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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
管理番号 1367298
審判番号 不服2019-11394  
総通号数 252 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-08-30 
確定日 2020-10-15 
事件の表示 特願2018-145402「ポリビニルアルコールフィルム、及び偏光フィルムの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年10月24日出願公開、特開2019-184992〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成30年3月30日に出願した特願2018-70375号の一部を同年8月1日に新たな特許出願としたものであって、同月2日に上申書が提出され、同年9月19日付けで拒絶理由が通知され、同年11月26日に意見書の提出とともに手続補正がなされ、平成31年1月11日付けで拒絶理由が通知され、同年3月18日に意見書の提出とともに手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされ、令和元年5月30日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し、同年8月30日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。
その後、令和2年4月28日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年7月8日に意見書が提出された。

2 本件発明
本願の請求項1?7に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるとおりの発明であって、請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「 ビニルアルコール系重合体を含むポリビニルアルコールフィルムであって、
前記ビニルアルコール系重合体のけん化度が99モル%以上であり、
60℃の重水に2時間浸漬した後のポリビニルアルコールフィルムを測定試料として、パルスNMRを用いて60℃でSolid Echo法で測定した0.10ミリ秒時点のNMR信号強度が初期強度の50%以上78%以下である、ポリビニルアルコールフィルム。」

3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は、本願の請求項1?7に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった国際公開第2015/020046号(以下、「引用文献1」という。)に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

4 引用文献の記載事項及び引用発明
(1)引用文献1の記載事項
当審拒絶理由に引用され、本願出願前の2015年(平成27年)2月12日に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載された引用文献1(国際公開第2015/020046号)には、以下の記載事項がある。なお、引用文献1に付されていた下線を省き、合議体が発明の認定等に用いた箇所に新たに下線を付した。

ア 「技術分野
[0001] 本発明は、光学フィルムを製造するための原反フィルムとして有用なビニルアルコール系重合体フィルムと、それを用いた偏光フィルム等の光学フィルムの製造方法に関する。

(中略)

発明が解決しようとする課題
[0006] しかしながら、従来公知のPVAフィルムを用いた場合には、光学特性、色相及び耐久性のいずれにも優れる光学フィルムを得るという点でさらなる改良の余地があった。
[0007] そこで本発明は、光学特性、色相及び耐久性のいずれにも優れる光学フィルムを容易に製造することのできるPVAフィルムと、それを用いた光学フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
課題を解決するための手段
[0008] 本発明者らが上記の目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、PVAフィルムにおける結晶成分量および拘束非晶成分量の合計の割合を特定の範囲とすれば上記課題が解決されることを見出し、当該知見に基づいてさらに検討を重ねて本発明を完成させた。
[0009] すなわち、本発明は、
[1]60℃で1時間処理した後にパルスNMR測定(観測核:^(1)H)することによって得られるスピン-スピン緩和時間T_(2)から結晶成分量(a_(1))、拘束非晶成分量(a_(2))および非晶成分量(a_(3))を求めた際に、結晶成分量(a_(1))、拘束非晶成分量(a_(2))および非晶成分量(a_(3))の合計に対する結晶成分量(a_(1))および拘束非晶成分量(a_(2))の合計の占める割合が10?32%である、PVAフィルム;

(中略)

発明の効果
[0020] 本発明によれば、光学特性、色相及び耐久性のいずれにも優れる光学フィルムを容易に製造することのできるPVAフィルムと、それを用いた光学フィルムの製造方法が提供される。」

イ 「発明を実施するための形態
[0021] 本発明のPVAフィルムは、60℃で1時間処理した後にパルスNMR測定(観測核:^(1)H)することによって得られるスピン-スピン緩和時間T_(2)から結晶成分量(a_(1))、拘束非晶成分量(a_(2))および非晶成分量(a_(3))を求めた際に、結晶成分量(a_(1))、拘束非晶成分量(a_(2))および非晶成分量(a_(3))の合計に対する結晶成分量(a_(1))および拘束非晶成分量(a_(2))の合計の占める割合が10?32%の範囲内にある。
[0022] パルスNMRは、有機化合物の構造決定などにおいて汎用されるような高分解能NMRとは異なり、系内の分子運動性と関連した^(1)H核の各緩和時間を測定することができるとともに、その高い定量性を利用して、系内における各運動成分の存在割合を求めることができる分析法である。本発明においては、PVAフィルムにおける結晶成分量(a_(1))、拘束非晶成分量(a_(2))および非晶成分量(a_(3))を求めるにあたり、^(1)Hのスピン-スピン緩和時間T_(2)を用いる。具体的には、^(1)Hのスピン-スピン緩和時間T_(2)の測定において得られる自由誘導減衰(FID)信号が下記式(4)に近似的にあてはまるように、いずれも正の値であるa_(1)、a_(2)、a_(3)、a_(4)、c_(1)、c_(2)およびc_(3)を求める。当該あてはめ(フィッティング)は線形最小二乗法を用いて行うことが好ましい。得られた各値のうち、a_(1)が上記結晶成分量(a_(1))に該当し、a_(2)が上記拘束非晶成分量(a_(2))に該当し、a_(3)が上記非晶成分量(a_(3))に該当する。パルスNMR測定する際の具体的な各条件としては、実施例において後述する各条件をそれぞれ採用することができる。
[0023][数1]

[0024] パルスNMR測定するにあたっては、測定対象となるPVAフィルムを予め60℃で1時間処理する。60℃で1時間処理した後における結晶成分量(a_(1))および拘束非晶成分量(a_(2))の割合を求めることにより、本発明の効果(耐久性等)により密接に関連した上記成分割合を求めることができる。当該処理は、測定対象となるPVAフィルムを水中に浸漬した状態で行うことができ、特に当該処理後のPVAフィルムをそのままパルスNMR測定に供することができることから、NMRチューブ中などにおいてPVAフィルムを重水中に浸漬した状態で行うことが好ましい。当該処理のより具体的な処理方法ないし条件としては、実施例において後述する方法を採用することができる。
[0025] 本発明のPVAフィルムは、60℃で1時間処理した後にパルスNMR測定(観測核:^(1)H)することによって得られるスピン-スピン緩和時間T_(2)から結晶成分量(a_(1))、拘束非晶成分量(a_(2))および非晶成分量(a_(3))を求めた際に、結晶成分量(a_(1))、拘束非晶成分量(a_(2))および非晶成分量(a_(3))の合計に対する結晶成分量(a_(1))および拘束非晶成分量(a_(2))の合計の占める割合が10?32%の範囲内にあることが必要である。当該割合が10%未満であると、そのPVAフィルムを用いて得られる光学フィルムの耐久性が悪化する。一方、当該割合が32%を超えると、そのPVAフィルムを用いて得られる光学フィルムの色相が低下する。本発明を何ら限定するものではないが、この理由としては、使用される二色性色素の状態に及ぼす影響が上記各成分ごとに異なっていることなどが考えられ、上記割合を調整することが本発明の効果において極めて重要であると推測される。結晶成分量(a_(1))、拘束非晶成分量(a_(2))および非晶成分量(a_(3))の合計に対する結晶成分量(a_(1))および拘束非晶成分量(a_(2))の合計の占める割合は、得られる光学フィルムの色相や耐久性などの観点から、10.5%以上であることが好ましく、11%以上であることがより好ましく、また、31.5%以下であることが好ましく、31%以下であることがより好ましい。
[0026] 得られる光学フィルムの耐久性をより向上させることができることなどから、PVAフィルムは拘束非晶成分を有することが好ましく、特にPVAフィルムは、結晶成分量(a_(1))、拘束非晶成分量(a_(2))および非晶成分量(a_(3))の合計に対する拘束非晶成分量(a_(2))の占める割合が5%以上であることが好ましく、6%以上であることがより好ましい。

(中略)

[0069] 本発明のPVAフィルムは、上記のPVAの他に可塑剤を含むことができる。好ましい可塑剤としては多価アルコールが挙げられ、具体例としては、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジグリセリン、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリメチロールプロパンなどが挙げられる。本発明のPVAフィルムはこれらの可塑剤の1種または2種以上を含むことができる。これらの中でも、延伸性の向上効果の点からグリセリンが好ましい。
[0070] 本発明のPVAフィルムにおける可塑剤の含有量は、それに含まれるPVA100質量部に対して、1質量部以上であることが好ましく、3質量部以上であることがより好ましく、5質量部以上であることがさらに好ましく、また、20質量部以下であることが好ましく、17質量部以下であることがより好ましく、15質量部以下であることがさらに好ましい。当該含有量が1質量部以上であることによりフィルムの延伸性がより向上する。一方、当該含有量が20質量部以下であることにより、フィルムが柔軟になり過ぎて取り扱い性が低下するのを抑制することができる。」

ウ 「実施例
[0097] 以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例において採用された各測定または評価方法を以下に示す。
[0098]PVAの一次構造
以下の実施例及び比較例で使用したPVAの一次構造は、400MHz ^(1)H-NMRを用いて分析した。^(1)H-NMR測定時の溶媒は重水素化DMSOを用いた。
[0099]PVAフィルムの膨潤度
以下の実施例または比較例で得られたPVAフィルムを1.5gとなるようにカットし、30℃の蒸留水中に30分間浸漬した。30分間浸漬後に当該フィルムを取り出し、ろ紙で表面の水を取り、質量「N」を求めた。続いてそのフィルムを105℃の乾燥機で16時間乾燥した後、質量「M」を求めた。得られた質量「N」及び「M」から、下記式(8)によりPVAフィルムの膨潤度を算出した。
膨潤度(%) = 100 × N/M (8)

[0100]PVAフィルムにおける結晶成分量(a_(1))と拘束非晶成分量(a_(2))
以下の実施例または比較例で得られたPVAフィルムから得たサンプル(100mg)を5mm×5mm程度の大きさに細断した後に重水1mLと共にNMRチューブに投入した。このNMRチューブを60℃の恒温槽中に1時間浸漬した。その後、20℃で24時間保管し、測定試料とした。この測定試料を、パルスNMR(ブルカー・バイオスピン株式会社製「minispec mq20 WVT」)を用いて^(1)Hのスピン-スピン緩和時間T_(2)を測定した。測定条件は以下の通りである。
・パルス系列:Solid-Echo法(90x-τ-90y)
・RFパルス幅(Pw1):2.1μs
・パルス間隔(Pi1):1μs
・パルス繰り返し時間:1s
・測定温度:30℃
上記測定で得られた自由誘導減衰(FID)信号を線形最小二乗法によって上記式(4)にフィッティングし、いずれも正の値である結晶成分量(a_(1))、拘束非晶成分量(a_(2))および非晶成分量(a_(3))を求め、これら3成分の量の合計に対する各成分の割合を算出した。
[0101]PVAフィルムの延伸性
以下の実施例または比較例で得られたPVAフィルムの幅方向中央部から、幅5cm×長さ5cmの範囲が一軸延伸できるように幅5cm×長さ8cmのサンプルをカットした。このサンプルを30℃の純水に浸漬しつつ1.5倍に長さ方向に一軸延伸した。続いてヨウ素を0.03質量%及びヨウ化カリウムを3.0質量%の割合で含有する水溶液(染色浴)(温度30℃)に60秒間浸漬しつつ1.6倍(全体で2.4倍)に長さ方向に一軸延伸してヨウ素を吸着させた。次いで、ホウ酸を3質量%及びヨウ化カリウムを3質量%の割合で含有する水溶液(架橋浴)(温度30℃)に浸漬しつつ1.1倍(全体で2.6倍)に長さ方向に一軸延伸した。さらにホウ酸を4質量%及びヨウ化カリウムを6質量%の割合で含有する水溶液(延伸浴)に浸漬しつつ、切断するまで長さ方向に一軸延伸し、延伸前のPVAフィルムの長さに対する切断時の長さの倍率を限界延伸倍率とした。ただし、延伸浴の温度については、適当な温度から1℃ずつ変更して限界延伸倍率を測定し、限界延伸倍率が最も高くなる温度を選択した。
[0102]偏光フィルムの光学特性(二色性比)
(1)透過率Tsの測定
以下の実施例または比較例で得られた偏光フィルムの中央部から、偏光フィルムの長さ方向に2cmのサンプルを2枚採取し、積分球付き分光光度計(日本分光株式会社製「V7100」)を用いて、JIS Z 8722(物体色の測定方法)に準拠し、C光源、2°視野の可視光領域の視感度補正を行い、1枚のサンプルについて、長さ方向に対して+45°傾けた場合の光の透過率と-45°傾けた場合の光の透過率を測定して、それらの平均値Ts1(%)を求めた。もう1枚のサンプルについても同様にして、+45°傾けた場合の光の透過率と-45°傾けた場合の光の透過率を測定して、それらの平均値Ts2(%)を求めた。下記式(9)によりTs1とTs2を平均し、偏光フィルムの透過率Ts(%)とした。
Ts = (Ts1+Ts2)/2 (9)

[0103](2)偏光度Vの測定
上記透過率Tsの測定で採取した2枚のサンプルを、その長さ方向が平行になるように重ねた場合の光の透過率T?(%)、長さ方向が直交するように重ねた場合の光の透過率T⊥(%)を、上記「(1)透過率Tsの測定」の場合と同様にして測定し、下記式(10)により偏光度V(%)を求めた。
V = {(T?-T⊥)/(T?+T⊥)}1/2×100 (10)

[0104](3)透過率44%時の二色性比の算出
以下の各実施例及び比較例において、染色浴におけるヨウ素の濃度を0.02?0.04質量%及びヨウ化カリウムの濃度を2.0?4.0質量%の各範囲内で4回変更(ただし、ヨウ素の濃度:ヨウ化カリウムの濃度=1:100とする)して同様の操作を行い、各実施例または比較例で製造した偏光フィルムとは二色性色素の吸着量の異なる4枚の偏光フィルムを製造した。これら4枚の偏光フィルムのそれぞれについて上記した方法で透過率Ts(%)及び偏光度V(%)を求め、各実施例及び比較例毎に、透過率Ts(%)を横軸、偏光度V(%)を縦軸として、各実施例または比較例で得られた偏光フィルムの透過率Ts(%)及び偏光度V(%)に基づく1点も含めた合計5点をグラフにプロットして近似曲線を求め、当該近似曲線から、透過率Ts(%)が44%であるときの偏光度V_(44)(%)を求めた。
得られた偏光度V_(44)(%)から、下記式(11)により透過率44%時の二色性比を求めて、偏光性能の指標とした。なお、二色性比が高いほど偏光フィルムの光学特性は良好であり、二色性比が66以上の場合を「○」(良好)と判定し、66未満の場合を「×」(不良)と判定した。
透過率44%時の二色性比 = log(44/100-44/100×V_(44)/100)/log(44/100+44/100×V_(44)/100) (11)

[0105]偏光フィルムの色相(平行b値)
上記の「偏光フィルムの光学特性(二色性比)」において、二色性色素の吸着量の異なる4枚の偏光フィルムの偏光度Vを求める際に、透過率T?(%)及び透過率T⊥(%)測定時にLab色空間を測定し、透過率T?(%)の測定時のb値を平行b値とし、透過率T⊥(%)の測定時のb値を直交b値とした。各実施例及び比較例毎に、平行b値を横軸、直交b値を縦軸として、各実施例または比較例で得られた偏光フィルムの平行b値及び直交b値に基づく1点も含めた合計5点をグラフにプロットして近似曲線を求め、当該近似曲線から、直交b値が-4であるときの平行b値を求めた。なお、平行b値が0に近いほど偏光フィルムの色相は良好であり、平行b値が2.2未満の場合を「○」(良好)と判定し、2.2以上の場合を「×」(不良)と判定した。
[0106] 偏光フィルムの耐久性(吸光度残存率)
各実施例または比較例毎に、上記の「偏光フィルムの光学特性(二色性比)」において製造した二色性色素の吸着量の異なる4枚の偏光フィルム及び各実施例または比較例で得られた偏光フィルムの合計5枚の偏光フィルムの中から、透過率が44?45%の範囲にあり、且つ、透過率T⊥(%)測定時に求めた波長610nmでの吸光度(直交吸光度)が2.95?3.05である偏光フィルムを1枚選定した。
その偏光フィルムを60℃、90%RHの環境下で4時間暴露し、初期の波長610nmでの直交吸光度をA_(0h)及び4時間暴露後の波長610nmでの直交吸光度をA_(4h)として、下記式(12)により求めた直交吸光度の残存率(吸光度残存率)D(%)を偏光フィルムの耐久性として評価した。なお、吸光度残存率が高いほど偏光フィルムの耐久性は良好であり、吸光度残存率が20%以上の場合を「○」(良好)と判定し、20%未満の場合を「×」(不良)と判定した。
D(%)=100 × A_(4h)/A_(0h) (12)

[0107][実施例1?6および比較例1?5]
(1)酢酸ビニルと、酢酸2-メチル-2-プロペニル、3,4-ジアセトキシ-1-ブテン、7-アセトキシ-1-ヘプテンまたは1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパンとの共重合体(比較例1では酢酸ビニルの単独重合体)をけん化することにより得られた表1に示すPVA100質量部、可塑剤としてグリセリン10質量部、及び界面活性剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム0.1質量部を含み、PVAの含有率が10質量%である水溶液を製膜原液として用いて、これを80℃の金属ロール上で乾燥し、得られたフィルムを熱風乾燥機中で所定の温度で1分間熱処理をすることにより膨潤度を200%に調整して、厚みが30μmのPVAフィルムを製造した。
得られたPVAフィルムを用いて、上記した方法により結晶成分量(a_(1))と拘束非晶成分量(a_(2))の割合を求めるとともに延伸性を評価した。結果を表1に示した。
[0108](2)上記(1)で得られたPVAフィルムの幅方向中央部から、幅5cm×長さ5cmの範囲が一軸延伸できるように幅5cm×長さ8cmのサンプルをカットした。このサンプルを30℃の純水に浸漬しつつ1.5倍に長さ方向に一軸延伸した。続いてヨウ素を0.03質量%及びヨウ化カリウムを3.0質量%の割合で含有する水溶液(染色浴)(温度30℃)に60秒間浸漬しつつ1.6倍(全体で2.4倍)に長さ方向に一軸延伸してヨウ素を吸着させた。次いで、ホウ酸を3質量%及びヨウ化カリウムを3質量%の割合で含有する水溶液(架橋浴)(温度30℃)に浸漬しつつ1.1倍(全体で2.6倍)に長さ方向に一軸延伸した。さらにホウ酸を4質量%及びヨウ化カリウムを6質量%の割合で含有する水溶液(延伸浴)(上記「PVAフィルムの延伸性」で求めた限界延伸倍率が最も高くなる温度)に浸漬しつつ、限界延伸倍率よりも0.2倍低い倍率まで長さ方向に一軸延伸した。その後、ヨウ化カリウムを3質量%の割合で含有する水溶液(洗浄浴)(温度30℃)に5秒間浸漬し、最後に60℃で4分間乾燥して偏光フィルムを製造した。
得られた偏光フィルムを用いて、上記した方法により偏光フィルムの光学特性(二色性比)、色相(平行b値)および耐久性を評価した。結果を表1に示した。
[0109][表1]

[0110] 以上の結果から明らかなように、本発明の規程を満たす実施例1?6のPVAフィルムによれば、光学特性、色相及び耐久性のいずれにも優れる光学フィルムを容易に製造できることが分かる。」

エ 「請求の範囲
[請求項1] 60℃で1時間処理した後にパルスNMR測定(観測核:^(1)H)することによって得られるスピン-スピン緩和時間T_(2)から結晶成分量(a_(1))、拘束非晶成分量(a_(2))および非晶成分量(a_(3))を求めた際に、結晶成分量(a_(1))、拘束非晶成分量(a_(2))および非晶成分量(a_(3))の合計に対する結晶成分量(a_(1))および拘束非晶成分量(a_(2))の合計の占める割合が10?32%である、ビニルアルコール系重合体フィルム。

(中略)

[請求項6] ビニルアルコール系重合体フィルムに含まれるビニルアルコール系重合体の重合度が3,000以下である、請求項1?5のいずれか1項に記載のビニルアルコール系重合体フィルム。

(中略)

[請求項9] 光学フィルム製造用原反フィルムである、請求項1?8のいずれか1項に記載のビニルアルコール系重合体フィルム。」

(2)引用発明
引用文献1の記載事項エに基づけば、引用文献1には、請求項1の記載を請求項6を介して引用する請求項9に係る発明として、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていたと認められる。
「60℃で1時間処理した後にパルスNMR測定(観測核:^(1)H)することによって得られるスピン-スピン緩和時間T_(2)から結晶成分量(a_(1))、拘束非晶成分量(a_(2))および非晶成分量(a_(3))を求めた際に、結晶成分量(a_(1))、拘束非晶成分量(a_(2))および非晶成分量(a_(3))の合計に対する結晶成分量(a_(1))および拘束非晶成分量(a_(2))の合計の占める割合が10?32%である、ビニルアルコール系重合体フィルムであって、
ビニルアルコール系重合体フィルムに含まれるビニルアルコール系重合体の重合度が3,000以下であり、光学フィルム製造用原反フィルムである、ビニルアルコール系重合体フィルム。」

5 対比
本件発明と引用発明とを対比する。

(1)ビニルアルコール系重合体
引用発明の「ビニルアルコール系重合体」は、技術的にみて、本件発明の「ビニルアルコール系重合体」に相当する。

(2)ポリビニルアルコールフィルム
引用発明の「ビニルアルコール系重合体フィルム」は、上記「ビニルアルコール系重合体」を含むものである。そうすると、引用発明の「ビニルアルコール系重合体フィルム」は、本件発明の「ポリビニルアルコールフィルム」に相当し、「ビニルアルコール系重合体を含む」とする要件を満たしているといえる。

(3)一致点及び相違点
以上より、本件発明と引用発明とは、
「ビニルアルコール系重合体を含むポリビニルアルコールフィルム。」である点で一致し、以下の点で相違又は一応相違する。
[相違点1]本件発明は、「ビニルアルコール系重合体のけん化度が99モル%以上」であるのに対し、引用発明は、ビニルアルコール系重合体のけん化度を特定していない点。
[相違点2]本件発明は、ポリビニルアルコールフィルムについて、「60℃の重水に2時間浸漬した後のポリビニルアルコールフィルムを測定試料として、パルスNMRを用いて60℃でSolid Echo法で測定した0.10ミリ秒時点のNMR信号強度が初期強度の50%以上78%以下」であるとするのに対し、引用発明は、ビニルアルコール系重合体フィルムについて、60℃の重水に2時間浸漬した後のポリビニルアルコールフィルムを測定試料として、パルスNMRを用いて60℃でSolid Echo法で測定した0.10ミリ秒時点のNMR信号強度がどのような範囲のものであるのかを特定していない点。

6 判断
(1)[相違点1]について
引用発明の「ビニルアルコール系重合体」は、「光学フィルム製造用原反フィルム」に用いられるものである。そして、光学フィルムの製造に用いられるビニルアルコール系重合体として、けん化度が99モル%以上のものを用いることは、以下のとおり、周知技術であるといえる。
たとえば、国際公開第2009/028141号には、「本発明は、高性能な偏光フィルムの製造に好適に用いることができるポリビニルアルコールフィルムおよびその製造法に関する。」(段落[0002])、「本発明のPVAフィルムを形成するPVA系樹脂のケン化度は、得られる偏光フィルムの偏光性能および耐久性等の点から、95.0モル%以上が好ましく、98.0モル%以上がより好ましく、99.0モル%以上がさらに好ましく、99.3モル%以上が最も好ましい。」(段落[0034])と記載されている。また、特開2010-191293号公報には、「本発明は、偏光フィルム用ポリビニルアルコールフィルムおよびその製造方法、ならびにそれを用いた偏光フィルムの製造方法に関する。」(段落【0001】)、「原料PVAのけん化度は、98モル%以上であることが好ましく、99モル%以上がより好ましく、99.5モル%以上がさらに好ましく、99.8モル%以上が特に好ましい。けん化度が98モル%よりも低いと偏光フィルムの製造工程でPVAが溶出しやすくなり、溶出したPVAが偏光フィルムに付着する場合がある。その結果、高い偏光性能を有する偏光フィルムを製造することができない場合がある。」(段落【0041】)と記載されている。さらに、特開2011-150313号公報には、「本発明の偏光板の製造方法は、融点が110℃以上の基材フィルムの一方の表面上にポリビニルアルコール系樹脂からなる樹脂層を形成して積層フィルムとする樹脂層形成工程(S10)、上記樹脂層に偏光フィルム化処理を施し偏光フィルムとする偏光フィルム化処理工程(S20)、・・・をこの順に備える。偏光フィルム化処理工程(S20)は、積層フィルムを、基材フィルムの融点の-30℃から+5℃の温度範囲で、5倍超の延伸倍率となるように一軸延伸する一軸延伸工程(S21)、および樹脂層を、二色性物質で染色する染色工程(S22)を含む。偏光フィルム化処理工程(S20)において、一軸延伸工程(S21)および染色工程(S22)は、この順に限定されることはなく、染色工程(S22)の後に一軸延伸工程(S21)を行っても、一軸延伸工程(S21)と染色工程(S22)とを同時に行ってもよい。」(段落【0017】)、「本発明に用いるポリビニルアルコール系樹脂は、ケン化品であることが好ましい。ケン化度の範囲は、80.0モル%?100.0モル%であるものが好ましく、90.0モル%?99.5モル%の範囲であるものがより好ましく、さらには93.0モル%?99.5モル%の範囲が好ましい。たとえば、98.0モル%?99.5モル%のポリビニルアルコール系樹脂を用いることができる。ケン化度が80.0モル%未満では、好ましい光学特性を得るのが困難である。」(段落【0053】)、「ケン化度が高いほど、水酸基の割合が高いことを示しており、すなわち結晶化を阻害する酢酸基の割合が低いことを示している。」(段落【0055】)と記載されている。
また、引用文献1の段落[0007]の「そこで本発明は、光学特性、色相及び耐久性のいずれにも優れる光学フィルムを容易に製造することのできるPVAフィルムと、それを用いた光学フィルムの製造方法を提供することを目的とする。」との記載に基づけば、引用発明は、光学特性及び耐久性に優れる光学フィルムを提供することを課題としているといえる。そうすると、引用発明のビニルアルコール系重合体を選択するにあたり、偏光性能及び耐久性等の点から好ましいとされる、けん化度の高いビニルアルコール系重合体を選択することは、当業者にとって自明である。
したがって、引用発明の「ビニルアルコール系重合体」として、上記周知のけん化度が99モル%以上のものを採用することは、当業者が適宜なし得たことである。

(2)[相違点2]について
ア 引用発明の「ビニルアルコール系重合体フィルム」は、「60℃で1時間処理した後にパルスNMR測定(観測核:^(1)H)することによって得られるスピン-スピン緩和時間T_(2)から結晶成分量(a_(1))、拘束非晶成分量(a_(2))および非晶成分量(a_(3))を求めた際に、結晶成分量(a_(1))、拘束非晶成分量(a_(2))および非晶成分量(a_(3))の合計に対する結晶成分量(a_(1))および拘束非晶成分量(a_(2))の合計の占める割合が10?32%」である。そして、引用文献1には、「パルスNMR測定するにあたっては、測定対象となるPVAフィルムを予め60℃で1時間処理する。60℃で1時間処理した後における結晶成分量(a_(1))および拘束非晶成分量(a_(2))の割合を求めることにより、本発明の効果(耐久性等)により密接に関連した上記成分割合を求めることができる。当該処理は、測定対象となるPVAフィルムを水中に浸漬した状態で行うことができ、特に当該処理後のPVAフィルムをそのままパルスNMR測定に供することができることから、NMRチューブ中などにおいてPVAフィルムを重水中に浸漬した状態で行うことが好ましい。当該処理のより具体的な処理方法ないし条件としては、実施例において後述する方法を採用することができる。」(段落[0024])と記載されており、さらに、実施例に関して、以下の記載がある。
「以下の実施例または比較例で得られたPVAフィルムから得たサンプル(100mg)を5mm×5mm程度の大きさに細断した後に重水1mLと共にNMRチューブに投入した。このNMRチューブを60℃の恒温槽中に1時間浸漬した。その後、20℃で24時間保管し、測定試料とした。この測定試料を、パルスNMR(ブルカー・バイオスピン株式会社製「minispec mq20 WVT」)を用いて^(1)Hのスピン-スピン緩和時間T_(2)を測定した。測定条件は以下の通りである。
・パルス系列:Solid-Echo法(90x-τ-90y)
・RFパルス幅(Pw1):2.1μs
・パルス間隔(Pi1):1μs
・パルス繰り返し時間:1s
・測定温度:30℃
上記測定で得られた自由誘導減衰(FID)信号を線形最小二乗法によって上記式(4)にフィッティングし、いずれも正の値である結晶成分量(a_(1))、拘束非晶成分量(a_(2))および非晶成分量(a_(3))を求め、これら3成分の量の合計に対する各成分の割合を算出した。」(段落[0100])
上記引用文献1の記載に基づけば、引用発明は、光学フィルムの「耐久性」に関連したパラメータを特定するために、「60℃で1時間処理」処理した後に「パルスNMR測定(観測核:^(1)H)」することによって「スピン-スピン緩和時間T_(2)」を得ているものといえる。そして、上記処理が「重水」に1時間「浸漬」するものであること、スピン-スピン緩和時間T_(2)を「パルスNMR」を用いて「Solid-Echo法」で測定したものとすることも記載されている。
さらに、引用文献1には、「本発明のPVAフィルムは、60℃で1時間処理した後にパルスNMR測定(観測核:^(1)H)することによって得られるスピン-スピン緩和時間T_(2)から結晶成分量(a_(1))、拘束非晶成分量(a_(2))および非晶成分量(a_(3))を求めた際に、結晶成分量(a_(1))、拘束非晶成分量(a_(2))および非晶成分量(a_(3))の合計に対する結晶成分量(a_(1))および拘束非晶成分量(a_(2))の合計の占める割合が10?32%の範囲内にあることが必要である。当該割合が10%未満であると、そのPVAフィルムを用いて得られる光学フィルムの耐久性が悪化する。一方、当該割合が32%を超えると、そのPVAフィルムを用いて得られる光学フィルムの色相が低下する。本発明を何ら限定するものではないが、この理由としては、使用される二色性色素の状態に及ぼす影響が上記各成分ごとに異なっていることなどが考えられ、上記割合を調整することが本発明の効果において極めて重要であると推測される。結晶成分量(a_(1))、拘束非晶成分量(a_(2))および非晶成分量(a_(3))の合計に対する結晶成分量(a_(1))および拘束非晶成分量(a_(2))の合計の占める割合は、得られる光学フィルムの色相や耐久性などの観点から、10.5%以上であることが好ましく、11%以上であることがより好ましく、また、31.5%以下であることが好ましく、31%以下であることがより好ましい。」(段落[0025])及び「得られる光学フィルムの耐久性をより向上させることができることなどから、PVAフィルムは拘束非晶成分を有することが好ましく、特にPVAフィルムは、結晶成分量(a_(1))、拘束非晶成分量(a_(2))および非晶成分量(a_(3))の合計に対する拘束非晶成分量(a_(2))の占める割合が5%以上であることが好ましく、6%以上であることがより好ましい。」(段落[0026])と記載されている。そうすると、引用発明は、ビニルアルコール系重合体フィルムについて、得られる光学フィルムの色相や耐久性が優れたものとなるように、そのパラメータを特定したものと理解できる。
一方、本件出願の明細書には、「本発明のPVAフィルムは、特定条件下でのパルスNMR測定において、0.10ミリ秒時点のNMR信号強度が初期強度の78%以下となるPVAフィルムである。すなわち、本発明のPVAフィルムは、高湿度下に置いた後であっても、NMR信号強度が一定時間内に大きく減衰するものであり、このことはPVAフィルム内に分子運動性が低く、硬い成分が比較的多く存在することを意味する。特定条件下のパルスNMR測定において0.10ミリ秒時点のNMR信号強度が初期強度の78%を越える場合は、得られる偏光フィルムの高湿度下における偏光性能が低下しやすくなる。」(段落【0011】)及び「偏光性能を良好にしつつ、高湿度下における偏光性能がより良好な偏光フィルムを得る観点から、上記条件で測定される0.10ミリ秒時点のNMR信号強度は初期強度の78%以下であることが好ましく、75%以下であることがより好ましい。」、「また、上記条件で測定される0.10ミリ秒時点のNMR信号強度は初期強度の50%以上であることが好ましい。50%以上であると、PVAフィルムが硬くなりすぎず、偏光フィルムを製造する際に延伸等する場合に破断し難くなる。」、「なお、本発明のPVAフィルムを用いることで、高湿度下においてより偏光性能が低下し難い偏光フィルムを得られる理由は定かではないが、結晶成分などの比較的硬い成分が一定量存在することにより、高湿度下でも構造が維持され、偏光フィルムを製造する際に用いるヨウ素などの染料がPVAフィルム内に保持されやすいためと推察される。」(段落【0012】)との記載がある。これらの記載に基づけば、本件発明は、「偏光性能を良好にしつつ、高湿度下における偏光性能がより良好な偏光フィルム」を特定するために、ポリビニルアルコールフィルムについて、「60℃の重水に2時間浸漬した後のポリビニルアルコールフィルムを測定試料として、パルスNMRを用いて60℃でSolid Echo法で測定した0.10ミリ秒時点のNMR信号強度が初期強度の50%以上78%以下」であるとするものといえる。
そうすると、本件発明と引用発明とは、測定試料を60℃の重水に浸漬を行う際の「浸漬時間」、パルスNMRを用いてSolid Echo法で自由誘導減衰(FID)信号を測定する際の「温度」及び自由誘導減衰(FID)信号から算出する「パラメータ」が異なるものの、ポリビニルアルコールフィルムについて、「比較的硬い成分が一定量存在することにより、高湿度下でも構造が維持」されていることにより、その偏光性能が低下し難い耐久性に優れたものが選択されるよう、それぞれのパラメータを特定している点で共通するものである。ここで、自由誘導減衰(FID)信号を測定する前に行われる処理時間及び測定時の温度が異なっていたとしても、パラメータの選択によって得られるポリビニルアルコールフィルムの偏光性能や耐久性が、異質のものとなるとは考えられない。
以上より、信号を測定する際の条件や前処理条件、パラメータの算出手法が異なっていたとしても、それぞれのパラメータによって特定されたポリビニルアルコールフィルムは、最終的に得られる光学フィルムの色相等の偏光性能や耐久性が優れたものとなるように特定されたものであるから、引用発明も、本件発明において特定される条件でパラメータを算出した場合に、上記[相違点2]に係る要件を満たすものとなる蓋然性が高いといえる。
したがって、上記[相違点2]は実質的な相違点であるとはいえない。

イ 仮に、上記[相違点2]が実質的な相違点であったとしても、引用発明は、光学特性及び耐久性に優れる光学フィルムを提供することを課題とするものである。また、引用文献1の段落[0070]に記載されているように、フィルムの延伸性や取り扱い性などが適切なものとすることも、当業者であれば当然考慮することである。そうすると、引用発明において、色相や耐久性が優れた光学フィルムが適切に得られるように、また、フィルムの延伸性や取り扱い性が良好なものとなるように、「結晶成分量(a_(1))、拘束非晶成分量(a_(2))および非晶成分量(a_(3))の合計に対する結晶成分量(a_(1))および拘束非晶成分量(a_(2))の合計の占める割合」を最適化し、その結果として「60℃の重水に2時間浸漬した後のポリビニルアルコールフィルムを測定試料として、パルスNMRを用いて60℃でSolid Echo法で測定した0.10ミリ秒時点のNMR信号強度」が「初期強度の50%以上78%以下」という要件を満たすビニルアルコール系重合体フィルムとすることは、当業者が容易になし得たことである。

(3)効果について
本願の段落【0007】の記載に基づけば、本件発明の効果は、「偏光性能を良好にしつつ、高湿度下においても偏光性能が低下し難い偏光フィルムを製造できる」というものといえる。
一方、引用文献1の段落[0020]には、発明の効果として、「本発明によれば、光学特性、色相及び耐久性のいずれにも優れる光学フィルムを容易に製造することのできるPVAフィルムと、それを用いた光学フィルムの製造方法が提供される。」と記載されている。
当該記載に基づけば、本件発明の奏する効果は、引用文献1の記載に基づいて、当業者が理解できる範囲内のものであって、格別なものということができない。

7 請求人の主張
(1)請求人は、令和2年7月8日の意見書の2(1)において、「パルスNMRを用いるSolid Echo法による測定」について、「本願発明にかかるNMR信号強度、並びに、引用発明にかかる結晶成分量(a1)、拘束非晶成分量(a2)及び非晶成分量(a3)の割合を求めるために、パルスNMRを用いたSolid Echo法による測定を行う点で、両者は共通するといえますが、測定条件のみならず、各々のPVAフィルムの物性は全く異なるものです。」、「Solid Echo法による測定に供する測定試料自体が、分子構造の点で「物」として異なるものであります。」、「測定データの取り扱い・解析処理が全く異なることは明らかです。」とし、「本願発明と引用発明にかかるパルスNMRを用いた測定に基く特定事項は、測定対象、測定条件等、その意味するところが全く異なるものであり、拒絶理由における単に「「パラメータ」が異なる」との認定は、適切であるとはいえないと思料します。」と主張している。
請求人の主張するように、本件発明と引用発明とがそれぞれ用いるパラメータは異なるものであり、パラメータを得るための測定条件も異なるものである。しかし、前記6(2)に記載したとおり、両者は、ポリビニルアルコールフィルムについて、「比較的硬い成分が一定量存在することにより、高湿度下でも構造が維持」されていることにより、その偏光性能が低下し難い耐久性に優れたものが選択されるよう、それぞれのパラメータを特定している点で共通するものである。そうすると、それぞれのパラメータを選択することによって得られるポリビニルアルコールフィルムは、いずれも「比較的硬い成分が一定量存在することにより、高湿度下でも構造が維持」されているものであるから、得られたポリビニルアルコールフィルムの偏光性能や耐久性が、異質のものとなるとは考えられない。

(2)請求人は、令和2年7月8日の意見書の2(2)において、「本願発明の課題が高湿度下において偏光性能が低下し難い偏光フィルムであるのに対し、引用発明では、これに対応すると解される課題は、単に耐久性と記載されているのであり、本願の高湿度下における偏光性能の低下を意識したものとは全く相違します。」、「本願発明と引用発明は、加速度試験条件(温度、湿度、時間)、評価項目(偏光度減少率、吸光度残存率)及び評価基準が全く異なることから、本願発明と引用発明のフィルムは耐久性能について実質的に異なるものです。」、「このことは、本願発明が「高湿度下」における耐久性を課題とし、温度50℃、湿度80RH%の環境下に72時間という長時間曝した状態での耐久性を測定して判断しているのに対し、引用発明は温度60℃、湿度90%RHの環境下に4時間という短時間曝した状態での耐久性を測定して判断していることからも明らかです。」、「したがって、本願発明と引用発明が「耐久性」の点で、同一ないし同質の作用・効果を奏するものではなく、「物」として異なるものといえます。」と主張している。
しかしながら、請求人が指摘しているように、引用発明は「湿度90%RHの環境下」(段落[0106])で「偏光フィルムの耐久性」を測定して判断している。そうすると、本願の高湿度下(湿度80RH%の環境下)と比べてみても、引用発明における「耐久性」は「高湿度下」における耐久性であることが理解できる。また、技術的にみて、引用文献1における「偏光フィルムの耐久性(吸光度残存率)」の指標に用いられている「直交吸光度の残存率(吸光度残存率)」が、「偏光性能の低下」の指標であることは明らかである。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。

(3)請求人は、令和2年7月8日の意見書の2(3)において、「引用文献1には、上記「比較的硬い成分が一定量存在すること」及びその「耐久性」にかかる作用機序については、何も記載されていません。」、「引用文献1に記載の発明が、本願発明と同様に高湿度下でも構造が維持されると認定している点は、不適切であると思料します。」と主張している。
しかし、前記7(2)に記載したとおり、引用発明における「耐久性」は「高湿度下」における耐久性であることが理解できる。そして、仮に、本件発明におけるパラメータにおいて想定される作用機序と、引用発明におけるパラメータにおいて想定される作用機序が異なるものであったとしても、前記6(2)アに記載したとおり、それぞれのパラメータによって特定されたポリビニルアルコールフィルムは、最終的に得られる光学フィルムの色相等の偏光性能や耐久性が優れたものとなるように特定されたものであるから、引用発明も、本件発明において特定される条件でパラメータを算出した場合に、上記[相違点2]に係る要件を満たすものとなる蓋然性は高いといえる。
なお、ビニルアルコール系重合体フィルムの成分を結晶成分量(a_(1))、拘束非晶成分量(a_(2))及び非晶成分量(a_(3))の3種類に分別した場合に、結晶成分量(a_(1))及び拘束非晶成分量(a_(2))が、非晶成分量(a_(3))と比較して「硬い成分」であることは、技術常識からみて明らかである。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。

(4)請求人は、令和2年7月8日の意見書の2(4)において、「引用文献1には、本願発明にかかる「0.10ミリ秒時点のNMR信号強度が初期強度の50%以上78%以下」との発明特定事項は、記載されておらず示唆もないことから、引用発明にかかる発明特定事項を「最適化」すると、結果的に、本願発明にかかる上記NMR信号強度の要件を、当業者が容易に想到し得るとする合理的根拠はないものと思料します。」と主張している。
しかしながら、本件発明は、「ポリビニルアルコールフィルム」という「物」に関する発明であって、「0.10ミリ秒時点のNMR信号強度」を計測する「方法」の発明ではない。そして、本願明細書の段落【0010】の「一般に、パルスNMR測定において、NMR信号強度の減衰の度合いが大きいと、PVAフィルム中に、分子運動性が低く、硬い成分が多く存在することを意味する。一方、NMR信号強度の減衰の度合いが小さいと、PVAフィルム中に、分子運動性が高く、柔らかい成分が多く存在することを意味する。」(段落【0010】)との記載や、「偏光性能を良好にしつつ、高湿度下における偏光性能がより良好な偏光フィルムを得る観点から、上記条件で測定される0.10ミリ秒時点のNMR信号強度は初期強度の78%以下であることが好ましく、75%以下であることがより好ましい。」及び「また、上記条件で測定される0.10ミリ秒時点のNMR信号強度は初期強度の50%以上であることが好ましい。50%以上であると、PVAフィルムが硬くなりすぎず、偏光フィルムを製造する際に延伸等する場合に破断し難くなる。」(段落【0012】)との記載に基づけば、本件発明における、「60℃の重水に2時間浸漬した後のポリビニルアルコールフィルムを測定試料として、パルスNMRを用いて60℃でSolid Echo法で測定した0.10ミリ秒時点のNMR信号強度が初期強度の50%以上78%以下である」は、本件発明における「ポリビニルアルコールフィルム」中の「分子運動性が低く、硬い成分」及び「分子運動性が高く、柔らかい成分」の存在比が、偏光性能を良好にしつつ、高湿度下における偏光性能がより良好であって硬くなりすぎない範囲にあることを、特定しているものと理解できる。
一方、引用発明は、前記6(2)イに記載したとおり、光学特性及び耐久性に優れる光学フィルムを提供することを課題とするものである。そして、引用文献1の記載事項アの段落[0009]に記載されているように「PVAフィルムにおける結晶成分量および拘束非晶成分量の合計の割合を特定の範囲」とすることにより上記課題を解決するものである。また、引用文献1の段落[0070]に記載されているように、フィルムの延伸性や取り扱い性などが適切なものとすることも、当業者であれば当然考慮することである。
そうすると、仮に、引用発明の「ビニルアルコール系重合体フィルム」が、本件発明の「60℃の重水に2時間浸漬した後のポリビニルアルコールフィルムを測定試料として、パルスNMRを用いて60℃でSolid Echo法で測定した0.10ミリ秒時点のNMR信号強度が初期強度の50%以上78%以下である」という発明特定事項を満たしていないとしても、引用発明の「ビニルアルコール系重合体フィルム」について、光学特性及び耐久性に優れるとともに、フィルムの延伸性や取り扱い性などが適切なものとなるように、「PVAフィルムにおける結晶成分量および拘束非晶成分量の合計の割合」を最適化することは、当業者が容易になし得たことである。そして、そのように最適化された「ビニルアルコール系重合体フィルム」は、本件発明の「60℃の重水に2時間浸漬した後のポリビニルアルコールフィルムを測定試料として、パルスNMRを用いて60℃でSolid Echo法で測定した0.10ミリ秒時点のNMR信号強度が初期強度の50%以上78%以下である」という発明特定事項を満たすこととなる。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。

8 むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その他の請求項に係る発明について言及するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-08-07 
結審通知日 2020-08-11 
審決日 2020-08-25 
出願番号 特願2018-145402(P2018-145402)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (G02B)
P 1 8・ 121- WZ (G02B)
P 1 8・ 537- WZ (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小西 隆菅原 奈津子清水 督史  
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 宮澤 浩
神尾 寧
発明の名称 ポリビニルアルコールフィルム、及び偏光フィルムの製造方法  
代理人 田口 昌浩  
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