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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C09J
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09J
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C09J
管理番号 1367005
異議申立番号 異議2020-700534  
総通号数 251 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-11-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-07-30 
確定日 2020-10-22 
異議申立件数
事件の表示 特許第6644901号発明「ラクチド系コポリマーを含む非反応性ホットメルト接着剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6644901号の請求項1ないし13に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6644901号の請求項1?13に係る特許についての出願は、2017年(平成29年)3月1日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2016年(平成28年)3月3日、欧州特許庁(EP))を国際出願日とする出願であって、令和2年1月10日にその特許権の設定登録がされ、同年2月12日に特許掲載公報が発行された。その後、請求項1?13に係る特許に対し、令和2年7月30日に特許異議申立人梅澤美千代(以下「申立人」という。)が、特許異議の申立てを行った。

第2 本件発明
特許第6644901号の請求項1?13の特許に係る発明(以下、「本件発明1」?「本件発明13」などといい、まとめて「本件発明」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?13に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
第1のブロック及び第2のブロックを含むコポリマーを含むホットメルト接着剤であって、
第1のブロックが、乳酸と別の重合性モノマーとの非晶質コポリマーであり、かつ
第2のブロックが、ポリ-L-乳酸(PLLA)及びポリ-D-乳酸(PDLA)から選択されるポリ乳酸ポリマーであり、
第1のブロックが0.5kg/mol以上の数平均分子量を有し、第2のブロックが1kg/mol以上の数平均分子量を有する、ホットメルト接着剤。
【請求項2】
上記別の重合性モノマーが、グリコール酸、コハク酸、トリエチレングリコール、カプロラクトン、他の環状エステルモノマー及びこれらの混合物から選択される、請求項1に記載のホットメルト接着剤。
【請求項3】
第1のブロックが、10?90重量%の乳酸由来のモノマーと、90?10重量%の別の重合性モノマーを含む、請求項1又は請求項2に記載のホットメルト接着剤。
【請求項4】
コポリマーの第1のブロックとコポリマーの第2のブロックとの重量比は、第2のブロックが第1のブロックと第2のブロックの合計の10?90重量%をなすような比である、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のホットメルト接着剤。
【請求項5】
コポリマーが、2?70kg/molの範囲内の数平均分子量を有する、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のホットメルト接着剤。
【請求項6】
コポリマーの重量を基準に計算して0.5?20重量%の、コポリマーの第2のブロックの立体化学とは反対の立体化学を有するポリ乳酸単位(PLAU)をさらに含む、請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載のホットメルト接着剤。
【請求項7】
PLAUが、存在する場合には、0.75?10kg/molの範囲内のMnを有する、請求項6に記載のホットメルト接着剤。
【請求項8】
コポリマー及び、存在する場合には、PLAUが合計で、当該接着剤の50重量%以上をなす、請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載のホットメルト接着剤。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載のホットメルト接着剤の製造方法であって、コポリマー及び、存在する場合には、PLAUを混合して液状組成物を形成する工程を含む、方法。
【請求項10】
複数の基材を互いに固定された位置に配置するための方法であって、請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の非反応性ホットメルト接着剤の所定量を液体の形態で第1の
基材の表面に塗布する工程と、該所定量の非反応性ホットメルト接着剤上に第2の基材の表面をあてがう工程と、複数の基材と非反応性ホットメルト接着剤とのアセンブリを該非反応性ホットメルト接着剤の融点未満の温度に冷却する工程とを含む、方法。
【請求項11】
第1のブロック及び第2のブロックを含むコポリマーをホットメルト接着剤に使用する
方法であって、
第1のブロックが、乳酸と別の重合性モノマーとの非晶質コポリマーであり、かつ
第2のブロックが、ポリ-L-乳酸(PLLA)及びポリ-D-乳酸(PDLA)から選択されるポリ乳酸ポリマーであり、
第1のブロックが0.5kg/mol以上の数平均分子量を有し、第2のブロックが1kg/mol以上の数平均分子量を有する、使用方法。
【請求項12】
上記別の重合性モノマーが、グリコール酸、コハク酸、トリエチレングリコール、カプロラクトン、他の環状エステルモノマー及びこれらの混合物から選択される、請求項11に記載の使用方法。
【請求項13】
コポリマーの第1のブロックとコポリマーの第2のブロックとの重量比は、第2のブロックが第1のブロックと第2のブロックの合計の10?90重量%をなすような比であり、コポリマーが、2?70kg/molの範囲内の数平均分子量を有する、請求項11又は請求項12に記載の使用方法。」

第3 申立理由の概要
申立人は、下記3の甲第1?10号証を提出し、次の1及び2について主張している(以下、甲号証は、単に「甲1」などと記載する。)。以下、理由1について、第4で検討し、理由2について、第5において検討する。
1 特許法第29条第2項(進歩性)について(同法第113条第2号)
本件発明1?8は、甲1を主引例とし、甲2?9を副引例とする引例に基づいて進歩性が欠如し、本件発明9及び10は、甲1を主引例とし、甲2?6及び甲10を副引例とする引例に基づいて進歩性が欠如し、本件発明11?13は、実質的に本件発明1、2、4及び5と同じであるから、甲1を主引例とし、甲2?6を副引例とする引例に基づいて進歩性が欠如するから、本件発明1?13は、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

2 特許法第36条第4項第1号及び同法第36条第6項第1号について(同法第113条第4号)
(1)同法第36条第4項第1号について
発明の詳細な説明には、請求項1及び11に記載されたすべてのコポリマーが本件特許発明の効果を奏するホットメルト接着剤として使用し得ることが理解できるように示されていない。そのため、発明の詳細な説明には、当業者が本件特許発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載がされていない。

本件特許発明の効果は、段落0014に記載された以下の点にあると考えられる。
「本発明のブロックコポリマー中の乳酸は、再生可能な資源から誘導することができる。さらに、ポリ乳酸は生分解性であり、コポリマーの残りのモノマーの性状及びホットメルト組成物中の他の成分に応じて、生分解性の組成物を得ることができる。さらに、本発明のコポリマーを含むホットメルト接着剤は、良好な接性能と低い低温流動性に起因する良好な保存安定性とを併せもち、短いセットタイムを有し得る。」(下線は、申立人において追記)

特に下線部の、「良好な接着性能と低い低温流動性に起因する良好な保存安定性とを併せもち、短いセットタイムを有し得る。」との効果は、試験をしてみて初めて確認し得るものである。このことは化学分野の発明においては当然要求されることである。
それに対して、本件特許発明においては、ホットメルト接着剤としての効果は、その実施例2において、50:50カプロラクトン:L-乳酸のモノマー重量比で12kg/molの第1ブロック、及び4kg/molのPLLAの第2ブロックを含む、カプロラクトンと乳酸のブロックコポリマー(すなわち、特定のモノマー、組成、分子量のジブロックコポリマー1種)でのみ行われているに過ぎない。
しかも、段落0068の表2に、セットタイムが記載されているに過ぎない。本件特許発明の効果として記載されている「良好な接着性能と低い低温流動性に起因する良好な保存安定性」は確認できない。
加えて、実施例2では、コポリマーと混合するPLAUとしてPDLAを添加したものも試験を行っているが、PDLAを添加した場合の方がセットタイムはよいことが示されているが、PDLAを添加しないコポリマーのみの場合に、セットタイムが優れているのか否かが不明である。そのため、請求項1に係るコポリマーのみの効果が確認できない。

以上のとおり、発明の詳細な説明には、
i)特定のモノマー、組成、分子量のジブロックコポリマー1種について、本件特許発明効果の一部であるセットタイムが示されているに過ぎず、しかも、効果が優れているのかを確認できないこと、及び
ii)上記のコポリマー以外のモノマー、組成、平均分子量を有するコポリマーについて効果が確認できないことから、当業者が本件特許発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載がされていない。

(2)同法第36条第6項第1号について
ア (ア)特許請求の範囲の請求項1及び11に記載されたコポリマーのうち、発明の詳細な説明に明確に開示されたものは一部のコポリマーにすぎないから、発明の詳細な説明に開示された内容を、請求項1のすべてに拡張ないし一般化することはできない。
本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1には、
「第1のブロック及び第2のブロックを含むコポリマーを含むホットメルト接着剤であって、
第1のブロックが、乳酸と別の重合性モノマーとの非晶質コポリマーであり、かつ
第2のブロックが、ポリ-L-乳酸(PLLA)及びポリ-D-乳酸(PDLA)から選択されるポリ乳酸ポリマーであり、
第1のブロックが0.5kg/mol以上の数平均分子量を有し、第2のブロックがlkg/mol以上の数平均分子量を有する、ホットメルト接着剤。」と記載されている。

(イ)第1のブロック及び第2のブロックを含むコポリマーは広範に過ぎるから、発明の詳細な説明においてサポートされていない範囲を多く含む。
「第1のブロック及び第2のブロックを含むコポリマー」は、第1ブロックと第2ブロックの2種を含んでいればよいという定義である。
したがって、上記定義のコポリマーは、1個の第1ブロックと1個の第2ブロックからなるジブロックコポリマー、1個の第1ブロックと2個の第2ブロック又は2個の第1ブロックと1個の第2ブロックからなるトリブロックコポリマー、さらに、その他のブロックを有するもの等、多種のブロックコポリマーを包含する広い概念のコポリマーである。
他方、発明の詳細な説明には、「第1のブロック及び第2のブロックを含むコポリマー」について、明確な定義はない。

そこで、発明の詳細な説明中で上記に係る記載を探すと、以下の記載がある。
i)段落0035
ブロックコポリマーは逐次重合によって得ることができ、第1の工程において、第1又は第2のブロックのいずれかを構成するモノマーを、ポリマーブロックが形成される重合条件下で混合する。次いで、他方のブロックを構成するモノマーを、最初に形成されたブロックとつながった追加のポリマーブロックの形成をもたらす重合条件下で、上記ポリマーブロックに追加する。
ii)段落0037?0038
一実施形態では、上述のコポリマーは、ホットメルト接着剤組成物において、該コポリマーの少なくとも1つの第2のブロックの立体化学とは反対の立体化学を有するポリ乳酸単位(PLAU)と組み合わされる。
iii)段落0065
実施例2:接着剤組成物及び試験
配合物は以下の出発材料から製造した。熱可塑性樹脂として、50:50カプロラクトン:L-乳酸のモノマー重量比で12k/molの第1ブロック、及び4k/molのPLLAの第2ブロックを含む、カプロラクトンと乳酸のブロックコポリマーを使用した。コポリマーは、16k/molの分子量Mnを有していた。

上記i)の記載は、ブロックコポリマーの製法に関する記載であるが、最初に合成するブロックの片末端に次のブロックを結合させれば、第1ブロックと第2ブロックからなるジブロックの製法であるし、最初に合成するブロックの両末端に次のブッロクを結合させるのであれば、トリブロックの製法となる。
しかしながら、最初に合成するブロックの末端がどうなっているのか記載がないため、ジブロックかトリブロックの製法であるのか明確ではない。しかも、上記の製法は、ジブロックとトリブロック以外のブロックコポリマーには適用できない。
次に、上記ii)の記載は、「少なくとも一つの第2ブロック」と記載されているから、第2ブロックは2個以上あってもよいことを窺わせる記載であるが、これだけの記載であるから、第2ブロックは2個以上あってもよいことを明確に示すものではない。

上記iii)の記載は、実施例であるが、ここでは、第1ブロック12kg/mol+第2ブロック4kg/mo1=16kg/mo1であるから、1個の第1ブロックと1個の第2ブロックからなるジブロックコポリマーであることを示している。
以上のことから、少なくとも1個の第1ブロックと1個の第2ブロックからなるジブロックコポリマーは開示されているが、トリブロック以上のコポリマーは、明確に開示されているとは言えない。
それゆえ、請求項1に記載のコポリマーはその全体について明細書に記載されたものとは言えない。

(ウ)第1ブロックにおける、「別の重合性モノマー」は広範に過ぎるから、発明の詳細な説明においてサポートされていない範囲を多く含む
発明の詳細な説明において、「別の重合性モノマー」として開示されている化合物は、グリコール酸、コハク酸、トリエチレングリコール、カプロラクトン、並びにグリコリドのような他の環状エステルのみである。
それに対して、請求項1に記載の重合性モノマーは無数に存在する。どのような重合性モノマーであっても、本発明の課題を解決できるとことの根拠が発明の詳細な説明中には記載されていない。

3 証拠方法
(1)甲1:中山祐正、塩野毅、「生分解性を有する熱可塑性エラストマーの合成」、日本ゴム協会誌、2012年、85巻、7号、p.229-233
(2)甲2:土方守、「主マーケット 接着剤」、日本ゴム協会誌、1988年、61巻、2号、p.113-118
(3)甲3:特開2004-256642号公報
(4)甲4:特表平7-502069号公報
(5)甲5:特開平5-339557号公報
(6)甲6:特開2010-155951号公報
(7)甲7:特開2007-191630号公報
(8)甲8:特開2012-31340号公報
(9)甲9:特開2014-47317号公報
(10)甲10:国際公開第2015/150580号

第4 理由1についての当審の判断
1 甲1の記載
甲1には、「生分解性を有する熱可塑性エラストマーの合成」(標題)について、次の記載がある(下線は当審が付与した。)。
「1.緒言
近年,植物由来で生分解性を有するポリ乳酸(PLA)が環境にやさしい高分子材料として注目されている^(1,2)).PLAは一般に乳酸の環状二量体であるラクチドを開環重合することにより合成されるので,ポリラクチドともよばれる.PLAは主鎖に不斉炭素を含み,ラセミ体の乳酸を原料に合成されるポリ(DL-ラクチド)(PDLLA)は非晶性,L体のポリ(L-ラクチド)(PLLA)とD体のポリ(D-ラクチド)(PDLA)は結晶性である.PLLAとPDLAを混合するとステレオコンプレックス結晶を形成し融点が上昇することが知られている(_(sc-)PLA)^(3,4)).現在のところ,工業的に最も重要なのはPLLAである.PLLAは比較的高い剛性を有し,生体適合性にも優れたポリマーであり,汎用ポリマーの代替のみならず手術縫合糸などの生医学用途にも用いられている.しかしながら,PLLAには硬くて脆く,耐熱性が比較的低いなどの欠点がある.そのため,PLLAの脆性を改善するために他のモノマーとの共重合,他のポリマーやフィラーとのブレンドなどが検討されている^(5,6)).
一方,柔軟なソフトセグメントと塑性変形を防止するハードセグメントからなるトリブロックや多ブロック共重合体は,常温ではゴム弾性を示し加熱すれば流動して通常の熱可塑性プラスチックと同様に成形加工ができる熱可塑性エラストマーとなる^(7)).本総説では,生分解性を有する熱可塑性エラストマー,特にポリ乳酸をハードセグメントとして有するトリブロック共重合体,PLA_(-b-)(_(softsegment))_(-b-)PLA,に焦点を当て,最近の研究を紹介する.そのような共重合体は一般に両末端に水酸基を有するソフトセグメントを開始剤としてラクチドを開環重合することにより合成される(Figure 1).共重合体を構成する主な高分子の名称と典型的な熱的性質をTable 1に示す.」
「筆者らは,ソフトセグメントとして比較的入手が容易なε-カプロラクトン(CL)とDLLAから合成できる共重合体を用いることを検討した^(17,18)).CLのホモポリマーはT_(g)=-60℃,T_(m)=60℃の半結晶性ポリマーであるが,TPEのソフトセグメントとしては非晶性であることが望ましい.そこで,CLとDLLAを共重合することにより,非晶性の共重合体を合成した.開始剤としてDEGを用い,Sn(Oct)_(2)触媒存在下に様々なCL:DLLA比で共重合を行った(Table 2).その結果,CL:DLLA=70:30で生成する共重合体が非晶性で低いT_(g)を示し,ソフトセグメントとして適していると認められた.
得られた両末端水酸基化P(CL_(-r-)DLLA)(F_(DLLA)=30mol%)を高分子開始剤としてLLAを開環重合することにより,トリブロック共重合体PLLA_(-b-)P(CL_(-r-)DLLA)_(-b-)PLLAを合成した(Table 3).」







2 甲1に記載された発明(甲1発明)
甲1の「Table 3」に記載された「トリブロック共重合体PLLA_(-b-)P(CL_(-r-)DLLA)_(-b-)PLLA」は、標題にある「生分解性を有する熱可塑性エラストマー」であることは明らかである。
そうすると、甲3には、「生分解性を有する熱可塑性エラストマーであるトリブロック共重合体PLLA_(-b-)P(CL_(-r-)DLLA)_(-b-)PLLA」(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
ここで、PLLAは、ポリ(L-ラクチド)、CLは、ε-カプロラクトン、DLLAは、DL-ラクチドを示し、Pは、「ポリ」を意味し、「_(-r-)」及び「_(-b-)」について、たとえば、「A_(-r-)B」は、AとBのランダム共重合体、「A_(-b-)B」は、AとBのブロック共重合体を意味することは当業者にとって技術常識である。

3 対比・判断
(1)本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「P(CL_(-r-)DLLA)」は、「CLとDLLAを共重合することにより,非晶性の共重合体を合成した」という記載からみて、非晶質コポリマーといえるものであって、「DLLA」及び「CL」は、本件発明1の「乳酸と別の重合性モノマーとの非晶質コポリマー」における「乳酸」及び「別の重合性モノマー」にそれぞれ相当するから、該「P(CL_(-r-)DLLA)」は、「乳酸と別の重合性モノマーとの非晶質コポリマー」である「第1ブロック」に相当する。
また、「PLLA」は、本件発明1の「ポリ-L-乳酸(PLLA)及びポリ-D-乳酸(PDLA)から選択されるポリ乳酸ポリマー」であり、「PLLA_(-b-)」及び「_(-b-)PLLA」は、本件発明1の「第2のブロック」に相当する。
そして、甲1発明は「熱可塑性エラストマー」であるところ、本件発明1の「ホットメルト接着剤」について、本件明細書には、「本明細書で用いる『ホットメルト接着剤』とは、流動可能な粘度の液体を得るために加熱され、基材への塗布後に冷却されて固体となる熱可塑性ポリマー組成物をいう。」(【0002】)という記載があり、本件発明1の「ホットメルト接着剤」は、「熱可塑性ポリマー組成物」であって、「流動可能な粘度の液体を得るために加熱され、基材への塗布後に冷却されて固体となる」ものであるから、本件発明1の「ホットメルト接着剤」と甲1発明とは、「熱可塑性ポリマー組成物」である点で共通する。

そうすると、本件発明1と甲1発明とは、
「第1のブロック及び第2のブロックを含むコポリマーを含む熱可塑性ポリマー組成物であって、
第1のブロックが、乳酸と別の重合性モノマーとの非晶質コポリマーであり、かつ
第2のブロックが、ポリ-L-乳酸(PLLA)及びポリ-D-乳酸(PDLA)から選択されるポリ乳酸ポリマーである熱可塑性ポリマー組成物」である点で共通し、次の点で相違が認められる。
(相違点1)
熱可塑性ポリマー組成物について、本件発明1は、「ホットメルト接着剤」であることが特定されているのに対し、甲1発明は、「ホットメルト接着剤」かどうか不明な点。
(相違点2)
第1のブロック及び第2のブロックの数平均分子量について、本件発明1では、「第1のブロックが0.5kg/mol以上の数平均分子量を有し、第2のブロックが1kg/mol以上の数平均分子量を有する」ことが特定されているのに対し、甲1発明の「P(CL_(-r-)DLLA)」、「PLLA_(-b-)」及び「_(-b-)PLLA」の数平均分子量は不明な点。

事案に鑑み、相違点1について検討する。
甲1の緒言には、PLLAは、汎用ポリマーの代替のみならず手術縫合糸などの生医学用途にも用いられているものの、PLLAには硬くて脆く、耐熱性が比較的低いなどの欠点があることが記載されている。また、PLLAを、柔軟なソフトセグメントと塑性変形を防止するハードセグメントからなるトリブロックや多ブロック共重合体とすれば、常温ではゴム弾性を示し加熱すれば流動して通常の熱可塑性プラスチックと同様に成形加工ができる熱可塑性エラストマーとなることが記載されている。
そうすると、甲1発明は、汎用ポリマーの代替、手術縫合糸、又は、通常の熱可塑性プラスチックと同様に成形加工ができる熱可塑性エラストマーとして用いられるものであることは、甲1に記載されているといえる。
しかしながら、手術縫合糸や、成形加工ができる熱可塑性エラストマーは、いずれも、成形加工して用いるものであって、ホットメルト接着剤として用いられるものではない。
すなわち、甲1には、甲1発明をホットメルト接着剤として用いることは記載も示唆もされていないというべきである。しかも、甲1の「トリブロックや多ブロック共重合体」について、「常温ではゴム弾性を示し加熱すれば流動して通常の熱可塑性プラスチックと同様に成形加工ができる」という記載からは、熱可塑性プラスチックを加熱して流動した際に接着性を有するものとなることは考慮されておらず、甲1発明をホットメルト接着剤として用いることができることについては、甲1においては、認識されていないというべきである。
そして、すべての熱可塑性エラストマーがホットメルト接着剤になるという技術常識があるとはいえず、また、仮に、甲2から、熱可塑性エラストマーの中にホットメルト接着剤として用いられるものが周知であり、甲3?甲6から、乳酸系ポリマーがホットメルト接着剤として用いられることが周知であるといえたとしても、甲1発明のような「トリブロック共重合体PLLA_(-b-)P(CL_(-r-)DLLA)_(-b-)PLLA」や、甲1の緒言に記載されたような「ポリ乳酸をハードセグメントとして有するトリブロック共重合体」である「熱可塑性エラストマー」をホットメルト接着剤として用いることは、申立人の提出したいずれの証拠(甲1?甲10)にも示されていないことから、甲1発明をホットメルト接着剤として用いることができることを、本件の出願前に当業者が認識できるとはいえず、甲1発明をホットメルト接着剤として用いる動機付けを見いだすことができない。
したがって、上記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項は、当業者が容易に想到し得るものであるとすることはできない。

[まとめ]
以上のとおり、本件発明1は、相違点2について検討するまでもなく、甲1発明及び甲2?10に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

(2)本件発明2?13について
本件発明2?10は、本件発明1を直接的又は間接的に引用し、さらに限定するものであるから、本件発明1と同様な理由から、甲1発明及び甲2?10に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

(3)まとめ
以上のとおり、申立人の特許法第29条第2項に係る申立理由には、理由がない。

第5 理由2についての当審の判断
(1)同法第36条第4項1号について
本件発明1について、当業者がその物を作ることができ、かつ、その物を使用できるのであれば、その効果が、客観的に優れていることが示されているかどうかにかかわらず、特許法第36条第4項1号実施可能要件を満たすということができるものであるといえるところ、本件明細書には、本件発明1及び11に含まれるコポリマーがホットメルト接着剤として使用し得ることが記載されており、本件明細書の【0067】?【0068】には、本件発明1及び11に含まれるコポリマーを、段ボールとボール紙との接合に用いた場合に、PLAU(ポリ乳酸単位)を含まずに、セットタイムが30?40秒であることが記載されている。
すなわち、本件発明1及び11に含まれるコポリマーがホットメルト接着剤として使用し得ることが、実施例において確認されているといえる。

一方、申立人は、上記のコポリマー以外のモノマー、組成、平均分子量を有するコポリマーについて、ホットメルト接着剤として使用し得ないとする具体的な根拠については何ら示していない。
したがって、本件発明1及び11について、本件明細書の記載が、特許法第36条第4項1号実施可能要件を満たしていないとすることはできない。

(2)同法第36条第6項第1号について
本件発明の課題は、本件明細書の【0011】の記載からみて、「良好な接着性能と低い低温流動性に起因する良好な保存安定性を有するホットメルト接着剤を提供すること」と解することができる。
そして、本件発明1及び11には、第1のブロック及び第2のブロックを含むコポリマーを含むホットメルト接着剤であって、第1のブロックが、乳酸と別の重合性モノマーとの非晶質コポリマーであり、かつ第2のブロックが、ポリ-L-乳酸(PLLA)及びポリ-D-乳酸(PDLA)から選択されるポリ乳酸ポリマーであることが特定されているところ、本件明細書の【0014】には、「本発明のコポリマーを含むホットメルト接着剤は、良好な接着性能と低い低温流動性に起因する良好な保存安定性とを併せもち、短いセットタイムを有し得る」ことが記載され、【0016】には、「本発明で用いるコポリマーにおいて、第1のブロックは非晶質ブロックであるのに対して、第2のブロックは結晶質ブロックである。ブロックコポリマーをホットメルト接着剤に使用する際に、非晶質ブロックと結晶質ブロックとの組合せは魅力的な性質を生じる。さらに具体的には、非晶質ブロックは製品の柔軟性を確保すると考えられ、一方、結晶質ブロックは良好な低温流動抵抗性、耐熱性及び剛性をもたらすと考えられる」ことが記載されている。
すなわち、本件明細書の記載によれば、本件発明1及び11に係るホットメルト接着剤は、コポリマーが、第1のブロックである非晶質ブロックと第2のブロック結晶質ブロックとを備えることによって、第1のブロックの非晶質ブロックが柔軟性を確保し、第2のブロックの結晶質ブロックが、良好な(低い)低温流動抵抗性、耐熱性及び剛性をもたらすものとなるものであって、第1のブロックが、乳酸と別の重合性モノマーとの非晶質コポリマーであり、かつ第2のブロックが、ポリ-L-乳酸(PLLA)及びポリ-D-乳酸(PDLA)から選択されるポリ乳酸ポリマーであることが特定されてする本件発明に係るホットメルト接着剤は、良好な接着性能と低い低温流動性に起因する良好な保存安定性を有するものとなることが理解することができる。

そうすると、本件発明1及び11において、第1ブロック及び第2ブロックが、ジブロックコポマーであるか、トリブロック以上のコポリマーであるかどうかによって、本件発明の課題を解決しないものとなるとはいえない。

また、本件発明1及び11において、第1ブロックにおける「別の重合性モノマー」の種類によって、本件発明の課題を解決しないものとなるとはいえない。

そして、申立人は、本件発明1及び11について、本件発明の課題を解決できるものではないとする、具体的な根拠については示しているとはいえない。

(3)まとめ
以上のとおり、申立人の特許法第36条第4項第1号及び同条第6項第1号に係る申立理由には、理由がない。

第6 むすび
以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1?13に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2020-10-13 
出願番号 特願2018-545226(P2018-545226)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C09J)
P 1 651・ 536- Y (C09J)
P 1 651・ 537- Y (C09J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 田澤 俊樹  
特許庁審判長 門前 浩一
特許庁審判官 木村 敏康
川端 修
登録日 2020-01-10 
登録番号 特許第6644901号(P6644901)
権利者 ピュラック バイオケム ビー. ブイ.
発明の名称 ラクチド系コポリマーを含む非反応性ホットメルト接着剤  
代理人 村上 博司  
代理人 松井 光夫  
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