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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01G
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01G
管理番号 1366380
審判番号 不服2019-10579  
総通号数 251 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-08-08 
確定日 2020-09-17 
事件の表示 特願2015- 4518「炭素多孔質電極およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 2月18日出願公開、特開2016- 27599〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年1月13日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年11月14日付け:拒絶理由通知書
平成31年1月17日:意見書、手続補正書の提出
平成31年4月24日付け:拒絶査定
令和1年8月8日:審判請求書、手続補正書の提出

第2 令和1年8月8日にされた手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
令和1年8月8日にされた手続補正を却下する。

[理由]
1 本件補正
令和1年8月8日提出の手続補正書によってされた手続補正(以下、「本件補正」という。)前後の特許請求の範囲の記載は次のとおりである。
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載(下線部は、補正箇所である。)
「 【請求項1】
アモルファス炭素、及び前記アモルファス炭素中に均一に分散した黒鉛粒子を含み、平均孔径0.1μm以上のマクロ孔および平均孔径10nm以下のミクロ孔を有し、固有抵抗値が1Ω・cm以下であり、かつ密度が略均一である、炭素多孔質電極。
【請求項2】
表面の少なくとも1面に金属層が積層されている、請求項1記載の炭素多孔質電極。
【請求項3】
前記金属層が、アルミニウム、金、白金、銀、クロム、ニッケル、チタン、鉄、錫、パラジウム、又はこれらの合金から成る、請求項2記載の炭素多孔質電極。
【請求項4】
前記固有抵抗値が0.1Ω・cm以下である請求項1?3のいずれか1項記載の炭素多孔質電極。
【請求項5】
前記固有抵抗値が0.06Ω・cm以下である請求項4記載の炭素多孔質電極。
【請求項6】
炭素含有樹脂に穴開け材粒子及び黒鉛粒子を均一に分散させ、
前記穴開け材粒子を分散させた前記炭素含有樹脂を非酸化雰囲気中で熱処理することにより前記炭素含有樹脂を炭素化するとともに前記穴開け材粒子を消失させて平均孔径0.1μm以上のマクロ孔を形成し、
前記マクロ孔が形成された炭素化物に賦活処理を施すことにより平均孔径10nm以下のミクロ孔を形成することを含む炭素多孔質電極の製造方法。
【請求項7】
前記炭素化の前において、前記穴開け材粒子が分散した炭素含有樹脂を押出成形によりシート状に成形することをさらに含む請求項6記載の炭素多孔質電極の製造方法。
【請求項8】
前記炭素含有樹脂の残炭率が15%超であり、かつ前記穴開け材粒子の残炭率が5%以下である、請求項6または7記載の炭素多孔質電極の製造方法。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲(平成31年1月17日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲)の記載
「 【請求項1】
アモルファス炭素、及び前記アモルファス炭素中に均一に分散した黒鉛粒子を含み、平均孔径0.1μm以上のマクロ孔および平均孔径10nm以下のミクロ孔を有し、固有抵抗値が1Ω・cm以下である炭素多孔質電極。
【請求項2】
密度が略均一である、請求項1記載の炭素多孔質電極。
【請求項3】
表面の少なくとも1面に金属層が積層されている、請求項1または2記載の炭素多孔質電極。
【請求項4】
前記金属層が、アルミニウム、金、白金、銀、クロム、ニッケル、チタン、鉄、錫、パラジウム、又はこれらの合金から成る、請求項3記載の炭素多孔質電極。
【請求項5】
前記固有抵抗値が0.1Ω・cm以下である請求項1?4のいずれか1項記載の炭素多孔質電極。
【請求項6】
前記固有抵抗値が0.06Ω・cm以下である請求項5記載の炭素多孔質電極。
【請求項7】
炭素含有樹脂に穴開け材粒子及び黒鉛粒子を均一に分散させ、
前記穴開け材粒子を分散させた前記炭素含有樹脂を非酸化雰囲気中で熱処理することにより前記炭素含有樹脂を炭素化するとともに前記穴開け材粒子を消失させて平均孔径0.1μm以上のマクロ孔を形成し、
前記マクロ孔が形成された炭素化物に賦活処理を施すことにより平均孔径10nm以下のミクロ孔を形成することを含む炭素多孔質電極の製造方法。
【請求項8】
前記炭素化の前において、前記穴開け材粒子が分散した炭素含有樹脂を押出成形によりシート状に成形することをさらに含む請求項7記載の炭素多孔質電極の製造方法。
【請求項9】
前記炭素含有樹脂の残炭率が15%超であり、かつ前記穴開け材粒子の残炭率が5%以下である、請求項7または8記載の炭素多孔質電極の製造方法。」

2 補正の適否
本件補正は、請求項1の炭素多孔質電極について、「密度が略均一である」と特定したものである。なお、本件補正前の請求項2は削除され、そして、本件補正前の請求項3ないし6は、限定された請求項1に従属させて新たな請求項2ないし5にしたものである。また、本件補正前の請求項7ないし9の項番を繰り上げて請求項6ないし8としたものである。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第1号に掲げる請求項の削除、第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮、及び第4号に掲げる明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下、「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

3 本件補正発明
本件補正発明は、上記「1(1)」に【請求項1】として記載したとおりのものである。

4 引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された特開昭64-46913号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。

(1)「 本発明者らはこれらの問題のない高性能なキャパシタを安価に製造するべく鋭意研究した結果、連通気孔を有する網目状構造の活性炭素体を分極性電極として用いることにより高容量、低内部抵抗、優れた耐久性を有する電気二重層キャパシタが容易に製造し得ることを見出し本発明を完成したものである。」(第2頁右上欄第1行-第7行)

(2)「 本発明の目的は、連通気孔率が少なくとも50%であるポリビニルアセタール/フェノール樹脂系多孔体を炭化及び賦活して得た比表面積800m^(2)/g以上の活性炭素体を分極性電極とし、電解液を含浸したセパレータを介して互に対向せしめたことを特徴とする電気二重層キャパシタにより達成される。」(第2頁右上欄第13行-第19行)

(3)「 また、該活性炭素多孔体の電気抵抗を小さくするためにポリビニルアセタール系合成樹脂多孔体或はポリビニルアセタール/フェノール樹脂系多孔体の製造時にカーボンブラック、アセチレンブラック、黒鉛粉末、炭素繊維、あるいは電解液に対して電気化学的に安定な金属例えばニッケル、ステンレス等の粉末や繊維を混入してもよい。」(第4頁左上欄第20行-右上欄第6行)

(4)「 このようにして製造された合成樹脂多孔体は、次いで炭化及び賦活処理に付される。賦活処理はガス賦活法、薬品賦活法のいずれでもよい。ガス賦活法に於ては炭化と賦活を2工程に分けて行なうことも出来るし、炭化と賦活を1工程として同時に行なうことも出来る。ガス賦活法に於て炭化と賦活を別々に行なう場合には、まず非酸化性雰囲気下即ち真空又はアルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガス、水素ガス、窒素ガス等の中で合成樹脂多孔体を通常600℃以上で炭化焼成する。次いで水蒸気、炭酸ガス、空気或はそれらの混合ガス雰囲気中で所定の温度で賦活処理する。賦活処理の温度、時間は合成樹脂多孔体の気孔率、気孔径、形状、所望の比表面積、雰囲気などにより適宜決定される。例えば水蒸気、炭酸ガス雰囲気の場合には通常500?1200℃、好ましくは700?1000℃で数分間?数時間賦活処理する。ガス賦活法で炭化と賦活を同時に行なう場合には、通常水蒸気或は炭酸ガス雰囲気下で合成樹脂多孔体を昇温し、500?1200℃の所定温度で所定時間処理すればよい。」(第4頁右上欄第7行-左下欄第7行)

(5)「 以上の如くして得られる本発明に用いる網目状構造を有する活性炭素体は強度が大きく、均一に分布する連通細孔を高気孔率で有し、更に該細孔表面は5?30Å程度の半径を有するミクロ孔から成る高比表面積を持つ活性炭素成形体であり、キャパシタの分極性電極として極めて優れたものである。」(第4頁左下欄第17行-右下欄第3行)

(6)「 第1図は本発明に係るボタン型キャパシタの1例である。
(1)、(1’)は網目状構造を有する活性炭素体からなる電極であり、(2)は電解液を含浸したセパレータ、(3)は電気絶縁性パッキング材であり、集電体と外装材を兼ねたステンレス製外装ケース(4)及び(5)の接触と電解液の漏出を防止する。集電体兼外装ケース(4)及び(5)に接する(1)、(1’)の面には、接触抵抗を小さくするために金属層が設けられている。該金属層は蒸着法、溶射法、メツキ法等により与えらえる。」(第5頁左下欄第10行-第20行)

(7)「実施例2
重合度1500、鹸化度99%のポリビニルアルコールを水に分散させ、加熱溶解後、液温が60℃になったところで所定の粒径の小麦粉澱粉の水分散液を加えて均一に混合した。更に、水溶性レゾール樹脂〕スミライトレジンPR-961A(商標)住友デュレス〈株〉製品〕を、出来上った複合樹脂多孔体中で60重量%となる量で加え、攪拌しながら70?80℃に加熱した。この混合液を40℃に冷却後、37%のホルマリン及び硫酸を加えて均一に混合し、ポリビニルアルコールとフェノール樹脂合わせて8重量%、澱粉4重量%、ホルマリン10重量%、硫酸10重量%からなる溶液を調整した。
該溶液をガラス板上に流延し、60℃で18時間加熱して反応させた後、水洗して澱粉及び未反応物を溶出せしめ、厚さ1mmの連続気孔を有するポリビニルホルマール/フェノール樹脂系多孔板を得た。次に該多孔板を黒鉛板に挟んで電気炉に入れ、窒素雰囲気で150℃/時間の昇温温度で600℃まで昇温して炭化し、続いて水蒸気を炭酸ガスの混合ガス雰囲気中で100℃/時間の昇温速度で1000℃まで昇温し、同温度で1時間保持した後、冷却した。得られた網目状構造を有する活性炭素板は平均気孔系20μ、気孔率81%、比表面積1450m^(2)/g、電気比抵抗0.1Ω・cmであった。
次に、実施例1と同様にしてボタン型キャパシタを組立てた。但し、電解液としては過塩素酸4ブチルアンモニウムをプロピレンカーボネートに1モル/lの濃度に溶解したものを用いた。」(第6頁右上欄第9行-左下欄第17行)

ここで、引用文献1で使われている、「連通気孔」と「連通細孔」という用語について、上記(1)の「連通気孔を有する網目状構造の活性炭素体」及び上記(5)の「網目状構造を有する活性炭素体は強度が大きく、均一に分布する連通細孔を高気孔率で有し」という記載などからすれば、これらは同じものを指す用語といえる。
また、「連通気孔」と「連続気孔」という用語について、上記(2)の「連通気孔率が少なくとも50%であるポリビニルアセタール/フェノール樹脂系多孔体」及び上記(7)の「連続気孔を有するポリビニルホルマール/フェノール樹脂系多孔板」という記載などからすれば、これらは同じものを指す用語であるといえる。
したがって、「連通気孔」、「連通細孔」及び「連続気孔」は同じものを指す用語であるといえる。
そして、上記(7)によれば、連続気孔を有するポリビニルホルマール/フェノール樹脂系多孔板を炭化し、水蒸気を炭酸ガスの混合ガス雰囲気中で100℃/時間の昇温速度で1000℃まで昇温し、同温度で1時間保持した後、冷却することで、網目状構造を有する活性炭素板が得られる。ここで、水蒸気と(「水蒸気を」は「水蒸気と」の誤記と認められる。)炭酸ガスの混合ガス雰囲気中で100℃/時間の昇温速度で1000℃まで昇温し、同温度で1時間保持する処理は、上記(4)によれば賦活処理のことである。そうすると、当該活性炭素板は、連続気孔を有するポリビニルホルマール/フェノール樹脂系多孔板を炭化及び賦活処理して得られたものといえる。また、当該活性炭素板は、平均気孔径20μ(「平均気孔系」は「平均気孔径」の誤記と認められる。)、電気比抵抗0.1Ω・cmである。
また、上記ポリビニルホルマール/フェノール樹脂系多孔板には、上記(3)によれば、電気抵抗を小さくするために黒鉛粉末を混入してもよいから、黒鉛粉末が混入された上記ポリビニルホルマール/フェノール樹脂系多孔板を炭化及び賦活処理して得られた活性炭素板は、電気比抵抗が0.1Ω・cm以下であると認められる。
そして、上記(5)によれば、網目状構造を有する活性炭素体は、均一に分布する連通細孔を高気孔率で有し、該細孔表面は5?30Å程度の半径を有するミクロ孔から成る。すなわち、上記活性炭素板は、連続気孔と、連続気孔の表面に5?30Å程度の半径を有するミクロ孔を有する。
さらに、上記(6)によれば、ボタン型キャパシタの電極は、網目状構造を有する活性炭素体からなるから、上記(7)の実施例2で組立てたボタン型キャパシタの電極は、上記網目状構造を有する活性炭素板からなる電極であるといえる。

以上によれば、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「黒鉛粉末が混入されたポリビニルホルマール/フェノール樹脂系多孔板を炭化及び賦活した、平均気孔径が20μの連続気孔と、5?30Å程度の半径を有するミクロ孔とを有し、電気比抵抗が0.1Ω・cm以下である、活性炭素板からなる電極。」

5 対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「活性炭素板」はポリビニルホルマール/フェノール樹脂系多孔板を炭化及び賦活して得られたものであるから、当該「活性炭素板」からなる「電極」は、本件補正発明の「炭素多孔質電極」に相当する。

(2)引用発明の活性炭素板はポリビニルホルマール/フェノール樹脂系多孔板を炭化して得られたものである。ここで、一般に1000℃以下で炭化すると含炭素材料はアモルファス炭素として炭化するところ(必要であれば、特開2010-163709号公報の【0026】を参照)、フェノール樹脂は炭素を含有する樹脂であり、炭化の温度は600℃(上記「4(7)」を参照)であるから、当該ポリビニルホルマール/フェノール樹脂系多孔板を炭化して得られた活性炭素板はアモルファス炭素を含むものといえる。また、ポリビニルホルマール/フェノール樹脂系多孔板には黒鉛粉末が混入されているから、当該アモルファス炭素中には黒鉛粉末が含まれているといえる。そして、引用発明の「黒鉛粉末」は、本件補正発明の「黒鉛粒子」に相当する。したがって、本件補正発明の「炭素多孔質電極」と引用発明の「活性炭素板からなる電極」は、「アモルファス炭素、及び前記アモルファス炭素中に黒鉛粒子を含」む点で共通する。
ただし、本件補正発明の「黒鉛粒子」は「アモルファス炭素中に均一に分散し」ているのに対して、引用発明の「黒鉛粉末」はその旨の特定がされていない点で相違する。

(3)引用発明の「連続気孔」は平均気孔径が20μであるから、本件補正発明の「平均孔径0.1μm以上のマクロ孔」に含まれる。

(4)引用発明のミクロ孔は5?30Å程度の半径を有するから、その直径は10?60Å程度、すなわち1?6nm程度である。したがって、引用発明の「ミクロ孔」は、本件補正発明の「平均孔径10nm以下のミクロ孔」に含まれる。

(5)引用発明の「電気比抵抗」は、一般に体積固有抵抗値や体積抵抗率ともいわれるものであるから、本件明細書の「固有抵抗値(体積抵抗率)」という記載(【0007】)を鑑みれば、本件補正発明の「固有抵抗値」に相当する。したがって、引用発明の「活性炭素板からなる電極」は電気比抵抗が0.1Ω・cm以下であるから、本件補正発明の「固有抵抗値が1Ω・cm以下である炭素多孔質電極」に含まれる。

(6)本件補正発明の「炭素多孔質電極」は、「密度が略均一である」のに対して、引用発明の「活性炭素板からなる電極」はその旨の特定がされていない点で相違する。

以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
(一致点)
「 アモルファス炭素、及び前記アモルファス炭素中に黒鉛粒子を含み、平均孔径0.1μm以上のマクロ孔および平均孔径10nm以下のミクロ孔を有し、固有抵抗値が1Ω・cm以下である、炭素多孔質電極。」

(相違点1)
本件補正発明の「黒鉛粒子」は「アモルファス炭素中に均一に分散し」ているのに対して、引用発明の「黒鉛粉末」はその旨の特定がされていない点。
(相違点2)
本件補正発明の「炭素多孔質電極」は、「密度が略均一である」のに対して、引用発明の「活性炭素板からなる電極」はその旨の特定がされていない点。

6 判断
相違点1について検討する。
引用発明の「黒鉛粉末」は、上記「4(3)」によれば、活性炭素多孔体の電気抵抗を小さくするために混入するものである。ここで、上記「4(7)」によればポリビニルホルマール/フェノール樹脂系多孔板を得るために水が用いられているところ、黒鉛粉末が水に均一に分散し、得られた多孔板において黒鉛粉末が均一に分散していないと活性炭素多孔体中の電気抵抗に偏りが生じてしまうが、黒鉛粉末を水に均一かつ安定的に分散させることは周知の技術である(必要であれば、原査定の拒絶の理由に引用文献3として引用された特開2002-117860号公報の【0035】、引用文献4として引用された特開平1-167396号公報の第3頁の左上欄第15行-右下欄第20行を参照。)。
そうすると、電気抵抗に偏りが生じないように、引用発明において、黒鉛粉末が均一に混入されたポリビニルホルマール/フェノール樹脂系多孔板を用いることにより、相違点1に係る本件補正発明の発明特定事項のようにすることは、当業者が容易になし得たことである。
次に、相違点2について検討する。
引用発明の活性炭素板は、上記「4(5)」に記載されているように均一に分布する連続気孔を有するものである。このように連続気孔は活性炭素板中に均一に分布するから、当該活性炭素板からなる電極の密度は略均一であるといえる。したがって、相違点2は実質的な相違ではない。

審判請求人は、審判請求書にて「仮に、審査官殿の請求項2に対する言及でのように、上記の溶液内における澱粉が均一に分散されている場合には、水洗前の樹脂板における水が届かない領域においては、水洗によって除去できない澱粉が必ず存在する筈です。これによれば、かかる連続気孔を有する樹脂多孔板を焼成した場合には、水洗により澱粉が除去できる部分においては、密度が低くなる一方で、水洗により澱粉が除去できない部分においては、密度が高くなる筈です。・・(中略)・・したがって、水溶液内に澱粉が均一に分散されていることを前提とした場合には、いずれの態様においても、樹脂系多孔板内において澱粉を溶出させて形成された孔は均一に分布しているとは認められる筈がなく、密度が略均一となる筈がありません。」と主張する。
しかしながら、引用文献1において、水洗によって除去できない澱粉が一部存在するとしても、上記「4(5)」に記載されているように活性炭素体は均一に分布する連通細孔を有するから、全体としては連続気孔は均一に分布して形成されるものといえる。
よって、上記主張は採用できない。

したがって、本件補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

7 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
令和1年8月8日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成31年1月17日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、上記「第2[理由]1(2)」に【請求項1】として記載したとおりのものである。

2 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1の記載事項は、上記「第2[理由]4」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、上記「第2[理由]5及び6」で検討した本件補正発明から、「密度が略均一である」という限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、上記「第2[理由]5及び6」に記載したとおり、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する

 
審理終結日 2020-06-30 
結審通知日 2020-07-07 
審決日 2020-07-28 
出願番号 特願2015-4518(P2015-4518)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01G)
P 1 8・ 575- Z (H01G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 駿平須藤 竜也  
特許庁審判長 山田 正文
特許庁審判官 酒井 朋広
石川 亮
発明の名称 炭素多孔質電極およびその製造方法  
代理人 出野 知  
代理人 倉田 佳貴  
代理人 青木 篤  
代理人 高橋 正俊  
代理人 三橋 真二  
代理人 胡田 尚則  

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