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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B25F
管理番号 1366782
審判番号 不服2020-2873  
総通号数 251 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-03-02 
確定日 2020-10-27 
事件の表示 特願2018-542001「電動工具」拒絶査定不服審判事件〔平成30年4月5日国際公開、WO2018/061556、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成29年8月25日(優先権主張 平成28年9月30日)を国際出願日とする出願であって、その主な手続の経緯は以下のとおりである。
令和元年 5月30日付け:拒絶理由通知
同 年 8月 1日 :意見書、手続補正書の提出
同 年 9月 2日付け:拒絶理由通知
同 年10月31日 :意見書、手続補正書の提出
同 年11月27日付け:拒絶査定
令和2年 3月 2日 :審判請求と同時に手続補正書の提出
同 年 6月16日 :前置報告
同 年 8月21日 :上申書の提出

第2 原査定の概要
原査定(令和元年11月27日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。
本願請求項1に係る発明は、以下の引用文献1、5-6に基づいて、その発明の属する技術分野における通常の技術を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。同様に、請求項2-3、6、8に係る発明は以下の引用文献1、5-6に基づいて、請求項4に係る発明は以下の引用文献1-2、5-6に基づいて、請求項5、7係る発明は以下の引用文献1-3、5-6に基づいて、請求項9-10に係る発明は以下の引用文献1-6に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2006-181667号公報
2.特開2007-326289号公報(周知技術を示す文献)
3.特開2015-178154号公報(周知技術を示す文献)
4.特開2010-201516号公報
5.特開2009-166155号公報(周知技術を示す文献)
6.特開平9-177837号公報(周知技術を示す文献)

第3 本願発明
本願請求項1-8に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明8」という。)は、令和2年3月2日提出の手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1-8に記載された事項により特定される発明であり、そのうち本願発明1は以下のとおりの発明である。

「ロータを有するモータと、
所定の方向に延び、前記モータによって前記ロータと一体的に回転される回転軸と、
前記回転軸の回転力が伝達されることで回転し、先端工具を着脱可能な出力部と、
前記回転軸の回転を減速して前記出力部に伝達する減速機構と、
前記出力部を支持し、前記減速機構を収容する金属製のケースと、
前記出力部の正逆両方向の回転を規制する固定機構と、
前記所定の方向における前記回転軸の一端に位置する規制部材と、を有し、
前記固定機構は、前記所定の方向における前記ケースと前記ロータとの間の位置で前記回転軸と係合することで前記回転軸の回転を規制可能であって、作業者が操作可能なスピンドルロックを有し、
前記規制部材は、前記ケースに支持されるとともに、前記回転軸の正逆両方向のうち一方の方向への回転を許容するとともに他方の方向への回転を禁止し、前記回転軸が前記一方の方向へ回転する場合において前記回転軸を回転可能に軸支する軸受部材として機能することを特徴とする電動工具。」

また、本願発明2-8は、概略、本願発明1を減縮した発明である。

第4 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
(1)引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は理解の便のため当審にて付与。以下同。)。

ア「【0001】
本発明は、例えばディスクグラインダのように、先端工具の回転運動を利用して加工作業を行う電動工具に関する。」

イ「【0013】
図1に示すように、電動ディスクグラインダ101は、長軸方向を前後方向(図示左右方向)とするものであって、モータハウジング105およびギアハウジング107からなる本体部103によって外郭が構成されている。モータハウジング105は、概ね円筒形状に形成され、当該モータハウジング105内には、駆動モータ111が収容されている。駆動モータ111は、本発明における「モータ」に対応する。駆動モータ111は、モータハウジング105内に回転可能に配置される回転子113と、モータハウジング105内に止着手段としてのネジ114によって固定される固定子115とを主体にして構成されており、回転子113の回転軸線方向が電動ディスクグラインダ101の長軸方向となるように配置されている。駆動モータ111のモータ軸111aの前端部側(図示左側)には、小ベベルギア117が取り付けられるとともに、冷却ファン119が当該モータ軸111aと一体回転するように取り付けられている。
【0014】
モータハウジング105の前端部に連接されるギアハウジング107内には、駆動モータ111の回転出力を砥石141に伝達する動力伝達機構109が収容されている。砥石141は、本発明における「先端工具」に対応する。動力伝達機構109は、小ベベルギア117、回転筒体121、スピンドル123、を主体として構成される。回転筒体121は、本発明における「駆動側回転部材」に対応し、スピンドル123は、本発明における「被動側回転部材」に対応する。
【0015】
図2に示すように、回転筒体121は、小ベベルギア117(図1参照)と常時に噛み合い係合する大ベベルギア122を一体に有し、その軸方向が駆動モータ111の回転軸線に直交する方向、すなわち上下方向となるように配置される。スピンドル123は、回転筒体121の筒孔内に相対回動可能に貫通(したがって、同心的に配置)されるとともに、上下の軸受125,126(図1参照)によって回転自在に支持されており、複数(例えば2個)の鋼球(スチールボール)127を介して回転筒体121の回転が伝達される構成とされる。鋼球127は、本発明における「動力伝達部」に対応する。鋼球127は、スピンドル123の外周部における当該スピンドル123の軸線に関して対称位置に配置され、周方向のおよび軸方向の移動が規制された状態で保持されている。回転筒体121の内周面には、周方向に所定長さで延びる溝129(図3の断面C-C参照)が当該回転筒体121の軸線に関して対称に設けられている。そして各溝129に鋼球127が周方向への相対移動可能に配置され、溝129の周方向における一端部(回転筒体121の回転方向後側端部)129aが鋼球127に係合することで回転筒体121の回転がスピンドル123に伝達される構成とされる。すなわち、回転筒体121とスピンドル123は、鋼球127と溝129の周方向端部との間に設定された間隙C(図3の断面C-C参照)に対応する範囲内での相対回転が許容されている。
【0016】
図1に示すように、スピンドル123の先端(下端)は、ギアハウジング107の下面から突出され、その突出端部には二面幅とネジ部を有する砥石装着部131が形成されている。そして砥石装着部131には、砥石141が内側(砥石上面側)と外側(砥石下面側)の取付フランジ133,135を介して上下方向から挟み込むようにして着脱自在に装着される。砥石141の上面側に位置する内側の取付フランジ133は、砥石装着部131に二面幅を介して相対回動不能に取り付けられ、下面側に位置する外側の取付フランジ135をネジ部にねじ込むことで砥石141を取り付ける構造である。外側の取付フランジ135は、スピンドル123の回転方向と逆方向が締まり方向となるように設定される。つまり砥石141の回転駆動時に締まり勝手となるように設定されている。なお砥石141の後ろ半分は、カバー143によって覆われている。
【0017】
次にスピンドル123の回転駆動を停止するためのブレーキ機構151につき、図2および図3を参照しつつ説明する。ブレーキ機構151は、スピンドル123の回転をロックし、あるいは当該ロックを解除する巻バネ153と、本体部103に固定された第1リング155と、スピンドル123と一体回転するように鋼球(スチールボール)157を介して連接された第2リング159と、回転筒体121から上方へと一体に延びる上方円筒部121aとを主体として構成されている。・・・」

ウ「【0027】
(第2の実施形態)
第2の実施形態では、図7に示すように、スピンドル123の上端側軸端部に逆回転規制手段としての一方向クラッチ145を設け、これによりスピンドル123が研削作業あるいは研磨作業のための回転方向とは逆方向へ回転しないように規制する構成としている。このような一方向クラッチ145を設けることによって、巻バネ153によるスピンドル123のロックとの組み合わせによって、外側フランジ135の締め付け方向および緩める方向との両方向につきスピンドル123をロックできるため、既存のスピンドルロック装置171(図1参照)を省略することが可能となるし、スピンドル123をわざわざロックする作業を必要としないため、作業性が向上する。」

エ 図1




オ 図7




(2)引用文献1に記載された技術的事項
ア 上記(1)イの段落【0015】の「・・・回転筒体121は、小ベベルギア117(図1参照)と常時に噛み合い係合する大ベベルギア122を一体に有し・・・」の記載事項から、動力伝達機構109は、小ベベルギア117が取り付けられるモータ軸111aの回転を大ベベルギア122で減速してスピンドル123に伝達するという技術的事項が開示されていると認められる。

イ 図1及び7から、一方向クラッチ145は、上の軸受126の位置に位置していることから、スピンドル123が一方の方向へ回転する場合において前記スピンドル123を回転可能に軸支する軸受部材として機能するという技術的事項が開示されていると認められる。

(3)引用発明1
上記(1)の記載事項及び上記(2)の技術的事項から、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「回転子113を有する駆動モータ111と、
所定の方向に延び、前記駆動モータ111によって前記回転子113と一体的に回転されるモータ軸111aと、
前記モータ軸111aの回転力が伝達されることで回転し、砥石141を着脱可能なスピンドル123と、
前記モータ軸111aの回転を減速して前記スピンドル123に伝達する動力伝達機構109と、
前記スピンドル123を支持し、前記動力伝達機構109を収容するギアハウジング107と、
スピンドル123の回転をロックし、あるいは当該ロックを解除する巻バネ153と、
前記スピンドル123の一端に位置する一方向クラッチ145と、を有し、
前記一方向クラッチ145は、前記ギアハウジング107に支持されるとともに、前記スピンドル123の正逆両方向のうち一方の方向への回転を許容するとともに他方の方向への回転を禁止し、前記スピンドル123が前記一方の方向へ回転する場合において前記スピンドル123を回転可能に軸支する軸受部材として機能する電動工具。」

2.引用文献5について
(1)原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献5には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア「【0001】
本発明は、釘、鋲、ステープル等の留め具を被打込み部材に打込むための留め具打込機に関し、特に、圧縮バネによって付勢されたプランジャを解放してプランジャに取り付けられたブレードに打撃力を与えることによって留め具を打込むバネ駆動式留め具打込機に関するものである。」

イ「【0030】
図3に示されるように、本実施形態によれば、モータ7の回転出力軸7aの他端には、胴体ハウジング部2の取付部2bに固定された一方向クラッチ(逆回転防止機構)24が設置されている。一方向クラッチ24は、後述するように、モータ7が正回転方向(A方向)のみに回転することを許容し、逆回転方向(B方向)の回転を禁止するために設けられるものである。すなわち、モータ7の回転出力軸7aに、ドラム13がワイア16を巻上げる方向Aとは逆方向Bに回転させるようなトルクが加わった場合、そのような逆回転トルクに打勝って、逆方向Bの回転を阻止する機能を持たせるものである。勿論、正方向Aの回転トルクが加わった場合は、損失トルク以上のトルクに対しては、正方向Aの回転(空転)を許容する。」

(2)引用文献5記載の技術的事項
上記(1)の記載事項から、上記引用文献5には、留め具打込機において、一方向クラッチ(逆回転防止機構)24が、モータ7の回転出力軸7aの他端に位置し、胴体ハウジング部2の取付部2bに固定され、モータ7が正回転方向のみに回転することを許容し、逆回転方向の回転を禁止する技術的事項が記載されていると認められる。

3.引用文献6について
(1)引用文献6の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献6には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア「【0001】
【発明の属するの技術分野】本発明は、内輪と外輪との間に複数の転動体と複数のカムとが前記内輪と外輪の幅方向に並列して組み込まれている軸受一体型一方向クラッチを内蔵した動力伝動装置に関する。」

イ「【0014】前述した構成において、モータ9が起動されて回転軸15が正転方向に回転される場合には、前記軸受一体型一方向クラッチ1は空転し、回転軸15は支障なく回転駆動される。一方、回転軸15に外部から逆転方向のトルクが作用した場合には、軸受一体型一方向クラッチ1によって回転軸15の逆転が阻止される。」

ウ「【0020】したがって、前記モータプーリ31を、下方から上方へ重量物を搬送する傾斜したベルトコンベヤ等に用いることによって、傾斜した搬送面の途中でモータ35が停止した場合に、重量物を落下させることなくその場に停止させることができる。」

エ「【0026】特に軸受一体型一方向クラッチをモータの回転軸を支持する軸受として用いて動力伝動装置が構成されている場合には、独立した一方向クラッチを内蔵している場合と比較して、モータの軸方向長さを短くできる。しかも、減速機の入力軸に前記モータの回転軸を連結して使用することによって、減速機の出力軸側に大きな逆転方向トルクが作用しても、回転軸に作用する逆転方向のトルクは小さくなるため、モータに組み込む軸受一体型一方向クラッチに小型のものを使用することが可能となる。」

(2)引用文献6記載の技術的事項
上記(1)の記載事項から、上記引用文献6には、軸受一体型一方向クラッチを内蔵した動力伝動装置において、軸受一体型一方向クラッチ1は、回転軸15の一端に位置し、回転軸15の正逆両方向のうち一方の方向への回転を許容するとともに他方の方向への回転を禁止し、前記回転軸15が前記一方の方向へ回転する場合において前記回転軸15を回転可能に軸支する軸受部材として機能する技術的事項が記載されていると認められる。

4.その他の文献について
(1)前置報告書において引用された引用文献1(特開2001-293672号公報)
ア 前置報告書において引用された引用文献1の記載事項
前置報告書において引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。

(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、バッテリーパックを電源としてハウジングに装着する丸鋸機等の充電式電動工具に関する。」

(イ)「【0006】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は充電式丸鋸機(以下「丸鋸機」という。)の断面説明図、図2はその背面説明図、図3はその平面説明図で、丸鋸機1は、四角形状のベース2と、ベース2上に配置される本体3とからなる。本体3において、4はブレードケースで、後方(図1の右側を後方として説明する。)の筒状部5には、モータ7を内蔵したモータハウジング6が連結されて、モータ7の出力軸8が筒状部5内に突出してボールベアリング9に軸支されている。又、筒状部5内では、ボールベアリング10,11によってスピンドル12が出力軸8と平行に軸支され、スピンドル12と一体のギヤ13が出力軸8と噛合し、出力軸8の回転をスピンドル12に伝達可能となっている。更に、スピンドル12の先端では、円盤状の鋸刃15が、スピンドル12の面取部14に嵌着されるインナーフランジ16とアウターフランジ17とで狭持され、アウターフランジ17の前方からスピンドル12に螺合される六角孔付ボルト18をねじ込むことで、鋸刃15がスピンドル12と一体に緊締される。」

(ウ)「【0008】又、ブレードケース4の筒状部5内において、出力軸8を軸支するボールベアリング9の後方には、ロック部材としての帯板状のシャフトロック27がベース2の長手方向に沿ってスライド可能に収容されている。このシャフトロック27は、中央に出力軸8が貫通するリング部28を有し、リング部28の上方に折曲されたストッパ片29が、シャフトロック27のスライド方向と平行に筒状部5に凹設される凹部33内にあって、凹部33に収容されるコイルバネ34によってブレードケース4の軸支側(図2,3の左側、以下シャフトロック27と後述するジョイント35においては、図2,3の左側を後方、右側を前方として説明する。)へ付勢される。そして、ストッパ片29が凹部33の後方内面に当接して停止する図2,3のロック解除位置では、出力軸8をリング部28の中央に位置させると共に、後端の押込み部31を筒状部5の側方から突出させる。一方、リング部28の内周には、出力軸8に形成された二面幅の面取部8aに嵌合可能な嵌合凹部30が形成されて、シャフトロック27をコイルバネ34の付勢に抗して筒状部5内に押し込むことで、嵌合凹部30を面取部8aに嵌合させ、出力軸8の回転をロック可能となっている(ロック位置)。」

(エ) 図1



(オ) 図2




イ 前置報告書において引用された引用文献1に記載された技術的事項
(ア)図1の「出力軸8」と「ギヤ13」の直径を比較すると、ギヤ13は、出力軸8の回転を減速してスピンドル12に伝達するという技術的事項が開示されていると認められる。

(イ)図1の「面取部8a」の位置から、シャフトロック27は、モータの軸線方向における筒状部5とモータ7との間の位置で出力軸8と係合するという技術的事項が開示されていると認められる。

ウ 引用発明2
上記アの記載事項及び上記イの技術的事項から、上記前置報告書において引用された引用文献1には次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

「モータ7と、
所定の方向に延び、前記モータ7によって回転される出力軸8と、
前記出力軸8の回転力が伝達されることで回転し、鋸刃15を着脱可能なスピンドル12と、
前記出力軸8の回転を減速して前記スピンドル12に伝達するギヤ13と、
前記スピンドル12を支持し、前記ギヤ13を収容する筒状部5と、
前記スピンドル12の正逆両方向の回転を規制する固定機構と、を有し、
前記固定機構は、前記所定の方向における前記筒状部5と前記モータ7との間の位置で前記出力軸8と係合することで前記出力軸8の回転を規制可能であって、作業者が操作可能なシャフトロック27を有する電動工具。」

(2)前置報告書において引用された引用文献3(特開昭61-168475号公報)
ア 前置報告書において引用された引用文献3の記載事項
前置報告書において引用された引用文献3には、図面とともに次の事項が記載されている。

(ア)「本発明は電動工具、殊にモータと出力軸との間に減速ギア群が設けられて、減速出力で丸鋸刃のような工具が駆動される電動工具に関する。」(公報第1ページ左下欄下から7?5行)

(イ)「丸鋸刃4はピニオン11と減速ギア21とからなる減速ギア群による減速出力で回転駆動されるものである。
そして、減速ギア群のうちの出力軸20側である減速ギア21は、直接出力軸20に取り付けられるのでなく、軸受部材50を介して取り付けられている。ここにおける軸受部材50は、いわゆるボールサイレントラチェット(フリーホイール)からなるワンウェイクラッチで構成されており、第3図に示すように、内面がカム52とされた外レース51と、リテーナ54によって内方への抜け止めがなされるとともに周方向への微移動が可能な状態で保持された円筒ころ53と、この円筒ころ53を上記カム52における内径が小さくされている方向に押圧付勢するばね55とからなり、減速ギア21の内周面に圧入固着されるとともに内部に出力軸20が挿入され、出力軸20の外周面に円筒ころ53が接触する。
今、第3図(a)に示す方向に外レース51を回転させると、円筒ころ53はカム52と出力軸20外周面との間で形成されるくさび状空間にくい込むことから、出力軸20を減速ギア21とともに回転させる。しかし、減速ギア21が同図(b)に示すように逆方向に回転する時には、円筒ころ53がばね55に抗する方向に移動して外レース51の回転に対してその場で自転を行なう状態となり、空転状態となるために、出力軸20には回転が伝達されず、出力軸20が回転していた時にはこの回転が継続される。」(公報第2ページ右上欄下から4行?右下欄第5行)

(ウ)第3図




イ 前置報告書において引用された引用文献3に記載された技術的事項
上記アの記載事項から、上記前置報告書において引用された引用文献3には、減速出力で丸鋸刃のような工具が駆動される電動工具において、軸受部材50は、出力軸20の正逆両方向のうち一方の方向(第3図における時計回りの方向)への回転は空転させるとともに他方の方向(第3図における反時計回りの方向)への回転は減速ギア21とともに回転させ、前記出力軸20が前記一方の方向へ回転する場合において前記出力軸20を回転可能に軸支する軸受部材として機能する技術的事項が記載されていると認められる。

第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)引用発明1との対比
本願発明1と引用発明1とを対比すると、次のことがいえる。

ア 引用発明1における「回転子113」は、本願発明1における「ロータ」に相当し、以下同様に、「駆動モータ111」は「モータ」に、「モータ軸111a」は「回転軸」に、「砥石141」は「先端工具」に、「スピンドル123」は「出力部」に、「動力伝達機構109」は「減速機構」に、「一方向クラッチ145」は「規制部材」に、それぞれ相当する。

イ 引用発明1の「スピンドル123」と本願発明1の「回転軸」とを対比すると、「回転する軸」という限りにおいて共通する。また、引用発明1の「ギアハウジング107」と本願発明1の「金属製のケース」とを対比すると、「ケース」という限りにおいて共通する。

ウ したがって、本願発明1と引用発明1との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点A)
「ロータを有するモータと、
所定の方向に延び、前記モータによって前記ロータと一体的に回転される回転軸と、
前記回転軸の回転力が伝達されることで回転し、先端工具を着脱可能な出力部と、
前記回転軸の回転を減速して前記出力部に伝達する減速機構と、
前記出力部を支持し、前記減速機構を収容するケースと、
回転する軸の一端に位置する規制部材と、を有し、
前記規制部材は、前記ケースに支持されるとともに、前記回転する軸の正逆両方向のうち一方の方向への回転を許容するとともに他方の方向への回転を禁止し、前記回転する軸が前記一方の方向へ回転する場合において前記回転する軸を回転可能に軸支する軸受部材として機能することを特徴とする電動工具。」

(相違点A1)
減速機構を収容するケースについて、本願発明1は、「金属製のケース」であるのに対し、引用発明1は、「ギアハウジング107」が金属製であるか不明な点。
(相違点A2)
本願発明1は、「出力部の正逆両方向の回転を規制する固定機構」を有し、「前記固定機構は、前記所定の方向における前記ケースと前記ロータとの間の位置で前記回転軸と係合することで前記回転軸の回転を規制可能であって、作業者が操作可能なスピンドルロックを有」するのに対し、引用発明1は、巻バネ及び一方向クラッチを有するものであり、本願発明1のような回転軸と係合する固定機構を有していない点。
(相違点A3)
規制部材について、本願発明1は、「前記所定の方向における前記回転軸の一端に位置」し、「前記回転軸の正逆両方向のうち一方の方向への回転を許容するとともに他方の方向への回転を禁止し、前記回転軸が前記一方の方向へ回転する場合において前記回転軸を回転可能に軸支する軸受部材として機能する」のに対し、引用発明1は、一方向クラッチ145が、モータ軸111aではなくスピンドル123の一端に位置している点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑み、相違点A2から検討する。
引用発明1は巻バネ及び一方向クラッチを有するものであるところ、上記第4の1.(1)ウの段落【0027】に記載されるように、引用発明1では、当該巻バネと一方向クラッチによって、外側フランジ135の締め付け方向および緩める方向の両方向につきスピンドル123をロックできるため、既存のスピンドルロック装置171を省略することが可能となり、スピンドル123をわざわざロックする作業を必要としないものである。
そうすると、外側フランジ135の締め付け方向および緩める方向の両方向につきスピンドル123をロックできることから、スピンドルロック装置を省略可能とした引用発明1について、上記相違点A2に係るスピンドルロックの構成をあえて採用しようとする動機は生じない。よって、他の引用文献に記載された技術的事項を検討するまでもなく、上記相違点A2に係る構成は、引用発明1及び他の引用文献に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に想到できたものとはいえない。

(3)その他の拒絶理由(引用発明2を主引例とする進歩性欠如)の検討
事案に鑑み、前置報告書に示された文献に基づく進歩性の有無についても検討する。
本願発明1と引用発明2とを対比すると、次のことがいえる。

ア 引用発明2における「モータ7」は、本願発明1における「モータ」に相当し、以下同様に、「出力軸8」は「回転軸」に、「鋸刃15」は「先端工具」に、「スピンドル12」は「出力部」に、「ギヤ13」は「減速機構」に、「シャフトロック27」は「スピンドルロック」に、それぞれ相当する。

イ 引用発明2の「前記所定の方向における前記筒状部5と前記モータ7との間」と本願発明1の「前記所定の方向における前記ケースと前記ロータとの間」とを対比すると、「ロータ」は「モータ」の一部であるから、「前記所定の方向における前記ケースと前記モータとの間」という限りにおいて共通する。また、引用発明2の「筒状部5」と本願発明1の「金属製のケース」とを対比すると、「ケース」という限りにおいて共通する。

ウ したがって、本願発明1と引用発明2との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点B)
「モータと、
所定の方向に延び、前記モータによって回転される回転軸と、
前記回転軸の回転力が伝達されることで回転し、先端工具を着脱可能な出力部と、
前記回転軸の回転を減速して前記出力部に伝達する減速機構と、
前記出力部を支持し、前記減速機構を収容するケースと、
前記出力部の正逆両方向の回転を規制する固定機構と、を有し、
前記固定機構は、前記所定の方向における前記ケースと前記モータとの間の位置で前記回転軸と係合することで前記回転軸の回転を規制可能であって、作業者が操作可能なスピンドルロックを有する電動工具。」

(相違点B1)
モータについて、本願発明1は、「ロータを有する」ものであり、回転軸はロータと一体的に回転し、スピンドルロックは所定の方向におけるケースとロータとの間の位置で回転軸と係合するのに対し、引用発明2は、「モータ7」がロータを有するか不明な点。
(相違点B2)
減速機構を収容するケースについて、本願発明1は、「金属製のケース」であるのに対し、引用発明2は、「筒状部5」が金属製であるか不明な点。
(相違点B3)
規制部材について、本願発明1は、「前記所定の方向における前記回転軸の一端に位置する規制部材」、を有し、「前記規制部材は、前記ケースに支持されるとともに、前記回転軸の正逆両方向のうち一方の方向への回転を許容するとともに他方の方向への回転を禁止し、前記回転軸が前記一方の方向へ回転する場合において前記回転軸を回転可能に軸支する軸受部材として機能する」のに対し、引用発明2は、当該規制部材を有していない点。

(4)相違点についての判断
事案に鑑み、相違点B3から検討する。
まず、前置報告書において引用された引用文献1に記載された課題は、鋸刃の交換時等にバッテリーパックが必ず取り外されるようにすることであり、出力部を固定する操作を行うことなく容易に先端工具の交換を可能にするといった課題は記載されていない。
そして、前置報告書において引用された引用文献3にも、上記本願発明1のような出力部を固定する操作を行うことなく容易に先端工具の交換を可能にするという課題、及びそのために、一方向クラッチを用いることは記載されていない。
そうすると、引用発明2に、前置報告書において引用された引用文献3に記載の一方の方向への回転のみを許容する軸受部材を採用する動機がない。
また、仮に、引用発明2に、前置報告書において引用された引用文献3に記載された技術的事項を適用する動機があり適用できたとしても、当該引用文献3に記載された技術的事項は出力軸20の他方の方向への回転を禁止するものではないから、前記相違点B3に係る本願発明1の構成には至らない。
また、前置報告書において引用された引用文献4(原査定において引用された引用文献6)には、軸受一体型一方向クラッチ1が、モータ9の回転軸15の一端に位置し、回転軸15の正逆両方向のうち一方の方向への回転を許容するとともに他方の方向への回転を禁止し、前記回転軸15が前記一方の方向へ回転する場合において前記回転軸15を回転可能に軸支する軸受部材として機能することが記載されているが、上記第4の3.(1)ウの段落【0020】に、ベルトコンベヤ等に用いることが記載されるのみで、電動工具に用いることは記載されていないから、引用発明2に前置報告書において引用された引用文献4の軸受一体型一方向クラッチを適用する動機はないといわざるを得ない。
なお、引用文献1には、上記第4の1.(3)のとおり、一方向クラッチ145が、ギアハウジング107に支持されるとともに、スピンドル123の正逆両方向のうち一方の方向への回転を許容するとともに他方の方向への回転を禁止し、前記スピンドル123が前記一方の方向へ回転する場合において前記スピンドル123を回転可能に軸支する軸受部材として機能することが記載されているが、引用文献1には、一方向クラッチと同時に、巻バネを有することが不可欠の構成として記載されているものであるから、スピンドルロックを有する引用発明2に、引用文献1に記載の構成を採用する動機は生じない。
したがって、上記相違点B3に係る構成は、当業者であっても、引用発明2及び前置報告書において引用された引用文献3及び4記載の技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。
また、上記相違点B3に係る構成は、前置報告書において引用された引用文献2にも記載されていない。

(5)本願発明1のむすび
したがって、本願発明1は、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1-6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものとはいえない。また、その他の理由(前置報告書において引用された引用文献1-4に記載された発明に基づく進歩性欠如)についても理由がない。

2.本願発明2-8について
本願発明2-8は、本願発明1の構成全てを引用した発明であって、本願発明1の相違点に係る構成と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1-6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものとはいえない。また、その他の理由についても理由がない。

第6 原査定について
審判請求時の補正により、本願発明1-8は「前記出力部の正逆両方向の回転を規制する固定機構」を有し、「前記固定機構は、前記所定の方向における前記ケースと前記ロータとの間の位置で前記回転軸と係合することで前記回転軸の回転を規制可能であって、作業者が操作可能なスピンドルロックを有し」という事項を有するものとなったところ、拒絶査定において引用された引用文献1-6に基づいて、容易に発明できたものとはいえないことは、上記第5のとおりである。したがって、原査定の理由を維持することはできない。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明1-8は、当業者が引用発明1及び引用文献2-6記載の技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2020-10-07 
出願番号 特願2018-542001(P2018-542001)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B25F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 山村 和人稲葉 大紀  
特許庁審判長 見目 省二
特許庁審判官 青木 良憲
大山 健
発明の名称 電動工具  
代理人 小泉 伸  
代理人 福本 鉄平  
代理人 金 佳恵  
代理人 北澤 一浩  
代理人 松坂 光邦  

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