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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B60G
管理番号 1367381
審判番号 不服2020-3169  
総通号数 252 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-03-06 
確定日 2020-11-10 
事件の表示 特願2018-531776号「車両用ばねの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年2月8日国際公開、WO2018/025543、請求項の数(1)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2017年(平成29年)6月29日(優先権主張 2016年8月3日 日本国)を国際出願日とする出願であって、令和1年6月13日付けで拒絶理由が通知され、同年8月8日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年12月13日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)され、これに対して、令和2年3月6日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。
この出願の請求項1?8に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された以下の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

[刊行物等]
1.特開2006-96116号公報
2.特開2016-49965号公報
3.特開2010-228020号公報
4.特開2015-190538号公報
以下それぞれ「引用文献1ないし4」という。

第3 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、令和2年3月6日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。
「 【請求項1】
鋼材からなるバー本体(40)(102)と該バー本体(40)(102)を覆う塗装膜(41)(103)とを含むバー部材(20)(101)と、該バー部材(20)(101)の取付部(20a)に設けるゴム部材(60)(110)とを有した車両用ばね(10)(100)、の製造方法であって、
前記バー本体(40)(102)の表面にショット粒を打付けることによって前記バー本体(40)(102)の表面に多数のショットピーニング痕(71)からなる粗面(72)を形成し、
前記バー本体(40)(102)の表面に水との接触角が65°を越える樹脂によって、第1の表面粗さの前記塗装膜(41)(103)を形成することにより前記粗面(72)を覆い、
前記取付部(20a)の前記塗装膜(41)(103)の接触角を小さくするプラズマ処理によって前記取付部(20a)の前記塗装膜(41)(103)を第2の表面粗さに変化させるとともに接触角を65°以下に変化させ、
前記ゴム部材(60)(110)の被接着面(64)(65)に未硬化の液状の接着剤(70)を塗布し、
前記バー部材(20)(101)の前記取付部(20a)を含む領域を加熱したのち、
前記バー部材(20)(101)の前記取付部(20a)に前記ゴム部材(60)(110)の被接着面(64)(65)を重ね、
前記ゴム部材(60)(110)を前記取付部(20a)に加圧した状態において前記バー部材(20)(101)の熱を前記接着剤(70)に与え前記接着剤(70)をキュアすることにより、
前記ショットピーニング痕(71)からなる前記粗面(72)と前記ゴム部材(60)(110)との間に、接触角が65°以下の前記塗装膜(41)(103)と前記接着剤(70)とを挟んだ状態で、前記バー(40)(102)に前記ゴム部材(60)(110)を接着させること、
を具備したことを特徴とする車両用ばねの製造方法。」

第4 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
(1)引用文献1に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は、当審が付した。以下同様である。)。
(1a)
「【0001】
本発明は、塗装されたスタビライザーバーの被嵌合部に筒状のゴムブッシュを外嵌固定するゴムブッシュ付きスタビライザーバーの製造方法に関する。
・・・
【0006】
本発明は上記実状に鑑みて成されたもので、その目的は、製作の際の作業環境を良くすることができ、前記被嵌合部の塗装膜面の汚れ落としのばらつきをできるだけ少なくすることができて、スタビライザーバーに対するゴムブッシュの接着の信頼性を向上させることができ、異音の発生をより防止しやすいゴムブッシュ付きスタビライザーバーを提供する点にある。」
(1b)
「【0009】
プラズマ発生装置は塗装膜面周りの空気を電気的にイオン化する。そして、塗装膜面にイオンによる衝撃を与えて塗装膜面をクリーニングし、塗装膜面の表面張力を高くする。一般に、材料の表面を液体で濡らすには、材料の表面の表面張力を液体の表面張力よりも高くしなければならないことが知られており、上記のように、塗装膜面の表面張力を高くすることで、塗装膜面の濡れ性を上げて塗装膜面に対する接着剤の乗りを良くすることができる。」
(1c)
「【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1,図2に、自動車のサスペンションと車体側のメンバとに取付けられるゴムブッシュ付きスタビライザーバーを示してある。このゴムブッシュ付きスタビライザーバーは、表面が塗装された金属丸棒状のスタビライザーバー1と、スタビライザーバー1の被嵌合部2に外嵌固定されたゴムブッシュ3とから成る。
【0015】
ゴムブッシュ3は、U字状の外周面4と、この外周面4の両端に連続する直線状の扁平面5とを備えた筒状に形成され、軸方向の両端部にフランジ6がそれぞれ形成され、径方向及び軸方向に沿う装着用の7切断部7が形成されている。
【0016】
上記のゴムブッシュ3をクランプ8で車体側に押圧固定して、ゴムブッシュ3の扁平面5を車体の取付面に圧接させる。クランプ8は、ゴムブッシュ3の両フランジ6間のU字状の外周面4をややきつく内嵌させるU字状のゴムブッシュ受け9と、ゴムブッシュ受け9の開放した両端から横外方側に張出す取付け片10とから成る。取付け片10にはボルトB(図1参照)を挿通させるためのボルト挿通孔11が形成されている。
【0017】
ゴムブッシュ付きスタビライザーバーの製造方法は次の通りである。すなわち、スタビライザーバー1の外周面をカチオン電着塗装や粉体塗装により塗装する。そして、図6に示すように、プラズマ発生装置12を用いて被嵌合部2の塗装膜面13を全周にわたってプラズマ処理し、前記塗装膜面13に熱硬化性エポキシ系接着剤(熱硬化性接着剤の一例)を塗布する。次に、加硫成形したゴムブッシュ3の切断部7を開放してゴムブッシュ3を被嵌合部2に外嵌し、一対の押圧具(図示せず)を用いてゴムブッシュ3を径方向に圧縮するとともに加熱する。ゴムブッシュ3に対する加熱温度は120℃?200℃、加熱時間は15分?60分である。このようにしてゴムブッシュ付きスタビライザーバーを製造する。
【0018】
プラズマ処理について説明すると、図3に示すように、プラズマ発生装置12の電極30間に放電させ、,図4,図5に示すように、イオン化された放電の雰囲気をエアブローで押し出して放電域を広げるとともに、放電によって中性分子をイオンと電子に分離させ、図6に示すように、正イオン・電子によるブラスト効果で塗装膜面13をクリーニングする。塗装膜面13は酸化され、OH基が生成される。」

(2)引用文献1に記載された発明
摘記(1c)から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

[引用発明]
「ゴムブッシュ付きスタビライザーバーの製造方法であって、
スタビライザーバー1の外周面をカチオン電着塗装や粉体塗装により塗装し、プラズマ発生装置12を用いて被嵌合部2の塗装膜面13を全周にわたってプラズマ処理し、前記塗装膜面13に熱硬化性エポキシ系接着剤を塗布し、加硫成形したゴムブッシュ3の切断部7を開放してゴムブッシュ3を被嵌合部2に外嵌し、一対の押圧具を用いてゴムブッシュ3を径方向に圧縮するとともに加熱する、
表面が塗装された金属丸棒状のスタビライザーバー1と、スタビライザーバー1の被嵌合部2に外嵌固定されたゴムブッシュ3とから成る、自動車のサスペンションと車体側のメンバとに取付けられるゴムブッシュ付きスタビライザーバーの製造方法。」

2 引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。
(2a)
「【0016】
サスペンション部材本体11は、コイルばね(の素線)、スタビライザ、板ばね等であり、これらは円柱体もしくは円筒体、又は直方体を構成する(図1では、円柱体として示されている)。サスペンション部材本体11は、金属、特に鋼材から、通常、ばね鋼材から形成される。ばね鋼の種類は特に限定されないが、例えば米国の自動車技術者協会(Society of Automotive Engineers)の規定に準拠するSAE9254が挙げられる。SAE9254の成分組成(質量%)は、C:0.51?0.59、Si:1.20?1.60、Mn:0.60?0.80、Cr:0.60?0.80、S:最大0.040、P:最大0.030、残部Feである。鋼種の他の例として、JISに準拠するSUP7や、それ以外の鋼種であってもよい。
【0017】
サスペンション部材本体11を構成する鋼材は、化成処理層(図示せず)をその表面に有することができる。化成処理層は、例えば、リン酸亜鉛等のリン酸塩により形成することができる。また、サスペンション部材本体11を構成する鋼材は、表面の硬化、表面応力の均一化及び残留圧縮応力の付与による耐久性や耐疲労破壊性を向上させるために、ショットピーニング処理が施されていてもよい。ショットピーニング処理は、これを行う場合、化成処理を施す前に行われる。」

3 引用文献3について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3には、図面とともに次の事項が記載されている。
(3a)
「【0027】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。例えば、スタビライザは中空であってもよい。また、耐疲労表面加工方法は、ショットピーニングのほかに、フラッパーピーニング、超音波ピーニング、レーザーピーニング、キャビテーションピーニング、エアーブラストなどの表面加工方法を採用してもよい。また、予定加工部位は、高い応力が発生する部位のほかに、磨耗し易い部位、或いは塗装の高密着性が要求される部位であってもよい。」

4 引用文献4について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献4には、図面とともに次の事項が記載されている。
(4a)
「【0022】
下側の座巻部12aの素線40の下面に、ゴム弾性を有する材料からなるインシュレータシート50が接着層51(図4と図5に示す)を介して取付けられている。インシュレータシート50の材料である弾性を有する材料は、天然ゴムでもよいし、ブタジエンゴムやスチレンブタジエンゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ウレンタンゴム等の合成ゴムから選択されたゴムでもよく、あるいはウレタンエラストマ等の弾性を有する合成樹脂であってもよい。接着層51は加硫接着剤でもよいし、例えばアクリル系等の構造用接着剤であってもよい。」

第5 対比・判断
1 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)
引用発明の「スタビライザーバー1」は、本願発明の「バー本体」に相当する。
引用発明の「被嵌合部2の塗装膜面13」などから、引用発明の「表面が塗装された金属丸棒状のスタビライザーバー1」は、スタビライザーバー1(バー本体)の表面を塗装し塗装膜で覆っている部材であるから、バー本体とバー本体を覆う塗装膜とを含むバー部材であることが明らかである。
したがって、引用発明の「表面が塗装された金属丸棒状のスタビライザーバー1」と、本願発明の「鋼材からなるバー本体と該バー本体を覆う塗装膜とを含むバー部材」とは、「バー本体と該バー本体を覆う塗装膜とを含むバー部材」において共通している。
(2)
引用発明の「被嵌合部2」は、本願発明の「取付部」に相当する。
そして、引用発明の「スタビライザーバー1の被嵌合部2に外嵌固定されたゴムブッシュ3」の「スタビライザーバー1」は、前記「スタビライザーバー1」すなわち「表面が塗装された金属丸棒状のスタビライザーバー1」(本願発明の「バー部材」に相当。上記(1)を参照。)を意味していることが明らかであるから、引用発明の「スタビライザーバー1の被嵌合部2に外嵌固定されたゴムブッシュ3」は、本願発明の「バー部材の取付部に設けるゴム部材」に相当する。
(3)
引用発明の「自動車のサスペンションと車体側のメンバとに取付けられるゴムブッシュ付きスタビライザーバー」は、本願発明の「車両用ばね」に相当する。
(4)
上記(1)?(3)を踏まえると、引用発明の「ゴムブッシュ付きスタビライザーバーの製造方法」及び「表面が塗装された金属丸棒状のスタビライザーバー1と、スタビライザーバー1の被嵌合部2に外嵌固定されたゴムブッシュ3とから成る、自動車のサスペンションと車体側のメンバとに取付けられるゴムブッシュ付きスタビライザーバーの製造方法」のそれぞれと、本願発明の「鋼材からなるバー本体と該バー本体を覆う塗装膜とを含むバー部材と、該バー部材の取付部に設けるゴム部材とを有した車両用ばね、の製造方法」とは、「バー本体と該バー本体を覆う塗装膜とを含むバー部材と、該バー部材の取付部に設けるゴム部材とを有した車両用ばね、の製造方法」において共通している。
(5)
引用発明の「スタビライザーバー1」は、本願発明の「バー本体」に相当し(上記(1))、引用発明の「被嵌合部2」は、本願発明の「取付部」に相当し、引用発明の「スタビライザーバー1の被嵌合部2に外嵌固定されたゴムブッシュ3」は、本願発明の「バー部材の取付部に設けるゴム部材」に相当する(上記(2))ことを踏まえると、以下のことがいえる。

引用発明の「スタビライザーバー」の「カチオン電着塗装」は、エポキシ系樹脂などの樹脂を塗装していることが明らかである。
そして、塗装膜をプラズマ処理すれば塗装膜の表面粗さが変化することは技術常識であるから、引用発明の「スタビライザーバー1の外周面をカチオン電着塗装や粉体塗装により塗装し、プラズマ発生装置12を用いて被嵌合部2の塗装膜面13を全周にわたってプラズマ処理」する工程と、本願発明の「前記バー本体(40)(102)の表面に水との接触角が65°を越える樹脂によって、第1の表面粗さの前記塗装膜(41)(103)を形成することにより前記粗面(72)を覆い、前記取付部(20a)の前記塗装膜(41)(103)の接触角を小さくするプラズマ処理によって前記取付部(20a)の前記塗装膜(41)(103)を第2の表面粗さに変化させるとともに接触角を65°以下に変化させ」る工程とは、「前記バー本体の表面に樹脂によって、第1の表面粗さの前記塗装膜を形成し、プラズマ処理によって前記取付部の前記塗装膜を第2の表面粗さに変化させ」る工程において共通している。

引用発明の「前記塗装膜面13」は、「スタビライザーバー1」の「前記塗装膜面13」であること、及び、接着材を塗布する面は接合面といえることから、引用発明の「前記塗装膜面13に熱硬化性エポキシ系接着剤を塗布」する工程と、本願発明の「前記ゴム部材(60)(110)の被接着面(64)(65)に未硬化の液状の接着剤(70)を塗布」する工程は、「前記ゴム部材又は前記バー部材の接合面に未硬化の接着剤を塗布」する工程において共通している。

引用発明の「加硫成形したゴムブッシュ3の切断部7を開放してゴムブッシュ3を被嵌合部2に外嵌」する工程における「被嵌合部2」は、「スタビライザーバー1」の「被嵌合部2」であることが明らかであり、本願発明の「バー本体」の「取付部」すなわち「前記バー部材の前記取付部」に相当する。
このことと上記イを踏まえると、引用発明の「加硫成形したゴムブッシュ3の切断部7を開放してゴムブッシュ3を被嵌合部2に外嵌」する工程と、本願発明の「前記バー部材(20)(101)の前記取付部(20a)を含む領域を加熱したのち、前記バー部材(20)(101)の前記取付部(20a)に前記ゴム部材(60)(110)の被接着面(64)(65)を重ね」る工程とは、「前記バー部材の前記取付部に前記ゴム部材の接合面を重ね」る工程において共通している。

引用発明の「一対の押圧具を用いてゴムブッシュ3を径方向に圧縮するとともに加熱する」工程(以下「加熱工程」ともいう。)は、「スタビライザーバー1の外周面をカチオン電着塗装や粉体塗装により塗装し、プラズマ発生装置12を用いて被嵌合部2の塗装膜面13を全周にわたってプラズマ処理」する工程、「前記塗装膜面13に熱硬化性エポキシ系接着剤を塗布」する工程、「加硫成形したゴムブッシュ3の切断部7を開放してゴムブッシュ3を被嵌合部2に外嵌」する工程に続いて行われるから、引用発明の加熱工程は、「熱」を「熱硬化性エポキシ系接着剤」に与えて、「熱硬化性エポキシ系接着剤」を硬化させる、すなわち、キュアすることにより、スタビライザーバー1にゴムブッシュ3を接着させる工程であるといえる。
したがって、引用発明の加熱工程すなわち「一対の押圧具を用いてゴムブッシュ3を径方向に圧縮するとともに加熱する」工程と、本願発明の「前記ゴム部材(60)(110)を前記取付部(20a)に加圧した状態において前記バー部材(20)(101)の熱を前記接着剤(70)に与え前記接着剤(70)をキュアすることにより、前記ショットピーニング痕(71)からなる前記粗面(72)と前記ゴム部材(60)(110)との間に、接触角が65°以下の前記塗装膜(41)(103)と前記接着剤(70)とを挟んだ状態で、前記バー(40)(102)に前記ゴム部材(60)(110)を接着させる」工程とは、「前記ゴム部材を前記取付部に加圧した状態において熱を前記接着剤に与え前記接着剤をキュアすることにより、前記バーに前記ゴム部材を接着させる」工程において共通している。

以上から、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
「バー本体と該バー本体を覆う塗装膜とを含むバー部材と、該バー部材の取付部に設けるゴム部材とを有した車両用ばね、の製造方法であって、
前記バー本体の表面に樹脂によって、第1の表面粗さの前記塗装膜を形成し、
プラズマ処理によって前記取付部の前記塗装膜を第2の表面粗さに変化させ、
前記ゴム部材又は前記バー部材の接合面に未硬化の接着剤を塗布し、
前記バー部材の前記取付部に前記ゴム部材の接合面を重ね、
前記ゴム部材を前記取付部に加圧した状態において熱を前記接着剤に与え前記接着剤をキュアすることにより、
前記バーに前記ゴム部材を接着させること、
を具備した車両用ばねの製造方法。」
<相違点1>
「バー本体」が、本願発明は、「鋼材からなる」バー本体であるのに対して、引用発明は、そのように特定されていない点。
<相違点2>
塗装膜、プラズマ処理及び接着に関して、
本願発明は、
「前記バー本体の表面にショット粒を打付けることによって前記バー本体の表面に多数のショットピーニング痕からなる粗面を形成し、」
前記バー本体の表面に「水との接触角が65°を越える」樹脂によって、第1の表面粗さの前記塗装膜を形成すること「により前記粗面を覆い」、
「前記取付部の前記塗装膜の接触角を小さくする」プラズマ処理によって前記取付部の前記塗装膜を第2の表面粗さに変化させる「とともに接触角を65°以下に変化させ」、
「前記ゴム部材の被接着面に未硬化の液状の接着剤を塗布し、
前記バー部材の前記取付部を含む領域を加熱したのち、
前記バー部材の前記取付部に前記ゴム部材の被接着面を重ね、」
前記ゴム部材を前記取付部に加圧した状態において「前記バー部材の」熱を前記接着剤に与え前記接着剤をキュアすることにより、
「前記ショットピーニング痕からなる前記粗面と前記ゴム部材との間に、接触角が65°以下の前記塗装膜と前記接着剤とを挟んだ状態で、」前記バーに前記ゴム部材を接着させること、
を具備したのに対して、
引用発明は、
「スタビライザーバー1の外周面をカチオン電着塗装や粉体塗装により塗装し、プラズマ発生装置12を用いて被嵌合部2の塗装膜面13を全周にわたってプラズマ処理し、前記塗装膜面13に熱硬化性エポキシ系接着剤を塗布し、加硫成形したゴムブッシュ3の切断部7を開放してゴムブッシュ3を被嵌合部2に外嵌し、一対の押圧具を用いてゴムブッシュ3を径方向に圧縮するとともに加熱する」点。

2 相違点についての判断
事案に鑑み、最初に、相違点2について検討する。
(1)相違点2について

塗装膜及びプラズマ処理に関して、以下のことがいえる。
引用文献1には、「プラズマ発生装置は塗装膜面周りの空気を電気的にイオン化する。そして、塗装膜面にイオンによる衝撃を与えて塗装膜面をクリーニングし、塗装膜面の表面張力を高くする。」及び「塗装膜面の表面張力を高くすることで、塗装膜面の濡れ性を上げて塗装膜面に対する接着剤の乗りを良くすることができる」(摘記(1b))と記載されているが、塗装膜の接触角の値を、プラズマ処理前とプラズマ処理後で具体的にどのように変化させるかについては、記載されておらず、上記相違点2に係る本願発明の「前記バー本体の表面に水との接触角が65°を越える樹脂によって、第1の表面粗さの前記塗装膜を形成することにより前記粗面を覆い、前記取付部の前記塗装膜の接触角を小さくするプラズマ処理によって前記取付部の前記塗装膜を第2の表面粗さに変化させるとともに接触角を65°以下に変化させ」るという構成(以下「構成A」ともいう。)、すなわち、接触角が65°を越える塗装膜により覆われたバー部材について、ゴムブッシュが設けられる取付部の塗装膜の接触角の値を、プラズマ処理により、65°以下に下げるという構成は、記載も示唆もされていない。
また、引用文献2?4(摘記(2a)?(4a)参照)は、プラズマ処理自体が記載されておらず、上記の構成Aは、引用文献2?4にも、記載も示唆もされていない。
したがって、引用発明において、「スタビライザーバー1の外周面」を「塗装」する行程で、「スタビライザーバー1の外周面」を、接触角が65°を越える樹脂によって覆い、「被嵌合部2の塗装膜面13を全周にわたってプラズマ処理」する行程で、塗装膜の接触角の値を65°以下に変化させること、すなわち、本願発明の上記の構成Aを想到することは、引用発明及び引用文献1ないし4に記載された技術事項に基いて、当業者が容易になし得たとはいえない。
そして、本願発明は、上記の構成Aを備えることで、「剥離強度が格段に向上」し(明細書の段落【0043】)、「所定の厚さの塗装膜が確保された状態のもとで、バー部材にゴム部材を強固に接着することができる。しかも雨水等の外部環境にさらされる塗装膜の露出面(第1の部分)の接触角が65°を越える撥水性を有しているため、耐水性に優れた車両用ばね部材を提供することができる。」(同【0016】)という格別の効果を奏するものである。

接着に関して以下のことがいえる。
引用発明は、「スタビライザーバー1」の「被嵌合部2」の「塗装膜面13に熱硬化性エポキシ系接着剤を塗布し」、「ゴムブッシュ3を被嵌合部2に外嵌し」、「ゴムブッシュ3を径方向に圧縮するとともに加熱する」という接着工程を備えるから、「スタビライザーバー1」側に「接着材」を「塗布し」、その部分に「ゴムブッシュ3を」「外嵌し」、「接着材」を「塗布し」た「スタビライザーバー1」と「ゴムブッシュ3」の両方を、同時に「加熱する」という接着工程を備えるものと理解できる。
しかしながら、上記相違点2に係る本願発明の「前記ゴム部材の被接着面に未硬化の液状の接着剤を塗布し、前記バー部材の前記取付部を含む領域を加熱したのち、前記バー部材の前記取付部に前記ゴム部材の被接着面を重ね、前記ゴム部材を前記取付部に加圧した状態において前記バー部材の熱を前記接着剤に与え前記接着剤をキュアする」構成(以下「構成B」ともいう。)、すなわち、「ゴム部材」側に「接着剤を塗布し」、ゴム部材側は加熱することなく「バー部材」側を「加熱し」、その「バー部材」に「接着剤を塗布し」た「ゴム部材」を「重ね」、「バー部材の熱を前記接着剤に与え前記接着剤をキュアする」という接着工程や、引用発明の上記接着工程を別の接着工程に変えることについては、引用文献1には、記載も示唆もされていない。
また、引用文献2及び引用文献3(摘記(2a)及び(3a)参照)には、接着自体の記載がなく、引用文献4(摘記(4a)参照)には、「下側の座巻部12aの素線40の下面に、ゴム弾性を有する材料からなるインシュレータシート50が接着層51(図4と図5に示す)を介して取付けられている。」「接着層51は加硫接着剤でもよいし、例えばアクリル系等の構造用接着剤であってもよい。」と記載されているが、上記の構成Bは、記載も示唆もされていない。
したがって、引用発明において、上記の接着工程を変えようとする動機付けもなく、上記相違点2に係る本願発明の構成Bは、引用文献1?4にも、記載も示唆もされていないから、本願発明の上記の構成Bを想到することは、引用発明及び引用文献1ないし4に記載された技術事項に基いて、当業者が容易になし得たとはいえない。
そして、本願発明は、上記の構成Bを備えることで、「ブッシュ片61,62をスタビライザバー20の接着面75に重ねる前に、スタビライザバー20の長手方向の一部の接着面75を高周波誘導加熱コイル90によって直接加熱することができる。従来のようにゴムブッシュをスタビライザに重ねたのち、ゴムブッシュの両側に配置された高周波誘導加熱コイルによって接着面を間接的に加熱する場合と比較して加熱時間が短くてすみ、かつ、接着面の温度制御が容易である。」(明細書の段落【0041】)という格別の効果を奏するものである。

上記ア、イのとおりであって、構成A及び構成Bは、引用文献1ないし4に記載も示唆もされておらず、引用発明において、それらの構成を想到することは、当業者が容易になし得たとはいえないから(特に、アで述べたとおり、構成Aの「接触角が65°を越える樹脂によって、・・・前記塗装膜を形成することにより前記粗面を覆い、・・・プラズマ処理によって前記取付部の前記塗装膜を・・・接触角を65°以下に変化させ」るという構成の具体的な数値に係る塗装膜の態様を導き出すことは、当業者が容易になし得たとはいえないから)、また、本願発明は、構成A及び構成Bを備えることで上述の格別の効果を奏するから、「ショットピーニング」に関する構成の容易性について検討するまでもなく、上記相違点2に係る本願発明の構成は、引用発明及び引用文献1ないし4に記載された技術事項に基いて、当業者が容易になし得たとはいえない。

3 小括
よって、本願発明は、上記相違点1について検討するまでもなく、引用発明及び引用文献1ないし4に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第6 原査定について
令和2年3月6日付けの手続補正により、本願発明は、上記相違点2に係る本願発明の構成を有するものとなっており、上記第5で述べたとおり、拒絶査定において引用された引用発明及び引用文献1ないし4に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
したがって、原査定の理由を維持することはできない。

第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2020-10-22 
出願番号 特願2018-531776(P2018-531776)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B60G)
最終処分 成立  
前審関与審査官 高島 壮基  
特許庁審判長 島田 信一
特許庁審判官 出口 昌哉
藤井 昇
発明の名称 車両用ばねの製造方法  
代理人 特許業務法人スズエ国際特許事務所  

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