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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04W
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H04W
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04W
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 H04W
管理番号 1367549
審判番号 不服2019-8463  
総通号数 252 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-06-25 
確定日 2020-10-20 
事件の表示 特願2017-500991「改善されたデバイスペアリングのための方法および装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 1月14日国際公開、WO2016/007188、平成29年 8月31日国内公表、特表2017-525278〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2014年(平成26年)10月27日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2014年7月7日 米国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯の概略は以下のとおりである。

平成30年10月26日付け:拒絶理由通知書
平成31年 2月 5日 :意見書、手続補正書の提出
平成31年 2月18日付け:拒絶査定
令和 元年 6月25日 :拒絶査定不服審判の請求、手続補正書の提出

第2 令和元年6月25日にされた手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
令和元年6月25日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の概要
本件補正は、平成31年2月5日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という。)の
「2つのワイヤレスデバイスをペアリングする方法であって、
2つのワイヤレスデバイスの少なくとも1つをペアリングモードに入れるステップと、
少なくとも1つのペアリング条件を充足させるために少なくとも1つのワイヤレスデバイスを物理的に移動することで少なくとも1つの所定のペアリング動作イベントを遂行するステップと、
前記2つのワイヤレスデバイスの内の一方の加速度計又は無線受信機により前記少なくとも1つのペアリング条件の充足を検出するステップと、
前記少なくとも1つのペアリング条件の充足の検出に応じて前記2つのワイヤレスデバイスをペアリングするステップと、
を含む、方法。」との記載を、以下のとおりに記載された発明(以下、「補正後の発明」という。)である
「2つのワイヤレスデバイスをペアリングする方法であって、
2つのワイヤレスデバイスのうちの1つでペアリングアプリケーションを実行し、前記1つのワイヤレスデバイスをペアリングモードにするステップと、
少なくとも1つのペアリング条件を充足させるために少なくとも1つのワイヤレスデバイスを物理的に移動することで少なくとも1つの所定のペアリング動作イベントを遂行するステップと、
前記2つのワイヤレスデバイスの内の一方の加速度計又は無線受信機により前記少なくとも1つのペアリング条件の充足を検出するステップと、
前記少なくとも1つのペアリング条件の充足の検出に応じて前記2つのワイヤレスデバイス間の通信リンクの確立を自動的に開始するステップと、
を含む、方法。」(下線は補正箇所を示す。)
に補正することを含むものである。

2 補正の適否

(1)補正の目的要件

本件補正は、「2つのワイヤレスデバイスの少なくとも1つをペアリングモードに入れるステップと、」との発明特定事項を「2つのワイヤレスデバイスのうちの1つでペアリングアプリケーションを実行し、前記1つのワイヤレスデバイスをペアリングモードにするステップと、」に変更し、更に「前記少なくとも1つのペアリング条件の充足の検出に応じて前記2つのワイヤレスデバイスをペアリングする」との発明特定事項を「前記少なくとも1つのペアリング条件の充足の検出に応じて、前記2つのワイヤレスデバイス間の通信リンクの確立を自動的に開始する」とに変更するものである。
そこで、本件補正が特許法第17条の2第5項の規定を満たすか否か以下検討する。
発明の詳細な説明【0010】段落には、「Bluetooth(登録商標)Low Energy(BLE)などの様々なワイヤレスプロトコルは通信リンクを確立するためにペアリング工程を必要とする。」と記載されている。そして、当該記載から通信リンクの確立を目的としてペアリングをするものといえる。したがって、通信リンクの確立とペアリングすることとは別々の概念であり、またペアリングの下位概念が通信リンクの確立であるとはいえないことは明らかである。
したがって、「ペアリングする」との概念を含む「前記少なくとも1つのペアリング条件の充足の検出に応じて前記2つのワイヤレスデバイスをペアリングする」との発明特定事項を、「通信リンクの確立」との概念を含む「前記少なくとも1つのペアリング条件の充足の検出に応じて、前記2つのワイヤレスデバイス間の通信リンクの確立を自動的に開始する」とすることは、概念的に下位の発明特定事項とするものではない。
よって、本件補正は,発明特定事項を限定するものではないから、特許請求の範囲の限定的減縮を目的としたものではない。また、請求項の削除、誤記の訂正又は明りょうでない記載の釈明のいずれをも目的としたものでもない。
したがって,本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に適合していない。

以上のことから、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

(2)独立特許要件

本件補正は上記(1)のとおり却下すべきものであるが、更に進めて、仮に上記補正を特許請求の範囲の減縮を目的とするものであると仮定して、本件補正後の請求項に係る発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、以下検討する。

ア 補正後の発明
補正後の発明は、上記「1 本件補正の概要」の「補正後の発明」のとおりのものと認める。

イ 引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された特開2010-124286号公報(以下、「引用例」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。(下線は、強調のために当審が付与した。)

「【課題を解決するための手段】

(中略)

【0013】
動きの指示に、相対距離および相対移動量の何れか一方と、判定回数とが含まれ、
演算判定手段によって相対距離および相対移動量の何れか一方が動きの指示にほぼ一致すると判定される回数が判定回数に達すると、ペアリング処理が行われる。この場合、相対距離および相対移動量の何れか一方が判定の度に変化される。」

「【発明を実施するための最良の形態】

(中略)

【0018】
<1.第1の実施の形態>
「送信装置および受信装置の一例」
この発明の第1の実施の形態は、電子機器例えばテレビジョン受像機を制御するためのRF方式の遠隔制御システムに対してこの発明を適用したものである。図1Aに示すように、リモートコントローラ100は、無線電波を送受信するためのアンテナ101を有する。さらに、通信機能、記憶媒体の読み書き動作、各種キー入力に対応するプログラムを動作させる制御部としてのマイクロプロセッサ(以下、CPU(Central Processing Unit) と称する)102を有する。
【0019】
無線通信のための通信部103からアンテナ101を通じてリモートコントロール信号が送信される。ペアリング相手先の識別情報IDが記憶媒体104に記憶される。自身のIDおよび自身が最初にペアリングの対象とする電子機器のカテゴリーコードとが記憶媒体105に記憶される。キーを有するキー入力部106が設けられている。
【0020】
記憶媒体104および105が例えば書き込み可能な不揮発性メモリによって構成されている。CPU102は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random AccessMemory)などを含み、ROMに記憶されたプログラムを実行することにより、リモートコントローラ100の各部を統括的に制御する。
【0021】
図1Bに示すように、電子機器に設けられている受信モジュール110は、無線電波を送受信するためのアンテナ111を有する。通信機能、記憶媒体の読み書き動作、各種キー入力に対応するプログラムを動作させるCPU112と、無線通信のための通信部113とを備える。
【0022】
自身のIDおよびカテゴリーコード(例えばテレビジョン受像機のカテゴリーを示すコード)が記憶媒体116に記憶される。例えばテレビジョン受像機との間の外部インターフェース117とを有している。CPU112は、受信モジュール110の各部を統括的に制御する。記憶媒体115および116が例えば不揮発性メモリによって構成されている。
【0023】
リモートコントローラ100の通信部103および受信モジュール110の通信部113は、所定の無線通信方式で双方向通信を行う。通信方式としては、例えばIEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers)802.15.4等を使用できる。
IEEE802.15.4は、PAN(Personal Area Network) またはW(Wireless)PANと呼ばれる短距離無線ネットワーク規格の名称である。なお、外部インターフェース117が接続された電子機器例えばテレビジョン受像機に対して受信されたコマンドを出力する機能を持つようになされる。
【0024】
この規格の通信レートは、数10k?数100kbps であり、通信距離は、数10m?数100mになる。また、通信は、フレームの単位で行われる。1フレームは、ペイロード(0?127バイト)にヘッダ(6バイト)で、最大133バイトのサイズとされる。この通信方式では、送受信方法として複数の形態が可能である。遠隔制御システムの場合では、最も簡単な方法、すなわち、リモートコントローラ100から受信モジュール110に対してコマンドを送信し、受信モジュール110からの応答をリモートコントローラ100が受け取る方法が採用される。但し、より複雑な送受信方法を使用することができる。
【0025】
「第1の実施の形態のペアリングのための構成」
リモートコントローラ100および受信モジュール110のそれぞれが互いに登録先IDを記憶する動作がペアリング動作である。図2を参照してペアリングのために、受信側電子機器例えばテレビジョン受像機の受信モジュール110に設けられる構成の一例について説明する。
【0026】
リモートコントローラからの送信信号が受信され、図示せずも、増幅、周波数変換、復調等の処理を受けて入力端子11に供給される。入力端子11に供給された受信信号が信号識別部12および電波強度測定部13に供給される。信号識別部12は、受信信号中の各フレームに付加されているコードから受信信号の種類を判別する。例えば1フレームのデータがヘッダ、コードおよびデータからなる。ヘッダによってRFシステムが識別される。コードによって後続するデータの種類が示される。すなわち、データがペアリング用のデータか、コマンドのデータかが示される。信号識別部12は、例えばCPUによって構成される。
【0027】
電波強度測定部13は、受信信号の電波強度を測定する。電波強度は、より前段のRF処理部において受信したRF信号のレベルを検波することによって測定しても良い。例えばIEEE802.15.4においては、フレームを受信した場合に、信号自体のノイズと干渉の強度からリンク品質通知(LQI:Link Quality Indicator)を計算し、物理層の上位に通知する機能が規定されている。電波強度の一例として、LQIを使用することができる。
【0028】
信号識別部12は、受信信号がペアリング用のデータであることを識別すると、そのデータの電波強度を抽出する。ペアリング用のデータは、リモートコントローラがペアリングモードにおいてのみ発生する。例えばリモートコントローラの特定のまたは任意のボタンを購入後に最初に押した時にペアリング用のデータが送信される。さらに、テレビジョン受像機の設定メニューに中のリモートコントローラ登録メニューにおいてもペアリング動作が可能とされる。ペアリング用のデータは、ペアリングが完了するまで、継続して送信される。
【0029】
電波強度測定部13において、最初に測定したペアリング用データの電波強度(初回測定値)が保持部14に保持される。保持部14は、メモリ例えばRAMの構成とされる。演算部15は、保持部14に保持されている初回測定値と、電波強度測定部13で測定された以降の測定値とを使用してリモートコントローラの相対距離および相対移動量の何れか一方を演算する。絶対距離および絶対移動量は、無線モジュールのバラツキ、実装のバラツキ等の影響を受けて誤差が生じるので、初回測定値が得られた距離を基準として以降の測定値が相対値に変換される。なお、以下の説明において、相対距離および相対移動量を単に距離および移動量と称する。さらに、以下の説明では、距離を求め、求められた距離を判定する例について述べるが、距離の差を移動量として求め、移動量を判定することも同様にできる。
【0030】
演算部15は、電波強度と距離または移動量との関係式に、実際の測定値を代入する演算を行う。この場合、電波強度と距離または移動量との関係を予めテーブルとして作成しておき、ROMに保持し、テーブルを使用して距離または移動量を求めても良い。さらに、演算部15において、距離または移動量が設定値であるか否かが判定される。演算部15は、演算判定部として機能する。
【0031】
演算部15の演算結果と判定結果とが画面生成部16に供給される。画面生成部16は、表示画面を生成する。生成された表示画面が液晶ディスプレイ等の表示部17に供給され、表示される。テレビジョン受像機の場合では、テレビジョン放送番組を表示するための表示画面が表示部17として使用される。画面生成部16は、一例として複数の表示画面のデータをROMに記憶しておき、演算部15の判定結果に対応する表示画面を表示部17に供給する。演算部15は、例えばCPUによって構成される。
【0032】
「第1の実施の形態のペアリング動作」
図3のフローチャートおよび図4の表示画面の図面を参照して第1の実施の形態のペアリング動作について説明する。第1の実施の形態においては、ユーザが持っているリモートコントローラに対する動きの指示のパターンが1種類の例である。動きの指示のパターンとは、距離(相対距離)と、判定回数とを含む動き指示を意味する。例えば判定回数が2回とされる。第1回目の判定における距離は、テレビジョン受像機に対する初回測定位置の距離の1/2とされる。第2回目の判定における距離は、テレビジョン受像機に対する初回測定距離の2倍とされる。
【0033】
図3におけるステップS1において、電波強度測定部13が最初に受信したペアリング信号の電波強度が測定される。初回測定値が保持部14に保持される。ステップS2において、表示部17によって移動指示がなされる。
【0034】
図4は、画面生成部16によって生成され、表示部17に表示される表示画面の例を示す。表示画面P1がステップS2において指示される第1回目の移動指示に対応して表示される。表示画面P1は、テレビジョン受像機を模式的に表すTVイメージ21と、リモートコントローラを模式的に表すRCイメージ22とを含む。さらに、指示する距離の位置を表すマーカMK1と、移動方向を示す矢印AR1と、メッセージの文字CR1とが表示画面に存在する。他の表示画面中にもこれらの要素が含まれる。
【0035】
表示画面P1および他の表示画面におけるTVイメージ21の距離は、固定されている。電波強度測定部13によって測定された初回測定値が保持部14に保持される。例えば初回測定値が「80」の値とする。なお、測定値の数値は、相対的な電波強度を説明の便宜上表すものである。演算部15が初回測定値からリモートコントローラの初回距離を求め、求められた初回距離の位置にRCイメージ22が表示される。
【0036】
第1回目の判定時の指示距離がTVイメージ21とRCイメージ22の初回距離の0.5倍に設定される。指示距離での電波強度が40となる。実際には、距離と電波強度とが線形の関係にならないが、説明の便宜上、両者が線形な関係にあるものと仮定する。表示画面P1におけるマーカMK1の表示位置が指示距離の位置を示す。現在位置から指示距離の位置へ移動する方向が矢印AR1によって示される。文字CR1として、「ペアリング登録画面 もう少し近づいてください」のメッセージが表示される。
【0037】
リモートコントローラ(ユーザが持っている)が文字CR1のメッセージにしたがってテレビジョン受像機に近づく。ステップS3において、ペアリング信号の電波強度が電波強度測定部13によって測定される。測定される電波強度は、リモートコントローラが近づくにしたがって増加する。なお、ユーザの移動に応じて表示画面P1上をRCイメージ22がTVイメージ21に近づくようにしても良い。
【0038】
電波強度の初回測定値と測定された電波強度からリモートコントローラの位置が指示した距離に対して所定範囲内か否かがステップS4において判定される。例えば(0.5±0.1)の範囲内に測定値が入るか否かが判定される。第1回目の判定時の指示距離(マーカMK1の位置)が最初の距離の0.5倍に設定されるので、電波強度がほぼ「40」(80×0.5)となると、RCイメージ22が指示距離の位置(マーカMK1)に到達したと判定され、ステップS4の判定結果が肯定となる。
【0039】
ステップS4の判定が肯定の場合に、ステップS5において、所定範囲内と判定された判定回数が設定回数に達したか否かが判定される。ステップS5の設定回数が2回に設定されているものとする。第1回目の判定であるので、ステップS5の判定結果が否定であり、処理がステップS2(移動指示表示)に戻る。
【0040】
ステップS2に戻ると、第2回目の判定のために、移動指示の表示画面P2が表示部17に表示される。図4に示すように、初回の距離の2倍の距離が第2回目の距離として設定され、その位置にマーカMK2が表示され、離れる方向の矢印AR2が表示される。文字CR2として、「ペアリング登録画面 次にもう少し離れてください」のメッセージが表示される。
【0041】
ユーザは、リモートコントローラを持ったままこのメッセージにしたがってテレビジョン受像機から離れる。ステップS3において、ペアリング信号の電波強度が電波強度測定部13によって測定される。測定される電波強度は、リモートコントローラが離れるにしたがって減少する。なお、ユーザの移動に応じて表示画面P2上をRCイメージ22が動くようにしても良い。
【0042】
初回測定値と測定された電波強度からリモートコントローラの距離が指示距離に対して所定範囲内か否かがステップS4において判定される。すなわち、(2±0.1)の範囲内に測定された距離か入るか否かが判定される。第2回目の判定時の指示距離が最初の距離の2倍に設定されるので、電波強度がほぼ「160」(80×2)となると、RCイメージ22が指示距離の位置(マーカMK2)に到達したと判定され、ステップS4の判定結果が肯定となる。
【0043】
ステップS4の判定が肯定の場合に、ステップS5において、所定範囲と判定された判定回数が設定回数に達したか否かが判定される。ステップS5の設定回数が2回に設定されているものとする。第2回目の判定であるので、ステップS5の判定結果が肯定であり、処理がステップS6(ペアリング登録)に移る。
【0044】
ペアリング登録は、リモートコントローラの送信モジュールとテレビジョン受像機の受信モジュールとの間で通信がなされ、互いに相手のIDを登録先IDとして登録する処理である。この処理に多少の時間がかかるので、ペアリング登録中は、図4に示すように、表示画面P3が表示される。表示画面P3には、TVイメージ21と、RCイメージ22、マーカMK2と、メッセージの文字CR3とが含まれる。メッセージとして、「ペアリング登録画面 そのままお待ち下さい」が表示される。
【0045】
所定時間が経過してペアリングが完了すると、表示画面P4が表示される。表示画面P4には、TVイメージ21と、RCイメージ22、マーカMK2と、メッセージの文字CR4とが含まれる。メッセージとして、「ペアリング登録画面 ペアリング完了」が表示される。
【0046】
上述したこの発明の第1の実施の形態は、動きの指示をテレビジョン受像機の画面表示によって行い、指示されたパターン通りにユーザが持ったリモートコントローラが移動することによってペアリングを行う。したがって、表示画面を見ることができず、指示された動きを行うことができない第三者は、ペアリングを行うことができない。このように、特定ユーザのみが比較的簡単にペアリングを行うことができる。」

「【図2】





上記の記載、並びに当業者の技術常識を考慮すると、次のことがいえる。

(ア)引用例の【0028】段落の「テレビジョン受像機の設定メニューに中のリモートコントローラ登録メニューにおいてもペアリング動作が可能とされる。」との記載は、「テレビジョン受像機の設定メニューの中のリモートコントローラ登録メニューにおいてもペアリング動作が可能とされる。」との記載の誤記であると認める。そして引用例の【0028】段落と当該誤記を考慮し、引用例には「テレビジョン受像機の設定メニューの中のリモートコントローラ登録メニューにおいてペアリング動作が可能とされる」ことが記載されていると認める。

(イ)引用例の【0032】段落及び【0046】段落から、引用例には「動きの指示のパターンとは、距離(相対距離)と、判定回数とを含む動き指示を意味し、指示されたパターン通りにユーザが持ったリモートコントローラが移動することによってペアリングを行う」ことが記載されていると認める。

(ウ)引用例の【0023】段落から、引用例には「リモートコントローラの通信部は所定の無線通信方式で双方向通信を行う」ことが記載されていると認める。

(エ)引用例の【0023】段落及び【0025】段落から、テレビジョン受像機の受信モジュールの通信部は、所定の無線通信方式で双方向通信を行うといえる。
また、引用例の【0025】段落及び図2の記載から、受信モジュールは演算部を有しているといえる。更に、引用例の【0013】段落、【0030】段落の記載において、演算判定部は演算判定を行うものであるから、演算判定手段であるといえる。したがって引用例の【0013】段落、【0025】段落、【0030】段落及び図2から、受信モジュールの演算部は、演算判定部として機能し、演算判定部によって相対距離および相対移動量の何れか一方が動きの指示にほぼ一致すると判定される回数が判定回数に達すると、ペアリング処理が行われるといえる。
以上のことから、引用例には、「テレビジョン受像機の受信モジュールの通信部は、所定の無線通信方式で双方向通信を行い、受信モジュールの演算部は、演算判定部として機能し、演算判定部によって相対距離および相対移動量の何れか一方が動きの指示にほぼ一致すると判定される回数が判定回数に達すると、ペアリング処理が行われる」ことが記載されていると認める。

(オ)引用例の【0042】段落には、「初回測定値と測定された電波強度からリモートコントローラの距離が指示距離に対して所定範囲内か否かがステップS4において判定される。」と記載されており、また【0043】段落には「ステップS4の判定が肯定の場合に、ステップS5において、所定範囲と判定された判定回数が設定回数に達したか否かが判定される。」「ステップS5の判定結果が肯定であり、処理がステップS6(ペアリング登録)に移る。」と記載されている。
また、引用例の【0044】段落には「ペアリング登録は、リモートコントローラの送信モジュールとテレビジョン受像機の受信モジュールとの間で通信がなされ、互いに相手のIDを登録先IDとして登録する処理である。」と記載されており、更に【0045】段落には「所定時間が経過してペアリングが完了する」と記載されている。
したがって、以上の引用例の【0042】ないし【0045】段落から、引用例には「初回測定値と測定された電波強度からリモートコントローラの距離が指示距離に対して所定範囲内か否かがステップS4において判定され、ステップS4の判定が肯定の場合に、ステップS5において、所定範囲と判定された判定回数が設定回数に達したか否かが判定され、ステップS5の判定結果が肯定であり、処理がステップS6(ペアリング登録)に移り、ペアリング登録は、リモートコントローラの送信モジュールとテレビジョン受像機の受信モジュールとの間で通信がなされ、互いに相手のIDを登録先IDとして登録する処理であり、所定時間が経過してペアリングが完了する」ことが記載されていると認める。

(カ)上記(ア)ないし上記(オ)より、リモートコントローラおよびテレビジョン受像機の受信モジュールがペアリング動作するといえるから、「リモートコントローラとテレビジョン受像機とをペアリングする方法」が記載されていると認める。

したがって、引用例には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

「リモートコントローラとテレビジョン受像機とをペアリングする方法であって、
テレビジョン受像機の設定メニューの中のリモートコントローラ登録メニューにおいてペアリング動作が可能とされ、
動きの指示のパターンとは、距離(相対距離)と、判定回数とを含む動き指示を意味し、指示されたパターン通りにユーザが持ったリモートコントローラが移動することによってペアリングを行い、
リモートコントローラの通信部は所定の無線通信方式で双方向通信を行い、
テレビジョン受像機の受信モジュールの通信部は、所定の無線通信方式で双方向通信を行い、受信モジュールの演算部は、演算判定部として機能し、演算判定部によって相対距離および相対移動量の何れか一方が動きの指示にほぼ一致すると判定される回数が判定回数に達すると、ペアリング処理が行われ、
初回測定値と測定された電波強度からリモートコントローラの距離が指示距離に対して所定範囲内か否かがステップS4において判定され、ステップS4の判定が肯定の場合に、ステップS5において、所定範囲と判定された判定回数が設定回数に達したか否かが判定され、ステップS5の判定結果が肯定であり、処理がステップS6(ペアリング登録)に移り、ペアリング登録は、リモートコントローラの送信モジュールとテレビジョン受像機の受信モジュールとの間で通信がなされ、互いに相手のIDを登録先IDとして登録する処理であり、所定時間が経過してペアリングが完了する、
を含む方法。」

ウ 対比
補正後の発明と引用発明とを対比すると、

(ア)引用発明の「リモートコントローラ」と「テレビジョン受像機」の各々は、所定の無線通信方式で双方向通信を行う通信部を有しており、無線通信を行う装置であるといえるから、それぞれ補正後の発明の「ワイヤレスデバイス」に相当する。したがって、引用発明の「リモートコントローラ」及び「テレビジョン受像機」は「2つのワイヤレスデバイス」といえ、更に引用発明の「テレビジョン受像機」は補正後の発明と同様に「2つのワイヤレスデバイスのうちの1つ」といえる。

(イ)引用発明の「テレビジョン受像機の設定メニューの中のリモートコントローラ登録メニューにおいてペアリング動作が可能とされる」とは、テレビジョン受像機のペアリング動作を可能とすることであるといえる。
したがって、補正後の発明の「2つのワイヤレスデバイスのうちの1つでペアリングアプリケーションを実行し、前記1つのワイヤレスデバイスをペアリングモードにするステップ」と、引用発明の「テレビジョン受像機の設定メニューの中のリモートコントローラ登録メニューにおいてペアリング動作が可能とされる」とは、「1つのワイヤレスデバイスをペアリングモードにする」点で共通する。

(ウ)引用発明の「指示されたパターン通りにユーザが持ったリモートコントローラが移動することによってペアリングを行い」とは、パターンが指示され、その指示されたパターンに対応するようユーザが持ったリモートコントローラが移動することによってペアリングを行うことであるから、「指示されたパターン」はリモートコントローラが移動することによってペアリングを行うための条件であることは明らかである。
したがって、引用発明の「指示されたパターン」は、補正後の発明の「少なくとも1つのペアリング条件」に対応し、更に引用発明の「指示されたパターン通りにユーザが持ったリモートコントローラが移動することによってペアリングを行い」との事項は、補正後の発明の「少なくとも1つのペアリング条件を充足させるために少なくとも1つのワイヤレスデバイスを物理的に移動することで少なくとも1つの所定のペアリング動作イベントを遂行する」との点において一致する。

(エ)上記(ア)より、引用発明の「テレビジョン受像機」は補正後の発明の「2つのワイヤレスデバイスの内の1つ」といえる。
また、引用発明のテレビジョン受像機の「受信モジュール」には、所定の無線通信方式で双方向通信を行う通信部が設けられているから、受信モジュールは無線での受信をすることは明らかである。したがって、引用発明の「受信モジュール」は補正後の発明の「無線受信機」に相当する。そして、補正後の発明の「2つのワイヤレスデバイスの内の一方の加速度計又は無線受信機」とは、2つのワイヤレスデバイスの内の加速度計又は無線受信機のどちらか一方ということであるから、引用発明の「テレビジョン受像機の受信モジュール」は、補正後の発明の「2つのワイヤレスデバイスの内の一方の加速度計又は無線受信機」といえる。
更に、引用発明の「受信モジュールの演算部は、演算判定部として機能し、演算判定部によって」との事項は、受信モジュールによる動作であることは明らかである。また、「受信モジュール」に関し前の段落にて示したとおり引用発明の「テレビジョン受像機の受信モジュール」は補正後の発明の「2つのワイヤレスデバイスの内の一方の加速度計又は無線受信機」といえるから、引用発明の当該事項は、補正後の発明の「2つのワイヤレスデバイスの内の一方の加速度計又は無線受信機により」に対応する。
加えて、引用発明の「相対距離および相対移動量の何れか一方が動きの指示にほぼ一致すると判定される回数が判定回数に達すると、ペアリング処理が行われ」との事項における「動きの指示」とは、引用発明の「指示されたパターン通りにユーザが持ったリモートコントローラが移動することによってペアリングを行い、」との事項における「指示されたパターン」のことであることは明らかである。また、上記(ウ)に示した通り、「指示されたパターン」とは、リモートコントローラが移動することによりペアリングを行うための条件である。以上の点を考慮すると、引用発明の当該事項は、受信モジュールによって、リモートコントローラが移動することによりペアリングを行うための条件を満たすと判定しているということができ、補正後の発明の「少なくとも1つのペアリング条件の充足を検出する」といえる。
以上のことから、引用発明の「テレビジョン受像機の受信モジュールの通信部は、所定の無線通信方式で双方向通信を行い、受信モジュールの演算部は、演算判定部として機能し、演算判定手段によって相対距離および相対移動量の何れか一方が動きの指示にほぼ一致すると判定される回数が判定回数に達すると、ペアリング処理が行われ、」との事項は、補正後の発明の「2つのワイヤレスデバイスの内の一方の加速度計又は無線受信機により少なくとも1つのペアリング条件の充足を検出する」との点において一致する。

(オ)引用発明の「初回測定値と測定された電波強度からリモートコントローラの距離が指示距離に対して所定範囲内か否かがステップS4において判定され」ること及び「ステップS5において、所定範囲と判定された判定回数が設定回数に達したか否かが判定され」ることは、引用発明において「動きの指示のパターンとは、距離(相対距離)と、判定回数とを含む動き指示を意味」することから、距離(相対距離)と、判定回数とを含む動き指示通りか否かを判定しているといえる。そして、引用発明の「動き指示」とは、引用発明の「指示されたパターン」を言い換えたに過ぎないことは明らかである。したがって、距離(相対距離)と判定回数とを含む動き指示通りか否かを判定することは、上記(ウ)で示したように「指示されたパターン」がリモートコントローラが移動することによってペアリングを行うための条件であったことを考慮すると、リモートコントローラが移動することによりペアリングを行うための条件を満たすか否かを判定することといえ、補正後の発明の「少なくとも1つのペアリング条件の充足の検出」に対応する。
更に、引用発明の「ステップS4の判定が肯定の場合に、ステップS5において、所定範囲と判定された判定回数が設定回数に達したか否かが判定され、ステップS5の判定結果が肯定であり、処理がステップS6(ペアリング登録)に移り」との事項は、ステップS4及びステップS5の判定が肯定であると処理がステップS6に移ることであり、前段落において示したとおりステップS4及びステップS5の判定が少なくとも1つのペアリング条件の検出に対応していることから、補正後の発明の「少なくとも1つのペアリング条件の充足の検出に応じて」に対応する。
以上のことから、引用発明の「電波強度の初回測定値と測定された電波強度からリモートコントローラの位置が指示した距離に対して所定範囲内か否かが判定され、判定が肯定の場合に、所定範囲内と判定された判定回数が設定回数に達したか否かが判定され、判定結果が肯定であり、処理がペアリング登録に移り、リモートコントローラの送信モジュールとテレビジョン受像機の受信モジュールとの間で通信がなされ、互いに相手のIDを登録先IDとして登録し、所定時間が経過してペアリングが完了する」との事項は、補正後の発明の「前記少なくとも1つのペアリング条件の充足の検出に応じて前記2つのワイヤレスデバイス間の通信リンクの確立を自動的に開始するステップ」との事項において、「前記少なくとも1つのペアリング条件の充足の検出に応じて」との点で共通する。

以上を総合すると、補正後の発明と引用発明とは、以下の点で一致し、また相違する。

(一致点)

「2つのワイヤレスデバイスをペアリングする方法であって、
2つのワイヤレスデバイスのうちの1つのワイヤレスデバイスをペアリングモードにするステップと、
少なくとも1つのペアリング条件を充足させるために少なくとも1つのワイヤレスデバイスを物理的に移動することで少なくとも1つの所定のペアリング動作イベントを遂行するステップと、
前記2つのワイヤレスデバイスの内の一方の加速度計又は無線受信機により前記少なくとも1つのペアリング条件の充足を検出するステップと、
を含む、方法。」

(相違点1)
補正後の発明は、ペアリングモードにするのにワイヤレスデバイスのペアリングアプリケーションを実行するのに対し、引用発明は、ペアリング動作を可能とするのにテレビジョン受像機の設定メニューの中のリモートコントローラ登録メニューを使うことが特定されているものの、アプリケーションを実行することについて特定されていない点。

(相違点2)
ペアリング条件の充足の検出に応じた事項として、補正後の発明は、2つのワイヤレスデバイスの通信リンクの確立を自動的に開始するのに対し、引用発明は、リモートコントローラの送信モジュールとテレビジョン受像機の受信モジュールとの間で通信がなされ、互いに相手のIDを登録先IDとして登録し、所定時間が経過してペアリングが完了するが、通信リンクの確立を自動的に開始する点について特定されていない点。

エ 判断

(ア)相違点1について
テレビジョン受像機の設定メニューはコンピュータプログラムにより実装することが技術常識として知られている。そして、当該設定メニューに適したプログラムとして、コンピュータプログラムの一種であるアプリケーションを選択し、アプリケーションを実行することにより設定メニューの中のリモートコントローラ登録メニューを操作するよう実装することは当業者がテレビジョン受像機の設計において適宜決める事項に過ぎない。

(イ)相違点2について
通信がなされる場合、最初に装置間を通信チャネルで接続し、通信リンクを確立してから通信を行わなければならないことは技術常識である。また、通信接続には決められた手順で接続が行われるが、その手順の実施を手動または自動とするかは当業者が適宜決める事項である。したがって、引用発明のリモートコントローラの送信モジュールとテレビジョン受像機の受信モジュールとの間で通信がなされる際に、通信リンクの確立を自動的に開始させるようすることは当業者が容易に想到しうるものである。

また、補正後の発明の作用効果も、引用発明に基づき当業者が予測しうる程度のものである。

したがって、補正後の発明は引用発明に基づいて当業者にとって容易に発明とすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

3 請求人の主張について
請求人は、令和元年6月25日に提出された審判請求書の「3.新規性及び進歩性について(理由1、理由2)」において、以下のように主張している。(当審注:主張中の「引用文献2」は引用例と同じ文献と認められる。)

「引用文献2の段落[0016]には、「この発明によれば、表示した動きの指示にしたがって動く無線通信装置とのみペアリングを行うことができる。したがって、第三者がペアリングを行うことを防止できる。さらに、ユーザの操作が簡単で、ユーザに負担をかけない利点がある。」と記載されています。
ここで、本願明細書段落[0015]には、「動作に際し、ペアリングされるべきデバイスの一方が加速度計が設置されたBLE対応スマートフォン104A(図1)であるのに対して、他方のデバイスがBLE対応BGM102であると仮定する。本発明の実施形態は、ユーザがインストールされたアプリケーションおよび単純なタップによるペアリング手順を用いてスマートフォン104AとBLE BGM102をペアリングするようにする。ユーザはスマートフォン104A上のアプリケーションを起動し、BGM102をオンにする。ユーザはデバイスを合わせて、互いに対してタップする。発見およびペアリングは、加速度計示度の急変およびデバイスの近接(すなわち、スマートフォン104A上で動くアプリケーションによって検出されるBGM102BLE信号強度の検出変化)に応じて自動的に開始される。」と記載されています。」
「上記それぞれの記載における下線で示されているように、本願発明は、引用文献1のように衝突させることで「共通の状態変化を検出」しているわけではなく、また、引用文献2のように、「表示した動きの指示」にしたがって無線通信装置を動かしているわけでもありません。
本願発明においては、「発見およびペアリングは、加速度計示度の急変およびデバイスの近接(すなわち、スマートフォン104A上で動くアプリケーションによって検出されるBGM102BLE信号強度の検出変化)に応じて自動的に開始され」ます。
このような構成は、引用文献1,2とは異なっており、それは補正後の本願請求項において明確になっています。」

しかし、補正後の発明は請求人が主張する「単純なタップ」により特定されてはおらず、「ワイヤレスデバイスを物理的に移動すること」との事項により特定されている。そして、上記「2 補正の適否」の項中の「(2)独立特許要件」の項中に理由を示した通り、当該特定事項を有する補正後の発明は引用発明に基づき当業者が容易しうるものである。

また、補正後の発明は、「2つのワイヤレスデバイス間の通信リンクの確立を自動的に開始する」との事項により特定されており、出願人の主張する「発見およびペアリングは、加速度計示度の急変およびデバイスの近接(すなわち、スマートフォン104A上で動くアプリケーションによって検出されるBGM102BLE信号強度の検出変化)に応じて自動的に開始され」るとの事項により特定されておらず、請求人の主張は補正後の発明に基づくものではない。

したがって、請求人の主張は採用できない。

さらに、請求人は、令和元年11月1日に提出された上申書の「2.前置報告書での認定事項及びそれに対する主張及び反論」において、以下のように主張している。(当審注:主張中の「引用文献2」は引用例と同じ文献と認められる。)

「本願発明とは異なり、引用文献2では、ペアリングができる前に一つだけのペアリング動作イベントを満たす必要があることを開示も示唆もありません。引用文献2では、代わりに、少なくとも2つのペアリング動作イベントが少なくとも2つのペアリング条件をそれぞれ満たすことが必要です。
例えば、引用文献2に記載された第1の実施形態において、少なくとも2つの動作指示がユーザに表示され、ペアリングができる前に、それら2つの動作が正常に完了したことを少なくとも2回確認する必要があります。
例えば、引用文献2段落[0032]等では、ユーザが持っているリモートコントローラがテレビジョン受像機に対する初回測定位置の距離の1/2に移動したかどうかの1回目の判定と、テレビジョン受像機に対する初回測定距離の2倍の位置に移動したかどうかの2回目の判定について説明しています。
したがって、引用文献2の第1の実施形態では少なくとも2つのペアリング動作が必要とされています。
また、引用文献2に記載された第2の実施形態においても同様に、ペアリングができる前に、移動指示に基づいてユーザがリモートコントローラを移動させたかどうかと、その後のユーザがリモートコントローラのキーを押したかどうかの両方が、引用文献2のペアリング条件を満たす必要があります(段落[0051]-[0054]等)。
したがって、引用文献2の第2の実施形態でも2つのペアリング動作が必要とされています。
本願発明では、少なくとも1つのペアリング条件を満たしていることを2つのワイヤレスデバイスのうちの1つのみが検出したことに応答して、2つのワイヤレスデバイス間の通信リンクの確立を自動的に開始します。
したがって、本願発明は、引用文献2発明に対し新規性及び進歩性を有しています。」

しかしながら補正後の発明は「一つだけのペアリング動作イベントを満たす必要がある」及び「少なくとも1つのペアリング条件を満たしていることを2つのワイヤレスデバイスのうちの1つのみが検出したことに応答して、」との事項により特定されるものではなく、「少なくとも1つのペアリング条件を充足させるために少なくとも1つのワイヤレスデバイスを物理的に移動することで少なくとも1つの所定のペアリング動作イベントを遂行するステップ」及び「前記2つのワイヤレスデバイスの内の一方の加速度計又は無線受信機により前記少なくとも1つのペアリング条件の充足を検出するステップ」との事項により特定されるものであり、「一つだけのペアリング動作イベント」「1つのみが検出した」との請求人の主張は補正後の発明に基づくものではない。

また、「少なくとも1つのペアリング条件を充足させるために少なくとも1つのワイヤレスデバイスを物理的に移動することで少なくとも1つの所定のペアリング動作イベントを遂行するステップ」及び「前記2つのワイヤレスデバイスの内の一方の加速度計又は無線受信機により前記少なくとも1つのペアリング条件の充足を検出するステップ」との事項は、上記「2 補正の適否」の項中の「(2)独立特許要件」の項中に理由を示した通り、引用発明と対比しても相違点とはならない。

したがって、請求人の主張は採用できない。

4 結語

したがって、令和元年6月25日にされた手続補正(本件補正)は、特許法第17条の2第5項の規定に違反し、更に、補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、特許法第17条の2第6項において準用する同法126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、上記の補正の却下の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について

1 本願発明

令和元年6月25日にされた手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、上記「第2」の項の「1 本件補正の概要」の項の「本願発明」のとおりのものと認める。

2 原査定の拒絶の理由

原査定の拒絶理由の概要は、「1.(新規性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。2.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」というものであり、請求項1に対して引用例(特開2010-124286号公報、上記「第2 令和元年6月25日にされた手続補正についての補正の却下の決定」の項中の「2 補正の適否」の項中の「(2)独立特許要件」の項中の「イ 引用発明」の「引用例」と同じ)が引用されている。

3 引用発明

引用発明は、上記「第2 令和元年6月25日にされた手続補正についての補正の却下の決定」の項中の「2 補正の適否」の項中の「(2)独立特許要件」の項中の「イ 引用発明」の項で認定したとおりである。

4 対比・判断

本願発明は、上記「第2 令和元年6月25日にされた手続補正についての補正の却下の決定」で検討した補正後の発明から、「2つのワイヤレスデバイスの少なくとも1つをペアリングモードに入れるステップと、」との発明特定事項を「2つのワイヤレスデバイスのうちの1つでペアリングアプリケーションを実行し、前記1つのワイヤレスデバイスをペアリングモードにするステップと、」に変更し、更に「前記少なくとも1つのペアリング条件の充足の検出に応じて前記2つのワイヤレスデバイスをペアリングする」との発明特定事項を「前記少なくとも1つのペアリング条件の充足の検出に応じて、前記2つのワイヤレスデバイス間の通信リンクの確立を自動的に開始する」とに変更したものである。
したがって、補正後の発明から変更されていない本願発明の発明特定要件に関し、本願発明と引用発明との対比は「第2 令和元年6月25日にされた手続補正についての補正の却下の決定」の「(2)独立特許要件」の「ウ 対比」において(ア)、(ウ)、(エ)で述べたとおりである。
また、補正後の発明から変更された本願発明の発明特定要件に関し、本願発明と引用発明とを対比すると、

(イ)引用発明の「テレビジョン受像機の設定メニューの中のリモートコントローラ登録メニューにおいてペアリング動作が可能とされる」との事項は、テレビジョン受像機のペアリング動作を可能とすることであるから、本願発明の「2つのワイヤレスデバイスの少なくとも1つをペアリングモードにするステップ」といえる。

(オ)引用発明の「初回測定値と測定された電波強度からリモートコントローラの距離が指示距離に対して所定範囲内か否かがステップS4において判定され」ること及び「ステップS5において、所定範囲と判定された判定回数が設定回数に達したか否かが判定され」ることは、引用発明において「動きの指示のパターンとは、距離(相対距離)と、判定回数とを含む動き指示を意味」することから、距離(相対距離)と、判定回数とを含む動き指示通りか否かを判定しているといえる。そして、引用発明の「動き指示」とは、引用発明の「指示されたパターン」を言い換えたに過ぎないことは明らかである。したがって、距離(相対距離)と判定回数とを含む動き指示通りか否かを判定することは、上記(ウ)で示したように「指示されたパターン」がリモートコントローラが移動することによってペアリングを行うための条件であったことを考慮すると、リモートコントローラが移動することによりペアリングを行うための条件を満たすか否かを判定することといえ、本願発明の「少なくとも1つのペアリング条件の充足の検出」に対応する。
更に、引用発明の「ステップS4の判定が肯定の場合に、ステップS5において、所定範囲と判定された判定回数が設定回数に達したか否かが判定され、ステップS5の判定結果が肯定であり、処理がステップS6(ペアリング登録)に移り」との事項は、ステップS4及びステップS5の判定が肯定であると処理がステップS6に移ることであり、前段落において示したとおりステップS4及びステップS5の判定が少なくとも1つのペアリング条件の充足の検出に対応していることから、本願発明の「少なくとも1つのペアリング条件の充足の検出に応じて」に対応する。
そして、上記(ア)で示したとおり引用発明の「リモートコントローラ」及び「テレビジョン受像機」は「2つのワイヤレスデバイス」といえるから、引用発明の「ペアリング登録は、リモートコントローラの送信モジュールとテレビジョン受像機の受信モジュールとの間で通信がなされ、互いに相手のIDを登録先IDとして登録する処理であり、所定時間が経過してペアリングが完了する」との事項は、本願発明の「2つのワイヤレスデバイスをペアリングする」といえる。
以上のことから、引用発明の「初回測定値と測定された電波強度からリモートコントローラの距離が指示距離に対して所定範囲内か否かがステップS4において判定され、ステップS4の判定が肯定の場合に、ステップS5において、所定範囲と判定された判定回数が設定回数に達したか否かが判定され、ステップS5の判定結果が肯定であり、処理がステップS6(ペアリング登録)に移り、ペアリング登録は、リモートコントローラの送信モジュールとテレビジョン受像機の受信モジュールとの間で通信がなされ、互いに相手のIDを登録先IDとして登録する処理であり、所定時間が経過してペアリングが完了する、」との事項は、本願発明の「前記少なくとも1つのペアリング条件の充足の検出に応じて前記2つのワイヤレスデバイスをペアリングする」点において一致する。

以上を総合すると、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致し、相違点はない。

「2つのワイヤレスデバイスをペアリングする方法であって、
2つのワイヤレスデバイスの少なくとも1つをペアリングモードにするステップと、
少なくとも1つのペアリング条件を充足させるために少なくとも1つのワイヤレスデバイスを物理的に移動することで少なくとも1つの所定のペアリング動作イベントを遂行するステップと、
前記2つのワイヤレスデバイスの内の一方の加速度計又は無線受信機により前記少なくとも1つのペアリング条件の充足を検出するステップと、
前記少なくとも1つのペアリング条件の充足の検出に応じて前記2つのワイヤレスデバイスをペアリングするステップと、
を含む、方法。」

したがって、本願発明は引用発明である。また、本願発明は引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 むすび

以上のとおり、本願発明は引用例に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
また、当業者が引用例に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

 
別掲
 
審理終結日 2020-03-27 
結審通知日 2020-03-30 
審決日 2020-06-03 
出願番号 特願2017-500991(P2017-500991)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (H04W)
P 1 8・ 572- Z (H04W)
P 1 8・ 121- Z (H04W)
P 1 8・ 575- Z (H04W)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 行武 哲太郎宮田 繁仁  
特許庁審判長 岩間 直純
特許庁審判官 中元 淳二
望月 章俊
発明の名称 改善されたデバイスペアリングのための方法および装置  
代理人 村山 靖彦  
代理人 阿部 達彦  
代理人 実広 信哉  

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