• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1367673
審判番号 不服2019-10552  
総通号数 252 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-08-08 
確定日 2020-10-27 
事件の表示 特願2017-529289「高パワー密度の用途において低い熱バリア抵抗を有するダイヤモンド部品のためのボンディング方式」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 6月 9日国際公開、WO2016/087243、平成30年 1月18日国内公表、特表2018-501649〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2015年11月23日(パリ条約に基づく優先権主張外国庁受理 2014年12月1日 英国(GB))を国際出願日とする出願であって、平成29年6月1日付けで手続補正がなされ、平成30年3月8日付け拒絶理由通知に対する応答時、同年8月17日付けで手続補正がなされ、同年10月5日付け拒絶理由通知に対する応答時、平成31年2月25日付けで手続補正がなされたが、同年4月4日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、令和1年8月8日付けで拒絶査定不服審判の請求及び手続補正がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1ないし12に係る発明は、令和1年8月8日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。
「【請求項1】
半導体部品;
ダイヤモンドヒートスプレッダ;及び
金属結合部
を含み、
前記ダイヤモンドヒートスプレッダが、20cm^(-1)以下のラマン半値全幅(FWHM)ピーク幅を有し、
前記半導体部品が、前記金属結合部を介して前記ダイヤモンドヒートスプレッダに結合され、
前記金属結合部が、前記ダイヤモンドヒートスプレッダに結合されたクロムの層、および前記クロムの層と前記半導体部品との間に配置されたさらなる金属層を含み、
前記半導体部品が、少なくとも1kW/cm^(2)の面積パワー密度および/または少なくとも1W/mmの線パワー密度で動作するように構成される、半導体デバイス。」

なお、令和1年8月8日付け手続補正による特許請求の範囲の補正は、請求項12について、「・・その欠如有する・・」とあったものを、「・・その欠如を有する・・」と補正するものであり、特許法第17条の2第5項第3号に掲げる「誤記の訂正」を目的とするものである。

3.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された特開平9-186276号公報(以下、「引用例」という。)には、「ダイヤモンドヒートシンク」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
(1)「【請求項1】 ダイヤモンドを含み、少なくとも上下2面に金属化処理が施された表面を有するダイヤモンドヒートシンクにおいて、
ダイヤモンド多結晶体の上下2面に金属膜が形成されており、前記上下2面の少なくとも一方に形成された前記金属膜は、前記ダイヤモンド多結晶体の露出された表面によって囲まれていることを特徴とする、ダイヤモンドヒートシンク。
・・・・・(中 略)・・・・・
【請求項3】 前記金属膜は複数の金属層を含むことを特徴とする、請求項2に記載のダイヤモンドヒートシンク。」

(2)「【0002】
【従来の技術】ヒートシンク(放熱器)は、半導体レーザダイオード、LED(発光ダイオード)、半導体高周波素子などのデバイスの動作時に発生する熱を効率よく放散させるために用いられる。このヒートシンクの材料は、使用するデバイスの発熱量によって選択される。ダイヤモンドは、熱伝導率が非常に高いという特性がある。そのため、発熱の量の多いデバイス、たとえば、高出力半導体レーザ(通信用、光メモリ溶離、固体レーザ励起用)の放熱部材としてダイヤモンドを用いた、ダイヤモンドヒートシンクが用いられている。現状では、このダイヤモンドヒートシンクには、天然もしくは合成の単結晶ダイヤモンドおよび気相合成法により合成された多結晶ダイヤモンドが主に用いられている。」

(3)「【0023】また、金属膜は複数の金属層を含むものであることが好ましい。このように構成されたダイヤモンドヒートシンクにおいては、ダイヤモンドに接する金属層をダイヤモンドと接合性のよい金属を用いることが好ましい。ここでダイヤモンドと接合性の良い金属とは、Ti(チタン)、Cr(クロム)、W(タングステン)およびNi(ニッケル)からなる群より選ばれた少なくとも一種を含む金属であることが好ましい。さらに、半導体レーザに接する金属層を熱伝導性がよく、さらにろう付け性がよい金属を用いることが好ましい。ここで、熱伝導性がよく、さらにろう付け性が良い金属とは、Pt(白金)、Pb(鉛)、Ni(ニッケル)、Mo(モリブデン)、Au(金)、Ag(銀)、Cu(銅)、Sn(スズ)、In(インジウム)およびGe(ゲルマニウム)からなる群より選ばれた少なくとも一種を含む金属であることが好ましい。そのため、半導体レーザとダイヤモンドとの接合を確実なものとすることができる。その結果、半導体レーザから発生する熱を十分に放散することができる。」

(4)「【0034】
【発明の実施の形態】図1は、本発明におけるダイヤモンドヒートシンクの製造方法を示す工程図である。
【0035】図1を参照して、本発明のダイヤモンドヒートシンクの第1の製造方法について説明する。まず、多結晶体のダイヤモンドは気相法などにより製造され、平板状に加工される(ステップ20)。気相法により製造された表面は、結晶成長面が露出しているので、かなりの凹凸があるので、研磨またはラッピング仕上げして表面粗さ(以下、Rmaxとする)1μm以下、好ましくはRmaxが0.2μm以下の表面に仕上げる。こうすることで、半導体レーザとヒートシンクの支持体との密着性が向上し、かつ熱伝導性を高めることができる。・・・・・(以下、略)」

(5)「【0041】図6は、本発明のダイヤモンドヒートシンクを詳細に示す斜視図である。図6を参照して、ダイヤモンドヒートシンク5は、ダイヤモンド多結晶体6と金属膜7、8とを備えている。ダイヤモンド多結晶体6の上下面に金属膜7、8が設けられている。・・・・・(以下、略)」

(6)「【0042】図7はダイヤモンドヒートシンク5に半導体レーザ10を搭載した場合の上面図の一例である。図7を参照して、ダイヤモンド多結晶体6の上に金属膜8が設けられている。金属膜8の上に半導体レーザ10が設けられている。半導体レーザ10と金属膜8とは図中斜線で示すろう付け部分11によって接続されている。半導体レーザ10は、一般にダイヤモンド多結晶体6の側面の上端を基準に位置決めされるので、このろう付け部分の面積は幅W1 によって主に決定される。そのため幅W1 が100μm以下であれば、ろう付け部分11の面積を十分に確保することができ、半導体レーザ10とダイヤモンドヒートシンク5との接続を確実なものとすることができる。また、半導体レーザ10とダイヤモンドヒートシンク5との接続が確実なものであり、かつろう付け部分11の面積を十分に確保できれば、半導体レーザ10から発生した熱を確実に放散することができる。・・・・・(以下、略)」

・上記引用例に記載の「ダイヤモンドヒートシンク」は、上記(1)の【請求項1】、(5)の記載事項、及び図6によれば、ダイヤモンド多結晶体6の上下2面に金属膜7、8が形成されてなるダイヤモンドヒートシンク5に関するものである。
・上記(2)、(4)の記載事項によれば、ダイヤモンド多結晶体6は、例えば気相法により製造されるものである。
・上記(2)?(4)、(6)の記載事項、及び図7によれば、ダイヤモンド多結晶体6の上面に形成された金属膜8上には半導体レーザ10がろう付けによって接続(接合)されてなるものであり、特に(2)の従来の技術に関する記載を参照すると、半導体レーザ10は、発熱の量の多い高出力半導体レーザであると解される。
・上記(1)の【請求項3】、(3)の記載事項によれば、金属膜8は、複数の金属層を含み、ダイヤモンドに接する金属層をダイヤモンドと接合性のよい金属、例えばCr(クロム)などの金属が好ましく、さらに、半導体レーザに接する金属層を熱伝導性がよく、さらにろう付け性がよい金属、例えばAu(金)、Ag(銀)といった金属が好ましいものである。

したがって、ダイヤモンドに接する金属層が、ダイヤモンドと接合性のよい金属として好ましいものとして例示されたCr(クロム)を用いてなるものに着目するとともに、ダイヤモンドヒートシンクの金属膜上に接続(接合)されてなる半導体レーザ10を含めたものを半導体装置に係る発明として捉え、上記記載事項及び図面を総合勘案すると、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「気相法により製造されたダイヤモンド多結晶体と、前記ダイヤモンド多結晶体の上下2面に形成された金属膜とからなるダイヤモンドヒートシンクと、
前記ダイヤモンド多結晶体の上面に形成された前記金属膜上にろう付けによって接続(接合)された発熱の量の多い高出力半導体レーザと、を含み、
前記ダイヤモンド多結晶体の上面に形成された前記金属膜は、複数の金属層を含み、ダイヤモンドに接する金属層はダイヤモンドと接合性のよいCr(クロム)が用いられ、また、高出力半導体レーザに接する金属層は熱伝導性がよく、さらにろう付け性がよいAu(金)、Ag(銀)といった金属が用いられてなる、半導体装置。」

4.対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明における「気相法により製造されたダイヤモンド多結晶体と、前記ダイヤモンド多結晶体の上下2面に形成された金属膜とからなるダイヤモンドヒートシンクと、前記ダイヤモンド多結晶体の上面に形成された前記金属膜上にろう付けによって接続(接合)された発熱の量の多い高出力半導体レーザと」によれば、
(a)「ダイヤモンド多結晶体」は、ダイヤモンドヒートシンクを構成するものであり、本願発明でいう「ダイヤモンドヒートスプレッダ」に相当する。
(b)また、ダイヤモンド多結晶体にはその上面に形成された金属膜を介して高出力半導体レーザが接続(接合)されるといえるものであることから、ダイヤモンド多結晶体の上面に形成された「金属膜」、「高出力半導体レーザ」が、それぞれ本願発明でいう「金属結合部」、「半導体部品」に相当する。
したがって、本願発明と引用発明とは、「半導体部品;ダイヤモンドヒートスプレッダ;及び金属結合部を含み、前記半導体部品が、前記金属結合部を介して前記ダイヤモンドヒートスプレッダに結合され」てなるものである点で共通する。
ただし、ダイヤモンドヒートスプレッダについて、本願発明では、「20cm^(-1)以下のラマン半値全幅(FWHM)ピーク幅」を有する旨特定するのに対し、引用発明では、そのような特定を有してない点で相違している。
また、半導体部品について、本願発明では、「少なくとも1kW/cm^(2)の面積パワー密度および/または少なくとも1W/mmの線パワー密度で動作するように構成される」旨特定するのに対し、引用発明では、そのようなパワー密度の値に関する具体的な特定を有していない点で相違している。

(2)引用発明における「前記ダイヤモンド多結晶体の上面に形成された前記金属膜は、複数の金属層を含み、ダイヤモンドに接する金属層はダイヤモンドと接合性のよいCr(クロム)が用いられ、また、高出力半導体レーザに接する金属層は熱伝導性がよく、さらにろう付け性がよいAu(金)、Ag(銀)といった金属が用いられてなる・・」によれば、
(a)「ダイヤモンドに接する金属層」は、Cr(クロム)が用いられることから、本願発明におけるダイヤモンドヒートスプレッダに結合された「クロムの層」に相当する。
(b)また、Cr(クロム)が用いられてなる「ダイヤモンドに接する金属層」と「高出力半導体レーザ」との間には少なくとも、Au(金)、Ag(銀)といった金属が用いられてなる金属層が配置されていることから、本願発明でいう「さらなる金属層」を含むものであることも明らかである。
したがって、本願発明と引用発明とは、「前記金属結合部が、前記ダイヤモンドヒートスプレッダに結合されたクロムの層、および前記クロムの層と前記半導体部品との間に配置されたさらなる金属層を含む」ものである点で一致する。

(3)そして、引用発明における「半導体装置」は、ダイヤモンドヒートシンクと当該ダイヤモンドヒートシンクに接続(接合)された高出力半導体レーザとからなるものであるから、本願発明でいう「半導体デバイス」に相当するものである。

よって、本願発明と引用発明とは、
「半導体部品;
ダイヤモンドヒートスプレッダ;及び
金属結合部
を含み、
前記半導体部品が、前記金属結合部を介して前記ダイヤモンドヒートスプレッダに結合され、
前記金属結合部が、前記ダイヤモンドヒートスプレッダに結合されたクロムの層、および前記クロムの層と前記半導体部品との間に配置されたさらなる金属層を含む、半導体デバイス。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]
ダイヤモンドヒートスプレッダについて、本願発明では、「20cm^(-1)以下のラマン半値全幅(FWHM)ピーク幅」を有する旨特定するのに対し、引用発明では、そのような特定を有してない点。

[相違点2]
半導体部品について、本願発明では、「少なくとも1kW/cm^(2)の面積パワー密度および/または少なくとも1W/mmの線パワー密度で動作するように構成される」旨特定するのに対し、引用発明では、そのようなパワー密度の値に関する具体的な特定を有していない点。

5.判断
上記の相違点について検討する。
[相違点1]について
例えば原査定時に提示した特開平6-345592号公報には、半導体デバイス用ヒートシンク等に用いられる気相法により製造されたダイヤモンド薄膜(通常、多結晶である)のラマンピークの半値全幅(FWHM)は結晶性が良好になるにつれて小さくなるものであり、1.8?7.0cm^(-1)程度であることが記載(特に段落【0002】、【0016】?【0025】を参照)されているように、本願発明で特定する「20cm^(-1)以下」の条件を満たすものは周知といえるものである。そして、引用発明における気相法により製造されたダイヤモンド多結晶体にあっても、ダイヤモンドヒートシンクを構成するものであるから、より効率良く放熱できるようにできる限り熱伝導率が高い、すなわち結晶性が良好で質の高いものとすることは当然に望まれることであることから、引用発明においても、気相法により製造されたダイヤモンド多結晶体を本願発明で特定する「20cm^(-1)以下」の条件を満たすものとすることは当業者であれば容易になし得ることである。

[相違点2]について
例えば特開2007-25431号公報(段落【0032】を参照)や、さらには請求人が審判請求書とともに提示した資料1のFIGURE 1.にも示されるように、本願発明で特定する「少なくとも1kW/cm^(2)の面積パワー密度および/または少なくとも1W/mmの線パワー密度」で動作する半導体レーザは、本願出願時において周知のものであり、引用発明においても、高出力半導体レーザとして本願発明で特定する「少なくとも1kW/cm^(2)の面積パワー密度および/または少なくとも1W/mmの線パワー密度」で動作するものを用いるようにすることは当業者であれば適宜なし得ることである。

なお、請求人は審判請求書において、「本願発明で言う『高パワー密度』を採用した際に初めて得られる『Crを使用した際の優れた効果』は引用文献3から容易に想到できない」旨主張している。
しかしながら、本願明細書を参照するに、請求人が主張する「Crを使用した際の優れた効果」については、金属結合部における、クロムの層と半導体部品との間に配置された「さらなる金属層」がAu(あるいはAuSn)などの特定の金属からなる一つの層である場合に認められるものであるといえるが、本願発明にあっては、「さらなる金属層」が如何なる金属で構成されるのか何ら特定(限定)されていないことや、さらには一層のみで構成されることの特定(限定)もされておらず、クロムの層と半導体部品との間に複数の金属層が存在するものも含み得るものであるといえることを踏まえると、本願発明は必ずしも、従来のTi/Pt/Au系の金属結合部からなるものよりも優れた熱伝導率の改善の効果を奏するとはいえないものである。
よって、請求人の上記主張は採用できない。

6.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2020-05-26 
結審通知日 2020-06-01 
審決日 2020-06-12 
出願番号 特願2017-529289(P2017-529289)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 秋山 直人黒田 久美子  
特許庁審判長 國分 直樹
特許庁審判官 須原 宏光
井上 信一
発明の名称 高パワー密度の用途において低い熱バリア抵抗を有するダイヤモンド部品のためのボンディング方式  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 ▲吉▼田 和彦  
代理人 服部 博信  
代理人 須田 洋之  
代理人 市川 さつき  
代理人 山崎 一夫  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ