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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B 審判 査定不服 4項4号特許請求の範囲における明りょうでない記載の釈明 特許、登録しない。 A61B 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A61B |
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管理番号 | 1367310 |
審判番号 | 不服2020-2935 |
総通号数 | 252 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-12-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-03-03 |
確定日 | 2020-10-15 |
事件の表示 | 特願2015-202364「医用画像処理装置及びX線診断装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 4月20日出願公開、特開2017- 74123〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成27年10月13日の出願であって、令和元年6月4日付けで拒絶理由が通知され、同年8月9日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年11月26日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)されたところ、令和2年3月3日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。 第2 本件補正について 1 本件補正の内容 (1)令和元年8月9日にされた手続補正により補正された(以下「本件補正前」という。)特許請求の範囲の請求項1?5は、以下のとおりである。 「【請求項1】 造影剤を用いて経時的に収集された複数のX線画像における画素ごとの信号強度の経時的な遷移を取得する取得部と、 前記信号強度の経時的な遷移において時系列的に隣接する信号の信号強度に基づいて、隣接する信号の信号強度の値と乖離する値を有する乖離信号の信号強度の値を除いて遷移するように、前記信号強度の経時的な遷移を補正する補正部と、 を備える、医用画像処理装置。 【請求項2】 前記補正部は、前記乖離信号を除いた後の各信号の信号強度の値を、各信号に対して時系列的に連続する所定数の信号の信号強度の平均値にそれぞれ置換することで、前記信号強度の経時的な遷移をさらに補正する、請求項1に記載の医用画像処理装置。 【請求項3】 前記補正部は、隣接する2つの信号の信号強度の値に基づく傾きをそれぞれ算出し、算出した傾きを時系列的に前後する傾きとそれぞれ比較し、傾きの違いが共に所定の閾値を超えた傾きに含まれる信号を前記乖離信号と判定する、請求項1又は2に記載の医用画像処理装置。 【請求項4】 前記補正部は、前記複数のX線画像において動的な部位が重なる領域に含まれる画素の信号強度の経時的な遷移を補正する、請求項1?3のいずれか一項に記載の医用画像処理装置。 【請求項5】 造影剤を用いた経時的な複数のX線画像を収集する収集部と、 前記複数のX線画像における画素ごとの信号強度の経時的な遷移を取得する取得部と、 前記信号強度の経時的な遷移において時系列的に隣接する信号の信号強度に基づいて、隣接する信号の信号強度の値と乖離する値を有する乖離信号の信号強度の値を除いて遷移するように、前記信号強度の経時的な遷移を補正する補正部と、 を備える、X線診断装置。」 (2)令和2年3月3日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)により補正された特許請求の範囲の請求項1?5に係る発明(以下「本件補正発明1?5」という。)は、以下のとおりである。 「【請求項1】 造影剤を用いて経時的に収集された複数のX線画像における画素ごとの信号強度の経時的な遷移を取得する取得部と、 前記信号強度の経時的な遷移において時系列的に隣接する信号の信号強度に基づいて、隣接する信号の信号強度の値と乖離する値を有する乖離信号を除去した信号強度の経時的な遷移に補正する補正部と、 を備える、医用画像処理装置。 【請求項2】 前記補正部は、前記乖離信号を除去した後の各信号の信号強度の値を、各信号に対して時系列的に連続する所定数の信号の信号強度の平均値にそれぞれ置換することで、前記信号強度の経時的な遷移をさらに補正する、請求項1に記載の医用画像処理装置。 【請求項3】 前記補正部は、隣接する2つの信号の信号強度の値に基づく傾きをそれぞれ算出し、算出した傾きを時系列的に前後する傾きとそれぞれ比較し、傾きの違いが共に所定の閾値を超えた傾きに含まれる信号を前記乖離信号と判定する、請求項1又は2に記載の医用画像処理装置。 【請求項4】 前記補正部は、前記複数のX線画像において動的な部位が重なる領域に含まれる画素の信号強度の経時的な遷移を補正する、請求項1?3のいずれか一項に記載の医用画像処理装置。 【請求項5】 造影剤を用いた経時的な複数のX線画像を収集する収集部と、 前記複数のX線画像における画素ごとの信号強度の経時的な遷移を取得する取得部と、 前記信号強度の経時的な遷移において時系列的に隣接する信号の信号強度に基づいて、隣接する信号の信号強度の値と乖離する値を有する乖離信号を除去した信号強度の経時的な遷移に補正する補正部と、 を備える、X線診断装置。」 2 補正の適否 本件補正は、本件補正前の請求項1,5の「隣接する信号の信号強度の値と乖離する値を有する乖離信号の信号強度の値を除いて遷移するように」を、「隣接する信号の信号強度の値と乖離する値を有する乖離信号を除去した信号強度の経時的な遷移に」に補正し、本件補正前の請求項2の「前記乖離信号を除いた後の各信号」を、「前記乖離信号を除去した後の各信号」に補正するものであり、本件補正は、特許法第17条第5項第4号に掲げる、明りょうでない記載の釈明を目的とする補正である。 したがって、請求項1?5に係る本件補正は適法になされたものである。 第3 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1,5に係る発明は,本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明であり、また、この出願の請求項1?5に係る発明は、下記の引用文献1?3,及び引用文献4?9に記載される周知技術に基づいて,その出願日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない、というものである。 引用文献1:特開2014-200339号公報 引用文献2:特開2011-135935号公報 引用文献3:特開2012-95927号公報 引用文献4:国際公開第2015/056434号(周知技術を示す文献) 引用文献5:米国特許出願公開第2015/0245808号明細書(周知技術を示す文献) 引用文献6:特開平4-28338号公報(周知技術を示す文献) 引用文献7:米国特許第6001060号明細書(周知技術を示す文献) 引用文献8:米国特許出願公開第2014/0316287号明細書(周知技術を示す文献) 引用文献9:米国特許出願公開第2015/0238096号明細書(周知技術を示す文献) 第4 引用文献の記載及び引用発明 1 引用文献1 (1)原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1には、図面とともに、次の記載がある。なお、下線は当審で付与したものである。 (引1?ア) 「【0020】 医用画像処理装置12は、画像メモリ16、サブトラクション部17、フィルタリング部18、アフィン変換部19、階調変換部20及びパラメトリック画像生成部21を有する。パラメトリック画像生成部21は、更に、時相特定部22、カラーコーディング部23及びカラースケール調整部24を有する。 【0021】 このような機能を有する医用画像処理装置12は、コンピュータに医用画像処理プログラムを読込ませることによって構築することができる。但し、医用画像処理装置12を構成するために回路を用いてもよい。 【0022】 画像メモリ16は、撮影系2によって収集されたX線画像データを保存するための記憶装置である。従って、非造影でX線撮影を行えば、非造影のX線画像データが画像メモリ16に保存され、造影剤を被検体Oに注入してX線撮影を行えば、X線造影画像データが画像メモリ16に保存される。 【0023】 サブトラクション部17は、画像メモリ16から読み込んだ非造影のX線画像データと、時系列のX線造影画像データとの差分(サブトラクション)処理によって造影血管が描出された時系列のDSA画像データを生成する機能を有する。 【0024】 フィルタリング部18は、高周波強調フィルタ、ローパスフィルタ及び平滑化フィルタ等の所望のフィルタ処理を任意のデータに対して実行する機能を有する。 【0025】 アフィン変換部19は、コンソール5から入力される指示情報に従ってX線画像データの拡大、縮小、回転移動及び平行移動等のアフィン変換処理を実行する機能を有する。 【0026】 階調変換部20は、LUT(Look Up Table)を参照して、X線画像データの階調変換を行う機能を有する。 【0027】 パラメトリック画像生成部21は、時系列のDSA画像データ又はX線造影画像データに基づいて造影剤の濃度の時間変化を取得する機能と、造影剤の濃度が特定の条件となる時間に対応する画素値を有するパラメトリック画像データを血管画像データとして生成する機能を有する。」 (引1?イ) 「【0030】 図2は、造影剤の濃度プロファイルに基づいて血管への造影剤の流入時刻又は到達時刻を同定する方法を示す図である。 【0031】 図2において横軸は、時相方向を示し、縦軸は、造影剤の濃度を表すDSA画像データ又は造影画像データの画像信号の強度を示す。図2に示すように時系列のDSA画像データ又は造影画像データの血管領域に対応するピクセル(画素)に着目すると、時間的に信号強度が変化するカーブとして造影剤の濃度変化プロファイルを取得することができる。 【0032】 典型的な濃度変化プロファイルは、造影剤の流入に伴って値が次第に増加し、造影剤の流出に伴って値が次第に減少するカーブとなる。従って、濃度変化プロファイルの値に対してカーブの立ち上がりを検出するための閾値THを設定すれば、造影剤の濃度が閾値THに達した時相Tthとして、着目する血管への造影剤の流入開始時相を同定することが可能となる。 【0033】 但し、ノイズが大きい場合には、造影剤の流入開始時相が誤って同定される恐れがある。そこで、ノイズの影響が抑制されるように、造影剤の濃度プロファイルの最大値の5パーセントから10パーセントの範囲の所定の割合を閾値としてもよい。或いは、造影剤が血管に到達した時相として、図2に示すように造影剤の濃度が最大値MAXとなった時相Tmaxや最大値MAXの50パーセントに達した時相T_(max/2)を濃度プロファイルから検出するようにしてもよい。以降では、主として造影剤の到達時相を同定する場合を例に説明する。 【0034】 図2に示すような造影剤の濃度プロファイルに基づく時相の特定を全ての画素に対して実行し、特定された時相に応じたカラーを割り当てると、造影剤の到達時刻等に応じたカラーで各血管が描出されたパラメトリック画像データを生成することができる。 【0035】 但し、移動平均化処理によって複数の画素を代表する画素について造影剤の濃度の時間変化を求めるようにしてもよい。つまり、平滑化処理を伴って、造影剤の濃度変化を求める対象となる画像データのマトリクスサイズを縮小することができる。また、ローパスフィルタ処理によってノイズを除去した画像データに基づいて造影剤の濃度変化を求めるようにしてもよい。これは、空間方向における造影剤の濃度プロファイルに対する移動平均化処理及びローパスフィルタ処理ということもできる。 【0036】 移動平均化処理及びローパスフィルタ処理は、空間方向に限らず、時間方向に実行することもできる。移動平均化処理及びローパスフィルタ処理を時間方向に実行する場合には、時間方向における造影剤の濃度プロファイルに対して処理が実行されることとなる。 【0037】 従って、時間方向及び空間方向の少なくとも一方における移動平均処理後の造影剤の濃度の時間変化に基づいて、パラメトリック画像データを生成することができる。また、時間方向及び空間方向の少なくとも一方におけるローパスフィルタ処理後の造影剤の濃度の時間変化に基づいて、パラメトリック画像データを生成することができる。これにより、ノイズが除去された平滑なパラメトリック画像データを生成することが可能となる。」 (引1?ウ) 図1 (引1?エ) 図2 (2)上記記載から、引用文献1には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。 ア 上記(1)(引1?ア)の 「【0027】 パラメトリック画像生成部21は、時系列のDSA画像データ又はX線造影画像データに基づいて造影剤の濃度の時間変化を取得する機能と、造影剤の濃度が特定の条件となる時間に対応する画素値を有するパラメトリック画像データを血管画像データとして生成する機能を有する。」 、上記(1)(引1?イ)の 「【0031】 図2に示すように時系列のDSA画像データ又は造影画像データの血管領域に対応するピクセル(画素)に着目すると、時間的に信号強度が変化するカーブとして造影剤の濃度変化プロファイルを取得することができる。」 、及び、(1)(引1?ウ)の図1から、引用文献1には、「時系列のDSA画像データ又はX線造影画像データに基づいて、造影画像データの血管領域に対応するピクセル(画素)に着目し、時間的に信号強度が変化するカーブとして造影剤の濃度変化プロファイルを取得するパラメトリック画像生成部21」が記載されているものと認められる。 イ 上記(1)(引1?イ)の 「【0035】 但し、移動平均化処理によって複数の画素を代表する画素について造影剤の濃度の時間変化を求めるようにしてもよい。つまり、平滑化処理を伴って、造影剤の濃度変化を求める対象となる画像データのマトリクスサイズを縮小することができる。また、ローパスフィルタ処理によってノイズを除去した画像データに基づいて造影剤の濃度変化を求めるようにしてもよい。これは、空間方向における造影剤の濃度プロファイルに対する移動平均化処理及びローパスフィルタ処理ということもできる。 【0036】 移動平均化処理及びローパスフィルタ処理は、空間方向に限らず、時間方向に実行することもできる。移動平均化処理及びローパスフィルタ処理を時間方向に実行する場合には、時間方向における造影剤の濃度プロファイルに対して処理が実行されることとなる。 【0037】 従って、時間方向及び空間方向の少なくとも一方における移動平均処理後の造影剤の濃度の時間変化に基づいて、パラメトリック画像データを生成することができる。また、時間方向及び空間方向の少なくとも一方におけるローパスフィルタ処理後の造影剤の濃度の時間変化に基づいて、パラメトリック画像データを生成することができる。これにより、ノイズが除去された平滑なパラメトリック画像データを生成することが可能となる。」 から、「時間方向における造影剤の濃度プロファイルに対して、移動平均化処理が実行され、ノイズが除去された平滑なパラメトリック画像データを生成する」ことが読み取れる。 また、上記「時間方向における造影剤の濃度プロファイルに対して、移動平均化処理が実行され、ノイズが除去された平滑なパラメトリック画像データを生成する」ことは、上記(1)(引1?ア)の段落【0027】、及び、(1)(引1?ウ)の図1に記載された「パラメトリック画像生成部21」において実行されることが読み取れる。 ウ 上記(1)(引1?ア)の 「【0020】 医用画像処理装置12は、・・・パラメトリック画像生成部21を有する。」 から、引用文献1には、「パラメトリック画像生成部21を有する医用画像処理装置12」が記載されているものと認められる。 以上を踏まえると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「時系列のDSA画像データ又はX線造影画像データに基づいて、造影画像データの血管領域に対応するピクセル(画素)に着目し、時間的に信号強度が変化するカーブとして造影剤の濃度変化プロファイルを取得し、 時間方向における造影剤の濃度プロファイルに対して、移動平均化処理が実行され、ノイズが除去された平滑なパラメトリック画像データを生成するパラメトリック画像生成部21、 を有する医用画像処理装置12。」 2 引用文献3 (1) 原査定の拒絶の理由で引用された引用文献3には、図面とともに、次の記載がある。なお、下線は当審で付与したものである。 (引3?ア) 「【0019】 TDC取得部9は、データ収集系3によるプレスキャンによって収集された生体データに基づいて造影剤の濃度の時間変化に対応するデータを造影剤のTDCとして取得する機能と、造影剤のTDCを表示装置7に表示させる機能を有する。 【0020】 例えば、画像診断装置1がX線CT装置である場合には、X線CT画像データに設定されたROI内におけるCT値の変化として造影剤のTDCを作成することができる。また、画像診断装置1がMRI装置である場合には、MR画像データに設定されたROI内における画素値又は所定の領域から収集されたMR信号の信号値の変化として造影剤のTDCを作成することができる。」 (引3?イ) 「【0030】 図3(A)に示すようにX線CT画像上にROIを設定し、プレスキャンによって造影剤注入後の被検体からX線検出データをダイナミック収集してリアルタイムにROI内のCT値を計算すると、ROIにおけるTDCを取得することができる。そして、TDCとしてROI内における造影剤の濃度をモニタリングすることができる。 【0031】 造影剤は、徐々にROI内に流れ込むため、TDCがROI内における造影剤の濃度に対応していれば、TDCは急激に上昇又は減少することはなく連続的に徐々に上昇する。しかし、図3(A)に示すようにROI付近にX線の高吸収体が存在すると、高吸収体の影響によってX線CT画像データのROI内にアーチファクトが生じる場合がある。ROI内にアーチファクトが出現すると、TDCは急激に上昇した後、再び急激に減少する。 【0032】 このため、図2に示すように、TDCが第2の閾値TH2を超えた場合にイメージングスキャンのトリガ信号が生成される場合において、アーチファクトによってTDCが急激に上昇して第2の閾値TH2を超えると、造影剤がROI内に到達していないにも関わらずトリガ信号が生成されてしまう。 【0033】 そこで、TDC上のあるCT値が第2の閾値TH2を超えた場合に、直前にサンプリングされたCT値との差分ΔCTが算出される。そして、CT値の差分ΔCTと第1の閾値TH1を比較し、第1の閾値TH1よりもCT値の差分ΔCTの方が大きい場合には、トリガ信号を生成しないようにトリガ生成部10を制御することができる。例えば、ROIが頸動脈に設定されている場合には、第1の閾値TH1を30 HU (Hounsfield Unit)程度に設定することができる。 【0034】 このような第1の閾値処理によって、TDCの変動量の指標である隣接するCT値の差分ΔCTが急激に変化した場合に、TDCの上昇がアーチファクトに起因するものと判定してトリガ信号を生成しないようにすることができる。 【0035】 尚、上述したように、CT値の差分ΔCTと第1の閾値TH1を比較し、CT値の差分ΔCTが第1の閾値TH1以下であると判定された場合にCT値と第2の閾値TH2との比較判定を行うようにしてもよい。また、隣接するCT値間における差分ΔCTをTDCの変動量の指標とすれば、十分にCT値の上昇の原因がアーチファクトによるものか否かを判定できると考えられるが、あるCT値とそれ以前のn個(nは自然数)のCT値の平均値との差分をTDCの変動量の指標として第1の閾値TH1と比較するようにしてもよい。」 (引3?ウ) 図2 (2)上記記載から、引用文献3には、次の技術的事項(以下「引用文献3技術事項」という。)が記載されているものと認められる。 (引用文献3技術事項) 「X線CT画像上に設定したROIにおけるTDCを取得する際に、ROI内にアーチファクトが出現すると、TDCは急激に上昇した後、再び急激に減少することが生じるため、第1の閾値処理によって、TDCの変動量の指標である隣接するCT値の差分ΔCTが急激に変化した場合に、TDCの上昇がアーチファクトに起因するものと判定してトリガ信号を生成しないようにする。」 第5 対比 1 本件補正発明1と引用発明とを対比すると、以下のとおりとなる。 (1)引用発明の「時系列のDSA画像データ又はX線造影画像データ」は、本件補正発明1の「造影剤を用いて経時的に収集された複数のX線画像」に相当し、引用発明の「造影画像データの血管領域に対応するピクセル(画素)に着目し、時間的に信号強度が変化するカーブとして造影剤の濃度変化プロファイルを取得」することは、本件補正発明1の「複数のX線画像における画素ごとの信号強度の経時的な遷移を取得する」ことに相当する。 したがって、引用発明の「時系列のDSA画像データ又はX線造影画像データに基づいて、造影画像データの血管領域に対応するピクセル(画素)に着目し、時間的に信号強度が変化するカーブとして造影剤の濃度変化プロファイルを取得・・・するパラメトリック画像生成部21」は、本件補正発明1の「造影剤を用いて経時的に収集された複数のX線画像における画素ごとの信号強度の経時的な遷移を取得する取得部」に相当する。 (2)引用発明の「移動平均化処理」は、隣接する信号を含む前後の複数の信号に基づいて、ある信号を平均化する処理であるので、引用発明の「時間方向における造影剤の濃度プロファイルに対して、移動平均化処理が実行され、ノイズが除去された平滑なパラメトリック画像データを生成するパラメトリック画像生成部21」と、本件補正発明1の「前記信号強度の経時的な遷移において時系列的に隣接する信号の信号強度に基づいて、隣接する信号の信号強度の値と乖離する値を有する乖離信号を除去した信号強度の経時的な遷移に補正する補正部」とは、「前記信号強度の経時的な遷移において時系列的に隣接する信号の信号強度に基づいて、補正する補正部」である点で共通する。 (3)引用発明の「医用画像処理装置12」は、本件補正発明1の「医用画像処理装置」に相当する。 2 以上のことから、本件補正発明1と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。 【一致点】 「造影剤を用いて経時的に収集された複数のX線画像における画素ごとの信号強度の経時的な遷移を取得する取得部と、 前記信号強度の経時的な遷移において時系列的に隣接する信号の信号強度に基づいて、補正する補正部と、 を備える、医用画像処理装置。」 【相違点】 本件補正発明の「補正部」は、「隣接する信号の信号強度の値と乖離する値を有する乖離信号を除去した信号強度の経時的な遷移に補正」しているのに対して、引用発明の「パラメトリック画像生成部21」は、「移動平均化処理が実行され、ノイズが除去された平滑なパラメトリック画像データを生成」しているものの、「乖離信号を除去」しているといえるか、定かではない点。 第6 判断 以下、相違点について検討する。 1 相違点について 本願明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある(下線は当審が付した。)。 「【0041】 補正機能212は、信号強度の経時的な遷移において時系列的に隣接する信号の信号強度に基づいて、隣接する信号の信号強度の値と乖離する値を有する乖離信号の信号強度の値を除くように、信号強度の経時的な遷移を補正する。具体的には、補正機能212は、取得機能211によって取得された各画素のTICに対して、信号強度の値が周囲の信号の信号強度の値と大きく異なる乖離信号(例えば、スパイク状になる信号など)を除くような補正処理を実行する。 【0042】 例えば、補正機能212は、乖離信号の信号強度の値と時系列的に連続する所定数の信号の信号強度の値とを平均した値を、乖離信号の信号強度の値として用いることで、TICを補正する。すなわち、補正機能212は、取得機能211によって取得されたTICの各信号について、連続する所定数の信号とそれぞれ平均し、平均した値に置換する補正処理を実行する。換言すると、補正機能212は、TICに対して平滑化処理を実行することで、TICに含まれる乖離信号を除く。図4A及び図4Bは、第1の実施形態に係る補正機能212による補正処理の一例を説明するための図である。ここで、図4A及び図4Bは、取得機能211によって取得されたTICに対する処理を示す。なお、図4Aにおいては、説明の便宜上6つの信号のみを示しているが、実際にはフレーム数分の信号がプロットされる。 【0043】 例えば、補正機能212は、TICにおいてスパイク形状を示す信号「e」の値を時系列的に連続する他の信号の値との平均値に置換する。一例を挙げると、補正機能212は、信号「e」のフレームよりも前の4フレーム分の信号「a」?信号「d」の値と、信号「e」の値を平均する。そして、補正機能212は、信号「e」の値を平均値に置換することで、スパイク形状を示す信号「e」を除く。ここで、上述した平均処理は、スパイク形状を示す乖離信号のみを対象にするだけではなく、すべての信号に対して実行する場合であってもよい。すなわち、補正機能212は、連続する所定数のフレームの値を用いて、各フレームの値を平均値にそれぞれ置換する。例えば、補正機能212は、図4Aに示す信号「a」の値を、信号「a」のフレームよりも前の4フレーム分の信号の信号強度の値との平均値に置換する。同様に、補正機能212は、信号「b」、「c」、「d」及び「f」について、各信号の値と、各信号から前4フレーム分の信号の値とをそれぞれ平均した値に置換する。 【0044】 ここで、上述した例では、5フレームで平均する場合を説明したが、実施形態はこれに限定されるものではなく、平均処理に用いるフレーム数は任意に決定することができる。例えば、造影画像が収集された収集レート(フレームレート)及び造影画像の撮像対象部位に基づいて設定される場合であってもよい。また、上述した例では、時系列的に前の4フレーム分の値と平均する場合を説明したが、実施形態はこれに限定されるものではなく、平均処理に用いるフレームは任意に決定することができる。例えば、置換の対象となるフレームの前後2フレーム分の信号強度の値と平均する場合であってもよい。 【0045】 上述した平均処理をTICの全ての信号に対して実行することによって、例えば、図4Bに示すように、スパイク状の乖離信号を除去した曲線状のTICに補正することができる。例えば、補正機能212は、図4Bに示すように、領域R1のTICを曲線L1に補正する。また、補正機能212は、図4Bに示すように、領域R2のTICを曲線L2に補正する。その結果、血流の状態をより正確に反映したTICを生成することができ、生成したTICを用いてパラメトリックイメージングを実行することで、血流の状態をより正確に把握することを可能にする。」 上記のように、本願明細書の発明の詳細な説明には、「隣接する信号の信号強度の値と乖離する値を有する乖離信号の信号強度の値を除くように、信号強度の経時的な遷移を補正する」処理の例として、「例えば、補正機能212は、乖離信号の信号強度の値と時系列的に連続する所定数の信号の信号強度の値とを平均した値を、乖離信号の信号強度の値として用いることで、TICを補正する」ことが挙げられていることからして、本件補正発明1における「隣接する信号の信号強度の値と乖離する値を有する乖離信号を除去」する補正には、「乖離信号の信号強度の値と時系列的に連続する所定数の信号の信号強度の値とを平均した値を、乖離信号の信号強度の値として用いることで、TICを補正する」ことが含まれるものと認められ、この補正処理は、引用発明の「移動平均化処理」に他ならないものである。 さらに、上記発明の詳細の説明には、「ここで、上述した平均処理は、スパイク形状を示す乖離信号のみを対象にするだけではなく、すべての信号に対して実行する場合であってもよい。」、「上述した平均処理をTICの全ての信号に対して実行することによって、例えば、図4Bに示すように、スパイク状の乖離信号を除去した曲線状のTICに補正することができる。」とも記載されており、本件補正発明1の「乖離信号を除去」する補正は、「信号強度の経時的な遷移」における「乖離信号」のみに対して実行されるもののみならず、「信号強度の経時的な遷移」全体に対して実行されるものを含むものと解するのが相当である。 してみると、引用発明の「時間方向における造影剤の濃度プロファイルに対して、移動平均化処理が実行」されることと、本件補正発明1の「前記信号強度の経時的な遷移において時系列的に隣接する信号の信号強度に基づいて、隣接する信号の信号強度の値と乖離する値を有する乖離信号を除去した信号強度の経時的な遷移に補正する」ことに差異はない。 そうすると、上記相違点は、実質的な相違点ではない。 したがって、本件補正発明1は、引用発明であり、また、引用発明から、当業者が容易に想到しうるものである。 上記のとおり、上記相違点は実質的な相違点ではないが、本願明細書の発明の詳細な説明に、以下の記載があることから、追加的検討を行う。 「【0046】 上述した例では、信号強度の値を平均する補正処理を実行する場合について説明したが、第1の実施形態に係る補正機能212は、その他の補正処理を実行することも可能である。例えば、補正機能212は、隣接する信号の信号強度の値との差が所定の閾値を超えた値を有する信号を乖離信号と判定し、乖離信号を間引くことで、信号強度の経時的な遷移を補正する。」 「【0048】 ここで、上述した平均処理と間引き処理とを組み合わせて用いることもできる。例えば、補正機能212は、まず、間引き処理によって大きく乖離した乖離信号を除去した後に、平均処理を実行する。これにより、平均値に及ぼす乖離信号の影響を低減することができる。また、例えば、補正機能212は、間引き処理における乖離信号の判定を行った後、信号の間引きを行わずに、乖離信号に対する平均処理を実行することもできる。」 上記の記載を考慮すると、本件補正発明1の「隣接する信号の信号強度の値と乖離する値を有する乖離信号を除去」する補正は、上記の「隣接する信号の信号強度の値との差が所定の閾値を超えた値を有する信号を乖離信号と判定し、乖離信号を間引く」補正を含むものと解することもできる。 よって、本件補正発明1の「隣接する信号の信号強度の値と乖離する値を有する乖離信号を除去」する補正について、「隣接する信号の信号強度の値との差が所定の閾値を超えた値を有する信号を乖離信号と判定し、乖離信号を間引く」補正であるとした場合について以下検討する。 上記「第4 2 引用文献3(2)」に示したとおり、引用文献3には、「X線CT画像上に設定したROIにおけるTDCを取得する際に、ROI内にアーチファクトが出現すると、TDCは急激に上昇した後、再び急激に減少することが生じるため、第1の閾値処理によって、TDCの変動量の指標である隣接するCT値の差分ΔCTが急激に変化した場合に、TDCの上昇がアーチファクトに起因するものと判定してトリガ信号を生成しないようにする。」という引用文献3技術事項が開示されており、上記「隣接するCT値の差分ΔCT」は、本件補正発明1の「隣接する信号の信号強度の値との差」に相当し、上記「第1の閾値処理によって、TDCの変動量の指標である隣接するCT値の差分ΔCTが急激に変化した場合に、TDCの上昇がアーチファクトに起因するものと判定」することは、本件補正発明1の「隣接する信号の信号強度の値との差が所定の閾値を超えた値を有する信号を乖離信号と判定」することに相当し、上記「トリガ信号を生成しないようにする」ことは、本件補正発明1の「乖離信号を間引く」ことに相当する。 したがって、X線画像における画素ごとの信号強度の経時変化(上記引用文献3技術事項における「TDC」)において、「隣接する信号の信号強度の値との差が所定の閾値を超えた値を有する信号を乖離信号と判定し、乖離信号を間引く」ことは、引用文献3に開示される事項である。 そして、「時系列のDSA画像データ又はX線造影画像データに基づいて、・・・造影剤の濃度変化プロファイルを取得」し、「時間方向における造影剤の濃度プロファイルに対して、」ノイズを除去するものである引用発明において、引用文献3技術事項と同様に、アーチファクトに起因する濃度変化プロファイルの急激な変化に対応するために、閾値処理によって隣接する信号強度の差分が急激に変化した場合の信号を間引く構成を採用することは、当業者が容易に想到しうることである。 したがって、本件補正発明1の「隣接する信号の信号強度の値と乖離する値を有する乖離信号を除去」する補正を、「隣接する信号の信号強度の値との差が所定の閾値を超えた値を有する信号を乖離信号と判定し、乖離信号を間引く」補正であるとした場合でも、上記本件補正発明1は、引用発明、及び、引用文献3技術事項に基づいて、当業者が容易に想到しうるものである。 2 したがって、本件補正発明1は、引用発明であり、また、引用発明から、当業者が容易に想到しうるものであるから、特許法29条1項3号、及び、29条2項の規定により、特許を受けることができないものである。 第7 むすび 以上のとおり、本件補正発明1は、特許法29条1項3号、及び、29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2020-08-07 |
結審通知日 | 2020-08-11 |
審決日 | 2020-08-31 |
出願番号 | 特願2015-202364(P2015-202364) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(A61B)
P 1 8・ 113- Z (A61B) P 1 8・ 574- Z (A61B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 山口 裕之 |
特許庁審判長 |
福島 浩司 |
特許庁審判官 |
松谷 洋平 森 竜介 |
発明の名称 | 医用画像処理装置及びX線診断装置 |
代理人 | 特許業務法人虎ノ門知的財産事務所 |