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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02K
管理番号 1367671
審判番号 不服2019-8023  
総通号数 252 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-06-17 
確定日 2020-10-27 
事件の表示 特願2014-194849「永久磁石回転子軸組立体および方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 4月13日出願公開、特開2015- 70786〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成26年9月25日(パリ条約による優先権主張:2013年9月26日,欧州特許庁)を出願日とする特許出願であって,その後の手続の概要は,以下のとおりである。
平成30年 8月10日付け 拒絶理由通知書
平成30年11月19日 意見書,手続補正書
平成31年 2月14日付け 拒絶査定
令和 元年 6月17日 拒絶査定不服審判請求書,手続補正書
令和 元年 7月30日 手続補正書(請求の理由)
令和 2年 3月 9日 上申書
なお,以下,令和元年6月17日提出の手続補正書による手続補正を「本件補正」という。

第2 本件補正について
1 本件補正の内容
(1)平成30年11月19日提出の手続補正書により補正された(以下「本件補正前」という。)特許請求の範囲の請求項1?13は,以下のとおりである。
「【請求項1】
長手方向軸線を有する永久磁石円柱コア(101;201)を備え,前記円柱コア(101;201)が第1端軸(102A;202A)および第2端軸(102B;202B)によって軸方向に圧縮され且つ非磁性高強度金属製のスリーブ(104;204)によって半径方向に圧縮される,電気機械用の永久回転子軸組立体であって,
前記第1端軸(102A;202A)および前記第2端軸(102B;202B)のうちの少なくとも一方(102A;202A,202B)が,前記端軸の前記円柱コア(101;201)に面する部分に,前記円柱コア(101;201)の端面の中央部に作られた嵌合中央凹部(106A;206A,206B)と協働する中央ショルダーヘッド(103A;203A,203B)を備え,
前記第1端軸(202A)および前記第2端軸(202B)のそれぞれにおいて,前記端軸の前記円柱コア(201)に面する部分に,中央ショルダーヘッド(203A,203B)が設けられ,前記円柱コア(201)の両端面の中央部のそれぞれに嵌合中央凹部(206A,206B)が設けられ,前記中央ショルダーヘッド(203A,203B)それぞれ前記嵌合中央凹部(206A,206B)に装着される,電気機械用の永久回転子軸組立体。
【請求項2】
前記永久磁石円柱コア(101;201)が,NdFeBrまたはSm2Co17製の希土類磁石を備える,請求項1に記載の永久回転子軸組立体。
【請求項3】
前記スリーブ(104;204)が,インコネル,ハステロイ,Ti-6%Al-6%V-2%Sn,Ti-2.5%Cuの中から選択される非磁性高強度金属製である,請求項1または請求項2に記載の永久回転子軸組立体。
【請求項4】
前記中央ショルダーヘッド(103A;203A,203B)が,締り嵌め式組み立て,滑り継手式組み立てまたは接着式組み立てによって前記嵌合中央凹部(106A;206A,206B)に挿入される,請求項1から3のいずれか一項に記載の永久回転子軸組立体。
【請求項5】
前記第1端軸(102A;202A)および前記第2端軸(102B;202B)ならびに前記スリーブ(104;204)が,溶接,接着または熱収縮によって前記永久磁石円柱コア(101;201)に固定される,請求項1から4のいずれか一項に記載の永久回転子軸組立体。
【請求項6】
前記第1端軸(102A;202A)および前記第2端軸(102B;202B)が,機械軸受け用の円柱状トラック(105A,105B)をさらに備える,請求項1から5のいずれか一項に記載の永久回転子軸組立体。
【請求項7】
前記第1端軸(102A;202A)および前記第2端軸(102B;202B)が,磁石軸受け用の円柱状積層鉄薄板(105A,105B)をさらに備える,請求項1から6のいずれか一項に記載の永久回転子軸組立体。
【請求項8】
機械軸受け用の前記円柱状トラック(105A,105B)が,前記第1端軸(102A;202A)および前記第2端軸(102B;202B)の階段状部分(122A,122B)に位置する,請求項6に記載の永久回転子軸組立体。
【請求項9】
磁石軸受け用の前記円柱状積層鉄薄板(105A,105B)が,前記第1端軸(102A;202A)および前記第2端軸(102B;202B)の階段状部分(122A,122B)に位置する,請求項7に記載の永久回転子軸組立体。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載の永久回転子軸組立体を備えることを特徴とする,最高300m/sの先端速度を有する回転式高速電気機械。
【請求項11】
長手方向軸線を有する永久磁石円柱コア(101;201)を形成するステップと,
前記永久磁石円柱コア(101;201)の一端に第1端軸(102A;202A)を接合するステップと,
前記永久磁石円柱コア(101;201)の他端に第2端軸(102B;202B)を接合するステップと,
前記永久磁石円柱コア(101;201)が前記第1端軸(102A;202A)および前記第2端軸(102B;202B)によって軸方向に圧縮され且つスリーブ(104;204)によって半径方向に圧縮されるように,前記永久磁石円柱コア(101;201)と前記永久磁石円柱コア(101;201)に隣接する前記第1端軸(102A;202A)および前記第2端軸(102B;202B)の部分との周りに,締り嵌め式に非磁性高強度金属製のスリーブ(104;204)を取り付けるステップと,
を備える,電気機械用の永久回転子軸組立体を製造する方法であって,
前記第1端軸(102A;202A)および前記第2端軸(102B;202B)において,前記端軸の前記円柱コア(101;201)に面する部分に,少なくとも1つの中央ショルダーヘッド(103A;203A,203B)を設けるステップと,
前記円柱コア(101;201)の端面の中央部に,前記少なくとも1つの中央ショルダーヘッド(103A;203A,203B)と協働するように適合された少なくとも1つの嵌合中央凹部(106A;206A,206B)を設けるステップと,
前記永久磁石円柱コア(101;201)と前記永久磁石円柱コア(101;201)に隣接する前記第1端軸(102A;202A)および前記第2端軸(102B;202B)の部分との周りに,締り嵌め式に非磁性高強度金属製の前記スリーブ(104;204)を挿入する前に,前記少なくとも1つの中央ショルダーヘッド(103A;203A,203B)を前記少なくとも1つの嵌合中央凹部(106A;206A,206B)に装着するステップと,
をさらに備え,
前記第1端軸(202A)および前記第2端軸(202B)のそれぞれにおいて,前記端軸の前記円柱コア(201)に面する部分に,中央ショルダーヘッド(203A,203B)が設けられ,前記円柱コア(201)の両端面の中央部のそれぞれに嵌合中央凹部(206A,206B)が設けられ,前記永久磁石円柱コア(201)と前記永久磁石円柱コア(201)に隣接する前記第1端軸(202A)および前記第2端軸(202B)の部分との周りに,締り嵌め式に非磁性高強度金属製の前記スリーブ(204)を挿入する前に,前記中央ショルダーヘッド(203A,203B)がそれぞれ前記嵌合中央凹部(206A,206B)に装着されることを特徴とする方法。
【請求項12】
前記中央ショルダーヘッド(203A,203B)が,締り嵌め式組み立て,滑り継手式組み立てまたは接着式組み立てによって嵌合中央凹部(206A,206B)に挿入される,請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記第1端軸(102A;202A)および前記第2端軸(102B;202B)ならびに前記スリーブ(104;204)が,溶接,接着または熱収縮によって前記永久磁石円柱コア(101;201)に固定される,請求項11又は12に記載の方法。」

(2) 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1?11は,以下のとおりである。(下線は,補正箇所である。)
「【請求項1】
長手方向軸線を有する永久磁石円柱コア(101;201)を備え,前記永久磁石円柱コア(101;201)が第1端軸(102A;202A)および第2端軸(102B;202B)によって軸方向に圧縮され且つ非磁性高強度金属製のスリーブ(104;204)によって半径方向に圧縮される,電気機械用の永久回転子軸組立体であって,
前記第1端軸(102A;202A)および前記第2端軸(102B;202B)のうちの少なくとも一方(102A;202A,202B)が,前記端軸の前記永久磁石円柱コア(101;201)に面する部分に,前記永久磁石円柱コア(101;201)の端面の中央部に作られた嵌合中央凹部(106A;206A,206B)と協働する中央ショルダーヘッド(103A;203A,203B)を備え,
前記第1端軸(202A)および前記第2端軸(202B)のそれぞれにおいて,前記端軸の前記永久磁石円柱コア(201)に面する部分に,中央ショルダーヘッド(203A,203B)が設けられ,前記永久磁石円柱コア(201)の両端面の中央部のそれぞれに嵌合中央凹部(206A,206B)が設けられ,前記中央ショルダーヘッド(203A,203B)がそれぞれ前記嵌合中央凹部(206A,206B)に装着されており,
前記第1端軸(102A;202A)および前記第2端軸(102B;202B)ならびに前記スリーブ(104;204)が,溶接,接着または熱収縮によって前記永久磁石円柱コア(101;201)に固定されている,電気機械用の永久回転子軸組立体。
【請求項2】
前記永久磁石円柱コア(101;201)が,NdFeBrまたはSm2Co17製の希土類磁石を備える,請求項1に記載の永久回転子軸組立体。
【請求項3】
前記スリーブ(104;204)が,インコネル,ハステロイ,Ti-6%Al-6%V-2%Sn,Ti-2.5%Cuの中から選択される非磁性高強度金属製である,請求項1または請求項2に記載の永久回転子軸組立体。
【請求項4】
前記中央ショルダーヘッド(103A;203A,203B)が,締り嵌め式組み立て,滑り継手式組み立てまたは接着式組み立てによって前記嵌合中央凹部(106A;206A,206B)に挿入される,請求項1から3のいずれか一項に記載の永久回転子軸組立体。
【請求項5】
前記第1端軸(102A;202A)および前記第2端軸(102B;202B)が,機械軸受け用の円柱状トラック(105A,105B)をさらに備える,請求項1から4のいずれか一項に記載の永久回転子軸組立体。
【請求項6】
前記第1端軸(102A;202A)および前記第2端軸(102B;202B)が,磁石軸受け用の円柱状積層鉄薄板(105A,105B)をさらに備える,請求項1から5のいずれか一項に記載の永久回転子軸組立体。
【請求項7】
機械軸受け用の前記円柱状トラック(105A,105B)が,前記第1端軸(102A;202A)および前記第2端軸(102B;202B)の階段状部分(122A,122B)に位置する,請求項5に記載の永久回転子軸組立体。
【請求項8】
磁石軸受け用の前記円柱状積層鉄薄板(105A,105B)が,前記第1端軸(102A;202A)および前記第2端軸(102B;202B)の階段状部分(122A,122B)に位置する,請求項6に記載の永久回転子軸組立体。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の永久回転子軸組立体を備えることを特徴とする,最高300m/sの先端速度を有する回転式高速電気機械。
【請求項10】
長手方向軸線を有する永久磁石円柱コア(101;201)を形成するステップと,前記永久磁石円柱コア(101;201)の一端に第1端軸(102A;202A)を接合するステップと,
前記永久磁石円柱コア(101;201)の他端に第2端軸(102B;202B)を接合するステップと,
前記永久磁石円柱コア(101;201)が前記第1端軸(102A;202A)および前記第2端軸(102B;202B)によって軸方向に圧縮され且つスリーブ(104;204)によって半径方向に圧縮されるように,前記永久磁石円柱コア(101;201)と前記永久磁石円柱コア(101;201)に隣接する前記第1端軸(102A;202A)および前記第2端軸(102B;202B)の部分との周りに,締り嵌め式に非磁性高強度金属製のスリーブ(104;204)を取り付けるステップと,
を備える,電気機械用の永久回転子軸組立体を製造する方法であって,
前記第1端軸(102A;202A)および前記第2端軸(102B;202B)において,前記端軸の前記永久磁石円柱コア(101;201)に面する部分に,少なくとも1つの中央ショルダーヘッド(103A;203A,203B)を設けるステップと,
前記永久磁石円柱コア(101;201)の端面の中央部に,前記少なくとも1つの中央ショルダーヘッド(103A;203A,203B)と協働するように適合された少なくとも1つの嵌合中央凹部(106A;206A,206B)を設けるステップと,
前記永久磁石円柱コア(101;201)と前記永久磁石円柱コア(101;201)に隣接する前記第1端軸(102A;202A)および前記第2端軸(102B;202B)の部分との周りに,締り嵌め式に非磁性高強度金属製の前記スリーブ(104;204)を挿入する前に,前記少なくとも1つの中央ショルダーヘッド(103A;203A,203B)を前記少なくとも1つの嵌合中央凹部(106A;206A,206B)に装着するステップと,
をさらに備え,
前記第1端軸(202A)および前記第2端軸(202B)のそれぞれにおいて,前記端軸の前記永久磁石円柱コア(201)に面する部分に,中央ショルダーヘッド(203A,203B)が設けられ,前記永久磁石円柱コア(201)の両端面の中央部のそれぞれに嵌合中央凹部(206A,206B)が設けられ,前記永久磁石円柱コア(201)と前記永久磁石円柱コア(201)に隣接する前記第1端軸(202A)および前記第2端軸(202B)の部分との周りに,締り嵌め式に非磁性高強度金属製の前記スリーブ(204)を挿入する前に,前記中央ショルダーヘッド(203A,203B)がそれぞれ前記嵌合中央凹部(206A,206B)に装着され,
前記第1端軸(102A;202A)および前記第2端軸(102B;202B)ならびに前記スリーブ(104;204)が,溶接,接着または熱収縮によって前記永久磁石円柱コア(101;201)に固定される,ことを特徴とする方法。
【請求項11】
前記中央ショルダーヘッド(203A,203B)が,締り嵌め式組み立て,滑り継手式組み立てまたは接着式組み立てによって嵌合中央凹部(206A,206B)に挿入される,請求項10に記載の方法。」

2 補正の適否について
(1) 本件補正後の請求項1?9について
本件補正は,本件補正前の特許請求の範囲について補正しようとするものであるところ,本件補正前の請求項5は,本件補正前の請求項1?4の記載を引用して記載されたものである(前記(1))。
そして,本件補正後の請求項1についてみると,本件補正前の請求項1に記載された事項に本件補正前の請求項5に記載された事項を付加したものと認められるから,本件補正前の請求項5のうち,本件補正前の請求項1を引用したものに相当するといえ,同様に,本件補正後の請求項2?4は,それぞれ,本件補正前の請求項5のうち,本件補正前の請求項2?4を引用したものに相当するといえる(前記1(1),(2))。
したがって,本件補正前の請求項5に係る発明と,本件補正後の請求項1?4に係る発明は,発明として相違するところがない。
そうしてみると,本件補正は,本件補正前の請求項1?4を削除して,本件補正前の請求項5を本件補正後の請求項1?4にし,それに合わせて,本件補正前の請求項6?10について引用する請求項を整合させた上で本件補正後の請求項5?9にしたものと認められる。
(2) 本件補正後の請求項10,11について
本件補正前の請求項13は,本件補正前の請求項11又は12を引用して記載されたものである(前記(1))。
そして,本件補正後の請求項10についてみるに,本件補正前の請求項11に記載された事項に本件補正前の請求項13に記載された事項を付加したものと認められるから,本件補正前の請求項13のうち,本件補正前の請求項11を引用したものに相当するといえ,同様に,本件補正後の請求項11は,本件補正前の請求項13のうち,本件補正前の請求項12を引用したものに相当するといえる(前記1(1),(2))。
したがって,本件補正前の請求項13に係る発明と,本件補正後の請求項10,11は,発明として相違するところがない(前記(1),(2))。
そうしてみると,本件補正は,本件補正前の請求項11,12を削除して,本件補正前の請求項13を本件補正後の請求項10,11としたものと認められる。
(3) 以上のとおりであるから,本件補正は,特許法17条の2第5項1号に掲げる,同法36条5項に規定する請求項の削除を目的とする補正である
したがって,請求項1?11に係る本件補正は適法になされたものである。

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,本件補正前の請求項5に係る発明(本件補正後の請求項1?4に係る発明)は,本願の優先権主張の日前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明,引用文献2に記載された事項及び周知の技術(引用文献6)に基いて,その優先権主張の日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
(引用文献)
1 実願昭60-137008号(実開昭62-119182号)のマイクロフィルム
2 米国特許第7042118号明細書
3 特開2006-238604号公報
4 特開2009-72036号公報
5 米国特許出願公開第2004/0189126号明細書
6 米国特許第5121020号明細書

第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献1
(1) 引用文献1には,以下の事項が記載されている(行数は空白行を除く。下線は当審にて付与した。以下同様。)。
・「2.実用新案登録請求の範囲
(1) 界磁鉄心に巻装したコイルに電流を流すと永久磁石からなるロータが回転するブラシレモータにおいて,一端面に回転軸を突設した保持体が円柱状のロータの両端面に一体に取り付けられていることを特徴とするブラシレスモータ。
(2) 前記保持体は前記円柱状のロータの両端にそれぞれ接着されることを特徴とする実用案登録請求の範囲第(1)項記載のブラシレスモータ。
(3) 前記保持体は,前記円柱状のロータと共にスリーブに挿入した前記保持体の端面に前記スリーブの両端部をそれぞれかしめ付けることにより,前記ロータの両端面に一体に取り付けられることを特徴とする実用新案登録請求の範囲第(1)項記載のブラシレスモータ。
(4) 前記円柱状のロータ及び前記保持体は,互いに嵌合する突起及び凹みをそれぞれの接合面に設けたことを特徴とする実用新案登録請求の範囲第(1)項記載のブラシレスモータ。」(1頁3行?2頁3行)
・「第1図は本考案の一実施例の構成を示すもので,第5図の符号と同一符号のものは同一部分を示しており,又,9は永久磁石からなる円柱状のロータ,10は一端面に回転軸11を突設した保持体で,この保持体10の他端面はロータ9の両端面にそれぞれ接着される。
このように構成された本実施例では,軸受5を介して回転軸11をモータケース1に回転自在に装着すれば,コイル2に電流が流れるとロータ9と共に回転軸11が回転する。
第2図は本考案の他の実施例の構成を示すもので,第1図及び第5図の符号と同一符号のものは同一部分を示しており,又,12は円柱状のロータ9及び保持体10を挿入するスリーブで,このスリーブ12の両端部をロータ9と共にスリーブ12に挿入した保持体10の一端面にかしめ付けることにより,ロータ9の両端に保持体10を一体に取り付ける。
このように構成された本実施例では,軸受5を介して回転軸11をモータケース1に回転自在に装着すれば,コイル2に電流が流れるとロータ9と共に回転軸11が回転する。
第3図は本考案の更に他の実施例の構成を示すもので,第1図及び第5図の符号と同一符号のものは同一部分を示しており,又,13はロータ9の一端面の中心線上に突設した突起,14はロータ9の他端而の中心線上に凹設した凹み,15は保持体10の他端面の中心線上に凹設した凹み,16は保持体10の他端面の中心線上に突設した突起である。
このように構成された本実施例では,突起13を凹み15に,突起16を凹み14にそれぞれ嵌合させてロータ9の両端に保持体10を接着したり,ロータ9及び保持体10が密接するようにして両者をスリーブ12の中にかしめ付けた上,軸受5を介して回転軸11をモータケース1に回転自在に装着すれば,コイル2に電流が流れるとロータ9と共に回転軸11が回転する。」(4頁3行?5行頁下から2行)
・「以上説明したように,本考案によれば,ロータに回転軸貫通用の孔が穿設されていないため,ロータにおける磁気抵抗が低下して,ロータを小さくすることができると共に,他の部品も小さくできるので,ブラシレスモータ全体を小型,軽量化できる効果がある。又,ロータ及び保持体をスリーブの中に収納することにより,ロータが破壊されたときにその破片によって他の部品が破壊されるのを防止できる効果がある。更に,ロータ及び保持体接合面にそれぞれ互いに嵌合する突起及び凹みを設けることにより,軸合せの手間が省けると共に,接着面に働く力を軽減して,ロータの寿命を長くすることができる。」(6頁下から2行?7頁下から9行)
(2) 引用発明
上記記載及び図面からすると,引用文献1には,第3図の実施例に関し,永久磁石からなる円柱状のロータ9,一端面に回転軸11が突設された保持体10,スリーブ12より構成された,ブラシレスモータの回転子に係る発明が記載されていることがわかる。
そうすると,引用文献1には,以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
(引用発明)
「中心線を有する永久磁石からなる円柱状のロータ9と,一端面に回転軸11を突設し,前記ロータ9の両端面に一体に取り付けられる二つの保持体10を備え,前記ロータ9と前記保持体10が密接するようにしてスリーブ12に挿入し,前記保持体10の端面に前記スリーブ12の両端部をそれぞれかしめ付けることにより,前記ロータ9の両端に二つの前記保持体10を一体に取り付けた,ブラシレスモータの回転子であって,
前記保持体10のうちの一方が,前記ロータ9に面する部分に,前記ロータ9の一方の端面の中心線上に凹設した凹み14に嵌合する,中心線上に突設した突起16を備え,
前記保持体10のうちの他方が,前記ロータ9に面する部分に,前記ロータ9の他方の端面の中心線上に突設した突起13が嵌合する,中心線上に凹設した凹み15を備え,
前記突起13を前記凹み15に,前記突起16を前記凹み14にそれぞれ嵌合させる,ブラシレスモータの回転子。」

2 引用文献2
引用文献2には,以下の事項が記載されている(訳は当審による。)。
・「The present inventionprovides an improved construction method and arrangement for a permanent magnetrotor for use in high-speed generators and motors. 」(1欄27?29行)
(本発明は,高速の電動機または発電機として使用される永久磁石ロータのための改良された方法及び装置を提供する。)
・「A high strengthnon-magnetic steel sleeve is interference fit over both the magnets and the endstubs to provide a mechanical link from stub tostub, and provide the necessary rotor stiffness for dynamic performance.」(1欄41?45行)
(高強度非磁性鋼スリーブは,スタブからスタブへの機械的リンクを提供し,動的性能に必要なロータ剛性を提供するために,磁石及びエンドスタブの両方の上に締まり嵌めされている。)
・「The threaded ends 7 of the guide rod 3 are used to secure the magnetrod assembly onto each of the stub shafts, facing up against the magnet endsand putting the magnet in compression axially. Clearances 10 aredesigned into the assembly so the magnet 2 face seats against the end stub 5axially on surface 9. This insures the magnet 2 is in compression atassembly and no gap between end stub 5 and magnet 2 is present.」(2欄下から25行?下から17行)
(ガイドロッド3のネジ付き端部7は,磁石の端部に対して面し,軸方向に磁石を圧縮状態に置くように,磁石ロッド組立体を各スタブシャフトの上に固定するために使用される。隙間10は,磁石2の面が表面9上のエンドスタブ5に軸方向に着座するようにアセンブリ内に設計される。これにより,磁石2が組立時に圧縮状態にあり,スタブ5と磁石2との間に隙間は生じないことが保証される。)
・「A sleeve 6 is then assembled over the magnet 2 and the end stubs 4and 5. Due to the high interference fit between the sleeve 6 and the magnet2 and end stubs 4 and 5, assembly can be accomplished by heating thesleeve 6 to a high temperature so that it increases in diameter and coolingthe remaining subassembly to shrink its diameter to provide a clearance betweenthe sleeve 6 and rotor subassembly. The full shrink fit is accomplishedafter the sleeve and the remaining subassembly equalize in temperature.」(2欄下から9行?末行)
(次に,スリーブ6が磁石2とエンドスタブ4,5の上に組み付けられる。スリーブ6と磁石2とエンドスタブ4及び5との間の高い締まり嵌めのために,スリーブ6とロータサブアッセンブリーとの間に隙間を設けるように,スリーブ6を高温に加熱し直径を増加させ,残りのサブアッセンブリーを冷却してその直径を収縮させることによって,組立を達成することができる。完全な焼き嵌めは,スリーブと残りのサブアッセンブリーの温度が等しくなった後に達成される。)

3 引用文献6
引用文献6には,以下の事項が記載されている(訳は当審による。)。
・「FIG. 1 shows a rotorcylinder, which constitutes the principal part of a rotor of an electricalmachine, in particular a multi-phase or single-phase synchronous motor. Therotor cylinder 1 is made of a ceramic permanent-magnet material which is firedafter compression-moulding. The rotor cylinder has recesses 4 in its end faces3.」(2欄下から17行?下から11行)
(第1図は電動機,特に多相又は単相同期電動機の回転子の要部を構成する回転子円筒を示す。この回転子円筒1は加圧モールディングの後に焼成された陶磁器永久磁石材料で作られる。この回転子円筒はその端面3に窪み4を有する。)
・「The rotor cylindershown in FIGS. 1 and 2 is completed to form a rotor in that the end faces 3 areprovided with moulded-on plastic elements 5. The plastic material attaches tothe cylinder end faces 3 and also fills the recesses 4, 4a during moulding.This stabilizes the connection between the moulded-on plastic elements 5 andthe end faces 3.」(3欄3?9行)
(第1,2図に示された回転円筒は,端面3がモールドされたプラスチック素子5を備えることによって回転子の形成を完了する。プラスチック材料が円筒端面3へ付着し,モールディングの間に窪み4,4aをも満たす。これがモールディングされたプラスチック素子5と端面3との間の結合を安定化する。)

第5 対比
1 本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)と引用発明を,その有する機能に照らして対比すると,「中心線を有する永久磁石からなる円柱状のロータ9」,「二つの保持体10」,「スリーブ12」,「ブラシレスモータの回転子」は,それぞれ,本件補正発明の「長手方向軸線を有する永久磁石円柱コア(101;201)」,「第1端軸(102A;202A)および第2端軸(102B;202B)」,「スリーブ(104;204)」,「電気機械用の永久回転子軸組立体」に相当する。
引用発明は,「前記ロータ9と前記保持体10が密接するようにしてスリーブ12に挿入し,前記保持体10の端面に前記スリーブ12の両端部をそれぞれかしめ付けることにより,前記ロータ9の両端に二つの前記保持体10を一体に取り付けた」ものであるから,本件補正発明と,「長手方向軸線を有する永久磁石円柱コア(101;201)を備え」,「前記永久磁石円柱コア(101;201)が第1端軸(102A;202A)および第2端軸(102B;202B)」と「軸方向に」接触し且つ「スリーブ(104;204)」と「半径方向に」接触する,「電気機械用の永久回転子軸組立体」である点で軌を一にするものである。

2 引用発明は,「前記保持体10のうちの一方」が,「前記ロータ9に面する部分に,前記ロータ9の一方の端面の中心線上に凹設した凹み14に嵌合する,中心線上に突設した突起16」を備えるものである。当該「中心線上に凹設した凹み14」,「中心線上に突設した突起16」は,それぞれ,本件補正発明の「嵌合中央凹部(106A;206A,206B)」,「中央ショルダーヘッド(103A;203A,203B)」に相当し,引用発明は,本件補正発明と同様に,「前記第1端軸(102A;202A)および前記第2端軸(102B;202B)のうちの少なくとも一方(102A;202A,202B)」が,「前記端軸の前記永久磁石円柱コア(101;201)に面する部分に,前記永久磁石円柱コア(101;201)の端面の中央部に作られた嵌合中央凹部(106A;206A,206B)と協働する中央ショルダーヘッド(103A;203A,203B)」を備えるものであるといえる。

3 そうすると,本件補正発明と引用発明とは,以下の点で一致し,相違する。
(一致点)
「長手方向軸線を有する永久磁石円柱コアを備え,前記永久磁石円柱コアが第1端軸および第2端軸と軸方向に接触し且つスリーブと半径方向に接触する,電気機械用の永久回転子軸組立体であって,
前記第1端軸および前記第2端軸のうちの少なくとも一方が,前記端軸の前記永久磁石円柱コアに面する部分に,前記永久磁石円柱コアの端面の中央部に作られた嵌合中央凹部と協働する中央ショルダーヘッドを備える,電気機械用の永久回転子軸組立体。」
(相違点1)
本件補正発明は,「スリーブ」として「非磁性高強度金属製のスリーブ(104;204)」を備えるのに対し,引用発明においては,「スリーブ12」が非磁性高強度金属製であるか明らかでない点。
(相違点2)
本件補正発明は,「前記永久磁石円柱コア(101;201)が第1端軸(102A;202A)および第2端軸(102B;202B)によって軸方向に圧縮され且つ非磁性高強度金属製のスリーブ(104;204)によって半径方向に圧縮される」ものであって,「前記第1端軸(202A)および前記第2端軸(202B)のそれぞれにおいて,前記端軸の前記永久磁石円柱コア(201)に面する部分に,中央ショルダーヘッド(203A,203B)が設けられ,前記永久磁石円柱コア(201)の両端面の中央部のそれぞれに嵌合中央凹部(206A,206B)が設けられ,前記中央ショルダーヘッド(203A,203B)がそれぞれ前記嵌合中央凹部(206A,206B)に装着されており」,「前記第1端軸(102A;202A)および前記第2端軸(102B;202B)ならびに前記スリーブ(104;204)が,溶接,接着または熱収縮によって前記永久磁石円柱コア(101;201)に固定されている」のに対し,引用発明においては,「前記ロータ9と前記保持体10が密接するようにしてスリーブ12に挿入し,前記保持体10の端面に前記スリーブ12の両端部をそれぞれかしめ付けることにより,前記ロータ9の両端に二つの前記保持体10を一体に取り付けた」ものであって,「前記保持体10のうちの一方が,前記ロータ9に面する部分に,前記ロータ9の一方の端面の中心線上に凹設した凹み14に嵌合する,中心線上に突設した突起16を備え(る)」ものの,「前記保持体10のうちの他方が,前記ロータ9に面する部分に,前記ロータ9の他方の端面の中心線上に突設した突起13が嵌合する,中心線上に凹設した凹み15を備え(る)」点。

第6 判断
1 相違点1について
永久磁石回転子に設けるスリーブは,内部の永久磁石が回転時に移動しないために慣用されているものである。スリーブ自身が回転時に変形すると固定子にぶつかるため、高強度のものが用いられるものであり,スリーブは磁石の外周を覆うものであるところ,磁性体であれば磁気シールドになるため,非磁性体製とされるものである。
このようなスリーブに関し,引用文献2には,永久磁石ロータのスリーブとして,高強度非磁性鋼スリーブを用いる点が記載されている(前記第4・2)。
引用発明においても,スリーブ12が非磁性材料よりなることは,その機能に照らして明らかであるし,保持体10の端面にスリーブ12の両端部をそれぞれかしめ付けることからすると,金属材料からなることも窺える。
そして,ロータ及び保持体をスリーブの中に収納することにより,ロータが破壊されたときにその破片によって他の部品が破壊されるのを防止できる効果がある(前記第4・1)ことからすると,スリーブ12は高い強度を備えているものと認められる。
このように,引用文献1には,非磁性高強度金属製のスリーブを採用することの示唆が十分に認められる。
そうすると,引用発明に引用文献2に記載された事項を適用し,スリーブ12として,非磁性高強度金属製のスリーブを採用することは,当業者が適宜になし得ることである。

2 相違点2について
(1) 引用文献2には,高速の電動機または発電機として使用される永久磁石ロータに関し,高強度非磁性鋼スリーブが磁石及びエンドスタブの上に締まり嵌めされていること,磁石2が組立時に軸方向に圧縮状態にあることが記載されている(前記第4・2)。
このように,引用文献2には,永久磁石円柱コア(磁石2)が第1端軸および第2端軸(エンドスタブ4及び5)によって軸方向に圧縮され且つスリーブ(スリーブ6)によって半径方向に圧縮される,電気機械用の永久回転子軸組立体(高速の電動機または発電機として使用される永久磁石ロータ)が記載されている。
そして,引用発明において,ロータ9,保持体10,スリーブ12を適宜の状態で一体化しなければならないことは,技術的に明らかであるから,引用文献2に記載された上記の点を引用発明に適用し,ロータ9が二つの保持体10によって軸方向に圧縮され,スリーブ12によって半径方向に圧縮されるように,構成することは,当業者にとって格別困難なことではない。
(2) 引用文献1の記載によれば,ロータ及び保持体接合面にそれぞれ互いに嵌合する突起及び凹みを設けることにより,軸合せの手間が省けると共に,接着面に働く力を軽減して,ロータの寿命を長くすることができるものである(前記第4・1)。
そして,こうした機能は,ロータ及び保持体接合面のいずれの側に突起及び凹みを設けた場合においても発揮されることは技術的に明らかであって,ロータ及び保持体接合面のいずれの側に突起及び凹みを設けるかは,当業者が適宜に選択し得る事項である。
この点は,引用文献6に開示された事項(回転円筒1の両方の端面3に設けられた窪み4と,当該窪み4にモールドされたプラスチック素子5とからなる構造により,プラスチック素子5と端面3との間の結合を安定化させる点)が,周知の技術であることからも窺い知ることができる。
そうすると,引用発明において,二つの保持体10のそれぞれにおいて,保持体10のロータ9に面する部分に,中心線上に突設した突起が設けられ,ロータ9の両端面の中心線上に凹設した凹みが設けられ,前記突起がそれぞれ前記凹みに装着されるように構成することは,当業者が容易に想到できた事項である。
(3) 引用文献2には,高速の電動機または発電機として使用される永久磁石ロータに関し,スリーブ6と磁石2とエンドスタブ4及び5との間の高い締まり嵌めのために,スリーブ6とロータサブアッセンブリーとの間に隙間を設けるように,スリーブ6を高温に加熱し直径を増加させ,残りのサブアッセンブリーを冷却してその直径を収縮させることによって,組立を達成することができること,完全な焼き嵌めは,スリーブと残りのサブアッセンブリーの温度が等しくなった後に達成されることが記載されている(前記第4・2)。
このように,引用文献2には,電気機械用の永久回転子軸組立体(高速の電動機または発電機として使用される永久磁石ロータ)において,磁石2,エンドスタブ4,5,スリーブ6を熱収縮によって,組み付ける点が記載されている。
また,引用文献1には,保持体10をロータ9の端面に接着する点も記載されており(前記第4・1),溶接は慣用手段である。
そして,引用発明において,ロータ9,保持体10,スリーブ12を一体化するに当たり,適宜の手法を採用し得ることは,技術的に明らかである。
そうすると,引用発明において,二つの保持体10及びスリーブ12が,溶接,接着又は熱収縮によってロータ9に固定されているようにすることは,当業者が適宜になし得た事項である。
(4) したがって,引用発明において,相違点2に係る本件補正発明の構成とすることは,当業者が容易に想到できた事項である。

3 相違点1,2を総合的に勘案しても,本件補正発明の奏する効果は,引用発明,引用文献1,2に記載された事項及び周知の技術から当業者が予測の範囲内のものであって,格別ではない。

4 請求人の主張について
(1) 請求人は,審判請求書において,概ね,以下のように主張している。
・本件補正発明の主な特徴は,「前記第1端軸(202A)および前記第2端軸(202B)のそれぞれにおいて,前記端軸の前記永久磁石円柱コア(201)に面する部分に,中央ショルダーヘッド(203A,203B)が設けられ,前記永久磁石円柱コア(201)の両端面の中央部のそれぞれに嵌合中央凹部(206A,206B)が設けられ,前記中央ショルダーヘッド(203A,203B)がそれぞれ前記嵌合中央凹部(206A,206B)に装着されており,」という構成要件Aと,「前記第1端軸(102A;202A)および前記第2端軸(102B;202B)ならびに前記スリーブ(104;204)が,溶接,接着または熱収縮によって前記永久磁石円柱コア(101;201)に固定されている」という構成要件Bとを組合せたことにある。
・本件補正発明の構成要件Aは,永久磁石円柱コア(201)が本願の図2,3に示されるような完全に対称的な構成を有していることを意味するが,引用文献1,2には,完全に対称的な構成が開示・示唆されていない。
・引用文献6に記載のものは,円筒面(9)が陶磁器永久磁石材料で作られた円筒面に限定され,プラスチック素子(5)がプラスチック材料で作られた素子に限定されるが,引用文献1に記載のシャフト(10)はプラスチック材料で作られたものであることを必須の構成要件としないから,引用文献6に記載された発明を引用発明に組合せるための動機付けはない。しかも,引用文献6に記載された発明のプラスチック素子(5)は円筒面(9)に,本件補正発明のような溶接,接着または熱収縮によって固定されたものではない。
・したがって,引用文献1,2,6には,本件補正発明の構成要件Aと構成要件Bとの組合せが開示・示唆されていない。引用文献3?5にも開示・示唆されていない。
しかしながら,すでに述べたように,引用発明に係るロータ及び保持体接合面の突起及び凹みの機能は,ロータ及び保持体接合面のいずれの側に突起及び凹みを設けた場合においても発揮されることは技術的に明らかで,ロータ及び保持体接合面のいずれの側に突起及び凹みを設けるかは当業者が適宜に選択し得る事項である。
本願明細書には永久磁石円柱コア(201)について「完全に対称的な構成」を有することに関し特段記載はなく,明細書の記載に基づく主張とは認められないが,本件補正発明が,本願の図2,3に示されるような,永久磁石円柱コア(201)の両端面の中央部のそれぞれに嵌合中央凹部(206A,206B)が設けられる構成を有することと解しても,引用文献1には,そうした構成が示唆されているといえる。
なお,引用文献6に開示された構造によりプラスチック素子5と端面3との間の結合を安定化させる点は,円筒面,素子の材料によらず参考になるものであって,このような周知の技術は,引用発明において完全に対称的な構成とする上での示唆となるものである。
そして,引用文献2には構成要件Bに係る事項が記載されているところ,すでに述べたように,引用発明において,ロータ9,保持体10,スリーブ12を一体化するに当たり,適宜の手法を採用し得ることは技術的に明らかであるから,引用発明において,構成要件Aと構成要件Bとを組み合わせる動機付けは認められる。
(2) また,請求人は上申書において補正案を示した上で,引用文献には,構成要件Aと請求項1に記載の「スリーブ」との組み合わせにより特定される「完全に対称的な構成」に関する開示も示唆もないと主張している。
しかしながら,補正案を考慮しても,引用文献1には,構成要件Aと請求項1に記載の「スリーブ」とに特定される「完全に対称的な構成」(本願の図2,3に示されるような,永久磁石円柱コア(201)の両端面の中央部のそれぞれに嵌合中央凹部(206A,206B)が設けられる構成)が示唆されているといえるもので,引用発明において「完全に対称的な構成」とすることは,当業者にとって格別困難なことではない。
(3) 以上のとおり,請求人の主張は採用することができない。

5 以上を総合すると,本件補正発明は,引用発明,引用文献2に記載された事項及び周知の技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

第7 むすび
以上のとおり,本件補正発明(請求項1に係る発明)は,引用発明,引用文献2に記載された事項及び周知の技術に基いて,その優先権主張の日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。

 
別掲
 
審理終結日 2020-05-27 
結審通知日 2020-06-01 
審決日 2020-06-12 
出願番号 特願2014-194849(P2014-194849)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H02K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 樋口 幸太郎尾家 英樹  
特許庁審判長 堀川 一郎
特許庁審判官 佐々木 芳枝
窪田 治彦
発明の名称 永久磁石回転子軸組立体および方法  
代理人 実広 信哉  
代理人 村山 靖彦  

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