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審決分類 審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  C04B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C04B
審判 全部申し立て 2項進歩性  C04B
審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  C04B
管理番号 1366965
異議申立番号 異議2018-701028  
総通号数 251 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-11-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-12-19 
確定日 2020-08-11 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6352593号発明「ジルコニア焼結体、ジルコニア組成物及びジルコニア仮焼体、並びに歯科用補綴物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6352593号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1?18〕について訂正することを認める。 特許第6352593号の請求項1ないし18に係る特許を取り消す。 
理由 第1.手続の経緯

本件特許第6352593号の請求項1?18に係る発明についての出願は、平成25年5月2日の出願であって、平成30年6月15日にその特許権の設定登録がされ、平成30年7月4日に特許掲載公報が発行された。その特許についての特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
平成30年12月19日付け:特許異議申立人藤江桂子(以下、「特許異議申立人1」という。)による請求項1?18に係る特許に対する特許異議の申立て
平成30年12月26日付け:特許異議申立人土田裕介(以下、「特許異議申立人2」という。)による請求項1?18に係る特許に対する特許異議の申立て
平成30年12月27日付け:特許異議申立人末吉直子(以下、「特許異議申立人3」という。)による請求項1?18に係る特許に対する特許異議の申立て
平成31年 2月26日付け:取消理由通知書
令和 1年 5月 7日付け:特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和 1年 6月13日付け:特許異議申立人1?3それぞれによる意見書の提出
令和 1年 7月16日付け:訂正拒絶理由通知書
令和 1年 8月16日付け:特許権者による意見書及び手続補正書の提出
令和 1年 8月29日付け:手続補正指令書(方式)
令和 1年 9月20日付け:特許権者による令和1年8月16日付け手続補正書についての手続補正書(方式)及び上申書の提出
令和 1年12月19日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和 2年 2月19日 :面接審理(特許権者)
令和 2年 2月25日付け:特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和 2年 4月24日付け:特許異議申立人2、3それぞれによる意見書の提出
令和 2年 5月 1日付け:特許異議申立人1による意見書の提出

第2.訂正請求について

1.訂正の内容

(1)訂正事項

令和2年2月25日付け訂正請求書における訂正請求(以下、「本件訂正請求」といい、この請求に係る訂正を「本件訂正」という。)は、次の訂正事項1?4からなる(下線部は訂正箇所)。
なお、令和1年5月7日付けの訂正請求は取り下げられたものとみなす。

訂正事項1
請求項1について、「一端から他端に向かう第1方向に延在する直線上において、前記一端から全長の25%までの区間にある第1点のL^(*)a^(*)b^(*)表色系による色度(L^(*),a^(*),b^(*))を(L1,a1,b1)とし、前記他端から全長の25%までの区間にある第2点のL^(*)a^(*)b^(*)表色系による色度(L^(*),a^(*),b^(*))を(L2,a2,b2)としたとき、L1が58.0以上76.0以下であり、a1が-1.6以上7.6以下であり、b1が5.5以上26.3以下であり、L2が71.8以上84.2以下であり、a2が-2.1以上1.8以下であり、b2が1.9以上16.0以下であり、L1<L2であり、a1>a2であり、b1>b2であり、前記第1点から前記第2点に向かってL^(*)a^(*)b^(*)表色系による色度の増減傾向が変化ないことを特徴とするジルコニア焼結体。」との記載を「一端から他端に向かう第1方向に延在する直線上において、前記一端から全長の25%までの区間にある第1点のL^(*)a^(*)b^(*)表色系による色度(L^(*),a^(*),b^(*))を(L1,a1,b1)とし、前記他端から全長の25%までの区間にある第2点のL^(*)a^(*)b^(*)表色系による色度(L^(*),a^(*),b^(*))を(L2,a2,b2)としたとき、L1が58.0以上76.0以下であり、a1が-1.6以上7.6以下であり、b1が5.5以上26.3以下であり、L2が71.8以上84.2以下であり、a2が-2.1以上1.8以下であり、b2が1.9以上16.0以下であり、L1<L2であり、a1>a2であり、b1>b2であり、前記第1点から前記第2点に向かってL^(*)a^(*)b^(*)表色系による色度の増減傾向が変化せず、酸化ケイ素を実質的に含有しないことを特徴とするジルコニア焼結体。」に訂正する。

訂正事項2
請求項15について、「1400℃?1600℃で焼結することにより請求項1?13のいずれか一項に記載のジルコニア焼結体となることを特徴とする、ジルコニア焼結体を製造するための組成物。」との記載を「1400℃?1600℃で焼結して請求項1?13のいずれか一項に記載のジルコニア焼結体を製造するのに用いることを特徴とする、ジルコニア焼結体を製造するための組成物の使用方法。」に訂正する。

訂正事項3
請求項16について、「800℃?1200℃で焼成することにより請求項14に記載の仮焼体となることを特徴とする、ジルコニア焼結体を製造するための組成物。」との記載を「800℃?1200℃で焼成して請求項14に記載の仮焼体を製造するのに用いることを特徴とする、ジルコニア焼結体を製造するための組成物の使用方法。」に訂正する。

訂正事項4
請求項18について、「請求項14に記載の仮焼体を、CAD/CAMシステムを用いて切削加工した後に焼結した状態であることを特徴とする請求項17に記載の歯科用補綴物。」との記載を「請求項14に記載の仮焼体を、CAD/CAMシステムを用いて切削加工した後に焼結して請求項17に記載の歯科用補綴物を製造することを特徴とする歯科用補綴物の製造方法。」に訂正する。

(2)一群の請求項について
訂正前の請求項1の記載を直接又は間接的に訂正前の請求項2?18が引用する関係にあるから、訂正前の請求項1?18に係る発明は一群の請求項である。
そして、訂正事項1は訂正前の請求項1に関するものであり、訂正後の請求項1の記載を訂正後の請求項2?18が引用する関係にあって、当該訂正事項1によって請求項2?18に係る発明も連動して訂正されるから、訂正後の請求項1?18は一群の請求項である。
したがって、本件訂正請求は、一群の請求項1?18について請求したものと認められる。

2.訂正の判断

(1)訂正事項1について

訂正事項1は、請求項1に記載された「ジルコニア焼結体」の発明において、「酸化ケイ素を実質的に含有しないこと」を導入してジルコニア焼結体をより限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、ジルコニア焼結体が酸化ケイ素を実質的に含有しないことについては本件明細書の段落0042に「本発明のジルコニア焼結体において、酸化ケイ素(SiO_(2);シリカ)の含有率は、ジルコニアと安定化剤の合計質量に対して、0.1質量%以下であると好ましく、ジルコニア焼結体は、酸化ケイ素を実質的に含有しないと好ましい。酸化ケイ素が含有すると、ジルコニア焼結体の透明度が低下してしまうからである。ここに「実質的に含有しない」とは、本発明の性質、特性に影響を特に与えない範囲内という意義であり、好ましくは不純物レベルを超えて含有しないという趣旨であり、必ずしも検出限界未満であるということではない。」と記載されているから、願書に添付した特許請求の範囲又は明細書に記載した事項の範囲内においてしたものである。
また、訂正事項1は、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、また、当該訂正事項により、訂正前の特許請求の範囲には含まれないとされていた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとなるという事情は認められないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2について

訂正事項2は、請求項15に記載されていた「ジルコニア焼結体を製造するための組成物」を「ジルコニア焼結体を製造するための組成物の使用方法」に訂正し、「組成物」の「使用方法」であることを明確化するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、1400℃?1600℃で焼結してジルコニア焼結体を製造するために組成物を使用する方法は、本件明細書の段落0092に「仮焼体を作製しない場合には、組成物を1400℃?1600℃、好ましくは1450℃?1550℃で焼結することにより、ジルコニア粉末を焼結させて、本発明のジルコニア焼結体を製造する。」と記載されているから、願書に添付した特許請求の範囲又は明細書に記載した事項の範囲内においてしたものである。
また、物の使用方法の発明の「実施」は、当該物の発明の「実施」に包含され(特許法第2条第3項第1号?第3号参照。)、物の発明を当該物の使用方法の発明とする訂正は、訂正により発明の「実施」に該当する行為を実質上拡張し、又は変更するものにならないから、当該訂正事項は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項3について

訂正事項3は、請求項16に記載されていた「ジルコニア焼結体を製造するための組成物」を「ジルコニア焼結体を製造するための組成物の使用方法」に訂正し、「組成物」の「使用方法」であることを明確化するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、800℃?1200℃で焼結して仮焼体を製造するために組成物を使用する方法は、本件明細書の段落0093に「仮焼体を作製する場合には、組成物を800℃?1200℃で焼結して、仮焼体を作製する。次に、仮焼体を1400℃?1600℃、好ましくは1450℃?1550℃で焼結することにより、ジルコニア粉末を焼結させて、本発明のジルコニア焼結体を製造する。」と記載されているから、願書に添付した特許請求の範囲又は明細書に記載した事項の範囲内においてしたものである。
また、物の使用方法の発明の「実施」は、当該物の発明の「実施」に包含され(特許法第2条第3項第1号?第3号参照。)、物の発明を当該物の使用方法の発明とする訂正は、訂正により発明の「実施」に該当する行為を実質上拡張し、又は変更するものにならないから、当該訂正事項は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)訂正事項4について

訂正事項4は、請求項18に記載された「請求項14に記載の仮焼体を、CAD/CAMシステムを用いて切削加工した後に焼結した状態であることを特徴とする請求項17に記載の歯科用補綴物」の発明を、「前記切削加工は、CAD/CAMシステムを用いて行うことを特徴とする請求項17に記載の歯科用補綴物の製造方法」に訂正し、「歯科用補綴物」の「製造方法」であることを明確化するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、仮焼体をCAD/CAMシステムを用いて切削加工した後に焼結して歯科用補綴物を製造する方法は、本件明細書の段落0093及び0094に「成形は、仮焼体の段階で切削加工等により実施してもよいし、焼結後に実施してもよい。成形は、CAD/CAMシステムで実施することができる。」及び「歯科用補綴物の製造方法は、仮焼体又は焼結体を歯冠形状に成形する以外は、焼結体の上記製造方法と同様である。」と記載されているから、願書に添付した特許請求の範囲又は明細書に記載した事項の範囲内においてしたものである。
また、物の製造方法の発明の「実施」は、当該物の発明の「実施」に包含され(特許法第2条第3項第1号?第3号参照。)、物の発明を当該物の製造方法の発明とする訂正は、訂正により発明の「実施」に該当する行為を実質上拡張し、又は変更するものにならないから、当該訂正事項は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(5)独立特許要件について

特許異議申立ては、訂正前の全ての請求項1?18についてされているので、一群の請求項1?18に係る訂正事項1?4に関して、特許法120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

3.まとめ

以上のとおり、本件訂正請求は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に規定された事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?18〕について訂正することを認める。

第3.本件発明について

本件特許の請求項1?18に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明18」という。)は、訂正特許請求の範囲に記載された次の事項により特定されるとおりのものである(下線部は訂正箇所)。

「【請求項1】
一端から他端に向かう第1方向に延在する直線上において、
前記一端から全長の25%までの区間にある第1点のL^(*)a^(*)b^(*)表色系による色度(L^(*),a^(*),b^(*))を(L1,a1,b1)とし、
前記他端から全長の25%までの区間にある第2点のL^(*)a^(*)b^(*)表色系による色度(L^(*),a^(*),b^(*))を(L2,a2,b2)としたとき、
L1が58.0以上76.0以下であり、
a1が-1.6以上7.6以下であり、
b1が5.5以上26.3以下であり、
L2が71.8以上84.2以下であり、
a2が-2.1以上1.8以下であり、
b2が1.9以上16.0以下であり、
L1<L2であり、
a1>a2であり、
b1>b2であり、
前記第1点から前記第2点に向かってL^(*)a^(*)b^(*)表色系による色度の増減傾向が変化せず、
酸化ケイ素を実質的に含有しないことを特徴とするジルコニア焼結体。

【請求項2】
前記第1点と前記第2点とを結ぶ直線上において、
前記第1点から前記第2点に向かってL^(*)値が1以上減少する区間が存在せず、
前記第1点から前記第2点に向かってa^(*)値が1以上増加する区間が存在せず、
前記第1点から前記第2点に向かってb^(*)値が1以上増加する区間が存在しない
ことを特徴とする請求項1に記載のジルコニア焼結体。

【請求項3】
前記第1点から前記第2点を結ぶ直線上において、前記第1点と前記第2点の間にある第3点のL^(*)a^(*)b^(*)表色系による色度(L^(*),a^(*),b^(*))を(L3,a3,b3)としたとき、
L3が65.9以上80.5以下であり、
a3が-1.8以上5.5以下であり、
b3が4.8以上20.7以下であり、
L1<L3<L2であり、
a1>a3>a2であり、
b1>b3>b2である、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のジルコニア焼結体。

【請求項4】
前記第1点から前記第2点を結ぶ直線上において、前記第3点と前記第2点の間にある第4点のL^(*)a^(*)b^(*)表色系による色度(L^(*),a^(*),b^(*))を(L4,a4,b4)としたとき、
L4が69.1以上82.3以下であり、
a4が-2.1以上1.4以下であり、
b4が3.5以上16.2以下であり、
L1<L3<L4<L2であり、
a1>a3>a4>a2であり、
b1>b3>b4>b2である、
ことを特徴とする請求項3に記載のジルコニア焼結体。

【請求項5】
前記第3点は前記一端から全長の45%の距離にあり、
前記第4点は前記一端から全長の55%の距離にある、
ことを特徴とする請求項4に記載のジルコニア焼結体。

【請求項6】
前記第1点、前記第3点、前記第4点及び前記第2点において、
隣接する2点におけるL^(*)値の差をΔL^(*)とし、
隣接する2点におけるa^(*)値の差をΔa^(*)とし、
隣接する2点におけるb^(*)値の差をΔb^(*)とし、
以下の式1よりΔE^(*)abを算出した場合、
前記第1点と前記第3点間のΔE^(*)abは3.7以上14.3以下であり、
前記第3点と前記第4点間のΔE^(*)abは1.8以上10.5以下であり、
前記第4点と前記第2点間のΔE^(*)abは1.0以上4.8以下である、
ことを特徴とする請求項4又は5に記載のジルコニア焼結体。
[式1]


【請求項7】
前記第1点から前記第2点を結ぶ直線上において、前記第1点と前記第2点の間にある第3点のL^(*)a^(*)b^(*)表色系による色度(L^(*),a^(*),b^(*))を(L3,a3,b3)としたとき、
L3が69.1以上82.3以下であり、
a3が-2.1以上1.4以下であり、
b3が3.5以上16.2以下であり、
L1<L3<L2であり、
a1>a3>a2であり、
b1>b3>b2である、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のジルコニア焼結体。

【請求項8】
前記一端から前記他端までの距離は5mm?18mmであることを特徴とする請求項1?7のいずれか一項に記載のジルコニア焼結体。

【請求項9】
前記第1方向と直交する第2方向に沿って色が変化しないことを特徴とする請求項1?8のいずれか一項に記載のジルコニア焼結体。

【請求項10】
前記第2方向に延在する直線上の2点において、
前記2点間のL^(*)値の差をΔL^(*)とし、
前記2点間のa^(*)値の差をΔa^(*)とし、
前記2点間のb^(*)値の差をΔb^(*)とし、
以下の式2よりΔE^(*)abを算出した場合、
ΔE^(*)abが1未満であることを特徴とする請求項9に記載のジルコニア焼結体。
[式2]


【請求項11】
JISR1601に準拠して測定した曲げ強度が1000MPa以上であることを特徴とする請求項1?10のいずれか一項に記載のジルコニア焼結体。

【請求項12】
JISR1607に準拠して測定した破壊靭性が3.5MPa・m1/2以上であることを特徴とする請求項1?11のいずれか一項に記載のジルコニア焼結体。

【請求項13】
180℃、1MPaで5時間水熱処理試験を施した後のジルコニア焼結体のX線回折パターンにおいて、2θが30°付近の正方晶由来の[111]ピークが生ずる位置付近に存在するピークの高さに対する、2θが28°付近の単斜晶由来の[11-1]ピークが生ずる位置付近に存在するピークの高さの比が1以下であることを特徴とする請求項1?12のいずれか一項に記載のジルコニア焼結体。

【請求項14】
1400℃?1600℃で焼結することにより請求項1?13のいずれか一項に記載のジルコニア焼結体となることを特徴とする、ジルコニア焼結体を製造するための仮焼体。

【請求項15】
1400℃?1600℃で焼結して請求項1?13のいずれか一項に記載のジルコニア焼結体を製造するのに用いることを特徴とする、ジルコニア焼結体を製造するための組成物の使用方法。

【請求項16】
800℃?1200℃で焼成して請求項14に記載の仮焼体を製造するのに用いることを特徴とする、ジルコニア焼結体を製造するための組成物の使用方法。

【請求項17】
請求項14に記載の仮焼体を切削加工した後に焼結した状態であることを特徴とする歯科用補綴物。

【請求項18】
請求項14に記載の仮焼体を、CAD/CAMシステムを用いて切削加工した後に焼結して請求項17に記載の歯科用補綴物を製造することを特徴とする歯科用補綴物の製造方法。」

第4.取消理由について

1.取消理由(決定の予告)の概要

本件特許の取消理由(決定の予告)の概要は以下のとおりである。

理由1(明確性)
本件発明1に係る請求項1には、L^(*)a^(*)b^(*)表色系による色度を測定する際の背景色が特定されていないが、本件発明に係る歯科用材料のように透光性を有する場合には、L^(*)a^(*)b^(*)表色系による色度は測定する際の背景色により変化するものであるから、測定時の背景色が特定されていない本件発明1のL^(*)a^(*)b^(*)表色系による色度を明確に把握することができない。
よって、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

理由2(進歩性)
本件発明1?18は、本件特許の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の文献1又は文献2に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、以下のとおり、その出願日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものである。

・文献1に記載された発明は、天然歯に似せるという本件発明1と同一の技術課題を有しており、一端から他端に向けて半透明性を徐々に低減させつつ淡い黄色を徐々に深くすることにより天然歯と同様に半透明性及び色が段階的に変化するジルコニア焼結体を得るものであるから文献1に記載された発明の色の変化は本件発明1が特定する色度と同様の傾向であって、文献1に記載された発明に基いて本件発明1と同一のL^(*)a^(*)b^(*)表色系の色度を有するジルコニアセラミックスを得ることは、当業者にとって適宜なし得る設計的事項の範囲内のことに過ぎない。

・文献2にはZrO_(2)を主成分として歯科用セラミックスを製造することも記載されており、ZrO_(2)を主成分とする歯科用セラミックは、文献1に記載されているように公知であるから、文献2に記載された発明においてZrO_(2)の成分量を増加させて、ZrO_(2)を主成分とする文献1に記載された発明の成分を有する焼結体とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

よって、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

引用文献
文献1:中国特許出願公開第102285795号明細書(特許異議申立人1が提出した甲第1号証、特許異議申立人3が提出した甲第2号証)
文献2:独国特許出願公開第102006024489号明細書(特許異議申立人3が提出した甲第1号証、特許異議申立人2が提出した甲第1号証のパテントファミリー)
文献3:特開2012-41239号公報(特許異議申立人3が提出した甲第4号証)

2.取消理由に対する当審の判断

(1)理由2(進歩性)について

本件の事案に鑑み、始めに理由2について、検討する。

ア.本件発明について

本件発明1?18は、上記第3のとおり記載された事項により特定されたものであると認める。
ただし、上記1.の理由1(明確性)で指摘した理由により、本件発明1?18における「L^(*)a^(*)b^(*)表色系による色度(L^(*),a^(*),b^(*))」を測定する際の条件は任意であると解釈して、進歩性に係る判断を行う。
また、本件明細書の段落0042における「ここに「実質的に含有しない」とは、本発明の性質、特性に影響を特に与えない範囲内という意義であり、好ましくは不純物レベルを超えて含有しないという趣旨であり、必ずしも検出限界未満であるということではない。」との記載、及び令和2年2月25日付け意見書における「また、本発明の性質、特性とは、ジルコニア焼結体の透明度を低下させないことであります」との特許権者の主張を参酌して、酸化ケイ素の含有量が「ジルコニア焼結体の透明度」に対して影響を与えない程度であるか、又は酸化ケイ素の含有量が不純物レベルであるかについて検討することにより、本件発明1?18における「酸化ケイ素を実質的に含有しない」ことについて判断を行う。

イ.文献1?3の記載事項

(ア)文献1

文献1には、以下の記載がある。(和訳は、特許異議申立人1、3が提出した抄訳を参考にして、当審が作成した。また、「・・・」は記載の省略を表す。以下同様。)

(アa)「


(和訳)[0007] 本発明は、歯科用の審美補綴に使用される多色型、被削性ジルコニアセラミック及びその製造方法を提案することで,加工プロセスを簡素化し,ジルコニアオールセラミック補綴物の審美性の改善及び補綴の成功率を向上させることを主な目的とする。上記目的を実現するために,歯科用のCAD/CAMを利用して切削成形することができ,天然歯に似た半透明性及び色が段階的に変化するという効果を有する歯科用のジルコニアセラミック,特に、多様な色の特徴を有する着色ジルコニア粉体の製造方法、及び層毎に積層化された多色型ジルコニアセラミックの素体の製造方法を設計する。

(アb)「


(和訳)[0023] ジルコニア粉体の原料:白色及びイエロー系ジルコニア粉体,主成分(wt%)は:Y_(2)O_(3)5.2±0.5,Al_(2)O_(3)0.1?0.4,及び微量のNa_(2)O,SiO_(2),Fe_(2)O_(3),残部のZrO_(2)とし,実際の粒子径は約90nmとする。
[0024] 着色ジルコニア粉体の製造:白色ジルコニア粉体とイエロー系ジルコニア粉体とを、質量分率の割合(wt%)でそれぞれ:60%:40%,70%:30%,80%:20%,90%:10%,95%:5%として称量して混合し,各混合粉体の総質量は10gとし;密封管に入れ,前記割合でそれぞれ1,2,3,4,5と番号を付与し,混和する。
[0025] 多色型、被削性ジルコニアセラミックの素体の製造:1から5の順で,電子天秤で着色ジルコニアの混合粉体をそれぞれ秤り取り,その質量は:3,2,2,2,3(g)とし,彩度の逓増の順に直方体金型(14mm×15mm×20mm)に順番に添加し,層毎に積層化し,乾式プレスの圧力は4Mpaとする。作製した多色型、被削性ジルコニアセラミックの素体をプラスチックフィルムで隙間なく被覆し,冷間静水圧プレス機に入れ,200MPaの成形圧で成形して3分保圧する。
[0026] 多色型、被削性ジルコニアセラミックの多孔質素体の製造:成形された多色型、被削性ジルコニアセラミックの素体(高18mm±0.2mm)を、高温の陶材焼付炉に入れて予備焼結する:室温から,等速、150分で950℃まで昇温し,60分保温し,室温まで自然冷却させる。得られた多色型、被削性ジルコニアセラミックの多孔質素体は、一定の強度を有するとともにCAD/CAMでの設計、加工が容易である。補綴対象の天然歯(上顎中切歯)の比色結果を参考とし,仮想補綴物をセラミックブロックの中心位置に置き,CAMシステムを利用して20%拡大して切削成形する。
[0027] 本発明に記載の多色型、被削性ジルコニアセラミックの多孔質素体を加工成形した上顎中切歯用のジルコニアオールセラミック補綴物を,完全焼結する:室温から,等速、150分で1450℃まで昇温し,120分保温し,室温まで自然冷却させる。研磨し、クリーニングする。
[0028] 肉眼及び実体顕微鏡で、上顎中切歯用のジルコニアオールセラミック補綴物の表面の滑らかさ、クラック及び空隙の有無を観察したところ,それは半透明性であり,補綴物の各面の色の分布が均一であり,色の分布規則が一致しており,切端から頸部にかけての彩度が徐々に増加し,半透明性が徐々に低下し,淡黄色が徐々に深くなるという勾配的且つ段階的な変化を示し,色のグラデーション感及びリアリティー感が高いものであった。

(アc)「


(和訳)図1

(アd)「


(和訳)


上記(アa)で摘示したように、文献1のジルコニアセラミックスは「天然歯に似た半透明性及び色が段階的に変化するという効果を有する」ものであり、上記(アb)で摘示したように、文献1のジルコニアセラミックスは「Y_(2)O_(3)を5.2±0.5wt%、Al_(2)O_(3)を0.1?0.4wt%、及び微量のNa_(2)O、SiO_(2)、Fe_(2)O_(3)、残部のZrO_(2)」からなるものであるため、文献1には、「Y_(2)O_(3)を5.2±0.5wt%、Al_(2)O_(3)を0.1?0.4wt%、及び微量のNa_(2)O、SiO_(2)、Fe_(2)O_(3)、残部のZrO_(2)からなり、天然歯に似せるために、切端から頸部にかけての彩度が徐々に増加し、半透明性が徐々に低下し,淡黄色が徐々に深くなるという勾配的且つ段階的な変化を示し、色のグラデーション感及びリアリティー感が高いように5層で色調を変化させた歯科用ジルコニアセラミックス。」の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

(イ)文献2

文献2には、以下の記載がある。(和訳は、特許異議申立人2、3が提出した抄訳を参考にして、当審が作成した。)

(イa)「


(和訳)[0003] 歯の自然の外観において、切歯から歯頸までの色効果および濁りの強さは向上するので、ガラスセラミックの混合セラミックはそれぞれの色強度および濁りにおいて作製される。これらの異なるものは歯科技術者により多層構成に単一色の例えば酸化物セラミックからなるフレーム構造において、天然の歯の形状および色を模倣するために利用される。

(イb)「


(和訳)[0010] 前記方法は少なくとも2つの色調または色勾配を備える粉末技術で作製された義歯、特に歯冠の作製を、そのように作製されたセラミックの形状維持に影響を及ぼすことなく可能にする。この方法を実施するために特に適切な粉末成形体を準備する必要がある。

(イc)「


(和訳)[0013]これらの粉末混合物(顆粒)のそれぞれは以下を含んでいる。
-セラミック粉末、特にイットリア安定化ZrO_(2)、および
-好ましくは10重量%まで、特に好ましくは5重量%までの着色金属化合物、特にCu、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、V、NdまたはPrである遷移金属の酸化物、および/または好ましくは20重量%まで、特に好ましくは10重量%までの着色顔料、特にジルコンまたはバデライトベースのもの。

(イd)「


(和訳)[0045] 2つの顆粒FおよびGがZrSi_(2)、ZrO_(2)、MgO、Al_(2)O_(3)と、ケイ素含有ポリマーと、プレス補助剤と、少なくとも1重量%の分解剤と、から作製された。顆粒Fはさらに7重量%までのバデライトベースの着色顔料を含んでいる。歯科用基本色の色付けのために、顆粒FおよびGを表6に従って、MnO_(2)、Pr_(6)O_(11)、Fe_(2)O_(3)及びCuOを含む異なる量の色付け金属酸化物の混合物を与えた。
表6
顆粒 F G
ZrSi_(2)(重量%) 47.9 48.0
ZrO_(2)(単斜晶系)(重量%) 27.3 32.0
ZrO_(2)(バデライトベースの着色顔料) 7.0 0.0
Al_(2)O_(3)(重量%) 7.0 7.0
MgO(重量%) 0.5 0.5
分解剤(重量%) 0.5 0.5
色付け金属酸化物の混合物(重量%) 1.9 4.1
ケイ素含有ポリマー(重量%) 5.9 5.9
プレス補助剤(重量%) 2.0 2.0
[0046]表6に示されている組成により1450℃で密に焼成された顆粒FおよびGの焼結体F’およびG’は明らかに色の変化を認識でき、表7においてL^(*)a^(*)b^(*)値として示されている(それぞれ5つの測定の平均値)。
表7
焼結体 L^(*)値 a^(*)値 b^(*)値
F’ 80.54 0.72 14.94
G’ 69.88 3.88 22.68
[0047]2層円筒成形体を作製するために、約5gの顆粒Fをプレスのダイに入れ、さらに約5gの顆粒Gを加えた。5層円筒成形体を作製するために顆粒F及びGからのそれぞれ約2gずつの混合物を表8の割合により作製し、互いに重ねてプレスのダイに加えた。
表8
顆粒 F G
1.層(重量%) 100 0
2.層(重量%) 75 25
3.層(重量%) 50 50
4.層(重量%) 25 75
5.層(重量%) 0 100

上記(イd)で摘示したように、第1.層は顆粒Fのみを用いたものであり、第5.層は顆粒Gのみを用いたものであるため、第1.層の色度(L^(*),a^(*),b^(*))は焼結体F’と同じL^(*)値が80.54、a^(*)値が0.72、b^(*)値が14.94、第5.層の色度(L^(*),a^(*),b^(*))は焼結体G’と同じL^(*)値が69.88、a^(*)値が3.88、b^(*)値が22.68であるから、文献2には、2つの顆粒F及びGから作製されるものとして、
「自然歯の色を模倣した色のグラデーションを有する歯科用セラミックスであって、5種のジルコニアを含む混合粉体を重なり合うように金型で圧縮成形して焼結し、第1.層のL^(*)値を80.54、a^(*)値を0.72、b^(*)値を14.94、第5.層のL^(*)値を69.88、a^(*)値を3.88、b^(*)値を22.68とした歯科用セラミックス。」の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

(ウ)文献3

文献3には、以下の記載がある。
「【請求項4】
JISR1607に準拠して測定した破壊靭性値が8MPa・m^(1/2)以上であり、 JISR1601に準拠して測定した曲げ強度が1200MPa以上であることを特徴とするジルコニア焼結体。」

「【請求項10】
ジルコニア焼結体を180℃、1MPaの条件で低温劣化加速試験を5時間施した場合に、
前記低温劣化加速試験後のジルコニア焼結体の表面におけるX線回折パターンにおいて、正方晶由来の[111]ピークが生ずる位置付近に存在するピークの高さに対する単斜晶由来の[11-1]ピークが生ずる位置付近に存在するピークの高さの比が1以下であることを特徴とする請求項1?9のいずれか一項に記載のジルコニア焼結体。」

ウ.対比・判断

(ア)本件発明1について

a.引用発明1と対比した場合

本件発明1と引用発明1を対比する。
引用発明1の歯科用ジルコニアセラミックスは、上記摘示イ.(ア)(アb)より、多色型、被削性ジルコニアセラミックの多孔質素体を加工成形した上顎中切歯用のジルコニアオールセラミック補綴物を完全焼結したものであるから、本件発明1における「ジルコニア焼結体」に相当する。また、引用発明1のSiO_(2)は、本件発明1における「酸化ケイ素」に相当する。
したがって、本件発明1と引用発明1とを対比すると、「ジルコニア焼結体」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1-1
本件発明1におけるジルコニア焼結体が「一端から他端に向かう第1方向に延在する直線上において、前記一端から全長の25%までの区間にある第1点のL^(*)a^(*)b^(*)表色系による色度(L^(*),a^(*),b^(*))を(L1,a1,b1)とし、前記他端から全長の25%までの区間にある第2点のL^(*)a^(*)b^(*)表色系による色度(L^(*),a^(*),b^(*))を(L2,a2,b2)としたとき、L1が58.0以上76.0以下であり、a1が-1.6以上7.6以下であり、b1が5.5以上26.3以下であり、L2が71.8以上84.2以下であり、a2が-2.1以上1.8以下であり、b2が1.9以上16.0以下であり、L1<L2であり、a1>a2であり、b1>b2であり、前記第1点から前記第2点に向かってL^(*)a^(*)b^(*)表色系による色度の増減傾向が変化しない」のに対し、引用発明1のジルコニア焼結体は「天然歯に似せるために、切端から頸部にかけての彩度が徐々に増加し,半透明性が徐々に低下し,淡黄色が徐々に深くなるという勾配的且つ段階的な変化を示し,色のグラデーション感及びリアリティー感が高いように5層で色調を変化させた」ものである点。

相違点1-2
本件発明1におけるジルコニア焼結体が「酸化ケイ素を実質的に含有しない」のに対して、引用発明1のジルコニア焼結体は酸化ケイ素を「微量」含有する点。

始めに相違点1-1について検討する。
引用発明1は、上記イ.(ア)(アa)で摘示したように、天然歯に似せるという本件発明1と同一の技術課題を有しており、一端から他端に向けて半透明性を徐々に低減させつつ淡い黄色を徐々に深くすることにより天然歯と同様に半透明性及び色が段階的に変化するジルコニア焼結体を得るものと認められる。
すると、本件発明1と引用発明1は、共に天然歯に似た色が変化するジルコニア焼結体を得ることを目的とするものであるため、引用発明1の色の変化は本件発明1が特定する色度と同様の傾向であって、引用発明1に基いて本件発明1と同一のL^(*)a^(*)b^(*)表色系の色度を有するジルコニアセラミックスを得ることは、当業者にとって適宜なし得る設計的事項の範囲内のことに過ぎない。
したがって、上記相違点は、当業者ならば容易に想到することができたものである。

次に、相違点1-2について検討する。
引用発明1のジルコニア焼結体はY_(2)O_(3)5.2±0.5wt%,Al_(2)O_(3)0.1?0.4wt%、及び微量のNa_(2)O、SiO_(2)、Fe_(2)O_(3)、残部のZrO_(2)とからなるものであり、SiO_(2)の含有量は「微量」であって、Al_(2)O_(3)の含有量が「0.1?0.4」wt%と記載されていることから、文献1における「微量」とは0.1wt%未満であると解するのが自然である。ここで、上記相違点1-1の検討で示したように、引用発明1は天然歯と同様に半透明性及び色が段階的に変化するジルコニア焼結体を得るものと認められるから、半透明性及び色に影響を与える成分についてはその含有量が検討されているものであって、含有量を特定せずに「微量」とのみ記載されているSiO_(2)を含む成分はその存在により半透明性及び色に影響を与えないものである。そして、本件明細書の段落0042には、「ここに「実質的に含有しない」とは、本発明の性質、特性に影響を与えない範囲内という意義であり」と記載されており、また、令和2年2月25日付け意見書において、特許権者が「また、本発明の性質、特性とは、ジルコニア焼結体の透明度を低下させないことであります」と主張していることから、段落0042の記載における「本発明の性質、特性」とは、「ジルコニア焼結体の透明度」であると解される。すると、引用発明1におけるSiO_(2)の含有量は、上記のとおり半透明性及び色に影響を与えない程度であるため、引用発明1は「酸化ケイ素を実質的に含有しない」ものである。
これに対して、令和2年2月25日付け意見書において、特許権者は、乙第6号証?乙第9号証を提示して、低温劣化の抑制や機械的特性の向上の観点から、ジルコニア焼結体に微量のSiO_(2)を含有させるという技術常識があることを示し、文献1のAl_(2)O_(3)の含有量である0.1?0.4wt%との対比からSiO_(2)の含有量を解釈するのではなく、SiO_(2)が低温劣化の抑制や機械的特性の向上のための添加剤であり、乙第6号証及び乙第7号証におけるSiO_(2)の含有量が0.01?1.5重量%であることから、SiO_(2)の含有量は0.01?1.5重量%であると解釈すべき(第17頁第6行?第18行第33行)旨を主張している。
一方、文献1において「微量」含有しているNa_(2)O、SiO_(2)及びFe_(2)O_(3)は、例えば特表2002-506674号公報の段落0026に、「歯のプレパレーションに適合する橋義歯の骨格構造を正方晶系の安定化したZrO_(2)粉末で作製する。該ZrO_(2)粉末は5.1重量%のY_(2)O_(3)および微量の不純物すなわち合計0.05重量%未満のAl_(2)O_(3)、SiO_(2)、Fe_(2)O_(3)およびNa_(2)Oを含む。」(下線は当審が付した。)と記載されているように、ZrO_(2)(ジルコニア)が不純物として含有するものと合致している。そして、引用発明1においては、Al_(2)O_(3)を不純物としてよりも含有量が多い0.1?0.4wt%含有しており、さらに特許異議申立人1が甲第8号証として、又特許異議申立人2が甲第4号証として提示する「●歯科材料に適した透光感ジルコニア焼結体用粉末「Zpex」」(東ソー研究・技術報告、2012年)においては、ジルコニア焼結体にはアルミナ(Al_(2)O_(3))が添加されていることが記載されている(第57頁右欄「2.透光感を付与するための焼結体設計」の第7行参照のこと。)ことから、引用発明1のAl_(2)O_(3)は不純物ではなく添加剤として含有しているものと認められる。このように、特定の化合物を添加剤として含有する場合には、添加剤としての効果を得るために当該化合物は一定量添加されるものである。してみると、添加剤として含有する化合物についてはその含有量を特定することが一般的であり、含有量が特定されておらず、単に「微量」と記載されている引用発明1のSiO_(2)は多くても不純物程度の量として解されるものである。さらに、上記「●歯科材料に適した透光感ジルコニア焼結体用粉末「Zpex」」においては、SiO_(2)を0.02wt%未満含有するジルコニア粉末が製品化されていること(表1参照のこと。)が記載されており、当該SiO_(2)はその含有量及び上記で摘示した特表2002-506674号公報の段落0026の記載から不純物由来のものであると認められる。
以上の検討より、ジルコニア焼結体にはSiO_(2)が不純物として含有されるものであるため、ジルコニア焼結体にSiO_(2)が含まれている場合に、当該SiO_(2)が低温劣化の抑制や機械的特性の向上のための添加剤であると直ちに解することはできないから、特許権者が主張するようにジルコニア焼結体に低温劣化の抑制や機械的特性の向上のための添加剤として微量のSiO_(2)を含有させることが技術常識であると認めることはできず、上記特許権者の主張は採用しない。
さらに、段落0042の記載における「本発明の性質、特性」とは、「ジルコニア焼結体の透明度」であると解されるのは上記のとおりであるが、「実質的に含有しない」ことが「本発明の性質、特性に影響を特に与えない範囲内という意義」であるとしても、「影響を特に与えない範囲内」とはジルコニア焼結体の透明度の低下をどの程度まで許容するのかを理解することができないため、「酸化ケイ素を実質的に含有しない」本件発明1が、ジルコニア焼結体の透明度がどの程度低下する酸化ケイ素の含有量までを包含しているのかを当業者が把握できず、「酸化ケイ素を実質的に含有しない」ことを一義的に理解することができないから、本件発明1におけるSiO_(2)を含有させた場合に生じる透明度の低下という影響を参酌することはできない。
したがって、上記相違点1-2は実質的な相違点ではない。

仮に、SiO_(2)を添加剤として添加しているとしても、引用発明1の目的は、上記のとおり「一端から他端に向けて半透明性を徐々に低減させつつ淡い黄色を徐々に深くすることにより天然歯と同様に半透明性及び色が段階的に変化するジルコニア焼結体を得る」ことであり、SiO_(2)は天然歯と同程度の半透明性及び色が得られる範囲で添加されるものであるから、引用発明1におけるSiO_(2)の含有量は本件発明1と差異があるとまではいえない。

よって、本件発明1は、引用発明1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

b.引用発明2と対比した場合

本件発明1と引用発明2を対比する。
引用発明2の第1.層及び第5.層の色度(L^(*),a^(*),b^(*))は、本件発明1の第2の点の色度(L^(*),a^(*),b^(*))の値である(L2,a2,b2)、及び第1の点の色度(L^(*),a^(*),b^(*))の値である(L1,a1,b1)をそれぞれ満足し、さらにL1<L2であり、a1>a2であり、b1>b2の条件も満足するものである。そして、第1.層及び第5.層は焼結体の端部にあることから、第1.層及び第5.層はそれぞれ端部から全長の25%までの区間にあるものである。すると、引用発明2における第5.層及び第1.層は、本件発明1における「一端から他端に向かう第1方向に延在する直線上において、前記一端から全長の25%までの区間にある第1点」及び「前記他端から全長の25%までの区間にある第2点」に相当する。また、上記イ.(イ)(イd)で摘示した表8における第2.層?第4.層のFとGの混合割合から、一定の割合で第1.層から第5.層まで色が徐々に変化するものであるため、引用発明2の焼結体はその一端から他端に向けて、色度の増減傾向が変化しないものである。そして、引用発明2の歯科用セラミックスは焼結しているものであるから、本件発明1の「焼結体」に相当する。
したがって、本件発明1と引用発明2とを対比すると、「一端から他端に向かう第1方向に延在する直線上において、前記一端から全長の25%までの区間にある第1点のL^(*)a^(*)b^(*)表色系による色度(L^(*),a^(*),b^(*))を(L1,a1,b1)とし、前記他端から全長の25%までの区間にある第2点のL^(*)a^(*)b^(*)表色系による色度(L^(*),a^(*),b^(*))を(L2,a2,b2)としたとき、L1が58.0以上76.0以下であり、a1が-1.6以上7.6以下であり、b1が5.5以上26.3以下であり、L2が71.8以上84.2以下であり、a2が-2.1以上1.8以下であり、b2が1.9以上16.0以下であり、L1<L2であり、a1>a2であり、b1>b2であり、前記第1点から前記第2点に向かってL^(*)a^(*)b^(*)表色系による色度の増減傾向が変化ない焼結体」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点2-1
本件発明1の焼結体は「ジルコニア焼結体」であって、ZrO_(2)が主成分であると解されるのに対し、引用発明2の焼結体はZrSi_(2)が主成分である点。

相違点2-2
本件発明1におけるジルコニア焼結体が「酸化ケイ素を実質的に含有しない」のに対して、引用発明2の焼結体は酸化ケイ素を含有するか否かが不明である点。

始めに上記相違点2-1について検討する。
上記イ.(イ)(イc)で摘示したように、文献2にはセラミック粉末として特にイットリア安定化ZrO_(2)を用いることが記載されており、当該セラミック粉末は主成分であると解せるから、文献2にはZrO_(2)を主成分として歯科用セラミックスを製造することも記載されている。そして、ZrO_(2)を主成分とする歯科用セラミックは、文献1に引用発明1として記載されているように公知である。
すると、引用発明2においてZrO_(2)の成分量を増加させて、ZrO_(2)を主成分とする引用発明1の成分を有する焼結体とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
したがって、上記相違点は、当業者ならば容易に想到することができたものである。

次に、相違点2-2について検討する。
引用発明2において、焼結体を引用発明1の成分を有する焼結体とすることは、上記で検討したとおり当業者が容易に想到し得ることであって、引用発明1の焼結体が「酸化ケイ素を実質的に含有しない」ものであることは、上記a.で検討したとおりである。
これに対して、令和2年2月25日付け意見書において、特許権者は、着色顔料としてジルコン(ZrSiO_(4)(ZrO_(2)・SiO_(2)))を含有し、着色顔料を20重量%又は10重量%含有しているため、文献2は酸化ケイ素を実質的に含有しないというSiO_(2)の含有量ではないこと、及び文献2のTable6においては、焼成前の段階でZrSi_(2)を47.9重量%、48.0重量%含有するものであるから、焼成後においてはZrSi_(2)が酸化して多量のSiO_(2)を含有している旨を主張している。
しかしながら、引用発明2は、上記イ.(イ)において、
「上記(イd)で摘示したように、第1.層は顆粒Fのみを用いたものであり、第5.層は顆粒Gのみを用いたものであるため、第1.層の色度(L^(*),a^(*),b^(*))は焼結体F’と同じL^(*)値が80.54、a^(*)値が0.72、b^(*)値が14.94、第5.層の色度(L^(*),a^(*),b^(*))は焼結体G’と同じL^(*)値が69.88、a^(*)値が3.88、b^(*)値が22.68であるから、文献2には、2つの顆粒F及びGから作製されるものとして、
「自然歯の色を模倣した色のグラデーションを有する歯科用セラミックスであって、5種のジルコニアを含む混合粉体を重なり合うように金型で圧縮成形して焼結し、第1.層のL^(*)値を80.54、a^(*)値を0.72、b^(*)値を14.94、第5.層のL^(*)値を69.88、a^(*)値を3.88、b^(*)値を22.68とした歯科用セラミックス。」の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。」
と検討したとおり、文献2におけるTable6に記載されている2つの顆粒F及びGから作製される歯科用セラミックスを認定しており、当該顆粒Fにおいては、Table6及び段落0045に記載されているように着色顔料としてバデライトベースの着色顔料ZrO_(2)を用いている(なお、顆粒Gにおける着色顔料ZrO_(2)の含有量は「0.0」である。)ことから、着色顔料としてジルコンを用いることを前提としている特許権者の主張は採用しない。
そして、上記取消理由は、引用発明2における主成分のZrSi_(2)をZrO_(2)とし、引用発明1の成分を有する焼結体とすることが容易であると判断したものであって、引用発明1の成分がSiO_(2)を実質的に含有しないものであることは上記a.で検討したとおりであるから、焼結後においても多量のSiO_(2)が生成するとはいえず、特許権者の主張は採用しない。

よって、本件発明1は、引用発明2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(イ)本件発明2?10について

引用発明1、2は共に天然歯或いは自然歯に似た色調を有する歯科用セラミックスを得ることを目的とするものであるため、引用発明1、2の色の変化は本件発明2?10が特定する色度と同様の傾向であって、本件発明2?10と同一のL^(*)a^(*)b^(*)表色系の色度を有するジルコニアセラミックスを得ることは、当業者にとって適宜なし得る設計的事項の範囲内のことに過ぎない。
したがって、本件発明2?10は、引用発明1又は引用発明2に基いて、当業者ならば容易に想到することができたものである。

(ウ)本件発明11?14について

上記の引用発明1、2は、歯科用セラミックスの機械特性や構造を具体的に特定するものではない。しかしながら、本件発明11?14のジルコニア焼結体の製造方法は、本件明細書の段落0086?0093を参照すると、混合粉体の積層、冷間静水圧プレス、800?1200℃での仮焼、1400?1600℃での本焼成を条件とするものであって、文献1、2に記載された引用発明1、2の製造方法と比較しても、特別なものとはいえない。
そうすると、本件発明11?14は、引用発明1、2を常法により製造すれば得られる機械特性や構造を特定しているものと解されるから、上記の(ア)a.及びb.に示したと同様の理由により、引用発明1又は引用発明2に基いて、当業者が容易に想到し得るものである。
なお、本件発明11?14の機械特性や構造がジルコニア焼結体において特別なものではないことは、上記イ.(ウ)で摘示した文献3の請求項4、10の記載事項からも理解される。

(エ)本件発明15、16について

歯科用セラミックスの製造方法として、1400?1600℃で焼結すること、又は800?1200℃で仮焼することは、文献1(上記イ.(ア)(アb)で摘示した段落0026、0027参照のこと。)、文献2(上記イ.(イ)(イd)で摘示した段落0046、0047参照のこと。)に記載された引用発明1、2の製造方法と比較しても、特別なものとはいえない。
そうすると、本件発明15、16の組成物の使用方法は、引用発明1、2を常法により製造する際の組成物の使用方法であるから、上記の(ア)a.及びb.に示したと同様の理由により、引用発明1又は引用発明2に基いて、当業者が容易に想到し得るものである。

(オ)本件発明17、18について

歯科用補綴物をCAD/CAMシステム等を利用した切削加工により得ることは、例えば、文献1の段落0007に記載されるように一般的なことであり、引用発明1又は引用発明2において本件発明17、18と同様の切削加工を施すことは、当業者が容易に想到し得ることである。

エ.まとめ

本件発明1?18に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(2)理由1(明確性)について

ア.令和2年2月25日付け意見書における特許権者の主張について

本件訂正においては、本件発明1に係る請求項1に対して、L^(*)a^(*)b^(*)表色系による色度を測定する際の背景色を特定する訂正はなされていない。そこで、令和2年2月25日付け意見書における特許権者の主張について検討する。
上記意見書における特許権者の主張は、要するに、乙第1号証?乙第5号証は白色背景でL^(*)a^(*)b^(*)表色系による色度を測定していることから、L^(*)a^(*)b^(*)表色系による色度を測定する際の背景色が白色であることが本件特許の出願時の技術常識であること、特許異議申立人3が提示した甲第5号証(「審美修復におけるレジンセメントの色調の研究 ?試験片の厚さが色調に及ぼす影響?」(顎咬合誌)、2010年)に背景色が黒色より白色の方が明確な傾向を示すことが記載されており、外観の評価がしにくくなる黒を背景色として選択する理由が存在しないことから、特段の事情が示されていない場合には白色を背景色として選択することが技術常識であることを示したうえで、本件発明1におけるL^(*)a^(*)b^(*)表色系による色度を測定する際の背景色は、当該技術常識に基づいて白背景であるというものである。

イ.上記特許権者の主張に対する特許異議申立人1?3の意見について

これに対して、特許異議申立人1は令和2年5月1日付けで、特許異議申立人3は令和2年4月24日付けで、それぞれ意見書を提出し、上記特許権者の主張に対して意見を述べており、特許異議申立人1及び3の意見は以下のとおりである。
なお、特許異議申立人2は、令和2年4月24日付けで意見書を提出しているが、理由1に対しては特段の意見を主張していない。

(i)特許権者は、背景色が白色の文献のみを選択して、背景色が白色であることを主張しているものであり、特許異議申立人1が提示した甲第5号証(「歯冠用硬質レジンの色調再現性について 第2報 築盛方法の検討」(日本歯科技工学会雑誌)、2001年)において背景色として黒色が使用されているように、色を測定する際の背景は黒色の場合もあることから、L^(*)a^(*)b^(*)表色系による色度を測定する際の背景色が白色であることは技術常識ではない。(特許異議申立人1による意見書の第3頁第21行?第29行)

(ii)特許異議申立人3が提示した甲第5号証(「審美修復におけるレジンセメントの色調の研究 ?試験片の厚さが色調に及ぼす影響?」(顎咬合誌)、2010年)において、背景が白色の方が明確な傾向を示すことをもって、特定の試験片以外の試験片の測定にあたって常に白背景が良いとはいえない。常に白背景の方が良いとはいえないからこそ、特許異議申立人1が提示した甲第5号証(「歯冠用硬質レジンの色調再現性について 第2報 築盛方法の検討」(日本歯科技工学会雑誌)、2001年)において黒背景での測定も行われている。(特許異議申立人1による意見書の第4頁第4行?第8行)

(iii)乙第1号証?乙第5号証において白を背景色として選択しているのは、白を背景色として選択する特段の事情が存在するからと解釈でき、特許異議申立人3が提示した甲第5号証(「審美修復におけるレジンセメントの色調の研究 ?試験片の厚さが色調に及ぼす影響?」(顎咬合誌)、2010年)の記載をもって、白を背景色としてL^(*)a^(*)b^(*)表色系による色度を測定することが技術常識とは認められない。(特許異議申立人3による意見書の第4頁第1行?第7行)

ウ.当審の判断

乙第1号証?乙第5号証には、特許権者の主張するように、白を背景色としてL^(*)a^(*)b^(*)表色系による色度を測定することが記載されている。一方、特許異議申立人1が提示した甲第5号証(「歯冠用硬質レジンの色調再現性について 第2報 築盛方法の検討」(日本歯科技工学会雑誌)、2001年)には、黒を背景色としてL^(*)a^(*)b^(*)表色系による色度を測定することが記載されていることから、L^(*)a^(*)b^(*)表色系による色度を測定する際の背景色として白色又は黒色が選択されることは理解できるが、本件発明の出願時における技術常識が白色であるのか、黒色であるのかまでは判断できない。
ここで、特開2009-22433号公報の段落0006?0008には、以下の記載がある(下線は当審が付した。)。

「【0006】
しかしながら、歯科充填材料自体は半透明であるため、背景色によって、見え方が異なる。例えば、白色の練和紙上で確認した色調と口腔内という暗い環境における色調とでは、見え方が大きく異なる。このため、白色の練和紙上で確認した色調が口腔内で使用した際の色調を必ずしも反映しているとは言えない。
【0007】
歯科充填材料には色味、透明性を調整した色調が用意されている。そして、歯科充填材料を用いた修復には様々な症例があるため、各修復部位で歯牙の色と調和した的確な色調選択が求められる。例を挙げると、臼歯部を修復(1級窩洞、2級窩洞)する場合であれば、歯科充填材料は、前記白色練和紙上で確認される色調ではなく、口腔内の暗色が反映された状態で、該修復部位の歯牙と調和する色調のものを選択することが要される。また、前歯部においても、口腔内に抜けた部位(3級窩洞、4級窩洞)を修復する場合は、上記臼歯部と同様に、歯科充填材料は、背景に広がる口腔内の暗色を帯びた色調になるため、このような状態で、修復部位の歯牙と調和する色調のものを選択することが要される。他方で、前歯部を修復する場合であっても、これが、裏打ちのある前壁部に形成された窩洞(舌側面側まで貫通していない窩洞)である場合には、該歯科充填材料が帯びる暗さは弱められるため、グレーを反映した状態で、修復部位の歯牙と調和する色調のものを選択することが要される。さらには、歯頸部(歯肉に近接した部位)を修復する場合であれば、該歯科充填材料は、単に口腔内の暗さだけではなく、歯肉のピンクの色調も反映された状態で修復部位の歯牙と調和する色調のものを選択することが要されるようになる。
【0008】
このように、従来より、口腔内で視認される状態を想定して色調を選択しなければならない。歯科充填材料において、係る色調の選択を誤ると、歯牙と充填材料との色調が合わず、歯科充填材料の充填、付形、または研磨等の作業をやり直さなければならないという問題が生じる。したがって、歯科充填材料において、前記白色練和紙上での観察と、これが口腔内の治療箇所に充填された場合の色調の調和性の考察とを、効率的に実施することが望まれていた。」

上記で適示したように、特に、光が透過しうる歯科材料の場合には、修復部位により色調を確認するために適する環境及び背景色が異なるものであることが当業者には周知であるといえる。

さらに、特開2003-192518号公報の段落0021には、以下の記載がある(下線は当審が付した。)。

「【0021】上記L^(*)、a^(*)およびb^(*)の測定は、試料厚さ7mmで行う。本発明の歯科用結晶性ガラスは通常透明?半透明であり、表面反射に加えて、透過光の反射・散乱がL^(*)、a^(*)およびb^(*)の測定値に大きく影響を与えるため一定の厚さで測定する必要がある。試料厚さが薄い場合には背景色の影響をつよく受けるため、切端部や漂白歯の色調を良好に再現できないような色調のガラスでも前記式(1)および(2)を満たす場合がある。また、試料厚さが厚い場合には吸収が大きすぎて一般に測定が困難である。」

上記で適示したように、光が透過しうる歯科材料の場合には、透過光が測定値に与える影響が大きく、測定値は背景色の影響を強く受けるものであって、透明度が高くなるほど透過光量が多くなることから、透明度が低い材料より透明度が高い材料の方が、背景色が与える影響はより大きくなることは、当業者に自明であるといえる。

一方、本件明細書の段落0015に「本発明のジルコニア焼結体によれば、天然歯のような外観を実現できることができる。」と記載されており、令和2年2月25日付け意見書の第15頁第9行?第11行に「本件は、天然歯のような外観(透明がかった白ないし黄)を実現することを目的としているので、外観の評価がしにくくなる黒を背景色として測定すべき理由が存在しません。」と記載されていることから、本件発明の目的は、「天然歯のような外観(透明がかった白ないし黄)を実現すること」であると認められるところ、上記特開2009-22433号公報の段落0006に摘示されているように、半透明の歯科材料は白色の練和紙上で確認した色調と口腔内で使用した際の色調とでは見え方が大きく異なるものであるから、本件発明においても口腔内で使用したときの色調を天然歯の場合と同じにすることを目的としていると認められる。
そして、上記特開2009-22433号公報の段落0007、0008に開示されているように、歯科材料を使用する部位により見え方に影響する背景の色が変化するものであるから、色調を確認するための背景は使用する部位に応じて選択する必要があり、白を背景色としてL^(*)a^(*)b^(*)表色系による色度を測定した結果が、実際に口腔内で使用したときに天然歯と同じ色調を再現しているとは認められない。
したがって、「天然歯のような外観(透明がかった白ないし黄)を実現する」ために色調を測定する際の背景色を白色とすることが、本件出願時における技術常識であったとは認められないし、まして本件発明は、本件明細書段落0042より、特に透明度を低下させないようにしたものであって、上記特開2003-192518号公報の段落0021の開示から自明なように、透明度が高い材料ほど背景色の影響は大きくなるものであるから、特許権者の上記主張は採用しない。
よって、上記理由1(明確性)は解消しておらず、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

第5.むすび

以上のとおり、請求項1?18に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、また、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第2号及び第4号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端から他端に向かう第1方向に延在する直線上において、
前記一端から全長の25%までの区間にある第1点のL^(*)a^(*)b^(*)表色系による色度(L^(*),a^(*),b^(*))を(L1,a1,b1)とし、
前記他端から全長の25%までの区間にある第2点のL^(*)a^(*)b^(*)表色系による色度(L^(*),a^(*),b^(*))を(L2,a2,b2)としたとき、
L1が58.0以上76.0以下であり、
a1が-1.6以上7.6以下であり、
b1が5.5以上26.3以下であり、
L2が71.8以上84.2以下であり、
a2が-2.1以上1.8以下であり、
b2が1.9以上16.0以下であり、
L1<L2であり、
a1>a2であり、
b1>b2であり、
前記第1点から前記第2点に向かってL^(*)a^(*)b^(*)表色系による色度の増減傾向が変化せず、
酸化ケイ素を実質的に含有しないことを特徴とするジルコニア焼結体。
【請求項2】
前記第1点と前記第2点とを結ぶ直線上において、
前記第1点から前記第2点に向かってL^(*)値が1以上減少する区間が存在せず、
前記第1点から前記第2点に向かってa^(*)値が1以上増加する区間が存在せず、
前記第1点から前記第2点に向かってb^(*)値が1以上増加する区間が存在しない
ことを特徴とする請求項1に記載のジルコニア焼結体。
【請求項3】
前記第1点から前記第2点を結ぶ直線上において、前記第1点と前記第2点の間にある第3点のL^(*)a^(*)b^(*)表色系による色度(L^(*),a^(*),b^(*))を(L3,a3,b3)としたとき、
L3が65.9以上80.5以下であり、
a3が-1.8以上5.5以下であり、
b3が4.8以上20.7以下であり、
L1<L3<L2であり、
a1>a3>a2であり、
b1>b3>b2である、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のジルコニア焼結体。
【請求項4】
前記第1点から前記第2点を結ぶ直線上において、前記第3点と前記第2点の間にある第4点のL^(*)a^(*)b^(*)表色系による色度(L^(*),a^(*),b^(*))を(L4,a4,b4)としたとき、
L4が69.1以上82.3以下であり、
a4が-2.1以上1.4以下であり、
b4が3.5以上16.2以下であり、
L1<L3<L4<L2であり、
a1>a3>a4>a2であり、
b1>b3>b4>b2である、
ことを特徴とする請求項3に記載のジルコニア焼結体。
【請求項5】
前記第3点は前記一端から全長の45%の距離にあり、
前記第4点は前記一端から全長の55%の距離にある、
ことを特徴とする請求項4に記載のジルコニア焼結体。
【請求項6】
前記第1点、前記第3点、前記第4点及び前記第2点において、
隣接する2点におけるL^(*)値の差をΔL^(*)とし、
隣接する2点におけるa^(*)値の差をΔa^(*)とし、
隣接する2点におけるb^(*)値の差をΔb^(*)とし、
以下の式1よりΔE^(*)abを算出した場合、
前記第1点と前記第3点間のΔE^(*)abは3.7以上14.3以下であり、
前記第3点と前記第4点間のΔE^(*)abは1.8以上10.5以下であり、
前記第4点と前記第2点間のΔE^(*)abは1.0以上4.8以下である、
ことを特徴とする請求項4又は5に記載のジルコニア焼結体。
[式1]

【請求項7】
前記第1点から前記第2点を結ぶ直線上において、前記第1点と前記第2点の間にある第3点のL^(*)a^(*)b^(*)表色系による色度(L^(*),a^(*),b^(*))を(L3,a3,b3)としたとき、
L3が69.1以上82.3以下であり、
a3が-2.1以上1.4以下であり、
b3が3.5以上16.2以下であり、
L1<L3<L2であり、
a1>a3>a2であり、
b1>b3>b2である、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のジルコニア焼結体。
【請求項8】
前記一端から前記他端までの距離は5mm?18mmであることを特徴とする請求項1?7のいずれか一項に記載のジルコニア焼結体。
【請求項9】
前記第1方向と直交する第2方向に沿って色が変化しないことを特徴とする請求項1?8のいずれか一項に記載のジルコニア焼結体。
【請求項10】
前記第2方向に延在する直線上の2点において、
前記2点間のL^(*)値の差をΔL^(*)とし、
前記2点間のa^(*)値の差をΔa^(*)とし、
前記2点間のb^(*)値の差をΔb^(*)とし、
以下の式2よりΔE^(*)abを算出した場合、
ΔE^(*)abが1未満であることを特徴とする請求項9に記載のジルコニア焼結体。
[式2]

【請求項11】
JISR1601に準拠して測定した曲げ強度が1000MPa以上であることを特徴とする請求項1?10のいずれか一項に記載のジルコニア焼結体。
【請求項12】
JISR1607に準拠して測定した破壊靭性が3.5MPa・m1/2以上であることを特徴とする請求項1?11のいずれか一項に記載のジルコニア焼結体。
【請求項13】
180℃、1MPaで5時間水熱処理試験を施した後のジルコニア焼結体のX線回折パターンにおいて、2θが30°付近の正方晶由来の[111]ピークが生ずる位置付近に存在するピークの高さに対する、2θが28°付近の単斜晶由来の[11-1]ピークが生ずる位置付近に存在するピークの高さの比が1以下であることを特徴とする請求項1?12のいずれか一項に記載のジルコニア焼結体。
【請求項14】
1400℃?1600℃で焼結することにより請求項1?13のいずれか一項に記載のジルコニア焼結体となることを特徴とする、ジルコニア焼結体を製造するための仮焼体。
【請求項15】
1400℃?1600℃で焼結して請求項1?13のいずれか一項に記載のジルコニア焼結体を製造するのに用いることを特徴とする、ジルコニア焼結体を製造するための組成物の使用方法。
【請求項16】
800℃?1200℃で焼成して請求項14に記載の仮焼体を製造するのに用いることを特徴とする、ジルコニア焼結体を製造するための組成物の使用方法。
【請求項17】
請求項14に記載の仮焼体を切削加工した後に焼結した状態であることを特徴とする歯科用補綴物。
【請求項18】
請求項14に記載の仮焼体を、CAD/CAMシステムを用いて切削加工した後に焼結して請求項17に記載の歯科用補綴物を製造することを特徴とする歯科用補綴物の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-06-30 
出願番号 特願2013-97058(P2013-97058)
審決分類 P 1 651・ 537- ZAA (C04B)
P 1 651・ 121- ZAA (C04B)
P 1 651・ 853- ZAA (C04B)
P 1 651・ 851- ZAA (C04B)
最終処分 取消  
前審関与審査官 粟野 正明末松 佳記原 和秀増山 淳子  
特許庁審判長 菊地 則義
特許庁審判官 川村 裕二
後藤 政博
登録日 2018-06-15 
登録番号 特許第6352593号(P6352593)
権利者 クラレノリタケデンタル株式会社
発明の名称 ジルコニア焼結体、ジルコニア組成物及びジルコニア仮焼体、並びに歯科用補綴物  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 吉住 和之  
代理人 清水 義憲  
代理人 加藤 朝道  
代理人 加藤 朝道  
代理人 酒巻 順一郎  
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