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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C12G
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C12G
審判 全部申し立て 2項進歩性  C12G
管理番号 1366992
異議申立番号 異議2020-700431  
総通号数 251 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-11-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-06-18 
確定日 2020-10-09 
異議申立件数
事件の表示 特許第6622897号発明「ビールテイスト飲料、およびビールテイスト飲料の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6622897号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6622897号の請求項1?10に係る特許についての出願は、平成30年12月27日に出願され、令和元年11月29日にその特許権の設定登録がされ、同年12月18日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許について、令和2年6月18日に特許異議申立人猪狩充(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
本件の特許請求の範囲の請求項1?10に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明10」という。まとめて「本件発明」ということもある。)は、その特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
なお、以下において、隅付き括弧は「[ ]」と表示した。
「[請求項1]
酒石酸を含み、イソα酸の含有量が0.1質量ppm以下、全窒素量が8?38.9mg/100ml、総ポリフェノール量が10?60質量ppm、および、酒石酸の濃度が480mg/L以下である、ビールテイスト飲料。
[請求項2]
全窒素量が10?38.9mg/100ml、総ポリフェノール量が12?50質量ppm、および、酒石酸の濃度が100?400mg/Lである、請求項1に記載のビールテイスト飲料。
[請求項3]
全窒素量(mg/100ml)/総ポリフェノール量(質量ppm)が0.3?4.5である、請求項1または2に記載のビールテイスト飲料。
[請求項4]
窒素またはポリフェノールの少なくとも一部が麦芽由来である、請求項1?3のいずれかに記載のビールテイスト飲料。
[請求項5]
請求項1?4のいずれかに記載のビールテイスト飲料を製造する方法であって、
水および麦芽を含む原料に、酵母を添加して、アルコール発酵を行う工程を有する、ビールテイスト飲料の製造方法。
[請求項6]
ホップを配合する工程を有しない、請求項5に記載のビールテイスト飲料の製造方法。
[請求項7]
麦芽比率が5?20質量%である、請求項5または6に記載のビールテイスト飲料の製造方法。
[請求項8]
さらに、酵母が資化可能な原料からなる群から選ばれる1種以上を配合する工程を有する、請求項5?7のいずれかに記載のビールテイスト飲料の製造方法。
[請求項9]
さらに、穀物に由来するスピリッツを添加する工程を有する、請求項5?8のいずれかに記載のビールテイスト飲料の製造方法。
[請求項10]
さらに、酒石酸を含有する原料を添加する工程を有する、請求項5?9のいずれかに記載のビールテイスト飲料の製造方法。」

第3 特許異議申立理由の概要
申立人は、特許異議申立書において、概略、以下の特許異議申立理由を主張している。
理由1(進歩性)
理由1-1:進歩性、甲第1号証を主引用例とする場合
本件特許の請求項1?10に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第1号証及び甲第2?13号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法第29条の規定に違反してされたものである。
理由1-2:進歩性、甲第4号証を主引用例とする場合
本件特許の請求項1?10に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第4号証及び甲第3、9?15号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法第29条の規定に違反してされたものである。
理由1-3:進歩性、甲第16号証を主引用例とする場合
本件特許の請求項1?10に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第16号証及び甲第2?14号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法第29条の規定に違反してされたものである。
理由1-4:進歩性、甲第17号証を主引用例とする場合
本件特許の請求項1?6、8?10に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第17号証及び甲第2?8、15号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法第29条の規定に違反してされたものである。
理由1-5:進歩性、甲第14号証を主引用例とする場合
本件特許の請求項1?10に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第14号証及び甲第2?13号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法第29条の規定に違反してされたものである。

<証拠方法>
甲第1号証:特開2017-6077号公報
甲第2号証:財団法人日本醸造協会編集発行,「醸造物の成分」,平成11年12月10日,p.196?201
甲第3号証:近藤平人,"ビール発酵と発泡酒発酵における酵母の応答と香味形成",日本醸造協会誌,財団法人日本醸造協会,2005年,vol.100,No.11,p.787?795
甲第4号証:特開2004-290024号公報
甲第5号証:特開2013-201976号公報
甲第6号証:吉田重厚,"第1章 ビールの一般成分",日本釀造協會雜誌,財団法人日本釀造協會,1976年,vol.71,No.7,p.505?510,インターネット
甲第7号証:財団法人日本醸造協会編集発行,「醸造物の成分」,平成11年12月10日,p.226?235
甲第8号証:菅野智栄,"ミニ特集<発酵> 水飴を副原料に使用したビール",技術士,公益社団法人日本技術士会,1997年7月,vol.356,p.4?6,文献情報入手先
甲第9号証:特開2014-168471号公報
甲第10号証:特開2015-107107号公報
甲第11号証:特開2017-93332号公報
甲第12号証:特開2012-239460号公報
甲第13号証:特開2017-63724号公報
甲第14号証:特開2014-128251号公報
甲第15号証:特開2006-314333号公報
甲第16号証:特開2018-110589号公報
甲第17号証:特開2018-29540号公報

以下、「甲第1号証」?「甲第17号証」をそれぞれ「甲1」?「甲17」という。まとめて、「甲号証」ということもある。

理由2(実施可能要件)
本件特許は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、請求項1?10に係る発明についての特許は同法同条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(1)全窒素量、総ポリフェノール量について
(2)実施例1?4の調製方法について

理由3(サポート要件)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、請求項1?10に係る発明についての特許は同法同条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(1)アルコール度数について
(2)麦芽比率について
(3)麦芽以外の原料について

第4 特許異議申立理由についての判断
1.理由1(進歩性)について
(1)甲号証及びその記載事項
(i)甲1には、以下の事項が記載されている。
(1-1)「[請求項1]
0.3?5ppmのクワシンおよび/または0.5?5ppmのキニーネを含んでなる、ビールテイスト飲料。
・・・
[請求項4]
乳酸、クエン酸、リン酸、リンゴ酸、コハク酸、グルコン酸、フィチン酸およびそれらの塩からなる群から選択される少なくとも一種の物質を含んでなる、請求項1?3のいずれか一項に記載のビールテイスト飲料。
[請求項5]
ホップ由来のイソα酸を実質的に含有しない、請求項1?4のいずれか一項に記載のビールテイスト飲料。
[請求項6]
アルコール飲料である、請求項1?5のいずれか一項に記載のビールテイスト飲料。
[請求項7]
アルコール成分として、原料アルコール、スピリッツ、ウォッカ、ラム、テキーラ、ジンおよび焼酎からなる群から選択される少なくとも一種の蒸留酒を含んでなる、請求項6に記載のビールテイスト飲料。
[請求項8]
ビールらしい苦味および後キレを有するビールテイスト飲料の製造方法であって、0.3?5ppmのクワシンおよび/または0.5?5ppmのキニーネを添加する工程を含んでなる、製造方法。」

(1-2)「[背景技術]
[0002]
ビールテイスト飲料は、ビール様の風味をもつ飲料を指し、通常のビールを製造した場合、すなわち、酵母等による発酵に基づいてビールを製造した場合に得られるビール特有の味わいや香りを呈するものである。ビールテイスト飲料については、ビールに限りなく近い味わいが求められており、ビールテイスト飲料を開発するにあたり、ビール本来の苦味や後キレをビールテイスト飲料で再現することが課題となっている。また、ビールテイスト飲料の処方設計において、ホップ使用量を低減した場合、またはアルコール成分を別途添加する等により全部または一部の発酵工程を省略した場合、さらには、プリン体量の低減化を目的に麦芽やホップの使用を省略した場合に、ビールで感じられる苦味や後キレが損なわれてしまうということが問題となっている。
・・・
[発明の概要]
[0006]
本発明の目的は、ビールらしい苦味と後キレを有するビールテイスト飲料、およびその製造方法を提供することにある。
[0007]
本発明者らは、ホップと同様のビールらしい苦味を呈する素材を見出すとともに、これらの素材を添加したビールテイスト飲料は、苦味と後キレのバランスがとれた、ホップを思わせるビールらしい味わいを発揮することを見出した。本発明はこれらの知見に基づくものである。」

(1-3)「[0012]
ビールテイスト飲料
本発明によれば、ビールテイスト飲料の製造過程において、クワシンおよび/またはキニーネを添加することにより、ビールらしい苦味を付与することが可能となる。
[0013]
クワシン(quassin)は、ニガキから抽出された白色で苦味を呈する結晶性の化合物(crystalline substance)であり、化合物名は、2,12-ジメトキシピクレイサ-2,12-ジエン-1,11,16-トリオン(2,12-dimethoxypicrasa-2,12-diene-1,11,16-trione)である。
・・・
[0017]
キニーネ(quinine)は、キナ樹皮から抽出されたアルカロイドであり、化合物名は、6-メトキシキノリン-4-イル)[(2S,4S,5S)-5-ビニル-1-アザ-ビシクロ[2.2.2]オクト-2-イル]-(R)-メタノール((6-Methoxyquinolin-4-yl)[(2S,4S,5R)-5-vinyl-1-aza-bicyclo[2.2.2]oct-2-yl]-(R)-methanol)である。」

(1-4)「[0024]
本発明のビールテイスト飲料のpHは、好ましくは乳酸、クエン酸、リン酸、リンゴ酸、コハク酸、グルコン酸、フィチン酸等の酸味料、またはこれらの組合せにより、調整することができる。
[0025]
本発明の好ましい実施態様によれば、本発明のビールテイスト飲料は、ホップ由来のイソα酸を実質的に含有しないビールテイスト飲料である。この実施態様でいう「ホップ由来のイソα酸を実質的に含有しない」とは、ビールテイスト飲料の原料としてホップを実質的に使用せず、その結果として、ホップに由来するイソα酸を全く含まないか、仮に含んでいたとしても苦味として認識し得ない閾値未満の濃度であることをいう。・・・
・・・
[0027]
ビールテイスト飲料の製造方法
本発明のビールテイスト飲料は、通常のビールテイスト飲料の製造方法の工程中に、上述のクワシンおよび/またはキニーネを添加する工程を加えることにより製造することができる。本発明の好ましい実施態様では、本発明のビールテイスト飲料の製造には、ホップは原料として使用されない。
・・・
[0029]
また、上述の製造方法の濾過工程前後に、必要に応じてアルコール成分(例えば、蒸留酒)、酸味料、香料および甘味料の1または2以上を添加する工程を追加することもできる。好ましくは、麦芽使用率の低い醸造原料を用いたいわゆる発泡酒となる熟成液を上記方法に従って調製し、これに、蒸留酒、香料、酸味料を添加混合し、濾過、充填を行ってビールテイスト飲料を製造することができる。」

(1-5)「[実施例]
・・・
[0037]
実施例1:各苦味素材の単独の評価
(1)サンプルの調製
ビールテイスト飲料(発泡酒に大麦スピリッツを混合したものであって、香料、酸味料(85%リン酸(燐化学工業社製)、50%乳酸(ピューラック社製))を含む。最終アルコール濃度は2.6v/v%である。)生地に、各苦味素材を苦味が判断できる程度の量を秤量し添加し混合してサンプルを調製した。苦味素材の陽性対照試験として、異性化ホップエキスを使用した。こうして、試験区1?14までの各サンプルを得た。
[0038]
(2)官能評価
官能評価の評価項目として、ビールらしい苦味とビールらしい後キレの2つの項目を設定した。以下に、それぞれの評価項目の具体的な評価基準を示す。
a.ビールらしい苦味:ビールらしい爽快な苦味が感じられる風味。1:全く感じられない。2:あまり感じられない。3:感じられる。4:やや強く感じられる。5:十分強く感じられる。1?5の10段階評価(0.5刻み)を行う。
b.ビールらしい後キレ:適当な酸味があり、嫌な渋味、雑味が少ないためビールらしい後キレが感じられる風味。1:全く感じられない。2:あまり感じられない。3:感じられる。4:やや強く感じられる。5:十分強く感じられる。1?5の10段階評価(0.5刻み)を行う。
c.総合評価:苦味と後キレのバランスがとれた、ホップを思わせるビールらしい味わい。1:感じられない。2:感じられる。3:やや強く感じられる。4:十分強く感じられる。1?4の4段階評価(1.0刻み)を行う。
[0039]
官能評価にあたっては、陽性対照試験の異性化ホップエキスを添加したサンプルの評価結果を、評価標準値として以下の(3)結果における表1の通り、ビールらしい苦味:5点、ビールらしい後キレ:5点、総合評価:4点と設定し、その他の各サンプルの評価は、この評価標準値と相対的な評価スコアをつける形で評価を行った。官能評価は、訓練された5名のパネルによって実施した。各パネルの評価スコアを平均した値を表1-1および表1-2に示す。
[0040]
(3)評価結果
上記の官能評価結果を、各苦味素材の種類とともに、表1-1および表1-2に示す。ビールらしい苦味とビールらしい後キレについては、平均3.0以上を効果があると判断した。また、総合評価は、平均2.5以上を効果があると判断した。
[0041]
[表1]

[0042]
[表2]

[0043]
ビールテイストアルコール飲料に苦味を付与する素材14種類を用いて、単独でビールテイスト飲料で感じる苦味、後キレが感じられるか評価した結果、クワシン(試験区2)、キニーネ(試験区3)をそれぞれ添加したときにビールらしい苦味、後キレが感じられた。一方、その他の素材を単独で添加したサンプルは、特に後キレが弱く、ビールらしい味わいとは異なる評価であった。」

(ii)甲2には、以下の事項が記載されている。
(2-1)「1 窒素化合物
(1)窒素化合物とその由来
イ 含有量
ビールの全固形分の約5%が窒素化合物である。ビールの種類によって異なるが,その範囲は約250mg/lから1,000mg/lに及ぶ^(1))。日本の主なビールの全窒素含量は,副原料使用ビールで450?600mg/l,全麦芽ビールでは700?900mg/lの範囲である。・・・
ロ 由来と生成経路
ビール中の窒素化合物の由来は,原料の麦芽や副原料と発酵過程での生成がほとんどである。特にタンパク質・ペプチド・アミノ酸は,量的にはほとんどすべて大麦のタンパク質に由来する。ホップも粗タンパク13?24%を含み,その大部分は可溶性であるが,もともとホップの使用量は麦芽・副原料の1/100にすぎないから量的には問題とするに足りない^(3))。
ハ 意義
ビール中の窒素化合物は古くからその存在が知られるとともに,その香味,泡の安定性,色,混濁形成,酵母の栄養素,生物学的安定性等における役割についても知見としてはほぼ確立していると言える。」(p.196左欄5?26行)

(2-2)「6 アミン類
(1)アミン類とその由来
イ 含有量
・・・
ロ 由来と生成経路^(3))
ホップと麦芽がビール中のアミン含量に寄与するが,ホップの影響は小さい。しかし,ヒスタミンは専らホップに由来する。」(p.200右欄1行?p.201左欄1行)

(iii)甲3には、以下の事項が記載されている。
(3-1)「酒税法上,ビールとは,麦芽,ホップ,及び水を原料として発酵させたもの,または,麦芽,ホップ,水及び米その他の政令で定める物品を原料として発酵させたもので,その原料中当該政令で定める物品の合計が麦芽の重量の十分の五を越えないものに限る,と厳しく制限されている。一方発泡酒は,ビールと同じ原料を使用するも,全原料中の麦芽の使用比率が67%未満であるか,ビールの原材料として指定された物品以外を使用した場合のものとなる。・・・
2.ビールと発泡酒の麦汁
・・・異なるのは、麦芽から麦汁中に抽出されるアミノ酸を中心とした窒素源(N源),脂肪酸,ミネラル,ビタミン等といった類のものであり,これらは麦芽比率が25%になるとオールモルトの場合と比較して1/3?1/4となる・・・。」(p.787頁左欄17行?p.788左欄3行)

(iv)甲4には、以下の事項が記載されている。
(4-1)「[請求項1]
大麦リポキシゲナーゼ-1遺伝子第5イントロンのスプライシング供与部位(5’-GT-3’)のグアニンが他の塩基に変異していることを特徴とする大麦リポキシゲナーゼ-1変異遺伝子。
[請求項2]
前記他の塩基がアデニンであることを特徴とする請求項1に記載の大麦リポキシゲナーゼ-1変異遺伝子。
・・・
[請求項7]
請求項1または2に記載の大麦リポキシゲナーゼ-1変異遺伝子を持つ大麦のみに由来する種子、麦芽、モルトエキス、大麦分解物または大麦加工物であることを特徴とする麦芽アルコール飲料用原料。
[請求項8]
請求項3?6のうちのいずれか1項に記載の選抜方法により選抜された大麦のみに由来する種子、麦芽、モルトエキス、大麦分解物または大麦加工物であることを特徴とする麦芽アルコール飲料用原料。
[請求項9]
請求項7または8に記載の麦芽アルコール飲料用原料を用いることを特徴とする麦芽アルコール飲料の製造方法。」

(4-2)「[0002]
[従来の技術]
麦芽に含まれる酵素である大麦リポキシゲナーゼ-1(以下、「LOX-1」という)は、麦芽アルコール飲料を製造する際の仕込工程において麦芽由来のリノール酸を酸化し9-ヒドロペルオキシオクタデカジエン酸を生成する(非特許文献1)。そして、9-ヒドロペルオキシオクタデカジエン酸はさらにペルオキシゲナーゼ様活性によりトリヒドロキシオクタデセン酸(THOD)へと変換される(非特許文献2)。このTHODは、ビールの泡もちを低下させ、また収斂味を与えたり、切れを悪くすることが知られ(非特許文献3、4)、麦芽アルコール飲料の品質の低下を招くことが知られている。また、9-ヒドロペルオキシオクタデカジエン酸は、老化した麦芽アルコール飲料のカードボード臭の原因物質とされるトランス-2-ノネナールにも変換されることが知られている(非特許文献5)。
・・・
[0013]
[発明が解決しようとする課題]
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、遺伝子操作することなく、香味耐久性や泡持ちを改善された麦芽アルコール飲料を製造するために有用な、LOX-1変異遺伝子と、LOX-1欠失大麦の選抜方法と、選抜によって得られた大麦に由来する麦芽アルコール飲料用原料と、前記麦芽アルコール飲料用原料を用いた麦芽アルコール飲料の製造方法と、を提供することを目的とする。」

(4-3)「[0055]
前記麦芽は仕込み用水に添加した後、混合される。前記副原料を添加する場合には、ここで混合すればよい。糖類の場合は、後述の煮沸の前に添加してもよい。また、前記仕込み用水は特に制限されず、製造する麦芽アルコール飲料に応じて好適な水を用いればよい。糖化は基本的に既知の条件で行えばよい。こうして得られた麦芽糖化液をろ過した後、ホップあるいはハーブなど、香り、苦味などを付与できる原料を添加して煮沸を行ない、それを冷却することにより冷麦汁が得られる。」

(4-4)「[0100]
実施例4
(試験醸造用麦芽の製造)
上記大正麦×SV73の交配に由来する、LOX-1活性を有しない大麦種子からなるLOX-1欠失大麦F4集団(LOX-F4)と、LOX-1を有する大麦種子からLOX活性保有大麦F4集団(LOX+F4)をつくり、製麦に用いた。
・・・
[0113]
・・・
実施例6
(麦芽アルコール飲料試験醸造)
1.冷麦汁の製造と分析
上記実施例11で得られたLOX-F4麦芽とLOX+F4麦芽の2点について、50Lスケール仕込設備により発泡酒仕様(麦芽使用率24%)での仕込を行なった。仕込条件は以下の通りである。
[0114]
各々の麦芽1.5kgを単用で15Lの仕込用水により50℃、20分→65℃、30分→75℃、3分のダイアグラムに従って仕込み、ロイター設備により麦汁ろ過を行ない、最終的に35Lのろ過麦汁を得た。
[0115]
得られたろ過麦汁は液糖(糖分75%)5kgと混合し、ホップペレット(苦味分析値87.0BU(EBC))13gを添加して70分間煮沸し、10℃まで冷却し、加水によるエキス調整によりエキス含量11.6?11.8%の冷麦汁とした。
[0116]
得られた冷麦汁の分析は、EBC標準法(European Brewery Convention編、Analytica EBC (4^(th) Ed)、1987)に従い行った。分析値を表1に示した。表1に記載したように、一般的な分析項目に関してはLOX-F4とLOX+F4の間で明らかな差は認められなかった。
[0117]
[表1]

[0118]
2.麦芽アルコール飲料(発泡酒)の製造
上記1で得られた冷麦汁を蒸気殺菌した30Lスケールのシリンドロコニカル型タンクに移し、初期濃度3000万cells/mLとなるように酵母を添加し、13℃にて主発酵を行なった。発酵液のエキスが2.5%まで切れた段階で同型のタンクに移し替え、貯酒工程を行った。貯酒工程は最初の6日間は13℃にて、その後の2週間は0℃にて行った。
[0119]
貯酒工程の終わった発酵液は、ビールろ過設備及び充填設備にて、ビールをろ過し、壜への充填を行なった。
3.発泡酒の分析
上記2で得られた発泡酒の分析を以下のように行った。
[0120]
まず、EBC標準法(European Brewery Convention編、Analytica EBC (4^(th) Ed)、1987)に従い分析を行ったところ、脂質酸化物分析値以外の一般分析値に関してはLOX-F4とLOX+F4の間で、明らかな差は認められなかった(表2)。
[0121]
[表2]



(v)甲5には、以下の事項が記載されている。
(5-1)「[請求項1]
発酵工程を経て製造されたビール様アルコール含有液を凍結乾燥させて得られるビール凍結乾燥物を含むビール様飲料用風味改善剤。
・・・
[請求項7]
請求項1?4のいずれか一項に記載のビール様飲料用風味改善剤を含むビール様飲料。」

(5-2)「[背景技術]
[0002]
近年の低価格志向を背景に、麦芽使用比率が低い、または、麦芽を使用しないビール様飲料が数多く市販されている。このように麦芽使用量を低減させたビール様飲料では本格的なビールの風味やコク感が失われてしまうことが多い。
・・・
[発明が解決しようとする課題]
[0009]
本発明は上記従来の問題を解決するものであり、その目的とするところは、ビールらしい風味が弱いビール様飲料に、ビールらしい風味を付与することができ、又はそのビールらしい風味を増強することができる添加物を提供することにある。」

(5-3)「[発明を実施するための形態]
[0018]
発酵工程を経て製造されたビール様アルコール含有液とは、ビール酵母を用いて、炭素源、窒素源、ホップ類などを含むビール醸造用液をアルコール発酵させて得られたビール風味を有する液体をいう。・・・
・・・
[0020]
ビール様アルコール含有液の製造方法は、ビールを製造する際に通常行われる工程を包含する。一例として、麦芽を含む穀類を粉砕し、副原料及び水と混合して煮沸することにより、デンプンを糖化する。得られる麦汁(糖液)にホップを加えて更に煮沸した後冷却し、冷却液にビール酵母を加えて発酵させる。次いで、発酵液を低温で熟成させ、酵母などを除去して、ビール様アルコール含有液が得られる。
[0021]
発酵工程を経て製造されたビール様アルコール含有液は、真空凍結乾燥法を使用して乾燥される。・・・
・・・
[0025]
このようにして得られたビール凍結乾燥物は、ビール様飲料の風味を改善するための添加剤、即ち、ビール様飲料用風味改善剤として使用される。ビール凍結乾燥物は単独で使用されてよく、又はこれとは異なるビール様飲料用風味改善剤と組み合わせて使用されてもよい。風味とは香り及び味をいう。改善とは一般的な消費者の嗜好に合うように改変することをいい、具体的には、ビールらしい風味、及びビール特有の穀物感及びコク感、及び優れた風味バランスを生成すること、又はこれを増強することをいう。」

(5-4)[0035]
実施例1
ビール凍結乾燥物の製造
穀類として麦芽(カナダ産、フランス産)のみを使用して(麦芽100%)醸造された市販のビールを準備した。このビール350mlを1L容の丸底フラスコに入れ、-85℃にて凍結させた。真空凍結乾燥機(東京理化器械製「FDU-2100」)にて、-85℃、10Paにて、36時間乾燥させた。その結果37.2gのビール凍結乾燥物を得ることができた。得られたビール凍結乾燥物の水分含量は6.3%であった。
・・・
[0040]
実施例3
ビール様アルコール飲料Bの風味改善
麦芽を15重量%(w/w)以下含有する穀物類をデンプン原料として用いて製造された、コクが少なくアルコール臭が目立つという特徴を有するビール様アルコール飲料Bを準備した。
[0041]
実施例1で得られた凍結乾燥物を、100mlのビール様アルコール飲料Bにそれぞれ表2に示す量添加して、ビール様飲料を製造した。そして、得られたビール様飲料について、3人の専門評価者が、穀物香気及びコク感を10段階で評価した。評価基準は、感じることができない場合は「0」であり、正の数に大きいほど官能が強いことを意味する。評価点は3名による評価の平均値とした。結果を表2に示す。
[0042]
[表2]

[0043]
その結果、ビール凍結乾燥物の添加量0.05グラム(0.05%)から、風味に変化が現れ、ビール様穀物香気、コク感が向上した。これらの結果から当該凍結乾燥物を、ビール様アルコール飲料に対して0.050%(w/v)以上含ませることにより風味改善効果を付与できることが示された。
[0044]
次いで、ビール凍結乾燥物を添加する前及び後にビール様アルコール飲料Bの成分を分析し、ビール凍結乾燥粉末の添加により、ビール様アルコール飲料B中にビールのコク形成成分が増大しているかどうかを確認した。総合的にビールのコクを形成する成分としては、ポリフェノール類などが知られている(日本味と匂学会誌 9(2), 143-146, 2002-08)。また、ビール中で穀物的な香り、カラメル様の穀物香気を有する化合物として、4-vinylguaiacol、2-acetyl pyrolineが知られている(J. Agric. Food Chem.,2006,54 (23),pp 8855-8861)。
[0045]
ビール様アルコール飲料B100mlに対してビール凍結乾燥物1.0gを添加し、総ポリフェノール、全窒素、4-vinylguaiacol、2-acetyl pyrolineの含有量を測定した。総ポリフェノール「ビール酒造組合分析法8.19」に、全窒素の分析は「ビール酒造組合分析法8.9」に、4-vinylguaiacol、guaiacol、2-acetyl pyrolineの分析は、J. Sep. Sci. 2009,32,3746-3754に従った。結果を表3に示す。
[0046]
[表3]

[0047]
これらの結果により、ビール凍結乾燥粉末の添加により、ビール様アルコール飲料B中にビールのコク形成成分が実際に増大していることが示された。」

(vi)甲6には、以下の事項が記載されている。
(6-1)「はしがき
本章で記述の対象としたビールは,特に断らない限り,我が国におけるビール消費量の圧倒的部分を占めている,原麦汁濃度(後述)10?11%の下面発酵淡色ビール(国産)である。・・・
I.ビールの成分上の特徴について
ビールは,アルコール及びエキスを含有する点で,清酒,ワインなど,他の醸造酒(非蒸留酒)と共通しているが,その含有量は比較的少ない。一方,清酒,ワインなどにない大きな特徴は,ビールが,原料のホップに由来する苦味物質,並びに多量の二酸化炭素を含んでいる点である。更にビールの特徴の一つとして,エキスの形態を挙げることができよう。エキスの大部分を構成しているものは,主原料である大麦(麦芽),その他の穀類中の炭水化物と蛋白質とが,麦芽自身の酵素(アミラーゼ,ヘミセルラーゼ,プロテアーゼなど)によって分解を受けたものであるが,完全に低分子化されてはいない。このため,これ等の分解物が製品ビールの中に,複雑なコロイドとなって存在していることも,ビール成分の特徴としてあげることができる。
この他,ビール特有の原料や製造工程に由来するものとして,ホップの各種香気成分,ポリフェノール(主として大麦の穀皮に由来),メラノイジン(麦芽焙燥及び麦汁煮沸工程での,MAILLARD反応によって生成)などが,成分上やや特徴的であるといえる。」(p.505左欄1行?右欄9行)

(6-2)「1.エキス(不揮発性成分)の構成
ビールの原料である大麦,その他の穀類中の炭水化物,蛋白質の分解生成物が大部分を占めるが,ホップや水から来る成分(苦味物質,樹脂,ミネラルなど)も含まれている。・・・
2)窒素化合物
窒素化合物は,大麦の蛋白質が種々の段階に分解したものが主である。その量は,全窒素として,ビール100ml中,35?55mg,即ち,粗蛋白質として,0.22?0.34%程度であって,量的には,炭水化物の1/10前後にすぎない。しかし,その大部分が,親水コロイドとなってビール中に分散していることが,ビールの味感,泡立ち,混濁,その他あらゆる性質と関りを持っている。低分子の窒素化合物としては,各種のアミノ酸,ペプタイド,アミン,及びプリン,ピリミジン化合物などが分離,定量されているが,なかでも,発酵工程におけるビール酵母によるアミノ酸代謝が,含硫化合物3),高級アルコール4),及びカルボニル化合物5)などの生成と関連して,ビールの香気に深い関係を持っていることが知られている。」(p.506左欄14行?右欄14行)

(6-3)「

・・・
IV.ビールの一般分析例
最後に,ビール工場において,製品の日常分析として実施されている,ビール一般分析の一例を示す(第2表)。」(p.509第2表、右欄13?16行)

(vii)甲7には、以下の事項が記載されている。
(7-1)「1 フェノール化合物とその由来
(1)含有量
ビール中には,フェノール性化合物として最低91種類の化合物が含まれていると言われる^(1))。これらはフェノールカルボン酸,単純フェノール及びポリフェノールに大別できる。・・・
ハ ポリフェノール
ポリフェノールはタンニンとも呼ばれ,鉄塩で発色するので,この性質が総ポリフェノールの定量に用いられる。比色法で求めたビール中の総ポリフェノールは40?330mg/lである。」(p.226左欄1行?右欄21行)

(7-2)「(2)由来と生成経路
・・・
ハ ポリフェノール
・・・通常ビール中のポリフェノール及びアントシアノーゲンは80?85%が麦芽,残る15?20%がホップに由来し,副原料は無視することができる。」(p.228左欄下から5行?p.229左欄13行)

(7-3)「(3)意義
・・・
ハ ポリフェノール
ビール品質に対するポリフェノールの作用を第4図に示す。ポリフェノールのビールへの最も重要な作用は混濁安定性への影響である。ポリフェノールはタンパク質や多糖類と水素結合により複合体を形成する(タンニン作用)。・・・ポリフェノール,タンパク質,多糖類の複合体の形成によりこれらの成分のビール中での溶解性が減少してビール中に混濁物を生じる。市場でのビールの混濁安定性を向上させるためにビール中のポリフェノールを減少させる手段として,ビールの最終工程でのポリビニル-ポリピロリドン(PVPP)あるいはナイロン66による吸着処理^(45))が知られている。あるいは,ポリフェノールを含まないホップエキスあるいはアントシアノーゲンを含まない大麦から作られた麦芽が使用されることもある。ビールのPVPP処理により,ビールの混濁安定性は大きく改善されるが,寒冷混濁の原因であるアントシアノーゲンとともにビールのこくに必要なクマリン,ガロタンニン及びメラノイジンも除去され,味との調和が必要となる^(46))。低分子のポリフェノールは抗酸化作用を持ち,酸素を吸収することにより他の成分の酸化を抑制し,ビールの香味安定性に寄与している^(47))。しかし,トリハイドロキシフラバンであるプロデルフィニジンB3はCu(II)の触媒する活性酸素ラジカル反応を促進し,香味劣化の原因となる。一方,ジハイドロキシフラバンであるカテキン及びプロシアニジンB3はラジカル反応の促進作用がなく,抗酸化作用のみがある^(48))。メイラード反応生成物とならびポリフェノールは淡色ビールの色の構成要素となっている^(49))。ポリフェノールの色は重合度が上がるほど赤みを帯びてくる。従って淡色ビールではポリフェノール量,あるいはポリフェノールの酸化重合に気を配っている。その他,ポリフェノールはビールの泡持ちには負の作用を持ち^(50)),抗菌作用によりビールの微生物安定性を高める作用をしている^(51))。」(p.229右欄14行?p.232右欄1行)

(viii)甲8には、以下の事項が記載されている。
(8-1)「わが国で現在使用されているビール醸造用の原料は,少量のホップと後発酵で微量添加されているパパインなどの混濁防止剤を除くと,麦芽,米およびとうもろこしの澱粉質であるが,これらの原料を麦芽の酵素を使ってどのような方法で糖化し,糖化した麦汁をどこまでアルコールと炭酸ガスに酵母で発酵させるかが,ビールの主要製造技術であり味づくりであるということができる。・・・
4.水飴を副原料とするメリット
ビールは,大麦の麦芽とホップのみを原料として生産されてきたが,麦芽のポリフェノールと蛋白質が結合して保存中のビン詰ビールを混濁させることがわかった。この対策に,副原料としてポリフェノールの少ないコーンスターチやコーングリッツを併用することがアメリカではじめられた。・・・・
全世界でビール生産量No.1のアメリカでは,麦芽と等量までの副原料の使用が認められている。1900?1935年頃のアメリカでは麦芽80%に対し副原料20%くらいの比率であったが,副原料の使用比率が年々増加して1950?1985年頃は麦芽60%に対し副原料40%になり,現在は50%の限度近くになっているだろうといわれている。」(p.5右欄22行?p.6左欄5行)

(ix)甲9には、以下の事項が記載されている。
(9-1)「[請求項1]
麦由来のエキス分が0.72g/100cm^(3)以下であり、水溶性食物繊維を含有し、クエン酸換算で325?972ppmの酸味物質を含有していることを特徴とするビールテイスト飲料。
[請求項2]
前記水溶性食物繊維の含有量が、0.5?4.0w/v%であることを特徴とする請求項1に記載のビールテイスト飲料。
[請求項3]
前記水溶性食物繊維が、難消化性デキストリン、ポリデキストロース及びグアーガム分解物の中から選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のビールテイスト飲料。
[請求項4]
前記酸味物質が、クエン酸、乳酸、リン酸、リンゴ酸、コハク酸、酒石酸の群から選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のビールテイスト飲料。」

(9-2)「[発明が解決しようとする課題]
[0006]
麦を使用したビールやビールテイスト飲料は、麦使用率が高くなるにつれて味わいが深く、濃く、広がりが出て香味が濃くなり、麦使用率が低くなるにつれてすっきりとした味わいになることが一般的に知られている。また、麦使用率が高いほど麦由来のエキス分が高くなり、麦使用率が低いほど麦由来のエキス分が少なくなる傾向がある。
[0007]
本発明者が検討したところ、麦使用率が50%未満となるような麦使用率の低いビールテイスト飲料(つまり、エキス分が少なく、すっきりとした味わいになるビールテイスト飲料)に特許文献1?3に記載されている技術を適用し、水溶性食物繊維を添加すると、当該ビールテイスト飲料のコクは増強されるものの、水溶性食物繊維の添加量の増加に伴って徐々にキレが悪くなることが分かった。なお、本明細書において、キレとは、後味のスッキリさや爽快さを意味する。
[0008]
本発明は前記問題に鑑みてなされたものであり、コクがあり、キレが改善されたビールテイスト飲料及びその製造方法を提供することを課題とする。」

(9-3)「[0026]
(酸味物質)
本実施形態においては、酸味物質の含有量をクエン酸換算で325?972ppmとしている。酸味物質をこの数値範囲で含有させることにより、ビールテイスト飲料のキレを改善すること、つまりキレを良くすることができる。酸味物質の含有量がクエン酸換算で325ppm未満の場合、酸味物質の含有量が少なすぎるため、ビールテイスト飲料のキレを改善する効果が期待できない。他方、酸味物質の含有量がクエン酸換算で972ppmを超える場合、酸味物質の含有量が多すぎるため酸味が強くなり、ビールテイスト飲料のキレが悪くなってしまう。酸味物質の含有量は、麦由来のエキス分が0.4g/100cm3を超え0.72g/cm^(3)以下の場合には、492ppm以上とするのが好ましい。このようにすると、麦由来のエキス分が比較的高いこの範囲にある場合であっても、より確実にキレを改善することができる。なお、ビールテイスト飲料に含有される酸味物質の含有量は次のようにして測定することができる。すなわち、有機酸の測定は、例えば、分析カラムとしてShodex RSpak KC-811を用いたHPLCで測定することができる。また、無機酸の測定はイオンクロマトグラフィーによる陰イオン分析で測定することができる。
[0027]
酸味物質としては、例えば、アジピン酸、クエン酸、クエン酸三ナトリウム、グルコノデルタラクトン、グルコン酸、グルコン酸カリウム、グルコン酸ナトリウム、コハク酸、コハク酸一ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、酢酸ナトリウム、DL-酒石酸、L-酒石酸、DL-酒石酸ナトリウム、L-酒石酸ナトリウム、二酸化炭素、乳酸、乳酸ナトリウム、氷酢酸、フマル酸、フマル酸一ナトリウム、DL-リンゴ酸、DL-リンゴ酸ナトリウム、リン酸などを含有させ得る。これらの酸味物質はそれぞれ酸味の特徴があるものの、その酸味度は相互に換算が可能であるとされている。一例を挙げて説明すると、例えば、クエン酸の酸味度を100とした場合における乳酸の酸味度は120、リンゴ酸の酸味度は125、酒石酸の酸味度は130、フマル酸の酸味度は180、コハク酸の酸味度は115、酢酸の酸味度は100、リン酸の酸味度は200であるとされている。」

(x)甲10には、以下の事項が記載されている。
(10-1)「[請求項1]
麦由来成分と飲用アルコールを含み、プリン体の含有量が1.1mg/100mL以下、且つ、下記(1)と、下記(2)?(7)のうちの少なくとも1つと、を満たすことを特徴とするビールテイスト飲料。
(1)アルコール度数:1?8%(ただし、下記(5)の場合は7%以上を除く)
(2)苦味価:7?35
(3)アセスルファムカリウムの含有量:10?30ppm
(4)塩化カルシウム、食塩、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素アンモニウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム及び硫酸アンモニウムの中から選択される少なくとも1つの塩類の総含有量:50?1000ppm
(5)乳酸、リン酸、リンゴ酸、コハク酸、クエン酸及び酒石酸の中から選択されるいずれか1つの酸味料の含有量:クエン酸換算で250?1500ppm
(6)ナリンギンの含有量:100?300ppm
(7)カフェインの含有量:200?600ppm」

(10-2)「[発明が解決しようとする課題]
[0005]
しかしながら、特許文献1に記載の麦芽発酵飲料は麦芽の使用比率が高いため、必然的にプリン体の含有率が高くなってしまう。プリン体の含有量を低くするためには、麦芽の使用比率を低くすることが考えられる。しかし、そのようにすると、ビールテイスト飲料(麦芽発酵飲料)の味に厚みがなくなるため、飲用アルコール(特許文献1でいうところのB成分に係る蒸留液)を添加すると、飲用アルコールのピリピリとしたアルコール味が突出して感じられるようになるという問題が顕在化する。
[0006]
本発明は前記問題点に鑑みてなされたものであり、麦の使用比率を低くした場合であっても、添加した飲用アルコールのアルコール味が突出して感じられ難いビールテイスト飲料を提供することを課題とする。」

(10-3)「[0156]
(酸味料)
本実施形態に係るビールテイスト飲料は、酸味料を含むことにより、麦の使用比率を低くした場合であっても、添加した飲用アルコールのアルコール味が突出して感じられ難くすることができる。このような酸味料としては、例えば、乳酸、リン酸、リンゴ酸、コハク酸、クエン酸及び酒石酸などが挙げられる。酸味料は、これらのうちの少なくとも1つを用いることができる。なお、酸味料は、麦の使用比率を低くした場合であっても、添加した飲用アルコールのアルコール味が突出して感じられ難くすることができればこれらに限定されるものではなく、どのようなものも用いることができる。例えば、アジピン酸、クエン酸三ナトリウム、グルコノデルタラクトン、グルコン酸、グルコン酸カリウム、グルコン酸ナトリウム、コハク酸一ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、酢酸ナトリウム、L-酒石酸、DL-酒石酸ナトリウム、L-酒石酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、氷酢酸、フマル酸、フマル酸一ナトリウム、DL-リンゴ酸ナトリウム、その他の飲料品に添加可能な酸味料であればどのようなものも用いることができる。
[0157]
酸味料の含有量は、例えば、クエン酸換算で250?1500ppm(本明細書における「ppm」は「mg/L」と表すこともできる。以下同じ。)とするのが好ましく、300?1500ppmとするのがより好ましく、400?1000ppmとするのがさらに好ましい。
酸味料の含有量がクエン酸換算で250ppm未満であると、酸味料の含有量が少なすぎるため、麦の使用比率を低くした場合に、添加した飲用アルコールのアルコール味が突出して感じられ難くすることができないおそれがある。
他方、酸味料の含有量が1500ppmを超えると、酸味料の含有量が多すぎるため、酸味が強くなりすぎてしまう。そのため、ビールテイスト飲料として適さないものとなってしまうおそれがある。」

(xi)甲11には、以下の事項が記載されている。
(11-1)「[請求項1]
有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が1600?2600mg/Lであり、アルコール濃度が7?20(v/v)%である、発酵麦芽飲料。
[請求項2]
有機酸の濃度とリン酸の濃度の合計が、乳酸、リン酸、酒石酸、リンゴ酸、またはこれらの任意の組合せの濃度調整によって調整された、請求項1に記載の発酵麦芽飲料。」

(11-2)「[発明の概要]
[0004]
本発明の目的は、高アルコールならではの嗜好性と飲みやすさを両立した発酵麦芽飲料、およびその製造方法を提供することにある。」

(xii)甲12には、以下の事項が記載されている。
(12-1)「[請求項1]
仕込工程において、麦芽を含むマイシェにトランスグルコシダーゼを添加して、発酵工程前の麦汁中の全糖質における非発酵性糖質の割合が30?70質量%になるよう糖化し、
製造工程のいずれかの時点において、最終製品のpHが3.5?4.4になるように有機酸を添加することを特徴とする低アルコール発酵麦芽飲料の製造方法。
[請求項2]
前記有機酸がリン酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、クエン酸、フィチン酸、グルコン酸、酢酸からなる群より選択される1種以上であることを特徴とする請求項1に記載の低アルコール発酵麦芽飲料の製造方法。」

(12-2)「[発明が解決しようとする課題]
[0008]
本発明は、甘味やその他の不自然な香味が突出することなく、アルコール濃度が4容量%よりも高い通常のビール類と比べて遜色のないバランスの良い味感、風味を有する低アルコール発酵麦芽飲料を製造する方法を提供することを目的とする。」

(12-3)「[0019]
本発明において用いられる有機酸は、可食性の有機酸であれば特に限定されるものではなく、目的とする低アルコール発酵麦芽飲料の品質等を考慮して、適宜決定することができる。本発明においては、1種類の有機酸を添加してもよく、2種類以上を組み合わせて添加してもよい。また、複数の有機酸を添加する場合、同時に添加してもよく、有機酸ごとに別々の時点で添加してもよい。用いられる有機酸としては、乳酸、リン酸、酒石酸、リンゴ酸、クエン酸、フィチン酸、グルコン酸、酢酸、又はこれらの組み合わせであることが好ましく、特に乳酸、リン酸、又は両者の併用が好ましい。
[0020]
有機酸の添加量は、最終製品のpHを3.5?4.4に調整するために必要な量であり、低アルコール発酵麦芽飲料の組成、有機酸の種類、目的とする低アルコール発酵麦芽飲料の品質等を考慮して、適宜決定することができる。例えば、1種類の有機酸を添加する場合には、最終製品中の当該有機酸の濃度が50?1500ppmとなるように添加することが好ましい。また、乳酸及びリン酸を併用する場合には、最終製品中の乳酸及びリン酸の濃度がそれぞれ100?600ppmとなるように添加することが好ましい。」

(xiii)甲13には、以下の事項が記載されている。
(13-1)「[請求項1]
酸味料含有量がクエン酸換算で44?700ppmであり、食物繊維含有量が0.5?3.0g/100mLであり、かつ、原材料として実質的にホップ由来成分を含まない、未発酵のビールテイストアルコール飲料。
[請求項2]
原材料として、酸味料、食物繊維、他の飲料用添加剤、アルコールおよび液体原料を含んでなる、請求項1に記載のビールテイストアルコール飲料。
[請求項3]
酸味料がリン酸、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸およびグルコン酸から選択される1種または2種以上である、請求項1または2に記載のビールテイストアルコール飲料。」

(13-2)「[0005]
本発明者らは今般、食物繊維と酸味料を併用することで、ホップを含む原材料の仕込みや発酵を行わず、しかも、ホップエキスを添加せず、原材料の調合のみによりビールらしい飲み応え(味の厚み)と後キレを有するビールテイストアルコール飲料を製造できることを見出した。本発明はこの知見に基づくものである。
[0006]
すなわち、本発明はビールらしい飲み応えと後キレを有する新しいビールテイストアルコール飲料とその製造方法を提供することを目的とする。」

(13-3)「[0014]
本発明において使用される酸味料としては、例えば、リン酸、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸およびグルコン酸等が挙げられる。酸味料は、好ましくは、リン酸、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸およびグルコン酸からなる群から選択される1種または2種以上であり、より好ましくは、リン酸および乳酸からなる群から選択される1種または2種以上である。
・・・
[0016]
本発明の飲料中の酸味料含有量は、クエン酸換算で44?700ppmの範囲であり、好ましくは、50?450ppmである。酸味料を2種以上組み合わせて使用する場合の酸味料含有量は、2種以上の各酸味料のクエン酸換算量を合計した量で表すことができる。
[0017]
飲料中の酸味料含有量は、公知のガスクロマトグラフィー法により測定することができる。得られた酸味料含有量はクエン酸の酸味度を基準にして換算することができる(クエン酸換算)。例えば、クエン酸の酸味度を100とした場合におけるリン酸の酸味度は200、乳酸の酸味度は110、リンゴ酸の酸味度は100、酒石酸の酸味度は130、グルコン酸の酸味度は60であるとされている。従って、仮にリン酸の含有量が100ppmであった場合、リン酸のクエン酸に対する酸味度の比率は2であるから、リン酸のクエン酸換算含有量は200ppmとなる。
[0018]
後記実施例によれば、酸味料はシャープな酸味を付与する群(リン酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸)と複雑な酸味を付与する群(乳酸、グルコン酸)の2群に大きく分類することができる(本明細書の実施例3)。本発明の飲料においては、ビールらしい飲み応えや後キレがバランスよく付与されることが好ましいことから、各群の酸味料を組み合わせて用いることができる。」

(xiv)甲14には、以下の事項が記載されている。
(14-1)「[請求項1]
苦味物質及び麦芽エキスを含むビールテイスト飲料であって、リナロールを0.1?1000ppb及び/又はダイアセチルを4?30ppb含む、アルコール含有ビールテイスト飲料。
[請求項2]
α酸及びイソα酸の合計含有量が0?0.1ppmである、請求項1に記載のビールテイスト飲料。
・・・
[請求項11]
アルコール含有ビールテイスト飲料の製造方法であって、当該ビールテイスト飲料に、苦味物質及び麦芽エキスを含有させること、及び当該ビールテイスト飲料中のリナロールの含有量を0.1?1000ppbに調整する及び/又はダイアセチルの含有量を4?30ppbに調整することを特徴とする、製造方法。
[請求項12]
さらに、ビールテイスト飲料中のα酸及びイソα酸の合計含有量を0?0.1ppmに調整することを特徴とする、請求項11に記載の製造方法。」

(14-2)「[背景技術]
[0002]
ビール、発泡酒を始めとするビールテイスト飲料は、酒類の出荷数量において大きな割合を占めていたが、近年若年層を中心としたビール離れが進み、消費が伸び悩んでいる。その理由として、アルコール自身の刺激感、酒そのものの風味や苦味が忌避されていることが挙げられる。
[0003]
アルコール飲料における、アルコールの刺激感低減に関する技術がいくつか知られている。・・・
[0009]
しかしながら、上記の先行技術文献に記載の技術はいずれも、苦味の質の改善にとどまり、酒の風味そのものを改善するにいたっていない。つまり、ビールテイスト飲料におけるアルコールや風味の刺激感と苦味の質の改善とを同時に解決する技術は知られていない。従って、若年層を中心とした消費者の嗜好を満足するビールテイスト飲料を開発することが強く求められている。
・・・
[発明が解決しようとする課題]
[0011]
本発明は、若年層を中心とした、アルコールの刺激感、酒そのものの風味や苦味を苦手とする消費者に対して、自然なほろ苦さとスッキリとした飲みやすさを有する新規なビールテイスト飲料を提供することを課題とする。
[課題を解決するための手段]
[0012]
本発明者は、前記課題に鑑みて鋭意検討した結果、リナロール及び/又はダイアセチルを特定濃度に調整し、苦味物質と麦芽エキスとを含有させることによって、自然なほろ苦さを有しながら、苦味が後口に残存せず、酒らしい軽快な香りを具備するビールテイスト飲料を製造できることを見出した。更に、α酸及びイソα酸濃度を極微量に抑制することによって、スッキリとして飲みやすいビールテイスト飲料を得ることができることを見出した。」

(14-3)「[0030]
リナロールは、本発明のビールテイスト飲料に、0.1?1000ppb、より好ましくは20?400ppb、更に好ましくは200?400ppb含まれると、当該飲料に酒らしい軽快な風味を付与することができる。・・・
・・・
[0032]
ダイアセチルは、本発明のビールテイスト飲料に、4?30ppb、より好ましくは15?30ppb含まれると、当該飲料にスッキリとしながら適度な風味を付与することができる。」

(14-4)「[0033]
(α酸及びイソα酸)
本発明のビールテイスト飲料は、α酸及びイソα酸を含有しないか、又は極微量含有することが好ましい。
[0034]
本発明のビールテイスト飲料におけるα酸及びイソα酸の合計含有量は、好ましくは0?0.1ppm、より好ましくは0?0.05ppm、更に好ましくは、0?0.03ppmである。
[0035]
α酸はホップ由来の苦味成分で、フムロンともいい、ノルマルフムロン、コフムロン、アドフムロンの3種類の化合物が知られている。イソα酸は、ビール製造における煮沸工程において加熱処理によるα酸の異性化によって生成するもので、イソフムロンともいい、イソノルマルフムロン、イソコフムロン、イソアドフムロンの3種類の化合物が知られている。本発明のビールテイスト飲料において、α酸及びイソα酸が前記濃度より多く含まれると、後口に苦味が残存してスッキリした味わいとならない場合があるため好ましくない。
・・・
[0037]
(その他の成分)
本発明においては、本発明の効果を妨げない限り、食品添加物として認められている成分を用いてもよい。例えば、甘味料、各種酸味料、香料、酵母エキス、カラメル色素等の着色料、大豆サポニンやキラヤサポニン等の植物抽出サポニン系物質、コーン、大豆、そら豆等の植物タンパク質及びペプチド含有物、ウシ血清アルブミン等のタンパク質系物質、食物繊維やアミノ酸等の調味料、アスコルビン酸等の酸化防止剤等が挙げられる。
[0038]
(ビールテイスト飲料の製造)
本発明のアルコール含有ビールテイスト飲料は、当業者に知られる通常の方法で製造することができる。例えば、麦芽等の麦の他、必要に応じて他の穀物、でんぷん、糖類、苦味料、又は着色料などの原料を、仕込釜又は仕込槽に投入し、必要に応じてアミラーゼなどの酵素を添加し、糊化、糖化を行なわせ、ろ過し、必要に応じてホップなどを加えて煮沸し、清澄タンクにて凝固タンパク質などの固形分を取り除く。糖化工程、煮沸工程、固形分除去工程などにおける条件は、知られている条件を用いればよい。次いで酵母を添加して発酵を行なわせ、ろ過機などで酵母を取り除いて製造することができる。発酵条件は、知られている条件を用いればよい。必要であれば、膜処理や希釈などの公知の方法によりアルコール濃度を低減させる。あるいは、発酵工程を経る代わりに、スピリッツなどアルコール分を有する原料を添加してもよい。更に、貯蔵、必要により炭酸ガス添加、濾過、容器詰め、必要により殺菌の工程を経て、ビールテイスト飲料を得ることができる。また、ビールベースカクテルを製造するのであれば、ビールと他の種類のアルコールや果汁等の成分を混合すればよい。
[0039]
ビールテイスト飲料の製造においては、当該ビールテイスト飲料に、苦味物質及び麦芽エキスを含有させること、及び当該ビールテイスト飲料中のリナロールの含有量を0.1?1000ppbに調整する及び/又はダイアセチルの含有量を4?30ppbに調整することが重要である。また、必要に応じて、当該ビールテイスト飲料中のα酸及びイソα酸の合計含有量を0?0.1ppmに調整する。本発明においてこれらの工程は、最終的なビールテイスト飲料に、必要な成分が必要な量含まれてさえいれば、どのように行ってもよい。例えば、製造中のいずれのタイミングで行ってもよく、そのタイミングは工程の性質に応じて適宜設定することができる。また、これらの工程の順序は限定されず、また、それらの工程の2以上を同時に行ってもよい。」

(14-5)「[実施例]
[0043]
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明する。ただし、これらの例は本発明を制限するものではない。
実施例1
表1?3の処方に従って、ビールテイスト飲料を調製した。表1は、対照であるサンプル1と、本発明品であるサンプル2?13である。これらのリナロール及びダイアセチルの濃度は表4を参照されたい。また、表2は、イソα酸及びα酸をそれぞれ10ppm及び1ppm含むよう調整した比較例1であり、表3は、比較例1にリナロール及びダイアセチルをそれぞれ40ppb及び4ppb含むよう調整した比較例2である(表5も参照されたい)。苦味物質であるゲンチオオリゴ糖としては日本食品化工社のゲントース#45(ゲンチオオリゴ糖を45%以上含有する)を、サンプル1?13に使用した(各サンプル1000ml中にゲンチオオリゴ糖が4.5g含まれた)。一方、比較例1及び2にはゲンチオオリゴ糖を用いなかった。比較例1及び2において、イソα酸源としては、ISOHOP(Barth-Haas社製、イソα酸を330000ppm含み、α酸を含まない)をニュートラルスピリッツ(アルコール度数59%)にて100倍希釈した液を用い、α酸源としては香料ベース(IFF社製、イソα酸を150ppm、α酸を8425ppm含む)を用いた。これらのビールテイスト飲料はいずれもアルコール度数3.3%で、1000mlあたり麦芽エキス(Brix80度)を5g含んだ。
[0044]
これらのビールテイスト飲料について、訓練された専門パネル3名によって官能評価を実施した。
官能評価は、苦味の強さ、苦味の後味への残存感及び酒らしい軽快な香りの3つの観点から評価し、トータルな品質を、対照であるサンプルNo.1を1点として評点をつけた。その結果を、表4及び表5に示す。
[0045]
[表1]

・・・
[0048]
[表4]

・・・
[0050]
本発明品のサンプル2?13は、スッキリとした自然な苦味を有しながら、しっかりしたボディ感と酒らしい軽快な香味が感じられ、飲みやすい品質であった。特に、リナロールとダイアセチルを含むサンプル10?13は特に苦味とボディ感があって好ましかった。これに対し、イソα酸及びα酸を含む比較例No.1は苦味が強い上に後口にしつこい苦味が残り好ましくなかった。また、これにリナロールとダイアセチルを加えた比較例No.2は、苦味が強すぎて香気成分の効果が認められなかった。逆に、大量に添加すると、これらの香気成分のオフフレーバーが目立つ結果となり、イソα酸及びα酸との併用は難しいことが示唆された。」

(xv)甲15には、以下の事項が記載されている。
(15-1)「[請求項1]
A成分として、麦を原料の一部に使用して発酵させて得た麦芽比率が40?60%であるアルコール含有物;および、
B成分として、少なくとも麦を原料の一部としたアルコール含有物を蒸留して得たアルコール含有の蒸留液;
からなり、A成分とB成分とを混合してなることを特徴とする缶入り麦芽発酵飲料。」

(15-2)「[背景技術]
[0002]
従来から、酒類において新しい香味を創造する試みがしばしば行われてきている。例えば、ビールや発泡酒においては、最近の消費者の多様化した好みに応じて、様々な香味のものが検討され、提供されてきている。そのなかでも、ビールや発泡酒におけるキリッとした味わいの喉越し、いわゆる「キレ」の付与は一つの課題でもある。
[0003]
ところで、キレのある麦芽発酵飲料を製造するためには、原料の麦芽の使用比率を低減することで、ある程度解決されている。しかしながら、当該方法では、麦芽の使用比率が高い麦芽発酵飲料に比較して、飲み応えや喉越しの爽快感が失われる傾向にある。・・・
・・・
[発明が解決しようとする課題]
[0007]
したがって本発明は、上記した現状に鑑み、麦芽発酵飲料において、原料中の麦芽の使用比率を高率とすることにより飲み応えを確保しつつ、かつ、喉越しの爽快感、すなわち、キリッとした味わいを有する麦芽発酵飲料を提供することを課題とする。」

(15-3)「[0041]
実施例3:
A成分の麦芽比率を変えて、B成分添加の効果を評価した。
A成分として、各麦芽比率を10%、20%、40%および100%として、アルコール分5%の麦芽発酵飲料を、定法にしたがって調製した。
B成分として、小麦と水を原料とし、糖化、発酵、蒸留(連続式蒸留機を使用)して得たアルコール分44.0%のスピリッツを、定法にしたがって、調製した。
A成分由来のアルコール分と、B成分由来のアルコール分の率が95:5となるようにA成分とB成分を混合し、目的とする麦芽発酵飲料の総アルコール分が5.0%になるように、A成分の麦芽発酵飲料を適宜水で希釈した。
なお、比較例として、B成分を含まない各種麦芽比率のビール(または発泡酒)を評価した。
評価項目および評価方法は実施例1に準じた。
その結果を下記表3に示した。
[0042]
[表3]

[0043]
表中の結果からも判明するように、発明品にあっては、麦芽比率を10%、20%、40%および100%と変更した飲料の場合であっても、B成分を添加することによって、飲み応えを損なうことがなく、キレ味の評価が増加した。特に、麦芽比率が20%?100%、なかでも40%以上の場合にキレ味の付与効果が顕著であった。
以上より、麦芽発酵飲料において、各種麦芽使用比率のA成分に、B成分を組み合わせることにより、飲み応えがありながら、かつ、喉越しの爽快感、キリッとした味わいのある麦芽発酵飲料が提供されることが判明した。」

(xvi)甲16には、以下の事項が記載されている。
(16-1)「[請求項1]
発酵原料の麦芽比率が25質量%未満であり、ホルダチン類の含有量が7?9ppmであり、リナロール含有量が4?8ppbであることを特徴とする、発酵麦芽飲料。」

(16-2)「[背景技術]
[0002]
ビールは古くから世界中で愛飲されている、代表的な酒類である。また、ビールに続く新たなアルコール飲料として、発泡酒等の麦芽以外にも様々な副原料を使用したビールテイスト飲料の開発が盛んである。ビール等の発酵麦芽飲料に特有の飲み応えやコク感は、その多くを麦芽由来の香味成分に依存している。例えば、麦芽の使用比率が低い発酵麦芽飲料では、すっきりした味感を達成できるが、ビールに比べ、味わいやコク感が不足し易いという傾向がある。
[0003]
一方で、麦芽には、「麦臭さ」や「穀物臭」といわれる特有の臭いの成分も多く含まれており、麦芽を原料とする麦芽飲料においては、この麦芽オフフレーバーが官能的に問題となっている。特に、止渇感・ドリンカビリティーを主たる特徴とする発酵麦芽飲料では、麦芽オフフレーバーはよりネガティブに働く傾向がある。
[0004]
また、麦芽には、ホルダチン類が比較的多く含まれている。中でも、特許文献1には、特定の構造を有するホルダチン類が口腔内刺激性(口腔内刺激の原因となる性質)を有しており、ビールテイスト飲料において味わいやのどごし、後味に影響を及ぼすエグミの原因物質であることが報告されている。
・・・
[発明が解決しようとする課題]
[0006]
本発明は、発酵原料に対する麦芽の使用比率が低く、麦芽オフフレーバーが少ないにもかかわらず、充分な渋味を有し、かつ華やかな香りを有する発酵麦芽飲料を提供することを目的とする。」

(16-3)「[0021]
発酵原料と原料水とを含む混合物には、その他の副原料を加えてもよい。当該副原料としては、例えば、ホップ、食物繊維、果汁、苦味料、着色料、香草、香料等が挙げられる。また、必要に応じて、α-アミラーゼ、グルコアミラーゼ、プルラナーゼ等の糖化酵素やプロテアーゼ等の酵素剤を添加することができる。
・・・
[0024]
煮沸処理前又は煮沸処理中に、香草等を適宜添加することにより、所望の香味を有する発酵麦芽飲料を製造することができる。特にホップは、煮沸処理前又は煮沸処理中に添加することが好ましい。ホップの存在下で煮沸処理することにより、ポリフェノールをはじめとするホップの風味・香気成分を効率よく煮出することができる。ホップの添加量や添加態様(例えば数回に分けて添加するなど)、煮沸条件等は、最終製品たる発酵麦芽飲料の目的とする品質等を考慮して適宜調整することが好ましい。」

(16-4)「[0033]
[参考例1]
発酵原料として麦芽粉砕物とコーンスターチを用いて、ビールテイストの発酵麦芽飲料における麦芽オフフレーバーの強さに対する麦芽比率の影響を調べた。具体的には、麦芽比率が20、40、又は60質量%となるように麦芽粉砕物とコーンスターチを混合した混合物を、発酵原料として用いた。
まず、200Lスケールの仕込設備を用いて、発酵麦芽飲料の製造を行った。仕込槽に、40kgの発酵原料及び160Lの原料水を投入し、当該仕込槽内の混合物を常法に従って加温して糖化液を製造した。得られた糖化液を濾過し、得られた濾液にホップを添加した後、煮沸して麦汁(穀物煮汁)を得た。次いで、80?99℃程度の麦汁を沈降槽に移して沈殿物を分離、除去した後、約7℃に冷却した。当該冷麦汁にビール酵母を接種し、約10℃で7日間発酵させた後、7日間貯酒タンク中で熟成させた。熟成後の発酵液をフィルター濾過(平均孔径:0.65μm)し、目的の発酵麦芽飲料を得た。
[0034]
得られた発酵麦芽飲料の麦芽オフフレーバーについて、6名の訓練されたビール専門パネリストによる官能検査を行った。この結果、麦芽比率60質量%の発酵麦芽飲料では麦芽オフフレーバーが感じられたが、麦芽比率40質量%の発酵麦芽飲料では麦芽オフフレーバーはあまり感じられず、麦芽比率20質量%の発酵麦芽飲料では麦芽オフフレーバーは感じられなかった。すなわち、発酵原料に対する麦芽比率の低下により、麦芽オフフレーバーが低減されることが確認された。
[0035]
[実施例1]
ホルダチン類及びリナロールを適宜添加することにより濃度を調整した麦芽比率25質量%未満のビールテイストの発酵麦芽飲料について、渋味、華やかさ等の官能評価を行った。
具体的には、麦芽比率が24質量%となるように麦芽粉砕物とコーンスターチを混合した混合物を、発酵原料として用い、ビール酵母接種前の冷麦汁に、ホルダチン類とリナロール(香料)を飲料中の最終濃度が表1に示す濃度になるように添加した以外は参考例1と同様にして発酵麦芽飲料を製造した。
・・・
[0041]
[表1]

[0042]
表1に示すように、発酵麦芽飲料の渋味は、ホルダチン類の含有量が6ppmの発酵麦芽飲料と10ppmの発酵麦芽飲料では普通であったが、7ppmの発酵麦芽飲料と9ppmの発酵麦芽飲料では良好であり、8ppmでは非常に良好であった。また、発酵麦芽飲料の華やかな香りは、リナロール含有量が1ppbの発酵麦芽飲料ではほとんどしなかったが、4ppbでは良好であり、6?8ppbでは非常に良好であった。ただし、リナロール含有量が15pbの発酵麦芽飲料は、リナロール特有の香りが強すぎ、4ppbの発酵麦芽飲料よりも華やかさは弱く、普通であった。」

(xvii)甲17には、以下の事項が記載されている。
(17-1)「[請求項1]
クエン酸換算の酸度が0.05g/100mL以上0.30g/100mL未満であり、苦味価が15B.U.以下である、ビールテイスト飲料。
・・・
[請求項6]
更に、リン酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、クエン酸、グルコン酸およびフィチン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種以上の酸味料を含有する、請求項1から5のいずれかに記載のビールテイスト飲料。
[請求項7]
前記酸味料が、リン酸及び/又は酒石酸を含有する、請求項6に記載のビールテイスト飲料。」

(17-2)「[背景技術]
[0002]
ビールテイスト飲料は、独特の苦味を有している。独特の苦味は、ビールテイスト飲料の特徴であると言えるが、この独特の苦味を嫌い、ビールテイスト飲料を敬遠する消費者層も存在する。このような消費者層にも受け入れられるようにするために、ビールテイスト飲料の苦味を抑えることが考えられる。
・・・
[発明が解決しようとする課題]
[0006]
しかしながら、ビールテイスト飲料の苦味を低減させると、原料である穀物由来成分による甘味や、発酵飲料の場合には発酵に伴い生じる香気成分による甘味が際立ち、おいしい飲料を得ることが難しくなる。そこで、本発明の課題は、甘味を際立たせること無く、苦味を低減することができる、ビールテイスト飲料を提供することにある。
[0007]
本発明者らは、ビールテイスト飲料において、苦味価を低減し、酸度を調整することにより、甘味を際立たせること無く、苦味を低減できることを見出した。」

(17-3)「[0012]
ビールテイスト飲料の苦味価は、上述のように、15B.U.以下である。苦味価が15B.U.以下であることにより、一般的なビール(苦味価が15B.U.超)の苦味を敬遠する消費者層にも受け入れ可能な程度に、飲料の苦味を低減することができる。苦味価は、好ましくは10B.U.以下、より好ましくは3B.U.以上10B.U.以下、更に好ましくは5B.U.以上10B.U.以下である。
ここで、「苦味価」とは、イソフムロンを主成分とするホップ由来物質群により与えられる苦味の指標である。苦味価は、例えばEBC法(ビール酒造組合:「ビール分析法」8.15 1990年)により測定することができる。
苦味価は、ホップエキス等のホップ由来成分の添加量を変えることによって調整することができる。すなわち、ビールテイスト飲料には、苦味価が15B.U.以下になる範囲において、ホップ由来成分が含まれていてもよい。但し、ホップ由来成分が含まれていなくてもよい。
[0013]
ビールテイスト飲料における酸度は、上述のように、0.05g/100mL以上0.30g/100mL未満である。酸度は、好ましくは、0.10g/100mL以上0.20g/100mL以下である。
本発明者らの知見によれば、ビールテイスト飲料の苦味価を15B.U.以下にまで減らすと、苦味については十分に抑制される。しかしながら、苦味価を15B.U.以下にまで減らすと、甘味が際立ち、味のキレ(後味のすっきりさ)が損なわれる。これに対して、飲料の酸度を上述のような範囲に設定することにより、甘味の際立ちを抑えることができ、味のキレを保つことができる。
尚、本発明において、酸度とは飲料100mL中に含まれる酸量をクエン酸に換算した場合のグラム数で表すことができる。酸度は、果実飲料の日本農林規格(平成25年12月24日農水告第3118号)で定められた酸度の測定方法に基づいて算出されたクエン酸換算値を意味する。
[0014]
ビールテイスト飲料のpHは、3.0?5.0であることが好ましく、より好ましくは3.5?4.5である。pHをこのような範囲に設定することにより、苦味の低減に伴う甘味の際立ちを抑制することができる。また、味のキレを飲料に付与することができる。
[0015]
酸度及びpHは、例えば、酸味料の種類及び添加量などにより調整することができる。酸味料としては、例えば、リン酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、クエン酸、グルコン酸およびフィチン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。好ましい酸味料は、リン酸、酒石酸、およびリンゴ酸からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくはリン酸および/又は酒石酸であり、最も好ましくはリン酸及び酒石酸の組み合わせを含む。この場合、リン酸及び酒石酸の濃度比(重量比)は、4:1?1:4であることが好ましく、より好ましくは3:1?1:3である。
・・・
[0018]
ビールテイスト飲料には、必要に応じて、食物繊維、酸味料以外のpH調整剤、ホップ由来成分以外の苦味料、甘味料、香料等の添加剤を含有していてもよい。これらの添加剤の含有量については、ビールテイスト飲料について慣用されている量を採用すればよい。」

(17-4)「[実施例]
[0023]
(実験例1):苦味価の検討
麦芽粉砕物20kg、コーンスターチ375kg、及び湯800Lを仕込釜にて混合し、20分かけて50℃から70℃まで昇温した。70℃で10分間、でんぷんを分解させ、30分間煮沸した。一方で、仕込槽において、麦芽230kgと湯575Lを混合し、50℃で30分間タンパク質分解反応を行った。30分後、湯500Lを仕込槽に添加し、仕込釜の内容物を仕込槽へと移し替えた。仕込槽の内容物を、65℃で40分間糖化させ、76℃で5分間維持することで酵素を失活させ、麦汁を得た。麦汁濾過後、70分間煮沸させた。煮沸後、ワールプールでトルーブを除去した。トルーブの除去後、麦汁を冷却した。冷却後、酵母を添加し、10℃で7日間、発酵させた。その後、熟成及び冷却し、ビール濾過を実施して、例1に係るビールテイスト飲料を得た。ホップ由来成分を添加していないため、例1に係る飲料の苦味価は、実質的に0B.U.である。また、真正エキスは約3.4?3.5%であり、アルコール度数は5?6(v/v)%であり、pHは約4.1であった。」

(17-5)「[0028]
(実験例3):酸味料の種類の検討
例1に係るビールテイスト飲料に対して、異なる種類の酸味料を添加し、複数のビールテイスト飲料(例16?例22)を得た。各飲料において、酸味料の添加量は、酸度が0.1g/100mLになるような量とした。各飲料のpHは約3.6であった。得られたビールテイスト飲料について、苦味を苦手とする20?30代の女性8名の専門パネリストにより、ブラインドで官能検査を行い、「甘味」、「酸味」、「苦味」、及び「味のふくらみ」、「甘酸バランス」及び「キレ」を評価した。評価には、5段階の採点法を用いた。また、実験例1と同様に、VASを用いて「好き嫌い」を評価した。・・・
[0029]
結果を表3に示す。検討の結果、リン酸、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、グルコン酸が酸味料として好ましいことが判った。また、リン酸、リンゴ酸、酒石酸がより好ましいことがわかった。特に、リン酸はキレに優れ、酒石酸は味のふくらみに優れていた。
[0030]
(実験例4):酸味料の使用比率の検討
例1に係るビールテイスト飲料に対して、リン酸及び酒石酸の組み合わせを添加し、リン酸と酒石酸との使用比率が異なる複数のビールテイスト飲料(例23?例27)を得た。尚、各飲料において、酸味料の合計添加量は、酸度が0.1g/100mLになるような量とした。得られたビールテイスト飲料について、苦味を苦手とする20?30代の女性8名の専門パネリストにより、ブラインドにて官能検査を行い、「甘味」、「酸味」、「苦味」、「味のふくらみ」、「甘酸バランス」、「キレ」及び「好き嫌い」を評価した。評価基準は、実験例3と同様のものを使用した。
[0031]
結果を表4に示す。
表4の結果から、リン酸と酒石酸とを併用することにより、リン酸による良好な「キレ」と酒石酸による良好な「味のふくらみ」とが組み合わされ、それぞれの酸味料を単独で使用した場合よりも、更に良好な結果が得られた。特に、リン酸:酒石酸(濃度比)が4:1?1:4の範囲にある例24?26の飲料において、良好な結果が得られた。」

(17-6)「[0033]
・・・
[表1]

[表2]

[表3]

[表4]



(2)理由1-1:進歩性、甲第1号証を主引用例とする場合
ア 甲1に記載された発明
甲1の請求項1及び5(摘記1-1)には、「0.3?5ppmのクワシンおよび/または0.5?5ppmのキニーネを含んでなる、ビールテイスト飲料」及び「ホップ由来のイソα酸を実質的に含有しない、請求項1?4のいずれか一項に記載のビールテイスト飲料」が記載されており、[0012](摘記1-3)には、「本発明によれば、ビールテイスト飲料の製造過程において、クワシンおよび/またはキニーネを添加することにより、ビールらしい苦味を付与することが可能となる」ことが記載され、[0025](摘記1-4)には、「本発明の好ましい実施態様によれば、本発明のビールテイスト飲料は、ホップ由来のイソα酸を実質的に含有しないビールテイスト飲料である」ことが記載されている。
また、甲1の[0037]?[0043](摘記1-5)には、実施例1について、「ビールテイスト飲料(発泡酒に大麦スピリッツを混合したものであって、香料、酸味料(85%リン酸(燐化学工業社製)、50%乳酸(ピューラック社製))を含む。最終アルコール濃度は2.6v/v%である。)生地に、各苦味素材を苦味が判断できる程度の量を秤量し添加し混合してサンプルを調製した。苦味素材の陽性対照試験として、異性化ホップエキスを使用した。こうして、試験区1?14までの各サンプルを得た」こと、及び「ビールテイストアルコール飲料に苦味を付与する素材14種類を用いて、単独でビールテイスト飲料で感じる苦味、後キレが感じられるか評価した」ことが記載されており、[0041]の表1及び[0042]の表2を参照すると、試験区1の苦味素材成分は異性化ホップエキスであり(陽性対照試験)、試験区2、3における苦味素材成分はそれぞれクワシンまたはキニーネであり、試験区4?14における苦味素材成分はその他の材料であることが読み取れるから、試験区2、3のサンプルは、「ビールテイストアルコール飲料に苦味を付与する素材」としての異性化ホップエキスが添加されていない例であると理解することができる。
そうすると、甲1には以下の発明が記載されているものと認められる。
「0.3?5ppmのクワシンおよび/または0.5?5ppmのキニーネを含み、ホップ由来のイソα酸を含有しないビールテイスト飲料であって、発泡酒に大麦スピリッツを混合したビールテイスト飲料を生地とした飲料。」(以下、「甲1-1発明」という。)
「発泡酒に大麦スピリッツを混合したビールテイスト飲料生地に、0.3?5ppmのクワシンおよび/または0.5?5ppmのキニーネを添加する工程を含み、ホップ由来のイソα酸を添加しない、甲1-1発明のビールテイスト飲料の製造方法。」(以下、「甲1-2発明」という。)

イ 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲1-1発明との対比
本件発明1と甲1-1発明とを対比すると、甲1-1発明における「ビールテイスト飲料」及び「発泡酒に大麦スピリッツを混合したビールテイスト飲料を生地とした飲料」は本件発明1における「ビールテイスト飲料」に相当する。また、甲1-1発明における「ホップ由来のイソα酸を含有しない」は、本件発明1における「イソα酸の含有量が0.1質量ppm以下」に相当する。
そうすると、両者は、
「イソα酸の含有量が0.1質量ppm以下である、ビールテイスト飲料。」の点で一致し、
相違点1:本件発明1は、全窒素量が8?38.9mg/100mlであるのに対し、甲1-1発明では、全窒素量が特定されていない点
相違点2:本件発明1は、総ポリフェノール量が10?60質量ppmであるのに対し、甲1-1発明では、総ポリフェノール量が特定されていない点
相違点3:本件発明1は、酒石酸を含み、酒石酸の濃度が480mg/L以下であるのに対し、甲1-1発明では、酒石酸を含むことが特定されていない点
相違点4:甲1-1発明は、0.3?5ppmのクワシンおよび/または0.5?5ppmのキニーネを含むのに対し、本件発明1では、クワシンおよび/またはキニーネを含むことが特定されていない点
で相違する。そこで、上記相違点について検討する。

(イ)相違点1について
(イ-1)甲1について
甲1の[0002]?[0007](摘記1-2)には、甲1-1発明が、「ビールテイスト飲料の処方設計において、ホップ使用量を低減した場合・・・ビールで感じられる苦味や後キレが損なわれてしまう」という課題を解決する手段として「ホップと同様のビールらしい苦味を呈する素材を見出すとともに、これらの素材を添加したビールテイスト飲料は、苦味と後キレのバランスがとれた、ホップを思わせるビールらしい味わいを発揮することを見出した」ものであることが記載されているが、ビールテイスト飲料の全窒素量については具体的に記載されておらず、まして、全窒素量の範囲を特定することと上記課題を解決することとの関係については、記載も示唆もされていない。

(イ-2)甲2について
甲2のp.196(摘記2-2)には、「ビールの全固形分の約5%が窒素化合物」であり、「ビールの種類によって異なるが,その範囲は約250mg/lから1,000mg/l」に及び、「日本の主なビールの全窒素含量は,副原料使用ビールで450?600mg/l,全麦芽ビールでは700?900mg/lの範囲である」ことが記載されており、「ビール中の窒素化合物は古くからその存在が知られるとともに,その香味,泡の安定性,色,混濁形成,酵母の栄養素,生物学的安定性等における役割についても知見としてはほぼ確立していると言える」ことが記載されている。
しかし、甲2のp.196(摘記2-1)、p.200?201(摘記2-2)等に、窒素化合物の由来の一つとしてホップが挙げられていることを参酌すると、甲2に記載された「ビール」の全窒素量は、ホップを原料として使用する一般的なビールにおける全窒素量であると解される。
これに対し、甲1-1発明はホップを使用しないものであり、例えば、甲1の[0002](摘記1-2)に記載されているように、「ホップ使用量を低減した場合」のビールテイスト飲料は、「ビールで感じられる苦味や後キレが損なわれてしまう」等、基本的な味や飲み口が一般的なビールとは異なるものであるから、甲1-1発明において、「香味,泡の安定性,色,混濁形成,酵母の栄養素,生物学的安定性等における役割」を有する全窒素量の範囲として、甲2に記載された一般的なビールと同じ範囲を適用することは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。
また、甲2においてはホップを使用しないビールテイスト飲料における「苦味や後切れが損なわれる」という課題は認識されておらず、甲1-1発明の課題解決に寄与する具体的な全窒素量は記載も示唆もされていないから、甲1-1発明において、甲2の記載に基いて相違点1に係る特定の全窒素量を採用することは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

(イ-3)甲3について
甲3のp.787?788(摘記3-1)には、「ビールと発泡酒の麦汁」について、「麦芽から麦汁中に抽出されるアミノ酸を中心とした窒素源(N源)・・・これらは麦芽比率が25%になるとオールモルトの場合と比較して1/3?1/4となる」ことが記載されているが、全窒素量の具体的な数値は記載されておらず、まして、ホップを使用しないビールテイスト飲料における全窒素量については、記載も示唆もされていない。

(イ-4)甲4について
甲4の特許請求の範囲(摘記4-1)には、「大麦リポキシゲナーゼ-1遺伝子第5イントロンのスプライシング供与部位(5’-GT-3’)のグアニンが他の塩基に変異していることを特徴とする大麦リポキシゲナーゼ-1変異遺伝子」(請求項1)、「請求項1または2に記載の大麦リポキシゲナーゼ-1変異遺伝子を持つ大麦のみに由来する種子、麦芽、モルトエキス、大麦分解物または大麦加工物であることを特徴とする麦芽アルコール飲料用原料」(請求項7)及び「請求項7または8に記載の麦芽アルコール飲料用原料を用いることを特徴とする麦芽アルコール飲料の製造方法」(請求項9)の発明が記載されており、[0013](摘記4-2)には、これらの発明の課題が、「遺伝子操作することなく、香味耐久性や泡持ちを改善された麦芽アルコール飲料を製造するために有用な、LOX-1変異遺伝子と、LOX-1欠失大麦の選抜方法と、選抜によって得られた大麦に由来する麦芽アルコール飲料用原料と、前記麦芽アルコール飲料用原料を用いた麦芽アルコール飲料の製造方法と、を提供すること」にあることが記載されている。
そして、[0113]?[0121]の実施例6(摘記4-4)には、「LOX-F4麦芽とLOX+F4麦芽の2点について、50Lスケール仕込設備により発泡酒仕様(麦芽使用率24%)での仕込を行なった」こと、「ろ過麦汁は液糖(糖分75%)5kgと混合し、ホップペレット(苦味分析値87.0BU(EBC))13gを添加して70分間煮沸」する工程を有していたこと、製造された発泡酒の成分分析の結果は[0121]の[表2]のとおりであり、LOX-F4品種を用いた場合の全窒素は19mg/100mlであったことが記載されている。
しかし、甲4には、ホップペレットを使用しないで発泡酒を製造することや、その場合の全窒素量については記載も示唆もされていない。
これに対し、上記(イ-2)「甲2について」において検討したとおり、甲1-1発明はホップを使用しないものであり、基本的な味や飲み口が一般的なビールとは異なるものであるから、甲1-1発明における全窒素量を甲4に記載されたホップを使用した発泡酒と同程度の量にすることは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。
また、甲4に記載された発明が解決しようとする課題は、「遺伝子操作することなく、香味耐久性や泡持ちを改善された麦芽アルコール飲料を製造する」ことにあり、ホップを使用しないビールテイスト飲料における「苦味や後切れが損なわれる」という課題は認識されておらず、甲1-1発明の課題解決に寄与する具体的な全窒素量は記載も示唆もされていないから、甲1-1発明において、甲4の記載に基いて相違点1に係る特定の全窒素量を採用することは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

(イ-5)甲5について
甲5の特許請求の範囲(摘記5-1)には、「発酵工程を経て製造されたビール様アルコール含有液を凍結乾燥させて得られるビール凍結乾燥物を含むビール様飲料用風味改善剤」(請求項1)及び「請求項1?4のいずれか一項に記載のビール様飲料用風味改善剤を含むビール様飲料」(請求項7)の発明が記載されており、[0002]?[0009](摘記5-2)には、「麦芽使用量を低減させたビール様飲料では本格的なビールの風味やコク感が失われてしまうことが多い」という従来技術の課題に対し、「ビールらしい風味が弱いビール様飲料に、ビールらしい風味を付与することができ、又はそのビールらしい風味を増強することができる添加物を提供すること」を目的とするものであることが記載されている。
そして、甲5の請求項1に係る「ビール凍結乾燥物」について、甲5の[0018]?[0021](摘記5-3)には、「ビール酵母を用いて、炭素源、窒素源、ホップ類などを含むビール醸造用液をアルコール発酵させて得られたビール風味を有する液体」を凍結乾燥させたものであることが記載され、[0035]の実施例1(摘記5-4)には、「市販のビール」の凍結乾燥物を製造したことが記載されている。
また、甲5の[0040]?[0047]の実施例3(摘記5-4)には、実施例1で得られた凍結乾燥物を「麦芽を15重量%(w/w)以下含有する穀物類をデンプン原料として用いて製造された、コクが少なくアルコール臭が目立つという特徴を有するビール様アルコール飲料B」に添加したことが記載されており、[0042]の[表2]に記載された官能評価によると、上記「ビール様アルコール飲料B」(凍結乾燥物の添加量=0g/100ml)は「コクがなく、アルコール臭が目立つ」のに対し、凍結乾燥物を1.0g/100ml添加した場合は「ややバランスとコクがある。濃度では一番良い」こと、[0046]の[表3]に記載された成分分析結果によると、上記「ビール様アルコール飲料B」及び「凍結乾燥物1.0%添加」の場合の全窒素が、それぞれ280mg/L及び352mg/Lであったことが読み取れる。
しかし、甲5には、ホップ類を含まないビール醸造溶液をアルコール発酵させて得られたビール風味の液体を凍結乾燥させ、ビール様飲料用風味改善剤として用いることについては記載されておらず、甲5に記載された発明の課題である「ビールらしい風味が弱いビール様飲料に、ビールらしい風味を付与することができ、又はそのビールらしい風味を増強することができる添加物を提供する」ことが、ホップを原料として用いない凍結乾燥物でも解決可能であるのか明らかではなく、また、その場合の全窒素がどの程度の量になるのかも明らかではない。
これに対し、上記(イ-2)「甲2について」において検討したとおり、甲1-1発明はホップを使用しないものであり、基本的な味や飲み口が一般的なビールとは異なるものであるから、甲1-1発明における全窒素量を甲5に記載されたホップを使用した凍結乾燥物を添加した場合の全窒素と同程度の量にすることは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。
また、甲5の実施例3に記載された凍結乾燥物を添加する前の「ビール様アルコール飲料B」自体は、ホップを原料として使用したことは記載されていないものの、その官能評価は「コクがなく、アルコール臭が目立つ」というものであるから、甲1-1発明における全窒素量を甲5に記載された官能評価の低い飲料と同程度の量にすることは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。
さらに、甲5においては、ホップを使用しないビールテイスト飲料における「苦味や後切れが損なわれる」という課題は具体的には認識されておらず、ホップを使用しないという前提で甲1-1発明の課題解決に寄与する具体的な全窒素量は記載も示唆もされていないから、甲1-1発明において、甲5の記載に基いて相違点1に係る特定の全窒素量を採用することは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

(イ-6)甲6について
甲6のp.505(摘記6-1)には、「我が国におけるビール消費量の圧倒的部分を占めている,原麦汁濃度(後述)10?11%の下面発酵淡色ビール(国産)」について記載されており、「原料のホップに由来する苦味物質」や「ホップの各種香気成分」がビールの特徴として挙げられている。
また、甲6のp.506(摘記6-1)には、ビールの全窒素について「ビール100ml中,35?55mg,即ち,粗蛋白質として,0.22?0.34%程度であって,量的には,炭水化物の1/10前後にすぎない」ことが記載されており、p.509の第2表(摘記6-3)には、ビール一般分析例が記載されており、全窒素(mg/100ml)は、日本の淡色ビールでは48、46、日本の濃色ビールでは80、87、アメリカの淡色ビールでは最高107、最低30、平均49、デンマークの淡色ビールでは37であることが読み取れるが、上記のとおり、甲6に記載された「ビール」の全窒素は、ホップを原料として使用する一般的なビールにおける全窒素量であると解されるものである。
これに対し、上記(イ-2)「甲2について」において検討したとおり、甲1-1発明はホップを使用しないものであり、基本的な味や飲み口が一般的なビールとは異なるものであるから、甲1-1発明における全窒素量を甲6に記載された一般的なビールと同程度の量にすることは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。
また、甲6においてはホップを使用しないビールテイスト飲料における「苦味や後切れが損なわれる」という課題は認識されておらず、甲1-1発明の課題解決に寄与する具体的な全窒素量は記載も示唆もされていないから、甲1-1発明において、甲6の記載に基いて相違点1に係る特定の全窒素量を採用することは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

(イ-7)相違点1についての判断
以上のことから、甲1-1発明において、甲1及び甲2?甲6に記載された事項に基いて、相違点1に係る特定の全窒素量を採用することは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

(ウ)本件発明1の効果について
本件明細書の[0067]の[表1]及び[0070]の[表2]に記載された実験データ等を参酌すると、本件発明1はイソα酸の含有量が0.1質量ppmであるビールテイスト飲料において、相違点1に係る全窒素量に加え、相違点2に係る総ポリフェノール量及び相違点3に係る酒石酸の濃度についての発明特定事項を備えることにより、「麦芽に起因する濁りを抑制でき、また、風味の優れたビールテイスト飲料が提供される」という効果、具体的には、味わいと飲みやすさ、及び混濁安定性を兼ね備え、さらにビールらしい軽快なのどごしを有し、コスメティックな香りは感じないという好ましい効果を奏するものである。これらの効果は甲1には記載も示唆もされておらず、ホップを使用する一般的なビールについて記載された甲2?甲6から予測することもできないものといえる。

(エ)申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書(53?54頁)において、「甲2、甲3、甲4、及び甲5に記載の事項をまとめると、ビールの全窒素量は一般に25?100mg/100mlであることが知られており、麦芽比率が少ないほど全窒素量も少なる傾向にあることが知られていた。また、麦芽比率が低い(24質量%以下)の発泡酒において、全窒素量は、本件発明1の範囲内であった。そうすると、本件発明1で特定される全窒素量・・・は、甲1-1発明のような麦芽比率が低い飲料においてごく一般的な値である」こと、及び「甲2・・・には、ビール中の窒素化合物は古くからその存在が知られるとともに、その香味や混濁形成における役割も知見としてほぼ確立している旨が記載されている。甲6・・・にも、窒素化合物がビールの味感や混濁等と関わりを持っている点が記載されている」ことから、「甲1-1発明においても、コク感等の味感及び混濁の観点から全窒素に着目してその量を検討し、特定の範囲内のものとすることは、当業者にとって容易」であり、「本件明細書・・・には、全窒素量を特定することの効果として、「味の厚み、味わい等」や、「混濁安定性」に関する効果が記載されているが、これらの効果は・・・甲2及び甲6等に記載された効果であり、当業者の予測を超えるものではない」と主張している。
しかし、上記(イ-2)「甲2について」?(イ-6)「甲6について」において検討したとおり、甲2?甲6は、いずれもホップを原料に使用する一般的なビールについて記載されたものと解されるから、ホップを使用しない甲1-1発明にそのまま適用できるものとはいえない。
また、上記(ウ)「本件発明1の効果について」に記載したとおり、本件発明1は、ホップを原料として使用しないビールテイスト飲料において、相違点1に係る全窒素量に加えて、相違点2に係る総ポリフェノール量及び相違点3に係る酒石酸の濃度を特定したことにより、「麦芽に起因する濁りを抑制でき、また、風味の優れたビールテイスト飲料が提供される」という効果を奏するものであるから、ホップを使用する一般的なビールにおける窒素化合物の役割が甲2及び甲6に記載されているとしても、本件発明1の効果を予測できるものとはいえない。
よって、申立人の主張を採用することはできない。

(オ)本件発明1のまとめ
以上のことから、相違点1については、甲1?甲6に基いて当業者が容易に想到し得たこととは認められない。
また、申立人は甲7?甲13を他の証拠として提出しているが、甲7(摘記7-1?摘記7-3)及び甲8(摘記8-1)はいずれも総ポリフェノール量について記載された文献として提出されたものであり、甲9(摘記9-1?摘記9-3)、甲10(摘記10-1?摘記10-3)、甲11(摘記11-1?摘記11-2)、甲12(摘記12-1?摘記12-3)及び甲13(摘記13-1?摘記13-3)はいずれも酒石酸について記載された文献として提出されたものであり、これらの証拠を参照しても、甲1-1発明のビールテイスト飲料において相違点1に係る特定の全窒素量を採用することは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。
さらに、本件発明1は、甲1?甲13から当業者が予測し得ない顕著な効果を奏するものである。
よって、相違点2?4について検討するまでもなく、本件発明1は甲1-1発明及び甲1?甲13に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

ウ 本件発明2?4について
本件発明2?4は、本件発明1を直接又は間接的に引用し、本件発明1の発明特定事項がさらに限定された発明特定事項を備える発明である。
そうすると、本件発明1と同様の理由により、本件発明2?4は、いずれも甲1-1発明及び甲1?甲13に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

エ 本件発明5について
(ア)本件発明5と甲1-2発明との対比
本件発明5と甲1-2発明とを対比すると、甲1-2発明における「発泡酒に大麦スピリッツを混合したビールテイスト飲料生地」を用いる「ビールテイスト飲料の製造方法」は本件発明5における「ビールテイスト飲料を製造する方法」に相当するから、両者は、
「ビールテイスト飲料の製造方法。」である点で一致し、
相違点5:製造するビールテイスト飲料が、本件発明5においては「請求項1?4のいずれかに記載のビールテイスト飲料」であるのに対し、甲1-2発明においては「甲1-1発明のビールテイスト飲料」である点
相違点6:本件発明5は、水及び麦芽を含む原料に、酵母を添加して、アルコール発酵を行う工程を有するのに対し、甲1-2発明においてはそのような工程を有することが特定されていない点
で相違する。そこで、上記相違点について検討する。

(イ)相違点5について
相違点5は、実質的に、上記イ(ア)「本件発明1と甲1-1発明との対比」に記載した相違点1?4に相当する。
そして、上記イ(イ)「相違点1について」に記載したとおり、相違点1については、甲1及び甲2?甲6に記載された事項に基いて当業者が容易に想到し得ることとはいえない。
また、申立人は甲7?甲13を他の証拠として提出しているが、甲7及び甲8はいずれも総ポリフェノール量について記載された文献として提出されたものであり、甲9?甲13はいずれも酒石酸について記載された文献として提出されたものであり、これらの証拠を参照しても、甲1-1発明のビールテイスト飲料において相違点1に係る特定の全窒素量を採用することは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。
よって、甲1-2発明において、甲1及び甲2?甲13に記載された事項に基いて、相違点5(相違点1)に係る発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

(ウ)本件発明5の効果について
上記イ(ウ)「本件発明1の効果について」における検討を踏まえると、本件発明5は「麦芽に起因する濁りを抑制でき、また、風味の優れたビールテイスト飲料が提供される」という効果、具体的には、味わいと飲みやすさ、及び混濁安定性を兼ね備え、さらにビールらしい軽快なのどごしを有し、コスメティックな香りは感じないという好ましい効果を奏するビールテイスト飲料の製造方法を提供することができるものであり、これらの効果は甲1?甲13から予測することができないものといえる。

(エ)本件発明5のまとめ
以上のことから、相違点5(相違点1)については、甲1?甲13に基いて当業者が容易に想到し得たこととは認められない。
また、本件発明5は、甲1?甲13から当業者が予測し得ない顕著な効果を奏するものである。
よって、相違点6(及び相違点2?4)について検討するまでもなく、本件発明5は甲1-2発明及び甲1?甲13に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

オ 本件発明6?10について
本件発明6?10は、本件発明5を直接又は間接的に引用し、本件発明5の発明特定事項がさらに限定された発明特定事項を備える発明である。
そうすると、本件発明5と同様の理由により、本件発明6?10は、いずれも甲1-2発明及び甲1?甲13に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

カ 理由1-1:進歩性、甲第1号証を主引用例とする場合のまとめ
以上まとめると、本件発明1?10は、いずれも甲1に記載された発明及び甲1?甲13に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
よって、特許異議申立書に記載された理由1-1:進歩性、甲第1号証を主引用例とする場合についての特許異議申立理由により、本件請求項1?10に係る特許を取り消すことはできない。

(3)理由1-2:進歩性、甲第4号証を主引用例とする場合
ア 甲4に記載された発明
甲4の特許請求の範囲(摘記4-1)には、「大麦リポキシゲナーゼ-1遺伝子第5イントロンのスプライシング供与部位(5’-GT-3’)のグアニンが他の塩基に変異していることを特徴とする大麦リポキシゲナーゼ-1変異遺伝子」(請求項1)、「請求項1または2に記載の大麦リポキシゲナーゼ-1変異遺伝子を持つ大麦のみに由来する種子、麦芽、モルトエキス、大麦分解物または大麦加工物であることを特徴とする麦芽アルコール飲料用原料」(請求項7)及び「請求項7または8に記載の麦芽アルコール飲料用原料を用いることを特徴とする麦芽アルコール飲料の製造方法」(請求項9)の発明が記載されており、[0002](摘記4-2)には、「麦芽に含まれる酵素である大麦リポキシゲナーゼ-1」を「LOX-1」ということが記載されている。
また、[0100]の実施例4(摘記4-4)には、「大正麦×SV73の交配に由来する、LOX-1活性を有しない大麦種子からなるLOX-1欠失大麦F4集団(LOX-F4)と、LOX-1を有する大麦種子からLOX活性保有大麦F4集団(LOX+F4)をつくり、製麦に用いた」こと、及び[0113]?[0121]の実施例6(摘記4-4)には、「実施例11(当審注:実施例4の誤記と認められる。)で得られたLOX-F4麦芽とLOX+F4麦芽の2点について、50Lスケール仕込設備により発泡酒仕様(麦芽使用率24%)での仕込を行なった」こと、仕込み条件は[0114]?[0117]に記載されたとおりであること、得られた冷麦汁から[0118]?[0119]に記載されたとおりの方法で麦芽アルコール飲料(発泡酒)を製造したこと、及び製造された発泡酒の成分分析の結果は[0121]の[表2]のとおりであり、LOX-F4品種を用いた場合の全窒素は19mg/100ml、ポリフェノールは43mg/Lであったことが記載されている。
そうすると、甲4には、実施例6に基づいて以下の発明が記載されているものと認められる。
「LOX-F4麦芽1.5kgを単用で15Lの仕込用水により50℃、20分→65℃、30分→75℃、3分のダイアグラムに従って仕込み、ロイター設備により麦汁ろ過を行ない、最終的に35Lのろ過麦汁を得、得られたろ過麦汁は液糖(糖分75%)5kgと混合し、ホップペレット(苦味分析値87.0BU(EBC))13gを添加して70分間煮沸し、10℃まで冷却し、加水によるエキス調整によりエキス含量11.6?11.8%の冷麦汁とし、得られた冷麦汁を蒸気殺菌した30Lスケールのシリンドロコニカル型タンクに移し、初期濃度3000万cells/mLとなるように酵母を添加し、13℃にて主発酵を行ない、発酵液のエキスが2.5%まで切れた段階で同型のタンクに移し替え、貯酒工程を行い、貯酒工程は最初の6日間は13℃にて、その後の2週間は0℃にて行い、貯酒工程の終わった発酵液は、ビールろ過設備及び充填設備にて、ビールをろ過し、壜への充填を行なって得られた、全窒素19mg/100ml及びポリフェノール43mg/Lである、麦芽アルコール飲料(発泡酒)。」(以下、「甲4-1発明」という。)
「LOX-F4麦芽1.5kgを単用で15Lの仕込用水により50℃、20分→65℃、30分→75℃、3分のダイアグラムに従って仕込み、ロイター設備により麦汁ろ過を行ない、最終的に35Lのろ過麦汁を得、得られたろ過麦汁は液糖(糖分75%)5kgと混合し、ホップペレット(苦味分析値87.0BU(EBC))13gを添加して70分間煮沸し、10℃まで冷却し、加水によるエキス調整によりエキス含量11.6?11.8%の冷麦汁とし、得られた冷麦汁を蒸気殺菌した30Lスケールのシリンドロコニカル型タンクに移し、初期濃度3000万cells/mLとなるように酵母を添加し、13℃にて主発酵を行ない、発酵液のエキスが2.5%まで切れた段階で同型のタンクに移し替え、貯酒工程を行い、貯酒工程は最初の6日間は13℃にて、その後の2週間は0℃にて行い、貯酒工程の終わった発酵液は、ビールろ過設備及び充填設備にて、ビールをろ過し、壜への充填を行なう、全窒素19mg/100ml及びポリフェノール43mg/Lである、甲4-1発明の麦芽アルコール飲料(発泡酒)の製造方法。」(以下、「甲4-2発明」という。)

イ 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲4-1発明との対比
本件発明1と甲4-1発明とを対比すると、甲4-1発明における「LOX-F4麦芽1.5kgを・・・(中略)・・・行なって得られた・・・麦芽アルコール飲料(発泡酒)」は、本件発明1における「ビールテイスト飲料」に相当する。また、甲4-1発明における「全窒素19mg/100ml」は、本件発明1における「全窒素量が8?38.9mg/100ml」に相当し、甲4-1発明における「ポリフェノール43質量ppm」は、本件発明1における「総ポリフェノール量が10?60質量ppm」に相当する。
そうすると、両者は、
「全窒素量が8?38.9mg/100ml、総ポリフェノール量が10?60質量ppmである、ビールテイスト飲料。」の点で一致し、
相違点7:本件発明1は、イソα酸の含有量が0.1ppm以下であるのに対し、甲4-1発明は原料の一つとしてホップペレットを用いることが特定されたものである点
相違点8:本件発明1は、酒石酸を含み、酒石酸の濃度が480mg/L以下であるのに対し、甲4-1発明では、酒石酸を含むことが特定されていない点
で相違する。そこで、上記相違点について検討する。

(イ)相違点7について
(イ-1)甲4について
本件発明1における「イソα酸の含有量が0.1質量ppm以下」という発明特定事項は、本件明細書の[0010]の記載等を参酌すると、「ホップに由来する成分を実質的に含まない」、すなわち、「ビールテイスト飲料を製造する際に、原材料として、ホップおよびホップに由来する成分をいずれも積極的に添加しない」ことを意味するものと解される。
これに対して、甲4-1発明は、原料の一つとして「ホップペレット」を用いる特定の製造方法(実施例6)により製造されるものであるから、ホップに由来する成分である「イソα酸」を含有し、したがって「イソα酸の含有量が0.1質量ppm以下」という要件を満たさないものと解される。よって、相違点7は実質的な相違点である。
また、甲4の[0013](摘記4-2)には、甲4に記載された発明の課題が、「遺伝子操作することなく、香味耐久性や泡持ちを改善された麦芽アルコール飲料を製造するために有用な、LOX-1変異遺伝子と、LOX-1欠失大麦の選抜方法と、選抜によって得られた大麦に由来する麦芽アルコール飲料用原料と、前記麦芽アルコール飲料用原料を用いた麦芽アルコール飲料の製造方法と、を提供すること」にあることが記載されているところ、甲4-1発明は、原料の一つとして「ホップペレット」を用いることを前提として、特定の製造方法(実施例6)を採用したことにより、上記「香味耐久性や泡持ちを改善」するという課題を解決した、特定の含有成分からなる(表2)麦芽アルコール飲料(発泡酒)であると解されるものである。そして、ホップペレットの使用の有無が、製造される麦芽アルコール飲料(発泡酒)の香味等に影響することは明らかであるから、ホップペレットを用いることを前提とした甲4-1発明(実施例6)において、ホップペレットを用いない構成を採用することは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

(イ-2)甲14について
甲14の特許請求の範囲(摘記14-1)には、「苦味物質及び麦芽エキスを含むビールテイスト飲料であって、リナロールを0.1?1000ppb及び/又はダイアセチルを4?30ppb含む、アルコール含有ビールテイスト飲料」(請求項1)及び「α酸及びイソα酸の合計含有量が0?0.1ppmである、請求項1に記載のビールテイスト飲料」(請求項2)の発明が記載されており、[0002]?[0012](摘記14-2)には、甲14に記載された発明の課題が、「アルコールの刺激感、酒そのものの風味や苦味を苦手とする消費者に対して、自然なほろ苦さとスッキリとした飲みやすさを有する新規なビールテイスト飲料を提供すること」にあること、及び「α酸及びイソα酸濃度を極微量に抑制することによって、スッキリとして飲みやすいビールテイスト飲料を得ることができることを見出した」ことが記載されている。
これに対し、甲4-1発明は、原料の一つとして「ホップペレット」を用いることを前提として、特定の製造方法(実施例6)を採用したことにより、上記「香味耐久性や泡持ちを改善」するという課題を解決した、特定の含有成分からなる(表2)麦芽アルコール飲料(発泡酒)であると解されるものであり、当該実施例6においてホップペレットに由来する「α酸及びイソα酸濃度を極微量に抑制する」ことは、実施例6の製造条件を損なうものであるから、当業者が採用を動機付けられることとはいえない。
また、甲14に記載された発明の課題は、甲4-1発明の「香味耐久性や泡持ちを改善」する等の課題とは異なるものであり、当業者が甲14及び甲4の記載を参照しても、甲14の課題解決に寄与する「α酸及びイソα酸濃度を極微量に抑制する」ことが、甲4の「香味耐久性や泡持ち」についての課題解決に寄与するものとは認識できないから、甲4-1発明において、甲14の記載に基いて相違点7に係る「イソα酸の含有量が0.1質量ppm以下」という発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

(イ-3)相違点7についての判断
以上のことから、甲4-1発明において、甲4及び甲14に記載された事項に基いて、相違点7に係る「イソα酸の含有量が0.1質量ppm以下」という発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

(ウ)本件発明1の効果について
上記(2)イ(ウ)「本件発明1の効果について」における検討を踏まえると、本件発明1は相違点7に係るイソα酸の含有量に加え、全窒素量、総ポリフェノール量及び相違点8に係る酒石酸の濃度を特定したことにより、「麦芽に起因する濁りを抑制でき、また、風味の優れたビールテイスト飲料が提供される」という効果、具体的には、味わいと飲みやすさ、及び混濁安定性を兼ね備え、さらにビールらしい軽快なのどごしを有し、コスメティックな香りは感じないという好ましい効果を奏するものである。
これらの効果は甲4、甲14には記載も示唆もされておらず、甲4及び甲14から予測することができないものといえる。

(エ)申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書(67?68頁)において、「甲4(段落0055)には、・・・ホップが原料の一例として挙げられてはいるもの、あくまで一例であり、任意成分として記載されている。すなわち、甲4-1発明は、ホップを不使用とすることができるものである」、「当業者であれば、甲4-1発明においても、近年の若年層を中心としたビール離れに対応するために、甲14の示唆に従って、リナロール及び/又はダイアセチルを特定濃度に調整し、苦味物質と麦芽エキスとを含有させた上で、ホップを不使用として、α酸及びイソα酸の合計含有量を0?0.1ppmにしようという動機付けを得る」と主張している。
しかし、上記(イ)(イ-1)「甲4について」に記載したとおり、実施例6に基づいて認定できる甲4-1発明は、原料の一つとして「ホップペレット」を用いることを前提として、特定の製造方法(実施例6)を採用したことにより、上記「香味耐久性や泡持ちを改善」するという課題を解決した、特定の含有成分からなる(表2)麦芽アルコール飲料(発泡酒)であると解されるものであるから、ホップを不使用とすることは当業者が容易に想到し得ることとはいえない。
また、仮に、甲4においてホップペレットを用いることが任意であるとしても、上記(イ)(イ-2)「甲14について」に記載したとおり、甲4と甲14とは解決しようとする課題が相違するから、甲4において甲14の発明特定事項を採用することが動機付けられるものではないし、さらに、上記(2)イ(イ)(イ-2)「甲2について」に記載したとおり、ホップを使用しないビールテイスト飲料は、基本的な味や飲み口がホップを使用する一般的なビールテイスト飲料とは異なるものとなるから、当業者は、仮に甲4-1発明(実施例6)においてホップペレットを添加しない製造方法を採用した場合は、実施例6とは基本的な味や飲み口が異なるものとなり、上記「香味耐久性や泡持ちを改善」するという課題を解決できるとは限らないと解し、したがって、ホップペレットを添加しない製造方法を採用することは動機付けられないといえる。
さらに、上記(ウ)「本件発明1の効果について」に記載したとおり、甲4、甲14には、「麦芽に起因する濁りを抑制でき、また、風味の優れたビールテイスト飲料が提供される」という本件発明1の課題解決の観点から、全窒素、ポリフェノール及びリナロール等の含有量を特定することは記載も示唆もされていないから、当業者が甲4-1発明において、ホップペレットを用いない製造方法を採用した上で、さらに得られる麦芽アルコール飲料(発泡酒)に含まれる全窒素及び総ポリフェノール量を実施例6と同量に維持し、さらに酒石酸を特定量添加することが動機付けられるとはいえない。
よって、申立人の主張を採用することはできない。

(オ)本件発明1のまとめ
以上のことから、相違点7については、甲4及び甲14に基いて当業者が容易に想到し得たこととは認められない。
また、申立人は甲9?甲13を他の証拠として提出しているが、甲9(摘記9-1?摘記9-3)、甲10(摘記10-1?摘記10-3)、甲11(摘記11-1?摘記11-2)、甲12(摘記12-1?摘記12-3)及び甲13(摘記13-1?摘記13-3)はいずれも酒石酸について記載された文献として提出されたものであり、これらの証拠を参照しても、甲4-1発明のビールテイスト飲料において相違点7に係る「イソα酸の含有量が0.1質量ppm以下」という発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。
さらに、本件発明1は、甲4、甲14及び甲9?甲13から当業者が予測し得ない顕著な効果を奏するものである。
よって、相違点8について検討するまでもなく、本件発明1は甲4-1発明並びに甲4及び甲9?甲14に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

ウ 本件発明2?4について
本件発明2?4は、本件発明1を直接又は間接的に引用し、本件発明1の発明特定事項がさらに限定された発明特定事項を備える発明である。
そうすると、本件発明1と同様の理由により、本件発明2?4は、いずれも甲4-1発明並びに甲4及び甲9?甲14に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

エ 本件発明5について
(ア)本件発明5と甲4-2発明との対比
本件発明5と甲4-2発明とを対比すると、甲4-2発明における「LOX-F4麦芽1.5kgを・・・(中略)・・・その後の2週間は0℃にて行」う工程は、本件発明5における「水および麦芽を含む原料に、酵母を添加して、アルコール発酵を行う工程」に相当し、甲4-2発明における、上記工程及び「貯酒工程の終わった発酵液は、ビールろ過設備及び充填設備にて、ビールをろ過し、壜への充填を行なう」工程を含む「麦芽アルコール飲料(発泡酒)の製造方法」は、本件発明5における「ビールテイスト飲料を製造する方法」に相当するから、両者は、
「ビールテイスト飲料を製造する方法であって、
水および麦芽を含む原料に、酵母を添加して、アルコール発酵を行う工程を有する、ビールテイスト飲料の製造方法。」である点で一致し、
相違点9:製造するビールテイスト飲料が、本件発明5においては「請求項1?4のいずれかに記載のビールテイスト飲料」であるのに対し、甲4-2発明においては「甲4-1発明のビールテイスト飲料」である点
で相違する。そこで、上記相違点について検討する。

(イ)相違点9について
相違点9は、実質的に、上記イ(ア)「本件発明1と甲4-1発明との対比」に記載した相違点7及び8に相当する。
そして、上記イ(イ)「相違点7について」に記載したとおり、相違点7については、甲4及び甲14に記載された事項に基いて当業者が容易に想到し得ることとはいえない。
また、申立人は甲9?甲13を他の証拠として提出しているが、これらはいずれも酒石酸について記載された文献として提出されたものであり、これらの証拠を参照しても、甲4-1発明のビールテイスト飲料において相違点7に係る「イソα酸の含有量が0.1質量ppm以下」という発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。
よって、甲4-2発明において、甲4及び甲9?甲14に記載された事項に基いて、相違点9(相違点7)に係る発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

(ウ)本件発明5の効果について
上記イ(ウ)「本件発明1の効果について」における検討を踏まえると、本件発明5は「麦芽に起因する濁りを抑制でき、また、風味の優れたビールテイスト飲料が提供される」という効果、具体的には、味わいと飲みやすさ、及び混濁安定性を兼ね備え、さらにビールらしい軽快なのどごしを有し、コスメティックな香りは感じないという好ましい効果を奏するビールテイスト飲料の製造方法を提供することができるものであり、これらの効果は甲4及び甲9?甲14から予測することができないものといえる。

(エ)本件発明5のまとめ
以上のことから、相違点9(相違点7)については、甲4及び甲9?甲14に基いて当業者が容易に想到し得たこととは認められない。
また、本件発明5は、甲4及び甲9?甲14から当業者が予測し得ない顕著な効果を奏するものである。
よって、本件発明5は甲4-2発明並びに甲4及び甲9?甲14に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

オ 本件発明6?10について
本件発明6?10は、本件発明5を直接又は間接的に引用し、本件発明5の発明特定事項がさらに限定された発明特定事項を備える発明であるから、本件発明5と同様のことがいえる。
また、申立人は甲3及び甲15を他の証拠として提出しているが、甲3(摘記3-1)はホップを使用する一般的なビール又は発泡酒における麦芽比率について記載された文献であり(上記(2)イ(イ)(イ-3)「甲3について」を参照。)、甲15(摘記15-1?摘記15-3)は小麦スピリッツについて記載された文献として提出されたものであり、これらの証拠を参照しても、甲4-1発明のビールテイスト飲料において相違点7に係る「イソα酸の含有量が0.1質量ppm以下」という発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。
さらに、本件発明6?10は、甲4、甲14、甲3、甲9?甲13及び甲15から当業者が予測し得ない顕著な効果を奏するものである。
よって、本件発明6?10は、いずれも甲4-2発明並びに甲3、甲4及び甲9?甲15に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

カ 理由1-2:進歩性、甲第4号証を主引用例とする場合のまとめ
以上まとめると、本件発明1?10は、いずれも甲4に記載された発明並びに甲3、甲4及び甲9?甲15に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
よって、特許異議申立書に記載された理由1-2:進歩性、甲第4号証を主引用例とする場合についての特許異議申立理由により、本件請求項1?10に係る特許を取り消すことはできない。

(4)理由1-3:進歩性、甲第16号証を主引用例とする場合
ア 甲16に記載された発明
甲16の請求項1(摘記16-1)には、「発酵原料の麦芽比率が25質量%未満であり、ホルダチン類の含有量が7?9ppmであり、リナロール含有量が4?8ppbであることを特徴とする、発酵麦芽飲料」の発明が記載されており、[0024](摘記16-3)には、「煮沸処理前又は煮沸処理中に、香草等を適宜添加することにより、所望の香味を有する発酵麦芽飲料を製造することができる。・・・ホップの存在下で煮沸処理することにより、ポリフェノールをはじめとするホップの風味・香気成分を効率よく煮出することができる」ことが記載されている。
また、甲16の[0033]の参考例1(摘記16-4)には、「仕込槽に、40kgの発酵原料及び160Lの原料水を投入し、当該仕込槽内の混合物を常法に従って加温して糖化液を製造した。得られた糖化液を濾過し、得られた濾液にホップを添加した後、煮沸して麦汁(穀物煮汁)を得」る工程を含む参考例1の発酵麦芽飲料の製造方法が記載されており、[0035]?[0042]の実施例1(摘記16-4)には、「麦芽比率が24質量%となるように麦芽粉砕物とコーンスターチを混合した混合物を、発酵原料として用い、ビール酵母接種前の冷麦汁に、ホルダチン類とリナロール(香料)を飲料中の最終濃度が表1に示す濃度になるように添加した以外は参考例1と同様にして発酵麦芽飲料を製造した」ことが記載されており、[0042]には、「表1に示すように、発酵麦芽飲料の渋味は、・・・7ppmの発酵麦芽飲料と9ppmの発酵麦芽飲料では良好であり、8ppmでは非常に良好であった。また、発酵麦芽飲料の華やかな香りは、リナロール含有量が・・・4ppbでは良好であり、6?8ppbでは非常に良好であった」ことが記載されている。
そうすると、甲16には、実施例1に基づいて以下の発明が記載されているものと認められる。
「麦芽比率が24質量%となるように麦芽粉砕物とコーンスターチを混合した混合物を、発酵原料として用い、仕込槽に、40kgの発酵原料及び160Lの原料水を投入し、当該仕込槽内の混合物を常法に従って加温して糖化液を製造し、得られた糖化液を濾過し、得られた濾液にホップを添加した後、煮沸して麦汁(穀物煮汁)を得、次いで、80?99℃程度の麦汁を沈降槽に移して沈殿物を分離、除去した後、約7℃に冷却し、当該冷麦汁にホルダチン類とリナロールを、飲料中の最終濃度がホルダチン類7?9ppm、リナロール4?8ppbになるように添加し、ビール酵母を接種し、約10℃で7日間発酵させた後、7日間貯酒タンク中で熟成させ、熟成後の発酵液をフィルター濾過(平均孔径:0.65μm)して得られる、ビールテイストの発酵麦芽飲料。」(以下、「甲16-1発明」という。)
「麦芽比率が24質量%となるように麦芽粉砕物とコーンスターチを混合した混合物を、発酵原料として用い、仕込槽に、40kgの発酵原料及び160Lの原料水を投入し、当該仕込槽内の混合物を常法に従って加温して糖化液を製造し、得られた糖化液を濾過し、得られた濾液にホップを添加した後、煮沸して麦汁(穀物煮汁)を得、次いで、80?99℃程度の麦汁を沈降槽に移して沈殿物を分離、除去した後、約7℃に冷却し、当該冷麦汁にホルダチン類とリナロールを、飲料中の最終濃度がホルダチン類7?9ppm、リナロール4?8ppbになるように添加し、ビール酵母を接種し、約10℃で7日間発酵させた後、7日間貯酒タンク中で熟成させ、熟成後の発酵液をフィルター濾過(平均孔径:0.65μm)する工程を有する、甲16-1発明のビールテイストの発酵麦芽飲料の製法方法。」(以下、「甲16-2発明」という。)

イ 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲16-1発明との対比
本件発明1と甲16-1発明とを対比すると、甲16-1発明における「麦芽比率が24質量%となるように麦芽粉砕物とコーンスターチを混合した混合物を・・・(中略)・・・フィルター濾過(平均孔径:0.65μm)して得られる、ビールテイストの発酵麦芽飲料」は、本件発明1における「ビールテイスト飲料」に相当する。
そうすると、両者は、
「ビールテイスト飲料。」の点で一致し、
相違点10:本件発明1は、イソα酸の含有量が0.1ppm以下であるのに対し、甲16-1発明は原料の一つとしてホップを用いることが特定されたものである点
相違点11:本件発明1は、全窒素量が8?38.9mg/100mlであるのに対し、甲16-1発明では、全窒素量が特定されていない点
相違点12:本件発明1は、総ポリフェノール量が10?60質量ppmであるのに対し、甲16-1発明では、総ポリフェノール量が特定されていない点
相違点13:本件発明1は、酒石酸を含み、酒石酸の濃度が480mg/L以下であるのに対し、甲16-1発明では、酒石酸を含むことが特定されていない点
で相違する。そこで、上記相違点について検討する。

(イ)相違点10について
(イ-1)甲16について
本件発明1における「イソα酸の含有量が0.1質量ppm以下」という発明特定事項は、本件明細書の[0010]の記載等を参酌すると、「ホップに由来する成分を実質的に含まない」、すなわち、「ビールテイスト飲料を製造する際に、原材料として、ホップおよびホップに由来する成分をいずれも積極的に添加しない」ことを意味するものと解される。
これに対して、甲16-1発明は、原料の一つとして「ホップ」を用いる特定の製造方法(実施例1)により製造されるものであるから、ホップに由来する成分である「イソα酸」を含有し、したがって「イソα酸の含有量が0.1質量ppm以下」という要件を満たさないものと解される。よって、相違点10は実質的な相違点である。
また、甲16の[0006](摘記16-2)には、甲16に記載された発明の課題が、「麦芽オフフレーバーが少ないにもかかわらず、充分な渋味を有し、かつ華やかな香りを有する発酵麦芽飲料を提供すること」にあることが記載されているところ、甲16の[0024](摘記16-3)には、「ホップの存在下で煮沸処理することにより、ポリフェノールをはじめとするホップの風味・香気成分を効率よく煮出することができる」ことが記載されているから、ホップの使用は上記課題の一つである「麦芽オフフレーバーが少ないにもかかわらず、充分な渋味を有し、かつ華やかな香りを有する」ことに寄与することであると解される。そうすると、ホップを用いることを前提とした甲16-1発明(実施例1)において、ホップを用いない構成を採用することは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

(イ-2)甲14について
上記(3)イ(イ)(イ-2)「甲14について」における検討を踏まえると、甲14に記載された発明は、「アルコールの刺激感、酒そのものの風味や苦味を苦手とする消費者に対して、自然なほろ苦さとスッキリとした飲みやすさを有する新規なビールテイスト飲料を提供すること」を課題とするものであり、「α酸及びイソα酸濃度を極微量に抑制することによって、スッキリとして飲みやすいビールテイスト飲料を得ることができることを見出した」ものであるといえる。
これに対し、甲16-1発明は、原料の一つとして「ホップ」を用いる特定の製造方法(実施例1)を用いることを前提として、特定量のホルダチン類及びリナロール(表1)を含有させることにより、上記「麦芽オフフレーバーが少ないにもかかわらず、充分な渋味を有し、かつ華やかな香りを有する発酵麦芽飲料を提供」するという課題を解決した発酵麦芽飲料であると解されるものであり、当該実施例1においてホップに由来する「α酸及びイソα酸濃度を極微量に抑制する」ことは、実施例1の製造条件を損なうものであるから、当業者が採用を動機付けられることとはいえない。
また、甲14に記載された発明の課題は、甲16-1発明の「麦芽オフフレーバーが少ないにもかかわらず、充分な渋味を有し、かつ華やかな香りを有」する等の課題とは異なるものであり、当業者が甲14及び甲16の記載を参照しても、甲14の課題解決に寄与する「α酸及びイソα酸濃度を極微量に抑制する」ことが、甲16の上記課題の解決に寄与するものとは認識できないから、甲16-1発明において、甲14の記載に基いて相違点10に係る「イソα酸の含有量が0.1質量ppm以下」という発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

(イ-3)相違点10についての判断
以上のことから、甲16-1発明において、甲16及び甲14に記載された事項に基いて、相違点10に係る「イソα酸の含有量が0.1質量ppm以下」という発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

(ウ)本件発明1の効果について
上記(2)イ(ウ)「本件発明1の効果について」における検討を踏まえると、本件発明1は相違点10に係るイソα酸の含有量に加え、相違点11の全窒素量、相違点12の総ポリフェノール量及び相違点13の酒石酸の濃度を特定したことにより、「麦芽に起因する濁りを抑制でき、また、風味の優れたビールテイスト飲料が提供される」という効果、具体的には、味わいと飲みやすさ、及び混濁安定性を兼ね備え、さらにビールらしい軽快なのどごしを有し、コスメティックな香りは感じないという好ましい効果を奏するものである。
これらの効果は甲16、甲14には記載も示唆もされておらず、甲16及び甲14から予測することができないものといえる。

(エ)申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書(76頁)において、「甲16(段落0021)には、・・・ホップが原料の一例として挙げられてはいるもの、あくまで一例であり、任意成分として記載されている。すなわち、甲16-1発明は、ホップを不使用とすることができるものである」、「甲16-1発明においても、・・・甲14の示唆に従って、近年の若年層を中心としたビール離れに対応するために、苦味物質と麦芽エキスとを含有させた上で、ホップを不使用として、α酸及びイソα酸の合計含有量を0?0.1ppmにすることは、当業者にとって容易である」と主張している。
しかし、上記(イ)(イ-1)「甲16について」に記載したとおり、実施例1に基づいて認定できる甲16-1発明は、原料の一つとして「ホップ」を用いることを前提として、特定量のホルダチン類及びリナロール(表1)を含有させることにより、上記「麦芽オフフレーバーが少ないにもかかわらず、充分な渋味を有し、かつ華やかな香りを有する発酵麦芽飲料を提供」するという課題を解決した発酵麦芽飲料であると解されるものであるから、ホップを不使用とすることは当業者が容易に想到し得ることとはいえない。
また、仮に、甲16においてホップを用いることが任意であるとしても、上記(イ)(イ-2)「甲14について」に記載したとおり、甲16と甲14とは解決しようとする課題が相違するから、甲16において甲14の発明特定事項を採用することが動機付けられるものではないし、さらに、上記(2)イ(イ)(イ-2)「甲2について」に記載したとおり、ホップを使用しないビールテイスト飲料は、基本的な味や飲み口がホップを使用する一般的なビールテイスト飲料とは異なるものとなるから、当業者は、仮に甲16-1発明(実施例1)においてホップペレットを添加しない製造方法を採用した場合は、実施例1とは基本的な味や飲み口が異なるものとなり、上記「麦芽オフフレーバーが少ないにもかかわらず、充分な渋味を有し、かつ華やかな香りを有する」という課題を解決できるとは限らないと解し、したがって、ホップを添加しない製造方法を採用することは動機付けられないといえる。
さらに、上記(ウ)「本件発明1の効果について」に記載したとおり、甲16、甲14には、「麦芽に起因する濁りを抑制でき、また、風味の優れたビールテイスト飲料が提供される」という本件発明1の課題解決の観点から、全窒素、総ポリフェノール及び酒石酸等の含有量を特定することは記載も示唆もされていないから、当業者が甲16-1発明において、ホップを用いない製造方法を採用した上で、さらに得られる発酵麦芽飲料に含まれる全窒素量及び総ポリフェノール量を相違点11及び12のように特定し、さらに酒石酸を特定の濃度になるように添加することが動機付けられるとはいえない。
よって、申立人の主張を採用することはできない。

(オ)本件発明1のまとめ
以上のことから、相違点10については、甲16及び甲14に基いて当業者が容易に想到し得たこととは認められない。
また、申立人は甲2?甲13を他の証拠として提出しているが、甲2?甲6はいずれもホップを使用する一般的なビール又は発泡酒における全窒素量、麦芽比率等について記載された文献であり(上記(2)イ(イ)(イ-2)「甲2について」?同(イ-6)「甲6について」を参照。)、甲7(摘記7-1?摘記7-3)及び甲8(摘記8-1)はいずれも総ポリフェノール量について記載された文献として提出されたものであり、甲9(摘記9-1?摘記9-3)、甲10(摘記10-1?摘記10-3)、甲11(摘記11-1?摘記11-2)、甲12(摘記12-1?摘記12-3)及び甲13(摘記13-1?摘記13-3)はいずれも酒石酸について記載された文献として提出されたものであり、これらの証拠を参照しても、甲16-1発明のビールテイスト飲料において相違点10に係る「イソα酸の含有量が0.1質量ppm以下」という発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。
さらに、本件発明1は、甲16、甲14及び甲2?甲13から当業者が予測し得ない顕著な効果を奏するものである。
よって、相違点11?13について検討するまでもなく、本件発明1は甲16-1発明並びに甲2?甲14及び甲16に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

ウ 本件発明2?4について
本件発明2?4は、本件発明1を直接又は間接的に引用し、本件発明1の発明特定事項がさらに限定された発明特定事項を備える発明である。
そうすると、本件発明1と同様の理由により、本件発明2?4は、いずれも甲16-1発明並びに甲2?甲14及び甲16に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

エ 本件発明5について
(ア)本件発明5と甲16-2発明との対比
本件発明5と甲16-2発明とを対比すると、甲16-2発明における「麦芽比率が24質量%となるように麦芽粉砕物とコーンスターチを混合した混合物を・・・(中略)・・・7日間貯酒タンク中で熟成させ」る工程は、本件発明5における「水および麦芽を含む原料に、酵母を添加して、アルコール発酵を行う工程」に相当し、甲16-2発明における、上記工程及び「熟成後の発酵液をフィルター濾過(平均孔径:0.65μm)する工程」を含む「ビールテイストの発酵麦芽飲料の製法方法」は、本件発明5における「ビールテイスト飲料を製造する方法」に相当するから、両者は、
「ビールテイスト飲料を製造する方法であって、
水および麦芽を含む原料に、酵母を添加して、アルコール発酵を行う工程を有する、ビールテイスト飲料の製造方法。」である点で一致し、
相違点14:製造するビールテイスト飲料が、本件発明5においては「請求項1?4のいずれかに記載のビールテイスト飲料」であるのに対し、甲16-2発明においては「甲16-1発明のビールテイストの発酵麦芽飲料」である点
で相違する。そこで、上記相違点について検討する。

(イ)相違点14について
相違点14は、実質的に、上記イ(ア)「本件発明1と甲16-1発明との対比」に記載した相違点10?13に相当する。
そして、上記イ(イ)「相違点10について」に記載したとおり、相違点10については、甲16及び甲14に記載された事項に基いて当業者が容易に想到し得ることとはいえない。
また、申立人は甲2?甲13を他の証拠として提出しているが、甲2?甲6はいずれもホップを使用する一般的なビール又は発泡酒における全窒素量、麦芽比率等について記載された文献であり、甲7及び甲8はいずれも総ポリフェノール量について記載された文献として提出されたものであり、甲9?甲13はいずれも酒石酸について記載された文献として提出されたものであり、これらの証拠を参照しても、甲16-1発明のビールテイスト飲料において相違点10に係る「イソα酸の含有量が0.1質量ppm以下」という発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。
よって、甲16-2発明において、甲2?甲14及び甲16に記載された事項に基いて、相違点14(相違点10)に係る発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

(ウ)本件発明5の効果について
上記イ(ウ)「本件発明1の効果について」における検討を踏まえると、本件発明5は「麦芽に起因する濁りを抑制でき、また、風味の優れたビールテイスト飲料が提供される」という効果、具体的には、味わいと飲みやすさ、及び混濁安定性を兼ね備え、さらにビールらしい軽快なのどごしを有し、コスメティックな香りは感じないという好ましい効果を奏するビールテイスト飲料の製造方法を提供することができるものであり、これらの効果は甲2?甲14及び甲16から予測することができないものといえる。

(エ)本件発明5のまとめ
以上のことから、相違点14(相違点10)については、甲2?甲14及び甲16に基いて当業者が容易に想到し得たこととは認められない。
また、本件発明5は、甲2?甲14及び甲16から当業者が予測し得ない顕著な効果を奏するものである。
よって、本件発明5は甲16-2発明並びに甲2?甲14及び甲16に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

オ 本件発明6?10について
本件発明6?10は、本件発明5を直接又は間接的に引用し、本件発明5の発明特定事項がさらに限定された発明特定事項を備える発明である。
そうすると、本件発明5と同様の理由により、本件発明6?10は、いずれも甲16-2発明並びに甲2?甲14及び甲16に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

カ 理由1-3:進歩性、甲第16号証を主引用例とする場合のまとめ
以上まとめると、本件発明1?10は、いずれも甲16に記載された発明及び甲2?甲14及び甲16に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
よって、特許異議申立書に記載された理由1-3:進歩性、甲第16号証を主引用例とする場合についての特許異議申立理由により、本件請求項1?10に係る特許を取り消すことはできない。

(5)理由1-4:進歩性、甲第17号証を主引用例とする場合
ア 甲17に記載された発明
甲17の特許請求の範囲(摘記17-1)には、「クエン酸換算の酸度が0.05g/100mL以上0.30g/100mL未満であり、苦味価が15B.U.以下である、ビールテイスト飲料」(請求項1)、「更に、リン酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、クエン酸、グルコン酸およびフィチン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種以上の酸味料を含有する、請求項1から5のいずれかに記載のビールテイスト飲料」(請求項6)及び「前記酸味料が、リン酸及び/又は酒石酸を含有する、請求項6に記載のビールテイスト飲料」(請求項7)の発明が記載されており、[0012](摘記17-3)には、「ビールテイスト飲料には、苦味価が15B.U.以下になる範囲において、ホップ由来成分が含まれていてもよい。但し、ホップ由来成分が含まれていなくてもよい」ことが記載され、[0013](摘記17-3)には、「本発明において、酸度とは飲料100mL中に含まれる酸量をクエン酸に換算した場合のグラム数で表すことができる。酸度は、果実飲料の日本農林規格(平成25年12月24日農水告第3118号)で定められた酸度の測定方法に基づいて算出されたクエン酸換算値を意味する」ことが記載されている。
また、甲17の[0023]の実験例1(摘記17-4)には、「ホップ由来成分を添加していない」、例1に係るビールテイスト飲料の製造方法が記載されており、具体的な製造工程としては、「麦芽粉砕物20kg、コーンスターチ375kg、及び湯800Lを仕込釜にて混合し、20分かけて50℃から70℃まで昇温した。70℃で10分間、でんぷんを分解させ、30分間煮沸した。一方で、仕込槽において、麦芽230kgと湯575Lを混合し、50℃で30分間タンパク質分解反応を行った。30分後、湯500Lを仕込槽に添加し、仕込釜の内容物を仕込槽へと移し替えた。仕込槽の内容物を、65℃で40分間糖化させ、76℃で5分間維持することで酵素を失活させ、麦汁を得た。麦汁濾過後、70分間煮沸させた。煮沸後、ワールプールでトルーブを除去した。トルーブの除去後、麦汁を冷却した。冷却後、酵母を添加し、10℃で7日間、発酵させた。その後、熟成及び冷却し、ビール濾過を実施して、例1に係るビールテイスト飲料を得た」ことが記載され、得られた飲料の苦味価等については、「ホップ由来成分を添加していないため、例1に係る飲料の苦味価は、実質的に0B.U.である。また、真正エキスは約3.4?3.5%であり、アルコール度数は5?6(v/v)%であり、pHは約4.1であった」ことが記載されている。
また、[0028]?[0029]の実験例3(摘記17-5)には、「例1に係るビールテイスト飲料に対して、異なる種類の酸味料を添加し、複数のビールテイスト飲料(例16?例22)を得た。各飲料において、酸味料の添加量は、酸度が0.1g/100mLになるような量とした。各飲料のpHは約3.6であった」こと、及び「結果を表3に示」したことが記載されており、[0033]の表3(摘記17-6)には、実施例20として酒石酸を酸味料として添加した具体例が記載されているから、実施例20は「クエン酸換算の酸度」が甲17の請求項1に特定される範囲内の0.1g/100mLである場合の具体例であると理解することができる。
そうすると、甲17には、実施例20に基づいて、以下の発明が記載されているものと認められる。
「麦芽粉砕物20kg、コーンスターチ375kg、及び湯800Lを仕込釜にて混合し、20分かけて50℃から70℃まで昇温し、70℃で10分間、でんぷんを分解させ、30分間煮沸し、一方で、仕込槽において、麦芽230kgと湯575Lを混合し、50℃で30分間タンパク質分解反応を行い、30分後、湯500Lを仕込槽に添加し、仕込釜の内容物を仕込槽へと移し替え、仕込槽の内容物を、65℃で40分間糖化させ、76℃で5分間維持することで酵素を失活させ、麦汁を得、麦汁濾過後、70分間煮沸させ、煮沸後、ワールプールでトルーブを除去し、トルーブの除去後、麦汁を冷却し、冷却後、酵母を添加し、10℃で7日間、発酵させ、その後、熟成及び冷却し、ビール濾過を実施し、酒石酸をクエン酸換算の酸度が0.1g/100mLになるような量添加して得た、クエン酸換算の酸度が0.1g/100mLであり、苦味価が0B.U.である、ビールテイスト飲料。」(以下、「甲17-1発明」という。)
「麦芽粉砕物20kg、コーンスターチ375kg、及び湯800Lを仕込釜にて混合し、20分かけて50℃から70℃まで昇温し、70℃で10分間、でんぷんを分解させ、30分間煮沸し、一方で、仕込槽において、麦芽230kgと湯575Lを混合し、50℃で30分間タンパク質分解反応を行い、30分後、湯500Lを仕込槽に添加し、仕込釜の内容物を仕込槽へと移し替え、仕込槽の内容物を、65℃で40分間糖化させ、76℃で5分間維持することで酵素を失活させ、麦汁を得、麦汁濾過後、70分間煮沸させ、煮沸後、ワールプールでトルーブを除去し、トルーブの除去後、麦汁を冷却し、冷却後、酵母を添加し、10℃で7日間、発酵させ、その後、熟成及び冷却し、ビール濾過を実施し、酒石酸をクエン酸換算の酸度が0.1g/100mLになるような量添加する工程を有する、甲17-1発明のビールテイスト飲料の製造方法。」(以下、「甲17-2発明」という。)

イ 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲17-1発明との対比
本件発明1と甲17-1発明とを対比すると、甲17-1発明における「麦芽粉砕物20kg・・・(中略)・・・酒石酸を・・・添加して得た・・・ビールテイスト飲料」は、本件発明1における「酒石酸を含」む「ビールテイスト飲料」に相当する。
また、甲17-1発明における「苦味価が0B.U.である」点は、甲17の[0023]の実験例1(摘記17-4)に記載されているように、「ホップ由来成分を添加していない」ことに由来するものであるところ、上記(3)イ(イ)(イ-1)「甲4について」における検討を踏まえると、本件発明1における「イソα酸の含有量が0.1質量ppm以下」に相当するといえる。
そうすると、両者は、
「酒石酸を含み、イソα酸の含有量が0.1質量ppm以下である、ビールテイスト飲料。」の点で一致し、
相違点15:本件発明1は、全窒素量が8?38.9mg/100mlであるのに対し、甲17-1発明では、全窒素量が特定されていない点
相違点16:本件発明1は、総ポリフェノール量が10?60質量ppmであるのに対し、甲17-1発明では、総ポリフェノール量が特定されていない点
相違点17:本件発明1は、酒石酸の濃度が480mg/L以下であるのに対し、甲17-1発明は、酒石酸をクエン酸換算の酸度が0.1g/100mLになるような量添加して得た、クエン酸換算の酸度が0.1g/100mLのものである点
で相違する。そこで、上記相違点について検討する。

(イ)相違点15について
(イ-1)甲17について
甲17の[0002]?[0007](摘記17-2)には、甲17-1発明が、「ビールテイスト飲料は、独特の苦味を有して」おり、「この独特の苦味を嫌い、ビールテイスト飲料を敬遠する消費者層も存在する」こと、及び「ビールテイスト飲料の苦味を低減させると、原料である穀物由来成分による甘味や、発酵飲料の場合には発酵に伴い生じる香気成分による甘味が際立ち、おいしい飲料を得ることが難しくなる」ことから、「甘味を際立たせること無く、苦味を低減することができる、ビールテイスト飲料を提供する」という課題を解決しようとするものであることが記載されており、その解決手段として「苦味価を低減し、酸度を調整する」ことが記載されているが、ビールテイスト飲料の全窒素量については具体的に記載されておらず、まして、全窒素量の範囲を特定することと上記課題を解決することとの関係については、記載も示唆もされていない。

(イ-2)甲2?甲6について
上記(2)イ(イ)(イ-2)「甲2について」?同(イ-6)「甲6について」における検討を踏まえると、甲2?甲6に記載された事項を参照しても、甲17-1発明において、甲2?甲6の記載に基いて相違点15に係る特定の全窒素量を採用することは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

(イ-3)相違点15についての判断
以上のことから、甲17-1発明において、甲17及び甲2?甲6に記載された事項に基いて、相違点15に係る特定の全窒素量を採用することは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

(ウ)本件発明1の効果について
上記(2)イ(ウ)「本件発明1の効果について」における検討を踏まえると、本件発明1はイソα酸の含有量に加え、相違点15の全窒素量、相違点16の総ポリフェノール量及び相違点17の酒石酸の濃度を特定したことにより、「麦芽に起因する濁りを抑制でき、また、風味の優れたビールテイスト飲料が提供される」という効果、具体的には、味わいと飲みやすさ、及び混濁安定性を兼ね備え、さらにビールらしい軽快なのどごしを有し、コスメティックな香りは感じないという好ましい効果を奏するものである。
これらの効果は甲17、甲2?甲6には記載も示唆もされておらず、甲17及び甲2?甲6から予測することができないものといえる。

(エ)申立人の主張について
ア 全窒素量について
申立人は、特許異議申立書(85頁)において、「甲17(段落0009)には、・・・アルコール度数や麦芽の有無に関わらず、ビールと同等の又はそれと似た風味・味覚及びテクスチャーを有し、高い止渇感・ドリンカビリティーを有する飲料であることが記載されている。そして、甲17-1発明においても、相違点1で検討したように、ビールや発泡酒等のビールテイスト飲料において、味感及び混濁の観点から全窒素に着目してその量を検討し、本件発明1で特定される範囲内の値とすることは、甲2、甲3、甲4、甲5、甲6等の記載により、当業者にとって容易であり、それによる効果も当業者の予測の範囲内である」と主張している。
しかし、上記(2)イ(イ)(イ-2)「甲2について」?同(イ-6)「甲6について」において検討したとおり、甲2?甲6は、いずれもホップを原料に使用する一般的なビールについて記載されたものと解されるから、「苦味価が0B.U.である」(「ホップ由来成分を添加していない」)甲17-1発明にそのまま適用できるものとはいえない。
また、上記(ウ)「本件発明1の効果について」に記載したとおり、本件発明1は、ホップ由来成分を添加していないビールテイスト飲料において、相違点15に係る全窒素量に加えて、相違点16に係る総ポリフェノール量及び相違点17に係る酒石酸の濃度を特定したことにより、「麦芽に起因する濁りを抑制でき、また、風味の優れたビールテイスト飲料が提供される」という効果を奏するものであるから、ホップを使用する一般的なビールにおける窒素化合物の役割が甲2及び甲6に記載されているとしても、本件発明1の効果を予測できるものとはいえない。
よって、申立人の主張を採用することはできない。

イ 酒石酸の濃度について
申立人は、特許異議申立書(85?86頁)において、「甲17(段落0015)には、酒石酸を酸味料として用いることにより、味のふくらみを持たせることができる点、酸味料の合計含有量が200?10000ppm(mg/Lに相当)(本件発明1で特定される酒石酸の濃度と重複する)であることが好ましい旨が記載されているから、甲17-1発明において、味のふくらみを考慮して、酒石酸の含有量を200?10000ppmの範囲内で調整することは、当業者にとって容易である。また、・・・酒石酸濃度の上限を特定することにより、当業者の予測を超える効果が得られることは示されていない」と主張している。
そこで、甲17-1発明における酒石酸の濃度について検討すると、甲17-1発明は、上記ア「甲17に記載された発明」において検討したとおり、甲17の実施例20に基づくものであり、酒石酸をクエン酸換算の酸度が0.1g/100mLになるような量添加して得た、クエン酸換算の酸度が0.1g/100mLのものである。
ここで、「クエン酸換算の酸度」については、例えば甲9の[0027](摘記9-3)及び甲13の[0017](摘記13-3)に記載されているように、本件特許に係る出願の出願時において周知の技術的事項であり、クエン酸を100とした場合の酒石酸の酸度は130であることが知られているから、甲17-1発明における酒石酸の実際の添加濃度は、0.1/1.3=0.0769g/100mL(769mg/L)であり、本件発明1における酒石酸の濃度(480mg/L以下)の上限を超えていることが理解できる。
そして、甲17の[0013]?[0015](摘記17-3)には、飲料の酸度及びpHの調整により、苦味の低減に伴う「甘味の際立ちを抑えることができ、味のキレを保つことができる」こと、及び「酒石酸を酸味料として用いることにより、味のふくらみを持たせることができる」ことが記載されており、[0029](摘記17-5)には、実施例20を含む表3の実験データについて、「酒石酸は味のふくらみに優れていた」ことが記載されていることから、当業者は酒石酸について、甲17の[0006](摘記17-2)に記載された「甘味を際立たせること無く、苦味を低減することができる、ビールテイスト飲料を提供する」という課題の解決に寄与する成分であることを理解することができる。
そうすると、甲17に記載された発明の課題を解決し得ることが示された特定の実施例(実施例20)において、課題解決に寄与している酒石酸の濃度を下げることについては、当業者が積極的に動機づけられることではなく、むしろ阻害要因があるといえる。
また、仮に、甲17の請求項1(摘記17-1)等の記載に基づいて、酒石酸の濃度を下げることが動機付けられるとしても、上記(ウ)「本件発明1の効果について」に記載したとおり、本件発明の「麦芽に起因する濁りを抑制でき、また、風味の優れたビールテイスト飲料が提供される」という効果は、相違点17に係る酒石酸の濃度を特定したことのみによってもたらされるものではなく、ホップ由来成分を添加していないビールテイスト飲料において、相違点15に係る全窒素量及び相違点16に係る総ポリフェノール量を合わせて特定したことによりもたらされるものであり、甲17の記載を参酌しても当業者が予測することができたものとはいえない。
よって、申立人の主張を採用することはできない。

(オ)本件発明1のまとめ
以上のことから、相違点15については、甲17及び甲2?甲6に基いて当業者が容易に想到し得たこととは認められない。
また、申立人は甲7及び甲8を他の証拠として提出しているが、甲7(摘記7-1?摘記7-3)及び甲8(摘記8-1)はいずれも総ポリフェノール量について記載された文献として提出されたものであり、これらの証拠を参照しても、甲17-1発明のビールテイスト飲料において相違点15に係る「全窒素量が8?38.9mg/100ml」という発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。
さらに、本件発明1は、甲17及び甲2?甲8から当業者が予測し得ない顕著な効果を奏するものである。
よって、相違点16及び17について検討するまでもなく、本件発明1は甲17-1発明並びに甲2?甲8及び甲17に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

ウ 本件発明2?4について
本件発明2?4は、本件発明1を直接又は間接的に引用し、本件発明1の発明特定事項がさらに限定された発明特定事項を備える発明である。
そうすると、本件発明1と同様の理由により、本件発明2?4は、いずれも甲17-1発明並びに甲2?甲8及び甲17に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

エ 本件発明5について
(ア)本件発明5と甲17-2発明との対比
本件発明5と甲17-2発明とを対比すると、甲17-2発明における「麦芽粉砕物20kg・・・(中略)・・・その後、熟成及び冷却」する工程は、本件発明5における「水および麦芽を含む原料に、酵母を添加して、アルコール発酵を行う工程」に相当し、甲17-2発明における、上記工程及び「ビール濾過を実施し、酒石酸を・・・添加する工程」を有する「ビールテイスト飲料の製造方法」は、本件発明5における「ビールテイスト飲料を製造する方法」に相当するから、両者は、
「ビールテイスト飲料を製造する方法であって、
水および麦芽を含む原料に、酵母を添加して、アルコール発酵を行う工程を有する、ビールテイスト飲料の製造方法。」である点で一致し、
相違点18:製造するビールテイスト飲料が、本件発明5においては「請求項1?4のいずれかに記載のビールテイスト飲料」であるのに対し、甲17-2発明においては「甲17-1発明のビールテイストの発酵麦芽飲料」である点
で相違する。そこで、上記相違点について検討する。

(イ)相違点18について
相違点18は、実質的に、上記イ(ア)「本件発明1と甲17-1発明との対比」に記載した相違点15?17に相当する。
そして、上記イ(イ)「相違点15について」に記載したとおり、相違点15については、甲17及び甲2?甲6に記載された事項に基いて当業者が容易に想到し得ることとはいえない。
また、申立人は甲7及び甲8を他の証拠として提出しているが、甲7及び甲8はいずれも総ポリフェノール量について記載された文献として提出されたものであり、これらの証拠を参照しても、甲17-1発明のビールテイスト飲料において相違点15に係る「全窒素量が8?38.9mg/100ml」という発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。
よって、甲17-2発明において、甲2?甲8及び甲17に記載された事項に基いて、相違点18(相違点15)に係る発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

(ウ)本件発明5の効果について
上記イ(ウ)「本件発明1の効果について」における検討を踏まえると、本件発明5は「麦芽に起因する濁りを抑制でき、また、風味の優れたビールテイスト飲料が提供される」という効果、具体的には、味わいと飲みやすさ、及び混濁安定性を兼ね備え、さらにビールらしい軽快なのどごしを有し、コスメティックな香りは感じないという好ましい効果を奏するビールテイスト飲料の製造方法を提供することができるものであり、これらの効果は甲2?甲8及び甲17から予測することができないものといえる。

(エ)本件発明5のまとめ
以上のことから、相違点18(相違点15)については、甲17及び甲2?甲8に基いて当業者が容易に想到し得たこととは認められない。
また、本件発明5は、甲17及び甲2?甲8から当業者が予測し得ない顕著な効果を奏するものである。
よって、本件発明5は甲17-2発明並びに甲2?甲8及び甲17に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

オ 本件発明6、8?10について
本件発明6、8?10は、本件発明5を直接又は間接的に引用し、本件発明5の発明特定事項がさらに限定された発明特定事項を備える発明であるから、本件発明5と同様のことがいえる。
また、申立人は甲15を他の証拠として提出しているが、甲15(摘記15-1?摘記15-3)は小麦スピリッツについて記載された文献として提出されたものであり、甲15を参照しても、甲17-1発明のビールテイスト飲料において相違点15に係る「全窒素量が8?38.9mg/100ml」という発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。
さらに、本件発明6、8?10は、甲17、甲2?甲8及び甲15から当業者が予測し得ない顕著な効果を奏するものである。
よって、本件発明6、8?10は、いずれも甲17-2発明並びに甲2?甲8、甲15及び甲17に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

カ 理由1-4:進歩性、甲17号証を主引用例とする場合のまとめ
以上まとめると、本件発明1?6、8?10は、いずれも甲17に記載された発明並びに甲2?甲8、甲15及び甲17に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
よって、特許異議申立書に記載された理由1-4:進歩性、甲第17号証を主引用例とする場合についての特許異議申立理由により、本件請求項1?6、8?10に係る特許を取り消すことはできない。

(6)理由1-5:進歩性、甲第14号証を主引用例とする場合
ア 甲14に記載された発明
甲14の特許請求の範囲(摘記14-1)には、「苦味物質及び麦芽エキスを含むビールテイスト飲料であって、リナロールを0.1?1000ppb及び/又はダイアセチルを4?30ppb含む、アルコール含有ビールテイスト飲料」(請求項1)及び「α酸及びイソα酸の合計含有量が0?0.1ppmである、請求項1に記載のビールテイスト飲料」(請求項2)の発明が記載されており、[0030]?[0032](摘記14-3)には、「リナロールは、本発明のビールテイスト飲料に、0.1?1000ppb、より好ましくは20?400ppb、更に好ましくは200?400ppb含まれると、当該飲料に酒らしい軽快な風味を付与することができる」こと、及び「ダイアセチルは、本発明のビールテイスト飲料に、4?30ppb、より好ましくは15?30ppb含まれると、当該飲料にスッキリとしながら適度な風味を付与することができる」ことが記載されている。
また、甲14の特許請求の範囲(摘記14-1)には、「アルコール含有ビールテイスト飲料の製造方法であって、当該ビールテイスト飲料に、苦味物質及び麦芽エキスを含有させること、及び当該ビールテイスト飲料中のリナロールの含有量を0.1?1000ppbに調整する及び/又はダイアセチルの含有量を4?30ppbに調整することを特徴とする、製造方法」(請求項11)及び「さらに、ビールテイスト飲料中のα酸及びイソα酸の合計含有量を0?0.1ppmに調整することを特徴とする、請求項11に記載の製造方法」(請求項12)の発明が記載されており、[0038]?[0039](摘記14-4)には、「本発明のアルコール含有ビールテイスト飲料は、当業者に知られる通常の方法で製造することができる。・・・酵母を添加して発酵を行なわせ、・・・あるいは、発酵工程を経る代わりに、スピリッツなどアルコール分を有する原料を添加してもよい」
こと、及び「及び当該ビールテイスト飲料中のリナロールの含有量を0.1?1000ppbに調整する及び/又はダイアセチルの含有量を4?30ppbに調整することが重要である」ことが記載されている。
さらに、甲14の[0043]?[0050]の実施例1(摘記14-5)には、「表1?3の処方に従って、ビールテイスト飲料を調製した」こと、及び「リナロール及びダイアセチルの濃度は表4」に記載されていることが記載され、[0048]の表4を参照すると、サンプル5?13はイソα酸及びα酸の含有量が0ppmであり、かつリナロールの配合量が20?600ppbであり、サンプル8?13はさらにダイアセチルの配合量が4?30ppbであることが読み取れ、[0050]には、「本発明品のサンプル2?13は、スッキリとした自然な苦味を有しながら、しっかりしたボディ感と酒らしい軽快な香味が感じられ、飲みやすい品質であった。特に、リナロールとダイアセチルを含むサンプル10?13は特に苦味とボディ感があって好ましかった」ことが記載されている。
そうすると、甲14には、以下の発明が記載されているものと認められる。
「苦味物質及び麦芽エキスを含むビールテイスト飲料であって、リナロールを20?600ppb及びダイアセチルを0?30ppb含み、α酸及びイソα酸の合計含有量が0?0.1ppmである、ビールテイスト飲料。」(以下、「甲14-1発明」という。)
「ビールテイスト飲料の製造方法であって、当該ビールテイスト飲料に、苦味物質及び麦芽エキスを含有させること、及び当該ビールテイスト飲料中のリナロールの含有量を20?600ppbに調整する及びダイアセチルの含有量を0?30ppbに調整することを特徴とし、さらに、ビールテイスト飲料中のα酸及びイソα酸の合計含有量を0?0.1ppmに調整することを特徴とする、甲14-1発明のビールテイスト飲料の製造方法」(以下、「甲14-2発明」という。)

イ 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲14-1発明との対比
本件発明1と甲14-1発明とを対比すると、甲14-1発明における「苦味物質及び麦芽エキスを含むビールテイスト飲料」は、本件発明1における「ビールテイスト飲料」に相当する。
また、甲14-1発明における「α酸及びイソα酸の合計含有量が0?0.1ppmである」点は、本件発明1における「イソα酸の含有量が0.1質量ppm以下」に相当する。
そうすると、両者は、
「イソα酸の含有量が0.1質量ppm以下である、ビールテイスト飲料。」の点で一致し、
相違点19:本件発明1は、全窒素量が8?38.9mg/100mlであるのに対し、甲14-1発明では、全窒素量が特定されていない点
相違点20:本件発明1は、総ポリフェノール量が10?60質量ppmであるのに対し、甲14-1発明では、総ポリフェノール量が特定されていない点
相違点21:本件発明1は、酒石酸を含み、酒石酸の濃度が480mg/L以下であるのに対し、甲14-1発明では、酒石酸を含むことが特定されていない点
相違点22:甲14-1発明は、リナロールを20?600ppb及びダイアセチルを0?30ppb含むのに対し、本件発明1では、リナロール及びダイアセチルを含むことが特定されていない点
で相違する。そこで、上記相違点について検討する。

(イ)相違点19について
(イ-1)甲14について
甲14の[0002]?[0012](摘記14-2)には、甲14に記載された発明の課題が、「アルコールの刺激感、酒そのものの風味や苦味を苦手とする消費者に対して、自然なほろ苦さとスッキリとした飲みやすさを有する新規なビールテイスト飲料を提供すること」にあること、及び、その解決手段について、「リナロール及び/又はダイアセチルを特定濃度に調整し、苦味物質と麦芽エキスとを含有させることによって、自然なほろ苦さを有しながら、苦味が後口に残存せず、酒らしい軽快な香りを具備するビールテイスト飲料を製造できることを見出した」こと、及び「α酸及びイソα酸濃度を極微量に抑制することによって、スッキリとして飲みやすいビールテイスト飲料を得ることができることを見出した」ことが記載されているが、ビールテイスト飲料の全窒素量については具体的に記載されておらず、まして、全窒素量の範囲を特定することと上記課題を解決することとの関係については、記載も示唆もされていない。

(イ-2)甲2?甲6について
上記(2)イ(イ)(イ-2)「甲2について」?同(イ-6)「甲6について」における検討を踏まえると、甲2?甲6に記載された事項を参照しても、甲14-1発明において、甲2?甲6の記載に基いて相違点19に係る特定の全窒素量を採用することは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

(イ-3)相違点19についての判断
以上のことから、甲14-1発明において、甲14及び甲2?甲6に記載された事項に基いて、相違点19に係る特定の全窒素量を採用することは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

(ウ)本件発明1の効果について
上記(2)イ(ウ)「本件発明1の効果について」における検討を踏まえると、本件発明1はイソα酸の含有量に加え、相違点19の全窒素量、相違点20の総ポリフェノール量及び相違点21の酒石酸の濃度を特定したことにより、「麦芽に起因する濁りを抑制でき、また、風味の優れたビールテイスト飲料が提供される」という効果、具体的には、味わいと飲みやすさ、及び混濁安定性を兼ね備え、さらにビールらしい軽快なのどごしを有し、コスメティックな香りは感じないという好ましい効果を奏するものである。
これらの効果は甲14及び甲2?甲6には記載も示唆もされておらず、甲14及び甲2?甲6から予測することができないものといえる。

(エ)申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書(91?92頁)において、「甲14-1発明に係るビールテイスト飲料とは、ビール様の風味をもつ炭酸飲料であり、ビールや発泡酒等を包含するものである(段落0016)。そして、相違点1で検討したように、ビールや発泡酒等のビールテイスト飲料において、味感及び混濁の観点から全窒素に着目してその量を検討し、本件発明1で特定される範囲内の値とすることは、甲2、甲3、甲4、甲5、甲6等の記載により、当業者にとって容易であり、それによる効果も当業者の予測の範囲内である」と主張している。
しかし、上記(2)イ(イ)(イ-2)「甲2について」?同(イ-6)「甲6について」において検討したとおり、甲2?甲6は、いずれもホップを原料に使用する一般的なビールについて記載されたものと解されるから、「α酸及びイソα酸の合計含有量が0?0.1ppmである」甲14-1発明にそのまま適用できるものとはいえない。
また、上記(ウ)「本件発明1の効果について」に記載したとおり、本件発明1は、イソα酸の含有量が0.1質量ppm以下であるビールテイスト飲料において、相違点19に係る全窒素量に加えて、相違点20に係る総ポリフェノール量及び相違点21に係る酒石酸の濃度を特定したことにより、「麦芽に起因する濁りを抑制でき、また、風味の優れたビールテイスト飲料が提供される」という効果を奏するものであるから、ホップを使用する一般的なビールにおける窒素化合物の役割が甲2及び甲6に記載されているとしても、本件発明1の効果を予測できるものとはいえない。
よって、申立人の主張を採用することはできない。

(オ)本件発明1のまとめ
以上のことから、相違点19については、甲14及び甲2?甲6に基いて当業者が容易に想到し得たこととは認められない。
また、申立人は甲7?甲13を他の証拠として提出しているが、甲7(摘記7-1?摘記7-3)及び甲8(摘記8-1)はいずれも総ポリフェノール量について記載された文献として提出されたものであり、甲9(摘記9-1?摘記9-3)、甲10(摘記10-1?摘記10-3)、甲11(摘記11-1?摘記11-2)、甲12(摘記12-1?摘記12-3)及び甲13(摘記13-1?摘記13-3)はいずれも酒石酸について記載された文献として提出されたものであり、これらの証拠を参照しても、甲14-1発明のビールテイスト飲料において相違点18に係る「全窒素量が8?38.9mg/100ml」という発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。
さらに、本件発明1は、甲14及び甲2?甲13から当業者が予測し得ない顕著な効果を奏するものである。
よって、相違点20?22について検討するまでもなく、本件発明1は甲14-1発明及び甲2?甲14に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

ウ 本件発明2?4について
本件発明2?4は、本件発明1を直接又は間接的に引用し、本件発明1の発明特定事項がさらに限定された発明特定事項を備える発明である。
そうすると、本件発明1と同様の理由により、本件発明2?4は、いずれも甲14-1発明及び甲2?甲14に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

エ 本件発明5について
(ア)本件発明5と甲14-2発明との対比
本件発明5と甲14-2発明とを対比すると、甲14-2発明における「ビールテイスト飲料に、苦味物質及び麦芽エキスを含有させること、及び当該ビールテイスト飲料中のリナロールの含有量を20?600ppbに調整する及びダイアセチルの含有量を0?30ppbに調整すること」及び「ビールテイスト飲料中のα酸及びイソα酸の合計含有量を0?0.1ppmに調整すること」を含む「ビールテイスト飲料の製造方法」は本件発明5における「ビールテイスト飲料を製造する方法」に相当するから、両者は、
「ビールテイスト飲料の製造方法。」である点で一致し、
相違点23:製造するビールテイスト飲料が、本件発明5においては「請求項1?4のいずれかに記載のビールテイスト飲料」であるのに対し、甲14-2発明においては「甲14-1発明のビールテイスト飲料」である点
相違点24:本件発明5は、水及び麦芽を含む原料に、酵母を添加して、アルコール発酵を行う工程を有するのに対し、甲14-2発明においてはそのような工程を有することが特定されていない点
で相違する。そこで、上記相違点について検討する。

(イ)相違点23について
相違点23は、実質的に、上記イ(ア)「本件発明1と甲14-1発明との対比」に記載した相違点19?22に相当する。
そして、上記イ(イ)「相違点19について」に記載したとおり、相違点19については、甲14及び甲2?甲6に記載された事項に基いて当業者が容易に想到し得ることとはいえない。
また、申立人は甲7?甲13を他の証拠として提出しているが、甲7及び甲8はいずれも総ポリフェノール量について記載された文献として提出されたものであり、甲9?甲13はいずれも酒石酸について記載された文献として提出されたものであり、これらの証拠を参照しても、甲14-1発明のビールテイスト飲料において相違点18に係る「全窒素量が8?38.9mg/100ml」という発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。
よって、甲14-2発明において、甲2?甲14に記載された事項に基いて、相違点23(相違点19)に係る発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

(ウ)本件発明5の効果について
上記イ(ウ)「本件発明1の効果について」における検討を踏まえると、本件発明5は「麦芽に起因する濁りを抑制でき、また、風味の優れたビールテイスト飲料が提供される」という効果、具体的には、味わいと飲みやすさ、及び混濁安定性を兼ね備え、さらにビールらしい軽快なのどごしを有し、コスメティックな香りは感じないという好ましい効果を奏するビールテイスト飲料の製造方法を提供することができるものであり、これらの効果は甲2?甲14から予測することができないものといえる。

(エ)本件発明5のまとめ
以上のことから、相違点23(相違点19)については、甲14及び甲2?甲13に基いて当業者が容易に想到し得たこととは認められない。
また、本件発明5は、甲14及び甲2?甲13から当業者が予測し得ない顕著な効果を奏するものである。
よって、相違点24について検討するまでもなく、本件発明5は甲14-2発明及び甲2?甲14に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

オ 本件発明6?10について
本件発明6?10は、本件発明5を直接又は間接的に引用し、本件発明5の発明特定事項がさらに限定された発明特定事項を備える発明である。
そうすると、本件発明5と同様の理由により、本件発明6?10は、いずれも甲14-2発明及び甲2?甲14に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

カ 理由1-5:進歩性、甲14号証を主引用例とする場合のまとめ
以上まとめると、本件発明1?10は、いずれも甲14に記載された発明及び甲2?甲14に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
よって、特許異議申立書に記載された理由1-5:進歩性、甲第14号証を主引用例とする場合についての特許異議申立理由により、本件請求項1?10に係る特許を取り消すことはできない。

2.理由2(実施可能要件)について
(1)本件明細書の一般記載について
ア 全窒素量について
本件明細書の[0012]には、「本発明における「全窒素量」とは、タンパク質、アミノ酸等の全ての窒素化合物の総量である」こと、及び「全窒素量は飲み応え、味の厚み、味わい等に影響する」ことが記載されており、「全窒素量を8mg/100mL以上とすることによって飲み応え、味の厚み、味わいを向上させることができる」こと、及び「全窒素量が多過ぎると、飲料の混濁安定性が低下し、また飲み口も重くなってしまう」ため、「本発明の飲料の全窒素量は45mg/100ml以下であり、40mg/100ml以下が好まし」いことが記載されている。

イ 総ポリフェノール量について
本件明細書の[0013]には、「ポリフェノールとは、芳香族炭化水素の2個以上の水素がヒドロキシル基で置換された化合物をいう。ポリフェノールとしては、例えば、フラボノール、イソフラボン、タンニン、カテキン、ケルセチン、アントシアニンなどが挙げられる。本発明における「総ポリフェノール量」とは、ビールテイスト飲料に含まれるこれらポリフェノールの総量である」こと、及び[0014]には、「総ポリフェノール量は飲み応え、味の厚み、味わい等に影響する」ことが記載されており、「総ポリフェノール量を10質量ppm以上とすることによって飲み応え、味の厚み、味わいを向上させることができる」こと、及び「総ポリフェノール量が多過ぎると、飲料の混濁安定性が低下し、また飲み口も重くなってしまう」ため、「本発明の飲料の総ポリフェノール量は60質量ppm以下であ」ることが記載されている。

ウ 全窒素量及び総ポリフェノール量の調整方法について
本件明細書の[0012]には、全窒素の調整方法について、「本発明のビールテイスト飲料の全窒素量は、比較的窒素含有量が多く、酵母が資化可能な原材料の使用量を調整することによって制御できる。具体的には、窒素含有量の多い麦芽等の使用量を増やすことにより全窒素量を増加させることができる。窒素含有量の多い原料としては、例えば、麦芽、大豆、酵母エキス、エンドウ、未発芽の穀物などが挙げられる。また未発芽の穀物としては、例えば、未発芽の大麦、小麦、ライ麦、カラス麦、オート麦、ハト麦、エン麦、大豆、エンドウ等が挙げられる」ことが記載されている。
また、本件明細書の[0014]には、総ポリフェノール量の調整方法について、「本発明のビールテイスト飲料の総ポリフェノール量は、例えば、大麦麦芽、麦芽のハスク(穀皮)などのポリフェノール含有量の多い原材料の使用量を調整することによって制御できる。具体的には、ポリフェノール含有量の多い麦芽等の原材料の使用量を増やすことにより総ポリフェノール量を増加させることができる」ことが記載されている。
さらに、本件明細書の[0015]には、全窒素量及び総ポリフェノール量を増減させる方法について「一般的に、ハスク(穀皮)がある麦芽等は窒素およびポリフェノールの含有量が多く、大豆、酵母エキス、小麦、小麦麦芽等は窒素の含有量が多いがポリフェノールの含有量が少ない。そこで、ビールテイスト飲料における全窒素量および総ポリフェノール量は、原料の配合割合を調整することによって、増減させることができる。以下、全窒素量および総ポリフェノール量を増減させる代表的な方法(1)?(4)を挙げる。
(1)ハスクがある麦芽等の使用量を増やすことによって、ビールテイスト飲料の全窒素量および総ポリフェノール量を増やす。
(2)大豆、酵母エキス等の使用量を増減させることによって、総ポリフェノール量を維持しながら、ビールテイスト飲料の全窒素量を増減させる。
(3)ハスクがある麦芽等の使用量を増やし大豆、酵母エキス等の使用量を減らすことによって、全窒素量を維持しながら、総ポリフェノール量を増やす。
(4)ハスクがある麦芽等の使用量を減らし大豆、酵母エキス等の使用量を増やすことによって、全窒素量を維持しながら、総ポリフェノール量を減らす」ことが記載されている。

エ 酒石酸について
本件明細書の[0018]には、「本発明のビールテイスト飲料の酒石酸の濃度は480mg/L以下である」ことが記載されており、「酒石酸は、ビールテイスト飲料の後味に余韻のある味わいを付与し、また、飲みやすさ、ビールらしい後味のしまり感等を付与することができ」、「特に、イソα酸の含有量が0.1質量ppm以下のビールテイスト飲料はホップ由来の特有な苦味を感じにくいため、酒石酸を一定量含有するとビールらしい後味のしまり感を効果的に付与できる」こと、及び「ビールテイスト飲料が酒石酸を過度に含有すると酸味が強調されてしまう」ことが記載されている。
また、本件明細書の[0018]には、酒石酸の濃度の調整方法について、「本発明のビールテイスト飲料の酒石酸の濃度は、例えば、酒石酸や、酒石酸含有量の多い原材料の使用量を調整することによって制御できる」ことが記載されている。

(2)本件明細書の実施例の記載について
ア 全窒素量、総ポリフェノール量について
本件明細書の[0063]には、「酒石酸を含まないビールテイスト飲料の製造(実施例1?4、比較例1?5)」について、これらに共通して用いられた原料(商品名)及び製造条件が具体的に記載されるとともに、「ビールテイスト飲料中の麦芽比率、酵母エキスおよび大豆タンパク分解物の投入量は表1に示す。比較例5では、さらにイソホップ(ISO HOP)を麦汁に投入した」ことが記載されており、[0066]の表1を合わせて参照すると、実施例1?4及び比較例1?5の発酵前液の調製においては、表1に記載された「麦芽比率」、「飲料中に含まれる酵母エキス」、「飲料中に含まれる大豆タンパク分解物」及び「飲料中に含まれるISOHOP」の欄に記載された量になるように原料が麦汁に投入されたことを理解することができる。
また、[0063]?[0064]には、上記発酵前液の調製後、共通の発酵、熟成工程を経て、「酵母をろ過で除去して、エキス調整水、および小麦に由来するスピリッツを添加しビールテイスト飲料を調製した」こと、及び「これらのビールテイスト飲料の総エキス量、全窒素量、総ポリフェノール量およびイソα酸の含有量は表1に示すとおりであった」ことが記載されており、[0066]の表1を合わせて参照すると、実施例1?4及び比較例1?5において調製されたビールテイスト飲料は、表1に記載された「総エキス量」、「全窒素量」、「総ポリフェノール量」及び「イソα酸」が、それぞれ各欄に記載された濃度を有していたことを理解することができる。
そして、[0066]の[表1]を参照すると、実施例1?実施例4は全窒素量、総ポリフェノール量及びイソα酸の含有量がいずれも本件発明1に特定される範囲内にあり、「味わいと飲みやすさ」及び「混濁安定性」の両評価が良好であったのに対し、比較例1?5は上記のいずれかの含有量が本件発明1に特定される範囲外であり、上記のいずれか又は両方の評価が悪かったことを読み取ることができる。
また、[0067]には、「表1に示すとおり、実施例1?4は、優れた味わいと飲みやすさを有し、混濁安定性も高かった。これに対して、比較例1および3は水っぽさを感じるものであった。また、比較例2および4の混濁安定性は低かった。また、比較例5は、苦味が顕著に目立ち、ビールテイスト飲料としては味わいと飲みやすさが極めて悪かった」ことが記載されているところ、当該記載は上記表1の実験データ及び上記一般記載における各成分の作用効果の説明と整合するものである。

イ 酒石酸について
本件明細書の[0068]には、「総合評価1が○または△の実施例1?4の飲料をベース飲料として、表2の濃度になるように酒石酸を添加しビールテイスト飲料を製造した」こと、及び「実施例1?4のビールテイスト飲料(ベース飲料)に酒石酸を添加しても、味わいと飲みやすさ、および、混濁安定性に変化はなかった」ことが記載されており、[0069]の表2を合わせて参照すると、実施例1?4のそれぞれに対して、表2に記載された「酒石酸濃度」の欄に記載された濃度になるように酒石酸が添加されたことを理解することができる。
そして、[0069]の[表2]を参照すると、酒石酸の濃度が本件発明1に特定される範囲内にある100、160又は400mg/Lになるように添加された例では、「ビールテイスト飲料らしい後味のシマリ感」及び「ビールテイスト飲料として不適な渋みの強い酸味」の両評価が良好であったのに対し、本件発明1に特定される上限を超える500mg/Lになるように添加された例では、上記の両方の評価が悪かったことを読み取ることができる。
また、[0070]には、「表2に示すとおり、実施例1-1?1-3、実施例2-1?2-3、実施例3-1?3-3、および、実施例4-1?4-3の総合評価2が△以上であったのに対して、酒石酸濃度が500mg/Lの比較例6?9はビールテイスト飲料らしい後味のシマリ感およびビールテイスト飲料として不適な渋みの強い酸味の評価が低く、これらの飲料の総合評価2は×であった」ことが記載されているところ、当該記載は上記表2の実験データ及び上記一般記載における酒石酸の作用効果の説明と整合するものである。

(3)実施可能要件の判断
上記本件明細書の[0012]?[0015]及び[0018]等の一般記載に基づいて、当業者はビールテイスト飲料における「全窒素量」、「ポリフェノール量」及び「酒石酸の濃度」を、麦汁に添加する原料の種類及び添加量を調整することにより、所望の範囲に調整できることを理解することができる。
また、本件明細書の[0055]?[0070]の実施例及び比較例の記載に基づいて、当業者は発酵前液の調製に実際に用いることができる具体的な原料、仕込み比率及び調製方法、さらに当該発酵前液を用いる発酵条件、及び発酵後の調整水によるエキス濃度の調整等により、製品であるビールテイスト飲料の全窒素量及びポリフェノール量を所望の範囲に調整することができ、それにより「味わいと飲みやすさ」及び「混濁安定性」を良好にすることができること、さらに、酒石酸又は酒石酸を含有する公知の原料を適量添加することにより、「味わいと飲みやすさ」及び「混濁安定性」を変化させることなく、「ビールテイスト飲料らしい後味のシマリ感」を有し、「ビールテイスト飲料として不適な渋みの強い酸味」を有さない、風味の優れたビールテイスト飲料を調製することができることを理解することができる。
そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1のビールテイスト飲料を当業者が製造することができ、かつ使用することができるように記載されているといえる。
また、本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2?10についても、本件発明1をさらに技術的に限定したものといえるので、本件発明1と同様に本件発明2?4のビールテイスト飲料を当業者が製造することができ、かつ使用することができ、本件発明5?10のビールテイスト飲料の製造方法を使用できるといえる。

(4)申立人の主張について
ア 全窒素量、総ポリフェノール量について
申立人は、特許異議申立書(103?104頁)において、「本件明細書の段落0012・・・当該記載からすると、酵母エキスを添加すれば、全窒素量が増加するはずである。しかしながら、実施例1と実施例4の比較によれば、酵母エキスを添加しているにもかかわらず全窒素量が減ったことになっており、段落0012の記載と整合しない。そうすると・・・技術常識に反している。加えて、・・・実施例4に対して酵母エキスを加えたものとして記載されている実施例1において、総ポリフェノール量が減少していることも説明がつなかい」と主張している。
しかし、[0066]の[表1]を参照すると、実施例4は総エキス量が実施例1よりも高い濃度に調整されているから、実施例4の全窒素量及び総ポリフェノール量が実施例1よりも高い濃度であることは技術的に不自然なことではなく、また、本件特許に係る出願の出願時において、発酵前液に含まれる酵母エキスや大豆タンパク分解物の濃度に応じて酵母による発酵の速度や代謝産物の量が直線的に変化するものではないことも技術常識であったといえるから、実施例1と実施例4との全窒素量及び総ポリフェノール量が、それらの総エキス量に単純に比例していないことも、技術的に説明がつかないことではなく、したがって、実施例1及び4の実験データが本件明細書の[0012]等の一般記載と整合していないとはいえない。
そして、実施例1、4以外の他の実施例及び比較例の実験データについても同様に、総エキス量及び本件特許に係る出願の出願時における技術常識を参酌すると、技術的に説明のつかないものではなく、一般記載とも整合するものといえるから、当業者は、本件明細書の一般記載及び実施例、比較例の実験データ並びに本件特許に係る出願の出願時における技術常識を参酌することにより、本件発明1に相当するビールテイスト飲料の製造方法を理解することができるといえる。本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2?10についても同様である。
よって、申立人の主張を採用することはできない。

イ 実施例1?4の調製方法について
申立人は、特許異議申立書(104頁)において、「本件明細書の段落0063・・・大麦麦芽及び糖液の配合量は不明である。また、発酵度(発酵後のアルコール濃度)、エキス調製水及びスピリッツの添加量も不明であり、最終飲料のアルコール度数も不明である。そうすると、当業者といえども、どのような配合量で大麦麦芽と糖液とを用い麦汁を調製し、どうような状態で発酵を止め、どのような量で発酵後にエキス調製水及びスピリッツを添加し、どの程度のアルコール度数とすれば、本発明の課題を解決したものとされる実施例1-4と同様の飲料を得ることができるのか理解できない」と主張している。
しかし、大麦麦芽、液糖等の酵母の発酵資材の種類や割合を調整すること、酵母の添加量や発酵温度、発酵時間等の発酵条件を調整すること、及び発酵後のエキス濃度やアルコール度数の調整、スピリッツ等の添加剤の添加により風味等を調整することは、当業者が普通に行うことにすぎず、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を要することとはいえないから、当業者は、本件明細書の一般記載及び実施例、比較例の実験データ並びに本件特許に係る出願の出願時における技術常識を参酌することにより、本件発明1に相当する実施例1?4と同様の飲料を製造することができるといえる。本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2?10についても同様である。
よって、申立人の主張を採用することはできない。

(5)理由2(実施可能要件)のまとめ
以上のことから、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件特許に係る出願の出願時における技術常識を参酌することにより、当業者が本件発明1?10を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるといえるから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすものであり、それらの発明についての特許は、同法同条第4項第1号に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものである。
よって、特許異議申立書に記載された理由2(実施可能要件)の特許異議申立理由によって、本件発明1?10に係る特許を取り消すことはできない。

3.理由3(サポート要件)について
(1)本件発明の課題について
本件明細書の[0004]等の記載及び請求項の記載を参酌すると、本件発明1?4の解決しようとする課題は「麦芽に起因する濁りを抑制し、風味の優れたビールテイスト飲料を提供すること」であり、本件発明5?10の解決しようとする課題は「麦芽に起因する濁りを抑制し、風味の優れたビールテイスト飲料の製造方法を提供すること」であると解される。

(2)本件発明1について
本件発明1は、上記第2「本件発明」に記載した特許請求の範囲の請求項1に記載された発明特定事項により特定される「ビールテイスト飲料」の発明であり、イソα酸の含有量、全窒素量、総ポリフェノール量及び酒石酸の濃度が特定されている。

(3)本件明細書の記載について
本件明細書には、上記課題を解決する手段に関し、上記2.(1)「本件明細書の一般記載について」?同(2)「本件明細書の実施例の記載について」に記載したとおりの事項が記載されている。

(4)本件発明1のサポート要件の判断
ア 本件明細書の一般記載について
本件明細書の[0012]、[0014]及び[0018]等の記載から、当業者は本件発明1のビールテイスト飲料におけるイソα酸の含有量、全窒素量、総ポリフェノール量及び酒石酸の濃度が、いずれも上記課題の解決に好ましい効果をもたらす範囲に特定されたものであることを理解することができる。

イ 表1について
本件明細書の[0066]の[表1]の実験データを参照すると、イソα酸の含有量、全窒素量及び総ポリフェノール量がいずれも本件発明1の範囲内にある実施例1?4は、「味わいと飲みやすさ」の評価が2.8?2.3(「味わいと飲みやすさがある」?「味わいと飲みやすさがある程度ある」の間)、「混濁安定性」の評価が3?2(「混濁度が50Helm未満」?「混濁度が50Helm以上100Helm未満」)、総合評価1が○?△(「『味わいとのみやすさ』および『混濁度』の評価の両者が2.5以上」?「『○』および『×』に該当しない」)であったのに対し、全窒素量及び総ポリフェノール量のいずれか又は両方が本件発明1の範囲外である比較例1?4及びイソα酸の含有量が本件発明1の範囲外である比較例5は、「味わいと飲みやすさ」の評価が1.7?1.0(「味わいと飲みやすさがある程度ある」?「味わいと飲みやすさがない」の間)、「混濁安定性」の評価が3又は1(「混濁度が50Helm未満」又は「混濁度が100Helm以上」)、総合評価1が×(「『味わいとのみやすさ』および『混濁度』の評価のどちらか一方が2未満)であったことが読み取れる。
そして、本件明細書の[0055]?[00598における官能評価の説明、及び[0067]における実施例及び比較例の説明の記載を併せて参照すると、当業者は、官能評価が適切に行われたものであり、イソα酸の含有量、全窒素量及び総ポリフェノール量がいずれも本件発明1の範囲内にある実施例1?4のビールテイスト飲料は、「麦芽に起因する濁り」の課題が解決されるとともに、「味わいと飲みやすさ」の観点で「風味の優れたビールテイスト飲料を提供する」という課題が部分的に解決されたものであることを理解することができる。

ウ 表2について
本件明細書の[0069]の[表2]の実験データを参照すると、イソα酸の含有量、全窒素量及び総ポリフェノール量がいずれも本件発明1の範囲内にある実施例1?4をベース飲料とし、さらに酒石酸の濃度が本件発明1の範囲内である100、160又は400mg/Lになるように酒石酸が添加された例(実施例1-1?実施例1-3、実施例2-1?実施例2-3、実施例3-1?実施例3-3、実施例4-1?実施例4-3)は、「ビールテイスト飲料らしい後味のシマリ感」の評価が3.0?2.2(「非常に良い」?「良い」の間)、「ビールテイスト飲料として不適な渋みの強い酸味」の評価が3.0?2.2(ビールテイスト飲料として不適な渋みの強い酸味を「感じない」?「ほとんど感じない」の間)、総合評価2が○?△(「『ビールテイスト飲料らしい後味のシマリ感』および『ビールテイスト飲料として不適な渋みの強い酸味』の評価の両者が2.5以上」?「『○』および『×』に該当しない」)であったのに対し、酒石酸の濃度が本件発明1の上限を超える500mg/Lになるように酒石酸が添加された例(比較例6?9)は、「ビールテイスト飲料らしい後味のシマリ感」の評価が1.7?1.0(「良い」?「悪い」の間)、「ビールテイスト飲料として不適な渋みの強い酸味」の評価が1.7?1.0(ビールテイスト飲料として不適な渋みの強い酸味を「ほとんど感じない」?「感じる」の間)、総合評価2が×(「ビールテイスト飲料らしい後味のシマリ感」および「ビールテイスト飲料として不適な渋みの強い酸味」の評価のどちらか一方が2未満)であったことが読み取れる。
そして、本件明細書の[0059]?[0062]における官能評価の説明、[0068]における「実施例1?4のビールテイスト飲料(ベース飲料)に酒石酸を添加しても、味わいと飲みやすさ、および、混濁安定性に変化はなかった」との記載、及び[0070]における実施例及び比較例の説明の記載を併せて参照すると、当業者は、官能評価が適切に行われたものであり、イソα酸の含有量、全窒素量、総ポリフェノール量及び酒石酸の濃度が本件発明1の範囲内にある実施例相当のビールテイスト飲料は、「麦芽に起因する濁り」の課題が解決されるとともに、「味わいと飲みやすさ」、「ビールテイスト飲料らしい後味のシマリ感」及び「ビールテイスト飲料として不適な渋みの強い酸味」を感じない点で「風味の優れたビールテイスト飲料を提供する」という課題が解決されたものであることを理解することができる。

エ 本件発明1についての判断
以上のことから、当業者は、実施例で用いられた原料を用いて製造され、イソα酸の含有量、全窒素量、総ポリフェノール量及び酒石酸の濃度が本件発明1の範囲内にあるビールテイスト飲料は、上記課題を解決し得るものであることを理解することができる。
また、本件明細書の[0012]?[0018]等の一般記載及び本件特許に係る出願の出願時における技術常識を参酌すると、当業者は、実施例で用いられた原料に限らず、タンパク質、アミノ酸等を含有する公知の窒素化合物を含有する原材料、ポリフェノールを含有する原材料及び酒石酸を含有する原材料を用いて、イソα酸の含有量、全窒素量、総ポリフェノール量及び酒石酸の濃度が本件発明1の範囲内にあり、上記課題を解決し得るビールテイスト飲料を製造することができると理解することができる。
そうすると、本件発明1は、本件明細書の発明の詳細な説明において、本件特許に係る出願の出願時における技術常識を参酌することにより、当業者が上記課題を解決し得ると認識できるものであるから、発明の詳細な説明に実質的に記載されたものであるといえる。

(5)本件発明2?10のサポート要件の判断
本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2?10についても、それぞれ技術的限定が追加されているものの、本件発明1と同様のことがいえるから、本件発明2?10は、いずれも本件明細書の発明の詳細な説明において、本件特許に係る出願の出願時における技術常識を参酌することにより、当業者が上記課題を解決し得ると認識できるものであり、発明の詳細な説明に実質的に記載されたものであるといえる。

(6)申立人の主張について
ア アルコール度数について
申立人は、特許異議申立書(100頁)において、「本件発明1?10においては、アルコール度数が特定されていない。そして、本件発明の課題が、アルコール度数に関係なく達成できるとの技術常識もない」と主張している。
しかし、本件明細書の[0063]には所定の発酵前液に「ビール酵母を添加して約1週間発酵させた後、さらに約1週間の熟成期間を経」たこと、及び「エキス調整水、および小麦に由来するスピリッツを添加しビールテイスト飲料を調製した」ことが記載されており、アルコール発酵、エキス濃度の調整、添加物による風味の調整等の製造工程としては、ビールテイスト飲料の調製において一般的なものが採用されたと理解することができる。また、当業者は、本件特許に係る出願の出願時における技術常識を参酌することにより、本件明細書の[0020]に記載されるとおり、ノンアルコールを含む所望のアルコール度数を有するビールテイスト飲料を調製することができるといえ、実施例の製造方法及び官能評価を含む実験データを参考にして、所望のアルコール度数のビールテイスト飲料を調製し、上記課題を解決し得るものと理解することができるといえる。
そうすると、本件発明1?10においてビールテイスト飲料のアルコール度数が特定されていないとしても、そのことによって上記課題が解決できないとまではいえない。
よって、申立人の主張を採用することはできない。

イ 麦芽比率について
申立人は、特許異議申立書(100頁)において、「本件発明1?6、8?10は、麦芽比率についての特定がなく・・・一方で、本件明細書において発明の課題を解決したものの具体例として記載されているのは、麦芽比率が5?20質量%の範囲にあるものだけであり(実施例1?4参照)、麦芽比率が32質量%である比較例4では、味わいと飲みやすさに欠け、かつ、混濁安定性にも劣る結果となっている(表1参照)。そして、本件明細書には、麦芽使用比率が5?20質量%の範囲から外れる場合であっても、イソα酸含有量、全窒素量、総ポリフェノール及び酒石酸量を特定の範囲にしさえすれば、実施例1?4と同様の味わいと飲みやすさ及び混濁安定性を有する飲料が得られることは示されておらず、そのようなことが技術常識であるともいえない」と主張している。
しかし、本件明細書の[0002]?[0004]に記載されたように、麦芽の使用量と濁り、風味との関係は、本件特許に係る出願の出願時において周知の技術的事項であったと解されるから、当業者は、当該技術常識を踏まえ、所望の麦芽比率で発酵を行うとともに、実施例の製造方法及び官能評価を含む実験データを参考にして総エキス量、全窒素量、総ポリフェノール量及び酒石酸の濃度を調整することにより、上記課題を解決し得るビールテイスト飲料を製造できると理解することができるといえる。
そうすると、本件発明1?6、8?10において、麦芽比率が特定されていないとしても、そのことによって上記課題が解決できないとまではいえない。
よって、申立人の主張を採用することはできない。

ウ 麦芽以外の原料について
申立人は、特許異議申立書(100?101頁)において、「本件発明7は、麦芽比率が5?20質量%であることを特定しているが、残りの80?95質量%を占める原料については、何ら特定されておらず・・・一方で、本件明細書において発明の課題を解決したものの具体例として記載されているのは、麦芽以外の原料として、糖液(糖化スターチ)、酵母エキス、及び大豆たんぱく分解物を使用したものだけである(実施例1?4)。・・・原料の種類が変わればビールテイスト飲料の味わいも変化するのが技術常識であると言える」と主張している。
しかし、上記(4)エ「本件発明1についての判断」に記載したとおり、本件明細書の[0012]?[0018]等の一般記載及び本件特許に係る出願の出願時における技術常識を参酌すると、当業者は、実施例で用いられた原料に限らず、タンパク質、アミノ酸等を含有する公知の窒素化合物を含有する原材料、ポリフェノールを含有する原材料及び酒石酸を含有する原材料を用いて、イソα酸の含有量、全窒素量、総ポリフェノール量及び酒石酸の濃度が本件発明1の範囲内にあり、上記課題を解決し得るビールテイスト飲料を製造することができると理解することができるといえる。
そうすると、本件発明7において、麦芽以外の原料が特定されていないとしても、そのことによって上記課題が解決できないとまではいえない。
よって、申立人の主張を採用することはできない。

(7)理由3(サポート要件)のまとめ
以上のことから、本件発明1?10は、いずれも本件明細書の発明の詳細な説明において、本件特許に係る出願の出願時における技術常識を参酌することにより、当業者が上記課題を解決し得ると認識できるものであり、発明の詳細な説明に実質的に記載されたものであるといえるから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものであり、それらの発明についての特許は、同法同条第6項に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものである。
よって、特許異議申立書に記載された理由3(サポート要件)の特許異議申立理由によって、本件発明1?10に係る特許を取り消すことはできない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由のいずれによっても、本件発明1?10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2020-09-28 
出願番号 特願2018-245824(P2018-245824)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (C12G)
P 1 651・ 121- Y (C12G)
P 1 651・ 536- Y (C12G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 星 功介  
特許庁審判長 瀬良 聡機
特許庁審判官 齊藤 真由美
天野 宏樹
登録日 2019-11-29 
登録番号 特許第6622897号(P6622897)
権利者 サントリーホールディングス株式会社
発明の名称 ビールテイスト飲料、およびビールテイスト飲料の製造方法  
代理人 鈴木 康仁  
代理人 古橋 伸茂  
代理人 箱田 満  
代理人 小林 浩  
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