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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 H05K
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 H05K
管理番号 1366913
審判番号 不服2019-11618  
総通号数 251 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-09-04 
確定日 2020-10-08 
事件の表示 特願2017-234601「樹脂シート」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 5月24日出願公開、特開2018- 82184〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成26年2月19日を出願日とする特願2014-029832号の一部を、平成29年12月6日に新たな特許出願としたものであって、平成29年12月6日に手続補正書が提出され、平成30年8月27日付けで拒絶理由が通知され、同年12月26日に意見書及び手続補正書が提出され、令和1年5月29日付けで拒絶査定されたところ、同年9月4日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正されたものである。


第2 令和1年9月4日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和1年9月4日にされた手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の概要
令和1年9月4日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)は、平成30年12月26日に手続補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された発明特定事項により特定される、

「【請求項1】
支持体と、
前記支持体と接合しているソルダーレジスト用光硬化性樹脂組成物層とを含む樹脂シートであって、
前記樹脂組成物層の厚さが、5μm以上120μm以下であり、
前記樹脂組成物層の硬化物の23℃における弾性率が、6GPa以上40GPa以下で
ある、
樹脂シート。」

との発明(以下、「本願発明」という。)、及び、発明の詳細な説明の段落【0006】の記載である、

「【0006】
本発明は、部品の実装工程における反りを抑制することのできる、薄型のプリント配線板を提供することを課題とする。」

との記載を、それぞれ、

「【請求項1】
支持体と、
前記支持体と接合しているソルダーレジスト用光硬化性樹脂組成物層とを含む樹脂シートであって、
前記樹脂組成物層の厚さが、10μm以上120μm以下であり、
前記樹脂組成物層の硬化物の23℃における弾性率が、6GPa以上40GPa以下である、
樹脂シート。」(下線部は、補正箇所を示す。)

との発明(以下、本件補正後の請求項1に係る発明を「本件補正発明」という。)、及び、

「 【0006】
本発明は、部品の実装工程における反りを抑制することのできる、薄型のプリント配線板を提供することを課題とする。
また、本発明は、新規な樹脂シートを提供することを課題とする。特に、部品の実装工程における薄型のプリント配線の反りを抑制し得る樹脂シートを提供することを課題とする。」(下線部は、補正箇所を示す。)

との記載、とする補正を含むものである。


2 補正の適否
新規事項の有無について検討する。
願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)には、以下の記載がある。なお、下線は当審で付与した。

ア.「【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年の含鉛半田から鉛フリー半田への代替に伴い、部品の実装工程における半田リフロー温度は上昇している。また近年、電子機器の小型化を達成すべく、プリント配線板の更なる薄型化が進められている。
【0005】
プリント配線板の薄型化が進むにつれて、部品の実装工程においてプリント配線板に反りが生じ、回路歪みや部品の接触不良等の問題が生じることを本発明者らは見出した。
【0006】
本発明は、部品の実装工程における反りを抑制することのできる、薄型のプリント配線板を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題につき鋭意検討した結果、特定の厚さと弾性率を有する2つのソルダーレジスト層を組み合わせて用いることにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の内容を含む。
[1] 第1及び第2のソルダーレジスト層を含むプリント配線板であって、
第1のソルダーレジスト層の厚さをt1(μm)、硬化後の弾性率(23℃)をG1(GPa)とし、第2のソルダーレジスト層の厚さをt2(μm)、硬化後の弾性率(23℃)をG2(GPa)とし、プリント配線板の厚さをZ(μm)とするとき、下記条件(1)?(3):
(1) Z≦250;
(2) (t1+t2)/Z≧0.1;及び
(3) G1×[t1/(t1+t2)]+G2×[t2/(t1+t2)]≧6
を満たし、G1が6以上である、プリント配線板。
(中略)
[8] プリント配線板のソルダーレジスト層用樹脂シートセットであって、
第1の支持体と、該第1の支持体と接合している第1の樹脂組成物層とを含む第1の樹脂シートと、
第2の支持体と、該第2の支持体と接合している第2の樹脂組成物層とを含む第2の樹脂シートと
を含み、第1の樹脂組成物層の厚さをt1p(μm)、硬化後の弾性率(23℃)をG1(GPa)とし、第2の樹脂組成物層の厚さをt2p(μm)、硬化後の弾性率(23℃)をG2(GPa)とし、プリント配線板の厚さをZ(μm)とするとき、下記条件(1’)?(3’):
(1’) Z≦250;
(2’) (t1p+t2p)/Z≧0.1;及び
(3’) G1×[t1p/(t1p+t2p)]+G2×[t2p/(t1p+t2p)]≧6
を満たし、G1が6以上である、樹脂シートセット。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、部品の実装工程における反りを抑制することのできる、薄型のプリント配線板を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[プリント配線板]
本発明のプリント配線板は、第1及び第2のソルダーレジスト層を含み、第1のソルダーレジスト層の厚さをt1(μm)、硬化後の弾性率(23℃)をG1(GPa)とし、第2のソルダーレジスト層の厚さをt2(μm)、硬化後の弾性率(23℃)をG2(GPa)とし、プリント配線板の厚さをZ(μm)とするとき、下記条件(1)?(3): (1) Z≦250; (2) (t1+t2)/Z≧0.1;及び (3) G1×[t1/(t1+t2)]+G2×[t2/(t1+t2)]≧6 を満たし、G1が6以上であることを特徴とする。
【0011】
斯かる特定の厚さと弾性率を有する第1及び第2のソルダーレジスト層を組み合わせて含む本発明のプリント配線板は、高い半田リフロー温度を採用する部品の実装工程においても反りを抑えることができ、回路歪みや部品の接触不良等の問題の発生を抑制することができる。
(中略)
【0013】
-条件(2)-
条件(2)は、本発明のプリント配線板に含まれる第1及び第2のソルダーレジスト層の厚さt1(μm)及びt2(μm)に関する。ここで、第1及び第2のソルダーレジスト層の厚さt1(μm)及びt2(μm)は、回路基板のベース面(回路基板の表面のうち、表面回路のない部分)からの厚さである。実装工程におけるプリント配線板の反りを抑える観点から、プリント配線板の厚さZに対する第1及び第2のソルダーレジスト層の厚さの和(t1+t2)の比、すなわち(t1+t2)/Z比は、0.1以上であり、条件(3)の右辺の値にもよるが、好ましくは0.15以上、より好ましくは0.2以上、0.22以上、0.24以上、0.26以上、0.28以上又は0.3以上である。(t1+t2)/Z比の上限は、所期の配線密度を有するプリント配線板を得る観点から、好ましくは0.5以下、より好ましくは0.45以下、さらに好ましくは0.4以下、0.39以下、0.38以下、0.37以下、0.36以下、0.36以下又は0.34以下である。
【0014】
第1のソルダーレジスト層の厚さt1は、上記特定の(t1+t2)/Z比を満たす限り特に限定されないが、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上、さらに好ましくは15μm以上、20μm以上又は25μm以上である。厚さt1の上限は、特に限定されないが、上記特定の(t1+t2)/Z比を満たす限り特に限定されないが、好ましくは120μm以下、より好ましくは100μm以下、さらに好ましくは80μm以下、70μm以下、60μm以下、50μm以下、40μm以下又は30μm以下である。
【0015】
第2のソルダーレジスト層の厚さt2は、上記特定の(t1+t2)/Z比を満たす限り特に限定されず、第1のソルダーレジスト層の厚さt1とプリント配線板の厚さZとを考慮して決定すればよい。第2のソルダーレジスト層の厚さt2の上限は、通常、120μm以下又は100μm以下とすることができ、厚さt2の下限は、通常、5μm以上又は10μm以上とすることができる。」
【0016】
-条件(3)- 条件(3)は、本発明のプリント配線板に含まれる第1及び第2のソルダーレジスト層の硬化後の弾性率(23℃)に関する。第1及び第2のソルダーレジスト層は、後述するように、樹脂組成物を硬化して形成される。硬化後の弾性率(23℃)とは、樹脂組成物を硬化させた後の、23℃におけるソルダーレジスト層の弾性率を表す。第1及び第2のソルダーレジスト層の硬化後の弾性率(23℃)をそれぞれG1(GPa)及びG2(GPa)とするとき、式:G1×[t1/(t1+t2)]+G2×[t2/(t1+t2)]の値(以下、「G1及びG2の厚さ加重平均値」ともいう。)は、実装工程におけるプリント配線板の反りを抑える観点から、6以上であり、好ましくは6.2以上、より好ましくは6.4以上、さらに好ましくは6.6以上、さらにより好ましくは6.8以上である。G1及びG2の厚さ加重平均値が6.8以上であると、プリント配線板の厚さZが200μm以下とさらに薄い場合であっても、実装工程におけるプリント配線板の反りを抑えることができる。G1及びG2の厚さ加重平均値は、プリント配線板の厚さZを小さくしつつ(t1+t2)/Z比をさらに低くする場合であっても実装工程におけるプリント配線板の反りを抑え得る観点から、7以上、7.5以上、8以上、8.5以上、9以上、9.5以上、10以上、10.5以上、11以上、11.5以上、12以上、12.5以上又は13以上であることが特に好ましい。G1及びG2の厚さ加重平均値の上限は、特に限定されないが、通常、40以下、30以下などとし得る。第1及び第2のソルダーレジスト層の硬化後の弾性率(23℃)は、引張試験機を用いて引張加重法により23℃において測定することができる。引張試験機としては、例えば、(株)オリエンテック製「RTC-1250A」が挙げられる。
【0017】
第1のソルダーレジスト層の硬化後の弾性率(23℃)、すなわちG1(GPa)は、6以上である。G1の値は、6以上であり且つG1及びG2の厚さ加重平均値が上記特定の範囲にある限り特に限定されないが、実装工程におけるプリント配線板の反りを十分に抑える観点から、好ましくは6.2以上、より好ましくは6.4以上、さらに好ましくは6.6以上、さらにより好ましくは6.8以上、特に好ましくは7以上、7.5以上、8以上、8.5以上、9以上、9.5以上、10以上、10.5以上、11以上、11.5以上、12以上、12.5以上又は13以上である。G1の上限は、特に限定されないが、通常、40以下、30以下などとし得る。
【0018】
第2のソルダーレジスト層の硬化後の弾性率(23℃)、すなわちG2(GPa)は、G1及びG2の厚さ加重平均値が上記特定の範囲にある限り特に限定されない。例えば、G2の値は、G1及びG2の厚さ加重平均値が上記特定の範囲にある限りにおいて、1?30の範囲において決定すればよい。プリント配線板の厚さZを小さくしつつ(t1+t2)/Z比をさらに低くする場合であっても実装工程におけるプリント配線板の反りを容易に抑え得る観点から、G2の値は、6以上であることが特に好ましい。」

イ.「【0023】
[プリント配線板のソルダーレジスト層用樹脂シートセット]
本発明のプリント配線板は、特定の厚さ及び弾性率を有する第1及び第2のソルダーレジスト層を回路基板の両面に設けて製造することができる。
【0024】
以下、本発明のプリント配線板を製造するに際して好適に使用し得る一組の樹脂シート(「樹脂シートセット」ともいう。)について説明する。
【0025】
本発明のプリント配線板のソルダーレジスト層用樹脂シートセットは、 第1の支持体と、該第1の支持体と接合している第1の樹脂組成物層とを含む第1の樹脂シートと、 第2の支持体と、該第2の支持体と接合している第2の樹脂組成物層とを含む第2の樹脂シートと を含み、第1の樹脂組成物層の厚さをt1p(μm)、硬化後の弾性率(23℃)をG1(GPa)とし、第2の樹脂組成物層の厚さをt2p(μm)、硬化後の弾性率(23℃)をG2(GPa)とし、プリント配線板の厚さをZ(μm)とするとき、下記条件(1’)?(3’): (1’) Z≦250; (2’) (t1p+t2p)/Z≧0.1;及び (3’) G1×[t1p/(t1p+t2p)]+G2×[t2p/(t1p+t2p)]≧6 を満たし、G1が6以上であることを特徴とする。
【0026】
斯かる樹脂シートセットを用いて第1及び第2のソルダーレジスト層を形成することにより、条件(1)、(2)及び(3)を満たす本発明のプリント配線板を簡便に製造することができる。
【0027】
条件(1’)は、上記条件(1)と対応する。Zの好適な範囲は、条件(1)について説明したとおりである。
【0028】
条件(2’)は、上記条件(2)と対応する。回路基板上に樹脂組成物層を積層しソルダーレジスト層を形成する場合、回路基板の表面回路の存在に起因して、通常、得られるソルダーレジスト層の厚さは樹脂組成物層の厚さよりも厚くなる。したがって条件(2’)を満たすことにより、回路基板の表面回路の厚さや表面回路の密度によらず、条件(2)を容易に満たすことができる。条件(2’)において、(t1p+t2p)/Z比の好適な範囲を決定するに際しては、条件(2)における「t1」及び「t2」をそれぞれ「t1p」及び「t2p」に読み替えて適用することができる。同様に、t1p及びt2pの好適な範囲を決定するに際しては、上記条件(2)に付随して説明したt1及びt2の好適な範囲の説明において、「t1」及び「t2」をそれぞれ「t1p」及び「t2p」に読み替えて適用することができる。なお、t1p及びt2pの決定に際しては、それらが回路基板の表面回路の厚さと同じかより厚くなるように決定することが好ましい。
【0029】
条件(3’)は、上記条件(3)と対応する。ソルダーレジスト層の硬化後の弾性率(23℃)が、ソルダーレジスト層を構成するのに使用した樹脂組成物の硬化後の弾性率(23℃)を表すことは先述のとおりであり、G1及びG2の好適な範囲は、条件(3)について説明したとおりである。また、条件(3’)の右辺の値の好適な範囲は、条件(3)について記載したとおりである。」

ウ.「【0150】
(2)樹脂シートの積層
上記(1)で得た回路基板に、下記作製例において作製した樹脂シートを、バッチ式真空加圧ラミネーター(ニチゴー・モートン(株)製の2ステージビルドアップラミネーター「CVP700」)を用いて、樹脂組成物層が回路基板と接するように、回路基板の両面に積層した。積層は、30秒間減圧して気圧を13hPa以下とした後、100℃、圧力0.74MPaにて30秒間圧着させることにより実施した。次いで、常圧下、100℃、圧力0.5MPaにて60秒間熱プレスすることにより平滑化処理を行った。
なお、回路基板の両面に積層した第1及び第2の樹脂シートの組み合わせは表1に示すとおりである。
【0151】
次いで、以下のとおり、樹脂組成物層を硬化させてソルダーレジスト層を形成した。
(中略)
【0157】
<反りの評価>
評価用基板を、ピーク温度260℃の半田リフロー温度を再現するリフロー装置(日本アントム(株)製「HAS-6116」)に一回通した(リフロー温度プロファイルはIPC/JEDEC J-STD-020Cに準拠)。次いで、シャドウモアレ装置(Akrometrix製「TherMoire AXP」)を用いて、IPC/JEDEC J-STD-020C(ピーク温度260℃)に準拠したリフロー温度プロファイルにて評価基板下面を加熱し、評価基板上面に配した格子線に基づき評価基板中央の25mm角部分の変位を測定した。
得られた変位データの最大高さと最小高さの差異が、全温度範囲で50μm以上となるものを「×」、50μm未満を「○」とした。
(中略)
【0172】
【表1】

(中略)
【0181】
【表2】



上記の当初明細書等の記載事項について検討する。

a.上記ア.の段落【0004】?【0007】、【0009】、及び【0011】の記載によれば、本発明は反りを抑制することのできる薄型のプリント配線板を提供することを課題とし、これを解決することを目的とするものである。そして、本発明者らの検討の結果、特定の厚さと弾性率を有する2つのソルダーレジスト層を組み合わせて用いることにより当該課題を解決できることを見いだしたものである。

b.上記ア.の段落【0008】の[1]には、第1及び第2のソルダーレジスト層を含むプリント配線板であって、「第1のソルダーレジスト層の厚さをt1(μm)、硬化後の弾性率(23℃)をG1(GPa)とし、第2のソルダーレジスト層の厚さをt2(μm)、硬化後の弾性率(23℃)をG2(GPa)とし、プリント配線板の厚さをZ(μm)とするときに、
(1) Z≦250;
(2) (t1+t2)/Z≧0.1;及び
(3) G1×[t1/(t1+t2)]+G2×[t2/(t1+t2)]≧6」との条件を満たし、かつG1が6以上」(以下、「本件条件」という。)であるプリント配線基板が、
また、[8]には、第1及び第2のソルダーレジスト層を含むプリント配線板のソルダーレジスト層用樹脂シートセットであって、本件条件を満たす樹脂シートセットがそれぞれ記載されている。
そして、上記ア.の段落【0010】及び【0011】によれば、本件条件を満たす第1及び第2のソルダーレジスト層を組み合わせて含む構成により、「高い半田リフロー温度を採用する部品の実装工程においても反りを抑えることができ、回路歪みや部品の接触不良等の問題の発生を抑制することができる」という本件効果を奏することが記載されている。

c.上記ア.の段落【0014】に、第1のソルダーレジスト層の厚さt1は、「より好ましくは10μm以上」、「好ましくは120μm以下」とすることが記載されている。しかしながら、同段落には、「第1のソルダーレジスト層の厚さt1は、上記特定の(t1+t2)/Z比を満たす限り特に限定されない」と記載されているから、第1のソルダーレジスト層の厚さt1は、本件条件の条件(2)である(t1+t2)/Z≧0.1を満たすことが前提となっており、単に第1のソルダーレジスト層の厚さt1を10μm以上、120μm以下とすることにより何らかの効果を奏することは記載されていない。
また、上記ア.の段落【0015】によれば、第2のソルダーレジスト層の厚さt2についても本件条件の条件(2)をみたすことが前提となっており、単に第2のソルダーレジスト層の厚さt2を10μm以上、120μm以下とすることにより何らかの効果を奏することは記載されていない。

d.上記ア.の段落【0017】に、第1のソルダーレジスト層の弾性率G1の値を「6以上」、「40以下」とすることが記載されているが、同段落において、第1のソルダーレジスト層の弾性率G1については、「G1の値は、6以上であり且つG1及びG2の厚さ加重平均値が上記特定の範囲にある限り特に限定されない」とされ、第1のソルダーレジスト層の弾性率G1の値は、G2の値との加重平均値が特定の条件(本件条件の条件(3)G1×[t1/(t1+t2)]+G2×[t2/(t1+t2)]の値が6以上)を満たすことが必要とされ、単に第1のソルダーレジスト層の弾性率G1の値を6以上、40以下とし、厚さt1を10μm以上、120μm以下とすることのみにより、何らかの効果を奏することは記載されていない。
上記ア.の段落【0018】によれば、第2のソルダーレジスト層の弾性率G2についても、第1のソルダーレジスト層の弾性率G1と同様にG1とG2の加重平均値が本件条件の条件(3)を満たすことが前提とされており、単に第2のソルダーレジスト層の弾性率と厚さを特定することにより何らかの効果を奏することは記載されていない。

e.上記イ.には、本件条件を満たす第1及び第2のソルダーレジスト層を形成する第1の樹脂シート及び第2の樹脂シートから成る樹脂シートセットを用いてソルダーレジスト層を形成することにより、本件プリント配線板を簡便に製造することができることが記載されているが、第1の樹脂シート又は第2の樹脂シートを単独で使用することにより何らかの効果を奏することは記載されていない。

f.また、実施例について記載された上記ウ.の記載をみても、第1のソルダーレジスト層を形成する第1の樹脂シートと、第2のソルダーレジスト層を形成する第2の樹脂シートを樹脂シートセットとして組み合わせて用いた場合に、基板の反りを抑えられたか否かを評価しており、第1の樹脂シート又は第2の樹脂シートの一方のみを単独で用いた場合の評価は行っていない。

g.上記a.?f.のように、当初明細書等には、第1のソルダーレジスト層と第2のソルダーレジスト層を本件条件を満たすように組み合わせて用いた場合にプリント配線板の反りを抑えるという効果を奏することについて記載されているものの、第1のソルダーレジスト層又は第2のソルダーレジスト層の一方のみを使用すること、及び第1の樹脂シート又は第2の樹脂シートの一方のみを供給することにより何らかの効果を奏することについて記載されていない。

ここで、本件補正において発明の詳細な説明の段落【0006】に「・・・また、本発明は、新規な樹脂シートを提供することを課題とする。特に、部品の実装工程における薄型のプリント配線の反りを抑制し得る樹脂シートを提供することを課題とする。」との記載を追加する補正は、本件補正発明がプリント配線板の反りを抑制する単一の樹脂シートを提供するという課題を追加する補正であり、当該課題を解決するという効果を実質的に追加しようとする補正といえる。
しかしながら既に検討したように、当初明細書等には第1の樹脂シート又は第2の樹脂シートの一方のみにより何らかの効果を奏することは記載されていないから、段落【0006】に係る補正により追加される効果は新規な効果といる。
そして、本件補正発明に記載された厚さが「10μm以上120μm以下」、23°Cにおける弾性率が「6GPa以上40GPa以下」である光硬化性樹脂組成物層を含む樹脂シートによりプリント配線の反りの抑制という効果を奏することは自明の事項であると言うこともできないから、段落【0006】に係る補正は新たな技術事項を導入するものである。

したがって、本件補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲を超えた内容を含むものであって、新たな技術的事項を導入するものであり特許法17条の2第3項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。

よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 本願発明について

1 本願発明
令和1年9月4日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし6に係る発明は、平成30年12月26日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明は、明細書及び図面の記載からみて、その請求項1に記載された事項により特定される、上記「第2」[理由]の「1 補正の概要」の欄において「本願発明」として認定したとおりのものと認める。


2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由の概要は、請求項1?5に対して、この出願は,特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないというものであり、以下のように説示している。
「 発明の解決しようとする課題として,部品の実装工程における反りを抑制することのできる,薄型のプリント配線板を提供することが記載され,当該課題を解決するための手段として,第1及び第2のソルダーレジスト層を含むプリント配線板であって,第1のソルダーレジスト層の厚さをt1(μm),硬化後の弾性率(23℃)をG1(GPa)とし,第2のソルダーレジスト層の厚さをt2(μm),硬化後の弾性率(23℃)をG2(GPa)とし,プリント配線板の厚さをZ(μm)とするとき,下記条件(1)?(3):(1)Z≦250;(2)(t1+t2)/Z≧0.1;及び(3)G1×[t1/(t1+t2)]+G2×[t2/(t1+t2)]≧6を満たし,G1が6以上とすることが記載されている。
しかしながら,請求項1-5に係る発明では,上記条件のすべてについて特定はされておらず,発明の課題を解決するための手段が反映されていないため,当該請求項に係る発明は,発明の詳細な説明に記載した範囲を超えることとなる(実際に,請求項1-5に係る発明の樹脂シートは,この出願の比較例4で用いられた樹脂シートセット6を含んでいるが,比較例4において,上記条件(2)を満たさないために,反りが生じることが記載されている。)
よって,請求項1-5に係る発明は,発明の詳細な説明に記載したものでない。」


3 発明の詳細な説明の記載
令和1年9月4日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の発明の詳細な説明の記載は段落【0008】を除いて当初明細書等のとおりであり、上記「第2」の「2」に摘記したア.?ウ.の事項が記載されている。
また、段落【0008】には平成29年12月6日にされた補正のとおり以下のように記載されている。

「【0008】
(略)
また、本発明は以下の内容を含む。
〔1〕 支持体と、
前記支持体と接合しているソルダーレジスト用光硬化性樹脂組成物層とを含む樹脂シートであって、
前記樹脂組成物層の厚さが、5μm以上120μm以下であり、
前記樹脂組成物層の硬化物の23℃における弾性率が、6GPa以上40GPa以下である、
樹脂シート。
〔2〕 前記樹脂組成物層が、無機充填材を60質量%以上含む、〔1〕に記載の樹脂シート。
〔3〕 前記樹脂組成物層の硬化物の200℃における弾性率が、0.2GPa以上15GPa以下である、〔1〕又は〔2〕に記載の樹脂シート。
〔4〕 厚さ250μm以下のプリント配線板に用いられる樹脂シートである、〔1〕?〔3〕のいずれか1項に記載の樹脂シート。
〔5〕 プリント配線板の回路基板の第1の主面及び第2の主面の双方に用いられる樹脂シートである、〔1〕?〔4〕のいずれか1項に記載の樹脂シート。」(下線部は、補正箇所を示す。)


4 判断
上記「第2」の「2」のa.?f.において検討したように、発明の詳細な説明には、第1のソルダーレジスト層と第2のソルダーレジスト層を本件条件を満たすように組み合わせて構成した場合に、プリント配線板の反りを抑えるという効果を奏することについては記載されているものの、第1の樹脂シート又は第2の樹脂シートの一方のみを単独で使用することによって何らかの効果を奏することについて記載されていない。また、上記「3.」に摘記した段落【0008】の記載をみても、単一の樹脂シートにより奏する効果が記載されているとはいえない。
そうしてみると、プリント配線板の反りを抑えるという効果を奏するためには、第1のソルダーレジスト層と第2のソルダーレジスト層を本件条件を満たすように組み合わせて構成することが必要なところ、請求項1に係る本願発明では当該事項に対する特定はなされていない。
したがって、請求項1には発明の課題を解決するための手段が反映されていないから、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えており、請求項1に係る発明と発明の詳細な説明に発明として記載されたものとが実質的に対応しているとはいえず、請求項1の記載はサポート要件を満たしているとはいえない。

なお、請求人は、原査定は本件出願に係る発明の課題の認定を、本件出願の明細書の記載そのものに基づいて認定した点において誤りであるか又は審理不尽の違法があり、斯かる誤りがある認定に基づき本願がサポート要件に適合しないとの結論にも誤りがある旨主張している。
しかしながら、上記「第2」の「2 補正の適否」の項で検討したように、発明の詳細な説明には、第1のソルダーレジスト層又は第2のソルダーレジスト層の一方を形成するソルダーレジスト用光硬化性樹脂組成物層を含む樹脂シートにおいて、樹脂組成物層の厚さを10μm以上120μm以下、弾性率を6GPa以上40GPa以下とすることのみにより何らかの効果を奏することについて記載されておらず、当該構成により反りを抑制できるなどの効果を奏することも自明な事項とはいえない。したがって、上記請求人の主張は採用できない。


第4 むすび
以上のとおり、請求項1にかかる発明は発明の詳細な説明に記載されたものではないから、本件出願は、特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。


 
審理終結日 2020-07-28 
結審通知日 2020-08-04 
審決日 2020-08-18 
出願番号 特願2017-234601(P2017-234601)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (H05K)
P 1 8・ 561- Z (H05K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 原田 貴志  
特許庁審判長 井上 信一
特許庁審判官 山本 章裕
須原 宏光
発明の名称 樹脂シート  
代理人 特許業務法人酒井国際特許事務所  

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