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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C02F
管理番号 1366360
審判番号 不服2018-16063  
総通号数 251 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-12-03 
確定日 2020-09-17 
事件の表示 特願2015- 67156「嫌気処理装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年10月27日出願公開、特開2016-185523〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年(2015年) 3月27日を出願日とする出願であって、その手続の経緯は、以下のとおりである。

平成30年 4月16日 拒絶理由通知(起案日)
平成30年 7月 6日 意見書、手続補正書の提出
平成30年 8月27日 拒絶査定(起案日)
平成30年12月 3日 審判請求書、手続補正書の提出
平成31年 2月27日 上申書の提出
令和 1年11月 6日 拒絶理由通知(起案日)
令和 2年 1月14日 意見書、手続補正書の提出


第2 本願発明
本願の請求項1?4に係る発明は、令和 2年 1月14日に提出された手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されたものであるところ、そのうちの請求項4に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「【請求項4】
固定床担体又は流動床担体を用い、被処理水を嫌気性処理する嫌気処理方法において、
嫌気処理部で前記被処理水を嫌気性処理する工程と、
嫌気性処理の立ち上げ時に、凝集剤を添加する工程と、を備え、
前記凝集剤は、前記被処理水を前記嫌気処理部の下部に供給する供給ライン、又は、前記嫌気処理部から排出された処理水を前記嫌気処理部の下部に戻す循環ラインに添加することを特徴とする嫌気処理方法。」


第3 拒絶の理由
令和 1年11月 6日付けで当審が通知した拒絶の理由のうち、理由3は、次のとおりである。
「 この出願の請求項1、4に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

引用文献 特開昭52-41451号公報 」


第4 当審の判断
1 引用文献の記載事項
引用文献には,以下の事項が記載されている。
1a「特許請求の範囲
NO_(2)^(-)及び/又はNO_(3)^(-)含有廃水を生物学的に脱窒する流動床式反応槽に担体を投入し、脱窒細菌を担体に付着生長させて廃水と共に流動化させ廃水を処理する生物学的脱窒法において、廃水に高分子凝集剤を添加し、反応槽内で担体と脱窒細菌とからなるペレットを形成させながら脱窒処理することを特徴とする生物学的脱窒法。」

1b「この発明は流動床による廃水の生物学的脱窒法に関する。
下水やし尿処理液などの汚水に含まれている窒素化合物は、河川、湖沼などにおける富栄養化の原因となるので、環境汚染防止のため2次公害のおそれのない適当な方法で汚水を処理して窒素を除去することが必要である。微生物を利用した脱窒法は、最終的にN_(2)ガスとして大気中に放出するため、また他の生物処理と関連して利用できる利点があるため広く実用化されている。
生物学的脱窒法は脱窒細菌によりNO_(2)^(-)又はNO_(3)^(-)をN_(2)ガスに還元する脱窒作用から成つている。」(1ページ左欄13行?右欄6行)

1c「従来、反応槽に砂、活性炭などの担体を入れ、上向流で通液してこれを流動化させながら担体表面に脱窒細菌を付着増殖させて脱窒処理する、いわゆる流動床方式の生物学的脱窒法は知られている。しかし、このような流動床方式の脱窒処理においては、生成する余剰汚泥の含水率が高いことや、反応槽内の流動状態を維持することが困難であるなどの欠点があつた。
本発明はこのような従来技術の欠点を解決し、反応槽内の流動状態を容易に維持することができ、しかも含水率の低い汚泥を生成しうる流動床方式による生物学的脱窒法を提供するものである。」(1ページ右欄7行?19行)

1d「このように本発明は流動床式反応槽に流入する又は流入した廃水中に高分子凝集剤を添加し上向流で通液して流動状態を維持して行なうものである。高分子凝集剤は微生物が担体に付着し生長して行く量に合わせて添加するもので、流加量は担体又は生物表面に高分子凝集剤が付着又は吸着する程度の量を連続的に又は間欠的に投入する。量が多過ぎると逆に分散状態となつて汚泥の粒状化が進まなくなるが、必らずしも汚泥が凝固(フロック形成)する量を一度に添加する必要はなく、その1/2?1/100程度の量(発生汚泥乾量に対し0.001?0.5%程度)を徐々に添加すればよい。高分子凝集剤の添加場所は流動床に流入する廃水中に予め添加するか、或いは直接流動床に添加してもよい。・・・
このような添加を行なうことにより処理水中の分散菌体が著しく低下すると同時に比較的大きな担体を媒体としたペレツトを形成することができる。こゝで生成したペレツトは通常の微生物処理において発生するかゆ状の汚泥とは異なり、ピンセツトで水中からつまみ出すことができる丈夫な粒状化したものである。」(2ページ左上欄8行?右上欄12行)

1e「担体としては比重1.1以上のもの、好ましくは1.1?4.0の範囲のもの、例えばアンスラサイト、ガラス玉、活性炭、プラスチツクビーズ、ゼオライト、砂、アルミナ、炭酸カルシウム粒状物、ガーネツト、シヤモツト、石炭、火山焼鉱などがある。本発明において反応槽の流動化は反応槽に流入する廃水の流速(LV)により調整する。」(2ページ左下欄5行?12行)

1f「反応槽の形状構造は特に限定されないが、例えば円筒状や多角筒状のものが使用される。反応槽は、反応槽に廃水を導入する廃水導入部と、廃水と担体およびペレツトが流動する流動床部と処理水とが分離される処理水取出部とが下から順次構成される。」(2ページ右下欄12行?17行)

1g「次に本発明の処理フローを図面によつて説明する。図面において反応槽1は廃水導入部Iと流動床部IIと処理水取出部IIIとからなつている。廃水導入部Iには廃水を廃水導入部Iに導く管3と、ドレン10とが開口している。ドレン10は万が一支持板4からもれて蓄積する担体を抜取るために設けられている。・・・ そして処理水取出部IIIには余剰ペレツト排出口8と処理水流出口9が開口している。廃水は管2からポンプPによつて管3を経て反応槽1の廃水導入部Iに流入する。・・・
廃水導入部Iに流入した廃水は支持板4により分散されて均一に流動床内を上昇し流動床内に廃水と担体およびペレットからなる流動床を形成する。さらに攪拌装置により攪拌され円滑に流動しながら上昇する。そして担体投入用ホッパー5から投入された担体に付着生長した脱窒細菌と効率良く接触して廃水中のNO_(2)^(-),NO_(3)^(-)を脱窒する。脱窒細菌は有機栄養源の添加により廃水中のNO_(2)^(-),NO_(3)^(-)を脱窒しながら生長し、次第に大きくなり粒状化して微生物と担体とからなるペレツトを形成する。図のA,B又はCの所から高分子凝集剤を添加することによりペレツト形成作用は著しく促進され、含水率の低い比較的大きいペレツトとなる。」(3ページ左上欄6行?右上欄16行)

1h「本発明により流動状態が常に維持され良好な処理水が得られるとともに比較的大きな平均粒径を有する含水率の低い脱水しやすいペレツトが得られ、汚泥処理がきわめて容易となる。」(3ページ左下欄8行?11行)

1i「図面



2 引用文献に記載された発明
引用文献に記載された発明は、流動床による廃水の生物学的脱窒法に関するものであり(記載事項1b)、従来の流動床方式の生物学的脱窒法における、生成する余剰汚泥の含水率が高いことや、反応槽内の流動状態を維持することが困難であるなどの欠点を解決し、反応槽内の流動状態を容易に維持することができ、しかも含水率の低い汚泥を生成しうる流動床方式による生物学的脱窒法を提供するものである(記載事項1c)。
そして、その主眼とするところは、その特許請求の範囲に記載の「NO_(2)^(-)及び/又はNO_(3)^(-)含有廃水を生物学的に脱窒する流動床式反応槽に担体を投入し、脱窒細菌を担体に付着生長させて廃水と共に流動化させ廃水を処理する生物学的脱窒法において、廃水に高分子凝集剤を添加し、反応槽内で担体と脱窒細菌とからなるペレットを形成させながら脱窒処理することを特徴とする生物学的脱窒法。」(記載事項1a)にあると解することができるところ、当該生物学的脱窒法における「廃水に高分子凝集剤を添加」する工程について、引用文献には、「本発明は流動床式反応槽に流入する又は流入した廃水中に高分子凝集剤を添加し上向流で通液して流動状態を維持して行なうものである。・・・高分子凝集剤の添加場所は流動床に流入する廃水中に予め添加するか、或いは直接流動床に添加してもよい。」(記載事項1d)と記載されている。また、その具体的な添加場所については、「図のA,B又はCの所から高分子凝集剤を添加する」(記載事項1g)とされ、同図及びその説明(記載事項1i及び1g)をみると、当該B又はCの所とは、廃水を反応槽1の下部に設けられた廃水導入部Iに流入するラインである、管2、ポンプ3、管3のうちの、管2又は管3の所であることを看取することができる。
そうすると、上記特許請求の範囲に記載された生物学的脱窒法における「廃水に高分子凝集剤を添加」する工程は、その添加時期・場所として、流動床式反応槽に流入する廃水中に予め添加するものであって、当該流動床式反応槽の下部に廃水を流入するライン(図のB又はC)が、既に予定されているということができる。
以上を整理すると、引用文献1に記載された発明として、次の発明(以下、「引用発明」という。)を認定することができる。
「NO_(2)^(-)及び/又はNO_(3)^(-)含有廃水を生物学的に脱窒する流動床式反応槽に担体を投入し、脱窒細菌を担体に付着生長させて廃水と共に流動化させ廃水を処理する生物学的脱窒法において、廃水に高分子凝集剤を添加し、反応槽内で担体と脱窒細菌とからなるペレットを形成させながら脱窒処理する生物学的脱窒法であって、
前記廃水に高分子凝集剤を添加する工程は、前記流動床式反応槽に流入する廃水中に予め添加するものであって、流動床式反応槽の下部に廃水を流入するラインにおいて行われるもの。」

3 本願発明と引用発明との対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「脱窒処理」は、引用文献1の記載事項1bに記載されるように「生物学的脱窒法は脱窒細菌によりNO_(2)^(-)又はNO_(3)^(-)をN_(2)ガスに還元する脱窒作用からなっている。」というものであり、これが「嫌気性処理」にあたることは、当業者がよく知るところであるから、引用発明において、当該「脱窒処理」を行う「流動床式反応槽」は、本願発明において、当該「嫌気性処理」をする「嫌気処理部」に相当するものと解するのが合理的である。
また、引用発明の「担体」は、上記「流動床式反応槽」において用いられるものであるから、本願発明における「流動床担体」に相当するものといえるし、引用発明における「廃水」、「高分子凝集剤」、「ライン」は、それぞれ本願発明における「被処理水」、「凝集剤」、「供給ライン」に相当するものということができる。
そうすると、本願発明と引用発明とは、次の点で一致するものと認められる。
・一致点
固定床担体又は流動床担体を用い、被処理水を嫌気性処理する嫌気処理方法において、
嫌気処理部で前記被処理水を嫌気性処理する工程と、
凝集剤を添加する工程と、を備え、
前記凝集剤は、前記被処理水を前記嫌気処理部の下部に供給する供給ラインに添加する嫌気処理方法。
また、両者の間には、一応、次の相違点が存するものと認められる
・相違点
凝集剤を添加する工程について、本願発明は、「嫌気性処理の立ち上げ時に、凝集剤を添加する工程」と特定しているのに対して、引用発明は、このような添加時期についての明示がない点。
なお、本願発明は、「立ち上げ時にのみ」と特定しているわけではないから、立ち上げ後に凝集剤を添加することを排除しているわけではない。

4 相違点についての検討
上記相違点について検討する。
(1) まず、上記相違点に係る本願発明における「嫌気性処理の立ち上げ時」の意味について確認しておく。
ア 一般に、「立ち上げ時」というのは、文字通り、動作や行動のしはじめのことであり、本格的な処理・運転(定常処理・運転)に至っていない時期と解するのが合理的である。
イ また、本願明細書の【0004】、【0007】、【0016】には、当該「立ち上げ時」に関して、次の記載がある。
・「【0004】
しかし、固定床担体、流動床担体を問わず、担体を用いる場合には、担体上での微生物の増殖に時間がかかり、結果として装置の立ち上げに多大な時間を要するという欠点があった。そのため、担体上での微生物の増殖を促進する方法が検討されている。」
・「【0007】
本発明の課題は、装置の立ち上げに要する時間を更に短縮するため、担体上での微生物の増殖を促進することが可能な嫌気処理装置及び嫌気処理方法を提供することである。」
・「【0016】
本願発明の嫌気処理装置及び嫌気処理方法によると、嫌気性微生物の担体上への付着が促進されるため、担体上での微生物の増殖速度が高まり、装置の立ち上げに要する時間を短縮することができる。」
これらの記載からすると、本願発明における「嫌気性処理の立ち上げ時」とは、まだ担体上での微生物の増殖が完了していない時期を指すものと解することもできる。

(2) 上記の点を踏まえて、引用発明における高分子凝集剤の添加時期についてみてみる。
ア 引用発明における廃水の脱窒処理(本願発明における「嫌気性処理」)は、引用文献の図でいうと、流動床部IIにおいて、本格的な処理・運転が行われるものと解される。そうすると、引用発明における「廃水に高分子凝集剤を添加する工程」は、当該流動床部IIに至る前の、「前記流動床式反応槽に流入する廃水中に予め添加するものであって、流動床式反応槽の下部に廃水を流入するラインにおいて行われるもの」であるから、当該高分子凝集剤が添加される廃水は、この時点では、脱窒処理の本格的な処理・運転に至っていない時期にあるということができる。
そうである以上、上記 (1)アに照らすと、引用発明における高分子凝集剤の添加時期は、引用発明における「脱窒処理の立ち上げ時」というべきである。
イ また、引用発明は、「廃水に高分子凝集剤を添加し、反応槽内で担体と脱窒細菌とからなるペレットを形成させながら脱窒処理する」ものであるところ、「高分子凝集剤は微生物が担体に付着し生長して行く量に合わせて添加するもので、流加量は担体又は生物表面に高分子凝集剤が付着又は吸着する程度の量を連続的に又は間欠的に投入する」(記載事項1d)とされている。また、引用文献の図の説明(記載事項1g)のとおり、流動床部IIにおいて、廃水導入部Iに流入した廃水と担体およびペレットからなる流動床が形成され、さらに、脱窒細菌は有機栄養源の添加により排水中のNO^(2-),NO^(3-)を脱窒しながら生長し、次第に大きくなり粒状化して微生物と担体とからなるペレットが形成されるものである。
そうすると、引用発明において、「廃水に高分子凝集剤を添加し、反応槽内で担体と脱窒細菌とからなるペレットを形成させながら脱窒処理する」工程は、流動床部II(反応槽)において、担体の表面に微生物が付着し生長を始めペレットが十分に形成されていない段階から高分子凝集剤を添加し、担体又は生物表面に当該高分子凝集剤を付着又は吸着させることを意図したものであることは明らかである。
そうである以上、この観点からみても、上記 (1)イに照らすと、引用発明における高分子凝集剤の添加時期は、引用発明における「脱窒処理の立ち上げ時」を含んでいるというべきである。

(3) 以上のとおり、凝集剤の添加時期において、本願発明と引用発明の間に違いは認められないから、上記相違点は、実質的なものではない。

5 審判請求人の主張について
審判請求人は、令和 2年 1月14日付けの意見書において、「引用文献1に記載された発明は、反応槽内の流動状態を維持し、含水率の低い汚泥を生成するために高分子凝集剤を添加するという発明です(引用文献1の第1頁右下欄第15行?第2頁左上欄第7行)。また、引用文献1の実施例1には、高分子凝集剤は、脱窒処理中に連続添加することが記載されていま
す。一方で、引用文献1には、脱窒処理(嫌気処理)装置の立ち上げ時に凝集剤を添加することは記載されていません。」と主張している。
しかしながら、上記4(1)のとおり、本願発明における「嫌気性処理の立ち上げ時」とは、本格的な処理・運転に至っていない時期、あるいは、まだ担体上での微生物の増殖が完了していない時期を指すものと解され、他方、引用発明における添加時期も、そのような時期にあり、両者の添加時期に相違するところは認められないから、上記審判請求人の主張を採用することはできない。

6 小活
以上の検討をまとめると、本願発明は、引用文献に記載された発明(引用発明)であるということができる。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2020-06-30 
結審通知日 2020-07-07 
審決日 2020-07-29 
出願番号 特願2015-67156(P2015-67156)
審決分類 P 1 8・ 113- WZ (C02F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田中 雅之  
特許庁審判長 日比野 隆治
特許庁審判官 金 公彦
後藤 政博
発明の名称 嫌気処理装置  
代理人 特許業務法人雄渾  

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