• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1367729
審判番号 不服2019-17574  
総通号数 252 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-12-25 
確定日 2020-10-29 
事件の表示 特願2016-183039「両面保護フィルム付偏光板の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 1月 5日出願公開、特開2017- 4016〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
特願2016-183039号(以下「本件出願」という。)は、2015年(平成27年)6月16日(先の出願に基づく優先権主張 平成26年7月4日)を国際出願日とする、特願2015-536325号の一部を新たな特許出願としたものであって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
平成31年 2月28日付け:拒絶理由通知書
平成31年 4月23日提出:意見書
平成31年 4月23日提出:手続補正書
令和 元年 9月18日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和 元年12月25日提出:審判請求書
令和 元年12月25日提出:手続補正書


第2 令和元年12月25日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[結論]
令和元年12月25日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正の内容
(1)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の平成31年4月23日にした手続補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。
「 基材フィルム、ヨウ素系偏光子及び第1保護フィルムをこの順で含む多層フィルムから基材フィルムを剥離除去して、片面保護フィルム付偏光板を得る工程と、
前記片面保護フィルム付偏光板におけるヨウ素系偏光子の外面に第2保護フィルムを貼合して、両面保護フィルム付偏光板を得る工程と、
を含み、
前記第1保護フィルム及び前記第2保護フィルムは、透湿度150g/m^(2)/24hr以 下の熱可塑性樹脂フィルムであり、
前記第2保護フィルムを貼合するときの前記ヨウ素系偏光子の水分率が4.6重量%以下である、両面保護フィルム付偏光板の製造方法。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。なお、下線は当合議体が付与したものであり、補正箇所を示す。
「 基材フィルム、ヨウ素系偏光子及び第1保護フィルムをこの順で含む多層フィルムから基材フィルムを剥離除去して、片面保護フィルム付偏光板を得る工程と、
前記片面保護フィルム付偏光板におけるヨウ素系偏光子の外面に第2保護フィルムを貼合して、両面保護フィルム付偏光板を得る工程と、
を含み、
前記第1保護フィルム及び前記第2保護フィルムは、透湿度150g/m^(2)/24hr以下の熱可塑性樹脂フィルムであり、
前記第2保護フィルムを貼合するときの前記ヨウ素系偏光子の水分率が4.2重量%以下である、両面保護フィルム付偏光板の製造方法。」

2 補正の適否について
本件補正のうち請求項1についてした補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するための必要な事項である「第2保護フィルムを貼合するときの」「ヨウ素系偏光子の水分率」について、本件出願の出願当初の明細書の【0119】等の記載に基づき、「4.6重量%以下」を「4.2重量%以下」に限定するものである。また、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野(【0001】)及び解決しようとする課題(【0006】及び【0007】)が同一である。
したがって、本件補正のうち請求項1についてした補正は、特許法第17条の2第3項の規定する要件を満たしているとともに、同条第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正後発明」という。)が、特許法第17条の2第6項において準用する同法126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正後発明
本件補正後発明は、上記「1」「(2)本件補正後の特許請求の範囲」に記載したとおりのものである。

(2)引用文献1及び引用発明
ア 引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用文献1として引用され、先の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である特開2014-12819号公報(以下、同じく「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当合議体が付与したものである。

(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、2以上の部材を接着する接着剤層を形成する活性エネルギー線硬化型接着剤組成物、特には偏光子と透明保護フィルムとの接着剤層を形成する活性エネルギー線硬化型接着剤組成物、偏光フィルムおよびその製造方法に関する。当該偏光フィルムはこれ単独で、またはこれを積層した光学フィルムとして液晶表示装置(LCD)、有機EL表示装置、CRT、PDPなどの画像表示装置を形成しうる。
・・・(省略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
一般に、偏光子に対する接着剤層の接着性を高める手段として、原料となる接着剤組成物中の親水性成分比率を高める方法がある。しかしながら、近年では偏光フィルムなどに対し、過酷な湿熱環境下(例えば60℃-95%湿度環境下で1000時間放置)でも耐久性を確保することが要求されつつあり、上記方法により接着性を高めた接着剤層では、過酷な湿熱環境下で耐久性が不十分となる場合もある。つまり、過酷な湿熱環境下では、接着性と耐久性との両立が困難であり、これらが二律背反する傾向があった。
【0013】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、2以上の部材、特には偏光子と透明保護フィルム層との接着性が良好で、かつ耐久性および耐水性を向上した接着剤層、特には湿熱環境下においても耐久性(湿熱耐久性)と接着性とを両立可能な接着剤層を形成できる活性エネルギー線硬化型接着剤組成物を提供することにある。
【0014】
ところで、近年では市場において生産性のさらなる改善が要求され、特に偏光子と透明保護フィルムとを貼合(ラミネート)する場合に、偏光子の水分率を低減することで、ラミネート後に得られる偏光フィルムの乾燥負荷を低減する試みがなされている。しかしながら、従来の活性エネルギー線硬化型接着剤組成物では、低水分率である偏光子の接着性が不十分である場合があり、さらなる接着性の向上が要求されているのが実情である。
【0015】
したがって本発明は、低水分率である偏光子を使用する場合であっても、偏光子と透明保護フィルムとの接着性に優れ、かつ接着剤層の耐久性および耐水性に優れた接着剤層を備える偏光フィルムおよびその製造方法、光学フィルムならびに画像表示装置を提供することをも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、活性エネルギー線硬化型接着剤組成物中の硬化性成分のSP値(溶解性パラメータ)に着目した。一般に、SP値が近い物質同士は、互いに親和性が高いと言える。したがって、例えばラジカル重合性化合物同士のSP値が近いと、これらの相溶性が高まり、また、活性エネルギー線硬化型接着剤組成物中のラジカル重合性化合物と偏光子とのSP値が近いと、接着剤層と偏光子との接着性が高まる。同様に、活性エネルギー線硬化型接着剤組成物中のラジカル重合性化合物と保護フィルム(例えばトリアセチルセルロースフィルム(TAC)、アクリルフィルム、シクロオレフィンフィルム)とのSP値が近いと、接着剤層と保護フィルムとの接着性が高まる。これらの傾向に基づき、本発明者らが鋭意検討を行った結果、活性エネルギー線硬化型接着剤組成物中、少なくとも3種類のラジカル重合性化合物の各SP値を特定の範囲内に設計し、かつ最適な組成比率とすることにより、上記課題を解決できることを見出した。本発明は、上記の検討の結果なされたものであり、下記の如き構成により上述の目的を達成するものである。
【0017】
即ち、本発明に係る活性エネルギー線硬化型接着剤組成物は、硬化性成分として、ラジカル重合性化合物(A)、(B)および(C)を含有する活性エネルギー線硬化型接着剤組成物であって、組成物全量を100重量%としたとき、SP値が29.0(kJ/m^(3))^(1/2)以上32.0以下(kJ/m^(3))^(1/2)であるラジカル重合性化合物(A)を1.0?30.0重量%、SP値が18.0(kJ/m^(3))^(1/2)以上21.0(kJ/m^(3))^(1/2)未満であるラジカル重合性化合物(B)を35.0?98.0重量%、およびSP値が21.0(kJ/m^(3))^(1/2)以上23.0(kJ/m^(3))^(1/2)以下であるラジカル重合性化合物(C)を1.0?30.0重量%含有することを特徴とする。
・・・(省略)・・・
【0043】
上記偏光フィルムにおいて、前記透明保護フィルムの透湿度が150g/m^(2)/24h以下であることが好ましい。かかる構成によれば、偏光フィルム中に空気中の水分が入り難く、偏光フィルム自体の水分率変化を抑制することができる。その結果、保存環境により生じる偏光フィルムのカールや寸法変化を抑えることができる。
・・・(省略)・・・
【0051】
上記偏光フィルムの製造方法において、前記貼合工程時の前記偏光子の水分率が15%未満であることが好ましい。かかる製造方法によれば、貼合工程(ラミネート)後に得られる偏光フィルムの乾燥負荷を低減しつつ、偏光子と透明保護フィルムとの接着性に優れ、かつ接着剤層の耐久性および耐水性に優れた接着剤層を備える偏光フィルムを製造することができる。
・・・(省略)・・・
【発明の効果】
【0054】
本発明に係る活性エネルギー線硬化型接着剤組成物の硬化物により接着剤層を形成した場合、2以上の部材、特には偏光子と透明保護フィルム層との接着性を向上し、かつ耐久性および耐水性を向上した接着剤層、特には湿熱環境下においても耐久性(湿熱耐久性)と接着性とを両立可能な接着剤層を形成できる。さらに本発明に係る偏光フィルムは、低水分率である偏光子を使用する場合であっても、偏光子と透明保護フィルムとの接着性に優れ、かつ接着剤層の耐久性および耐水性に優れた接着剤層を備える。」

(イ)「【実施例】
【0175】
以下に、本発明の実施例を記載するが、本発明の実施形態はこれらに限定されない。
【0176】
<Tg:ガラス転移温度>
Tgは、TAインスツルメンツ製動的粘弾性測定装置RSAIIIを用い以下の測定条件で測定した。
サンプルサイズ:幅10mm、長さ30mm、
クランプ距離20mm、
測定モード:引っ張り、周波数:1Hz、昇温速度:5℃/分
動的粘弾性の測定を行い、tanδのピークトップの温度Tgとして採用した。
【0177】
<透明保護フィルムの透湿度>
透湿度の測定は、JIS Z0208の透湿度試験(カップ法)に準じて測定した。直径60mmに切断したサンプルを約15gの塩化カルシウムを入れた透湿カップにセットし、温度40℃、湿度90%R.H.の恒温機に入れ、24時間放置した前後の塩化カルシウムの重量増加を測定することで透湿度(g/m^(2)/24h)を求めた。
【0178】
<透明保護フィルム>
透明保護フィルムとして、厚み80μmのトリアセチルセルロースフィルム(TAC)(SP値23.3、透湿度560g/m^(2)/24h)を、ケン化・コロナ処理等を行わずに用いた(以下、ケン化・コロナ処理等を行っていないTACを、「未処理TAC」ともいう)。さらに、透明保護フィルムとして、厚み40μmのアクリルフィルム(SP値22.2、透湿度70g/m^(2)/24h)を、ケン化・コロナ処理等を行わずに用いた(以下、ケン化・コロナ処理等を行っていないアクリルフィルムを、「未処理アクリルフィルム」ともいう)。
【0179】
<活性エネルギー線>
活性エネルギー線として、紫外線(ガリウム封入メタルハライドランプ) 照射装置:Fusion UV Systems,Inc社製Light HAMMER10 バルブ:Vバルブ ピーク照度:1600mW/cm^(2)、積算照射量1000/mJ/cm^(2)(波長380?440nm)を使用した。なお、紫外線の照度は、Solatell社製Sola-Checkシステムを使用して測定した。
【0180】
(活性エネルギー線硬化型接着剤組成物の調整)
実施例1?9、比較例1?2
表2に記載の配合表に従い、各成分を混合して50℃で1時間撹拌し、実施例1?9、比較例1?2に係る活性エネルギー線硬化型接着剤組成物を得た。表中の数値は組成物全量を100重量%としたときの重量%を示す。なお、実施例4において組成物全量を100重量%に換算すると、ラジカル重合性化合物(A)は20.10重量%、ラジカル重合性化合物(B)は58.29重量%、ラジカル重合性化合物(C)は20.10重量%、光重合性開始剤(一般式(2))は1.51重量%となる。
該接着剤組成物の相溶性を下記の条件に基づき評価した。使用した各成分は以下のとおりである。
【0181】
(1)ラジカル重合性化合物(A)
HEAA(ヒドロキシエチルアクリルアミド)、SP値29.6、ホモポリマーのTg123℃、興人社製
N-MAM-PC(N-メチロールアクリルアミド)、SP値31.5、ホモポリマーのTg150℃、笠野興産社製
(2)ラジカル重合性化合物(B)
ARONIX M-220(トリプロピレングリコールジアクリレート)、SP値19.0、ホモポリマーのTg69℃、東亞合成社製
(3)ラジカル重合性化合物(C)
ACMO(アクリロイルモルホリン)、SP値22.9、ホモポリマーのTg150℃、興人社製
ワスマー2MA(N-メトキシメチルアクリルアミド)、SP値22.9、ホモポリマーのTg99℃、笠野興産社製
(4)ラジカル重合性化合物(D)
2HEA(2-ヒドロキシエチルアクリレート)、SP値25.5、ホモポリマーのTg-15℃、三菱レイヨン社製
(5)活性メチレン基を有するラジカル重合性化合物(E)
AAEM(2-アセトアセトキシエチルメタクリレート)、SP値 20.23(KJ/M^(3))^(1/2)、ホモポリマーのTg 9℃、日本合成化学社製
(6)水素引き抜き作用のあるラジカル重合開始剤(F)
KAYACURE DETX-S(DETX-S)(ジエチルチオキサントン)、日本化薬社製
(7)光重合開始剤(一般式(2)で表される化合物))(J)
IRGACURE907(IRG907)(2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン)、BASF社製
(8)光酸発生剤(G)
CPI-100P(トリアリールスルホニウムヘキサフルオロホスフェートを主成分とする有効成分50%のプロピレンカーボネート溶液)、サンアプロ社製
(9)アルコキシ基、エポキシ基いずれかを含む化合物(H)
デナコールEX-611(ソルビトールポリグリシジルエーテル)、ナガセケムテックス社製
ニカレジンS-260(メチロール化メラミン)、 日本カーバイト工業社製
KBM-5103(3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン)、信越化学工業社製
(10)アミノ基を有するシランカップリング剤(I)
KBM-603(γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン)、信越化学工業社製
KBM-602(γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン)、信越化学工業社製
KBE-9103(3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチルブチリデン)-3-(トリエトキシシリル)-1-プロパンアミン)、信越化学工業社製
【0182】
(薄型偏光膜Xの作製とそれを用いた偏光フィルム1の作製)
薄型偏光膜Xを作製するため、まず、非晶性PET基材に24μm厚のPVA層が製膜された積層体を延伸温度130℃の空中補助延伸によって延伸積層体を生成し、次に、延伸積層体を染色によって着色積層体を生成し、さらに着色積層体を延伸温度65度のホウ酸水中延伸によって総延伸倍率が5.94倍になるように非晶性PET基材と一体に延伸された10μm厚のPVA層を含む光学フィルム積層体を生成した。このような2段延伸によって非晶性PET基材に製膜されたPVA層のPVA分子が高次に配向され、染色によって吸着されたヨウ素がポリヨウ素イオン錯体として一方向に高次に配向された高機能偏光膜Yを構成する、厚さ10μmのPVA層を含む光学フィルム積層体を生成することができた。更に、当該光学フィルム積層体の薄型偏光膜X(水分率2.0%)の表面に実施例1?9、比較例1?2に係る活性エネルギー線硬化型接着剤組成物をMCDコーター(富士機械社製)(セル形状:ハニカム、グラビアロール線数:1000本/inch、回転速度140%/対ライン速)を用いて、厚み0.5μmになるように塗布し、透明保護フィルムとして、片面に前記未処理TACを接着剤塗布面から貼り合わせ、上記紫外線を照射して実施例1?9、比較例1?2に係る活性エネルギー線硬化型接着剤組成物を硬化させた後、非晶性PET基材を剥離し、剥離した面に同様に活性エネルギー線硬化型接着剤組成物を塗布し、未処理アクリルフィルムを接着剤塗布面から貼り合わせた。その後、上記紫外線を照射して実施例1?9、比較例1?2に係る活性エネルギー線硬化型接着剤組成物を硬化させた後、貼り合わせた透明保護フィルム側から、IRヒーターを用いて50℃に加温し、70℃で3分間熱風乾燥し薄型偏光膜Xを用いた偏光フィルムを作製した。貼り合わせのライン速度は25m/minで行った。得られた各偏光フィルムの接着力(対TACおよび対アクリルフィルム)、耐水性(温水浸漬試験)、耐久性(ヒートショック試験)および湿熱耐久性を下記の条件に基づき評価した。
(薄型偏光膜Xの作製とそれを用いた偏光フィルム2の作製)
保護フィルムとして、偏光子の両面に未処理アクリルフィルムを使用した以外は偏光フィルム1と同様にして、偏光フィルム2を得た。
【0183】
<接着力>
偏光フィルムを偏光子の延伸方向と平行に200mm、直行方向に20mmの大きさに切り出し、透明保護フィルム(未処理TAC;SP値23.3、未処理アクリルフィルム;SP値22.2)と偏光子(SP値32.8)との間にカッターナイフで切り込みを入れ、偏光フィルムをガラス板に貼り合わせた。テンシロンにより、90度方向に保護フィルムと偏光子とを剥離速度500mm/minで剥離し、その剥離強度を測定した。また、剥離後の剥離面の赤外吸収スペクトルをATR法によって測定し、剥離界面を下記の基準に基づき評価した。
A:保護フィルムの凝集破壊
B:保護フィルム/接着剤層間の界面剥離
C:接着剤層/偏光子間の界面剥離
D:偏光子の凝集破壊
上記基準において、AおよびDは、接着力がフィルムの凝集力以上であるため、接着力が非常に優れることを意味する。一方、BおよびCは、保護フィルム/接着剤層(接着剤層/偏光子)界面の接着力が不足している(接着力が劣る)ことを意味する。これらを勘案して、AまたはDである場合の接着力を○、A・B(「保護フィルムの凝集破壊」と「保護フィルム/接着剤層間の界面剥離」とが同時に発生)あるいはA・C(「保護フィルムの凝集破壊」と「接着剤層/偏光子間の界面剥離」とが同時に発生)である場合の接着力を△、BまたはCである場合の接着力を×とする。
【0184】
<耐水性(温水浸漬試験)>
偏光フィルムを、偏光子の延伸方向に50mm、垂直方向に25mmの長方形にカットした。かかる偏光フィルムを60℃の温水に6時間浸漬した後の偏光子/透明保護フィルム間の剥れを目視観察し、下記の基準に基づき評価した。
○:剥れは確認されない
△:端部から剥れが生じているが、中心部の剥れは確認されない
×:前面に剥れが生じた
【0185】
<耐久性(ヒートショック試験)>
偏光フィルムのアクリルフィルム面に粘着剤層を積層し、偏光子の延伸方向に200mm、垂直方向に400mmの長方形にカットした。ガラス板に上記偏光フィルムをラミネートし、-40℃⇔85℃のヒートサイクル試験を行い、50サイクル後の偏光フィルムを目視観察し、下記の基準に基づき評価した。
○:クラックの発生は見られない
△:偏光子の延伸方向に貫通しないクラックが発生した(クラック長さ200mm以下)
×:偏光子の延伸方向に貫通するクラックが発生した(クラック長さ200mm)
【0186】
<湿熱耐久性>
偏光フィルムのアクリルフィルム面に粘着剤層を積層し、偏光子の延伸方向に200mm、垂直方向に400mmの長方形にカットし、偏光フィルムの端部をフルバック端面処理を実施した。この粘着剤層付き偏光フィルムを無アルカリガラス板にラミネートし、60℃95%R.H.環境下で1000時間処理後の偏光フィルムを目視で観察し、下記の基準に基づき評価した。
○:ハガレなし
△:偏光フィルム端部から1mm未満のハガレが発生
×:偏光フィルム端部から1mm以上のハガレが発生
【0187】
【表2】




イ 引用文献1の【0182】には、「保護フィルムとして、偏光子の両面に未処理アクリルフィルムを使用した以外は偏光フィルム1と同様にして、偏光フィルム2を得た。」と記載されている。また、上記「未処理アクリルフィルム」とは、【0178】に記載のもの、すなわち「ケン化・コロナ処理等を行っていない厚み40μmの未処理アクリルフィルム(SP値22.2、透湿度70g/m^(2)/24h)」である。
そうしてみると、引用文献1には、偏光フィルム2の作製方法として、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。なお、用語を統一して記載した。

「 非晶性PET基材に24μm厚のPVA層が製膜された積層体を延伸温度130℃の空中補助延伸によって延伸積層体を生成し、次に、延伸積層体を染色によって着色積層体を生成し、さらに着色積層体を延伸温度65℃のホウ酸水中延伸によって総延伸倍率が5.94倍になるように非晶性PET基材と一体に延伸された10μm厚のPVA層を含む光学フィルム積層体を生成し、このような2段延伸によって非晶性PET基材に製膜されたPVA層のPVA分子が高次に配向され、染色によって吸着されたヨウ素がポリヨウ素イオン錯体として一方向に高次に配向された高機能偏光膜を構成し、更に、光学フィルム積層体の薄型偏光膜(水分率2.0%)の表面に活性エネルギー線硬化型接着剤組成物を塗布し、透明保護フィルムとして、片面にケン化・コロナ処理等を行っていない厚み40μmの未処理アクリルフィルム(SP値22.2、透湿度70g/m^(2)/24h)を接着剤塗布面から貼り合わせ、紫外線を照射して活性エネルギー線硬化型接着剤組成物を硬化させた後、非晶性PET基材を剥離し、剥離した面に活性エネルギー線硬化型接着剤組成物を塗布し、ケン化・コロナ処理等を行っていない厚み40μmの未処理アクリルフィルム(SP値22.2、透湿度70g/m^(2)/24h)を接着剤塗布面から貼り合わせ、その後、紫外線を照射して活性エネルギー線硬化型接着剤組成物を硬化させた後、貼り合わせた透明保護フィルム側から、IRヒーターを用いて50℃に加温し、70℃で3分間熱風乾燥する、透明保護フィルムとして、偏光子の両面に未処理アクリルフィルムを使用した偏光フィルムの作製方法。」

(3)対比
本件補正後発明と引用発明とを対比する。
ア 基材フィルム
引用発明の「偏光フィルム」は、「非晶性PET基材と一体に延伸された10μm厚のPVA層を含む光学フィルム積層体を生成し」、「光学フィルム積層体の薄型偏光膜(水分率2.0%)の表面に活性エネルギー線硬化型接着剤組成物を塗布し、透明保護フィルムとして、片面にケン化・コロナ処理等を行っていない厚み40μmの未処理アクリルフィルム(SP値22.2、透湿度70g/m^(2)/24h)を接着剤塗布面から貼り合わせ、・・・非晶性PET基材を剥離し、剥離した面に活性エネルギー線硬化型接着剤組成物を塗布し、ケン化・コロナ処理等を行っていない厚み40μmの未処理アクリルフィルム(SP値22.2、透湿度70g/m^(2)/24h)を接着剤塗布面から貼り合わせ」たものである。
上記構成及び製法からみて、引用発明の「非晶性PET基材」は、本件補正後発明の「基材フィルム」に相当する。

イ ヨウ素系偏光子
引用発明の「ヨウ素がポリヨウ素イオン錯体として一方向に高次に配向された高機能偏光膜」は、「非晶性PET基材に24μm厚のPVA層が製膜された積層体を延伸温度130℃の空中補助延伸によって延伸積層体を生成し、次に、延伸積層体を染色によって着色積層体を生成し、さらに着色積層体を延伸温度65℃のホウ酸水中延伸によって総延伸倍率が5.94倍になるように非晶性PET基材と一体に延伸された10μm厚のPVA層を含む光学フィルム積層体を生成し、このような2段延伸によって非晶性PET基材に製膜されたPVA層のPVA分子が高次に配向され、染色によって吸着されたヨウ素がポリヨウ素イオン錯体として一方向に高次に配向された」ものである。
上記構成及び製法からみて、引用発明の「高機能偏光膜」は、本件補正後発明の「ヨウ素系偏光子」に相当する。

ウ 第1保護フィルム、第2保護フィルム
引用発明は、「光学フィルム積層体の薄型偏光膜(水分率2.0%)の表面に活性エネルギー線硬化型接着剤組成物を塗布し、透明保護フィルムとして、片面にケン化・コロナ処理等を行っていない厚み40μmの未処理アクリルフィルム(SP値22.2、透湿度70g/m^(2)/24h)を接着剤塗布面から貼り合わせ」、「非晶性PET基材を剥離し、剥離した面に・・・ケン化・コロナ処理等を行っていない厚み40μmの未処理アクリルフィルム(SP値22.2、透湿度70g/m^(2)/24h)を・・・貼り合わせ・・・透明保護フィルムとして、偏光子の両面に未処理アクリルフィルムを使用した偏光フィルムの作製方法」である。
上記構成及び製法からみて、引用発明の「未処理アクリルフィルム」は、本件補正後発明の「保護フィルム」に相当する。
ここで、序数詞の「第1」、「第2」は、一般に物事の順序を表す数詞として用いられ、作製方法においては工程の順序を表すものとして用いられることがある。そして、引用発明の2つの「未処理アクリルフィルム」は、「光学フィルム積層体の薄型偏光膜(水分率2.0%)の表面に」「接着剤塗布面から貼り合わせ」た「未処理アクリルフィルム」、「非晶性PET基材を剥離し、剥離した面に」「貼り合わせ」た「未処理アクリルフィルム」の順に「薄型偏光膜」に「貼り合わせた」ものである。そうしてみると、引用発明の2つの「未処理アクリルフィルム」は、前者を「(第1の)未処理アクリルフィルム」、後者を「(第2の)未処理アクリルフィルム」ということができる。
これに対して、本件補正後発明の「第2保護フィルム」は、「第1保護フィルム」を「含む」「片面保護フィルム付き偏光板におけるヨウ素系偏光子の外面に第2保護フィルムを貼合」するものであるから、工程の順序としてみると、「第1保護フィルム」、「第2保護フィルム」の順序といえる。
以上勘案すると、引用発明の「(第1の)未処理アクリルフィルム」及び「(第2の)未処理アクリルフィルム」は、それぞれ、本件補正後発明の「第1保護フィルム」及び「第2保護フィルム」に相当する。
さらに、引用発明の「(第1の)未処理アクリルフィルム」及び「(第2の)未処理アクリルフィルム」は、「SP値22.2、透湿度70g/m^(2)/24h」である。また、アクリル樹脂が熱可塑性樹脂であることは、技術常識である。そうしてみると、引用発明の「(第1の)未処理アクリルフィルム」及び「(第2の)未処理アクリルフィルム」は、本件補正後発明の「前記第1保護フィルム及び前記第2保護フィルム」の「透湿度150g/m^(2)/24hr以下の熱可塑性樹脂フィルムであ」るという要件を満たす。

エ 多層フィルム
引用発明の「偏光フィルムの作製方法」は、「非晶性PET基材に24μm厚のPVA層が製膜された積層体を延伸温度130℃の空中補助延伸によって延伸積層体を生成し,次に,延伸積層体を染色によって着色積層体を生成し,さらに着色積層体を延伸温度65℃のホウ酸水中延伸によって総延伸倍率が5.94倍になるように非晶性PET基材と一体に延伸された10μm厚のPVA層を含む光学フィルム積層体を生成し」、「更に、光学フィルム積層体の薄型偏光膜(水分率2.0%)の表面に活性エネルギー線硬化型接着剤組成物を塗布し、透明保護フィルムとして、片面にケン化・コロナ処理等を行っていない厚み40μmの未処理アクリルフィルム(SP値22.2、透湿度70g/m^(2)/24h)を接着剤塗布面から貼り合わせ、紫外線を照射して活性エネルギー線硬化型接着剤組成物を硬化させ」る工程(以下「第1工程」という。)を具備する。
そうしてみると、引用発明の「偏光フィルムの作製方法」は、「非晶性PET基材」、「薄型偏光膜」及び「(第1の)未処理アクリルフィルム」をこの順で積層した積層体(以下「第1積層体」という。)を製造する工程を内在するといえる。
上記ア?ウ並びに上記構成及び製法からみて、引用発明の「第1積層体」は、本件補正後発明において「基材フィルム、ヨウ素系偏光子及び第1保護フィルムをこの順で含む」とされる、「多層フィルム」に相当する。

オ 片面保護フィルム付き偏光板
引用発明は、「第1工程」の後、「非晶性PET基材を剥離」する工程を具備する。
そうしてみると、引用発明の「偏光フィルムの作製方法」は、「第1積層体」、すなわち「非晶性PET基材」、「薄型偏光膜」及び「(第1の)未処理アクリルフィルム」をこの順で積層した積層体から、「非晶性PET基材」を剥離して、「薄型偏光膜」及び「(第1の)未処理アクリルフィルム」を積層した積層体(以下「第2積層体」という。)を得る工程(以下「第2工程」という。)を有するといえる。
上記アないしエ並びに上記構成及び製法からみて、引用発明の「第2積層体」は、本件補正後発明における「片面保護フィルム付偏光板」に相当する。また、引用発明の「第2工程」は、本件補正後発明の「基材フィルム、ヨウ素系偏光子及び第1保護フィルムをこの順で含む多層フィルムから基材フィルムを剥離除去して、片面保護フィルム付偏光板を得る工程」に相当する。

カ 両面保護フィルム付き偏光板
引用発明は、「第2工程」の後、「非晶性PET基材を剥離し、剥離した面に活性エネルギー線硬化型接着剤組成物を塗布し、ケン化・コロナ処理等を行っていない厚み40μmの未処理アクリルフィルム(SP値22.2、透湿度70g/m^(2)/24h)を接着剤塗布面から貼り合わせ、その後、紫外線を照射して活性エネルギー線硬化型接着剤組成物を硬化させた後、貼り合わせた透明保護フィルム側から、IRヒーターを用いて50℃に加温し、70℃で3分間熱風乾燥する」工程(以下「第3工程」という。)により、「透明保護フィルムとして、偏光子の両面に未処理アクリルフィルムを使用した偏光フィルム」を作製するものである。
上記アないしオ並びに上記構成及び上記製法からみて、引用発明の「偏光子の両面に未処理アクリルフィルムを使用した偏光フィルム」は、本件補正後発明の「両面保護フィルム付偏光板」に相当する。また、引用発明の「第3工程」は、本件補正後発明の「前記片面保護フィルム付偏光板におけるヨウ素系偏光子の外面に第2保護フィルムを貼合して、両面保護フィルム付偏光板を得る工程」に相当する。

キ 両面保護フィルム付偏光板の製造方法
上記アないしカより、引用発明の「偏光フィルムの作製方法」は、本件補正後発明の「両面保護フィルム付偏光板の製造方法」に相当する。また、引用発明の「偏光フィルムの作製方法」は、本件補正後発明の「両面保護フィルム付偏光板の製造方法」における、「片面保護フィルム付偏光板を得る工程と」、「両面保護フィルム付偏光板を得る工程と」、「を含み」という要件を満たす。

(4)一致点及び相違点
ア 一致点
以上の対比結果を踏まえると、本件補正後発明と引用発明は、以下の点で一致する。
「 基材フィルム、ヨウ素系偏光子及び第1保護フィルムをこの順で含む多層フィルムから基材フィルムを剥離除去して、片面保護フィルム付偏光板を得る工程と、
前記片面保護フィルム付偏光板におけるヨウ素系偏光子の外面に第2保護フィルムを貼合して、両面保護フィルム付偏光板を得る工程と、
を含み、
前記第1保護フィルム及び前記第2保護フィルムは、透湿度150g/m^(2)/24hr以下の熱可塑性樹脂フィルムである、両面保護フィルム付偏光板の製造方法。」

イ 相違点
本件補正後発明と引用発明は、以下の点で相違するか、一応相違する
「前記第2保護フィルムを貼合するときの前記ヨウ素系偏光子の水分率」が、本件補正後発明は、「4.2重量%以下である」のに対して、引用発明の「(第2の)未処理アクリルフィルム」を「貼り合わせ」るときの「薄型偏光膜」の「水分率」は明らかでない点。

(5)判断
上記相違点について検討する。
ア 引用文献1の【0014】、【0015】、【0051】には、それぞれ、「ところで、近年では市場において生産性のさらなる改善が要求され、特に偏光子と透明保護フィルムとを貼合(ラミネート)する場合に、偏光子の水分率を低減することで、ラミネート後に得られる偏光フィルムの乾燥負荷を低減する試みがなされている。しかしながら、従来の活性エネルギー線硬化型接着剤組成物では、低水分率である偏光子の接着性が不十分である場合があり、さらなる接着性の向上が要求されているのが実情である。」、「したがって本発明は、低水分率である偏光子を使用する場合であっても、偏光子と透明保護フィルムとの接着性に優れ、かつ接着剤層の耐久性および耐水性に優れた接着剤層を備える偏光フィルムおよびその製造方法、光学フィルムならびに画像表示装置を提供することをも目的とする。」、「上記偏光フィルムの製造方法において、前記貼合工程時の前記偏光子の水分率が15%未満であることが好ましい。かかる製造方法によれば、貼合工程(ラミネート)後に得られる偏光フィルムの乾燥負荷を低減しつつ、偏光子と透明保護フィルムとの接着性に優れ、かつ接着剤層の耐久性および耐水性に優れた接着剤層を備える偏光フィルムを製造することができる。」と記載されている。
上記記載からみて、引用文献1には、偏光子と透明保護フィルムを貼合(ラミネート)する場合に、ラミネート後に得られる偏光フィルムの乾燥負荷を低減するために、低水分率の偏光子を用いることを前提に、低水分率の偏光子と透明保護フィルムの接着性や耐久性等に優れた活性エネルギー線硬化型接着剤を用いた偏光子の作製方法が記載されているといえる。また、引用発明において、「水分率2.0%」の「薄型偏光膜」について、「活性エネルギー線硬化型接着剤組成物」を「塗布」する工程及び「硬化させ」る工程、並びに「(第1の)未処理アクリルフィルム」を「貼り合わせ」る工程及び「(第2の)未処理アクリルフィルム」を「貼り合わせ」る工程を、「薄型偏光膜」の水分率が大幅に増加するような高湿度環境下で長時間かけて行うことは、およそ考えられない。
そして、引用発明の「薄型偏光膜」に「(第1の)未処理アクリルフィルム」を「貼り合わせ」る工程から「(第2の)未処理アクリルフィルム」を「貼り合わせ」る工程まで、「薄膜偏光膜」は、ほとんどの期間で「(第1の未処理アクリルフィルム」と「非晶性PET基材」で覆われていて、周囲の環境に露出している期間は短いものである。また、引用発明の「未処理アクリルフィルム」の透湿度は「70g/m^(2)/24h」である。加えて、引用発明の「非晶性PET基材」の透湿度は明らかでないものの、技術常識を勘案すると、低いものと推定される。さらに、上述したように、「薄型偏光膜」の水分率が大幅に増加するような高湿度環境下で長時間かけて行うことは、引用文献1の記載からみておよそ考えられないことから、「薄膜偏光膜」が周囲の環境に露出することによる水分率の上昇は小さいものであると考えられる。
(当合議体注:偏光膜は乾燥により収縮し、吸湿により膨張するものであるから、「ラミネート後に得られる偏光フィルムの乾燥負荷を低減するために」「2.0%」にまで低減させた水分率は、偏光膜の無用の膨張を回避するため、ラミネートされるまで維持されるはずである。)
そうしてみると、引用発明において、「(第2の)未処理アクリルフィルム」を「貼り合わせ」るときの「薄型偏光膜」の「水分率」は、4.2重量%以下である蓋然性が高い。
したがって、上記相違点は、実質的な差異ではない。

イ 仮に、上記相違点が実質的な差異であるとして、以下に検討する。
上記アで述べたように、引用文献1には、偏光子と透明保護フィルムを貼合(ラミネート)する場合に、ラミネート後に得られる偏光フィルムの乾燥負荷を低減するために、低水分率の偏光子を用いることを前提に、低水分率の偏光子と透明保護フィルムの接着性や耐久性等に優れた活性エネルギー線硬化型接着剤を用いた偏光子の作製方法が記載されているといえる。そうしてみると、引用発明において、「光学フィルム積層体の薄型偏光膜(水分率2.0%)の表面に活性エネルギー線硬化型接着剤組成物を塗布し、透明保護フィルムとして、片面にケン化・コロナ処理等を行っていない厚み40μmの未処理アクリルフィルム(SP値22.2、透湿度70g/m^(2)/24h)を接着剤塗布面から貼り合わせ、紫外線を照射して活性エネルギー線硬化型接着剤組成物を硬化させた後、非晶性PET基材を剥離し、剥離した面に活性エネルギー線硬化型接着剤組成物を塗布」する工程を、「薄型偏光膜」の水分率が大幅に増加しないように、低湿度環境下で短時間で行うことは、先の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が当然考慮に入れるべき事項である。
そして、引用発明において、上記工程を、低湿度環境下で短時間で行うようにするために、「活性エネルギー線硬化型接着剤組成物」の組成、「活性エネルギー線」の波長、照射量、照射時間、「未処理アクリルフィルム」の透湿度、「非晶性基材」の透湿度等を調整することは、当業者にとって適宜選択可能な設計事項にすぎない。
そうしてみると、引用発明において、上記相違点に係る本件補正後発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(6)効果について
本件補正後発明に関して、本件明細書の【0017】には、「本発明によれば、ヨウ素系偏光子の両面に透湿性の低い保護フィルムを貼合した偏光板であって、耐湿熱性と耐熱性とを兼備する両面保護フィルム付偏光板を製造するための方法、及び、ヨウ素系偏光子の両面に透湿性の低い保護フィルムを貼合した偏光板であって、耐湿熱性と耐熱性とを兼備する両面保護フィルム付偏光板を提供することができる。」と記載されている。
しかしながら、このような効果は、引用発明から予測できる範囲内のものである。

(7)審判請求人の主張について
審判請求人は、令和元年12月25日提出の審判請求書において、「引用文献1の[0182]に記載される製造方法において、『工程1』の終了時において薄型偏光膜の水分率が2.0%であったとしても、『工程5』を実施するとき(第2保護フィルムに相当する未処理アクリルフィルムを貼合するとき)の薄型偏光膜の水分率が6重量%未満であるかどうかは到底不明であるといえます。」と主張している(当合議体注:『工程1』は、「非晶性PET基材上に、厚さ10μmの薄型偏光膜(水分率2.0%)を有する光学フィルム積層体を作製する。」であり、『工程5』は、「剥離した面に、接着剤層を介して未処理アクリルフィルムを貼合する。」である。)。
しかしながら、上記(5)で述べたとおりであり、審判請求人の上記主張は、採用することができない。

(8)小括
したがって、本件補正後発明は、引用発明と同一の発明であるか、又は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第1項第3号に該当するか、又は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

3 補正却下の決定のむすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、前記「第2 令和元年12月25日にされた手続補正についての補正の却下の決定」[結論]のとおり決定する。


第3 本願発明について
1 本願発明
以上のとおり、本件補正は却下されたので、本件出願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記第2[理由]1(1)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、概略、本件出願の請求項1に係る発明は、先の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である下記の引用文献に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、また、本件出願の請求項1に係る発明は、先の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である下記の引用文献に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。

引用文献1:特開2014-12819号公報

3 引用文献及び引用発明
引用文献1の記載及び引用発明は、前記第2[理由]2(2)ア及びイに記載したとおりである。

4 対比及び判断
本願発明は、前記第2[理由]2で検討した本件補正後発明から、前記第2[理由]1の補正事項に係る数値範囲を拡張したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに限定した本件補正後発明も、前記第2[理由]2に記載したとおり、引用発明と同一であるか、又は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明と同一であるか、又は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。


第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項3号に該当するか、又は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-08-21 
結審通知日 2020-08-25 
審決日 2020-09-09 
出願番号 特願2016-183039(P2016-183039)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (G02B)
P 1 8・ 575- Z (G02B)
P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 池田 博一  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 関根 洋之
井口 猶二
発明の名称 両面保護フィルム付偏光板の製造方法  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ