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審決分類 審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  C03C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C03C
審判 全部申し立て 2項進歩性  C03C
管理番号 1366955
異議申立番号 異議2018-700308  
総通号数 251 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-11-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-04-13 
確定日 2020-08-24 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6291598号発明「ガラス、プレス成形用ガラス素材、光学素子ブランク、および光学素子」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6291598号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?14〕について訂正することを認める。 特許第6291598号の請求項1?3、6、7、9、10、12?14に係る特許を維持する。 特許第6291598号の請求項4、5、8、11に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1.手続の経緯

本件特許第6291598号の請求項1?14に係る発明についての出願は、2016年(平成28年)1月13日(優先権主張 平成27年1月13日 日本国(JP))を国際出願日とする出願であって、平成30年2月16日にその特許権の設定登録がされ、平成30年3月14日に特許掲載公報が発行された。その特許についての特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。

平成30年 4月13日付け:特許異議申立人宮園祐爾(以下、「特許異議申立人」という。)による請求項1?14に係る特許に対する特許異議の申立て
平成30年11月29日付け:取消理由通知書
平成30年12月26日付け:特許権者による意見書等の提出期間延長に関する上申書
平成31年 1月 8日付け:意見書等の提出期間延長に関する通知書
平成31年 3月 4日付け:特許権者による訂正請求書及び意見書の提出
平成31年 4月12日付け:特許異議申立人による意見書の提出
令和 1年 5月 9日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和 1年 6月25日付け:特許権者による意見書等の提出期間延長に関する上申書
令和 1年 6月28日付け:意見書等の提出期間延長に関する通知書
令和 1年 8月 9日付け:特許権者による訂正請求書及び意見書の提出
令和 1年 9月18日付け:特許異議申立人による意見書の提出
令和 1年11月26日付け:特許権者に対する審尋
令和 2年 1月10日付け:特許権者による訂正案の提示(令和2年2月13日付け応対記録に添付のもの)
令和 2年 1月31日付け:特許権者による回答書の提出
令和 2年 2月18日付け:特許異議申立人による上申書の提出
令和 2年 2月26日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和 2年 4月24日付け:特許権者による訂正請求書及び意見書の提出

なお、令和2年4月24日付けの特許権者による訂正請求書及び意見書に対して、令和2年5月26日付けで特許異議申立人に意見を求めたが、特許異議申立人からの意見書等の提出はなされなかった。

第2.訂正請求について

1.訂正の内容

(1)訂正事項
令和2年4月24日付け訂正請求書における訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。」)は、次の訂正事項1?15からなる(下線部は訂正箇所)。
なお、平成31年3月4日付け及び令和1年8月9日付けの訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。

訂正事項1
請求項1における「Nb_(2)O_(5)、TiO_(2)、Ta_(2)O_(5)およびWO_(3)の合計含有量が4質量%以上、B_(2)O_(3)とSiO_(2)との合計含有量に対するB_(2)O_(3)含有量の質量比(B_(2)O_(3)/(B_(2)O_(3)+SiO_(2)))が0.6?0.900」との記載を、「Nb_(2)O_(5)、TiO_(2)、Ta_(2)O_(5)およびWO_(3)の合計含有量が4?11質量%、B_(2)O_(3)とSiO_(2)との合計含有量に対するB_(2)O_(3)含有量の質量比(B_(2)O_(3)/(B_(2)O_(3)+SiO_(2)))が0.6?0.828」に訂正する。

訂正事項2
請求項1における「質量比(Nb_(2)O_(5)/(Nb_(2)O_(5)+TiO_(2)+Ta_(2)O_(5)+WO_(3)))が0.95?1、であり」との記載を、「質量比(Nb_(2)O_(5)/(Nb_(2)O_(5)+TiO_(2)+Ta_(2)O_(5)+WO_(3)))が0.95?1、Nb_(2)O_(5)、TiO_(2)、Ta_(2)O_(5)およびWO_(3)の合計含有量に対するZnO含有量の質量比(ZnO/(Nb_(2)O_(5)+TiO_(2)+Ta_(2)O_(5)+WO_(3)))が0.20?0.500、であり」に訂正する。

訂正事項3
請求項1における「屈折率ndが1.800?1.850の範囲であり」との記載を、「液相温度が1140℃以下であり、ガラス転移温度が672℃以上であり、屈折率ndが1.825?1.850の範囲であり」に訂正する。

訂正事項4
請求項4を削除する。

訂正事項5
請求項5を削除する。

訂正事項6
請求項6における「請求項1?5のいずれか1項」との記載を、「請求項1?3のいずれか1項」に訂正する。

訂正事項7
請求項7における「屈折率ndが1.810?1.850の範囲である」との記載を、「屈折率ndが1.830?1.850の範囲である」に訂正する。

訂正事項8
請求項7における「請求項1?6のいずれか1項」との記載を、「請求項1?3および6のいずれか1項」に訂正する。

訂正事項9
請求項8を削除する。

訂正事項10
請求項9における「請求項1?8のいずれか1項」との記載を、「請求項1?3、6および7のいずれか1項」に訂正する。

訂正事項11
請求項10における「請求項1?9のいずれか1項」との記載を、「請求項1?3、6、7および9のいずれか1項」に訂正する。

訂正事項12
請求項11を削除する。

訂正事項13
請求項12における「請求項1?11のいずれか1項」との記載を、「請求項1?3、6、7、9および10のいずれか1項」に訂正する。

訂正事項14
請求項13における「請求項1?11のいずれか1項」との記載を、「請求項1?3、6、7、9および10のいずれか1項」に訂正する。

訂正事項15
請求項14における「請求項1?11のいずれか1項」との記載を、「請求項1?3、6、7、9および10のいずれか1項」に訂正する。

(2)一群の請求項について
訂正前の請求項1の記載を請求項2?14が引用する関係にあるから、訂正前の請求項1?14は一群の請求項である。
したがって、請求項1に係る訂正事項1?3を含む本件訂正請求は、この一群の請求項について請求をしたものと認められる。

2.訂正要件の判断

(1)訂正事項1?3について
本件訂正は、請求項1に記載された「ガラス」の発明において、組成要件であるNb_(2)O_(5)、TiO_(2)、Ta_(2)O_(5)およびWO_(3)の合計含有量に新たに上限値を特定すると共に、当該合計含有量に対するZnO含有量の質量比も特定し、またB_(2)O_(3)とSiO_(2)の合計含有量に対するB_(2)O_(3)含有量の質量比の上限を「0.900」から「0.828」により限定し、さらに物性要件である液相温度を「1140℃以下」に、ガラス転移温度を「672℃以上」に限定すると共に、屈折率の下限を「1.800」から「1.825」により限定するものであるから特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、Nb_(2)O_(5)、TiO_(2)、Ta_(2)O_(5)およびWO_(3)の合計含有量の上限値については、本件明細書の段落0051における表16、上記ZnO含有量の質量比については本件特許請求の範囲の請求項5、B_(2)O_(3)とSiO_(2)の合計含有量に対するB_(2)O_(3)含有量の質量比の上限については、本件明細書の段落0230における表100-6中のNo.6、液相温度及びガラス転移温度については、本件明細書の段落0231における表100-7のNo.12試料、屈折率の下限については、本件明細書の段落0193における表93にそれぞれ記載されていたから、いずれも願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
また、訂正事項1?3は、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、当該訂正事項により、訂正前の特許請求の範囲には含まれないとされていた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとなるという事情は認められないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項4、5、9、12について
本訂正は、いずれも請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項6、8、10、11、13?15について
本訂正は、いずれも選択的引用請求項の一部を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)訂正事項7について
本訂正は、物性要件である屈折率の下限を「1.810」から「1.830」により限定するものであるから特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、屈折率の下限については、本件明細書の段落0193における表93に記載されていたから、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしたものである。
また、訂正事項7は、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、当該訂正事項により、訂正前の特許請求の範囲には含まれないとされていた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとなるという事情は認められないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3.まとめ

以上のとおり、本件訂正請求は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?14〕について訂正することを認める。

第3.本件発明について

本件特許の請求項1?3、6、7、9、10、12?14に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明3」、「本件発明6」、「本件発明7」、「本件発明9」、「本件発明10」、「本件発明12」?「本件発明14」という。)は、訂正特許請求の範囲に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認められる(下線部は訂正箇所)。

「【請求項1】
質量%表示にて、
B_(2)O_(3)とSiO_(2)との合計含有量が21?32質量%、
La_(2)O_(3)、Y_(2)O_(3)、Gd_(2)O_(3)およびYb_(2)O_(3)の合計含有量が50?63質量%、但し、Yb_(2)O_(3)含有量が1.0質量%以下であり、
ZrO_(2)含有量が4?10質量%、
Ta_(2)O_(5)含有量が2質量%以下、
Li_(2)O、Na_(2)OおよびK_(2)Oの合計含有量が0?2.0質量%、
Nb_(2)O_(5)、TiO_(2)、Ta_(2)O_(5)およびWO_(3)の合計含有量が4?11質量%、
B_(2)O_(3)とSiO_(2)との合計含有量に対するB_(2)O_(3)含有量の質量比(B_(2)O_(3)/(B_(2)O_(3)+SiO_(2)))が0.6?0.828、
La_(2)O_(3)、Y_(2)O_(3)、Gd_(2)O_(3)およびYb_(2)O_(3)の合計含有量に対するB_(2)O_(3)およびSiO_(2)の合計含有量の質量比((B_(2)O_(3)+SiO_(2))/(La_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3)+Gd_(2)O_(3)+Yb_(2)O_(3)))が0.42?0.53、
La_(2)O_(3)、Y_(2)O_(3)、Gd_(2)O_(3)およびYb_(2)O_(3)の合計含有量に対するY_(2)O_(3)含有量の質量比(Y_(2)O_(3)/(La_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3)+Gd_(2)O_(3)+Yb_(2)O_(3)))が0.10?0.30、
La_(2)O_(3)、Y_(2)O_(3)、Gd_(2)O_(3)およびYb_(2)O_(3)の合計含有量に対するGd_(2)O_(3)含有量の質量比(Gd_(2)O_(3)/(La_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3)+Gd_(2)O_(3)+Yb_(2)O_(3)))が0?0.05、
Nb_(2)O_(5)、TiO_(2)、Ta_(2)O_(5)およびWO_(3)の合計含有量に対するNb_(2)O_(5)含有量の質量比(Nb_(2)O_(5)/(Nb_(2)O_(5)+TiO_(2)+Ta_(2)O_(5)+WO_(3)))が0.95?1、
Nb_(2)O_(5)、TiO_(2)、Ta_(2)O_(5)およびWO_(3)の合計含有量に対するZnO含有量の質量比(ZnO/(Nb_(2)O_(5)+TiO_(2)+Ta_(2)O_(5)+WO_(3)))が0.20?0.500、
であり、液相温度が1140℃以下であり、ガラス転移温度が672℃以上であり、屈折率ndが1.825?1.850の範囲であり、かつアッベ数νdが41.5?44である酸化物ガラスであるガラス(但し、B_(2)O_(3)含有量が22.380質量%であり、La_(2)O_(3)含有量が45.680質量%であり、Y_(2)O_(3)含有量が8.780質量%であり、ZnO含有量が4.250質量%であり、SiO_(2)含有量が4.680質量%であり、Nb_(2)O_(5)含有量が7.880質量%であり、かつZrO_(2)含有量が6.350質量%であるガラスを除く)。
【請求項2】
B_(2)O_(3)含有量が17質量%以上である請求項1に記載のガラス。
【請求項3】
B_(2)O_(3)含有量が23質量%以下である請求項1または2に記載のガラス。
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
Pbを含まない請求項1?3のいずれか1項に記載のガラス。
【請求項7】
屈折率ndが1.830?1.850の範囲である請求項1?3および6のいずれか1項に記載のガラス。
【請求項8】
(削除)
【請求項9】
着色度λ5が335nm以下である請求項1?3、6および7のいずれか1項に記載のガラス。
【請求項10】
比重dと屈折率ndとが、下記(A)式:
d/(nd-1)≦5.70 …(A)
を満たす請求項1?3、6、7および9のいずれか1項に記載のガラス。
【請求項11】
(削除)
【請求項12】
請求項1?3、6、7、9および10のいずれか1項に記載のガラスからなるプレス成形用ガラス素材。
【請求項13】
請求項1?3、6、7、9および10のいずれか1項に記載のガラスからなる光学素子ブランク。
【請求項14】
請求項1?3、6、7、9および10に記載のガラスからなる光学素子。」

第4.甲第1号証に基く取消理由について

1.取消理由の概要

令和2年2月26日付け取消理由通知書(決定の予告)における甲第1号証に基く取消理由の概要は、以下のとおりである。

令和1年8月9日付け訂正請求書における訂正特許請求の範囲の請求項1?3、6、7、9?14に係る発明は、特許異議申立人が提出した甲第1号証である特開2002-284542号公報に記載されている発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるから、その特許は同法113条第2号に該当し、取り消されるべきでものである。

2.当審の判断

(1)引用文献の記載

ア.甲第1号証

特許異議申立人が提出した甲第1号証である特開2002-284542号公報(以下、「甲1」という。)には、次の記載がある。

(アa)
「【0003】しかしながら、上記光学ガラスにおいて、主要な役割を果たすTa_(2)O_(5)の原料であるタンタルは、存在量が少ない上、携帯電話の部品として用いられるタンタル電解コンデンサの材料として用いられるため、最近の携帯電話の普及に伴ってタンタルの需要が増加し、その価格の高騰を招いている。このような現状では、Ta_(2)O_(5)を多量に含む高屈折低分散ガラスを大量に安定して供給することは困難である。」

(アb)
「【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、このような事情のもとで、Ta_(2)O_(5)を実質上含まずに高屈折低分散の光学特性を有する光学ガラスおよびこの光学ガラスからなる各種光学部品を、安定かつ低コストに提供することを目的とするものである。」

(アc)
「【0012】次に、本発明の光学ガラスの組成について説明する。SiO_(2)は本発明のガラスにおいて網目形成成分であり、その含有量は0?7重量%である。しかしながら、7重量%を上回ると屈折率が低下し、さらに溶解性も悪化させる。したがって、SiO_(2)の含有量を0?7重量%と限定したが、好ましくは0.5?6重量%である。
【0013】B_(2)O_(3)も同様にガラスにおいて網目形成成分酸化物として、またガラスの溶融性や粘性流動の温度低下に効果的な成分であり、18重量%以上を必要とする。しかしながら30重量%を上回ると、屈折率が低下し、本発明の目的とする高屈折率ガラスが得られない。したがって、B_(2)O_(3)の含有量を18?30重量%に限定した。より好ましくは20?30重量%である。
【0014】また、SiO_(2)とB_(2)O_(3)の合計含有量が23重量%を下回ると、結晶化傾向が強くなり安定に製造可能なガラスが得られない。一方35重量%を上回ると、屈折率が低下し、本発明の目的とする高屈折ガラスが得られない。したがってSiO_(2)とB_(2)O_(3)の合計含有量を23?30重量%に限定した。」


(アd)
「【0017】Gd_(2)O_(3)はLa_(2)O_(3)との置換により20重量%まで添加することが可能であるが、その含有量が20重量%を越えると、耐失透性が悪化し、安定生産可能なガラスが得られない。したがってGd_(2)O_(3)の含有量を0?20重量%に限定したが、好ましくは1?15重量%である。
【0018】Y_(2)O_(3)もまたLa_(2)O_(3)との置換により0?20重量%添加させることができる。その含有量が20重量%を上回ると、耐失透性が悪化し、安定生産可能なガラスが得られない。したがってY_(2)O_(3)の含有量を0?20重量%に限定したが、好ましくは0?10重量%である。
【0019】La_(2)O_(3)とGd_(2)O_(3)、Y_(2)O_(3)はいずれも光学的特性に対しては、類似する効果を有している。したがってこれらの成分の合計含有量が45重量%を下回ると本発明の目的とする高屈折、低分散性が得られない。しかしながら、これらの合計含有量が60重量%を上回ると、耐失透性が低下し、安定に生産可能なガラスが得られない。したがって、La_(2)O_(3)とGd_(2)O_(3)とY_(2)O_(3)との合計含有量は45?60重量%に限定した。」

(アe)
「【0034】さらに、上記組成において、Ta_(2)O_(5)を含まなくてもLa_(2)O_(3)とGd_(2)O_(3)とY_(2)O_(3)の合計含有量とZnOの含有量の割合を、重量比で9.5:1?25:1の範囲に、かつZnOの含有量とNb_(2)O_(5)の含有量の割合を、重量比で1:1.30?1:4.2の範囲にすることにより、νdが42.0?44.0の範囲にあり、かつndが1.820?1.850の範囲にある光学恒数を有する光学ガラスを得ることができる。
【0035】上記組成によって、製造面で必要なガラスの諸特性を得ることもできる。まず、上記光学ガラスは、液相温度を1200℃以下に、かつ液相温度における粘度を3dPa・s以上とすることができる。この特性によれば、耐失透性に優れた光学ガラスが得られる。また、溶融ガラスをキャスト成形して上記光学ガラスが得られるガラス成形体を作製する場合、キャスト時のガラスの温度は液相温度あるいは液相温度よりも少し高い温度とする。したがって、液相温度におけるガラスの粘度が3dPa・s以上である上記光学ガラスによれば、キャスト時にガラスが適正な粘性範囲を有しているので、良好なキャスト成形を行うことができる。」

(アf)
「【0038】このようにして得られた本発明の光学ガラスからなるプレス成形用素材は、大気中で加熱され、塑性変形可能な状態でプレス成形型により加圧成形される。プレス成形型の成形面形状は、目的とする光学部品、例えばレンズの形状に近似する成形品が得られるようにする。
【0039】このようにして得られた本発明の光学ガラスからなるプレス成形品は、該光学ガラスのガラス転移温度[Tg]を670℃以下にすることができるので、比較的低温におけるアニールが可能になる。アニール温度はガラスの転移温度[Tg]付近で行われる。そのため、アニール用の熱処理炉への負荷が低減され、熱処理炉の寿命を延ばすことができ、また熱処理炉の長期運転も可能になる。さらに、熱処理炉における消費エネルギーも低減できるので、環境への負荷、コストなどの低減も可能になる。」

(アg)
「【0042】実施例1?13、比較例1?3
それぞれのガラス成分に対応する酸化物、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、水酸化物などをガラス原料として用い、表1?表4に示す組成のガラス100gが得られるように白金るつぼに入れ、1320℃に設定された炉内で溶融し、攪拌、清澄後、鉄製枠に流し込み、Tg付近の温度で2時間保持後徐冷して光学ガラスを作製した。」

(アh)
「【0044】
【表1】

【0045】
【表2】



(アi)
「【0048】実施例で示される本発明のガラスでは、光学恒数[アッベ数[νd]、屈折率[nd]]が、図1におけるA点(44.5,1.795)→B点(44.5,1.850)→C点(41.0,1.850)→D点(41.0,1.830)→A点(44.5,1.795)によって囲まれる領域内(ただし境界も含む)にあること、ガラス転移温度[Tg]が630?670℃であり、液相温度[LT]におけるガラスの粘度が3?13dPa・s、液相温度が1000?1200℃であることが分かる。また、各実施例のガラスはいずれもλ80/5が425以下/329以下と、着色は見られず、透明なものであった。」

(アj)
「【請求項5】 ガラス転移温度[Tg]が670℃以下である請求項1ないし4のいずれか1項に記載の光学ガラス。」

イ.特開2014-214082号公報

先行技術文献である特開2014-214082号公報(以下、「周知例」という。)には、次の記載がある。

(イa)
「【0047】
Y_(2)O_(3)成分は、0%超含有することで、屈折率及びアッベ数を高められ、且つ比重を小さくでき、且つガラスの材料コストを低減できる任意成分である。」

(イb)
「【0052】
Gd_(2)O_(3)成分は、0%超含有することで、ガラスの屈折率及びアッベ数を高められる任意成分である。
一方で、Gd_(2)O_(3)成分の含有量を25.0%未満にすることで、ガラスの比重の上昇や部分分散比の低下を抑え、且つ、ガラスを失透し難くできる。また、これによりガラスの材料コストを低減できる。」

(2)甲1発明の認定

上記(アg)、(アh)及び(アi)で摘示した段落0042、0045の表2、0048の記載から、甲1には光学ガラスの実施例9として、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「重量%で、
SiO_(2) 4%、B_(2)O_(3) 21.26%
(SiO_(2)+B_(2)O_(3) 25.26%)、
La_(2)O_(3) 41.15%、Gd_(2)O_(3) 13.15%、Y_(2)O_(3) 2.65%
(La_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3)+Gd_(2)O_(3) 56.95%)、
ZnO 4.08%、ZrO_(2) 6%、Nb_(2)O_(5) 7.75%
のガラス組成を有し、
液相温度が1131℃、屈折率ndが1.8339、アッベ数νdが42.61、ガラス転移温度が663℃、λ5が329(nm)以下、である、光学ガラス。」

(3)本件発明1について

ア.発明の対比

本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明は、そのガラス組成から、Yb_(2)O_(3)、Ta_(2)O_(5)、Li_(2)O、Na_(2)O、K_(2)O、TiO_(2)、WO_(3)を含まず、
B_(2)O_(3)/(B_(2)O_(3)+SiO_(2))=0.84、
(B_(2)O_(3)+SiO_(2))/(La_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3)+Gd_(2)O_(3)+Yb_(2)O_(3))
=0.44
Nb_(2)O_(5)/(Nb_(2)O_(5)+TiO_(2)+Ta_(2)O_(5)+WO_(3))=1
と計算でき、さらに甲1発明の「液相温度が1131℃、屈折率ndが1.8339、アッベ数νdが42.61」であることは、本件発明1の「液相温度が1140℃以下であり、屈折率ndが1.825?1.850の範囲であり、かつアッベ数νdが41.5?44」であることを満足するものであるから、本件発明1のうち、
「質量%表示にて、
B_(2)O_(3)とSiO_(2)との合計含有量が21?32質量%、
La_(2)O_(3)、Y_(2)O_(3)、Gd_(2)O_(3)およびYb_(2)O_(3)の合計含有量が50?63質量%、但し、Yb_(2)O_(3)含有量が1.0質量%以下であり、
ZrO_(2)含有量が4?10質量%、
Ta_(2)O_(5)含有量が2質量%以下、
Li_(2)O、Na_(2)OおよびK_(2)Oの合計含有量が0?2.0質量%、
Nb_(2)O_(5)、TiO_(2)、Ta_(2)O_(5)およびWO_(3)の合計含有量が4?11質量%、
La_(2)O_(3)、Y_(2)O_(3)、Gd_(2)O_(3)およびYb_(2)O_(3)の合計含有量に対するB_(2)O_(3)およびSiO_(2)の合計含有量の質量比((B_(2)O_(3)+SiO_(2))/(La_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3)+Gd_(2)O_(3)+Yb_(2)O_(3)))が0.42?0.53、
Nb_(2)O_(5)、TiO_(2)、Ta_(2)O_(5)およびWO_(3)の合計含有量に対するNb_(2)O_(5)含有量の質量比(Nb_(2)O_(5)/(Nb_(2)O_(5)+TiO_(2)+Ta_(2)O_(5)+WO_(3)))が0.95?1、
であり、液相温度が1140℃以下であり、屈折率ndが1.825?1.850の範囲であり、かつアッベ数νdが41.5?44である酸化物ガラスであるガラス(但し、B_(2)O_(3)含有量が22.380質量%であり、La_(2)O_(3)含有量が45.680質量%であり、Y_(2)O_(3)含有量が8.780質量%であり、ZnO含有量が4.250質量%であり、SiO_(2)含有量が4.680質量%であり、Nb_(2)O_(5)含有量が7.880質量%であり、かつZrO_(2)含有量が6.350質量%であるガラスを除く)。」
の点は、甲1発明と一致し、次の点で両者は相違する。

相違点1
本件発明1は、「B_(2)O_(3)とSiO_(2)との合計含有量に対するB_(2)O_(3)含有量の質量比(B_(2)O_(3)/(B_(2)O_(3)+SiO_(2)))が0.6?0.828」であるのに対し、甲1発明は、その質量比が0.84である点。

相違点2
本件発明1は、「La_(2)O_(3)、Y_(2)O_(3)、Gd_(2)O_(3)およびYb_(2)O_(3)の合計含有量に対するY_(2)O_(3)含有量の質量比(Y_(2)O_(3)/(La_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3)+Gd_(2)O_(3)+Yb_(2)O_(3)))が0.10?0.30、La_(2)O_(3)、Y_(2)O_(3)、Gd_(2)O_(3)およびYb_(2)O_(3)の合計含有量に対するGd_(2)O_(3)含有量の質量比(Gd_(2)O_(3)/(La_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3)+Gd_(2)O_(3)+Yb_(2)O_(3)))が0?0.05」であるのに対し、甲1発明は、前者の質量比が0.05であり、後者の質量比が0.23である点。

相違点3
本件発明1は、「Nb_(2)O_(5)、TiO_(2)、Ta_(2)O_(5)およびWO_(3)の合計含有量に対するZnO含有量の質量比(ZnO/(Nb_(2)O_(5)+TiO_(2)+Ta_(2)O_(5)+WO_(3)))が0.20?0.500」であるのに対し、甲1発明は、その質量比が0.526である点。

相違点4
本件発明1は、「ガラス転移温度が672℃以上」であるのに対し、甲1発明は、ガラス転移温度が663℃である点。

イ.相違点の判断

(ア)相違点1について

上記(アc)で摘示した甲1の段落0012?0014の記載によればSiO_(2)とB_(2)O_(3)は共にガラスにおける網目形成成分であって、粘度調整等のためにSiO_(2)とB_(2)O_(3)の組成比を調整することは技術常識であり、さらに上記(アh)で摘示した甲1の表1及び表2の実施例2、5、7、9には、SiO_(2)+B_(2)O_(3)を一定の値としたままSiO_(2)とB_(2)O_(3)の組成比を変動させることが記載されていることから、SiO_(2)+B_(2)O_(3)を一定の値としたまま、SiO_(2)とB_(2)O_(3)の組成比を変動させ粘度調整等を行い相違点1を解消することは、当業者が容易になし得た組成変更といえる。

(イ)相違点2について

上記(アd)で摘示した甲1の段落0017?0019の記載によれば、甲1発明において、Y_(2)O_(3)とGd_(2)O_(3)は、同様にLa_(2)O_(3)の一部を置換可能な成分であると認められる。一方、上記(イa)及び(イb)で摘示した周知例の段落0047及び0052の記載によれば、光学ガラスの技術分野において、Y_(2)O_(3)はガラスの材料コストを下げ、Gd_(2)O_(3)は上げる成分であることが知られていたものと認められる。
してみると、上記(アa)及び(アb)で摘示した甲1の段落0003及び0005の記載から、甲1発明の目的は、高価なTa_(2)O_(5)を含有させずに低コストな高屈折低分散の光学ガラスを提供することと認められるから、甲1発明において、より低コストな高屈折低分散の光学ガラスを提供することを目的として、Gd_(2)O_(3)の置換量を減らす代わりにY_(2)O_(3)の置換量を増やすことで、二つの質量比に係る相違点2を同時に解消することは、当業者が容易になし得た組成変更といえる。

(ウ)相違点3について

上記(アe)で摘示した甲1の段落0034の記載によれば、甲1発明において、La_(2)O_(3)とGd_(2)O_(3)とY_(2)O_(3)の合計含有量とZnOの含有量の割合を、重量比で9.5:1?25:1の範囲に、かつZnOの含有量とNb_(2)O_(5)の含有量の割合を、重量比で1:1.30?1:4.2の範囲で変更しても、屈折率やアッベ数に大きな影響がないものと認められる。
してみると、前者の重量比が約14:1、後者の重量比が約1:1.90である甲1発明において、前者の重量比が9.5:1?25:1の範囲にあり、かつ後者の重量比が1:2?1:4.2(ZnO/Nb_(2)O_(5)=0.23?0.500)の範囲にあるように各成分の含有量を調整し相違点3を解消することは、当業者が適宜なし得た組成変更といえる。

(エ)組成変更後の液相温度について

甲1発明において、上記(ア)?(ウ)で検討した組成変更を行った後の液相温度について検討する。
甲1発明における液相温度は1131℃であるため、組成変更後の若干の変動を考慮したとしても、液相温度の点で進歩性が推認できるとは直ちにいえない。また、上記(アe)で摘示した甲1の段落0035には、「上記組成によって、製造面で必要なガラスの諸特性を得ることもできる。まず、上記光学ガラスは、液相温度を1200℃以下に、かつ液相温度における粘度を3dPa・s以上とすることができる。この特性によれば、耐失透性に優れた光学ガラスが得られる。」と記載されており、液相温度が低いほど耐失透性に優れた光学ガラスが得られることは当業者に周知の事項であることから、上記(ア)?(ウ)で検討したように相違点1?3を解消するように甲1発明の組成を変更する際に、液相温度が甲1発明の1131℃程度となるようにすることも当業者が容易に想到することができたものである。

(オ)相違点4について

上記(アj)で摘示した甲1の請求項5には、「ガラス転移温度[Tg]が670℃以下である請求項1ないし4のいずれか1項に記載の光学ガラス。」と記載されており、さらに、上記(アf)で摘示した甲1の段落0039には、「このようにして得られた本発明の光学ガラスからなるプレス成形品は、該光学ガラスのガラス転移温度[Tg]を670℃以下にすることができるので、比較的低温におけるアニールが可能になる。アニール温度はガラスの転移温度[Tg]付近で行われる。そのため、アニール用の熱処理炉への負荷が低減され、熱処理炉の寿命を延ばすことができ、また熱処理炉の長期運転も可能になる。さらに、熱処理炉における消費エネルギーも低減できるので、環境への負荷、コストなどの低減も可能になる。」と記載されていることから、上記(ア)?(ウ)で検討したように相違点1?3を解消するように当業者が甲1発明の組成を変更するとしても、ガラス転移温度が低くなるような条件が選択されるといえる。
してみると、上記相違点4を解消することは、当業者が容易になし得たことではない。

(カ)まとめ

以上(オ)で検討したとおり、甲1発明において相違点4を解消することは、当業者が容易になし得たこととは認められないから、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)本件発明2、3、6、7、9、10、12?14について

本件発明2、3、6、7、9、10、12?14は、いずれも本件発明1に係る発明特定事項を全て含むものであるから、本件発明1と同じ理由により、本件発明2、3、6、7、9、11は、甲第1号証に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。

3.小括

以上のとおり、請求項1?3、6、7、9、10、12?14に係る発明は、甲第1号証に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

第5.その他の取消理由及び取消理由通知で採用しなかった特許異議申立理由について

1.平成30年11月29日付け取消理由通知書における特許法第36条第6項第1号及び第2号の取消理由の概要

平成30年11月29日付け取消理由通知書における特許法第36条第6項第1号及び第2号の取消理由は、要するに、本件明細書の請求項1において、「Nb_(2)O_(5)、TiO_(2)、Ta_(2)O_(5)およびWO_(3)の合計含有量が4質量%」と記載されているが、合計含有量の上限値が記載されていないから発明が不明確であり、Nb_(2)O_(5)、TiO_(2)、Ta_(2)O_(5)及びWO_(3)の合計含有量の上限が、その他の必須成分の含有量の下限値を基に求められる25質量%であったとしても、当該上限値は、当業者が実施例に記載された限定的な組成範囲から、物性要件を満たす組成範囲を本件発明1の範囲まで、拡張ないし一般化して認識することができないというものである。

2.特許異議申立書における特許法第36条第6項第1号の理由の概要

取消理由通知で採用しなかった特許異議申立書における特許法第36条第6項第1号の理由は、要するに、以下のとおりである。

(i)SiO_(2)及びB_(2)O_(3)成分について、請求項1に記載されている範囲と、本件明細書の実施例における範囲は、かけ離れたものとなっており、広範なガラス組成要件及び物性要件によって特定された本件発明1の全体まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
(ii)Nb_(2)O_(5)について、請求項1に記載されている範囲と、本件明細書の実施例における範囲は、かけ離れたものとなっており、広範なガラス組成要件及び物性要件によって特定された本件発明1の全体まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。

3.当審の判断

(1)上記1.の理由及び上記2.の(ii)の理由について

上記1.の理由及び上記2.の(ii)の理由についてまとめて判断する。

ア.特許法第36条第6項第2号の理由について

本件発明1に係る請求項1においては、「Nb_(2)O_(5)、TiO_(2)、Ta_(2)O_(5)およびWO_(3)の合計含有量」が「4?11質量%」であることが記載されており、Nb_(2)O_(5)、TiO_(2)、Ta_(2)O_(5)およびWO_(3)の合計含有量の上限が明らかとなっていることから、本件発明1は明確である。

イ.特許法第36条第6項第1号の理由について

本件発明1に係る請求項においては、「Nb_(2)O_(5)、TiO_(2)、Ta_(2)O_(5)およびWO_(3)の合計含有量が4?11質量%」かつ「Nb_(2)O_(5)、TiO_(2)、Ta_(2)O_(5)およびWO_(3)の合計含有量に対するNb_(2)O_(5)含有量の質量比(Nb_(2)O_(5)/(Nb_(2)O_(5)+TiO_(2)+Ta_(2)O_(5)+WO_(3)))が0.95?1」であることが記載されているから、本件発明1におけるNb_(2)O_(5)の含有量は3.75?11質量%である。また、本件発明1の「Nb_(2)O_(5)、TiO_(2)、Ta_(2)O_(5)およびWO_(3)の合計含有量」は「4?11質量%」である。
ここで、サポート要件について、知財高裁判決平成28年(行ケ)第10189号には、「光学ガラスの製造に当たって,基本となる既知の光学ガラスの成分の一部を,物性の変化を調整しながら,他の成分に置き換えるなどの作業を試行錯誤的に行うことは,当業者が通常行うことということができるから,光学ガラス分野の当業者であれば,本願明細書の実施例に示された組成物を基本にして,特定の成分の含有量をある程度変化させた場合であっても,これに応じて他の成分を適宜増減させることにより,当該特定の成分の増減による物性の変化を調整して,もとの組成物と同様に本願物性要件を満たす光学ガラスを得ることも可能であることを理解できるものといえる。」(第36頁第24行?第37頁第6行)と示されている。
一方、本件明細書には、段落0050に、「Nb_(2)O_(5)、TiO_(2)、Ta_(2)O_(5)およびWO_(3)は、屈折率を高める働きのある成分であり、適量を含有させることにより、ガラスの熱的安定性を改善する働きも有する。Nb_(2)O_(5)、TiO_(2)、Ta_(2)O_(5)およびWO_(3)の合計含有量(Nb_(2)O_(5)+TiO_(2)+Ta_(2)O_(5)+WO_(3))が3?15%の範囲であることが、上記の光学特性を実現しつつ、ガラスの熱的安定性を更に改善する上で好ましい。」と記載されており、さらに段落0058に、「これに対し、Nb_(2)O_(5)は、ガラスの比重、着色、製造コストを増大させにくく、屈折率を高め、ガラスの熱的安定性を改善する働きがある。そこで、ガラス1では、Nb_(2)O_(5)の優れた作用、効果を活かすために、Nb_(2)O_(5)、TiO_(2)、Ta_(2)O_(5)およびWO_(3)の合計含有量に対するNb_(2)O_(5)の含有量の質量比(Nb_(2)O_(5)/(Nb_(2)O_(5)+TiO_(2)+Ta_(2)O_(5)+WO_(3)))を0.5?1の範囲とする。着色度λ5を低下させ、紫外線照射による紫外線硬化型接着剤の硬化を促進させる上からは、質量比(Nb_(2)O_(5)/(Nb_(2)O_(5)+TiO_(2)+Ta_(2)O_(5)+WO_(3)))を大きくすることが好ましい。質量比(Nb_(2)O_(5)/(Nb_(2)O_(5)+TiO_(2)+Ta_(2)O_(5)+WO_(3)))のより好ましい下限およびより好ましい上限を、下記表に示す。」と記載されていることから、Nb_(2)O_(5)の含有量を多くしつつも、屈折率とアッベ数が所定の範囲内となるように、Nb_(2)O_(5)、TiO_(2)、Ta_(2)O_(5)及びWO_(3)のそれぞれの含有量を調整することが、本件明細書には記載されているといえる。
そして、本件明細書の実施例におけるNb_(2)O_(5)の含有量が5.3?9.4質量%であり、Nb_(2)O_(5)、TiO_(2)、Ta_(2)O_(5)及びWO_(3)の合計含有量は6.4?9.4質量%であるから、本件発明1におけるNb_(2)O_(5)の含有量である3.75?11質量%及びNb_(2)O_(5)、TiO_(2)、Ta_(2)O_(5)及びWO_(3)の合計含有量は4?11質量%は、本願明細書の実施例における範囲とかけ離れたものとなっているとは認められない。
してみると、Nb_(2)O_(5)、TiO_(2)、Ta_(2)O_(5)及びWO_(3)成分を本件発明1の組成要件の範囲内で適宜調整することにより、本件発明1の物性要件を実現できることは、当業者ならば理解できるものと認められるから、本件発明1の全体まで拡張ないし一般化できるものである。

(2)上記2.の(i)の理由について

本件明細書の段落0023には、「B_(2)O_(3)、SiO_(2)は、ガラスのネットワーク形成成分である。B_(2)O_(3)とSiO_(2)との合計含有量(B_(2)O_(3)+SiO_(2))が15%以上であると、ガラスの熱的安定性が向上し、製造中のガラスの結晶化を抑制することができる。一方、B_(2)O_(3)とSiO_(2)との合計含有量が35%以下であると、屈折率ndの低下を抑制することができるため、上記した光学特性を有するガラス、すなわち、屈折率ndが1.800?1.850の範囲にあるとともに、アッベ数νdが41.5?44の範囲にあるガラスの作製が可能となる。」と記載されていることから、B_(2)O_(3)とSiO_(2)の合計量を調整することで、屈折率とアッベ数を所定の範囲内とすることが本件明細書には記載されているといえる。
さらに、本件明細書の段落0025には、「ガラスのネットワーク形成成分であるB_(2)O_(3)とSiO_(2)の各成分の含有量の比率は、ガラスの熱的安定性、熔融性、成形性、化学的耐久性、耐候性、機械加工性等に影響を与える。B_(2)O_(3)は、SiO_(2)よりも熔融性を改善する働きが優れているが、熔融時に揮発しやすい。これに対し、SiO_(2)は、ガラスの化学的耐久性、耐候性、機械加工性を改善したり、熔融時のガラスの粘性を高める働きを有する。
一般に、B_(2)O_(3)とLa_(2)O_(3)等の希土類元素を含む高屈折率低分散ガラスでは、熔融時のガラスの粘性が低い。しかし、熔融時のガラスの粘性が低いと熱的安定性が低下する(結晶化しやすくなる)。ガラス製造時の結晶化は、アモルファス状態(非晶質状態)よりも結晶化したほうが安定であり、ガラスを構成するイオンがガラス中を移動して結晶構造をもつように配列することにより生じる。したがって、熔融時の粘性が高くなるようにB_(2)O_(3)とSiO_(2)の各成分の含有量の比率を調整することにより、上記イオンを結晶構造をもつように配列しにくくして、ガラスの結晶化を更に抑制しガラスの熱的安定性を改善することができる。
鋳型に熔融ガラスを流し込んで成形する時、熔融ガラスの粘度が低いと、鋳型内に流し込んだガラスの固化した表面部が依然として熔融状態にあるガラスの内部に巻き込まれて脈理となり、ガラスの光学的な均質性が低下してしまう。成形性の優れたガラスとは、希土類元素を含む高屈折率低分散ガラスの中でも、熔融状態のガラスを鋳型に流し込む時の粘度が比較的高いガラスに相当する。
B_(2)O_(3)とSiO_(2)との合計含有量に対するB_(2)O_(3)含有量の質量比(B_(2)O_(3)/(B_(2)O_(3)+SiO_(2)))が0.900以下であれば、熔融時の粘性低下を抑制することができ、これによりガラスの熱的安定性を改善したり、熔融時の揮発を抑制することができる。熔融時の揮発は、ガラス組成の変動、特性の変動を大きくする原因となる。そしてその結果、光学的に均質なガラスを成形することを難しくする。したがって、質量比(B_(2)O_(3)/(B_(2)O_(3)+SiO_(2)))を0.900以下として熔融時の揮発を抑制できることは、組成や特性のばらつきの少ないガラスを量産する観点から好ましい。更に、質量比(B_(2)O_(3)/(B_(2)O_(3)+SiO_(2)))が0.900以下であれば、ガラスの化学的耐久性、耐候性、機械加工性の低下を抑制することもできる。・・・
一方、質量比(B_(2)O_(3)/(B_(2)O_(3)+SiO_(2)))が0.4以上であれば、熔融時のガラス原料の熔け残りを防ぐことができるため、熔融性を向上することができる。
以上の点から、ガラス1において、質量比(B_(2)O_(3)/(B_(2)O_(3)+SiO_(2)))を0.4?0.900の範囲とする。・・・」(「・・・」は省略を示す。)と記載されていることから、B_(2)O_(3)とSiO_(2)との合計含有量に対するB_(2)O_(3)含有量の質量比(B_(2)O_(3)/(B_(2)O_(3)+SiO_(2)))を調整することで、熔融時の粘度低下を抑制できる、すなわち成形性に優れたガラスを得ることができることが本件明細書には記載されているといえる。
してみると、SiO_(2)及びB_(2)O_(3)成分を本件発明1の組成要件の範囲内で適宜調整することにより、本件発明1の物性要件を実現できること、及びガラスの成形性も困難でないことは、当業者ならば理解できるものと認められるから、本件発明1の全体まで拡張ないし一般化できるものである。

4.小括

以上のとおり、請求項1?3、6、7、9、10、12?14に係る特許は、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものである。

第6.むすび

以上のとおり、請求項1?3、6、7、9、10、12?14に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものでもなく、さらに請求項1?3、6、7、9、10、12?14に係る特許は、特許法第36条第6項第1号及び同条第6項第2号に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第2号及び第4号に該当しない。
したがって、請求項1?3、6、7、9、10、12?14に係る特許は、取消理由通知書に記載した取消理由又は特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことはできない。また、他に請求項1?3、6、7、9、10、12?14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、請求項4、5、8、11は、訂正により削除されたため、同請求項に係る特許に対する特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%表示にて、
B_(2)O_(3)とSiO_(2)との合計含有量が21?32質量%、
La_(2)O_(3)、Y_(2)O_(3)、Gd_(2)O_(3)およびYb_(2)O_(3)の合計含有量が50?63質量%、
但し、Yb_(2)O_(3)含有量が1.0質量%以下であり、
ZrO_(2)含有量が4?10質量%、
Ta_(2)O_(5)含有量が2質量%以下、
Li_(2)O、Na_(2)OおよびK_(2)Oの合計含有量が0?2.0質量%、
Nb_(2)O_(5)、TiO_(2)、Ta_(2)O_(5)およびWO_(3)の合計含有量が4?11質量%、
B_(2)O_(3)とSiO_(2)との合計含有量に対するB_(2)O_(3)含有量の質量比(B_(2)O_(3)/(B_(2)O_(3)+SiO_(2)))が0.6?0.828、
La_(2)O_(3)、Y_(2)O_(3)、Gd_(2)O_(3)およびYb_(2)O_(3)の合計含有量に対するB_(2)O_(3)およびSiO_(2)の合計含有量の質量比((B_(2)O_(3)+SiO_(2))/(La_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3)+Gd_(2)O_(3)+Yb_(2)O_(3)))が0.42?0.53、
La_(2)O_(3)、Y_(2)O_(3)、Gd_(2)O_(3)およびYb_(2)O_(3)の合計含有量に対するY_(2)O_(3)含有量の質量比(Y_(2)O_(3)/(La_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3)+Gd_(2)O_(3)+Yb_(2)O_(3)))が0.10?0.30、
La_(2)O_(3)、Y_(2)O_(3)、Gd_(2)O_(3)およびYb_(2)O_(3)の合計含有量に対するGd_(2)O_(3)含有量の質量比(Gd_(2)O_(3)/(La_(2)O_(3)+Y_(2)O_(3)+Gd_(2)O_(3)+Yb_(2)O_(3)))が0?0.05、
Nb_(2)O_(5)、TiO_(2)、Ta_(2)O_(5)およびWO_(3)の合計含有量に対するNb_(2)O_(5)含有量の質量比(Nb_(2)O_(5)/(Nb_(2)O_(5)+TiO_(2)+Ta_(2)O_(5)+WO_(3)))が0.95?1、
Nb_(2)O_(5)、TiO_(2)、Ta_(2)O_(5)およびWO_(3)の合計含有量に対するZnO含有量の質量比(ZnO/(Nb_(2)O_(5)+TiO_(2)+Ta_(2)O_(5)+WO_(3)))が0.20?0.500、
であり、液相温度が1140℃以下であり、ガラス転移温度が672℃以上であり、屈折率ndが1.825?1.850の範囲であり、かつアッベ数νdが41.5?44である酸化物ガラスであるガラス(但し、B_(2)O_(3)含有量が22.380質量%であり、La_(2)O_(3)含有量が45.680質量%であり、Y_(2)O_(3)含有量が8.780質量%であり、ZnO含有量が4.250質量%であり、SiO_(2)含有量が4.680質量%であり、Nb_(2)O_(5)含有量が7.880質量%であり、かつZrO_(2)含有量が6.350質量%であるガラスを除く)。
【請求項2】
B_(2)O_(3)含有量が17質量%以上である請求項1に記載のガラス。
【請求項3】
B_(2)O_(3)含有量が23質量%以下である請求項1または2に記載のガラス。
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
Pbを含まない請求項1?3のいずれか1項に記載のガラス。
【請求項7】
屈折率ndが1.830?1.850の範囲である請求項1?3および6のいずれか1項に記載のガラス。
【請求項8】
(削除)
【請求項9】
着色度λ5が335nm以下である請求項1?3、6および7のいずれか1項に記載のガラス。
【請求項10】
比重dと屈折率ndとが、下記(A)式:
d/(nd-1)≦5.70 …(A)
を満たす請求項1?3、6、7および9のいずれか1項に記載のガラス。
【請求項11】
(削除)
【請求項12】
請求項1?3、6、7、9および10のいずれか1項に記載のガラスからなるプレス成形用ガラス素材。
【請求項13】
請求項1?3、6、7、9および10のいずれか1項に記載のガラスからなる光学素子ブランク。
【請求項14】
請求項1?3、6、7、9および10のいずれか1項に記載のガラスからなる光学素子。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-08-11 
出願番号 特願2016-569368(P2016-569368)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C03C)
P 1 651・ 537- YAA (C03C)
P 1 651・ 851- YAA (C03C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 原 和秀  
特許庁審判長 菊地 則義
特許庁審判官 金 公彦
川村 裕二
登録日 2018-02-16 
登録番号 特許第6291598号(P6291598)
権利者 HOYA株式会社
発明の名称 ガラス、プレス成形用ガラス素材、光学素子ブランク、および光学素子  
代理人 特許業務法人特許事務所サイクス  
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