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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02B
管理番号 1367628
審判番号 不服2020-2974  
総通号数 252 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-03-03 
確定日 2020-11-17 
事件の表示 特願2018-515203「低屈折層形成用光硬化性コーティング組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 8月24日国際公開、WO2017/142291、平成30年12月13日国内公表、特表2018-536886、請求項の数(14)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 事案の概要
1 手続等の経緯
特願2018-515203号(以下「本件出願」という。)は、2017年(平成29年)2月14日(パリ条約による優先権主張 2018年(平成28年)2月19日 (KR)韓国 平成29年(2019年)2月13日 (KR)韓国)を国際出願日とする出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
平成31年 3月15日付け:拒絶理由通知書
令和 元年 6月26日提出:意見書・手続補正書
令和 元年10月24日付け:拒絶査定(以下、「原査定」という。)
令和 2年 3月 3日提出:審判請求書・手続補正書

2 原査定の概要
原査定の拒絶の理由は、概略、本件出願の請求項1?請求項14に係る発明(令和元年6月26日にした手続補正後のもの)は、その優先権主張の日(以下「本件優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された以下の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、本件優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
引用文献1:特表2009-545651号公報
引用文献2:特開2008-107792号公報
引用文献3:国際公開第2012/147527号
引用文献4:特開2004-170901号公報
引用文献5:特開2003-222704号公報
(当合議体注:主引用例は引用文献2であり、引用文献4?5は請求項1?3、7?8に対しての周知例として引用された文献であり、引用文献3は請求項4?5、9?14に対しての副引用例として、引用文献1は請求項6に対しての副引用例として、それぞれ引用されたものである。)

3 本願発明
本件出願の請求項1?請求項14に係る発明は、令和2年3月3日にした手続補正(以下「本件補正」という。)後の特許請求の範囲の請求項1?請求項14に記載された事項によって特定されるとおりの、以下のものである。
「 【請求項1】
2種以上の光重合性化合物と、
光開始剤と、
表面処理された中空状無機ナノ粒子と、および
表面処理されたソリッド状無機ナノ粒子と
を含み、
前記2種以上の光重合性化合物のうちの1種以上の光重合性化合物は、下記の化学式1で表される化合物であり、
前記化学式1で表される化合物と、前記化学式1で表される化合物以外の他の光重合性化合物は、重量比が0.5:1から1.5:1であり、
前記表面処理された中空状無機ナノ粒子は、その含有量が前記光重合性化合物100重量部に対して150?250重量部であり、
前記表面処理されたソリッド状無機ナノ粒子は、その含有量が前記光重合性化合物100重量部に対して10?50重量部である、
低屈折層形成用光硬化性コーティング組成物:
[化学式1]
【化1】

前記化学式1において、
R^(1)は、
【化2】

であり、
前記Xは、水素、炭素数1?6の脂肪族炭化水素由来の1価の残基、炭素数1?6のアルコキシ基、および炭素数1?4のアルコキシカルボニル基のうちのいずれか1つであり、
前記Yは、単一結合、-CO-、または-COO-であり、
R^(2)は、炭素数1?20の脂肪族炭化水素由来の2価の残基であるか、あるいは前記2価の残基の1つ以上の水素がヒドロキシ基、カルボキシル基、またはエポキシ基で置換された2価の残基であるか、あるいは前記2価の残基の1つ以上の-CH_(2)-が酸素原子が直接連結されないように-O-、-CO-O-、-O-CO-、または-O-CO-O-に代替された2価の残基であり、
Aは、水素および炭素数1?6の脂肪族炭化水素由来の1価の残基のうちのいずれか1つであり、
Bは、炭素数1?6の脂肪族炭化水素由来の1価の残基のうちのいずれか1つであり、
nは、0?2の整数である。
【請求項2】
前記化学式1で表される化合物は、下記の化学式2で表される化合物を含む、請求項1に記載の低屈折層形成用光硬化性コーティング組成物:
[化学式2]
【化3】

前記化学式2において、
前記X^(a)は、水素あるいはメチル基であり、
R^(3)は、水素および炭素数1?6の脂肪族炭化水素由来の1価の残基のうちのいずれか1つであり、
R^(4)は、炭素数1?6の脂肪族炭化水素由来の1価の残基のうちのいずれか1つであり、
mは、2?6の整数であり、
nは、0?2の整数である。
【請求項3】
前記2種以上の光重合性化合物のうち
前記化学式1で表わされる化合物以外の他の光重合性化合物は、
ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘプタ(メタ)アクリレート、トリレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンポリエトキシトリ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、スチレン、パラメチルスチレン、ウレタン変性アクリレートオリゴマー、エポキシドアクリレートオリゴマー、エーテルアクリレートオリゴマー、デンドリティックアクリレートオリゴマー、またはこれらの混合物を含む、
請求項1または2に記載の低屈折層形成用光硬化性コーティング組成物。
【請求項4】
光反応性官能基を含む含フッ素化合物を追加的に含む、
請求項1から3のいずれか1項に記載の低屈折層形成用光硬化性コーティング組成物。
【請求項5】
前記光反応性官能基を含む含フッ素化合物は、
前記2種以上の光重合性化合物に含まれず、
前記2種以上の光重合性化合物100重量部に対して20?300重量部含まれる、
請求項4に記載の低屈折層形成用光硬化性コーティング組成物。
【請求項6】
前記表面処理されたソリッド状無機ナノ粒子が、前記表面処理された中空状無機ナノ粒子に比べて0.50g/cm^(3)以上高い密度を有する、
請求項1から5のいずれか1項に記載の低屈折層形成用光硬化性コーティング組成物。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の低屈折層形成用光硬化性コーティング組成物をハードコート層上に塗布および乾燥する段階と、
前記段階で得られた乾燥物を光硬化する段階と
を含む、
反射防止フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記低屈折層形成用光硬化性コーティング組成物をハードコート層上に塗布し、35℃?100℃で乾燥する段階を、
さらに含む
請求項7に記載の反射防止フィルムの製造方法。
【請求項9】
ハードコート層と、
上記ハードコート層の一面に形成され、請求項1から6のいずれか1項に記載の低屈折層形成用光硬化性コーティング組成物の光硬化物を含む低屈折層と
を含み、
前記ハードコート層および前記低屈折層の間の界面から前記低屈折層の全体厚さの50%以内に表面処理されたソリッド状無機ナノ粒子全体中の70体積%以上が存在する
反射防止フィルム。
【請求項10】
前記表面処理された中空状無機ナノ粒子全体中の30体積%以上が、前記表面処理されたソリッド状無機ナノ粒子より、前記ハードコート層および前記低屈折層の間の界面から前記低屈折層の厚さ方向により遠い距離に存在する、
請求項9に記載の反射防止フィルム。
【請求項11】
前記ハードコート層と前記低屈折層との界面から前記低屈折層の全体厚さの30%以内に前記表面処理されたソリッド状無機ナノ粒子全体中の70体積%以上が存在する、
請求項9または10に記載の反射防止フィルム。
【請求項12】
前記ハードコート層と前記低屈折層との界面から前記低屈折層の全体厚さの30%超過の領域に前記表面処理された中空状無機ナノ粒子全体中の70体積%以上が存在する、
請求項9から11のいずれか1項に記載の反射防止フィルム。
【請求項13】
前記低屈折層は、前記表面処理されたソリッド状無機ナノ粒子全体中の70体積%以上が含まれている第1層と、
前記表面処理された中空状無機ナノ粒子全体中の70体積%以上が含まれている第2層と
を含み、
前記第1層が、第2層に比べて、前記ハードコート層および前記低屈折層の間の界面により近く位置する、
請求項9から12のいずれか1項に記載の反射防止フィルム。
【請求項14】
前記反射防止フィルムは、380nm?780nmの可視光線波長帯領域で0.7%以下の平均反射率を示す、
請求項9から13のいずれか1項に記載の反射防止フィルム。」


第2 当合議体の判断
1 引用文献の記載及び引用発明
(1)引用文献2について
原査定の拒絶の理由で引用文献2として引用され、本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である、特開2008-107792号公報(以下「引用文献2」という。)には、以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定及び判断等に活用した箇所を示す。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、LCDなどのディスプレイ(画像表示装置)の前面に設置する反射防止積層体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ(LCD)、陰極管表示装置(CRT)、プラズマディスプレイパネル(PDP)等の画像表示装置における表示面は、蛍光灯等の外部光源から照射された光線による反射を少なくし、その視認性を高めることが求められる。このため、従来から、透明な物体の表面を屈折率の低い透明皮膜(低屈折率層)で被覆することにより反射性が小さくなるという現象を利用した反射防止膜を画像表示装置の表示面に設けることにより、表示面の反射性を低減させて視認性を向上させることが検討されている。」

イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、本発明者の検討によれば、特許文献3に記載された方法を採用すると、上記期待に反して屈折率層の硬度が逆に低下する場合があることが判明した。具体的には、硬度の向上を狙って多孔質でない無機化合物粒子(中実粒子)を含有させると、屈折率層の耐擦傷性が悪くなり、表面硬度が寧ろ低下することがわかった。
【0009】
また、中実粒子は、内部が密で空気を含まないため中空粒子よりも屈折率が高い。そのため、膜強度を向上させる目的で屈折率層に多量の中実粒子を添加すると当該層の屈折率が高くなり、当該層からなる反射防止膜の反射防止性能が低下するという問題もある。
【0010】
本発明は上記問題点を解消するためになされたものであり、中空粒子及び中実粒子を有しながら、耐擦傷性に優れ、且つ屈折率が1.45以下となり、低反射性を確保した屈折率層を有する反射防止積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る反射防止積層体は、屈折率が1.45以下の屈折率層を有する反射防止積層体であって、
前記屈折率層が、屈折率層形成用組成物を、電離放射線照射して得られる硬化物であって、
前記屈折率層形成用組成物は、電離放射線硬化性樹脂と、
外殻層に囲まれた内部が多孔質又は空洞であり、且つ、表面に架橋形成基が修飾されている架橋反応性の中空粒子と、
内部が多孔質でも空洞でもなく、且つ表面に架橋形成基が修飾されている架橋反応性の中実粒子とを含有し、
前記中空粒子表面の架橋形成基と、前記中実粒子表面の架橋形成基は、粒子表面に対する結合基、スペーサ部及び電離放射線硬化性基からなり、同一構造を有するか、又は、構造上の相違があるとしても、電離放射線硬化性基については、その骨格が共通し、且つ、炭素原子数が1?3の炭化水素基1つ分の有無が異なるのみの範囲内であり、粒子表面に対する結合基については、その骨格が共通し、且つ、炭素原子数が1?3の炭化水素基1つ分の有無が異なるのみの範囲内であり、スペーサ部については、その骨格が共通し、且つ、炭素原子数が1?3の炭化水素基1つ分又は異種原子を含み水素を除く構成原子数が1?3の官能基1つ分の有無が異なるのみの範囲内か、或いは、骨格の炭素鎖長が炭素原子1?2個分異なるのみの範囲内である類似構造を有する架橋形成基であることを特徴とする。
・・・中略・・・
【0014】
更に、本発明に係る前記中空粒子及び前記中実粒子は、当該粒子表面を同一構造であるか又は1次構造の共通部分が極めて多い架橋形成基で修飾されている。当該架橋形成基は架橋反応性を有するため、中空粒子、中実粒子、及び電離放射線硬化性樹脂間で架橋結合を形成し得る。斯かる架橋結合により、当該粒子及び当該樹脂間の結びつきが従来の反射防止層に比べ強固になる。また、架橋形成基の共通部分が極めて多いため、従来に比べ、当該中空粒子と当該中実粒子との間の親和性が高く、前記中空粒子同士の凝集、及び前記中実粒子同士の凝集が起こり難く、前記中空粒子及び前記中実粒子が前記屈折率層中で均一、且つ、密に充填する。これにより、本発明に係る屈折率層は、当該層表面が滑らかとなり、当該層表面の引掻きに対する耐擦傷性(耐スチールウール性)を向上することが可能となる。
・・・中略・・・
【発明の効果】
【0028】
本発明に係る反射防止積層体は、屈折率層において、前記中空粒子及び中実粒子が均一、且つ、密に充填するため、層強度が向上し、耐擦傷性に優れる。」

ウ 「【0034】
<1.屈折率層形成用組成物>
本発明に係る屈折率層形成用組成物とは、必須成分として、表面に架橋形成基が修飾されている架橋反応性の中空粒子、表面に架橋形成基が修飾されている架橋反応性の中実粒子、及び電離放射線硬化性樹脂を含む。以下、屈折率層形成用組成物の必須成分である、前記中空粒子、前記中実粒子、及び前記電離放射線硬化性樹脂、並びに必要に応じて用いられるその他の成分について説明する。
【0035】
<1-1-1.中空粒子>
本発明に係る中空粒子は、外殻層を有し、外殻層に囲まれた内部が多孔質組織又は空洞である粒子をいう。当該多孔質組織及び当該空洞には空気(屈折率:1)が含有されており、当該中空粒子を屈折率層に含有させることで、当該層の屈折率を低減することができる。
【0036】
本発明に係る中空粒子の材料は、無機系、有機系のものを使用することができる。生産性や強度等を考慮し、無機材料であることが好ましい。この場合には、外殻層が無機材料で形成されることになる。
・・・中略・・・
【0040】
本発明において中空粒子を金属酸化物で形成する場合、材料の屈折率や生産性を考慮し、シリカ(二酸化珪素:SiO_(2))からなる中空粒子を用いることが特に好ましい。中空シリカ粒子は、微細な空隙を内部に有しており、屈折率1の空気が当該粒子内部に含まれている。そのため、当該粒子自体の屈折率が中実粒子及び電離放射線硬化性樹脂に比べて低く、当該粒子を含有する屈折率層の屈折率を低下させることができる。すなわち、空隙を有する中空シリカ粒子は、内部に気体を有しないシリカ粒子(屈折率n=1.46程度)に比べると、屈折率が1.20?1.45と低く、屈折率層の屈折率を1.45以下にすることができる。
・・・中略・・・
【0053】
<1-2-1.中実粒子>
本発明に係る中実粒子は、当該粒子内部が多孔質でもなく空洞でもない粒子をいう。空隙を有しないため中空粒子に比べ、外部から粒子にかかる圧力(外圧)で潰れにくく、耐圧性に優れる。そのため、当該中実粒子を含有する屈折率層の耐擦傷性を向上させやすくなる。
・・・中略・・・
【0057】
本発明においては、屈折率層の屈折率をより低減するために、中実粒子の屈折率は、電離放射線硬化性樹脂の屈折率よりも小さいことが好ましい。シリカ(SiO_(2))の屈折率は1.42?1.46であり、電離放射線硬化性樹脂として好ましく用いられるアクリル系樹脂の屈折率1.49?1.55よりも低い。このため、中実粒子の材料は、シリカ(SiO_(2))を用いることが特に好ましい。
・・・中略・・・
【0059】
<1-3.中空粒子と中実粒子の関係>
本発明に係る反射防止積層体の一形態においては、中実粒子の平均粒径A及び中空粒子の平均粒径Bは、以下の関係:
10nm≦A≦40nm;
30nm≦B≦60nm;且つ
A≦B、
をもつことが好ましく、A+10≦Bであることがさらに好ましい。
また、本発明に係る反射防止積層体においては、屈折率層が、前記中実粒子100重量部に対し、前記中空粒子5重量部?50重量部を含有することが好ましい。上記範囲とすることにより、前記屈折率層中における前記中空粒子間の隙間に前記中実粒子が入り込み、さらに密に充填するため、当該層表面の耐擦傷性、特に耐スチールウール性を向上させる効果が特に高い。
【0060】
本発明に係る反射防止積層体の別の形態においては、中実粒子の平均粒径A及び中空粒子の平均粒径Bは、以下の関係:
30nm<A≦100nm;
30nm≦B≦60nm;且つ
A>B、
をもつことが好ましく、A≧B+10であることがさらに好ましい。
また、本発明に係る反射防止積層体においては、屈折率層が、前記中実粒子100重量部に対し、前記中空粒子5重量部?50重量部を含有することが好ましい。上記範囲とすることにより、前記屈折率層における前記中実粒子の体積占有率が大きくなり、前記屈折率層の反射率を低減させる効果が特に高い。
従来の表面処理による中空粒子及び中実粒子では、中実粒子が中空粒子に比べて大きい場合、異種粒子同士の親和性が低いため同種の粒子同士の凝集が起こりやすく、その結果、ヘイズが上がってしまっていた。それに対して、中空粒子及び中実粒子が本発明の表面処理を用いることにより、中実粒子が中空粒子に比べて大きい場合であっても、異種粒子間の親和性が高く、層内において均一、且つ、密に充填しやすい。また、粒径が大きい粒子同士を混合するため充填された粒子間の隙間が大きくなり、空気が存在する。そのため、上記範囲を有することにより本発明の低屈折率層は、反射率を低減する効果が特に高くなる。
・・・中略・・・
【0062】
<1-4.架橋形成基>
本発明に係る中空粒子及び中実粒子は、当該粒子表面を同一構造を有するか、又は、構造上の相違があるとしても、電離放射線硬化性基については、その骨格が共通し、且つ、炭素原子数が1?3の炭化水素基1つ分の有無が異なるのみの範囲内であり、粒子表面に対する結合基については、その骨格が共通し、且つ、結合基に結合するスペーサ部以外の基は、炭素原子数が1?3の炭化水素基1つ分の有無が異なるのみの範囲内であり、スペーサ部については、その骨格が共通し、且つ、炭素原子数が1?3の炭化水素基1つ分又は異種原子を含み水素を除く構成原子数が1?3の官能基1つ分の有無が異なるのみの範囲内か、或いは、骨格の炭素鎖長が炭素原子1?2個分異なるのみの範囲内である類似構造を有する架橋形成基で修飾されている。当該架橋形成基となる化合物としては、例えば、カップリング剤が挙げられ、当該カップリング剤としてはシランカップリング剤が好ましい。当該シランカップリング剤のシリルオキシ部分が加水分解により、前記結合基となり得る。
【0063】
本発明で好適に用いられるシランカップリング剤としては、3‐メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3‐メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3‐アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3‐アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3‐メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3‐メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、2‐メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、2‐メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン等を挙げることができる。
・・・中略・・・
【0071】
シリカ粒子の表面を架橋形成基により修飾するための一例として、シリカ粒子へのシランカップリング剤の処理量は、シリカ粒子に対して、好ましくは1重量%以上、より好ましくは2重量%以上とする。上記範囲とすれば、電離放射線硬化性樹脂組成物に対するシリカ粒子の親和性を良好にできる。一方、シリカ粒子へのシランカップリング剤の処理量は、シリカ粒子に対して好ましくは50重量%以下、より好ましくは30重量%以下とする。上記範囲とすれば、シリカ粒子の処理に使用されなかった遊離のシランカップリング剤の発生を良好に抑制でき、外部衝撃に対する復元性が向上し、割れや傷の発生が抑制される。
【0072】
シランカップリング剤によるシリカ粒子表面の修飾方法としては、有機溶剤への分散性と、電離放射線硬化性樹脂との親和性とを向上させることができれば、特に制限されず、従来の方法により処理することができる。例えば、シリカ粒子の分散液に所定量のシランカップリング剤を加え、必要に応じて、酸処理、アルカリ処理、又は加熱処理をすることにより、シリカ粒子の表面を修飾することができる。
【0073】
また、上記した以外のシランカップリング剤を用いる場合、好適なものの見分け方としては、修飾後の前記粒子表面が疎水性、又は親水性かで見分ける。具体的な見分け方としては、当該シランカップリング剤を用いて前記粒子表面を修飾し、乾燥させた後にメノウ乳鉢等を用いて大きさ1mm以下の微粉末状としたものが水に浮くかどうかで見分ける。
【0074】
本発明においては、全てのシランカップリング剤がシリカ粒子表面に導入されず、単量体又は縮合体として、電離放射線硬化性樹脂等を含む屈折率層形成用組成物中に存在してもよい。シランカップリング剤は、電離放射線硬化性樹脂やシリカ粒子との親和性に優れるため、シリカ粒子を屈折率層形成用組成物中で安定的に分散させることができる。また、シランカップリング剤は、電離放射線の照射や加熱による硬化の際に、膜中に取りこまれて架橋剤として作用するため、シランカップリング剤全量がシリカ粒子表面に導入された場合と比べて、屈折率層の性能が向上しやすくなる。
・・・中略・・・
【0077】
<1-5.電離放射線硬化性樹脂>
本発明において、電離放射線硬化性樹脂とは、電離放射線の照射により反応し、硬化し得る樹脂である。生産性を考慮すると好ましい樹脂として、熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂、並びに熱、及び放射線を併用して硬化させ得る樹脂を挙げることができる。
【0078】
上記電離放射線硬化性樹脂の屈折率層中の含有量は、好ましくは10重量%以上、さらに好ましくは20重量%以上、特に好ましくは30重量%以上である。一方、好ましくは70重量%以下、さらに好ましくは60重量%以下、特に好ましくは50重量%以下である。上記範囲内とすれば低屈折率でありながら実使用上問題が無い膜強度が発揮されやすい。
・・・中略・・・
【0084】
1分子中に少なくとも1つ以上の水素結合形成基と、3つ以上の電離放射線硬化性基とを有する化合物としては、通常、水酸基等の水素結合形成基を持つものが用いられる。水素結合形成基は、合成時に副生され、モノマーの一部として混在するものであってもよい。具体的には、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレートモノステアレート等のジ(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等のトリ(メタ)アクリレート;ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート誘導体、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
・・・中略・・・
【0090】
<1-6.その他の成分>
屈折率層を形成する屈折率層形成用組成物には、必要に応じて本発明の効果を損なわない限り、必須成分である上記電離放射線硬化性樹脂、中空粒子、及び中実粒子以外の成分も含まれていてもよい。当該電離放射線硬化性樹脂、中空粒子、及び中実粒子以外の成分としては、溶剤、重合開始剤、硬化剤、架橋剤、紫外線遮断剤、紫外線吸収剤、表面調整剤(レベリング剤)、及びその他の成分が挙げられる。上記材料のうち、一例として、表面調整剤(レベリング剤)、重合開始剤及び硬化剤について以下説明する。
・・・中略・・・
【0099】
<1-6-2.重合開始剤>
重合開始剤は、本発明においては必ずしも必要ではない。しかしながら、電離放射線硬化性樹脂、架橋形成基により修飾された中空粒子及び架橋形成基により修飾された中実粒子、並びに任意成分である他の樹脂の電離放射線硬化性基が、電離放射線照射によって重合反応を生じ難い場合には、他の樹脂及び当該粒子の反応形式に合わせて、適切な開始剤を用いるのが好ましい。
【0100】
例えば、電離放射線硬化性樹脂の電離放射線硬化性基が(メタ)アクリロイル基である場合には、光ラジカル重合開始剤を用いる。光ラジカル重合開始剤としては、例えば、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、ケタール類、アントラキノン類、チオキサントン類、アゾ化合物、過酸化物、2,3‐ジアルキルジオン化合物類、ジスルフィド化合物類、チウラム化合物類、フルオロアミン化合物等を挙げることができる。より具体的には、1‐ヒドロキシ‐シクロヘキシル‐フェニル‐ケトン、2‐メチル‐1[4‐(メチルチオ)フェニル]‐2‐モルフォリノプロパン‐1‐オン、ベンジルジメチルケトン、1‐(4‐ドデシルフェニル)‐2‐ヒドロキシ‐2‐メチルプロパン‐1‐オン、2‐ヒドロキシ‐2‐メチル‐1‐フェニルプロパン‐1-オン、1‐(4‐イソプロピルフェニル)‐2‐ヒドロキシ‐2‐メチルプロパン‐1‐オン、2‐ヒドロキシ‐1‐{4‐[4‐(2‐ヒドロキシ‐2‐メチル‐プロピオニル)‐ベンジル]‐フェニル}‐2‐メチル‐プロパン‐1‐オン、ベンゾフェノン等を挙げることができる。これらのうちでも、1‐ヒドロキシ‐シクロヘキシル‐フェニル‐ケトン、及び、2‐メチル‐1[4‐(メチルチオ)フェニル]‐2‐モルフォリノプロパン‐1‐オン、2‐ヒドロキシ‐1‐{4‐[4‐(2‐ヒドロキシ‐2‐メチル‐プロピオニル)‐ベンジル]‐フェニル}‐2‐メチル‐プロパン‐1‐オン、は、少量でも電離放射線の照射による重合反応を開始し、促進するので好ましい。上記光ラジカル重合開始剤は、いずれか一方を単独で、又は、両方を組み合わせて用いることができる。これらは市販のものを用いてもよく、例えば、2‐ヒドロキシ‐1‐{4‐[4‐(2‐ヒドロキシ‐2‐メチル‐プロピオニル)‐ベンジル]‐フェニル}‐2‐メチル‐プロパン‐1‐オンは、イルガキュア127(Irgacure 127)の商品名(イルガキュア、Irgacureは登録商標)でチバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)から入手できる。」

エ 「【実施例】
【0153】
以下、実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明する。これらの記載により本発明を制限するものではない。
【0154】
<3-1-1.表面修飾された中空粒子(表面修飾中空シリカ微粒子A)の調製>
中空粒子として、中空シリカ微粒子(触媒化成工業(株)製)のイソプロパノール分散液を、ロータリーエバポレーターを用いてイソプロピルアルコールからメチルイソブチルケトン(以下、MIBKという場合がある)に溶媒置換を行い、シリカ微粒子20重量%の分散液を得た。このメチルイソブチルケトン分散液100重量%に3‐メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシランを5重量%添加し、50℃で1時間加熱処理することにより、表面処理された中空シリカ微粒子20重量%のメチルイソブチルケトン分散液を得た。
【0155】
<3-1-2.表面修飾された中空粒子(表面修飾中空シリカ微粒子C)の調製>
中空粒子として、中空シリカ微粒子(触媒化成工業(株)製)のイソプロパノール分散液を、ロータリーエバポレーターを用いてイソプロピルアルコールからメチルイソブチルケトンに溶媒置換を行い、シリカ微粒子20重量%の分散液を得た。このメチルイソブチルケトン分散液100重量%に3‐グリシドキシプロピルメチルジメトキシシランを5重量%添加し、50℃で1時間加熱処理することにより、表面処理された中空シリカ微粒子20重量%のメチルイソブチルケトン分散液を得た。
【0156】
<3-2-1.表面修飾された中実粒子(表面修飾中実シリカ微粒子A)の調製>
中実粒子として、メチルイソブチルケトン分散シリカゾル(MIBK-ST:商品名、日産化学工業(株)製。シリカ固形分20重量%)100重量部に3‐メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシランを5重量%添加し、50℃で1時間加熱処理することにより、表面処理された中実シリカ微粒子20重量%のメチルイソブチルケトン分散液を得た。
【0157】
<3-2-2.表面修飾された中実粒子(表面修飾中実シリカ微粒子B)の調製>
乾燥空気中、メルカプトプロピルトリメトキシシラン7.8重量%、ジブチルスズジラウレート0.2重量%からなる溶液に対し、イソフォロンジイソシアネート20.6重量%を攪拌しながら50℃で1時間かけて滴下後、60℃で3時間攪拌した。これにペンタエリスリトールトリアクリレート71.4重量%を30℃で1時間かけて滴下後、60℃で3時間加熱攪拌することで化合物(1)を得た。次に窒素気流下、メタノールシリカゾル(メタノール溶剤コロイダルシリカ分散液:商品名、日産化学工業(株)製。シリカ固形分30重量%)88.5重量%(固形分26.6重量%)、合成した化合物(1)8.5重量%、p‐メトキシフェノール0.01重量%の混合液を、60℃で4時間攪拌した。続いてこの反応混合液に化合物(2)としてメチルトリメトキシシラン3重量%を添加し、60℃、1時間攪拌した後、オルト蟻酸メチルエステル9重量%を添加し、さらに1時間同一温度で加熱処理することにより表面処理された中実シリカ微粒子35重量%のメタノール分散液を得た。
【0158】
<3-2-3.表面修飾された中実粒子(表面修飾中実シリカ微粒子C)の調製>
中実粒子として、メチルイソブチルケトン分散シリカゾル(MIBK-ST:商品名、日産化学工業(株)製。シリカ固形分20重量%)100重量部に3‐グリシドキシプロピルメチルジメトキシシランを5重量%添加し、50℃で1時間加熱処理することにより、表面処理された中実シリカ微粒子20重量%のメチルイソブチルケトン分散液を得た。
【0159】
<実施例1>
<3-3-1.低屈折率層形成用組成物の調製>
下記組成の成分を混合して低屈折率層形成用組成物を調製した。
【0160】
表面修飾中空シリカ微粒子A(中空シリカ微粒子20重量%のメチルイソブチルケトン)
:15.0重量部
表面修飾中実シリカ微粒子A(中実シリカ微粒子20重量%のメチルイソブチルケトン)
:0.4重量部
ペンタエリスリトールトリアクリレート(PETA)
:1.2重量部
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)
:0.4重量部
イルガキュア127(商品名、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)
:0.1重量部
X-22-164E(商品名、信越化学工業(株)製)
:0.15重量部
メチルイソブチルケトン
:83.5重量部
【0161】
<3-3-2.ハードコート層形成用組成物の調製>
下記の組成の成分を配合してハードコート層形成用組成物を調製した。
【0162】
表面修飾中実シリカ微粒子B(中実シリカ微粒子35重量%のメチルイソブチルケトン)
:25.0重量部
ウレタンアクリレート(紫光UV1700-B:商品名、日本合成化学工業(株)製)
:25.0重量部
イルガキュア184(商品名、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)
:0.2重量部
メチルエチルケトン
:49.8重量部
【0163】
<3-4.基材/ハードコート層/低屈折率層フィルムの作製>
厚み80μmのトリアセテートセルロース(TAC)フィルム(富士写真フィルム(株)製)上に,上記組成のハードコート層形成用組成物をバーコーティングし、乾燥により溶剤を除去した後,紫外線照射装置(フュージョンUVシステムジャパン(株)、光源Hパルプ)を用いて、照射線量10mJ/cm2で紫外線照射を行い,ハードコート層を硬化させて、膜厚約15μmのハードコート層を有する、基材/ハードコート層フィルムを得た。
【0164】
得られた基材/ハードコート層フィルム上に,上記の低屈折率層形成用組成物をバーコーティングし、乾燥させることより溶剤を除去した後、紫外線照射装置(フュージョンUVシステムジャパン(株)、光源Hバルブ)を用いて,照射線量200mJ/cm2で紫外線照射を行い、塗膜を硬化させて、基材/ハードコート層/低屈折率層の反射防止積層体を得た。
低屈折率層の膜厚は,島津製作所(株)製分光光度計(UV-3100PC)を用いて測定した反射率の極小値が波長550nm付近になるように設定した。
【0165】
なお、PETA、及びDPHAはほぼ全量が重合するので、上記電離放射線硬化性樹脂組成物に対する中実シリカ粒子の含有量は、電離放射線硬化性樹脂に対する中実シリカ粒子の含有量とほぼ同様と考えてよい。
【0166】
上記の様にして得られた、基材/ハードコート層/低屈折率層の反射防止積層体について、以下の4点の測定を行った。
<3-5-1.反射率測定>
島津製作所(株)製分光光度計(UV-3100PC)を用いて、入射角と反射角が夫々5°の時の最低反射率を測定した。
【0167】
<3-5-2.ヘイズ値測定>
JIS K7105:1981「プラスチックの光学的特性試験方法」に準じて、反射防止積層体の最表面のヘイズ値を測定した。
【0168】
<3-5-3.擦過性評価試験(耐スチールウール性)>
#0000のスチールウールを用い、荷重を変えて光学積層体表面を20往復した時の傷の有無を目視により確認した。評価基準は以下の通りとした。
【0169】
○:傷がないもの
△:傷が数本(1?10本)認められるもの
×:傷が多数(10本以上)認められるもの
【0170】
<3-5-4.硬度評価試験(鉛筆硬度測定)>
光学積層体の表面を、所定の鉛筆を用いて、500g荷重で5本線を引きその後の光学積層体表面の傷の有無を目視し評価した。傷のつかなかったときの鉛筆の硬度を確認した。結果を表-1に示す。
・・・中略・・・
【0179】
【表1】



オ 上記エによれば、引用文献2の【0163】?【0164】には、実施例1として、「基材/ハードコート層フィルム上に」、「低屈折率層形成用組成物をバーコーティングし」、「紫外線照射を行い、塗膜を硬化させて」形成した「反射防止積層体」が記載されている。そして、引用文献2の【0159】?【0160】の記載から、「低屈折率層形成用組成物」は、「表面修飾中空シリカ微粒子A」、「表面修飾中実シリカ微粒子A」、「ペンタエリスリトールトリアクリレート」、「ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート」、「イルガキュア127」、「X-22-164E」及び「メチルイソブチルケトン」から得られるものと理解される。また、「表面修飾中空シリカ微粒子A」及び「表面修飾中実シリカ微粒子A」は、それぞれ引用文献2の【0154】及び【0156】に記載された工程にて調整されたものである。
くわえて、引用文献2の【0001】及び【0028】には、上記「反射防止積層体」の用途及び効果が記載されている。
以上勘案すると、引用文献2には、実施例1として、次の「低屈折率層形成用組成物」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

(ア)引用発明
「 中空シリカ微粒子のイソプロパノール分散液を、メチルイソブチルケトンに溶媒置換を行い、シリカ微粒子20重量%の分散液を得、メチルイソブチルケトン分散液100重量%に3‐メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシランを5重量%添加し、表面処理された中空シリカ微粒子20重量%のメチルイソブチルケトン分散液を得、表面修飾された中空粒子(表面修飾中空シリカ微粒子A)の調製し、表面修飾中空シリカ微粒子Aの平均粒径は40nmであり、
メチルイソブチルケトン分散シリカゾル(シリカ固形分20重量%)100重量部に3‐メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシランを5重量%添加し、表面処理された中実シリカ微粒子20重量%のメチルイソブチルケトン分散液を得、表面修飾された中実粒子(表面修飾中実シリカ微粒子A)を調製し、表面修飾中実シリカ微粒子Aの平均粒径は10nmであり、
表面修飾中空シリカ微粒子A(中空シリカ微粒子20重量%のメチルイソブチルケトン):15.0重量部、表面修飾中実シリカ微粒子A(中実シリカ微粒子20重量%のメチルイソブチルケトン):0.4重量部、ペンタエリスリトールトリアクリレート:1.2重量部、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート:0.4重量部、イルガキュア127:0.1重量部、X-22-164E:0.15重量部、メチルイソブチルケトン:83.5重量部を混合して調整した低屈折率層形成用組成物であって、
基材/ハードコート層フィルム上に、低屈折率層形成用組成物をバーコーティングし、紫外線照射を行い、塗膜を硬化させて、
LCDなどのディスプレイ(画像表示装置)の前面に設置する反射防止積層体に用いられ、反射防止積層体は、屈折率層において、前記中空粒子及び中実粒子が均一、且つ、密に充填するため、層強度が向上し、耐擦傷性に優れる、
低屈折率層形成用組成物。」

2 対比及び判断
(1)対比
本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)と引用発明を対比すると、以下のとおりとなる。

ア 光重合性化合物
引用発明の「ペンタエリスリトールトリアクリレート」及び「ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート」は、技術的にみて、本願発明の「2種以上の光重合性化合物」に相当する。また、両者は、その分子構造からみて、本願発明の「化学式1で表される化合物以外の他の重合性化合物」に相当する。

イ 光開始剤
引用発明の「イルガキュア127」は、引用発明の「低屈折率層形成用組成物」において、引用文献2の【0100】の記載からみて、いわゆる、光ラジカル重合開始剤として用いられているものであるから、本願発明の「光開始剤」に相当する。

ウ 表面処理された中空状無機ナノ粒子
引用発明の「表面修飾中空シリカ微粒子A」は、「3‐メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシランを5重量%添加し、表面処理され」ており、平均粒径が40nmであるから、本願発明の「表面処理された中空状無機ナノ粒子」に相当する。そして、引用発明の「表面修飾中空シリカ微粒子A」の含有量は、「表面修飾中空シリカ微粒子A(中空シリカ微粒子20重量%のメチルイソブチルケトン):15.0重量部」であり、光重合性化合物である「ペンタエリスリトールトリアクリレート」及び「ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート」の含有量がそれぞれ1.2重量部及び0.4重量部であることから、本願発明の「表面処理された中空状無機ナノ粒子は、その含有量が前記光重合性化合物100重量部に対して150?250重量部」という要件を満たす(当合議体注:上記含有量は、15.0×0.2/(1.2+0.4)×100=187.5重量部と計算される。)。

エ 表面処理されたソリッド状無機ナノ粒子
引用発明の「表面修飾中実シリカ微粒子A」は、「3‐メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシランを5重量%添加し、表面処理され」ており、平均粒径が10nmであるから、本願発明の「表面処理されたソリッド状無機ナノ粒子」に相当する。

オ 低屈折層形成用光硬化性コーティング組成物
引用発明の「低屈折率層形成用組成物」は、「バーコーティングし、紫外線照射を行い、塗膜を硬化させ」ており、本願発明の「低屈折層形成用光硬化性コーティング組成物」に相当する。また、上記アから、引用発明の「低屈折率層形成用組成物」と、本願発明の「低屈折層形成用光硬化性コーティング組成物」とは、「化学式Iで表される化合物以外の他の重合性化合物」を含む点で共通する。

(2) 一致点及び相違点
ア 一致点
本願発明と引用発明は、次の構成で一致する。
「2種以上の光重合性化合物と、
光開始剤と、
表面処理された中空状無機ナノ粒子と、および
表面処理されたソリッド状無機ナノ粒子と、
下記の化学式1で表される化合物以外の他の重合性化合物、
を含み、
前記表面処理された中空状無機ナノ粒子は、その含有量が前記光重合性化合物100重量部に対して150?250重量部である、
低屈折層形成用光硬化性コーティング組成物。
[化学式1]
【化1】

前記化学式1において、
R^(1)は、
【化2】

であり、
前記Xは、水素、炭素数1?6の脂肪族炭化水素由来の1価の残基、炭素数1?6のアルコキシ基、および炭素数1?4のアルコキシカルボニル基のうちのいずれか1つであり、
前記Yは、単一結合、-CO-、または-COO-であり、
R^(2)は、炭素数1?20の脂肪族炭化水素由来の2価の残基であるか、あるいは前記2価の残基の1つ以上の水素がヒドロキシ基、カルボキシル基、またはエポキシ基で置換された2価の残基であるか、あるいは前記2価の残基の1つ以上の-CH_(2)-が酸素原子が直接連結されないように-O-、-CO-O-、-O-CO-、または-O-CO-O-に代替された2価の残基であり、
Aは、水素および炭素数1?6の脂肪族炭化水素由来の1価の残基のうちのいずれか1つであり、
Bは、炭素数1?6の脂肪族炭化水素由来の1価の残基のうちのいずれか1つであり、
nは、0?2の整数である。」

イ 相違点
本願発明と引用発明は、次の点で相違する。
(相違点1)
「光重合性化合物」が、本願発明では、「2種以上の光重合性化合物のうちの1種以上の光重合性化合物は、下記の化学式1で表される化合物であり、
前記化学式1で表される化合物と、前記化学式1で表される化合物以外の他の光重合性化合物は、重量比が0.5:1から1.5:1である:
[化学式1]
【化1】

前記化学式1において、
R^(1)は、
【化2】

であり、
前記Xは、水素、炭素数1?6の脂肪族炭化水素由来の1価の残基、炭素数1?6のアルコキシ基、および炭素数1?4のアルコキシカルボニル基のうちのいずれか1つであり、
前記Yは、単一結合、-CO-、または-COO-であり、
R^(2)は、炭素数1?20の脂肪族炭化水素由来の2価の残基であるか、あるいは前記2価の残基の1つ以上の水素がヒドロキシ基、カルボキシル基、またはエポキシ基で置換された2価の残基であるか、あるいは前記2価の残基の1つ以上の-CH_(2)-が酸素原子が直接連結されないように-O-、-CO-O-、-O-CO-、または-O-CO-O-に代替された2価の残基であり、
Aは、水素および炭素数1?6の脂肪族炭化水素由来の1価の残基のうちのいずれか1つであり、
Bは、炭素数1?6の脂肪族炭化水素由来の1価の残基のうちのいずれか1つであり、
nは、0?2の整数である。」のに対し、引用発明では、「化学式1で表される化合物と、前記化学式1で表される化合物以外の他の光重合性化合物は、重量比が0.5:1から1.5:1であ」るか明らかでない点。

(相違点2)
「表面処理されたソリッド状無機ナノ粒子」の「光重合性化合物100重量部に対」する「含有量」が、本願発明は、「10?50重量部である」のに対して、引用発明は、「10?50重量部である」とはいえない点(当合議体注:引用発明の上記含有量は、0.4×0.2/(1.2+0.4)×100=5.0重量部と見積もられる。)。

(3)判断
事案に鑑みて、上記相違点1について検討する。
ア 引用発明の「低屈折率層形成用組成物」において、「化学式1で表される化合物」(3‐メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン)の含有量は明らかではないところ、引用文献2の段落【0074】には、シリカ粒子表面の修飾に用いるシランカップリング剤の全てがシリカ粒子表面に導入されず、単量体又は縮合体として、電離放射線硬化性樹脂等を含む屈折率層形成用組成物中に存在してもよいことが記載されているものの、その含有割合をどの程度とすればよいかについては記載がない。また、原査定の拒絶の理由で引用文献4及び引用文献5として引用され、本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である、特開2004-170901号公報(以下「引用文献4」という。)の段落【0153】?【0155】、段落【0204】?【0206】及び特開2003-222704号公報(以下「引用文献5」という。)の段落【0103】?【0104】等に記載されているように、「化学式1で表される」シランカップリング剤を低屈折率層に含有させることは、本件優先日前における周知技術であるものの、当該シランカップリング剤と他の光重合性化合物との重量比を0.5:1?1.5:1の範囲内とすることで、「ハードコート層に強く付着し、表面処理された中空状無機ナノ粒子および表面処理されたソリッド状無機ナノ粒子を強く固定することができ、低い反射率を示し、優れた耐スクラッチ性および防汚性を示す低屈折層を提供することができる。」(本件出願の明細書【0035】)ことが、本件優先日前において技術常識であったことを示す証拠はない。
また、次のように考えることもできる。
引用文献2の【0074】の上記記載は、シランカップリング剤がシリカ粒子表面に導入されず、屈折率層形成用組成物中に存在することを許容する記載であると解されるところ、同文献の【0071】には、シリカ粒子へのシランカップリング剤の処理量は、シリカ粒子に対して好ましくは50重量%以下、より好ましくは30重量%以下とすると、「シリカ粒子の処理に使用されなかった遊離のシランカップリング剤の発生を良好に抑制でき、外部衝撃に対する復元性が向上し、割れや傷の発生が抑制される」とも記載されている。
そうすると、引用発明における、シランカップリング剤の上記許容量が、「化学式1で表される化合物と、前記化学式1で表される化合物以外の他の光重合性化合物は、重量比が0.5:1から1.5:1」にまで及ぶと理解することは他に定量的な記載がない以上、困難である。
以上によれば、上記周知技術を心得た当業者が、仮に引用発明に当該周知技術を採用したとしても、相違点1に係る本願発明の構成に容易に想到し得たとはいえない。

イ 以上アのとおりであるから、上記相違点2について判断するまでもなく、本願発明は、当業者が引用発明及び引用文献4?5に記載された周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
また、引用文献2に記載の他の実施例から、引用発明を認定したとしても判断は同様である。

ウ さらに、原査定の拒絶の理由で引用文献1として引用され、本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である特表2009-545651号公報及び原査定の拒絶の理由で引用文献3として引用され、本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である国際公開第2012/147527号(以下「引用文献3」という。)にも、上記相違点1に係る本願発明の構成が記載されていない。
また、引用文献3の段落【0008】及び【0014】には、低屈折率層中の反応性シリカ微粒子を界面近傍に偏在させ、中空状シリカ微粒子は密に充填された状態で含有されることが記載されている。一方で、引用発明の低屈折率層は、上記「第2」「1」「イ」のとおり、中空粒子及び中実粒子を均一に充填しており、引用発明に引用文献3記載の事項を適用することには、阻害要因があるといえる。

(4)請求項2?14に係る発明について
本件出願の請求項2?14に係る発明は、いずれも、本願発明に対してさらに他の発明特定事項を付加した発明であるから、本願発明における全ての発明特定事項を具備するものである。
そうしてみると、前記(3)で述べたのと同じ理由により、これらの発明も、引用文献2に記載された発明及び引用文献1、3?5に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。


第3 むすび
以上のとおり、本件出願の請求項1?14に係る発明は、引用文献2に記載された発明及び引用文献1、3?5に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、原査定の理由によっては、本件出願を拒絶することはできない。
また、他に本件出願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2020-10-29 
出願番号 特願2018-515203(P2018-515203)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G02B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 山▲崎▼ 和子  
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 井口 猶二
神尾 寧
発明の名称 低屈折層形成用光硬化性コーティング組成物  
代理人 龍華国際特許業務法人  

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