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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02M
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H02M
管理番号 1366870
審判番号 不服2019-10617  
総通号数 251 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-08-09 
確定日 2020-10-05 
事件の表示 特願2015- 19174「共振型DC-DCコンバータ」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 8月 8日出願公開、特開2016-144326〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は,平成27年2月3日の出願であって,平成30年10月9日付けで拒絶の理由が通知され,同年12月7日に意見書とともに手続補正書が提出され,令和1年5月13日付けで拒絶査定(謄本送達日同年5月16日)がなされ,これに対して同年8月9日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正がなされ,同年10月30日付けで審査官により特許法164条3項の規定に基づく報告がなされたものである。


第2 令和1年8月9日にされた手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]

令和1年8月9日にされた手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により,特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおり補正された。(下線部は,補正箇所である。)

「直流入力電力を交流電力に変換するインバータと、前記インバータから出力される交流電力を絶縁して伝達するトランスと、前記トランスから出力される交流電力を直流電力に変換して負荷に供給する整流部と、を備えた絶縁型DC-DCコンバータであって、
前記インバータの出力側に設けられた共振素子による電気的共振現象を利用して前記トランスの一次側に共振電流を流すようにした共振型DC-DCコンバータにおいて、
前記整流部は、
ワイドバンドギャップ半導体からなるFETと、
前記FETに逆並列に接続され、かつシリコン系半導体からなり前記共振電流が流れる過程において前記FETのオン電圧と交差するオン電圧特性を備えたダイオードと、を有する整流素子を複数備え、
前記ダイオードの順方向に前記共振電流を通流させるべき期間に前記FETをオンさせる同期整流期間が、前記FETの入出力端子間の電圧の絶対値が前記ダイオードのオン電圧以下である時に前記FETにのみ電流が流れる期間と、前記入出力端子間の電圧の絶対値が前記ダイオードのオン電圧を超える時に前記FET及び前記ダイオードに分流して電流が流れる期間と、を有することを特徴とする共振型DC-DCコンバータ。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の,平成30年12月7日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。

「直流入力電力を交流電力に変換するインバータと、前記インバータから出力される交流電力を絶縁して伝達するトランスと、前記トランスから出力される交流電力を直流電力に変換して負荷に供給する整流部と、を備えた絶縁型DC-DCコンバータであって、
前記インバータの出力側に設けられた共振素子による電気的共振現象を利用して前記トランスの一次側に共振電流を流すようにした共振型DC-DCコンバータにおいて、
前記整流部は、
ワイドバンドギャップ半導体からなるFETと、前記FETに逆並列に接続されたシリコン系半導体からなるダイオードと、を有する整流素子を複数備え、
前記ダイオードの順方向に電流を通流させるべき期間に前記FETをオンさせる同期整流期間が、前記FETにのみ電流が流れる期間と、前記FET及び前記ダイオードに分流して電流が流れる期間と、を有することを特徴とする共振型DC-DCコンバータ。」

2 補正の適否
本件補正は,本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「シリコン系半導体からなるダイオード」,「電流」,「前記FETにのみ電流が流れる期間」及び「前記FET及び前記ダイオードに分流して電流が流れる期間」について,上記のとおり限定を付加するものであって,補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから,特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,本件補正後の請求項1に記載される発明(以下,「本件補正発明」という。)が同条6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について,以下,検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は,上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用例の記載事項

ア 引用例1
(ア)原査定の拒絶の理由において引用した,本願の出願前に既に公知である,特開2014-110762号公報(平成26年6月12日公開。以下,これを「引用例1」という。)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。(下線は当審で付加。以下同様。)

A 「【0012】
図1は、本開示の例示的な実施形態による電力変換システム10の回路図を図解している。図1に示されているように、電力変換システム10は、電力変換デバイス13と制御モジュール17とを含む。いくつかの実施形態では、電力変換デバイス13は、第1の電力デバイス11と結合された第1のポート19と、第2の電力デバイス15と結合された第2のポート21とを含む。制御モジュール17は、電力変換デバイス13と電気的に通信する状態にあり、電力変換デバイス13にスイッチング制御信号18を提供することにより、電力変換デバイス13は、スイッチング制御信号18に従い一方向的または双方向的に電力変換を実行することができる。」

B 「【0016】
いくつかの実施形態では、ソーラーパネル、バッテリ、およびウルトラキャパシタなど、DC電力を提供することができるDC電力デバイスを、第1の電力デバイス11として用いることができる。いくつかの実施形態では、DCモータなど、DC電力で動作させることができるDC電力デバイスを、第2の電力デバイス15として用いることができる。電力変換システム10は、DC電力デバイス11から提供された入力DC電力を、他のDC電力デバイス15に提供する出力DC電力に変換するDC/DCコンバータとして、作用しうる。」

C 「【0018】
電力変換デバイス13は、少なくとも1つのスイッチングユニット23を含む。いくつかの実施形態では、スイッチングユニット23は、スイッチングデバイス25を含む。スイッチングデバイス25は、チャネル20と、チャネル20と一体化されたボディダイオード22とを含む。特に、スイッチングデバイス25のチャネル20は、順チャネル導通特性と逆チャネル導通特性とを有するように設計されている。より詳しくは、いくつかの実施形態では、スイッチングデバイス25は、順電流が、チャネル20によって画定された経路を流れることを可能にすることができる。いくつかの実施形態では、スイッチングデバイス25は、逆電流が、ボディダイオード22とチャネル20とによって画定された少なくとも2つの経路を流れることを可能にすることができる。逆チャネル導通特性を有するように設計されうるスイッチングデバイス25の非制限的な例には、SiCトランジスタ(例えば、SiC MOSFET)やGaNトランジスタなどのワイドバンドギャップトランジスタが含まれうる。」

D 「【0022】
いくつかの実施形態では、電力変換デバイス13は、逆チャネル導通特性を有するように設計された単一のスイッチングユニットを含む。いくつかの実施形態では、電力変換デバイス13は、複数のスイッチングユニットを含む。例えば、電力変換デバイス13は、4つのスイッチングユニットのHブリッジ構成またはトポロジを有することがあり、これら4つのスイッチングユニットのすべてまたは一部を、逆チャネル導通特性を有するように設計することができる。いくつかの実施形態では、電力変換デバイス13は、6つのスイッチングユニットの3相ブリッジ構成またはトポロジを有することがあり、これら6つのスイッチングユニットのすべてまたは一部を、逆チャネル導通特性を有するように設計することができる。いくつかの実施形態では、電力変換デバイス13は、任意の数のスイッチングユニットを備えた他の構成を含むこともありうる。」

E 「【0024】
図2は、本開示の別の例示的な実施形態による電力変換システム100の回路図である。電力変換システム100は、図1に記載されているものと実質的に同じである。同様に、電力変換システム100は、電力変換デバイス103と制御モジュール17とを含む。また、電力変換デバイス103は、少なくとも1つのスイッチングユニット123を含む。
【0025】
いくつかの実施形態では、図2に示されているスイッチングユニット123は、スイッチングデバイス25と逆並列に電気的に結合された逆並列ダイオード101を更に含む。より詳しくは、逆配列ダイオード101のアノードは第3の端子28に電気的に結合され、逆配列ダイオード101のカソードは第2の端子26に電気的に結合されている。いくつかの実施形態では、スイッチングユニット123は、スイッチングデバイス25と直列または並列に電気的に結合された他のデバイス(例えば、キャパシタ)を含みうる。

…(中略)…

【0027】
いくつかの実施形態では、逆並列ダイオード101は、Siダイオードか、または、SiCダイオードやGaNダイオードなどのワイドバンドギャップダイオードを含むことがある。SiCダイオードやGaNダイオードなどのワイドバンドギャップダイオードを用いることの利点または効果は、電力変換デバイス13の全体的な電力消費を削減できることである。」

F 「


図1」

G 「


図2」

(イ)上記記載から,引用例1には,次の技術的事項が記載されているものと認められる。

a 上記記載事項Aの「図1は、本開示の例示的な実施形態による電力変換システム10の回路図を図解している。図1に示されているように、電力変換システム10は、電力変換デバイス13と制御モジュール17とを含む。いくつかの実施形態では、電力変換デバイス13は、第1の電力デバイス11と…(中略)…第2の電力デバイス15と…(中略)…を含む。」との記載,及び上記記載事項Fの図1の回路図から,引用例1には,“電力変換デバイスと制御モジュールとを含む電力変換システムであって,前記電力変換デバイスは,第1の電力デバイスと第2の電力デバイスとを含”むことが記載されているといえる。

b 上記記載事項Bの「DC電力を提供することができるDC電力デバイスを、第1の電力デバイス11として用いることができる。…(中略)…DC電力で動作させることができるDC電力デバイスを、第2の電力デバイス15として用いることができる。電力変換システム10は、DC電力デバイス11から提供された入力DC電力を、他のDC電力デバイス15に提供する出力DC電力に変換するDC/DCコンバータとして、作用しうる。」との記載から,第1の電力デバイスとしてDC電力を提供することができるDC電力デバイスを用い,第2の電力デバイスとしてDC電力で動作させることができるDC電力デバイスを用いることによって,電力変換システムを,DC電力デバイスから提供された入力DC電力を,他のDC電力デバイスに提供する出力DC電力に変換するDC/DCコンバータとして用いることを読取ることができるから,上記aの認定事項も踏まえ,引用例1には,“前記第1の電力デバイスとしてDC電力を提供することができるDC電力デバイスを用いると共に,前記第2の電力デバイスとしてDC電力で動作させることができるDC電力デバイスを用いることによって,前記電力変換システムを,DC電力デバイスから提供された入力DC電力を,他のDC電力デバイスに提供する出力DC電力に変換するDC/DCコンバータとして用い”ることが記載されているといえる。

c 上記記載事項Cの「電力変換デバイス13は、少なくとも1つのスイッチングユニット23を含む。…(中略)…スイッチングユニット23は、スイッチングデバイス25を含む。」との記載,及び,「スイッチングデバイス25の非制限的な例には、SiCトランジスタ(例えば、SiC MOSFET)やGaNトランジスタなどのワイドバンドギャップトランジスタが含まれうる。」との記載から,電力変換デバイスには,少なくとも1つのスイッチングユニットを含み,前記スイッチングユニットには,スイッチングデバイスを含むこと,及び,前記スイッチングデバイスは,SiC MOSFETやGaNトランジスタなどのワイドバンドギャップトランジスタが含まれることを読取ることができるから,上記aの認定事項も踏まえ,引用例1には,“前記電力変換デバイスは,少なくとも1つのスイッチングユニットを含み,前記スイッチングユニットには,SiC MOSFETやGaNトランジスタなどのワイドバンドギャップトランジスタが含まれるスイッチングデバイスを含”むことが記載されているといえる。

d 上記記載事項Dの「電力変換デバイス13は、複数のスイッチングユニットを含む。例えば、電力変換デバイス13は、4つのスイッチングユニットのHブリッジ構成またはトポロジを有する」との記載,及び,上記aの認定事項の認定事項も踏まえ,引用例1には,“前記電力変換デバイスは,4つのスイッチングユニットのHブリッジ構成またはトポロジを有”することが記載されているといえる。

e 上記記載事項Eの「図2は、本開示の別の例示的な実施形態による電力変換システム100の回路図である。電力変換システム100は、図1に記載されているものと実質的に同じである。同様に、電力変換システム100は、電力変換デバイス103と制御モジュール17とを含む。また、電力変換デバイス103は、少なくとも1つのスイッチングユニット123を含む。」との記載,及び,「図2に示されているスイッチングユニット123は、スイッチングデバイス25と逆並列に電気的に結合された逆並列ダイオード101を更に含む。」との記載,並びに,上記記載事項Fの図1及び上記記載事項Gの図2の回路から,電力変換デバイスは,少なくとも1つのスイッチングユニットを含むこと,及び,前記スイッチングユニットはスイッチングデバイスと逆並列に電気的に結合された逆並列ダイオードを含むことを読取ることができる。
また,上記記載事項Fの「逆並列ダイオード101は、Siダイオード…(中略)…を含むことがある。」との記載を踏まえると,上記“逆並列ダイオード”は,Siダイオードを含むことを読取ることができるから,上記認定事項a及び上記認定事項dを踏まえ,以上総合して,引用例1には,“前記電力変換デバイスは,少なくとも1つの前記スイッチングユニットを含み,前記スイッチングユニットは,前記スイッチングデバイスと逆並列に電気的に結合されたSiダイオードを含む逆並列ダイオードを含む”ことが記載されているといえる。

(ウ)上記(ア)及び(イ)より,引用例1には,次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「電力変換デバイスと制御モジュールとを含む電力変換システムであって,前記電力変換デバイスは,第1の電力デバイスと第2の電力デバイスとを含み,
前記第1の電力デバイスとしてDC電力を提供することができるDC電力デバイスを用いると共に,前記第2の電力デバイスとしてDC電力で動作させることができるDC電力デバイスを用いることによって,前記電力変換システムを,DC電力デバイスから提供された入力DC電力を,他のDC電力デバイスに提供する出力DC電力に変換するDC/DCコンバータとして用い,
前記電力変換デバイスは,少なくとも1つのスイッチングユニットを含み,前記スイッチングユニットには,SiC MOSFETやGaNトランジスタなどのワイドバンドギャップトランジスタが含まれるスイッチングデバイスを含み,
前記電力変換デバイスは,4つのスイッチングユニットのHブリッジ構成またはトポロジを有し,
前記電力変換デバイスは,少なくとも1つの前記スイッチングユニットを含み,前記スイッチングユニットは,前記スイッチングデバイスと逆並列に電気的に結合されたSiダイオードを含む逆並列ダイオードを含む,
電力変換システム。」

イ 引用例2
(ア)原査定の拒絶の理由において「引用文献4」として引用した,本願の出願前に既に公知である,特開2014-183634号公報(平成26年9月29日公開。以下,これを「引用例2」という。)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。

H 「【0027】
(実施形態1)
本実施形態の電力変換器は、図1に示すように、電力変換を行う第1の変換回路10および第2の変換回路20を備える。第1の変換回路10と第2の変換回路20との間にトランス40が接続され、第1の変換回路10と第2の変換回路20とはトランス40を介して電力を伝達する。さらに、電力変換器は、第1の変換回路10の直流側の接続端子に接続された第3の変換回路30を備える。
【0028】
第1の変換回路10と第2の変換回路20とは、直流と交流との間で電力変換を双方向に行うように構成される。すなわち、第1の変換回路10と第2の変換回路20とトランス40とにより、直流と直流との間で双方向の電力変換を行う変換回路が構成される。
【0029】
第3の変換回路30は、第1の変換回路10から第2の変換回路20に電力が伝達される際に、第1の変換回路10の前段になり、第1の変換回路10に入力される電圧を第2の変換回路20から出力される電圧よりも高電圧に変換する。第3の変換回路30は、第2の変換回路20から第1の変換回路10に向かって電力が伝達される際には、第1の変換回路10から出力された電圧を降圧する。
【0030】
すなわち、電力変換器は、第1の変換回路10と第2の変換回路20とトランス40とからなる双方向のDC-DC変換回路と、第3の変換回路30からなる電圧変換用の双方向のチョッパ回路とを備える。なお、トランス40の巻数比によっても電圧の調節が行われる。
【0031】
第1の変換回路10および第2の変換回路20は、スイッチングにより電力変換を行い、図示例では、4個ずつのスイッチ素子S11?S14、S21?S24からなるブリッジ回路を備える。
【0032】
第1の変換回路10は、直列に接続された2個のスイッチ素子S11,S12からなるアームと、直列に接続された2個のスイッチ素子S13,S14からなるアームとを備える。スイッチ素子S11,S12からなるアームとスイッチ素子S13,S14からなるアームとは並列に接続されている。
【0033】
第2の変換回路20も同様の構成であって、直列に接続された2個のスイッチ素子S21,S22からなるアームと、直列に接続された2個のスイッチ素子S23,S24からなるアームとを備える。スイッチ素子S21,S22からなるアームとスイッチ素子S23,S24からなるアームとは並列に接続されている。」

I 「【0035】
第1の変換回路10は、2個のスイッチ素子S11,S12の接続点と、2個のスイッチ素子S13,S14の接続点との間に、トランス40の一方の巻線n1とインダクタL41とキャパシタC41との直列回路が接続される。また、第2の変換回路20は、2個のスイッチ素子S21,S22の接続点と、2個のスイッチ素子S23,S24の接続点との間に、トランス40の他方の巻線n2が接続される。インダクタL41とキャパシタC41とは直列共振回路を構成し、この直列共振回路の共振周波数は、第1の変換回路10と第2の変換回路20の間で伝達される周波数にほぼ一致するように設定される。
【0036】
第1の変換回路10の2つのアームには、キャパシタC11が並列に接続される。キャパシタC11は、第3の変換回路30における第1端子x31,x32に接続される。第2の変換回路20の2つのアームには、キャパシタC12が並列に接続される。さらに、第3の変換回路30におけるスイッチ素子S31とインダクタL31との直列回路の両端間には、キャパシタC13が接続される。
【0037】
スイッチ素子S11?S14,S21?S24,S31,S32は、図示しない制御回路によって、後述するタイミングでオンオフが制御される。スイッチ素子S11?S14,S21?S24,S31,S32は、オンオフの周期が短い場合MOSFET、あるいは、バイポーラトランジスタとダイオードとを組み合わせた構成が採用される。また、スイッチ素子S11?S14,S21?S24,S31,S32は、オンオフの周期が比較的長い場合は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)であってもよい。
【0038】
スイッチ素子S11?S14,S21?S24,S31,S32を構成する半導体材料は、Siが広く採用されているが、SiC、GaNのようなワイドバンドギャップの半導体材料が採用される場合もある。スイッチ素子S11?S14,S21?S24,S31,S32にワイドバンドギャップの半導体材料が用いられる場合、バイポーラトランジスタを用いる場合と同様に、リカバリ特性が良好であるダイオードを並列に接続する。」

J 「


図1」

(イ)上記記載から,引用例2には,次の技術的事項が記載されているものと認められる。

a 上記記載事項Hの「電力変換器は、図1に示すように、電力変換を行う第1の変換回路10および第2の変換回路20を備える。第1の変換回路10と第2の変換回路20との間にトランス40が接続され、第1の変換回路10と第2の変換回路20とはトランス40を介して電力を伝達する。さらに、電力変換器は、第1の変換回路10の直流側の接続端子に接続された第3の変換回路30を備える。」との記載,及び上記記載事項Jの図1に示される回路図から,“電力変換を行う第1の変換回路および第2の変換回路を備え,前記第1の変換回路と前記第2の変換回路との間にトランスが接続され,前記第1の変換回路と前記第2の変換回路とは前記トランスを介して電力を伝達し,さらに前記第1の変換回路の直流側の接続端子に接続された第3の変換回路を備える電力変換器”を読取ることができる。
また,同じく上記記載事項Hの「第3の変換回路30は、第1の変換回路10から第2の変換回路20に電力が伝達される際に、第1の変換回路10の前段になり、第1の変換回路10に入力される電圧を第2の変換回路20から出力される電圧よりも高電圧に変換する。」との記載,及び,上記記載事項Jの図1に示される回路図から,第1の変換回路10は,その前段の第3の変換回路30から降圧された直流入力電力を交流電力に変換している態様を読取ることができることから,“第1の変換回路は,直流入力電力を交流電力に変換する”ものであることを読取ることができる。
また,上記記載事項Hの「第1の変換回路10と第2の変換回路20とは、直流と交流との間で電力変換を双方向に行うように構成される。すなわち、第1の変換回路10と第2の変換回路20とトランス40とにより、直流と直流との間で双方向の電力変換を行う変換回路が構成される。」との記載から,第1の変換回路と第2の変換回路とは,直流と交流との間で電力変換を双方向に行うように構成され,前記第1の変換回路と前記第2の変換回路と前記トランスとにより,直流と直流との間で双方向の電力変換を行う変換回路が構成されることを読取ることができるから,以上総合して,引用例2には“電力変換を行う第1の変換回路および第2の変換回路を備え,前記第1の変換回路と前記第2の変換回路との間にトランスが接続され,前記第1の変換回路と第2の変換回路とは前記トランスを介して電力を伝達し,さらに前記第1の変換回路の直流側の接続端子に接続された第3の変換回路を備える電力変換器”,及び“前記第1の変換回路と前記第2の変換回路とは,直流と交流との間で電力変換を双方向に行うように構成され,前記第1の変換回路と前記第2の変換回路と前記トランスとにより,直流と直流との間で双方向の電力変換を行う変換回路が構成され”ること,さらに上記第1の変換回路に関する認定を踏まえ,“第1の変換回路は,直流入力電力を交流電力に変換”することが記載されているといえる。

b 上記記載事項Hの「第1の変換回路10および第2の変換回路20は、スイッチングにより電力変換を行い、図示例では、4個ずつのスイッチ素子S11?S14、S21?S24からなるブリッジ回路を備える。」との記載から,第1の変換回路および第2の変換回路は,スイッチングにより電力変換を行い,4個ずつのスイッチ素子からなるブリッジ回路を備えることを読取ることができるから,上記aの認定も踏まえ,引用例2には“前記第1の変換回路および前記第2の変換回路は,スイッチングにより電力変換を行い,4個ずつのスイッチ素子からなるブリッジ回路を備え”ることが記載されているといえる。

c 上記記載事項Hの「第2の変換回路20も同様の構成であって、直列に接続された2個のスイッチ素子S21,S22からなるアームと、直列に接続された2個のスイッチ素子S23,S24からなるアームとを備える。スイッチ素子S21,S22からなるアームとスイッチ素子S23,S24からなるアームとは並列に接続されている。」との記載から,第2の変換回路は,第1の変換回路と同様の構成であって,2個のスイッチ素子S21,S22からなるアームと,直列に接続された2個のスイッチ素子S23,S24からなるアームとを備え,スイッチ素子S21,S22からなるアームとスイッチ素子S23,S24からなるアームとは並列に接続されていることを読取ることができるから,上記aの認定を踏まえ,引用例2には“前記第2の変換回路は,第1の変換回路と同様の構成であって,2個のスイッチ素子S21,S22からなるアームと,直列に接続された2個のスイッチ素子S23,S24からなるアームとを備え,スイッチ素子S21,S22からなるアームとスイッチ素子S23,S24からなるアームとは並列に接続され”ることが記載されているといえる。

d 上記記載事項Iの「第1の変換回路10は、2個のスイッチ素子S11,S12の接続点と、2個のスイッチ素子S13,S14の接続点との間に、トランス40の一方の巻線n1とインダクタL41とキャパシタC41との直列回路が接続される。」との記載,及び「インダクタL41とキャパシタC41とは直列共振回路を構成し、この直列共振回路の共振周波数は、第1の変換回路10と第2の変換回路20の間で伝達される周波数にほぼ一致するように設定される。」との記載から,第1の変換回路は,2個のスイッチ素子S11,S12の接続点と,2個のスイッチ素子S13,S14の接続点との間に,トランスの一方の巻線n1とインダクタとキャパシタとの直列回路が接続され,前記インダクタとキャパシタとは直列共振回路を構成し,この直列共振回路の共振周波数は,前記第1の変換回路と第2の変換回路の間で伝達される周波数にほぼ一致するように設定されることを読取ることができるから,上記aの認定を踏まえ,引用例2には“前記第1の変換回路は,2個のスイッチ素子S11,S12の接続点と,2個のスイッチ素子S13,S14の接続点との間に,前記トランスの一方の巻線n1とインダクタとキャパシタとの直列回路が接続され,前記インダクタとキャパシタとは直列共振回路を構成し,この直列共振回路の共振周波数は,前記第1の変換回路と前記第2の変換回路の間で伝達される周波数にほぼ一致するように設定され”ることが記載されているといえる。

e 上記記載事項Iの「スイッチ素子S11?S14,S21?S24,S31,S32は、図示しない制御回路によって、後述するタイミングでオンオフが制御される。スイッチ素子S11?S14,S21?S24,S31,S32は、オンオフの周期が短い場合MOSFET、あるいは、バイポーラトランジスタとダイオードとを組み合わせた構成が採用される。」との記載から,スイッチ素子S11?S14,S21?S24は,制御回路によってオンオフが制御され,前記スイッチ素子S11?S14,S21?S24は,オンオフの周期が短い場合MOSFETが採用されることを読取ることができる。
また,同じく上記記載事項Iの「スイッチ素子S11?S14,S21?S24,S31,S32を構成する半導体材料は、Siが広く採用されているが、SiC、GaNのようなワイドバンドギャップの半導体材料が採用される場合もある。」との記載から,スイッチ素子S11?S14,S21?S24を構成する半導体材料は,SiC,GaNのようなワイドバンドギャップの半導体材料が採用される場合もあることを読取ることができる。また,同じく上記記載事項Iの「スイッチ素子S11?S14,S21?S24,S31,S32にワイドバンドギャップの半導体材料が用いられる場合、バイポーラトランジスタを用いる場合と同様に、リカバリ特性が良好であるダイオードを並列に接続する。」との記載,及び上記記載事項Jの図1に示される回路図から,スイッチ素子S21?S24にそれぞれダイオードが逆並列に接続している態様が読み取れることから,上記aの認定も踏まえ,以上総合して,引用例2には“前記スイッチ素子S11?S14,S21?S24は,制御回路によってオンオフが制御され,前記スイッチ素子S11?S14,S21?S24は,オンオフの周期が短い場合MOSFETが採用され,前記スイッチ素子S11?S14,S21?S24を構成する半導体材料は,SiC,GaNのようなワイドバンドギャップの半導体材料が採用される場合もあり,この場合,リカバリ特性が良好であるダイオードを逆並列に接続する”ことが記載されているといえる。

(ウ)上記(ア)及び(イ)より,引用例2には次の発明(以下,「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

「電力変換を行う第1の変換回路および第2の変換回路を備え,前記第1の変換回路と前記第2の変換回路との間にトランスが接続され,前記第1の変換回路と第2の変換回路とは前記トランスを介して電力を伝達し,さらに前記第1の変換回路の直流側の接続端子に接続された第3の変換回路を備える電力変換器であって,
前記第1の変換回路と前記第2の変換回路とは,直流と交流との間で電力変換を双方向に行うように構成され,前記第1の変換回路と前記第2の変換回路と前記トランスとにより,直流と直流との間で双方向の電力変換を行う変換回路が構成され,
第1の変換回路は,直流入力電力を交流電力に変換し,
前記第1の変換回路および前記第2の変換回路は,スイッチングにより電力変換を行い,4個ずつのスイッチ素子からなるブリッジ回路を備え,
前記第2の変換回路は,第1の変換回路と同様の構成であって,2個のスイッチ素子S21,S22からなるアームと,直列に接続された2個のスイッチ素子S23,S24からなるアームとを備え,スイッチ素子S21,S22からなるアームとスイッチ素子S23,S24からなるアームとは並列に接続され,
前記第1の変換回路は,2個のスイッチ素子S11,S12の接続点と,2個のスイッチ素子S13,S14の接続点との間に,前記トランスの一方の巻線n1とインダクタとキャパシタとの直列回路が接続され,前記インダクタとキャパシタとは直列共振回路を構成し,この直列共振回路の共振周波数は,前記第1の変換回路と前記第2の変換回路の間で伝達される周波数にほぼ一致するように設定され,
前記スイッチ素子S11?S14,S21?S24は,制御回路によってオンオフが制御され,前記スイッチ素子S11?S14,S21?S24は,オンオフの周期が短い場合MOSFETが採用され,前記スイッチ素子S11?S14,S21?S24を構成する半導体材料は,SiC,GaNのようなワイドバンドギャップの半導体材料が採用される場合もあり,この場合,リカバリ特性が良好であるダイオードを逆並列に接続する
電力変換器。」

ウ 参考文献1
(ア)本願の出願前に既に公知である,特開2013-21868号公報(平成25年1月31日公開。以下,これを「参考文献1」という。)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。

K 「【0015】
以下、本発明の一実施形態に係るスイッチング回路の制御装置について添付図面を参照しながら説明する。 本実施の形態によるスイッチング回路の制御装置10は、例えば車両に搭載され、図1および図2に示すように、バッテリ11を直流電源として3相(例えば、U相、V相、W相の3相)交流のブラシレスDCモータ12(以下、単に、モータ12と呼ぶ)を制御するインバータ13と、処理装置14とを備えて構成されている。
【0016】
インバータ13は、スイッチング素子(例えば、双方向性のMOSFET:Metal Oxide Semi-conductor Field Effect Transistor)を複数用いてブリッジ接続してなるブリッジ回路(スイッチング回路)13aと平滑コンデンサCとを具備し、このブリッジ回路13aがパルス幅変調(PWM)された信号によって駆動される。
【0017】
このブリッジ回路13aでは、例えば各相毎に対をなすハイ側およびロー側U相トランジスタUH,ULと、ハイ側およびロー側V相トランジスタVH,VLと、ハイ側およびロー側W相トランジスタWH,WLとがブリッジ接続されている。
そして、各トランジスタUH,VH,WHはドレインがバッテリ11の正極側端子に接続されてハイ側アームを構成し、各トランジスタUL,VL,WLはソースがバッテリ11の接地された負極側端子に接続されてロー側アームを構成している。
そして、各相毎に、ハイ側アームの各トランジスタUH,VH,WHのソースはロー側アームの各トランジスタUL,VL,WLのドレインに接続され、各トランジスタUH,UL,VH,VL,WH,WLのドレイン-ソース間には、ソースからドレインに向けて順方向となるようにして各還流ダイオードDUH,DUL,DVH,DVL,DWH,DWLが接続されている。
【0018】
つまり、ブリッジ回路13aは、各相毎にハイ側スイッチング素子(各トランジスタUH,VH,WH)および還流ダイオード(各還流ダイオードDUH,DVH,DWH)を逆並列に接続(すなわち、双方向導通型のハイ側スイッチング素子と、該ハイ側スイッチング素子の順方向導通に対して逆導通する還流ダイオードとを並列に接続)してなるハイ側アームと、各相毎にロー側スイッチング素子(各トランジスタUL,VL,WL)および還流ダイオード(各還流ダイオードDUL,DVL,DWL)を逆並列に接続(すなわち、双方向導通型のロー側スイッチング素子と、該ロー側スイッチング素子の順方向導通に対して逆導通する還流ダイオードとを並列に接続)してなるロー側アームとが、各相毎に直列に接続されて構成されている。 そして、各相毎に、ハイ側アームおよびロー側アームの接続点にモータ12のステータ巻線12aが接続されている。

…(中略)…

【0036】
なお、順方向電流が流れていないスイッチング素子(つまり、転流電流が流れている還流ダイオードに並列に接続されたスイッチング素子)のオンの状態において、並列接続されたスイッチング素子および還流ダイオードの両方に転流電流(逆方向電流)が流れる場合には、例えば図6に示すように、転流電流(逆方向電流)がスイッチング素子のみ、あるいは還流ダイオードのみに流れる場合に比べて、並列接続されたスイッチング素子および還流ダイオードの合成抵抗が小さくなることに伴って、スイッチング回路全体としての損失を低減させることができる。」

L 「


図6」

(イ)上記記載から,参考文献1には,次の技術的事項が記載されているものと認められる。

a 上記記載事項Lの「スイッチング回路の制御装置10は、…(中略)…バッテリ11を直流電源として…(中略)…インバータ13…(中略)…を備えて構成されている。」との記載,及び「インバータ13は、スイッチング素子(例えば、双方向性のMOSFET:Metal Oxide Semi-conductor Field Effect Transistor)を複数用いてブリッジ接続してなるブリッジ回路(スイッチング回路)13aと平滑コンデンサCとを具備し、」との記載から,“バッテリを直流電源としたインバータが,双方向性のMOSFETのスイッチング素子を複数用いてブリッジ接続してなるブリッジ回路(スイッチング回路)と平滑コンデンサとを具備”することを読取ることができる。

b 同じく上記記載事項Lの「このブリッジ回路13aでは、例えば各相毎に対をなすハイ側およびロー側U相トランジスタUH,ULと、ハイ側およびロー側V相トランジスタVH,VLと、ハイ側およびロー側W相トランジスタWH,WLとがブリッジ接続されている。」との記載,「各相毎に、ハイ側アームの各トランジスタUH,VH,WHのソースはロー側アームの各トランジスタUL,VL,WLのドレインに接続され、各トランジスタUH,UL,VH,VL,WH,WLのドレイン-ソース間には、ソースからドレインに向けて順方向となるようにして各還流ダイオードDUH,DUL,DVH,DVL,DWH,DWLが接続されている。」との記載,及び「ブリッジ回路13aは、各相毎にハイ側スイッチング素子…(中略)…および還流ダイオード…(中略)…を逆並列に接続」との記載から,“ブリッジ回路は,スイッチング素子及び還流ダイオードを逆並列に接続した複数の組によって形成され”ることを読取ることができる。

c 同じく上記記載事項Lの「順方向電流が流れていないスイッチング素子…(中略)…のオンの状態において、並列接続されたスイッチング素子および還流ダイオードの両方に転流電流(逆方向電流)が流れる場合には、例えば図6に示すように、転流電流(逆方向電流)がスイッチング素子のみ、あるいは還流ダイオードのみに流れる場合に比べて、並列接続されたスイッチング素子および還流ダイオードの合成抵抗が小さくなることに伴って、スイッチング回路全体としての損失を低減させることができる。」との記載,及び上記記載事項Lの図6のグラフから,“順方向電流が流れていないスイッチング素子のオンの状態において,並列接続されたスイッチング素子および還流ダイオードの両方に転流電流(逆方向電流)が流れる場合”があることを読取ることができる。
さらに,“同じく順方向電流が流れていないスイッチング素子のオンの状態において,スイッチング素子のみに転流電流(逆方向電流)が流れる場合”があることを読取ることができ,上記認定を踏まえると,“並列接続されたスイッチング素子および還流ダイオードで電流が流れる場合,スイッチング回路全体としての損失を低減させることができる”ことを読取ることができる。

d 上記記載事項Lの図6のグラフ,及び上記a及びbの認定事項から,“ブリッジ回路に用いられるスイッチング素子のオン電圧特性と同じくブリッジ回路に用いられ,当該スイッチング素子と逆並列に接続される還流ダイオードのオン電圧特性とは互いに交差する”(図6の,「MOSFET」に係る点線部分と「還流ダイオード」に係る点線部分は,互いに交差しているといえる。)特性を有することを読取ることができる。

(ウ)上記(ア)及び(イ)より,参考文献1には,次の技術的事項(以下,「技術的事項1」という。),

「バッテリを直流電源としたインバータが,双方向性のMOSFETのスイッチング素子を複数用いてブリッジ接続してなるブリッジ回路(スイッチング回路)と平滑コンデンサとを具備し,
前記ブリッジ回路は,スイッチング素子及び還流ダイオードを逆並列に接続した複数の組によって形成され,
順方向電流が流れていないスイッチング素子のオンの状態において,
並列接続されたスイッチング素子および還流ダイオードの両方に転流電流(逆方向電流)が流れる場合と,
スイッチング素子のみに転流電流(逆方向電流)が流れる場合があり,
並列接続されたスイッチング素子および還流ダイオードで電流が流れる場合,スイッチング回路全体としての損失を低減させることができること」

及び次の技術的事項(以下,「技術的事項2」という。),

「ブリッジ回路に用いられるスイッチング素子のオン電圧特性と同じくブリッジ回路に用いられ,当該スイッチング素子と逆並列に接続される還流ダイオードのオン電圧特性とは互いに交差すること」

が記載されているといえる。

エ 参考文献2
(ア)本願の出願前に既に公知である,特開2011-50234号公報(平成23年3月10日公開。以下,これを「参考文献2」という。)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。

M 「【0034】
-オン電圧補償-
次に、インバータ回路(4)の出力電圧に対するオン電圧降下の補償(オン電圧補償)について説明する。なお、以下の説明では、説明簡略化のために、図2に示すように、直流電源としてのコンデンサ(3a)と、直列に接続された2つのスイッチング素子と、からなる回路を用いて説明する。なお、2つのスイッチング素子を区別するために、以下の説明において、各スイッチング素子の符号はSp,Snとする。
【0035】
ここで、上記図2に示す回路では、直列に接続されたスイッチング素子(Sp,Sn)に対して、それぞれ、逆並列にダイオード(Dp,Dn)が接続されている。スイッチング素子(Sp,Sn)とダイオード(Dp,Dn)とによって、それぞれ、スイッチング部(4a,4a)が構成されている。

…(中略)…

【0057】
ここで、上述のように、精度の良いオン電圧補償を容易に行うためには、スイッチング素子(Sp,Sn)側にのみ電流を流すのが望ましい。その場合には、スイッチング部(4a)にかかる電圧が、ダイオード(Dp,Dn)がオン状態になる立ち上がり電圧よりも低いことが条件となる。すなわち、図4に示すように、MOSFETなどのスイッチング素子には、立ち上がり電圧がほとんどないのに対し、SiからなるMOSFET(Si-MOSFET)の寄生ダイオードやSiCからなる還流ダイオード(SBD)には、通常、1V程度の立ち上がり電圧が存在する。そのため、Si-MOSFETの寄生ダイオードやSiCのSBDを備えたインバータ回路では、ダイオード(Dp,Dn)側に電流が流れない範囲、すなわち、オン電圧降下が1Vまでの範囲(電流では1/Ron(オン抵抗)以下の範囲)でしか上述のようなオン電圧補償が適用できない。」

N 「


図2」

O 「


図4」

(イ)上記記載から,参考文献2には,次の技術的事項が記載されているものと認められる。

a 上記記載事項Mの「インバータ回路(4)…(中略)…図2に示す回路では、直列に接続されたスイッチング素子(Sp,Sn)に対して、それぞれ、逆並列にダイオード(Dp,Dn)が接続されている。」との記載,及び上記記載事項Nの図2の回路から,“インバータ回路にスイッチング素子と当該スイッチング素子に逆並列に接続されたダイオードが用いられる”ことを読取ることができる。

b 上記記載事項Oの図4の電流-電圧特性は,上記aの認定事項を踏まえると,インバータ回路に用いられるスイッチング素子とダイオードの電流-電圧特性を表していて,当該スイッチング素子は,上記記載事項Mの「図4に示すように、MOSFETなどのスイッチング素子には、立ち上がり電圧がほとんどないのに対し、SiからなるMOSFET(Si-MOSFET)の寄生ダイオードやSiCからなる還流ダイオード(SBD)には、通常、1V程度の立ち上がり電圧が存在する。」との記載から,MOSFETなどが用いられることを読取ることができる。
そして,上記記載事項Oの図4に示される「Si-MOSFETの寄生ダイオード」及び「SiC-SBD」の特性は,上記MOSFETなどで構成されるスイッチング素子に逆並列に接続されたダイオードの特性を表しているといえ,同じく図4の「MOSFET」の特性は,スイッチング素子の特性を表しているといえる。

c 上記記載事項Mと,上記bの認定事項を踏まえると,MOSFETなどのスイッチング素子には“立ち上がり電圧がほとんどなく,当該スイッチング素子に逆並列に接続されたダイオードには,立ち上がり電圧が存在する”ことを読取ることができる。

(ウ)上記(ア)及び(イ)より,参考文献2には,次の技術的事項(以下,「技術的事項3」という。)が記載されているといえる。

「インバータ回路に用いられる,MOSFETなどのスイッチング素子と当該スイッチング素子に逆並列に接続されるダイオードの電流-電圧特性において,前記スイッチング素子には立ち上がり電圧がほとんどなく,前記スイッチング素子に逆並列に接続された前記ダイオードには,立ち上がり電圧が存在すること」

(3-1)引用発明1との対比
ア 本件補正発明と引用発明1とを対比する。

(ア)引用発明1の「電力変換デバイスと制御モジュールとを含む電力変換システム」は,「前記第1の電力デバイスとしてDC電力を提供することができるDC電力デバイスを用いると共に,前記第2の電力デバイスとしてDC電力で動作させることができるDC電力デバイスを用いることによって,前記電力変換システムを,DC電力デバイスから提供された入力DC電力を,他のDC電力デバイスに提供する出力DC電力に変換するDC/DCコンバータとして用い」るものであるところ,本件補正発明の「絶縁型DC-DCコンバータ」とは,互いに“DC-DCコンバータ”である点で一致する。

(イ)引用発明1は,「前記電力変換デバイスは,少なくとも1つのスイッチングユニットを含み,前記スイッチングユニットには,SiC MOSFETやGaNトランジスタなどのワイドバンドギャップトランジスタが含まれるスイッチングデバイスを含」むものであり,「SiC MOSFETやGaNトランジスタなどのワイドバンドギャップトランジスタが含まれるスイッチングデバイス」は,本件補正発明の「ワイドバンドギャップ半導体からなるFET」に相当するといえるから,引用発明1と本件補正発明とは,“ワイドバンドギャップ半導体からなるFET”を備える点で一致する。

(ウ)引用発明1の「スイッチングユニット」は,「前記スイッチングデバイスと逆並列に電気的に結合されたSiダイオードを含む逆並列ダイオードを含む」ものであるところ,当該「前記スイッチングデバイスと逆並列に電気的に結合されたSiダイオードを含む逆並列ダイオード」は,本件補正発明の「FETに逆並列に接続され」,「シリコン系半導体からな」る「ダイオード」に対応するといえる。また,引用発明1の「前記スイッチングデバイスと逆並列に電気的に結合されたSiダイオードを含む逆並列ダイオードを含む」「スイッチングユニット」は,引用発明1の「電力変換デバイス」が,「4つのスイッチングユニットのHブリッジ構成またはトポロジを有」することから,複数であることが明らかであるから,引用発明1と本件補正発明とは,下記の点で相違するものの,“前記FETに逆並列に接続されたシリコン系半導体からなるダイオードとを複数備え”た点で一致する。

イ 以上のことから,本件補正発明と引用発明1との一致点及び相違点は,次のとおりである。

〈一致点1〉
DC-DCコンバータにおいて,
ワイドバンドギャップ半導体からなるFETと,
前記FETに逆並列に接続されたシリコン系半導体からなるダイオードとを複数備えたDC-DCコンバータ。

〈相違点1-1〉
本件補正発明のDC-DCコンバータが,「直流入力電力を交流電力に変換するインバータと、前記インバータから出力される交流電力を絶縁して伝達するトランスと、前記トランスから出力される交流電力を直流電力に変換して負荷に供給する整流部と、を備えた絶縁型DC-DCコンバータであって、」「前記インバータの出力側に設けられた共振素子による電気的共振現象を利用して前記トランスの一次側に共振電流を流すようにした共振型DC-DCコンバータにおいて、」「前記整流部」が,「ワイドバンドギャップ半導体からなるFETと、」「前記FETに逆並列に接続され、かつシリコン系半導体からなり前記共振電流が流れる過程において前記FETのオン電圧と交差するオン電圧特性を備えたダイオードと、を有する整流素子を複数備え」るものであるのに対し,引用発明1の「DC電力デバイスから提供された入力DC電力を,他のDC電力デバイスに提供する出力DC電力に変換するDC/DCコンバータ」がどのようなタイプか特定されていない点。

〈相違点1-2〉
本件補正発明のダイオードが,「前記共振電流が流れる過程において前記FETのオン電圧と交差するオン電圧特性を備えた」ものであるのに対し,引用発明1では,そのような特性を有することが特定されていない点。

〈相違点1-3〉
本件補正発明が,「前記ダイオードの順方向に前記共振電流を通流させるべき期間に前記FETをオンさせる同期整流期間が、前記FETの入出力端子間の電圧の絶対値が前記ダイオードのオン電圧以下である時に前記FETにのみ電流が流れる期間と、前記入出力端子間の電圧の絶対値が前記ダイオードのオン電圧を超える時に前記FET及び前記ダイオードに分流して電流が流れる期間と、を有する」ものであるのに対し,引用発明1の「スイッチングユニット」は,「前記スイッチングデバイスと逆並列に電気的に結合されたSiダイオードを含む逆並列ダイオードを含む」ものであるが,「前記ダイオードの順方向に前記共振電流を通流させるべき期間に前記FETをオンさせる同期整流期間」において,「スイッチングデバイス」及び「逆並列ダイオード」にどのように電流が流れるのかが特定されていない点。

(3-2)引用発明2との対比
ア 本件補正発明と引用発明2とを対比する。

(ア)引用発明2の「電力変換を行う第1の変換回路」は,「直流と交流との間で電力変換を双方向に行うように構成され」るところ,「直流入力電力を交流電力に変換」するものでもあり,本件補正発明の「直流入力電力を交流電力に変換するインバータ」に相当するといえる。
引用発明2の「前記第1の変換回路と前記第2の変換回路との間に」接続される「トランス」は,「前記第1の変換回路と第2の変換回路とは前記トランスを介して電力」が「伝達」されることを踏まえれば,本件補正発明の「前記インバータから出力される交流電力を絶縁して伝達するトランス」に相当するといえる。
引用発明2の「第2の変換回路」は,「スイッチングにより電力変換を行い,4個ずつのスイッチ素子からなるブリッジ回路を備え」るところ,「直流と交流との間で電力変換を双方向に行うように構成され」るものでもあることから,本件補正発明の「前記トランスから出力される交流電力を直流電力に変換して負荷に供給する整流部」に相当するといえる。
以上のことから,引用発明2の「電力変換を行う第1の変換回路および第2の変換回路を備え,前記第1の変換回路と前記第2の変換回路との間にトランスが接続され,前記第1の変換回路と第2の変換回路とは前記トランスを介して電力を伝達し,さらに前記第1の変換回路の直流側の接続端子に接続された第3の変換回路を備える電力変換器」は,絶縁型DC-DCコンバータであることは明らかであるといえ,以上総合して,引用発明2と本件補正発明とは,“直流入力電力を交流電力に変換するインバータと,前記インバータから出力される交流電力を絶縁して伝達するトランスと,前記トランスから出力される交流電力を直流電力に変換して負荷に供給する整流部と,を備えた絶縁型DC-DCコンバータ”の点で一致する。

(イ)引用発明2の「第1の変換回路」は,上記(ア)で認定したとおり,“インバータ”といい得るものである。
また,引用発明2の「第1の変換回路」は,「2個のスイッチ素子S11,S12の接続点と,2個のスイッチ素子S13,S14の接続点との間に,前記トランスの一方の巻線n1とインダクタとキャパシタとの直列回路が接続され,前記インダクタとキャパシタとは直列共振回路を構成し,この直列共振回路の共振周波数は,前記第1の変換回路と前記第2の変換回路の間で伝達される周波数にほぼ一致するように設定され」るものであり,このうち,「前記トランスの一方の巻線n1とインダクタとキャパシタとの直列回路」は,「この直列共振回路の共振周波数は,前記第1の変換回路と前記第2の変換回路の間で伝達される周波数にほぼ一致するように設定され」るものであることから,“共振素子による電気的共振現象を利用し”た,“トランスの一次側に共振電流を流すようにした”ものであり,さらに,「トランス」との関係においては「前記第1の変換回路と前記第2の変換回路との間にトランスが接続され」ていることから,“インバータの出力側に設けられた”ものであるといえる。
以上のことから,引用発明2の「電力変換器」は,共振型DC-DCコンバータであるといい得ることから,以上を総合して,引用発明2と本件補正発明とは,“前記インバータの出力側に設けられた共振素子による電気的共振現象を利用して前記トランスの一次側に共振電流を流すようにした共振型DC-DCコンバータ”である点で一致する。

(ウ)引用発明2の「第2の変換回路」は,「スイッチングにより電力変換を行い,4個ずつのスイッチ素子からなるブリッジ回路を備え」るとともに,「直流と交流との間で電力変換を双方向に行うように構成され」るものであり,また,「第1の変換回路と同様の構成であって,2個のスイッチ素子S21,S22からなるアームと,直列に接続された2個のスイッチ素子S23,S24からなるアームとを備え,スイッチ素子S21,S22からなるアームとスイッチ素子S23,S24からなるアームとは並列に接続され」ることから,当該「スイッチ素子S21?S24」からなる回路は,“整流部”であるといえる。
また,引用発明2は,「前記スイッチ素子S11?S14,S21?S24は,オンオフの周期が短い場合MOSFETが採用され,前記スイッチ素子S11?S14,S21?S24を構成する半導体材料は,SiC,GaNのようなワイドバンドギャップの半導体材料が採用される場合もあり,この場合,リカバリ特性が良好であるダイオードを逆並列に接続する」ものであり,上記(ア)の認定も踏まえれば,引用発明2と本件補正発明とは,“前記整流部”が,“ワイドバンドギャップ半導体からなるFET”と,“前記FETに逆並列に接続されたダイオードと,を有する整流素子を複数備え”る点で一致する。

イ 以上のことから,本件補正発明と引用発明2との一致点及び相違点は,次のとおりである。

〈一致点2〉
直流入力電力を交流電力に変換するインバータと,前記インバータから出力される交流電力を絶縁して伝達するトランスと,前記トランスから出力される交流電力を直流電力に変換して負荷に供給する整流部と,を備えた絶縁型DC-DCコンバータであって,
前記インバータの出力側に設けられた共振素子による電気的共振現象を利用して前記トランスの一次側に共振電流を流すようにした共振型DC-DCコンバータにおいて,
前記整流部は,
ワイドバンドギャップ半導体からなるFETと,
前記FETに逆並列に接続されたダイオードと,を有する整流素子を複数備えた共振型DC-DCコンバータ。

〈相違点2-1〉
本件補正発明のダイオードが,「シリコン系半導体からな」るのに対し,引用発明2のダイオードは,「リカバリ特性が良好である」ものであるものの,どのような材料からなる半導体であるか特定されていない点。

〈相違点2-2〉
本件補正発明のダイオードが,「前記共振電流が流れる過程において前記FETのオン電圧と交差するオン電圧特性を備えた」ものであるのに対し,引用発明2のダイオードは,「リカバリ特性が良好である」ものであるものの,そのような特性を備えていることが特定されていない点。

〈相違点2-3〉
本件補正発明は,「前記ダイオードの順方向に前記共振電流を通流させるべき期間に前記FETをオンさせる同期整流期間が、前記FETの入出力端子間の電圧の絶対値が前記ダイオードのオン電圧以下である時に前記FETにのみ電流が流れる期間と、前記入出力端子間の電圧の絶対値が前記ダイオードのオン電圧を超える時に前記FET及び前記ダイオードに分流して電流が流れる期間と、を有する」ものであるのに対し,引用発明2では,そのような期間があることが特定されていない点。

(4)当審の判断
上記相違点につき検討する。

ア 相違点1-1から相違点1-3について

(ア)相違点1-1について
引用発明1は,「電力変換デバイスと制御モジュールとを含む電力変換システム」であって,「前記第1の電力デバイスとしてDC電力を提供することができるDC電力デバイスを用いると共に,前記第2の電力デバイスとしてDC電力で動作させることができるDC電力デバイスを用いることによって,前記電力変換システムを,DC電力デバイスから提供された入力DC電力を,他のDC電力デバイスに提供する出力DC電力に変換するDC/DCコンバータとして用い」るものであり,一方上記引用例2には,上記2(2)イで示した引用発明2が記載されており,当該引用発明2は,上記(3-2)(ア)及び(イ)で示したとおり,「直流入力電力を交流電力に変換するインバータと,前記インバータから出力される交流電力を絶縁して伝達するトランスと,前記トランスから出力される交流電力を直流電力に変換して負荷に供給する整流部と,を備えた絶縁型DC-DCコンバータであって,」「前記インバータの出力側に設けられた共振素子による電気的共振現象を利用して前記トランスの一次側に共振電流を流すようにした共振型DC-DCコンバータにおいて,」「前記整流部は,」「ワイドバンドギャップ半導体からなるFETと,」「前記FETに逆並列に接続されたダイオードと,を有する整流素子を複数備えた」点で本件補正発明と一致するものである。すると,互いにDC-DCコンバータである点で共通する引用発明1において,引用例2に記載されたようなDC-DCコンバータを採用することは当業者にとって容易であり,また引用発明1において当該構成を採用することを阻害する要因も見いだせない。
したがって,相違点1-1は格別なものではない。

(イ)相違点1-2について
まず,本件補正発明のダイオードが,「前記共振電流が流れる過程において前記FETのオン電圧と交差するオン電圧特性を備えた」とする特定事項について検討するに,当該事項に関し,本願明細書の段落0049乃至0050には,次の記載が認められる。

「【0049】
整流部40AのMOSFET SW1,SW4がオンして逆導通している期間であって、MOSFET SW1,SW4のドレインソース間電圧の絶対値がダイオードD1,D4のオンする電圧以下である期間では、MOSFET SW1,SW4による逆導通経路が電流経路の大部分となる。この期間における整流部40Aの損失は、従来技術(図11,図12)による同期整流の場合と同等であるが、図8の同期整流非適用時のごとく順方向電圧に電圧オフセットがあるダイオードD1,D4のみに通流させる場合に比べ、本実施形態では電圧オフセット分の電圧降下がない分、整流部40Aの通流損失は大幅に低減される。
【0050】
そして、整流部40AのMOSFET SW1,SW4のドレイン-ソース間電圧の絶対値が、ダイオードD1,D4がオンする電圧を超える期間では、MOSFET SW1,SW4の逆導通に加えてダイオードD1,D4にも電流が分流するため、整流部40Aの抵抗値が大幅に低下する。
なお、本実施形態及び従来技術(図11,図12)の同期整流動作においてもMOSFET SW1,SW4の寄生ダイオードBD1,BD4への分流が生じ得るが、これらの寄生ダイオードBD1,BD4は電流-電圧特性が劣っており、寄生素子ではない製品として設計・製作されるダイオードD1,D4に比べると、オフセット電圧や抵抗分が大きいため、整流部40Aの抵抗値低減への寄与は小さい。従って、本実施形態の上記期間における整流部40Aの損失は、従来技術である同期整流非適用時(図8)はもとより、同期整流適用時(図11)に比べても大幅に低減されることになる。」

一方,上記2(2)ウに示した参考文献1には,上記2(2)ウ(ウ)に示した技術的事項2が記載されていると認められ,このことは,当該技術分野における周知技術である。そうとすると,引用発明1の「SiC MOSFETなどのワイドバンドギャップトランジスタ」のオン電圧特性は,これに逆並列接続される「逆並列ダイオード」である「Siダイオード」のオン電圧特性との間において,「前記共振電流が流れる過程において前記FETのオン電圧と交差するオン電圧特性を備えた」ものであることが推定されることから,相違点1-2は格別なものとはいえない。

(ウ)相違点1-3について
まず,本件補正発明の「前記ダイオードの順方向に前記共振電流を通流させるべき期間に前記FETをオンさせる同期整流期間」の意味するところは,当該「前記共振電流」が「前記インバータの出力側に設けられた共振素子による電気的共振現象を利用し」た「前記トランスの一次側に」流れるものと解されるので,その意味するところは必ずしも明確とはいえないものの,本件補正発明は,トランスを用いた「絶縁型DC-DCコンバータ」であって,「共振型DC-DCコンバータ」であることに鑑みれば,トランスの一次側に流れる共振電流に同期して二次側の整流部にも電流が流れるものと解されることから,当該整流部における,「FETに逆並列に接続され」た「ダイオード」に電流が流れる期間に,FETをオンする期間のことを特定するものと解される。
一方,上記2(2)ウに示した参考文献1には,上記2(2)ウ(ウ)に示した技術的事項1が記載されていると認められ,このうち,「順方向電流が流れていないスイッチング素子のオンの状態において,」「並列接続されたスイッチング素子および還流ダイオードの両方に転流電流(逆方向電流)が流れる場合と,」「スイッチング素子のみに転流電流(逆方向電流)が流れる場合があ」るとは,本件補正発明の「前記ダイオードの順方向に前記共振電流を通流させるべき期間に前記FETをオンさせる同期整流期間」に,「スイッチング素子のみ」か,「並列接続されたスイッチング素子および還流ダイオードの両方に」電流が流れる期間が存在することを示していて,このことは当該技術分野において周知な事項である。
また,上記2(2)エに示した参考文献2には,上記2(2)エ(ウ)に示した技術的事項3が記載されていると認められ,当該技術的事項3に示される技術は,当該技術分野における周知技術である。当該技術的事項3,及び,スイッチング素子とダイオードとが逆並列に接続されていることから当該スイッチング素子のソース/ドレイン間の電圧とダイオードのアノード/カソード間の電圧が同じになる技術常識に鑑みれば,本件補正発明の「FETの入出力端子間の電圧の絶対値が前記ダイオードのオン電圧以下である時」というのは,当該ダイオードの両端の電圧が,立ち上がり電圧以下の状態の時を表し,本件補正発明の「前記入出力端子間の電圧の絶対値が前記ダイオードのオン電圧を超える時」というのは,当該ダイオードの両端の電圧が,立ち上がり電圧以上の状態の時のことを表していると解される。
以上のことを踏まえると,本件補正発明の「前記ダイオードの順方向に前記共振電流を通流させるべき期間に前記FETをオンさせる同期整流期間が、前記FETの入出力端子間の電圧の絶対値が前記ダイオードのオン電圧以下である時に前記FETにのみ電流が流れる期間と、前記入出力端子間の電圧の絶対値が前記ダイオードのオン電圧を超える時に前記FET及び前記ダイオードに分流して電流が流れる期間と、を有する」という事項は,整流部にFET及びダイオードを逆並列に接続することによって,当然に備える特性を表しているに過ぎないものであって,したがって相違点1-3は,格別なものとはいえない。

(エ)本件補正発明の奏する効果について
そして,これらの相違点を総合的に勘案しても,本件補正発明の奏する作用効果は,引用発明1及び引用発明2,並びに参考文献1及び参考文献2に記載されたような周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず,格別顕著なものということはできない。

(オ)小括
したがって,本件補正発明は,引用発明1及び2,並びに参考文献1及び2に記載された周知技術に基づいて,当業者が容易になし得たものである。

イ 相違点2-1から相違点2-3について

(ア)相違点2-1について
引用例1には,上記2(2)アに示すとおり,引用発明1が記載されていると認められ,そのうち,「スイッチングユニットには,SiC MOSFETやGaNトランジスタなどのワイドバンドギャップトランジスタが含まれるスイッチングデバイスを含」むと共に,「スイッチングユニットは,前記スイッチングデバイスと逆並列に電気的に結合されたSiダイオードを含む逆並列ダイオードを含む」ことが記載されているといえ,また,引用発明1と引用発明2とは,共にDC-DCコンバータを含む技術で共通するものであるから,引用発明2において,引用発明1の当該技術を採用することは当業者にとって容易であり,また引用発明2において当該技術を採用することを阻害する要因も見いだせない。
したがって,相違点2-1は格別なものではない。

(イ)相違点2-2について
相違点2-2は,上記相違点1-2と実質的に同じであり,上記イで示したとおり,参考文献1等に記載された周知技術に鑑みれば,格別なものとはいえない。

(ウ)相違点2-3について
相違点2-3は,上記相違点1-3と実質的に同じであり,上記ウで示したとおり,参考文献1及び2等に記載された周知技術,及び当該技術分野の技術常識に鑑みれば,格別なものとはいえない。

(エ)本件補正発明の奏する効果について
そして,これらの相違点を総合的に勘案しても,本件補正発明の奏する作用効果は,引用発明1及び引用発明2,並びに参考文献1及び参考文献2に記載されたような周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず,格別顕著なものということはできない。

(オ)小括
したがって,本件補正発明は,引用発明2及び1,並びに参考文献1及び2に記載された周知技術に基づいて,当業者が容易になし得たものである。

ウ 当審の判断についての結論
したがって,本件補正発明は,引用例1に記載された事項に基づく引用発明1及び引用例2に記載された事項に基づく引用発明2のいずれを主たる引用発明としたとしても,さらに参考文献1及び参考文献2に記載されたような周知技術に鑑みれば,これらの引用例及び参考文献に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
以上のとおり,本件補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので,同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって,上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 本願発明について

1 本願発明
令和1年8月9日にされた手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項に係る発明は,平成30年12月7日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲に記載された事項により特定されるものであるところ,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,明細書及び図面の記載からみて,その請求項1に記載された事項により特定される,前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。再掲すれば,次のとおり。

「直流入力電力を交流電力に変換するインバータと、前記インバータから出力される交流電力を絶縁して伝達するトランスと、前記トランスから出力される交流電力を直流電力に変換して負荷に供給する整流部と、を備えた絶縁型DC-DCコンバータであって、
前記インバータの出力側に設けられた共振素子による電気的共振現象を利用して前記トランスの一次側に共振電流を流すようにした共振型DC-DCコンバータにおいて、
前記整流部は、
ワイドバンドギャップ半導体からなるFETと、前記FETに逆並列に接続されたシリコン系半導体からなるダイオードと、を有する整流素子を複数備え、
前記ダイオードの順方向に電流を通流させるべき期間に前記FETをオンさせる同期整流期間が、前記FETにのみ電流が流れる期間と、前記FET及び前記ダイオードに分流して電流が流れる期間と、を有することを特徴とする共振型DC-DCコンバータ。」

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,この出願の請求項1乃至3に係る発明は,本願出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用例1乃至4に記載された発明に基づいて,及び,請求項4乃至6に係る発明は,下記引用例1乃至6に記載された発明に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

引用例1:特開2014-110762号公報
引用例2:特開2013-132155号公報
引用例3:特開2013-110778号公報
引用例4:特開2014-183634号公報
引用例5:特開2007-305836号公報
引用例6:特表2006-524432号公報

3 引用例
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及び引用文献4の記載事項は,前記第2の[理由]2(2)において,それぞれ引用例1及び引用例2として記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は,前記第2の[理由]2(1)で検討した本件補正発明から,「シリコン系半導体からなるダイオード」,「電流」,「前記FETにのみ電流が流れる期間」及び「前記FET及び前記ダイオードに分流して電流が流れる期間」に係る限定事項を削除したものである。
そうすると,本願発明の発明特定事項を全て含み,さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が,前記第2の[理由]2(3),(4)に記載したとおり,引用発明1及び引用発明2,並びに参考文献1及び参考文献2に記載されたような周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,同様の理由により,引用文献1及び引用文献4に記載された技術に基づいて,当業者が容易に発明することができたものである。


第4 むすび

以上のとおり,本願発明は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-07-31 
結審通知日 2020-08-04 
審決日 2020-08-19 
出願番号 特願2015-19174(P2015-19174)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H02M)
P 1 8・ 575- Z (H02M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 白井 孝治  
特許庁審判長 田中 秀人
特許庁審判官 山澤 宏
山崎 慎一
発明の名称 共振型DC-DCコンバータ  
代理人 森田 雄一  

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