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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08F
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08F
管理番号 1367006
異議申立番号 異議2020-700399  
総通号数 251 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-11-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-06-10 
確定日 2020-10-28 
異議申立件数
事件の表示 特許第6617229号発明「炭素材料用オキサゾリン系分散剤等及びそれらを用いた炭素複合材料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6617229号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

1.本件特許の設定登録までの経緯
本件特許第6617229号に係る出願(特願2019-502033号、以下「本願」ということがある。)は、平成30年3月13日(優先権主張:平成29年3月15日、特願2017-49785号)の国際出願日に出願人KJケミカルズ株式会社及び国立大学法人山形大学(以下、併せて「特許権者ら」ということがある。)により共同してされたものとみなされる特許出願であり、令和元年11月22日に特許権の設定登録(請求項の数6)がされ、特許掲載公報が令和元年12月11日に発行されたものである。

2.本件異議申立の趣旨
本件特許につき令和2年6月10日に特許異議申立人北島健治(以下「申立人」という。)により、「特許第6617229号の特許請求の範囲の全請求項に記載された発明についての特許を取消すべきである。」という趣旨の本件特許異議の申立てがされた。
(よって、本件特許異議の申立ては、特許請求の範囲の全請求項に記載された発明についての特許であるから、審理の対象外となる請求項はない。)

第2 本件特許の特許請求の範囲に記載された事項
本件特許の特許請求の範囲には、以下のとおりの請求項1ないし6が記載されている。
「【請求項1】
2-オキサゾリン系モノマー(a)5?98モル%と、ホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が-100?70℃を有するビニル系モノマー(b)2?95モル%を構成単位として含有する共重合体(A)を用いる炭素材料用接着性向上剤であって、共重合体(A)のTgが-80?75℃であることを特徴とする炭素材料用接着性向上剤。
【請求項2】
請求項1に記載の接着性向上剤により表面修飾されたことを特徴とする表面修飾炭素材料。
【請求項3】
表面に接着性向上剤を0.1?100mg/m^(2)含有することを特徴とする請求項2に記載の表面修飾炭素材料。
【請求項4】
2-オキサゾリン系モノマー(a)5?98モル%と、ホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が-100?70℃を有するビニル系モノマー(b)2?95モル%を構成単位として含有する共重合体(A)を水中に分散させてなる水分散液を用い、水分散液中で炭素材料を含浸させた後加熱することを特徴とする表面修飾炭素材料の製造方法。
【請求項5】
請求項2又は3に記載の表面修飾炭素材料と固形材料からなる炭素複合材料であって、かつ、固形材料が炭素材料であり、固形材料にはカルボキシル基、フェノール性水酸基、酸無水物官能基、エポキシ基、チオール基、アミン基とアミド基からなる群から選べる1種以上の官能基を有し、これらの官能基のオキサゾリン基と反応してなる化学結合を表面修飾炭素材料と固形材料の間に存在することを特徴とする炭素複合材料。
【請求項6】
請求項2又は3に記載の表面修飾炭素材料と固形材料からなる炭素複合材料であって、かつ、固形材料が炭素材料及び熱可塑性樹脂であり、固形材料にはカルボキシル基、フェノール性水酸基、酸無水物官能基、エポキシ基、チオール基、アミン基とアミド基からなる群から選べる1種以上の官能基を有し、これらの官能基のオキサゾリン基と反応してなる化学結合を表面修飾炭素材料と固形材料の間に存在することを特徴とする炭素複合材料。」
(以下、上記請求項1ないし6に記載された事項で特定される発明を項番に従い、「本件発明1」ないし「本件発明6」といい、併せて「本件発明」ということがある。)

第3 申立人が主張する取消理由
申立人は、同人が提出した本件異議申立書(以下、「申立書」という。)において、下記甲第1号証ないし甲第6号証を提示し、申立書における申立人の取消理由に係る主張を当審で整理すると、概略、以下の取消理由が存するとしているものと認められる。

取消理由1:本件の請求項1ないし4及び6に記載された事項で特定される各発明は、いずれも甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができるものではないから、本件の請求項1ないし4及び6に係る発明についての特許は、いずれも特許法第29条に違反してされたものであって、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
取消理由2:本件の請求項1ないし6に記載された事項で特定される各発明は、いずれも甲第1号証に記載された発明に基づいて又は甲第1号証に記載された発明に基づき甲第3号証ないし甲第5号証に記載された発明を組み合わせることによって、当業者が容易に発明をすることができるものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件の請求項1ないし6に係る発明についての特許は、いずれも特許法第29条に違反してされたものであって、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

・申立人提示の甲号証
甲第1号証:国際公開第2007/037260号
甲第2号証:株式会社日本触媒が2015年6月30日に発行したものと認められる「エポクロス」なる製品名の製品カタログ(写し)
甲第3号証:特開2003-239171号公報
甲第4号証:特開2007-70593号公報
甲第5号証:特開2013-76198号公報
甲第6号証:日本ゴム協会誌、第30巻、第12号(1957)、第494頁及び第945?954頁
(以下、「甲1」ないし「甲6」と略していう。)

第4 当審の判断
当審は、
申立人が主張する上記取消理由についてはいずれも理由がなく、ほかに各特許を取り消すべき理由も発見できないから、本件の請求項1ないし6に係る発明についての特許は、いずれも取り消すべきものではなく、維持すべきもの、
と判断する。
以下、取消理由1及び2につき併せて検討・詳述する。

1.各甲号証に記載された事項及び甲1に記載された発明
取消理由1及び2は、いずれも特許法第29条に係るものであるから、上記各甲号証に係る記載事項を確認し、甲1に記載された発明を認定する。

(1)甲1

ア.甲1に記載された事項
上記甲1には、以下の事項が記載されている。

(a1)
「請求の範囲
・・(中略)・・
[6] オキサゾリン基を側鎖に有する重合体(A2)0.1?10重量%、強化繊維(B)1?70重量%、および熱可塑性樹脂(C)20?98.9重量%からなる繊維強化熱可塑性樹脂組成物。
[7] オキサゾリン基を側鎖に有する重合体(A2)が、下記の一般式(2)
[化2]

(式中、R_(3)は水素またはメチル基を表し、R_(4)は炭素数0?5の直鎖または分岐構造を有するアルキレン基を表し、R_(5)?R_(8)は水素または炭素数1?20のアルキル基を表す。)で示される単位を重合体中に10?100mol%含有する重合体である請求項6記載の繊維強化熱可塑性樹脂組成物。
[8] オキサゾリン基を側鎖に有する重合体(A2)のオキサゾリン当量が200?2,000g/eqである請求項6または7に記載の繊維強化熱可塑性樹脂組成物。
[9] オキサゾリン基を側鎖に有する重合体(A2)の重量平均分子量が5,000?100,000である請求項6?8のいずれかに記載の繊維強化熱可塑性樹脂組成物。
[10] アミノアルキレン基を側鎖に有する(メタ)アクリル系重合体(A1)またはオキサゾリン基を側鎖に有する重合体(A2)が強化繊維(B)の周囲に偏在している請求項1?9のいずれかに記載の繊維強化熱可塑性樹脂組成物。
[11] 強化繊維(B)が炭素繊維またはバサルト繊維である請求項1?10のいずれかに記載の繊維強化熱可塑性樹脂組成物。
・・(中略)・・
[15] 熱可塑性樹脂(C)が、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂およびポリエーテルイミド樹脂からなる群から選択された少なくとも1種の樹脂である請求項1?14のいずれかに記載の繊維強化熱可塑性樹脂組成物。
[16] 熱可塑性樹脂(C)がポリオレフィン樹脂である請求項1?14のいずれかに記載の繊維強化熱可塑性樹脂組成物。
[17] 熱可塑性樹脂(C)がカルボキシル基、酸無水物基および、エポキシ基からなる群から選択された少なくとも1種の官能基を含む変性ポリオレフィン樹脂である請求項16に記載の繊維強化熱可塑性樹脂組成物。
・・(中略)・・
[21] 少なくとも、下記の第1a工程、第2a工程および第3a工程を含む繊維強化熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
第1a工程:強化繊維(B)1?70重量%に、アミノアルキレン基を側鎖に有する(メタ)アクリル系重合体(A1)またはオキサゾリン基を側鎖に有する重合体(A2)を0.1?10重量%付与する工程
第2a工程:熱可塑性樹脂(C)を溶融する工程
第3a工程:第1a工程で得られた強化繊維を、第2a工程で溶融している熱可塑性樹脂に混合して、熱可塑性樹脂(C)20?98.9重量%と複合化する工程
[22] 第2a工程において、(メタ)アクリル系重合体(A1)またはオキサゾリン基を側鎖に有する重合体(A2)を、水溶液または水分散液の形態で付与する請求項21に記載の繊維強化熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
[23] 第2a工程において、(メタ)アクリル系重合体(A1)またはオキサゾリン基含有重合体(A2)の付与後に、さらに、カルボキシル基、酸無水物基およびエポキシ基からなる群から選択された少なくとも1種の官能基を含む重合体(D)を、水溶液または水分散液の形態で付与する請求項21または22に記載の繊維強化熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
[24] 少なくとも、下記の第1b工程、第2b工程および第3b工程を含む繊維強化熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
第1b工程:強化繊維(B)を、編物、織物、ウェブ、不織布、フェルトまたはマット等のシート状の生地に加工する工程
第2b工程:第1工程で得られた生地1?70重量%に、アミノアルキレン基を側鎖に有する(メタ)アクリル系重合体(A1)またはオキサゾリン基を側鎖に有する重合体(A2)を0.1?10重量%付与する工程
第3b工程:第2b工程でアミノアルキレン基を側鎖に有する(メタ)アクリル系重合体(A1)またはオキサゾリン基を側鎖に有する重合体(A2)が付与された生地に、熱可塑性樹脂(C)20?98.9重量%を付与し、さらに加熱溶融して複合化する工程
[25] 第1b工程において、熱可塑性樹脂(C)の一部を、強化繊維(B)と予め混合する請求項24記載の繊維強化熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
[26] 第2b工程において、(メタ)アクリル系重合体(A1)またはオキサゾリン基含有重合体(A2)を、水溶液または水分散液の形態で付与する請求項24または25記載の繊維強化熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
[27] 第2b工程において、(メタ)アクリル系重合体(A1)またはオキサゾリン基含有重合体(A2)の付与後に、さらに、カルボキシル基、酸無水物基およびエポキシ基力からなる群から選択された少なくとも1種の官能基を含む重合体(D)を、水溶液または水分散液の形態で付与する請求項24?26のいずれかに記載の繊維強化熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
・・(中略)・・
[36] 炭素繊維にオキサゾリン基含有重合体(A4)が付着されてなる炭素繊維であって、該オキサゾリン基含有重合体(A4)のX線光電子分光法により測定される元素組成比(窒素原子N/炭素原子C)が0.001以上である熱可塑性樹脂用炭素繊維。
[37] オキサゾリン基含有重合体(A4)の温度25℃、湿度65%における飽和吸水率が8重量%以下である請求項36記載の熱可塑性樹脂用炭素繊維。
[38] オキサゾリン基含有重合体(A4)が、下記の一般式(4)
[化4]

(式中、R_(3)は水素またはメチル基を表し、R_(4)は炭素数0?5の直鎖または分岐構造を有するアルキレン基を表し、R_(5)?R_(8)は水素または炭素数1?20のアルキル基を表す。)で示される単位を重合体中に10?100mol%含有する重合体である請求項36または37記載の熱可塑性樹脂用炭素繊維。
[39] オキサゾリン基含有重合体(A4)のオキサゾリン当量が、200?2,000g/eqである請求項36?38のいずれかに記載の熱可塑性樹脂用炭素繊維。
[40] オキサゾリン基含有重合体(A4)の重量平均分子量が5,000?100,000である請求項36?39のいずれかに記載の熱可塑性樹脂用炭素繊維。
[41] 炭素繊維100重量部に対するオキサゾリン基含有重合体(A4)の付着量が0.1?20重量部である請求項36?40のいずれかに記載の熱可塑性樹脂用炭素繊維。
・・(後略)」(第52?58頁)

(a2)
「技術分野
[0001] 本発明は、繊維強化熱可塑性樹脂組成物、その製造方法、及び熱可塑性樹脂用炭素繊維に関するものである。本発明の繊維強化熱可塑性樹脂組成物を用いた成形品は、強化繊維と熱可塑性樹脂との界面接着性が良好であるため、強度特性や衝撃特性に優れており、電気・電子機器、OA機器、家電機器または自動車の部品、内部部材および筐体などに好適に用いられる。」

(a3)
「発明が解決しようとする課題
[0009] 本発明は、かかる従来技術における問題点に鑑み、強化繊維と熱可塑性樹脂の両者と優れた化学反応性を有する重合体を用いて、界面接着性を高め、結果的に、成形品の力学特性を十分に向上させることができる繊維強化熱可塑性樹脂組成物、その製造方法、及び熱可塑性樹脂用炭素繊維を提供することを目的とするものである。」

(a4)
「課題を解決するための手段
[0010] 本発明者らは、アミノアルキレン基を側鎖に有する(メタ)アクリル系重合体またはオキサゾリン基を側鎖に有する重合体を強化繊維および熱可塑性樹脂に第3成分として添加したところ、特異的に成形品の力学特性が向上し、上記目的を達成できることを見い出し、本発明に想到した。
・・(中略)・・
発明の効果
[0021] 本発明によれば、強化繊維と熱可塑性樹脂との良好な界面接着性が発現できることから、強度特性や衝撃特性等の力学特性が極めて優れた繊維強化熱可塑性樹脂組成物を得ることができる。この繊維強化熱可塑性樹脂組成物を用いた成形品は、電気・電子機器、OA機器、家電機器または自動車の部品、内部部材および筐体などに好適に用いられる。」

(a5)
「[0039] [オキサゾリン基を側鎖に有する重合体(A2)]
本発明で用いられるオキサゾリン基オ側鎖に有する重合体(A2)は、強化繊維(B)および熱可塑性樹脂(c)と両者と化学反応し、界面接着性が良好となり、力学特性に優れた成形品を得ることができる。
[0040] オキサゾリン基を側鎖に有する重合体(A2)の割合は、繊維強化熱可塑性樹脂組成物全体に対して、0.1?10重量%・・(中略)・・である。オキサゾリン基を側鎖に有する重合体(A2)の割合が0.1重量%未満では、強化繊維に十分に行き渡らず、界面接着が不十分になる場合がある。また、10重量%を越えると成形品への影響が大きくなり、逆に力学特性が低下する場合がある。
[0041] 本発明で用いられるオキサゾリン基を側鎖に有する重合体(A2)は強化繊維(B)の周囲に偏在していることが好ましく、また、該重合体(A2)の一部が強化繊維(B)に接触していることが両者間の化学結合を効率的におこなう観点でより好ましい。・・(中略)・・
[0044] 本発明で用いられるオキサゾリン基を側鎖に有する重合体(A2)は、式(2)で示したように、側鎖に多数のオキサゾリン基を有することから、強化繊維との化学反応性を十分に確保できる。
[0045] 上記の一般式(2)で示される単位を有するオキサゾリン基を側鎖に有する重合体(A2)は、オキサゾリン基を含有するビニル系単量体10?100mol%とそれ以外の単量体(a)0?90mol%とを、従来公知の重合法によって製造することができる。
[0046] 付加重合性オキサゾリンの具体例としては、例えば、2-ビニル-2-オキサゾリン・・(中略)・・を挙げることができ、これらの群から選ばれた1種または2種以上の混合物を使用することができる。
[0047] オキサゾリン基を側鎖に有する重合体(A2)における前記の単量体(a)としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルへキシル、(メタ)アクリル酸メトキシポリエチエレングリコール等の(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリル酸ナトリウム、(メタ)アクリル酸カリウム、(メタ)アクリル酸アンモニウム等の(メタ)アクリル酸塩類;(メタ)アクリロニトリル等の不飽和ニトリル類;(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド等の不飽和アミド類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;エチレン、プロピレン等のα-オレフイン類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル等の含ハロゲンα,β-不飽和単量体類;スチレン、α-メチルスチレン等のα,β-不飽和芳香族単量体類が好ましく挙げられ、これらの1種また2種以上の混合物を使用することができる。」

(a6)
「[0052] [強化繊維(B)]
本発明で用いられる強化繊維(B)の割合は、繊維強化熱可塑性樹脂組成物に対して 1?70重量%・・(中略)・・である。強化繊維(B)の割合が1重量%未満の場合、強化繊維による補強効果が不十分となり、十分な成形品の力学特性が得られない場合がある。強化繊維(B)の割合が70重量%を越える場合、強化繊維間への熱可塑性樹脂の含浸が不十分となり、その結果、十分な力学特性が得られない場合がある。
[0053] 本発明で用いられる強化繊維(B)としては、例えば、アルミニウム、黄銅およびステンレスなどからなる金属繊維や、ポリアクリロニトリル系、レーヨン系、リグニン系およびピッチ系の炭素繊維および黒鉛繊維や、アラミド、PBO、ポリフェニレンスルフィド、ポリエステル、アクリル、ナイロンおよびポリエチレンなどからなる有機繊維や、ガラス、バサルト、シリコンカーバイトやシリコンナイトライドなどからなる無機繊維等が好ましく挙げられる。これらの強化繊維は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
[0054] 本発明では、これらの中でも、比強度、比剛性の観点から、炭素繊維およびバサルト繊維が好ましく用いられる。さらに導電性の観点から、炭素繊維がより好ましく用いられる。」

(a7)
「[0067] 組成物を強化繊維に付与するに際しては、組成物をその溶媒に溶解した溶液またはその分散媒に分散した分散液に浸潰して後乾燥して行うことができる。(強化繊維における?サイジング液に浸漬することが好ましい。)
強化繊維(B)に付着させる組成物の付着量は、強化繊維(B)に対して0.1?5重量%であることが好ましく、より好ましくは、0.5?3重量%である。」

(a8)
「[0072] [熱可塑性樹脂(C)]
本発明で用いられる熱可塑性樹脂(C)の割合は、繊維強化性樹脂組成物全体に対して20?98.9重量%・・(中略)・・である。熱可塑性樹脂(C)の割合が20重量%未満の場合、強化繊維間への熱可塑性樹脂の含浸が不十分となり、その結果、成形品の力学特性が低くなる。
[0073] 本発明で用いられる熱可塑性樹脂(C)としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)および液晶ポリエステル等のポリエステルや、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)およびポリブチレン等のポリオレフィンや、スチレン系樹脂の他や、・・(中略)・・、更にポリスチレン系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、ポリイソプレン系およびフッ素系等の熱可塑エラストマ一等や、これらの共重合体、変性体、および2種類以上ブレンドした樹脂などであってもよい。とりわけ、コストおよび一般産業への汎用性の観点からポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂およびポリエーテルイミド樹脂からなる群から選択された少なくとも1種が好ましく用いられる。さらに好ましくはポリオレフイン樹脂が用いられる。
[0074] ポリオレフイン樹脂の場合、カルボキシル基、酸無水物基および、エポキシ基からなる群から選択された少なくとも1種の官能基を含む変性ポリオレフイン樹脂であることがアミノアルキレン基を側鎖に有するアクリル系重合体(A1)のアミノ基、または、オキサゾリン基を側鎖に有する重合体(A2)のオキサゾリン基との反応性の観点から好ましい。
[0075] 変性ポリオレフィンの具体例として、(無水)マレイン酸変性ポリエチレン、(無水)マレイン酸変性エチレン-プロピレン共重合体、(無水)マレイン酸変性エチレン-酢酸ビニル共重合体、(無水)マレイン酸変性ポリプロピレン、(無水)マレイン酸変性プロピレン-エチレン共重合体、グリシジル(メタ)アクリレート変性ポリエチレン、グリシジル(メタ)アクリレート変性エチレン-プロピレン共重合体、グリシジル(メタ)アクリレート変性エチレン-酢酸ビニル共重合体、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート変性ポリエチレン、2-ヒドロキシエチル(メタ)アタリレート変性エチレン-プロピレン共重合体、および2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート変性エチレン-酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。・・(中略)・・中でも、(無水)マレイン酸変性ポリプロピレン、(無水)マレイン酸変性エチレン-プロピレン共重合体、およびグリシジル(メタ)アクリレート変性ポリプロピレン等の変性体が好ましく用いられる。」

(a9)
「[0175] ・・(中略)・・
実施例
[0176] 以下、実施態様例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、特にこれに制限されるものではない。
[0177] 以下、本実施例及び比較例で用いた各評価法を説明する。
・・(中略)・・
[0182] 下記の各実施例および比較例に用いた成分は、以下のとおりである。
[0183] [A-1?A-8成分]
・・(中略)・・
A-4:オキサゾリン基含有単量体とスチレンの共重合体
(株)日本触媒製 “エポクロス”(登録商標)WS-700
オキサゾリン当量 220g/eq
N/C 0.01
飽和吸水率 3%
・A-5:オキサゾリン基含有単量体とアクリル系単量体の共重合体
(株)日本触媒製“エポクロス”(登録商標)RPS-1005
オキサゾリン当量 3,700g/eq
N/C 0.002
飽和吸水率 2%
・・(中略)・・
[B-1?B-3成分]
・B-1:PAN系炭素繊維
東レ(株)製炭素繊維“トレカ”(登録商標)
・・(中略)・・
・B-2:PAN系炭素繊維
東レ(株)製炭素繊維“トレカ”(登録商標)
・・(中略)・・
・B-3:バサルト繊維(玄武岩を溶解して長繊維状にしたバサルトヤーン)
・・(中略)・・
[0185] [C-1?C-5成分]
・C-1:無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂
三井化学(株)製、“アドマー”(登録商標)QE800
・・(中略)・・
[0186] [D-1?D-2成分]
・D-1:無水マレイン酸変性ポリプロピレン
丸芳化成品(株)製 MGP-055
・・(中略)・・
[0187] [E-1成分]
・E-1:ウレタン樹脂
第一工業製薬(株)社製 自己乳化性ウレタン樹脂水溶液“スーパーフレックス”(登録商標)300
[0188] 『射出成形材の実施例及び比較例』
以下の実施例1?10、比較例1?5は射出成形材の実施例及び比較例である。
・・(中略)・・
[0196] (実施例 8)
I.サイジング剤の付与工程:
A-4(オキサゾリン基含有重合体)の5重量%水溶液を調整し、それを浸漬法によりB-1(炭素繊維)に付与し、140℃の温度で5分間乾燥させた。A-4(オキサゾリン基含有重合体)の付着量は、B-1(炭素繊維)100重量部に対して、1.5重量部であった。
II.繊維のカット工程:
上記I工程で、サイジング剤が付着した炭素繊維を、カートリッジカッターにて1/4インチにカットした。
III.押出工程
日本製鋼所(株)TEX-30a型2軸押出機(スクリュー直径30mm、L/D=32)を使用し、C-4(ポリカーボネート樹脂ペレット)をメインホッパーから供給し、次いで、その下流のサイドホッパーから前工程でカットした B-1(炭素繊維)を供給し、バレル温度300℃、回転数150rpmで十分混練し、さらに下流の真空ベントより脱気を行った。供給は、重量フィーダーによりポリプロピレン樹脂100重量部に対して、B-1(炭素繊維)25重量部になるように調整した。溶融樹脂をダイス口(直径5mm)から吐出し、得られたストランドを冷却後、カッターで切断してペレット状の成形材料とした。
IV.射出成形工程:
押出工程で得られたペレット状の成形材料を、日本製鋼所(株)製J350EIII型射出成形機を用いて、シリンダー温度:300℃、金型温度:80℃で特性評価用試験片(成形品)を成形した。得られた試験片は、温度23℃、50%RHに調整された恒温恒湿室に24時間放置後に特性評価試験に供した。次に、得られた特性評価用試験片(成形品)を上記の射出成形品評価方法に従い評価した。評価結果を、まとめて表1に示した。得られた成形品中のB-1(炭素繊維)の割合は20重量%であった。
[0197] (実施例 9)
実施例1のI工程において、A-1(アクリル系重合体)を用いず、A-5(オキサゾリン基含有重合体)を使用した以外は実施例1と同様にした。得られた成形品の評価結果を表1に示した。成形品中のB-1(炭素繊維)の割合は20重量%であった。」

イ.甲1に記載された発明
甲1には、上記ア.で摘示した甲1の記載(特に摘示(a1)の[請求項36]、[請求項38]、[請求項7]、[請求項21]及び[請求項22]並びに摘示(a5)の[0045]ないし[0047]の下線部)からみて、「炭素繊維にオキサゾリン基含有重合体(A4)が付着されてなる炭素繊維」([請求項36])の製造において、「強化繊維(B)1?70重量%に、・・オキサゾリン基を側鎖に有する重合体(A2)を0.1?10重量%」を「水溶液または水分散液の形態で」「付与する」([請求項21]及び[請求項22])ことが記載されているから、当該「水溶液または水分散液」は「炭素繊維」の処理剤であるものと解される。
また、甲1には、上記「オキサゾリン基を側鎖に有する重合体(A2)」が、「2-ビニル-2-オキサゾリン」などの「オキサゾリン基を含有するビニル系単量体10?100mol%と」「(メタ)アクリル酸エステル類」などの「それ以外の単量体(a)0?90mol%とを、従来公知の重合法によって製造」したものであること([0045]ないし[0047])が記載されている。
そして、甲1には、「第1a工程:強化繊維(B)1?70重量%に、アミノアルキレン基を側鎖に有する(メタ)アクリル系重合体(A1)またはオキサゾリン基を側鎖に有する重合体(A2)を0.1?10重量%付与する工程」「第2a工程:熱可塑性樹脂(C)を溶融する工程」及び「第3a工程:第1a工程で得られた強化繊維を、第2a工程で溶融している熱可塑性樹脂に混合して、熱可塑性樹脂(C)20?98.9重量%と複合化する工程」を含む繊維強化熱可塑性樹脂組成物の製造方法が記載され、当該製造方法で製造された「繊維強化熱可塑性樹脂組成物」が記載されているものといえる。
なお、上記「オキサゾリン基を側鎖に有する重合体(A2)」([請求項7])と「オキサゾリン基含有重合体(A4)」([請求項38])と同一のものであることが明らかである。
してみると、甲1には、
「下記の一般式(4)
[化4]

(式中、R_(3)は水素またはメチル基を表し、R_(4)は炭素数0?5の直鎖または分岐構造を有するアルキレン基を表し、R_(5)?R_(8)は水素または炭素数1?20のアルキル基を表す。)で示される単位10?100mol%及びそれ以外の単 量体(a)で示される単位0?90mol%からなるオキサゾリン基含有重合体(A4)を含有する水溶液又は水分散体からなる炭素繊維用処理剤。」
に係る発明(以下「甲1発明1」という。)、
「甲1発明1の処理剤により炭素繊維(B)を処理し、重合体(A4)を炭素繊維の表面に付着させてなる炭素繊維。」
に係る発明(以下「甲1発明2」という。)、
「甲1発明1の処理剤により炭素繊維を処理し、重合体(A4)を炭素繊維の表面に付着させてなる炭素繊維の製造方法。」
に係る発明(以下「甲1発明3」という。)及び
「甲1発明2の炭素繊維を溶融した熱可塑性樹脂(C)に混合してなる繊維強化熱可塑性樹脂組成物。」
に係る発明(以下「甲1発明4」という。)が記載されている。

(2)甲2
甲2には、「エポクロス」なる商品名の製品がオキサゾリン基を側鎖に有する重合体を含む水系密着性改質剤で用途の一つとして繊維処理剤であることが記載され(第01頁及び第03頁)、「WS-700」なるグレードのものに含まれる重合体のTgが50℃であること(第04頁)及び「RPS-1005」なるグレードのものがスチレンと2-メタリルオキサゾリンとの共重合体である白色粉砕品で固体ポリマーであり、Tgが109℃であること(第13?14頁)が記載されている。

(3)甲3
甲3には、炭素繊維に対して、必要に応じてプラズマ処理を施した気相成長炭素繊維又はカーボンナノチューブを炭素繊維表面に付着させてなる炭素繊維、その製造方法、当該炭素繊維を含む炭素繊維強化樹脂組成物が記載されている(【特許請求の範囲】、【0018】?【0021】)。

(4)甲4
甲4には、PAN系のものを含む炭素繊維に対して、カップスタック型のカーボンナノチューブを炭素繊維表面に付着させてなる炭素繊維及び当該炭素繊維を含むプリプレグが記載されている(【特許請求の範囲】)。

(5)甲5
甲5には、炭素繊維の表面に、複数のカーボンナノチューブ(CNT)が絡みついてCNTネットワーク薄膜が形成された構造を有するCNT/炭素繊維複合素材及び当該複合素材中に母材が含浸されてなる繊維強化成形品が記載されている(【特許請求の範囲】)。

(6)甲6
甲6には、共重合体のガラス転移点Tgにつき、
「1/Tg=W_(1)/Tg_(1)+W_(2)/Tg_(2)・・・(4)」
なる式(W_(1)、Tg_(1)は組成1(モノマー1)の重量分率及び(そのホモポリマーの)ガラス転移点、W_(2)、Tg_(2)は組成2(モノマー2)の重量分率及び(そのホモポリマーの)ガラス転移点)で算出できることが記載されている(第946頁右欄)。

2.本件の各発明に係る検討

(1)本件発明1について

ア.対比
本件発明1と甲1発明1とを対比すると、少なくとも以下の2点で相違する。

相違点1:「ビニル系モノマー(b)」につき、本件発明1では「ホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が-100?70℃を有する」のに対して、甲1発明1では「それ以外の単量体(a)」のホモポリマーのガラス転移温度(Tg)につき特定されていない点
相違点2:「共重合体(A)」につき、本件発明1では「Tgが-80?75℃である」のに対して、甲1発明1では「オキサゾリン基含有重合体(A4)」のTgにつき特定されていない点

イ.検討
上記相違点1及び相違点2につき併せて検討すると、甲1には、その記載を検討しても、「それ以外の単量体(a)」及び「オキサゾリン基含有重合体(A4)」につき、Tgを調節すべきことを認識できる記載又は示唆がない。
ここで、甲1における実施例で使用されているオキサゾリン基含有共重合体である「A-4:オキサゾリン基含有単量体とスチレンの共重合体」及び「A-5:オキサゾリン基含有単量体とアクリル系単量体の共重合体」につき検討する。
(a)「A-4:オキサゾリン基含有単量体とスチレンの共重合体」は、本件発明1における「ビニル系モノマー(b)」に対応する「単量体(a)」としてスチレンを含有するものであるところ、スチレンのホモポリマーのTgは、約105℃であることが当業者に自明であるから、本件発明1における「ホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が-100?70℃を有するビニル系モノマー(b)」との相違点1に係る要件を具備するものではない。
(b)「A-5:オキサゾリン基含有単量体とアクリル系単量体の共重合体」は、「(株)日本触媒製“エポクロス”(登録商標)RPS-1005」なる製品であるとされているところ、甲2の記載に照らすと、当該製品は、ガラス転移温度(Tg)が109℃であるから、本件発明1における「共重合体(A)のTgが-80?75℃である」との相違点2に係る要件を具備するものではない。
よって、上記「A-4:オキサゾリン基含有単量体とスチレンの共重合体」及び「A-5:オキサゾリン基含有単量体とアクリル系単量体の共重合体」はいずれも、上記相違点1に係る事項及び相違点2に係る事項を併せて具備するものとは認められない。
してみると、上記相違点1及び相違点2は、いずれも実質的な相違点である。
そして、甲1及び他の各号証を検討しても、甲1発明1における「それ以外の単量体(a)」のホモポリマーのTg及び「オキサゾリン基含有重合体(A4)」のTgにつき、調節すべきことを認識できる事項が存するものとは認められないから、上記相違点1及び相違点2につき、甲1発明1において、当業者が適宜なし得ることともいえない。

ウ.小括
したがって、本件発明1は、甲1発明1、すなわち甲1に記載された発明であるということはできないものであるとともに、甲1に記載された発明に基づき、たとえ他の甲号証に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が容易に発明をすることができたものということもできない。

(2)本件発明2及び3について

ア.対比・検討
本件発明2と甲1発明2とを対比すると、少なくとも以下の点で相違する。

相違点3:「炭素材料」につき、本件発明2では「請求項1に記載の接着性向上剤により表面修飾された・・表面修飾炭素材料」であるのに対して、甲1発明2では「甲1発明1の処理剤により炭素繊維(B)を処理し、重合体(A4)を炭素繊維の表面に付着させてなる炭素繊維」である点

上記相違点3につき検討すると、本件発明2における「請求項1に記載の接着性向上剤」、すなわち本件発明1は、上記(1)で説示したとおりの理由により、甲1発明2に係る「甲1発明1の処理剤」、すなわち甲1発明1であるとはいえず、また、甲1発明1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえないのであるから、上記相違点3は、実質的な相違点であるとともに、甲1発明2において、当業者が適宜なし得ることであるともいえない。
さらに、本件発明2を引用し、更に接着性向上剤の含有量を規定する本件発明3についても、同様である。

イ.小括
したがって、本件発明2及び3は、いずれも、甲1発明2、すなわち甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明に基づき、たとえ他の甲号証に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が容易に発明をすることができたものということもできない。

(3)本件発明4について

ア.対比
本件発明4と甲1発明3とを対比すると、少なくとも以下の点で相違する。

相違点4:本件発明4では「2-オキサゾリン系モノマー(a)5?98モル%と、ホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が-100?70℃を有するビニル系モノマー(b)2?95モル%を構成単位として含有する共重合体(A)を水中に分散させてなる水分散液を用い」るのに対して、甲1発明3では「甲1発明1の処理剤により炭素繊維を処理」する点

イ.検討
相違点4につき検討するにあたり、本件発明4における「2-オキサゾリン系モノマー(a)5?98モル%と、ホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が-100?70℃を有するビニル系モノマー(b)2?95モル%を構成単位として含有する共重合体(A)を水中に分散させてなる水分散液」を、甲1発明3における「甲1発明1の処理剤」と更に対比すると、上記(1)ア.で示した相違点1において少なくとも相違するものと認められるところ、上記(1)イ.でも説示したとおり、甲1には、その記載を検討しても、「それ以外の単量体(a)」につき、Tgを調節すべきことを認識できる記載又は示唆がない。
そこで、上記相違点1に係る検討に照らし、相違点4につき検討するにあたり、甲1における実施例で使用されているオキサゾリン基含有共重合体である「A-4:オキサゾリン基含有単量体とスチレンの共重合体」及び「A-5:オキサゾリン基含有単量体とアクリル系単量体の共重合体」につき検討する。
(a)「A-4:オキサゾリン基含有単量体とスチレンの共重合体」は、本件発明4における「ビニル系モノマー(b)」に対応する「単量体(a)」としてスチレンを含有するものであるところ、スチレンのホモポリマーのTgは、約105℃であることが当業者に自明であるから、本件発明4における「ホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が-100?70℃を有するビニル系モノマー(b)」との相違点4に係る要件を具備するものではない。
(b)「A-5:オキサゾリン基含有単量体とアクリル系単量体の共重合体」は、「(株)日本触媒製“エポクロス”(登録商標)RPS-1005」なる製品であるとされているところ、当該「アクリル系単量体」につき、そのホモポリマーのTgが開示されておらず、相違点4に係る要件を具備するものということはできない。
よって、上記「A-4:オキサゾリン基含有単量体とスチレンの共重合体」及び「A-5:オキサゾリン基含有単量体とアクリル系単量体の共重合体」はいずれも、上記相違点4に係る事項を具備するものとは認められない。
してみると、上記相違点4は実質的な相違点である。
そして、甲1及び他の各号証を検討しても、甲1発明3の「甲1発明1の処理剤」における「それ以外の単量体(a)」のホモポリマーのTgにつき、調節すべきことを認識できる事項が存するものとは認められないから、上記相違点4につき、甲1発明3において、当業者が適宜なし得ることともいえない。

ウ.小括
したがって、本件発明4は、甲1発明3、すなわち甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明に基づき、たとえ他の甲号証に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が容易に発明をすることができたものということもできない。

(4)本件発明5及び6について

ア.対比・検討
本件発明2をいずれも引用する本件発明5及び6と甲1発明4とをそれぞれ対比すると、少なくとも以下の点で相違する。

相違点5:「炭素材料」につき、本件発明5及び6では、いずれも「請求項2又は3に記載の表面修飾炭素材料」であるのに対して、甲1発明4では「甲1発明2の炭素繊維」である点

上記相違点5につき検討すると、本件発明5及び6における「請求項2又は3に記載の表面修飾炭素材料」、すなわち本件発明2又は3は、いずれも上記(2)で説示したとおりの理由により、甲1発明4に係る「甲1発明2の炭素繊維」、すなわち甲1発明2であるとはいえず、また、甲1発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえないのであるから、上記相違点5は、実質的な相違点であるとともに、甲1発明4において、当業者が適宜なし得ることであるともいえない。

イ.小括
したがって、本件発明5及び6は、いずれも、甲1発明4、すなわち甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明に基づき、たとえ他の甲号証に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が容易に発明をすることができたものということもできない。

(5)検討のまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1ないし6は、いずれも特許法第29条第1項第3号に該当するものではなく、また、同法同条第2項の規定により、特許を受けられないものではない。

3.取消理由1及び2に係るまとめ
よって、本件の請求項1ないし6に係る発明についての特許は、いずれも特許法第29条に違反してされたものではなく、上記取消理由1及び2は、いずれも理由がない。

第5 むすび
以上のとおり、本件特許に係る異議申立において特許異議申立人が主張する取消理由はいずれも理由がなく、本件の請求項1ないし6に係る発明についての特許は、取り消すことができない。
ほかに、本件の請求項1ないし6に係る発明についての特許を取り消すべき理由も発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2020-10-15 
出願番号 特願2019-502033(P2019-502033)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (C08F)
P 1 651・ 121- Y (C08F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 松元 洋  
特許庁審判長 佐藤 健史
特許庁審判官 橋本 栄和
安田 周史
登録日 2019-11-22 
登録番号 特許第6617229号(P6617229)
権利者 KJケミカルズ株式会社 国立大学法人山形大学
発明の名称 炭素材料用オキサゾリン系分散剤等及びそれらを用いた炭素複合材料  

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