• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04W
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04W
管理番号 1367755
審判番号 不服2019-7360  
総通号数 252 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-06-04 
確定日 2020-10-28 
事件の表示 特願2017-523428「無線通信システムにおける端末がD2D(device-to-device)動作のための同期化信号を送信する方法及び方法を利用する端末」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 5月 6日国際公開,WO2016/068678,平成29年12月14日国内公表,特表2017-537528〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2015年(平成27年)11月2日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2014年10月31日 米国,2015年11月2日 韓国)を国際出願日とする出願であって,平成30年5月16日付けで拒絶理由が通知され,同年8月21日に意見書及び手続補正書が提出され,平成31年1月31日付けで拒絶査定がされ,これに対し,令和元年6月4日に拒絶査定不服審判が請求され,同時に手続補正がされたものである。その後,審査官が同年8月28日に作成した前置報告書に対し令和2年1月28日に上申書が提出された。



第2 令和元年6月4日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和元年6月4日にされた手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の概要
本件補正は,平成30年8月21日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された
「 無線通信システムにおける端末がD2D動作のための同期化信号を送信する方法において,
第1の周波数の第1のセルとRRC接続を確立するステップと,
第2の周波数の第2のセルにおけるサブフレームを選択するステップであって,該第2の周波数は前記第1の周波数と異なる,ステップと,
条件が満たされるとき,前記第2の周波数の第2のセルにおける前記サブフレームでD2D同期化信号(D2DSS)を送信するステップと,
を有し,
前記D2DSSの送信が設定されない場合,前記第2の周波数に対する参照信号受信電力(RSRP)閾値がシステム情報に含まれる場合,前記第2の周波数の第2のセルのRSRP測定が該RSRP閾値より低い場合,及び前記選択されたサブフレームが正規アップリンク送信に対して使用されない場合,前記端末は,前記第2の周波数の第2のセルにおいて前記D2DSSを送信する,方法。」
との発明(以下,「本願発明」という。)を,
「 無線通信システムにおける端末がD2D動作のための同期化信号を送信する方法において,
第1の周波数の第1のセルとRRC接続を確立するステップと,
第2の周波数の第2のセルにおけるサブフレームを選択するステップであって,該第2の周波数は前記第1の周波数と異なる,ステップと,
条件が満たされるとき,前記第2の周波数の第2のセルにおける前記サブフレームでD2D同期化信号(D2DSS)を送信するステップと,
を有し,
前記端末は,前記D2D動作のための同期化信号を送信することができる複数のサブフレームに対して設定され,前記端末は,前記複数のサブフレームから選択されたサブフレームで前記D2DSSを送信し,
前記D2DSSの送信が設定されない場合,前記第2の周波数に対する参照信号受信電力(RSRP)閾値がシステム情報に含まれる場合,前記第2の周波数の第2のセルのRSRP測定が該RSRP閾値より低い場合,及び前記選択されたサブフレームが正規アップリンク送信に対して使用されない場合,前記端末は,前記第2の周波数の第2のセルにおいて前記D2DSSを送信する,方法。」(下線部は,補正箇所を示す。)
との発明(以下,「補正後の発明」という。)に補正することを含むものである。


2 補正の適否
(1)新規事項の有無,シフト補正の有無,補正の目的要件
請求項1についての上記補正は,「D2D同期化信号(D2DSS)を送信するステップ」について,「前記端末は,前記D2D動作のための同期化信号を送信することができる複数のサブフレームに対して設定され,前記端末は,前記複数のサブフレームから選択されたサブフレームで前記D2DSSを送信し,」との限定を付して特許請求の範囲を減縮するものである。したがって,上記補正は,特許法第17条の2第5項第2号に掲げる事項を目的とするものであり,同第3項,同第4項の規定に違反するところはない。

(2)独立特許要件
上記補正は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから,補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて,以下検討する。

ア 補正後の発明
補正後の発明は,上記1の「補正後の発明」のとおりのものと認める。

イ 引用発明等

(ア)原査定の拒絶の理由に引用されたMCC Support,Draft Report of 3GPP TSG RAN WG1 #78bis v0.2.0,3GPP TSG RAN WG1 Meeting #79 R1-14xxxx,掲載日2014.10.15,, pp.28-29,42(以下,「引用例1」という。)には,以下の事項が記載されている。

「Final agreements:
・For in-coverage UEs,
- A maximum of 1 D2DSS resource (comprising a periodically occurring subframe in which D2DSS may be transmitted if the conditions below are satisfied (note that the eNB may reuse resources which are not used for D2DSS transmission)) can be configured per cell for in coverage UEs
・ The D2DSS resource periodicity is:
・ The same for in-coverage and out-of-coverage
・ Fixed to 40 ms in the specifications
・ The D2DSS resource can be configured with a time offset with a granularity of 1 subframe
・ The D2DSS resource offset of neighbour cells can be signalled in a SIB w.r.t. SFN#0 of the serving cell with a granularity of 1 subframe
- For a UE transmitting SA or D2D data, in each subframe in the D2DSS resource, the UE shall transmit D2DSS if:
・ the subframe does not conflict with cellular transmission from the UE perspective, AND
・ FFS other defined conditions, including e.g. UE capability, are satisfied, AND
・ the subframe is within the SA or D2D data period in which SA or data is transmitted, AND
・ the UE is RRC_Connected and the eNB has instructed it (by dedicated signalling) to start D2DSS transmission, AND/OR FFS other condition(s) are satisfied if the UE is not transmitting SA or D2D data within the SA/data period in which the subframe falls OR all of the following conditions are satisfied:
・ an RSRP threshold for communication D2DSS transmission is configured, AND
・ if configured, the threshold is configured using SIB
・ the threshold can take values {-infinity, -115 … -60 (increments of 5), +infinity}dBm
・ the RSRP value of the UE is less than the threshold, AND
・ the eNB has not instructed the UE (by dedicated signalling) to stop D2DSS transmission.」(28ページ下から2行?29ページ24行)
([当審仮訳]:
最終合意:
・カバレッジ内のUEについて
-最大1つのD2DSSリソース(以下の条件が満たされる場合にD2DSSが送信され得る周期的に発生するサブフレームを含む(eNBはD2DSS送信に使用されないリソースを再利用できることに注意))は,カバレッジ内のUEに対してセルごとに構成されることができる。
・D2DSSリソースの周期性は;
・カバレッジ内とカバレッジ外で同じ
・仕様では40ミリ秒に固定
・D2DSSリソースは,1サブフレームの粒度を有する時間オフセットで構成できる。
・隣接セルのD2DSSリソースオフセットは,サービングセルのSIB w.r.t SFN#0で1サブフレームの粒度で信号することができる。
- SA又はD2Dデータを送信するUEについて,D2DSSリソースの各サブフレームで,UEは次の場合にD2DSSを送信する。
・UEの観点から当該サブフレームがセルラー送信と競合しない,かつ
・FFS 例えばUEの能力を含む他の定義された条件が満たされる,かつ
・当該サブフレームが,SA又はデータが送信されるSA又はD2Dデータ期間内にある,かつ
・UEはRRC_ConnectedでありeNBがD2DSS送信を開始するように(専用シグナリングによって)指示している,及び/又はFFSUEが当該サブフレーム当たるSA/データ期間内にSA又はD2Dデータを送信していない場合にその他の条件が満たされる,又は次の条件がすべて満たされる
・D2DSS送信の通信のためのRSRPしきい値が構成されている,かつ
・構成されている場合,当該しきい値はSIBを使用して構成される
・当該しきい値は,値{-無限大,-115…-60(5の増分),+無限大} dBmを取ることができる
・UEのRSRP値が当該しきい値未満である,かつ
・eNBがD2DSS送信を停止するように(専用シグナリングによって)UEに指示していない。 )

上記の記載,並びに当業者の技術常識を考慮すると,次のことがいえる。
a 引用例1には,UEがD2DSSを送信する方法が記載されているといえる。そして,引用例1の「-最大1つのD2DSSリソース(以下の条件が満たされる場合にD2DSSが送信され得る周期的に発生するサブフレームを含む(eNBはD2DSS送信に使用されないリソースを再利用できることに注意))は,カバレッジ内のUEに対してセルごとに構成されることができる。
・D2DSSリソースの周期性は;
・カバレッジ内とカバレッジ外で同じ
・仕様では40ミリ秒に固定
・D2DSSリソースは,1サブフレームの粒度を有する時間オフセットで構成できる。
・隣接セルのD2DSSリソースオフセットは,サービングセルのSIB w.r.t SFN#0で1サブフレームの粒度で信号することができる。」との記載によれば,あるセルのカバレッジ内にいるUEは条件が満たされる場合にD2DSSが送信され得る周期的に発生するサブフレームにてD2DSSを送信することができるといえる。
したがって,引用例1には,「あるセルのカバレッジ内にいるUEがD2DSSを送信する方法において,UEは条件が満たされる場合にD2DSSが送信され得る周期的に発生するサブフレームにてD2DSSを送信することができる」ことが記載されていると認められる。

b 引用例1の「-最大1つのD2DSSリソース(・・・)は,カバレッジ内のUEに対してセルごとに構成されることができる。」との記載によれば,UEはD2DSSが送信され得る周期的に発生するサブフレームがセルごとに構成されるといえる。そして,引用例1の「(以下の条件が満たされる場合にD2DSSが送信され得る周期的に発生するサブフレームを含む(eNBはD2DSS送信に使用されないリソースを再利用できることに注意))」との記載によれば,構成された周期的に発生するサブフレームのうち,実際にD2DSSが送信されるのは,条件が満たされるサブフレームといえる。
したがって,引用例1には,「UEは,D2DSSが送信され得る周期的に発生するサブフレームがセルごとに構成され,構成された周期的に発生するサブフレームのうち条件が満たされるサブフレームでD2DSSを送信することができる」ことが記載されていると認められる。

c 引用例1には,D2DSSを送信する条件として,「- SA又はD2Dデータを送信するUEについて,D2DSSリソースの各サブフレームで,UEは次の場合にD2DSSを送信する。
・UEの観点から当該サブフレームがセルラー送信と競合しない,かつ
・FFS 例えばUEの能力を含む他の定義された条件が満たされる,かつ
・当該サブフレームが,SA又はデータが送信されるSA又はD2Dデータ期間内にある,かつ
・UEはRRC_ConnectedでありeNBがD2DSS送信を開始するように(専用シグナリングによって)指示している,及び/又はFFS UEが当該サブフレーム当たるSA /データ期間内にSA又はD2Dデータを送信していない場合にその他の条件が満たされる,又は次の条件がすべて満たされる
・D2DSS送信の通信のためのRSRPしきい値が構成されている,かつ
・構成されている場合,当該しきい値はSIBを使用して構成される
・当該しきい値は,値{-無限大,-115…-60(5の増分),+無限大} dBmを取ることができる
・UEのRSRP値が当該しきい値未満である,かつ
・eNBがD2DSS送信を停止するように(専用シグナリングによって)UEに指示していない。」と記載されており,このうち「UEはRRC_ConnectedでありeNBがD2DSS送信を開始するように(専用シグナリングによって)指示している,及び/又はFFSUEが当該サブフレーム当たるSA /データ期間内にSA又はD2Dデータを送信していない場合にその他の条件が満たされる,又は次の条件がすべて満たされる」との記載中の「又は」は択一的な選択肢であることを意味するから,「条件として,UEの観点から当該サブフレームがセルラー送信と競合しない,かつ,UEの能力を含む他の定義された条件が満たされ,かつ,当該サブフレームが,SA又はデータが送信されるSA又はD2Dデータ期間内にある,かつ,D2DSS送信の通信のためのRSRPしきい値がSIBを使用して構成されている,かつ,UEのRSRP値が当該しきい値未満である,かつ,eNBがD2DSS送信を停止するように(専用シグナリングによって)UEに指示していない場合,UEはD2DSSを送信する。」ことが記載されていると認められる。

以上を総合すると,引用例1には以下の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認める。
「 あるセルのカバレッジ内にいるUEがD2DSSを送信する方法において,
前記UEは条件が満たされる場合にD2DSSが送信され得る周期的に発生するサブフレームにてD2DSSを送信することができ,
前記UEは,D2DSSが送信され得る周期的に発生するサブフレームがセルごとに構成され,構成された周期的に発生するサブフレームのうち前記条件が満たされるサブフレームでD2DSSを送信することができ,
前記条件として,UEの観点から当該サブフレームがセルラー送信と競合しない,かつ,UEの能力を含む他の定義された条件が満たされ,かつ,当該サブフレームが,SA又はデータが送信されるSA又はD2Dデータ期間内にある,かつ,D2DSS送信の通信のためのRSRPしきい値がSIBを使用して構成されている,かつ,UEのRSRP値が当該しきい値未満である,かつ,eNBがD2DSS送信を停止するように(専用シグナリングによって)前記UEに指示していない場合,前記UEはD2DSSを送信する,方法。」

(イ)原査定の拒絶の理由に引用されたEricsson,ProSe Multi-Carrier Support([当審仮訳]:ProSeマルチキャリアサポート),3GPP TSG-RAN WG2 #87 R2-143572,掲載日2014.08.08,,pp.1-5(以下,「引用例2」という。)には,以下の事項が記載されている。

「2.4 Inter-Frequency ProSe Operation (B & C)
In the scenarios outlined above, the UE was either not in LTE coverage at all (section2.2) or it was camped on or connected to a cell on the carrier that is also used for ProSe (section 2.3). In this section we look at the case where the UE has a serving cell on one carrier but performs ProSe Communication on another carrier.
As shown in Figure 1 as case B and C, the UE may or may not be in coverage of a cell on the ProSe carrier.
For both cases, RAN2 has not discussed or explicitly agreed whether the serving cell on one carrier may control the ProSe Direct Communication on another carrier. We think that there are scenarios where this possibility would certainly desirable. For example, an operator may have multiple carriers but wants to concentrate all ProSe communication to a single carrier. For load balancing reasons it is then desirable that a UE camps/connects on a carrier other than its ProSe carrier. The cell to which the UE is connected could perform mode-1 scheduling towards the ProSe carrier or provide a mode-2 resource pool applicable for the ProSe carrier by means of dedicated signalling. Such mode of operation appears particularly feasible if an eNB operates cells for multiple carriers. In this case, the eNB is anyway in control of all radio resources and may also control the ProSe operation across carriers by means of dedicated signalling.」(3/5ページ1?14行)
([当審仮訳]:
2.4 周波数間ProSeオペレーション(B & C)。
上述したシナリオでは,UEは,LTEカバレッジ内に全く存在せず(セクション2.2),またProseにも使用されるキャリア上のセルにキャンプオン又は接続されていた(セクション2.3)。このセクションでは,UEが1つのキャリア上にサービングセルを有するが,別のキャリア上でProSe通信を実行する場合を見る。
ケースB及びCとして図1に示すように,UEはProSeキャリア上のセルのカバレッジ内にあるかもしれないし,そうでないかもしれない。
どちらの場合も,RAN2は,一方のキャリア上のサービングセルが別のキャリア上のProSe 直接通信を制御することができるか否かについて,議論又は明示的に合意されていない。この可能性が確かに望ましいシナリオがあると考える。例えば,オペレータは複数のキャリアを有することができるが,すべてのProSe通信を単一のキャリアに集中させたい。負荷分散の理由のために,UEは,そのProSeキャリア以外のキャリアにキャンプ/接続することが望ましい。UEが接続されるセルは,ProSeキャリアに向けてモード1スケジューリングを実行するか,専用シグナリングによってProSeキャリアに適用可能なモード2リソースプールを提供することができる。このような動作モードは,eNBが複数のキャリアに対してセルを動作させる場合に特に実現可能である。この場合,eNBは,全ての無線リソースを制御している場合があり,専用シグナリングによってキャリア間のProSe動作を制御する場合もある。)

(ウ)本件の最先の優先日前に利用可能となったIntel Corporation,Discussion on D2D Multicarrier Capabilities([当審仮訳]:D2Dマルチキャリア能力についての検討),3GPP TSG RAN WG1 Meeting#77 R1-142316,掲載日2014.5.10,,pp.1-5(以下,「引用例3」という。)には,以下の事項が記載されている。

「・Multi-Carrier WAN-D2D.In WAN-D2D CA scenario, we assume that WAN operates on one or multiple component carriers and D2D operates on one of the component carriers, which may or may not be a part of WAN component carriers. Two main scenarios can be identified in terms of WAN-D2D CA combinations:
○Dedicated D2D carrier. In this WAN-D2D CA scenario, the first component carrier (CC1) is configured for WAN communication and the second component carrier (CC2) is used solely for D2D communication. In this case, the dual-radio receiver uses eNB-UE air-interface on CC1 for WAN communication and UE-UE air interface on CC2 to enable direct communication. Note that from system perspective, the CC2 may be used for WAN communication as well, but from a given UE perspective the WAN transmission and reception on CC2 is off.
○Shared WAN & D2D carrier. In this WAN-D2D CA scenario, primary cell (component carrier - CC1) is configured for WAN communication only and secondary cell (component carrier CC2) is used for WAN and D2D. In this case, the Scell operation is similar to Single Carrier WAN-D2D.」(2/4ページ10?20行)
([当審仮訳]:
・マルチキャリアWAN-D2D。 WAN-D2D CAシナリオでは,WANは一つ又は複数のコンポーネントキャリアで動作し,D2Dはコンポーネントキャリアの一つで動作し,これはWANコンポーネントキャリアの一部であっても,そうでなくてもよいと仮定する。2つの主要なシナリオは,WAN-D2D CAの組み合わせに関して識別することができる。
○専用D2Dキャリア。 このWAN-D2D CAシナリオでは,第1のコンポーネントキャリア(CC1)はWAN通信用に構成され,第2のコンポーネントキャリア(CC2)はD2D通信用にのみ使用される。この場合,デュアル無線受信機は,直接通信を可能にするために,WAN通信用のCC1上のeNB-UEエアインターフェース及びCC2上のUE-UEエアインターフェースを使用する。システムの観点から,CC2はWAN通信のためにも使用することができるが,所与のUEの観点から,CC2上のWAN送信及び受信はオフであることに留意されたい。
○共有WAN & D2Dキャリア。 このWAN-D2D CAシナリオでは,プライマリセル(コンポーネントキャリアCC1)はWAN通信のみに構成され,セカンダリセル(コンポーネントキャリアCC2)はWAN及びD2Dに対して使用される。この場合,Scell動作はシングルキャリアWAN-D2Dと同様である。)

D2D通信はProSe通信とも呼ばれることが技術常識であることを踏まえると,上記(イ),(ウ)の記載によれば,「UEが,1つのある周波数のキャリア上にサービングセルを有するが,別の周波数のキャリア上でProSe通信を実行する。」ことは周知技術であると認められる。

ウ 対比・判断
補正後の発明と引用発明とを対比すると,
(ア)引用発明の「あるセルのカバレッジ内にいるUE」は「無線通信システムにおける端末」といえ,引用発明の「D2DSS」は補正後の発明の「D2D動作のための同期化信号」に相当する。したがって,引用発明の「あるセルのカバレッジ内にいるUEがD2DSSを送信する方法」は,補正後の発明と同様に「無線通信システムにおける端末がD2D動作のための同期化信号を送信する方法」といえる。

(イ)引用発明は「前記UEは条件が満たされる場合にD2DSSが送信され得る周期的に発生するサブフレームにてD2DSSを送信することができ」,「前記UEは,D2DSSが送信され得る周期的に発生するサブフレームがセルごとに構成され,構成された周期的に発生するサブフレームのうち前記条件が満たされるサブフレームでD2DSSを送信することができ」るのであるから,構成された周期的に発生するサブフレームから条件が満たされるサブフレームを選択しているといえる。また,引用発明の「前記UEは,D2DSSが送信され得る周期的に発生するサブフレームがセルごとに構成され」は,補正後の発明の「前記端末は,前記D2D動作のための同期化信号を送信することができる複数のサブフレームに対して設定され」に相当する。
したがって,補正後の発明の「第2の周波数の第2のセルにおけるサブフレームを選択するステップであって,該第2の周波数は前記第1の周波数と異なる,ステップと,条件が満たされるとき,前記第2の周波数の第2のセルにおける前記サブフレームでD2D同期化信号(D2DSS)を送信するステップと,を有し,前記端末は,前記D2D動作のための同期化信号を送信することができる複数のサブフレームに対して設定され,前記端末は,前記複数のサブフレームから選択されたサブフレームで前記D2DSSを送信し」と,引用発明の「前記UEは条件が満たされる場合にD2DSSが送信され得る周期的に発生するサブフレームにてD2DSSを送信することができ,前記UEは,D2DSSが送信され得る周期的に発生するサブフレームがセルごとに構成され,構成された周期的に発生するサブフレームのうち前記条件が満たされるサブフレームでD2DSSを送信することができ」とは,「サブフレームを選択するステップと,条件が満たされるとき,前記サブフレームでD2D同期化信号(D2DSS)を送信するステップと,を有し,前記端末は,前記D2D動作のための同期化信号を送信することができる複数のサブフレームに対して設定され,前記端末は,前記複数のサブフレームから選択されたサブフレームで前記D2DSSを送信し」の点で共通する。

(ウ)補正後の発明の「正規アップリンク送信」は,本願明細書の【0232】によると「セルラー通信」を含むから,引用発明の「UEの観点から当該サブフレームがセルラー送信と競合しない」との条件は,補正後の発明の「前記選択されたサブフレームが正規アップリンク送信に対して使用されない場合」に相当する。
補正後の発明の「前記第2の周波数に対する参照信号受信電力(RSRP)閾値がシステム情報に含まれる場合,前記第2の周波数の第2のセルのRSRP測定が該RSRP閾値より低い場合」と,引用発明の「D2DSS送信の通信のためのRSRPしきい値がSIBを使用して構成されている,かつ,UEのRSRP値が当該しきい値未満である」との条件は,「参照信号受信電力(RSRP)閾値がシステム情報に含まれる場合,RSRP測定が該RSRP閾値より低い場合」の点で共通する。
ここで,引用発明は,更に「UEの能力を含む他の定義された条件が満たされ」,「当該サブフレームが,SA又はデータが送信されるSA又はD2Dデータ期間内にある」,「eNBがD2DSS送信を停止するように(専用シグナリングによって)前記UEに指示していない」との条件を有している。しかしながら,本願明細書の「【0230】 端末は,D2D発見(より具体的に,D2D発見アナウンスメント)またはD2D通信を実行する時,D2D同期化信号送信をすることができる端末と仮定する。」,「【0261】また,端末は,D2DSS送信のために下記の条件が追加的に考慮されることができる。【0262】3)端末立場でD2DSSを送信しようとする該当サブフレームがセルラー通信による送信と衝突してはならず,4)端末能力を含む他の条件を満たさなければならない。5)該当サブフレームがD2D動作によるスケジューリング割当(schedulingassignment:SA)やD2Dデータを送信する周期に該当するサブフレームでなければならない。」,「【0281】また,端末は,下記の条件が追加的に考慮されることができる。【0282】3)端末立場でD2DSS送信に使用する該当サブフレームがセルラー通信による送信と衝突してはならず,4)端末能力を含む他の条件を満たさなければならない。5)該当サブフレームがD2D動作によるスケジューリング割当(schedulingassignment:SA)やD2Dデータを送信する周期に該当するサブフレームでなければならない。」との記載によれば,補正後の発明はこれらの条件を前提としている,あるいは排除していないことが明らかであるから,引用発明が更に前記条件を有していることは相違点とはならない。

以上を総合すると,補正後の発明と引用発明とは,以下の点で一致し,また,相違する。
(一致点)
「 無線通信システムにおける端末がD2D動作のための同期化信号を送信する方法において,
サブフレームを選択するステップと,
条件が満たされるとき,前記サブフレームでD2D同期化信号(D2DSS)を送信するステップと,
を有し,
前記端末は,前記D2D動作のための同期化信号を送信することができる複数のサブフレームに対して設定され,前記端末は,前記複数のサブフレームから選択されたサブフレームで前記D2DSSを送信し,
参照信号受信電力(RSRP)閾値がシステム情報に含まれる場合,RSRP測定が該RSRP閾値より低い場合,及び前記選択されたサブフレームが正規アップリンク送信に対して使用されない場合,前記端末は,前記D2DSSを送信する,方法。」

(相違点1)
補正後の発明は,「第1の周波数の第1のセルとRRC接続を確立するステップ」を有しているのに対し,引用発明は,当該事項が明示されていない点。

(相違点2)
補正後の発明は,D2D同期化信号(D2DSS)を送信するサブフレームが「第2の周波数の第2のセルにおけるサブフレーム」であり,第2の周波数は第1の周波数と異なるのに対し,引用発明はRRC接続を行うセルの周波数とD2DSSを送信するセルの周波数との関係が明らかにされていない点。
これに伴い,補正後の発明は,サブフレーム,参照信号受信電力(RSRP)閾値,RSRP測定について,それぞれ「第2の周波数の第2のセルにおけるサブフレーム」,「前記第2の周波数に対する参照信号受信電力(RSRP)閾値」,「前記第2の周波数の第2のセルのRSRP測定」との特定が付されている点。

(相違点3)
補正後の発明は,端末がD2DSSを送信することに関し,「前記D2DSSの送信が設定されない場合」との条件を有しているのに対し,引用発明は当該条件が付されていない点。

以下,上記各相違点について検討する。
(相違点1,3について)
引用例1には,条件の択一的な選択肢について「・UEはRRC_ConnectedでありeNBがD2DSS送信を開始するように(専用シグナリングによって)指示している,及び/又はFFS UEが当該サブフレーム当たるSA /データ期間内にSA又はD2Dデータを送信していない場合にその他の条件が満たされる,又は次の条件がすべて満たされる」との記載があり,「UEはRRC_ConnectedでありeNBがD2DSS送信を開始するように(専用シグナリングによって)指示している」との代替的な選択肢も示唆されているから,UEがeNBとRRC接続を確立するステップを有するようにすることは格別困難なことではない。そして,eNBと通信するセル及びその周波数を「第1のセル」,「第1の周波数」と称することは任意である。
また,「UEはRRC_ConnectedでありeNBがD2DSS送信を開始するように(専用シグナリングによって)指示している」と「次の条件がすべて満たされる」とが代替的な選択肢であることに鑑みれば,「又は次の条件がすべて満たされる」について「UEはRRC_ConnectedでありeNBがD2DSS送信を開始するように(専用シグナリングによって)指示していない」ことを前提とすることも格別困難なことではない。

したがって,相違点1,3は,当業者が容易に想到し得ることである。

(相違点2について)
上記イにて認定したとおり,「UEが,1つのある周波数のキャリア上にサービングセルを有するが,別の周波数のキャリア上でProSe通信を実行する。」ことは周知技術である。そして,引用発明に当該周知技術を適用して,D2DSSを送信するサブフレームを「第2の周波数の第2のセルにおけるサブフレーム」とし,eNBとRRC接続する第1のセルの第1の周波数と第2の周波数を異なるものとすることは,格別困難なことではない。
ここで,本願明細書の【0237】に「もし,端末が周波数1のセルにRRC接続状態にあり,周波数1でない周波数2でD2D動作を実行する場合,図15の方法を同じように適用しにくい。図15の方法によると,周波数1のセルが明示的に端末にD2D同期化信号送信を開始することを命令しない場合,周波数2でD2DSS送信をすることができない。」と記載されているが,引用例1に記載された「UEはRRC_ConnectedでありeNBがD2DSS送信を開始するように(専用シグナリングによって)指示している」とRSRP値に関する「次の条件がすべて満たされる」とは代替的な選択肢であるから,上記【0237】に記載された問題が生じることはなく,引用発明に上記周知技術を適用することに阻害要因は見いだせない。
したがって,相違点2は,当業者が容易に想到し得ることである。

そして,補正後の発明の作用効果も,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が予測できる範囲のものである。

したがって,補正後の発明は,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。よって,補正後の発明は,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。

( なお,請求人は,審査官が令和元年8月28日に作成した前置報告書に対し令和2年1月28日に上申書を提出し,「第1のセル」を「プライマリセル」,「第2のセル」を「サービングセル」とし,「前記端末は,前記プライマリセルに関連するRRC接続状態,及び前記サービングセルに関連するRRCアイドル状態にあり」なる事項を追加する補正案を提示している。そして,当該補正事項について,「この構成は,段落〔0035〕,〔0040〕,〔0278〕においてサポートされます。」と釈明している。
しかしながら,本願明細書の【0035】,【0040】,【0278】には,「プライマリセル」,「サービングセル」に関する記載は存在しない。そして,「プライマリセル」については【0052】に「端末は,システム情報の取得及び変更検知手順をプライマリセル(primarycell:PCell)に対してのみ適用することができる。」との記載があるのみである。そして,【0070】の「端末は,現在サービスを受けている基地局(サービング基地局)から測定した信号の強度や品質の値が,隣接したセルの基地局から測定した値より低い場合,端末が現在接続した基地局のセルより良い信号特性を提供する他のセルの中から一つを選択する。」の記載によれば,「サービングセル」は「現在サービスを受けている基地局」を意味するから,当該補正事項は発明の詳細な説明に記載したものではない。したがって,上申書の補正案及び補正案に基づく主張は採用できない。)


3 結語
したがって,本件補正は,補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって,上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。



第3 本願発明について
1 本願発明
令和元年6月4日にされた手続補正は上記のとおり却下されたので,本願発明は,上記「第2 令和元年6月4日にされた手続補正についての補正の却下の決定」の項中の「1 本件補正の概要」の項中の「本願発明」のとおりのものと認める。


2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶理由の概要は,「(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」というものであり,請求項1に対して引用例1,2が引用されている。


3 引用発明等
引用発明及び周知技術は,上記「第2 令和元年6月4日にされた手続補正についての補正の却下の決定」の項中の「2 補正の適否」の項中の「(2)独立特許要件」の項中の「イ 引用発明等」の項で認定したとおりである。


4 対比・判断
本願発明と引用発明とを対比するに,本願発明は補正後の発明から当該補正に係る限定を省いたものである。
そうすると,本願発明の構成に当該補正に係る限定を付加した補正後の発明が,上記「第2 令和元年6月4日にされた手続補正についての補正の却下の決定」の項中の「2 補正の適否」の項中の「(2)独立特許要件」の項中の「ウ 対比・判断」の項で検討したとおり,引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明できたものであるから,本願発明も同様の理由により,容易に発明できたものである。

そして,本願発明の作用効果も,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が予測できる範囲のものである。


5 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2020-05-20 
結審通知日 2020-05-26 
審決日 2020-06-11 
出願番号 特願2017-523428(P2017-523428)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04W)
P 1 8・ 575- Z (H04W)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 野村 潔齋藤 浩兵  
特許庁審判長 岩間 直純
特許庁審判官 菅原 道晴
畑中 博幸
発明の名称 無線通信システムにおける端末がD2D(device-to-device)動作のための同期化信号を送信する方法及び方法を利用する端末  
代理人 渡辺 陽一  
代理人 青木 篤  
代理人 三橋 真二  
代理人 鶴田 準一  
代理人 胡田 尚則  
代理人 南山 知広  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ