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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H03H |
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管理番号 | 1367715 |
審判番号 | 不服2019-12375 |
総通号数 | 252 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-12-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-09-18 |
確定日 | 2020-10-29 |
事件の表示 | 特願2016-569314「アンテナ整合回路」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 7月21日国際公開、WO2016/114182〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成28年1月6日(優先権主張 平成27年1月16日)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。 平成29年 5月15日 :上申書及び手続補正書の提出 平成30年 7月 6日付け :拒絶理由の通知 平成30年 9月13日 :意見書の提出 平成31年 2月 4日付け :拒絶理由の通知 平成31年 3月22日 :意見書及び手続補正書の提出 令和 元年 7月 8日付け :拒絶査定 令和 元年 9月18日 :審判請求書及び手続補正書の提出 令和 2年 5月14日付け :当審による拒絶理由の通知 令和 2年 7月15日 :意見書及び手続補正書の提出 第2 本願発明 本願の請求項1-4に係る発明は、令和2年7月15日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1-4に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 給電回路に接続されるインピーダンス変換回路と、 前記インピーダンス変換回路とアンテナポートとの間に接続されるインピーダンス変換比調整回路とを備え、 前記インピーダンス変換回路は、互いに磁界結合する第1インダクタンス素子および第2インダクタンス素子を含み、前記第1インダクタンス素子の第1端が前記給電回路に接続され、前記第2インダクタンス素子の第1端が前記第1インダクタンス素子の第2端に接続され、前記第2インダクタンス素子の第2端がグランドに接続され、 前記インピーダンス変換比調整回路は、前記インピーダンス変換回路と前記アンテナポートとの間に設けられ、前記インピーダンス変換回路と前記アンテナポートとの間にシリーズ接続された第3インダクタンス素子と、前記アンテナポートとグランドとの間にシャント接続されたキャパシタンス素子とを含み、 前記第3インダクタンス素子の一端は、シャント接続の素子を介することなく前記インピーダンス変換回路にのみ接続され、前記第3インダクタンス素子の他端は、前記アンテナポートに接続されていて、 前記第1インダクタンス素子と前記第2インダクタンス素子により生じる負の相互インダクタンスにより、前記第3インダクタンス素子のインダクタンスの少なくとも一部が相殺され、 前記インピーダンス変換比調整回路は、前記インピーダンス変換回路のインピーダンス変換比を周波数帯に応じて補正する、 アンテナ整合回路。」 第3 当審拒絶理由の概要 当審において令和2年5月14日付けで通知した拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)の概要は、以下のとおりである。 (進歩性)本件出願の請求項1に係る発明は、本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献1:国際公開第2012/114983号 引用文献2:特開2001-313542号公報 第4 引用文献の記載事項及び引用発明 1 引用文献1について 当審拒絶理由で引用した引用文献1(国際公開第2012/114983号。国際公開日、2012年(平成24年)8月30日。)には、図面とともに、以下の事項が記載されている。(なお、下線は当審において付与した。) (ア)「[0001] 本発明は、アンテナ装置等に適用するインピーダンス変換回路に関し、特に、広い周波数帯域で整合するインピーダンス変換回路およびそれを備えた通信端末装置に関する。」 (イ)「[0005] ところが、一般に、アンテナ素子のサイズや形状、周辺環境等によってアンテナ素子のインピーダンスは変化するため、特許文献1,2に示されているパッシブ型の整合回路では、通信端末装置の機種毎に整合回路を調整しなければならない。特に、複数の周波数帯域のそれぞれにインピーダンスを最適化するのは容易でない。このように複数の周波数帯域にインピーダンスを合わせ込もうとすると、整合回路を構成する素子の素子数が増えてしまいやすく、整合回路の素子数が増えると、挿入損失が大きくなり、十分な利得が得られないこともある。 [0006] また、特許文献3,4に示されているアクティブ型の整合回路でも、通信端末装置の機種毎に整合回路を調整しなければならない、という同様の課題を有する。さらに、アクティブ型の整合回路では、可変容量素子を制御するための回路、すなわち周波数帯域を切り替えるための切替回路が必要であるので回路構成が複雑になりやすい。また、切替回路での損失や歪みが大きいので十分な利得が得られないことがある。 [0007] 本発明は上述した実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、広い周波数帯域でインピーダンスの最適化が容易で、かつ、損失が少なく、簡易な構成のインピーダンス変換回路、およびこのインピーダンス変換回路を備えた通信端末装置を提供することにある。」 (ウ)「[0013] 《第1の実施形態》 図1(A)は第1の実施形態のインピーダンス変換回路について予備的に説明するための第1整合回路25を備えたアンテナ装置101の回路図、図1(B)はその等価回路図である。 [0014] 図1(A)に示すように、アンテナ装置101は、放射素子11と、この放射素子11に接続された第1整合回路とを備えている。放射素子11はモノポール型アンテナであり、この放射素子11の給電端に第1整合回路が接続されている。第1整合回路は(厳密に言うと、第1整合回路のうち第1インダクタンス素子L1は)放射素子11と給電回路30との間に挿入されている。給電回路30は高周波信号を放射素子11に給電するための給電回路であり、高周波信号の生成や処理を行うが、高周波信号の合波や分波を行う回路を含んでいてもよい。 [0015] 第1整合回路は、給電回路30に接続された第1インダクタンス素子L1と、第1インダクタンス素子L1に結合した第2インダクタンス素子L2とを備えている。より具体的には、第1インダクタンス素子L1の第1端は給電回路30に、第2端は放射素子11にそれぞれ接続されていて、第2インダクタンス素子L2の第1端は放射素子11に、第2端はグランドにそれぞれ接続されている。 [0016] そして、第1インダクタンス素子L1と第2インダクタンス素子L2とは密結合(トランス結合)している。このことにより等価的な負のインダクタンス成分が生じている。そして、この負のインダクタンス成分によって、放射素子11自身が持つインダクタンス成分を打ち消すことにより、放射素子11のインダクタンス成分が見かけ上小さくされている。すなわち、放射素子11の実効的な誘導性リアクタンス成分が小さくなるため、放射素子11は高周波信号の周波数に依存しにくくなる。」 (エ)「[0029] 第1整合回路は、第1インダクタンス素子L1に交流電流が流れるとき、磁界を介した結合により第2インダクタンス素子L2に流れる電流の向きと、電界を介した結合により第2インダクタンス素子L2に流れる電流の向きとが同じになるよう構成された回路であると言うこともできる。 [0030] 図3は、前記第1整合回路の等価的な負のインダクタンス成分の作用および第1整合回路の作用を模式的に示す図である。図3において曲線S0は放射素子11の使用周波数帯域に亘って周波数をスイープしたときのインピーダンス軌跡をスミスチャート上に表したものである。放射素子11単体ではインダクタンス成分L_(ANT)が比較的大きいので、図2に表れているようにインピーダンスは大きく推移する。 [0031] 図3において曲線S1は図1(B)におけるインピーダンス変換回路のA点から放射素子11側を見たインピーダンスの軌跡である。このように、インピーダンス変換回路の等価的な負のインダクタンス成分によって放射素子のインダクタンス成分L_(ANT)が相殺されて、A点から放射素子側を見たインピーダンスの軌跡は大幅に縮小される。 [0032] 図3において曲線S2は給電回路30から見たインピーダンスすなわちアンテナ装置101のインピーダンスの軌跡である。このように、トランス型回路によるインピーダンス変換比(L1:L2)によって、アンテナ装置101のインピーダンスは50Ω(スミスチャートの中心)に近づく。このインピーダンスの微調整は、次に示す整合回路で行う。 [0033] このようにして、広帯域に亘ってアンテナ装置のインピーダンス変化を抑制できる。ゆえに、広い周波数帯域に亘って高周波回路と放射素子とのインピーダンス整合がとれる。」 (オ)「[0036] 給電回路側整合回路31は給電回路30の給電ポートP_(RF)と第1整合回路25との間のインピーダンス整合をとり、アンテナ側整合回路32は放射素子11のポートと第1整合回路25との間のインピーダンス整合をとる。給電回路30は本発明に係る「第1高周波回路」、放射素子11は本発明に係る「第2高周波回路」に相当する。また、給電回路側整合回路31およびアンテナ側整合回路32は本発明に係る「第2整合回路」に相当する。 [0037] 図4(B)は前記第1整合回路25およびインピーダンス変換比(トランス比)を示すための図である。 図4(B)において、負のインダクタンス(-M)≒(アンテナ側整合回路32+L_(ANT))のインダクタンスとすることにより、A点から放射素子11側のインダクタンスを見ると、放射素子11の放射抵抗Rrが見えることになる。 [0038] また、A点からグランドまでの特性インピーダンスはL2+Mであり、このインピーダンス(L2+M)の実部≒放射素子11のインピーダンス(Rr)となるように、アンテナ側整合回路32がインピーダンス整合をとるようにする。」 (カ)「[0041] 図5はインピーダンス変換回路モジュールの具体的な回路の例を示す図である。給電回路側整合回路31は、給電ポートP_(RF)と給電回路30側接続ポートP1とを結ぶ線路に挿入されたインダクタンス素子La1、インダクタンス素子La1の給電回路30側にシャントに接続されたキャパシタンス素子Ca1、および、インダクタンス素子La1の第1整合回路25側にシャント接続されたキャパシタンス素子Ca2を備え、これらの整合回路素子にていわゆるπ型の整合回路を構成している。 [0042] アンテナ側整合回路32は、第1整合回路25側ポートP2と入出力ポートP_(ANT)とを結ぶ線路に挿入されたインダクタンス素子Lb1、インダクタンス素子Lb1の第1整合回路25側にシャント接続されたキャパシタンス素子Cb1、および、インダクタンス素子Lb1の放射素子11側にシャント接続されたキャパシタンス素子Cb2を備え、これらの整合回路素子にていわゆるπ型の整合回路を構成している。また、アンテナ側整合回路32は、第1整合回路25側ポートP2と入出力ポートP_(ANT)とを結ぶ線路に挿入されたキャパシタンス素子Cb3からなる整合回路素子を有する。」 (キ)「[0045] 周波数変化に対する放射素子11のインピーダンスの実部の変化はローバンドにおいては小さく、ハイバンドにおいては周波数上昇にともない比較的大きな傾きで変化する。そのため、前記給電回路側整合回路31でローバンドでの整合をとり、アンテナ側整合回路32でハイバンドでの整合をとることができる。」 (ク)「[0074] このアンテナ装置104は通信端末装置のメインアンテナとして利用される。分岐モノポール型の放射素子11の第1放射部は主にハイバンド側(1800?2400MHz帯)のアンテナ放射素子として作用し、第1放射部と第2放射部の両者で主にローバンド側(800?900MHz帯)の放射素子として作用する。ここで、分岐モノポール型の放射素子11は必ずしもそれぞれの対応周波数帯で共振する必要はない。なぜなら、第1整合回路が、各放射部のもつ特性インピーダンスを給電回路30のインピーダンスにマッチングさせているからである。第1整合回路25は、例えば、800?900MHz帯で、第1放射部と第2放射部のもつ特性インピーダンスを給電回路30のインピーダンス(通常は50Ω)にマッチングさせている。これにより、給電回路30から供給されたローバンドの高周波信号を第1放射部および第2放射部から放射させ、または、第1放射部および第2放射部で受信したローバンドの高周波信号を給電回路30に供給することができる。同様に、給電回路30から供給されたハイバンドの高周波信号を第1放射部から放射させ、または、第1放射部で受信したハイバンドの高周波信号を給電回路30に供給することができる。」 (ケ)「[0081] 図16(A)に示すように、インピーダンス変換回路モジュールにおける給電回路側整合回路31とアンテナ側整合回路32の両方をπ型の整合回路で構成してもよい。あるいは、図16(B)のように、給電回路側整合回路31をシャント接続されたキャパシタンス素子のみで構成してもよい。また、給電回路側整合回路31のみ、またはアンテナ側整合回路32のみを有したものであってもよい。第2整合回路はT型整合回路やLC並列型整合回路、LC直列型整合回路など、各種整合回路を利用できる。」 (コ)図1(A) (サ)図4(A),(B) (シ)図16(A) (a)上記摘記事項(ウ)、(オ)、及び、(カ)において、それぞれ、放射素子11の「給電端」、放射素子11の「ポート」、「入出力ポートP_(ANT)」との異なる用語が使われているが、いずれの用語も同じものを意図していることは明らかである。 (b)上記摘記事項(ウ)、上記摘記事項(オ)の段落[0036](「 給電回路側整合回路31は給電回路30の給電ポートP_(RF)と第1整合回路25との間のインピーダンス整合をとり、アンテナ側整合回路32は放射素子11のポートと第1整合回路25との間のインピーダンス整合をとる。給電回路30は本発明に係る「第1高周波回路」、放射素子11は本発明に係る「第2高周波回路」に相当する。また、給電回路側整合回路31およびアンテナ側整合回路32は本発明に係る「第2整合回路」に相当する。」)、上記摘記事項(ケ)の段落[0081](「 図16(A)に示すように、インピーダンス変換回路モジュールにおける給電回路側整合回路31とアンテナ側整合回路32の両方をπ型の整合回路で構成してもよい。あるいは、図16(B)のように、給電回路側整合回路31をシャント接続されたキャパシタンス素子のみで構成してもよい。また、給電回路側整合回路31のみ、またはアンテナ側整合回路32のみを有したものであってもよい。第2整合回路はT型整合回路やLC並列型整合回路、LC直列型整合回路など、各種整合回路を利用できる。」)の記載及び図4(A)、図16(A)から、引用文献1には、第2整合回路として、アンテナ側整合回路32のみを有するものとする場合、「第1整合回路25は給電回路30に接続される」ことや、「第1整合回路25が備える第1インダクタンス素子L1の第1端は給電回路30に、該第1インダクタンス素子L1の第2端は前記アンテナ側整合回路32を介して前記放射素子11であるモノポール型アンテナにそれぞれ接続される」ことが開示されている。 (c)上記(b)に加えて、上記摘記事項(カ)の段落[0042](「 アンテナ側整合回路32は、第1整合回路25側ポートP2と入出力ポートP_(ANT)とを結ぶ線路に挿入されたインダクタンス素子Lb1、インダクタンス素子Lb1の第1整合回路25側にシャント接続されたキャパシタンス素子Cb1、および、インダクタンス素子Lb1の放射素子11側にシャント接続されたキャパシタンス素子Cb2を備え、これらの整合回路素子にていわゆるπ型の整合回路を構成している。また、アンテナ側整合回路32は、第1整合回路25側ポートP2と入出力ポートP_(ANT)とを結ぶ線路に挿入されたキャパシタンス素子Cb3からなる整合回路素子を有する。」)の記載及び図4(A)、図16(A)を参酌すると、引用文献1には、「アンテナ側整合回路32は、前記第1整合回路25と放射素子11であるモノポール型アンテナの入出力ポートP_(ANT)との間に接続される」ことが開示されている。 (d)上記摘記事項(ウ)の段落[0016](「第1インダクタンス素子L1と第2インダクタンス素子L2とは密結合(トランス結合)している。このことにより等価的な負のインダクタンス成分が生じている。そして、この負のインダクタンス成分によって、放射素子11自身が持つインダクタンス成分を打ち消す」)、上記摘記事項(エ)の段落[0031](「インピーダンス変換回路の等価的な負のインダクタンス成分によって放射素子のインダクタンス成分L_(ANT)が相殺され」)、及び、上記摘記事項(オ)の段落[0037](「負のインダクタンス(-M)≒(アンテナ側整合回路32+L_(ANT))のインダクタンスとする」)の記載から、アンテナ側整合回路32が存在する場合、該負のインダクタンス成分と該アンテナ側整合回路32のインダクタンス成分とが部分的に相殺されることは明らかであるから、引用文献1には、「前記第1インダクタンス素子L1と前記第2インダクタンス素子L2がトランス結合していることにより生じる等価的な負のインダクタンス成分は、前記アンテナ側整合回路32のインダクタンス成分と部分的に相殺される」ことが開示されている。 上記(ア)から(シ)の記載事項、及び、上記(a)から(d)で言及した事項より、引用文献1には以下の発明が記載されている。(以下、「引用発明」という。) 「給電回路30に接続される第1整合回路25と、 前記第1整合回路25と放射素子11であるモノポール型アンテナの入出力ポートP_(ANT)との間に接続され、前記放射素子11であるモノポール型アンテナの入出力ポートP_(ANT)と前記第1整合回路25との間のインピーダンス整合をとるアンテナ側整合回路32とを備え、 前記第1整合回路25は、トランス結合している第1インダクタンス素子L1および第2インダクタンス素子L2を備え、前記第1インダクタンス素子L1の第1端は給電回路30に、第2端は前記アンテナ側整合回路32を介して前記放射素子11であるモノポール型アンテナにそれぞれ接続され、前記第2インダクタンス素子L2の第1端は前記第1インダクタンス素子L1の第2端に接続され、前記第2インダクタンス素子L2の第2端はグランドにそれぞれ接続されていて、 前記第1インダクタンス素子L1と前記第2インダクタンス素子L2がトランス結合していることにより生じる等価的な負のインダクタンス成分は、前記アンテナ側整合回路32のインダクタンス成分と部分的に相殺される、 インピーダンス変換回路。」 2 引用文献2について 当審拒絶理由で引用した引用文献2(特開2001-313542号公報。公開日、平成13年11月9日。)には、以下の事項が記載されている。(なお、下線部は当審にて付与した。) (ス)「【0012】実施の形態1.図1は、実施の形態1の分波器の構成を示す回路図である。この分波器は、我が国で用いられるCDMA-One用の携帯電話機に組込むのに好適なものであり、送信帯域として887?925MHz(帯域幅38MHz)および受信帯域として832?870MHz(帯域幅38MHz)を想定している。 【0013】図1に示す分波器は、送信側端子Ttからの信号をアンテナ端子Taに伝達し、またアンテナ端子Taからの信号を受信側端子Trに伝達するためのものであり、送信側端子Ttと共通接続点Na、Nbの間に設けられた送信側回路100と、受信側端子T2と共通接続点Na、Nbの間に設けられた受信側回路200と、アンテナ端子T0と共通接続点Na、Nbの間に設けられたアンテナ端整合回路300とを有する。」 (セ)「【0018】分波線路回路130は、互いに直列接続された第1の分波線路132及び第2の分波線路134と、これらの接続点136と接地点Eとの間に接続されたキャパシタ138とを有する。」 (ソ)「【0022】整合回路120、220、300は、通過帯域におけるインピーダンスの整合のために設けられるものであり、それぞれの信号端Tt、Tr、Taに設けられている。 【0023】図示の例では、各整合回路として、集中定数ローパスフィルタ(LPF)が用いられている。具体的には、図示のようなローパス型のLマッチ回路が用いられている。即ち、送信端整合回路120としては、インダクタLtとキャパシタCtを図示のように接続したものが用いられ、受信端整合回路220としては、インダクタLrとキャパシタCrを図示のように接続したものが用いられ、アンテナ端整合回路Maとしては、インダクタLaとキャパシタCaを図示のように接続したものが用いられる。これにより、図1の共通接続点Na、Nbから見たインピーダンスZaと、接続点Nc、Ndから見たインピーダンスZtと、接続点Ne、Nf端子から見たインピーダンスZrを、それぞれこの回路の特性インピーダンスである50Ωに略等しくなるようにする。」 (タ)「【0041】なお、上記の例では、整合回路120、220、300の設計に当たり、図1に示すNa,Nb端子から見たインピーダンスZaと、接続点Nc、Ndから見たインピーダンスZtと、接続点Ne、Nfから見たインピーダンスZrが、50Ωより小さいので、ローパス型のLマッチ回路を用いているが、これとは逆に、接続点Na、Nb、Nc、Nd、Ne、Nfの各々の端子からみたインピーダンスZa、Zt、Zrが50Ω(特性インピーダンス)より大きい場合には、逆L型のマッチ回路をインピーダンス整合回路として用いても良い。」 (チ)図1 (e)上記摘記事項(ス)の「アンテナ端子Ta」、「アンテナ端子T0」、上記摘記事項(ソ)の「信号端Ta」は、いずれの用語も同じものを意図していることは明らかである。 (f)上記摘記事項(ス)の「アンテナ端整合回路300」、上記摘記事項(ソ)の「整合回路300」、「アンテナ端整合回路Ma」、上記摘記事項(タ)の「整合回路300」は、いずれの用語も同じものを意図していることは明らかである。 (g)上記摘記事項(セ)及び(ソ)の記載と図1から、「アンテナ端整合回路300」の構成並びに接続関係について、「送信側の一端子である共通接続点(Na)と前記アンテナ端子(Ta)との間に直列接続されたインダクタ(La)と、前記アンテナ端子(Ta)と接地点(E)との間に並列接続されたキャパシタ(Ca)とからなり、前記インダクタ(La)の一端は、前記キャパシタ(Ca)を介することなく前記共通接続点(Na)にのみ接続され、前記インダクタ(La)の他端は、前記アンテナ端子(Ta)に接続されている」といえる。 上記(ス)から(チ)の摘記事項、及び、上記(e)から(g)で言及した事項より、引用文献2には以下の技術事項が記載されている。 「インピーダンス整合のために、アンテナ端子(Ta)にアンテナ端整合回路300を設けることであって、前記アンテナ端整合回路300は、送信側の一端子である共通接続点(Na)と前記アンテナ端子(Ta)との間に直列接続されたインダクタ(La)と、前記アンテナ端子(Ta)と接地点(E)との間に並列接続されたキャパシタ(Ca)とからなり、前記インダクタ(La)の一端は、前記キャパシタ(Ca)を介することなく前記共通接続点(Na)にのみ接続され、前記インダクタ(La)の他端は、前記アンテナ端子(Ta)に接続されている、ローパス型のLマッチ回路である」という技術事項。 第5 対比・判断 1 対比 本願発明と引用発明とを対比する。 (1-1) 引用発明の「給電回路30」、「放射素子11であるモノポール型アンテナの入出力ポートP_(ANT)」は、本願発明でいう『給電回路』、『アンテナポート』に相当する。 (1-2) 引用発明が備える「第1整合回路25」は、「給電回路30に接続され」、そして、その構成としては、「トランス結合している第1インダクタンス素子L1および第2インダクタンス素子L2を備え、前記第1インダクタンス素子L1の第1端は給電回路30に、第2端は前記アンテナ側整合回路32を介して前記放射素子11であるモノポール型アンテナにそれぞれ接続され、前記第2インダクタンス素子L2の第1端は前記第1インダクタンス素子L1の第2端に接続され、前記第2インダクタンス素子L2の第2端はグランドにそれぞれ接続されてい」るものである。 ここで、前記「トランス結合」は、本願発明でいう『磁界結合』に対応するものであり、また、前記「第1インダクタンス素子L1」、「第2インダクタンス素子L2」は、それぞれ、本願発明でいう『第1インダクタンス素子』、『第2インダクタンス素子』に相当する。 さらに、引用発明の第1整合回路25を構成している第1インダクタンス素子L1と第2インダクタンス素子L2との接続関係についても、上記「第4 引用文献の記載事項及び引用発明」「1 引用文献1について」で認定したとおり、本願発明における『第1インダクタンス素子』と『第2インダクタンス素子』との接続関係と同様である。 してみると、引用発明が備える「第1整合回路25」は、本願発明でいう『インピーダンス変換回路』に相当する。 (1-3) 本願発明の『インピーダンス変換比調整回路』は、明細書の発明の詳細な説明の段落【0026】に記載されているように、「アンテナ整合回路10のインピーダンス変換比を、インピーダンス変換回路2によるインピーダンス変換比から所定の変換比へ補正する。以降に示すように、インピーダンス変換比調整回路3は1GHz以上の周波数でのインピーダンス変換比を抑制する(インピーダンス変換されすぎないようにする)。」ものである。 一方、引用発明が備える「アンテナ側整合回路32」は、「第1整合回路25と放射素子11であるモノポール型アンテナの入出力ポートP_(ANT)との間に接続され」、「前記放射素子11であるモノポール型アンテナの入出力ポートP_(ANT)と前記第1整合回路25との間のインピーダンス整合をとる」ものである。 してみると、本願発明の『インピーダンス変換比調整回路』と引用発明が備える「アンテナ側整合回路32」は、ともに、「インピーダンス変換回路とアンテナポートとの間に接続されるインピーダンス変換回路とアンテナポートとの間のインピーダンスを調整するインピーダンス調整回路」という点で共通している。 (1-4) 本願発明の『前記第3インダクタンス素子』は『インピーダンス変換比調整回路』の構成要素であって、『前記第1インダクタンス素子と前記第2インダクタンス素子により生じる負の相互インダクタンスにより、前記第3インダクタンス素子のインダクタンスの少なくとも一部が相殺され』るものである。 一方、引用発明の「前記第1インダクタンス素子L1と前記第2インダクタンス素子L2がトランス結合していることにより生じる等価的な負のインダクタンス成分は、前記アンテナ側整合回路32のインダクタンス成分と部分的に相殺される」ものである。 してみると、上記(1-3)で言及した共通点も加味すれば、本願発明と引用発明とは、ともに、「前記第1インダクタンス素子と前記第2インダクタンス素子により生じる負の相互インダクタンスにより、インピーダンス調整回路のインダクタンス成分の少なくとも一部が相殺され」る点で共通している。 (1-5) 引用発明の「インピーダンス変換回路」は、上記「第4 引用文献の記載事項及び引用発明」「1 引用文献1について」の摘記事項(ア)で記載のように、アンテナ装置等に適用し、広い周波数帯域で整合する回路であって、いわゆる、アンテナ整合回路と称することができるものであるから、本願発明でいう『アンテナ整合回路』に対応する。 2.一致点及び相違点 上記(1-1)から(1-5)で対比したように、本願発明と引用発明とは、 「給電回路に接続されるインピーダンス変換回路と、 前記インピーダンス変換回路とアンテナポートとの間に接続され、前記インピーダンス変換回路と前記アンテナポートとの間のインピーダンスを調整するインピーダンス調整回路とを備え、 前記インピーダンス変換回路は、互いに磁界結合する第1インダクタンス素子および第2インダクタンス素子を含み、前記第1インダクタンス素子の第1端が前記給電回路に接続され、前記第2インダクタンス素子の第1端が前記第1インダクタンス素子の第2端に接続され、前記第2インダクタンス素子の第2端がグランドに接続され、 前記第1インダクタンス素子と前記第2インダクタンス素子により生じる負の相互インダクタンスにより、インピーダンス調整回路のインダクタンス成分の少なくとも一部が相殺される、 アンテナ整合回路。」 で一致し、以下の点で相違している。 [相違点1] 本願発明においては、『インピーダンス変換回路』と『アンテナポート』との間に接続されている『インピーダンス変換比調整回路』について、『前記インピーダンス変換回路と前記アンテナポートとの間に設けられ、前記インピーダンス変換回路と前記アンテナポートとの間にシリーズ接続された第3インダクタンス素子と、前記アンテナポートとグランドとの間にシャント接続されたキャパシタンス素子とを含み、前記第3インダクタンス素子の一端は、シャント接続の素子を介することなく前記インピーダンス変換回路にのみ接続され、前記第3インダクタンス素子の他端は、前記アンテナポートに接続されていて、』『前記インピーダンス変換回路のインピーダンス変換比を周波数帯に応じて補正する』という事項が特定されているのに対し、引用発明における「アンテナ側整合回路32」については、かかる事項が特定されていない点。 [相違点2] 前記[相違点1]で言及した事項と関連し、本願発明においては、『インピーダンス変換回路』にかかる『前記第1インダクタンス素子と前記第2インダクタンス素子により生じる負の相互インダクタンス』により、『インピーダンス変換比調整回路』に含まれる『前記第3インダクタンス素子のインダクタンスの少なくとも一部が相殺され』るという事項が特定されているのに対し、引用発明においては、「第1整合回路25」にかかる「前記第1インダクタンス素子L1と前記第2インダクタンス素子L2がトランス結合していることにより生じる等価的な負のインダクタンス成分は、前記アンテナ側整合回路32のインダクタンス成分と部分的に相殺される」ことが特定されるだけであって、該インダクタンス成分の相殺に寄与するインダクタンス成分について、該「アンテナ側整合回路32」が具体的にどのような構成をとることで生じるのか明らかでない点。 3.判断 [相違点1]、[相違点2]について 事案に鑑み、[相違点1]及び[相違点2]をあわせて検討する。 引用発明の「アンテナ側整合回路32」は、「放射素子11であるモノポール型アンテナの入出力ポートP_(ANT)と第1整合回路25との間のインピーダンス整合をとる」機能を担うものである。 そして、引用文献1には、上記「第4 引用文献の記載事項及び引用発明」「1 引用文献1について」の摘記事項(イ)で記載のように、広い周波数帯域でインピーダンスの最適化が容易でありつつも、損失が少なく、簡易な構成を提供しようとするものであって、整合回路の素子数が増えると、挿入損失が大きくなる(逆に、素子数が減ると、挿入損失は小さくなる)ことが示されており、素子数の少ない(、損失の少ない)整合回路が望ましいことが示唆されている。 さらに、引用文献1では、上記「第4 引用文献の記載事項及び引用発明」「1 引用文献1について」の摘記事項(ケ)の「アンテナ側整合回路32・・をπ型の整合回路で構成してもよい。・・アンテナ側整合回路32のみを有したものであってもよい。第2整合回路はT型整合回路やLC並列型整合回路、LC直列型整合回路など、各種整合回路を利用できる。」との記載事項をふまえると、「アンテナ側整合回路32」として、種々の整合回路を利用しようとすることが示唆されている。 また、引用文献1には、上記「第4 引用文献の記載事項及び引用発明」「1 引用文献1について」の摘記事項(ク)で記載のように、「第1整合回路25」が、ローバンド側(800?900MHz帯)のインピーダンスマッチングを行うことや、上記「第4 引用文献の記載事項及び引用発明」「1 引用文献1について」の摘記事項(キ)で記載のように、周波数変化に対する放射素子11のインピーダンスの特性に対し、「アンテナ側整合回路32」によって、ハイバンドでの整合をとることが示されている。 一方、引用文献2の図9から図14で示されるように、当該技術分野において種々の整合回路が知られているところ、引用文献2では、上記「第4 引用文献の記載事項及び引用発明」「2 引用文献2について」で言及したとおり、「インピーダンス整合のために、アンテナ端子(Ta)にアンテナ端整合回路300を設けること」、及び、前記「アンテナ端整合回路300」の構成並びに接続関係について、「アンテナ端整合回路300は、送信側の一端子である共通接続点(Na)と前記アンテナ端子Taとの間に直列接続されたインダクタ(La)と、前記アンテナ端子(Ta)と接地点(E)との間に並列接続されたキャパシタ(Ca)とからなり、前記インダクタ(La)の一端は、前記キャパシタ(Ca)を介することなく前記共通接続点(Na)にのみ接続され、前記インダクタ(La)の他端は、前記アンテナ端子(Ta)に接続されている、ローパス型のLマッチ回路である」との事項が開示されており、その素子数は、少なくとも、引用文献1の図16(A)、引用文献2の図11で示される、π型の整合回路よりも少なく、そして、前記「アンテナ端整合回路300」の構成並びに接続関係についても、本願発明の『インピーダンス変換比調整回路』と同様のものである。 以上を考慮すると、引用発明において、ハイバンドでの「放射素子11であるモノポール型アンテナの入出力ポートP_(ANT)と第1整合回路25との間のインピーダンス整合をとる」ための「アンテナ側整合回路32」として、当該技術分野においてよく知られた、引用文献2に開示されるような素子数の少ない「アンテナ端整合回路300」を適用し、本願発明とすることは、当業者であれば容易になし得るものである。 また、そうした場合、「第1整合回路25」にかかる「等価的な負のインダクタンス成分」と「アンテナ側整合回路300」に含まれる「インダクタ(La)」とが部分的に相殺されることは、その回路構成から自明な事項であり、そして、「ローパス型のLマッチ回路である」「アンテナ側整合回路300」が周波数帯に応じた異なる周波数特性を有することや、素子数が少ないために、損失が少ないことが期待できることは、当業者に明らかであって、本願発明によりもたらされる効果は、引用文献1,2に開示されている事項により当業者ならば容易に予測することができる程度のものである。 4.まとめ 以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明、及び、引用文献2の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 第6 むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願の他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2020-08-20 |
結審通知日 | 2020-08-25 |
審決日 | 2020-09-08 |
出願番号 | 特願2016-569314(P2016-569314) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(H03H)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 石田 昌敏 |
特許庁審判長 |
佐藤 智康 |
特許庁審判官 |
衣鳩 文彦 谷岡 佳彦 |
発明の名称 | アンテナ整合回路 |
代理人 | 特許業務法人 楓国際特許事務所 |