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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1366479
審判番号 不服2018-16692  
総通号数 251 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-12-14 
確定日 2020-09-16 
事件の表示 特願2014- 32464「電流の生成及び収集機能を向上させたソーラーセル構造」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 9月25日出願公開、特開2014-179600〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年2月24日(パリ条約による優先権主張2013年3月14日、米国)の出願であって、その後の主な手続の経緯は、以下のとおりである。

平成28年12月13日 :出願審査請求書の提出
平成29年11月29日付け:拒絶理由通知(同年12月5日発送)
平成30年 3月 5日 :期間延長請求書(2ヶ月)の提出
同年 5月 2日 :手続補正書・意見書の提出
同年 8月 3日付け;拒絶査定(同年8月14日送達。
以下「原査定」という。)
同年12月14日 :審判請求書・手続補正書の提出
令和元年 5月29日 :上申書の提出
令和元年12月18日付け:審尋(同年12月24日発送)
令和2年 3月24日 :回答書の提出

第2 平成30年12月14日付け手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成30年12月14日付け手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[補正却下の決定の理由]
1 補正内容
本件補正は、特許請求の範囲についてするものであり、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1(平成30年5月2日付け手続補正後のもの)に、
「【請求項1】
光起電力セルを含むオプトエレクトロニクス素子であって、前記光起電力セルは、
空間電荷領域と、
準中性領域と、
少なくとも部分的に前記セルの前記準中性領域に位置付けされる低バンドギャップ吸収領域(LBAR)層、又は改善されたトランスポート(IT)層とを含み、
前記LBAR層又は前記IT層は、第1バンドギャップと、前記光起電力セルの平均格子定数に対し第1の歪み量とを有する第1層型の一又は複数の層を含み、さらに、前記第1バンドギャップよりも大きい第2バンドギャップと、第2の歪み量とを有する第2層型の一又は複数の層を含み、前記第2層型の前記層が前記第1層型の前記層に対し引張歪み状態にあり、前記第1層型の前記層の歪みと、前記第2層型の前記層の歪みとはバランスがとれているため、いずれの型の前記層もシュードモルフィックのままであり、当該層が成長する成長基板とコヒーレント格子構造が保持され、いずれの型の前記層も10^(6)cm^(-2)よりも低い結晶欠陥面密度を有する、オプトエレクトロニクス素子。」とあったものを、

本件補正後の請求項1の
「【請求項1】
光起電力セルを含むオプトエレクトロニクス素子であって、前記光起電力セルは、
空間電荷領域と、
準中性領域と、
複数の主要光生成層と、
少数キャリアの寿命時間、少数キャリアの可動性、少数キャリアの拡散距離、多数キャリアの可動性、多数キャリアの伝導率、電場における電荷キャリア飽和速度、及び/又は収集光生成電流密度が前記主要光生成層よりも高く、少なくとも部分的に前記セルの前記準中性領域に位置付けされる改善されたトランスポート(IT)層と
を含み、
前記IT層は、第1バンドギャップと、前記光起電力セルの平均格子定数に対し第1の歪み量とを有する第1層型の一又は複数の層を含み、さらに、前記第1バンドギャップよりも大きい第2バンドギャップと、第2の歪み量とを有する第2層型の一又は複数の層を含み、前記第2層型の前記層が前記第1層型の前記層に対し引張歪み状態にあり、前記第1層型の前記層の歪みと、前記第2層型の前記層の歪みとはバランスがとれているため、いずれの型の前記層もシュードモルフィックのままであり、当該層が成長する成長基板とコヒーレント格子構造が保持され、いずれの型の前記層も10^(6)cm^(-2)よりも低い結晶欠陥面密度を有する、オプトエレクトロニクス素子。」と補正する内容を含むものである(なお、下線は、当審で付したものである。以下同じ。)。

2 補正目的
(1)上記「1」の補正内容は、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な「光起電力セル」について、
ア 「複数の主要光生成層」を含むことを特定し、

イ 「低バンドギャップ吸収領域(LBAR)層、又は改善されたトランスポート(IT)層とを含み」と択一的に記載されていたものを「改善されたトランスポート(IT)層」に特定し、

ウ 「改善されたトランスポート(IT)層」が「少数キャリアの寿命時間、少数キャリアの可動性、少数キャリアの拡散距離、多数キャリアの可動性、多数キャリアの伝導率、電場における電荷キャリア飽和速度、及び/又は収集光生成電流密度が前記主要光生成層よりも高(い)」ことを特定するものであって、
その補正前後で、発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であることから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。

(2)よって、本件補正後の請求項1についての補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものと認められることから、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)について、これが特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否か)を、以下に検討する。

3 独立特許要件
(1)本願補正発明
本願補正発明は、上記「第2 1」に、本件補正後の請求項1として記載したとおりのものである。

(2)明確性要件
ア 本件補正後の請求項1の「光起電力セル」は、「空間電荷領域」、「準中性領域」、「複数の主要光生成層」及び「準中性領域に位置付けされる改善されたトランスポート(IT)層」を含ものである。

イ 本願明細書には、上記「複数の主要光生成層」に関して、以下の記載がある。

「【0015】
別の態様では、ある実装態様において、ソーラーセル又は光検知器などの半導体素子の一又は複数の準中性領域(一又は複数の非空間電荷領域)に部分的に又は全体的に一又は複数の改善されたトランスポート(IT)層が位置付けされているため、高い電流密度、電圧、充填率、及び/又はエネルギー変換効率の半導体素子を実現する半導体構造が開示されている。本明細書での参照において、トランスポート(IT)層は、少数キャリアの寿命時間、少数キャリアの可動性、少数キャリアの拡散距離、多数キャリアの可動性、多数キャリアの伝導率、電場における電荷キャリア飽和速度、及び/又は収集光生成電流密度が、主要な光生成層、一又は複数の隣接する光生成層、一又は複数の隣接する光生成層と同じ組成を有する置換層、半導体素子のほかの多数の半導体層よりも高い層でありうる。本明細書での参照において、置換層は、半導体構造のIT層を置換可能な仮想層を含む。例えば、ある実装態様において、IT層は、高い収集光生成電流密度などの直接隣接する光生成層と同じ組成を有する直接隣接する光生成層又は置換層よりも高い光生成電流密度を有する。ある実装態様において、IT層は、直接隣接する光生成層と同じ組成を有する直接隣接する光生成層又は置換層よりも長い少数キャリア拡散距離を有する。ある実装態様において、IT層は、直接隣接する光生成層と同じ組成を有する直接隣接する光生成層又は置換層は、高い水準の少数キャリアの寿命時間、及び/又は少数キャリアの可動性を有する。トランスポート特性の改善は、以下に詳細に記すように様々な手段で達成される。」

「【0059】
別の態様では、改善されたトランスポート(IT)層は、ソーラーセルのベース又はエミッタ内の又はソーラーセルのベース又はエミッタ全体の層などの、ソーラーセル内の他の層と同じ又は他の層よりも高い一又は複数のバンドギャップを有する。このようなソーラーセルのIT層以外の他の層は、ソーラーセルの主要な光生成層を形成する、又はIT層自体がソーラーセルの主要な光生成層を形成する。このようなソーラーセルのIT層以外の他の層は、IT層に隣接している、又はIT層から分離している。」

ウ 上記記載からして、
「主要な光生成層」は、ベース層又はエミッタ層において、IT層以外の半導体層(光吸収層)であるものと解される。
しかし、「光起電力セル」を構成するベース層又はエミッタ層において、「『複数の』『主要な光生成層』」が含まれるとは、どのような構成であるのか理解できない。

エ 以上のことから、本件補正後の請求項1の記載は、特許法第36条第6項第2号の規定に違反するものである。

オ なお、上記の点について、請求人に対して、令和元年12月18日付けで審尋したものの、「複数の主要光生成層」について何ら回答がなかった。

(3)進歩性要件
なお、上記(2)で指摘するように、本件補正後の請求項1の記載は、特許法第36条第6項第2号の規定に違反する。
そこで、下記のように解釈することとする。

解釈その1:
「p-n接合(面)」の両側には、それぞれ、「空間電荷領域」及び「準中性領域」が存在することから、片側(又は両側)の「準中性領域」に「IT層」が形成されたとしても、「(一つの)光起電力セル」は、少なくとも、二つの「空間電荷領域」、つまり、「複数の主要光生成層」を含むことになる。

解釈その2:
「オプトエレクトロニクス素子」は、「多接合型光起電力素子」であって、本件補正後の請求項1の「光起電力セル」は、該「多接合型光起電力素子」が有する複数のセルのうちの、少なくとも一つであり、「多接合型光起電力素子」全体としては、「複数の主要光生成層」を含むことになる。



以下、上記解釈を前提にして進歩性要件について検討する。
原査定の拒絶の理由に引用された国際公開第2012/128848号(以下引用文献」という。)には、図面とともに、以下の記載がある。

ア 「


(訳:
1. ベース層と、
前記ベース層と電気的に接続するエミッタ層であって、前記エミッタ層と共に光起電力セルまたは他の光電子デバイスのp-n接合を形成するエミッタ層と、
前記ベース層および前記エミッタ層のうちの一方または両方に配置される低バンドギャップ吸収領域とを備える半導体デバイス。
2. 前記低バンドギャップ吸収領域が、前記光起電力セルまたは前記光電子デバイスの前記p-n接合の片側の空間電荷領域に組み込まれている、請求項1に記載の半導体デバイス。
3. 前記低バンドギャップ吸収領域が、前記光起電力セルまたは前記光電子デバイスの前記p-n接合の片側の準中性領域に組み込まれている、請求項1に記載の半導体デバイス。
4. 前記低バンドギャップ吸収領域が、前記光起電力セルまたは前記光電子デバイスの前記p-n接合の片側の空間電荷領域および準中性領域に組み込まれている、請求項1に記載の半導体デバイス。
5. 前記低バンドギャップ吸収領域が、前記光起電力セルまたは前記光電子デバイスの前記p-n接合の両側の空間電荷領域に組み込まれている、請求項1に記載の半導体デバイス。
6. 前記低バンドギャップ吸収領域が、前記光起電力セルまたは前記光電子デバイスの前記p-n接合の両側の空間電荷領域および準中性領域に組み込まれている、請求項1に記載の半導体デバイス。
7.…(省略)…
…(省略)…
16. 前記低バンドギャップ吸収領域が1つ以上の低バンドギャップ吸収領域を含んでいる、請求項1に記載の半導体デバイス。
17. 前記光起電力セルが1つ以上の小格子定数歪み補償領域を更に含んでいる、請求項16に記載の半導体デバイス。
18. 格子不整合形態を有している、請求項1ないし請求項17のいずれか1項に記載の半導体デバイス。)

イ 「


(訳:
[0037] 本開示は、高い光生成電流密度を有する半導体デバイス構造について説明する。デバイス構造は、光生成電流密度を高めるために低バンドギャップ吸収領域(LBAR)を半導体材料中に組み込む。半導体デバイス構造は、変成サブセルにおける所定の格子定数を維持しつつ多接合太陽電池における1つ以上のサブセルの有効バンドギャップを調整するための方法を与え、それにより、サブセル有効バンドギャップ組み合わせの太陽光スペクトルのそれの整合を向上させるとともに、太陽電池効率を向上させる。デバイス構造は、光生成を増大させるために、変成太陽電池または光子不整合太陽電池および他の光電子デバイスで使用されてもよい。
[0038] 本開示は、例えば地上集光型光起電力(CPV)電気生成システムまたは宇宙で用いる衛星と共に使用されてもよいGaInP/Ga(In)As/Geセルなどを含むがこれに限定されない高効率多接合(MJ)光起電力(PV)セルについて更に説明する。MJ PVセルは、光生成電流密度を高めるために、エネルギーウェルまたは低バンドギャップ吸収領域(LBAR)を1つ以上のサブセルに組み込む。
[0039] LBARは、p-n接合部付近の空間電荷領域に、同じドーピングタイプを有するが異なるキャリア濃度および/または異なる半導体組成を有する材料から形成されるイソタイプ接合(ヘテロ接合)付近の空間電荷領域に、太陽電池のベースの準中性領域に、および/または、太陽電池のエミッタの準中性領域に組み込まれてもよい。
[0040] LBARは、それらの低いバンドギャップのおかげにより、周囲の半導体層よりも高い光生成を有し、また、電荷キャリアは、熱エスケープ(thermal escape)および/または電界支援エスケープ(field-assisted escape)によりLBARから抜け出る場合がある。これらのLBARを、例えば殆どの変成太陽電池で見られるようなここではn>2半導体と称される2つ以上の化学元素から構成される半導体(三元半導体、四元半導体など)から形成される太陽電池に組み込むことにより、更なる元素を付加することなく、通常の太陽電池組成および格子定数に対して伸張性および圧縮性がある領域を同じ半導体材料内に形成することができる。更なる元素を付加することなく小さい格子定数と大きい格子定数とが交互に入れ替わるこれらの領域を形成できることにより、結晶格子中に更なる不完全性または転位をもたらすことなくLBARの光学的厚さおよび電流生成能力を増大させるために-例えば複数の疑似格子整合伸張バリアおよび圧縮ウェルの-歪み釣り合わせ構造を依然として可能にしつつ、組成制御の困難性が回避されるとともに、結晶格子中への更なる元素の組み込みがもたらし得るキャリア寿命への潜在的に有害な影響が回避される。)

ウ 「


(訳:
[00102」 他の実施形態において、LBAR100は、LBAR間に歪み釣り合い層またはバリア層として示される層によって歪みが釣り合わされてもよい。これらの歪み釣り合い層またはバリア層は、一般に、LBAR層およびLBARと歪み釣り合い層またはバリア層とを取り囲む半導体材料よりも高いバンドギャップを有するが、LBARおよび周囲の材料と同じあるいはそれよりも低いバンドギャップを有してもよい。例えば、所定の厚さおよび半導体組成の各LBAR層は、組成がバンドギャップを下げるように変えられるときにしばしば直面するように太陽電池の大部分に対して圧縮歪み状態にあってもよく、また、各歪み釣り合い層またはバリア層は、LBARと歪み釣り合い層との組み合わせがゼロの正味歪みを有するような厚さおよび組成を伴って、太陽電池の大部分に対して伸張歪み状態にあってもよい。このゼロまたは中立の正味歪みは、太陽電池の他の場所での転位形成のための原動力を減少させる。LBARおよび歪み釣り合い層の厚さおよび組成は、歪まされた層が疑似格子整合を保つようになっている。すなわち、LBARおよび歪み釣り合い層における結晶格子は、弛緩しておらず、転位を形成しない。)

エ 「


(訳:
[00116] 図2は、本開示に係る、変成サブセル200、トンネル接合部27、および、変成バッファ52の他の実施形態を示している。サブセル200は、基板(図示せず)から離れる方向で成長されてしまっている。図2において分かるように、サブセル200の基本的な構造は図1の中央セル40と同じであり、同様の部分に同じ数字および標示が付されている。一実施形態では、サブセル200が3接合太陽電池の中央セルであってもよい。図2において分かるように、LBAR210、および、この明細書では歪み釣り合い層またはバリア層とも称される小格子定数歪み補償領域(SCR)220が、位置A(図1)に対応するベース44の空間電荷領域230中へ組み込まれてしまっている。この典型的な実施形態において、LBAR210は、この実施形態ではシートまたは層形態である2-D形態を有する。LBAR210は、ベース44よりも低いバンドギャップを有する材料から形成される。一実施形態において、LBARは、ベース44よりも高いIn濃度を有するGaInAsから形成されてもよく、それにより、ベース44よりも低いバンドギャップおよび高い格子定数がもたらされる。LBAR210の高い格子定数を補償するため、SCR220が、LBAR210間に、および、LBAR210とベース44およびエミッタ42との間に位置づけられている。SCR220は、LBAR210よりも小さい格子定数を有する材料から形成される。一実施形態において、SCR220は、LBAR210よりも低いIn濃度を有するGaInAsであってもよい。他の実施形態において、SCR220は、LBAR210の格子定数よりも小さい格子定数を有するGaInPAs、GaNAs、GaInNAsまたは他の半導体材料から形成されてもよい。
[00117] 図2は、サブセル200の格子定数およびバンドギャップのそれぞれの間の一般的な関係を更に示している。バンドギャップは、一般に、図2における変成グレーデッドバッファ52では、新たな格子定数で多接合太陽電池におけるサブセルの成長を可能にするために、層組成が変化されるにつれて、また、格子定数が増大されるにつれて、低くなる。この新たな格子定数では、裏面電界(BSF)層45および窓層41が変成太陽電池ベース44よりも高い格子定数を有する。図2に示されるように、LBAR210は、ベース44よりも低いバンドギャップを有してもよく、また、歪み層またはバリア層は、ベース44よりも高いバンドギャップを有してもよい。LBAR210のバンドギャップを小さくすればするほど、電子正孔対の光生成が増大するとともに、入射光スペクトルにおける長い波長において、変成太陽電池ベース、エミッタ、および、他の吸収層だけで達成されるよりも大きい光生成電流密度がもたらされる。低バンドギャップLBAR210における歪みは、歪み釣り合い層またはバリア層とも呼ばれる小格子定数歪み補償領域(SCR)220による反対方向の歪みによって釣り合わせることができる。SCR220がベース44よりも高いバンドギャップを有してもよく、それにより、それらの層における少数キャリア濃度および望ましくない少数キャリア再結合が抑制される。
[00118] 一般に、LBAR210の低いバンドギャップをもたらす半導体組成により、LBAR210がベース44よりも大きい材料格子定数を有するようにもなる。この場合、材料格子定数は、結晶材料が歪まされていない場合に有する格子定数として規定される。太陽電池において、LBAR210は、それらの面内格子定数が各LBAR210の上下の層と同じであり且つ変成ベース44の格子定数とほぼ同じであるように疑似格子整合的に歪まされてもよい。LBAR210の材料格子定数がベース44の材料格子定数よりも大きいため、図2のLBAR210は圧縮歪み状態にあり、また、この歪みに起因してLBARの面内格子定数(半導体表面および成長面に対して平行な面内における格子定数)はベース44のそれとほぼ同じであるが、半導体表面および成長面に対して平行な面内における格子定数はベース44のそれよりも大きい。)

オ 「


(訳:
[00123] 図4は、本開示に係る、変成サブセル400、トンネル接合部27、および、変成バッファ52の他の実施形態を示している。サブセル400は、基板から離れる方向で成長されてしまっている。図4において分かるように、サブセル400の基本的な構造は図1の中央セル40と同じであり、同様の部分に同じ数字および標示が付されている。一実施形態では、サブセル400が3接合太陽電池の中央セル40であってもよい。図4において分かるように、LBAR410およびSCR420が、位置C(図1)に対応するベース44の準中性領域中へ組み込まれてしまっている。LBAR410およびSCR420は、空間電荷領域440中へ組み込まれてしまっていない。LBAR410およびSCR420は、図2に関連して前述した特徴と同じ特徴を有する。
[00124] 図4は、LBAR410およびSCR420の配列がp-n接合部の両側の準中性領域のうちの1つ内に位置づけられるケースを示している。例えば、図4は、p型ベースの完全に準中性領域内のLBAR410の配列を示している。前述したように、準中性領域でのドリフトによるキャリア収集を支援するための強力な電界は存在しないが、LBAR410で光生成されたキャリアは、熱エスケープによってLBAR410から依然として抜け出ることができるとともに、拡散によって収集p-n接合部へと依然として輸送され得る。これにより、空間電荷領域だけに適合し得るよりも大きな光吸収およびセル電流に関してより大きな累積厚さのLBAR410を使用できる。準中性領域におけるLBAR410からの電流収集効率が空間電荷領域におけるよりも低くなる可能性があるが、それらのLBARは、電流密度のかなりの有用な増大を依然としてもたらすことができる。)

カ 「


(訳:
[00133] LBARは幅広い範囲の空間的広がりを有してもよい。すなわち、LBARは、0.1ミクロン?約1ミクロン以上の幅を伴って非常に幅広くてもよく、LBARは、約100A?約1000Aの幅を伴う中間の範囲内であってもよく、あるいは、LBARは、0よりも大きく約100Aまでの範囲で非常に幅狭くてもよく、その場合には、LBAR内のキャリアのエネルギーレベルで量子閉じ込めの強力な効果がある。LBARおよびSCRの幅は、主に、層が互いからおよび太陽電池ベースからどのくらい格子不整合であるかという制約、および、各層が、疑似格子整合(pseudomorphic)を保持している間に、すなわち、結晶格子が弛緩して転位を来す前に、どのくらい厚くなることができるのかという制約によって決定される。)

キ Fig.1は、以下のものである。


ク FIG.4は、以下のものである(Fig.1の中央部のセルに相当する。)。

27…トンネル接合部
42…エミッタ層
44…ベース層
52…変成バッファ層
400…サブセル
410…低バンドギャップ吸収領域(LBAR)
420…小格子定数歪み補償領域(SCR)
440…空間電荷領域
450…準中性領域

(4)引用文献に記載された発明
ア 上記(2)アの記載から、
(ア)引用文献には、
「ベース層と、
前記ベース層と共に光起電力セルのp-n接合を形成するエミッタ層と、
前記ベース層及び前記エミッタ層のうちの一方または両方に配置される低バンドギャップ吸収領域と、
小格子定数歪み補償領域と、を備える半導体デバイス。」が記載されているものと認められる(請求項1-16-17)。

(イ)また、上記アの「低バンドギャップ吸収領域」は、「p-n接合」の片側(又は両側)に位置する、「空間電荷領域」や「準中性領域」に組込むことができること(請求項2ないし6)。

イ 上記(2)イの記載から、以下のことが理解できる。
(ア)上記アの「半導体デバイス」は、光生成電流密度を高めるために「低バンドギャップ吸収領域」を組込んだものであること。

(イ)上記アの「低バンドギャップ吸収領域」は、周囲の半導体層よりも光生成電流密度を高めるものであること。

※ 以下、「低バンドギャップ吸収領域」を、「LBAR」等と表記することがある。

(ウ)上記アの「低バンドギャップ吸収領域」の光学的厚さ及び電流生成能力を増大させるために、「小さい格子定数と大きい格子定数とが交互に入れ替わる領域」を形成すること(複数の疑似格子整合伸張バリアおよび圧縮ウェルの構造)。

(エ)上記アの「半導体デバイス」は、太陽電池に組込まれること。

ウ 上記(2)ウ及びエの記載を踏まえて、図1及び図4を見ると、以下のことが理解できる。
(ア)「LBAR」及び「歪み釣り合い層」の厚さおよび組成は、歪まされた層が疑似格子整合(pseudomorphic)を保つようになっていること、すなわち、LBARおよび歪み釣り合い層における結晶格子は、弛緩しておらず、かつ、転位を形成しないこと。

※ 「小格子定数歪み補償領域」及び「歪み釣り合い層」を、「SCR」と表記することがある。

(イ)「低バンドギャップ吸収領域(LBAR)」は、ベース層よりも低いバンドギャップ(以下「第1バンドギャップ」という。)とベース層よりも大きな格子定数を有すること。

(ウ)「小格子定数歪み補償領域(SCR)」は、第1バンドギャップよりも高いバンドギャップ(以下「第2バンドギャップ」という。)とベース層よりも小さな格子定数を有すること。

(エ)「低バンドギャップ吸収領域(LBAR)」の歪みは、「小格子定数歪み補償領域」による反対方向の歪みによって釣り合っていること。

(オ)図4に示された「サブセル400」は、図1に示された多接合太陽電池における「中央セル40」に相当すること。

(カ)図4は、「p-n接合」の、p側の配置を示すものであって、n側にも、同様の構造が存在してもよいこと。

(キ)図4に示された「サブセル400」においては、「低バンドギャップ吸収領域」と「小格子定数歪み補償領域」は、準中性領域において交互配置されていること。

エ 上記(2)オの記載を踏まえて、図4を見ると、以下のことが理解できる。
準中性領域には、空間電荷領域のような強力な電界は存在しないが、低バンドギャップ吸収領域で光生成されたキャリアは、拡散によって輸送されること。

オ 上記(2)カの記載から、以下のことが理解できる。
LBARおよびSCRの幅は、
層が互いから及び太陽電池ベースからどのくらい格子不整合であるかという制約、及び、
各層が、疑似格子整合を保持している間に、すなわち、結晶格子が弛緩して転位を来す前に、どのくらい厚くなることができるのかという制約によって決定されること。

カ 上記アないしオからして、引用文献には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「光起電力セルを含む太陽電池であって、
前記光起電力セルは、
ベース層と、
前記ベース層と共に光起電力セルのp-n接合を形成するエミッタ層と、
空間電荷領域と、
準中性領域と、
を備え、
前記p-n接合の前記準中性領域に、低バンドギャップ吸収領域と小格子定数歪み補償領域が交互配置され、
前記低バンドギャップ吸収領域は、周囲の半導体層よりも光生成電流密度を高めるものであって、ベース層よりも低い第1バンドギャップとベース層よりも大きな格子定数を有し、
前記小格子定数歪み補償領域は、前記第1バンドギャップよりも高い第2バンドギャップとベース層よりも小さな格子定数を有し、
前記低バンドギャップ吸収領域の歪みは、前記小格子定数歪み補償領域による反対方向の歪みによって釣り合っており、
前記低バンドギャップ吸収領域及び小格子定数歪み補償領域における結晶格子は、弛緩しておらず、かつ、転位を形成しておらず、
前記低バンドギャップ吸収領域及び小格子定数歪み補償領域の幅は、層が互いから及びベース層からどのくらい格子不整合であるかという制約、各層が、疑似格子整合(pseudomorphic)を保持している間に、すなわち、結晶格子が弛緩して転位を来す前に、どのくらい厚くなることができるのかという制約によって決定され、
前記準中性領域には、空間電荷領域のような強力な電界は存在しないが、前記低バンドギャップ吸収領域で光生成されたキャリアは、拡散によって輸送される、太陽電池。」

(5)対比
ア 本願補正発明と引用発明とを対比すると、以下のことがいえる。
(ア)引用発明の「光起電力セル」は、本願補正発明の「光起電力セル」に相当する。
以下、同様に、
「太陽電池」は、「オプトエレクトロニクス素子」に、
「空間電荷領域」は、「空間電荷領域」に、
「準中性領域」は、「準中性領域」に、それぞれ、相当する。

(イ)引用発明の「光起電力セル」が「光生成層」を備えていることは、明らかである。

(ウ)上記(ア)及び(イ)を整理すると、
本願補正発明と引用発明とは、
「光起電力セルを含むオプトエレクトロニクス素子であって、
前記光起電力セルは、
空間電荷領域と、
準中性領域と、
光生成層と、を含む」点で一致する。

(エ)a 引用発明の「低バンドギャップ吸収領域」は、「ベース層よりも低い第1バンドギャップとベース層よりも大きな格子定数」を有することから、
本願補正発明の「第1バンドギャップと、光起電力セルの平均格子定数に対し第1の歪み量とを有する第1層型の一又は複数の層」に相当する。

b 引用発明の「小格子定数歪み補償領域」は、「第1バンドギャップよりも高い第2バンドギャップとベース層よりも小さな格子定数」を有することから、
本願補正発明の「第1バンドギャップよりも大きい第2バンドギャップと、第2の歪み量とを有する第2層型の一又は複数の層」に相当する。

c また、引用発明の「低バンドギャップ吸収領域の歪み」は、「小格子定数歪み補償領域による反対方向の歪み」によって釣り合っているから、両者の歪はバランスがとれているといえる。

d 引用発明の「低バンドギャップ吸収領域」は、「準中性領域」に配置され、「周囲の半導体層よりも光生成電流密度を高めるもの」であるところ、該「周囲の半導体層」に「光生成層」が含まれることは、明らかである。

e してみると、本願補正発明と引用発明とは、
「収集光生成電流密度が光生成層よりも高く、少なくとも部分的にセルの準中性領域に位置付けされる改善されたトランスポート(IT)層を含む」点で一致する。

f よって、本願補正発明と引用発明とは、
「収集光生成電流密度が光生成層よりも高く、少なくとも部分的にセルの準中性領域に位置付けされる改善されたトランスポート(IT)層と
を含み、
前記IT層は、第1バンドギャップと、光起電力セルの平均格子定数に対し第1の歪み量とを有する第1層型の一又は複数の層を含み、さらに、前記第1バンドギャップよりも大きい第2バンドギャップと、第2の歪み量とを有する第2層型の一又は複数の層を含み、前記第2層型の前記層が前記第1層型の前記層に対し引張歪み状態にあり、前記第1層型の前記層の歪みと、前記第2層型の前記層の歪みとはバランスがとれている」点で一致する。

(オ)a 引用発明の「低バンドギャップ吸収領域及び小格子定数歪み補償領域における結晶格子は、弛緩しておらず、かつ、転位を形成しておらず」、さらに、「低バンドギャップ吸収領域及び小格子定数歪み補償領域」の幅は、「層が互いから及びベース層からどのくらい格子不整合であるかという制約」、「各層が、疑似格子整合(pseudomorphic)を保持している間に、すなわち、結晶格子が弛緩して転位を来す前に、どのくらい厚くなることができるのかという制約」を考慮して決定されるものである。

b つまり、「低バンドギャップ吸収領域」及び「小格子定数歪み補償領域」においては、擬似格子整合(pseudomorphic)が保持されていると認められる。
そして、当該「低バンドギャップ吸収領域」及び「小格子定数歪み補償領域」は、成長基板上に成長させた、「『成長基板とコヒーレント格子構造が保持され』た『半導体層』」であることは、明らかである。

c してみると、本願補正発明と引用発明とは、「いずれの型の層もシュードモルフィックのままであり、当該層が成長する成長基板とコヒーレント格子構造が保持され、いずれの型の前記層も所定の結晶欠陥面密度を有する」点で一致する。

イ 以上のことから、本願補正発明と引用発明とは、以下の点で一致する。
<一致点>
「光起電力セルを含むオプトエレクトロニクス素子であって、前記光起電力セルは、
空間電荷領域と、
準中性領域と、
光生成層と、
収集光生成電流密度が前記光生成層よりも高く、少なくとも部分的に前記セルの前記準中性領域に位置付けされる改善されたトランスポート(IT)層と
を含み、
前記IT層は、第1バンドギャップと、前記光起電力セルの平均格子定数に対し第1の歪み量とを有する第1層型の一又は複数の層を含み、さらに、前記第1バンドギャップよりも大きい第2バンドギャップと、第2の歪み量とを有する第2層型の一又は複数の層を含み、前記第2層型の前記層が前記第1層型の前記層に対し引張歪み状態にあり、前記第1層型の前記層の歪みと、前記第2層型の前記層の歪みとはバランスがとれているため、いずれの型の前記層もシュードモルフィックのままであり、当該層が成長する成長基板とコヒーレント格子構造が保持され、いずれの型の前記層も所定の結晶欠陥面密度を有する、オプトエレクトロニクス素子。」

ウ 一方、両者は、以下の点で相違する。
<相違点1>
光生成層に関して、
本願補正発明は、「複数の主光生成層」であるのに対して、
引用発明は、そのようなものであるか否か不明である点。

<相違点2>
所定の結晶欠陥面密度に関して、
本願補正発明は、「10^(6)cm^(-2)よりも低い」のに対して、
引用発明は、不明である点。

(6)判断
ア 上記<相違点1>について検討する。
(ア)解釈その1
a 引用発明の「『低バンドギャップ吸収領域と小格子定数歪み補償領域を交互配置』した領域」以外に、「p-n接合」付近には、少なくとも「(p側及びn側の)空間電荷領域」が配置されている。

b そして、該「(p側及びn側の)空間電荷領域」は、光生成が生じる領域であるから、引用発明は「複数の主要な光生成層」を備えているといえる。

c よって、上記<相違点1>は、実質的な相違点ではない。

(イ)解釈その2
仮に、上記<相違点1>が実質的な相違点であるとしても、引用発明の「光起電力セル」を、引用文献の図1に示された「中央セル」として利用し、引用発明の「太陽電池」を多接合型にすることは、当業者が容易になし得たことである。

イ 上記<相違点2>について検討する。
(ア)半導体層を成長させる際に、結晶欠陥面密度が小さいほど好ましいことは、当業者にとって明らかであり、その密度を「10^(6)cm^(-2)よりも低」くすることに何ら困難性は認められない。

必要ならば、下記の文献を参照。
特開平11-191637号公報(【要約】)
特開平3-16996号公報(第1図)
特開昭59-132119号公報(第2頁右上欄)

(イ)以上の検討によれば、引用発明において、上記<相違点2>に係る本願補正発明の構成を採用することは、当業者が容易になし得たことである。

ウ 以上の検討によれば、引用発明において、上記<相違点1>及び<相違点2>に係る本願補正発明の構成を採用することは、当業者が容易になし得たことである。

エ 効果
本願補正発明の効果は、引用発明の奏する効果から予測し得る範囲内のものである。

(7)上申書における主張について
上申書において、以下のように主張していることから、この点について検討する。

「本願発明では歪みバランス層を使用せずに、Ge上にAlGaInPやGaInPといった格子整合した合金を使用することで、格子定数を変えず、新たな欠陥を生じさせることなく低バンドギャップ材料を提供することができるようになっています。」(第2頁中段)

ア しかしながら、本願補正発明(及び補正案の発明)は、ある一つの層の歪みに対して、その歪みを相殺する層(歪み補償層)を利用するものであるから、歪みバランス層を利用したものであるといえる。

イ よって、請求人の上記主張は、上記「(6)ウ」の判断を左右するものではない。

(8)審判請求書における主張について
審判請求書において、以下のように主張していることから、この点について検討する。

「新請求項1の発明では、改善されたトランスポート(IT)層により、半導体素子の電流密度、電圧、フィルファクタ、及び/又はエネルギー変換効率をより高めることができるようになっています(段落[0114])。
一方で、引用文献1に記載の発明は、上述のような発明特定事項を開示していませんし、本願の新請求項1に記載の発明が有する作用効果を奏するものではありません。」(第4頁後段)
当審注:上記引用文献1は、審決で引用する引用文献である。

ア しかしながら、本願明細書の【0210】に「…セル構造に改善されたトランスポート(IT)及び/又はLBAR層を有する、本明細書に開示されたすべての実施例に、LBAR及び歪み補償領域の組み合わせを代わりに使用することができる。」と記載されているように、
「トランスポート(IT)層」は、「LBAR層と歪み補償領域の組み合わせ」に変更できるものである。

イ つまり、「トランスポート(IT)層」の奏する効果は、「LBAR層と歪み補償領域の組み合わせ」の奏する効果と同質のものであるから、本願補正発明の奏する効果と引用発明の奏する効果も、同質のものであると認められる。

ウ よって、請求人の上記主張は、上記「(6)ウ」の判断を左右するものではない。

(9)令和2年3月24日提出の回答書における主張
回答書において、以下のように主張していることから、この点について検討する。

「引用文献ではシュードモルフィックバッファ層上の成長ではありません。従来の格子整合デバイスでは、上部セルに過剰な電流が存在しており、上部セルにさらに電流を追加するように考えることはありません。本願発明では、デバイス内、特に上部デバイスへの電流をより多くすることがその目的としています。」

ア しかしながら、引用文献の[00133]には「The width of the LBARs and the SCRs is primarily determined by the constraints of how lattice-mismatched the layers are from each other and the solar cell base, and how thick each layer can become while remaining pseudomorphic, i.e., before the crystal lattice relaxes and develops dislocations. 」(訳:LBARおよびSCRの幅は、主に、層が互いからおよび太陽電池ベースからどのくらい格子不整合であるかという制約、および、各層が、疑似格子整合(pseudomorphic)を保持している間に、すなわち、結晶格子が弛緩して転位を来す前に、どのくらい厚くなることができるのかという制約によって決定される。)と記載されているように、
引用発明の「低バンドギャップ吸収領域」及び「小格子定数歪み補償領域」は、シュードモルフィックであると解される。

イ よって、請求人の上記主張は、上記「(6)ウ」の判断を左右するものではない。

(10)独立特許要件についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件補正後の請求項1の記載は、特許法第36条第6項第2号の規定に違反する。
また、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

4 補正却下の決定の理由のむすび
上記「3」のとおり、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反する。
したがって、本件補正は、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
1 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたため、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記「第2 1」にて、本件補正前の請求項1に係る発明として記載したとおりのものである。
念のため、本願発明を再掲すると、以下のとおりのものである。

「光起電力セルを含むオプトエレクトロニクス素子であって、前記光起電力セルは、
空間電荷領域と、
準中性領域と、
少なくとも部分的に前記セルの前記準中性領域に位置付けされる低バンドギャップ吸収領域(LBAR)層、又は改善されたトランスポート(IT)層とを含み、
前記LBAR層又は前記IT層は、第1バンドギャップと、前記光起電力セルの平均格子定数に対し第1の歪み量とを有する第1層型の一又は複数の層を含み、さらに、前記第1バンドギャップよりも大きい第2バンドギャップと、第2の歪み量とを有する第2層型の一又は複数の層を含み、前記第2層型の前記層が前記第1層型の前記層に対し引張歪み状態にあり、前記第1層型の前記層の歪みと、前記第2層型の前記層の歪みとはバランスがとれているため、いずれの型の前記層もシュードモルフィックのままであり、当該層が成長する成長基板とコヒーレント格子構造が保持され、いずれの型の前記層も10^(6)cm^(-2)よりも低い結晶欠陥面密度を有する、オプトエレクトロニクス素子。」

2 引用文献
引用文献の記載事項及び引用発明は、上記「第2 3(3)及び(4)」に記載したとおりである。

3 対比・判断
(1)対比
本願発明と引用発明とを対比すると、以下の点で一致する。
<一致点>
「光起電力セルを含むオプトエレクトロニクス素子であって、前記光起電力セルは、
空間電荷領域と、
準中性領域と、
少なくとも部分的に前記セルの前記準中性領域に位置付けされる改善されたトランスポート(IT)層とを含み、
前記IT層は、第1バンドギャップと、前記光起電力セルの平均格子定数に対し第1の歪み量とを有する第1層型の一又は複数の層を含み、さらに、前記第1バンドギャップよりも大きい第2バンドギャップと、第2の歪み量とを有する第2層型の一又は複数の層を含み、前記第2層型の前記層が前記第1層型の前記層に対し引張歪み状態にあり、前記第1層型の前記層の歪みと、前記第2層型の前記層の歪みとはバランスがとれているため、いずれの型の前記層もシュードモルフィックのままであり、当該層が成長する成長基板とコヒーレント格子構造が保持され、いずれの型の前記層も所定の結晶欠陥面密度を有する、オプトエレクトロニクス素子。」

(2)一方、両者は、以下の点で相違する。
<相違点A>
所定の結晶欠陥面密度に関して、
本願発明は、「10^(6)cm^(-2)よりも低い」のに対して、
引用発明は、不明である点。

(3)判断
上記<相違点A>は、上記<相違点2>と実施的に同じである。
そうすると、上記「第2 3(5)及び(6)」で対比・判断したとおり、本願発明も、同様の理由により、当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4 まとめ
よって、本願発明は、当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件出願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2020-03-30 
結審通知日 2020-03-31 
審決日 2020-04-22 
出願番号 特願2014-32464(P2014-32464)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐竹 政彦  
特許庁審判長 瀬川 勝久
特許庁審判官 星野 浩一
野村 伸雄
発明の名称 電流の生成及び収集機能を向上させたソーラーセル構造  
代理人 園田・小林特許業務法人  

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