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審決分類 審判 査定不服 産業上利用性 特許、登録しない。 A63B
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A63B
管理番号 1366868
審判番号 不服2019-7937  
総通号数 251 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-06-14 
確定日 2020-10-05 
事件の表示 特願2017-122830「グリップ補助具操作方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年11月29日出願公開、特開2018-187334〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成29年6月23日(パリ条約による優先権主張2017年5月3日、米国)の出願であって、同年7月1日に手続補正書が提出され、平成30年3月23日付けで拒絶の理由が通知され、同年4月13日に意見書及び手続補正書が提出され、同年9月27日付けで拒絶の理由(最後)が通知され、同年10月12日に意見書及び手続補正書が提出され、同年11月10日に手続補正書が提出され、平成31年4月25日付けで平成30年10月12日に提出された手続補正書が却下されるとともに拒絶査定がなされたのに対し、令和1年6月14日に拒絶査定不服審判の請求がされ、令和1年6月15日、令和2年3月14日及び同年同月27日に手続補正書が提出されたものである。


第2 本願発明
本願の請求項1乃至3に係る発明は、平成30年4月13日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1乃至3に記載された事項により特定されるものであり、そのうち請求項1に係る発明は、次のとおりのものである。
「グリップを用いる用具の、前記グリップに取り付けるバンドの一方の先頭部分と、前記バンドの他方部分を前記グリップに周回させ、前記バンドの一方の先頭部分に見合う位置から、前記バンドの他方部分とを接合して、前記グリップに固着するバンド部、及び、
前記バンドの一方の先頭部分から接合の、前記バンドの他方部分の内に、1以上の部分を山形に成型のマウンド部を備え、
前記マウンド部に接触の手指部分で、打球時に、前記グリップ手前下方向、若しくは、横方向に、前記マウンド部を押すと、押された方向に前記グリップが動き、打球動作を加速する事を特徴とするグリップ補助具操作方法。」(以下「本願発明」という。)


第3 原査定の拒絶の理由
拒絶査定の理由である、平成30年9月27日付け拒絶理由通知の理由は、次のとおりのものである。
理由1 (新規事項)
平成30年4月13日付け手続補正書でした補正は、下記の点で願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

「打球動作を加速する事」との補正は新たな技術的事項を追加するものであるから、当初明細書等の範囲内においてしたものではない。

理由2 (新規性)
この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

・請求項 1?3
・引用文献等 登録実用新案第3204886号公報

理由3 (進歩性)
この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

・請求項 1?3
・引用文献等 登録実用新案第3204886号公報

理由4 (産業上の利用可能性)
この出願の下記の請求項に係る発明は、下記の点で特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていないから、特許を受けることができない。

・請求項 1?3
本願発明の「マウンド部に接触の手指部分で、打球時に、グリップの手前下方向、もしくは、横方向に、マウンド部を押すと、押された方向にグリップが動き、ラケットの動きを加速する」という点については、「打球時に…を押す」というプレーヤーの操作方法自体に特徴があるものと捉えることもできる。
しかし、仮にプレーヤーの操作方法に依存するとした場合、誰もが実施できる内容ではなく、人間の技量に基づくものであるから、特許法上の「発明」には該当しない。


第4 当審の判断
1 理由2(新規性)について
(1)引用例
本願の優先日前の平成28年6月23日に公開され、原査定の拒絶の理由に引用された登録実用新案第3204886号公報(以下「引用例」という。)には、次の事項が記載されている。

ア 「【実用新案登録請求の範囲】
【請求項1】
グリップを用いる用具の、前記グリップに付けるバンドの一方の先頭部分と、前記バンドの他方部分を前記グリップに周回させて、前記一方の先頭部分に見合う位置の、前記バンドの他方部分とを接合し、前記バンドの他方部分の、前記接合後の残り部分内で、1以上の部分を、クッションを入れて山形に成型し、その両側部分を、前記バンドの一方の先頭部分から続く部分と接合して、前記バンドの他方部分の山形部分が押されると、前記バンドに引かれ、グリップが動く事を特徴とするグリップの補助具。」
イ 「【技術分野】
【0001】
本考案は、グリップを用いるスポーツや、その他で、グリップを把持して行う用具、器具、等の操作を、楽に、確実に、行うためのグリップの補助具に関する。」
ウ 「【考案が解決しようとする課題】
【0004】
本考案は、上記課題への対応として、それに限定されるものではないが、初心者も、握力がそれほど強くない、子供、女性、高齢者、ハンデのある方々の場合も、手軽に楽しむ事が出来る用具のグリップの補助具を提供して、手首・肘の前腕、肩、等の負荷を軽減し、うっかりミスや握力低下によるラケット脱落等の防止にも役立つ事を目的とする。」
エ 「【課題を解決するための手段】
【0005】
グリップを用いる用具の、グリップに付けるバンドの一方の先頭部分と、バンドの他方部分をグリップに周回させて、バンドの一方の先頭部分に見合う位置の、バンドの他方部分とを接合し、接合後の、バンドの他方部分の、残り部分内で、1以上の部分を、クッションを入れて山形に成型し、山形の両側部分を、バンドの一方の先頭部分から続く部分と接合して、山形部分が押されると、バンドに引かれ、グリップが動く形で、グリップ操作を補助する。」
オ 「【考案の効果】
【0006】
本考案によれば、クッションを入れて山形に成型した部分を、双方向から押す事も出来るので、左利き・右利きを問わず、又、必要に応じて、同じ補助具上に、複数の山形部分を設定したり、或いは、複数の補助具を用いる事も可能であり、且つ、クッションを取り替え、グリップを動かす感触、強度、等も、調整出来る。
グリップを動かすために、常に、手指全体を使う必要が無いし、他の手指の状態にかかわらず、特定の指や部位の押しで、グリップを動かす(回す)事が出来る。」
カ 「


キ 上記ア及び図1には,グリップの補助具が,グリップを用いる用具の、前記グリップに付けるバンドの一方の先頭部分と、前記バンドの他方部分を前記グリップに周回させて、前記バンドの一方の先頭部分に見合う位置の、前記バンドの他方部分とを接合してなるバンド部分、及び、前記接合していない残り部分内で、1以上の部分を、クッションを入れて山形に成型してなる山形部分を備える構造であることが看て取れる。
ク 上記エ?カによれば、特定の指や部位で、グリップ横方向に、バンドの前記山形部分を押すことにより、押された方向に前記グリップを動かすグリップの補助具の操作方法が記載されているものと認められる。

そうすると、上記ア?カの記載事項,キ及びクの認定事項を総合すると引用例には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「グリップを用いる用具の、前記グリップに付けるバンドの一方の先頭部分と、前記バンドの他方部分を前記グリップに周回させて、前記バンドの一方の先頭部分に見合う位置の、前記バンドの他方部分とを接合してなるバンド部分、及び、前記接合していない残り部分内で、1以上の部分を、クッションを入れて山形に成型してなる山形部分を備えるグリップの補助具の操作方法であって、特定の指や部位で、グリップ横方向に、前記山形部分を押すことにより、押された方向にグリップを動かすグリップの補助具の操作方法。」

(2)対比
そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、
後者の「グリップ」、「グリップを用いる用具」、「グリップに取り付けるバンド」、「バンドの一方の先頭部分と、前記バンドの他方部分をグリップに周回させ」ること、「バンドの一方の先頭部分に見合う位置の、前記バンドの他方部分とを接合してなるバンド部分」、「前記接合していない残り部分内で、1以上の部分を、クッションを入れて山形に成型してなる山形部分」、「特定の指や部位で、グリップ横方向に、前記山形部分を押すことにより、押された方向にグリップを動かす」こと,及び「グリップの補助具の操作方法」は、それぞれ、前者の「グリップ」、「グリップを用いる用具」、「グリップに取り付けるバンド」、「バンドの一方の先頭部分と、前記バンドの他方部分をグリップに周回させ」ること、「バンドの一方の先頭部分に見合う位置から、前記バンドの他方部分とを接合」する「バンド部」、「バンドの一方の先頭部分から接合の、前記バンドの他方部分の内に、1以上の部分を山形に成型のマウンド部」、「マウンド部に接触の手指部分で、打球時に、グリップ横方向に、前記マウンド部を押すと、押された方向に前記グリップが動く」こと,及び「グリップ補助具操作方法」に相当する。
後者の「バンド部分」は、グリップに固着されているのか否かが定かでないところ、少なくとも、前者の「バンド部」と後者の「バンド部分」とは、グリップに取り付けられる点で共通する。

したがって、両者は、
「グリップを用いる用具の、前記グリップに取り付けるバンドの一方の先頭部分と、前記バンドの他方部分を前記グリップに周回させ、前記バンドの一方の先頭部分に見合う位置から、前記バンドの他方部分とを接合して、グリップに取り付けられるバンド部、及び、
前記バンドの一方の先頭部分から接合の、前記バンドの他方部分の内に、1以上の部分を山形に成型のマウンド部を備え、
前記マウンド部に接触の手指部分で、打球時に、前記グリップ手前下方向、若しくは、横方向に、前記マウンド部を押すと、押された方向に前記グリップが動く、グリップ補助具操作方法。」
の点で一致し、以下の点で、一応、相違する。

[相違点1]
バンド部が、本願発明は、グリップに「固着する」ものであるのに対し、引用発明は、グリップに取り付けられるものの、固着するとは特定されない点。

[相違点2]
本願発明は,「マウンド部を押す」と、「押された方向にグリップが動」き「打球動作を加速する」ものであるのに対して、引用発明は、「山形部分が押される」と「押された方向にグリップを動かす」ものであるものの,打球動作を加速するか否かについては明らかでない点。

(3)判断
上記各相違点について、以下、検討する。
ア [相違点1]について
引用発明の「バンド」は「グリップに付け」られるものであって、バンドの他方部分に形成された山形部分を特定の指や部位で、グリップ横方向に押すことで押された方向にグリップを動かすという操作方法による作用効果に照らせば,引用発明のバンドとグリップは,バンド部の山形部分を押したとしても,それによりバンドがグリップより動かないように固着されている必要があることは技術的に明らかであるといえる。
そうすると、上記相違点1は、実質的な相違点ではない。

イ [相違点2]について
本願発明の「打球動作」とは、願書に添付された明細書の【0002】を参酌すれば、「肩、前腕、手指、等によって、ラケットグリップを振って、相手側からの飛球に対処(返球)する」動作と認められる。
また、上記「(2)対比」及び「ア [相違点1]」の検討より、本願発明と引用発明とは、そのグリップ補助具操作方法で用いるグリップ補助具全体の構造は、同一の構造であるといえ,その操作方法においても、グリップを動かしていない限りにおいては、バンドに備えられたマウンド部に対する「マウンド部に接触の手指部分で、打球時に、前記グリップ手前下方向、若しくは、横方向に、前記マウンド部を押す」という操作も共通し、該操作による「押された方向にグリップが動く」という作用についても共通するものである。
ここで、本願発明の「打球動作を加速する事」について、その技術的な意味が定かでなく、また、どのような作用機序により加速という現象が生じるのかが必ずしも明らかでないところ、上記令和2年3月27日付けの手続補正書により補正された審判請求書における請求人の主張によれば,本願発明の「打球動作の加速」とは,「プレイヤーは、必要なタイミングで、グリップ補助具のマウンド部を押す」ことにより、「打球動作が加速する」ものであって、打球動作の過程でマウンド部を押せば、誰でも「打球動作を加速する事」が実施可能であると説明されていることからして、本願発明の「打球動作を加速する事」とは、プレイヤーが打球動作の過程の適宜のタイミングでマウンド部を押す事だけで生じ得るものと認められる。
そうすると、引用発明において、打球動作を開始し、その打球動作の最中に、特定の指や部位で、山形部分を押せば、結果として、打球動作が加速されることは明らかである。
してみると、上記相違点2に係る本願発明は、実質的な相違点とはいえない。
そうすると,本願発明と引用発明とを対比した場合の相違点は,実質的にないこととなる。
したがって,本願発明の発明特定事項は,すべて引用発明が備えているから,本願発明と,引用発明とに差異はない。

したがって,本願発明は,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない。

2 理由4(産業上の利用可能性)について
本願発明の「打球動作を加速する事」について、上記令和2年3月27日付けの手続補正書により補正された審判請求書において、請求人は、「プレイヤーは、必要なタイミングで、グリップ補助具のマウンド部を押すだけで、プレイヤーの操作方法には、何も依存しません」と主張する。
ここで、「必要なタイミングで、グリップ補助具のマウンド部を押す」というのが、プレイヤーが打球動作の過程の適宜のタイミング、すなわち、プレイヤーの誰もが自然に行うタイミングを意味するのであれば、上記「1」で検討したとおり、本願発明と、引用発明とは差異がない。
他方、「必要なタイミング」が、個々のプレイヤーが練習等によりそのタイミングを体得する必要があるものであって、「打球動作を加速する」か否かは、プレイヤーの操作のタイミングに依存するものである場合について、以下検討する。

本願発明の「マウンド部を押すと、押された方向にグリップが動き、打球動作が加速される事」が、「プレイヤーの操作のタイミング」に依存するのであるから、そのタイミングを掴むための試行錯誤や、そのタイミングを習得するための練習が,当然、必要となることから、「打球動作を加速する」ための「マウンド部を押す」動作は、知識として第三者に伝達できる客観性を有しているとは認められない。
そうすると、本願発明の「前記マウンド部に接触の手指部分で、打球時に、前記グリップ手前下方向、若しくは、横方向に、前記マウンド部を押すと、押された方向に前記グリップが動き、打球動作を加速する事」からなる「グリップ補助具操作方法」は、技能といわざるを得ない。
してみると、本願発明は、特許法上の「産業上利用することができる発明」に該当するとはいえず、特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていないから、特許を受けることができない。


第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであるか、特許法第29条第1項柱書に規定する発明に該当しないものであるから、特許を受けることができないものである。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-06-29 
結審通知日 2020-07-28 
審決日 2020-08-18 
出願番号 特願2017-122830(P2017-122830)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (A63B)
P 1 8・ 14- Z (A63B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 池谷 香次郎袴田 知弘松下 公一  
特許庁審判長 尾崎 淳史
特許庁審判官 清水 康司
藤本 義仁
発明の名称 グリップ補助具操作方法  

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