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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A61B
管理番号 1366560
審判番号 不服2020-4942  
総通号数 251 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-04-10 
確定日 2020-10-13 
事件の表示 特願2017-551987「血中グルコース濃度を非侵襲的に決定する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 6月30日国際公開、WO2016/105248、平成30年 2月22日国内公表、特表2018-505017、請求項の数(1)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2015年(平成27年)12月17日(パリ条約による優先権主張 2014年12月22日 ロシア)を国際出願日とする出願であって、平成31年4月17日付けで拒絶理由が通知され、令和元年9月20日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年11月29日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)されたところ、令和2年4月10日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。

本願請求項1に係る発明は、以下の引用文献1?4に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特表2003-531357号公報
2.特開平11-155840号公報(周知技術を示す文献)
3.特開2014-18478号公報(周知技術を示す文献)
4.特開2014-79559号公報(周知技術を示す文献)

第3 本願発明
本願請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、令和元年9月20日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
近赤外波長帯域の光学的放射による生体材料の、照射処理、
生体材料によって拡散性に反射された光学的放射を受け取ること、
受け取った光学的放射の、電気信号への変換、及び
受け取った電気信号に基づく血中グルコース濃度の決定を含んでいる、
血中グルコース濃度の非侵襲的な決定の方法であって、
上記生体材料の照射処理が、第1の波長帯域950?970nmの光学的放射、第2の波長帯域1020?1060nmの光学的放射、第3の波長帯域930?950nmの光学的放射、第4の波長帯域740?760nmの光学的放射、及び、第5の波長帯域830?850nmの光学的放射を用いて、任意の順に交互に実施され、
血中グルコース濃度の決定が、上記グルコース濃度と、値U_(SUM)=U_(2)+U_(3)+U_(5)-U_(1)(к_(12)+к_(13)+к_(15))-U_(4)(к_(42)+к_(43)+к_(45))を有している、受け取った電気信号の集合との間における、実験的に得られる校正相関関係を用いて実施され、
U_(1)、U_(2)、U_(3)、U_(4)、U_(5)は、それぞれ、光学的放射の上記第1、第2、第3、第4及び第5の帯域による上記生体材料の照射処理のときに受け取った電気信号の値であり;
к_(12)、к_(13)、к_(15)は、式к_(12)=К_(w2)S_(2)/К_(w1)/S_(1)、к_(13)=К_(w3)S_(3)/К_(w1)/S_(1)、к_(15)=К_(w5)S_(5)/К_(w1)/S_(1)に従って計算されるファクタであり、
К_(w1)、К_(w2)、К_(w3)、К_(w5)は、それぞれ、第1、第2、第3及び第5の波長帯域における水の吸収度ファクタの平均値であり、
S_(1)、S_(2)、S_(3)、S_(5)は、それぞれ、第1、第2、第3及び第5の波長帯域における光学的放射のレシーバの有している相対分光感度の平均値であり、
к_(42)、к_(43)、к_(45)は、式к_(42)=К_(M2)S_(2)/К_(M4)/S_(4)、к_(43)=К_(M3)S_(3)/К_(M4)/S_(4)、к_(45)=К_(M5)S_(5)/К_(M4)/S_(4)に従って計算されるファクタであり、
К_(M2)、К_(M3)、К_(M4)、К_(M5)は、それぞれ、第2、第3、第4及び第5の波長帯域におけるメラニンの吸収ファクタの平均値であり、
S_(2)、S_(3)、S_(4)、S_(5)は、それぞれ、第2、第3、第4及び第5の波長帯域における光学的放射のレシーバの有している相対分光感度の平均値である、方法。」

第4 引用文献、引用発明等1 引用文献1について
(1)引用文献1に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。

(引1ア)「 【0012】
組織の多重散乱作用のため、透過または反射のいずれかの光計測には、組織の散乱情報だけでなく吸収情報も含むことになる。組織の散乱情報には、細胞の大きさおよび細胞の形状、散乱が発生する組織の深さ、および細胞内液および細胞外液(間質液)の屈折率がある。吸収情報には、ヘモグロビン、メラニンおよびビリルビン等の組織構成物質の吸収、および水、グルコース、脂質および他の代謝産物の過剰な吸収がある。」

(引1イ)「 【0057】
ここで、図1を参照すると、本発明の装置は、所与の光導入地点で組織に光を導入するための手段を含む。複数の光収集地点は、光導入地点から少し離れた距離に位置しており、各光収集地点は、組織から再放出された光を収集する光収集要素と接触している。この地点において収集された再放出光の強度は、検出器によって測定される。光導入地点に光を送る光源は、収束されたビーム光、コリレートビーム光、あるいは皮膚と接触している表面実装型の発光ダイオードまたはレーザダイオードであってよい。他の光源を用いることも可能である。また、この光源は、光導入地点から離れた位置にあることも可能で、この場合、光ファイバを用いて離れた位置にある光源から光導入地点まで光を搬送することができる。再放出光は、光導入地点から特定の距離r_(1)、r_(2)...r_(n)に位置している複数の光収集地点の各々で収集される。収集された光は、収集光の強度を測定する検出器まで導かれる。再放出光は、いくつかの手段を任意に用いて収集される。散乱光を収集するこれらの手段の代表的な例としては、皮膚に接触するファイバ、および光導入地点から所与の距離にある穴の開いたマスクがあるが、これらに限定するものではない。このようにして収集された光は、電荷結合デバイス(CCD)カメラ、皮膚に接触している一連の光ダイオード、一次元または二次元の光ダイオードアレイ、または他の適切な種類の検出器に撮像される。」

(引1ウ)「 【0074】
以下の非限定的な例は、本発明をさらに説明するものである。

実施例1
この例は、複数の光収集ファイバを用いて、選択可能なサンプリング距離を有する装置を示している。図3?図5は、光学的特性、したがって組織内の種々の深さにある異なる被検体の濃度を側定するための装置の一例を示すものである。1998年11月23日に出願され、この出願の譲渡人に譲渡された同時継続出願である米国特許出願第09/198,049号(「Non-invasive sensor capable of determining optical parameteres in a sample having multiple layers」)では、この出願の装置に使用される多数の構成要素について詳細に記載している。この装置は、人体の前腕上の皮膚に光を導入し、かつその皮膚から再放出される光を測定することを意図したものであった。図3に示すように、この装置は、光源モジュール12と、ヒューマンインターフェースモジュール16と、信号検出器モジュール18と、これら3つのモジュールの光信号を処理する分岐した光ファイバ束14とから構成されている。光源モジュール12からは6種類の波長、すなわち590nm,650nm,750nm,800nm,900nmおよび950nmの波長の単色光が発生された。この光は、分岐した光ファイバ束14内の光源ファイバ26を介して、ヒューマンインタフェースモジュール16まで伝搬された(図4Aおよび図4B)。光源ファイバ26は、光源モジュール12内の光源端20にあるファイバ26の端部から光を受け取った。光源ファイバ26は、その他端から被検体の前腕の皮膚まで光を放出し、その光はヒューマンインタフェースモジュール16内の共通端24にある光導入地点と呼ばれる地点の皮膚に直接接触した。また、共通端24からその皮膚に接触する、他の6本のファイバ28,30,32,34,36および38は、独立した6つの光収集要素であった。これらのファイバの各々は、ファイバが皮膚に接触している地点、すなわち光収集地点にある皮膚から再放出された光を収集した。ヒューマンインタフェースモジュールは、共通の端部を皮膚に係合させていた。また、このモジュールは、端部と皮膚との接触領域に、温度および圧力制御機構部を提供した。光学的要素の係合地点を包囲する皮膚の領域は、測定中は所与の一定温度を維持した。また、このヒューマンインタフェースモジュールは、テストする前腕のための快適な肘掛け(図示せず)を備えていた。」

(引1エ)「 【0076】
6本の検出ファイバは、共通端24にある皮膚からの再放出光を受信し、検出器モジュール18の検出端22までその光を伝搬した。検出器端22にあるこれらすべてのファイバの端部は、検出器のレンズの焦点面にあった(レンズおよび検出器は共に図示せず)。しかし、特定のファイバ端と検出器(図示せず)との間のシャッタが開いていた場合に限り、そのファイバからの光信号を検出した。」

(引1オ)「 【0092】
例3
この例では非侵襲的なグルコースの相関を示している。被験者3例を対象に、例1に記載したものと同じ装置、および例2に記載したものと同様の設定方法を、グルコースの生体内測定に用いた。各被験者に対して、食物負荷試験のプロトコルを用いて血糖の変化を誘導した。反射率の測定と参照となるインビトロ血液検査とを相関させた。
【0093】
各被験者について、100秒ごとに1セットの読取り(表1に示すように6ヶ所のサンプリング距離で、かつ590nm,800nmおよび950nmの3つの波長で)を行って、反射率の測定を繰り返し実行した。測定は、皮膚の温度を22℃にコントロールした状態で行った。5分?15分毎に穿刺針(finger-stick)を用いて被験者から血液サンプルを採取し、市販のグルコース測定器を用いて検査した。患者が絶食状態の時に測定を開始した。10分?20分後、被験者は高糖の飲料(680mLの液体と100グラム?120グラムの砂糖を含む市販のフルーツジュース)を摂取した。総測定時間は、90分?120分であった。
【0094】
被験者1例の食物負荷試験中の、グルコース値と時間とのグラフを図8に示す。円は、穿刺針により採取した毛細血管血、および家庭用グルコース測定器(エルクハートIN、Bayer Corp.,のグルコース測定器Elite(登録商標))を用いた、参照グルコーステストの結果を表すものである。これらの円を通る滑らかな線からは、参照グルコース濃度のフィット値(fit value)は、穿刺針により採取した毛細血管の血糖の3次スプライン(cubic spline smoothing)から得られたものであることが分かる。補間データポイントは、測定が正確に行われた時間のポイントとは別の時間のポイントの、インビトロ血糖測定の結果を表している。古典的な線形回帰を用いて、3つの波長それぞれの単一のサンプリング距離における反射率の測定から構成されたモデルと、参照グルコース濃度のフィット値とを相関させた。ほとんどの場合、3つの波長におけるr3(r=0.92mm)の反射率の測定では、線形モデルが得られ、参照グルコース濃度と適合している。図8では、×印は以下のようなモデルを用いて算出されたグルコース濃度を表している。
【0095】
【数8】

ここでLog[R(λ)]は、波長λ(nm)での反射率の自然対数を表している。このモデルでは、相関係数が0.98、較正の標準誤差は8,9mg/dLとなった。」

(2)引用文献1に記載された発明
ア 上記(引1ウ)及び(引1エ)より、例1の装置として、以下の装置が記載されている。

「光源モジュール12と、ヒューマンインターフェースモジュール16と、信号検出器モジュール18と、これら3つのモジュールの光信号を処理する分岐した光ファイバ束14とから構成され、
光源モジュール12からは6種類の波長、すなわち590nm,650nm,750nm,800nm,900nmおよび950nmの波長の単色光が発生され、
光源ファイバ26は、光源モジュール12内の光源端20にあるファイバ26の端部から光を受け取り、
光源ファイバ26は、その他端から被検体の前腕の皮膚まで光を放出し、その光はヒューマンインタフェースモジュール16内の共通端24にある光導入地点と呼ばれる地点の皮膚に直接接触し、
共通端24からその皮膚に接触する、他の6本のファイバ28,30,32,34,36および38は、独立した6つの光収集要素であり、
これらのファイバの各々は、ファイバが皮膚に接触している地点、すなわち光収集地点にある皮膚から再放出された光を収集し、
ヒューマンインタフェースモジュールは、共通の端部を皮膚に係合させ、
このモジュールは、端部と皮膚との接触領域に、温度および圧力制御機構部を提供した。光学的要素の係合地点を包囲する皮膚の領域は、測定中は所与の一定温度を維持し、
共通端24にある皮膚からの再放出光を受信し、検出器モジュール18の検出端22までその光を伝搬し、
検出器は、ファイバからの光信号を検出する装置。」

イ 上記(引1オ)より、引用文献1の例3は、「例1に記載したものと同じ装置」「を、グルコースの生体内測定に用い」たものであるから、引用文献1の例3には、「例1に記載したものと同じ装置」を用いた「グルコースの生体内測定」方法が記載されているといえる。
そうすると、上記アを踏まえると、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「光源モジュール12と、ヒューマンインターフェースモジュール16と、信号検出器モジュール18と、これら3つのモジュールの光信号を処理する分岐した光ファイバ束14とから構成され、
光源モジュール12からは6種類の波長、すなわち590nm,650nm,750nm,800nm,900nmおよび950nmの波長の単色光が発生され、
光源ファイバ26は、光源モジュール12内の光源端20にあるファイバ26の端部から光を受け取り、
光源ファイバ26は、その他端から被検体の前腕の皮膚まで光を放出し、その光はヒューマンインタフェースモジュール16内の共通端24にある光導入地点と呼ばれる地点の皮膚に直接接触し、
共通端24からその皮膚に接触する、他の6本のファイバ28,30,32,34,36および38は、独立した6つの光収集要素であり、
これらのファイバの各々は、ファイバが皮膚に接触している地点、すなわち光収集地点にある皮膚から再放出された光を収集し、
ヒューマンインタフェースモジュールは、共通の端部を皮膚に係合させ、
このモジュールは、端部と皮膚との接触領域に、温度および圧力制御機構部を提供した。光学的要素の係合地点を包囲する皮膚の領域は、測定中は所与の一定温度を維持し、
共通端24にある皮膚からの再放出光を受信し、検出器モジュール18の検出端22までその光を伝搬し、
検出器は、ファイバからの光信号を検出する装置を用いて、
各被験者について、6ヶ所のサンプリング距離で、かつ590nm,800nmおよび950nmの3つの波長で、100秒ごとに1セットの読取りを行って、反射率の測定を繰り返し実行し、
古典的な線形回帰を用いて、3つの波長それぞれの単一のサンプリング距離における反射率の測定から構成されたモデルと、参照グルコース濃度のフィット値とを相関させ、得られた線形モデルを用いてグルコース濃度を算出する方法。」

2 引用文献2について
(1)引用文献2に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。

(引2ア)「【0024】また本実施例では、第1の波長λ1を1525nm±25nmに設定しているものである。この波長は非侵襲領域に属し、すなわち人体組織に対して影響を与えない帯域の波長となっている。また、血糖値の主体であるグリコース糖の濃度による影響が最も少ない波長となっているものである。このため第1の発光素子1として半導体レーザを使うことができ、装置全体を小型化できるものである。」

(引2イ)「【0033】また本実施例では、第3の波長を1690nm±25nmに設定しているものである。この波長は非侵襲領域、すなわち人体組織に対して影響を与えない帯域の波長となっている。また、血液中の蛋白質の濃度による影響が最も少ない波長となっているものである。このため第3の発光素子9として半導体レーザを使うことができ、装置全体を小型化できるものである。」

(引2ウ)「【0036】以下本実施例の動作について説明する。図12は、発明者らが水溶液を使用して実験した結果を示している。すなわち、水溶液としてヘモグロビンと蛋白質とグルコース糖とを含有したものを使用している。この水溶液に光の波長を変化させたときの、吸光度の特性を採っているものである。今、グルコース糖の濃度をCg、蛋白質の濃度をCp、ヘモグロビンの濃度をCHbとする。また、グルコース糖の濃度Cgの変化により吸光度が変化しない光の波長をλ1、アルブミンやグロブリンの蛋白質の濃度の変化により吸光度が変化しない波長をλ3、ヘモグロビンの濃度の変化により吸光度が変化しない波長をλ4とする。また、波長λ1の時のグルコース糖の吸光度の濃度係数をKg(λ1)と、波長λ3の時のグルコース糖の吸光度の濃度係数をKg(λ3)と、波長λ3の時のヘモグロビンの吸光度の濃度係数をKHb(λ3)と、波長λ3の時の蛋白の吸光度の濃度係数をKp(λ3)とし、また波長λ4の時のグルコース糖の吸光度の濃度係数をKg(λ4)と、波長λ4の時の蛋白の吸光度の濃度係数をKp(λ4)と、波長λ4の時のヘモグロビンの吸光度の濃度係数をKHb(λ4)とすると、波長λ1・波長λ3・波長λ4の吸光度は、(数10)・(数11)・(数12)に示す式で表現できる。すなわちそれぞれの吸光度は、グルコース糖の濃度Cgによって決まる部分と、アルブミンやグロブリンの蛋白質の濃度Cpによって決まる部分と、ヘモグロビンの濃度CHbによって決まる部分の和によって決定される。
【0037】
A(λ1)=Kg(λ1)*Cg+Kp(λ1)*Cp+KHb(λ1)*CHb (数10)
A(λ3)=Kg(λ3)*Cg+Kp(λ3)*Cp+KHb(λ3)*CHb (数11)
A(λ4)=Kg(λ4)*Cg+Kp(λ4)*Cp+KHb(λ4)*CHb (数12)
このとき、蛋白質の濃度Cpとヘモグロビンの濃度CHbと吸光度との関係は、実施例1で説明した図4のものと同様で、1次関数の関係となっている。また本実施例では、血糖値検出手段13は濃度係数Kp(λ1)・KHb(λ1)・Kg(λ3)・KHb(λ3)・Kg(λ4)・Kp(λ4)を予め有している。
【0038】血糖値検出手段13は、第1の受光素子4から波長λ1の信号を、第3の受光素子10から波長λ3の信号を、また第4の受光素子12から波長λ4の信号を受けている。つまり、図12に示しているA(λ1,T)、A(λ3,T)、A(λ4,T)を受けている。波長λ1・波長λ3・波長λ4の吸光度の特性から、(数10)・(数11)・(数12)中のKg(λ1)・Kp(λ3)・KHb(λ4)は0となる。従ってそれぞれの式は、(数11)・(数12)・(数13)に示すように変換される。
【0039】
A(λ1)=Kp(λ1)*Cp+KHb(λ1)*CHb (数11)
A(λ3)=Kg(λ3)*Cg+KHb(λ3)*CHb (数12)
A(λ4)=Kg(λ4)*Cg+Kp (λ4)*Cp (数13)
各式の左辺であるA(λ1)・A(λ3)・A(λ4)は図12に示しているものであり、第1の受光素子4・第3の受光素子10・第4の受光素子12から血糖値検出手段13に伝達されているものである。血糖値検出手段13は、この情報から3つの成分Cg・Cp・CHbを求めるものである。つまり、血液中の主成分であるグルコース糖の濃度、アルブミンやグロブリンの等の蛋白質の濃度、またヘモグロビンの濃度を演算する。また、こうして演算したグルコース糖の濃度を血糖値表示手段8に血糖値として表示するものである。」

(引2エ)「【0041】またこのとき、ヘモグロビンの濃度が変化しても光の減衰度が変化しない第4の波長として1575nm±25nmを使用している。この波長は非侵襲領域、すなわち人体組織に対して影響を与えない帯域の波長となっている。また、血液中のヘモグロビンの濃度による影響が最も少ない波長となっているものである。このため第3の発光素子9として半導体レーザを使うことができ、装置全体を小型化できるものである。第4の受光素子として半導体レーザを用いることができ、小型で簡単な計測が出来るものである。
【0042】(実施例4)続いて本発明の第4の実施例について図13に基づいて説明する。図13は本実施例の構成を示すブロック図である。1はグルコース糖の濃度が変化しても光の吸光度が変化しない波長λ1の光を発生する第1の発光素子、9は血清あるいは血漿中のアルブミンやグロブリンの蛋白質の濃度が変化しても光の吸光度が変化しない波長λ3の光を発生する第3の発光素子、20は溶液の温度により吸光度が変化しない波長λ5の光を発生する第5の発光素子である。それぞれの発光素子の光は、測定物3を透過してあるいは測定物3に反射されて第1の受光素子4、第3の受光素子10、第5の受光素子21に受光される。またそれぞれの受光素子の信号は、血糖値検出手段22に伝達されているものである。血糖値検出手段22は、各受光素子の情報から血糖値を演算して血糖値表示手段8に表示する。」

(引2オ)「【0046】以上のように本実施例によれば、蛋白質とグルコース糖と温度の影響を受けないで正確に血糖値を計測できる血糖計を実現するものである。」

(引2カ)「【0054】請求項8に記載した発明は、第5の波長を1442nm±25nmに設定した構成とすることによって、発光素子に半導体レーザを使うことができ、装置全体を小型化できるものである。」

(2)引用文献2に記載された技術事項
ア 上記(引2ア)より、「グリコース糖の濃度による影響が最も少ない」「第1の波長λ1を1525nm±25nmに設定し」た点が、上記(引2イ)より「血液中の蛋白質の濃度による影響が最も少ない」「第3の波長を1690nm±25nmに設定し」た点が、上記(引2エ)より、「ヘモグロビンの濃度が変化しても光の減衰度が変化しない第4の波長として1575nm±25nmを使用し」た点が、上記(引2エ)に「溶液の温度により吸光度が変化しない波長λ5の光を発生する第5の発光素子」が記載され、上記(引2カ)に「第5の波長を1442nm±25nmに設定し」た点が記載されていることから、この「1442nm±25nmに設定」された「第5の波長」は、「溶液の温度により吸光度が変化しない波長」であるといえる。

イ 上記(引2ウ)より引用文献2には、「水溶液としてヘモグロビンと蛋白質とグルコース糖とを含有したものを使用し」、「グルコース糖の濃度Cgの変化により吸光度が変化しない光の波長をλ1、アルブミンやグロブリンの蛋白質の濃度の変化により吸光度が変化しない波長をλ3、ヘモグロビンの濃度の変化により吸光度が変化しない波長をλ4と」し、「波長λ1の時のグルコース糖の吸光度の濃度係数をKg(λ1)と、波長λ3の時のグルコース糖の吸光度の濃度係数をKg(λ3)と、波長λ3の時のヘモグロビンの吸光度の濃度係数をKHb(λ3)と、波長λ3の時の蛋白の吸光度の濃度係数をKp(λ3)とし、また波長λ4の時のグルコース糖の吸光度の濃度係数をKg(λ4)と、波長λ4の時の蛋白の吸光度の濃度係数をKp(λ4)と、波長λ4の時のヘモグロビンの吸光度の濃度係数をKHb(λ4)とすると、波長λ1・波長λ3・波長λ4の吸光度は」、「グルコース糖の濃度Cgによって決まる部分と、アルブミンやグロブリンの蛋白質の濃度Cpによって決まる部分と、ヘモグロビンの濃度CHbによって決まる部分の和によって決定され」、「血糖値検出手段13」は、「第1の受光素子4・第3の受光素子10・第4の受光素子12から血糖値検出手段13に伝達され」る「情報から3つの成分Cg・Cp・CHbを求め」、「血液中の主成分であるグルコース糖の濃度、アルブミンやグロブリンの等の蛋白質の濃度、またヘモグロビンの濃度を演算する」実施例が記載されているから、引用文献2のこの実施例の、「グルコース糖の濃度」は、「グルコース糖の濃度Cgの変化により吸光度が変化しない光の波長」「λ1」、「アルブミンやグロブリンの蛋白質の濃度の変化により吸光度が変化しない波長」「λ3」及び「ヘモグロビンの濃度の変化により吸光度が変化しない波長」「λ4」を使用して、「アルブミンやグロブリンの等の蛋白質の濃度、またヘモグロビンの濃度を」考慮して演算される技術事項が記載されているといえる。

ウ 上記(引2エ)より引用文献2には、第4の実施例として、「グルコース糖の濃度が変化しても光の吸光度が変化しない波長λ1の光を発生する第1の発光素子」、「血清あるいは血漿中のアルブミンやグロブリンの蛋白質の濃度が変化しても光の吸光度が変化しない波長λ3の光を発生する第3の発光素子」、「溶液の温度により吸光度が変化しない波長λ5の光を発生する第5の発光素子」「それぞれの発光素子の光は、測定物3を透過してあるいは測定物3に反射されて第1の受光素子4、第3の受光素子10、第5の受光素子21に受光され」、「それぞれの受光素子の信号は、血糖値検出手段22に伝達され」、「血糖値検出手段22は、各受光素子の情報から血糖値を演算」する実施例が記載され、上記(引2オ)より「本実施例によれば、蛋白質とグルコース糖と温度の影響を受けないで正確に血糖値を計測できる血糖計を実現する」ことができることから、引用文献2には、「グルコース糖」の濃度を「グルコース糖の濃度が変化しても光の吸光度が変化しない波長λ1の光」、「血清あるいは血漿中のアルブミンやグロブリンの蛋白質の濃度が変化しても光の吸光度が変化しない波長λ3の光」及び「溶液の温度により吸光度が変化しない波長λ5の光」を使用して「蛋白質と」「温度の影響を受けないで正確に」「計測できる」旨記載されているといえる。

エ 上記ア?ウより、引用文献2には、以下の技術事項(以下「技術事項2」という。)が記載されているといえる。

「グルコース糖の濃度を、1525nm±25nmに設定したグリコース糖の濃度による影響が最も少ない第1の波長λ1の光、1690nm±25nmに設定した血液中の蛋白質の濃度による影響が最も少ない第3の波長λ3の光、1575nm±25nmに設定したヘモグロビンの濃度が変化しても光の減衰度が変化しない第4の波長λ4の光及び1442nm±25nmに設定した溶液の温度により吸光度が変化しない波長λ5の光を照射することにより得られた信号から、アルブミンやグロブリンの等の蛋白質の濃度、ヘモグロビンの濃度及び温度の影響を考慮して算出する方法。」

3 引用文献3について
(1)引用文献3に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献3には、図面とともに次の事項が記載されている。

(引3ア)「【0012】
本発明にかかる血糖値測定方法は、生体に近赤外光を照射して生体組織からの拡散反射光あるいは透過光を受光して得られた信号から生体組織中のグルコース濃度を測定するにあたり、グルコース成分の吸収ピーク波長である1600nmを中心とした±40nmの波長範囲から選択した第一の波長の近赤外光と、生体組織中の散乱係数変化の補正用として1400nmを中心とした±20nmの波長範囲から選択した第二の波長の2波長の近赤外光とを用いることに特徴を有している。
【0013】
脂肪成分の吸収が存在する1650nmから1850nmの波長範囲から選択した第三の波長の近赤外光を加えた3波長を用いることが好ましく、殊に、脂肪成分の吸収ピークである1725nmを中心とした±50nmの波長範囲から選択した第三の波長の近赤外光を加えた3波長を用いて生体組織中グルコース濃度を測定することが好ましい。
【0014】
水成分の影響を受ける1350nmから1390nmの波長範囲から選択した第四の波長の近赤外光を加えた4波長を用いて生体組織中グルコース濃度を測定することも好ましい。
【0015】
このほか、生じる外乱によっては1480nmから1520nmの波長範囲から選択した波長を第四の波長の近赤外光を加えた4波長を用いて生体組織中グルコース濃度を測定してもよい。もちろん、上記波長範囲から選択した5波長を用いて生体組織中グルコース濃度を測定してもよい。
【0016】
血糖値の算出用の演算式としては、グルコースの吸収スペクトル吸収ピーク波長である1600nmを中心とした±40nmの波長範囲から選択した第一の波長の信号から、生体組織中の散乱係数変化の補正用としての1400nmを中心とした±20nmの波長範囲から選択する第二の波長の信号を減算し、得られた値に係数をかけるものを好適に用いることができる。
【0017】
血糖値を算出する演算式として、グルコースの吸収スペクトル吸収ピーク波長である1600nmを中心とした±40nmの波長範囲から選択した第一の波長の信号から、生体組織中の散乱係数変化の補正用としての1400nmを中心とした±20nmの波長範囲から選択する第二の波長信号を減算し、得られた結果に対して、1650nmから1850nmの波長範囲から選択した第三の波長の信号を用いて脂肪成分の吸収変化に起因する外乱影響の補正を行ない、この補正後の値に係数をかけるものを用いてもよく、特に、血糖値を算出する演算式として、グルコースの吸収スペクトル吸収ピーク波長である1600nmを中心とした±40nmの波長範囲から選択した第一の波長の信号から、生体組織中の散乱係数変化の補正用としての1400nmを中心とした±20nmの波長範囲から選択する第二の波長信号を減算し、得られた結果に対して、脂肪の吸収スペクトルピークである1725nmを中心とした±50nmの波長範囲から選択した第三の波長の信号を用いて脂肪成分の吸収変化に起因する外乱影響の補正を行ない、補正後の値に係数をかけるものを好適に用いることができる。
【0018】
第三の波長もしくは第四の波長の信号の値として、変化を鈍らせた値を用いることも好ましい。ただし、1480nmから1520nmの波長範囲から選択した波長を用いる場合、この波長は発汗等の急峻な状態変化に対応することが目的であるために、生データあるいはその変化を損なわない範囲の処理を施した値を用いることが望ましい。
【0019】
そして本発明に係る血糖値測定装置は、上記測定方法を実施する血糖値測定装置であって、生体に近赤外光を照射する発光手段と生体組織からの拡散反射光あるいは透過光を受光する受光手段とを0.3mm以上2mm以下の受発光間隔で配置したセンシング手段を備えるとともに、生体に常時接触させた上記センシング手段の受光手段から断続的に得られた吸光度信号を基に血糖値を演算する演算手段と、基準とする時点からの血糖値の相対変化を経時的に表示する表示手段とを備えていることに特徴を有している。」

(引3イ)「【0052】
図8に示されるように、時間経過と共に脂肪成分の特異吸収波長である1725nm付近が特徴的に増加している。この脂肪吸収の変化と考えられる現象は皮膚組織内の脂肪濃度の増加とは考えにくいために、皮膚組織内を拡散する近赤外光の光路変化と考えることが合理的である。つまり、測定プローブと皮膚が接触するとその接触面は初期状態においては皮溝、皮丘により粗い状態にあるが、時間経過と共に接触により皮膚表面が平滑化され、皮膚表面における散乱係数が低下したためと考えられる。平滑化されたならば、近赤外光が皮膚組織内に入りやすくなり、脂肪を中心とした皮下組織まで到達する近赤外光が増加し、あたかも脂肪濃度が増加したようなスペクトル変化が生じることとなる。なお、この現象は測定プローブと皮膚組織との接触圧力が大きいと顕著となることから、接触圧力は10g重/cm^(2)以下とすることが好ましい。
【0053】
近赤外領域で観測される吸収スペクトルは、波長2.5μm以上の赤外領域における急峻な吸収ピークとは異なり、裾野が広がったなだらかな吸収ピークを持つ、そのため脂肪成分の吸光度が増加すると1725nmの脂肪吸収のピーク値だけでなく、その周辺の波長まで吸光度の増減が影響する。つまり、グルコース濃度の増減を検知している1600nmにおいても脂肪ピーク成長により見かけの吸光度増加が起こり、上記のような右上りの差分値となると考えられる。したがって、上記の差分値から脂肪成長分に相当する分を除去すれば精度よい推定が可能となる。
【0054】
脂肪成分成長の影響を除去する為に、ここでは1725nmの脂肪ピーク波長の吸光度を用いた。この時、脂肪ピーク波長においてもグルコース変動の影響を受ける為、脂肪ピーク成長の変化を鈍らせたトレンド的な値に加工して脂肪成長の指標にする方が精度よい推定が可能となる。脂肪ピーク成長の変化を鈍らせるには、5分毎に測定する1725nm吸光度の数点の移動平均値を利用したり、数点の吸光度に対する回帰式(1次回帰から数次回帰まで)を利用したりすることが考えられるが、ここでは測定開始時の1725nmの吸光度と1400nmの吸光度差を基準とし、その後5分毎に測定した1725nmの吸光度と1400nmの吸光度との差の変化分の総和を測定回数で割った値を用いた。また、ここでも0.00008A.U./(mg/dl)を用いて血糖値に換算した。下の式は血糖値定量に用いた換算式である
血糖値(mg/dl)=((1600nm吸光度‐1400nm吸光度)-0.5×(鈍らせた1725nm吸光度と1400nmの吸光度差の変化))/0.00008+定数
結果を図9に示す。なお、本例においては測定開始後15分の実測血糖値に近赤外光による予測血糖値が一致するように定数項を定めている。脂肪成分の吸収成長を除去することで、図から明らかなように、予測値に右上り傾向が生じる事象が解消され、相関係数0.95の精度のよい血糖値予測が可能となった。」

(引3ウ)「【0064】
水成分の影響を取除くには1350から1500nmの間の波長、特に1450nmの波長を用いることが有効であるが、1450nmは吸光度が高いために得られる測定信号が微弱であり、しかも温度影響や生体成分との相互作用の影響を受けやすい。このために信号が大きく且つ水成分の変化を反映しやすい波長範囲として1350nmから1390nmを選択することが好ましい。このために、脂肪成分成長の影響を除去することを目的として、脂肪成分の吸収として1726nmの吸光度を用い、加えて、水成分の影響を取除くために特に適している1360から1380nmの間の1373nmの吸光度を用いた。また、1373nmの吸光度についても、直接用いるのではなく、トレンド的な値に加工した上で用いることが好ましいと考えられる。このために、水成分の影響を除去するための演算処理としては、測定開始時の1373nmの吸光度と1398nmの吸光度との差を基準とし、その後5分毎に測定した1373nmの吸光度と1398nmの吸光度との差の変化を測定し、その総和を測定回数で割った値、つまりは鈍らせた値を用いた。脂肪成分の吸光度を鈍らせることについては前述の例と同じとした。また、吸光度は0.00006A.U./(mg/dl)を用いて血糖値に換算した。下の式は血糖値定量に用いた換算式である。
【0065】
血糖値(mg/dl)={(1598nm吸光度-1398nm吸光度)-0.7×(鈍らせた1726nm吸光度と1398nmの吸光度差の変化)+0.8×(鈍らせた1373nm吸光度と1398nmの吸光度差の変化)}/0.00006+定数
結果を図13に示す。なお、測定開始直後の実測血糖値を近赤外光による予測血糖値と一致するように定数項を定めている。用いた換算係数(0.00006A.U./(mg/dl))は皮膚組織を伝播する近赤外光の平均光路長に依存する値であり、測定部位の皮膚状態や測定光の中心波長、半値幅等により変動するものでこの値に限ったものではなく、被験者毎、装置毎に較正する必要がある。ただし、被験者間の差については測定部位を選べば個体差が比較的小さいので固定値として代用することは可能である。鈍らせた1725nm吸光度と1400nmの吸光度との差の変化等にかかる係数は実験的に求めた値であり、これに限定されるものではない。脂肪成分の吸収成長に加え水成分の影響を除去することで、予測値の右上り傾向が解消され、相関係数0.96の精度のよい血糖値予測が可能となった。」

(2)引用文献3に記載された技術事項
上記(引3ア)?(引3ウ)より、引用文献3には以下の技術事項(以下「技術事項3」という。)が記載されている。

「透過光を受光して得られた信号から生体組織中のグルコース濃度を測定するにあたり、
グルコース成分の吸収ピーク波長である1600nmを中心とした±40nmの波長範囲から選択した第一の波長の近赤外光と、
生体組織中の散乱係数変化の補正用として1400nmを中心とした±20nmの波長範囲から選択した第二の波長の2波長の近赤外光と、
脂肪成分の吸収が存在する1650nmから1850nmの波長範囲から選択した第三の波長の近赤外光と、
水成分の影響を受ける1350nmから1390nmの波長範囲から選択した第四の波長の近赤外光を加えた4波長を用い、
グルコースの吸収スペクトル吸収ピーク波長である1600nmを中心とした±40nmの波長範囲から選択した第一の波長の信号から、生体組織中の散乱係数変化の補正用としての1400nmを中心とした±20nmの波長範囲から選択する第二の波長信号を減算し、得られた結果に対して、1650nmから1850nmの波長範囲から選択した第三の波長の信号を用いて脂肪成分の吸収変化に起因する外乱影響の補正を行ない、
得られた結果に対して、脂肪の吸収スペクトルピークである1725nmを中心とした±50nmの波長範囲から選択した第三の波長の信号を用いて脂肪成分の吸収変化に起因する外乱影響の補正を行ない、
水成分の影響を取除くために特に適している1360から1380nmの間の1373nmの吸光度を用いる
生体組織中グルコース濃度の測定方法。」

4 引用文献4について
(1)引用文献4に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献4には、図面とともに次の事項が記載されている。

(引4ア)「【0039】
第1照射部11は、第1の波長の光を、計測対象である生体に照射する。本実施形態では、第1の波長の光として、グルコースの吸光度が極大となる波長である1600ナノメートルの波長の光を用いる。なお、第1の波長の光は、必ずしもグルコースの吸光度が極大となる波長でなくても良く、グルコースの吸光度が極大となる波長付近の波長である1600±70ナノメートルの波長の光を用いることができる。第1の波長の光として1600±70ナノメートルの波長の光を用いると、汎用の安価なレーザを使用してグルコース濃度を計測することが可能となり、好ましい。さらに、グルコースの吸光度がおおよそ極大となる波長である1600±30ナノメートルの波長の光を用いると、精度よくグルコース濃度を計測することが可能となり、より好ましい。さらに、グルコースの吸光度が極大となる波長である1600ナノメートルの波長の光を用いると、より高精度にグルコース濃度を計測することが可能となり、特に好ましい。なお、第1照射部11は、レーザダイオードドライバや半導体レーザなどにより実現される。また、パラメータ計測装置10には、第1照射部11と生体との角度や距離を調整する機構が設けられ、第1照射部11は、当該機構による調整値に応じて照射する光の強度を制御する。これにより、パラメータ計測装置10は、第1照射部11と生体との角度や距離によらずに一定の精度でグルコース濃度の計測を行うことができる。
【0040】
第2照射部12は、目的成分であるグルコースの吸光度が非目的成分である水の吸光度より小さい波長である第2の波長の光を、計測対象である生体に照射する。本実施形態では、第2の波長の光として、グルコースの吸光度が水の吸光度より小さく、かつ水の吸光度が極大となる波長である1450ナノメートルの光を用いる。なお、第2の波長の光は、必ずしも水の吸光度が極大となる波長でなくても良く、水の吸光度が極大となる波長付近の波長である1450±70ナノメートルの波長の光を用いることができる。第2の波長の光として1450±70ナノメートルの光を用いると、汎用の安価なレーザを使用してグルコース濃度を計測することが可能となり、好ましい。さらに、水の吸光度がおおよそ極大となる波長である1450±50ナノメートルの波長の光を用いると、精度よくグルコース濃度を計測することが可能となり、より好ましい。さらに、水の吸光度が極大となる波長である1450ナノメートルの波長の光を用いると、より高精度にグルコース濃度を計測することが可能となり、特に好ましい。なお、第2照射部12は、レーザダイオードドライバや半導体レーザなどにより実現される。
【0041】
受光部13は、第1照射部11が照射し、生体を透過した光を受光する。なお、受光部13は、第2照射部12が照射した光を受光しないよう、第2照射部12と対向しないように配置される。第1の実施形態では、第1照射部11及び第2照射部12は、第1照射部11が照射する光と第2照射部12が照射する光とが直交するように配置され、受光部13は、第1照射部11に対向して設けられる。なお、受光部13には、光電効果を有する硫化鉛(PbS)や、光起電力効果を有するインジウム・ガリウム・ヒ素(InGaAs)、その他の半導体検出器を用いることができる。
【0042】
第1測定部14は、第1照射部11のみが生体に光を照射したときに、受光部13が受光した光の強度(エネルギーの物理量)を測定する。
第2測定部15は、第1照射部11と第2照射部12とが同時に生体に光を照射したときに、受光部13が受光した光の強度を測定する。
【0043】
パラメータ算出部16は、第1測定部14が測定した光の強度と、第2測定部15が測定した光の強度と、所定の抑圧係数(補正係数)とに基づいて、生体におけるグルコースの濃度を算出する。ここで、抑圧係数とは、水に対して1600ナノメートルの波長の光を照射した場合における透過光の強度と、水に対して1600ナノメートルと1450ナノメートルの波長の光とを同時に照射した場合における1600ナノメートルの波長の透過光の強度の比である。なお、抑圧係数は、1600ナノメートルの波長の光及び1450ナノメートルの波長の光を水に照射する実験を行うことなどによって、予め算出されたものである。」

(2)引用文献4に記載された技術事項
上記(引4ア)より、引用文献4には、以下の技術事項(以下「技術事項4」という。)が記載されている。

「第1照射部11は、グルコースの吸光度が極大となる波長付近の波長である1600±70ナノメートルの第1の波長の光を、計測対象である生体に照射し、
第2照射部12は、目的成分であるグルコースの吸光度が非目的成分である水の吸光度より小さい波長であって水の吸光度が極大となる波長付近の波長である1450±70ナノメートルの第2の波長の光を、計測対象である生体に照射し、
第1測定部14は、第1照射部11のみが生体に光を照射したときに、受光部13が受光した光の強度を測定し、 第2測定部15は、第1照射部11と第2照射部12とが同時に生体に光を照射したときに、受光部13が受光した光の強度を測定し、 第1測定部14が測定した光の強度と、第2測定部15が測定した光の強度と、所定の抑圧係数(補正係数)とに基づいて、生体におけるグルコースの濃度を算出する方法。」

第5 対比・判断
1 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。
(1)引用発明における「被検体の前腕の皮膚」は、本願発明における「生体材料」に相当する。そして、引用発明の「光源モジュール12から」「発生され」る「590nm,650nm,750nm,800nm,900nmおよび950nmの波長の単色光」は、近赤外波長帯域の光であるから、引用発明の「光源モジュール12からは6種類の波長、すなわち590nm,650nm,750nm,800nm,900nmおよび950nmの波長の単色光が発生され、光源ファイバ26は、光源モジュール12内の光源端20にあるファイバ26の端部から光を受け取り、光源ファイバ26は、その他端から被検体の前腕の皮膚まで光を放出」することは、本願発明の「近赤外波長帯域の光学的放射による生体材料の、照射処理」に相当する。

(2)引用発明における「光収集地点にある皮膚から再放出された光」は、本願発明における「生体材料によって拡散性に反射された光学的放射」に相当する。そして、引用発明の「ファイバが皮膚に接触している地点、すなわち光収集地点にある皮膚から再放出された光を収集」することは、本願発明の「生体材料によって拡散性に反射された光学的放射を受け取ること」に相当する。

(3)上記(引1ア)より、引用発明の「検出器」は、「電荷結合デバイス(CCD)カメラ、皮膚に接触している一連の光ダイオード、一次元または二次元の光ダイオードアレイ、または他の適切な種類の」ものであり、引用発明の「光信号」は、この「検出器」で「撮像される」ことにより得られるものであるから、本願発明の「電気信号」に相当する。そして、引用発明は、「共通端24にある皮膚からの再放出光を受信し、検出器モジュール18の検出端22までその光を伝搬し、検出器は、ファイバからの光信号を検出する」ものであるから、引用発明の「検出器」は、「共通端24にある皮膚からの再放出光」を「光信号」に変換しているといえる。
そうすると、引用発明の「検出器」が「共通端24にある皮膚からの再放出光」を「光信号」に変換することは、本願発明の「受け取った光学的放射の、電気信号への変換」することに相当する。

(4)引用発明の「3つの波長それぞれの単一のサンプリング距離における反射率の測定から」「グルコース濃度を算出する方法」において、「グルコース濃度」は「3つの波長それぞれの単一のサンプリング距離における反射率の測定から」得られた「光信号」から「算出」されるものであって、「3つの波長それぞれの単一のサンプリング距離における反射率の測定から」得られた「光信号」及び「グルコース濃度」は、それぞれ、本願発明の「受け取った電気信号」及び「血中グルコース濃度」に相当するから、引用発明の「3つの波長それぞれの単一のサンプリング距離における反射率の測定から」「グルコース濃度を算出する」ことは、本願発明の「受け取った電気信号に基づく血中グルコース濃度の決定」に相当する。そして、引用発明の「グルコース濃度を算出する方法」は、「3つの波長それぞれの単一のサンプリング距離における反射率の測定から」「算出」されるのであるから非侵襲的な方法であるといえるから、引用発明の「3つの波長それぞれの単一のサンプリング距離における反射率の測定から」「グルコース濃度を算出する方法」は、本願発明の「血中グルコース濃度の非侵襲的な決定の方法」に相当する。

(5)引用発明の「グルコース濃度を算出する方法」における、「光源ファイバ26」「の他端から被検体の前腕の皮膚」への「光」の「放出」は、「各被験者について、6ヶ所のサンプリング距離で、かつ590nm,800nmおよび950nmの3つの波長で、100秒ごとに1セットの読取りを行って、反射率の測定を繰り返し実行」されるから、引用発明の「光源ファイバ26」「の他端から被検体の前腕の皮膚」への「光」の「放出」が、「各被験者について、6ヶ所のサンプリング距離で、かつ590nm,800nmおよび950nmの3つの波長で、100秒ごとに1セットの読取りを行って、反射率の測定を繰り返し実行」されることと、本願発明の「上記生体材料の照射処理が、第1の波長帯域950?970nmの光学的放射、第2の波長帯域1020?1060nmの光学的放射、第3の波長帯域930?950nmの光学的放射、第4の波長帯域740?760nmの光学的放射、及び、第5の波長帯域830?850nmの光学的放射を用いて、任意の順に交互に実施され」ることとは、「上記生体材料の照射処理が、複数の波長の光学的放射を用いて、任意の順に交互に実施され」ることで共通する。

(6)引用発明の「古典的な線形回帰を用いて、3つの波長それぞれの単一のサンプリング距離における反射率の測定から構成されたモデルと、参照グルコース濃度のフィット値とを相関させ、得られた線形モデル」は、「参照グルコース濃度」と「3つの波長それぞれの単一のサンプリング距離における反射率の測定」によって得られる「光信号」との間における、」実験的に得られる相関関係であるといえる。そして、引用発明の「参照グルコース濃度」及び「3つの波長それぞれの単一のサンプリング距離における反射率の測定」によって得られる「光信号」は、本願発明の「上記グルコース濃度」及び「受け取った電気信号の集合」に相当する。
そうすると、引用発明の「古典的な線形回帰を用いて、3つの波長それぞれの単一のサンプリング距離における反射率の測定から構成されたモデルと、参照グルコース濃度のフィット値とを相関させ、得られた線形モデルを用いてグルコース濃度を算出する方法」と、本願発明の「上記グルコース濃度と、値U_(SUM)=U_(2)+U_(3)+U_(5)-U_(1)(к_(12)+к_(13)+к_(15))-U_(4)(к_(42)+к_(43)+к_(45))を有している、受け取った電気信号の集合との間における、実験的に得られる校正相関関係を用いて実施され」る「血中グルコース濃度の決定」とは、「上記グルコース濃度と、受け取った電気信号の集合との間における、実験的に得られる相関関係を用いて実施され」る点で共通する。

(7)以上、(1)?(6)より、本願発明と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「 近赤外波長帯域の光学的放射による生体材料の、照射処理、
生体材料によって拡散性に反射された光学的放射を受け取ること、
受け取った光学的放射の、電気信号への変換、及び
受け取った電気信号に基づく血中グルコース濃度の決定を含んでいる、
血中グルコース濃度の非侵襲的な決定の方法であって、
上記生体材料の照射処理が、複数の波長の光学的放射を用いて、任意の順に交互に実施され、
血中グルコース濃度の決定が、受け取った電気信号の集合との間における、実験的に得られる校正相関関係を用いて実施される、方法。」

(相違点)上記生体材料の照射処理における光学的放射の複数の波長及び血中グルコース濃度の決定が、本願発明は、上記生体材料の照射処理における光学的放射の複数の波長が、「950?970nmの」「第1の波長帯域」、「1020?1060nmの」「第2の波長帯域」、「930?950nmの」「第3の波長帯域」、「740?760nmの」「第4の波長帯域」及び「830?850nmの」「第5の波長帯域」であり、血中グルコース濃度の決定が、「上記グルコース濃度と、値U_(SUM)=U_(2)+U_(3)+U_(5)-U_(1)(к_(12)+к_(13)+к_(15))-U_(4)(к_(42)+к_(43)+к_(45))を有している、受け取った電気信号の集合との間における、実験的に得られる校正相関関係を用いて実施され、U_(1)、U_(2)、U_(3)、U_(4)、U_(5)は、それぞれ、光学的放射の上記第1、第2、第3、第4及び第5の帯域による上記生体材料の照射処理のときに受け取った電気信号の値であり;к_(12)、к_(13)、к_(15)は、式к_(12)=К_(w2)S_(2)/К_(w1)/S_(1)、к_(13)=К_(w3)S_(3)/К_(w1)/S_(1)、к_(15)=К_(w5)S_(5)/К_(w1)/S_(1)に従って計算されるファクタであり、К_(w1)、К_(w2)、К_(w3)、К_(w5)は、それぞれ、第1、第2、第3及び第5の波長帯域における水の吸収度ファクタの平均値であり、S_(1)、S_(2)、S_(3)、S_(5)は、それぞれ、第1、第2、第3及び第5の波長帯域における光学的放射のレシーバの有している相対分光感度の平均値であり、к_(42)、к_(43)、к_(45)は、式к_(42)=К_(M2)S_(2)/К_(M4)/S_(4)、к_(43)=К_(M3)S_(3)/К_(M4)/S_(4)、к_(45)=К_(M5)S_(5)/К_(M4)/S_(4)に従って計算されるファクタであり、К_(M2)、К_(M3)、К_(M4)、К_(M5)は、それぞれ、第2、第3、第4及び第5の波長帯域におけるメラニンの吸収ファクタの平均値であり、S_(2)、S_(3)、S_(4)、S_(5)は、それぞれ、第2、第3、第4及び第5の波長帯域における光学的放射のレシーバの有している相対分光感度の平均値である」のに対し、引用発明は、「光源ファイバ26」「の他端から被検体の前腕の皮膚まで」「放出」される「光」の波長が、「590nm,800nmおよび950nmの3つの波長」であり、「グルコース濃度」の「算出」が、「古典的な線形回帰を用いて、3つの波長それぞれの単一のサンプリング距離における反射率の測定から構成されたモデルと、参照グルコース濃度のフィット値とを相関させ、得られた線形モデルを用いて」いる点。

2 相違点についての判断
(1)本願発明の「血中グルコース濃度の決定が、上記グルコース濃度と、値U_(SUM)=U_(2)+U_(3)+U_(5)-U_(1)(к_(12)+к_(13)+к_(15))-U_(4)(к_(42)+к_(43)+к_(45))を有している、受け取った電気信号の集合との間における、実験的に得られる校正相関関係を用いて実施され」、「к_(12)、к_(13)、к_(15)は、式к_(12)=К_(w2)S_(2)/К_(w1)/S_(1)、к_(13)=К_(w3)S_(3)/К_(w1)/S_(1)、к_(15)=К_(w5)S_(5)/К_(w1)/S_(1)に従って計算されるファクタであり、К_(w1)、К_(w2)、К_(w3)、К_(w5)は、それぞれ、第1、第2、第3及び第5の波長帯域における水の吸収度ファクタの平均値であり」、「к_(42)、к_(43)、к_(45)は、式к_(42)=К_(M2)S_(2)/К_(M4)/S_(4)、к_(43)=К_(M3)S_(3)/К_(M4)/S_(4)、к_(45)=К_(M5)S_(5)/К_(M4)/S_(4)に従って計算されるファクタであり、К_(M2)、К_(M3)、К_(M4)、К_(M5)は、それぞれ、第2、第3、第4及び第5の波長帯域におけるメラニンの吸収ファクタの平均値であ」ることから、「値U_(SUM)=U_(2)+U_(3)+U_(5)-U_(1)(к_(12)+к_(13)+к_(15))-U_(4)(к_(42)+к_(43)+к_(45))」の「U_(1)(к_(12)+к_(13)+к_(15))」は、水の吸収を校正する項であり、「U_(4)(к_(42)+к_(43)+к_(45))」は、メラニンの吸収を校正する項であるといえる。そして、「U_(1)」及び「U_(4)」は、それぞれ、「上記第1」及び「第4」「の帯域による上記生体材料の照射処理のときに受け取った電気信号の値」であるから、本願発明の「950?970nmの」「第1の波長帯域」の「光学的放射」は水の吸収を、また、「740?760nmの」「第4の波長帯域」の「光学的放射」はメラニンの吸収を、それぞれ校正するためのものであるといえる。

(2)(引1ア)より、引用文献1には、「吸収情報には」、「メラニン」「等の組織構成物質の吸収、および水」「の過剰な吸収がある」旨記載されているが、これらの吸収を、どの波長帯域の光を使いどのように校正するかに関し何ら記載されていないから、本願発明は、引用発明及び引用文献1に記載された発明より当業者が容易に想到できたものであるとはいえない。

(3)また、技術事項2?4は、複数の波長帯域の近赤外光を照射することによりグルコース濃度を算出するものであるが、照射する近赤外光は、いずれも1300nm以上の帯域の近赤外光であって、引用発明の「590nm,650nm,750nm,800nm,900nmおよび950nmの波長」からなる波長帯域とは、異なる波長帯域を使用するものである。そして、溶液中のいろいろな成分の濃度の吸光度がどのようなに関係となるかは、波長帯域によって異なるものであるから、引用発明に引用発明とは異なる波長帯域を使用した技術事項2?4を適用することは困難であるといわざるを得ない。
よって、引用発明に技術事項2?4を適用することができないから、当業者といえども、引用発明及び技術的事項2?4から、相違点に係る構成を容易に想到することはできない。
仮に、引用発明に技術事項2?4を適用することができたとしても、特定の波長で水の吸収を校正する点は、技術事項3及び4に含まれているものの、水の吸収を校正する波長帯域は、技術事項3は1350nmから1390nmの波長範囲から選択された波長であり、技術事項4は、1450ナノメートルの波長の光であって、「950?970nmの」「第1の波長帯域」の光で校正するものではない。さらに、特定の波長でメラニンの吸収を校正する点は技術事項2?4に含まれていない。
そうすると、引用発明に技術事項2?4を適用できたとしても、相違点に係る構成を、当業者といえども、容易に想到することはできない。

(4)加えて、分光分析によって所定の物質の含有量を求める際に、他の物質が混在している場合には、複数の波長における吸光度を調べることにより、当該他の物質の影響を除外できる場合があることは、技術常識であるが、物質によっては吸光度が強い波長帯域は一つではなく、また、特定の吸光度の強い波長帯域を選択できたとしても、その波長帯域を使うことにより必ず当該他の物質の影響を除外できるとはいえないから、引用発明において血中グルコース濃度の決定する際に、水及びメラニンの影響を除去するために、どの波長帯域の光の電気信号をどのよう使用すれば良いかは、当業者であっても、容易に想到できるものであるとはいえない。
また、技術事項2?4において照射される近赤外光は、いずれも1300nm以上の波長帯域の近赤外光であるのに対し、引用発明において照射される近赤外光は、「590nm,650nm,750nm,800nm,900nmおよび950nmの波長」からなる波長帯域の近赤外光であるから、技術事項2?4は、引用発明とは異なる波長帯域を使用するものであって、溶液中のいろいろな成分の吸光度同士が、どのようなに関係となるかは、波長帯域によって異なるものであるから、引用発明に技術事項2?4を適用することが困難であることは、上記2(3)で検討したとおりであるが、技術事項2ないし4における、「(a)ある波長における吸光度は、混在する複数の物質による吸光度の和であると仮定して、複数の波長における測定結果に基づいて連立方程式を立て、それを解き所望の物質の濃度を求めること。」「(b)吸光度を調べる複数の波長として、混在する各物質の吸光度が極大を有する波長を選択すること。」という技術事項を引用発明に適用できるとした場合、本願明細書の【図2】に見られるように、メラニンは、700nm?1180nmの波長帯域において、吸光度が極大を有する波長は存在しないから、引用発明において、どの波長を選択すれば良いのか理解できないから、引用発明に上記技術事項を適用した場合においても、当業者といえども、相違点に係る構成を容易に想到することはできないといえる。

(本願明細書の【図2】)「



(5)小括
したがって、本願発明は、当業者であっても、引用発明及び技術的事項2?4に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、当業者が引用発明及び技術的事項2?4に基づいて容易に発明をすることができたものではない。したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2020-09-23 
出願番号 特願2017-551987(P2017-551987)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (A61B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 佐藤 秀樹  
特許庁審判長 三崎 仁
特許庁審判官 ▲高▼見 重雄
福島 浩司
発明の名称 血中グルコース濃度を非侵襲的に決定する方法  
代理人 特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK  

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