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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  F17C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  F17C
管理番号 1366950
異議申立番号 異議2019-700399  
総通号数 251 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-11-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-05-20 
確定日 2020-08-12 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6425689号発明「水素用圧力容器およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6425689号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正後の請求項〔1-4〕、〔5、6〕について訂正することを認める。 特許第6425689号の請求項1、3ないし5に係る特許を取り消す。 特許第6425689号の請求項2、6に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 特許第6425689号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正後の請求項〔1-4〕、〔5、6〕について訂正することを、令和2年2月27日付け取消理由通知(決定の予告)のとおり認める。
したがって、特許第6425689号の請求項1-6に係る発明は、令和1年10月25日提出の訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるとおりのものであると認める。
これに対して、令和2年2月27日付けで取消理由(決定の予告)を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許権者からは応答がなかった。
そして、上記の取消理由(決定の予告)は妥当なものと認められるので、本件の請求項1、3ないし5に係る特許は、この取消理由(決定の予告)によって取り消すべきものである。
また、本件の請求項2、6は、上記の訂正請求書による訂正で削除されたので、本件の請求項2、6に係る特許についての特許異議の申立ては、却下されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
水素用圧力容器およびその製造方法
【技術分野】
【0001】
この発明は、水素の貯蔵、輸送、蓄圧などを行うことができ、水素ステーションなどに用いることができる水素用圧力容器およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水素を貯蔵する水素用圧力容器には、高強度低合金鋼がよく使用されている。高強度低合金鋼は、塑性変形する領域において高圧水素ガスと接することで、伸び・絞りの低下や低サイクル疲労寿命の低下、疲労き裂進展速度の加速などの水素脆化挙動を示すことが知られている。また、昔から、内面側を塑性変形させ、外面側の弾性拘束により内面に圧縮残留応力を付与する、いわゆる自緊処理した圧力容器に対する効果として、疲労き裂の発生や疲労き裂の進展を抑制させることは知られている。
【0003】
特許文献1-3では高圧容器に自緊処理を行うことが記載されており、特許文献4、5では、部材に対する自緊処理が記載されている。これらの特許文献では、いずれも水素用の圧力容器に対し、自緊処理を行うことは記載されていない。従来、高圧水素ガス中で脆性的な挙動を示す高強度鋼を用いた高圧水素ガス用容器の自緊処理の効果を示した例はこれまでになく、その効果については未知である。圧力容器に自緊処理を施す場合、自緊処理は高圧水素ガスと接触する部位である内面を塑性変形させるため、水素による影響が懸念される。
【0004】
また、特許文献6、7では、容器本体に繊維強化樹脂層を巻き付け、容器本体に自緊処理を行うものが記載されている。これらの特許文献では、繊維強化樹脂層が必須のものになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】 特開2004-28120号公報
【特許文献2】 特開2007-239853号公報
【特許文献3】 特開2007-198531号公報
【特許文献4】 特表2009-529113号公報
【特許文献5】 特開2011-99435号公報
【特許文献6】 特開2012-052588号公報
【特許文献7】 国際公開2004/51138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
圧力容器に用いられるCr-Mo鋼、Ni-Cr-Mo鋼などの高強度低合金鋼は、内表面にき裂が存在する場合、水素が応力の高いき裂先端と接触することで水素環境脆化が生じ、図6に示すように大気環境中に比べき裂の進展速度が大きく加速するため、高圧水素ガス環境中では大気中に比べ早期に破壊に至る懸念がある。図では、大気中と水素中でき裂先端の応力拡大係数範囲(横軸)が等しい欠陥(同じサイズの欠陥)が内表面に存在していた場合、大気中に比べ水素中のき裂進展速度は一桁以上速く進展することが分かる。
【0007】
また、圧力容器に用いられるCr-Mo鋼などの高強度低合金鋼は、高圧水素ガス環境中で脆化挙動を示すことが知られており、水素脆化における破壊の特徴に塑性変形の寄与があることは周知の事実である。特に大きな塑性変形領域において脆化挙動はより顕著に現れる。
【0008】
水素用の圧力容器を安全に、かつ設備として経済性に優れた状態で使用するためには、高圧水素ガス環境中においてもき裂の進展を抑制することが必要である。き裂発生やき裂進展を抑制するための技術の一つとして、自緊処理が一般的に知られているところであるが、自緊処理は圧力容器に大きな内圧をかけて内面側を塑性変形させるため、残留するひずみの影響により、高圧水素ガス環境中で使用される高強度低合金鋼を用いた蓄圧器においては大気環境中と同じようにき裂進展を抑制する効果が得られるとは限らない。
【0009】
図7にひずみ(塑性ひずみ)と破壊靭性値の関係を示すが、ひずみ量が大きくなると大気中においても破壊靭性値が低下し、その影響は材料の引張強さ(TS)が高いほど小さなひずみ量で低下する。一方、水素ガス中では、大気中に比べ引張強さの低い材料においても、大気中に比べ小さいひずみ量で破壊靭性値は低下しており、水素用の圧力容器においては、破壊に対する影響は大気中の効果と異なることが分かる。
図では、塑性ひずみが大きくなると破壊靭性値は低下するが、引張強さ(TS)が小さいほど、破壊靭性値が低下するのに必要な塑性ひずみは大きくなる。一方、水素中では、引張強さが大気中より小さいが、破壊靭性値が低下する塑性ひずみの大きさは、大気中に比べ大きく低下する。
【0010】
そこで、高圧水素ガス環境中におけるひずみの影響を把握し、実際に自緊処理を行った容器において高圧水素ガス環境中のき裂進展挙動を確認し、本発明を完成するに至ったものである。
【0011】
本発明は、上記事情を背景としてなされたものであり、き裂進展を抑制することが可能で、安全性・耐久性に優れる水素用圧力容器およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明の水素用圧力容器のうち、第1の形態は、肉厚方向で深さ0.5mm、表面長さで1.6mm以上の欠陥を有さない内表面形状を有する円筒シリンダからなり内径が180mm以上の水素用圧力容器本体の両端部に開閉可能な蓋を有し、20リットル以上の内容積を有する鋼製の水素用圧力容器であって、水素用圧力容器本体の内面側に圧縮残留応力を有し、外面側に引張残留応力を有する弾性域を有し、前記水素用圧力容器本体の内表面に残留する相当塑性ひずみが1%以下であり、水素用圧力容器本体の径方向において内面側における塑性域が肉厚の50%以下であることを特徴とする。
【0014】(削除)
【0015】
他の形態の水素用圧力容器の発明は、他の形態の本発明において、水素用圧力容器に用いる鋼が、725MPa以上の引張強さを有することを特徴とする。
【0016】
他の形態の水素用圧力容器の発明は、他の形態の本発明において、前記鋼がCr-Mo鋼、Ni-Cr-Mo鋼、Ni-Cr-Mo-V鋼であることを特徴とする。
【0017】
本発明の水素用圧力容器の製造方法のうち、第1の形態は、肉厚方向で深さ0.5mm、表面長さで1.6mm以上の欠陥を有さない内表面形状を有する円筒シリンダからなり内径が180mm以上の水素用圧力容器本体の両端部に開閉可能な蓋を有し、20リットル以上の内容積を有する鋼製の水素用圧力容器の製造方法であって、
水素用圧力容器本体の内面降伏応力以上の内圧を負荷して自緊処理を施し、水素用圧力容器本体の内面に圧縮残留応力を付与し、外面側に引張残留応力を有する弾性域を有し、
前記圧力を除荷した後に、水素用圧力容器本体の内表面に残留する相当塑性ひずみが1%以下であり、水素用圧力容器本体の径方向において内面側における塑性域が肉厚の50%以下となるように応力を負荷することを特徴とする。
【0019】(削除)
【0020】
以下に、本発明で規定した技術的事項について説明する。
(自緊処理)
塑性変形の影響により水素脆化挙動を示し、高圧水素ガス環境下において大きなき裂進展速度を示す高強度低合金鋼を用いた蓄圧器において、高圧水素ガス環境中における残留ひずみの影響を把握し、自緊処理条件を限定している。
【0021】
除荷後の残留ひずみ1%以下
自緊圧としてバウシンガー効果で再降伏しない圧力範囲としたものである。引張強さ1046MPaの材料で大気中(水素以外)の使用であれば、残留ひずみ4%程度あっても破壊靭性値の低下がなく自緊効果を得ることができると考えられるが、水素用としては残留ひずみが1%以下であれば、破壊靭性値の低下がなく、自緊効果を得ることが可能と考えられる。
内部に高圧水素を貯める蓄圧器容器の内表面に人工的にき裂を導入し、疲労試験を繰り返した際に、き裂が小さい場合においては、自緊処理を行っていない容器では繰返しによりき裂の進展が認められたが、自緊処理を行った容器ではき裂の進展が認められなかった。さらに、確実にき裂が進展するほどの大きなき裂を導入して疲労試験を行ったところ、自緊処理した容器はき裂が進展して貫通するまでの回数は、自緊処理していない容器より数倍長くなっていることが示された。これらの結果から、自緊処理を行うことでき裂進展の抑制効果が得られることが、模擬試験体を用いた実証試験により証明できた。
【0022】
塑性化率:50%以下
水素用圧力容器に対しても自緊の効果を発揮できるため、自緊処理条件は、塑性化率50%以下とする。
塑性化率が50%を超えて弾性域が狭くなると、外側からの締め付けが弱くなり、十分な圧縮残留応力が発生することが難しくなる。なお、塑性化率としては効果的な圧縮残留応力を付与する理由で10%以上とするのが望ましい。
【0023】
高強度低合金鋼:引張強さ725MPa以上
圧力容器に使用されるCr-Mo鋼やNi-Cr-Mo鋼、Ni-Cr-Mo-V鋼において使用する可能性のある引張強さの最低値が725MPaで示される。強度が低くなれば、水素脆化の影響も小さくなるため、塑性ひずみが大きくても水素の影響による破壊靭性値の低下が小さくなり、自緊効果に対する大気中と水素中の差も小さくなるものと考えられる。鋼に対する水素の影響は、強度が高いほど脆性的になるため、引張強さの最低値を設けている。
【発明の効果】
【0024】
すなわち、本発明によれば、水素用圧力容器本体の内面側に塑性域、外面側に弾性域を有することで内面に圧縮残留応力を発生させ、高圧水素ガス中で水素用圧力容器本体の内面におけるき裂進展を効果的に抑制することができる効果があり、安全性、信頼性、耐久性に優れる水素用圧力容器を提供することが可能となる。また、高強度低合金鋼を圧力容器の素材として用いることで、肉厚を薄くし、圧力容器の軽量化にもつながる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】 本発明の一実施形態における水素用圧力容器の製造過程および水素用圧力容器を示す図である。
【図2】 実施例において、水素ガス中におけるき裂進展の抑制効果を検証するために用いた圧力容器の模式図である。
【図3】 実施例において、水素ガス中でき裂の発生及び進展の抑制効果を確認した結果の破面を示す図である。
【図4】 実施例において、き裂進展の抑制効果を確認するため、初期き裂サイズを大きくして、水素ガス中でき裂進展させた結果の破面を示す図である。
【図5】 図4のき裂進展試験において、貫通するまでの回数を比較したグラフを示す図である。
【図6】 高強度低合金鋼における、大気中と水素中のき裂進展速度を比較した図である。
【図7】 塑性ひずみの大きさと破壊靭性値の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、本発明の一実施形態を説明する。
本実施形態の水素用圧力容器10は、鋼製の円筒シリンダからなる圧力容器本体1と圧力容器本体1の両端部を開閉可能に密閉する蓋3とを有している。蓋3の構成は各種構成とすることができる。
圧力容器本体1および蓋3の材料は特に限定されるものではないが、圧力容器本体1の材質として、マンガン鋼、クロムモリブデン鋼、ニッケルクロムモリブデン鋼、またはその他の低合金鋼などを用いることができる。これら材料の引張強さは、725MPa以上とするのが望ましい。蓋3の材質は、圧力容器本体1と同じ材質としてもよく、また、その他の材質により構成されるものであってもよい。さらに、蓋3の各部材において異なる材質のものを用いることができる。
なお、圧力容器本体1および蓋3の材質が上記に限定されるものではない。
【0027】
圧力容器本体1は、鋼によって筒状に形成されている。その製造方法は特に限定されるものではないが、欠陥の少ない加工方法が望ましく、例えば、鍛造や押し出しなどによって一体に成形される。圧力容器本体1の大きさは特に限定されるものではないが、20リットル以上の内容積を有するものが望ましく、全長が6000mm以内であるのが望ましい。20リットル以上の内容積を有することで、十分な量の水素を蓄圧することができる。また、圧力容器本体1の全長は、都市部などの狭小地への設置などの理由で長すぎないのが望ましく、この理由により全長を6000mm以内とするのが望ましい。
また、圧力容器本体1の内径は、内容積と全長によって変化するため、特定の範囲に限定されるものではないが、例えば、180mm以上が望ましい。その理由は、内面の直接的な検査を行う際に、例えば浸透探傷法の浸透処理や現像処理を行う場合は、その程度の開口径が必要となるからである。また、圧力容器本体1の肉厚も特に限定されるものではない。圧力容器本体1で分担する荷重を考慮して定めることができる。
【0028】
圧力容器本体1は、内面1aを鏡面加工して欠陥のない状態とするのが望ましい。圧力容器本体1の中空部は、内面1aを有する部分で直円筒形状に形成されており、鏡面加工も容易に行うことができる。内面1aは、蓄圧された水素の圧力が負荷される部分である。
鏡面加工により、肉厚方向で深さ0.5mm、表面長さで1.6mm以上の欠陥を有さない表面形状に確実にして、水素脆化によるき裂進展を防止するのが望ましい。なお、このサイズを超える欠陥が圧力容器本体1の内面に残っていると、水素脆化によるき裂が進展しやすくなり、疲労き裂寿命を低下させる。ただし、圧力容器本体の形状などに応じて、上記以上の欠陥を有するものを許容する場合はある。
【0029】
圧力容器本体1に対しては、内面側から圧力を負荷して自緊処理を行う。自緊処理では、圧力容器本体1が外周方向に膨張して内面側のみ塑性変形をすることで脱圧後内面側に残留応力が残り、強度を増加させる。
自緊処理では、圧力容器本体1の内面が一部で降伏する程度まで内圧を負荷する。内圧負荷は通常水圧により行うが圧力の媒体が特に限定されるものではない。
自緊処理では、圧力容器本体1の内面1a側に圧縮残留応力が生じ、圧縮ひずみを残す。負荷する内圧条件は、圧縮ひずみとしては、相当塑性ひずみが1%以下になるように内圧を調整する。これにより、内面1a側が塑性域2aとなり、外面1b側が弾性域2bとなる。径方向の基準において、塑性域2aの肉厚比を塑性化率として、塑性化率が50%以下で弾性域2bが肉厚の50%以上とするのが望ましく、自緊処理における内圧によって調整する。内圧は、材料特性や圧力容器サイズなどを考慮して上記特性が得られるように設定する。
【0030】
本実施形態の水素ガス用圧力容器は、水素ステーションとして水素を使用する自動車などの用途に使用することができる。
例えば、燃料電池水素自動車に54台の充填を想定すると水素を供給する82MPa水素ステーション(圧縮水素スタンド)用の蓄圧器は、1日に54台、年間19,710回、15年間で295,650回もの繰り返し内圧を受けることになる。このような耐久性を確保するために、本実施形態の水素ガス蓄圧器は、高強度、軽量を実現し、都市部などに設置する水素ステーションにおいて、絶対的な安全性、高信頼性を提供することができる。
【実施例1】
【0031】
高強度低合金鋼であるNi-Cr-Mo-V鋼(C:0.27%、Si:0.06%、Mn:0.30%、Ni:3.6%、Cr:1.7%、Mo:0.5%、V:0.08%残部がFeおよび不可避不純物)を用いて、自緊処理を施した本発明の円筒試験体と、比較例として自緊処理を施していない円筒試験体を準備し、蓄圧器を模擬した高圧水素ガス環境中のサイクル試験を実施した。
内外径比を1.6とし、380MPaの圧力で自緊処理を行った結果、内表面に発生した周方向歪は約0.3%で、内表面から肉厚の約40%が塑性域となった。
【0032】
図2に示すように、円筒試験体(図1で示した圧力容器本体1)の内面に、放電加工により1.6mm長さ、1.0mm深さ、幅0.2mmの人工欠陥を導入し、自緊処理の有無における水素ガス環境中の疲労き裂の進展挙動を確認した。
【0033】
き裂進展長さは、TOFD法による超音波探傷試験を定期的に行うことで確認した。
自緊処理を施していない試験体は、40154回の時点でき裂が大きく進展していることが確認された。一方、自緊処理を施した試験体は、40154回の時点で、き裂の進展は認められず、その後、約24000回多く繰り返しサイクルを付与し、64064回に達したところでも超音波探傷試験でき裂を捕えることができなかった。
自緊処理を施していない試験体は40,154回、自緊処理を施した試験体は64,064回のサイクル試験後に破面開口した。き裂進展について電子顕微鏡を用いて観察した結果を併せて図3に示した。
自緊処理を施していない試験体では初期き裂として導入した人工欠陥部から半楕円状に水素性のき裂が進展していることが認められたが、自緊処理を施した試験体では、サイクル回数が多いにも関わらず、き裂の進展は認められなかった。
【0034】
自緊処理を施した試験体においては、初期に導入する人工欠陥サイズが小さいと、き裂を進展させるために非常に膨大なサイクルを付与する必要があるため、自緊処理を施した試験体においてもき裂の進展が認められるほど導入する初期人工欠陥サイズを大きくしてサイクル試験を実施し、90MPa水素ガス環境中の疲労き裂の進展挙動を破面観察により確認した結果を図4に示す。比較例として、同一素材から採取した自緊処理を施していない試験体を用い、水素ガス環境中の疲労き裂の進展挙動の調査も行った。導入した人工欠陥サイズは、自緊処理を施していない試験体は3.0mm長さ、1.0mm深さ、自緊処理を施した試験体は18.0mm長さ、6.0mm深さである。
【0035】
自緊処理を施していない試験体では半楕円状に伸展しているのに対し、自緊処理を施した試験体では内表面の圧縮残留応力の影響で内表面でのき裂進展が抑制され、深さ方向にのみ進展している。図4の破面上に記した半楕円の線は、18.0mm長さ、6.0mm深さの大きさを示したものである。
【0036】
図5に、初期き裂サイズを18.0mm長さ、6.0mm深さとしたときの、自緊処理の有無によるき裂進展の変化を計算と実測により求めた結果を示す。自緊処理を施した試験体は、自緊処理を施していない試験体に比べ、6.0mm深さのき裂が20.5mm深さまで達して貫通するまでのサイクル数で5倍以上要していることが示された。高圧水素ガス中であっても自緊処理を施した試験体では、圧縮残留応力のある内表面でき裂進展が抑制されることから、引張の残留応力が残っている外面側においてもき裂サイズが小さく、自緊処理を施していない試験体に比べ、き裂進展が遅かった。
【0037】
以上、本発明について上記実施形態および実施例に基づいて説明を行ったが、上記実施形態および実施例における記載に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りは、上記実施形態および実施例において適宜の変更が可能である。
【符号の説明】
【0038】
1 圧力容器本体
1a 内面
1b 外面
2a 塑性域
2b 弾性域
3 蓋
10 水素用圧力容器
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
肉厚方向で深さ0.5mm、表面長さで1.6mm以上の欠陥を有さない内表面形状を有する円筒シリンダからなり内径が180mm以上の水素用圧力容器本体の両端部に開閉可能な蓋を有し、20リットル以上の内容積を有する鋼製の水素用圧力容器であって、水素用圧力容器本体の内面側に圧縮残留応力を有し、外面側に引張残留応力を有する弾性域を有し、前記水素用圧力容器本体の内表面に残留する相当塑性ひずみが1%以下であり、水素用圧力容器本体の径方向において内面側における塑性域が肉厚の50%以下であることを特徴とする水素用圧力容器。
【請求項2】(削除)
【請求項3】
水素用圧力容器に用いる鋼が、725MPa以上の引張強さを有することを特徴とする請求項1に記載の水素用圧力容器。
【請求項4】
前記鋼が、Cr-Mo鋼、Ni-Cr-Mo鋼、Ni-Cr-Mo-V鋼であることを特徴とする請求項3記載の水素用圧力容器。
【請求項5】
肉厚方向で深さ0.5mm以上、表面長さで1.6mm以上の欠陥を有さない内表面形状を有する円筒シリンダからなり内径が180mm以上の水素用圧力容器本体の両端部に開閉可能な蓋を有し、20リットル以上の内容積を有する鋼製の水素用圧力容器の製造方法であって、
水素用圧力容器本体の内面降伏応力以上の内圧を負荷して自緊処理を施し、水素用圧力容器本体の内面に圧縮残留応力を付与し、外面側に引張残留応力を有する弾性域を有し、
前記圧力を除荷した後に、水素用圧力容器本体の内表面に残留する相当塑性ひずみが1%以下であり、水素用圧力容器本体の径方向において内面側における塑性域が肉厚の50%以下となるように応力を負荷することを特徴とする水素用圧力容器の製造方法。
【請求項6】(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-06-30 
出願番号 特願2016-140774(P2016-140774)
審決分類 P 1 651・ 121- ZAA (F17C)
P 1 651・ 537- ZAA (F17C)
最終処分 取消  
前審関与審査官 宮崎 基樹  
特許庁審判長 高山 芳之
特許庁審判官 佐々木 正章
間中 耕治
登録日 2018-11-02 
登録番号 特許第6425689号(P6425689)
権利者 株式会社日本製鋼所
発明の名称 水素用圧力容器およびその製造方法  
代理人 横井 幸喜  
代理人 横井 幸喜  

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