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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B65H
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B65H
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B65H
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B65H
管理番号 1366737
審判番号 不服2018-3513  
総通号数 251 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-03-12 
確定日 2020-10-01 
事件の表示 特願2016-139351「繊維測定装置の診断方法、繊維測定装置の運転方法及び繊維測定装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年11月24日出願公開、特開2016-196373〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2011年(平成23年)11月11日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2010年12月13日、スイス国)を国際出願日とする特願2013-543480号の一部を平成28年7月14日に新たな特許出願としたものであって、平成29年6月9日付けで拒絶理由通知がされ、同年11月10日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がされ、同月20日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成30年3月12日に拒絶査定不服審判の請求がされ、令和1年7月25日付けで拒絶理由通知がされ、同年10月29日付けで意見書が提出され、同年11月21日付けで拒絶理由通知(以下、「第2回当審拒絶理由通知」という。)がされ、令和2年2月25日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?8に係る発明は、令和2年2月25日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。

「【請求項1】
繊維供試品(9)の少なくとも1つのパラメータ(302)を測定する装置の診断方法であって、
繊維供試品(9)の少なくとも1つのパラメータ(302)が本装置により測定(202)され、
測定(202)の結果(304)が、測定される供試品(9)に特有であり、繊維構成体の直径及び/又は異物含有量に関係する所定の値から求められる、他のこのような本装置の測定とは無関係な目標値(305)と比較(203)され、当該測定(202)に使用される供試品部分は、少なくとも統計的に十分代表的な供試品(9)の試料が測定されるような長さであり、
この比較(203)から装置の状態が推論され、
比較(203)から推論される状態が、本装置の汚染度、老化度又は消耗度である、診断方法。」

第3 当審における拒絶の理由(第2回当審拒絶理由通知)の概要
第2回当審拒絶理由通知の概要は以下のとおりである。

「1.(明確性)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
2.(実施可能要件)この出願は、発明の詳細な説明の記載について下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
3.(サポート要件)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
4.(新規性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
5.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
1.明確性について
(略)

2.実施可能要件について
(1)(略)
(2)本願の請求項1には、「測定(202)の結果(304)が、測定される供試品(9)に特有であり、繊維構成体の直径及び/又は異物含有量に関係する所定の値から求められる、他のこのような本装置の測定とは無関係な目標値(305)と比較され」と記載されているが、当該「目標値」がどのように求められるものであるのか不明である。
よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1?9に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。

3.サポート要件について
(略)

4.新規性、及び、5.進歩性について
・請求項 1、2、4?7
・引用文献等 1
・備考
本願発明1、2、4?7は、引用発明1であるので、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。また、本願発明1、2、4?7は、引用発明1に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである。

・請求項 3、8、9
・引用文献等 1、2
・備考
目標値と測定の結果との差が所定の閾値を上回った際に警報信号を発することや、診断結果に応じて部品の掃除を行うことは、例えば、引用文献2の【0059】に記載されているように、ヤーンクリアラの分野における周知技術(以下、「周知技術」という。)である。
引用発明1はヤーンクリアラに関するものであり、ヤーンクリアラに付着した埃等を除去するクリーニングノズルも有しているものであるから、引用発明1において目標値と測定の結果とを比較するにあたり、上記周知技術を適用することにより、本願発明3、8、9の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。

<引用文献等一覧>
1.特開2000-327226号公報
2.特開2005-232650号公報」

第4 当審の判断
1 特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について
(1)発明の詳細な説明の記載内容
本願の発明の詳細な説明には、以下の内容が記載されている。

ア 発明が解決しようとする課題
「【0007】
本発明の課題は、繊維供試品の少なくとも1つのパラメータを測定する装置用の診断方法を提示し、それにより装置の規則正しくない状態、例えば装置の汚染度、老化度又は消耗度が自動的に確実に検出されるようにすることである。これに反し基準から著しくずれた状態例えば強い汚染の場合、警報が出されるので、装置を適切に整備することができる。このような整備は、例えば装置の強く汚れた部分の浄化及び/又は装置の部分の交換を含むことができる。
【0008】
更に本発明による診断方法が使用される、繊維供試品の少なくとも1つのパラメータを測定する装置の運転方法及びこのような装置も提示される。」

イ 課題を解決するための手段
「【0009】
これらの課題及び他の課題は、独立請求項に規定されているように、本発明による診断方法、本発明による運転方法及び本発明による装置によって解決される。
【0010】
繊維供試品の少なくとも1つのパラメータを測定する装置の本発明による診断方法では、繊維供試品の少なくとも1つのパラメータが装置により測定される。測定の結果が、測定される供試品に特有で他のこのような装置の測定とは無関係な目標値と比較される。比較から装置の状態が推論される。
【0011】
米国特許出願公開第5748481号明細書から公知のように、目標値が例えば多数の同じ装置の適当な信号の平均値によって形成されない限り、他のこのような装置の測定とは無関係である。これは第1に次の利点を持っている。即ち本発明による方法は、別の同じ姉妹装置の同時運転を指示されてない独立装置に対しても機能する、という利点を持っている。第2に本発明による方法は、従来技術による方法よりも確実である。なぜならば、すべての装置が同じように規則正しくない状態にある時、従来技術による方法は機能しないからである。
【0012】
好ましい実施形態では、比較から推論される状態が装置の汚染度、老化度又は消耗度である。
【0013】
目標値と測定の結果との差が所定の閾値を上回ると、警報信号が出されるのがよい。目標値が所定の値であるか、又は所定の値から求められるようにすることができる。繊維供試品が糸又はスライバのような縦長の実質的に円柱状の繊維構成体であり、目標値が繊維構成体の直径に関係する所定の値例えば糸番手又はスライバ番手から求められる。装置がヤーンクリヤラ特に光学ヤーンクリヤラであり、繊維供試品が糸である。
【0014】
本発明は、繊維供試品の少なくとも1つのパラメータを測定する装置の運転方法にも関する。この方法において、装置の診断方法が実施され、繊維供試品の少なくとも1つのパラメータの測定が行われる。診断方法は上述した診断方法である。
【0015】
診断方法が規則正しい状態を生じない時、診断方法の後で測定の前に、装置へ介入が行われると有利である。介入が例えば装置の掃除又は装置の部品の交換である。掃除に加えて又はその代わりに、診断方法後に装置が、診断方法で使用された目標値に調整され、この調整が次の測定において使用されるようにすることができる。調整が、次の調整まですべての後続測定において使用される。
【0016】
本発明により繊維供試品の少なくとも1つのパラメータを測定する装置は、供試品の少なくとも1つのパラメータ用のセンサ及びセンサの出力信号を評価する評価装置を含んでいる。評価装置は上述した診断方法及び上述した運転方法を実施するために設けられている。
【0017】
好ましい実施形態では、センサが容量センサ又は光学センサである。装置がヤーンクリヤラ特に光学ヤーンクリヤラであるのがよい。装置が少なくとも1つのパラメータのため所定の目標値を入力する入力装置を持っていてもよい。」

ウ 発明を実施するための形態
「【0020】
図1は、本発明による装置に組込むことができる光学センサ装置1を示す。センサ装置1は、少なくとも1つの光検出器を持つ測定セル本体2、及び保持素子4に保持される光源例えば発光ダイオードを持つ照明素子3を含んでいる。測定セル本体2は、供試品9例えば糸を動かすため長手方向に通すことができる測定スリット5を持つ複合構成体である。光源は光を測定スリット5へ送り、そこで光が供試品9と相互作用する。光の一部は少なくとも1つの光検出器により検出される。センサ装置1の出力信号は増幅され、(図示しない)評価装置において評価される。こうして供試品9の少なくとも1つのパラメータ例えば糸の直径及び/又は異物含有量が測定される。評価は更に測定される供試品部分の品質の評価を含むことができ、この評価の際少なくとも1つの測定されるパラメータが所定の品質基準を満たしているか否かが確認される。品質基準は例えば太い個所又は異物の除去限界であってもよい。
【0021】
図2の流れ図は本発明による診断方法の実施例を示す。供試品9に特有の目標値が規定される(201)。光学糸測定装置では、これは例えば測定すべき糸9の予め知られている糸番手であってもよく、密度がわかっているか又は評価されている場合、この糸番手から糸直径が計算される。測定段階202において、供試品9の一部がセンサ装置1により測定される。その際センサ装置1は供試品9をその長さに沿って走査して、供試品9の少なくとも1つのパラメータを測定する。測定202のために使用される供試品部分は、少なくとも統計的に十分代表的な供試品9の試料が測定されるような長さであるようにする。即ち供試品9に場合によっては存在する欠陥個所は、測定202の結果に対した影響を及ぼさない。この目的のため、典型的な糸9にとって数m例えば10mで十分である。
【0022】
測定202に続いて、測定202の結果が所定の目標値と比較される(203)。比較203が図3に示されている。図は、2つの異なる汚染状態に対してそれぞれ1つの線図を示し、測定で得られる供試品9のパラメータ302の測定値が、時間301又は供試品9上の位置に対して、測定曲線303として示されている。測定曲線303はここでは連続する線として示されているが、分離した測定点の密な連続から構成されていてもよい。測定202の結果として、例えば供試品部分に沿って測定されるすべての測定値の平均値を使用することができる。このような平均値が、水平に延びる破線の直線304として示されている。所定の目標値は水平に延びる実線の直線305として示されている。図3(a)は、センサ装置1の少し汚染している表面を持つ状態を示す。この状態で測定202の平均値304は、目標値305とは僅かしか相違しておらず、即ち対応する差306は小さい。これに反し図3(b)は強い汚染を持つ状態を示す。ここでは目標値305と平均値306との間に大きい差306が生じる。
【0023】
本発明による診断方法では、図2に示すように、測定の結果が所定の目標値305と比較される(203)。比較203は、例えば目標値305と測定結果304との差306の形成によって行うことができる。図3(a)におけるように、差306が所定の閾値の下にあると、比較203は十分な結果を生じ、即ちセンサ装置1は汚染していないか又は適度に汚染しているだけである。この場合供試品9の本来の測定209を行うことができる。既に測定202の場合に述べたように、測定209の際センサ装置1が供試品9をその長さに沿って走査し、供試品9の少なくとも1つのパラメータを測定する。繊維供試品9におけるこのような測定209は、従来技術から公知である。測定209の終了後、新たな測定を行うことができる(210)。これが先の測定209と同じ形式(例えば同じ糸番手)の供試品9において行われると、目標値205を変える必要がない。これに反し重要な特徴において先の供試品とは異なる供試品を測定する場合、新しい供試品に相当する新しい目標値を入力するのが有利である。
【0024】
目標値305と測定結果304との差306が閾値を上回ると、比較203がセンサ装置1の強い汚染を示唆する不十分な結果を生じる。この場合適当な汚染警報が自動的に送出される(204)。警報は光及び/又は音響信号であるか、又は他のやり方で行うことができる。センサ装置1はそれにより掃除するか又はしないことができる(205)。掃除207は操作員により手動で行われるか、又は適当な装置例えば掃除ロボットにより自動的に行われる。掃除後万一の調整を初期値へ戻さねばならない(208)。掃除207後一層少ない汚染度を考慮するために、新たな測定202も行わねばならない。掃除が行われていない場合、装置を少なくとも調整することができる(206)。この目的のため次の測定209のために調整アルゴリズムが準備され、この調整アルゴリズムにより測定値が修正されて、測定の結果が目標値305に一致するようになる。調整アルゴリズムは、修正される測定値の平均値が目標値305に一致するように、調整アルゴリズムが例えば測定値と修正係数との乗算を含むことができる。このような修正係数は、目標値305と測定202の際求められる平均値304との関係に等しい。
【0025】
上記の実施例はセンサ装置1(図1参照)の汚染に関する。しかし本発明による装置の規則正しくない状態は、別の原因例えば照明素子3にある発光ダイオードの老化を持っていることもある。後者の場合掃除207(図2参照)の代わりに、発光ダイオード、照明素子3又はセンサ素子1全体の交換を行うことができる。装置の規則正しくない状態の別の原因は、例えば測定スリット5を区画する透明な窓の摩耗であることがある。この場合適当な介入は、測定セル本体2又はセンサ装置1全体の交換であろう。本発明による装置の規則正しくない状態の別の原因は、装置へのおなじような介入によって除去することができる。
【0026】
もちろん本発明は上述した実施例に限定されない。本発明を知れば、当業者は本発明の対象にも属する別の変形例も推論できるであろう。」

(2)判断
本願発明は、「測定(202)の結果(304)が、測定される供試品(9)に特有であり、繊維構成体の直径及び/又は異物含有量に関係する所定の値から求められる、他のこのような本装置の測定とは無関係な目標値(305)と比較(203)され」ることを発明特定事項として有するものであって、本願発明における「目標値」は、「繊維構成体の直径及び/又は異物含有量に関係する所定の値から求められる」ものであるところ、当該「目標値」が、「繊維構造体の異物含有量に関係する所定の値から求められる」ものも、本願発明に含まれるものである。
これに対し、発明の詳細な説明には、繊維供試品が糸又はスライバの場合に、当該「目標値」が「繊維構成体の直径に関係する所定の値例えば糸番手又はスライバ番手から求められる」ものであることは記載されているものと認められる。しかしながら、発明の詳細な説明には、「繊維構成体の異物含有量に関係する所定の値」が何であるのか記載されておらず、また、「目標値」が「繊維構成体の異物含有量に関係する所定の値」からどのように求められるのかについても具体的に記載されていない。
したがって、発明の詳細な説明の記載からは、「繊維構成体の異物含有量に関係する所定の値」が、具体的にどのようなものであって、当該値から目標値がどのように求められるのか不明であり、この点が当業者における技術常識であるとも認められないから、本願発明の「目標値」のうち、「繊維構成体の異物含有量に関係する所定の値から求められる」部分について、当業者がその発明を実施できる程度に記載されているということはできない。

よって、発明の詳細な説明の記載は、本願発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。

2 特許法第29条第1項第3号(新規性)、特許法第29条第2項(進歩性)について
(1)引用文献の記載及び引用発明
当審の拒絶の理由において引用され、本願の優先日前に出願公開がされた特開2000-327226号公報(以下、「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。

ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、糸の状態を検出して不具合部分を除去するヤーンクリアラの感度調整装置に関するものである。」

イ 「【0002】
【従来の技術】紡績装置や糸巻装置に設けられるヤーンクリアラは、糸の状態を検出する検出器の感度を安定化させる感度調整装置を備えている。従来の感度調整装置は、例えば図6に示すように、各ユニットの出力電圧の平均またはサンプルユニットの出力電圧に基づいて感度調整用の基準電圧φが求められた後、この基準電圧φが全ユニットの比較器53に最初に設定されて維持されながら、下記の動作により検出感度を安定化させている。
【0003】即ち、感度調整装置は、ヤーンクリアラの検出器51から増幅器52を介して検出電圧が入力されると、この検出電圧と上述の基準電圧φとを比較器53において比較し、比較結果を示す比較信号をアップダウンカウンタ54に入力する。そして、クロック信号発生器55により設定された増減速度でもってアップダウンカウンタ54の出力データを増減させ、D/Aコンバータ56の駆動電圧により発光素子51aの発光量を増減させるというフィードバック制御を行うことによって、検出器51の検出感度を基準電圧φに基づいた所定の検出感度に維持するようになっている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記従来のように、各ユニットの出力電圧の平均やサンプルユニットの出力電圧に基づいて基準電圧φを求め、この基準電圧φを全ユニットに設定および維持しながら制御する構成では、基準電圧φが全ユニットで等しい固定値の状態になるため、個々の検出器51間において生じる温度変化や経時変化のバラツキが誤差成分として生じ、結果として各検出器51において糸50の状態を高精度に検出することが困難であるという問題がある。
【0005】そこで、本発明は、各検出器の検出感度を正確に補正して糸の状態を高精度に検出することができるヤーンクリアラの感度調整装置を提供するものである。」

ウ 「【0015】さらに、糸拾いノズル22には、クリーニングノズル26が糸拾いノズル22と共に回動するように設けられている。クリーニングノズル26は、糸拾いノズル22が上限位置に回動したときに、他端側の開口部がヤーンクリアラ3に対向するように形成されている。クリーニングノズル26の一端部には、図3に示すように、空気噴出装置31が接続されており、空気噴出装置31は、クリーニングノズル26の開口部から空気を噴出させることによって、ヤーンクリアラ3に付着した風綿や埃を吹き飛ばして除去するようになっている。
【0016】上記のヤーンクリアラ3は、図1に示すように、各紡績巻取ユニット30に備えられており、各紡績巻取ユニット30で紡績される糸Yの太さを検出する検出器32と、この糸Yを切断する図示しないカッターとを有している。検出器32は、発光部32aおよび受光部32bを備えており、発光部32aから出力した光を受光部32bで受光したときの受光量に対応した電圧(電流)を検出信号として出力する。また、各紡績巻取ユニット30は、図2の自動糸継装置7(ノッター)が到達したことを検知するノッター検知部33を備えている。尚、空気噴出装置31は、可撓性ケーブル内に電気系配線とともに収容された空気供給チューブを通して固定側から噴出空気を供給するようになっている。
【0017】上記の検出器32およびノッター検知部33は、複数の紡績巻取ユニット30に対して1台の割合で設けられた感度調整装置34に接続されている。感度調整装置34は、一つのマイクロコンピュータ35と、紡績巻取ユニット30の接続数に対応した数量のF/V変換部42およびV/I変換部43とを備えている。マイクロコンピュータ35は、通信部36、記憶部37、演算部38、パルス出力部39、A/D変換部40およびI/O部41を備えている。通信部36は、中央制御装置44に接続されており、中央制御装置44とマイクロコンピュータ35との間で各種の情報データを送受信可能にしている。
【0018】また、パルス出力部39は、複数の出力端子39aを選択可能に備えていると共に、各出力端子39aから任意の出力周波数Fで駆動パルスを出力する機能を有している。パルス出力部39の各出力端子39aは、駆動パルスの出力周波数Fに対応した駆動電圧を出力するF/V変換部42と、駆動電圧に対応した駆動電流を出力するV/I変換部43とを介して検出器32の発光部32aに接続されている。また、上記のA/D変換部40は、複数の入力端子40aを選択可能に備えていると共に、各入力端子40aに入力されたアナログ信号をデジタル信号に変換する機能を有している。そして、A/D変換部40の各入力端子40aには、検出器32の受光部32bが接続されている。これにより、各検出器32は、感度調整装置34との間でフィードバックループ系を構成しており、後述の図4の検出感度調整ルーチンによるフィードバック制御により検出感度が安定化されている。
【0019】また、I/O部41は、複数の入力端子41aを備えており、入力端子41aには、上述のノッター検知部33が接続されている。また、記憶部37は、検出値Sや演算結果等を一時記憶するRAM部と、検出感度調整ルーチン等の処理ルーチンを記憶したROM部とを有している。そして、演算部38は、記憶部37の処理ルーチンを実行可能になっており、検出感度調整ルーチンを実行することによって、検出器32の検出感度を安定化させるようにフィードバック制御すると共に、検出器32からの検出値Sに基づいて糸欠点を検出する異常判定を行う。尚、検出感度調整処理は、糸欠点検出処理よりも長い周期で行われる。
【0020】上記の構成において、感度調整装置34の動作を説明する。図2に示すように、紡績装置の運転が開始されることによって、ドラフトパート12および空気紡績ノズル13等の紡績部2から糸Yが紡出されると、この糸Yは、ヤーンクリアラ3により糸Yの状態が検出されながらテンサ装置5を介して巻取部4に送出された後、巻取部4のパッケージ19に巻回される。また、このようにして紡績が開始されると、図1に示すように、感度調整装置34によるヤーンクリアラ3の感度調整が開始される。尚、テンサ装置5は、巻取部4で大径部および小径部を有するコーン状のパッケージ19を巻き取る場合には必要となるが、両端部で径の等しいチーズ状のパッケージ19の場合、省略することができる。
【0021】即ち、感度調整装置34は、演算部38により図4の検出感度調整ルーチンを記憶部37から読み出して実行する。尚、この調整ルーチンの実行は、感度調整装置34に接続された各紡績巻取ユニット30に対して時分割しながらそれぞれ独立して行われる。従って、各紡績巻取ユニット30が各感度調整装置34にそれぞれ接続されたものと見掛け上同じ構成となっているため、以降の説明においては、特定の紡績巻取ユニット30に対して検出感度調整ルーチンを実行する場合について説明する。
【0022】検出感度調整ルーチンを実行すると、糸走行信号がオンしているか否か、即ち、糸Yが走行しているか否かを判定する(S1)。糸Yが走行している場合には(S1,YES)、糸走行基準値決定処理を実行することにより糸走行基準値φAVEnを決定する。具体的には、図5の糸走行基準値決定処理ルーチンを実行し、糸走行が開始した後、図2のスラックチューブ27による糸Yへの影響が解消すると想定される所定時間が経過するまで待機する。尚、待機する理由は、スラックチューブ27から糸Yが完全に出てくるまではテンションが低いため、糸Yの状態が通常よりも太く検出されることが多いからである(S21)。
【0023】上記の所定時間が経過すると、受光部32bからA/D変換部40を介して入力されたデジタル量の検出値Sを一定のサンプリング周期毎に取り込み、記憶部37の格納領域に順次格納することによって、検出値Sのサンプリングを行う(S22)。そして、1ブロック分の格納領域から一定のサンプリング数の検出値Sを読み出し、これらの検出値Sの合計値をサンプリング数で除算して平均化することによって、以後の糸走行時に使用される今回分の糸走行基準値φAVEnを算出する(S23)。
【0024】この後、糸走行基準値φAVEnを更新する際、今回分の糸走行基準値φAVEnと前回分の糸走行基準値φAVEnとに大きな差が生じていると、今回分の糸走行基準値φAVEnに大きな誤差成分が含まれている可能性が高いため、この誤差成分を最小化するように、所定の重みにより前回分の糸走行基準値φAVEnも考慮して最新の糸走行基準値φAVEnを算出する重み付け補正を行う(S24)。そして、演算部38において、重み付け補正された糸走行基準値φAVEnを基にした異常判定(異番手検出)を行わせる。尚、重み付け補正を行う条件および重み付け補正を行う場合の前回分の糸走行基準値φAVEnの重みは、設定変更可能となっている。感度調整装置34において算出された糸走行基準値φAVEnは、通信部36を介して中央制御装置44に送信される(S25)。中央制御装置44では、受信した複数ユニット分の糸走行基準値φAVEnの平均を求める。この平均値は、全ての感度調整装置34に送信され、未だ最初の糸走行基準値φAVEnが確定していないユニット30について異常判定(異番手検出、糸欠点判断)用および前回分の糸走行基準値として使用される。
【0025】この後、図4の検出感度調整ルーチンにリターンし、糸Yが走行しているか否かを判定する(S3)。糸Yが走行していれば(S3,YES)、上述と同様の動作により検出器32の受光部32bの検出信号をデジタル化した検出値Sを順次記憶部37に格納してサンプリングを行う(S4)。そして、検出値Sのサンプリングを継続しながら、前回の補正処理から今回の補正処理までに相当する1ブロック分の格納領域から一定のサンプリング数の検出値Sを読み出し、これらの検出値Sの合計値をサンプリング数で除算して平均化することによって、平均値Saveを算出する(S5)。
【0026】この後、平均値Saveと、上述のS2で求めた糸走行基準値φAVEnにオフセット値OSを加算した合計値(φAVEn+OS)とを比較する(S6)。そして、平均値Saveが合計値(φAVEn+OS)以上であれば(S6,YES)、検出器32の検出感度を糸走行基準値φAVEnを基準とした上限値以下に補正する出力周波数Fを求める+側φ補正処理を行い(S7)、平均値Saveが合計値(φAVEn+OS)未満であれば(S6,NO)、検出器32の検出感度を糸走行基準値φAVEnを基準とした下限値以上に補正する出力周波数Fを求める-側φ補正処理を行う(S8)。
【0027】この後、S7およびS8で設定された出力周波数Fの駆動パルスをパルス出力部39から出力し、F/V変換部42およびV/I変換部43を介して駆動パルスの出力周波数Fに対応した駆動電流を検出器32の発光部32aに供給する。そして、発光部32aから駆動電流に応じた発光量でもって光を出射させ、糸Yを介して受光部32bで受光させることによって、検出器32の検出感度を調整する(S9)。この後、S3を再実行し、糸Yが走行していれば(S3,YES)、次の1ブロック分の検出値Sを読み出し(S4)、これらの検出値Sの平均値Saveと糸走行基準値φAVEnとを基にした検出感度の調整を繰り返す(S3?S9)。
【0028】次に、演算部38において糸欠点を検出し、糸Yを切断して糸継ぎを行う旨の糸継ぎ指令信号を出力した場合のように、S3において、糸Yの走行が停止されたと判断した場合には(S3,NO)、検出器32の駆動信号を調整して受光部32bの出力を糸無時基準値であるオフセット値OSに調整する糸無時の感度調整処理が行われる。先ず、再度、糸Yが走行してるか否かを判定し(S1)、糸Yが走行していなければ(S1,NO)、検出器32からの検出値Sを順次記憶部37に格納してサンプリングを行う(S10)。そして、検出値Sのサンプリングを継続しながら、糸Yの所定長さに相当する1ブロック分の格納領域から一定のサンプリング数の検出値Sを読み出し、これらの検出値Sの合計値をサンプリング数で除算して平均化することによって、平均値Saveを算出する(S11)。
【0029】この後、平均値Saveとオフセット値OSとを比較し(S12)、平均値Saveがオフセット値OS以上であれば(S12,YES)、検出器32の検出感度をオフセット値OSを基準とした上限値以下に補正する出力周波数Fを求める+側0補正処理を行い(S13)、平均値Saveがオフセット値OS未満であれば(S12,NO)、検出器32の検出感度をオフセット値OSを基準とした下限値以上に補正する出力周波数Fを求める-側0補正処理を行う(S14)。
【0030】この後、S13およびS14で設定された出力周波数Fの駆動パルスをパルス出力部39から出力し、F/V変換部42およびV/I変換部43を介して駆動パルスの出力周波数Fに対応した駆動電流を検出器32の発光部32aに供給することによって、検出器32の検出感度を調整する(S15)。この後、S1を再実行し、糸Yが停止していれば(S1,NO)、次の1ブロック分の検出値Sを読み出し(S10)、これらの検出値Sの平均値Saveとオフセット値OSとを基にした検出感度の調整を繰り返す(S1・S10?S15)。
【0031】上記のようにして糸Yが停止している期間中に繰り返して実行されるS13の+側0補正処理およびS14の-側0補正処理は、検出器32に糸Yが存在してない状態で行われるものであるため、自動糸継装置7により糸Yを切断してから糸継ぎを完了するまでに、検出器32の検出感度をオフセット値OSの基準にまで急速に合わせる必要がある。従って、平均値Saveのオフセット値OSを越えるまでは、短周期の急速補正が行われる。尚、この糸継ぎ動作時においては、図3に示すように、糸拾いノズル22を上方に移動して糸Yを保持する際に、クリーニングノズル26からエアーを検出器32に噴出して埃等を吹き飛ばすクリーニング処理を行うが、クリーニング処理後糸継ぎを完了するまでに所定時間(例えば5秒)の余裕がある。
【0032】これにより、感度調整装置34は、糸Yが走行していないときにはS10?S15を繰り返して実行することによって、オフセット値OSを基準にして検出器32を感度調整することが可能になっている一方、糸Yが走行しているときはS2?S9を繰り返して実行することによって、少なくとも糸継ぎ動作毎、即ち、糸Yの走行が開始する毎に更新される糸走行基準値φAVEnを基にして検出器32を感度調整することが可能になっている。尚、演算部38において、検出値Sに基づいて糸走行の有無が判断され、糸継ぎ完了後の糸走行開始が検出されると共に、その糸走行開始信号に基づいて糸走行基準値φAVEnを更新するための検出値のサンプリングが開始される。
【0033】以上のように、本実施形態の感度調整装置34は、図1に示すように、駆動信号に応じた検出感度でもって糸Yの状態に応じた検出信号を出力する検出器32の検出感度を調整するものであり、検出信号が入力され、駆動信号を出力するマイクロコンピュータ35(制御部)を有し、マイクロコンピュータ35は、各ヤーンクリアラ3毎に、糸走行時の検出値S(検出信号)の平均値から糸走行基準値φAVEnを演算し、検出値Sを糸走行基準値φAVEnと比較した結果に基づいて駆動信号を増減するように構成されている。
【0034】尚、本実施形態においては、1台のマイクロコンピュータ35で複数のヤーンクリアラ3の検出器32を時分割により制御しているが、これに限定されるものではなく、マイクロコンピュータ35の処理速度が低ければ、1台のマイクロコンピュータ35で一つのヤーンクリアラ3の検出器32を制御するようになっていても良い。
【0035】これにより、マイクロコンピュータ35が各ヤーンクリアラ3毎に糸走行基準値φAVEnを演算し、この糸走行基準値φAVEnに基づいて各ヤーンクリアラ3の検出器32の駆動信号を補正するため、ヤーンクリアラ3の検出器32毎に異なる温度変化や経時変化を生じていても、各検出器32の検出感度を正確に補正することができ、結果として糸Yの状態を高精度に検出することができる。」

エ 上記ウより、【0021】には「検出感度調整ルーチン」を実行することが記載されているから、実行される「検出感度調整ルーチン」は、感度調整方法であるといえる。

上記記載事項アないしエから、引用文献1には以下の発明が記載されていると認められる。(以下、「引用発明」という。)

「紡績される糸Yの太さを検出するヤーンクリアラ3における検出器32の感度調整方法であって、
糸走行開始から所定期間経過後、検出器32の受光部32bから入力された検出値Sのサンプリングを行い、1ブロック分の一定のサンプリング数の検出値Sの合計値をサンプリング数で除算して平均化することによって、以後の糸走行時に使用される糸走行基準値φAVEnを算出し、
その後、糸Yが走行している場合、検出器32の受光部32bの検出信号をデジタル化した検出値Sを順次記憶部37に格納してサンプリングを行い、
検出値Sのサンプリングを継続しながら、前回の補正処理から今回の補正処理までに相当する1ブロック分の格納領域から一定のサンプリング数の検出値Sを読み出し、これらの検出値Sの合計値をサンプリング数で除算して平均化することによって、平均値Saveを算出し、
平均値Saveと、糸走行基準値φAVEnにオフセット値OSを加算した合計値(φAVEn+OS)とを比較し、
この比較から検出器32の検出感度の補正処理を行うことにより、検出器32毎に異なる温度変化や経時変化を生じていても、各検出器32の検出感度を正確に補正することを可能としたものであり、
当該検出感度の補正処理は、糸欠点検出処理よりも長い周期で行われる、
感度調整方法。」

(2)対比
本願発明と引用発明を対比する。

ア 引用発明の「紡績される糸Y」、「太さ」、「検出器32」は、それぞれ、本願発明の「繊維供試品(9)」、「少なくとも1つのパラメータ(302)」、「装置」に相当する。

イ 引用発明の「太さを検出する」ことは、本願発明の「少なくとも1つのパラメータ(302)を測定する」ことに相当する。

ウ 引用発明の「糸Yが走行している場合、検出器32の受光部32bの検出信号をデジタル化した検出値Sを順次記憶部37に格納してサンプリングを行」うことは、本願発明の「繊維供試品(9)の少なくとも1つのパラメータ(302)が本装置により測定(202)され」ることに相当する。

エ 引用発明の「糸走行基準値φAVEn」は、「検出器32の受光部32bから入力された検出値Sのサンプリングを行い、1ブロック分の一定のサンプリング数の検出値Sの合計値をサンプリング数で除算して平均化することによって」算出されるものであるところ、当該検出器32が糸Yの太さを検出するものであることを考慮すれば、当該「糸走行基準値φAVEn」は、測定対象である糸Yの太さに関係する所定の値であるといえる。また、当該「糸走行基準値φAVEn」は、糸Y自体を測定して求めているものであるから、測定される糸Yに特有であるといえる。さらに、当該「糸走行基準値φAVEn」は、検出器毎に測定された結果に基づいて算出されるものであり、当該算出された「糸走行基準値φAVEn」は、他の同じ装置の信号の平均値によって求められるものではないから、「他のこのような本装置の測定とは無関係な」値であるといえる。よって、引用発明の「糸走行基準値φAVEn」は、測定される糸Yに特有であり、測定対象である糸の太さに関係する所定の値である、他のこのような本装置の測定とは無関係な値であるといえる。
また、「糸走行基準値φAVEnにオフセット値OSを加算した合計値(φAVEn+OS)」は、上記の「糸走行基準値φAVEn」に「オフセット値OS」を加算して求められるものであるところ、「糸走行基準値φAVEnにオフセット値OSを加算した合計値(φAVEn+OS)」は、測定される糸Yに特有であり、測定対象である糸の太さに関係する値から求められる、他のこのような本装置の測定とは無関係な値であるといえる。
そうすると、引用発明の「糸走行基準値φAVEnにオフセット値OSを加算した合計値(φAVEn+OS)」は、本願発明の「測定される供試品(9)に特有であり、繊維構成体の直径及び/又は異物含有量に関係する所定の値から求められる、他のこのような本装置の測定とは無関係な目標値(305)」に相当する。

オ 引用発明の「平均値Save」は、検出器32によって測定された値から求められるものであるから、本願発明の「測定(202)の結果(304)」に相当する。

カ 本願発明は、「当該測定(202)に使用される供試品部分は、少なくとも統計的に十分代表的な供試品(9)の試料が測定されるような長さ」であるのに対し、引用発明は「糸Yが走行している場合、検出器32の受光部32bの検出信号をデジタル化した検出値Sを順次記憶部37に格納してサンプリングを行い、検出値Sのサンプリングを継続しながら、前回の補正処理から今回の補正処理までに相当する1ブロック分の格納領域から一定のサンプリング数の検出値Sを読み出し、これらの検出値Sの合計値をサンプリング数で除算して平均化することによって、平均値Saveを算出」しているものである。
ここで、引用発明では、糸Yが走行している場合に、順次検出値Sのサンプリングを行い、前回の補正処理から今回の補正処理までに相当する1ブロック分の格納領域から一定のサンプリング数の検出値Sを得ているものであるから、前回の補正処理から今回の補正処理までに測定された糸Yの長さにわたって検出値Sのサンプリングが行われていることは明らかである。よって、「一定のサンプリング数の検出値S」を得る際の糸Yの部分は、本願発明の「当該測定(202)に使用される供試品部分」に相当する。
また、引用発明では、検出値Sの合計値をサンプリング数で除算して平均化をおこなっているものであるから、当該平均化により、糸Yの平均的な太さに対応する値が測定されるものであるといえる。
したがって、引用発明において、上記一定のサンプリング数を得るための糸Yの長さは、本願発明における「少なくとも統計的に十分代表的な供試品(9)の試料が測定されるような長さ」に相当する。

キ 本願発明の「この比較から装置の状態が推論される」とは、汚染や劣化等に起因する装置の状態変化を、測定の結果と目標値とを比較することによって推定しているものであるところ、引用発明においても、温度変化や経時変化による検出器の状態変化を、測定の結果と目標値とを比較することによって求め、検出感度の補正処理を行っているものであるから、引用発明の「この比較から検出器32の検出感度の補正処理を行う」ことは、本願発明の「この比較から装置の状態が推論される」ことに相当する。

ク 引用発明の「感度調整方法」は、温度変化や経時変化による検出器の状態を推定していることから、本願発明の「診断方法」に相当する。

上記ア?クの対比を踏まえれば、本願発明と引用発明とは、以下の一致点で一致し、以下の相違点で一応相違する。

<一致点>
「繊維供試品(9)の少なくとも1つのパラメータ(302)を測定する装置の診断方法であって、
繊維供試品(9)の少なくとも1つのパラメータ(302)が本装置により測定(202)され、
測定(202)の結果(304)が、測定される供試品(9)に特有であり、繊維構成体の直径及び/又は異物含有量に関係する所定の値から求められる、他のこのような本装置の測定とは無関係な目標値(305)と比較(203)され、当該測定(202)に使用される供試品部分は、少なくとも統計的に十分代表的な供試品(9)の試料が測定されるような長さであり、
この比較(203)から装置の状態が推論される、
診断方法。」

<相違点>
比較(203)から推論される状態が、本願発明は、「本装置の汚染度、老化度又は消耗度である」のに対し、引用発明では、温度変化や経時変化による検出器の状態変化である点。

(3)判断
ア 相違点について
まず、本願発明における「比較(203)から推論される状態が、本装置の汚染度、老化度又は消耗度である」との発明特定事項が意味するところについて検討する。
本願明細書の段落【0007】、【0023】及び、【0025】には、以下の事項が記載されている。

「【0007】
本発明の課題は、繊維供試品の少なくとも1つのパラメータを測定する装置用の診断方法を提示し、それにより装置の規則正しくない状態、例えば装置の汚染度、老化度又は消耗度が自動的に確実に検出されるようにすることである。」
「【0023】
本発明による診断方法では、図2に示すように、測定の結果が所定の目標値305と比較される(203)。比較203は、例えば目標値305と測定結果304との差306の形成によって行うことができる。図3(a)におけるように、差306が所定の閾値の下にあると、比較203は十分な結果を生じ、即ちセンサ装置1は汚染していないか又は適度に汚染しているだけである。」
「【0025】
上記の実施例はセンサ装置1(図1参照)の汚染に関する。しかし本発明による装置の規則正しくない状態は、別の原因例えば照明素子3にある発光ダイオードの老化を持っていることもある。後者の場合掃除207(図2参照)の代わりに、発光ダイオード、照明素子3又はセンサ素子1全体の交換を行うことができる。装置の規則正しくない状態の別の原因は、例えば測定スリット5を区画する透明な窓の摩耗であることがある。この場合適当な介入は、測定セル本体2又はセンサ装置1全体の交換であろう。本発明による装置の規則正しくない状態の別の原因は、装置へのおなじような介入によって除去することができる。」

上記記載に基づくと、比較(203)とは、目標値(305)と測定結果(304)との差を求めることであって、当該比較のみによっては、装置の規則正しくない状態の原因を区別して推論することはできないものと認められる。
そうすると、本願発明における「比較(203)から推論される状態が、本装置の汚染度、老化度又は消耗度である」との発明特定事項は、汚染度、老化度、消耗度の各々を区別して推論することを意味するものではなく、単に、比較(203)から装置の規則正しくない状態が推論され、当該規則正しくない状態には、汚染度、老化度、消耗度が含まれうることを意味しているにすぎないと解するのが相当である。
これに対し、引用発明は、温度変化や経時変化による検出器の状態変化を認識しているものであって、当該「経時変化」には、検出器の汚染度、劣化度、又は消耗度が含まれることは明らかであるから、引用発明は、本願発明と同様に、「比較(203)から推論される状態が、本装置の汚染度、老化度又は消耗度である」との事項を満たしていると認められる。
よって、上記相違点は実質的な相違点ではない。
仮に、上記相違点が実質的な相違点であったとしても、引用文献1の【0015】において、「空気噴出装置31は、クリーニングノズル26の開口部から空気を噴出させることによって、ヤーンクリアラ3に付着した風綿や埃を吹き飛ばして除去するようになっている。」と記載されているように、引用文献1には、検出器が風綿や埃によって汚染されることが示唆されているものであり、また、検出器を構成する素子や部品が、老化や消耗することは、検出装置の分野において技術常識であるから、「比較から推論される状態」を、「装置の汚染度、老化度又は消耗度」とする点は、引用文献1の上記示唆や当該技術常識を考慮しながら、当業者が適宜設定し得る設計的事項にすぎない。

イ 効果について
本願発明の奏する作用効果は、引用発明の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

ウ 請求人の主張について
(ア)請求人は、令和2年2月25日付け意見書(以下、「本件意見書」という。)において、引用文献1に記載の方法は、ヤーンクリアラの可逆的な変化を補償し、そしてその際、ヤーンクリアラが正常に機能していることを前提条件としているため、ヤーンクリアラの検出器が汚染したとき、これは引用文献1の方法によっては認識されることも排除されることもできないことから、引用文献1からは、装置の正常でない不可逆的な状態を認識するという技術的課題は生じ得ない旨を主張(以下、「主張1」という。)している。
上記主張1について検討すると、引用発明は、「前回の補正処理から今回の補正処理までに相当する1ブロック分の格納領域から一定のサンプリング数の検出値Sを読み出し、これらの検出値Sの合計値をサンプリング数で除算して平均化することによって、平均値Saveを算出し、当該平均値Saveと、糸走行基準値φAVEnにオフセット値OSを加算した合計値(φAVEn+OS)とを比較し、この比較から検出器32の検出感度の補正処理を行うことにより、検出器32毎に異なる温度変化や経時変化を生じていても、各検出器32の検出感度を正確に補正することを可能と」するものであって、前回の補正処理から、今回の補正処理までの間に、検出器の汚染などの不可逆的な状態変化が生じた際には、平均値SaveとφAVEn+OSとの間に差が生じるものであることは明らかである。したがって、引用発明は、補正処理と補正処理の間に生じる検出器の状態変化を認識した上で、当該状態変化による誤差を補償する処理、すなわち、当該状態変化を排除する処理を行っているものであるから、引用発明は、本願発明と同様に、検出器の汚染等の装置の正常でない不可逆的な状態を、平均値SaveとφAVEn+OSとを比較することによって認識しているものである。
また、仮に、上記主張1が、引用発明が、「比較に基づいて、検出感度の補正処理を行っている」点において、本願発明と技術的に異なる旨を主張するものであると解したとしても、本願明細書の【0024】において、「掃除が行われていない場合、装置を少なくとも調整することができる(206)。この目的のため次の測定209のために調整アルゴリズムが準備され、この調整アルゴリズムにより測定値が修正されて、測定の結果が目標値305に一致するようになる。調整アルゴリズムは、修正される測定値の平均値が目標値305に一致するように、調整アルゴリズムが例えば測定値と修正係数との乗算を含むことができる。このような修正係数は、目標値305と測定202の際求められる平均値304との関係に等しい。」と記載されているように、比較に基づいて、測定値が目標値に一致するように調整を行うことも、本願発明の範囲に含まれるものであるから、この点が、本願発明と引用発明との相違点となるものではない。
よって、上記主張1は採用できない。

(イ)また、請求人は、本件意見書において、「本願発明においては、測定の結果が、測定される供試品に特有であり、繊維構成体の直径及び/又は異物含有量に関係する所定の値から求められる、他のこのような本装置の測定とは無関係な目標値と比較される点」で引用文献1に記載の方法と相違するとした上で、「当業者は、引用文献1から、本願にかかる解決策への一切の示唆を受けることができません。逆に引用文献1においては本願発明と遠ざかる方向へと導かれます。段落0002-0004に記載のように引用文献1は、すべてのヤーンクリアラに固定の参照電圧φが与えられる先行技術から出発しています。これは段落0004に記載のようにデメリットとしてあらわされています。このような教義に基づいて、引用文献1から出発する当業者は、相違点(a)へと導かれません。この中に定義される目標値は、まさにそのような固定の値であって、引用文献1は、そのような値から離れることを明示的に望んでいるからです。」と主張している(以下、「主張2」という。)。
上記主張2について検討すると、本願発明の「目標値」は、「測定される供試品に特有であり、繊維構成体の直径及び/又は異物含有量に関係する所定の値から求められる、他のこのような本装置の測定とは無関係な目標値」と特定されているのみであって、当該目標値が「固定の値」であるとは限定されていないから、本願発明の「目標値」が「固定の値」であるとする上記主張2は、本願発明に対応しない主張である。
さらに、本願発明では「他のこのような本装置の測定とは無関係な」目標値と特定し、本願明細書の【0011】において、「米国特許出願公開第5748481号明細書から公知のように、目標値が例えば多数の同じ装置の適当な信号の平均値によって形成されない限り、他のこのような装置の測定とは無関係である。これは第1に次の利点を持っている。即ち本発明による方法は、別の同じ姉妹装置の同時運転を指示されてない独立装置に対しても機能する、という利点を持っている。第2に本発明による方法は、従来技術による方法よりも確実である。なぜならば、すべての装置が同じように規則正しくない状態にある時、従来技術による方法は機能しないからである。」と記載しているように、引用文献1の【0002】?【0004】に記載されるような、多数の同じ装置の適当な信号の平均値によって目標値を形成することは、本願においても、従来技術して認識されているものであって、本願発明の範囲に含まれないものであるから、「このような教義に基づいて、引用文献1から出発する当業者は、相違点(a)へと導かれません。この中に定義される目標値は、まさにそのような固定の値で」あるとの上記主張は、本願発明と対応しておらず、本願明細書の【0011】の記載とも整合しない主張である。
そして、引用発明の「糸走行基準値φAVEnにオフセット値OSを加算した合計値(φAVEn+OS)」が、本願発明における「目標値」に相当することは、上記「(2)対比」エにて指摘したとおりであるから、上記主張2は採用できない。

(ウ)さらに、請求人は、本件意見書において、「本願発明においては、比較から推論される状態が、本装置の汚染度、老化度又は消耗度である点」で引用文献1に記載の方法とは相違する旨を主張(以下、「主張3」という。)するが、この点については、上記「ア 相違点について」において指摘したとおりである。

(エ)よって、請求人の上記主張はいずれも採用できない。

(4)小括
以上のとおり、本願発明は、引用発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。また、本願発明は、引用発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、本願は、発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない。また、本願発明は、引用発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。さらに、本願発明は、引用発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2020-03-26 
結審通知日 2020-04-01 
審決日 2020-05-19 
出願番号 特願2016-139351(P2016-139351)
審決分類 P 1 8・ 113- WZ (B65H)
P 1 8・ 536- WZ (B65H)
P 1 8・ 121- WZ (B65H)
P 1 8・ 537- WZ (B65H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 秀之笹木 俊男  
特許庁審判長 藤本 義仁
特許庁審判官 尾崎 淳史
小林 謙仁
発明の名称 繊維測定装置の診断方法、繊維測定装置の運転方法及び繊維測定装置  
代理人 篠原 淳司  
代理人 江崎 光史  
代理人 鍛冶澤 實  
代理人 中村 真介  

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