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審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 H01L 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01L 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L |
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管理番号 | 1367269 |
審判番号 | 不服2019-7681 |
総通号数 | 252 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-12-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-06-10 |
確定日 | 2020-11-04 |
事件の表示 | 特願2017-526203「研磨用濡れ剤及び研磨液組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 1月 5日国際公開、WO2017/002433、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,2016年(平成28年)4月19日(優先権主張:平成27年7月1日)を国際出願日とする出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。 平成30年6月25日付け:拒絶理由通知書 平成30年10月26日 :意見書の提出 平成30年10月29日 :手続補足書(実験成績証明書)の提出 平成31年3月6日付け :拒絶査定 令和元年6月10日 :審判請求書,手続補正書の提出 令和2年5月13日付け :拒絶理由通知書(当審) 令和2年7月16日 :意見書,手続補正書の提出 第2 本願発明 本願の請求項1?6に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」?「本願発明6」という。)は,令和2年7月16日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される発明であり,そのうちの本願発明1は以下のとおりの発明である。 「【請求項1】 主鎖部分が炭素-炭素結合のみからなる繰り返し単位により構成され,重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)で表される分散度(PDI)が1.44以下であり,前記重量平均分子量(Mw)が80,000以上347,000以下であり,前記繰り返し単位は,N-(メタ)アクリロイルモルホリンに由来する構造単位を含む水溶性重合体を含む研磨用濡れ剤。」 なお,本願発明2?5は本願発明1を減縮した発明であり,本願発明6は本願発明1とカテゴリー表現が異なる発明である。 第3 引用例について 1.引用例1の記載と引用発明1 (1)原査定(平成31年3月6日付け拒絶査定)の拒絶の理由に引用された引用例1(特開2015-67773号公報)には,次の記載がされている。(下線は当審で付加。以下同じ。) 「【発明が解決しようとする課題】 【0004】 シリコンウエハ等の半導体基板その他の基板を研磨するための研磨用組成物(特に精密研磨用の研磨用組成物)には,被研磨物表面の保護や濡れ性向上等の目的で水溶性高分子を含有させたものが多い。そのような水溶性高分子としては,例えばヒドロキシエチルセルロース(HEC)が挙げられる。しかし,HECは天然物(セルロース)に由来する高分子であるため,人工的にモノマーを重合させて得られる高分子(以下,合成高分子ともいう。)に比べて化学構造や純度の制御性に限界がある。また,合成高分子に目を向けると,HEC等の天然物由来高分子と比べて,重量平均分子量や分子量分布(数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比)の調整等の構造制御が比較的容易であり,表面欠陥を生じる原因となり得る異物や高分子構造の局所的な乱れ(ミクロな凝集等)等を高度に低減することが可能である等の利点を有するものの,実用性の観点において,HECと同等以上の性能を発揮する合成高分子を得ることは未だ難しいのが現状である。今後,研磨後の表面品位に対する要求がますます厳しくなると見込まれるなか,表面欠陥を高度に低減し得る研磨用組成物が提供されれば有益である。 【0005】 本発明は,上述のような事情に鑑みて創出されたものであり,表面欠陥を低減し得る研磨用組成物を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0006】 本発明によると,水溶性高分子M_(A-end)を含む研磨用組成物が提供される。前記水溶性高分子M_(A-end)の主鎖は,主構成領域としての非アニオン性領域と,該主鎖の少なくとも一方の端部に位置するアニオン性領域と,からなる。前記アニオン性領域は,少なくとも1つのアニオン性基を有する。かかる構成によると,上記高分子M_(A-end)がアニオン性表面を有する砥粒と共存する場合に表面欠陥を低減することができる。また,組成物の分散安定性が向上する。前記アニオン性領域は,前記主鎖の一方の端部のみに存在することが好ましい。また,前記アニオン性基はカルボキシ基であることが好ましい。さらに,前記アニオン性基は前記主鎖の末端に存在することが好ましい。 【0007】 ここに開示される技術の好ましい一態様では,前記主鎖は炭素-炭素結合からなる。このような構造の主鎖を有する高分子M_(A-end)は,疎水性表面を有する被研磨物の保護性に優れる。」 「【0011】 ここに開示される技術の好ましい一態様では,研磨用組成物は,前記水溶性高分子M_(A-end)に加えて,水溶性高分子M_(L-end)をさらに含む。前記水溶性高分子M_(L-end)は,主鎖の少なくとも一方の端部に疎水性領域を有する。前記疎水性領域は,重合開始剤に由来する少なくとも1つの疎水性基を有する。かかる構成によると,被研磨物の表面が疎水性表面である場合に表面欠陥をさらに低減することができる。また,水溶性高分子M_(L-end)を含む組成物によるとヘイズの低減が実現される。」 「【0024】 高分子M_(A-end)の主鎖に存在するアニオン性領域は,当該領域全体としてアニオン性を示す領域であり,主鎖の少なくとも一方の端部に位置する領域である。この明細書において主鎖の端部とは主鎖の末端を含む部分を指す。したがって,主鎖の端部に位置する領域とは,主鎖の少なくとも一方の末端から主鎖中心方向に延びる所定範囲の領域ということができる。ここに開示される高分子M_(A-end)は,主鎖端部にアニオン性領域を有することで,高分子M_(A-end)がアニオン性表面を有する砥粒(例えばアルカリ雰囲気中のシリカ砥粒)と共存する場合に表面欠陥を低減し得る。その理由として次のことが考えられる。すなわち,高分子M_(A-end)がアニオン性表面を有する砥粒と共存する場合,高分子M_(A-end)の主鎖端部は砥粒のアニオン性表面と反発するため,高分子M_(A-end)の砥粒表面への吸着が抑制され,高分子を介した砥粒の凝集発生が抑制される。その結果,研磨用組成物中において良好な分散状態が実現される。この良好な分散状態(初期分散性)は,さらに研磨後の洗浄性向上に寄与し,砥粒由来の凝集体が洗浄後も残存する事象の発生を抑制する。その結果,表面欠陥(例えばPID(Polishing Induced Defect))を低減する効果が実現されていると考えられる。」 「【0038】 高分子M_(C-end)の主鎖に存在するカチオン性領域は,当該領域全体としてカチオン性を示す領域であり,主鎖の少なくとも一方の端部に位置する領域である。ここに開示される高分子M_(C-end)は,主鎖端部にカチオン性領域を有することで,高分子M_(C-end)がアニオン性表面を有する砥粒(例えばアルカリ雰囲気中のシリカ砥粒)と共存する場合に表面欠陥を低減することができる。その理由としては,特に限定的に解釈されるものではないが,例えば次のことが考えられる。すなわち,高分子M_(C-end)がアニオン性表面を有する砥粒と共存する場合,高分子M_(C-end)はその主鎖端部が砥粒のアニオン性表面と引き合い,高分子M_(C-end)は上記端部のみが砥粒表面に吸着した状態になっていると考えられる。このような特有の吸着状態によって砥粒表面は良好に保護され,それによって,実用的な研磨レートを実現しながら表面欠陥(例えばスクラッチやPID)を低減する効果が実現されていると考えられる。上記のように,高分子M_(C-end)は,高分子M_(A-end)とは異なる作用によって表面欠陥低減に寄与することから,高分子M_(A-end)と高分子M_(C-end)とを併用することにより,表面欠陥はより高レベルで低減され得る。」 「【0074】 水溶性高分子の主鎖の構造は特に限定されず,炭素-炭素結合からなるものや,主鎖中に酸素原子(O)や窒素原子(N)を含むものが挙げられる。なかでも,上記水溶性高分子は炭素-炭素結合(-C-C-)からなる主鎖を有することが好ましい。当該主鎖を有する水溶性高分子は,疎水性表面を有する被研磨物に対して適度に吸着するので,上記被研磨物の保護性に優れる。また,主鎖が炭素-炭素結合からなることは凝集物の低減や洗浄性向上の観点からも好ましい。上記炭素-炭素結合は,好ましくはVAやACMO,VP等のビニル基含有モノマーのビニル基に由来する。」 「【0085】 N-(メタ)アクリロイル基を有する環状アミドの例としては,N-(メタ)アクリロイルモルホリン,N-(メタ)アクリロイルピロリジン等が挙げられる。N-(メタ)アクリロイル基を有する環状アミドをモノマー単位として含むポリマーの例として,アクリロイルモルホリン系ポリマー(PACMO)が挙げられる。アクリロイルモルホリン系ポリマーは,典型的には,N-アクリロイルモルホリン(ACMO)の単独重合体およびACMOの共重合体(例えば,ACMOの共重合割合が50重量%を超える共重合体)である。アクリロイルモルホリン系ポリマーにおいて,全繰返し単位のモル数に占めるACMO単位のモル数の割合は,通常は50%以上であり,80%以上(例えば90%以上,典型的には95%以上)であることが適当である。水溶性高分子の全繰返し単位が実質的にACMO単位から構成されていてもよい。」 「【0089】 ここに開示される水溶性高分子の重量平均分子量(Mw)は,2×10^(3)以上である。したがって,この明細書において水溶性高分子とは,Mwが2×10^(3)以上の化合物と定義してもよい。一方,水溶性高分子の分子量の上限は特に限定されない。例えば重量平均分子量(Mw)が200×10^(4)以下(例えば150×10^(4)以下,典型的には100×10^(4)以下)の水溶性高分子を用いることができる。凝集物の発生をよりよく防止する観点から,通常は,Mwが100×10^(4)未満(より好ましくは80×10^(4)以下,さらに好ましくは50×10^(4)以下,典型的には40×10^(4)以下,例えば30×10^(4)以下)の水溶性高分子の使用が好ましい。また,研磨用組成物の濾過性や洗浄性等の観点から,Mwが25×10^(4)以下(より好ましくは20×10^(4)以下,さらに好ましくは15×10^(4)以下,例えば10×10^(4)以下)の水溶性高分子を好ましく使用し得る。また,ヘイズや表面欠陥の低減の観点から,水溶性高分子のMwの下限は4×10^(3)以上(例えば6×10^(3)以上)であることが好ましい。なかでも,Mwが1×10^(4)以上の水溶性高分子がより好ましい。 【0090】 ここに開示される技術において,水溶性高分子の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との関係は特に制限されない。凝集物の発生防止等の観点から,例えば分子量分布(Mw/Mn)が5.0以下であるものを好ましく用いることができる。研磨用組成物の性能安定性等の観点から,水溶性高分子のMw/Mnは,好ましくは4.0以下,より好ましくは3.5以下,さらに好ましくは3.0以下(例えば2.5以下)である。 なお,原理上,Mw/Mnは1.0以上である。原料の入手容易性や合成容易性の観点から,通常は,Mw/Mnが1.05以上の水溶性高分子を好ましく使用し得る。」 「【0165】 表1に示されるように,水溶性高分子として,主鎖の端部にアニオン性領域(より具体的には主鎖片末端にアニオン性基)を有するPACMO-A(高分子M_(A-end)),PACMO-B(高分子M_(A-end))またはPVP-A(高分子M_(A-end))を含む研磨用組成物を使用した実施例1?5は,良好な分散性を実現することができた。また,実施例1?5は,水溶性高分子として高分子M_(A-end)を使用しなかった比較例1?3と比べて,PID低減性にも優れていた。 また,PACMO-B(高分子M_(A-end))と,主鎖の端部にカチオン性領域(より具体的には主鎖片末端にカチオン性基)を有するPVA-A(高分子M_(C-end))とを含む研磨用組成物を用いた実施例2では,PACMO-A単独使用の実施例1と比べてPIDがさらに減少した。この結果から,高分子M_(C-end)が高分子M_(A-end)とは異なる作用によって表面欠陥低減に寄与したことが推察される。具体的には,高分子M_(C-end)は砥粒表面に良好に吸着することによって,PID低減に寄与したと推察される。 さらに,PACMO-A(高分子M_(A-end))と,主鎖の端部に疎水性領域(より具体的には主鎖片末端に疎水性基)を有するPVA-B(高分子M_(L-end))とを含む研磨用組成物を用いた実施例3,PVP-A(高分子M_(A-end))と,主鎖の端部に疎水性領域(より具体的には主鎖片末端に疎水性基)を有する疎水変性PVA(高分子M_(L-end))とを含む研磨用組成物を用いた実施例5では,PACMO-A単独使用の実施例1と比べてPIDがさらに減少した。この結果から,高分子M_(L-end)が高分子M_(A-end)とは異なる作用によってPID低減に寄与したことが推察される。具体的には,高分子M_(L-end)は被研磨物(シリコンウエハ)表面に良好に吸着することによって,PID低減に寄与したと推察される。」 (2)以上によれば,上記引用例1には次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。 「炭素-炭素結合(-C-C-)からなる主鎖を有し,前記炭素-炭素結合はアクリロイルモルホリン(ACMO)に由来し,重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)で表される分子量分布が2.5以下であり,前記重量平均分子量(Mw)が1×10^(4)以上40×10^(4)以下であり,N-アクリロイルモルホリン(ACMO)の重合体であって,全繰返し単位が実質的にACMO単位から構成されている水溶性高分子を含む研磨用組成物。」 2.引用例2の記載 (1)原査定の拒絶の理由に引用された引用例2(国際公開第2015/068672号)には,次の記載がされている。 「[0015] <水溶性高分子> 本発明の半導体用濡れ剤は,N-(メタ)アクリロイルモルホリンに由来する構造単位を50?100mol%有し,実質的にカチオン性基を含まない水溶性高分子を含有する。N-(メタ)アクリロイルモルホリンに由来する構造単位は,70?100mol%の範囲であることが好ましく,90?100mol%の範囲であることがより好ましく,100mol%が最も好ましい。 N-(メタ)アクリロイルモルホリンに由来する構造単位は,ウェーハ表面への吸着性が良好であり,かつ,耐加水分解性にも優れる。このため,前記構造単位を主体とする水溶性高分子を含有する半導体用濡れ剤は,アルカリ化合物等とともに研磨用組成物を形成した場合にも優れた耐アルカリ性を示し,また,当該研磨用組成物は良好な耐エッチング性を発揮する。」 「[0043] 製造例1 ≪水溶性高分子の合成≫ 攪拌翼,還流冷却管,温度計,各種導入管を備えた5Lの4つ口フラスコを用意し,純水1000部を仕込んだ後,窒素導入管から10ml/minの流量にて窒素を吹き込みつつ,攪拌しながら40minかけて内温を80℃に昇温した。 昇温を確認後,4,4’-アゾビス-4-シアノ吉草酸(大塚化学社製,商品名「ACVA」)2.8部を純水30部に溶解した開始剤溶液を一括で加えた。5分後,N-アクリロイルモルホリン(興人社製,以下「ACMO」という)700部を純水1600部に溶解したモノマー水溶液をモノマー導入管から1時間かけて滴下し,重合を行った。また,モノマー水溶液と並行して,2-メルカプトエタノール(和光純薬工業社製)1.4部を純水140部に溶解した連鎖移動剤水溶液を別の導入管から1時間かけて滴下した。 モノマー及び連鎖移動剤の各水溶液の滴下終了後,80℃でさらに2時間重合を行った。その後,フラスコを室温まで冷却し,4-メトキシフェノールを0.3部加えて重合を停止することにより重合体1を得た。この重合体1の数平均分子量(Mn)は24,000であり,分子量分布(PDI)は2.4であった。また,GCから算出した重合率は100%であった。 [0044] 製造例2 製造例1において,連鎖移動剤を使用しなかった以外は同様の操作を行い,重合体2を得た。重合体2のMnは120,000であり,PDIは3.0であった。また,重合率は99%であった。 [0045] 製造例3 製造例2において,開始剤であるACVAの使用量を0.5部に変更した以外は同様の操作を行い,重合体3を得た。重合体3のMnは250,000であり,PDIは3.3であった。また,重合率は99%であった。」 (2)以上によれば,引用例2には以下の技術的事項が記載されているといえる。 ・N-(メタ)アクリロイルモルホリンに由来する構造単位を主体とする水溶性高分子を含む半導体用濡れ剤において,分子量分布(PDI)を2.4?3.3とし,数平均分子量(Mn)を24,000?250,000とすること。 第4 対比・判断 1.本願発明1と引用発明1の一致点及び相違点 本願発明1と引用発明1とを対比する。 ア 引用例1の段落[0004]の,「シリコンウエハ等の半導体基板その他の基板を研磨するための研磨用組成物(特に精密研磨用の研磨用組成物)には,被研磨物表面の保護や濡れ性向上等の目的で水溶性高分子を含有させたものが多い。」との記載から,引用発明1の「研磨用組成物」は濡れ性を向上させるための組成物であると理解できる。そうすると,引用発明1における「研磨用組成物」は本願発明1における「研磨用濡れ剤」に相当するといえる。 イ 引用発明1の「N-アクリロイルモルホリン(ACMO)の重合体であって,全繰返し単位が実質的にACMO単位から構成されている水溶性高分子」は,本願発明1の「前記繰り返し単位は,N-(メタ)アクリロイルモルホリンに由来する構造単位を含む水溶性重合体」に相当する。また,引用発明1の「水溶性高分子」が「炭素-炭素結合(-C-C-)からなる主鎖を有し,前記炭素-炭素結合はアクリロイルモルホリン(ACMO)に由来」することは,本願発明1の「水溶性重合体」が「主鎖部分が炭素-炭素結合のみからなる繰り返し単位により構成され」ていることに相当する。 ウ 引用発明1の「重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)で表される分子量分布が2.5以下」であることは,本願発明1の「重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)で表される分散度(PDI)が1.44以下」であることに対応し,両者はともに「重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)で表される分散度(PDI)」が所定の値以下である点で共通する。 エ 引用発明1の「重量平均分子量(Mw)が1×10^(4)以上40×10^(4)以下」であることは,本願発明1の「重量平均分子量(Mw)が80,000以上347,000以下」であることに対応し,両者はともに「重量平均分子量(Mw)」が所定の数値範囲である点で共通する。 以上によれば,本願発明1と引用発明1との一致点及び相違点は以下のとおりとなる。 <一致点> 「主鎖部分が炭素-炭素結合のみからなる繰り返し単位により構成され,重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)で表される分散度(PDI)が所定の値以下であり,前記重量平均分子量(Mw)が所定の数値範囲であり,前記繰り返し単位は,N-(メタ)アクリロイルモルホリンに由来する構造単位を含む水溶性重合体を含む研磨用濡れ剤。」 <相違点1> 本願発明1では「重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)で表される分散度(PDI)が1.44以下」であるのに対し,引用発明1では「重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)で表される分子量分布が2.5以下」である点。 <相違点2> 本願発明1では「重量平均分子量(Mw)が80,000以上347,000以下」であるのに対し,引用発明1では,「重量平均分子量(Mw)が1×10^(4)以上40×10^(4)以下」である点。 2.相違点に対する判断 上記相違点1及び2について,まとめて検討する。 ア 本願の発明の詳細な説明(表3を参照)によれば,本願発明1は,N-(メタ)アクリロイルモルホリンに由来する構造単位を含む研磨用濡れ剤の水溶性高分子について,「分散度(PDI)を1.44以下」,「重量平均分子量(Mw)を80,000以上347,000以下」と規定することで,「シリカ分散性」,「水溶液ろ過性」,「耐エッチング性(E.R.)」,「濡れ性」,「耐アルカリ性」のいずれにおいても優れた性質を有する研磨用濡れ剤を得るものであると理解できる。 イ 一方,引用例1の記載(段落[0006],[0011],[0024],[0038],[0165]等を参照。)によれば,引用発明1は,主鎖の少なくとも一方の端部にアニオン性領域を有する水溶性高分子を用い,高分子の砥粒表面への吸着を防止することで高分子を介した砥粒の凝集発生を抑制する作用を有するものであり,当該作用により表面欠陥を低減する効果を得るものであると理解できる。また引用例1(表1を参照。)では,引用発明1の効果を分散性と表面欠陥数(PID数)の相対値により評価している。 ウ しかしながら,引用例1には,水溶性高分子の分散度(PDI)及び重量平均分子量(Mw)を,「シリカ分散性」,「水溶液ろ過性」,「耐エッチング性(E.R.)」,「濡れ性」,「耐アルカリ性」のいずれにおいても優れた性質を有するように最適化することは記載されていない。そうすると,引用発明1における好適範囲であり,本願発明1よりも広範な「重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)で表される分子量分布が2.5以下」及び「重量平均分子量(Mw)が1×10^(4)以上40×10^(4)以下」との範囲から,より限定された「分散度(PDI)が1.44以下」及び「重量平均分子量(Mw)が80,000以上347,000以下」との範囲とする動機が,引用例1に記載ないし示唆されているとはいえない。 エ また,引用例2には,N-(メタ)アクリロイルモルホリンに由来する構造単位を主体とする水溶性高分子を含む半導体用濡れ剤において,分子量分布(PDI)を2.4?3.3とし,数平均分子量(Mn)を24,000?250,000とすること(上記第3の2.(2))は記載されているが,「分散度(PDI)が1.44以下」及び「重量平均分子量(Mw)が80,000以上347,000以下」との範囲とすることは記載も示唆もされていない。さらに,当該範囲に規定することで「シリカ分散性」,「水溶液ろ過性」,「耐エッチング性(E.R.)」,「濡れ性」,「耐アルカリ性」のいずれにおいても優れた性質を有することが,当業者に周知の事項であるとも認められない。 オ したがって,本願発明1は引用発明1と同一ではなく,また,引用発明1及び引用例2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 3.本願発明2?6について 本願発明2?5は本願発明1を減縮した発明であり,本願発明1の「分散度(PDI)が1.44以下」及び「重量平均分子量(Mw)が80,000以上347,000以下」との構成を含むものであるから,本願発明1と同様に,引用発明1と同一ではなく,また,引用発明1及び引用例2から当業者が容易に発明をすることができたものではない。 また,本願発明6は本願発明1に対応する方法の発明であり,本願発明1の「分散度(PDI)が1.44以下」及び「重量平均分子量(Mw)が80,000以上347,000以下」との構成に対応する構成を含むものであるから,本願発明1と同様に,引用発明1と同一ではなく,また,引用発明1及び引用例2から当業者が容易に発明をすることができたものではない。 4.小括 したがって,本願発明1?6は,特許法29条1項3号に該当せず,同法同条1項の規定する要件を充足しない。また,本願発明1?6は,特許法29条2項の規定する要件を充足しない。 第5 原査定の概要及び原査定についての判断 原査定の概要は,以下の(1),(2)のとおりである。 (1)本願の請求項1,3?9に係る発明は,引用例1に記載された発明であるから,特許法29条1項3号に該当し,同法同条1項の規定により特許を受けることができない。仮にそうでないとしても,本願の請求項1,3?9に係る発明は,引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 (2)本願の請求項2に係る発明は,引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 しかしながら,令和2年7月16日提出の手続補正書でした補正により,補正後の請求項1?6は,「分散度(PDI)が1.44以下」及び「重量平均分子量(Mw)が80,000以上347,000以下」との技術的事項を有するものとなった。そして,上述のとおり,当該事項は原査定の拒絶理由で引用した引用例1及び引用例2に記載された事項ではなく,本願優先日前における周知技術でもないから,補正後の請求項1?6に係る発明は,引用例1に記載された発明ではなく,また,引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 したがって,原査定を維持することはできない。 第6 当審拒絶理由について 当審では,本願の特許請求の範囲の記載は特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていないとの拒絶理由を通知した。具体的には,請求項1?6における「重量平均分子量(Mw)が80,000?350,000であり」及び「分散度(PDI)が2.0以下であり」との事項は,本願発明の詳細な説明に開示された事項ではないから,本願の請求項1?6に係る発明は,発明の詳細な説明に記載したものではないとの拒絶の理由を通知した。 これに対し,審判請求人は令和2年7月16日に手続補正書を提出し,当該補正書により,上記の事項は「重量平均分子量(Mw)が80,000?347,000であり」及び「分散度(PDI)が1.44以下であり」と補正された結果,この拒絶の理由は解消した。 第7 結言 以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。 また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2020-10-19 |
出願番号 | 特願2017-526203(P2017-526203) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WY
(H01L)
P 1 8・ 121- WY (H01L) P 1 8・ 113- WY (H01L) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 鈴木 和樹、中田 剛史 |
特許庁審判長 |
恩田 春香 |
特許庁審判官 |
小川 将之 脇水 佳弘 |
発明の名称 | 研磨用濡れ剤及び研磨液組成物 |
代理人 | 特許業務法人快友国際特許事務所 |
代理人 | 特許業務法人快友国際特許事務所 |