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審決分類 審判 訂正 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 訂正する F16C
審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正する F16C
管理番号 1366342
審判番号 訂正2020-390042  
総通号数 251 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-11-27 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2020-05-29 
確定日 2020-08-27 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5347538号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5347538号の明細書、特許請求の範囲及び図面を本件審判請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲及び図面のとおり訂正することを認める。 
理由 1 手続の経緯
本件訂正審判の請求に係る特許第5347538号は、平成21年1月29日(優先権主張 平成20年2月12日)の出願であって、平成25年8月30日にその特許権の設定登録がなされたものである。
そして、令和2年5月29日に本件訂正審判の請求がなされた。

2 請求の趣旨
本件訂正審判の請求の趣旨は、特許第5347538号の明細書、特許請求の範囲及び図面を、本件審判請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲及び図面のとおり訂正することを認める、との審決を求めるものである。

3 訂正の内容
本件訂正審判に係る訂正の内容は、次のとおりである。(下線部は訂正箇所を示す。)
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の【請求項1】を以下のように訂正する。なお、請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2及び3においても同様に訂正する。
「【請求項1】
外周面に内輪軌道面を有する内輪と、
内周面に外輪軌道面を有する外輪と、
前記内輪軌道面と前記外輪軌道面との間に接触角を持って配置される複数の玉と、
前記複数の玉を略等間隔で保持する外輪案内の保持器と、
を有し、工具を取り付け可能な回転軸をハウジングに対して回転自在に支持するとともに、オイル潤滑によって潤滑される主軸装置用アンギュラ玉軸受であって、
前記軸受の内部空間が、内輪間座の鍔部と外輪間座の内周面とで構成されるラビリンスシールによって、密封構造とされ、
前記外輪には、径方向に貫通形成される給油穴と、径方向に貫通形成され、且つ、カウンターボア側の内周面に開口する排油穴とが設けられ、
前記給油穴及び前記排油穴は、前記保持器が案内されていない前記外輪の内周面に開口し、
前記排油穴の開口は、その軸方向内端が前記外輪軌道面と前記保持器のポケットの軸方向内端面との間に位置し、且つ、その軸方向外端が前記保持器の軸方向外端面よりも軸方向内側に位置するように、前記外輪軌道面の近傍に配置され、
該排油穴内には、軸受外部からの吸引力によって、負圧が作用することを特徴とする主軸装置用アンギュラ玉軸受。」
(2)訂正事項2
明細書の段落【0008】の
「(1) 外周面に内輪軌道面を有する内輪と、
内周面に外輪軌道面を有する外輪と、
前記内輪軌道面と前記外輪軌道面との間に接触角を持って配置される複数の玉と、
前記複数の玉を略等間隔で保持する外輪案内の保持器と、
を有し、工具を取り付け可能な回転軸をハウジングに対して回転自在に支持するとともに、オイル潤滑によって潤滑される主軸装置用アンギュラ玉軸受であって、
前記軸受の内部空間が密封構造とされ、
前記外輪には、径方向に貫通形成される給油穴と、径方向に貫通形成され、且つ、カウンターボア側の内周面に開口する排油穴とが設けられ、
前記給油穴及び前記排油穴は、前記保持器が案内されていない前記外輪の内周面に開口し、
前記排油穴の開口は、その軸方向内端が前記外輪軌道面と前記保持器のポケットの軸方向内端面との間に位置し、且つ、その軸方向外端が前記保持器の軸方向外端面よりも軸方向内側に位置するように、前記外輪軌道面の近傍に配置され、
該排油穴内には、軸受外部からの吸引力によって、負圧が作用することを特徴とする主軸装置用アンギュラ玉軸受。」を
「(1) 外周面に内輪軌道面を有する内輪と、
内周面に外輪軌道面を有する外輪と、
前記内輪軌道面と前記外輪軌道面との間に接触角を持って配置される複数の玉と、
前記複数の玉を略等間隔で保持する外輪案内の保持器と、
を有し、工具を取り付け可能な回転軸をハウジングに対して回転自在に支持するとともに、オイル潤滑によって潤滑される主軸装置用アンギュラ玉軸受であって、
前記軸受の内部空間が、内輪間座の鍔部と外輪間座の内周面とで構成されるラビリンスシールによって、密封構造とされ、
前記外輪には、径方向に貫通形成される給油穴と、径方向に貫通形成され、且つ、カウンターボア側の内周面に開口する排油穴とが設けられ、
前記給油穴及び前記排油穴は、前記保持器が案内されていない前記外輪の内周面に開口し、
前記排油穴の開口は、その軸方向内端が前記外輪軌道面と前記保持器のポケットの軸方向内端面との間に位置し、且つ、その軸方向外端が前記保持器の軸方向外端面よりも軸方向内側に位置するように、前記外輪軌道面の近傍に配置され、
該排油穴内には、軸受外部からの吸引力によって、負圧が作用することを特徴とする主軸装置用アンギュラ玉軸受。」に訂正する。
(3)訂正事項3
明細書の段落【0012】の【図2】、同【0013】、同【0046】、同【0048】及び同【0053】の「第1実施形態」を「第1参考形態」に訂正し、明細書の段落【0014】、同【0017】、同【0039】及び同【0045】の「本実施形態」を「本参考形態」に訂正する。
(4)訂正事項4
明細書の段落【0012】の【図9】、同【0053】、同【0054】、同【0055】、同【0056】、同【0058】及び同【0059】の「本考案品」を「参考品」に訂正する。
(5)訂正事項5
図面【図9】及び【図11】の「考案品」を「参考品」に訂正する。

4 当審の判断
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、特許請求の範囲の請求項1の訂正前の発明特定事項「軸受の内部空間が密封構造とされ」を「軸受の内部空間が、内輪間座の鍔部と外輪間座の内周面とで構成されるラビリンスシールによって、密封構造とされ」と密封構造の構成を具体的に特定しさらに限定するものであるため、特許法第126条第1項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものといえる。
イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正か否か
訂正事項1は、特許請求の範囲の請求項1の発明特定事項の上記密封構造の構成を具体的に特定しさらに限定するものであるところ、当該密封構造の構成に係る説明として、訂正前の明細書の段落【0047】に「本実施形態のアンギュラ玉軸受270は、一対のシール部材を設ける代わりに、軸受270の両側側方に設けられた各内輪間座42の鍔部42a,42aの外周面と各外輪間座40の内周面とでラビリンスシールを構成し、軸受270の内部空間を密封している。」、及び、同【0048】に「軸受270の内部空間が各内輪間座42の鍔部42aと各外輪間座40とのラビリンスシールによって密封される」と記載されており、軸受の内部空間は、内輪間座の鍔部と外輪間座の内周面とで構成されるラビリンスシールによって密封構造とされることが開示されているから、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でした訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。
したがって、訂正事項1は、特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
ウ 特許出願の際に独立して特許を承けることができるか否か
訂正事項1は、特許請求の範囲の請求項1の発明特定事項の密封構造の構成を具体的に特定しさらに限定するものであるから、特許要件の適否について見直すべき新たな事情は存在せず、訂正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないとする理由は見いだせない。
したがって、訂正事項1は、特許法第126条第7項の規定に適合する。
(2)訂正事項2
ア 訂正の目的について
訂正前の明細書の段落【0008】には、訂正前の特許請求の範囲の記載に対応する記載がなされていたところ、訂正事項1により、特許請求の範囲の記載が訂正されたことに伴い、明細書の記載が訂正後の特許請求の範囲の記載と一致せず、不明瞭な記載となる。
訂正事項2は、明細書の記載を訂正後の特許請求の範囲と整合させるための訂正であるので、特許法第126条第1項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものといえる。
イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正か否か
訂正事項2は、明細書の段落【0008】の記載を、訂正事項1により訂正された特許請求の範囲に対応する記載とするものであるから、訂正事項1と同様に、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でした訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。
したがって、訂正事項2は、特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(3)訂正事項3
ア 訂正の目的について
訂正前の明細書に記載された「第1実施形態」は、訂正前の特許請求の範囲の請求項1の実施形態であるところ、訂正事項1により請求項1の「軸受の内部空間が密封構造とされ」を「軸受の内部空間が、内輪間座の鍔部と外輪間座の内周面とで構成されるラビリンスシールによって、密封構造とされ」と密封構造の構成を具体的な態様に特定したことにより、もはや特許請求の範囲に含まれない、外輪の軸方向両側に取り付けられている一対のシール部材によって密封する構造の態様が、実施形態として記載されていることになり、発明の範囲を不明確にしている。
訂正事項3は、訂正後の特許請求の範囲に含まれない訂正前の明細書中の「第1実施形態」及び第1実施形態に対応する「本実施形態」を、「第1参考形態」及び「参考形態」とするものであり、特許法第126条第1項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものといえる。
イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正か否か
訂正事項3は、訂正事項1による訂正後の特許請求の範囲に含まれなくなる形態を参考形態と訂正するものにすぎず、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でした訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。
したがって、訂正事項3は、特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(4)訂正事項4
ア 訂正の目的について
訂正前の明細書には、訂正前の特許請求の範囲の請求項1の実施形態である【図5】及び【図6】の外輪の軸方向両側に取り付けられている一対のシール部材によって密封する構造の態様の例が「本考案品」として記載されていたところ、訂正事項1により請求項1の「軸受の内部空間が密封構造とされ」を「軸受の内部空間が、内輪間座の鍔部と外輪間座の内周面とで構成されるラビリンスシールによって、密封構造とされ」と密封構造の構成を具体的な態様に特定したことに伴い、【図5】及び【図6】の例は訂正後の特許請求の範囲に含まれなくなるため、当該「本考案品」との記載は発明の範囲を不明確にしている。
訂正事項4は、訂正後の特許請求の範囲に含まれない訂正前の明細書中の「本考案品」を、「参考品」とするものであり、特許法第126条第1項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものといえる。
イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正か否か
訂正事項4は、訂正後の特許請求の範囲に含まれなくなる例を参考品に訂正するものにすぎず、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でした訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。
したがって、訂正事項4は、特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(5)訂正事項5
ア 訂正の目的について
訂正前の図面【図9】及び【図11】には、訂正前の特許請求の範囲の請求項1の実施形態である【図5】及び【図6】の例が「本考案品」として記載されていたところ、訂正事項1により請求項1の「軸受の内部空間が密封構造とされ」を「軸受の内部空間が、内輪間座の鍔部と外輪間座の内周面とで構成されるラビリンスシールによって、密封構造とされ」と密封構造の構成を具体的な態様に特定したことに伴い、【図5】及び【図6】の例が訂正後の特許請求の範囲に含まれなくなるため、当該図面の「本考案品」との記載は発明の範囲を不明確にしている。
訂正事項5は、訂正後の特許請求の範囲に含まれない訂正前の図面中の「本考案品」を、「参考品」とするものであり、特許法第126条第1項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものといえる。
イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正か否か
訂正事項5は、訂正後の特許請求の範囲に含まれなくなる例を参考品に訂正するものにすぎず、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でした訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。
したがって、訂正事項5は、特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

5 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正審判の請求に係る訂正は、特許法第126条第1項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第5項ないし第7項の規定に適合する。
よって、結論のとおり審決する。

 
発明の名称 (54)【発明の名称】
主軸装置用アンギュラ玉軸受
【技術分野】
【0001】
本発明は、主軸装置用アンギュラ玉軸受に関し、より詳細には、多軸制御の工作機械等に適用され、外部から潤滑油が供給される、高速回転可能な主軸装置用アンギュラ玉軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、5軸加工機や複合加工工作機械のような多軸制御される工作機械では、工具が取り付けられる回転軸が、水平位置と垂直位置との間、或いは、360度全域に亘って旋回可能な、チルトタイプの主軸装置が使用されている。
【0003】
このような主軸装置では、内部に配置された軸受を潤滑する方式として、エアを利用して、外部から軸受内部に微量の潤滑油を供給するオイルエア潤滑方式やオイルミスト潤滑方式、また、潤滑油を軸受内部に間欠的に高速度で直接噴射する直接噴射方式が採用されている。
【0004】
例えば、オイルエア潤滑やオイルミスト潤滑では、図12に示すように、ノズル901から軸受900に潤滑油を供給するとともに、外輪900aや間座902に形成された排油穴903aや排油溝903bからハウジング904の排油通路905を経て外部に排出される構造が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開昭63-139324号公報(第3図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1に記載の工作機械用主軸装置では、重力作用により潤滑油をハウジング904の排油通路905を介して自然に排油するものであるが、軸受内部やその周辺に潤滑のために使用された潤滑油が排出しきれない可能性がある。特に、dm・N50万以上、さらに軸受内部の残油量が潤滑条件に敏感に作用するdm・N100万以上で高速回転可能な主軸装置においては、潤滑油過多や攪拌抵抗によって異常発熱を生じる可能性がある。また、チルトタイプの主軸装置に適用した場合には、主軸装置の姿勢変化により、一端排油穴903aや排油溝903b内に排出された潤滑油が軸受内部に戻り、潤滑油過多や攪拌抵抗によって異常発熱を生じる可能性がある。
【0007】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、簡単な構成で、良好な排油性を有し、潤滑油過多や異常発熱を抑制することができる主軸装置用アンギュラ玉軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) 外周面に内輪軌道面を有する内輪と、
内周面に外輪軌道面を有する外輪と、
前記内輪軌道面と前記外輪軌道面との間に接触角を持って配置される複数の玉と、
前記複数の玉を略等間隔で保持する外輪案内の保持器と、
を有し、工具を取り付け可能な回転軸をハウジングに対して回転自在に支持するとともに、オイル潤滑によって潤滑される主軸装置用アンギュラ玉軸受であって、
前記軸受の内部空間が、内輪間座の鍔部と外輪間座の内周面とで構成されるラビリンスシールによって、密封構造とされ、
前記外輪には、径方向に貫通形成される給油穴と、径方向に貫通形成され、且つ、カウンターボア側の内周面に開口する排油穴とが設けられ、
前記給油穴及び前記排油穴は、前記保持器が案内されていない前記外輪の内周面に開口し、
前記排油穴の開口は、その軸方向内端が前記外輪軌道面と前記保持器のポケットの軸方向内端面との間に位置し、且つ、その軸方向外端が前記保持器の軸方向外端面よりも軸方向内側に位置するように、前記外輪軌道面の近傍に配置され、
該排油穴内には、軸受外部からの吸引力によって、負圧が作用することを特徴とする主軸装置用アンギュラ玉軸受。
(2) 前記給油穴及び前記排油穴は、前記保持器よりも軸方向内側で、且つ、前記保持器が案内されていない前記外輪の内周面に開口することを特徴とする(1)に記載の主軸装置用アンギュラ玉軸受。
(3) 前記給油穴は、前記玉の軸方向中心位置に対して、前記玉と外輪軌道面が接触する接触点と反対側で、且つ、前記軸方向中心位置から軸方向に外れた位置に開口し、
前記排油穴は、径方向から見て、前記玉とオーバーラップする前記外輪の内周面に開口し、
前記保持器は、反カウンターボア側の前記外輪の内周面に案内されることを特徴とする(1)または(2)に記載の主軸装置用アンギュラ玉軸受。
【発明の効果】
【0009】
本発明の主軸装置用アンギュラ玉軸受によれば、外輪に形成される排油穴内には、軸受外部からの吸引力によって、負圧が作用するので、軸受内部の余分な潤滑油を排油穴を介して速やかに排出することができる。特に、チルトタイプの主軸装置では、その姿勢が変化した場合であっても、排出されるはずの排油穴内の潤滑油が軌道面に戻ることが防止され、潤滑油過多や異常発熱を抑制することができる。
【0010】
また、径方向に貫通する給油穴が外輪に設けられているので、軸受の外側に別途ノズルを設ける必要がなく、簡単な構成で、潤滑油を軸受内部に給油することができる。
【0011】
さらに、軸受の内部空間が密封されるので、軸受の側方からの空気の吸引が抑制され、軸受の内部空間内の潤滑油を効果的に吸引することができる。なお、本発明でいう「密封」とは、軸受の側方でラビリンスシールによって密封されるものを含み、給油穴や排油穴によって外部に開口する部分を除く。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の軸受を備える主軸装置が適用される門形マシニングセンタの概略図である。
【図2】第1参考形態の軸受が適用される主軸装置において、一方の前側軸受の給油通路及び排油通路を示す断面図である。
【図3】主軸装置において、他方の前側軸受の給油通路及び排油通路を示す断面図である。
【図4】主軸装置において、後側軸受の給油通路及び排油通路を示す断面図である。
【図5】主軸装置の前側軸受の拡大断面図である。
【図6】主軸装置の後側軸受の拡大断面図である。
【図7】第2実施形態の主軸装置用軸受に係る前側軸受の拡大断面図である。
【図8】給油通路と排油通路の変形例を示す主軸装置の断面図である。
【図9】参考品と従来品での、軸受回転数と軸受外輪温度上昇との関係を示す。
【図10】スピンドルの旋回状態を説明するための図である。
【図11】40,000min^(-1)運転時にスピンドルを旋回させた場合の外輪温度を示すグラフである。
【図12】従来の主軸装置における断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(第1参考形態)
以下、本発明の第1参考形態に係る主軸装置用軸受について図面に基づいて詳細に説明する。
【0014】
図1は、本参考形態の軸受を備えた主軸装置が組み込まれる、複合加工工作機械としての門形マシニングセンタを示す。門形マシニングセンタ1では、ベッド2の上にテーブル3がX軸方向へ移動可能に支持されており、ベッド2の両側には一対のコラム4が立設されている。コラム4の上端にはクロスレール5が架設されており、クロスレール5には、サドル6がY軸方向へ移動可能に設けられる。また、サドル6には、Z軸方向に昇降可能なラム7が支持されており、ラム7の下端には、主軸装置20をY軸回り及びZ軸回りに回転割出し駆動可能に保持する主軸ヘッド8が装着されている。
【0015】
主軸ヘッド8には、主軸装置20のブラケット21を挟むように一対の支持アーム9が設けられており、一対の支持アーム9は、ブラケット21の両側面に固定された図示しない一対の旋回シャフトを回転可能に支持する。これにより、主軸装置20は、主軸ヘッド8側に設けられた図示しない駆動機構によって一対の支持アーム9に対してY軸回りに旋回可能であり、水平位置と垂直位置との間、或いは、360度全域に亘って取付姿勢を変化することができるチルトタイプを構成する。
【0016】
図2に示すように、主軸装置20は、モータビルトイン方式であり、その軸方向中心部には、中空状の回転軸22が設けられ、回転軸22の軸芯には、ドローバ23が摺動自在に挿嵌されている。ドローバ23は、工具ホルダ24に取付けられたプルスタッド25を、クランプボール26を介して、皿ばね27の力によって反工具側方向(図の右方向)に付勢しており、工具ホルダ24は、回転軸22のテーパ面28と嵌合する。工具ホルダ24には図示しない工具が取り付けられており、この結果、回転軸22は、一端(図の左側)に工具をクランプして、工具を取り付け可能としている。
【0017】
また、回転軸22は、その工具側を支承する2列の前側軸受60,70と、反工具側を支承する1列の後側軸受80とによって、ブラケット21(図1参照。)に固定されたハウジングHを構成する外筒29に回転自在に支持されている。なお、前側軸受60,70及び後側軸受80は、本参考形態の主軸装置用軸受を構成する。
【0018】
前側軸受60,70と後側軸受80間における回転軸22の外周面には、ロータ30が焼き嵌めされたロータスリーブ31が外嵌されている。また、ロータ30の周囲に配置されるステータ32は、ステータ32に焼き嵌めされた冷却ジャケット33を外筒29に内嵌することで、外筒29に固定される。従って、ロータ30とステータ32はモータを構成し、ステータ32に電力を供給することでロータ30に回転力を発生させ、回転軸22を回転させる。
【0019】
また、外筒29と反工具側で固定されたハウジングHを構成する後蓋34には、工具アンクランプピストン35を摺動自在に内嵌したハウジングHを構成する工具アンクランプシリンダ36が固定されている。よって、工具を交換する際には、油路37から油圧室38に作動油を導き、工具アンクランプピストン35を工具側(図の左側)へ前進させることにより、ドローバ23を工具側(図の左側)へ前進させて、工具をアンクランプする。
【0020】
前側軸受60,70は、外輪61,71と、内輪62,72と、接触角を持って配置される転動体としての玉63,73と、玉63,73を略等間隔で保持する外輪案内の保持器64,74と、外輪61,71の軸方向両側に取り付けられ、各軸受60,70の内部空間を密封する一対のシール部材65,75と、をそれぞれ有するアンギュラ玉軸受であり、背面組み合わせとなるように配置されている。後側軸受80は、外輪81と、内輪82と、転動体としての円筒ころ83と、円筒ころ83を略等間隔で保持する外輪案内の保持器84と、を有する円筒ころ軸受である。
【0021】
前側軸受60,70の外輪61,71は外筒29に内嵌されており、且つ外筒29にボルト締結された前側軸受外輪押え39によって外輪間座40を介して外筒29に対し軸方向に固定されている。また、前側軸受60,70の内輪62,72は、回転軸22に外嵌されており、且つ回転軸22に締結されたナット41によって内輪間座42を介して回転軸22に対し軸方向に固定されている。
【0022】
後側軸受80の外輪81は後蓋34に内嵌されており、且つ後蓋34にボルト締結された後側軸受外輪押え43によって後蓋34に固定されている。後側軸受80の内輪82は、回転軸22に形成されたテーパ面44とテーパ嵌合されており、回転軸22に締結された他のナット45によって、内輪間座46及び速度センサ47の被検出部48を介して位置決めされている。また、後蓋34の内周面と後側軸受外輪押え43の内周面は、各間座46の外周面近傍に対向配置されてラビリンスシールを構成しており、後側軸受80の内部を密封する。
【0023】
なお、後側軸受外輪押え43の反工具側には、被検出部48と径方向に対向する位置に速度センサ47の検出部49が固定されており、回転軸22の回転速度を検出する。また、前側軸受外輪押え39の工具側端面には、フロントカバー50がボルト固定されている。
【0024】
ここで、図2?図4に示すように、ハウジングHを構成する外筒29、後蓋34、工具アンクランプシリンダ36には、前側軸受60,70及び後側軸受80をそれぞれ潤滑するための複数の給油通路(ハウジングHの給油用穴)90,91,92が形成されており、これら通路90,91,92の一端側には、潤滑油を送り込む潤滑装置93が図示しない配管を介してそれぞれ取り付けられている。なお、潤滑装置93によって供給される潤滑方式は、オイル潤滑であればよく、オイルエア潤滑、オイルミスト潤滑、直噴潤滑等のいずれであってもよい。
【0025】
例えば、オイルエア潤滑の場合、給油通路90,91,92の他端側は、後述する外輪61,71に形成された給油穴68(図2参照。),78(図3参照。),88(図4参照。)と連通しており、潤滑装置93によって送られた潤滑油を各軸受60,70,80の外輪給油穴から軸受空間内に供給する。
【0026】
また、ハウジングHには、各軸受60,70,80を潤滑した潤滑油をそれぞれ排出する複数の排油通路(ハウジングHの排油用穴)100(図2参照。),101(図3参照。),102(図4参照。)が形成されており、これら通路100,101,102の一端側には、潤滑油を吸引するための負圧発生装置103がそれぞれ図示しない配管を介して接続されている。
【0027】
具体的に、図5に拡大して示すように、前側軸受70では、複数の玉73が、外輪71の内周面に形成された断面略円弧状の外輪軌道面71cと、内輪72の外周面に形成された断面略円弧状の内輪軌道面72aとの間に径方向に対して接触角を持って配置されている。前側軸受70の外輪71には、径方向に貫通形成された給油穴78が設けられており、この給油穴78は、断面略円弧状の外輪軌道面71cにおいて、玉73の軸方向中心位置Oに対して、玉73と外輪軌道面71cが接触する接触点P1と反対側で、且つ、その軸方向中心位置Oから軸方向に外れた位置に開口する。
【0028】
外輪71の外周面には、給油穴78が開口する軸方向位置に環状の周方向溝79が形成されている。これにより、外筒29に形成された給油通路91(図3参照。)から供給された潤滑油は、周方向溝79、給油穴78を介して、玉73と外輪軌道面71c及び内輪軌道面72aとの接触点P1,P2に近い位置に供給される。
【0029】
また、外輪71には、カウンターボア側、及び反カウンターボア側の内周面で玉73が通過する外輪軌道面71cの近傍に開口して、且つ、径方向に貫通する排油穴71a,71bが周方向に略等間隔で複数本ずつ形成されている。
【0030】
外輪71の内周面には、排油穴71a,71bが開口する軸方向位置に、集油溝76a,76bが周方向に亘って形成されている。また、外輪71の外周面には、これら排油穴71a,71bがそれぞれ開口する環状の周方向溝77a,77bが形成されており、これら周方向溝77a,77bは、これら排油穴71a,71bと、外筒29に形成された排油通路101の排油穴29a,29bとをそれぞれ連通する。なお、排油穴71a,71bの内周側開口である集油溝77a,77bは、図5に示すように、外輪軌道面71cの近傍に開口することが好ましい。さらに、集油溝77a,77bは、径方向から見て、玉73とオーバーラップする位置にそれぞれ形成されることがより好ましい。この結果、転がり接触部を潤滑後、玉73に付着した油が遠心力により振り切られた後、直接排油穴71a,71bに導かれるメリットがある。ただし、集油溝77a,77bは、径方向から見て、玉73とオーバーラップする位置に限定されるものではない。なお、図5及び、図6及び図7に示す各実施形態では、簡略化のため、給油穴と排油穴が同一断面に示されているが、実際には、異なる位相に配置されている。
【0031】
保持器74は、玉73を略等間隔で保持する外輪案内の保持器であり、軸方向に略線対称に形成されている。保持器74は、軸方向両側に位置する一対の円環部74a,74bと、これら円環部74a,74bを連結し、周方向に略等間隔で配置される複数の柱部74cと、を有し、これら円環部74a,74bと隣接する柱部73cとで玉73を保持するポケットを構成する。また、保持器74は、柱部74cの外周面と両円環部74a,74bの外周面の内側部分を、円環部74a,74bの外周面の外側部分より小径とすることで、逃げ部74dを形成する。
【0032】
これにより、保持器74は、反カウンターボア側において、円環部74aの外周面の外側部分と外輪71の内周面とが、排油穴71aの集油溝76aと径方向から見てオーバーラップしない位置で摺接することで、外輪案内される。従って、保持器74の案内面である円環部74aは、集油溝76aの開口縁部によって削られることなく、保持器74の摩耗が防止される。なお、前側軸受60は、前側軸受70と背面組み合わせで配置される、前側軸受70と同一の構成であるので、説明を省略する。
【0033】
また、図6に示すように、後側軸受80は、複数の円筒ころ83が、外輪81の内周面に形成された外輪軌道面81cと、内輪82の外周面に形成された内輪軌道面82aとの間に配置されている。外輪81には、径方向に貫通形成された給油穴88が設けられており、この給油穴88は、円筒ころ83と干渉しない外輪軌道面81cの片側近傍において開口する。
【0034】
外輪81の外周面には、給油穴88が開口する軸方向位置に環状の周方向溝89が形成されている。これにより、後蓋34に形成された給油通路92(図4参照。)から供給された潤滑油は、周方向溝89、給油穴88を介して、円筒ころ83と外輪軌道面81c及び内輪軌道面82aとの転動面に供給される。
【0035】
また、外輪81には、円筒ころ83と干渉しない外輪軌道面81cの他側近傍で、径方向に貫通する排油穴81aが周方向に略等間隔で複数本ずつ形成されている。排油穴81aが開口する軸方向位置の内周面には、周方向に亘って形成される環状の集油溝86が形成されている。そして、外輪81の外周面には、これら排油穴81aがそれぞれ開口する環状の周方向溝87が形成されており、これら周方向溝87は、排油穴81aと、後蓋34に形成された排油通路102の排油穴34aと連通する。
【0036】
また、保持器84は、軸方向両側に位置する一対の円環部84a,84bと、これら円環部84a,84bを連結し、周方向に略等間隔で配置される複数の柱部84cと、を有し、これら円環部84a,84bと隣接する柱部83cとで円筒ころ83を保持するポケットを構成する。また、保持器84も、柱部84cの外周面と両円環部84a,84bの外周面の内側部分を、円環部84a,84bの外周面の外側部分より小径とすることで、逃げ部84dを形成する。これにより、保持器84は、円環部84a,84bの外周面の外側部分で、外輪案内される。
【0037】
また、後蓋34と後側軸受外輪押え43のラビリンスシールを構成する部分より軸受寄りの軸方向内端部には、軸受80の内部空間と連通する排油穴34b,43aがそれぞれ形成されている。排油穴34bは、外輪81の軸方向端面の内径以上の内径を有する内周面に開口を有し、排油通路102に直接連通するように形成されている。また、排油穴43aも、外輪81の軸方向端面の内径以上の内径を有する内周面に開口を有し、径方向外方に向かって軸受80から離れるように傾斜して形成される。さらに、排油穴43aは、その外周面に形成された環状の周方向溝43b、後蓋34の排油穴34cを介して、排油通路102と連通する。
【0038】
従って、各軸受60,70,80を潤滑した、排油穴71a,71b,81a,43aの潤滑油が、周方向溝77a,77b,87,43bと、各排油通路100,101,102とを介して、また、排油穴34bの潤滑油が、排油通路102を介して、外部へ排出される。この際、軸受外部からの吸引力、即ち、負圧発生装置103の吸引力によって、排油穴71a,71b,81a,34b,43a内には、負圧が作用し、排油穴71a,71b,81a,34b,43a内の潤滑油が強制的に吸引される。また、各外輪軌道面61c,71c,81cの近傍の外輪61,71,81の内周面に付着した潤滑油も、負圧発生装置103の吸引力によって、排油穴71a,71b,81a,34b,43aへと導かれる。
【0039】
これにより、各軸受60,70,80の外輪軌道面61c,71c,81cの近傍に設けられた排油穴71a,71b,81aや、後蓋34や後側軸受外輪押え43の排油穴34b,43aから余分な潤滑油を速やかに排出することができる。特に、本参考形態のようなチルトタイプの主軸装置20において、その姿勢が変化した場合であっても、排出されるはずの潤滑油が軸受内部に戻ること、特に、排油穴71a,71b,81a,34b,43aに存在する潤滑油が外輪軌道面61c,71c,81cに戻ることが防止され、潤滑油過多や攪拌抵抗による異常発熱を抑制することができる。
【0040】
また、径方向に貫通する給油穴78,88が外輪61,71,81に設けられているので、軸受60,70,80の外側に別途ノズルを設ける必要がなく、簡単な構成で、潤滑油を軸受内部に給油することができる。
【0041】
さらに、軸受60,70,80の内部空間が一対のシール部材65,75や、後蓋34と後側外輪押え43とのラビリンスシールによって密封されるので、軸受側方からの空気の吸引が抑制され、軸受60,70,80の内部空間内の潤滑油を効果的に吸引することができる。
【0042】
さらに、外輪61,71,81の内周面には、排油穴71a,71b,81aが開口する軸方向位置に集油溝76a,76b,86が周方向に亘って形成されているので、外輪61,71,81の内周面に付着する、軸受60,70,80を潤滑した潤滑油が集油溝76a,76b,86に集められ、さらに、集油溝76a,76b,86内の潤滑油が、負圧発生装置103の吸引力によって、排油穴71a,71b,81aへと速やかに排出される。これにより、排油性をより向上することができ、潤滑油過多や異常発熱をさらに抑制することができる。
【0043】
軸受60,70,80が高速回転していると、玉63,73や円筒ころ83の公転や保持器74,84や内輪72,82の自転の際、内部の空気もその粘性抵抗により、同様に回転させられ、円周方向の空気流が生じている。従って、外輪61,71,81の内周面に付着した油も内周面に沿って円周方向に移動している。特に、回転軸22が立軸の場合、重力効果が少ないのでこの油の移動が発生しやすい。従って、集油溝76a,76b,86があると、集油溝76a,76b,86内に油が集まりやすく、排油性が向上される。従って、集油溝76a,76b,86は、断面角型、円弧状、テーパ状のいずれであっても良いが、角型より円弧状がより好ましい。
【0044】
また、外輪61,71,81の外周面には、排油穴71a,71b,81aとハウジングHの排油通路100,101,102とを連通する周方向溝77a,77b,87、給油穴78,88とハウジングHの給油通路90,91,92とを連通する周方向溝79,89が形成されているので、排油通路100,101,102及び給油通路90,91,92との位相合わせを行うことなく、軸受60,70,80をハウジングHに組み付けることができ、主軸装置20の組み付け性が向上される。
【0045】
また、本参考形態では、排油通路100,101,102は、軸受60,70,80毎に形成されているので、負圧発生装置103の吸引能力条件を変化させることで、各軸受60,70,80の吸引効率を最適化することができる。
【0046】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係る主軸装置用軸受について、図7を参照して詳細に説明する。なお、本実施形態では、前側軸受であるアンギュラ玉軸受側の構成において、第1参考形態と異なる。そのため、第1参考形態と同等部分については、同一符号を付して説明を省略或いは簡略化する。
また、以下に説明するアンギュラ玉軸受に係る各実施形態では、複列の前側軸受のうち、反工具側のアンギュラ玉軸受について説明するものとし、工具側のアンギュラ玉軸受は同一構成であるとして、説明を省略する。
【0047】
図7に示すように、本実施形態のアンギュラ玉軸受270は、一対のシール部材を設ける代わりに、軸受270の両側側方に設けられた各内輪間座42の鍔部42a,42aの外周面と各外輪間座40の内周面とでラビリンスシールを構成し、軸受270の内部空間を密封している。また、アンギュラ玉軸受270の外輪271では、カウンターボア側にのみに、傾斜した排油穴71b、集油溝76b、周方向溝77bが形成されている。
【0048】
従って、本実施形態においても、軸受270の内部空間が各内輪間座42の鍔部42aと各外輪間座40とのラビリンスシールによって密封されるので、軸受側方からの空気の吸引が抑制され、軸受270の内部空間内の潤滑油を効果的に吸引することができる。
その他の構成及び作用については、第1参考形態のものと同様である。
【0049】
尚、本発明は、前述した各実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
本実施形態では、前側軸受60,70を2列のアンギュラ玉軸受,後側軸受80を円筒ころ軸受としたが、各軸受の種類や列数は任意に設定可能である。
また、本実施形態では、アンギュラ玉軸受の排油穴71a,71bや円筒ころ軸受の排油穴81aは、それぞれ周方向に複数本ずつ形成されているが、周方向に少なくとも一本形成されればよい。
【0050】
さらに、図8に示す工作機械用主軸装置20aのように、各軸受60,70,80の排油穴が、ハウジングHに形成された単一の排油通路110と連通し、この排油通路110が、負圧発生装置103に図示しない配管を介して接続されてもよい。
【0051】
これにより、各軸受60,70,80を潤滑した潤滑油は、負圧発生装置103の吸引力によって強制的に吸引されながら、排油穴を介して、単一の排油通路110から外部へ排出され、軸受内部の潤滑油過多や異常発熱を抑制することができる。また、ハウジングHに穴加工する排油通路の数を少なくすることができ、加工コストを低減することができる。なお、図8では、異なる位相の前側軸受60,70の給油通路90,91と、後側軸受80の給油通路92とを同じ断面に示している。
【0052】
また、本実施形態では、軸受60,70,80毎に複数の給油通路90,91,92が設けられているが、これら給油通路90,91,92を単一の給油通路として、主軸装置20内で分岐して供給するようにしてもよく、潤滑方式や潤滑条件により複数の軸受毎に別通路とするか単一の共有通路とするかは最適方式を選択できる。
【参考例】
【0053】
ここで、第1参考形態(図5の前側軸受、及び図6の後側軸受)に示す本考案の主軸装置(参考品)と、従来の主軸装置(従来品)を用いて、運転時の軸受の温度上昇を測定した。以下、試験条件について列挙する。
【0054】
<試験条件>
(1)主軸軸受形式:アンギュラ玉軸受
(2)軸受主要寸法:軸受内径50mm、軸受外径80mm
(3)試験時のスピンドル回転数:最高40,000min^(-1)(軸受dm・N値:2.6×10^(6))
(4)潤滑方法:オイルエア潤滑
(5)排油方法
・参考品:排油孔からの吸引あり(負圧吸引あり)
・従来品:排油孔からの吸引なし(重力による排出のみ:大気圧条件)
【0055】
図9は、参考品と従来品での、軸受回転数と軸受外輪温度上昇との関係を示す。図9からわかるように、従来品に対して参考品は、軸受外輪の温度上昇値が回転数上昇に伴い低く推移しており、特に、20,000min^(-1)以上の高速回転において、約3?4℃前後低くなっている。
【0056】
これは、排油孔からの吸引により重力の影響を受けず、軸受に供給された潤滑油が軸受内部に停滞することなく、スムーズに排出されていることによるものである。高速運転状態において、油の軸受内部での滞油が続くと、攪拌抵抗による昇温が急激に生じる場合があり、発熱の際の潤滑油の粘度低下によりころがり接触部の油膜厚が薄くなり金属接触から瞬時に焼付きが発生する。参考品は、高速スピンドルや旋回型のスピンドルの構造において、これらの焼付きリスクを大幅に低減することが可能となる。
【0057】
次に、高速回転時にスピンドルを旋回させて、排油孔からの吸引効果の確認を行った。図10に示すように、スピンドル水平状態(回転軸芯が水平:位相を0°とする。)で、40,000min^(-1)で連続運転(30分)している状態から、旋回サイクルをスタートした。即ち、垂直状態:スピンドル工具取付面が下方(位相90°)、さらに、水平状態(位相180°)へ旋回させ、その後、垂直状態(位相90°)を経て、スタート時の水平状態(位相0°)へ戻る首振り旋回サイクル(1サイクル約20秒)を行った。なお、その他の試験条件は上記のものと同じである。
【0058】
図11に示すように、従来品では、首振り前の状態での温度上昇も参考品に対して約5℃高い。また、従来品では、首振り旋回サイクル開始後、約1時間の間に3℃前後外輪温度が変化しているが、参考品では、ほとんど温度が変化しないことが確認できた。これは、参考品では、旋回時における内部潤滑油の排出むらが発生していないことが理由と考えられる。
【0059】
参考品は、従来品に比べて温度上昇が5℃程度低く、さらに旋回サイクル運転時の温度のばらつきが少ないことから、スピンドルの熱変位を抑制し加工精度の向上を図ることが可能である。
また、潤滑油が軸受内部から速やかに排出されるので、高速運転時に潤滑油の軸受内部停滞による攪拌抵抗から異常発熱が生じて焼付きに至るリスクを軽減することができる。
その結果、安定した高速回転でのスピンドル首振り運転による加工が可能となる。
【符号の説明】
【0060】
1 門形マシニングセンタ(複合加工工作機械)
20 主軸装置
22 回転軸
30 ロータ
32 ステータ
40 外輪間座
42 内輪間座
60,70,270 前側軸受
61,71,81,271 外輪
71a,71b,81a 排油穴
76a,76b,86 集油溝
78,88 給油穴
80 後側軸受(円筒ころ軸受)
100,101,102 排油通路
103 負圧発生装置
H ハウジング
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に内輪軌道面を有する内輪と、
内周面に外輪軌道面を有する外輪と、
前記内輪軌道面と前記外輪軌道面との間に接触角を持って配置される複数の玉と、
前記複数の玉を略等間隔で保持する外輪案内の保持器と、
を有し、工具を取り付け可能な回転軸をハウジングに対して回転自在に支持するとともに、オイル潤滑によって潤滑される主軸装置用アンギュラ玉軸受であって、
前記軸受の内部空間が、内輪間座の鍔部と外輪間座の内周面とで構成されるラビリンスシールによって、密封構造とされ、
前記外輪には、径方向に貫通形成される給油穴と、径方向に貫通形成され、且つ、カウンターボア側の内周面に開口する排油穴とが設けられ、
前記給油穴及び前記排油穴は、前記保持器が案内されていない前記外輪の内周面に開口し、
前記排油穴の開口は、その軸方向内端が前記外輪軌道面と前記保持器のポケットの軸方向内端面との間に位置し、且つ、その軸方向外端が前記保持器の軸方向外端面よりも軸方向内側に位置するように、前記外輪軌道面の近傍に配置され、
該排油穴内には、軸受外部からの吸引力によって、負圧が作用することを特徴とする主軸装置用アンギュラ玉軸受。
【請求項2】
前記給油穴は、前記保持器よりも軸方向内側で、且つ、前記保持器が案内されていない前記外輪の内周面に開口することを特徴とする請求項1に記載の主軸装置用アンギュラ玉軸受。
【請求項3】
前記給油穴は、前記玉の軸方向中心位置に対して、前記玉と外輪軌道面が接触する接触点と反対側で、且つ、前記軸方向中心位置から軸方向に外れた位置に開口し、
前記排油穴は、径方向から見て、前記玉とオーバーラップする前記外輪の内周面に開口し、
前記保持器は、反カウンターボア側の前記外輪の内周面に案内されることを特徴とする請求項1または2に記載の主軸装置用アンギュラ玉軸受。
【図面】












 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2020-07-27 
結審通知日 2020-07-30 
審決日 2020-08-17 
出願番号 特願2009-17771(P2009-17771)
審決分類 P 1 41・ 851- Y (F16C)
P 1 41・ 853- Y (F16C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 上谷 公治石田 智樹  
特許庁審判長 平田 信勝
特許庁審判官 田村 嘉章
内田 博之
登録日 2013-08-30 
登録番号 特許第5347538号(P5347538)
発明の名称 主軸装置用アンギュラ玉軸受  
代理人 松山 美奈子  
代理人 松山 美奈子  

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