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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H05B
管理番号 1367524
審判番号 不服2020-2565  
総通号数 252 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-02-26 
確定日 2020-11-10 
事件の表示 特願2018-520712「表示装置および電子機器」拒絶査定不服審判事件〔平成29年12月 7日国際公開、WO2017/208660、請求項の数(10)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
特願2018-520712号(以下「本件出願」という。)は、2017年(平成29年)4月20日(先の出願に基づく優先権主張 2016年(平成28年)5月30日)を国際出願日とする出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
平成31年 4月 4日付け:拒絶理由通知書
令和 元年 6月 7日提出:意見書
令和 元年 6月 7日提出:手続補正書
令和 元年11月20日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和 2年 2月26日提出:審判請求書
令和 2年 2月26日提出:手続補正書

第2 原査定の概要
原査定の拒絶の理由は、概略、本件出願の請求項1?11に係る発明は、先の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、先の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
引用文献1:国際公開第2015/136579号
引用文献2:特開2008-91070号公報
引用文献4:特開2009-122278号公報
引用文献5:特開2011-34849号公報
引用文献6:特開2009-288735号公報
引用文献7:特開2015-144087号公報
(当合議体注:主引用例は引用文献2であり、引用文献1は請求項1?11についての副引用例であり、引用文献4は請求項6及び7についての副引用例であり、引用文献5及び6は請求項9ついて周知技術を示す文献であり、引用文献7は請求項1?11についての副引用例である。)

第3 本件発明
本件出願の請求項1?10に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明10」という。)は、令和2年2月26日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、本件発明1及び10は、以下のとおりのものである。

「 【請求項1】
2次元配置されると共に、それぞれが複数色のうちのいずれかの色の光を発する有機電界発光素子を含む複数の画素を備え、
前記複数の画素は、
発光色毎に一方向に沿って配置され、かつ
前記画素毎に開口部を有する第1の絶縁膜と、
前記第1の絶縁膜上の異なる発光色の画素同士の間の領域に、前記発光色毎の配列方向に沿って延在する第2の絶縁膜と、
前記開口部に形成されると共に発光層を含む有機層と
を有し、
前記第1の絶縁膜は、前記複数の画素のうちの同一の発光色の画素の開口部同士を繋ぐ凹部を含み、
前記有機層は、印刷層または塗布層を含み、
前記開口部は、リフレクタを有し、
前記有機層は、前記凹部にも形成され、
前記凹部の側面のテーパ角は、前記開口部の側面のテーパ角よりも小さい
表示装置。」

「 【請求項10】
2次元配置されると共に、それぞれが複数色のうちのいずれかの色の光を発する有機電界発光素子を含む複数の画素を備え、
前記複数の画素は、
発光色毎に一方向に沿って配置され、かつ
前記画素毎に開口部を有する第1の絶縁膜と、
前記第1の絶縁膜上の異なる発光色の画素同士の間の領域に、前記発光色毎の配列方向に沿って延在する第2の絶縁膜と、
前記開口部に形成されると共に発光層を含む有機層と
を有し、
前記第1の絶縁膜は、前記複数の画素のうちの同一の発光色の画素の開口部同士を繋ぐ凹部を含み、
前記有機層は、印刷層または塗布層を含み、
前記開口部は、リフレクタを有し、
前記有機層は、前記凹部にも形成され、
前記凹部の側面のテーパ角は、前記開口部の側面のテーパ角よりも小さい
表示装置を備えた電子機器。」

また、本件発明2?9は、本件発明1に対してさらに他の発明特定事項を付加したものである。


第4 引用文献の記載事項及び引用文献に記載された発明
1 引用文献2の記載事項
原査定の拒絶理由に引用文献2として引用され、先の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である特開2008-91070号公報(以下、同じく「引用文献2」という。)には、以下の記載事項がある。なお、当合議体が発明の認定等に用いた箇所に下線を付した。

(1)「【技術分野】
【0001】
本発明は、発光層を有する発光装置、及び当該発光装置を備えた電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
上記発光装置の一つに、発光層に有機発光材料を用いた有機EL(Electro Luminescence)装置がある。有機EL装置は、薄型、低消費電力、広視野角といった特徴を有しており、多くの電子機器に表示装置として搭載されている。そして、こうした有機EL装置に対しては、表示情報量の増加や表示品位の向上のため、さらなる高精細化が求められている。
【0003】
ところで、上記有機EL装置の製造方法としては、いわゆる液滴吐出法を用いた方法が知られている。これは、基板上に各画素を囲うようにして形成されたバンク(隔壁)の作る凹部に、有機発光材料が溶解又は分散された液滴を吐出し、これを乾燥させることによって発光層を形成するものである(特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2004-31359号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、高精細化のために画素を小さくしていくと、バンクの作る凹部も小さくなる。こうした場合においては、当該凹部に吐出された液滴の表面積を最小に保とうとする表面張力の作用の影響が大きくなり、液滴を乾燥させて得られる発光層の平坦性を確保することが困難になるという問題点がある。
【0006】
本発明は、以上の問題点に鑑みてなされたものであり、本発明の奏する効果の一つにより、発光層を含む機能層の平坦化を実現させることができる。【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の発光装置は、複数の画素を有する発光装置であって、基板と、前記基板上に、前記画素ごとに形成された画素電極と、前記基板上に、前記基板の法線方向から見て一部が前記画素電極の外縁部に重なった状態に形成され、前記画素の発光領域に対応する領域に開口部を有する第1のバンクと、前記第1のバンク上に、複数の前記発光領域を囲うように、かつ前記第1のバンク上のうち前記開口部の近傍を除いた領域に形成された第2のバンクと、前記画素電極、前記第1のバンク、前記第2のバンクによって形作られる凹部に配置された、発光層を含む機能層と、前記機能層を挟んで前記画素電極の反対側に形成された陰極と、を備えることを特徴とする。
【0008】
このような構成によれば、個々の画素及び発光領域の大きさが液滴吐出法に適さないほど小さい場合であっても、上記凹部に吐出された機能液(機能層の材料を含んだ液体)は、当該凹部が上記発光領域を複数包含する大きさを有するため、凹部の底部に均一な厚さに濡れ広がる。また、第2のバンクは各画素の発光領域(第1のバンクの開口部)の近傍を除いた領域に形成されるため、機能液は、発光領域上において第2のバンクの影響による凹凸が少ない状態で濡れ広がる。上記発光層を含む機能層は、こうした機能液を乾燥させることによって得られるため、高い平坦性を有した状態で形成される。以上から、上記構成により、発光領域における、発光層を含む機能層の平坦化を実現させることができる。また、異なる画素に形成された発光層の厚さを容易に均一にすることができる。これにより、輝度ムラ等の不具合の少ない、高品位な発光を行うことができる。
・・・(省略)・・・
【0017】
本発明の電子機器は、上記発光装置を備えることを特徴とする。
【0018】
このような構成の電子機器によれば、輝度ムラ等の表示不良の少ない、高品位な表示を行うことができる。」

(2)「【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を参照し、本発明の実施形態について説明する。なお、以下に示す各図においては、各構成要素を図面上で認識され得る程度の大きさとするため、各構成要素の寸法や比率を実際のものとは適宜に異ならせてある。
【0020】
(有機EL装置)
図1は、本発明の発光装置としての有機EL装置1の拡大平面図である。有機EL装置1は、赤(R)、緑(G)、青(B)の発光を行う画素5R,5G,5B(以下まとめて「画素5」とも呼ぶ)を複数備えている。画素5は、同一の色に対応するものが図の縦方向に等間隔(等ピッチ)に並ぶように配置されている。このような画素5の列を画素列と呼ぶ。有機EL装置1は、赤、緑、青に対応する画素列を複数備えており、これらの画素列は赤、緑、青の順に繰り返し配列され、ストライプ状をなしている。また、隣り合う画素列に含まれる画素5は、画素列方向について半ピッチずつずれて配置されている。すなわち、画素5は千鳥状に配置されており、ある画素列における画素5の間に対応する位置に、これと隣接する画素列の画素5が配置されている。
【0021】
画素5R,5G,5Bは、それぞれ発光領域6R,6G,6B(以下ではまとめて「発光領域6」とも呼ぶ)を有しており、発光領域6において赤、緑、又は青の発光を行う。発光領域6の外形は、画素列に直交する方向に長い、トラック形状(2つの向かい合う半円を2つの直線で結んだ形状)となっている。ここで、上記したように画素5は千鳥状に配置されているため、発光領域6もこれにともなって千鳥状の配置となる。このようにすれば、画素5をマトリクス状に配置する場合に比べて、発光領域6と発光領域6との間隔をより小さくすることができる。これにより、発光領域6の配置密度を高めることができるとともに、開口率を向上させることが可能となる。よって、高精細な発光を行うことができ、また発光輝度を高めることができる。有機EL装置1は、これら各発光領域6の発光輝度を制御することによってカラー表示を行う発光装置である。
【0022】
図2は、有機EL装置1の電気的な構成を示した模式的な回路図である。有機EL装置1は、複数の走査線23と、この走査線23の延設方向に対して交差する方向に延設された複数のデータ線24と、このデータ線24に並列する複数の共通給電線25とを有している。走査線23とデータ線24との交差に対応して画素5が設けられている。走査線23は、シフトレジスタ及びレベルシフタを備える走査線駆動回路28に接続されている。データ線24は、シフトレジスタ、レベルシフタ、ビデオライン、アナログスイッチを備えるデータ線駆動回路29に接続されている。
【0023】
画素5の各々には、TFT(Thin Film Transistor)素子26,27が形成されている。TFT素子26のゲート電極には、走査線23を介して走査信号が供給される。TFT素子26のソース電極は、データ線24に接続されており、TFT素子26のドレイン電極は、データ線24から供給される画像信号を保持する保持容量21に接続されている。保持容量21によって保持された画像信号は、電流制御用のTFT素子27のゲート電極に供給される。TFT素子27のソース電極は共通給電線25に、またドレイン電極は有機EL素子3に、それぞれ接続されている。TFT素子27がオンとなると、共通給電線25から有機EL素子3に駆動電流が流れ込み、有機EL素子3が発光する。
【0024】
このように、有機EL装置1は、駆動電流が流れることによって発光する有機EL素子3をTFT素子26,27で駆動制御する発光装置である。なお、図2においては走査線23、データ線24、共通給電線25が直線状に描かれているが、画素5の千鳥配置に対応して適宜屈曲した状態で形成されていてもよい。
【0025】
図3は、図1中のA-A線における有機EL装置1の断面図である。この図を用いて、有機EL装置1の画素5の構造について説明する。
【0026】
有機EL装置1は、本発明における基板としてのガラス基板10を基体として構成されている。ガラス基板10上にはシリコン酸化膜(SiO_(2))等からなる下地保護膜31が形成されている。下地保護膜31上には、TFT素子26(図3においては不図示),27が形成されている。
【0027】
より詳しくは、下地保護膜31上に、ポリシリコン膜からなる半導体膜36が島状に形成されている。半導体膜36には不純物の導入によってソース領域、ドレイン領域が形成され、不純物が導入されなかった部分がチャネル領域となっている。下地保護膜31及び半導体膜36の上には、シリコン酸化膜等からなるゲート絶縁膜32が形成され、ゲート絶縁膜32上には、アルミニウム(Al)、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)、タングステン(W)等からなるゲート電極37が形成されている。ゲート電極37及びゲート絶縁膜32の上には、第1層間絶縁膜33と第2層間絶縁膜34とがこの順に積層されている。ここで、第1層間絶縁膜33及び第2層間絶縁膜34は、シリコン酸化膜(SiO_(2))、チタン酸化膜(TiO_(2))などの無機絶縁膜から構成されている。なお、下地保護膜31から第2層間絶縁膜34までの構成要素を、以下ではまとめて「回路素子層19」とも呼ぶ。
【0028】
第1層間絶縁膜33の上層には、共通給電線25が形成されている。共通給電線25は、第1層間絶縁膜33及びゲート絶縁膜32を貫通して設けられたコンタクトホールを介して半導体膜36のソース領域に接続されている。
【0029】
第2層間絶縁膜34上には、厚さ約50?150nmのITO(Indium Tin Oxide)からなる光透過性の画素電極11が画素5ごとに形成されている。画素電極11は、図1の平面図において、発光領域6より一回り大きな領域に形成されている。この画素電極11は、第2層間絶縁膜34、第1層間絶縁膜33、ゲート絶縁膜32を貫通して設けられたコンタクトホールを介して半導体膜36のドレイン領域に電気的に接続されている。こうした構成において、TFT素子27は、ゲート電極37への電圧の供給によってオン/オフが切り替わり、オン状態となった場合には、共通給電線25から画素電極11へ駆動電流を流す働きをする。
【0030】
画素電極11の周りには、当該画素電極11を底部とする凹部を形作るように、親液性を有する無機材料からなる無機バンク12、及び撥水性を有する有機材料からなる有機バンク13がこの順に積層されている。無機バンク12、有機バンク13は、それぞれ本発明における第1のバンク、第2のバンクに対応する。
【0031】
無機バンク12は、画素電極11の周りを囲うようにして第2層間絶縁膜34上に配置されており、ガラス基板10の法線方向から見て、一部が画素電極11の外縁部に重なった状態に形成されている。換言すれば、無機バンク12は、画素電極11より小さな開口部12aを有して、画素電極11に重ねて配置されている。そして、この開口部12aは、画素5の発光領域6に対応する領域に設けられている。つまり、図1に示すように、この開口部12aの形状が、そのまま発光領域6の形状となる。言い換えれば、無機バンク12の開口部12aの形状は、画素5の発光領域6の形状を規定する。したがって、開口部12aの形状は、トラック形状となっている。無機バンク12は、シリコン酸化膜等の無機絶縁膜からなり、その厚さは約50?100nmである。
【0032】
無機バンク12上には、ポリイミドやアクリル樹脂等からなる有機バンク13が形成されている。有機バンク13は、後述する正孔輸送層14及び発光層15を形成するにあたって液滴吐出法によって機能液を吐出する際、吐出された機能液の塗布領域を規定するものである。有機バンク13は、図1に示すように、複数の発光領域6を囲うように形成されている。このとき、有機バンク13に囲まれる発光領域6は、同一の色の発光を行う発光領域6であり、異なる色の発光領域6が混在しないようになっている。本実施形態では、画素列全体を有機バンク13が囲む構成となっている。
【0033】
また、有機バンク13は、無機バンク12上のうち開口部12aの近傍を除いた領域に形成されている。つまり、有機バンク13の配置領域は、無機バンク12の開口部12aの縁(すなわち発光領域6の縁)から一定距離だけ離れている。
【0034】
こうした構成によれば、発光領域6の上に積層される構成要素(本実施形態では、後述する正孔輸送層14及び発光層15)の、発光領域6内における平坦性を高めることができる。これは、次の理由による。すなわち、有機バンク13に囲まれた凹部に、液滴吐出法等の液層プロセスによって上記構成要素を形成する場合には、有機バンク13付近では吐出された機能液の平坦性が失われやすくなる一方で、有機バンク13から一定距離だけ離れた位置では有機バンク13による影響を受けにくいため高い平坦性を確保しやすくなる。そして、本実施形態の構成では、発光領域6と有機バンク13との間に距離が設けられていることにより、発光領域6が、上記平坦性の高くなる領域に位置するようになるためである。
【0035】
特に、発光領域6の縁から有機バンク13に至るまでの領域は、親水性を有する無機バンク12が配置されているため、機能液が平坦に濡れ広がりやすい。そして、こうした親水性領域に囲まれた発光領域6においても、機能液は平坦に濡れ広がる。このため、発光領域6の上に積層される構成要素は高い平坦性をもって形成される。なお、本実施形態では、発光領域6が千鳥状に配置されていることによって、無機バンク12が露出した上記親水性領域の面積を確保しやすくなっている。
【0036】
上記画素電極11、無機バンク12、有機バンク13によって形作られる凹部には、液滴吐出法によって形成された正孔輸送層14及び発光層15がこの順に配置されている。正孔輸送層14、発光層15を含む層は、本発明における機能層に対応し、本明細書ではこれを有機EL素子3とも呼ぶ。正孔輸送層14の厚さは約50nmであり、発光層15の厚さは約80?120nmである。発光層15及び有機バンク13の上には、これらを覆うように、カルシウム(Ca)及びアルミニウム(Al)の積層体である陰極16が形成されている。陰極16の上には、水や酸素の侵入を防ぎ、陰極16あるいは有機EL素子3の酸化を防止するための、樹脂等からなる封止部材17が積層されている。
【0037】
ここで、上記した液滴吐出法とは、有機発光材料等の機能物質が溶解又は分散された機能液の液滴を吐出し、その後、吐出された機能液を乾燥させて溶媒を蒸発させ、機能物質の層を形成する手法である。液滴吐出法には、インクジェット法などが含まれる。
【0038】
正孔輸送層14は、導電性高分子材料中にドーパントを含有する導電性高分子層からなる。このような正孔輸送層14は、例えば、ドーパントとしてポリスチレンスルホン酸を含有する3,4-ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT-PSS)などから構成することができる。
【0039】
発光層15は、エレクトロルミネッセンス現象を発現する有機発光物質の層である。画素電極11と陰極16との間に電圧を印加することによって、発光層15には、正孔輸送層14から正孔が、また、陰極16から電子が注入される。発光層15は、これらが結合したときに光を発する。発光層15からの発光スペクトルは、材料の発光特性や膜厚に依存する。本実施形態では、発光領域6R,6G,6Bには、それぞれ赤、緑、青の可視光を発光する発光層15が形成される。発光層15から図3の下方に射出された光はそのままガラス基板10を透過し、また図3の上方に射出された光は陰極16によって反射された後に下方へ進み、同じくガラス基板10を透過する。
【0040】
このような構成の有機EL装置1は、ボトムエミッション型と呼ばれる。なお、有機EL装置1が、ガラス基板10とは反対側に向けて表示光を射出するトップエミッション型である場合、陰極16は、例えば、薄いカルシウム層と、ITO層などから構成して光透過性をもたせ、画素電極11の下層側には、画素電極11の略全体と重なるようにアルミニウム膜などからなる光反射層を形成する。
【0041】
ところで、図1中のB-B線、すなわち、有機バンク13に囲まれた複数の発光領域6を含む位置において有機EL装置1を切断した場合、その模式断面図は図6(c)のようになる。この図においては、下地保護膜31から第2層間絶縁膜34までの構成要素をまとめて回路素子層19としている。この断面図においては、隣接する発光領域6の間に有機バンク13が存在しない。したがって、正孔輸送層14及び発光層15は、複数の発光領域6を含んだ底部を有する大きな凹部の全体にわたって一つながりに形成されている。
【0042】
このような構成によれば、各発光領域6の間で、正孔輸送層14及び発光層15の厚さにばらつきが生じにくくなる。これにより、各発光領域6における発光輝度が均一になり、輝度ムラ等の不具合の少ない高品位な発光を行うことができる。
【0043】
以上のような構成の有機EL装置1は、画素5の発光領域6においてのみ発光し、無機バンク12が形成された領域においては発光は行われない。これは、図3に示すように、当該領域では、画素電極11(陽極)と陰極16との間に絶縁物質である無機バンク12が配置されていることにより、両電極間の電流経路が遮断されるためである。」
(3)図1


(4)図3


2 引用発明
引用文献2の上記1の有機EL装置の記載(【0026】?【0029】及び図3)からは、「ガラス基板上に回路素子層が形成され、回路素子層上に画素電極が画素ごとに形成され」ている構成を把握できる。ここで、図3は、図1中のA-A線における有機EL装置1の断面図(【0025】)である。
そうしてみると、引用文献2には、有機EL装置の発明として、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「画素が、同一の色に対応するものが縦方向に等間隔(等ピッチ)に並ぶように配置され、このような画素の列を画素列と呼び、赤、緑、青に対応する画素列を複数備えており、これらの画素列は赤、緑、青の順に繰り返し配列されて、ストライプ状をなし、画素は、それぞれ発光領域を有している、有機EL装置であって、
ガラス基板上に回路素子層が形成され、回路素子層上に画素電極が画素ごとに形成され、
画素電極の周りには、画素電極を底部とする凹部を形作るように、親液性を有する無機材料からなる無機バンク、及び撥水性を有する有機材料からなる有機バンクがこの順に積層され、無機バンクは、画素電極より小さな開口部を有して、画素電極に重ねて配置され、この開口部は、画素の発光領域に対応する領域に設けられ、
無機バンク上には、有機バンクが形成され、有機バンクは、正孔輸送層及び発光層を形成するにあたって液滴吐出法によって機能液を吐出する際、吐出された機能液の塗布領域を規定するものであり、有機バンクは、複数の発光領域を囲うように形成されて、有機バンクに囲まれる発光領域は、同一の色の発光を行う発光領域であり、異なる色の発光領域が混在しないようになっており、
画素電極、無機バンク、有機バンクによって形作られる凹部には、液滴吐出法によって形成された正孔輸送層及び発光層がこの順に配置され、発光層及び有機バンクの上には、これらを覆うように、陰極が形成され、陰極の上には、封止部材が積層されている有機EL装置。」

また、引用文献2には、引用発明1を備えた電子機器の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

3 引用文献1の記載事項
原査定の拒絶理由に引用文献1として引用され、先の出願前に日本国内又は外国において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載された国際公開第2015/136579号(以下、同じく「引用文献1」という。)には、以下の記載事項がある。なお、当合議体が引用文献1に記載された事項の認定等に用いた箇所に下線を付した。

(1)「技術分野
[0001] 本発明は、有機EL素子を備えた有機EL表示パネルおよびその製造方法に関する。
背景技術
[0002] 近年、有機EL(Electro Luminescence)素子の研究開発が進んでいる。有機EL素子は、陽極と陰極とからなる一対の電極と、電極間に挟まれた発光層とを有する。また、陽極と発光層との間には、必要に応じてホール注入層、ホール輸送層またはホール注入兼輸送層が配される。陰極と発光層との間には、必要に応じて電子注入層、電子輸送層または電子注入兼輸送層が配される。発光層、ホール注入層、ホール輸送層、ホール注入兼輸送層、電子注入層、電子輸送層、および電子注入兼輸送層は、各々発光、電荷の注入と輸送といった固有の機能を果たすので、これらの層を総称して「機能層」と称する。
[0003] 有機EL表示パネルにおいては、このような有機EL素子が、赤色、緑色および青色の各サブピクセルに相当する。隣り合う赤色、緑色および青色のサブピクセルでピクセルが構成される。
[0004] 有機EL表示パネルを製造する方法として、基板上の各サブピクセルが形成される領域に、機能層を構成するための機能性材料を含む溶液を塗布し、塗布された溶液を乾燥させるウェット方式が提案されている。ウェット方式では、溶液を目的の位置に留めておくための隔壁(バンクとも称される)が形成され、隔壁で規定された凹部に溶液を塗布するのが一般的である。
[0005] 特許文献1は、いわゆるピクセルバンク構造の隔壁を開示している(例えば、特許文献1の図12参照)。ピクセルバンク構造は、長尺状で平行に配された複数の第1隔壁と、隣り合う第1隔壁間に配された複数の第2隔壁を備える。隣り合う2つの第1隔壁と隣り合う2つの第2隔壁とで凹部が規定される。ピクセルバンク構造では、各凹部が、サブピクセルが形成される領域に相当する。
先行技術文献
特許文献
[0006] WO2009/084209 A1
発明の概要
発明が解決しようとする課題
[0007] ウェット方式の場合、溶液の塗布量が凹部毎にばらつくことがある。溶液の塗布量が凹部毎にばらつくと、溶液の乾燥により得られる機能層の膜厚がサブピクセル毎にばらつくことになる。これは、各サブピクセルの発光特性のばらつきの原因となる。
[0008] 本発明の一態様は、機能層の膜厚のサブピクセル毎のばらつきを抑制可能な技術を提案する。
課題を解決するための手段
[0009] 本発明の一態様に係る有機EL表示パネルは、それぞれ長尺状で互いに間隔を空けて配された一対の第1隔壁と、前記一対の第1隔壁間に複数存在し、前記第1隔壁に沿う方向に互いに間隔を空けて配され、それぞれ前記一対の第1隔壁間を連結する第2隔壁と、前記一対の第1隔壁と前記複数の第2隔壁とで規定される複数の凹部内にそれぞれ配され、有機EL素子の少なくとも一部を構成する機能層と、を備える。前記各第2隔壁は、前記第2隔壁を挟んで隣り合う凹部を相互に連通する溝部を上面に有し、前記溝部の前記第1隔壁に沿う方向に直交する方向の幅が、前記隣り合う凹部の前記第1隔壁に沿う方向に直交する方向の幅よりも狭く、2μm以上6μm以下の寸法を有する。
発明の効果
[0010] 上記構成により、機能層の膜厚の凹部毎のばらつきを抑制することができる。
・・・(省略)・・・
発明を実施するための形態
[0012] <1> 本発明の一態様の概要
有機EL表示パネルは、それぞれ長尺状で互いに間隔を空けて配された一対の第1隔壁と、前記一対の第1隔壁間に複数存在し、前記第1隔壁に沿う方向に互いに間隔を空けて配され、それぞれ前記一対の第1隔壁間を連結する第2隔壁と、前記一対の第1隔壁と前記複数の第2隔壁とで規定される複数の凹部内にそれぞれ配され、有機EL素子の少なくとも一部を構成する機能層と、を備える。前記各第2隔壁は、前記第2隔壁を挟んで隣り合う凹部を相互に連通する溝部を上面に有し、前記溝部の前記第1隔壁に沿う方向に直交する方向の幅が、前記隣り合う凹部の前記第1隔壁に沿う方向に直交する方向の幅よりも狭く、2μm以上6μm以下の寸法を有する。
・・・(省略)・・・
[0021] <2> 有機EL表示パネルの構造
図1は、本発明の実施形態に係る有機EL表示パネルの部分断面図である。同図には、1つのサブピクセルが現われている。有機EL表示パネル10は、基板1、陽極2、正孔注入層3、正孔輸送層4、有機発光層5、電子輸送層6、陰極7、封止層8および隔壁構造9を備える。陽極2と陰極7との間に電圧が印加されると、陽極2から正孔注入層3および正孔輸送層4を介して有機発光層5に正孔が供給され、陰極7から電子輸送層6を介して有機発光層5に電子が供給される。有機発光層5は、正孔と電子の再結合に伴い発光する。陽極2から陰極7までの積層構造が有機EL素子に該当する。封止層8は、有機EL素子に大気中の水分や酸素が浸入するのを抑制する。本実施形態では、正孔注入層3、正孔輸送層4および有機発光層5がウェット方式で形成されるものとする。正孔注入層3、正孔輸送層4および有機発光層5は、隔壁構造9によりサブピクセル毎に分離される。電子輸送層6および陰極7は、隔壁構造9を越えて隣り合うサブピクセル間で連なっている。各層の具体的な材料については後述する。
[0022] 隔壁構造9は、図2の斜視図に示すように、概ね格子状の形状を有する。同図では、隔壁構造9の形状の理解のために、正孔注入層3およびそれよりも上部の層は省略されている。隔壁構造9は、第1隔壁11a、11b、11c、11d(以下、個々を区別しない場合は、「第1隔壁11」と称する)と、第2隔壁21a、21b、21c、21d、21e、21f、21g、21h(以下、個々を区別しない場合は、「第2隔壁21」と称する)を含む。
[0023] 各第1隔壁11は、長尺状であり、基板1上に互いに間隔Wcを空けて平行に配されている。本実施形態では、基板1の上面に平行な面内において第1隔壁11に沿う方向を「第1方向」と称し、同じ面内において第1方向に直交する方向を「第2方向」と称する。各第2隔壁21は、基板1上における隣り合う一対の第1隔壁11間に、互いに間隔Wbを空けて配されている。隣り合う一対の第1隔壁11は、各第2隔壁21により連結されている。第1隔壁11と第2隔壁21とで凹部31a、31b、31c、31d、31e、31f、31g、31h、31i、31j、31k、31l(以下、個々を区別しない場合は、「凹部31」と称する)が規定される。例えば、凹部31fは、第1隔壁11b、11cと第2隔壁21b、21fとで規定される。各凹部31が、サブピクセルが形成される領域となる。即ち、正孔注入層3、正孔輸送層4、有機発光層5、電子輸送層6および陰極7は、各凹部31内に配される。
[0024] 各第1隔壁11の高さは互いに同じであり、各第2隔壁21の高さも互いに同じである。本実施形態では、第1隔壁11の高さと第2隔壁21の高さも同じである。従って、第1隔壁11の上面12は、第2隔壁21の上面23と平坦に連なる。各第2隔壁21は、第1方向に隣り合う2つの凹部31を相互に連通する溝部22を上面23に有する。例えば、第2隔壁21bの溝部22は、第2隔壁21bを挟んで隣り合う凹部31b、31fを相互に連通する。また、第2隔壁21fの溝部22は、第2隔壁21fを挟んで隣り合う凹部31f、31jを相互に連通する。隣り合う一対の第1隔壁11間に存在する複数の凹部31は、各第2隔壁21に設けられた溝部22により連通している。」

(2)図1

(3)図2


4 引用文献7の記載事項
原査定の拒絶理由に引用文献7として引用され、先の出願前に日本国内又は外国において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2015-144087号公報(以下、同じく「引用文献7」という。)には、以下の記載事項がある。なお、当合議体が発明の認定等に用いた箇所に下線を付した。

(1)【0060】
<変形例2>
図16は、上記第1および第2の実施の形態の変形例(変形例2)に係る有機EL素子(有機EL素子10B)の構成を表したものである。本変形例の有機EL素子10Bは、絶縁膜13Aの開口(開口H2a)の側面(発光開口の横)にリフレクタ構造(いわゆるアノードリフレクタ)を有している。絶縁膜13Aは、上記第1の実施の形態の画素間絶縁膜13に相当するものである。本変形例では、第1電極12Eが、上記第2の実施の形態と同様、離散配置された(ドット状の)複数のサブ電極12e1からなる。また、絶縁膜13Aが、各画素の発光開口としての開口H2a内に、断面形状において複数の凸部13a1を有している。換言すると、絶縁膜13Aは、開口H2a内に、複数のサブ開口H2a1を有しており、サブ開口H2a1はサブ電極12e1に対向して設けられている。これらの各サブ開口H2a1において有機層14が露出し、第2電極15と接触している。これらの複数の凸部13a1の形状に倣って、保護膜16が形成されている。なお、第1電極12Eは画素毎に形成されており、第1電極12Eの構成材料は上記第1の実施の形態の第1電極12と同様である。
【0061】
このように、有機EL素子10Bは、いわゆるアノードリフレクタを有していてもよい。これにより、図17に示したように、有機層14から発光した光を効率的に取り出すことができる。即ち、外部量子効率を向上させることができる。例えば図18に示したように、リフレクタ構造を有さない素子構造(比較例4)に比べ、本変形例の素子構造(実施例4)では、外部量子効率を約2.5倍に改善することができる。加えて、凸部13a1により発光開口がドット状に細分化されることから、上記第2の実施の形態と同様に、外光反射による虹状の色付きについても抑制することが可能である。具体的には、例えば、サブ電極12e1の配列ピッチを画素の出射対象の波長に応じて設計することで、本変形例においても、発光領域の形成パターンの周期性を画素毎に変更することができる。また、本変形の有機EL素子10Bの構造を、上記第1および第2の実施の形態の有機電界発光装置に採用することで、外光反射に起因する虹状の色つきを抑えつつ、外部量子効率を高めることができ、より良好な視認性を保つことができる。」

(2)図16

(3)図17


第5 対比・判断
1 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と引用発明1とを対比する。

ア 有機電界発光素子
引用発明1の「有機EL装置」は、「ガラス基板上に回路素子層が形成され、回路素子層上に画素電極が画素ごとに形成され」、「画素電極、無機バンク、有機バンクによって形作られる凹部には、液滴吐出法によって形成された正孔輸送層及び発光層がこの順に配置され、発光層及び有機バンクの上には、これらを覆うように、陰極が形成され」る構成を具備している。
ここで、技術常識を考慮すると、上記「画素電極」、「正孔輸送層」、「発光層」及び「陰極」からなるものは、有機EL素子である(以下「有機EL素子」という。)。
そうしてみると、引用発明1の「有機EL素子」は、本件発明1の「有機電界発光素子」に相当する。

イ 画素
引用発明1の「画素」は、「同一の色に対応するものが縦方向に等間隔(等ピッチ)に並ぶように配置され、このような画素の列を画素列と呼び、赤、緑、青に対応する画素列を複数備えており、これらの画素列は赤、緑、青の順に繰り返し配列されて、ストライプ状をなし」、「それぞれ発光領域を有している」。
上記アの構成と上記構成からみて、引用発明1の「画素」は、その文言どおり本件発明1の「画素」に相当する。また、引用発明1の「画素」は複数であることは明らかである。さらに、引用発明1の複数の「画素」は、本件発明1の「2次元配置されると共に、それぞれが複数色のうちのいずれかの色の光を発する有機電界発光素子を含む複数の画素を備え」るとの要件及び「発光色毎に一方向に沿って配置され」るとの要件を満たす。

ウ 第1の絶縁膜
引用発明1の「無機バンク」は、「画素電極の周りには、画素電極を底部とする凹部を形作るように、親液性を有する無機材料からな」り、「画素電極より小さな開口部を有して、画素電極に重ねて配置され、この開口部は、画素の発光領域に対応する領域に設けられ」る。
上記構成からみて、引用発明1の「無機バンク」は、膜を形成し、画素毎に開口部を有するものである。また、技術常識からみて、引用発明の「無機バンク」が絶縁性であることは明らかである。
そうしてみると、引用発明1の「無機バンク」は、本件発明1の「第1の絶縁膜」に相当する。また、引用発明1の「無機バンク」は、本件発明1の「第1の絶縁膜」の「前記画素毎に開口部を有する」との要件を満たす。
(当合議体注:次のエで述べるとおり、引用発明1は、絶縁膜である「無機バンク」に加えて、絶縁膜である「有機バンク」を具備する。したがって、これら絶縁膜は、「第1」及び「第2」を付して呼ぶことができる。)

エ 第2の絶縁膜
引用発明1の「有機バンク」は、「撥水性を有する有機材料からな」り、「無機バンク上に」「形成され」、「正孔輸送層及び発光層を形成するにあたって液滴吐出法によって機能液を吐出する際、吐出された機能液の塗布領域を規定するものであり」、「複数の発光領域を囲うように形成されて、有機バンクに囲まれる発光領域は、同一の色の発光を行う発光領域であり、異なる色の発光領域6が混在しないようになって」いる。
上記構成からみて、引用発明1の「有機バンク」は、「無機バンク上に」「形成され」、膜を形成するものである。また、技術常識からみて、引用発明の「有機バンク」が絶縁性であることは明らかである。さらに、引用発明1の「有機バンク」と「複数の発光領域」との位置関係からみて、引用発明1の「有機バンク」は、異なる色の発光領域の間の領域に形成されている。そして、上記ア?ウの構成より、同一の色の発光を行う発光領域は、縦方向に等間隔(等ピッチ)に並ぶように配置される画素列となっている。
そうしてみると、引用発明1の「有機バンク」は、本件発明1の「第2の絶縁膜」に相当する。また、引用発明1の「有機バンク」は、本件発明1の「第2の絶縁膜」の「前記第1の絶縁膜上の異なる発光色の画素同士の間の領域に、前記発光色毎の配列方向に沿って延在する」との要件を満たす。

オ 有機層
引用発明1の「画素電極の周りには、画素電極を底部とする凹部を形作るように、親液性を有する無機材料からなる無機バンク、及び撥水性を有する有機材料からなる有機バンクがこの順に積層され、無機バンクは、画素電極より小さな開口部を有して、画素電極に重ねて配置され、この開口部は、画素の発光領域に対応する領域に設けられ」ている。そして、引用発明1の「正孔輸送層及び発光層」は、この「画素電極、無機バンク、有機バンクによって形作られる凹部に」「液滴吐出法によって形成され」たものである。
引用発明1の「発光層」は、その文言どおり、本件発明1の「発光層」に相当する。また、技術常識からみて、引用発明1の「正孔輸送層及び発光層」が有機層であることは明らかである。さらに、上記構成からみて、引用発明1の「正孔輸送層及び発光層」は、「無機バンク」の「開口部」に設けられ、印刷層または塗布層を含むといえる。
そうしてみると、引用発明1の「正孔輸送層及び発光層」は、本件発明1の「有機層」に相当する。また、引用発明1の「正孔輸送層及び発光層」は、本件発明1の「有機層」の「前記開口部に形成されると共に発光層を含む」との要件及び「印刷層または塗布層を含」むとの要件を満たす。

カ 表示装置
上記ア?オを総合すると、引用発明1の「有機EL装置」は、本件発明1の「表示装置」に相当する。

(2)一致点及び相違点
以上より、本件発明1と引用発明1とは、
「 2次元配置されると共に、それぞれが複数色のうちのいずれかの色の光を発する有機電界発光素子を含む複数の画素を備え、
前記複数の画素は、
発光色毎に一方向に沿って配置され、かつ
前記画素毎に開口部を有する第1の絶縁膜と、
前記第1の絶縁膜上の異なる発光色の画素同士の間の領域に、前記発光色毎の配列方向に沿って延在する第2の絶縁膜と、
前記開口部に形成されると共に発光層を含む有機層と
を有し、
前記有機層は、印刷層または塗布層を含む
表示装置。」の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
「第1絶縁膜」が、本件発明1は、「前記複数の画素のうちの同一の発光色の画素の開口部同士を繋ぐ凹部を含」むのに対して、引用発明1の「無機バンク」は、このような凹部を具備しない点。

(相違点2)
「開口部」が、本件発明1は、「リフレクタを有」するのに対して、引用発明1の「開口部」は、このように特定されたものではない点。

(相違点3)
「有機層」が、本件発明1は、「前記凹部にも形成され」ているのに対して、引用発明1の「正孔輸送層及び発光層」は、そもそも上記相違点1で述べたような凹部を具備しない点。

(相違点4)
本件発明1は、「前記凹部の側面のテーパ角は、前記開口部の側面のテーパ角よりも小さい」のに対して、引用発明1は、そもそも上記相違点1で述べたような凹部を具備しない点。

(3)判断
事案に鑑みて、相違点1、3及び4について検討する。
引用発明1の「無機バンク」は、「親液性を有する無機材料からなる」ものであって、「画素電極の周りには、画素電極を底部とする凹部を形作るように」、「画素電極より小さな開口部を有して、画素電極に重ねて配置され、この開口部は、画素の発光領域に対応する領域に設けられ」るものである。このような構成によって、引用文献2の【0035】に記載された「発光領域6の縁から有機バンク13に至るまでの領域は、親水性を有する無機バンク12が配置されているため、機能液が平坦に濡れ広がりやすい。そして、こうした親水性領域に囲まれた発光領域6においても、機能液は平坦に濡れ広がる。このため、発光領域6の上に積層される構成要素は高い平坦性をもって形成される。」との効果を奏するものである。このように、引用発明1は、各発光領域へと機能液が平坦に濡れ拡がりやすくするために親水性の無機バンクを設けるものであるから、引用発明1において、無機バンクの同一発光色の画素の開口部同士を繋ぐ凹部を設ける動機付けはなく、どちらかといえば、むしろこれを阻害するものといえる。
また、引用文献1の[0012]の記載や図2からは、「第2隔壁を挟んで隣り合う凹部を相互に連通する溝部」の構成までは理解できるとしても、この構成は、上記相違点1、3及び4に係る本件発明1の構成のすべてを補うものではない。加えて、引用文献1の記載を参照しても、これを引用発明1の「無機バンク」と組み合わせるべき動機付けを見いだすことができない。
そうしてみると、当業者であっても、引用発明1に引用文献1に記載された事項を適用して上記相違点1、3及び4に係る本件発明1の構成とすることが容易になし得たということはできない。

なお、引用文献7にも有機EL素子はリフレクタを有することが記載されているにすぎず、上記相違点1、3及び4に係る本件発明1の構成について記載されていない。また、引用文献4(特開2009-122278号公報)、引用文献5(特開2011-34849号公報)、引用文献6(特開2009-288735号公報)にも、上記相違点1、3及び4に係る本件発明1の構成について記載されていない。

(4)小括
以上のとおりであるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、当業者であっても、引用発明1並びに引用文献1及び7に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたということができない。

2 本件発明2?9について
本件発明2?9は、本件発明1の構成を全て具備するものであるから、本件発明2?9も、本件発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明1並びに引用文献1及び7に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたということができない。

3 本件発明10について
本件発明10と引用発明2とを対比すると、本件発明10は、実質的に本件発明1の表示装置を備えた電子機器であるから、両者は、少なくとも、上記1(2)で述べた相違点1、3及び4において相違する。

したがって、本件発明1の場合と同様に、当業者であっても、本件発明10は、引用発明2並びに引用文献1及び7に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたということができない。

第6 むすび
以上のとおり、本件発明1?10は、いずれも、当業者が引用文献1に記載された発明並びに引用文献1及び7に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2020-10-21 
出願番号 特願2018-520712(P2018-520712)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H05B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 中山 佳美酒井 康博本田 博幸  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 井口 猶二
関根 洋之
発明の名称 表示装置および電子機器  
代理人 特許業務法人つばさ国際特許事務所  

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