルフェノールグリシジルエーテル、およびそれらの組み合わせが挙げられる。単官能性エポキシ樹脂が反応性希釈剤である場合、そのような単官能性エポキシ樹脂は、エポキシ樹脂成分の合計に基づいて最大50部の量で使用されるべきである。そのような希釈剤の例は、Hexion Inc. (オハイオ州コロンバス)からカージュラ ElOPグリシジルエステルの商品名で入手可能な、高度に分岐したClO異性体の合成飽和モノカルボン酸であるバーサチック酸10のグリシジルエステルである。エポキシ樹脂中のこのような単官能希釈剤成分を使用して、本開示の硬化性エポキシ/チオール樹脂組成物から製造される硬化材料の柔軟性を高めることができる。」(第17頁第12行?最下行)

(1g)「チオール成分
チオールは、炭素結合スルフヒドリルまたはメルカプト(-C-SH)基を含む有機硫黄化合物である。適切なポリチオールは、1分子あたり2つ以上のチオール基を有し、エポキシ樹脂の硬化剤として機能する多種多様な化合物から選択される。
適切なポリチオールの例としては、トリメチロールプロパントリス(ベーターメルカプトプロピオネート)、トリメチロールプロパントリス(チオグリコレート)、ペンタエリスリトールテトラキス(チオグリコレート)、ペンタエリスリトールテトラキス(ベーターメルカプトプロピオネート)、ジペンタエリスリトールポリ(ベーターメルカプトプロピオネート)、エチレングリコールビス(ベーターメルカプトプロピオネート)、(Cl-C12)アルキルポリチオール(例えば、ブタン-1, 4-ジチオールおよびヘキサン-1, 6-ジチオール)、(C6-Cl2)芳香族ポリチオール(例えば、p-キシレンジチオールおよび1, 3, 5-トリス(メルカプトメチル)ベンゼン)が挙げられる。必要に応じて、ポリチオールの組み合わせを使用できる。」(第18頁第10?21行)

(1h)「実施例
・・・
材料

・・・
」(第43頁第11行?第45頁中段)

(1i)「硬化阻害剤の溶解性
硬化阻害剤の溶解性は、BYK Gardner (ミッドランド州シルバースプリング)のBYK GARDNER HAZE-GARD PLUSを使用して、光透過率および透明度によって評価した。測定中、装置は空気に対して参照された。未硬化の樹脂の透過率および透明度を測定するために、平均厚さが0.039インチ(0.99mm)の2つのきれいなガラス顕微鏡スライドの間にテフロンスペーサーを取り付け、スペーサーが光学測定領域の外側でおよそ0.072インチ(1.83 mm)のギャップを生じさせ、当該ギャップに硬化阻害剤を含む樹脂が配置されるようにした。また、測定領域の外側に取り付けられたクランプを使用して、ガラス片をスペーサーにしっかりと固定し、ギャップの間隔がスペーサーの厚さに制限されるようにした。透過率、ヘイズ、透明度について、各サンプルを5回ずつ独立して測定した。平均透過率および平均透明度が報告された。透明度については、80%、85%、90%、さらには95%以上の値を持つことが望ましい。透過率については、80%、85%、さらには90%以上の値を持つことが望ましい。」(第47頁第13行?27行)

(1j)「実施例
硬化阻害剤の溶解性の評価
硬化阻害剤であるl-ベンジル-5-フェニルバルビツール酸(BPBA)の溶解特性を次のように評価した。表Aに示す材料および量(重量部)および以下の手順を使用して、混合物を調製した。材料をFlacktekInc.(ランドラム、SC)のMAX 60SPEEDMIXER カップに追加し、Flacktek Inc. (ランドラム、SC) の DAC 600 FVZ SPEEDMIXERを使用して、毎分2,250回転(rpm)で30秒間混合し、続いて1,000 ワットの市販の電子レンジで20秒間加熱した。次に、サンプルをDAC 600 FVZ SPEEDMIXERで2,250rpmで2分間再混合し、FlackTek Inc.のDAC 600.2 VAC-P SPEEDMIXERを使用して脱気した。脱気サイクルは次のとおりである。1)サンプルを大気圧、1,000rpm で20秒間混合する。2)真空引きして最終圧力を30 Torr (4キロパスカル)に下げながら、サンプルを1,500rpmで2分間混合する。3)大気圧に排気しながら、サンプルを1,000rpmで20秒間混合する。得られたサンプルについて、上記の「硬化阻害剤の溶解性」試験方法で説明したように、透過率および透明度を評価した。結果を下記の表Aに示す。さらに、不溶性物質の存在について、サンプルを肉眼で評価した。


高い透過率および透明度の値は、不溶性成分のない均一溶液であることを示している。上記の表Aの結果は、置換バルビツール酸誘導体が5重量%もの高いレベルで、示されている樹脂組成物に可溶であったことを示している。比較すると、非置換のバルビツール酸サンプルは、視認可能な不溶性物質を含むことに加えて、透過率および透明度が有意に低下していた。」(第48頁第4行?第49頁第5行)

(1k)「エポキシ樹脂組成物AおよびB、並びに比較エポキシ樹脂組成物A (CR-A)
以下の表1に示される材料および量を使用して、一液型エポキシ樹脂接着組成物を調製した。FXR 1081を除く材料を、FlackTek, Inc.(Landrum、SC) 製のMAX60 SPEEDMIXERカップに入れ、Fla ckTek, Inc.(Landrum、SC)製のDAC 600 FVZ SPEEDMIXERを使用して、1,500rpmで1分間混合した。次に、各混合物にFXR1081を加え、さらに1,500rpmで1分間混合して、未硬化のエポキシ樹脂接着剤組成物を得た。


実施例1-4と比較例1(CE-1)
様々なシリコーンゴム及び硬化エポキシ樹脂組成物AおよびB、ならびに硬化比較エポキシ樹脂組成物Aとの間の剥離接着強度を、上記の試験方法「T剥離接着強さ」に従って評価した。結果を以下の表2に示す。
表2:剥離接着強度

強化剤、シラン官能化接着促進剤、可撓性エポキシ成分を含んだ実施例2-4は、最も高い剥離接着強さを示した。これらの結果は、様々なシリコーンゴム基材の上で観察された。シラン官能化接着促進剤を含有し強化剤を含有しない実施例1は、強化剤またはシラン官能化接着促進剤を含有しない比較例1と比較して有意に高い剥離接着強さを示した。

実施例1、2および比較例1は、上述した「引張弾性率及び伸び率」および「円筒形マンドレル曲げ試験」の試験方法に従って引張弾性率と耐クラック性について評価した。結果を以下の表3に示す。比較例1は、シリコン表面からの膜の剥離によるマンドレル試験に不合格であった。
表3:引張弾性率及びマンドレル屈曲特性

」(第49頁第6行?第50頁下から3行)

イ 甲3
甲3には以下の事項が記載されている。なお、甲3の記載は申立人が提出した訳文によった。
(3a)「カージュラ^(TM) E10P グリシジルエステル」(表題)

(3b)「カージュラ E10P モノマー
カージュラE10Pは、10個の炭素原子を含む高度に分岐したカルボン酸であるバーサチック(商標)酸10のグリシジルエステルである。
カージュラE10Pモノマーは嵩高く疎水性の中間体であり、反応性エポキシ基を介して容易に樹脂中に導入される。
特性:
・およそのエポキシ基含量:4170mmol/kg
・沸点の範囲:251?278℃(5-95%)
・低粘度(23℃):7mPa・s」(第1頁左欄第1?14行)

ウ 甲7
甲7には以下の事項が記載されている。
(7a)「エポキシ樹脂の化学構造と特性の関係」(第1頁第1行 表題)

(7b)「1 緒言
エポキシ樹脂の化学構造と特性の関係に関しては,今日まで多くの研究がなされており,これらの研究成果はエポキシ樹脂の技術的発展に大きく寄与してきた^(1))。この関係を明確化することは,アプリケーション開発者側からの要求特性を満足する新規エポキシ樹脂の速やかかつ効率的な分子設計に不可欠であると考える。
今回,エポキシ樹脂の化学構造と特性の関係を明らかにするといった観点から,過去の半導体封止材などの電子材料用エポキシ樹脂に関する研究開発の過程で得られた多くの実験データや知見をあらためて解析し,理論的にまとめあげた。
本稿では,最近の電子材料用エポキシ樹脂の技術動向や,当社が開発した特殊骨格型エポキシ樹脂の特異性などをまじえながら解説したい。」(第1頁左欄第1?16行)

(7c)「3.3.2 官能基濃度(エポキシ当量)の影響
同様な骨格をもち,かつ実質的に同官能基数をもつエポキシ樹脂のなかで比較すると,官能基濃度が高い(エポキシ当量が低い)ものほどTgが高い。もちろんこれは架橋密度が高いことに起因する。Table9にBPA型におけるエポキシ当量とTgの関係を示す。」(第6頁右欄第1?6行)

(7d)「

」(第6頁右欄中段)

(2)甲号証に記載された発明
ア 甲1に記載された発明
甲1には、その特許請求の範囲の請求項1に、「1分子あたり少なくとも2つのエポキシド基を有するエポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂成分と、少なくとも2つの1級チオール基を有するポリチオール化合物を含むチオール成分と、下記一般式(II)を有するシラン官能化接着促進剤と:
(X)_(m)-Y-(Si(R^(2))_(3))_(m)
式中、
Xはエポキシまたはチオール基であり、
Yは脂肪族基であり、
mおよびnは独立して1?3であり、
各R^(2)は独立してアルコキシ基である、
エポキシ樹脂を硬化させるための窒素含有触媒と、
を含み、前記エポキシ樹脂成分および/または前記チオール成分は、円筒形マンドレル曲げ試験によってクラックを生じない、および/または引張弾性率および伸長試験によって少なくとも100%の引張伸長を有する硬化ポリマー材料を提供するように選択される、硬化性エポキシ/チオール樹脂組成物。」が記載され(摘記(1a))、その具体例として、実施例のエポキシ樹脂組成物Aは、材料として、PY4122を53.00重量%、Z6040を2.00重量%、BPBA溶液を3.00重量%、CE10Pを8.00重量%、FXR1081を7.00重量%及びTMPMPを27.00重量%からなることが記載されている(摘記(1k))。

そうすると、甲1には、実施例のエポキシ樹脂組成物Aに着目すると、以下の発明が記載されていると認められる。
「PY4122を53.00重量%、Z6040を2.00重量%、BPBA溶液を3.00重量%、CE10Pを8.00重量%、FXR1081を7.00重量%及びTMPMPを27.00重量%からなる硬化性エポキシ/チオール樹脂組成物」(以下「甲1発明」という。)

(3)対比・判断
ア 本件発明1について
(ア)対比
a エポキシ樹脂組成物の成分について
甲1発明のPY4122は、大部分(少なくとも60重量%)が2,2'-[(1-メチルエチリデン)ビス[4,1-フェニレンオキシ[1-(ブトキシメチル)エチレン)]オキシメチレン]ビスオキシランである、柔軟な二官能性ビスフェノールAベースのエポキシ樹脂であることが記載されている(摘記(1h))から、本件発明1の(B)多官能エポキシ樹脂に相当する。
甲1発明のBPBAは、1-ベンジル-5-フェニルバルビツール酸であり、EPON 828中の5重量%溶液として用いたと記載されている(摘記(1h))から、残りの95重量%は、EPON828であるといえる。PBPAのうちのEPON828は、二官能性ビスフェノールA/ エピクロロヒドリン由来の液体エポキシ樹脂であると記載されている(摘記(1h))から、本件発明1の(B)多官能エポキシ樹脂に相当する。
甲1発明のCE10Pは、高度に分岐したClO異性体合成飽和モノカルボン酸であるバーサチック酸のグリシジルエステルであることが記載され(摘記(1h))、単官能エポキシ樹脂であるから、本件発明1の芳香族単官能エポキシ樹脂と(C)単官能エポキシ樹脂の限りにおいて一致する。
甲1発明のFXR1081は、潜在的なエポキシ硬化剤および硬化促進剤でありと記載されており(摘記(1h))、エポキシ硬化剤はエポキシ樹脂の硬化触媒であることは明らかであるから、本件発明1の(D)硬化触媒に相当する。
甲1発明のTMPMPは、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)であり三官能性ポリチオール硬化剤と記載されているから(摘記(1h))、本件発明1の(A)チオール基を3つ以上有する多官能チオール化合物を含むチオール系硬化剤に相当する。

b エポキシ樹脂組成物の成分の割合について
ここでは、便宜上、エポキシ樹脂組成物を100gとした場合における各種官能基当量を算出することにより、甲1発明における下記の〔エポキシ官能基当量〕/〔チオール官能基当量〕を算出する。

(a) 成分(B)についてのエポキシ官能基当量の、成分(A)についてのチオール官能基当量に対する比(〔エポキシ官能基当量〕/〔チオール官能基当量〕)について
i 成分(B)のエポキシ官能基当量について
上記aで述べたとおり、甲1発明のPY4122及びPBPAのうちのEPON828は、本件発明1の成分(B)に相当する。それぞれのエポキシ官能基当量を検討する。
(i)PY4122について
PY4122は、エポキシ当量が313?390であることが記載され(摘記(1h))、甲1発明を100gとした場合に、53g(=100g×0.53)配合されているから、PY4122のエポキシ官能基当量は、0.136?0.169(=53g/390?53g/313)と算出される。
(ii)EPON828について
まず、EPON828の配合量を算出する。
甲1発明を100gとした場合に、BPBAは3g(=100g×0.03)配合され、EPON828は、そのBPBAのうち95重量%含むから、2.85g(=3×0.95)と算出される。
次に、EPON828のエポキシ官能基当量を算出する。
EPON828は、エポキシ当量が185?192であると記載されているから(摘記(1h))、EPON828のエポキシ官能基当量は、0.0148?0.0154(=2.85g/192?2.85g/185)と算出される。
(iii)甲1発明の成分(B)のエポキシ官能基当量について
上記(i)及び(ii)から、甲1発明におけるエポキシ官能基当量は、0.151?0.184(=(0.136?0.169)+(0.0148?0.0154))と算出される。

ii 成分(A)のチオール官能基当量について
上記aで述べたとおり、甲1発明のTMPMPは、本件発明1の成分(A)に相当するから、甲1発明のTMPMPのチオール官能基当量を検討する。TMPMPは、分子量が399である3官能チオール化合物と記載され(摘記(1h))、甲1発明を100gとした場合に、27g(=100g×0.27)配合されているから、TMPMPのチオール官能基当量は、0.203(=27g÷(399/3)と算出される。

iii 甲1発明の成分(B)についてのエポキシ官能基当量の、成分(A)についてのチオール官能基当量に対する比(〔エポキシ官能基当量〕/〔チオール官能基当量〕)について
上記i及びiiから、甲1発明における(〔エポキシ官能基当量〕/〔チオール官能基当量〕)は、0.74?0.91(=0.151/0.203?0.184/0.203)であると算出される。

(b) 成分(C)についてのエポキシ官能基当量の、成分(A)についてのチオール官能基当量に対する比(〔エポキシ官能基当量〕/〔チオール官能基当量〕)について
i 成分(C)のエポキシ官能基当量について
上記aで述べたとおり、甲1発明のCE10Pは、本件発明1の成分(B)に対応するから、甲1発明のCE10Pのエポキシ官能基当量を検討する。CE10Pは、甲3にエポキシ基含量が4170mmol/kgであると記載されている(摘記(3b))から、1kg当たりのエポキシ当量は、240g/当量(=1000g/4.17mol)と算出される。また、甲1発明を100gとした場合のCE10Pの重量は、8g(=100g×0.08)であるから、CE10Pのエポキシ官能基当量は、0.033(=8g/240)と算出される。

ii 成分(A)のチオール官能基当量について
上記(a)iiで述べたとおり、TMPMPのチオール官能基当量は、0.203(=27g÷(399/3))と算出される。

iii 甲1発明の成分(C)についてのエポキシ官能基当量の、成分(A)についてのチオール官能基当量に対する比(〔エポキシ官能基当量〕/〔チオール官能基当量〕)について
上記i及びiiから、甲1発明における(〔エポキシ官能基当量〕/〔チオール官能基当量〕)は、0.16(=0.033/0.203)であると算出される。

このように、甲1発明の成分(C)についてのエポキシ官能基当量の、成分(A)についてのチオール官能基当量に対する比(〔エポキシ官能基当量〕/〔チオール官能基当量〕)は、本件発明1と一致する。

そうすると、本件発明1と甲1発明とでは、
「エポキシ樹脂組成物であって、下記成分(A)?(D):
(A)少なくとも1種の、チオール基を3つ以上有する多官能チオール化合物を含むチオール系硬化剤;
(B)少なくとも1種の多官能エポキシ樹脂;
(C)少なくとも1種の単官能エポキシ樹脂;及び
(D)硬化触媒
を含み、
前記成分(C)についてのエポキシ官能基当量の、前記成分(A)についてのチオール官能基当量に対する比(〔エポキシ官能基当量〕/〔チオール官能基当量〕)が、0.15以上、0.50以下である、エポキシ樹脂組成物」で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)成分(C)である単官能エポキシ樹脂が、本件発明1では、少なくとも1種の芳香族単官能エポキシ樹脂を含み架橋密度調節剤であるのに対して、甲1発明ではバーサチック酸のグリシジルエステルである点

(相違点2)成分(B)についてのエポキシ官能基当量の、成分(A)についてのチオール官能基当量に対する比(〔エポキシ官能基当量〕/〔チオール官能基当量〕)が、本件発明1では、0.40以上、0.70以下であるのに対して、甲1発明では、0.74?0.91である点

(相違点3)エポキシ樹脂組成物の25℃での粘度が、本件発明1では、4Pa・s以下であるのに対して、甲1発明では、明らかでない点

(イ)判断
事案に鑑み、まず相違点2を検討する
本件発明1は、低粘度であり、低温条件下でも短時間で硬化して、ガラス転移点(T_(g))が低く、硬化後の耐湿信頼性を発明の課題とし(本件明細書の段落【0007】参照)、上記「第2」で示したとおり、概略、成分(A)?(D)を含むエポキシ樹脂組成物であって、成分(B)についてのエポキシ官能基当量の、成分(A)についてのチオール官能基当量に対する比(〔エポキシ官能基当量〕/〔チオール官能基当量〕)を0.40以上、0.70以下とする特定事項を含むものであり、この特定事項について、この比が0.40未満であると、架橋成分である多官能エポキシ樹脂が少なすぎるため、得られる硬化物が、高温下で溶融してしまうといった熱可塑性樹脂のような性質を示すおそれがあること、一方、この比が0.70超であると、架橋成分である多官能エポキシ樹脂が多すぎるため、架橋密度が高くなりすぎ、硬化物のTgが過度に上昇するおそれがあること、また、エポキシ樹脂組成物の低粘度化が困難となるおそれもあることが記載されている(本件明細書の段落【0039】)。
そして、本件明細書の段落【0056】以降に記載された具体例においては、この比が0.35である、すなわち、0.4未満である比較例1及び2は、硬化が充分に進まず、Tgの測定を行うことができなかったことが記載され(本件明細書の段落【0066】の【表2】及び【0068】)、また、この比が0.75である、すなわち、0.70超である比較例3は、エポキシ樹脂組成物の粘度が4.2Pa・sと高かったことが記載され、また、この比が1.00である、すなわち、0.70超である比較例6は、エポキシ樹脂組成物の硬化物の耐湿信頼性が劣ったことが記載されている(本件明細書の段落【0066】の【表2】及び【0068】)。
このように、本件発明1において、成分(B)についてのエポキシ官能基当量の、成分(A)についてのチオール官能基当量に対する比(〔エポキシ官能基当量〕/〔チオール官能基当量〕)を0.40以上、0.70以下と特定することにより、硬化性エポキシ/チオール樹脂組成物が低粘度であり、その硬化物のTgが低いという課題を解決できることが具体的なデータとともに確認できる。
一方、甲1発明は、硬化した材料は、シリコーン表面への良好な接着性、および良好な可撓性を有することを課題とし(摘記(1b)参照)、甲1には、これらの課題が解決できたことが具体的なデータとともに記載されている(摘記(1k)参照)。ここで、甲1発明である硬化性エポキシ/チオール樹脂組成物Aは、これらの課題を解決した具体例であるといえるから、この甲1発明における、成分(B)についてのエポキシ官能基当量の、成分(A)についてのチオール官能基当量に対する比(〔エポキシ官能基当量〕/〔チオール官能基当量〕)を、あえて小さい値とし、本件発明1で特定する範囲とする動機づけがあるとはいえない。
そして、本件発明1は、成分(B)についてのエポキシ官能基当量の、成分(A)についてのチオール官能基当量に対する比(〔エポキシ官能基当量〕/〔チオール官能基当量〕)を0.40以上、0.70以下という範囲とすることにより、硬化性エポキシ/チオール樹脂組成物が低粘度であり、その硬化物のTgが低いという効果を奏することが具体的に把握できるといえるところ、甲1には、上述した課題(シリコーン表面への良好な接着性、および良好な可撓性)に関係する効果を奏することが記載されているにとどまり、本件発明1として具体的に確認できる効果を奏することを示すものではない。
そうすると、本件発明1は、甲1の記載と比較して予測できない作用効果を奏するということができる。
よって、相違点2を構成することは、当業者が容易になし得たとはいえない。

(ウ)申立人の主張について
a 申立人の主張
申立人は、甲1の表1に記載の「BPBA Solution」は、表Aに記載された材料を含むものであると主張し(特許異議申立書第23頁第4?7行、以下「主張(a)」という。)、また、甲1発明において、成分(B)についてのエポキシ官能基当量の、成分(A)についてのチオール官能基当量に対する比(〔エポキシ官能基当量〕/〔チオール官能基当量〕)を小さい値とし、本件発明1で特定する範囲とすることは当業者が容易になし得たことであると主張する(特許異議申立書第29頁下から5行?第32頁第2行、以下「主張(b)」という。)。

b 申立人の主張の検討
(a)主張(a)について
甲1の表Aは、硬化阻害剤であるl-ベンジル-5-フェニルバルビツール酸(BPBA)の溶解特性を評価する際の、配合成分とその配合割合が記載され、そして、その評価結果が記載された表である(摘記(1j))。また、表1に記載されたエポキシ樹脂組成物Aにおいて配合されるBPBA溶液が、上記した表Aの配合成分とその配合割合のものであることを述べた記載はない。そして、甲1には、「例」に使用する材料としての一覧表が記載され(摘記(1h))、ここにBPBAが記載され、「EPON 828中の5重量%溶液として用いた。」と記載があり、表1のBPBA溶液という記載と符合するから、ここに記載された材料を使用したと解することが自然である。
以上のとおりであるから、申立人の主張(a)は採用できない。

(b)主張(b)について
上記(イ)で述べたとおり、甲1発明である硬化性エポキシ/チオール樹脂組成物Aは、すでに甲1に記載された課題を解決した具体例であるといえるから、この甲1発明における、成分(B)についてのエポキシ官能基当量の、成分(A)についてのチオール官能基当量に対する比(〔エポキシ官能基当量〕/〔チオール官能基当量〕)を、あえて小さい値とし、本件発明1で特定する範囲とする動機づけがあるとはいえない。
また、甲7は、「エポキシ樹脂の化学構造と特性の関係」と題する文献であって、同様な骨格をもち、かつ実質的に同官能基数をもつエポキシ樹脂で比較すると,官能基濃度が高い(エポキシ当量が低い)ものほどTgが高いことは記載されているが、柔軟性が高くなることは明示されていない。また、このことが技術常識であることは申立人も何ら証明していない。
よって、申立人の主張(b)は採用できない。

(エ)小括
よって、相違点1及び3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明及び他の甲号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

イ 本件発明2?7について
本件発明2?7は、本件発明1を直接的又は間接的に引用して限定した発明であるから、本件発明2?7は、上記「ア」で示した理由と同じ理由により、甲1に記載された発明及び他の甲号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものといえない。

(4)まとめ
以上のとおりであるから、申立理由1によっては、本件発明1?7に係る特許を取り消すことはできない。

第5 むすび
したがって、特許異議申立ての理由によっては、本件発明1?7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2020-09-14 
出願番号 特願2019-151619(P2019-151619)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C08G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 西山 義之  
特許庁審判長 杉江 渉
特許庁審判官 安田 周史
佐藤 健史
登録日 2019-10-18 
登録番号 特許第6603004号(P6603004)
権利者 ナミックス株式会社
発明の名称 エポキシ樹脂組成物  
代理人 特許業務法人 津国  

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