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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N |
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管理番号 | 1366666 |
審判番号 | 不服2019-89 |
総通号数 | 251 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-11-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-01-07 |
確定日 | 2020-09-24 |
事件の表示 | 特願2017- 32171「ウイルス様粒子の精製」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 5月25日出願公開、特開2017- 86090〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成20年3月14日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2007年3月14日 米国)を国際出願日とする特願2009-553820号の一部を、特許法第44条第1項の規定により平成25年5月29日に新たな特許出願として分割した特願2013-112580号の一部を、さらに同項の規定により平成29年2月23日に新たな特許出願として分割したものである。 以降の手続は次のとおりである。 平成29年 3月24日 手続補正書 平成29年 9月14日 手続補正書 平成29年12月18日付け 拒絶理由通知書 平成30年 3月22日 意見書 平成30年 3月26日 手続補足書 平成30年 8月31日付け 拒絶査定 平成31年 1月 7日 審判請求書・手続補正書 平成31年 2月14日 手続補正書(方式) 第2 平成31年1月7日付け手続補正についての補正却下の決定 [結論] 平成31年1月7日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1.本件補正 本件補正は、平成29年9月14日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に、 (補正前)「【請求項1】 ノロウイルスのウイルス様粒子(VLP)の精製方法であって、 前記VLPを含む溶液を少なくとも2つのクロマトグラフィー材料(但し、ヒドロキシアパタイトを除く。)と接触させる工程を含み、少なくとも1つのクロマトグラフィー材料が疎水性相互作用材料であり、少なくとも1つのクロマトグラフィー材料はイオン交換材料である、方法。」とあったものを、 (補正後)「【請求項1】 ノロウイルス遺伝子群IIのウイルス様粒子(VLP)の精製方法であって、 前記VLPを含む溶液を少なくとも2つのクロマトグラフィー材料(但し、ヒドロキシアパタイトを除く。)と接触させる工程を含み、少なくとも1つのクロマトグラフィー材料がメチル-疎水性相互作用材料であり、少なくとも1つのクロマトグラフィー材料はイオン交換材料である、方法。」とする補正事項を含むものである。なお、下線は補正された事項である。 2.目的要件について 上記補正事項によって、補正前の請求項1に記載されていた「ノロウイルスのウイルス様粒子」について、補正後の請求項1では「ノロウイルス遺伝子群IIのウイルス様粒子」に補正され、補正前の請求項1に記載されていた「疎水性相互作用材料」について、補正後の請求項1では「メチル-疎水性相互作用材料」に補正された。 上記の補正後の請求項1に関する補正は、補正前の請求項1に係る発明を限定しており、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当すると認められる。 そこで、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、「補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。 3.独立特許要件について (1)引用例 ア 引用例1 拒絶査定において引用文献1として引用された国際公開第2004/020971号(以下、「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、英語で記載されているから当審による翻訳を記載する。また、下線は当審で付与したものであり、引用例2以降も同様である。 (ア-1)「宿主細胞のタンパク質と同様に、BSA及び培地由来の他のタンパク質等、アデノウイルスの製造のための方法において生じる不純物は、アデノウイルスの調合物を医療への応用において用いることができるように、アデノウイルスの調合物から取り除かれなくてはならない。本発明より前には、イオン交換クロマトグラフィーを用いる医療グレードのアデノウイルスの精製のため、1段階のクロマトグラフィー精製の方法が存在していた(米国特許第6194191号参照)。本発明は、既存の精製方法を補完する方法を提供し、また、クロマトグラフィー媒体がアデノウイルスの調合物からの不純物を結合し、及び、又は、取り除く、第2のクロマトグラフィー精製工程を設けることによって、高レベルの精製を提供する。この第2のクロマトグラフィー工程は、タンパク質の精製のために通常用いられるあらゆるクロマトグラフィー技術を用いることができる。」(第4頁第5行?第16行) (ア-2)「本発明のひとつの実施態様は、アデノウイルスの調合物に対して第1のクロマトグラフィー媒体上でクロマトグラフィーを行う工程であって、その工程によって、アデノウイルスの調合物からのアデノウイルス粒子が第1のクロマトグラフィー媒体上に保持される工程;アデノウイルス粒子の溶出物を生成するために第1のクロマトグラフィー媒体からアデノウイルス粒子を溶出する工程;その溶出物からのアデノウイルス粒子に対して第2のクロマトグラフィー媒体上でクロマトグラフィーを行う工程であって、その工程において、第2のクロマトグラフィー材料が溶出物からの1以上の不純物を保持し、かつ、第2のクロマトグラフィー媒体が単なるサイズ排除媒体ではない工程;溶出物からアデノウイルス粒子を収集する工程からなる、アデノウイルスの調合物からアデノウイルス粒子を用意する方法を示す。・・・(途中省略)・・・ 本発明のこの実施態様に用いられる第1のクロマトグラフィー媒体は、好ましくは、陰イオン交換媒体、陽イオン交換媒体、固定化金属アフィニティー媒体、硫酸化アフィニティー媒体、イムノアフィニティー媒体、ヘパリンアフィニティー媒体、及び、疎水性相互作用媒体からなる群から選択される。・・・(途中省略)・・・ 本発明のこの実施態様に用いられる第2のクロマトグラフィー媒体は、陰イオン交換媒体、陽イオン交換媒体、固定化金属アフィニティー媒体、硫酸化アフィニティー媒体、イムノアフィニティー媒体、ヘパリンアフィニティー媒体、ヒドロキシアパタイト媒体、及び、疎水性相互作用媒体からなる群から選択される。」(第5頁第12行?第6頁第16行) (ア-3)「H.ウイルス感染 本発明は、ひとつの例として、治療上の意義のあるベクターを生産するために、細胞のアデノウイルス感染を用いる。典型的に、そのウイルスは生理的条件の下で適切な宿主細胞に単に晒されることによって、ウイルスの取込が可能となる。アデノウイルスが例示されているものの、以下で論じるとおり、本方法は、他のウイルスベクターに対して有利に用いてもよい。」(第82頁第8行?第14行) (ア-4)「特許請求の範囲 1.以下の工程からなる、アデノウイルスの調合物からアデノウイルス粒子を用意する方法: (a)アデノウイルスの調合物に対して第1のクロマトグラフィー媒体上でクロマトグラフィーを行う工程であって、その工程によって、アデノウイルスの調合物からのアデノウイルス粒子が第1のクロマトグラフィー媒体上に保持される工程; (b)アデノウイルス粒子の溶出物を生成するために第1のクロマトグラフィー媒体からアデノウイルス粒子を溶出する工程; (c)その溶出物からのアデノウイルス粒子に対して第2のクロマトグラフィー媒体上でクロマトグラフィーを行う工程であって、その工程において、第2のクロマトグラフィー材料が溶出物からの1以上の不純物を保持し、かつ、第2のクロマトグラフィー媒体が単なるサイズ排除媒体ではない工程; (d)溶出物からアデノウイルス粒子を収集する工程 2.第1のクロマトグラフィー媒体は、陰イオン交換媒体、陽イオン交換媒体、固定化金属アフィニティー媒体、硫酸化アフィニティー媒体、イムノアフィニティー媒体、ヘパリンアフィニティー媒体、ヒドロキシアパタイト媒体、及び、疎水性相互作用媒体からなる群から選択される、請求項1の方法。 ・・・・ 5.第2のクロマトグラフィー媒体は、陽イオン交換媒体、陽イオン交換媒体、固定化金属アフィニティー媒体、硫酸化アフィニティー媒体、ダイアフィニティー媒体、ヒドロキシアパタイト媒体、イムノアフィニティー媒体、ヘパリンアフィニティー媒体、及び、疎水性相互作用媒体からなる群から選択される、請求項1の方法。」 イ 引用例2 拒絶査定において引用文献2として引用された国際公開第2006/136566号(以下、「引用例2」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、英語で記載されているから当審による翻訳を記載する。 (イ-1)「発明の技術分野 本発明はタンパク質精製の分野に関する。組換えにより発現された自己組織化ウイルス様粒子(VLP)を細菌ホモジネートから調製精製するためのプロセスを提供する。このプロセスは、商業生産規模まで拡大でき、エンドトキシン汚染及びVLP調製物に由来する他の宿主細胞由来の不純物の効率的な除去を可能にする。 発明の背景 最近のワクチン接種戦略は、ウイルスまたはウイルス様粒子(VLP)の免疫原性を利用して、抗原に対する免疫応答を強化する。例えば、WO02/056905は、高度に秩序立った反復抗原アレイでそれに結合した抗原を提示するため担体としてのVLPの有用性を実証している。そのような抗原アレイは、自己抗原を含む抗原に対して強力な免疫応答、特に抗体応答を引き起こす可能性がある。さらに、VLPは免疫刺激物質の送達手段として疾患の治療に有用であることが示されている(WO2003/024481)。したがって、VLPは、自己特異的免疫応答の効率的な誘導のためだけでなく、感染症およびアレルギーの治療のための医薬品の製造に有用であり、例えば、癌、関節リウマチおよび他の様々な疾患の治療に有用である。VLPベースの医薬品の製造には、VLPの発現の精製のための効率的なプロセスが必要である。」(第1頁第2?第21行) (イ-2)「本発明の要約 本発明のひとつの実施態様は、VLPを発現する組換えの細菌宿主由来のVLPを精製する方法であって、その方法は、好ましくはヒドロキシアパタイト材料または陰イオン交換材料である第1のクロマトグラフィー材料を用いる第1のクロマトグラフィー、好ましくはヒドロキシアパタイト材料である第2のクロマトグラフィー材料を用いる第2のクロマトグラフィー、及び、場合によっては最終精製工程であって、“仕上げ工程”とも呼ばれ、好ましくは少なくともひとつの第3のクロマトグラフィーがサイズ排除クロマトグラフィーである第3のクロマトグラフィーを含む。驚くべきことに、その第1及び第2のクロマトグラフィーが高い精製度のVLP調合物を提供し、特に、非常に効果的なエンドトキシンの除去を提供し、本方法の拡張性が維持された。」(第3頁第9行?第19行) (イ-3)「更なる実施態様において、当該VLPは、(a)RNAバクテリオファージ、(b)バクテリオファージ、(c)B型肝炎ウイルス、好ましくはそのカプシドタンパク質(Ulrich等、Virus Res.50:141-182(1998年))またはその表面タンパク質(WO 92/11291)、(d)麻疹ウイルス(Warnes等、Gene 160:173-178(1995年))、(e)シンドビスウイルス、(f)ロタウイルス(US 5071651及びUS 5374426)、(g)口蹄疫ウイルス(Twomey等、Vaccine 13:1603 1610、(1995年))、(h)ノーウォークウイルス(Jiang、X.等、Science 250:1580 1583(1990年);Matsui、S.M.等J.Clin.Invest.87:1456 1461(1991年))、(i)アルファウイルス、(j)レトロウイルス、好ましくはそのGAGタンパク質(WO 96/30523)、(k)レトロ・トランスポゾンTy、好ましくはタンパク質p1、(l)ヒトパピローマウイルス(WO 98/15631)、(m)ポリオーマウイルス、(n)タバコモザイク病ウイルス、(o)フロックハウスウイルス、(p)ササゲモザイクウイルス(CPMV)、(q)ササゲ退縁斑紋ウイルス(CCMV)、及び、ソベモウイルス属のウイルスからなる群から選択されたウイルスの組換えタンパク質、変異体または断片を含むか、または、それらから本質的になるものである。」(第12頁第21行?第32行) ウ 引用例3 拒絶査定において周知技術を示す引用文献3として引用された特開2003-066021号公報(以下、「引用例3」という。)には、以下の事項が記載されている。 (ウ-1)「【0002】 【従来の技術】溶液中に含まれる複数の溶質を分離して溶液の組成を調べたり、特定成分の分離精製物を生産する手段としてクロマトグラフィー装置が用いられており、その目的に応じて、溶液の組成の分析に用いられるものは分析用クロマトグラフィー装置、特定成分の生産のための装置は分取クロマトグラフィー装置と呼ばれている。 【0003】クロマトグラフィー装置は、溶質を固定する固定相と溶質を移動させる移動相より構成され、固定相にはシリカゲル、セルロース、イオン交換樹脂、特異的吸着体その他が用いられている。固定相が円柱状のガラス、金属ないし樹脂製容器に充填された場合、それぞれシリカゲルカラム、セルロースカラム、イオン交換樹脂カラム、アフィニティカラムと呼ばれ、これらのカラムを用いる装置を、例えばカラムがシリカゲルカラムの場合、シリカゲルカラムクロマトグラフィー装置と称されている。 【0004】一方、移動相は液体ないし気体であり(移動相の種類により、液体クロマトグラフィーないしガスクロマトグラフィーと呼ばれる)、移動相を一定の方向でカラムに流すと、溶質はカラム中で固定相と移動相への移行を繰り返しながら流れて移動する。溶質の固定相と移動相への親和性は、溶質の物性により特有のものであり、溶質の固定相に滞留する時間と、移動相にある時間は、物質によって異なるので、混合成分は分離され、カラムから溶出される。 【0005】溶質の固定相の親和性は、移動相の性質、即ち、親水性、疎水性、pH、イオン強度、温度によって変化するので、特定の条件を設定することにより、混合物液中の特定の溶質を選択的に固定相に吸着させたり、選択的に固定相より移動相に移行させたりすることができる。以上がクロマトグラフィー装置による分離と分取の原理である。」 エ 引用例4 拒絶査定において周知技術を示す引用文献4として引用されたChapter 4 分離精製法,無敵のバイオテクニカルシリーズ タンパク質実験ノート 上 抽出と分離精製,株式会社羊土社,1998年,pp.71-76 (以下、「引用例4」という。)には、以下の事項が記載されている。 (エ-1)「2.精製の進め方 ・・・・すべてのタンパク質は分子量,電荷(等電点),疎水性,生理活性,化学的結合性などにおいて互いに異なる.多くのクロマトグラフィーは,分子量の差を利用してタンパク質分子を分離するゲル濾過クロマトグラフィー(分子ふるいクロマトグラフィー)と,タンパク質のカラム担体への吸着力の差を利用する吸着クロマトグラフィーに分けられる.後者のうち,イオン交換クロマトグラフィーは電荷の差、疎水性クロマトグラフィーは疎水性の差,アフィニティークロマトグラフィーは特定の物質に対する結合性(反応性)を利用してタンパク質を分離する.SDSアクリルアミドゲル電気泳動法(SDS-PAGE)や二次元電気泳動法も利用できる。各分離手段の特徴と研究の目的を考慮して,精製法を組み立てる必要がある。目的タンパク質の等電点(pI),分子量,吸着性,pH安定性,特定物質に対する親和性などの性質があらかじめわかっていれば精製方法を組み立てるのに多いに役立つ.」(73頁) (エ-2)「タンパク質を活性をもったままで分離する場合には,アフィニティクロマトグラフィー,イオン交換クロマトグラフィー,ゲル濾過法,疎水性クロマトグラフィーなど,分離原理が異なる方法をうまく組み合わせて精製することになる.」(74頁11?14行) オ 引用例5 拒絶査定において周知技術を示す引用文献5として引用された特開平3-243861号公報(以下、「引用例5」という。)には、以下の事項が記載されている。 (オ-1)「一般に、移動相の粘性は温度が低い程高くなるので、カラム温度が低い程分析カラムにかかる圧力が高くなる。そのため、液体クロマトグラフの運転を開始し、カラム温度が設定温度に達する前に分析条件の一定流量で移動相を送液すると、送液圧力が分析中の圧力よりも高くなる。そのため、耐圧性の低い充填剤を用いた分析カラムでは、分析カラムが劣化するか、上記のカラム充填剤を保護する安全機構が備えられているときは、安全機構が働いて運転が停止してしまう。」(第1頁右下欄第14行?第2頁左上欄第3行) カ 引用例6 拒絶査定において周知技術を示す引用文献6として引用された第2章タンパク質精製法4.カラムクロマトグラフィーによる精製,実験医学別冊タンパク質実験ハンドブック分離・精製、質量分析、抗体作製、分子間相互作用解析などの基本原理と最新プロトコール総集編!,株式会社羊土社,2006年,pp.32-46 (以下、「引用例6」という。)には、以下の事項が記載されている。 (カ-1)「第2章 タンパク質精製法 4.カラムクロマトグラフィーによる精製 I)イオン交換クロマトグラフィー 濱口有知子 この方法で何が解決できるか イオン交換クロマトグラフィーは,タンパク質がもつ個々の総電荷(±,およびその大小)の違いを利用し,目的のタンパク質を反対の荷電基をもつ担体に静電的に結合させ,分離,精製する方法である. はじめに イオン交換クロマトグラフィー(ion-exchange chromatography)は,大量のサンプルを一度にカラムにかけることが可能で,一般的に分離能も高いため,タンパク質精製の早い段階で用いられることが多い.ただし,イオン交換体とタンパク質間の吸着はバッファーのpHとイオン強度に大きく依存する.したがって,イオン交換クロマトグラフィーでタンパク質を効率的に分離するためには,あらかじめ,バッファーの種類やpHなど,目的タンパク質とカラムに吸着させる条件と,溶出するための塩濃度などの条件をきちんと把握しておく必要がある^(*).」(第32頁) (カ-2)「第2章 タンパク質精製法 4.カラムクロマトグラフィーによる精製 III)疎水性クロマトグラフィー 朴 宣奏 この方法で何が解決できるか 疎水性クロマトグラフィーは,タンパク質の疎水性の違いに基づいて分離精製を行う方法であり,精製手法として単独で,またタンパク質の分子量や電荷の違いによるほかのクロマトグラフィーと組み合わせることで,高い精製効率が達成できる.一般的に担体への吸着が高塩濃度の条件下で行われるため,硫安沈殿やイオン交換クロマトグラフィーの後の精製方法に適する.また,精製はタンパク質の生体活性を維持した温和な条件で行えることが特徴である. はじめに 膜結合タンパク質,グロブリン,硫安飽和の低い範囲で沈殿するタンパク質など,低い塩濃度で強く吸着するタンパク質は,一般的に水溶性が低く,イオン系のカラムだけで分離することは容易ではない.また,精製中の試料が高い塩濃度の溶液中で添加されている場合,透析や希釈により塩濃度を下げることなく,試料をあらかじめ高塩で平衡化した疎水性カラムに吸着させた後,濃度勾配で塩濃度を下げることで効率よく分離させることができる.実際に塩析沈殿やイオン交換クロマトグラフィーの次のステップとしてもよく使われている. 原理 疎水性クロマトグラフィー(hydrophobic chromatography)は,充填剤の疎水性基とタンパク質の疎水性部位に生じる疎水結合が,タンパク質種により異なることを利用したものである.通常,硫安アンモニウムのような塩析(本章3参照)効果の大きい塩を1?2M程度添加したバッファーを初期溶離液とし,タンパク質を吸着させた後,塩濃度を下げてタンパク質を選択的に脱離させ分離する(図1).このような条件ではタンパク質は一般的に変化せずに分離されるため,逆相クロマトグラフィーに比較しての優位性が認められている. 疎水性相互作用は高い塩濃度以外に,高い温度によっても強められ,塩能動や温度を下げること,有機溶媒の存在,界面活性剤の存在,pHを増加させることで分離できる. 疎水性クロマトグラフィーの吸着体としては,短い脂肪族鎖(C4?C8)やベンジル(フェニル)基からなる物が最もよく用いられている. イオン交換体より挙動において変化しやすく,その相互作用の性質のため,分解能は一般的にイオン交換クロマトグラフィーよりよくない.」(第44頁全体) キ 引用例7 拒絶査定において周知技術を示す引用文献7として引用された特表2002-516341号公報(以下、「引用例7」という。)には、以下の事項が記載されている。 (キ-1)「1つのクロマトグラフィーの配置(configuration)において、2以上の分離媒体を使用することが好ましい。従って、組み合わせた分離効果を得るために、異なる分離媒体の層を充填することができる。同種の媒体を選択することができるだけでなく、非常に異なるもの、例えば、アニオン交換体と疎水性相互作用クロマトグラフィー用媒体、又は異なる強度を有する2つのアニオン交換体、又は吸着材料とゲル浸透クロマトグラフィー用材料を使用することもできる。しかし、材料の好ましくない混合が発生しないよう、かつ、使用される緩衝液が全ての使用される分離材料に適していることに注意するべきである。」(段落【0010】) ク 引用例8 拒絶査定において周知技術を示す引用文献8として引用された特開2001-261574号公報(以下、「引用例8」という。)には、以下の事項が記載されている。 (ク-1)「【請求項3】血漿または血漿画分から得られるプロトロンビンを、トロンビンに活性化した後、および適切な場合はさらなる処理工程の後、疎水性相互作用クロマトグラフィーにより精製することからなるトロンビン製剤の製造方法 ・・・(途中省略)・・・ 【請求項6】上記疎水性相互作用クロマトグラフィーの前または後に、さらに陽イオン交換クロマトグラフィーをも行う請求項3?5のいずれかに記載の方法。」(特許請求の範囲) (ク-2)「【0012】トロンビンを精製するために疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)を単独でまたは陽イオン交換クロマトグラフィー(CEC)と組み合わせて用いるならば、これによって効果的かつ簡単な精製が達成される。さらに、これら二つのクロマトグラフィーの順序が望ましい。クロマトグラフィーを最初に疎水性支持体を用いて行うならば、トロンビン溶離物を直接に陽イオン交換体に結合させ、塩勾配を用いてそれから溶離することができる。これら二つの分離原理の組み合わせは、二つの精製工程にわたり約70%を越える良好な収率で高純度のトロンビン製剤をもたらす。これによって、活性化または未活性化の凝固因子のような副生成物、および凝固試験で殆どまたは全く活性を示さないトロンビン形態(例えばプロトロンビン、β-トロンビン、γ-トロンビン、または他のトロンビンまたはプロトロンビン断片)の良好な除去が同時に達成される。上記の二つのクロマトグラフィーの組み合わせは、イオン交換クロマトグラフィー方法を単独で用いた場合よりも高い純度をもたらす。」 ケ 引用例9 拒絶査定において周知技術を示す引用文献9として引用された特表2005-524092号公報(以下、「引用例9」という。)には、以下の事項が記載されている。 (ケ-1)「【請求項2】 宿主細胞タンパク質を含む混合物から標的タンパク質を精製するための方法であって、該混合物を以下に供する工程: (a)第一の非アフィニティ精製工程、および (b)第二の非アフィニティ精製工程、続いて (c)高速接線流濾過(HPTFF)、ならびに (d)100ppm未満の該宿主細胞タンパク質を含む純度で該タンパク質を単離する工程、 を包含し、ここで、該方法はアフィニティ精製工程を含まない、方法。 【請求項3】 前記第一および第二の非アフィニティ精製工程が異なり、かつイオン交換クロマトグラフィーおよび疎水性相互作用クロマトグラフィーからなる群より選択される、請求項2に記載の方法。」(【特許請求の範囲】) (ケ-2)「特定の実施形態において、第1および第2の非アフィニティクロマトグラフィー精製手順は異なっており、イオン交換クロマトグラフィーおよび疎水性相互作用クロマトグラフィーからなる群より選択される。例えば、イオン交換クロマトグラフィーの工程はカチオン交換クロマトグラフィー、アニオン交換クロマトグラフィー、および/または混合モードのイオン交換クロマトグラフィーであり得る。好ましい実施形態において、第1の非アフィニティ精製手順はイオンクロマトグラフィーおよびアニオンクロマトグラフィーである。そして第2の非アフィニティ精製手順は、カチオンクロマトグラフィーおよびアニオンクロマトグラフィーである。さらに別の1つの好ましい実施形態において、本発明の方法は、他の精製手順は排除して、2つの非アフィニティクロマトグラフィーの精製工程、その後のHPTFFおよび単離工程から成る。」(段落【0014】) コ 引用例10 周知技術の存在を明示するために本審決において新たに引用する 高橋信二「ノロウイルス感染症」日本食生活学会誌,2006年,17巻,1号,p.2-5(以下、「引用例10」という。)には、以下の事項が記載されている。 (コ-1)「はじめに ノロウイルスは、1968年に米国オハイオ州ノーウォークの小学校でおきた集団急性胃腸炎の原因ウイルスとして1972年になってKapikianら^(1))によって発見された。現在Caliciviridae(科)、Norovirus(属)、Norwalk virus(種)に分類されているが、この分類が確定する以前にはノーウォーク様ウイルスとよばれていた。」(第2頁左欄第1行?第7行) (コ-2)「増幅したRNAの塩基配列に基づいてノロウイルスを遺伝子群(genogroup)GIとGIIに大別することができ、原因食の推定など疫学指標に用いられている^(9))。原因ウイルスの遺伝子群はGIIが多いが、一つの集団発生事例でGIとGIIが共に検出される事例も少なくない^(10))。」(第3頁右欄第12?第17行) サ 引用例11 周知技術の存在を明示するために本審決において新たに引用する 特開平9-325142号公報(以下、「引用例11」という。)には、以下の事項が記載されている。 (サ-1)「【0042】本発明の精製方法においてHICに用いるカラム充填剤としては、その主たる成分が、エーテル基、アリール基、短鎖長アルキル基から選ばれる少なくとも一種のリガンドがマトリックスに化学結合した化合物であるカラム充填剤を好ましく挙げることができる。エーテル基として具体的には、オリゴエチレングリコール、アリール基として具体的には、フェニル基、ベンジル基等が挙げられる。また、短鎖長アルキル基として具体的には、炭素数1?10のアルキル基を、好ましくは炭素数1?5、より好ましくは炭素数1?4のアルキル基を挙げることができる。」 シ 引用例12 周知技術の存在を明示するために本審決において新たに引用する 特開2005-239719号公報(以下、「引用例12」という。)には、以下の事項が記載されている。 (シ-1)「【0063】 疎水性クロマトグラフィーは、通常は比較的に高い塩濃度で固定相の疎水性官能基(リガンド)と相互作用するタンパク質の非極性表面領域を含む。固定相としての疎水性ゲルは、合成重合体、シリカ、例えばSepharoseのような生体高分子であり、その表面は官能基としての疎水性リガンドにより修飾されている。疎水性リガンドは、好ましくは、直鎖状または分枝状であってよい1?24個を超える炭素原子(C)を有するアルキル基、または芳香族リガンドである。可能な例は、C1(メチル)、C3(プロピル)、C4(ブチル)、C5(ペンチル)、C6(ヘキシル)およびC8(オクチル)基、特に好ましくはプロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシルまたはオクチル基である。アルキル基は、例えばチオプロピルのように誘導体化されていてもよい。フェニル基、または例えばフェニルアニリンのようなフェニル誘導体を含む芳香族化合物も、好ましく用いられる。フェニル基は、例えばアルキル鎖に結合されていてもよい。例えばピリジル基またはその誘導体を用いることも可能である。疎水性材料は当業者に広く知られており、そして例えば会社Amersham、Bio-Rad、Biosepra、Merck、Preseptive Biosystems、Pharmacia、PrometicおよびToso Haasから市販されている。固定相として特に好ましいものは、例えば、Macro Prep Methyl HIC Support(Bio-Rad)、Fractogel EMD Propyl 650(Merck)、Fractogel EMD Butyl 650(Merck)、Fractogel TSK Butyl 650(Merck)、Macro Prep t Butyl HIC Support(Bio-Rad)、ButylCellufine(Amicon)、Butyl Sepharose 4 Fast Flow(Pharmacia)、ButylS-Sepharose 6 Fast Flow(Prototyp,Pharmacia)、HIC-Fractogel Pentyl(Merck)、Hexyl S-Sepharose 6 Fast Flow(Prototyp, Pharmacia)、Octyl Sepharose CL 4B(Pharmacia)、Fractogel HW 65 Propyltentakel(Merck)、Fractogel HW 65 Butyltentakel(Merck)、Fractogel TA 650(Merck)、Phenyl Sepharose High Performance(Pharmacia)、PhenylSepharoseFastFlow(Pharmacia)、Phenylalanin Sepharose(Pharmacia)、Thiopropyl Sepharose 6B(Pharmacia)またはPyridyl S-Sepharose 6 Fast Flow(Pharmacia)である。」 (2)引用発明 上記(ア-2)、(ア-4)より、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「アデノウイルスの調合物からアデノウイルス粒子を精製する方法であって、 アデノウイルスの調合物に対して第1のクロマトグラフィー媒体上でクロマトグラフィーを行う工程であって、その工程によって、アデノウイルスの調合物からのアデノウイルス粒子が第1のクロマトグラフィー媒体上に保持される工程; アデノウイルス粒子の溶出物を生成するために第1のクロマトグラフィー媒体からアデノウイルス粒子を溶出する工程; その溶出物からのアデノウイルス粒子に対して第2のクロマトグラフィー媒体上でクロマトグラフィーを行う工程であって、その工程において、第2のクロマトグラフィー材料が溶出物からの1以上の不純物を保持し、かつ、第2のクロマトグラフィー媒体が単なるサイズ排除媒体ではない工程; 溶出物からアデノウイルス粒子を収集する工程からなり、 第1のクロマトグラフィー媒体は、陰イオン交換媒体、陽イオン交換媒体、固定化金属アフィニティー媒体、硫酸化アフィニティー媒体、イムノアフィニティー媒体、ヘパリンアフィニティー媒体、及び、疎水性相互作用媒体からなる群から選択され、 第2のクロマトグラフィー媒体は、陰イオン交換媒体、陽イオン交換媒体、固定化金属アフィニティー媒体、硫酸化アフィニティー媒体、イムノアフィニティー媒体、ヘパリンアフィニティー媒体、ヒドロキシアパタイト媒体、及び、疎水性相互作用媒体からなる群から選択される、上記方法。」 (3)対比 補正発明と引用発明とを対比する。 引用発明では「アデノウイルス粒子の調合物」に対してクロマトグラフィーを行うところ、クロマトグラフィー精製を行う場合にサンプルは溶液であることが必要だから、「調合物」は「溶液」の状態であると認められる。また、引用発明の「クロマトグラフィー媒体」は補正発明の「クロマトグラフィー材料」に相当し、引用発明の「アデノウイルス粒子」は補正発明の「ウイスル様粒子(VLP)」と「ウイルス由来粒子」である点で共通するといえる。 したがって、両者は、 「ウイルス由来粒子の精製方法であって、 前記ウイルス由来粒子を含む溶液を少なくとも2つのクロマトグラフィー材料と接触させる工程を含む、方法。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点1) 2つのクロマトグラフィー材料について、補正発明では「少なくとも1つのクロマトグラフィー材料がメチル-疎水性相互作用材料であり、少なくとも1つのクロマトグラフィー材料はイオン交換材料である」と特定され、「(但し、ヒドロキシアパタイトを除く)」とされているのに対して、引用発明では、第1のクロマトグラフィー材料が、陰イオン交換媒体、陽イオン交換媒体、固定化金属アフィニティー媒体、硫酸化アフィニティー媒体、イムノアフィニティー媒体、ヘパリンアフィニティー媒体、及び、疎水性相互作用媒体からなる群から選択され、第2のクロマトグラフィー材料が、陰イオン交換媒体、陽イオン交換媒体、固定化金属アフィニティー媒体、硫酸化アフィニティー媒体、イムノアフィニティー媒体、ヘパリンアフィニティー媒体、ヒドロキシアパタイト媒体、及び、疎水性相互作用媒体からなる群から選択される点。 (相違点2) 精製するウイルス由来粒子が、補正発明は「ノロウイルス遺伝子群IIのウイルス様粒子」であるのに対して、引用発明では「アデノウイルス粒子」である点。 (4)当審の判断 ア 相違点1について イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーなどの各種クロマトグラフィーはそれぞれ物質を分離する機序が異なることが技術常識であるところ、クロマトグラフィーにより物質を単離するにあたって、異なる機序に基づくクロマトグラフィーを組み合わせて使用することも、上記引用例4(エ-2)に「タンパク質を活性をもったままで分離する場合には,アフィニティクロマトグラフィー,イオン交換クロマトグラフィー,ゲル濾過法,疎水性クロマトグラフィーなど,分離原理が異なる方法をうまく組み合わせて精製することになる.」と記載されているように、技術常識である。 そうすると、引用発明においても、各種のクロマトグラフィー媒体の分離特性を生かして精製度を向上させるため、2つの異なるクロマトグラフィー媒体が選択されると考えられるところ、引用例7?9に記載されるように、イオン交換クロマトグラフィーと疎水性相互クロマトグラフィーを組み合わせることも広く知られているから、2つのクロマトグラフィー媒体の組合せとして「イオン交換材料/疎水性相互作用材料」の組合せなどを選択することは当業者が容易になし得ることであり、疎水性相互クロマトグラフィーの媒体としてメチル基のような短鎖アルキル基を有するものは、引用例11、12に記載されるように周知であるから、メチル-疎水性相互作用材料を特定することも当業者が適宜なし得ることである。 そして、「イオン交換材料/メチルー疎水性相互作用材料」の組み合わせを選択した場合、ヒドロキシアパタイトを使用しない態様となることは明らかである。 したがって、相違点1は当業者が容易になし得ることである。 イ 相違点2について 引用例1(ア-1)より、引用発明はアデノウイルス粒子を治療に用いるために精製するものと認められるが、(ア-3)には、治療に用いる他のウイルス粒子に対しても引用発明の方法を用いることが示されていることから、当業者であれば引用発明の精製方法を用いて他のウイルス粒子を精製できることが理解される。 一方、本願明細書の段落【0040】には「ノロウイルスの非制限的な例には、ノーウォークウイルス(NV、GenBank M87661、NP056821)」と記載されており、また、引用例10(コ-1)より、「ノーウォークウイルス」は「ノロウイルス」に相当すると認められるところ、引用例2にはノーウォークウイルスのVLP(ウイルス様粒子)を治療に使用することが示されており、治療用ウイルスをクロマトグラフィーで精製することについても示されている。 そうすると、治療用ウイルス粒子のクロマトグラフィーを用いた精製方法である引用発明における精製するものとしてアデノウイルス粒子に替えてノロウイルスのVLPを特定することは、当業者が容易になし得ることである。 また、引用例10(コ-2)にも記載されるように、ノロウイルス感染症を引き起こすノロウイルスに遺伝子群Iと遺伝子群IIとがあることも周知であるから、精製するノロウイルスをノロウイルス遺伝子群IIに特定することも当業者が適宜なし得ることである。 したがって、相違点2も当業者が容易になし得るものである。 ウ 補正発明の効果について 本願明細書の段落【0039】には「本発明は、ノロウイルスVLPおよびサポウイルスVLPを含む、カリシウイルスのウイルス様粒子(VLP)を精製するための方法に関する。」と記載され、段落【0068】には、各種のクロマトグラフィー材料が使用できることが記載されており、段落【0098】には「加えて、本発明者らにより、陽イオン交換クロマトグラフィーを行い、その後メチルHICを行うことが、ヒューストンウイルスの精製にとりわけ適していることが見出された。」と記載され、実施例2には「陽イオン交換 SP FF樹脂」と「メチルHIC樹脂」を用い、表2に示される精製プロトコールでヒューストンウイルス(遺伝子群IIのノロウイルスと認める。)のVPLを精製し、図14?19に示される結果が得られたことが記載されていると認められ、ここで、「陽イオン交換 SP FF樹脂」、「メチルHIC樹脂」はそれぞれ特定の商品であると認められる。 しかし、実施例2の結果が他のクロマトグラフィーを用いた精製よりも優れていることを示す具体的な比較例等はないから、実施例2の記載から補正発明に特定される2つのカラムによる精製が「ノロウイルス遺伝子群IIのウイルス様粒子」の精製にとりわけ適しているとは認められない。 また、引用例3?7にも記載されるように、クロマトグラフィーを用いた精製において、クロマトグラフィー材料の選択だけでなく、溶離液や緩衝液の種類、温度、pH、圧力、カラムの大きさや形状等、様々な条件を最適化しなければ効率的な精製が行えないことが本願優先日において技術常識であったと認められるところ、補正発明は2つのクロマトグラフィー材料の大まかな種類を特定するのみで、イオン交換材料の陰イオン交換、陽イオン交換の種類さえ特定されておらず、また、表2に示される精製プロトコールについても具体的に特定されていない。さらに、「陽イオン交換 SP FF樹脂」、「メチルHIC樹脂」は何らかの具体的な特徴を有していることが推認され、そのような特徴を単にイオン交換材料、メチル-疎水性相互作用材料と呼ばれるものが必ず備えているはいえない。 そうすると、仮に実施例2の結果が格別な効果であったとしても、それを補正発明全体の効果とすることはできない。 以上のとおり、補正発明において、引用例1、2の記載から予測できない効果が奏されたとは認められない。 エ まとめ 補正発明は、引用例1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 (5)審判請求人の主張 審判請求人は、審判請求書において、本願発明の引用例1及び2に対する進歩性について次の主張をしている。 ア 「引用文献1及び2以外の他の引用文献も、メチルHICを、精製のクロマトグラフィー材料の一つとして用いることは開示がなく、ましてや、メチルHICとイオン交換材料の組み合わせによるクロマトグラフィーをウイルスVLPの精製に用いることはいずれの文献も全く開示も示唆もしていません。」 イ 「引用文献2は、多段階クロマトグラフィーによって精製可能な多数のVLPのリストのうちの一つとしてノーウォークウイルスVLPを開示するものの、ノロウイルスVLPの実際の精製についての開示や示唆はありません。」 ウ 「本願明細書中実施例には、ノロウイルス遺伝子群IとIIとの間でさえ、最適な精製方法が異なることが開示されています(実施例1及び2)。そして、本願明細書中実施例2及び図14?18等(例えば図16)には、本願発明1の方法が、ノロウイルス遺伝子群IIのVLPの精製において、優れた精製能を有することが明示されています。 さらに、引用文献1に、ウイルスの精製において疎水性相互クロマトグラフィーと、染料親和性クロマトグラフィーの組み合わせが高効率であることが実験結果と共に示されている点にも鑑みれば、本願発明1の方法において、ノロウイルス遺伝子群IIのVLPの高度な精製が可能になることは、たとえ当業者であっても予測し得ない顕著な効果であると確信いたします。」 主張アについて 上記(4)で述べたとおり、治療用ウイルス粒子の精製度向上のためにイオン交換クロマトグラフィーと疎水性相互クロマトグラフィーを組み合わせることは慣用技術であり、疎水性相互クロマトグラフィーの媒体としてメチル基のような短鎖アルキル基を有するものは、引用例11、12に記載されるように周知であるから、引用発明においてメチルHICの使用を特定することは当業者が適宜なし得ることである。 主張イについて 引用例1、2の記載に接した当業者であれば、引用例1に記載された精製方法を用いて他のウイルス由来粒子を精製できることを理解し、治療に用いられるノロウイルスのVLPを引用例1に記載された精製方法で精製することを容易に想到するといえる。 主張ウについて 審判請求人は、実施例2に示される方法がノロウイルス遺伝子群IIの最適な精製方法であり、ノロウイルス遺伝子群IIのVLPの高度な精製が可能という顕著な効果を有することを主張していると認められるが、上記(4)で述べたとおり、実施例2の記載から補正発明に特定される2つのカラムによる精製が「ノロウイルス遺伝子群IIのウイルス様粒子」の精製にとりわけ適しているとは認められない。 審判請求人が「引用文献1の実施例に示されているとおり、アデノウイルスという同一のウイルスの精製を複数の異なる方法で行った場合でも、異なる結果が得られ、好適な精製方法があるのですから、少なくとも、引用文献1の記載から、ウイルスの精製において最適な精製方法を選択するためには、ウイルス毎の試行錯誤を要することが十分に理解できるものです。このことから他のウイルスや、他のタイプのウイルス抗原についても、任意の精製方法を自由に組み合わせて最適な精製に想到することは過度の試行錯誤を要し、格別の技術的困難性があったことが十分に理解できるものと思料いたします。」と述べるとおり、クロマトグラフィーによる精製は、イオン交換材料の種類のほか、クロマトグラフィー材料以外にも様々な精製条件が結果に影響を与えるといえるから、仮に実施例2の結果が格別な効果であったとしても、それを補正発明全体の効果とすることはできない。 したがって、審判請求人の主張はいずれも採用できない。 (6)小括 以上のとおり、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではなく、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合しないから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 第3 本願発明について 1.本願発明 本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?18に係る発明は、平成29年9月14日の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?18に記載の事項により特定される発明であると認める。 2.原査定の理由 原査定の理由は、本願の請求項1?18に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、下記の引用例に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。 (引用例) 1.国際公開第2004/020971号 2.国際公開第2006/136566号 3.特開2003-066021号公報(周知技術を示す文献) 4.Chapter 4 分離精製法,無敵のバイオテクニカルシリーズタンパク質実験ノート上抽出と分離精製,株式会社羊土社,1998年,pp.71-76(周知技術を示す文献) 5.特開平3-243861号公報(周知技術を示す文献) 6.第2章タンパク質精製法 4.カラムクロマトグラフィーによる精製,実験医学別冊タンパク質実験ハンドブック分離・精製、質量分析、抗体作製、分子間相互作用解析などの基本原理と最新プロトコール総集編!,株式会社羊土社,2006年,pp.32-46(周知技術を示す文献) 7.特表2002-516341号公報(周知技術を示す文献) 8.特開2001-261574号公報(周知技術を示す文献) 9.特表2005-524092号公報(周知技術を示す文献) 3.当審の判断 本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2の1.に(補正前)として記載したものであり、補正発明は本願発明の「ノロウイルス」を「ノロウイルス遺伝子群II」に、「疎水性相互作用材料」を「メチル-疎水性相互材料」に、それぞれ限定したものである。 そして、第2の3.で述べたとおり、補正発明は引用例1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由から、引用例1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 第4 むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるであるから、他の請求項に係る発明について言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
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審理終結日 | 2020-04-30 |
結審通知日 | 2020-05-01 |
審決日 | 2020-05-12 |
出願番号 | 特願2017-32171(P2017-32171) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(C12N)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 白井 美香保、鈴木 優志 |
特許庁審判長 |
長井 啓子 |
特許庁審判官 |
山本 晋也 中島 庸子 |
発明の名称 | ウイルス様粒子の精製 |
代理人 | 大貫 敏史 |
代理人 | 内藤 和彦 |
代理人 | 稲葉 良幸 |
代理人 | 江口 昭彦 |