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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09D
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09D
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09D
管理番号 1366404
審判番号 不服2019-691  
総通号数 251 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-01-18 
確定日 2020-09-15 
事件の表示 特願2015-560266「ポリビニルアルコール及びエチレンビニルアルコール共重合体バリアコーティング」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 9月 4日国際公開、WO2014/134110、平成28年 5月19日国内公表、特表2016-514181〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2014年2月26日〔パリ条約による優先権主張外国庁受理 2013年2月27日(US)米国〕を国際出願日とする出願であって、平成28年12月19日付けで手続補正がなされ、
平成29年11月20日付けの拒絶理由通知に対して、平成30年4月17日付けで意見書の提出とともに手続補正がなされ、
平成30年9月26日付けの拒絶査定に対して、平成31年1月18日付けで審判請求と同時に手続補正がなされ、その後、平成31年4月17日付けで上申書の提出がなされ、
令和元年10月23日付けの拒絶理由通知(以下「先の拒絶理由通知」ともいう。)に対して、令和2年1月9日付けで意見書(以下「第2意見書」という。)の提出とともに手続補正(以下「第4補正」という。)がなされたものである。

第2 本願発明
本願は、その発明の名称を「ポリビニルアルコール及びエチレンビニルアルコール共重合体バリアコーティング」とするものであって、第4補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?19に記載された事項は、次のとおりのものである。
「【請求項1】水性混合物に基づいて45%から94.4%の1種又は複数種の有機溶媒を含む水性混合物中に溶解されたポリビニルアルコール及び/又はエチレンビニルアルコール共重合体を含み、
7.5重量%を超え、10重量%以下の固形分含有量を有し、
前記ポリビニルアルコール又はエチレンビニルアルコール共重合体が、20℃における水溶液で4%固形分の場合に、2.2mPa.s以上4mPa.s未満の粘度を有する、バリアコーティング組成物。
【請求項2】前記有機溶媒が、1個のヒドロキシル基を有するC1?C4の炭素数の一価アルコールである、請求項1に記載のバリアコーティング組成物。
【請求項3】前記有機溶媒が、テトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン(Dioxalane)、アセトニトリル、酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸イソプロピル、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、シクロヘキサノン、イソホロン、ヘキサン、ヘプタン、トルエン、エチレングリコール、アルキルセロソルブ、及びジグリセロールジメチルエーテル(DGME)、からなる群から選択される、請求項1に記載のバリアコーティング組成物。
【請求項4】フィラー及び/又は体質顔料をさらに含む、請求項1に記載のバリアコーティング組成物。
【請求項5】ガス及び/又は有害物質に対するバリアとして機能する、請求項1に記載のバリアコーティング組成物。
【請求項6】ポリビニルアルコール又はエチレンビニルアルコール共重合体が、5000ダルトン以上16,000ダルトン未満の分子量分布を有する、請求項1に記載のバリアコーティン
グ組成物。
【請求項7】前記ポリビニルアルコール又はエチレンビニルアルコール共重合体が、20℃における水溶液で4%固形分の場合に、2.2mPa.s以上3mPa.s未満の粘度を有する、請求項1に記載のバリアコーティング組成物。
【請求項8】前記ポリビニルアルコール又はエチレンビニルアルコール共重合体が、少なくとも95%の加水分解度を有する、請求項1に記載のバリアコーティング組成物。
【請求項9】14日を超える期間貯蔵安定性を有する、請求項1?8のいずれか一項に記載のバリアコーティング組成物。
【請求項10】23℃で15秒以上30秒未満(ザーンカップ#2での流下時間)のコーティング粘度を有する、請求項9に記載のバリアコーティング組成物。
【請求項11】未乾燥塗膜としてコーティングした場合、次記のルール:wfm÷%NVC×η≦12(式中、wfmは、前記未乾燥塗膜重量(g/m^(2));%NVCは、前記バリアコーティング組成物中の乾燥ポリマー含量の重量%;及びηは、23℃での(#2ザーンカップ流下時間)秒で表した前記コーティングの粘度である)に従う、請求項1?10のいずれか一項に記載のバリアコーティング組成物。
【請求項12】ガス及び/又は有害物質に対するバリアを形成するコーティングの作製方法であって、ポリビニルアルコール及び/又はエチレンビニルアルコール共重合体を、水性混合物に基づいて45%から94.4%の1種又は複数種の有機溶媒を含む水性混合物中に溶解することを含み、
前記コーティングは、7.5重量%を超え、10重量%以下の固形分含有量を有し、
前記ポリビニルアルコール又はエチレンビニルアルコール共重合体が、20℃における水溶液で4%固形分の場合に、2.2mPa.s以上4mPa.s未満の粘度を有する、方法。
【請求項13】前記有機溶媒が、1個のヒドロキシル基を有するC1?C4の炭素数の一価アルコールである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】前記水性混合物に、20を超えるアスペクト比を有するフィラー及び/又は体質顔料を添加することをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】ガス及び有害物質に対するバリアで物品をコーティングする方法であって、請求項1?11のいずれか一項に記載のバリアコーティング組成物を前記物品に印刷することを含む方法。
【請求項16】前記バリアコーティング組成物が、印刷インキを使ってインライン印刷される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】前記物品が、モノウエブ表面印刷構造又は積層体裏刷り構造を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項18】請求項1?11のいずれか一項に記載のバリアコーティング組成物でコーティングされた、物品。
【請求項19】ガス及び/又は有害物質に対するバリアとして機能する、請求項18に記載の物品。」

なお、上記請求項1等に記載された「mPa.s」との単位系は、実質的に「mPa・s」との単位系と同義のものと解する。

第3 令和元年10月23日付けの拒絶理由通知の概要
先の拒絶理由通知には、理由1?4として、次の理由が示されている。
理由1:本願の請求項1?20に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
理由2:本願の請求項1?20に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物1?3に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
理由3:本願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
理由4:本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号及び第2号に適合するものではなく、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。

そして、その「記」には、記載不備として、次の1.(1)?(4)の点が指摘され、また、引用刊行物として、次の2.の刊行物1?3が提示されている。

1.理由3及び4について
(1)本願請求項6の「16,000ダルトン未満の分子量分布」との記載について、ダルトンは原子質量単位であって、分子量分布を表す単位ではないことから、その記載の意味が明確ではなく、特許法第36条第6項第2号に適合しない。

(2)本願請求項10及び11の「機能・特性等で特定された物」については「当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤、複雑高度な実験等」をすることなく実施できるといえないから、特許法第36条第4項第1号に適合しない。

(3)本願明細書の段落0063の「実施例2A、2B、及び2C」については「メーカーにより概略説明を受けた溶解技術」の内容が実施可能な程度の記載になっていないから、特許法第36条第4項第1号に適合しない。

(4)本願請求項1及び13の「少なくとも45%」という広範な範囲と、本願請求項2?3及び14に列挙される「有機溶媒」の選択肢の広範な範囲の全てについて、当該範囲が「単なる憶測」ではなく、当該「範囲と得られる効果との関係の技術的な意味」を「具体例の開示がなくとも当業者に理解できる」又は「特許出願時の技術常識を参酌して認識できる」程度に発明の詳細な説明が記載されているとはいえないので、本願請求項1?20の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。

2.理由1及び2について
刊行物1:特開2011-511863号公報
刊行物2:国際公開第2013/001313号
刊行物3:特開2006-282947号公報

第4 当審の判断
1.理由3及び4について
(1)本願明細書の記載
第4補正により補正された本願明細書の発明の詳細な説明には、次の記載がある。
「【発明が解決しようとする課題】
【0015】要するに、上記先行技術のいずれも、少なくとも45%の低級アルコールなどの有機溶媒を含む水性混合物中に溶解されたポリビニルアルコール及び/又はエチレンビニルアルコール共重合体を含む(ガス)バリアコーティングを開示していない。
【課題を解決するための手段】
【0016】本発明は、少なくとも45%の1種又は複数種の有機溶媒を含む水性混合物中に溶解されたポリビニルアルコール及び/又はエチレンビニルアルコール共重合体を含むバリアコーティング組成物を提供する。…
【発明を実施するための形態】
【0022】PVOH及びEVOH共重合体は様々な分子量で入手可能であるが、約10,000未満のMWのもの、又は4%濃度(PVOH粘度グレードを指定する業界標準の方法)で3mPa.s未満の水溶液粘度のものは極めてわずかである。このようなポリマーは、予想通り、所与の固形分含有量でより低い粘度を示すが、50%までの、及びこれを超える場合も多い著しく高水準の有機溶媒(低級アルコールなど)による希釈を許容するのは極めて驚くべきことである。…
【0024】市販のポリマーの注意深い選択により、好ましくは45%以上の低級アルコール(例えば、エタノール、工業用変性アルコール(IMS、TSDAなど)、1-プロパノール、2-プロパノール等)などの有機溶媒を含む水溶液が、好ましくは10,000未満の分子量のPVOH及び/又はEVOHを使用することにより作製できるという知見が得られた。…
【0027】これらの高含量有機溶媒/水溶液は、ポリマー固形物のより高含量化が同一塗布粘度で達成でき、同時に、より高含量でより揮発性の高い有機溶媒希釈剤を含む未乾燥塗膜厚の低減を可能とし、その他の性能特性を損なうことなく速乾性が得られるために、入手可能な従来のグレードより2倍を超える速乾性となる。
【0028】このように、本発明は、特にガス(例えば、酸素、二酸化炭素、その他のガス及び芳香剤)及び有害物質の侵入を阻止する能力を有し、酸素又は有害物質への曝露を避けるか又は制限する必要がある種々の物質、特に、食品や医薬品の包装のコーティングに使用して、バリア特性を付与することができるバリアコーティングに関する。…
【0045】本発明及び実施例は、フィラーを含む場合及び含まない場合のPVOH又はEVOH共重合体が、好ましくは25mol%未満、より好ましくは20mol%未満、最も好ましくは15mol%未満のエチレン含量で、4%水溶液のブルックフィールド同期モーター回転型粘度計による20℃測定粘度が、好ましくは4.0mPas未満、より好ましくは3.0mPas未満、最も好ましくは2.5mPas未満である場合に、バリア特性が達成できることを示す。本発明は、好ましくは16000Da(ダルトン)未満、より好ましくは12000Da未満、最も好ましくは7000Da未満の分子量分布を有するPVOH又はEVOHに依存する。…
【実施例】
【0049】試験方法:
%不揮発分(%NVC)
試験は、約1gのコーティングをペトリ皿に秤取し、実際の重量を小数第2位まで記録することを含む。その後、これを電気加熱ファン付きオーブン中に、150℃で30分間入れる。次に、試料を室温まで冷却し、再秤量する。%NVCを次のように計算する:
%NVC=ドライコーティングの最終重量(g)÷未乾燥塗膜の初期重量(g)×100…
【0058】以下の実施例は、本発明の特定の態様を例示するものであり、どのような観点からも、その範囲を限定する意図はなく、また、そのように解釈されるべきではない。なお、以下の実施例において、実施例3、6A、7Aから7D、8、9、10、11Aから11D、12A及び12Bはそれぞれ参考例である。
【0059】実施例1:
Aquaseal(登録商標)X2281は、オランダParamelt B.V.から供給されるポリビニルアルコール水溶液である。ポリマー溶液は約20?22%の不揮発分含量で供給される。工業用変性アルコール(IMS*;TSDAとしても販売されている)と水の混合物を使って、ボルテックス攪拌棒で軽く撹拌しながらAquaseal(登録商標)X2281を研究室でさらに希釈した(表1参照)。
【0060】【表1】

【0061】以下の表2に示す結果が得られた。
【0062】【表2】

【0063】実施例2A、2B、及び2C
Mowiol(登録商標)2-97は、Kuraray Specialties Europeにより供給されるポリビニルアルコール樹脂である。その分子量は5000ダルトンの範囲区分である。Kurarayにより示された粘度は、4%水溶液として20℃で2.2?2.3mPa.sである。メーカーにより概略説明を受けた溶解技術を使って、このポリマーから次の溶液(表3参照)を作製し、エタノール(IMS*)、2-プロパノール及び1-プロパノールを含む低級アルコールで希釈した。
【0064】【表3】

【0065】以下の表4に示す結果が得られた。
【0066】【表4】



(2)上記第3の「1.(1)」の点について
本願請求項6の「16,000ダルトン未満の分子量分布」との記載について、第2意見書の第3頁では『(5)今回の補正により、補正前の請求項6に記載した「分子量分布」を「分子量」に変更しました。この補正により、補正後の請求項6に係る発明は明確になったものと思料いたします。』と主張している。
しかしながら、第4補正による補正後の請求項6の記載は、上記「第2 本願発明」に記載のとおりであり、補正前の「分子量分布」との記載は「分子量」との記載に改められていないので、依然として、本願請求項6の「16,000ダルトン未満の分子量分布」との記載について、ダルトンは原子質量単位であって、分子量分布を表す単位ではないことから、その記載の意味が明確ではない。
したがって、本願請求項6及びその従属項の記載は、特許を受けようとする発明が明確ではないから、特許法第36条第6項第2号に適合しない。

(3)上記第3の「1.(2)」の点について
本願請求項10に係る発明は「23℃で15秒以上30秒未満(ザーンカップ#2での流下時間)のコーティング粘度を有する」という「機能・特性等」で特定された「バリアコーティング組成物」という物の発明に関するものであり、
本願請求項11に係る発明は「未乾燥塗膜としてコーティングした場合、次記のルール:wfm÷%NVC×η≦12(式中、wfmは、前記未乾燥塗膜重量(g/m^(2));%NVCは、前記バリアコーティング組成物中の乾燥ポリマー含量の重量%;及びηは、23℃での(#2ザーンカップ流下時間)秒で表した前記コーティングの粘度である)に従う」という「機能・特性等」で特定された「バリアコーティング組成物」という物の発明に関するものである。
そして、一般に『物の有する機能、特性等からその物の構造等を予測することが困難な技術分野において、機能、特性等で特定された物のうち、発明の詳細な説明に具体的に製造方法が記載された物及びその物から技術常識を考慮すると製造できる物以外の物について、当業者が明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮しても、どのように作るか理解できない場合(例えば、そのような物を作るために、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤、複雑高度な実験等をする必要がある場合)は、実施可能要件違反となる。』とされているところ、本願請求項10及び11に係る発明の実施可能要件に関して、第2意見書では、その第3頁の(8)及び(9)の項目において明確性についての釈明がなされているものの、実施可能要件については特段の釈明がなされていない。
そして、本願明細書の段落0046の「本発明のバリアコーティング組成物は…23℃で30秒未満(ザーンカップ#2での流下時間)のコーテイング粘度を有することが好ましい。」との記載、及び同段落0047の「共重合体が次のルールに従うことは本発明の好ましい態様である:wfm÷%NVC×η≦12」との記載を含む発明の詳細な説明の全ての記載を精査しても、どのような製造条件を採用すれば、本願請求項10の「コーティング粘度」の値と、本願請求項11の「ルール」を満たす、バリアコーティング組成物を得られるのかについて、そのメカニズムや指針などの記載が見当たらず、そのようなメカニズムについての記載がなくとも、当該「機能・特性等で特定された物」を製造できるといえる特許出願時の「技術常識」の存在も見当たらない。
してみると、本願請求項10及び11の「機能・特性等で特定された物」のうち、発明の詳細な説明に具体的に製造方法が記載された実施例の物以外のものについては、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤、複雑高度な実験等をすることなく実施できるといえる「明細書及び図面の記載」や「出願時の技術常識」の存在が見当たらないので、本願明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を満たしているとはいえない。
したがって、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本願請求項10及び11並びにその従属項に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載しているものであるとはいえないから、特許法第36条第4項第1号に適合しない。

(4)上記第3の「1.(3)」の点について
本願明細書の段落0063の「実施例2A、2B、及び2C」については「メーカーにより概略説明を受けた溶解技術」の内容が不明であるため実施可能な程度の記載になっていないところ、この点に関して、第2意見書の第3?4頁では「(11)…実施例2Aから2Cの溶解技術については、本願発明の規定とは関係のない部分であるとともに、当業者には周知の方法により溶解させたという意味であり、当業者であれば溶解技術が本願発明に特有の技術ではないことは容易に理解することができます。したがって、補正後の本願発明の詳細な説明は、当業者が本願各請求項に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものです。」との主張がなされている。
しかしながら、本願請求項1に係る発明は「45%から94.4%の1種又は複数種の有機溶媒を含む水性混合物中に溶解されたポリビニルアルコール及び/又はエチレンビニルアルコール共重合体を含」むことを発明特定事項としているものであるから、例えば、94.4%のヘキサンを含む水性混合物中に「ポリビニルアルコール(PVOH)及び/又はエチレンビニルアルコール(EVOH)」という水溶性ポリマーが「溶解」されなければならないので、上記「溶解技術」が「本願発明の規定とは関係のない」という旨の主張は意味不明である。
そして、本願明細書の段落0015の「先行技術のいずれも、少なくとも45%の低級アルコールなどの有機溶媒を含む水性混合物中に溶解されたポリビニルアルコール及び/又はエチレンビニルアルコール共重合体を含む(ガス)バリアコーティングを開示していない。」との記載、及び同段落0022の「PVOH及びEVOH共重合体は様々な分子量で入手可能であるが、約10,000未満のMWのもの、又は4%濃度(PVOH粘度グレードを指定する業界標準の方法)で3mPa.s未満の水溶液粘度のものは極めてわずかである。このようなポリマーは、予想通り、所与の固形分含有量でより低い粘度を示すが、50%までの、及びこれを超える場合も多い著しく高水準の有機溶媒(低級アルコールなど)による希釈を許容するのは極めて驚くべきことである。」との記載をも斟酌するに、最大94.4%もの有機溶媒(特に本願請求項3に列挙される「イソホロン」や「トルエン」などの有機溶媒)を含む水性混合物中に「ポリビニルアルコール及び/又はエチレンビニルアルコール共重合体」を溶解する技術が、当業者にとって「周知の方法」であるとは解し得る合理的な理由や具体的な根拠は見当たらない。
このため、上記「メーカーにより概略説明を受けた溶解技術」というノウハウ技術の内容が明確かつ十分に開示されていないので、本願明細書の発明の詳細な説明の記載によっては、本願請求項1に記載された「水性混合物に基づいて45%から94.4%の1種又は複数種の有機溶媒を含む水性混合物中に溶解されたポリビニルアルコール及び/又はエチレンビニルアルコール共重合体を含」む「バリアコーティング組成物」という「物の発明」及び本願請求項12に記載された「ポリビニルアルコール及び/又はエチレンビニルアルコール共重合体を、水性混合物に基づいて45%から94.4%の1種又は複数種の有機溶媒を含む水性混合物中に溶解することを含」む「コーティングの作製方法」という「方法の発明」を、当業者が容易に実施できるとはいえない。
したがって、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本願請求項1及びその従属項に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載しているものであるとはいえないから、特許法第36条第4項第1号に適合しない。

(5)上記第3の「1.(4)」の点について
ア.一般に『特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり,明細書のサポート要件の存在は,特許出願人(…)が証明責任を負うと解するのが相当である。…当然のことながら,その数式の示す範囲が単なる憶測ではなく,実験結果に裏付けられたものであることを明らかにしなければならないという趣旨を含むものである。』とされている〔平成17年(行ケ)10042号判決参照。〕。

イ.そして、本願請求項1?20に係る発明の解決しようとする課題は、本願明細書の段落0028の記載を含む発明の詳細な説明の全ての記載からみて『ガス及び有害物質の侵入を阻止する能力を有し、食品や医薬品の包装のコーティングに使用して、バリア特性を付与することができるバリアコーティングの提供』にあるものと解される。

ウ.しかして、本願明細書の段落0059?0062には、約20?22%の不揮発分含量で供給される「Aquaseal(登録商標)X2281」という製品名のポリビニルアルコール水溶液43.5%と、IMS(2.2%酢酸エチルと0.1%2-プロパノールで変性したエタノール)50.8%と、脱イオン水5.7%とを配合してなる組成物が「実施例1」として記載されているところ、実施例1の組成物に占める「水」の割合は、上記不揮発分含量を20%とすると、当該「Aquaseal(登録商標)X2281」というPVOH水溶液に含まれる水の量が43.5×0.8=34.8%であり、これに脱イオン水の5.7%を足し合わせると、合計で34.8+5.7=40.5%の水が使用されており、この「水」と「IMS」との合計量に占める有機溶媒(IMS)の量は、50.8/(40.5+50.8)×100=55.6%となるものである(なお、実施例1は、PVOHの4%固形分の場合の粘度が不明なので、実施例に該当しない。)。

エ.また、本願明細書の段落0063?0066には、20%水溶液として供給される「Mowiol(登録商標)2-97」という製品名のPVOH水溶液50.0%と、2-プロパノール45.0%と、脱イオン水5.0%とを配合してなる組成物が「実施例2C」として記載されているところ、実施例2Cの組成物に占める「水」の割合は、当該「Mowiol(登録商標)2-97」というPVOH水溶液に含まれる水の量が50.0×0.8=40.0%であり、これに脱イオン水の5.0%を足し合わせると、合計で40.0+5.0=45.0%の水が使用されており、この「水」と「2-プロパノール」との合計量に占める有機溶媒(2-プロパノール)の量は、45.0/(45.0+45.0)=50.0%となるものである〔なお、実施例2A及び2Bは、固形分含有量(%NVC)の値が本願発明の範囲にないので、実施例に該当しない。〕。

オ.この点に関して、第2意見書の第4頁では「(12)今回の補正により、補正前の請求項1及び13に記載した「少なくとも45%」を「水性混合物に基づいて45%から94.4%」に限定し、固形分含有量を「7.5重量%を超え、10重量%以下」に限定し、粘度を「20℃における水溶液で4%固形分の場合に、2.2mPa.s以上4mPa.s未満」のものに限定しました。これらの補正により、補正後の本願発明は、発明の詳細な説明に記載されたものから当業者がその効果を推認できる範囲にまで限定され、すなわち拡張乃至一般化することが可能な範囲となったものと思料いたします。」との主張がなされている。

カ.しかしながら、補正後の請求項1及び12に記載された「水性混合物に基づいて45%から94.4%の1種又は複数種の有機溶媒を含む水性混合物」という広範な数値範囲について、本願明細書の実施例1?2Cの具体例は『50?55.6%』の範囲での裏付けをしているに過ぎないので、本願明細書の段落0022の「50%までの、及びこれを超える場合も多い著しく高水準の有機溶媒(低級アルコールなど)による希釈を許容するのは極めて驚くべきことである。」との記載を含む発明の詳細な説明の全記載、及び特許出願時の技術常識を斟酌しても、当該「94.4%」という上限値にまで、特許を受けようとする発明を拡張ないし一般化できるとはいえない。

キ.また、本願明細書の段落0027の「これらの高含量有機溶媒/水溶液は、ポリマー固形物のより高含量化が同一塗布粘度で達成でき、同時に、より高含量でより揮発性の高い有機溶媒希釈剤を含む未乾燥塗膜厚の低減を可能とし、その他の性能特性を損なうことなく速乾性が得られるために、入手可能な従来のグレードより2倍を超える速乾性となる。」という「作用機序」の記載を顧慮しても、補正後の請求項3の「前記有機溶媒が、テトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン(Dioxalane)、アセトニトリル、酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸イソプロピル、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、シクロヘキサノン、イソホロン、ヘキサン、ヘプタン、トルエン、エチレングリコール、アルキルセロソルブ、及びジグリセロールジメチルエーテル(DGME)、からなる群から選択される」との記載に列挙されるイソホロン(沸点=215℃)やトルエン(沸点=111℃)などの有機溶媒の各々が、実施例2Cで用いられた2-プロパノール(沸点=82℃)などの有機溶媒と同程度の有用性(溶解性や揮発性などの性能)を示すといえる「試験結果」や「作用機序」や「技術常識」の存在は見当たらないので、本願請求項3に列挙される「有機溶媒」を含む本願請求項1の「有機溶媒」の全ての範囲にまで、特許を受けようとする発明を拡張ないし一般化できるとはいえない。

ク.したがって、本願請求項1及び12並びにその従属項に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも認められないので、本願請求項1?19の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。

2.理由1及び2について
(1)引用刊行物及び参考例並びにその記載事項
刊行物1:特開2011-511863号公報
刊行物2:国際公開第2013/001313号
刊行物3:特開2006-282947号公報
参考例A:「クラレポバール」,[online],2018年8月作成,株式会社クラレ,[令和元年10月21日検索],インターネット:http://www.kuraray-poval.com/ja/
参考例B:「Mowiol(R)3-96」,[online],シグマ・アルドリッチ,[令和元年10月21日検索],インターネット:https://www.sigmaaldrich.com/catalog/product/aldrich/51438?lang=ja&reigion=JP

上記刊行物1には、次の記載がある。
摘記1a:請求項1及び3
「【請求項1】気体バリアコーティングを調製するための組成物であって、粘土と、ポリビニルアルコールおよび/またはエチレンビニルアルコールの共重合体であるポリマーと、ポリ(エチレンイミン)との水性分散体を含む、組成物。…
【請求項3】前記粘土が20?10000のアスペクト比を有する、請求項1または2に記載の組成物。」

摘記1b:段落0021及び0026
「【0021】コーティング組成物は、粘土と、ポリマーおよびポリ(エチレンイミン)との、好適な溶媒中の溶液または分散体の形態で塗布される。溶媒は、好ましくは水性であり、より好ましくは水であり、場合によって少量の混和性の共溶媒(co-solvent)、例えばアルコール(例えばエタノール、n-プロパノールまたはイソプロパノール)またはケトン(例えばアセトン)を含んでもよい。共溶媒が存在する場合、これは全組成物の最大75質量%であり得る。しかし、共溶媒の含有量は50%未満、より好ましくは組成物全体の50%未満であることが好ましい。好ましい共溶媒はアルコールであり、好ましくはエタノールまたはイソプロパノールである。…
【0026】コーティングの全固形分含有量は、好ましくは0.5?15%、より好ましくは2?8質量%であり、これはコーティングのゲル化の早すぎる開始を遅延するまたは防ぐために比較的低く、弱い帯電による所定の位置への構造の積み重ねをもたらす。」

摘記1c:段落0036
「【0036】コーティングは、表1に従って、10質量%のイソプロパノールを含む8%のPVA(Exceval AQ-4104とMowiol 3-96の80/20混合物)の水性溶液、30質量%のイソプロパノールを含む3%のモンモリロナイト粘土(Cloisite Na)の水性分散体、および10%のPEI(ポリ(エチレンイミン)-Lupasol WF)のIPA(イソプロパノール)中溶液を混合することによって調製した。組成のデータと同様、表1はこれらのコーティングの粘度を記録している。これらの測定のためにZahn-2フローカップ(Zahn-2 flow cup)を使用し、粘度はコーティングがカップの外に流れるために必要な時間として記録した。コーティングのグラビア印刷のためには、18?23秒の粘度が通常である。」

上記刊行物2には、和訳にして、次の記載がある。
摘記2a:第21頁第11?20行
「Mowiol(商標)4-98(M4-98(商標))およびExceval(商標)AQ-4104(AQ-4104(商標))をKuraray社から入手し、供給された状態で使用した。Gohsenol(商標)GH-17R(GH-17R(商標))はNipponGohsei社によって供給され、供給された状態で使用した。PVOH等級の粘度は、典型的には、MPasで表され、Brookfield粘度計を用いて、20℃に維持された4%溶液の関連値を記録することによって測定される。M4-98(商標)は、粘度が4.0?5.0MPasであり、加水分解度が98.0?98.8%であるポリ(ビニルアルコール)である。AQ-4104(商標)は、粘度が3.8?4.5MPasであり、加水分解度が98.0?99.0%である、ビニルアルコール(85?90mol%)とエチレン(10?15mol%)のコポリマーである。GH-17R(商標)は、粘度が27?33MPasであり、加水分解度が86.5?89.0%であるポリ(ビニルアルコール)である。」

摘記2b:第29頁第4?7行
「M4-98(商標)は、粘度が4.0?5.0MPasであり、加水分解度が98.0?98.8%であるPVAである。AQ4104(商標)は、約14%のエチレンを含み、粘度が3.8?4.5MPasであり、加水分解度が98.0?99.0%であるPVAである。」

上記刊行物3には、次の記載がある。
摘記3a:請求項4
「【請求項4】前記樹脂がポリビニルアルコール系重合体樹脂又はエチレン-ビニルアルコール系共重合体樹脂であり、前記溶剤が、少なくともターシャリーブチルアルコールを含むアルコール成分と水を含有し、前記アルコール成分/水の含有質量比率が30/70?70/30であることを特徴とする請求項1?3のいずれか一項に記載の被覆組成物。」

摘記3b:段落0022
「【0022】このような液状の被覆組成物を用いて、設定どおりの厚さの被膜を形成させるには、塗工・印刷の際に最適な粘度を維持することが不可欠である。被覆組成物の粘度は、溶剤の蒸発、環境温度や被覆剤にかかる機械的応力等、さまざまの要因によって変化するが、通常、その変化の度合いは高固形分になるほど大きくなる。最近は、被覆組成物中の樹脂や顔料等の固体成分(固形分)濃度を可能な限り高くして、高濃度でありながらも低粘度化を図る傾向が強くなり、最適な粘度を維持することが困難となっている。」

摘記3c:段落0040?0041
「【0040】なかでも、上述の通り、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ノルマル(n-)プロパノール等の炭素数1?3の低級アルコール類を、ターシャリーブチルアルコールと共に用いるのが好ましい。本発明においては、被覆組成物が、ターシャリーブチルアルコールを全溶剤量に対して5?30質量%と、炭素数1?3のアルコールを含有するのが特に好ましい。
【0041】その他溶剤としては、樹脂との相溶性を確保でき、かつ良好な乾燥性が維持できるものであれば特に制限はなく、各種溶剤が使用でき、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルブチルケトン等のケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ノルマル(n-)プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ノルマル(n-)ブチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル等のエステル類等を用いることができる。」

摘記3d:段落0079及び0082
「【0079】本発明の被覆組成物は、塗工後の残留溶剤量が低く、かつガスバリア性にも優れるものである。…
【0082】…精製水50%、イソ(iso-)プロピルアルコール(IPA)47%、ターシャリーブチルアルコール3%を含む混合溶剤60部に、EVOH(エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂、日本合成化学社製、商品名:ソアノールD-2908)30部を加え、攪拌下で80℃に加温し、約2時間反応させた。その後冷却して、固形分30%のほぼ透明な混合液体を得た。」

上記参考例Aには、次の記載がある。
摘記A1:第12頁
「銘柄の前半部は粘度(4%、20℃)mPa・sを表し、後半部分はケン化度を表します。」

上記参考例Bには、次の記載がある。
摘記B1:Mowiol(R)3-96の項
「2.1-3.4 mPa.s,4% in H_(2)O-20℃」

(2)刊行物1に記載された発明
摘記1aの「気体バリアコーティングを調製するための組成物であって、粘土と、ポリビニルアルコールおよび/またはエチレンビニルアルコールの共重合体であるポリマーと、ポリ(エチレンイミン)との水性分散体を含む、組成物。…前記粘土が20?10000のアスペクト比を有する…組成物。」との記載、
摘記1bの「コーティング組成物は、…溶媒は、好ましくは水性であり、…共溶媒が存在する場合、これは全組成物の最大75質量%であり得る。…好ましい共溶媒はアルコールであり、好ましくはエタノールまたはイソプロパノールである。…コーティングの全固形分含有量は、好ましくは0.5?15%」との記載、及び
摘記1cの「PVA(Exceval AQ-4104とMowiol 3-96の80/20混合物)」との記載からみて、刊行物1には、
『20?10000のアスペクト比を有する粘土と、ポリ(エチレンイミン)と、ポリビニルアルコールおよび/またはエチレンビニルアルコールの共重合体であるポリマー(ExcevalAQ-4104とMowiol3-96の80/20混合物)と、全組成物の最大75質量%の共溶媒(エタノールまたはイソプロパノール)が存在する水性溶媒を含む、全固形分含有量が0.5?15%の気体バリアコーティングを調製するための組成物。』についての発明(以下「刊1発明」という。)が記載されているといえる。

(3)対比・判断
本願請求項1に係る発明(以下「本1発明」ともいう。)と刊1発明とを対比する(なお、第2意見書の第3頁の「百分率は明示的な記載はないものの、…重量%を意味している」との主張に鑑み、本1発明の「45%から94.4%」の百分率は「重量%」を意味するものと善解する。)。
刊1発明の「全固形分含有量が0.5?15%の気体バリアコーティングを調製するための組成物」は、本1発明の「7.5重量%を超え、10重量%以下の固形分含有量を有し、…バリアコーティング組成物」に相当する。
刊1発明の「全組成物の最大75質量%の共溶媒(エタノールまたはイソプロパノール)が存在する水性溶媒を含む」は、全組成物(100%)から固形分含有量の最大値(15%)を差し引いた残りの85%の水性溶媒に占める「エタノールまたはイソプロパノール」という有機溶媒の上限値が75÷85×100=88.2%と換算され、刊1発明の「固形分含有量の最大値(15%)を差し引いた残りの85%の水性溶媒」が本1発明の「水性混合物」に対応し、刊1発明の「共溶媒(エタノールまたはイソプロパノール)」が本1発明の「1種又は複数種の有機溶媒」に対応するので、本1発明の「水性混合物に基づいて45%から94.4%の1種又は複数種の有機溶媒を含む水性混合物」に相当する。
刊1発明の「ポリビニルアルコールおよび/またはエチレンビニルアルコールの共重合体であるポリマー(ExcevalAQ-4104とMowiol3-96の80/20混合物)」は、
そのうちの「ExcevalAQ-4104」が、摘記2aの「Exceval(商標)AQ-4104(AQ-4104(商標))をKuraray社から入手し、…PVOH等級の粘度は、典型的には、MPasで表され、Brookfield粘度計を用いて、20℃に維持された4%溶液の関連値を記録することによって測定される。…AQ-4104(商標)は、粘度が3.8?4.5MPas」との記載(なお、摘記2aの「MPas」との表記は「mPas」の明らかな誤記であると認める。)からみて、本1発明の「前記ポリビニルアルコール又はエチレンビニルアルコール共重合体が、20℃における水溶液で4%固形分の場合に、2.2mPa.s以上4mPa.s未満の粘度を有する」に相当し、
そのうちの「Mowiol3-96」が、摘記A1の「銘柄の前半部は粘度(4%、20℃)mPa・sを表し、後半部分はケン化度を表します。」との記載、及び摘記B1の「2.1-3.4 mPa.s,4% in H_(2)O-20℃」との記載を参酌するに、粘度(4%、20℃)が3mPa・sで、ケン化度96%のポリビニルアルコールを意味することが明らかであるから、これも、本1発明の「前記ポリビニルアルコール又はエチレンビニルアルコール共重合体が、20℃における水溶液で4%固形分の場合に、2.2mPa.s以上4mPa.s未満の粘度を有する」に相当し、
刊1発明の「ポリビニルアルコールおよび/またはエチレンビニルアルコールの共重合体であるポリマー(ExcevalAQ-4104とMowiol3-96の80/20混合物)と、全組成物の最大75質量%の共溶媒(エタノールまたはイソプロパノール)が存在する水性溶媒を含む…組成物」は、その「共溶媒」が存在する「水性溶媒」という溶解のための媒体(溶媒)の中に「ポリビニルアルコールおよび/またはエチレンビニルアルコールの共重合体であるポリマー」が溶解されていることが明らかであるから、本1発明の「水性混合物に基づいて45%から94.4%の1種又は複数種の有機溶媒を含む水性混合物中に溶解されたポリビニルアルコール及び/又はエチレンビニルアルコール共重合体を含み、前記ポリビニルアルコール又はエチレンビニルアルコール共重合体が、20℃における水溶液で4%固形分の場合に、2.2mPa.s以上4mPa.s未満の粘度を有する…組成物」に相当する。
なお、本1発明の「バリアコーティング組成物」は、本願請求項1の「…を含み…組成物」との記載にあるように、特定の成分のみからなるものとして特定されておらず、本願請求項1を引用する請求項4の「さらに含む」との記載にあるように、さらなる成分を含む場合を除外していないので、刊1発明において「粘土」などの成分が更に含まれている点については、相違点を構成するとは認められない。

してみると、本1発明と刊1発明は、両者とも『水性混合物に基づいて45%から94.4%の1種又は複数種の有機溶媒を含む水性混合物中に溶解されたポリビニルアルコール及び/又はエチレンビニルアルコール共重合体を含み、7.5重量%を超え、10重量%以下の固形分含有量を有し、前記ポリビニルアルコール又はエチレンビニルアルコール共重合体が、20℃における水溶液で4%固形分の場合に、2.2mPa.s以上4mPa.s未満の粘度を有する、バリアコーティング組成物。』という点において一致し、両者に相違する点はない。
したがって、本1発明は、刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。

この点に関して、第2意見書の第4?5頁において、審判請求人は『本願発明においては、有機溶媒を多量に含むことは重要な技術的特徴の1つとなっております。…引用文献1には本願発明の「水性混合物に基づいて45%から94.4%の1種又は複数種の有機溶媒を含む」という技術的特徴を実質的に開示しているものではありませんし、その技術的効果についても記載も示唆もしているものではありません。』と主張している。
しかしながら、刊行物3の請求項4(摘記3a)には「溶剤が…アルコール成分と水を含有し、前記アルコール成分/水の含有質量比が30/70?70/30である…被覆組成物。」についての発明が記載され、同段落0079及び0082(摘記3d)には、ガスバリア性に優れた被覆組成物を調製するための混合液体として、イソプロピルアルコール47%とターシャリ-ブチルアルコール3%と水50%からなる混合溶剤に、EVOHを溶解させた固形分30%の混合液体の具体例が記載されているところ、水性混合物に基づいて50%程度(最大70%まで)の有機溶媒を含む技術は、本願優先日前の技術水準において普通に知られているので、上記「有機溶媒を多量に含むこと」が格別の技術的特徴であるとはいえない。
そして、例えば『水性混合物に基づいて94.4%の有機溶媒(イソホロンやトルエンなど)を含む水性混合物』を用いたものを含む本願請求項1に係る発明の全てが、格別の効果を奏し得るといえる根拠も見当たらない。
してみると、刊行物1の段落0021(摘記1b)にはアルコール等の有機溶媒を全組成物の最大75質量%で含み得ることが記載されており、刊行物3の請求項4(摘記3a)などには、アルコール成分を溶剤に基づいて最大70%の量で含む被覆組成物用の水性溶剤が記載されているので、有機溶媒を70%程度の量で含む構成にすることは、当業者にとって適宜設定可能な事項にすぎず、本1発明に格別の効果があるとも認められない。
したがって、本1発明は、刊行物1及び3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第5 むすび
以上のとおり、本願は特許法第36条第4項第1号及び第6項に規定する要件を満たしていないから同法第49条第4項に該当し、また、本1発明は同法第29条の規定により特許をすることができないものであるから同法第49条第2項に該当し、その余のことを検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
別掲
 
審理終結日 2020-03-23 
結審通知日 2020-03-30 
審決日 2020-04-22 
出願番号 特願2015-560266(P2015-560266)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (C09D)
P 1 8・ 536- WZ (C09D)
P 1 8・ 121- WZ (C09D)
P 1 8・ 113- WZ (C09D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安孫子 由美  
特許庁審判長 蔵野 雅昭
特許庁審判官 木村 敏康
牟田 博一
発明の名称 ポリビニルアルコール及びエチレンビニルアルコール共重合体バリアコーティング  
代理人 実広 信哉  
代理人 村山 靖彦  
代理人 阿部 達彦  

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