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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G03F
管理番号 1366718
審判番号 不服2020-764  
総通号数 251 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-01-20 
確定日 2020-10-20 
事件の表示 特願2018-169128「感光性樹脂組成物、有機EL素子隔壁、及び有機EL素子」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 3月19日出願公開、特開2020- 42150、請求項の数(11)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 1 手続の経緯
本願は平成30年9月10日の出願であって、令和元年6月4日に手続補正がなされ、同年6月13日付けで拒絶理由が通知され、同年7月17日に意見書の提出とともに手続補正がなされ、同月24日付けで拒絶理由が通知され、同年9月26日に意見書が提出され、同年11月20日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し、令和2年1月20日に拒絶査定不服審判の請求と同時に手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。

2 原査定の概要
原査定の拒絶理由の概要は、本願の本件補正前の請求項1、2、4及び6?14に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
なお、拒絶理由に引用された引用文献は以下のとおりであり、引用文献1が主引用発明が記載された文献として引用され、引用文献3及び引用文献4が、副引用文献又は周知技術を示す文献として引用されている。

引用文献1:国際公開第2013/085004号
引用文献3:国際公開第2017/069172号
引用文献4:特開2017-78799号公報

3 本件発明
本願の請求項1?11に係る発明(以下、「本件発明1」?「本件発明11」という。)は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定される、次のとおりの発明である。
「 【請求項1】
(A)バインダー樹脂、
(B)モル体積が130cm^(3)/mol以下であり、芳香族カルボン酸及び複数のフェノール性水酸基を有する化合物からなる群より選択される、少なくとも1種の有機低分子化合物、
(C)感放射線化合物、及び
(D)黒色染料及び黒色顔料からなる群より選択される着色剤
を含む、有機EL素子隔壁用感光性樹脂組成物であって、前記バインダー樹脂(A)が、エポキシ基及びフェノール性水酸基を有するアルカリ水溶液可溶性樹脂(c)を含み、前記感光性樹脂組成物の硬化被膜の光学濃度(OD値)が膜厚1μmあたり0.5以上であり、前記有機低分子化合物(B)が、7.5?10のpKaを有する複数のフェノール性水酸基を有する化合物である有機EL素子隔壁用感光性樹脂組成物。
【請求項2】
前記有機低分子化合物(B)の芳香環を構成する炭素原子にカルボキシ基及びフェノール性水酸基以外の基が結合していない、請求項1に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項3】
前記複数のフェノール性水酸基を有する化合物が、カテコール、レゾルシノール、ヒドロキノン、1,2,4-ベンゼントリオール、ピロガロール及びフロログルシノールからなる群より選択される芳香族ポリオールである、請求項1又は2のいずれかに記載の感光性樹脂組成物。
【請求項4】
前記バインダー樹脂(A)、前記有機低分子化合物(B)、前記感放射線化合物(C)及び前記着色剤(D)の合計100質量部を基準として、0.1質量部?20質量部の前記有機低分子化合物(B)を含む、請求項1?3のいずれか一項に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項5】
前記感放射線化合物(C)が、キノンジアジド化合物、スルホニウム塩、ホスホニウム塩、ジアゾニウム塩、及びヨードニウム塩からなる群より選択される少なくとも1種の光酸発生剤である、請求項1?4のいずれか一項に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項6】
前記バインダー樹脂(A)がアルカリ可溶性官能基を有する、請求項1?5のいずれか一項に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項7】
前記バインダー樹脂(A)、前記有機低分子化合物(B)、前記感放射線化合物(C)及び前記着色剤(D)の合計100質量部を基準として、1質量部?70質量部の前記着色剤(D)を含む、請求項1?6のいずれか一項に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項8】
前記バインダー樹脂(A)、前記有機低分子化合物(B)、前記感放射線化合物(C)及び前記着色剤(D)の合計100質量部を基準として、5質量部?50質量部の前記感放射線化合物(C)としての光酸発生剤を含む、請求項1?7のいずれか一項に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項9】
前記バインダー樹脂(A)が、
(a)式(1)
【化1】

(式(1)において、R^(1)、R^(2)及びR^(3)は、それぞれ独立して水素原子、炭素原子数1?5のアルキル基、式(2)
【化2】

(式(2)において、R^(6)、R^(7)、R^(8)、R^(9)及びR^(10)は、それぞれ独立して水素原子、炭素原子数1?5のアルキル基、炭素原子数5?10のシクロアルキル基又は炭素原子数6?12のアリール基であり、式(2)の*は、芳香環を構成する炭素原子との結合部を表す。)で表されるアルケニル基、炭素原子数1?2のアルコキシ基又は水酸基であり、かつR^(1)、R^(2)及びR^(3)の少なくとも1つは式(2)で表されるアルケニル基であり、Qは式-CR^(4)R^(5)-で表されるアルキレン基、炭素原子数5?10のシクロアルキレン基、芳香環を有する2価の有機基、脂環式縮合環を有する2価の有機基又はこれらを組み合わせた2価基であり、R^(4)及びR^(5)は、それぞれ独立して水素原子、炭素原子数1?5のアルキル基、炭素原子数2?6のアルケニル基、炭素原子数5?10のシクロアルキル基又は炭素原子数6?12のアリール基である。)
の構造単位を有するポリアルケニルフェノール樹脂、及び
(d)アルカリ可溶性官能基を有する重合性単量体とその他の重合性単量体のアルカリ水溶液可溶性共重合体
からなる群より選択される少なくとも1種をさらに含有する、請求項1?8のいずれか一項に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1?9のいずれか一項に記載の感光性樹脂組成物の硬化物を含む有機EL素子隔壁。
【請求項11】
請求項1?9のいずれか一項に記載の感光性樹脂組成物の硬化物を含む有機EL素子。」

4 引用文献の記載事項及び引用文献に記載された発明
(1)引用文献1の記載事項
原査定の拒絶理由に主引用発明が記載された文献として引用され、本願出願前の2013年(平成25年)6月13日に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載された国際公開第2013/085004号(以下、「引用文献1」という。)には、以下の記載事項がある。なお、合議体が発明の認定等に用いた箇所に下線を付した。

ア 「技術分野
[0001] 本発明は、例えば、電子部品の絶縁材料、並びに半導体装置におけるパッシベーション膜、バッファーコート膜及び層間絶縁膜等のレリーフパターンの形成に用いられる感光性樹脂組成物、それを用いた硬化レリーフパターンの製造方法、並びに半導体装置及び表示体装置に関するものである。

(中略)

[0009] したがって、本発明は、十分なアルカリ溶解性を有し、300℃以下の温度での硬化が可能であり、硬化膜の伸度に優れ、厚膜(約10μm)でのパターン形成が可能であり、硬化時の残膜率が高く、かつ硬化レリーフパターンの形状が良好である感光性樹脂、該感光性樹脂を用いてパターンを形成する硬化レリーフパターンの形成方法、並びに該硬化レリーフパターンを有する半導体装置及び表示体装置を提供することを課題とする。
課題を解決するための手段
[0010] 本発明者は、上記した従来技術の問題に鑑みて、鋭意検討し実験を重ねた結果、特定の2種類の繰り返し単位構造を含む共重合体、または前記特定の繰り返し単位構造からなる樹脂を含む樹脂混合物と、光酸発生剤と、を含む感光性樹脂組成物を用いることにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を為すに至った。すなわち、本発明は以下の通りである。
[0011][1]
(A-1)下記一般式(1)で表される構造を含む樹脂及び(B)光酸発生剤を含む感光性樹脂組成物。
[化1]

{式(1)中、Xは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数2?20のアルコキシカルボニル基、炭素数2?20のアルコキシカルボニルメチル基、炭素数2?20のアルコキシアルキル基、少なくとも1つの炭素数1?10のアルキル基で置換されたシリル基、テトラヒドロピラニル基、及びテトラヒドロフラニル基から成る群より選ばれる1価の基であり、m_(1)は、それぞれ独立に、1?3の整数であり、m_(2)は、それぞれ独立に、0?2の整数であり、2≦(m_(1)+m_(2))≦4であり、m_(3)及びm_(4)は、それぞれ独立に、0?4の整数であり、n_(1)及びn_(2)は、それぞれ独立に、1?500の整数であり、n_(1)/(n_(1)+n_(2))は、m_(1)が2又は3の場合は0.05?0.95の範囲であり、m_(1)が1の場合は、0.35?0.95であり、R_(1)は、それぞれ独立に、炭素数1?10の炭化水素基、炭素数1?10のアルコキシ基、ニトロ基、シアノ基、及び下記一般式(5)又は(6)で表される基から成る群から選ばれる1価の基であり、m_(2)が2である場合には、複数のR_(1)は、それぞれ同一であるか、又は異なっていてよく、R_(2)?R_(5)は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1?10の1価の脂肪族基、又は水素原子の一部若しくは全部がフッ素原子で置換されている炭素数1?10の1価の脂肪族基であり、R_(6)及びR_(7)は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、水酸基又は1価の有機基であり、m_(3)が2?4の整数である場合には、複数のR_(6)は、それぞれ同一であるか、又は異なっていてよく、m_(4)が2?4の整数である場合には、複数のR_(7)は、それぞれ同一であるか、又は異なっていてよく、Yは、下記一般式(3)又は(4)で表される2価の有機基であり、Wは、単結合、炭素数1?10の鎖状脂肪族基、水素原子の一部又は全部がフッ素原子で置換されている炭素数1?10の鎖状脂肪族基、炭素数3?20の脂環式基、水素原子の一部又は全部がフッ素原子で置換されている炭素数3?20の脂環式基、繰り返し単位数1?20のアルキレンオキシド基、及び下記一般式(2):
[化2]

で表される基から成る群より選ばれる2価の基であり、そしてポリマーの構造は、ランダムであってもブロックであってもよい。}
-CR_(8)R_(9)- (3)
(式(3)中、R_(8)及びR_(9)は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1?11の1価の有機基もしくはカルボキシル基、スルホン酸基及びフェノール性水酸基を含む基である。)
[化3]

{式(4)中、R_(11)?R_(14)は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1?10の1価の脂肪族基、又は水素原子の一部若しくは全部がフッ素原子で置換されて成る炭素数1?10の1価の脂肪族基であり、m_(5)は、1?4の整数であり、m_(5)が1である場合には、R_(10)は、水酸基、カルボキシル基、又はスルホン酸基であり、そしてm_(5)が2?4の整数である場合には、少なくとも1つのR_(10)は水酸基であり、残りのR_(10)はハロゲン原子、水酸基、1価の有機基、カルボキシル基、又はスルホン酸基であり、そして全てのR_(10)は、同一であるか、又は異なっていてよい。}
[化4]

{式(5)中、R_(15)は、水酸基、炭素数1?12の脂肪族基、炭素数3?12の脂環式基、炭素数6?18の芳香族基、-NH_(2)、-NH-R_(19)、-N(R_(19))_(2)、及び-O-R_(19)で表される基から成る群より選ばれる1価の基である(ただし、R_(19)は、炭素数1?12の脂肪族基、炭素数3?12の脂環式基、又は炭素数6?18の芳香族基から選ばれる1価の基である。)。}
[化5]

{式(6)中、R_(16)及びR_(17)’は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1?12の脂肪族基、炭素数3?12の脂環式基、及び炭素数6?18の芳香族基から成る群より選ばれる1価の基であり、そしてR_(16)とR_(17)’で環を形成していてもよい。}

(中略)

発明の効果
[0037] 本発明により、十分なアルカリ溶解性を有し、300℃以下の温度での硬化が可能であり、硬化膜の伸度に優れ、厚膜(約10μm)でのパターン形成が可能であり、硬化時の残膜率が高く、かつ硬化レリーフパターンの形状が良好である感光性樹脂組成物、並びに該感光性樹脂組成物を用いて製造された硬化レリーフパターンを含む半導体装置及び表示体装置を提供することができる。」

イ 「発明を実施するための形態
[0039] 以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、「実施の形態」と略記する。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
[0040]<感光性樹脂組成物>
実施の形態では、感光性樹脂組成物は、(A-1)樹脂又は(A-2)樹脂混合物、(B)光酸発生剤、所望により(C)架橋剤、所望により(D)熱酸発生剤、及び所望により、その他の成分を含む。感光性樹脂組成物を構成する各成分について以下で詳細に説明する。なお、本明細書を通じ、一般式において同一符号で表されている構造は、分子中に複数存在する場合には、それぞれ同一であるか、又は異なっていてもよい。
[0041][(A-1)樹脂]
実施の形態では、(A-1)樹脂は、下記一般式(1)で表される構造を有する樹脂である。

(中略)

[0094] 典型的には、(A-1)樹脂又は(A-2)樹脂混合物を構成する樹脂は、フェノール化合物と重合成分とを重合反応させることによって合成できる。具体的には、重合成分としては、メチロール基を分子内に2個有する化合物、アルコキシメチル基を分子内に2個有する化合物、ハロアルキル基を分子内に2個有する化合物、及びアルデヒド基を有する化合物から成る群から選ばれる1種類以上の化合物を含むものが挙げられ、より典型的には、重合成分としては、これらの少なくとも1つから成る成分が好ましい。例えば、フェノール化合物と、メチロール基を分子内に2個有する化合物、アルコキシメチル基を分子内に2個有する化合物、ハロアルキル基を分子内に2個有する化合物、及びアルデヒド基を有する化合物から成る群から選ばれる1種類以上の化合物とを重合反応させることにより、(A-1)フェノール樹脂は得られることができる。反応制御、並びに得られた(A-1)フェノール樹脂及び感光性樹脂組成物の安定性の観点から、フェノール化合物と上記重合成分との好ましい仕込みモル比としては、5:1?1.01:1、より好ましいモル比としては、2.5:1?1.1:1である。
[0095] 実施の形態では、(A-1)樹脂又は(A-2)樹脂混合物を構成する樹脂の合成に用いられるフェノール化合物について説明する。フェノール化合物としては、一価?三価のフェノールが挙げられ、二価フェノール及び三価フェノールが好ましい。

(中略)

[0096] 本明細書では、二価フェノールとは、ベンゼン環に2個の水酸基が直接結合した化合物をいう。具体的には、二価フェノールとしては、例えば、レゾルシン、ハイドロキノン、カテコールなどが挙げられる。これらの二価フェノールは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用されることができる。アルカリ溶解性の観点及びジアゾナフトキノンとの相互作用の観点から、レゾルシンが好ましい。

(中略)

[0109] 次に、(A-1)樹脂又は(A-2)樹脂混合物を構成する樹脂の合成に用いられる重合成分について説明する。

(中略)

[0111] 上記アルコキシメチル基を分子内に2個有する化合物としては、例えば、ビス(メトキシメチル)ジフェニルエーテル、ビス(メトキシメチル)ベンゾフェノン、メトキシメチル安息香酸メトキシメチルフェニル、ビス(メトキシメチル)ビフェニル、ジメチルビス(メトキシメチル)ビフェニル等が挙げられる。アルコキシメチル基中のアルコキシ部位の炭素数は、反応活性の観点から、1?4であることが好ましく、1又は2であることがより好ましく、1であることが最も好ましい。

(中略)

[0116] 次に、(A-1)フェノール樹脂又は(A-2)樹脂混合物を構成する樹脂の典型的な合成方法に関して詳述する。上記で説明されたフェノール化合物と、上記で説明された重合成分とを、適当な重合触媒の存在下で加熱撹拌することによって、(A-1)樹脂又は(A-2)樹脂混合物を構成する樹脂を得ることができる。この重合触媒としては、特に限定されるものではないが、例えば、酸性触媒、アルカリ性触媒などが挙げられ、特に酸性触媒が好ましい。酸性触媒としては、例えば、塩酸、硫酸、リン酸等の無機酸;メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、シュウ酸等の有機酸;三弗化ホウ素、無水塩化アルミニウム、塩化亜鉛等のルイス酸等、硫酸ジエチルなどが挙げられる。

(中略)

[0117] (A-1)樹脂又は(A-2)樹脂混合物を構成する樹脂の合成反応を行うときには、必要に応じて有機溶剤を使用することができる。使用できる有機溶剤の具体例としては、特に限定されないが、ビス(2-メトキシエチル)エーテル、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、トルエン、キシレン、γ?ブチロラクトン、N-メチル-2-ピロリドン、テトラヒドロフルフリルアルコール等が挙げられる。

(中略)

[0123][(B)光酸発生剤]
実施の形態では、感光性樹脂組成物は、紫外線、電子線、X線等に代表される活性光線(放射線)に感応して樹脂パターンを形成できる組成物であれば、特に限定されるものではなく、ネガ型(未照射部が現像により溶出)又はポジ型(照射部が現像により溶出)のいずれの感光性樹脂組成物であってもよい。

(中略)

[0138] 感光性樹脂組成物がポジ型として使用される場合には、上記(i)?(iii)及び上記(1)?(6)で示される光酸発生剤、及び/又はキノンジアジド化合物が好適に用いられる。その中でも硬化後の物性の観点からキノンジアジド化合物が特に好ましい。これはキノンジアジド化合物が硬化時に熱分解し、硬化膜中に残存する量が極めて低いためである。

(中略)

[0145][(C)架橋剤]
実施の形態では、硬化物の熱物性及び機械的物性を更に向上させるために、(C)架橋剤を感光性樹脂組成物に更に配合することが好ましい。

(中略)

[0160][(D)熱酸発生剤]
感光性樹脂組成物には、硬化の温度を下げた場合でも、良好な硬化物の熱物性及び機械的物性を発現させるという観点から、(D)熱酸発生剤を更に配合することが好ましい。(D)熱酸発生剤は、熱により酸を発生する化合物であり、かつ上記(C)架橋剤の反応を促進させる化合物である。また、(D)熱酸発生剤が酸を発生させる温度としては、150℃?250℃が好ましい。

(中略)

[0166][その他の成分]
感光性樹脂組成物には、必要に応じて、溶剤、染料、界面活性剤、シランカップリング剤、溶解促進剤、架橋促進剤等を含有させることが可能である。

(中略)

[0169] 染料としては、例えば、メチルバイオレット、クリスタルバイオレット、マラカイトグリーン等が挙げられる。感光性樹脂組成物中の染料の配合量としては、(A-1)フェノール樹脂100質量部に対して、0.1質量部?30質量部が好ましい。

(中略)

[0177] 溶解促進剤としては、例えば、水酸基又はカルボキシル基を有する化合物などが挙げられる。水酸基を有する化合物の例としては、前述のナフトキノンジアジド化合物に使用しているバラスト剤、並びにパラクミルフェノール、ビスフェノール類、レゾルシノール類、及びMtrisPC、MtetraPC等の直鎖状フェノール化合物、TrisP-HAP、TrisP-PHBA、TrisP-PA等の非直鎖状フェノール化合物(全て本州化学工業社製)、ジフェニルメタンの2?5個のフェノール置換体、3,3-ジフェニルプロパンの1?5個のフェノール置換体、2,2-ビス-(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンと5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物とをモル比1対2で反応させて得られる化合物、ビス-(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)スルホンと1,2-シクロヘキシルジカルボン酸無水物とをモル比1対2で反応させて得られる化合物、N-ヒドロキシコハク酸イミド、N-ヒドロキシフタル酸イミド、N-ヒドロキシ5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸イミド等が挙げられる。
[0178] また、カルボキシル基を有する化合物の例としては、3-フェニル乳酸、4-ヒドロキシフェニル乳酸、4-ヒドロキシマンデル酸、3,4-ジヒドロキシマンデル酸、4-ヒドロキシ-3-メトキシマンデル酸、2-メトキシ-2-(1-ナフチル)プロピオン酸、マンデル酸、アトロラクチン酸、α-メトキシフェニル酢酸、O-アセチルマンデル酸、イタコン酸、安息香酸、o-トルイル酸、m-トルイル酸、p-トルイル酸、2,3-ジメチル安息香酸、2,4-ジメチル安息香酸、2,5-ジメチル安息香酸、2,6-ジメチル安息香酸、3,4-ジメチル安息香酸、3,5-ジメチル安息香酸、2,4,5-トリメチル安息香酸、2,4,6-トリメチル安息香酸、4-ビニル安息香酸、クミン酸、イソブチル安息香酸、4-プロピル安息香酸、サリチル酸、3-ヒドロキシ-安息香酸、4-ヒドロキシ安息香酸、2-アセチル安息香酸、4-アセチル安息香酸、3-フルオロ安息香酸、4-フルオロ安息香酸、4-フルオロ-2-メチル安息香酸、5-フルオロ-2-メチル安息香酸、p-アニス酸、4-アミル安息香酸、4-ブチル安息香酸、4-tert-ブチル安息香酸、3,5-ジ-tert-ブチル安息香酸、4-トリフルオロメチル安息香酸、4-ヒドロキシメチル安息香酸、フタル酸、4-メチルフタル酸、4-ヒドロキシフタル酸、4-トリフルオロメチル安息香酸、4-メトキシフタル酸、フタルアミド酸、イソフタル酸、テレフタル酸、2,5-ジメチル安息香酸、モノメチルテレフタレート、トリメシン酸、トリメリット酸、ヘミメリット酸、ピロメリット酸、ベンゼンペンタカルボン酸、メリット酸等が挙げられる。」

ウ 「実施例
[0205] 以下、合成例、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。

(中略)

[0215] 実施例および比較例で用いた(B)光酸発生剤、(C)架橋剤、(D)熱酸発生剤の構造は下記の通りである。
[0216](B-1)
下記式で示す光酸発生剤
[化61]

{上式中、Qの内83%が以下の式で表される構造であり、残余が水素原子である。}。
[化62]


(中略)

[0219](C?1)
[化64]

(ニカラックMX?270、商品名、三和ケミカル社製)

(中略)

[0225](C?7)
下記式で示す架橋剤
[化69]

2,6-ビス(ヒドロキシメチル)-p-クレゾール

(中略)

[0263][合成例12]
<樹脂P2-1の合成>
始めに容量1.0Lのディーン・スターク装置付きセパラブルフラスコを窒素置換し、その後、該セパラブルフラスコ中で、レゾルシン91.8g(0.833mol)、4,4’-ビス(メトキシメチル)ビフェニル(BMMB)109.0g(0.45mol)、p-トルエンスルホン酸3.81g(0.02mol)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)116gを50℃で混合攪拌し、固形物を溶解させた。
[0264] 溶解させた混合溶液をオイルバスにより120℃に加温し、反応液よりメタノールの発生を確認した。そのまま120℃で反応液を3時間攪拌した。
[0265] 次に、別途容器で2,6-ビス(ヒドロキシメチル)-p-クレゾール8.3g(0.050mol)、PGME83gを混合撹拌し、均一溶解させた溶液を、滴下漏斗を用いて、該セパラブルフラスコに1時間で滴下し、滴下後更に2時間撹拌した。
[0266] 反応終了後、反応容器を大気中で冷却し、これに別途PGME50gを加えて攪拌した。上記反応希釈液を8Lの水に高速攪拌下で滴下し樹脂を分散析出させ、これを回収し、適宜水洗、脱水の後に真空乾燥を施し、樹脂(P2-1)を収率78%で得た。

(中略)

[0278][合成例16]
<樹脂P2-5の合成>
始めに容量1.0Lのディーン・スターク装置付きセパラブルフラスコを窒素置換し、その後、該セパラブルフラスコ中で、レゾルシン73.7g(0.667mol)、BMMB48.5g(0.20mol)、p-トルエンスルホン酸3.81g(0.02mol)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)116gを50℃で混合攪拌し、固形物を溶解させた。
[0279] 溶解させた混合溶液をオイルバスにより120℃に加温し、反応液よりメタノールの発生を確認した。そのまま120℃で反応液を3時間攪拌した。
[0280] 次に、別途容器で2,6-ビス(ヒドロキシメチル)-p-クレゾール49.9g(0.300mol)、PGME499gを混合撹拌し、均一溶解させた溶液を、滴下漏斗を用いて、該セパラブルフラスコに1時間で滴下し、滴下後更に2時間撹拌した。反応終了後は合成例12と同様の処理を行い、樹脂(P2-5)を収率81%で得た。合成された樹脂(P2-5)のGPCによる重量平均分子量は、ポリスチレン換算で18,500であった。

(中略)

[0297]<ポジ型感光性樹脂組成物の調製およびその評価>
(実施例21)
上記合成例12にて得られた樹脂(P2-1)100質量部、光酸発生剤(B-1)11質量部を、γ-ブチロラクトン(GBL)114質量部に溶解し、0.1μmのフィルターで濾過してポジ型感光性樹脂組成物を調製し、硬化レリーフパターン形状および引っ張り伸度を評価した。評価結果を表4に示す。
[0298](実施例22)
実施例21において、さらに架橋剤(C-1)を10質量部加えた以外は、実施例1と同様に行った。評価結果を表4に示す。
[0299](実施例23?32)
樹脂P2-1を、表4に示す通り、樹脂P2-2?P2-11に替えた以外は実施例22と同様に組成物を調製し、評価を行った。評価結果を表4に示す。

(中略)

[0311](実施例44)
実施例26において、さらにフタル酸を5質量部加えた以外は、実施例26と同様に行った。評価結果を表4に示す。

(中略)

[0317]
[表4]

[0318] 表4に示した結果から、実施例21?45は、硬化膜の引っ張り伸度に優れ、厚膜でのパターン形成が可能であり、硬化レリーフパターンの形状が良好な樹脂膜を与えることを示す。」

エ 「産業上の利用可能性
[0422] 本発明の感光性樹脂組成物は、半導体装置、表示体装置及び発光装置の表面保護膜、層間絶縁膜、再配線用絶縁膜、フリップチップ装置用保護膜、バンプ構造を有する装置の保護膜、多層回路の層間絶縁膜、フレキシブル銅張板のカバーコート、ソルダーレジスト膜、並びに液晶配向膜等として好適に利用できる。」

(2)引用文献1に記載された発明
引用文献1の記載事項ウの段落[0297]?[0299]、[0311]、及び[表4]の記載に基づけば、実施例44のポジ型感光性樹脂組成物は、樹脂P2-5、光酸発生剤B-1、架橋剤C-1、フタル酸を、γ-ブチロラクトン(GBL)に溶解し、フィルターで濾過して調製したものである。また、実施例44で用いられる樹脂P2-5は、記載事項ウの段落[0263]、[0278]?[0280]の記載に基づけば、合成例16において、レゾルシン、4,4’-ビス(メトキシメチル)ビフェニル(BMMB)、p-トルエンスルホン酸、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)を混合攪拌して溶解させ、反応液を3時間攪拌し、次に、2,6-ビス(ヒドロキシメチル)-p-クレゾール、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)を混合撹拌し、均一溶解させた溶液を滴下して得た樹脂である。
そうすると、引用文献1には、実施例44のポジ型感光性樹脂組成物として、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていたと認められる。
「レゾルシン、4,4’-ビス(メトキシメチル)ビフェニル(BMMB)、p-トルエンスルホン酸、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)を混合攪拌して溶解させ、反応液を3時間攪拌し、次に、2,6-ビス(ヒドロキシメチル)-p-クレゾール、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)を混合撹拌し、均一溶解させた溶液を滴下して樹脂P2-5を得て、
樹脂P2-5、光酸発生剤(B-1)、架橋剤(C-1)、フタル酸を、γ-ブチロラクトン(GBL)に溶解し、フィルターで濾過して調製したポジ型感光性樹脂組成物。」

(3)引用文献3の記載事項
原査定の拒絶理由に副引用文献及び周知技術を示す文献として引用され、本願出願前の2017年(平成29年)4月27日に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載された国際公開第2017/069172号(以下、「引用文献3」という。)には、以下の記載事項がある。

ア 「技術分野
[0001] 本発明は、ポジ型感光性樹脂組成物に関する。特に、黒色のポジ型感光性樹脂組成物、それを用いた有機EL表示素子の隔壁および絶縁膜に関する。

(中略)

発明が解決しようとする課題
[0007] 有機EL表示素子におけるパターンや、隔壁あるいは絶縁膜形成に必要とされる温度は一般的に200℃付近である。しかしながら、高精細で高感度、高密着性を併せ持ちながら、200℃付近まで加熱・焼成した場合に黒色が維持できるポジ型感光性樹脂組成物はこれまで知られていない。
本発明は、上記のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、高感度、高精細、高密着性を併せ持ち、250℃のような高温硬化工程後でも黒色を保ち高い遮光性を維持できるポジ型感光性樹脂組成物を提供することである。
課題を解決するための手段
[0008] 本発明者らは、鋭意検討の結果、バインダー樹脂と、キノンジアジド化合物と、ソルベントブラック27?47のカラーインデックス(C.I.)で規定される黒色染料を含有した黒色樹脂組成物が、250℃のような高温硬化工程後でも黒色を保ち高い遮光性を維持できることを見出した。また、前記黒色樹脂組成物は、フォトリソグラフィ法によるパターン形成が高感度でできると同時に、そのパターン焼成後に黒色を保ったまま高い遮光性を維持でき、かつ良好な解像度、残膜率等を有していることを見出した。さらに、バインダー樹脂としてポリアルケニルフェノール樹脂、ポリヒドロキシスチレン樹脂誘導体等を用いることで、黒色樹脂組成物は高い耐熱性を有することを見出した。

(中略)

発明の効果
[0022] 本発明によれば、高感度、高精細、高いパターン形成性を併せ持ち、250℃のような高温硬化工程後でも黒色を保ち高い遮光性を維持できるポジ型感光性樹脂組成物を提供できる。」

イ 「[0027] 本発明ではバインダー樹脂(A)として以下の(a)?(d)成分から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。

(中略)

[0054](c)エポキシ基とフェノール性水酸基を有するアルカリ水溶液可溶性樹脂
本発明のポジ型感光性樹脂組成物のバインダー樹脂(A)として、エポキシ基とフェノール性水酸基を有するアルカリ水溶液可溶性樹脂を使用することもできる。
前記アルカリ水溶液可溶性樹脂は、例えば、1分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物(以下、「エポキシ化合物」と表記することがある。)のエポキシ基と、ヒドロキシ安息香酸類のカルボキシル基を反応させることで得ることができる。
本発明のポジ型感光性樹脂組成物において、前記アルカリ可溶性樹脂がエポキシ基を有することで、加熱時にフェノール性水酸基と反応して架橋し耐薬品性、耐熱性などが向上するという利点があり、また、フェノール性水酸基を有することでアルカリ水溶液に可溶になるという利点がある。」

ウ 「産業上の利用可能性
[0107] 本発明の黒色ポジ型感光性樹脂組成物は、ポジ型放射線リソグラフィーに好適に利用することができる。本発明の黒色ポジ型感光性樹脂組成物から形成された隔壁および絶縁膜を備えた有機EL素子は、良好なコントラストを示す表示装置の電子部品として好適に使用される。」

エ 「 請求の範囲
[請求項1]
(A)バインダー樹脂、(B)キノンジアジド化合物、および(C)ソルベントブラック27?47のカラーインデックスで規定される黒色染料から選ばれた少なくとも1種の黒色染料を含有するポジ型感光性樹脂組成物。」

(4)引用文献4の記載事項
原査定の拒絶理由に副引用文献として引用され、本願出願前の平成29年4月27日に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載された特開2017-78799号公報(以下、「引用文献4」という。)には、以下の記載事項がある。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、低アウトガスを特徴とし、良好な感度、解像度を有しており、その他の特性が汎用のものと変わらないポジ型感光性樹脂組成物である。

(中略)

【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述の現状に鑑みて、本発明は低アウトガスを特徴とし、かつ良好な感度、解像度を有しており、その他の特性が汎用のものと変わらないポジ型感光性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討した結果、ポリアルケニルフェノール樹脂を含むポジ型感光性樹脂組成物の耐熱性が良好であり、さらにポリアルケニルフェノール樹脂、分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物とヒドロキシ安息香酸類との反応物、およびキノンジアジド化合物を含む組成物が、フォトリソグラフィー法によるパターン形成が高感度でできると同時に、そのパターンを焼成後、低アウトガスを実現でき、かつ良好な解像度、残膜率等を有しており特性がバランスされることを見出した。
本発明は、ポリアルケニルフェノール樹脂、エポキシ基とフェノール性水酸基を有するアルカリ水溶液可溶性樹脂、およびキノンジアジド化合物を含有するポジ型感光性樹脂組成物である。

(中略)

【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、低アウトガスを特徴とし、かつ良好な感度、解像度を有しており、その他の特性が汎用のものと変わらないポジ型感光性樹脂組成物を提供することができる。」

イ 「【0048】
(b)(エポキシ基とフェノール性水酸基を有するアルカリ水溶液可溶性樹脂)
本発明のポジ型感光性樹脂組成物は、エポキシ基とフェノール性水酸基を有するアルカリ水溶液可溶性樹脂を含む。
前記アルカリ水溶液可溶性樹脂は、例えば、1分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物(以下、「エポキシ化合物」と表記することがある。)のエポキシ基と、ヒドロキシ安息香酸類のカルボキシル基を反応させることで得ることができる。
本発明のポジ型感光性樹脂組成物において、前記アルカリ可溶性樹脂がエポキシ基を有することで、加熱時にフェノール性水酸基と反応して架橋し耐薬品性、耐熱性などが向上するという利点があり、また、フェノール性水酸基を有することでアルカリ水溶液に可溶になるという利点がある。」

ウ 【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明の感光性樹脂組成物は、ポジ型放射線リソグラフィーに好適に利用することができる。特に、有機電界発光素子等の絶縁膜の形成に好適に利用することができる。」

5 対比・判断
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と引用発明とを対比する。

(ア)バインダー樹脂
引用発明の「樹脂P2-5」は、技術的にみて、本件発明1の「バインダー樹脂」に相当する。

(イ)有機低分子化合物
引用発明の「フタル酸」は、芳香族カルボン酸である。そうすると、引用発明の「フタル酸」は、本件発明1の「有機低分子化合物」に相当する。また、引用発明の「フタル酸」は、本件発明1の「芳香族カルボン酸及び複数のフェノール性水酸基を有する化合物からなる群より選択される、少なくとも1種」であるとする要件を満たしている。

(ウ)感放射線化合物
引用発明の「光酸発生剤(B-1)」は、技術的にみて、本件発明1の「感放射線化合物」に相当する。

(エ)有機EL素子隔壁用感光性樹脂組成物
引用発明の「ポジ型感光性樹脂組成物」と本件発明1の「有機EL素子隔壁用感光性樹脂組成物」とは、前記(ア)?(ウ)で述べた各成分を含む「感光性樹脂組成物」である点で共通する。

(オ)一致点及び相違点
以上より、本件発明1と引用発明とは、
「 (A)バインダー樹脂、
(B)芳香族カルボン酸及び複数のフェノール性水酸基を有する化合物からなる群より選択される、少なくとも1種の有機低分子化合物、
(C)感放射線化合物、
を含む、感光性樹脂組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点1]「(A)バインダー樹脂」が、本件発明1は「エポキシ基及びフェノール性水酸基を有するアルカリ水溶液可溶性樹脂(c)」を含むのに対し、引用発明はエポキシ基及びフェノール性水酸基の両方の基を有するものでない点。
[相違点2]「(B)有機低分子化合物」が、本件発明1は「モル体積が130cm^(3)/mol以下」であって、「7.5?10のpKaを有する複数のフェノール性水酸基を有する化合物」であるのに対し、引用発明はモル体積の値が明らかでなく、7.5?10pKaを有する複数のフェノール性水酸基を有さない点。
[相違点3]「感光性樹脂組成物」が、本件発明1は「(D)黒色染料及び黒色顔料からなる群より選択される着色剤」を含み、「硬化被膜の光学濃度(OD値)が膜厚1μmあたり0.5以上」であるのに対し、引用発明は、着色剤を含まず、硬化被膜としたときの光学濃度の値が不明である点。
[相違点4]「感光性樹脂組成物」が、本件発明1は、「有機EL素子隔壁用」であるのに対し、引用発明は有機EL素子隔壁用とされていない点。

イ 判断
事案に鑑みて[相違点2]について検討する。
引用文献1には、記載事項イに「溶解促進剤としては、例えば、水酸基又はカルボキシル基を有する化合物などが挙げられる。」(段落[0177])、「カルボキシル基を有する化合物の例としては、・・・フタル酸、・・・等が挙げられる。」(段落[0178])と記載されている。当該記載に基づけば、引用発明の「フタル酸」は「溶解促進剤」として含有されていると理解できる。
そして、引用文献1の記載事項イには、溶解促進剤として、水酸基を有する化合物を用いることが示唆されており、さらに、「水酸基を有する化合物の例としては、前述のナフトキノンジアジド化合物に使用しているバラスト剤、並びにパラクミルフェノール、ビスフェノール類、レゾルシノール類、及びMtrisPC、MtetraPC等の直鎖状フェノール化合物、TrisP-HAP、TrisP-PHBA、TrisP-PA等の非直鎖状フェノール化合物(全て本州化学工業社製)、ジフェニルメタンの2?5個のフェノール置換体、3,3-ジフェニルプロパンの1?5個のフェノール置換体、2,2-ビス-(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンと5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物とをモル比1対2で反応させて得られる化合物、ビス-(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)スルホンと1,2-シクロヘキシルジカルボン酸無水物とをモル比1対2で反応させて得られる化合物、N-ヒドロキシコハク酸イミド、N-ヒドロキシフタル酸イミド、N-ヒドロキシ5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸イミド等が挙げられる。」(段落[0177])と記載されている。しかしながら、引用文献1には、「水酸基を有する化合物」の例として、「モル体積が130cm^(3)/mol以下」であって、「7.5?10のpKaを有する複数のフェノール性水酸基を有する」という要件を満たす化合物が挙げられておらず、「水酸基を有する化合物」の中から、さらに、「モル体積が130cm^(3)/mol以下」であって、「7.5?10のpKaを有する複数のフェノール性水酸基を有する化合物」を選択することについて、引用文献1には記載も示唆もない。また、「水酸基を有する化合物」の中から、「モル体積が130cm^(3)/mol以下」であって、「7.5?10のpKaを有する複数のフェノール性水酸基を有する」化合物を選択することが、当業者にとって自明であった、あるいは、周知技術であったということもできない。そして、本願明細書の実施例1?10及び比較例1?6を参酌すれば、モル体積が130cm^(3)/mol以下の有機低分子化合物を用いた感光性樹脂組成物は、モル体積が130cm^(3)/molより大きい有機低分子化合物を用いた感光性樹脂組成物と比べて、「パターン形成性及び残渣」の評価が優れるという効果を奏すると理解できる。
そうすると、当業者であっても、引用発明における溶解促進剤である「フタル酸」を、「モル体積が130cm^(3)/mol以下」であって、「7.5?10のpKaを有する複数のフェノール性水酸基を有する化合物」に置き換えることが、容易になし得たということはできない。
なお、原査定の拒絶理由において引用された引用文献3及び引用文献4は、前記相違点1、3及び4に関連して挙げられた文献であり、これら文献の記載を考慮しても、上記の判断は変わらない。

ウ 小括
以上のとおりであるから、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、当業者であっても、引用発明に基づいて容易に発明できたということができない。

(2)本件発明2?11について
本件発明2?11は、本件発明1と同じ、「モル体積が130cm^(3)/mol以下」であって、「有機低分子化合物(B)が、7.5?10のpKaを有する複数のフェノール性水酸基を有する化合物である」とする要件を具備するものである。そうすると、本件発明2?11も、本件発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明に基づいて容易に発明できたということができない。

(3)小括
以上より、本件補正後の請求項1?11に係る発明は、当業者であっても、引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明に該当しない。

6 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2020-09-29 
出願番号 特願2018-169128(P2018-169128)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G03F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 川口 真隆  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 宮澤 浩
井口 猶二
発明の名称 感光性樹脂組成物、有機EL素子隔壁、及び有機EL素子  
代理人 青木 篤  
代理人 胡田 尚則  
代理人 河原 肇  
代理人 高橋 正俊  
代理人 三橋 真二  

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