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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1366923
審判番号 不服2019-16353  
総通号数 251 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-12-03 
確定日 2020-10-08 
事件の表示 特願2015- 72772「インプリントモールドの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年11月10日出願公開、特開2016-192522〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続きの経緯
本願は、平成27年3月31日の出願であって、その後の主な手続きの経緯は、以下のとおりである。

平成28年12月 1日 :上申書の提出
平成30年 1月30日 :出願審査請求書の提出
同年12月26日付け :拒絶理由通知(平成31年1月8日発送)
平成31年 3月 6日 :期間延長請求書の提出(2ケ月)
同年 4月10日 :手続補正書・意見書の提出
令和元年 5月31日付け:拒絶理由通知(同年6月11日発送)
同年 8月 9日 :手続補正書・意見書の提出
同年 8月30日付け:補正の却下の決定(同年9月10日送達)
同年 8月30日付け:拒絶査定(同年9月10日送達)
同年12月 3日 :審判請求書・手続補正書の提出

第2 令和元年12月3日付け手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和元年12月3日付け手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[補正の却下の決定の理由]
1 補正内容
本件補正は、特許請求の範囲についてするものであり、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1(平成31年4月10日付け手続補正後のもの)に、

「【請求項1】
金属あるいは金属化合物を含有する第1ハードマスク材料層と、第2ハードマスク材料層とが当該順序で積層してなるハードマスク材料層を備える基材の該ハードマスク材料層上に電子線感応型のレジストを塗布してレジスト層を形成するレジスト層形成工程と、
前記レジスト層に電子線を描画する描画工程と、
電子線描画後の前記レジスト層を現像してレジストパターンを形成する現像工程と、
前記レジストパターンに電子線を照射して硬化させる照射工程と、
硬化した前記レジストパターンを介して前記第2ハードマスク材料層をエッチングして第1のハードマスクを形成する第1ハードマスク形成工程と、
前記第1のハードマスクを介して前記第1ハードマスク材料層をエッチングして第2のハードマスクを形成する第2ハードマスク形成工程と、
前記第2のハードマスクを介して前記基材をエッチングして凹凸構造パターンを形成する基材エッチング工程と、を有し、
前記電子線感応型のレジストが日本ゼオン社製のZEP520であり、
前記基材エッチング工程において形成される前記凹凸構造パターンのラインエッジラフネスが、前記現像工程において形成される前記レジストパターンのラインエッジラフネスよりも大きくならず、
前記第1ハードマスク形成工程における前記レジストパターンを介した前記第2ハードマスク材料層のエッチング時のエッチング選択比(第2ハードマスク材料層のエッチング速度/レジストパターンのエッチング速度)を0.8?3の範囲とすることを特徴とするインプリントモールドの製造方法。」とあったものを、

本件補正後に、
「【請求項1】
金属あるいは金属化合物を含有する第1ハードマスク材料層と、シリコンあるいはシリコン化合物を含有する第2ハードマスク材料層とが当該順序で積層してなるハードマスク材料層を備える基材の該ハードマスク材料層上に電子線感応型のレジストを塗布してレジスト層を形成するレジスト層形成工程と、
前記レジスト層に電子線を描画する描画工程と、
電子線描画後の前記レジスト層を現像してレジストパターンを形成する現像工程と、
前記レジストパターンに電子線を照射して硬化させる照射工程と、
硬化した前記レジストパターンを介して前記第2ハードマスク材料層を、フッ素系のエッチングガスを用いた反応性イオンエッチング処理に付して第1のハードマスクを形成する第1ハードマスク形成工程と、
前記第1のハードマスクを介して前記第1ハードマスク材料層をエッチングして第2のハードマスクを形成する第2ハードマスク形成工程と、
前記第2のハードマスクを介して前記基材をエッチングして凹凸構造パターンを形成する基材エッチング工程と、を有し、
前記照射工程は、前記第1ハードマスク形成工程において前記第2のハードマスク材料層をエッチングする際の前記レジストパターンのラインエッジラフネスの悪化を防止するための工程であり、
前記電子線感応型のレジストが日本ゼオン社製のZEP520であり、前記基材エッチング工程において形成される前記凹凸構造パターンのラインエッジラフネスが、前記現像工程において形成される前記レジストパターンのラインエッジラフネスよりも大きくならず、
前記照射工程では、前記レジストパターンの寸法変化が収束した状態となるように電子線を照射し、
前記第1ハードマスク形成工程における前記レジストパターンを介した前記第2ハードマスク材料層のエッチング時のエッチング選択比(第2ハードマスク材料層のエッチング速度/レジストパターンのエッチング速度)を1.1?3の範囲とすることを特徴とするインプリントモールドの製造方法。」と補正する内容を含むものである(なお、下線は、請求人が手続補正書において付したものである。)。

2 補正目的
(1)本件補正は、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な、
ア 「第2ハードマスク材料層」について、シリコンあるいはシリコン化合物を含有すること、
イ 「第1ハードマスク形成工程」について、フッ素系のエッチングガスを用いた反応性イオンエッチング処理であること、
ウ 「照射工程」について、第1ハードマスク形成工程において第2のハードマスク材料層をエッチングする際のレジストパターンのラインエッジラフネスの悪化を防止するための工程であること、レジストパターンの寸法変化が収束した状態となるように電子線を照射すること、
エ 「エッチング選択比(第2ハードマスク材料層のエッチング速度/レジストパターンのエッチング速度)」について、0.8?3を1.1?3、と限定するものであって、
その補正前後で、発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であることから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。

(2)よって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものと認められることから、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)について、これが特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否か)を、以下に検討する。

3 独立特許要件
(1)本願補正発明
本願補正発明は、上記「第2 1」に、本件補正後の請求項1として記載したとおりのものである。

(2)引用文献
ア 原査定の拒絶の理由において、引用文献1として引用された特開2014-82413号公報(平成26年5月8日公開 以下、「引用文献」という。)には、図面とともに、以下の記載がある(なお、下線は、当審で付した。以下同様。)。

(ア)「【請求項8】
最表層側から、シリコンを含む材料から構成されている原子層堆積膜である第1のハードマスク層と、クロムを含む材料から構成されている第2のハードマスク層と、酸化シリコンを含む材料から構成されている光透過性基板を有するナノインプリントリソグラフィ用テンプレートブランクを用いたナノインプリントリソグラフィ用テンプレートの製造方法であって、
前記第1のハードマスク層の上にレジストパターンを形成する工程と、
前記レジストパターンから露出する前記第1のハードマスク層を、フッ素を含むガスを用いてドライエッチングして、第1のハードマスクパターンを形成する工程と、
前記第1のハードマスクパターンから露出する前記第2のハードマスク層を、酸素と塩素を含む混合ガスを用いてドライエッチングして、第2のハードマスクパターンを形成する工程と、
前記第2のハードマスクパターンから露出する前記光透過性基板の主面を、フッ素を含むガスを用いてドライエッチングして、凹凸形状の転写パターンを形成する工程と、
を順に備えることを特徴とするナノインプリントリソグラフィ用テンプレートの製造方法。」

(イ) 「【実施例】
【0067】
以下、実施例を用いて、本発明をさらに具体的に説明する。
【0068】
(実施例1)
光透過性基板13に合成石英ガラス基板を用い、その主面の上に、DCマグネトロンスパッタ法により、Crターゲットを用いて、Arガス雰囲気下で、Cr膜を6nmの厚さに成膜して第2のハードマスク層12を形成した。
【0069】
次に、第2のハードマスク層12を形成した光透過性基板13を原子層堆積装置に搭載し、光透過性基板13を300℃の温度に加熱しながら、第2のハードマスク層12の上に、シリコンを含む原料ガス(トリ-ジメチルアミノシランガス)と、酸素を含む反応ガス(O2ガスとH2Oガスの混合ガス)を交互に供給する原子層堆積法を用いて、膜厚3nmのSiO2膜からなる第1のハードマスク層11を形成し、ナノインプリントリソグラフィ用テンプレートブランク1を得た。
【0070】
次に、ナノインプリントリソグラフィ用テンプレートブランク1の第1のハードマスク層11の上に、ポジ型電子線レジストを膜厚40nmで形成し、加速電圧100kVのスポットビームの電子線描画装置を用いて、スペース幅が18nm?100nmの1:1L&Sパターンを描画し、現像して、レジストパターン14Pを形成した。
【0071】
次に、レジストパターン14Pから露出する第1のハードマスク層11を、フッ素系のガス(CF4ガス)を用いてドライエッチングして第1のハードマスクパターン11Pを形成し、その後、レジストパターン14Pを酸素プラズマで除去した。
【0072】
次に、第1のハードマスクパターン11Pから露出する第2のハードマスク層12を、塩素と酸素の混合ガスを用いてドライエッチングして第2のハードマスクパターン12Pを形成した。
【0073】
次に、第2のハードマスクパターン12Pから露出する光透過性基板13の主面を、フッ素系のガス(CF4ガス)を用いてドライエッチングして、深さ30nmの凹部10sを形成し、最後に、第2のハードマスクパターン12Pを、塩素と酸素の混合ガスを用いたドライエッチングで除去して、凹部10sの深さが30nm、凹部10sの幅が18nm?100nmの1:1L&Sパターンの凹凸形状の転写パターンを有するナノインプリントリソグラフィ用テンプレート10を得た。」

(ウ)図3は、以下のものである。

1・・・ナノインプリントリソグラフィ用テンプレートブランク
10・・・ナノインプリントリソグラフィ用テンプレート
11・・・第1のハードマスク層
11P・・・第1のハードマスクパターン
12・・・第2のハードマスク層
12P・・・第2のハードマスクパターン
13・・・光透過性基板
14P・・・レジストパターン
10s・・・凹部
10t・・・凸部

(2)引用文献に記載された発明
ア 上記(1)アの記載からして、引用文献には、
「最表層側から、シリコンを含む第1のハードマスク層と、クロムを含む第2のハードマスク層と、光透過性基板を有するナノインプリントリソグラフィ用テンプレートブランクを用いたナノインプリントリソグラフィ用テンプレートの製造方法であって、
前記第1のハードマスク層の上にレジストパターンを形成する工程と、
前記レジストパターンから露出する前記第1のハードマスク層を、フッ素を含むガスを用いてドライエッチングして、第1のハードマスクパターンを形成する工程と、
前記第1のハードマスクパターンから露出する前記第2のハードマスク層を、酸素と塩素を含む混合ガスを用いてドライエッチングして、第2のハードマスクパターンを形成する工程と、
前記第2のハードマスクパターンから露出する前記光透過性基板の主面を、フッ素を含むガスを用いてドライエッチングして、凹凸形状の転写パターンを形成する工程と、を順に備える、ナノインプリントリソグラフィ用テンプレートの製造方法。」が記載されているものと認められる。

イ 上記(1)イの記載を踏まえて、図3を見ると、以下のことが理解できる。
(ア)「第1のハードマスク層」は、膜厚3nmのSiO2膜であること(以下「シリコン材料層」という。)。
(イ)「第2のハードマスク層」は、膜厚6nmのCr膜であること(以下「クロム材料層」という。)。
(ウ)「光透過性基板」は、合成石英ガラス基板であること。
(エ)「シリコン材料層の上に、ポジ型電子線レジストを膜厚40nmで形成する工程」を備えること。
(オ)「ポジ型電子線レジスト層」に電子線を描画する描画工程を備えること。
(カ)「電子線描画後のレジスト層」を現像してレジストパターンを形成する現像工程を備えること。
(キ)「凹凸形状」は、凹部10sの深さが30nm、凹部10sの幅が18nm?100nmであること。

ウ 上記ア及びイの検討からして、引用文献には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「合成石英ガラス基板上に、膜厚6nmのクロム材料層及び膜厚3nmのシリコン材料層をこの順に積層したナノインプリントリソグラフィ用テンプレートブランクを用いたナノインプリントリソグラフィ用テンプレートの製造方法であって、
前記シリコン材料層上にポジ型電子線レジストを膜厚40nmで形成する工程と、
前記ポジ型電子線レジスト層に電子線を描画する描画工程と、
前記電子線描画後のレジスト層を現像してレジストパターンを形成する現像工程と、
前記レジストパターンから露出する前記シリコン材料層を、フッ素を含むガ スを用いてドライエッチングして、第1のハードマスクパターンを形成する工程と、
前記第1のマスクパターンから露出する前記クロム材料層を、酸素と塩素を含む混合ガスを用いてドライエッチングして、第2のハードマスクパターンを形成する工程と、
前記第2のハードマスクパターンから露出する前記合成石英ガラス基板の主面を、フッ素を含むガスを用いてドライエッチングして、凹部の深さが30nm、凹部の幅が18nm?100nmの凹凸形状の転写パターンを形成する工程と、を順に備える、ナノインプリントリソグラフィ用テンプレートの製造方法。」

(3)対比
ア 本願補正発明と引用発明とを対比すると、以下のことがいえる。
(ア)引用発明の「膜厚6nmのクロム材料層」は、本願補正発明の「金属あるいは金属化合物を含有する第1ハードマスク材料層」に相当する。
以下、同様に、
「膜厚3nmのシリコン材料層」は、「シリコンあるいはシリコン化合物を含有する第2ハードマスク材料層」に、
「『膜厚6nmのクロム材料層及び膜厚3nmのシリコン材料層をこの順に積層した』層」は、「ハードマスク材料層」に、
「合成石英ガラス基板」は、「基材」に、
「シリコン材料層上にポジ型電子線レジストを膜厚40nmで形成する工程」は、「ハードマスク材料層上に電子線感応型のレジストを塗布してレジスト層を形成するレジスト層形成工程」に、
「ポジ型電子線レジスト層に電子線を描画する描画工程」は、「レジスト層に電子線を描画する描画工程」に、
「電子線描画後のレジスト層を現像してレジストパターンを形成する現像工程」は、「電子線描画後のレジスト層を現像してレジストパターンを形成する現像工程」に、それぞれ、相当する。

(イ)本願補正発明の「第1のハードマスク」とは、一回目に(第2ハードマスク材料層を)エッチングして形成されるハードマスクである。
また、引用発明の「レジストパターンから露出するシリコン材料層を、フッ素を含むガスを用いてドライエッチングして、第1のハードマスクパターンを形成する工程」における「ドライエッチング」は、異方性エッチングが可能な「反応性イオンエッチング」であることは、当業者にとって明らかである。
よって、本願補正発明の「硬化したレジストパターンを介して第2ハードマスク材料層を、フッ素系のエッチングガスを用いた反応性イオンエッチング処理に付して第1のハードマスクを形成する第1ハードマスク形成工程」と引用発明の「レジストパターンから露出するシリコン材料層を、フッ素を含むガスを用いてドライエッチングして、第1のハードマスクパターンを形成する工程」とは、「レジストパターンを介して第2ハードマスク材料層を、フッ素系のエッチングガスを用いた反応性イオンエッチング処理に付して第1のハードマスクを形成する第1ハードマスク形成工程」である点で一致する。

(ウ)本願補正発明の「第2のハードマスク」とは、二回目に(第1ハードマスク材料層を)エッチングして形成されるハードマスクであるところ、引用発明の「第1のハードマスクパターンから露出するクロム材料層を、酸素と塩素を含む混合ガスを用いてドライエッチングして、第2のハードマスクパターンを形成する工程」と本願補正発明の「第1のハードマスクを介して第1ハードマスク材料層をエッチングして第2のハードマスクを形成する第2ハードマスク形成工程」とは、
「第1のハードマスクを介して第1ハードマスク材料層をエッチングして第2のハードマスクを形成する第2ハードマスク形成工程」である点で一致する。

(エ)引用発明の「第2のハードマスクパターンから露出する合成石英ガラス基板の主面を、フッ素を含むガスを用いてドライエッチングして、凹部の深さが30nm、凹部の幅が18nm?100nmの凹凸形状の転写パターンを形成する工程」は、本願補正発明の「第2のハードマスクを介して基材をエッチングして凹凸構造パターンを形成する基材エッチング工程」に相当する。

(オ)引用発明の「ポジ型電子線レジスト」と本願補正発明の「(電子線感応型のレジストである)日本ゼオン社製のZEP520」とは、「ポジ型レジスト」である点で一致する。

(カ)引用発明の「ナノインプリントリソグラフィ用テンプレートの製造方法」は、本願補正発明の「インプリントモールドの製造方法」に相当する。

(キ)本願補正発明の「第1ハードマスク形成工程におけるレジストパターンを介した第2ハードマスク材料層のエッチング時のエッチング選択比(第2ハードマスク材料層のエッチング速度/レジストパターンのエッチング速度)」とは、一回目のエッチングによりハードマスクを形成する際のエッチング選択比である。
そして、引用発明の「第1のハードマスクパターンを形成する工程」においても、エッチング選択比が所定値であることは明らかである。
よって、本願補正発明と引用発明とは、「第1ハードマスク形成工程におけるレジストパターンを介した第2ハードマスク材料層のエッチング時のエッチング選択比(第2ハードマスク材料層のエッチング速度/レジストパターンのエッチング速度)を所定範囲とする」点で一致する。

(ク)上記(ア)ないし(キ)の検討からして、本願補正発明と引用発明とは、以下の点で一致する。
〈一致点〉
「金属あるいは金属化合物を含有する第1ハードマスク材料層と、シリコンあるいはシリコン化合物を含有する第2ハードマスク材料層とが当該順序で積層してなるハードマスク材料層を備える基材の該ハードマスク材料層上に電子線感応型のレジストを塗布してレジスト層を形成するレジスト層形成工程と、
前記レジスト層に電子線を描画する描画工程と、
電子線描画後の前記レジスト層を現像してレジストパターンを形成する現像工程と、
前記レジストパターンを介して前記第2ハードマスク材料層を、フッ素系のエッチングガスを用いた反応性イオンエッチング処理に付して第1のハードマスクを形成する第1ハードマスク形成工程と、
前記第1のハードマスクを介して前記第1ハードマスク材料層をエッチングして第2のハードマスクを形成する第2ハードマスク形成工程と、
前記第2のハードマスクを介して前記基材をエッチングして凹凸構造パターンを形成する基材エッチング工程と、を有し、
前記電子線感応型のレジストは、ポジ型レジストであり、
前記第1ハードマスク形成工程における前記レジストパターンを介した前記第2ハードマスク材料層のエッチング時のエッチング選択比(第2ハードマスク材料層のエッチング速度/レジストパターンのエッチング速度)を所定範囲とする、インプリントモールドの製造方法。」

(ケ)一方、両者は、以下の点で相違する。
〈相違点1〉
本願補正発明は、
a 「レジストパターンに電子線を照射して硬化させる照射工程」を有し、
b 「『硬化した前記レジストパターンを介して』『第1のハードマスクを形成する第1ハードマスク形成工程』」を有し、
c 「照射工程は、第1ハードマスク形成工程において第2のハードマスク材料層をエッチングする際のレジストパターンのラインエッジラフネスの悪化を防止するための工程であり」、
d 「照射工程では、レジストパターンの寸法変化が収束した状態となるように電子線を照射」するのに対して、
引用発明は、(現像後に)レジストパターンに電子線を照射して硬化させる照射工程を有していない点。

〈相違点2〉
ポジ型レジストに関して、
本願補正発明は、「日本ゼオン社製のZEP520」であるのに対して、
引用発明は、「日本ゼオン社製のZEP520」であるか否か不明である点。

〈相違点3〉
エッチング選択比に関して、
本願補正発明は、「1.1?3の範囲」であるのに対して、
引用発明は、不明である点。

〈相違点4〉
凹凸構造パターンに関して、
本願補正発明は、「凹凸構造パターンのラインエッジラフネスが、現像工程において形成されるレジストパターンのラインエッジラフネスよりも大きくならない」のに対して、
引用発明は、「凹凸構造パターンのラインエッジラフネスが、現像工程において形成されるレジストパターンのラインエッジラフネスよりも大きく」なるか否か不明である点。

(4)判断
ア まず、上記〈相違点2〉について検討する。
(ア)本願補正発明において、「日本ゼオン社製のZEP520」を採用する技術的意義について、本願明細書の記載を参酌して検討する。

本願明細書には、以下の記載がある。
「【0014】
……電子線感応型のレジストは、公知の化学増幅型レジスト、非化学増幅型レジストを使用することができる。例えば、富士フイルム(株)製 FEPレジスト(化学増幅型レジスト)、日本ゼオン(株)製 ZEP520(非化学増幅型レジスト)等を挙げることができる。」

「【実施例】
【0021】
[実施例]
厚み6.35mmの石英ガラス(152mm角)を基材として準備し、この基材の表面にスパッタリング法によりクロム薄膜(厚み15nm)を成膜して第1ハードマスク材料層とし、次いで、ALD法により酸化シリコン薄膜(厚み3nm)を成膜して第2ハードマスク材料層として、2層構造のハードマスク材料層を形成した。
次に、上記の基材のハードマスク材料層上に、市販の電子線感応型のレジストをスピンコート法で塗布して、レジスト層を形成した。
次いで、市販の電子線描画装置内のステージ上に、基材の裏面がステージと対向するように基材を配置し、レジスト層に電子線を照射して、所望のパターン潜像を形成した。」

上記記載からして、
日本ゼオン社製のZEP520は、適宜選択し得る候補の一つにすぎず、また、日本ゼオン社製のZEP520を用いた実施例は記載されておらず、日本ゼオン社製のZEP520を採用する効果も認められない。
また、本願明細書の他の記載を見ても、「日本ゼオン社製のZEP520」を採用する技術的意義は、特段明記されていない。

(イ)してみると、引用発明の「ポジ型電子線レジスト」として、「日本ゼオン社製のZEP520」を選択することは、当業者が適宜なし得ることである。

(ウ)以上の検討からして、引用発明において、上記〈相違点2〉に係る本願補正発明の構成を採用することは、当業者が容易になし得ることである。

イ 次に、上記〈相違点1〉について検討する。
(ア)現像後のレジストパターンに対して、ラインエッジラフネス低減や耐ドライエッチング性の向上等を目的として、電子線(EB)を照射することは、原査定の拒絶の理由において、周知例として引用された特開2003-140361号公報(【0044】)以外にも、例えば、下記の文獻に記載されているように、本願出願時点で周知である(以下「周知技術1」という。)。

特開平2-252233号公報(特許請求の範囲、第3頁左下欄)
特開2000-221699号公報(【0034】)
特開2002-237440号公報(図5、図7及び図11)
特開2003-151876号公報(【請求項1】)
特開2005-5527号公報(【0038】及び【0042】)
特開2005-309141号公報(【要約】、【0009】及び
【0019】)
特開2011-186418号公報(【要約】及び【0241】)
特開2012-38809号公報(【0016】、【0071】ないし
【0076】)

ちなみに、特開2000-221699号公報の【0034】には、以下の記載がある。
「【0034】
このように本実施形態によれば、被処理膜としてのレジスト33に対して、水素を含む還元性雰囲気下で加熱処理すると共に電子線を照射することにより、レジスト33を構成する有機材料の架橋反応を促進させると共に、炭化反応を促進させることができ、これにより酸化膜エッチング中にレジストパターンのエッジが荒れるのを防止できる。つまり、レジスト33の耐エッチング性の大幅な向上をはかることができる。」

また、特開2002-237440号公報の図5及び図11は、以下のものである。
図11(従来)

5A 電子線照射前のレジストパターン
2A 微細パターン(SiO_(2)膜など)
1 基板(例えばSiウエハ)

図5(電子線照射あり)

5B 電子線照射後のレジストパターン
2B 微細パターン(SiO_(2)膜など)
1 基板(例えばSiウエハ)

さらに、特開2011-186418号公報の【0241】には、以下の記載がある。
「【0241】
…なお、エッチングの前に、レジストパターンにエネルギーを与えてレジスト改質(キュア)を行っても良い。キュアの方法としては、熱キュア、紫外線キュア、電子線キュアなどがある。例えば、加速電圧1kV、露光量1mC/cm^(2)の条件で電子線キュアを行った後、エッチングを行うと、電子線キュアを行わない場合に比べて、0.5nm程度、LWRを良化することが出来る。」

(イ)してみると、引用発明の「電子線描画後……現像工程」の後に、「レジストパターンに電子線を照射して硬化させる照射工程」を採用することは、当業者が上記周知技術1に基づいて容易になし得ることであり、その適用を妨げる特段の事情は認められない。
その際、照射量を(許容できない)寸法変化が生じない範囲に設定することは、当業者が適宜なし得ることである。

(ウ)上記(イ)のようにした引用発明は、上記〈相違点1〉に係る本願補正発明の構成を備えることになる。

(エ)以上の検討からして、引用発明において、上記〈相違点1〉に係る本願補正発明の構成を採用することは、当業者が上記周知技術1に基づいて容易になし得ることである。

ウ 上記〈相違点3〉について検討する。
(ア)レジストパターンを利用して酸化シリコン膜をエッチングする際の選択比を「1対1前後」に設定することは、原査定の拒絶の理由において、周知例として引用された特開2005-217023号公報(【0070】及び【0077】)以外にも、例えば、下記の文獻に記載されているように、本願出願時点で周知である(以下「周知技術2」という。)。

特開平6-291090号公報(【0003】)
特開平9-120954号公報(【0010】)
特開平11-140441号公報(表2)
特開2001-226432号(【0012】)
特開2002-75970号公報(図1)
ちなみに、特開平11-140441号公報の表2は、以下のものである。

また、特開2001-226432号の【0012】には、以下の記載がある。
「【0012】
…本発明者が種々検討した結果、エッチング後のラフネスが発生するのは、CF_(4)、CHF_(3)、C_(2)F_(6)、C_(3)F_(8)、C_(4)F_(10)などのフロン系ガスを用いてSiO_(2)をドライエッチングするときに発生し、更にRFパワーを高くして高選択のエッチング、即ち酸化膜が早くエッチングされる高スループットを狙った条件でラフネスが増大することを見出した。」

(イ)してみると、引用発明の「レジストパターンから露出するシリコン材料層を……第1のハードマスクパターンを形成する工程」において、選択比を1ないし2程度に設定することは、(ラフネスが増大しない範囲内で)スループット等を勘案して、当業者が容易になし得ることであり、その適用を妨げる特段の事情は認められない。
また、本願補正発明の「1.1?3の範囲」に臨界的な技術的意義は認められない。

(ウ)以上の検討からして、引用発明において、上記〈相違点3〉に係る本願補正発明の構成を採用することは、当業者が上記周知技術2に基づいて容易になし得ることである。

エ 上記〈相違点4〉について検討する。
(ア)上記〈相違点4〉に係る構成は、引用発明において、上記〈相違点1〉及び〈相違点3〉に係る構成を採用することにより、結果として、備える構成であると認められる。

その理由は、下記のとおりである。
上記「周知技術1」で例示した特開2011-186418号公報の【0241】には「例えば、加速電圧1kV、露光量1mC/cm^(2)の条件で電子線キュアを行った後、エッチングを行うと、電子線キュアを行わない場合に比べて、0.5nm程度、LWRを良化することが出来る。」と記載され、ラインエッジラフネス低減を目的に、電子線を照射することが開示されており、
また、上記「周知技術2」で例示した特開2001-226432号の【0012】には「エッチング後のラフネスが発生するのは、CF_(4)、CHF_(3)、C_(2)F_(6)、C_(3)F_(8)、C_(4)F_(10)などのフロン系ガスを用いてSiO_(2)をドライエッチングするときに発生し、更にRFパワーを高くして高選択のエッチング、即ち酸化膜が早くエッチングされる高スループットを狙った条件でラフネスが増大することを見出した。」と記載され、高スループットを狙った条件でラフネスが増大することが開示されていることから、
引用発明において、「レジストパターンに電子線を照射して硬化させる照射工程」を採用するとともに、エッチング選択比を「1.1?3の範囲」することで、結果として、備える構成であると認められる。

(イ)よって、引用発明において、上記〈相違点4〉に係る本願補正発明の構成を備えることは、当業者が上記周知技術1及び上記周知技術2に基づいて容易になし得ることである。

オ 効果
本願補正発明の奏する効果は、当業者が引用発明の奏する効果、上記周知技術1及び上記周知技術2から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

カ まとめ
したがって、本件補正発明は、当業者引用発明、上記周知技術1及び上記周知技術2に基づいて容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)審判請求書における主張について
ア 請求人は、レジストパターンへの電子線の照射により、ZEP520のポリマー主鎖に含まれる塩素が脱離し、架橋が進行することで、レジストパターンの内部へのフッ素ラジカルの侵入を抑制することができ、ウィグリングが発生するのを抑制可能であると考えられる旨主張する(第2頁後段)。

しかしながら、レジストパターンに電子線を照射すると、ラインエッジラフネス低減や耐ドライエッチング性を向上できることが知られていることから、「ZEP520」に適用した際の効果は予測し得る範囲内のものである。

イ 請求人は、引用発明において、ラインエッジラフネスを向上させるとともに、製造されるインプリントモールドの側壁面の角度を90°に近づけることを目的として、選択比を1:1?3の範囲に設定する動機付けが存在しない旨主張する(第10頁中段)。

しかしながら、「インプリントモールドの側壁面の角度を90°に近づけること」は、自明の課題であるところ、引用発明の「レジストパターンから露出するシリコン材料層を、…第1のハードマスクパターンを形成する工程」において、理想的な異方性エッチングがなされるように、(予め)レジストパターンに電子線を照射するととともに、(ラフネスが増大しない範囲内で)選択比を1ないし2程度に設定することは、当業者が容易になし得ることである。

4 本件補正についてのむすび
本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたため、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記「第2 1」にて、本件補正前の請求項1に係る発明として記載したとおりのものである。
念のため、本願発明を再掲すると、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
金属あるいは金属化合物を含有する第1ハードマスク材料層と、第2ハードマスク材料層とが当該順序で積層してなるハードマスク材料層を備える基材の該ハードマスク材料層上に電子線感応型のレジストを塗布してレジスト層を形成するレジスト層形成工程と、
前記レジスト層に電子線を描画する描画工程と、
電子線描画後の前記レジスト層を現像してレジストパターンを形成する現像工程と、
前記レジストパターンに電子線を照射して硬化させる照射工程と、
硬化した前記レジストパターンを介して前記第2ハードマスク材料層をエッチングして第1のハードマスクを形成する第1ハードマスク形成工程と、
前記第1のハードマスクを介して前記第1ハードマスク材料層をエッチングして第2のハードマスクを形成する第2ハードマスク形成工程と、
前記第2のハードマスクを介して前記基材をエッチングして凹凸構造パターンを形成する基材エッチング工程と、を有し、
前記電子線感応型のレジストが日本ゼオン社製のZEP520であり、
前記基材エッチング工程において形成される前記凹凸構造パターンのラインエッジラフネスが、前記現像工程において形成される前記レジストパターンのラインエッジラフネスよりも大きくならず、
前記第1ハードマスク形成工程における前記レジストパターンを介した前記第2ハードマスク材料層のエッチング時のエッチング選択比(第2ハードマスク材料層のエッチング速度/レジストパターンのエッチング速度)を0.8?3の範囲とすることを特徴とするインプリントモールドの製造方法。」

2 対比・判断
本願発明は、前記「第2 2 補正目的」の検討によれば、上記アないしエの限定を省いたものに相当する。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに限定を付加したものに相当する本願補正発明が前記「第2 3 独立特許要件」で検討したとおり、当業者が引用発明、上記周知技術1及び上記周知技術2に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、当業者が引用発明、上記周知技術1及び上記周知技術2に基づいて容易に発明をすることができたものである。

3 令和元年8月9日提出の意見書における主張について
請求人は、引用文献1に記載の発明において、電子線感応型のレジストとして日本ゼオン社製のZEP520を用いて形成されたレジストパターンをマスクとして、フッ素系のエッチングガスを用いた反応性イオンエッチング時に生じ得る課題であるウィグリングによって悪化するレジストパターンのラインエッジラフネスを悪化させ難くすることを目的として、反応性イオンエッチングに先立ってレジストパターンに電子線を照射して硬化させようとすることは、引用文献1?5に記載の発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものではない旨主張する(第4頁中段)。
当審注:引用文献1は、審決で引用する引用文献である。

しかしながら、ポジ型レジストにおけるラインエッジラフネスの問題は、「日本ゼオン社製のZEP520」に特有のものではなく、また、高スループット(高選択比)のエッチング条件で増大することも知られている。
そして、レジストパターンに対して電子線(EB)を照射することで、ラインエッジラフネス低減や耐ドライエッチング性等を向上できることが知られているのであるから、引用発明において、(予め)レジストパターンに電子線(EB)照射を採用するとともに、(ラフネスが増大しない範囲内で)選択比を1ないし2程度に設定することは、容易になし得ることである。

4 まとめ
よって、本願発明は、当業者が引用発明、上記周知技術1及び上記周知技術2に基づいて容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件出願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-07-22 
結審通知日 2020-07-28 
審決日 2020-08-18 
出願番号 特願2015-72772(P2015-72772)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐野 浩樹  
特許庁審判長 瀬川 勝久
特許庁審判官 吉野 三寛
星野 浩一
発明の名称 インプリントモールドの製造方法  
代理人 太田 昌孝  

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